説明

表示素子、表示素子の制御方法及び画像表示システム

【課題】機器の非使用時において周囲の環境に調和した生活空間を提供するとともに、使用時に十分な散乱特性を有するフロント投射型画像表示システムを提供する。
【解決手段】スクリーン9は、電気的なスイッチングにより、可視光を散乱させる散乱状態と可視光を透過させる透過状態とが切替わる透過/散乱切替層28と、電気的なスイッチングにより、可視光を反射させる鏡状態と可視光を透過させる透過状態とが切り替わる透過/反射切替層24と、を重ねて備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子、表示素子の制御方法及び画像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スクリーン上にプロジェクター等により映像を表示する技術が知られている。近年、透明なスクリーンに映像光を拡散、散乱させて映像を表示する技術が提案されている。この技術を用いると、スクリーンが配置される実空間の人物や物体がスクリーンを透かして観察され、映像を実空間と同化させることができる。
【0003】
例えば、ウインドウディスプレイされた展示品に関する情報をウインドウガラスに映すことにより、展示品の観察を妨げずに情報を効果的に表示することができる。銀行等の窓口にて、来訪者の情報を受付者側に表示したり、受付者の情報を来訪者側に表示したりすることにより、窓口業務を円滑に進めることが可能になる。テレビ会議や無人受付等において、人物のみを切り出した映像を映すことにより、あたかも人物が居合わせているようなリアリティーを提供することができる。
【0004】
このように、透明なスクリーンを用いると、ディスプレイというデバイスの存在を観察者に感じさせないで映像表現することができ、効果的な情報提供や臨場感溢れる映像演出が可能となる。透明なスクリーンとして、特許文献1、2に開示されているものが挙げられる。特許文献1には、非拡散光である参照光と、光拡散体から拡散された物体光との干渉によるパターンを記録するホログラムスクリーンの製造方法が提案されている。特許文献2には、液晶層により透過/散乱を切替え可能なスクリーンが提案されている。
【0005】
非特許文献1には、印加電圧を制御することにより鏡面状態と透明状態とに変化するエレクトロクロミック材料からなる調光ミラーフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−75139号公報
【特許文献2】特開平6−82748号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"調光ミラー"、産業技術総合研究所、インターネットURL:http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20071121/pr20071121.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、特許文献1、2の技術を用いたスクリーンは、非使用時には透明であることにより、非使用時におけるスクリーンそのものの存在感を可能な限り少なくし、周囲の環境と調和した映像機器を提供可能であるが、そのスクリーンの散乱特性として前方散乱が主体であり、後方散乱はほぼ含まない。即ち、投射型プロジェクター用スクリーンとして用いる場合、リア投射型のスクリーンとしては十分に視認可能な映像を投影可能であるが、フロント投射型のスクリーンに用いる場合、散乱が足りず十分に視認可能な映像を投影することができない。
【0009】
そこで、非使用時にスクリーンの存在を少なくするととともに、使用時において十分な散乱特性の得られるフロント投射型プロジェクター用のスクリーンが求められていた。そして、そのスクリーンを実現するために光の散乱と透過とを制御する表示素子と表示素子の制御方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]
本適用例にかかる表示素子は、電気的なスイッチングにより、可視光を散乱させる散乱状態と可視光を透過させる透過状態とが切替わる透過/散乱切替層と、電気的なスイッチングにより、可視光を反射させる鏡状態と可視光を透過させる透過状態とが切り替わる透過/反射切替層と、を重ねて備えたことを特徴とする。
【0012】
この表示素子によれば、電気的なスイッチングにて状態を切り替えられる透過/散乱切替層と透過/反射切替層とを重ねてそなえている。光を散乱させたいとき、透過/散乱切替層を散乱状態に設定し、透過/反射切替層を鏡状態に設定する。これにより、表示素子に入射する可視光は透過/散乱切替層にて散乱する。そして、透過/散乱切替層にて透過する可視光は透過/反射切替層にて反射した後透過/散乱切替層にて散乱する。従って、可視光を確実に散乱させることができる。
【0013】
可視光を透過させたいとき、透過/散乱切替層を透過状態に設定し、透過/反射切替層を透過状態に設定する。これにより、表示素子に入射する可視光は透過/散乱切替層及び透過/反射切替層を透過する。従って、可視光は表示素子を確実に透過させることができる。従って、表示素子は電気的なスイッチングにて透過状態と散乱状態とを品質よく切り替えることができる。
【0014】
[適用例2]
上記適用例にかかる表示素子において、前記透過/散乱切替層は、一対の電極と、一対の前記電極の間に配置された高分子分散型液晶層と、を備え、前記透過/反射切替層はエレクトロクロミック材料を有する調光ミラー層を備えていることを特徴とする。
【0015】
この表示素子によれば、透過/散乱切替層は、一対の透明電極と、一対の透明電極の間に配置された高分子分散型液晶層を備えている。従って、一対の透明電極に印加する電圧を切り替えることにより、透過/散乱切替層は確実に透過状態と散乱状態とを切り替えることができる。そして、透過/反射切替層はエレクトロクロミック材料を有する調光ミラー層を備えている。従って、エレクトロクロミック材料に印加する電圧を切り替えることにより、透過/反射切替層は確実に鏡状態と透過状態とを切り替えることができる。
【0016】
[適用例3]
上記適用例にかかる表示素子において、前記調光ミラー層と前記高分子分散型液晶層とが保護層を介して積層されていることを特徴とする。
【0017】
この表示素子によれば、調光ミラー層と高分子分散型液晶層とが保護層を介して積層されている。通常、高分子分散型液晶層は一対の板に挟持された状態で透過/反射切替層と積層される。本適用例では板の代わりに保護層を介して透過/反射切替層と高分子分散型液晶層とが積層されている。このようにすれば、透過/反射切替層と高分子分散型液晶層との距離を短くすることができる。このため、表示素子を散乱状態にする時、表示素子に入射した光が透過/反射切替層の反射する場所に到達する以前に高分子分散型液晶領域の液晶散乱部で前方散乱した光と、調光領域の鏡部で反射した後に高分子分散型液晶領域の液晶散乱部で前方散乱した光と、の掛け合わせによる映像ボケを抑制することが可能となる。
【0018】
[適用例4]
上記適用例にかかる表示素子において、前記透過/反射切替層は一対の電極を備え、前記調光ミラー層は前記透過/反射切替層が備える一対の前記電極の一方であり、前記調光ミラー層は前記透過/反射切替層の前記高分子分散型液晶層側に位置し、前記調光ミラー層は前記透過/散乱切替層が備える一対の前記電極の一方を兼ねることを特徴とする。
【0019】
この表示素子によれば、高分子分散型液晶層と透過/反射切替層との間に調光ミラー層が位置している。そして、調光ミラー層は高分子分散型液晶層に電圧を印加する電極と透過/反射切替層に電圧を印加する電極とを兼ねている。従って、高分子分散型液晶層と透過/反射切替層との間に各層に対応する電極を設置する場合に比べて、高分子分散型液晶層と透過/反射切替層の距離をより一段と短くすることができる。且つ、透過/散乱切替層で光を散乱させる場所と透過/反射切替層で光を反射させる場所の間における界面数を減らすことができる。このためフレネル反射を抑制することができ、観察者は、より一層明瞭な解像度をもった映像を視認することが可能となる。
【0020】
[適用例5]
上記適用例にかかる表示素子において、前記調光ミラー層は接地されていることを特徴とする。
【0021】
この表示素子によれば、調光ミラー層は接地されている。従って、高分子分散型液晶層駆動時において透過/反射切替層の透過/鏡状態を一定の状態に保ちたいとき、高分子分散型液晶層における調光ミラー層と異なる電極に正負の電圧を印加することで、調光ミラー層の透過/鏡状態を一定に保つことができる。その結果、表示素子の駆動制御を容易にすることができる。
【0022】
[適用例6]
上記適用例にかかる表示素子において、前記高分子分散型液晶層は、電圧非印加時において透過状態が得られるリバースモードであることを特徴とする。
【0023】
この表示素子によれば、高分子分散型液晶層は、電圧未印加時に透明状態である「リバースモード」の高分子分散型液晶である。透過/反射切替層は双安定であり、表示素子を透過状態にするときは透過/反射切替層を透明状態に設定しておく。高分子分散型液晶層は電圧未印加状態にして透明状態を維持する。これにより、表示素子を透過状態にするとき、消費電力を抑制した状態で透明状態を維持することができる。その結果、省資源な表示素子とすることができる。
【0024】
[適用例7]
上記適用例にかかる表示素子において、前記高分子分散型液晶層は、複屈折性を有するポリマー部及び液晶部を交互に積層配置したホログラム構造体であり、前記ホログラム構造体を通過する可視光の透過と散乱とを電気的に切替可能であることを特徴とする。
【0025】
この表示素子によれば、高分子分散型液晶層は、複屈折性を有するポリマー部及び液晶部を交互に積層配置したホログラム構造体である。そして、高分子分散型液晶層は射出するホログラムパターンを電気的に切替可能である。これにより、入射した光が高分子分散型液晶層を通過する際の角度を、透過/反射切替層に到達する前と透過/反射切替層で反射した後とで異ならせることが可能であるため、透過/反射切替層に到達する前と透過/反射切替層で反射した後とで、散乱/透過の作用を異ならせることが可能となる。即ち、透過/反射切替層で反射した後の角度に対してのみ散乱するように液晶層をホログラム記録させておくことが可能となる。これにより、入射した光は透過/反射切替層に到達する以前に散乱することがなくなる。従って、透過/反射切替層で反射した後に液晶散乱部で前方散乱した光のみを射出させることが可能となる。その結果、散乱した光が映像を構成するとき、一層映像ボケを抑えることが可能となり、極めて明瞭な解像度をもった映像を視認することが可能となる。
【0026】
[適用例8]
本適用例にかかる上記に記載の表示素子を制御する表示素子の制御方法は、前記表示素子を散乱状態にする時において、前記透過/散乱切替層は散乱状態であり、前記透過/反射切替層は鏡状態であるように制御することを特徴とする。
【0027】
この表示素子の制御方法によれば、表示素子を散乱状態にする時には、透過/散乱切替層は散乱状態であり、透過/反射切替層は鏡状態である。従って、表示素子に入射する可視光は透過/散乱切替層にて散乱する。そして、透過/散乱切替層にて透過する可視光は透過/反射切替層にて反射した後透過/散乱切替層にて散乱する。従って、可視光を確実に散乱させることができる。
【0028】
[適用例9]
本適用例にかかる上記に記載の表示素子を制御する表示素子の制御方法は、前記表示素子を透過状態にする時において、前記透過/散乱切替層は透過状態であり、前記透過/反射切替層は透過状態であるように制御することを特徴とする。
【0029】
この表示素子の制御方法によれば、表示素子を透過状態にする時において、透過/散乱切替層は透過状態であり、透過/反射切替層は透過状態である。従って、可視光は表示素子を確実に透過させることができる。
【0030】
[適用例10]
本適用例にかかる画像表示システムは、映像を構成する可視光を射出するプロジェクターと、前記映像を投影するスクリーンと、を有し、前記スクリーンに上記適用例にかかる表示素子の制御方法を用いて制御する表示素子を用いたことを特徴とする。
【0031】
この表示素子の画像表示システムによれば、スクリーンが透過状態と散乱状態とを切り替えられる。従って、映像を投影しないときには、スクリーンを透過状態にすることができる。そして、スクリーンが散乱状態のときには十分な散乱特性が得られる為、品質の良い映像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態にかかり表示システムの全体構成を示す模式図。
【図2】スクリーンの構成を示す模式断面図。
【図3】第2実施形態にかかりスクリーンの構成を示す模式断面図。
【図4】クリーン中の光の挙動を説明するための模式図。
【図5】第3実施形態にかかりスクリーンの構成を示す模式断面図。
【図6】第4実施形態にかかりスクリーンの構成を示す模式断面図。
【図7】高分子分散型ホログラム液晶の側面断面図。
【図8】ホログラム構造体の製造方法の説明図。
【図9】ホログラム構造体の機能を説明するための模式図。
【図10】ホログラム構造体を有するスクリーンの動作を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。説明に用いる図面において、特徴的な部分を分かりやすく示すために、図面中の構造の寸法や縮尺を実際の構造に対して異ならせている場合がある。また、実施形態において同様の構成要素については、同じ符号を付して図示し、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0034】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の表示システムの全体構成を示す模式図である。図1(a)は、表示システム1の非使用時を示す図であり、図1(b)は表示システム1の使用時を示す図である。表示システム1は、プロジェクター3及び表示素子としてのスクリーン2により構成されている。背景4は、表示システム1とは無関係に存在する背景であり、例えば本実施形態では木目調の壁面を表している。
【0035】
第1実施形態の表示システム1は、概略すると以下のように動作する。
表示システム1を非使用時には、図1(a)に示すように、スクリーン2には電圧は印加されていない。プロジェクター3にも電源は投入されておらず、映像は出力されていない。このときスクリーン2は透明な状態を維持しており、観察者5からは背景4が視認され、あたかもスクリーン2が存在しないかのような景観を提供可能となる。
【0036】
表示システム1の使用時には、図1(b)に示すように、スクリーン2に電圧が印加され後方散乱状態が提供される。これによりプロジェクター3からは通常のスクリーンが存在するのと同様の方法で映像が投影でき、観察者5は、視認するのに十分な映像を観察可能となる。
【0037】
図2は、スクリーンの構成を示す模式断面図である。図2に示すように、スクリーン2は、透過/散乱切替層14と透過/反射切替層22とが重ねて構成されている。
【0038】
透過/散乱切替層14は、透明導電膜からなる電極としての透明電極12が成膜された2枚の透明基板11に高分子分散型液晶層13が挟持される形で提供される。透明電極12は液晶駆動用電源40に接続され、高分子分散型液晶層13に電界が印加されることにより、透過/散乱切替層14は透明/散乱の切り替えが可能となる。ここで高分子分散型液晶層13としては、電界未印加時に透明状態であり、電界印加時に散乱状態となる所謂リバースモードが使われている。
【0039】
透過/反射切替層22は、非特許文献1に開示されているように透明基板21上に電極としての透明導電膜20、イオン貯蔵層19、固体電解質層18、バッファー層17、触媒層16、調光ミラー層15を、積層することにより形成されている。透明導電膜20としてはITO(Indium Tin Oxide)、イオン貯蔵層19としてはWO3、固体電解質層18としてはTa25、バッファー層17としてはAl、触媒層16としてはPd、調光ミラー層15としてはエレクトロクロミック材料としてのMg−Ni合金等が例えば用いることが可能であり、それぞれマグネトロンスパッタ装置で室温成膜可能であることが、非特許文献1に開示されている。そして、調光ミラー層15及び透明導電膜20は直流電源8の電力を供給する電極として作用する。
【0040】
透過/反射切替層22の初期状態は鏡状態である。5V程度の電圧を印加するとイオン貯蔵層19中に蓄えられている水素イオンが調光ミラー層15中に移動し、金属状態のMg−Ni合金が水素化されて非金属状態になることにより透明に変化する。また極性を反転し、−5V程度の電圧を印加すると水素イオンがイオン貯蔵層19中へ戻り、調光ミラー層15は元の金属状態に戻り、鏡として機能する。これらの現象についても、非特許文献1に開示されているとおりである。
【0041】
ここで、透過/散乱切替層14及び透過/反射切替層22の各々独立したプロセスで作成した各層を、メカニカルクリップ23のような機械的な挟持により重ね合わせることにより、スクリーン2が形成される。透過/散乱切替層14及び透過/反射切替層22は電気的に独立に駆動し、またアライメント精度は外形に大きなズレが生じない程度であれば、スクリーンとして問題なく機能するため、簡易な方法による重ね合わせでスクリーン2を形成可能である。尚、重ね合わせの方法は、機械的な挟持に限らず、接着等、透過/散乱切替層14と透過/反射切替層22の機能に影響を与えない方法であれば何でもよい。
【0042】
スクリーン2を使用するときにはスクリーン2を散乱状態にする。この時には透過/散乱切替層14は散乱状態であり、透過/反射切替層22は鏡状態であるように制御する。スクリーン2を使用しないときにはスクリーン2を透過状態にする。この時には透過/散乱切替層14は透過状態であり、透過/反射切替層22は透過状態であるように制御する。
【0043】
尚、調光ミラー層15の上層には、不示図の保護層を設け、調光ミラー層15の劣化を防止することも適宜可能である。このようにして、使用時には大きな後方散乱成分が得ることが可能で、非使用時には透明であり、周囲の景観を損なうことのないフロント投射型プロジェクター用のスクリーン2が提供可能となる。
【0044】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によればスクリーン2は電気的なスイッチングにて状態を切り替えられる透過/散乱切替層14と透過/反射切替層22とを重ねてそなえている。光を散乱させたいとき、透過/散乱切替層14を散乱状態に設定し、透過/反射切替層22を反射状態(鏡状態)に設定する。これにより、スクリーン2に入射する可視光は透過/散乱切替層14にて散乱する。そして、透過/散乱切替層14にて透過する可視光は透過/反射切替層22にて反射した後透過/散乱切替層にて散乱する。従って、可視光を確実に散乱させることができる。
【0045】
可視光を透過させたいとき、透過/散乱切替層14を透過状態に設定し、透過/反射切替層22を透過状態に設定する。これにより、表示素子に入射する可視光は透過/散乱切替層14及び透過/反射切替層22を透過する。従って、スクリーン2は可視光を確実に透過させることができる。従って、スクリーン2は電気的なスイッチングにて透過状態と散乱状態とを品質よく切り替えることができる。
【0046】
(2)本実施形態によれば、高分子分散型液晶層13は電圧未印加時に透明状態である「リバースモード」の高分子分散型液晶である。透過/反射切替層22は双安定であり、スクリーン2を透過状態にするときは透過/反射切替層22は透明状態に設定しておく。高分子分散型液晶層13は電圧未印加状態にして透明状態を維持する。これにより、スクリーン2を透過状態にするとき、消費電力を抑制した状態で透明状態を維持することができる。その結果、省資源な表示素子とすることができる。
【0047】
(3)本実施形態によれば、スクリーン2が透過状態と散乱状態とを切り替えられる。従って、映像を投影しないときには、スクリーンを透過状態にすることができる。そして、スクリーンが散乱状態のときには十分な散乱特性が得られる為、品質の良い映像を表示することができる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、スクリーンの一実施形態について図3のスクリーンの構成を示す模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるところは、透過/散乱切替層と透過/反射切替層とを基板を介することなく積層している点にある。尚、第1実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0049】
図3に示すように、スクリーン6は透過/反射切替層24と透過/散乱切替層27とが重ねて設置されている。透過/反射切替層24に関しては、第1実施形態の透過/反射切替層22とほぼ同様の構造であり、またその製造プロセスもほぼ同様であるため共通する部分の説明を省略する。第1実施形態と異なる点は、透過/散乱切替層14において透過/反射切替層22側に位置する透明基板11を保護層25と入れ換えた点にある。製造手順では調光ミラー層15を成膜した後に保護層25を積層する。保護層25を積層した透過/反射切替層24を作成した後、透過/散乱切替層27の製造プロセスを行う。保護層25としては、例えばSiO2等の透水性の低い材料を5μm積層することにより形成可能である。
【0050】
透過/散乱切替層27にとって下側支持媒体となる透過/反射切替層24の上に透明電極12を成膜する。また、透過/散乱切替層27にとって上側支持基板となる透明基板11に透明電極12を成膜する。その後、透明電極12を成膜済みの透過/反射切替層24の上に液晶滴下工法にて液晶を滴下し、透明電極12付の透明基板11を貼り合わせ、シール硬化することで完成する。尚、本実施例では液晶封入方式として液晶滴下工法を示したが、液晶注入法を用いても構わない。
【0051】
また、透過/反射切替層24と透過/散乱切替層27とは電気的に独立しており、透過/散乱切替層27の透過/散乱状態、及び透過/反射切替層24の透過/鏡状態は独立に制御可能である。
【0052】
このようにすることで、透過/散乱切替層27で光を散乱する場所と透過/反射切替層24で光を反射する場所の距離を短くすることが可能となる。スクリーン6に入射した光は、調光ミラー層15に到達する以前に高分子分散型液晶層13で前方散乱した光が調光ミラー層15で反射した後、再度高分子分散型液晶層13に入射し、その光が前方散乱することにより、スクリーン6全体として後方散乱となって、観察者に視認されるようになる。
【0053】
図4はスクリーン中の光の挙動を説明するための模式図である。第1実施形態で示した構造の場合、図4(a)に示すように透過/散乱切替層14を支持する透明基板11の厚みを介して透過/反射切替層22の調光ミラー層15が存在する。このため、高分子分散型液晶層13に初回入射した光の散乱成分が大きく広がった後に調光ミラー層15で反射され、再度高分子分散型液晶層13で散乱されるため、画素が大きくボケた状態で視認される。それに対し第2実施形態で示した構造の場合、図4(b)に示すように高分子分散型液晶層13に初回入射した光の散乱成分が大きく広がる以前に調光ミラー層15で反射され、再度高分子分散型液晶層13で散乱されるため、画素のボケを低減することができるようになる。これにより、観察者に対し、解像度の高い明瞭な映像を提供することが可能となる。
【0054】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、調光ミラー層15と高分子分散型液晶層13とが保護層25を介して積層されている。従って、調光ミラー層15と高分子分散型液晶層13とが透明基板11を介して積層されている場合に比べて、調光ミラー層15と高分子分散型液晶層13との距離を短くすることができる。このため、スクリーン6を散乱状態にする時、スクリーン6に入射した光が調光ミラー層15の反射する場所に到達する以前に高分子分散型液晶層13で前方散乱した光と、調光ミラー層15で反射した後に高分子分散型液晶層13で前方散乱した光と、の掛け合わせによる映像ボケを抑制することが可能となる。
【0055】
(第3実施形態)
次に、スクリーンの一実施形態について図5のスクリーンの構成を示す模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第2実施形態と異なるところは、調光ミラー層15が高分子分散型液晶層13の電極と透過/反射切替層24の電極とを兼ねる点にある。尚、第2実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0056】
図5に示すように、スクリーン9は透過/反射切替層24と透過/散乱切替層28とを備えている。透過/反射切替層24に関しては、第2実施形態と同様の構造であり、またその製造プロセスも同様であるため説明を省略する。保護層25を形成した後は、透過/散乱切替層28の製造プロセスを行う。
【0057】
上側支持基板となる透明基板11に透明電極12を成膜する。その後、透過/反射切替層24を形成済みの基板上に液晶滴下工法にて液晶を滴下し、透明電極12付の透明基板11を貼り合わせ、シール硬化することで完成する。尚、本実施例では液晶封入方式として液晶滴下工法を示したが、液晶注入法を用いても構わない。
【0058】
第3実施形態において調光ミラー層15は、透過/反射切替層24用上側電極として機能し、また透過/散乱切替層28の下側電極として機能する。そのため、例えば調光ミラー層15を接地し、透過/反射切替層24と透過/散乱切替層28と、にスイッチを介して各々独立した電源に接続することで独立に駆動させることができる。
【0059】
スクリーン9に映像を投影する時には、スクリーン9に投射された光を反射させる必要があるため透過/反射切替層24はミラーとして機能する。そのため、透明導電膜20に調光ミラー層15に対して負のバイアス電圧を印加し鏡状態を得る。その後、調光ミラー領域のスイッチをオープンにし、透過/散乱切替層28のスイッチをクローズにして、透明電極12に正負の交流バイアスを印加することで透過/散乱切替層28を散乱状態に切り替える。これにより、透過/反射切替層24を鏡状態にすることができる。このとき、調光ミラー層15は接地しているため、透明電極12の交流バイアス印加の有無に依らず、透過/反射切替層24中の水素イオンは移動しない。
【0060】
スクリーン9を非使用時は、スクリーン9は透明状態である。そのため、透明導電膜20に調光ミラー層15に対して正のバイアス電圧を印加し透明状態を得る。その後、調光ミラー領域のスイッチをオープンにして、その状態を維持する。透過/散乱切替層28は、リバースモードを採用しているため、電界を印加していない状態であれば透明である。これにより、透明状態のスクリーンを得ることができる。
【0061】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば高分子分散型液晶層13と透過/反射切替層24との間に調光ミラー層15が位置している。そして、調光ミラー層15は高分子分散型液晶層13に電圧を印加する電極と透過/反射切替層24に電圧を印加する電極とを兼ねている。従って、高分子分散型液晶層13と透過/反射切替層24との間に各層に対応する電極を設置する場合に比べて、高分子分散型液晶層13と透過/反射切替層24の距離をより一段と短くすることができる。且つ、透過/散乱切替層28で光を散乱させる場所と透過/反射切替層24で光を反射させる場所の間における界面数を減らすことができる。このためフレネル反射を抑制することができ、観察者は、より一層明瞭な解像度をもった映像を視認することが可能となる。また、希少金属を含む透明電極を一層省略することができるため、資源枯渇に対する対策となるとともに、生産性良くスクリーン9を生産することが可能となる。
【0062】
(第4実施形態)
次に、スクリーンの一実施形態について図6〜図10を用いて説明する。本実施形態が第1実施形態と異なるところは、透過/散乱切替層14における高分子分散型液晶層13が高分子分散型ホログラム液晶である点にある。尚、第1実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0063】
図6は、スクリーンの構成を示す模式断面図である。図6に示すように、スクリーン10は透過/反射切替層22と透過/散乱切替層29とを備えている。そして、透過/散乱切替層29には高分子分散型ホログラム液晶30が設置されている。
【0064】
次に、高分子分散型ホログラム液晶30について説明する。図7は高分子分散型ホログラム液晶の側面断面図である。図7(a)は電界無印加時の状態であり、図7(b)は電界印加時の状態である。図7(a)に示すように、このホログラム構造体31には、ガラス等の透明材料からなる一対の基板32が対向配置されている。各基板32の内面には、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide;ITO)等の透明導電性材料からなる電極33と、ポリイミド等からなる配向膜34とが順に積層されている。この配向膜34の表面には、一定方向にラビング処理が施されている。
【0065】
この一対の基板32の間に、光学機能層35が挟持されている。この光学機能層35は、複屈折性を有する多数のポリマー部37と、液晶部36とを周期的に繰り返し積層配置した干渉縞構造を有している。また配向膜34の作用により、ポリマー部37を構成するポリマー前駆体と、液晶部36を構成する液晶分子とが、ともに一定方向に配向している。ここで用いる液晶として、ネマティック液晶TL−202、E8(メルクジャパン社製)等を例示することができ、ポリマー前駆体として、ビフェニルメタクリレート等を例示することができる。尚、ポリマー前駆体の混合割合は5〜30wt%とすることが望ましい。
【0066】
図8は、ホログラム構造体の製造方法の説明図である。上述したホログラム構造体は、2光束干渉露光装置70を用いて作製する。この2光束干渉露光装置70は、レーザー光源71と、レーザー光71Sを2つに分岐させるビームスプリッター72と、分岐した一方のレーザー光を物体波71SAとして構造体31aに導くミラー78、記録する物体74と、他方のレーザー光を参照波71SBとして構造体31aに導くミラー76,77とによって概略構成されている。ここで物体74としては散乱物体を用いている。
【0067】
ポリマー前駆体が液晶とともに配向した状態の構造体31aに対して、上述した2光束干渉露光装置70を用いて、2方向から所定の角度で光を照射する。すると、2方向の光の干渉により光強度(振幅)の大きい箇所でポリマー前駆体が重合し、図7に示すポリマー部37が形成されるとともに、複数のポリマー部37が干渉縞構造を呈するようになる。これにより、ホログラム構造体31が形成される。尚、図8ではレーザー光源が1つしか記載されていないが、R,G,B三色のレーザー光源を用いて同時にホログラム記録材料に露光することにより、白色参照光に対応したホログラムを作成可能である。
【0068】
図7(a)に戻り、電界無印加状態のホログラム構造体31では、ポリマー部37を構成するポリマー前駆体及び液晶部36を構成する液晶分子が同方向に配向している。そのため、液晶部36の屈折率とポリマー部37の屈折率とがほぼ一致している。したがって、一方の基板からの入射光は光学機能層35を透過して他方の基板から射出する。図9はホログラム構造体の機能を説明するための模式図である。すなわち図9(a)に示すように、ホログラム構造体31への入射光90は、それと同一直線上の射出光路91に沿って射出することになる。
【0069】
これに対して、図7(b)に示すように、電界印加状態のホログラム構造体31では、液晶部36の液晶分子のみが電界方向に沿って配列し、ポリマー部37による干渉縞構造が現れる。これにより、液晶部36の屈折率とポリマー部37の屈折率とが異なった状態になる。そのため、ポリマー部37の干渉縞構造のピッチに対応した波長の光が、一方の基板に対して所定方向から入射すると、所定方向のホログラムパターンが射出される。具体的には、図8に示す参照波71SBと同じ方向から光がホログラム構造体31に入射するとき、物体波71SAが投射されたときと同様の散乱パターンが射出される。すなわち図9(b)に示すように、ホログラム構造体31への入射光90は、散乱光92として射出することになる。また、図8に示す参照波71SBと異なる角度から入射して光に対してはホログラムパターンは出現せず、電圧無印加の状態と同様に、入射光線と同一直線上の光路に沿って射出する。
【0070】
図10はホログラム構造体を有するスクリーンの動作を説明するための模式図である。図10に示すプロジェクター3から入射する光線26において、調光ミラー層15で反射されて高分子分散型ホログラム液晶30に入射する光線26aと高分子分散型ホログラム液晶30との相対位置は、図8に示す参照波71SBとホログラム構造体31の相対位置と同一である。したがって、図10に示す高分子分散型ホログラム液晶30は、電圧印加時には散乱媒質、電圧無印加時には透過媒質として機能すると共に、電圧印加時においても調光ミラー層15で反射される以前の光線26に対しては透過媒質として機能し、調光ミラー層15で反射した後の光線26aに対しては散乱媒質として機能させることができる。
【0071】
これにより、入射した光は調光領域の鏡部に到達する以前に散乱することがなくなり、観察者は、調光領域の鏡部で反射した後に液晶散乱部で前方散乱した光のみを視認することが可能となるため、より一層映像ボケを抑えることが可能となり、極めて明瞭な解像度をもった映像を視認することが可能となる。
【0072】
尚、本実施形態では、図7に示すようにポリマー部37を構成するポリマー前駆体及び液晶部36を構成する液晶分子を一定方向に配向させる構成としたが、一対の基板32間でねじれ(ツイスト)配向させる構成としても良い。具体的には、カイラル成分をもつ材料を光学機能層35に微量添加することによって、ねじれ配向を実現することができる。ねじれ配向を採用することによって、干渉効果や散乱効果の偏光依存性を小さくすることができる。
【0073】
尚、本発明の技術範囲は前記実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を逸脱しない範囲内で多様な変形が可能である。例えば、スクリーンとしては、高分子分散型液晶層に代えて、動的散乱モードで駆動される液晶層を用いたものでもよい。この液晶層は、例えばホメオトロピック配向(垂直配向)のものである。液晶層に閾値以上の電圧を印加すると、液晶分子に対して電流による配向効果が電界による配向効果よりも大きくなり、流体力学的な不安定現象が生じる。この不安定現象は、カー・ヘルフリッヒ効果と呼ばれている。この効果により、液晶層中に乱流を生じて、液晶層が動的散乱状態(Dynamic Scattering)になる。
【符号の説明】
【0074】
2…表示素子としてのスクリーン、3…プロジェクター、12…電極としての透明電極、13…高分子分散型液晶層、14,27,28,29…透過/散乱切替層、15…調光ミラー層、20…電極としての透明導電膜、22…透過/反射切替層、25…保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的なスイッチングにより、可視光を散乱させる散乱状態と可視光を透過させる透過状態とが切替わる透過/散乱切替層と、
電気的なスイッチングにより、可視光を反射させる鏡状態と可視光を透過させる透過状態とが切り替わる透過/反射切替層と、
を重ねて備えたことを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記透過/散乱切替層は、
一対の電極と、
一対の前記電極の間に配置された高分子分散型液晶層と、
を備え、
前記透過/反射切替層はエレクトロクロミック材料を有する調光ミラー層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記調光ミラー層と前記高分子分散型液晶層とが保護層を介して積層されていることを特徴とする請求項2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記透過/反射切替層は一対の電極を備え、
前記調光ミラー層は前記透過/反射切替層が備える一対の前記電極の一方であり、
前記調光ミラー層は前記透過/反射切替層の前記高分子分散型液晶層側に位置し、
前記調光ミラー層は前記透過/散乱切替層が備える一対の前記電極の一方を兼ねることを特徴とする請求項3に記載の表示素子。
【請求項5】
前記調光ミラー層は接地されていることを特徴とする請求項4に記載の表示素子。
【請求項6】
前記高分子分散型液晶層は、電圧非印加時において透過状態が得られるリバースモードであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項7】
前記高分子分散型液晶層は、複屈折性を有するポリマー部及び液晶部を交互に積層配置したホログラム構造体であり、前記ホログラム構造体を通過する可視光の透過と散乱とを電気的に切替可能であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の表示素子を制御する表示素子の制御方法であって、
前記表示素子を散乱状態にする時において、前記透過/散乱切替層は散乱状態であり、
前記透過/反射切替層は鏡状態であるように制御することを特徴とする表示素子の制御方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の表示素子を制御する表示素子の制御方法であって、
前記表示素子を透過状態にする時において、前記透過/散乱切替層は透過状態であり、
前記透過/反射切替層は透過状態であるように制御することを特徴とする表示素子の制御方法。
【請求項10】
映像を構成する可視光を射出するプロジェクターと、前記映像を投影するスクリーンと、を有し、
前記スクリーンに請求項8または9に記載の表示素子の制御方法を用いて制御する表示素子を用いたことを特徴とする画像表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−173449(P2012−173449A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34284(P2011−34284)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】