説明

表面が絞り調の不織布の製造方法

【課題】 嵩高性、柔軟性、地合の均一性を有していながら、なおかつ表面が平滑でなく、独特の風合いを持つ不織布を提供する。
【解決手段】 潜在捲縮能を有する繊維を少なくとも30質量%、バインダー繊維を少なくとも20質量%含む不織ウェブを、バインダー繊維のバインダー成分が溶融または軟化する温度であって、かつ潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が実質的に顕在化しない温度にて第1熱処理を施して、次いで、不織ウェブを冷却させて、前記第1熱処理により溶融または軟化したバインダー成分によって構成繊維同士を熱接着させ、その後、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化する温度にて第2熱処理を施す表面が絞り調の不織布の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に絞り調の凹凸を有し、嵩高性、柔軟性、地合の均一性に優れた不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、潜在捲縮能を有する繊維を用いて嵩高性を有する不織布として、乾式不織布(例えば、特許文献1)、湿式不織布(例えば、特許文献2)が提案されている。これらによれば、潜在捲縮能を有する繊維と、バインダー繊維とから構成され、熱処理を施すことにより、潜在捲縮を顕在化させることによる嵩向上と同時に、バインダー繊維による構成繊維同士の熱接着を行っている。このような不織布は、得られる不織布の表面は、比較的平滑なものである。
【特許文献1】特開2002−285464号公報 実施例2
【特許文献2】特開平3−241087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、潜在捲縮能を有する繊維を用いて嵩高性を有する不織布を得るに際して、嵩高性、柔軟性、地合の均一性を有していながら、なおかつ表面が平滑でなく、独特の風合いを持つ不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を達成するために、本発明者は検討を行った。潜在捲縮能を有する繊維とバインダー繊維とからなる不織ウェブにおいて、潜在捲縮の顕在化とバインダー繊維の溶融、軟化とを、熱処理により同時に行うと、潜在捲縮の顕在化は、阻害されるものがなく捲縮が発現し、得られる不織布の表面は比較的平滑になる。そこで、本発明者は、潜在捲縮の顕在化を一部阻害させると、得られる不織布が独特の風合いを付与できるのではないかと考え、温度差を設けた2段階の熱処理を施すことにより、バインダー繊維による熱接着と、潜在捲縮の顕在化とを別工程で行うことにより、得られる不織布表面が独特の形態を呈することを見出し、本発明に到達した。
【0005】
すなわち、本発明は、潜在捲縮能を有する繊維を少なくとも30質量%、バインダー繊維を少なくとも20質量%含む不織ウェブを、バインダー繊維のバインダー成分が溶融または軟化する温度であって、かつ潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が実質的に顕在化しない温度にて第1熱処理を施して、次いで、不織ウェブを冷却させて、前記第1熱処理により溶融または軟化したバインダー成分によって構成繊維同士を熱接着させ、その後、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化する温度にて第2熱処理を施すことを特徴とする表面が絞り調の不織布の製造方法を要旨とするものである。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明に用いる潜在捲縮能を有する繊維は、熱処理により立体捲縮を発現するものである。立体捲縮とは、通常の二次元的な機械捲縮ではなく、コイルバネ状の三次元的な捲縮をいう。
【0008】
本発明に用いる潜在捲縮能を有する繊維は、自由収縮の状態で、後述する第2熱処理の温度にて15分間熱処理を施した後、50個/25mm以上の微細な立体捲縮を発現する潜在捲縮能を有していることが好ましい。自由収縮の状態で、第2熱処理の温度にて15分間熱処理を施した際、50個/25mm以上の微細な立体捲縮を発現することにより、得られる不織布は、表面に絞り調の凹凸を良好に発現することができる。
【0009】
本発明では、不織布の表面に絞り調の凹凸を良好に発現させるために、潜在捲縮能を有する繊維として、粘度の異なる2種の熱可塑性重合体が貼り合わせられたサイドバイサイド型の複合繊維、もしくは、粘度の異なる2種の熱可塑性重合体が偏心的に複合してなる偏心芯鞘型の複合繊維を用いることが好ましく、特にサイドバイサイド型の複合繊維を用いることが好ましい。熱可塑性重合体としては、繊維形成性を有するものであればよく、公知のポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体等が挙げられ、汎用性や機械的強度等を考慮して、ポリエステル系重合体を用いることが好ましい。上記した複合繊維は、それぞれの熱可塑性重合体の粘度差が熱収縮特性差となり、熱処理することで微細な捲縮が発現する潜在捲縮性能を有するものである。粘度差は、熱可塑性重合体がポリエステルの場合で、その極限粘度差が0.08〜0.30の範囲であることが好ましい。複合繊維を構成する2種の熱可塑性重合体の複合比は、潜在捲縮能を付与できるものであれば特に限定するものではなく、その質量比は20/80〜80/20が好ましく、30/70〜70/30がより好ましい。また、複合繊維を構成する熱可塑性重合体中には、その効果を損なわない範囲で、酸化チタン等の艶消し剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、導電性付与剤、親水剤、吸水剤等が配合されていてもよい。
【0010】
潜在捲縮能を有する複合繊維を構成する熱可塑性重合体がポリエステルの場合、アルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルからなるものが好ましく、アルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルとしては具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられ、中でもPETが好ましい。また、これらのポリエステルは、必要に応じて以下に示す共重合成分を1種類または複数種類共重合した共重合ポリエステルとしてもよく、共重合成分の種類、共重合量により極限粘度を調整することができる。共重合成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ビスフェノールS、ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0011】
また、潜在捲縮能を有する複合繊維を構成するポリエステルの融点は220℃以上とすることが好ましい。ポリエステルの融点が220℃未満であると、バインダー繊維のバインダー成分を溶融または軟化させる第1熱処理において、潜在捲縮能を有する複合繊維までもが溶融や熱劣化が生じたり、また、潜在捲縮が顕在化する恐れがある。一方、融点の上限としては、特に限定するものではないが、上記のようなポリエステルとする場合には、220〜280℃とすることが好ましい。
【0012】
潜在捲縮能を有する複合繊維を構成するポリエステルの例として、好ましい組み合わせのものを以下に示す。
【0013】
まず、一方の重合体が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、他方の重合体が、イソフタル酸(IPA)を3〜6モル%共重合したPETが挙げられる。イソフタル酸としては中でも5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)がよい。イソフタル酸の共重合量が3モル%未満であると、PETとの極限粘度差を十分に有することができず、十分な捲縮が顕在化しにくい。一方、6モル%を超えると、重合体の融点が低下し、通常の製造工程にて繊維を得られにくくなる。
【0014】
また、一方の重合体が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、他方の重合体が、IPAを1〜9モル%とビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体(BAEO)を2〜5モル%共重合したPETが好ましい。IPAの共重合量が1モル%未満であったり、BAEOの共重合量が2モル%未満であったりすると、PETとの極限粘度差を十分に有することができず、十分な捲縮が顕在化しにくい。一方、IPAが9モル%を超える、もしくはBAEOの共重合量が5モル%を超えると、重合体の融点が低下し、通常の製造工程にて繊維を得られにくく、また得られたとしても強度の小さい繊維となる。また、BAEOは、ビスフェノールA1モルに対して、エチレンオキサイドを2〜10モル付加したものが好ましく、中でも2〜5モル付加したものが好ましい。
【0015】
本発明において、潜在捲縮能を有する繊維の繊維長は、特に限定されないが、ウェブ作成の際、均一に混合しやすくするためには30mm以下であるとよく、3〜25mmが好ましい。繊維長は、JIS L1015 8.4.1A法に基づき測定したものである。
【0016】
また、潜在捲縮能を有する繊維の単糸繊度は、不織布の用途に応じて適宜選択すればよいが、一般に30デシテックス以下程度でよく、好ましくは1〜25デシテックスである。単糸繊度は、JIS L1015 8.5.1B法に基づき測定したものである。
【0017】
本発明におけるバインダー繊維は、熱により溶融または軟化するバインダー成分を有するものであるが、バインダー成分が熱接着する温度にて、上記した潜在捲縮能を有する繊維が、潜在捲縮が顕在化して立体捲縮を発現したり、熱の影響を受けて溶融または軟化するようなことが発生しないバインダー繊維を用いる。
バインダー繊維の形態は、1種の重合体からなる単相形態であっても、また、2種以上の重合体からなる複合形態であってもよい。複合形態とする場合は、芯鞘型やサイドバイサイド型が挙げられる。また、断面形状は円形断面の他に、中空部を有する中空断面や、三角断面等の異形断面でもよい。また、バインダー繊維の単糸繊度、繊維長は、特に限定するものではないが、単糸繊度が1.5〜30デシテックス、繊維長が3〜30mmのものがよい。
【0018】
本発明においては、潜在捲縮能を有する繊維として、上記したポリエステル系重合体からなる複合繊維を用いる場合、バインダー繊維は、150℃以下で熱接着するバインダー成分により構成されることが好ましく、110〜140℃で熱接着するバインダー成分により構成されることがより好ましい。バインダー成分の熱接着する温度が150℃を超えると、構成繊維同士を溶融または軟化したバインダー成分により熱接着するための第1熱処理の温度を150℃を超える温度に設定する必要が生じて、これにより、第1熱処理の際に、潜在捲縮能を有する繊維が潜在捲縮が顕在化して立体捲縮を発現し、目的とする不織布表面に絞り調の凹凸を発現しにくくなる。
【0019】
潜在捲縮能を有する繊維としてポリエステル系重合体からなる複合繊維を用いる場合、バインダー繊維(バインダー成分)もまた、ポリエステル系重合体からなるものが好ましく、例えば、アルキレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルからなるものが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。これらのポリエステルに以下に示す共重合成分を1種類または複数種類共重合した共重合ポリエステルとし、共重合成分の種類や共重合量により融点を調整することができる。共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。ポリエステル中には、その効果を損なわない範囲で、酸化チタン等の艶消し剤、ヒンダートフェノール系化合物等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、難燃剤、抗菌剤、導電性付与剤、親水剤、吸水剤等が配合されていてもよい。また、バインダー繊維としては、芯部にPET、鞘部にIPA15〜50モル%共重合したポリエステルを配した芯鞘型ものを好ましく用いることができる。
【0020】
本発明において、潜在捲縮能を有する繊維やバインダー繊維は、機械捲縮が付与されていても、付与されていなくてもよく、また、付与する場合の捲縮数については、不織ウェブを作成する方法により任意に選択すればよい。例えば、湿式法により不織ウェブを作成する場合は、捲縮を付与せず、繊維長は3〜10mm程度の繊維を使用し、また、乾式法であるカーディング法により不織ウェブを作成する場合は、捲縮数を3〜15ヶ/25mm程度付与し、繊維長が10〜30mmの繊維を使用し、また、乾式法であるエアレイド法により不織ウェブを作成する場合は、捲縮を付与せず、繊維長は3〜30mm程度の繊維を使用すればよい。
【0021】
本発明の不織布の製造方法では、まず、上記した潜在捲縮能を有する繊維と、バインダー繊維とを用意する。これらの繊維は、公知の方法により製造される。すなわち、繊維形成性を有する熱可塑性重合体を通常用いられる紡糸装置を用いて紡糸し、延伸することなく、一旦巻き取る。得られた未延伸糸を集束して1〜100キロテックス程度のトウとし、延伸倍率2〜6倍、温度20〜90℃程度で熱延伸を施す。そして、必要に応じて押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与した後、油剤を付与し、所望の繊維長にカットして繊維を得る。
【0022】
次いで、潜在捲縮能を有する繊維と、バインダー繊維とを混合して不織ウェブを作成する。不織ウェブは、潜在捲縮能を有する繊維を少なくとも30質量%、バインダー繊維を少なくとも20質量%含むようにする。不織ウェブ中における潜在捲縮能を有する繊維の割合を少なくとも30質量%とすることにより、不織布の表面に絞り調の凹凸を良好に発現させることができ、嵩高性に優れた独特の風合いを有する不織布を得ることができる。さらには、不織ウェブ中における潜在捲縮能を有する繊維の割合は、50質量%以上であることが好ましい。また、不織ウェブ中におけるバインダー繊維の割合を少なくとも20質量%とすることにより、実用的な強力を有する不織布が得られ、また、不織布の表面に絞り調の凹凸を良好に発現させることができる。なお、本発明の目的が達成される範囲で、他の繊維を混合してもよい。
【0023】
不織ウェブを作成する方法としては、カーディング法やエアレイド法による乾式法や湿式法が挙げられ、湿式法による不織ウェブを用いることが、得られる不織布の表面において、顕著な絞り調の凹凸を発現させることができるため、好ましい。
【0024】
乾式法の場合は、エアレイド法により不織ウェブを作成することが好ましい。エアレイド法としては、具体的には、試料投入ブロアより、潜在捲縮性能を有する繊維およびバインダー繊維を投入し、解繊翼の回転により解繊し、飛散落下させる。落下する繊維を、サクションボックスで吸引しつつ、移動する集綿コンベアの上に堆積させ不織ウェブを作成する。
【0025】
湿式法は、繊維−繊維間や繊維−機械間の摩擦による静電気の発生により繊維塊が発生することを防ぐことができ、単繊維のばらけがよく、単繊維同士の接触点(面)が少ないために繊維の集束が生じ難いので、均一性に優れた不織布を得ることができる。湿式法としては、具体的には、潜在捲縮能を有する繊維およびバインダー繊維を、パルプ離解機に投入し攪拌する。その後、得られた試料を抄紙機に移し、アルキルホスフェート金属塩を主成分とする分散油剤を添加した後、付帯の撹拌羽根にて撹拌を行い抄紙し、湿式不織ウェブを作成する。
【0026】
不織ウェブの目付は、不織布の用途に応じて適宜選択すればよく、15〜250g/m2程度がよい。
【0027】
次いで、得られた不織ウェブに、2段階の熱処理を施して、表面が絞り調の不織布を製造する。すなわち、まず、バインダー繊維のバインダー成分が溶融または軟化する温度であって、かつ潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が実質的に顕在化しない温度にて第1熱処理を施し、次いで、不織ウェブを冷却させて、第1熱処理により溶融または軟化したバインダー成分によって、構成繊維同士を熱接着させ、その後、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化する温度にて第2熱処理を施す。
【0028】
第1熱処理では、まず、バインダー成分を溶融または軟化させる。この第1熱処理では、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮は実質的に顕在化しない。この潜在捲縮能を有する繊維において、潜在捲縮が実質的に顕在化しないとは、該繊維が、潜在捲縮能を十分に有している状態であって、熱を付与することにより潜在捲縮が顕在化して立体捲縮を発現する状態をいう。したがって、全く、立体捲縮を発現していない状態のものや、立体捲縮が発現しかかっているが更に熱処理により立体捲縮を発現する能力を有している状態のものを、潜在捲縮を実質的に顕在化していないという。この第1熱処理で、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化すると、得られる不織布に、目的とする表面に絞り調の凹凸を発現させることができない。
【0029】
第1熱処理として、具体的には、熱風乾燥機等の熱処理機を用い、熱処理温度として、バインダー繊維を構成するバインダー成分の[(融点または流動開始温度)+10]℃程度の温度に設定し、処理時間5〜15分程度の熱処理を施す。
【0030】
第1熱処理に次いで、不織ウェブを冷却させる。これにより、第1熱処理により、一旦、溶融または軟化したバインダー成分が、溶融固化して、構成繊維同士を熱接着する。冷却手段としては、自然冷却であっても、ファン等による空冷や冷却ロールに沿わせる、冷却ゾーンを通す等による強制冷却であってもよい。生産の効率等を考慮すると、強制冷却が好ましい。
【0031】
次いで、バインダー成分により構成繊維同士が熱接着した不織ウェブに対して、第2熱処理として、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化する温度にて、熱処理を施す。この第2熱処理により、繊維の潜在捲縮が顕在化して立体捲縮を発現させて、表面が絞り調の不織布を得ることができる。第2熱処理として、具体的には、熱風乾燥機等の熱処理機を用い、熱処理温度として、潜在捲縮能を有する繊維がポリエステル系重合体である場合、160〜180℃の範囲に設定し、処理時間5〜15分程度の熱処理を施す。本発明者は、第2熱処理により、表面が平滑でなく絞り調となることについて、以下のように推察する。すなわち、第2熱処理が施される不織ウェブは、バインダー成分が構成繊維同士を熱接着しており、換言すると、バインダー成分による熱接着点を有しており、第2熱処理により潜在捲縮能が顕在化する際、この熱接着点では捲縮の発現が阻害され、一方、熱繊接着点以外の箇所では、捲縮が自由かつ十分に発現するため、その結果、不織布の両表面が部分的に隆起し、得られる不織布は表面が絞り調の独特の形態を呈するものとなると推定する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の不織布は、表面に独特の絞り調の凹凸を呈しており、かつ、均一性に優れ、品質が高く、嵩高性も十分有しているので、様々な用途に使用することができる。例えば、生理用品や衛生材料、鮮度保持材、芯地、包装材、壁紙材、ワイパー材等の用途として好適に使用することができる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各特性値の測定方法は、以下の通りである。
(1)流動開始温度(℃)
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重100kgf/cm、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
【0034】
(2)融点(℃)
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
【0035】
(3)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
【0036】
(4)不織布の均一性
得られた不織布の表面に呈する凹凸の分布状態(均一性)を目視にて観察し、以下の基準で3段階評価とした。
○:凹凸が均一に発現・分布し、絞り調を呈している。
△:部分的に凹凸のない箇所がある。
×:絞り調の凹凸がほとんど見られない。
【0037】
製造例1(潜在捲縮能を有する複合繊維)
融点256℃、極限粘度0.64のPETと、SIPを4.5mol%共重合した融点243℃、極限粘度0.47の共重合PETとを用い、通常の複合溶融紡糸装置を用い、紡糸温度290℃、吐出量903g/min、紡糸速度1170m/minの条件で、ホール数1390の丸型断面のノズルで紡出し、未延伸糸を得た。PETと共重合PETとの質量比率1/1のサイドバイサイド型の複合繊維とした。得られた未延伸糸を12.3ktexのトウに集束した後、延伸倍率2.52倍、延伸温度65℃で延伸を行い、押し込み式クリンパーで捲縮数10個/25mmの機械捲縮を付与した。その後、仕上げ油剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを主成分とする通常用いられる紡績用油剤を0.2%の付与した後、切断して単糸繊度2.2dtex、繊維長5mmの潜在捲縮能を有する繊維を得た。得られた繊維は、自由収縮の状態で、170℃×15分の乾熱処理で、熱処理後に97個/25mmの立体捲縮を発現するものであった。
【0038】
製造例2(潜在捲縮能を有する複合繊維)
製造例1において、紡糸条件と繊維長を変更して、単糸繊度22dtex、繊維長20mmの潜在捲縮能を有する繊維を得た。得られた繊維は、自由収縮の状態で、170℃×15分の乾熱処理で、熱処理後に、63個/25mmの立体捲縮を発現するものであった。
【0039】
製造例3(潜在捲縮能を有する複合繊維)
製造例1において、繊維長を変更して、単糸繊度2.2dtex、繊維長25mmの潜在捲縮能を有する繊維を得た。得られた繊維は、自由収縮の状態で、170℃×15分の乾熱処理で、熱処理後に、98個/25mmの立体捲縮を発現するものであった。
【0040】
製造例4(バインダー繊維)
融点256℃、極限粘度0.64のPETと、IPAを33モル%共重合した流動開始温度130℃、極限粘度0.57の共重合PETを用い、通常の複合溶融紡糸装置を用い、紡糸温度280℃、吐出量940g/min、紡糸速度1170m/minの条件で、ホール数1535の丸型断面のノズルで紡出し、未延伸糸を得た。このときPETを芯部に、共重合PET(バインダー成分)を鞘部に配し、質量比率1/1の芯鞘型の複合繊維とした。得られた未延伸糸を12.3ktexのトウに集束した後、延伸倍率2.52倍、延伸温度45℃で延伸を行い、押し込み式クリンパーで捲縮を付与した。その後、仕上げ油剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルを主成分とする通常用いられる紡績用油剤を0.2%の付与した後、切断して単糸繊度2.2dtex、繊維長5mmの短繊維を得た。
【0041】
製造例5(バインダー繊維)
製造例4において、鞘部に配するバインダー成分として、IPAを40mol%共重合した流動開始温度110℃の共重合PETを用いたこと以外は製造例4と同様にして、単糸繊度2.2dtex、繊維長5mmのバインダー繊維を得た。
【0042】
製造例6(バインダー繊維)
製造例4において、鞘部に配するバインダー成分として、IPAを8mol%共重合した融点220℃の共重合PETを用いたこと以外は製造例4と同様にして、単糸繊度2.2dtex、繊維長5mmのバインダー繊維を得た。
【0043】
製造例7(バインダー繊維)
製造例4において、繊維長を変更し、単糸繊度2.2dtex、繊維長25mmのバインダー繊維を得た。
【0044】
実施例1
製造例1で得られた潜在捲縮能を有する繊維と、製造例4で得られたバインダー繊維とを用意し、潜在捲縮能を有する繊維/バインダー繊維が70/30(質量%)の混合割合で、湿式法により、不織ウェブを作成した。すなわち、潜在捲縮能を有する繊維2.6gとバインダー繊維1.1gとをパルプ解繊機(熊谷理機工業社製)に投入し、3000rpmで1分間撹拌した。その後、得られた試料を抄紙機(熊谷理機工業社製 角型シートマシン)にて25cm×25cmの不織ウェブとし、プレス機にて余分は水を脱水した。
【0045】
次いで、得られた不織ウェブを、回転乾燥機(熊谷理機工業社製 卓上型ヤンキードライヤー)にて、プレス線圧0.1MPa、140℃×3分の第1熱処理を施した後、冷却し、次いで、熱風乾燥機にて、170℃×10分の第2熱処理を施し、実施例1の不織布を得た。
【0046】
得られた実施例1の不織布の性能等を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例2〜6、比較例1〜5
表1に示すように、不織布の構成繊維、混合比率、熱処理条件等を種々変更した以外は、実施例1と同様にして不織布を得た。
【0049】
実施例7
実施例1において、エアレイド法により不織ウェブを作成した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の不織布を得た。
【0050】
得られた実施例2〜7、比較例1〜5の不織布の性能を表1に示す。
【0051】
実施例1〜6の不織布は、いずれも不織布表面には絞り調の凹凸が均一に発現したもので、均一性や嵩高性に優れたものであった。
【0052】
実施例7の不織布もまた、絞り調の凹凸が均一に発現したもので、均一性や嵩高性に優れていた。なお、実施例1と実施例7とを比較すると、実施例1の不織布の方が、より表面の凹凸が顕著に現れていた。
【0053】
一方、比較例1の不織布は、2段階熱処理を行わず、170℃で熱処理を行ったものであり、バインダー成分の熱接着と潜在捲縮の顕在化処理とを同時に行ったものであるため、表面が平滑であり、本発明が目的とするものではなかった。
【0054】
比較例2の不織布は、2段階熱処理を行わず、140℃で熱処理を行ったものであり、バインダー成分が構成繊維同士を熱接着しているが、潜在捲縮能を有する繊維は、潜在捲縮が顕在化していないものであり、表面平滑で、実施例1の不織布と比較し、嵩高性の劣るものであった。
【0055】
比較例3の不織布は、バインダー繊維の鞘成分の融点が高いために、熱処理温度を高くした結果、第1段階での熱処理で複合繊維を潜在捲縮が発現し、表面が平滑なものとなった。さらにはバインダー成分との接着点の存在点も不均一となったため、得られた不織布も凹凸が不均一となり、実施例1の不織布と比較して、嵩高性に劣るものであった。
【0056】
比較例4の不織布は、潜在捲縮能を有する繊維が不織布中に20質量%含まれるものであり、該繊維の混合比率が低いために、均一な絞り調の凹凸が発現せず、ペーパーライクな不織布となり、嵩高性に劣るものであった。
【0057】
比較例5の不織布は、バインダー繊維が不織布中に10質量%含まれるものであり、バインダー繊維の混合比率が低いために、均一な絞り調の凹凸が発現せず、本発明が目的とするものではなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在捲縮能を有する繊維を少なくとも30質量%、バインダー繊維を少なくとも20質量%含む不織ウェブを、バインダー繊維のバインダー成分が溶融または軟化する温度であって、かつ潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が実質的に顕在化しない温度にて第1熱処理を施して、次いで、不織ウェブを冷却させて、前記第1熱処理により溶融または軟化したバインダー成分によって構成繊維同士を熱接着させ、その後、潜在捲縮能を有する繊維の潜在捲縮が顕在化する温度にて第2熱処理を施すことを特徴とする表面が絞り調の不織布の製造方法。
【請求項2】
潜在捲縮能を有する繊維は、粘度の異なる2種の熱可塑性重合体が貼り合わせられたサイドバイサイド型の複合繊維、もしくは、粘度の異なる2種の熱可塑性が偏心的に複合してなる偏心芯鞘型の複合繊維であることを特徴とする請求項1記載の表面が絞り調の不織布の製造方法。
【請求項3】
潜在捲縮能を有する繊維は、自由捲縮の状態で第2熱処理の温度にて15分間熱処理後、50個/25mm以上の立体捲縮を発現する潜在捲縮能を有していることを特徴とする請求項1または2記載の表面が絞り調の不織布の製造方法。