説明

表示体及び情報印刷物

【課題】正面から観察したときに従来の回折格子には見られない黒さを表現するとともに、大きく傾けて観察したときの回折光の射出方向を制御できるようにした表示体及びこれを用いた情報印刷物を提供する。
【解決手段】光透過性の基材11の光入射面と反対の面に複数の凸部(及び凹部の何れか一方または両方)14aによりレリーフ構造14を形成したレリーフ構造領域12a及びレリーフ構造14が形成されない非レリーフ構造領域12bが設けられ、レリーフ構造領域12a及び非レリーフ構造領域12bを覆われるように光反射層が設けられ、レリーフ構造領域12aに複数の仮想曲線15が間隔をおいて平行に設けられ、凸部(及び凹部の何れか一方または両方)14aが複数の各仮想曲線15に沿い間隔をおいて配列される構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉眼での真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた表示体及び情報印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポートやクレジットカード、IDカード、商品券や小切手等の有価証券類は、偽造が困難であることが望まれる。そのため、そのような物品は、物品自体が偽造または模造が困難であるとともに、偽造を抑制するために、偽造品や模造品を容易に区別できるようなラベルが貼り付けられている。
また、近年では、前記物品以外にもブランド品などにおいて偽造品が流通する点が問題となっているため、上記した偽造防止技術の需要は増えている。
【0003】
偽造防止技術として、回折格子パターンが知られている。回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することで、観察する角度に応じて絵柄を変化させることや、立体像を表示することが可能である。
回折格子パターンの原版を作製する方法としては、電子ビーム露光装置を用い、かつコンピュータ制御により、感光性レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に回折格子パターンを形成する方法がある(例えば特許文献1参照)。
【0004】
ここで、回折格子のパラメータとしては、
(1)回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2)回折格子の方向(格子線の方向)
(3)回折格子の描画領域(回折格子パターンの配置)
の3つがある。
そして、(1)に応じて、定点に対してその回折格子パターンが光って見える色が変化し、(2)に応じて、その回折格子パターンが光って見える方向が変化し、(3)に応じて、表示パターン(絵柄や文字等)が決定される。
そこで、基板の表面を数十乃至数百μm程度の微小領域に分割し、各領域毎にこれらのパラメータを様々に変化させることで、絵柄や文字等を表現することができる。
【0005】
上記のような方法により作製された、凹凸形状からなる回折格子パターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製し、この金属製スタンパーを母型として透明基材上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を硬化させ回折格子パターンを複製する。
複製された回折格子パターンは通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法により、光反射層を設けた後、紙やプラスチックフィルム等の基材上に接着層を介して貼付され、さらに必要に応じて印刷層や回折格子パターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられ、有価証券類やカード類が作製される。
【0006】
特許文献2には、正面から観察したときに黒く見え、所定の方向へ大きく傾けて観察したときのみ絵柄や文字などを表現できる、といった従来の回折格子パターンにはない見え方をする表示体について記載されている。
最近では、回折格子パターンが用いられる機会が増え、技術が広く認知されるようになってきている。ゆえに、回折格子パターン自体を偽造する技術が高度化したために、偽造品や模造品の発生が増加傾向にある。
特許文献2に記載の表示体は、従来の回折格子パターンとは見え方が大きく異なることから、従来の回折格子パターンとは明確に差別化することができる。また、従来よりも技術がより高度であるため、より高い偽造防止効果を期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−39508
【特許文献2】WO2008−050641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の表示体は、凹凸構造がマトリクス状に整然配置され、一定間隔となる方向が定まっており、回折光を射出できる方向が限られている。ゆえに、回折光を視認し難いといえる。
【0009】
本発明は、上記のような点に鑑みなされたもので、正面から観察したときに従来の回折格子には見られない黒さを表現するとともに、大きく傾けて観察したときの回折光の射出方向を制御できるようにした表示体及びこれを用いた情報印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、表示体であって、光透過性の基材を有し、前記基材の一方の面に複数の凸部及び凹部の何れか一方または両方によりレリーフ構造を形成したレリーフ構造領域及び前記レリーフ構造が形成されない非レリーフ構造領域が設けられ、前記レリーフ構造領域の少なくとも一部を覆うように光反射層が設けられ、
前記凸部及び凹部の何れか一方または両方は、前記レリーフ構造領域に互いに平行に延在する複数の仮想曲線上で該仮想曲線に沿い間隔をおいて配列され、前記仮想曲線の間隔が200nm乃至500nmの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、表示体であって、光透過性の基材を有し、前記基材の一方の面に複数の凸部及び凹部の何れか一方または両方によりレリーフ構造を形成したレリーフ構造領域及び前記レリーフ構造が形成されない非レリーフ構造領域が設けられ、前記レリーフ構造領域の少なくとも一部を覆うように光反射層が設けられ、前記凸部及び凹部の何れか一方または両方は、前記レリーフ構造領域に互いに平行に延在する複数の仮想曲線上で該仮想曲線に沿い間隔をおいて配列され、前記仮想曲線の間隔が200nm乃至500nmの範囲に設定され、前記複数の仮想曲線は同心円または同心円弧または波型を呈していることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の表示体において、前記レリーフ構造領域は複数有し、該複数のレリーフ構造領域は前記基材の一方の面にマトリクス状に配列されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3記載の表示体において、前記複数のレリーフ構造領域に形成されたレリーフ構造の凸部及び凹部の何れか一方または両方が配列される仮想曲線の配列パターンまたは前記凸部及び凹部の何れか一方または両方のピッチもしくは前記凸部の高さまたは前記凹部の深さの少なくとも1つが互いに異なり、当該異なる前記複数のレリーフ構造領域が複数互いに隣接して配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、情報印刷物であって、印刷物基材と、前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の表示体及びこれを用いた情報印刷物によれば、正面から観察したときに従来の回折格子には見られない黒さを表現するとともに、大きく傾けて観察したときの回折光の射出方向を制御できるようにした表示体及びこれを用いた情報印刷物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態にかかる表示体を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す表示体のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1及び図2に示す表示体のレリーフ構造領域に採用可能な構造の一例を示す平面図である。
【図4】図1及び図2に示す表示体のレリーフ構造領域に採用可能な構造の一例を示す斜視図である。
【図5】本実施の形態にかかるレリーフ構造領域が回折光を射出する様子を示す説明図である。
【図6】本実施の形態にかかるXY平面に垂直な平面がYZ平面となす角度がθであることを示す説明用の立体図である。
【図7】一般的なレリーフ構造領域に凸部及び凹部の何れか一方または両方をマトリクス状に配置したパターンの例を示す概略平面図である。
【図8】本実施の形態にかかるレリーフ構造領域に凸部及び凹部の何れか一方または両方を仮想曲線に沿い配置したパターンの例を示す概略平面図である。
【図9】本実施の形態にかかるレリーフ構造領域に凸部及び凹部の何れか一方または両方を同心円状の仮想曲線に沿い配置したパターンの例を示す概略平面図である。
【図10】本実施の形態にかかるレリーフ構造領域に凸部及び凹部の何れか一方または両方を同心円弧状の仮想曲線に沿い配置したパターンの例を示す概略平面図である。
【図11】本実施の形態にかかるレリーフ構造領域に凸部及び凹部の何れか一方または両方を、曲線の中心が直線状に並ぶ楕円状の仮想曲線に沿い配置したパターンの例を示す概略平面図である。
【図12】本実施の形態にかかる同一形状のレリーフ構造領域をマトリクス状に並べて構成された表示体の例を示す概略平面図である。
【図13】本実施の形態にかかる1つのレリーフ構造領域で構成された表示体の例を示す概略平面図である。
【図14】形状の異なる複数のレリーフ構造領域をマトリクス状に並べて構成された表示体の例を概略的に示す平面図。
【図15】本発明にかかる偽造防止用または識別用ラベルを物品に支持させてなる情報印刷物の一例を示す概略平面図である。
【図16】図15に示す情報印刷物の説明用斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明にかかる表示体及びこれを用いた情報印刷物の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
表示体10は、図1及び図2に示すように、一方の面を光入射面11aとする光透過性の基材11と、光反射層13を備える。
基材11の光入射面11aと反対の面11bには、複数の凸部14aからなるレリーフ構造14を有する複数のレリーフ構造領域12a及びレリーフ構造14が形成されない非レリーフ構造領域12bが設けられている。そして、光反射層13は、レリーフ構造領域12aの全部またはこれらの少なくとも一部を覆うように積層されている。
レリーフ構造領域12aは、基材11の光入射面11aから入射される照明光に対し低反射性と低散乱性を有するとともに照明光を回折して光入射面11a側へ射出する回折光射出機能を有している。
【0018】
上記レリーフ構造領域12aのレリーフ構造14は、図3及び図4に示すように、レリーフ構造領域12aに一定の間隔をおいて互いに平行に延在する円弧状の複数の仮想曲線15上に円錐状の凸部14aを仮想曲線15に沿い配列形成することで構成される。
【0019】
なお、本発明におけるレリーフ構造領域12aのレリーフ構造14は、図3及び図4に示すような円錐状の凸部14aからなるものに限らず、凹部及び凸部の一方または両方から構成されるものであっても良い。
この場合の凸部または凹部は、基材11の光入射面11aと反対の面11bと平行な方向の凸部または凹部の断面積を面11bから凸部の先端または凹部の深さ方向に行くに従い減少させる傾斜面を含んで構成されている。
また、レリーフ構造11を構成する凸部または凹部の形状は円錐状のものに限らず、円角錐状、楕円錐状、円柱状、円筒状、角柱状、角筒状などの凹部または凸部が基材11の光入射面11aと反対の面11bに沿い配列して形成されたものでもよい。
【0020】
次に、レリーフ構造領域12aに起因する表示体10の視覚効果について説明する。
図5において、31は照明光を示し、32は正反射光を示し、33は1次回折光を示している。
このようなレリーフ構造領域において、凸部(及び凹部の一方または両方)14aが配列された互いに隣接する仮想曲線15間の距離が、図3及び図4に示すある方向において一定の間隔であるとき、レリーフ構造領域を照明すると、レリーフ構造領域は、入射光である照明光の進行方向に対して、ある特定の方向に回折光を射出する。
【0021】
本実施の形態において最も代表的な回折光は、1次回折光である。この1次回折光の射出角βは、下記等式(1)から算出することができる。
d=λ/(sinα−sinβ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
この等式(1)において、dは凹部または凸部の中心間距離を表し、λは入射光及び回折光の波長を表している。また、αは入射光の入射角を表している。なお、α、βは、Z軸から時計回りの方向を正方向とする。
等式(1)から明らかなように、1次回折光の射出角βは、照明光31の波長λに応じて変化する。すなわち、レリーフ構造領域は、分光器としての機能を有している。したがって、照明光が白色光である場合、レリーフ構造領域の観察角度を変化させると、観察者が知覚する色が変化する。
【0022】
また、ある観察条件のもとで観察者が知覚する色は、中心間距離dに応じて変化する。一例として、レリーフ構造領域は、その法線方向に1次回折光を射出するとする。すなわち、1次回折光の射出角βは、0°であるとする。そして、観察者は、この1次回折光を知覚するとする。このときの0次回折光の射出角をαNとすると、等式(1)は、下記等式(2)へと簡略化することができる。
d=λ/sinαN・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
等式(2)から明らかなように、観察者に特定の色を知覚させるには、その色に対応した波長λと照明光の入射角|αN|と中心間距離dとを、それらが等式(2)に示す関係を満足するように設定すればよい。
【0023】
後述するように、レリーフ構造領域12aに設けられた仮想曲線15間の距離は200nm乃至500nmの範囲内にある。そのため、照明光31に対する正反射光32の反射率を著しく低減させることができ、また、構造の周期性により照明光31の入射角度によっては可視光の1次回折光33を特定方向に射出させることができる。
したがって、例えば、表示体10をその法線方向から観察した場合、レリーフ構造領域12aは黒色に見える。なお、ここで、「黒色」は、例えば、表示体10に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味する。それゆえ、レリーフ構造領域12aは、あたかも黒色印刷層のように見える。
一般的に、波長が400nm乃至700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が25%以下であれば、概ね黒色であるように見える。
【0024】
また、レリーフ構造領域12aからの1次回折光33の射出角が−90°乃至90°の範囲内であれば、表示体10の法線方向と観察方向とがなす角度を適宜設定することにより、観察者は、レリーフ構造領域12aからの1次回折光33を知覚することができる。それゆえ、この場合、レリーフ構造領域12aが黒色印刷層とは異なることを、目視により確認することができる。
すなわち、レリーフ構造領域12aは、入射光に対する正反射光の反射率を著しく低減させることができ、また、構造の周期性により入射光の入射角度によっては可視光の反射回折光を特定方向に発生させることができる。したがって、多くの観察条件下では、レリーフ構造領域12aは黒く見え、非レリーフ構造領域12bは、光反射層13による反射光が観察されるため、コントラストが大きく付いた画像が表示できる。
【0025】
一方、上記の1次回折光33が観察される条件下では、回折光を観察することができるため、通常は黒色に表示された画像が観察角度を変えていくことによって光って見えるような特有の視覚効果を付与することができる。
したがって、この表示体10を偽造防止用として使用すると、従来の回折格子パターンでは表現できない特徴的な視覚効果を得られることから、高い偽造防止効果を実現することができる。
【0026】
電子線によるフォトレジストへの記録という方法を用いて、本発明の構造を備えた原版を作製することができる。
次に、電鋳等の方法により原版から金属製スタンパーを作製し、この金属製スタンパーを用いて熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂にエンボス加工を行うことにより、同一の表示体を精密に量産できる。
【0027】
図6は、XY平面に垂直な平面pと、YZ平面のなす角度がθであることを示している。なお、θはY軸から時計回りの方向を正方向とする。また、θは不等式(3)の範囲内とする。
0°≦θ<180°・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
図6で示すθは、後述する図7乃至図17においても、同じ意味を持っているとする。
【0028】
図7は、レリーフ構造領域12aに凸部(及び凹部の一方または両方)14aをマトリクス状に配置してレリーフ構造を構成したものであるが、本発明の実施の形態におけるレリーフ構造領域12aに採用可能な例には当てはまらない。また、図8乃至図12に示す構造のレリーフ構造領域は、本発明の実施の形態におけるレリーフ構造領域12aに採用可能なものである。
【0029】
すなわち、図7では、凸部(及び凹部の一方または両方)14aはX方向及びY方向に沿って規則的に配置されている。ゆえに、回折光を射出させることができるのは、θの値が0°または90°の場合の入射光のみであり、かつ、その上で、等式(1)を満たす場合、回折光を射出させることができる。なお、図7に示す符号34は回折光の射出方向を表している。
ゆえに、図7に示す構造から射出される回折光を観察するには、観察者がX軸またはY軸上から構造を眺める必要があるため、回折光を観察できる範囲は、非常に限定的なものとなる。
【0030】
図8では、凸部(及び凹部の一方または両方)14aは、同一の形状の仮想曲線16を、Y方向へ一定の間隔で並べた複数の仮想曲線上に配置されている。このため、図8の場合は、図7の構造の場合とは異なり、仮想曲線16間の距離が一定となる方向が、YZ平面に平行な方向のみには限られない。ゆえに、図7の構造の場合、θが特定の値の入射光においてのみ、回折光を射出させることができる一方で、図8の構造の場合、回折光を射出させることが可能であるためのθは、特定の値ではなく、特定の範囲内であればよい。
すなわち、図8の構造を採用した場合、図7の構造の場合と比較すると、回折光を観察できる方向が広くなり、より高い視認性を得ることができる。
また、凹凸構造の配列の方法によって、回折光の射出方向θを制御できるため、観察する方向によって意図した波長の回折光が射出できるように設計することも可能である。すなわち、図8の構造を採用した場合、図7の構造の場合と比較すると、見る方向によって色や絵柄を変化させることができるため、より広い絵柄の表現を可能としている。なお、図8に示す符号34は回折光の射出方向を表している。
【0031】
図9では、凸部(及び凹部の一方または両方)14aは、同心円状の複数の仮想曲線16上に配置されている。この図9に示す構造のレリーフ構造領域12aを採用した場合、θの値によらず回折光を射出させることが可能である。また、回折光の波長は、θの値によらず一定の値とすることができる。
【0032】
図10では、凸部(及び凹部の一方または両方)14aは、同心楕円状の複数の仮想曲線16上に配置されている。この図10に示す構造のレリーフ構造領域12aを採用した場合、θの値によらず回折光を射出させることが可能である。また、回折光の波長は、θの値によって変えることができる。
【0033】
図11では、凸部(及び凹部の一方または両方)14aは、略円弧の曲率を徐々に変化させながらY方向へ間隔を空けて並べた、曲線の中心が直線状に並ぶ複数の仮想曲線16上に配置されている。図8では同一形状の仮想曲線16が平行に並び、仮想曲線16は、図10では同心円、図11では同心楕円であるが、図11の仮想曲線16は、図8、図10、図11の形状とは異なっている。
しかし、図12に示す構造のレリーフ構造領域12aを採用した場合でも、仮想曲線16間の間隔が一定となる方向においては、回折光を射出させることが可能である。
【0034】
図12は、同一形状である複数のレリーフ構造領域12aをマトリクス状に並べて構成された表示体10を示しており、実線で示した同心円上にレリーフ構造が設けられている。個々のレリーフ構造領域12aは図9に示すレリーフ構造領域12aと同様な構造となっているが、図12においては、詳細な構造の表示は省略している。
【0035】
図13は、1つのレリーフ構造領域12aで構成された表示体10を示している。この図13のレリーフ構造領域12aの形状は、図12に示すレリーフ構造領域12aと同様に、同心円に沿って設けられた凸部(及び凹部の一方または両方)14aからなるレリーフ構造となっている。
【0036】
図12、図13はいずれも、レリーフ構造領域12aの形状がほぼ同一であるため、表示体10の視覚効果は、図12、図13双方ともほぼ同一であるといえる。しかし、微細加工技術などを用いて原版を形成する工程においては、図12の場合、同一形状のレリーフ構造領域12aを繰り返し加工すればよいため、図13の場合と比較すると、加工を行う際に必要なデータ量が少なくて済む。
ゆえに、図12のように、同一形状のレリーフ構造領域12aを隣接配置すると、図13とほぼ同一の視覚効果を得ることができる一方で、加工の際の労力を軽減することができる。
表示体10は、レリーフ構造領域12aと非レリーフ構造領域12bとを備えている。ゆえに、レリーフ構造領域12aと非レリーフ構造領域12bの配置方法によって、視覚効果の差異を生じさせて絵柄を描くことが可能である。つまり、図12のように、同一形状のレリーフ構造領域12aのみを用いた場合においても、レリーフ構造領域12aの有無、すなわち、レリーフ構造領域12aと非レリーフ構造領域12bの配置の組み合わせ方によって、絵柄を表現することができる。
【0037】
図14は、形状の異なる複数のレリーフ構造領域21、22をマトリクス状に並べて構成された表示体10を示している。
図14に示す表示体をY方向の所定の位置から観察した場合、レリーフ構造領域21、22は双方とも同一の波長の回折光を観察できる。一方で、X方向の所定の位置から観察した場合、レリーフ構造領域21とレリーフ構造領域22では、仮想曲線間の間隔が異なるため、これらの仮想曲線に沿って配置された凸部(及び凹部の一方または両方)間の間隔も異なり、その結果、異なる波長の回折光を観察できるか、または、いずれか一方のレリーフ構造領域のみの回折光を観察できる。
ゆえに、複数の異なる形状のレリーフ構造領域を並べることによって、前記レリーフ構造領域を絵柄の構成要素として、表示体に絵柄を表示することができる。
【0038】
図15は、偽造防止用または識別用ラベルを印刷物に支持させてなる情報印刷物を示している。
この情報印刷物100は、磁気カードであって、基材51を含んでいる。基材51は例えば、プラスチックからなる。基材51の表面には、印刷層52と帯状の磁気記録層53とが形成されている。さらに、基材51の表面には、表示体10が偽造防止用または識別用ラベルとして貼り付けられている。
この情報印刷物100は、レリーフ構造領域12aと非レリーフ構造領域12bを備えて表示体10を含んでいる。ゆえに、上記の通り、この情報印刷物100の偽造または模造は困難である。
【0039】
図16は、図15に示した情報印刷物100を斜めに傾けた状態を示している。
図15に示すように、情報印刷物100を正面から観察した場合、表示体10には月のマークのみが表れる。ところが、図16に示すように、情報印刷物100を一定の角度から観察した場合、表示体10には月のマークに加えて、星のマークも表れる。
情報印刷物100を正面から観察した場合、表示体10の月のマークを除く部分は全て黒色に見えており、あたかも黒色印刷層のように見える。しかし、実際には、図16に示すように、星のマークの部分はレリーフ構造領域12aであるため、傾けることによって回折光を射出させることができる。
【0040】
このように情報印刷物100は、表示体10を含んでいるため、目視により、真正品であるか否かを判別することが可能である。
図16に示すレリーフ構造領域12aの構造が、例えば、図12に示すように、凸部(及び凹部の一方または両方)が、複数の同心円上に配置されてなる場合、図16におけるレリーフ構造領域12a、すなわち、星のマークは、いかなるθの値においても目視で確認することができる。
【0041】
上記のように、表示体をステッカー、転写箔などの媒体とし情報印刷物などに貼り付けることは、貼付した情報印刷物の偽造防止効果の向上、真偽判定の容易さを向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10……表示体、11……光透過層、11a……光入射面、11b……光入射面と反対の面、12a……レリーフ構造領域、12b…非レリーフ構造領域、13…反射層、14……レリーフ構造、14a……凸部(または凹部)、15……仮想曲線、16……仮想曲線、21,22……レリーフ構造領域、31……入射光、32……正反射光、33……1次回折光、34……回折光射出方向、51……基材、52……印刷層、53……磁気記録層、100…情報印刷物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材を有し、
前記基材の一方の面に複数の凸部及び凹部の何れか一方または両方によりレリーフ構造を形成したレリーフ構造領域及び前記レリーフ構造が形成されない非レリーフ構造領域が設けられ、
前記レリーフ構造領域の少なくとも一部を覆うように光反射層が設けられ、
前記凸部及び凹部の何れか一方または両方は、前記レリーフ構造領域に互いに平行に延在する複数の仮想曲線上で該仮想曲線に沿い間隔をおいて配列され、
前記仮想曲線の間隔が200nm乃至500nmの範囲に設定されている、
ことを特徴とする表示体。
【請求項2】
光透過性の基材を有し、
前記基材の一方の面に複数の凸部及び凹部の何れか一方または両方によりレリーフ構造を形成したレリーフ構造領域及び前記レリーフ構造が形成されない非レリーフ構造領域が設けられ、
前記レリーフ構造領域の少なくとも一部を覆うように光反射層が設けられ、
前記凸部及び凹部の何れか一方または両方は、前記レリーフ構造領域に互いに平行に延在する複数の仮想曲線上で該仮想曲線に沿い間隔をおいて配列され、
前記仮想曲線の間隔が200nm乃至500nmの範囲に設定され、
前記複数の仮想曲線は同心円または同心円弧または波型を呈している、
ことを特徴とする表示体。
【請求項3】
前記レリーフ構造領域は複数有し、該複数のレリーフ構造領域は前記基材の一方の面にマトリクス状に配列されていることを特徴とする請求項1または2記載の表示体。
【請求項4】
前記複数のレリーフ構造領域において、前記レリーフ構造の前記凸部及び凹部の何れか一方または両方の配置パターンまたは前記凸部及び凹部の何れか一方または両方のピッチもしくは前記凸部の高さまたは前記凹部の深さの少なくとも1つが互いに異なり、当該異なる前記複数のレリーフ構造領域が互いに隣接して配置されていることを特徴とする請求項3記載の表示体。
【請求項5】
印刷物基材と、
前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示体と、
を備えることを特徴とする情報印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−249982(P2010−249982A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97780(P2009−97780)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】