説明

表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法

【目的】 車両の窓ガラス等として使用される、表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法を得る。
【構成】 透明樹脂基板上に、シリコン原料として有機シリコン化合物、酸素原料としてN2O ガスまたはO2ガスを用い、Arガスを添加しながらプラズマCVD 法によりシリコンを含有する膜を少なくとも一層設けることから成る表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シリコン含有膜の密着性を向上させた、表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法としては、シリコン含有膜、例えば SiOx (x≦2)膜と基板との密着性を向上させるために透明樹脂基板上にスプレー法、ディッピング法、スピンコーティング法などにより有機プライマー層を形成し、この上にシリコン含有膜を形成する方法などがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この様な従来法により得られた、シリコン含有膜、例えばSiOx(x≦2)膜の密着性を向上させた透明樹脂基板にあっては、プライマー層としてアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系コーティング剤などの様な有機化合物を使用しているために必ずしも密着性が向上せず、シリコン含有膜、例えば SiOx(x≦2)膜が剥がれてしまい、例えば車両のウィンドゥの様な摩擦の激しい部分には使用できないという問題点があった。
【0004】本発明は、上記問題点を解決し、シリコン含有膜、例えば SiOx (x≦2)膜の密着性を向上させた、表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、シリコン原料として有機シリコン化合物、酸素原料としてN2O ガスまたはO2ガスを用い、Arガスを添加しながらプラズマCVD 法によりシリコン含有膜を少なくとも一層表面に形成することにより達成された。
【0006】以下、本発明を詳細に説明する。本発明において用いられる透明樹脂基板は、透明な樹脂基板から任意に選択されるが、好ましくはポリカーボネート、アクリル樹脂などから成る基板である。
【0007】透明樹脂基板に形成するシリコン含有膜は、シリコン原料として有機シリコン化合物、酸素原料としてN2O ガスまたはO2ガスを用い、Arガスを添加しながらプラズマCVD 法により形成する。
【0008】プラズマCVD 法とは、原料ガスをエネルギー密度の高いプラズマ状態中に導入して分解させ、基板へ化学反応によって目的の材料を被覆させる方法であり、用いる装置は通常使用されるいずれのものでもよく、例えば平行平板電極型、容量結合型または誘導結合型などが使用可能である。装置内圧力は10-2〜1Torrの範囲が好ましいが、2×10-1Torr程度が特に好ましい。また、電源周波数としてはオーディオ波からマイクロ波領域まで幅広く使用することができる。
【0009】本発明において用いられる有機シリコン化合物は、珪素に炭素を含む基が結合しているものから任意に選択されるのが好ましい。有機シリコン化合物としてはテトラエトキシシラン、テトラメチルジシロキサン、ジメトキシジメチルシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシラン等が好適に用いられる。これらの有機シリコン化合物は、その一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を併用してもよい。
【0010】使用する有機シリコン化合物が常温で液体である場合は、有機シリコン化合物の入った容器全体を加熱して気化させて所定の流量、例えば1〜10cm3 /分で制御して一定量のArガス、例えば20〜400 cm3 /分と一緒に装置へ導入する(直接気化導入方式)か、または一定量のArガスをキャリヤーガスとして用い、有機シリコン化合物の入っている温度制御可能な容器中でArを例えば20〜400 cm3 /分の流量でバブリングさせて有機シリコン化合物蒸気と一緒に装置へ導入する(キャリアーガスによるバブリング導入方式)、いずれの方法でも好適である。酸素原料としてはN2O ガス、O2ガスのいずれでも好ましい。このシリコン含有膜は、透明樹脂基板に直接接して形成することが望ましい。製造方法については以下のとおりである。
【0011】透明樹脂基板は、まず、イソプロピルアルコールによる脱脂処理の後に純水リンスおよび窒素ブロー乾燥して洗浄する。次に、この基板をプラズマCVD 装置にセットした後に真空に排気し、2×10-5Torrで基板の脱ガスのために基板温度を100 ℃に上げて5分間保持する。その後に室温に戻し、真空度が2×10-6Torrになるまで排気を続ける。真空度が2×10-6Torrになったら各原料ガスを装置内に導入する。それぞれのガスの流量が安定したところで電力を印加してプラズマを発生させ、透明樹脂基板上へシリコン含有膜を形成させる。形成するシリコン含有膜の膜厚は1〜5μm が良いが、それより薄いと十分な耐擦傷性が現われず、また上記範囲より厚いと密着性が落ちるため好ましくない。
【0012】プラズマCVD 法でシリコン含有膜を形成中にArガスを添加すると、Arガスは高エネルギーのプラズマによって分解されラジカル状態となり、透明樹脂基板表面に存在する炭素−水素結合の解離をより促進して、未結合の炭素濃度が高くなる。
【0013】一般に炭素−シリコン結合は形成されやすく、またこの結合エネルギーは比較的大きいため、この未結合の炭素にシリコン含有膜のシリコンが結合する割合が相対的に多くなり、シリコン含有膜と透明樹脂基板とを強固に密着させるのである。酸素原料ガス/有機シリコン化合物流量比、Arガス流量、プラズマパワーを適当に変えることにより、シリコン含有膜と透明樹脂基板との密着力を自在に制御することが可能である。この様にして形成されたシリコン含有膜は、シリコン、酸素および微量の炭素から成っている。
【0014】上述のシリコン含有膜のみでも表面が充分に硬化されているが、更に表面を硬化させるために、その上に SiOx (x≦2)膜をプラズマCVD 法により形成してもよい。 SiOx (x≦2)膜を形成する場合は、シリコン含有膜の形成終了後、真空度が2×10-6Torrになるまで排気する。真空度が2×10-6Torrになった際、各原料ガスを装置内に導入して、それぞれのガスの流量が安定化したところで電力を投入してプラズマを発生させて透明樹脂基板上へ SiOx (x≦2)膜を形成させる。SiOx(x≦2)膜のシリコン原料としては上記有機シリコン化合物、シランが好適に用いられる。シランとしてはSiH4、Si2H6 、Si3H8 等が好適である。酸素原料としてはN2O ガス、O2ガスが好適に用いられる。形成する SiOx (x≦2)膜の膜厚は1〜5μm が望ましい。この様にして得られたシリコン含有膜の密着性は、ごばん目剥離法によって評価することができる。この方法は以下のとおりである。カッターでシリコン含有膜に幅1mmのメッシュを例えば100 個作製し、次にここへ粘着テープを貼付けて良く密着させる。この後テープを一気に剥がして、剥がれたメッシュの数を数えるのである。剥がれたメッシュの数が多ければ多いほど密着性は劣っていると言える。
【0015】
【実施例】以下、本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
比較例1ポリカーボネート基板上へプライマー層としてアクリルポリマー(PH 91、東芝シリコン社製、商標名)をスプレー法により1.25μm 形成した上に、原料としてテトラエトキシシラン、N2O ガスを使用して、プラズマCVD 法によりSiO2膜を4μm 形成した。この様にして得られた、表面にSiO2膜を形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100 個のうち剥がれたメッシュの個数は20個であった。
【0016】実施例1透明樹脂基板としてポリカーボネートを使用し、原料としてテトラエトキシシラン、N2O ガスを用いた。テトラエトキシシランの入った容器を80℃に加熱して気化させて、Arガスを添加しながら装置内へ導入し、シリコン含有膜を基板表面上へ3μm 形成させた。各流量は、テトラエトキシシラン1cm3 /min 、N2O ガス200 cm3 /min 、Arガス300 cm3 /min とした。この様にして得られた、表面にシリコン含有膜を形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100 個のうち剥がれたメッシュの個数は0個であった。
【0017】実施例2透明樹脂基板としてポリカーボネートを使用し、原料としてテトラエトキシシラン、N2O ガスを用いた。Arガスをキャリアーガスとして用い、テトラエトキシシランの入った容器中でArガスをバブリングさせて装置内へ導入し、シリコン含有膜を基板表面上へ4μm 形成させた。テトラエトキシシランの入った容器の温度は室温で一定とし、N2O ガス、Arガス流量は実施例1と同じとした。この様にして得られた、表面にシリコン含有膜を形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100 個のうち剥がれたメッシュの個数は0個であった。
【0018】実施例3実施例1で、透明樹脂基板としてポリカーボネートの代りにアクリル樹脂を用いた。他は実施例1と同じとした。この様にして得られた、表面シリコン含有膜を形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100 個のうち剥がれたメッシュの個数は0個であった。
【0019】実施例4実施例1と同様にして、シリコン含有膜を基板表面上へ3μm 形成させた。更に、この上へSiH4、N2O を原料としてSiO2膜を1μm 形成させた。この様にして得られた、表面にシリコン含有膜とSiO2膜をとを形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100個のうち剥がれたメッシュの個数は0個であった。
【0020】実施例5実施例2で、透明樹脂基板としてポリカーボネートの代りにアクリル樹脂を使用し、シリコン含有膜を基板表面上へ4μm 形成させた。他は実施例2と同様とした。更に、この上へSiH4、N2O を原料としてSiO2膜を2μm 形成させた。この様にして得られた、表面にシリコン含有膜とSiO2膜とを形成させた透明樹脂基板の膜の密着性をごばん目剥離法によって評価した結果、全メッシュ100 個のうち剥がれたメッシュの個数は0個であった。
【0021】
【発明の効果】以上説明してきたように、 本発明によれば、珪素原料として有機シリコン化合物、酸素原料としてN2O ガスまたはO2ガスを用いてプラズマCVD 法により透明樹脂基板表面上へシリコン含有膜を形成する際に、Arガスを添加することにより、シリコン含有膜と基板との密着性が著しく向上するという効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明樹脂基板上に、シリコン原料として有機シリコン化合物、酸素原料としてN2O ガスまたはO2ガスを用い、Arガスを添加しながらプラズマCVD 法によりシリコンを含有する膜を少なくとも一層設けることを特徴とする表面が硬化された透明樹脂基板の製造方法。