説明

表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体

【課題】アナライトの検出を高精度に行うことのできる表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体を提供すること。
【解決手段】誘電体部材32の上面に金属薄膜34を介することなく蛍光色素層36が形成された全反射蛍光リファレンス領域(P)と金属薄膜34を介して蛍光色素層36が形成された電場増強蛍光リファレンス領域(Q)とを備えた表面プラズモン励起増強蛍光測定装置10に用いられるセンサ構造体30Aであって、前記誘電体部材32は、その上面に備えられた前記領域(P)と前記領域(Q)とが、列状に並んだ状態で形成されており、さらに前記誘電体部材32は、前記センサ構造体30Aと光源12とを1軸方向にのみ相対移動させて前記光源12から前記領域(P)と前記領域(Q)とに励起光14を照射させた際に、励起光14の入射角(θp、θq)の調整が行われる入射角調整手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS;Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)の原理に基づいた表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ナノメートルレベルなどの微細領域中で電子と光とが共鳴することにより、高い光出力を得る現象(表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)現象)を応用した表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)の原理に基づき、高精度に所望のアナライト検出を行えるようにした表面プラズモン励起増強蛍光測定装置(以下、SPFS装置ともいう)が開発され、例えばバイオテクノロジーなどの分野で利用されている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
このようなSPFS装置100の基本的な構造は、図6に示したように、まず誘電体部材102と、誘電体部材102の主面上に形成された金属薄膜104と、金属薄膜104の上面に形成され、流路108上の所定位置にリガンドが固定化されたSPFSアッセイ領域(A)(以下、領域(A)ともいう)を備えたリガンド含有層106と、を有するセンサ構造体112を備えている。
【0004】
そして、センサ構造体112の誘電体部材102側には、誘電体部材102内に入射され、金属薄膜104に向かって全反射条件となる入射角θaで励起光114を照射する光源116を備え、さらに光源116から照射され金属薄膜104で反射した反射光118を受光する受光手段120が備えられている。
【0005】
一方、センサ構造体112のリガンド含有層106側には、領域(A)で固定化されたアナライトを標識した蛍光物質が発する蛍光122を受光する光検出手段124が設けられている。
【0006】
なお、リガンド含有層106の領域(A)と光検出手段124との間には、蛍光122を効率良く集光するための集光部材126と、蛍光122以外に含まれる光を除去し、必要な蛍光122のみを選択する波長選択機能部材128が設けられている。
【0007】
そして、SPFS装置100の使用においては、リガンド含有層106の領域(A)内に流路108を介してアナライトを有する試料溶液を流入させ、その後、このアナライトを標識する蛍光物質を、同様に流路108を介して流入させることで、領域(A)に蛍光物質で標識されたアナライトが固定化された状態とする。
【0008】
そして、この状態で光源116より誘電体部材102を介して金属薄膜104に全反射条件となる入射角θaで励起光114を照射することで、金属薄膜104の表面からエバネッセント波を放出させ、このエバネッセント波により領域(A)の全面に固定化された蛍光物質による蛍光122を励起させる。
【0009】
そして、エバネッセント波によって励起された領域(A)全面の蛍光122を光検出手段124で検出することで、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出することができる。
【0010】
このようなSPFS装置100は、近年臨床検査への応用が求められているが、臨床検査の場合、蛍光シグナルの測定データのばらつきを今まで以上に抑え信頼性を高める必要がある。
【0011】
SPFS装置100では、蛍光シグナルのばらつき原因の一つとして電場増強度のばらつきが挙げられ、この電場増強度は、SPFS装置100に用いられるセンサ構造体112の誘電体部材102上面に形成される金属薄膜104の膜厚の違いによって異なることが知られている。
【0012】
金属薄膜104の膜厚は、センサ構造体112の製造ロット毎に僅かに差が生ずる場合があり、臨床検査への応用を進めるにはこの製造ロット毎の膜厚の違いによる測定データの僅かなばらつきも見逃すことはできない。
【0013】
なお、全てのセンサ構造体112において、金属薄膜104の膜厚が寸分の違いもなく完全に同一となるよう製造することは現実的ではないことから、センサ構造体112で生じる電場増強度を正規化し、これに基づいて測定データを補正すれば、電場増強度のばらつきによる蛍光シグナルへの影響を最小限にできると思われる。
【0014】
また一方で、臨床検査に用いるには、センサ構造体112の製造コストを極力抑えることも重要である。
そこで本出願人は、センサ構造体112を構成する金属薄膜104の膜厚の個体差による電場増強度のばらつきを補正し、測定精度や信頼性を高めたSPFS装置における測定データの補正方法を開発し、先に特許出願した(特許文献3。特願2010−181364号。以下「先願」という。)。
【0015】
この補正方法は、図7に示したように、誘電体部材102表面の一部に、金属薄膜104を介さないで蛍光色素層130を形成した全反射蛍光リファレンス領域(P)(以下、領域(P)ともいう)と、金属薄膜104を介して蛍光色素層130を形成した電場増強蛍光リファレンス領域(Q)(以下、領域(Q)ともいう)とを設けておき、この誘電体部材102の裏側から領域(P)と領域(Q)に対してそれぞれ全反射条件で励起光114を照射したとき、金属薄膜104の有無による電場増強度の影響を調べ、さらに金属薄膜104厚みの違いによる電場増強度への影響具合を見積もることができるようにしたものである。
【0016】
具体的には、まず蛍光色素層130だけが形成された領域(P)と、金属薄膜104を介して蛍光色素層130が形成された領域(Q)と、金属薄膜104を介してリガンド含有層106が形成された領域(A)とを、誘電体部材102の上面に形成したセンサ構造体112を用意する。
【0017】
この領域(P)における蛍光色素層130と、領域(Q)における蛍光色素層130とは、同一の蛍光色素から形成されている。
領域(A)については、上述した従来技術のセンサ構造体112におけるリガンド含有層106を有する領域(A)と同様の構造である。
【0018】
この領域(A)に対して、誘電体部材102の下面側から入射角θaで励起光114を照射することで、アナライト132と結合した蛍光物質134の発する蛍光122が表面プラズモン現象によりさらに増強され、この増強された蛍光122の量をSPFS蛍光シグナルSaとして光検出手段124で測定することで、検体溶液中に含まれるアナライト132を定量化する。
【0019】
次いで、領域(P)に対して誘電体部材102の下面側から入射角θpで励起光114を照射し、蛍光色素層130から発せられた蛍光122の量を全反射蛍光シグナルSpとして、光検出手段124にて測定する。
【0020】
同様に、領域(Q)に対して、誘電体部材102の下面側から入射角θqで励起光114を照射する。この励起光114は、上述した領域(P)で用いたものと同じ光源116から発せられたものであり、同一波長である。
【0021】
そして、蛍光色素層130から発せられ、表面プラズモン現象によって増強された蛍光122の量を電場増強蛍光シグナルSqとして、光検出手段124にて測定する。
上記の方法で得られた全反射蛍光シグナルSpと、電場増強蛍光シグナルSqとを、下記式(1)に代入してセンサ構造体112の電場増強度(R)を算出する。
【0022】
R=Sq/Sp・・・・(1)
また、このセンサ構造体112とは別に、このセンサ構造体112と同様の構成を有し、正規化の基準となるセンサ構造体112’(図示せず)を、上記したセンサ構造体112の場合と同一波長の励起光114を用いて、全反射蛍光シグナルSp’と、電場増強蛍光シグナルSq’とを測定し、上記式(1)と同じようにして電場増強度(R’)を算出する。
【0023】
そして下記式(2)によって、上述したSPFS蛍光シグナルSaを補正SPFS蛍光シグナルSに変換することで、センサ構造体112と正規化の基準となるセンサ構造体112’(図示せず)との金属薄膜104の膜厚のばらつきに起因する蛍光シグナルの量を補正することができる。
【0024】
S=Sa×(R’/R)・・・・(2)
なお、図7に示したセンサ構造体112では、領域(P),領域(Q)および領域(A)が、同一の誘電体部材102上に一体的に形成されているがこれに限定されるものではない。
【0025】
また、領域(A)に形成されている金属薄膜104と、領域(Q)に形成されている金属薄膜104とが、同一の金属で同一の膜厚であり、且つ誘電体部材102が両者とも同一の材質からなっていれば、領域(P)と領域(Q)だけが形成されたセンサ構造体(図示せず)と、領域(A)だけが形成されたセンサ構造体(図示せず)とを別々に製造し、これを用いて上記補正を行っても良いものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特許第3294605号公報
【特許文献2】特開2006−218169号公報
【特許文献3】特願2010−181364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
ところで上記した補正方法では、少なくとも領域(P)および領域(Q)に対して、それぞれ異なる入射角θp,θqで励起光114を照射する必要がある。
このため、領域(P)と領域(Q)用にそれぞれ光源116を用意することが考えられる。しかしながら、実際には光源116の周囲には偏光フィルターやビームエキスパンダーなどの各種光学装置(図示せず)が取り付けられているため、単に光源116を増やすことは設置スペースの関係からも難しい。他方、光源116を増やすことは装置を大型化させるとともにコスト高を招くおそれもある。
【0028】
本発明はこのような現状に鑑みなされたものであって、測定データの補正やアッセイを簡便な構造で行うことができ、これにより所望のアナライトの検出を高精度に行うことのできる表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、前述したような課題を解決するために発明されたものであって、
本発明のセンサ構造体は、
誘電体部材の上面に、金属薄膜を介することなく蛍光色素層が形成された全反射蛍光リファレンス領域(P)と、金属薄膜を介して蛍光色素層が形成された電場増強蛍光リファレンス領域(Q)と、を少なくとも備え、
前記領域(P)に形成された蛍光色素層と前記領域(Q)に形成された蛍光色素層とが、同一の蛍光色素からなり、
前記誘電体部材側から前記領域(P)と前記領域(Q)のそれぞれに対し、光源より全反射条件となる入射角で励起光が照射されるよう構成された表面プラズモン励起増強蛍光測定装置に用いられるセンサ構造体であって、
前記誘電体部材は、その上面に備えられた前記領域(P)と前記領域(Q)とが、列状に並んだ状態で形成されており、
さらに前記誘電体部材は、
前記センサ構造体と前記光源とを1軸方向にのみ相対移動させて前記光源から前記領域(P)と前記領域(Q)とに励起光を照射させた際に、前記領域(P)に照射される励起光の入射角(θp)と、前記領域(Q)に照射される励起光の入射角(θq)と、の調整が行われる入射角調整手段を、
有することを特徴とする。
【0030】
このようにセンサ構造体の誘電体部材に入射角調整手段を設けることにより、光源とセンサ構造体とを相対的に1軸方向にのみ移動することで、全反射蛍光リファレンス領域(P)と電場増強蛍光リファレンス領域(Q)の両方に、全反射条件となる入射角で励起光を照射することができる。
【0031】
これによりセンサ構造体は簡便な構造で製造も容易でありながらも、測定データの補正やアッセイを確実に行うことができ、これにより所望のアナライトの検出を高精度に行うことができる。したがって臨床検査への応用も可能である。
【0032】
また、本発明のセンサ構造体は、
前記入射角調整手段は、
前記領域(P)の下方と前記領域(Q)の下方に位置する前記誘電体部材のそれぞれの励起光入射面が、それぞれ異なる角度に形成されてなるものであることを特徴とする。
【0033】
このように、誘電体部材に2種類の異なる角度に設定された励起光入射面が並んで設けられていれば、それぞれの励起光入射面を介して領域(P)と領域(Q)の両方に、一つの光源をセンサ構造体に対して1軸方向に相対的に移動するだけで全反射条件となる入射角θp,θqで励起光を照射することができる。
またこのような誘電体部材は、角度の異なる2種類の励起光入射面を有する誘電体部材を別々に製造し、これを組み合わせるだけで簡単に製造できるため構造も簡便である。
【0034】
また、本発明のセンサ構造体は、
前記入射角調整手段は、
前記領域(P)の下方と前記領域(Q)の下方に位置するそれぞれの前記誘電体部材が、それぞれ異なる材質で構成されたものであることを特徴とする。
【0035】
このように、誘電体部材を2種類の異なる材質から成る組合せとすれば、それぞれの誘電体を介して領域(P)と領域(Q)の両方に、一つの光源を移動するだけで全反射条件となる入射角θp,θqで励起光を照射することができる。
またこのような誘電体部材は、異なる2種類の材質からなる誘電体部材同士を組み合わせるだけで簡単に製造できるため、構造も簡便である。
【0036】
また、本発明のセンサ構造体は、
前記誘電体部材は、
その上面に形成された前記領域(P)と前記領域(Q)と列状に並ぶように、さらに金属薄膜を介して特定物質を捕捉するリガンドが設けられたリガンド含有層を有するSPFSアッセイ領域(A)が形成され、
前記領域(A)に形成された金属薄膜が、前記領域(Q)に形成された金属薄膜と同一の金属材料から成るとともに同一の膜厚であることを特徴とする。
【0037】
このように実際に特定物質の検出を行うSPFSアッセイ領域(A)が、領域(P)と領域(Q)とともに誘電体部材の上面に並んで形成されていれば、測定データの補正やアッセイを一つのセンサ構造体だけで行うことができ、検出に要する費用を抑えることができるとともに、SPFS装置にセンサ構造体をセットする回数が一度で済むため、検出に要する時間を少なくすることができる。従って特に臨床検査への応用には、このような構造が好適である。
【0038】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光測定装置は、
上記いずれかに記載のセンサ構造体を配設してなるとともに、前記センサ構造体と1軸方向にのみ相対移動可能な光源を少なくとも備えることを特徴とする。
【0039】
このように、誘電体部材が上記した特徴的な構成を有するセンサ構造体を用い、これに対してセンサ構造体と1軸方向にのみ相対移動可能な光源より、全反射条件となる入射角で励起光を照射するように構成されていれば、測定データの補正やアッセイを簡便な構造で行うことができ、これにより所望のアナライトの検出を高精度に行うことができる。
したがって臨床検査への応用も可能である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、測定データの補正やアッセイを簡便な構造で行うことができ、これにより所望のアナライトの検出を高精度に行うことのできる表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は本発明の第1の実施形態におけるセンサ構造体とこれを用いたSPFS装置の主要部分について説明するための概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示したセンサ構造体の誘電体部材について説明するための概略斜視図である。
【図3】図3は本発明の第2の実施形態におけるセンサ構造体とこれを用いたSPFS装置の主要部分について説明するための概略斜視図である。
【図4】図4は本発明のセンサ構造体の第3の実施形態について説明するための概略斜視図である。
【図5】図5は本発明のセンサ構造体の第4の実施形態について説明するためのものであって、図5(a)は組み立て前の状態を説明するための概略斜視図、図5(b)は組み立て後の状態を説明するための概略斜視図である。
【図6】図6は、従来のSPFS装置の基本的な構造を説明するための概略図である。
【図7】図7は、先願のSPFS装置における測定データの補正方法およびこれを用いたアッセイ方法の概念について説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の第1の実施形態〜第4の実施形態について、図面を用いてより詳細に説明する。なお、第1の実施形態〜第4の実施形態の説明に用いられる図面は、本発明の特徴的部分が際立つように敢えて構成を簡略化して記載しており、基本的なSPFS装置およびセンサ構造体の構成は図示されていないが、当然用いられているものである。
【0043】
本発明の表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体は、測定データの補正やアッセイを簡便な構造で行うことができ、これにより所望のアナライトの検出を高精度に行うことができるものである。
【0044】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光測定装置およびこれに用いられるセンサ構造体を用いた測定値の補正方法については、背景技術の欄で説明した方法と基本的に同じであるため、下記に示した実施形態の説明では、本発明の特徴的な構成を詳しく説明するものとする。
【0045】
<第1の実施形態>
図1に示した本発明の第1の実施形態におけるセンサ構造体30Aとこれを用いたSPFS装置10は、まずセンサ構造体30Aにおいて、誘電体部材32の上面に、金属薄膜34を介することなく蛍光色素層36が形成された全反射蛍光リファレンス領域(P)と、金属薄膜34を介して蛍光色素層36が形成された電場増強蛍光リファレンス領域(Q)と、を備えている。領域(P)と領域(Q)に形成された蛍光色素層36は、同一の蛍光色素から成るものである。
【0046】
また領域(P)と領域(Q)とは、誘電体部材32の上面に並列状に形成されている。
そして誘電体部材32には、領域(P)と領域(Q)の下方に位置する励起光入射面38,40が、それぞれ異なる角度に形成されている。
【0047】
この励起光入射面38,40の角度は、領域(P)と領域(Q)に対し、光源12より全反射条件となる入射角θp,θqで照射される励起光14の角度に合わせて設定されるものであり、領域(P)では誘電体部材32と蛍光色素層36との界面に励起光14が照射されるのに対して、領域(Q)では誘電体部材32と金属薄膜34との界面に励起光14が照射されるため、領域(P)の入射角θpと領域(Q)の入射角θqとでそれぞれ異なっている。なお、図中の符号18は、領域(P)に入射角θpで照射された励起光14が、誘電体部材32と蛍光色素層36との界面で反射された反射光である。
【0048】
本実施形態では、入射角調整手段として誘電体部材32に異なる2種類の角度の励起光入射面38,40を備えることで、光源12より領域(P)と領域(Q)に照射される励起光14の入射角θp,θqをそれぞれ調整できるようにしている。
【0049】
なお、SPFS装置10の構成としては、1つの光源12が移動手段16により1軸方向にのみ移動できるように構成されており、これにより光源12を移動させて領域(P)と領域(Q)に順々に励起光14を照射し、それぞれの領域における蛍光(図示せず)を光検出手段(図示せず)で検出するようにしている。
【0050】
光源12の移動可能な方向は、センサ構造体30Aの領域(P)と領域(Q)とが列状に並んで設けられた方向と同方向であり、この方向に移動可能なように移動手段16を設置すれば良い。
【0051】
このようなSPFS装置10は、センサ構造体30Aの誘電体部材32に励起光入射面38,40を備え、光源12に移動手段16を設けるだけの非常に簡便な構造であり、領域(P)と領域(Q)の2つの領域の蛍光測定を同様の条件下で求めることができる。
【0052】
このため、領域(P)の全反射蛍光シグナルSpと、電場増強蛍光シグナルSqとを光検出手段(図示せず)で測定し、背景技術で説明した式(1)に代入すれば、金属薄膜34による蛍光シグナルの電場増強度Rを算定でき、金属薄膜34による電場増強度の影響具合を正確に求めることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、センサ構造体30Aに対して光源12が移動できるようになっているが、逆に光源12に対してセンサ構造体30Aが移動できるようになっていても良いものであり、両者が相対的に1軸方向に移動できるよういずれかに移動手段16が設けられていればどちらが移動しても構わないものである。
【0054】
移動手段16の具体的な構造については、1軸方向に移動できる構造であれば特に限定されるものではないが、例えばレール(図示せず)上に光源12もしくはセンサ構造体30Aを設置し、これが1軸方向に移動するような構成であれば、簡便な構造であるため好ましい。
【0055】
また誘電体部材32は、図2に示したように領域(P)に位置する誘電体部材32aと領域(Q)に位置する誘電体部材32bとで別々に製造しておき、これを接合して一体化することで容易に製造が可能である。当然ながら一回の成形で誘電体部材32を設けても良いものである。
【0056】
なお、誘電体部材32aと誘電体部材32bとの接合方法は特に限定されないが、例えば接着剤を介して接合することができる。
このように本実施形態におけるSPFS装置10およびセンサ構造体30Aでは、光源12を新たに設ける必要もなく、SPFS装置10を必要以上に大型化することもなく、製造コストも極力抑えることができる。
【0057】
<第2の実施形態>
次に本発明の第2の実施形態について、図3を用いて説明する。
図3に示したセンサ構造体30Bとこれを用いたSPFS装置10は、図1に示した第1の実施形態のセンサ構造体30Aとこれを用いたSPFS装置10と基本的には同じ構成であるので、同じ構成部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0058】
図3に示したセンサ構造体30Bは、誘電体部材32の上面に金属薄膜34を介して特定物質を捕捉するリガンドが設けられたリガンド含有層44を有するSPFSアッセイ領域(A)が、領域(P)と領域(Q)と同じように列状に並んで形成されている点のみ、実施形態1と異なっている。
【0059】
なお、領域(A)に設けられた金属薄膜34は、領域(Q)に設けられた金属薄膜34と、同一の金属材料からなるとともに同一の膜厚である。
このため、領域(A)の誘電体部材32の励起光入射面42は、領域(Q)の誘電体部材32の励起光入射面40と同じ角度に設定されている。
【0060】
このように実際の測定用の領域(A)と、補正用の電場増強度を求めるための領域(P)と領域(Q)とが、一つの誘電体部材32上に形成されていれば、測定データの補正やアッセイを一つのセンサ構造体30Bだけで行うことができ、検出に要する費用を抑えることができるとともに、SPFS装置10にセンサ構造体30Bをセットする回数が1回で済むため、検出に要する時間を少なくすることができる。
【0061】
従って特に臨床検査への応用には、このような領域(A),領域(P),領域(Q)が一つとなった構造が好適である。
【0062】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について、図4を用いて説明する。
【0063】
図4に示したセンサ構造体30Cは、図1に示した第1の実施形態のセンサ構造体30Aと基本的には同じ構成であるので、同じ構成部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0064】
図4に示したセンサ構造体30Cは、領域(P)の下方と領域(Q)の下方に位置するそれぞれの誘電体部材32c,32dが、それぞれ異なる材質で構成されたものである点のみ、実施形態1と異なっている。
【0065】
このように、誘電体部材32を2種類の異なる材質から成る組合せとすれば、それぞれの誘電体部材32c,32dを介して領域(P)と領域(Q)の両方に、全反射条件となる入射角θp,θqで励起光14を照射することができる。
【0066】
またこのような誘電体部材32は、誘電体部材32cと誘電体部材32dとを異なる材料で別々に成形しておき、これを後で接着剤などを介して組み合わせることで容易に製造できる。さらに二色成形(ダブルモールド)法を用いれば接着剤の必要がなく、より簡単に製造ができる。
【0067】
<第4の実施形態>
次に、本発明の第4の実施形態について、図5を用いて説明する。
図5に示したセンサ構造体30Dは、図1に示した第1の実施形態のセンサ構造体30Aと基本的には同じ構成であるので、同じ構成部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
【0068】
図5に示したセンサ構造体30Dは、励起光入射面38,40を有する誘電体部材32e,32fと、板状に形成された誘電体部材32g,32hとを別々に製造し、これを後で組み合わせる構造となっている点のみ、実施形態1と異なっている。
【0069】
このようなセンサ構造体30Dは、まず図5(a)に示したように励起光入射面38,40を有する誘電体部材32e,32fと、板状に形成された誘電体部材32g,32hとを別々に製造する。
【0070】
そして板状に形成された誘電体部材32g,32hの上面の領域(Q)にのみ金属薄膜34を形成し、次いで領域(P)と領域(Q)とに同様の蛍光色素層36を形成する。
さらにこのように別々に形成した誘電体部材32e,32fと誘電体部材32g,32hとを図5(b)に示したように積層することにより、センサ構造体30Dが構成される。
【0071】
なお、誘電体部材32e,32fと誘電体部材32g,32hとの積層方法は特に限定されないが、例えば接着剤を介して積層することができる。
このような構造を有するセンサ構造体30Dは、励起光14の入射角に応じて組合せを変えることが容易となるため、いろいろな条件の構造を容易に作り出すことができるとともに板状の誘電体部材32g,32hを繰り返し使用することができるため、汎用性も高く製造コストも抑えることができる。
【0072】
以上、本発明のSPFS装置10およびこれに用いられるセンサ構造体30A〜30Dの好ましい形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、例えば第1の実施形態と第4の実施形態が組み合わさった構造としたり、第2の実施形態のような領域(A)を第3の実施形態に設けたり、第3の実施形態において第4の実施形態のような構造とするなどしても良いものである。
【0073】
また、本発明のSPFS装置10およびこれに用いられるセンサ構造体30A〜30Dのそれぞれの構成については、基本的には従来よりSPFS装置およびセンサ構造体で用いられているものと同様のものを用いることができ、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0074】
10・・・表面プラズモン励起増強蛍光測定装置(SPFS装置)
12・・・光源
14・・・励起光
16・・・移動手段
18・・・反射光
30A〜30D・・・センサ構造体
32・・・誘電体部材
32a〜32h・・・誘電体部材
34・・・金属薄膜
36・・・蛍光色素層
38・・・励起光入射面
40・・・励起光入射面
42・・・励起光入射面
44・・・リガンド含有層
P・・・全反射蛍光リファレンス領域
Q・・・電場増強蛍光リファレンス領域
A・・・SPFSアッセイ領域
θp・・入射角
θq・・入射角
θa・・入射角
Sp・・全反射蛍光シグナル
Sq・・電場増強蛍光シグナル
Sa・・SPFS蛍光シグナル
100・・・表面プラズモン励起増強蛍光測定装置(SPFS装置)
102・・・誘電体部材
104・・・金属薄膜
106・・・リガンド含有層
108・・・流路
112・・・センサ構造体
114・・・励起光
116・・・光源
118・・・反射光
120・・・受光手段
122・・・蛍光
124・・・光検出手段
126・・・集光部材
128・・・波長選択機能部材
130・・・蛍光色素層
132・・・アナライト
134・・・蛍光物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体部材の上面に、金属薄膜を介することなく蛍光色素層が形成された全反射蛍光リファレンス領域(P)と、金属薄膜を介して蛍光色素層が形成された電場増強蛍光リファレンス領域(Q)と、を少なくとも備え、
前記領域(P)に形成された蛍光色素層と前記領域(Q)に形成された蛍光色素層とが、同一の蛍光色素からなり、
前記誘電体部材側から前記領域(P)と前記領域(Q)のそれぞれに対し、光源より全反射条件となる入射角で励起光が照射されるよう構成された表面プラズモン励起増強蛍光測定装置に用いられるセンサ構造体であって、
前記誘電体部材は、その上面に備えられた前記領域(P)と前記領域(Q)とが、列状に並んだ状態で形成されており、
さらに前記誘電体部材は、
前記センサ構造体と前記光源とを1軸方向にのみ相対移動させて前記光源から前記領域(P)と前記領域(Q)とに励起光を照射させた際に、前記領域(P)に照射される励起光の入射角(θp)と、前記領域(Q)に照射される励起光の入射角(θq)と、の調整が行われる入射角調整手段を、
有することを特徴とするセンサ構造体。
【請求項2】
前記入射角調整手段は、
前記領域(P)の下方と前記領域(Q)の下方に位置する前記誘電体部材のそれぞれの励起光入射面が、それぞれ異なる角度に形成されてなるものであることを特徴とする請求項1に記載のセンサ構造体。
【請求項3】
前記入射角調整手段は、
前記領域(P)の下方と前記領域(Q)の下方に位置するそれぞれの前記誘電体部材が、それぞれ異なる材質で構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のセンサ構造体。
【請求項4】
前記誘電体部材は、
その上面に形成された前記領域(P)と前記領域(Q)と列状に並ぶように、さらに金属薄膜を介して特定物質を捕捉するリガンドが設けられたリガンド含有層を有するSPFSアッセイ領域(A)が形成され、
前記領域(A)に形成された金属薄膜が、前記領域(Q)に形成された金属薄膜と同一の金属材料から成るとともに同一の膜厚であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセンサ構造体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のセンサ構造体を配設してなるとともに、前記センサ構造体と1軸方向にのみ相対移動可能な光源を少なくとも備えることを特徴とする表面プラズモン励起増強蛍光測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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