説明

表示素子

【課題】低温で製造でき、耐久性を有する表示素子を提供する。
【解決手段】少なくとも一つの透明電極を表面に有する透明基板と、少なくとも一つの対向電極を表面に有する基板とを、該透明電極と該対向電極が対向するように配置し、該電極間に少なくともエレクトロクロミック化合物を含有する電解質層を有する表示素子において、透明電極上に、多孔質層が非多孔質性の下引き層を介して設けられ、該下引き層が、多孔質層を形成する物質と同じ物質を少なくとも一部含有していることを特徴とする表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック化合物の発色/消色反応を利用した表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの動作速度の向上、ネットワークインフラの普及、データストレージの大容量化と低価格化に伴い、従来紙への印刷物で提供されたドキュメントや画像等の情報を、より簡便な電子情報として入手、電子情報を閲覧する機会が益々増大している。
【0003】
この様な電子情報の閲覧手段として、従来の液晶ディスプレイやCRT、また近年では、有機ELディスプレイ等の発光型が主として用いられているが、特に、電子情報がドキュメント情報の場合、比較的長時間にわたってこの閲覧手段を注視する必要があり、これらの行為は必ずしも人間に優しい手段とは言い難く、一般に発光型のディスプレイの欠点として、フリッカーで目が疲労する、持ち運びに不便、読む姿勢が制限され、静止画面に視線を合わせる必要が生じる、長時間読むと消費電力が嵩む等が知られている。
【0004】
これらの欠点を補う表示手段として、外光を利用し、像保持の為に電力を消費しない、いわゆるメモリー性を有する反射型ディスプレイが知られているが、下記の理由で十分な性能を有しているとは言い難い。
【0005】
即ち、反射型液晶等の偏光板を用いる方式は、反射率が約40%と低く白表示に難があり、また構成部材の作製に用いる製法の多くは簡便とは言い難い。また、ポリマー分散型液晶は高い電圧を必要とし、また有機物同士の屈折率差を利用しているため、得られる画像のコントラストが十分でない。また、ポリマーネットワーク型液晶は電圧高いことと、メモリー性を向上させるために複雑なTFT回路が必要である等の課題を抱えている。また、電気泳動法による表示素子は、10V以上の高い電圧が必要となり、電気泳動性粒子凝集による耐久性に懸念がある。
【0006】
一方、エレクトロクロミック型表示素子は、低電圧(概ね3V以下)での駆動が可能であるという利点から、調光ガラス、防眩ミラー等の用途で知られている。近年では、電気的に活性な化合物の化学吸着により修飾された半導電性ナノ構造化フィルムを具備する少なくとも一つの電極を含んで成るエレクトロクロミック素子も知られている(特許文献1、2参照)。
【0007】
特許文献1のエレクトロクロミック素子は、ナノ構造化半導体電極の表面に化学吸着された酸化還元クロモフォアを含み、それぞれ可逆的方法で酸化または還元されることができる電気的に活性な化合物が電解質中に溶解されている。
【0008】
特許文献2のエレクトロクロミック素子は、酸化還元プロモータまたは酸化還元クロモフォアである電気的に活性な化合物が吸着されている導電性金属酸化物を含んで成るナノポーラスナノ結晶質フィルムが開示されている。
【0009】
これら素子は、電気的に活性な化合物をナノ構造のフィルム内に吸着させることで、スイッチング速度を向上させることを目的としている。
【0010】
しかしながら、これら素子のナノ構造のフィルムを形成するためには、数百度、通常400℃以上の高温で長時間の処理をする必要がある。そのため、製造ラインに、高温かつ長時間の処理工程を入れる必要があり、生産性の点で問題があった。また、基板は、高温への耐久性のあるガラスなどに限られる。
【0011】
一方で、前記表示素子としては、軽量で持ち運びが楽なものが要求されている。そのためには、基板を樹脂フィルムなどの軽量な素材とすることが必要となるが、従来の技術では、高温処置が必要であるため、樹脂フィルムの使用ができなかった。
【0012】
低温で多孔質層を形成する方法としては、多孔質層を形成する微粒子を少量のバインダーと混合して、塗布、乾燥する方法がある。このような方法においては、乾燥温度は200℃より低くすることが可能である。
【0013】
しかしながら、このようにして設けられた多孔質層は、透明電極との接着性が弱く、時間経過や繰り返し駆動により、多孔質層が剥離してしまうという欠点が見出された。多孔質層の剥離により、表示素子の発色濃度の低下、濃度ムラという問題が発生する。
【特許文献1】国際公開第97/35227号
【特許文献2】特開2003−511837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、低温で製造でき、十分な素子耐久性を有する表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0016】
1.少なくとも一つの透明電極を表面に有する透明基板と、少なくとも一つの対向電極を表面に有する基板とを、該透明電極と該対向電極が対向するように配置し、該電極間に少なくともエレクトロクロミック化合物を含有する電解質層を有する表示素子において、透明電極上に、多孔質層が非多孔質性の下引き層を介して設けられ、該下引き層が、多孔質層を形成する物質と同じ物質を少なくとも一部含有していることを特徴とする表示素子。
【0017】
2.該多孔質層に、エレクトロクロミック化合物が吸着されていることを特徴とする前記1に記載の表示素子。
【0018】
3.該多孔質層が、少なくとも1種の金属酸化物を含む半導体多孔質層であることを特徴とする前記1または2に記載の表示素子。
【0019】
4.前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素から選ばれることを特徴とする前記3に記載の表示素子。
【0020】
5.前記電界質層に、金属塩化合物を含み、電極間への駆動操作により、1)該エレクトロクロミック化合物の酸化及び還元反応による色変化、または2)該対向電極の少なくとも1方への該金属塩化合物が含有する金属元素の還元析出及び酸化溶解による色変化を用いて、黒表示、白表示及び黒以外の着色表示により3色以上の多色表示を行うことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の表示素子。
【0021】
6.前記金属塩化合物が、銀塩化合物であることを特徴とする前記5に記載の表示素子。
【発明の効果】
【0022】
素子自体の耐久性がよいばかりでなく、繰り返し駆動時の発色濃度の安定性、特に中間濃度の安定性に優れた表示素子を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、透明電極上に、下引き層を介して多孔質層を設け、該下引き層が、多孔質層を形成する物質と同じ物質を少なくとも一部含有していることを特徴とするエレクトロクロミック化合物を含有する表示素子により、下引き層及び多孔質層を、200℃以下の比較的低温での製造が可能であり、且つ繰り返し使用時の耐久性に優れる表示素子を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0025】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0026】
本発明の表示素子に用いられる各材料について以下に説明する。
【0027】
(基板)
本発明で用いることのできる基板としては、表示素子とするため少なくとも一方は透明電極を表面に有する透明基板が必要であり、もう一方は透明であっても不透明で有っても良く、対向電極を表面に有する基板が用いられる。
【0028】
透明電極を形成する透明基板としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート類、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンジナフタレンジカルボキシラート、ポリエチレンナフタレート類、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアセタール類、ポリスチレン等の合成プラスチックフィルムも好ましく使用できる。また、シンジオタクチック構造ポリスチレン類も好ましい。これらは、例えば、特開昭62−117708号、特開平1−46912号、同1−178505号の各公報に記載されている方法により得ることができる。その他に、ガラス基板や、ガラスを練りこんだエポキシ樹脂等を用いることができる。
【0029】
一方、対向電極を表面に有する基板としては、上記の透明基板に加えて、ステンレス等の金属製基板や、バライタ紙、及びレジンコート紙等の紙支持体ならびに上記プラスチックフィルムに反射層を設けた支持体、特開昭62−253195号(29〜31頁)に支持体として記載されたものが挙げられる。RDNo.17643の28頁、同No.18716の647頁右欄から648頁左欄及び同No.307105の879頁に記載されたものも好ましく使用できる。これらの支持体には、米国特許第4,141,735号のようにTg以下の熱処理を施すことで、巻き癖をつきにくくしたものを用いることができる。また、これらの支持体表面を支持体と他の構成層との接着の向上を目的に表面処理を行ってもよい。本発明では、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理を表面処理として用いることができる。さらに公知技術第5号(1991年3月22日アズテック有限会社発行)の44〜149頁に記載の支持体を用いることもできる。さらにRDNo.308119の1009頁やプロダクト・ライセシング・インデックス、第92巻P108の「Supports」の項に記載されているものが挙げられる。
【0030】
(透明電極)
透明電極としては、透明で電気を通じるものであれば特に制限はない。例えば、Indium Tin Oxide(ITO:インジウム錫酸化物)、Indium Zinc Oxide(IZO:インジウム亜鉛酸化物)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、白金、金、銀、ロジウム、銅、クロム、炭素、アルミニウム、シリコン、アモルファスシリコン、BSO(Bismuth Silicon Oxide)等が挙げられる。電極をこのように形成するには、例えば、基板上にITO膜をスパッタリング法等でマスク蒸着するか、ITO膜を全面形成した後、フォトリソグラフィ法でパターニングすればよい。表面抵抗値としては、100Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましい。透明電極の厚みは特に制限はないが、0.1〜20μmであるのが一般的である。
【0031】
(対向電極)
本発明に係る対向電極としては、金属電極または透明電極を用いることができる。金属電極としては、例えば、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマス、及びそれらの合金等の公知の金属種を用いることができる。電極の作製方法は、蒸着法、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、CVD法等の既存の方法を用いることができる。
【0032】
(多孔質層)
本発明の係る多孔質層は、内部に無数の微細な穴が空いている層であり、エレクトロクロミック化合物を吸着し、その電気化学反応を阻害しない層である。
【0033】
層の厚みとしては、必要な量のエレクトロクロミック化合物を吸着することができる厚みであることが必要だが、厚すぎると、透明性が損なわれ、コントラストや解像度の低下を招く。多孔質層の透明性の確保を考慮すると、多孔質層の厚みは、1〜5μmが好ましい。
【0034】
このような多孔質層は、種々の方法で形成することができるが、最も好ましいのは、エレクトロクロミック化合物を吸着できる微粒子を用いる方法である。
【0035】
好ましい微粒子は、半導体金属酸化物であり、層自体が固有の色を示さず、透明〜微白色であるものが、特に好ましい。このような半導体金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化スズ、それらのドープ物などを挙げることができる。
【0036】
エレクトロクロミック化合物の吸着性および、多孔質層自身の着色性から、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素が好適に用いられる。
【0037】
微粒子の平均一次粒子は5〜100nmが好ましく、より好ましくは20〜80nmである。微粒子の形状は、不定形、針状、球形等任意の形状のものが用いられる。
【0038】
このような微粒子を利用した多孔質層を得る一つの方法としては、焼結法が知られているが、微粒子同士を数百度という高温で溶着させるもので、微粒子同士および多孔質層を形成する基板に対する接着性は得られるものの、基板の選択性が狭い、生産ラインへの焼成工程の組み込みが難しい、などの問題があり、好ましくない。
【0039】
200℃以下の比較的低温で多孔質層を得る方法としては、ゾルゲル法、バインダー等の結着剤を利用した塗布法などが知られているが、これらの方法で形成した多孔質層は、透明電極への接着性が強くなく、電解質液の存在下で、エレクトロクロミック化合物の電気化学反応を繰り返した時に、電極から剥がれてしまうことにより、コントラストや解像度の低下、発色ムラを生じることになる。
【0040】
(下引き層)
多孔質層と透明電極との接着性を確保するために、本発明では、下記のような下引き層を、多孔質層と透明電極との間に設ける。
【0041】
本発明における下引き層は、非多孔質性であり、透明電極と多孔質層との間に設けられ、多孔質層を形成する物質を少なくとも一部含有する。
【0042】
下引き層には、透明電極に対する密着性とともに、表示素子の発色性能を阻害しないように透明性が求められる。この目的を達成するものであれば、厚みは特に限定されるものではない。
【0043】
そのような薄膜を形成するために適した薄膜形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法などが挙げられるが、生産性などの点では、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法が好適である。
【0044】
また、特開2003−306769号公報には、大気圧下で原料ガスにプラズマエネルギーを与えることで基板上に薄膜を形成する方法が開示されているが、このような方法も好適に用いることができる。
【0045】
(エレクトロクロミック化合物)
本発明の表示素子に用いられるエレクトロクロミック化合物(以下、EC化合物と略す)は、電気化学的な酸化還元によって、物質の光学吸収の性質(色や光透過度)が可逆的に変化する現象(エレクトクロミズム)を示す化合物であればいかなる化合物を用いても良い。具体的な化合物としては、「エレクトロクロミックディスプレイ」(平成3年6月28日刊、産業図書株式会社)pp27−124、「クロミック材料の開発」(2000年11月15日刊、株式会社シーエムシー)pp81−95等に記載の化合物を挙げることができる。
【0046】
(電解質層)
本発明の表示素子は、透明電極と対向電極との間に、電解質を含む電解質層を有する。
【0047】
「電解質」とは、一般に、溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質のことである。本発明では、このような電解質を溶媒中に溶解した電解質層以外に、溶融塩や、内部をイオンが移動する性質を有する固体状の電解質(固体電解質)も、電解質層として利用することが可能である。
【0048】
〔電解質材料〕
本発明の表示素子において、用いることができる電解質の例としては、以下の化合物が挙げられる。カリウム化合物としてKCl、KI、KBr等、リチウム化合物としてLiBF4、LiClO4、LiPF6、LiCF3SO3等、テトラアルキルアンモニウム化合物として過塩素酸テトラエチルアンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、ホウフッ化テトラブチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハライド等が挙げられる。また、特開2003−187881号公報の段落番号〔0062〕〜〔0081〕に記載の溶融塩電解質組成物も好ましく用いることができる。さらに、I-/I3-、Br-/Br3-、キノン/ハイドロキノン等の酸化還元対になる化合物を用いることができる。
【0049】
〔電解質添加の溶媒〕
本発明の表示素子においては、本発明の目的効果を損なわない範囲で溶媒を用いることができる。具体的には、テトラメチル尿素、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−(N−メチル)−2−ピロリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,Nジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ブチロニトリル、プロピオニトリル、アセトニトリル、アセチルアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール、無水酢酸、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、水等が挙げられる。これらの溶媒の内、凝固点が−20℃以下、かつ沸点が120℃以上の溶媒を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0050】
さらに本発明で用いることのできる溶媒としては、J.A.Riddick,W.B.Bunger,T.K.Sakano,“Organic Solvents”,4th ed.,John Wiley&Sons(1986)、Y.Marcus,“Ion Solvation”,John Wiley&Sons(1985)、C.Reichardt,“Solvents and Solvent Effects in Chemistry”,2nd ed.,VCH(1988)、G.J.Janz,R.P.T.Tomkins,“Nonaqueous Electorlytes Handbook”,Vol.1,Academic Press(1972)に記載の化合物を挙げることができる。
【0051】
〔電解質添加の増粘剤〕
本発明の表示素子においては、電解質に増粘剤を使用することができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレングリコール)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(ビニルアセテート)、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダーとして、ポリビニルブチラール、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。
【0052】
これらの増粘剤は2種以上を併用して用いてもよい。また、特開昭64−13546号公報の71〜75頁に記載の化合物を挙げることができる。これらの中で好ましく用いられる化合物は、各種添加剤との相溶性と白色粒子の分散安定性向上の観点から、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ヒドロキシプロピルセルロース類、ポリアルキレングリコール類である。
【0053】
〔その他の添加剤〕
本発明の表示素子の構成層には、白色散乱層、保護層、フィルター層、ハレーション防止層、クロスオーバー光カット層、バッキング層等の補助層を挙げることができ、これらの補助層中には、各種の添加剤、例えば、以下のリサーチディスクロージャーにおいて、化学増感剤、貴金属増感剤、感光色素、強色増感剤、カプラー、高沸点溶剤、カブリ防止剤、安定剤、現像抑制剤、漂白促進剤、定着促進剤、混色防止剤、ホルマリンスカベンジャー、色調剤、硬膜剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、スベリ剤、紫外線吸収剤、イラジエーション防止染料、フィルター光吸収染料、防ばい剤、ポリマーラテックス、重金属、帯電防止剤、マット剤等として挙げられている添加剤を、必要に応じて含有させることができる。
【0054】
上述したこれらの添加剤は、より詳しくは、リサーチディスクロージャー(以下、RDと略す)第176巻Item/17643(1978年12月)、同184巻Item/18431(1979年8月)、同187巻Item/18716(1979年11月)及び同308巻Item/308119(1989年12月)に記載されている。
【0055】
これら三つのリサーチ・ディスクロージャーに示されている化合物種類と記載箇所を以下に掲載した。
【0056】
添加剤 RD17643 RD18716 RD308119
頁 分類 頁 分類 頁 分類
化学増感剤 23 III 648右上 96 III
増感色素 23 IV 648〜649 996〜8 IV
減感色素 23 IV 998 IV
染料 25〜6 VIII 649〜650 1003 VIII
現像促進剤 29 XXI 648右上
カブリ抑制剤・安定剤
24 IV 649右上 1006〜7 VI
増白剤 24 V 998 V
硬膜剤 26 X 651左 1004〜5 X
界面活性剤 26〜7 XI 650右 1005〜6 XI
帯電防止剤 27 XII 650右 1006〜7 XIII
可塑剤 27 XII 650右 1006 XII
スベリ剤 27 XII
マット剤 28 XVI 650右 1008〜9 XVI
バインダー 26 XXII 1003〜4 IX
支持体 28 XVII 1009 XVII
〔金属塩化合物〕
本発明に係る金属塩化合物とは、対向電極上の少なくとも1方の電極上で、該対向電極の駆動操作で、酸化溶解・還元析出を行うことができる金属種を含む塩であれば、如何なる化合物であってもよい。好ましい金属種は、銀、ビスマス、銅、ニッケル、鉄、クロム、亜鉛等であり、特に好ましいのは銀、ビスマスである。
【0057】
〔銀塩化合物〕
本発明に係る金属塩化合物として好ましく用いられる銀塩化合物としては、銀または、銀を化学構造中に含む化合物、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称であり、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0058】
(白色散乱物)
本発明においては、表示コントラスト及び白表示反射率をより高める観点から、白色散乱物を含有することが好ましく、多孔質白色散乱層を形成させて存在させてもよい。
【0059】
本発明に適用可能な多孔質白色散乱層は、電解質溶媒に実質的に溶解しない水系高分子と白色顔料との水混和物を塗布乾燥して形成することができる。
【0060】
本発明で適用可能な白色顔料としては、例えば、二酸化チタン(アナターゼ型あるいはルチル型)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、アルカリ土類金属塩、タルク、カオリン、ゼオライト、酸性白土、ガラス、有機化合物としてポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、ポリアミド樹脂などが単体または複合混合で、または粒子中に屈折率を変化させるボイドを有する状態で使用されてもよい。
【0061】
本発明では、上記白色粒子の中でも、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛が好ましく用いられる。また、無機酸化物(Al23、AlO(OH)、SiO2等)で表面処理した二酸化チタン、これらの表面処理に加えて、トリメチロールエタン、トリエタノールアミン酢酸塩、トリメチルシクロシラン等の有機物処理を施した二酸化チタンを用いることができる。
【0062】
これらの白色粒子のうち、高温時の着色防止、屈折率に起因する素子の反射率の観点から、酸化チタンまたは酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
【0063】
酸化チタンとしては、最近、星型のものも提案されている。このような酸化チタン粒子はその形状から、入射角の均質な散乱が起こり、白色散乱効果が増加するという効果がある。このような酸化チタンを使うことも可能である。
【0064】
本発明において、電解質溶媒に実質的に溶解しない水系高分子としては、水溶性高分子、水系溶媒に分散した高分子を挙げることができる。
【0065】
水溶性化合物としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体等の蛋白質またはセルロース誘導体、澱粉、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、カラギーナン等の多糖類のような天然化合物や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド重合体やそれらの誘導体等の合成高分子化合物が挙げられる。ゼラチン誘導体としては、アセチル化ゼラチン、フタル化ゼラチン、ポリビニルアルコール誘導体としては、末端アルキル基変性ポリビニルアルコール、末端メルカプト基変性ポリビニルアルコール、セルロース誘導体としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。更に、リサーチ・ディスクロージャー及び特開昭64−13546号の(71)頁〜(75)頁に記載されたもの、また、米国特許第4,960,681号、特開昭62−245260号等に記載の高吸水性ポリマー、すなわち−COOMまたは−SO3M(Mは水素原子またはアルカリ金属)を有するビニルモノマーの単独重合体またはこのビニルモノマー同士もしくは他のビニルモノマー(例えば、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸アンモニウム、アクリル酸カリウム等)との共重合体も使用される。これらのバインダーは2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0066】
本発明においては、ゼラチン及びゼラチン誘導体、または、ポリビニルアルコールもしくはその誘導体を好ましく用いることができる。
【0067】
水系溶媒に分散した高分子としては、天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム等のラテックス類、ポリイソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、シリコーン系、ポリウレタン系、尿素系、フェノール系、ホルムアルデヒド系、エポキシ−ポリアミド系、メラミン系、アルキド系樹脂、ビニル系樹脂等を水系溶媒に分散した熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらの高分子のうち、特開平10−76621号に記載の水系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0068】
本発明でいう電解質溶媒に実質的に溶解しないとは、−20℃から120℃の温度において、電解質溶媒1kgあたりの溶解量が0g以上、10g以下である状態と定義し、質量測定法、液体クロマトグラムやガスクロマトグラムによる成分定量法等の公知の方法により溶解量を求めることができる。
【0069】
本発明において、水系化合物と白色顔料との水混和物は、公知の分散方法に従って白色顔料が水中分散された形態が好ましい。水系化合物/白色顔料の混合比は、容積比で1〜0.01が好ましく、より好ましくは、0.3〜0.05の範囲である。
【0070】
本発明において、水系化合物と白色顔料との水混和物を塗布する媒体は、表示素子の対向電極間の構成要素上であればいずれの位置でもよいが、対向電極の少なくとも1方の電極面上に付与することが好ましい。媒体への付与の方法としては、例えば、塗布方式、液噴霧方式、気相を介する噴霧方式として、圧電素子の振動を利用して液滴を飛翔させる方式、例えば、ピエゾ方式のインクジェットヘッドや、突沸を利用したサーマルヘッドを用いて液滴を飛翔させるバブルジェット(登録商標)方式のインクジェットヘッド、また空気圧や液圧により液を噴霧するスプレー方式等が挙げられる。
【0071】
塗布方式としては、公知の塗布方式より適宜選択することができ、例えば、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースローラーコーター、トランスファーローラーコーター、カーテンコーター、ダブルローラーコーター、スライドホッパーコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ビードコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カレンダーコーター、押し出しコーター等が挙げられる。
【0072】
媒体上に付与した水系化合物と白色顔料との水混和物の乾燥は、水を蒸発できる方法であればいかなる方法であってもよい。例えば、熱源からの加熱、赤外光を用いた加熱法、電磁誘導による加熱法等が挙げられる。また、水蒸発は減圧下で行ってもよい。
【0073】
本発明でいう多孔質とは、前記水系化合物と白色顔料との水混和物を電極上に塗布乾燥して多孔質の白色散乱物を形成した後、該散乱物上に、銀または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質液を与えた後に対向電極で挟み込み、対向電極間に電位差を与え、銀の溶解析出反応を生じさせることが可能で、イオン種が電極間で移動可能な貫通状態のことを言う。
【0074】
本発明の表示素子では、上記説明した水混和物を塗布乾燥中または乾燥後に、硬化剤により水系化合物の硬化反応を行うことが望ましい。
【0075】
本発明で用いられる硬膜剤の例としては、例えば、米国特許第4,678,739号の第41欄、同第4,791,042号、特開昭59−116655号、同62−245261号、同61−18942号、同61−249054号、同61−245153号、特開平4−218044号等に記載の硬膜剤が挙げられる。より具体的には、アルデヒド系硬膜剤(ホルムアルデヒド等)、アジリジン系硬膜剤、エポキシ系硬膜剤、ビニルスルホン系硬膜剤(N,N′−エチレン−ビス(ビニルスルホニルアセタミド)エタン等)、N−メチロール系硬膜剤(ジメチロール尿素等)、ほう酸、メタほう酸あるいは高分子硬膜剤(特開昭62−234157号等に記載の化合物)が挙げられる。水系化合物としてゼラチンを用いる場合は、硬膜剤の中で、ビニルスルホン型硬膜剤やクロロトリアジン型硬膜剤を単独または併用して使用することが好ましい。また、ポリビニルアルコールを用いる場合はホウ酸やメタホウ酸等の含ホウ素化合物の使用が好ましい。
【0076】
これらの硬膜剤は、水系化合物1g当たり0.001〜1g、好ましくは0.005〜0.5gが用いられる。また、膜強度を上げるため熱処理や、硬化反応時の湿度調整を行うことも可能である。
【0077】
〔表示素子のその他の構成要素〕
本発明の表示素子には、必要に応じて、シール剤、柱状構造物、スペーサー粒子を用いることができる。
【0078】
シール剤は外に漏れないように封入するためのものであり封止剤とも呼ばれ、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エン−チオール系樹脂、シリコーン系樹脂、変性ポリマー樹脂等の、熱硬化型、光硬化型、湿気硬化型、嫌気硬化型等の硬化タイプを用いることができる。
【0079】
柱状構造物は、基板間の強い自己保持性(強度)を付与し、例えば、格子配列等の所定のパターンに一定の間隔で配列された、円柱状体、四角柱状体、楕円柱状体、台形柱状体等の柱状構造物を挙げることができる。また、所定間隔で配置されたストライプ状のものでもよい。この柱状構造物はランダムな配列ではなく、等間隔な配列、間隔が徐々に変化する配列、所定の配置パターンが一定の周期で繰り返される配列等、基板の間隔を適切に保持でき、かつ、画像表示を妨げないように考慮された配列であることが好ましい。柱状構造物は表示素子の表示領域に占める面積の割合が1〜40%であれば、表示素子として実用上十分な強度が得られる。
【0080】
一対の基板間には、該基板間のギャップを均一に保持するためのスペーサーが設けられていてもよい。このスペーサーとしては、樹脂製または無機酸化物製の球体を例示できる。また、表面に熱可塑性の樹脂がコーティングしてある固着スペーサーも好適に用いられる。基板間のギャップを均一に保持するために柱状構造物のみを設けてもよいが、スペーサー及び柱状構造物をいずれも設けてもよいし、柱状構造物に代えて、スペーサーのみをスペース保持部材として使用してもよい。スペーサーの直径は柱状構造物を形成する場合はその高さ以下、好ましくは当該高さに等しい。柱状構造物を形成しない場合はスペーサーの直径がセルギャップの厚みに相当する。
【0081】
〔スクリーン印刷〕
本発明においては、シール剤、柱状構造物、電極パターン等をスクリーン印刷法で形成することもできる。スクリーン印刷法は、所定のパターンが形成されたスクリーンを基板の電極面上に被せ、スクリーン上に印刷材料(柱状構造物形成のための組成物、例えば、光硬化性樹脂等)を載せる。そして、スキージを所定の圧力、角度、速度で移動させる。これによって、印刷材料がスクリーンのパターンを介して該基板上に転写される。次に、転写された材料を加熱硬化、乾燥させる。スクリーン印刷法で柱状構造物を形成する場合、樹脂材料は光硬化性樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂も使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリエーテル樹脂等が挙げられる。樹脂材料は樹脂を適当な溶剤に溶解する等してペースト状にして用いることが望ましい。
【0082】
以上のようにして柱状構造物等を基板上に形成した後は、所望によりスペーサーを少なくとも一方の基板上に付与し、一対の基板を電極形成面を対向させて重ね合わせ、空セルを形成する。重ね合わせた一対の基板を両側から加圧しながら加熱することにより、貼り合わせて、表示セルが得られる。表示素子とするには、基板間に電解質組成物を真空注入法等によって注入すればよい。あるいは、基板を貼り合わせる際に、一方の基板に電解質組成物を滴下しておき、基板の貼り合わせと同時に液晶組成物を封入するようにしてもよい。
【0083】
〔フルカラー表示素子の構成〕
本発明の表示素子を用いてフルカラー表示を行う場合は、
1.イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー、ブラック等に異なる色調に発色−消色するエレクトロクロミック表示素子を積層する方法、
2.異なる色調に発色−消色するエレクトロクロミック化合物を吸着させた多孔質部を平面上にパターン化する方法、
3.異なる色調に発色−消色するエレクトロクロミック化合物を1対の対向電極間の多孔質層に複数種吸着させる方法等が挙げられる。
【0084】
3の場合は、エレクトロクロミック化合物に閾値を持たせる必要があり、閾値を持たせる方法としては、発色または消色方向の電圧または電荷量、あるいは、発色または消色方向への電圧ヒステリシスを色素毎に変更する方法が挙げられる。
【0085】
〔表示素子駆動方法〕
本発明に係るアクティブマトリックス駆動は、走査線、データライン、電流供給ラインが碁盤目状に形成され、各碁盤目に設けられたTFT回路により駆動させる方式である。画素毎にスイッチングが行えるので、階調やメモリー機能等のメリットがあり、例えば、特開2004−29327号の図5に記載されている回路や、「エレクトロクロミックディスプレイ」(1991 産業図書株式会社刊)の77〜102ページに記載の方法を用いることができる。
【0086】
〔商品適用〕
本発明の表示素子は、電子書籍分野、IDカード関連分野、公共関連分野、交通関連分野、放送関連分野、決済関連分野、流通物流関連分野等の用いることができる。具体的には、ドア用のキー、学生証、社員証、各種会員カード、コンビニストアー用カード、デパート用カード、自動販売機用カード、ガソリンステーション用カード、地下鉄や鉄道用のカード、バスカード、キャッシュカード、クレジットカード、ハイウェイカード、運転免許証、病院の診察カード、電子カルテ、健康保険証、住民基本台帳、パスポート、電子ブック等が挙げられる。
【実施例】
【0087】
実施例1
(電極1の作製)
厚さ1.5mmで2cm×4cmのガラス基板上に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)膜を公知の方法に従って形成して、透明電極である電極1を得た。
【0088】
(電極2の作製)
厚さ50μmのポリイミドフィルムに、ITO膜を公知の方法に従って形成して、透明電極である電極2を得た。
【0089】
(電極3の作製)
厚さ1.5mmで2cm×4cmのガラス基板上に、FTO(フッ素ドープした酸化物)膜を公知の方法に従って形成して、透明電極である電極3を得た。
【0090】
(多孔質層1の作製)
ポリビニルアルコール(平均分子量30000)を2質量%含む水溶液中に、平均粒径25nmの酸化チタン20質量%を添加し、超音波分散機で分散し、酸化チタン分散液1を得た。
【0091】
この分散液1を、電極1上に、乾燥膜厚5μmとなるように塗布し、120℃で30分間乾燥し、多孔質層1を得た。
【0092】
(多孔質層2の作製)
電極1上に、下記条件で、酸化チタンを含む下引き層を設けた。
【0093】
スパッタリング方式:RFマグネトロンスパッタ(デポアップ)
二酸化チタンターゲット径:φ2inch(1inchは2.54cmである。)
基板−ターゲット距離:40mm
背圧:1.5×10-3Pa
スパッタ圧:1.3Pa Ar/O2=9/1
出力:150W
得られた下引き層の厚みは、約30nmであった。
【0094】
この下引き層の上に、酸化チタン分散液1を、乾燥膜厚5μmとなるように塗布し、120℃で30分間乾燥し、多孔質層2を得た。
【0095】
(多孔質層3の作製)
下引き層の厚みを70nmとした他は、多孔質層2と同様にして、膜厚5μmの多孔質層3を作製した。
【0096】
(多孔質層4の作製)
下引き層の厚みを120nmとした他は、多孔質層2と同様にして、膜厚5μmの多孔質層4を作製した。
【0097】
(多孔質層5の作製)
ターゲットを二酸化スズターゲットに変え、多孔質層2と同様にして、膜厚40nmの下引き層を得、この下引き層の上に、酸化チタン分散液1の酸化チタンを酸化スズ(平均粒径20nm)に変更した酸化スズ分散液を塗布し、同様に乾燥して膜厚6μmの多孔質層5を得た。
【0098】
(多孔質層6の作製)
特開2007−113043号公報にならい、以下の条件で、下引き層を形成した。
【0099】
〈混合ガス組成〉
放電ガス:窒素ガス 94.99体積%
薄膜形成性ガス:テトラエトキシシラン 0.01体積%
添加ガス:酸素ガス 5.0体積%
〈成膜条件〉
第1電極側 電源種類:A5
周波数 :100kHz
出力密度:10W/cm2
電極温度:120℃
第2電極側 電源種類:B3
周波数 :13.56MHz
出力密度:10W/cm2
電極温度:90℃
得られた酸化ケイ素を含む下引き層の厚みは、45nmであった。
【0100】
分散液1の酸化チタンを二酸化ケイ素(平均粒径15nm)に代えた他は多孔質層2と同様にして、膜厚5μmの多孔質層6を作製した。
【0101】
(多孔質層7の作製)
電極1の代わりに、電極3を用いた他は、多孔質層2と同様にして、多孔質層7を作製した。
【0102】
(多孔質層8の作製)
電極1の代わりに、電極2を用いた他は、多孔質層2と同様にして、多孔質層8を作製した。
【0103】
(多孔質層9の作製)
多孔質層6と同様にして作製した下引き層の上に、分散液1を用いて多孔質層1と同様にして多孔質層9を作製した。
【0104】
(エレクトロクロミック化合物EC−1の合成)
公開特許公報2006−309216号に記載のスキーム1に従って合成して得た化合物VIIIをEC−1とした。
【0105】
【化1】

【0106】
(エレクトロクロミック化合物の吸着)
EC−1の10ミリモル/Lエタノール溶液を作製し、これに多孔質層1〜9をそれぞれ4時間浸漬し、その後エタノールを蒸発させて、EC−1を多孔質層に吸着させた。
【0107】
(電解質液1の調製)
プロピレンカーボネート中に、フェロセンを40ミリモルを加え、電解質液1を調製した。
【0108】
(電解質液2の調製)
ジメチルスルホキシド中に、塩化ビスマス4質量%、ヨウ化ナトリウム6質量%、ポリエチレングリコール(平均分子量50万)2質量%、下記化合物A−1の4質量%を溶解させて、電解液2を得た。
【0109】
【化2】

【0110】
(電解質液3の調製)
電解質液2の塩化ビスマスをヨウ化銀に変えた以外は同様にして、電解質液3を得た。
【0111】
(電解質液4の調製)
γ−ブチロラクトンに、平均重合度1000のブチラール樹脂20質量%を加え、ブチラール樹脂を加熱溶解し、更に過塩素酸リチウムとSiO2で表面処理した二酸化チタンを50質量%添加して、超音波分散機で分散して電解質液4を調製した。電解質液4は25℃における粘度が約750mPa・sであり、ゲル状である。
【0112】
(対向電極1の作製)
厚さ1.5mmで2cm×4cmのガラス基板上に、公知の方法を用いて、電極厚み0.8μmの銀−パラジウム電極を形成し、対向電極1を作製した。
【0113】
(対向電極2の作製)
厚さ50μmのポリイミドフィルム上に、公知の方法を用いて、電極厚み0.8μmの銀−パラジウム電極を形成し、対向電極2を作製した。
【0114】
(対向電極3の作製)
厚さ1.5mmで2cm×4cmのガラス基板上に、公知の方法を用いて、電極厚み0.1μmのニッケル電極を形成し、得られた電極をさらに置換金メッキ浴に浸漬し、電極表面から深さ0.05μmが金で置換された金−ニッケル電極(対向電極3)を得た。
【0115】
(白色散乱層1〜3の作製)
ゼラチンを2質量%含む水溶液中に、酸化チタン(平均粒径32nm)を20質量%相当加え、超音波分散機で分散させた白色散乱層塗布液を、対向電極1〜3上にそれぞれワイヤーバーで膜厚約100μmとなるように塗布し、その後、15℃で30分間、45℃で1時間乾燥させて、白色散乱層1〜3を作製した。
【0116】
(表示素子1の作製)
白色散乱層1の周辺部を、平均粒子径40μmのガラス製球形ビーズを体積分率10%含むオレフィン系封止剤で縁取りし、内部を電解質液1で充填して、この上にEC−1を吸着させた多孔質層1が内側になるようにかぶせて加熱押圧して、表示素子1を作製した。
【0117】
(表示素子2〜7の作製)
表示素子1のEC−1を吸着させた多孔質層1を、それぞれEC−1を吸着させた多孔質層2〜7に代えた他は、表示素子1と同様にして、表示素子2〜7を作製した。
【0118】
(表示素子8の作製)
白色散乱層2の周辺部を、平均粒子径40μmのガラス製球形ビーズを体積分率10%含むオレフィン系封止剤で縁取りし、内部を電解質液1で充填して、この上にEC−1を吸着させた多孔質層8が内側になるようにかぶせて加熱押圧して、表示素子8を作製した。
【0119】
(表示素子9の作製)
白色散乱層2を白色散乱層3に、電解質液1を電解質液2に変更した他は表示素子2と同様にして、表示素子9を作製した。
【0120】
(表示素子10の作製)
電解質液2を電解質液3に変更した他は、表示素子9と同様にして、表示素子10を作製した。
【0121】
(表示素子11の作製)
多孔質層2を多孔質層1に変更した他は表示素子10と同様にして、表示素子11を作製した。
【0122】
(表示素子12の作製)
多孔質層9を用いて、表示素子2と同様にして、表示素子12を作製した。
【0123】
(表示素子の評価)
表示素子1〜12について、下記の方法で繰り返し駆動の安定性を評価した。
【0124】
定電圧電源の両端子に各表示素子の両電極を接続し、1.2Vの電圧を0.5秒間印加し、着色状態でのλmaxの反射率をコニカミノルタセンシング社製の分光測色計CM−3700dで測定し、初期反射率Rmax0とした。
【0125】
着色した素子に、−1.2Vの電圧を0.5秒印加して、消色状態での反射率Rmin0を測定した。
【0126】
1.2V0.5秒間の印加と−1.2V0.5秒間の印加を1秒間隔で繰り返し、5000回での着色状態での反射率Rmax5000と、消色状態での反射率Rmin5000を測定した。
【0127】
5000回後のコントラストとして、Rmax5000とRmin5000の比=Rmax5000/Rmin5000を算出した。
【0128】
5,000回駆動後に、+1.2Vを印加した状態での表示素子のムラを目視で評価した。表示ムラのレベルを7段階で評価し、良好な方から、ムラなし(7)、僅かにムラあり(6)、ムラややあり(5)、ムラあり(4)、ムラ中(3)、ムラ劣(2)、ムラ劣悪(1)とし、繰り返し安定性の指標とした。実用的な観点からは、最低でも、(3)のレベルにあることが望ましい。
【0129】
結果を表1に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
表示素子9と10については、無印加状態と−1.5V、+1.5Vを印加した状態での表示素子の色を目視観察したところ、いずれの表示素子も、無色、着色、黒発色の状態を呈した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの透明電極を表面に有する透明基板と、少なくとも一つの対向電極を表面に有する基板とを、該透明電極と該対向電極が対向するように配置し、該電極間に少なくともエレクトロクロミック化合物を含有する電解質層を有する表示素子において、透明電極上に、多孔質層が非多孔質性の下引き層を介して設けられ、該下引き層が、多孔質層を形成する物質と同じ物質を少なくとも一部含有していることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
該多孔質層に、エレクトロクロミック化合物が吸着されていることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
該多孔質層が、少なくとも1種の金属酸化物を含む半導体多孔質層であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の表示素子。
【請求項5】
前記電界質層に、金属塩化合物を含み、電極間への駆動操作により、1)該エレクトロクロミック化合物の酸化及び還元反応による色変化、または2)該対向電極の少なくとも1方への該金属塩化合物が含有する金属元素の還元析出及び酸化溶解による色変化を用いて、黒表示、白表示及び黒以外の着色表示により3色以上の多色表示を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項6】
前記金属塩化合物が、銀塩化合物であることを特徴とする請求項5に記載の表示素子。

【公開番号】特開2009−42619(P2009−42619A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209210(P2007−209210)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】