説明

表示装置、および表示装置の製造方法

【課題】陰極の劣化の度合いが低く、且つ小型で軽量な表示装置、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表示装置1は、薄膜状の有機EL素子20と、有機EL素子20の一方の面側に設けられる二次電池層10とを備える。二次電池層10は、電解質層13と陰極活物質層11とを備える。陰極活物質層11は、電解質層13における有機EL素子20側の反対面側に設けられ、電解質層13に電子を放出する。有機EL素子20は、発光層21と透明陰極層22とを備える。さらに、表示装置1は、電解質層13における陰極活物質層11側の反対面側と、発光層21における透明陰極層22側の反対面側との間に、共通陽極層30を備える。共通陽極層30は、電解質層13から電子を取り込み、且つ発光層21に電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子と二次電池とを備えた表示装置、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄膜状(シート状)の有機EL素子に電力を供給するための様々な技術が知られている。例えば、有機EL素子の一方の面側に、二次電池である薄膜電池を配置する方法がある。有機EL素子と薄膜電池とを重ね合わせるように配置することで、表示装置の厚みは薄くなる。さらに、特許文献1は、有機EL素子の陰極と薄膜電池の陰極とを兼ねる共用陰極を備えた表示装置を開示している。共用陰極が有機EL素子の陰極と薄膜電池の陰極とを兼ねるため、表示装置はさらに小型化且つ軽量化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−149880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機EL素子の陰極には仕事関数の低い物質を用いる必要があるため、陰極は不安定となる。特許文献1が開示している表示装置を製造する場合、不安定な陰極を先に形成することになるため、有機EL素子を形成する過程で陰極が劣化する。従って、陰極の劣化の度合いが低く、且つ有機EL素子の電極と薄膜電池の電極とが共用化された表示装置を製造することは、従来は困難であった。
【0005】
本発明は、陰極の劣化の度合いが低く、且つ小型で軽量な表示装置、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様に係る表示装置は、薄膜状の有機EL素子と、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備えた表示装置であって、前記二次電池層は、電界質層と、前記電解質層における前記有機EL素子側の反対面側に設けられ、前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層とを備え、前記有機EL素子は、電圧が印加されることによって発光する発光層と、前記発光層における前記二次電池層側の反対面側に設けられ、前記発光層に電圧を印加する透明陰極層とを備え、前記表示装置は、前記二次電池層の前記電解質層における前記陰極活物質層側の反対面側と、前記有機EL素子の前記発光層における前記透明陰極層側の反対面側との間に設けられ、前記電解質層から電子を取り込み、且つ前記透明陰極層と共に前記発光層に電圧を印加する共通陽極層を備えている。
【0007】
第一の態様に係る表示装置では、二次電池層と有機EL素子との境界部分に位置する共通陽極層は、二次電池における陽極活物質層としての機能と、有機EL素子の陽極としての機能とを兼ねる。よって、表示装置の小型化、軽量化を容易に行うことができる。さらに、仕事関数が低く不安定な有機EL素子の透明陰極層が、有機EL素子と二次電池層とを含む複数の層のうち、最も端に位置する。従って、不安定な透明陰極層を最後に形成することができる。よって、第一の実施形態に係る表示装置は、小型且つ軽量とすることができ、さらに、透明陰極層の劣化の度合いが低い。
【0008】
前記電解質層は、固体電解質の層であることが望ましい。有機EL素子の発光層は水に弱い。電解質層を固体とすることで、電解質層から発光層に水が染み出して発光層が劣化することを防止することができる。
【0009】
前記共通陽極層は、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含むことが望ましい。ペロブスカイト型の構造を有する物質は、結晶格子内に多くのイオンを取り込み保持することができる。従って、二次電池層は効率よく電力を蓄電することができる。
【0010】
前記共通陽極層は、透明酸化膜であってもよい。導電性が良い透明酸化膜を共通陽極層に用いることで、ホール注入が起こりやすくなるため、表示装置は低駆動電圧で動作することができる。また、発生するジュール熱が減少するため、ジュール熱による劣化の速度が低下する。従って、共通陽極層に透明酸化膜を用いることで、表示装置の発光効率および耐久性を向上させることができる。
【0011】
前記共通陽極層は、前記電解質層における前記有機EL素子側の面に設けられ、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含む陽極活物質層と、前記発光層における前記二次電池層側の面に設けられた透明酸化膜とを備えてもよい。この場合、二次電池は、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含む陽極活物質層によって、効率よく電力を蓄電することができる。さらに、有機EL素子の発光効率および耐久性は、導電性が良い透明酸化膜を用いることで向上する。よって、蓄電効率、発光効率、および耐久性の高い表示装置とすることができる。
【0012】
本発明の第二の態様に係る表示装置の製造方法は、電圧が印加されることによって発光する発光層を有する薄膜状の有機EL素子と、電解質層を有し、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備える表示装置の製造方法であって、前記電解質層と、前記電解質層の一方の面側に設けられて前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層とを形成する第一工程と、前記第一工程において形成される前記電解質層の前記陰極活物質層側の反対面側に、前記電解質層から電子を取り込む陽極活物質層を形成する第二工程と、前記発光層、および、前記発光層の一方の面側に設けられて前記発光層に電圧を印加する陽極層を形成する第三工程と、前記第三工程において形成される前記発光層の前記陽極層側の反対面側に、前記陽極層と共に前記発光層に電圧を印加する透明陰極層を形成する第四工程と、前記第二工程において形成された前記陽極活物質層と、前記第三工程において形成された前記陽極層とを貼り合わせる貼り合わせ工程とを備えている。
【0013】
第二の態様に係る表示装置の製造方法によると、二次電池層の陽極活物質層と、有機EL素子の陽極層とが貼り合わされる。その結果、二次電池層の陽極と有機EL素子の陽極とが共用化されるため、小型且つ軽量の表示装置を製造することができる。さらに、複数の層のうち、仕事関数が低く不安定な有機EL素子の透明陰極層を最後に形成してから、貼り合わせ工程を経て表示装置を完成させることができる。従って、小型且つ軽量の表示装置を、製造工程における透明陽極の劣化を防止しつつ製造することができる。
【0014】
本発明の第三の態様に係る表示装置の製造方法は、電圧が印加されることによって発光する発光層を有する薄膜状の有機EL素子と、電解質層を有し、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備えた表示装置の製造方法であって、前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層を形成する陰極活物質層形成工程と、前記陰極活物質層形成工程において形成された前記陰極活物質層の一方の面側に前記電解質層を形成する電解質層形成工程と、前記電解質層形成工程において形成された前記電解質層の表面側に、前記電解質層から電子を取り込むと共に前記発光層に電圧を印加する共通陽極層を形成する共通陽極層形成工程と、前記共通陽極層形成工程において形成された前記共通陽極層の表面側に前記発光層を形成する発光層形成工程と、前記発光層形成工程において形成された前記発光層の表面側に、前記共通陽極層と共に前記発光層に電圧を印加する透明陰極層を形成する透明陰極層形成工程とを備えている。
【0015】
第三の態様に係る表示装置の製造方法によると、仕事関数が低く不安定な有機EL素子の透明陰極層を、複数の層を形成する工程における最後の工程で形成することができる。従って、途中の工程で透明陰極層を形成する場合に比べ、透明陰極層の劣化の度合いは低くなる。従って、二次電池層の陽極と有機EL素子の陽極とが共用化された小型且つ軽量の表示装置を、透明陰極層を大幅に劣化させることなく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】表示装置1における二次電池層10、有機EL素子20、および共通陽極層30の積層構造を示す斜視図である。
【図2】表示装置1の電気的構成を説明するための説明図である。
【図3】表示装置1の第一製造工程を示すフローチャートである。
【図4】第一製造工程における第一ユニット形成工程(S1)を示すフローチャートである。
【図5】第一ユニット形成工程の陰極活物質形成工程(S11)から陽極集電体形成工程(S14)によって形成される単位電池層15を示す断面図である。
【図6】第一製造工程の第一ユニット形成工程(S1)によって形成される第一ユニット100、および第二ユニット形成工程(S2)によって形成される第二ユニット200を示す断面図である。
【図7】第一製造工程における第二ユニット形成工程(S2)を示すフローチャートである。
【図8】第一製造工程の貼り合わせ工程(S3)を示す断面図である。
【図9】貼り合わせ工程(S3)が終了した状態を示す断面図である。
【図10】第二製造工程によって製造される表示装置1の一部の断面図である。
【図11】表示装置1の第二製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具現化した第一の実施形態について、図面を参照して説明する。参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている製造工程、表示装置1の構造等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0018】
図1および図2を参照して、表示装置1について説明する。図1に示すように、表示装置1は、二次電池層10と有機EL素子20とを備える。二次電池層10は、電力を蓄電する薄膜電池であり、蓄電した電力を有機EL素子20に供給する。有機EL素子20は、電力が供給されることによって発光することができる薄膜状の発光素子である。さらに、表示装置1は、二次電池層10の一方の面と、有機EL素子20の一方の面との間に、共通陽極層30を備える。二次電池層10、共通陽極層30、および有機EL素子20を層状に重ね合わせることで、表示装置1を薄型化且つ軽量化することができる。
【0019】
二次電池層10について説明する。二次電池層10は、有機EL素子20から離間している方(図1における左方)から順に、基板5、陰極活物質層11、および電解質層13を備える。陰極活物質層11には、電極端子12が接続されている。
【0020】
基板5は、表示装置1を支持し、且つ内部を保護する。陰極活物質層11は、電解質層13に電子を放出する。陰極活物質層11を形成するための物質には、Li(リチウム)、Li−Al合金、酸化チタン、コバルト酸リチウム(LiCoO)、スピネル型マンガン酸リチウム、硫化物の高分子、ポリアセチレン、黒鉛(LiC)、チタネイト(LiTi12)、Si(Li4.4Si)、Ge(Li4.4Ge)等を用いることができる。
【0021】
電解質層13は、外部から加えられた電場によってイオンを移動させることができる層であり、二次電池層10における発電材料として機能する。電解質層13には液体電解質を用いることも可能ではあるが、PEO(ポリエチレンオキサイド)等の固体電解質を用いることが望ましい。固体電解質を用いることで、後述する有機EL素子20の発光層21に水が染み出す可能性を低下させることができる。その結果、水に弱い性質を有する発光層21の劣化を防止することができる。
【0022】
有機EL素子20について説明する。有機EL素子20は、二次電池層10に近い方(図1における左側)から順に、インターレイヤー層24、発光層21、および透明陰極層22を備える。透明陰極層22には、電極端子23が接続されている。
【0023】
発光層21は、電圧が印加されることで発光する。発光層21を形成するための発光材料として、例えば、ポリフルオレン(PF)系発光材料、ポリフェニレンビニレン(PPV)系発光材料、ポリビニルカルバゾール(PVK)系発光材料、ポリフェニレンエチニレン(PPE)系発光材料、ポリフェニレン(PP)系発光材料、ポリパラフェニレン(PPP)発光材料、ポリシラン系発光材料等のうち、1種または2種以上を用いることができる。
【0024】
透明陰極層22は、発光層21が発した光を外部(図1における右方)に透過させるために透明な物質によって形成されており、発光層21に電圧を印加する。透明陰極層22には、例えば、カルシューム層に銀(Ag)または金(Au)の層を積層したものを用いることができる。
【0025】
インターレイヤー層24は、発光層21が含有する発光材料よりもLUMOレベルの高いポリマーで構成すればよい。具体的には、発光層21に用いている芳香族アミン材料を含む共重合体等を使用することができる。インターレイヤー層24を設けることで、二次電池層10から有機EL素子20への金属イオンの侵入を防ぐことができる。従って、表示装置1の耐久性を向上させるために、インターレイヤー層24を設けることが望ましい。
【0026】
共通陽極層30について説明する。共通陽極層30は、二次電池層10の電解質層13から電子を取り込み、且つ、透明陰極層22との間に設けられた発光層21に電圧を印加する。つまり、表示装置1は、共通陽極層30と二次電池層10とによって二次電池としての機能を発揮し、且つ、共通陽極層30と有機EL素子20とによって発光素子としての機能を発揮する。二次電池の陽極と発光素子の陽極とを共通陽極層30が兼ねるため、表示装置1は小型化且つ軽量化される。
【0027】
共通陽極層30は、二次電池層10に近い方(図1における左側)から順に、陽極活物質層31、陽極集電体32、および透明酸化膜34を備える。陽極集電体32には、電極端子33が接続されている。
【0028】
陽極活物質層31は、電解質層13から電子を取り込む。陽極活物質層31を形成するための物質として、例えば、Li、Li−Al合金、黒鉛(LiC)、酸化バナジウム(V6O13、V2O5)のほか、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFePO、LiFePOF、LiCo1/3Ni1/3Mn1/32、Li(LiNiMnCo)O等のマンガン、ニッケル、リン酸鉄Li塩を用いることができる。
【0029】
特に、陽極活物質層31には、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を用いることが望ましい。陽極活物質層31は、イオンが移動できる経路(パス)を持ち、且つイオンをインターカレート/デインターカレートした際にも構造が保たれることが必要である。さらに、陽極活物質層31は、電子伝導体であること、電極表面での反応が速いこと、反応生成物が速やかに電極から遠ざかること、電解質とは反応しないこと、等の特性を満足する必要がある。ペロブスカイト構造を有する複合酸化物は、上記条件を満たす。ペロブスカイト構造を有する複合酸化物として、例えば、酸化バナジウム(V6O13、V2O5)、LiCoO、LiMn等が知られている。また、陽極集電体32には、Ni(ニッケル)の金属箔等を用いることができる。
【0030】
透明酸化膜34には、ITO(indium tin oxide)、IZO(indium zinc oxide)等を用いることができる。透明酸化膜34を用いることで、有機EL素子20の発光層21にホール注入が起こりやすくなるため、表示装置1は低駆動電圧で動作することができる。また、発生するジュール熱が減少するため、ジュール熱による劣化の速度が低下する。従って、表示装置1の発光効率および耐久性を向上させることができる。なお、透明酸化膜34を用いることが望ましいが、透明酸化膜の代わりとしてAu、Pt、Ag等の貴金属層を用いることも可能である。
【0031】
図2を参照して、表示装置1の電気的構成について説明する。表示装置1が備える3つの電極端子12,23,33の各々は、外部電源40に接続する。詳細には、外部電源40の正極は、共通陽極層30(図1参照)の電極端子33に接続する。双極のスイッチ41の共通接点は、陰極活物質層11(図1参照)の電極端子12に接続する。スイッチ41の一方の極の端子は、透明陰極層22(図1参照)の電極端子23に接続する。スイッチ41の他方の極の端子は、外部電源40の負極に接続する。スイッチ41によって、陰極活物質層11の電極端子12と透明陰極層22の電極端子23とを接続すると、二次電池層10に蓄電された電力が有機EL素子20に供給され、発光層21が発光する。スイッチ41によって、陰極活物質層11の電極端子12と共通陽極層30の電極端子33とを接続すると、二次電池層10に電力が蓄電される。
【0032】
図3から図9を参照して、第一の実施形態における表示装置1の製造工程(第一製造工程)について説明する。図3に示すように、第一製造工程では、第一ユニット形成工程(S1)において、後述する第一ユニット100(図6および図8参照)が形成される。次いで、第二ユニット形成工程(S2)において、第二ユニット200(図6および図8参照)が形成される。別々に形成された第一ユニット100および第二ユニット200が、貼り合わせ工程(S3)において、所謂ラミネート法(貼り合わせ法)によって貼り合わされる。ラミネート法とは、複数の層を加圧によって貼り合わせる方法であり、表示装置1を容易に製造できる。加圧を行う際に加熱を行っても良い。次いで、封止工程(S4)においてモジュールが封止され、第一製造工程は終了する。
【0033】
図4から図6を参照して、第一ユニット形成工程について詳細に説明する。まず、陰極活物質層形成工程(S11)では、基板5の一方の面に陰極活物質層11が形成され、形成された陰極活物質層11に電極端子12(図1および図2参照)が接続される。本実施形態では、基板5にはPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを使用したが、他のプラスチック基板、ガラス基板等を用いることも可能である。陰極活物質層11の材質は、Li−Al合金とした。電極端子12にはCu,Ni箔を使用し、導電性接着剤によって電極端子12を陰極活物質層11に貼り付けた。
【0034】
電解質層形成工程(S12)では、陰極活物質層形成工程(S11)において形成された陰極活物質層11の表面に、前述した高分子電解質であるPEO(ポリエチレンオキサイド)が塗布される。その結果、固体の電解質層13が形成される。陰極活物質層11の表面とは、基板5に重なり合う面の反対側の面(図5における下側の面)である。
【0035】
陽極活物質層形成工程(S13)では、電解質層13の表面に、陽極活物質層31が形成される。本実施形態では、スパッタリングによって、酸化バナジウム(V6O13)からなる陽極活物質層31を形成した。
【0036】
陽極集電体形成工程(S14)では、陽極活物質層31の表面に陽極集電体32が形成される。形成された陽極集電体32に、電極端子33(図1および図2参照)が接続される。陽極集電体32の材質にはNi(ニッケル)を用いた。電極端子33にはCu,Ni箔を使用し、導電性接着剤によって電極端子33を陽極集電体32に貼り付けた。
【0037】
S11〜S14で形成される層(陰極活物質層11、電解質層13、陽極活物質層31、および陽極集電体32の層)をさらに重ねる場合には(S15:YES)、工程はS11へ戻る。この場合、S11では、直前に行われた陽極集電体形成工程(S14)において形成された陽極集電体32の表面(図5における下側の面)に、陰極活物質層11が形成される。その後、前述したS12〜S14の工程が繰り返される。S11〜S14の工程が繰り返される毎に、陰極活物質層11、電解質層13、陽極活物質層31、および陽極集電体32の層からなる単位電池層15(図5参照)が、直列に積層されることになる。その結果、表示装置1のセル電圧は増加する。図5に示す単位電池層15の形成が終了すると(S15:NO)、工程はS16へ移行する。なお、複数の単位電池層15を直列に積層する場合、電極端子33(図1および図2参照)は、最後に形成する陽極集電体32、つまり、複数の陽極集電体32のうち基板5から最も離間した位置に形成される陽極集電体32にのみ接続すればよい(S14)。
【0038】
第一透明酸化膜形成工程(S16)では、直前に行われた陽極集電体形成工程(S14)において形成された陽極集電体32の表面に、第一透明酸化膜34Aが形成される。本実施形態では、スパッタリングによって、ITOからなる第一透明酸化膜34Aを形成した。図6に示すように、以上のS11〜S16の工程によって第一ユニット100が完成する。
【0039】
図6および図7を参照して、第二ユニット形成工程について詳細に説明する。まず、第二透明酸化膜形成工程(S21)では、再剥離型アクリル系接着剤組成物シート51上に、第二透明酸化膜34Bが形成される。本実施形態では、スパッタリングによって、ITOからなる第二透明酸化膜34Bを形成した。
【0040】
インターレイヤー層形成工程(S22)では、第二透明酸化膜形成工程(S21)において形成された第二透明酸化膜34Bの表面に、インターレイヤー層24が形成される。本実施形態では、芳香族アミン材料を含む共重合体を、スピンコート法によって塗布することで、インターレイヤー層24を形成した。しかし、スピンコート法の代わりに、スプレイ法、ダイコート法等を用いてもよい。第二透明酸化膜34Bの表面とは、再剥離型アクリル系接着剤組成物シート51に重なり合う面の反対側の面(図6における下側の面)である。
【0041】
発光層形成工程(S23)では、インターレイヤー層24の表面に発光層21が形成される。本実施形態では、ポリフルオレン(PF)系発光材料を含む溶液(溶媒:アニソール)をインターレイヤー層24の表面に塗布して真空ベークすることで、発光層21を形成した。塗布法としては、スピンコート法、スプレイ法、ダイコート法等を用いることができる。また、塗布法の代わりに、インクジェット法、転写法等の印刷法を用いることも可能である。発光材料の溶媒には、例えば、アニソール、トルエン、キシレン、メチルアニソール、ジメチルアニソール、テトラリン、安息香酸エチル、安息香酸メチル等のうち、1種または2種以上を用いることができる。
【0042】
透明陰極層形成工程(S24)では、発光層21の表面に透明陰極層22が形成される。本実施形態では、1nmから10nm程度のカルシューム層の上に、銀(Ag)を1nmから20nm程度の厚みで積層することで、透明陰極層22を形成した。工程は、蒸着またはスパッタリング等によって行えばよい。さらに、形成された透明陰極層22に電極端子23(図1および図2参照)が接続される。電極端子23にはCu,Ni箔を使用し、導電性接着剤によって電極端子23を透明陰極層22に貼り付けた。図6に示すように、以上のS21〜S24の工程によって第二ユニット200が完成する。
【0043】
図3、図8、および図9を参照して、貼り合わせ工程(S3)および封止工程(S4)について詳細に説明する。貼り合わせ工程(S3)では、図8に示すように、第一ユニット100および第二ユニット200が貼り合わされる。本実施形態では、まず、再剥離型アクリル系接着剤組成物シート51が、第二透明酸化膜34Bから引き剥がされる。次いで、第一透明酸化膜34Aの表面と、第二透明酸化膜34Bの表面との間に、厚みを薄くした導電性接着剤を挟む。次いで、第一ユニット100と第二ユニット200とを、加熱しつつ圧着する。その結果、図9に示すように、二次電池層10と、共通陽極層30と、有機EL素子20とが積層された状態のモジュールが完成する。
【0044】
封止工程(S4)では、完成したモジュールが封止される。詳細には、まず、SiO/SiON/アクリル樹脂を、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって積層し、ガスバリア付きの封止フィルムを形成する。次いで、SiO/SiON/アクリル樹脂を化学気相成長法によって積層し、発光窓を有するガスバリア付きのフィルムを形成する。S3までの工程において完成したモジュールを、2つのフィルムの間に挟み、接着剤を用いて封止する。以上で表示装置1が完成する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る表示装置1では、二次電池層10と有機EL素子20との境界部分に位置する共通陽極層30は、二次電池における陽極活物質層としての機能と、有機EL素子の陽極としての機能とを兼ねる。さらに、仕事関数が低く不安定な有機EL素子20の透明陰極層22が、二次電池層10、共通陽極層30、および有機EL素子20からなる複数の層のうち、最も端に位置する。従って、不安定な透明陰極層22を、複数の層を形成する工程のうちの最後の工程で形成し、第一ユニット100と第二ユニット200とを貼り合わせることができる。よって、表示装置1は小型且つ軽量であり、さらに、透明陰極層22の劣化の度合いが低い。有機EL素子20の基板も不要になる。
【0046】
表示装置1の電解質層13は、固体電解質の層である。従って、電解質層13から発光層21に水が染み出すことがない。よって、水に弱い発光層21が劣化することを防止することができる。また、ペロブスカイト型の構造を有する物質は、結晶格子内に多くのイオンを取り込み保持することができる。表示装置1は、電解質層13における有機EL素子20側の面に、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含む陽極活物質層31を備えるため、効率よく電力を蓄電することができる。さらに、有機EL素子20の発光効率および耐久性は、導電性が良い透明酸化膜34を用いることで向上する。よって、表示装置1は、蓄電効率、発光効率、および耐久性が高い。
【0047】
図3に示す第一製造工程によると、第一ユニット100の陽極活物質層31と、第二ユニット200の第二透明酸化膜34Bとが、陽極集電体32および第一透明酸化膜34Aを介して貼り合わされる。その結果、二次電池の陽極と有機EL素子の陽極とが共用化されるため、小型且つ軽量の表示装置1を製造することができる。さらに、第一製造工程によると、不安定な透明陰極層22を、複数の層を形成する工程のうちの最後の工程で形成することができる。よって、第一製造工程によると、前述したように、透明陰極層22の大幅な劣化を防ぎつつ、小型且つ軽量の表示装置1を製造することができる。
【0048】
上記第一の実施形態において、図4に示す陰極活物質層形成工程(S11)および電解質層形成工程(S12)が本発明の「第一工程」に相当する。陽極活物質層形成工程(S13)が「第二工程」に相当する。図7に示す第二透明酸化膜形成工程(S21)および発光層形成工程(S23)が「第三工程」に相当する。第二透明酸化膜形成工程(S21)において形成される第二透明酸化膜34Bが「陽極層」に相当する。透明陰極層形成工程(S24)が「第四工程」に相当する。なお、図4に示すS11〜S14の工程が複数回繰り返された場合には、形成された複数の陽極活物質層31のうち、有機EL素子20に最も近い陽極活物質層31が、共通陽極層30の一部を構成する陽極活物質層31となる。
【0049】
次に、図10および図11を参照して、第二の実施形態に係る表示装置1の製造工程(第二製造工程)について説明する。第二製造工程は、二次電池層10の陰極活物質層11から順に層を形成していく点のみが、ラミネート法を用いる第一製造工程(図3、図4、および図7参照)と異なる。従って、第一製造工程における各工程と同じ工程については、第一製造工程と同じ番号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0050】
図10に示すように、第二製造工程によって製造される表示装置1は、透明酸化膜34が2層に分かれていない点のみが、第一製造工程によって製造される表示装置1(図9参照)と異なる。よって、表示装置1の各構造については、第一の実施形態と同一の番号を付し、説明を省略する。
【0051】
図11に示すように、第二製造工程が開始されると、陰極活物質層形成工程(S11)において、陰極活物質層11および電極端子12(図1および図2参照)が形成される。電解質層形成工程(S12)において、陰極活物質層11の表面に電解質層13が形成される。陽極活物質層形成工程(S13)において、電解質層13の表面に陽極活物質層31が形成される。陽極集電体形成工程(S14)において、陽極活物質層31の表面に陽極集電体32が形成され、形成された陽極集電体32に電極端子33(図1および図2参照)が接続される。必要に応じて(S15:YES)、S11〜S14の工程が繰り返される。陰極活物質層11、電解質層13、陽極活物質層31、および陽極集電体32の層の形成が終了すると(S15:NO)、工程はS116へ移行する。
【0052】
透明酸化膜形成工程(S116)では、直前に行われたS14において形成された陽極集電体32の表面に、透明酸化膜34が形成される。本実施形態では、スパッタリングによって、ITOからなる透明酸化膜34を形成した。次いで、インターレイヤー層形成工程(S122)では、透明酸化膜形成工程(S116)において形成された透明酸化膜34の表面に、インターレイヤー層24が形成される。本実施形態では、芳香族アミン材料を含む共重合体を、スピンコート法によって塗布することで、インターレイヤー層24を形成した。発光層形成工程(S23)では、インターレイヤー層24の表面に発光層21が形成される。透明陰極層形成工程(S24)では、発光層21の表面に透明陰極層22が形成される。最後に、S24までの工程で製造されたモジュールが封止工程(S4)において封止され、表示装置1が完成する。
【0053】
以上説明したように、第二製造工程によると、仕事関数が低く不安定な有機EL素子20の透明陰極層22を、複数の層を形成する工程における最後の工程で形成することができる。従って、途中の工程で透明陰極層22を形成する場合に比べて、透明陰極層22の劣化の度合いは低くなる。よって、二次電池の陽極と有機EL素子の陽極とが共用化された小型且つ軽量の表示装置1を、透明陰極層22を大幅に劣化させることなく製造することができる。
【0054】
上記第二の実施形態において、陽極活物質層形成工程(S13)および透明酸化膜形成工程(S116)が、本発明の「共通陽極層形成工程」に相当する。なお、S11〜S14の工程が複数回繰り返される場合には、複数回実行される陽極活物質層形成工程(S13)のうち最後に実行される工程と、その後に行われる透明酸化膜形成工程(S116)とが、本発明の「共通陽極層形成工程」に相当する。
【0055】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。まず、表示装置1の構造は適宜変更が可能である。例えば、上記実施形態に係る表示装置1では、共通陽極層30は複数の層を備える。しかし、共通陽極層30を構成する層の数は変更できる。より具体的には、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含む1つの層を共通陽極層30としてもよい。透明酸化膜のみで共通陽極層30を構成してもよい。また、共通陽極層30は、陽極集電体32を備えなくても良い。
【0056】
上記実施形態に係る表示装置1では、発光層21の一方の面にインターレイヤー層24が設けられている。しかし、インターレイヤー層24を形成せずに表示装置を製造してもよい。
【0057】
上記第一の実施形態では、第一ユニット100に第一透明酸化膜34Aが形成され、第二ユニット200に第二透明酸化膜34Bが形成される。その後、第一透明酸化膜34Aと第二透明酸化膜34Bとが貼り合わされる。つまり、第一ユニット100の陽極活物質層31と、第二ユニット200の第二透明酸化膜34Bとが、陽極集電体32および第一透明酸化膜34Aを介して貼り合わされる。しかし、上記工程は変更が可能である。例えば、第一ユニット100の陽極活物質層31と、第二ユニット200の第二透明酸化膜34Bとを、直接貼り合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 表示装置
10 二次電池層
11 陰極活物質層
13 電解質層
20 有機EL素子
21 発光層
22 透明陰極層
30 共通陽極層
31 陽極活物質層
34 透明酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状の有機EL素子と、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備えた表示装置であって、
前記二次電池層は、
電界質層と、
前記電解質層における前記有機EL素子側の反対面側に設けられ、前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層とを備え、
前記有機EL素子は、
電圧が印加されることによって発光する発光層と、
前記発光層における前記二次電池層側の反対面側に設けられ、前記発光層に電圧を印加する透明陰極層とを備え、
前記表示装置は、
前記二次電池層の前記電解質層における前記陰極活物質層側の反対面側と、前記有機EL素子の前記発光層における前記透明陰極層側の反対面側との間に設けられ、前記電解質層から電子を取り込み、且つ前記透明陰極層と共に前記発光層に電圧を印加する共通陽極層を備えたことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
前記電解質層が固体電解質の層であることを特徴とする請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記共通陽極層は、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記共通陽極層が透明酸化膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項5】
前記共通陽極層は、
前記電解質層における前記有機EL素子側の面に設けられ、ペロブスカイト型の構造を有する物質を含む陽極活物質層と、
前記発光層における前記二次電池層側の面に設けられた透明酸化膜と
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項6】
電圧が印加されることによって発光する発光層を有する薄膜状の有機EL素子と、電解質層を有し、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備える表示装置の製造方法であって、
前記電解質層と、前記電解質層の一方の面側に設けられて前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層とを形成する第一工程と、
前記第一工程において形成される前記電解質層の前記陰極活物質層側の反対面側に、前記電解質層から電子を取り込む陽極活物質層を形成する第二工程と、
前記発光層、および、前記発光層の一方の面側に設けられて前記発光層に電圧を印加する陽極層を形成する第三工程と、
前記第三工程において形成される前記発光層の前記陽極層側の反対面側に、前記陽極層と共に前記発光層に電圧を印加する透明陰極層を形成する第四工程と、
前記第二工程において形成された前記陽極活物質層と、前記第三工程において形成された前記陽極層とを貼り合わせる貼り合わせ工程と
を備えたことを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項7】
電圧が印加されることによって発光する発光層を有する薄膜状の有機EL素子と、電解質層を有し、前記有機EL素子の一方の面側に設けられる二次電池層とを備えた表示装置の製造方法であって、
前記電解質層に電子を放出する陰極活物質層を形成する陰極活物質層形成工程と、
前記陰極活物質層形成工程において形成された前記陰極活物質層の一方の面側に前記電解質層を形成する電解質層形成工程と、
前記電解質層形成工程において形成された前記電解質層の表面側に、前記電解質層から電子を取り込むと共に前記発光層に電圧を印加する共通陽極層を形成する共通陽極層形成工程と、
前記共通陽極層形成工程において形成された前記共通陽極層の表面側に前記発光層を形成する発光層形成工程と、
前記発光層形成工程において形成された前記発光層の表面側に、前記共通陽極層と共に前記発光層に電圧を印加する透明陰極層を形成する透明陰極層形成工程と
を備えたことを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−33352(P2012−33352A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170938(P2010−170938)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】