説明

表面保護シート

【課題】水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護するための好適な表面保護シートを提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される表面保護シート10は、少なくとも表面部11Aがオレフィン系ポリマー成形材料から成る単層又は積層構造の基材層11と、前記基材層の前記表面部とは反対側に形成され、被着体Sの表面に貼り付けられる粘着剤層18とを備えており、ここで前記基材層の表面部は、該表面部に容積40μLの水滴を滴下して該水滴が該滴下位置から転がり始める最小の傾斜角が水平面を基準として40°未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水溶液を用いた鹸化処理、水洗、等の水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護する表面保護シートであって、少なくとも上記水処理が行われている間の該被着体の表面を保護する表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
種々の用途に用いられている合成樹脂製品、セラミック製品(ガラス製品を包含する。以下同じ。)、金属製品等の表面を保護する目的で、ポリマー製(合成樹脂製、ゴム製を包含する。以下同じ。)の表面保護シート(表面保護フィルムともいう。)が使用されている。
例えば、特許文献1には、電子部品に設けられているリードフレーム金属板等をメッキ処理する際に非メッキ部分のマスキング用(保護用)に用いられる表面保護シート(マスキングシート)が記載されている。また、特許文献2には、光学製品用樹脂フィルムをロール状に巻き取ったり、または積み重ねて保管する際の該フィルムの表面を保護する目的に用いられるポリエチレン系表面保護フィルムが記載されている。また、特許文献3には、最表面にハードコート層または反射防止層を有する光学部材としての樹脂板の表面を長期にわたって保護する目的に使用される光学部材用表面保護フィルムが記載されている。
かかる表面保護シートは、一般に、被着体に貼り付けた際に当該被着体の表面(即ち保護される側の表面)を構成する基材と、当該表面保護シートを被着体に貼り付けるための粘着剤層とを備えるポリマー積層体として製造される。そして、かかる積層構造のポリマー製表面保護シートは、被着体の表面保護が必要な時期が終了すれば当該被着体から剥がされる形態の製品である。従って、この種の表面保護シートに望まれる一般的な性能として、表面保護が要求される時期には当該被着体に確実に接着されることと、表面保護を必要とする時期がすぎれば当該被着体の表面から容易に引き剥がすことができること(即ち被着体に対する非汚染性)との両立が要求される。上述した特許文献2や3に記載されている表面保護フィルム類についても、かかる表面保護シートに求められる一般的な要求(接着性能、非汚染性能)が考慮されている。
【0003】
ところで、上記接着性能や非汚染性能のような用途に拘わらず表面保護シートに広く求められる一般性能の他に、表面保護シートの用途に応じた特別な性能が求められる場合がある。例えば、上述した特許文献1に記載のマスキングテープでは、電子部品に設けられているリードフレーム金属板等をメッキ処理する際の非メッキ部分をマスキング(保護)するという用途から、特に優れた貼り付け精度を実現することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−49136号公報
【特許文献2】特開2005−28619公報
【特許文献3】特開2008−304672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
用途に応じた特別な性能の一つとして、被着体が何らかの水処理を伴うプロセスを経て製造されるか或いは使用される形態のものである場合には、当該水処理に対して被着体の表面を保護するべく、かかる用途に用いられる表面保護シートに要求される高い耐水性や撥水性が挙げられる。
例えば、液晶テレビ等の液晶表示装置に用いられている偏光板は、典型的には、ヨウ素または二色性染料で染色したポリビニルアルコール(PVA)系樹脂から成る偏光フィルム(偏光子)と該偏光フィルムの両側若しくは片側に貼り付けられるトリアセチルセルロース(TAC)等から成る透明保護フィルム(以下「TACフィルム」と略称する。)とを有する積層構造体として形成されているが、かかる偏光板のTACフィルムの一方の表面をアルカリ水溶液で鹸化処理する場合がある。
具体的には、上記積層構造の偏光板(若しくは偏光子に貼り合わせる前のTACフィルム)をアルカリ水溶液に浸漬し、目的とするTACフィルムの一方の表面を親水化する鹸化処理が行われる。このとき、親水化を要しない偏光板の他方の表面(若しくは偏光子に貼り合わせる前のTACフィルムを鹸化処理する場合は親水化を要しない他方の表面)がアルカリ水溶液によって浸食(影響)されないように、ポリマー製表面保護シートを貼り付けることが行われる。特に、上記鹸化処理に供される偏光板(若しくはTACフィルム)の上記親水化を要しない側の表面には、予め種々の機能性表面、例えばアンチグレア(AG)処理面、アンチリフレクション(AR)処理面、等が形成されている場合も多く、かかる機能性表面がアルカリ水溶液によって浸食されることを防止するという面からも当該機能性表面に表面保護シートを貼り付けることは重要である。
【0006】
従来、かかるアルカリ水溶液を用いる鹸化処理その他の水処理に供される被着体の表面(例えば上記偏光板の機能性表面)を保護する用途に用いられる表面保護シートとしては、上記一般性能を具備するほかに、表面保護シートの基材表面が高い撥水性(即ち、水分が表面保護シート表面ではじかれて水分が容易に除去される性質)を有することが好ましいとされている。即ち、撥水性が低いと、水処理で使用した水または溶液が表面保護シートの表面に長期にわたって残留するため、水処理終了後の当該表面保護シートが用済みとなった段階で当該表面保護シートを被着体から引き剥がした際に上記残留水分が保護すべき被着体の表面に付着する虞がある。また、上記の鹸化処理を例にすれば、撥水性が低いことにより表面保護シートの表面にアルカリ溶液が残留した場合、当該溶液中の水分が蒸発した後は、高濃度のアルカリ成分が表面保護シートの表面に点状に残留することとなり、その場合には当該表面保護シートが用済みとなった段階で当該表面保護シートを被着体から引き剥がした際に上記残留アルカリ成分が保護すべき被着体の表面に付着する虞があり、好ましくない。
【0007】
上記課題を解決するべく、この種の用途に用いる表面保護シートとしては、基材表面の撥水性(若しくは疎水性)を向上させるべく、基材表面に種々の離型処理が施されていた。例えば、この種の離型処理として表面保護シートの基材表面をシリコーン系或いはフッ素系の撥水剤で処理することが挙げられる。
しかし、かかる離型処理を行うことは、表面保護シート製造工程が煩雑となり、また、その離型処理工程の分だけ表面保護シートの製造コストが増大することになり好ましくない。
【0008】
そこで、本発明は、この種の用途に用いられるポリマー製表面保護シートにおける上記従来の課題を解決するべく創出されたものである。
即ち、本発明の一つの目的は、水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護するための表面保護シート(即ち少なくとも当該水処理が行われている間の該被着体の表面を保護する表面保護シート)であって、上記製造コスト増につながる煩雑な離型処理を行うことなく撥水性に優れる表面保護シートを提供することである。
また、そのような性状の表面保護シートを好適に製造する方法を提供することを他の一つの目的とする。また、そのような性状の表面保護シートが貼り付けられた被着体を提供することを他の一つの目的とする。また、そのような性状の表面保護シートを貼り付けることを特徴とする被着体の水処理方法(例えばアルカリ水溶液による鹸化方法)を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく本発明によって被着体の表面を保護する表面保護シートが提供される。
即ち、ここで開示される表面保護シートの好ましい一態様は、水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護するための表面保護シートであって、少なくとも当該水処理が行われている間の当該被着体の表面を保護するための表面保護シートである。
この表面保護シートは、少なくとも表面部がオレフィン系ポリマー成形材料から成る、単層または積層構造(典型的には二層若しくは三層構造)の基材層と、該基材層の該表面部とは反対側に形成され、上記被着体の表面に貼り付けられる粘着剤層とを備えている。
そして、上記基材層のオレフィン系ポリマー成形材料から成る表面部は、該表面部に容積40μLの水滴を滴下して該水滴が該滴下位置から転がり始める最小の傾斜角(以下「水滴転がり傾斜角」と略称する。)が水平面を基準として40°(度)未満であるであることを特徴とする。
【0010】
ここで「水処理」とは、水若しくは水系溶媒(例えばエタノールやメタノール等の低級アルコールを少量含む水/アルコール混合液)、あるいは水若しくは水系溶媒に種々の物質が含有されて成る溶液または分散液を、所定の被着体の表面に供給(典型的には被着体表面への塗布若しくは被着体自体を浸漬する。)して行う処理全般をいう。例えば、上述の偏光板を構成するTACフィルムの表面をアルカリ水溶液に浸漬して行う鹸化処理、或いは、当該鹸化処理を行った後に行われる水洗処理(すなわちアルカリ成分を洗い流す処理)は、ここでいう水処理に包含される典型例である。
【0011】
本発明者は、上記用途の表面保護シート(以下「水処理用表面保護シート」と略称するが、単なる略称であって本発明の表面保護シートを水処理時にのみ用いることを意図したものではない。)の撥水性の向上を種々検討している過程において、撥水性の指標として周知である水の接触角とは異なる指標として上記水滴転がり傾斜角を採用し、かかる水滴転がり傾斜角が所定の角度以下となるように基材層の表面を形成することにより、水処理用表面保護シートとして好ましい表面撥水性(優れた水切り性)を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、ここで開示される水処理用表面保護シートは、基材層の少なくとも表面部が上記の「水滴転がり傾斜角」が水平面を基準として40°未満となるように形成されていることにより、従来のような基材層表面を離型処理(例えばシリコーン系樹脂から成る離型剤の付与)することなく、典型的には成形された状態そのままの何ら離型処理を施していないオレフィン系ポリマー成形材料から成る基材層表面において、所定の水処理の際に付着した水分(液滴)を好適に除去し得る優れた撥水性を有する。
従って、ここで開示される水処理用表面保護シートによると、煩雑な処理工程の増加と製造コスト増を招く離型処理を行うことなく、優れた撥水性を実現し、結果、目的とする被着体の表面を水処理から保護すると共に、水処理後の残留液滴や残留溶質成分(例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ成分)によって表面保護シートを剥離する際に生じ得る被着体表面に対する悪影響を未然に回避することができる。
【0012】
ここで開示される水処理用表面保護シートの好ましい一態様では、上記基材層のオレフィン系ポリマー成形材料から成る表面部は、水に対する接触角が90°(度)以上であり、且つ、70vol%エタノール水溶液(水とエタノールとが3:7の容積混合比で混合されたエタノール水溶液)に対する接触角が41°(度)以下であることを特徴とする。
上記水滴転がり傾斜角を具備することに加えてかかる接触角を示す水処理用表面保護シートによると、より優れた撥水性(水切りの良さ)を実現し、水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面をより好適に保護することができる。
【0013】
ここで開示される水処理用表面保護シートのさらに好ましい一態様では、上記基材層は、ダイス温度が200℃以上に設定されて行われた押出成形により形成されていることを特徴とする。
ダイス温度が200℃以上に設定された比較的高温域でオレフィン系ポリマー成形材料からなる成形材料を用いて押出成形(例えばTダイ成形法やインフレーション成形法)を行うことによって、上記の好ましい水滴転がり傾斜角を具備する基材層(少なくとも粘着剤層とは反対側の基材層表面部)を好適に形成することができる。
従って、本態様の水処理用表面保護シートによると、より安定した好ましい撥水性を実現することができる。
【0014】
ここで開示される水処理用表面保護シートのさらに好ましい一態様では、上記基材層は全体が一種または複数種のオレフィン系ポリマー成形材料から成り、且つ、上記粘着剤層は、該一種または複数種のオレフィン系ポリマー成形材料から成る基材層とともにダイス温度200℃以上の設定で共押出成形可能な高分子成形材料によって形成されていることを特徴とする。
このような基材層と粘着剤層との組み合わせであると、共押出成形によって効率よく水処理用表面保護シートが製造される。また、共押出成形により製造されるため、水処理用表面保護シート全体の薄層化を図ることができる。従って、質感に優れる水処理用表面保護シートが提供される。
【0015】
また、ここで開示される水処理用表面保護シートの好ましい他の態様では、粘着剤層のアクリル板への粘着力が1N/20mm以上であることを特徴とする。
かかる粘着力を有する粘着剤層を備えることにより、表面保護シートとして望まれる基本性能(粘着性)を具備した使用勝手のよい水処理用表面保護シートが提供される。
【0016】
また、上記本発明の目的を実現する好適な用途として、上記被着体が液晶表示装置等に用いられる光学部材、典型的には偏光板またはその構成フィルムが挙げられる。従って、ここで開示される水処理用表面保護シートの好適な一態様は、上記水処理として該被着体(即ち偏光板または上記TACフィルムのような偏光板構成部材を包含する光学部材)にアルカリ水溶液を供給する鹸化処理を包含することを特徴とする、偏光板またはその構成フィルムの表面を保護するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る水処理用表面保護シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る水処理用表面保護シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る水処理用表面保護シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】表面保護シートの基材層表面の水滴付着性を評価する手順を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、製品として実際に提供される本発明の表面保護シートのサイズ・縮尺を正確に表したものではない。
【0019】
ここで開示される水処理用表面保護シートは、上述した表面特性を有し且つ少なくともその表面部がオレフィン系ポリマー成形材料によって形成されている基材層を有する保護シートである。先ず、ここで開示される水処理用表面保護シートの大まかな構成について図面を参照しつつ説明する。
本発明によって提供される表面保護シートのなかで最もシンプルな構成の一つの実施形態(被着体Sに貼り付けた状態)を図1に模式的に示す。この図に示すように、ここで開示される水処理用表面保護シート10は、全体がオレフィン系ポリマー成形材料(例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするポリマー成形材料)から成る基材層(即ち本実施形態では単層構造の基材層)11とその基材層11の一方の面側に形成され、被着体Sに対する貼付面を構成する粘着剤層18とから構成されている。この図の上面となる基材層表面部11Aが、上述した撥水性能を発揮する表面部11Aである。
【0020】
また、図2には、他の実施形態として、基材層21が多層構造により構成されていることを特徴とする表面保護シート20を示している。即ち、本実施形態に係る表面保護シート20では、基材層21が相互に組成の異なるポリマー成形材料から構成された第1基材層22と第2基材層23とから成る積層構造の基材層21である。第1基材層22はオレフィン系ポリマー成形材料から形成され、本実施形態に係る表面部を構成する。この図の上面となる基材層表面部22Aが上述した撥水性能を発揮する表面部22Aである。また、第2基材層23は、二層構造の基材層21のうちの内部層を構成しており、かかる層を形成する材料を適宜選択することによって、種々の性質(例えば帯電防止性能)を表面保護シート20に付与することもできる。
【0021】
従来のこの種の表面保護シートと同様、ここで開示される水処理用表面保護シート10,20についても、図3に示すように、被着体Sに貼り付ける前の保管状態(即ち使用前状態)においては、取扱いを容易とする等の理由によって粘着剤層18の表面にセパレータ(剥離ライナー)30を仮着させておくことができる。
以下、ここで開示される水処理用表面保護シートの組成ならびに好適な成形方法(製造方法)を説明する。
【0022】
ここで開示される表面保護シートを構成する基材層は、単層構造の基材層であるか或いは多層から成る積層構造の基材層であるかに拘わらず、その表面部がオレフィン系ポリマーにより構成され且つ上記の撥水性に関わる特性を備えた基材層である。
本明細書において「オレフィン系ポリマー成形材料」とは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする成形材料をいう。
例えば、基材層を形成するためのオレフィン系ポリマー成形材料を構成する主成分たるポリオレフィン系樹脂成分としては、単独系樹脂(例えばホモポリプロピレン)が挙げられる。また、エチレン成分と他のオレフィンモノマー成分とからなるブロック系樹脂が挙げられる。或いはまた、ランダム系等のプロピレン系樹脂が挙げられる。或いはまた、低密度、高密度、直鎖状低密度、超低密度等のエチレン系樹脂が挙げられる。上記列挙したこれらポリオレフィン系樹脂成分は、上記撥水性を基材層の表面部に付与する目的に特に好ましい。なお、樹脂成分を複数種類使用する場合には、相溶性の観点から樹脂成分の組合せを考慮すると良い。相溶性が低い樹脂成分の組合せから成るポリマー成形材料から形成された基材層は、その表面部の表面粗さ(Ra)が高くなるため、好ましくない。基材層の表面部の表面粗さ(Ra)が1μm以下となるように基材層を形成することが好ましい。なお、相溶性に関しては当該分野の技術常識であるため、詳細な説明は省略する。
【0023】
また、図2に示すような積層構造の基材層を形成する場合、上記列挙したポリオレフィン系樹脂成分のうちから適宜選択して基材層の表面部と内部層とを好ましく形成することができる。或いは、積層構造の基材層のうちの内部層(例えば図2の第2基材層23)を形成する場合には、上記列挙したポリオレフィン系樹脂成分の他、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のエチレンと極性モノマーとの共重合体を好適に用いることができる。
【0024】
また、オレフィン系ポリマー成形材料の調製にあたっては、上記したような樹脂成分の他に、基材層の表面部の水滴転がり傾斜角や表面粗さを損なわない限りにおいて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えばヒンダードアミン系光安定剤)、帯電防止剤、充填剤(酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、等)、顔料、目ヤニ防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤等の補助的成分を適当量配合することができる。
【0025】
上記のような各種成分を用いて調製した成形材料を用いて基材層を形成する。典型的には、押出成形によって所定のサイズ・厚みの基材層を形成することができる。用途に応じて異なり得るため、特に制限はないが、基材層の厚さは20μm〜300μm程度が適当であり、偏光板(偏光フィルム)等の光学部材の表面を保護する用途の場合には、30μm〜250μm程度が好ましく、40μm〜200μm程度が特に好ましい。
【0026】
基材層の形成にあたっては、基材層表面部が上述したような撥水性に関する特性(即ち、水滴転がり傾斜角、或いはさらに水やアルコール溶液の接触角、表面粗さ)を具備するように、押出成形条件を適宜調整するとよい。
例えば、ダイス温度を200℃以上に設定するとともに、押出速度を適宜調整することにより、ポリプロピレン樹脂等を主成分とするオレフィン系ポリマー材料を押出成形(典型的にはTダイ成形法やインフレーション成形法)することにより、所望する撥水性その他の性質を備える基材層を形成することができる。
水滴転がり傾斜角が基材層表面部を水平としたときの水平面(即ち角度0)を基準として40°未満とすることが好ましい。本発明者は、上記水滴転がり傾斜角が40°未満となるようにオレフィン系ポリマー成形材料から基材層表面部を形成することによって、離型処理を施すことなく、当該基材層表面部に付着した水滴が容易に除去されることを見出した。具体的には、上記水滴転がり傾斜角を40°未満とすることにより、基材層表面からの水滴の飛散性が大幅に改善され得る。即ち、水滴転がり傾斜角は、風による飛散性や水処理工程中で容易に水を除去できる指標として好適である。
ここで開示される水処理用表面保護シートは、基材層表面部の水滴転がり傾斜角が40°未満であることにより、水処理により基材層の表面部に付着した液滴を小さな風力で当該表面部から飛散させ除去することができる。また、典型的には、基材層(即ち表面保護シートが貼り付けられた被着体)を水滴転がり傾斜角またはそれ以上に傾斜させることによって、熱を加えた乾燥処理や通風処理を行うことなく、基材層の表面部に付着した液滴を除去することができる。かかる目的には、水滴転がり傾斜角が35°以下であることがより好ましく、30°以下であることが特に好ましい。なお、かかる水滴転がり傾斜角は後述する実施例で行ったような評価手段で簡単に調べることができることも、撥水性の指標として好ましい。
【0027】
また、水滴転がり傾斜角に加えて補助的な指標として、撥水性、疎水性等に関する一般的な指標である水、アルコール溶液等に対する接触角、あるいは表面粗さ(Ra)を採用し、複数の指標で基材層の表面部の性状を評価することができる。
例えば、上記水滴転がり傾斜角が40°未満であって、基材層表面部の水に対する接触角が90°以上(典型的には95°以上、特に100°以上)であり、且つ、70vol%エタノール水溶液(配合比 水:エタノール=3:7)に対する接触角が41°以下(典型的には40°以下、特に38°以下、さらには35°以下)であることが好ましい。水に対する接触角が90°未満であったり或いは70vol%エタノール水溶液に対する接触角が41°を上回ったりした場合には、基材層表面部における液滴の接触面積が増大し、水処理後の残留液滴の除去効率(飛散性)が低下するため好ましくない。なお、これら指標は、あくまでも補助的な指標であり、水滴転がり傾斜角の代替となる位置づけの指標ではない。
【0028】
次にここで開示される水処理用表面保護シートを構成する粘着剤層について説明する。粘着剤層は、ここで開示される水処理用表面保護シートが適用される環境下において使用され得る材質のものであれば、特に制限なく採用することができる。
好ましい粘着剤の例示として、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤が挙げられる。
光学部材(偏光板等)の機能性表面(例えばAG処理面、AR処理面)のような表面活性度の高い被着体表面に用いられるという観点からは、非極性な天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤が好ましく、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等からなる粘着剤が特に好ましい。これらオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等から成る熱可塑性粘着剤は、水処理に用いられる水系溶媒(例えばアルカリ水溶液や洗浄水)に対して疎水性であるため、表面保護シートの側面から被着体表面と粘着剤層表面との間の界面に水系溶媒が浸入し得る状態となった際にも該疎水性によって水系溶媒の内部への浸入を抑制することができる。また、これら粘着剤組成物は熱可塑性であるため、常温以上の加熱によって粘着剤が徐々に変形し、被着体表面と粘着剤層表面との間の界面を埋めることによる液浸入防止効果を奏することもできる。
【0029】
粘着剤層としては、所定の被着体(例えばアクリル板)への粘着力が1N/20mm以上であるものが適当であり、1.2〜10N/20mm程度であることが好ましく、1.5〜5N/20mm程度がより好ましい。このような粘着力を有することにより、水処理工程時において、例えば洗浄液が被着体に対してスプレーされた状態においても、或いは、水処理後の乾燥工程時に乾燥用のエアー(風)が被着体に吹き付けられたような状態においても、当該エアーや洗浄液が被着体表面と粘着剤層表面との間の界面に浸入するのを防止するのに充分な粘着状態(シール性能)を保つことができる。
このような粘着力を実現するのに好適なオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレンモノマーと他のオレフィンモノマーとの共重合体が挙げられる。具体的には、プロピレンモノマーと、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン等のうちの1種もしくは2種以上からなるモノマーとの共重合体、等が挙げられる。このようなエラストマー成形材料は、例えば、NOTIO(登録商標:三井化学株式会社製品)、VISTAMAXX(登録商標:エクソンモービル社製品)として市販されており、容易に入手することができる。
【0030】
また、上記のような粘着力を実現するのに好適なスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレンやα−メチルスチレンモノマーとジエンモノマーとの共重合体の水添物、スチレンやα−メチルスチレンモノマーとイソブチレンモノマーとの共重合体が挙げられる。具体的には、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水添スチレンブタジエンゴム(HSBR)、スチレン−1,4ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、等が挙げられる。このようなエラストマー成形材料は、例えば、タフテック(登録商標:旭化成ケミカルズ株式会社製品)、SIBSTAR(登録商標:株式会社カネカ製品)として市販されており、容易に入手することができる。
なお、本発明の実施にあたっては、上述したいずれかの粘着剤組成物を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、粘着剤層形成用の高分子成形材料の調製にあたっては、その主成分たる上記粘着剤組成物(好ましくは上記したような熱可塑性エラストマー)の他に、粘着特性の制御等を目的として、軟化剤、オレフィン系ポリマー、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、リン酸エステル系化合物、粘着付与剤、老化防止剤、光安定剤(例えばヒンダードアミン系光安定剤)、紫外線吸収剤、充填剤(酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、等)、顔料、等の補助的成分を適当量配合することができる。
また、従来よく行われているように、粘着剤層の表面に例えばコロナ放電処理、紫外線照射処理、火炎処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理、等の粘着性の制御や貼付作業性等を目的とした表面処理を必要に応じて施してもよい。
【0032】
上記のような各種成分より調製した粘着剤層形成用高分子成形材料を用いて目的の粘着剤層を形成する。かかる粘着剤層の形成方法としては、従来のこの種の表面保護シートの粘着剤層を形成する場合と同様の公知の方法を採用することができる。
典型的には、粘着剤層形成用高分子成形材料を所定の溶剤に添加して調製した溶液や熱溶融液を基材層の表面に塗布する方法が挙げられる。また、セパレータ上に塗布形成した粘着剤層を基材層の対向する面に移着する方法を採用してもよい。或いはまた、粘着剤層形成用高分子材料を基材層上に押出成形しつつ塗布していく方法を好適に採用することができる。
特にここで開示される水処理用表面保護シートを製造する場合の好適な方法として、上述した基材層成形材料(特にオレフィン系ポリマー材料)と粘着剤組成物とをあわせて使用して共押出成形(好ましくはダイス温度が200℃以上に設定される。)を行い、基材層と同時に粘着剤層を形成する方法が挙げられる。かかる共押出成形法は、生産性、投錨性の観点から好ましい。共押出法としては、一般にTダイ法或いはインフレーション法がよく知られているが、ここで開示される水処理用表面保護シートは、使用する成形材料に応じて何れの共押出成形法を採用してもよい。
【0033】
用途に応じて異なり得るため、特に制限はないが、粘着剤層の厚みは1μm〜50μm程度が適当であり、2μm〜40μm程度が好ましく、偏光板(偏光フィルム)等の光学部材の表面を保護する用途の場合には、3μm〜20μm程度が特に好ましい。
なお、上述した図3に示すように、粘着層は必要に応じて、実用に供されるまでの間、セパレータなどを仮着して保護することもできる。かかるセパレータの材質や仮着の態様は、従来のこの種の表面保護シートと同様でよく、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0034】
以上、本発明の水処理用表面保護シートの構成と、製造のための成形材料ならびに製造(成形)方法について詳細に説明したが、かかる説明から明らかなように、本発明は水処理用表面保護シートの基材層の表面の撥水性(疎水性)に関する性状を上記水滴転がり傾斜角を指標として判定することにより、製造工程或いは使用前の加工・調整工程において行われるような水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護するのに適する基材層を備える表面保護シートを製造若しくは選別するものである。
従って、本発明の水処理用表面保護シートの適用対象は、かかる水処理を伴う被着体であれば特に制限がない。本発明の目的を実現する好ましい被着体としては、水処理を伴う種々の用途の光学部材(光学フィルム)、金属板、塗装した金属板、アルミサッシ、樹脂板、化粧鋼板、塩化ビニルラミネート鋼板、塗装鋼板、高分子フィルム、シリコン基板やガラス基板等のセラミック製品、磁気ディスク等が挙げられる。ここで開示される水処理用表面保護シートは、これら被着体において塗装処理、メッキ処理、水洗処理、酸処理、アルカリ処理等の水処理が行われる際の表面保護に好適である。
特に、所定の水処理によってダメージを受けやすい表面を有する被着体の表面保護に好適に使用することができる。例えば、種々の表面加工によって機能性表面が形成されている光学部材、特に水処理としてアルカリ鹸化処理が製造プロセスにおいて行われる偏光板(偏光フィルム)の機能性表面(例えば上述したAG処理面やAR処理面)を保護する用途に好ましく使用することができる。
【0035】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0036】
<実施例1:表面保護シートの作製(1)>
230℃におけるメルトフローレート(Melt flow rate‐MFR)が0.9g/10minである密度0.9g/cmのブロックポリプロピレンから成るポリマー成形材料を240℃に昇温したTダイ成形機を用いて押出成形し、厚み40μmの基材層を形成した。
その後、予め調製しておいたスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(株式会社カネカ製品:SIBSTAR(登録商標)073T)のトルエン溶液を上記押出成形された基材層に塗布した。該塗布膜の乾燥後の粘着剤層の厚みは5μmであった。
以上のようにして厚み40μmの基材層と厚み5μmの粘着剤層とから成る本実施例に係る水処理用表面保護シートを作製した。
【0037】
<実施例2:表面保護シートの作製(2)>
190℃におけるメルトフローレートが10.0g/10minである密度0.924g/cmの低密度ポリエチレンから成るポリマー成形材料を共押出用Tダイ成形機(ダイス温度200℃)に供給した。
同時に、スチレン−エチレン−ブチレンランダム共重合体(JSR株式会社製品:ダイナロン(登録商標)2324P)からなる溶融した粘着層形成用高分子成形材料を上記Tダイ成形機に供給し、ダイス温度200度で共押出成形を行った。
これにより、厚み50μmの基材層と厚み10μmの粘着剤層とから成る本実施例に係る水処理用表面保護シートを作製した。
【0038】
<実施例3:表面保護シートの作製(3)>
本実施例では、積層構造の基材層を形成した。即ち、190℃におけるメルトフローレートが10.0g/10minである密度0.924g/cmの低密度ポリエチレン100質量部に対して230℃におけるメルトフローレートが2.5g/10minである密度0.90g/cmのランダムポリプロピレン30質量部を添加して成る基材表面層形成用第1ポリマー成形材料と、190℃におけるメルトフローレートが2.0g/10minである密度0.924g/cmの低密度ポリエチレンから成る基材内部層形成用第2ポリマー成形材料と、230℃におけるメルトフローレートが10.0g/10minである密度0.86g/cmのプロピレン−ブテン共重合体(質量比でプロピレン:ブテン=85:15)、アタクチック構造)から成る粘着層形成用高分子成形材料とを、それぞれ、ダイス温度が200℃であるインフレーション成形機に供給して共押出成形を行った。
これにより、厚み5μmの基材表面層(図2における第1基材層22)と厚み30μmの基材内部層(図2における第2基材層23)と厚み10μmの粘着剤層とから成る本実施例に係る水処理用表面保護シートを作製した。
【0039】
<比較例1:表面保護シートの作製(4)>
190℃におけるメルトフローレートが7.0g/10minである密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン100質量部に対してオレイン酸アミド(日本化成株式会社製品:ダイヤミッド(登録商標)O−200)を0.5質量部添加して得た本比較例に係るポリマー成形材料(190℃におけるメルトフローレート2.0g/10min、密度0.924g/cm)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井・デユポンポリケミカル株式会社製品:エバフレックス(登録商標)EV550)からなる溶融した粘着層形成用高分子成形材料とを、それぞれ、ダイス温度が150℃であるインフレーション成形機に供給して共押出成形を行った。
これにより、厚み30μmの基材層と厚み10μmの粘着剤層とから成る本比較例に係る表面保護シートを作製した。
【0040】
<比較例2:表面保護シートの作製(5)>
190℃におけるメルトフローレートが4.0g/10minである密度0.919g/cmのポリエチレンからなるポリマー成形材料をインフレーション成形機に供給し、ダイス温度160℃で押出成形し、厚み60μmの基材層を形成した。
その後、予め調製しておいた背面処理剤(一方社油脂工業株式会社製品:ピーロイル(登録商標)1010)のトルエン溶液を上記押出成形された基材層の表面部に乾燥後の厚みが100nmとなるように塗布した。
一方、基材層の反対側の面には、粘着剤としてアクリル粘着剤を乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布した。ここで使用したアクリル粘着剤は次のようにして作製したものである。即ち、アクリル酸ブチル100質量部、アクリル酸ヒドロキシエチルエステル8質量部、トルエン1500質量部から成る溶液に、過酸化ベンゾイル0.5質量部を添加し、50℃にて24時間、窒素置換をしながらアクリル重合体を合成した。その後、当該アクリル重合体100質量部に対してイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製品:コロネート(登録商標)HX)4.0質量部を添加した。
以上の処理により、表面部に厚み100nmの背面処理剤がコートされた厚み60μmの基材層と厚み10μmの粘着剤層とから成る本比較例に係る表面保護シートを作製した。
【0041】
<比較例3:表面保護シートの作製(6)>
スチレン−エチレン−ブチレンランダム共重合体(JSR株式会社製品:ダイナロン(登録商標)2324P)のトルエン溶液を市販のポリエステルフィルム(東レ株式会社製品:ルミラー(登録商標)S−10、厚み38μm)に塗布して乾燥させ、厚み38μmの基材層と乾燥後の厚みが5μmの粘着剤層とから成る本比較例に係る表面保護シートを作製した。
【0042】
<比較例4:表面保護シートの作製(7)>
比較例3のポリエステルフィルムに代えて片面にシリコーン処理されたポリエステルフィルムを使用し、比較例3と同様の処理を行った。
これにより、シリコーン処理された表面部を有する厚み38μmの基材層と乾燥後の厚みが15μmの粘着剤層とから成る本比較例に係る表面保護シートを作製した。
【0043】
<参考例1:表面保護シートの作製(8)>
実施例2の水処理用表面保護シートの基材層の表面部にコロナ放電処理を行った以外は、実施例2の手順に準じて本参考例に係る表面保護シートを作製した。
【0044】
[評価試験]
<水滴転がり傾斜角試験>
基材層の表面部が上面となり且つ水平となるように配置した各表面保護シートの当該表面部上に、注射器を用いて40μLの蒸留水の液滴を調製した。
その後、表面保護シートを傾けつつ傾斜角を変化させていき、水滴が上記滴下した場所から1cm以上動き出す角度を目視にて観察した。かかる傾斜角試験に際してはテスター産業株式会社製品のボールタックテスターを使用して傾斜角を求めた。結果を表1の該当欄に示す。
【0045】
<表面粗さ試験>
各表面保護シートの基材層表面部の表面粗さを、市販の光干渉式表面粗さ測定器(Wyko社製品:RST−PLUS)にて測定し、測定面積2mm角にて中心線表面粗さRaを算出した。結果を表1の該当欄に示す。
【0046】
<粘着力試験>
本試験は、JIS Z0237(2000)に準じて行った。即ち、市販のアクリル板(三菱レイヨン株式会社製品:アクリライト(登録商標)L)に供試表面保護シートを線圧78.7N/cmにて貼付した。
かかる貼付から1時間後、インストロン型引張試験機にて剥離角度180度、引張速度0.3m/minの条件で粘着力を測定した。結果を表1の該当欄に示す。
【0047】
<接触角試験>
本試験は、JIS R3257(1999)に準じて行った。即ち、当該JISの「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」の「6.静適法」に準じて蒸留水に対する接触角と70vol%エタノール水溶液に対する接触角を測定した。測定環境は23℃、湿度50%であった。結果を表1の該当欄に示す。
【0048】
<60℃液浸入試験>
特開2002-196116の実施例1に準じてAG(アンチグレア)処理されたフィルムを作製した。
即ち、ウレタンアクリレート系モノマー(紫外線硬化型樹脂,屈折率1. 52)100質量部に、ベンゾフェノン系重合開始剤3質量部、平均粒子径4μmのシリカ粉末14質量部、フルオロアルキルシラン添加剤(屈折率1.39)3.33質量部を加え、トルエンにて固形分35質量%となるように希釈し、塗工溶液を作製した。この得られた塗工溶液をホモジナイザーを用いて攪拌してシリカ粉末を完全に分散させた。なお、(フルオロアルキルシラン添加剤の屈折率)−(樹脂バインダーの屈折率)=−0.13であった。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に、前記塗工溶液をバーコーターにてドライの厚み3μmとなるように塗布した。その後、紫外線照射して塗膜を硬化させ、PETフィルム上にアンチグレア(AG)層を形成した。かかるAG層(塗膜)の透過ヘイズは26%であった。また、中心線平均粗さは0. 33μm、平均山谷間隔は、27μmであった。
そして、上記PETフィルムのAG層の表面に供試表面保護シートを貼り付け、常温(25℃)で24時間放置した。その後、60℃の温水中に供試表面保護シート付きPETフィルムを漬けて2時間放置し、表面保護シートとAG層との間からの水浸入の有無を目視にて調べた。結果、水の浸入が確認されたものについては表1中で×を付し、水の浸入が認められなかったものについては表1中で○を付している。
【0049】
<水付着性>
図4に模式的に示すように、100mm×100mmのPETフィルム100(厚み150μm)の一方の表面に供試表面保護シート110を貼り付けて評価用サンプル120を作製した。
次いで、予め端部に線条引き上げ具(例えば糸材)140を取り付けた評価用サンプル120を水槽130に入れた60℃の水中に完全に浸漬させた(図4の(A))。1分後に引張速度10m/minにて水面と評価用サンプル120が垂直となるように液面から15cmほど引き上げた(図4の(B))。その後、表面保護シート110側を迅速に上面となるようにした(図4の(C))。この状態で表面保護シート110の表面部に水Dが付着しているか否かの状況を目で確認した。結果、水Dの付着量が表面保護シート110の表面部の全面積の3%未満であるものについては○とし、3%以上付着しているものを×とした。
【0050】
【表1】

【0051】
表1中に示す結果から明らかなように、実施例1〜3に係る水処理用表面保護シートは、ここで行った全ての評価試験において良好な成績を示した。一方、比較例1〜4並びに参考例1に係る表面保護シートはいずれも評価試験のいずれかにおいて芳しくない結果を示した。特に水付着性確認試験では、比較例1〜4並びに参考例1に係る表面保護シートのいずれも水滴の付着が認められた。
驚くべきことに、水やエタノール水溶液に対する接触角や表面粗さでは、各実施例と各比較例との間で明確な閾値は認められなかった。他方、本発明により提示された上記「水滴転がり傾斜角」については、実施例1〜3と比較例1〜4並びに参考例1との間で明確な差異が認められた。
従って、かかる「水滴転がり傾斜角」を指標にすれば、水処理用表面保護シートとして適するものであるか否かを容易に判別し得、或いは、かかる「水滴転がり傾斜角」を指標として水処理用表面保護シートとして好適な性能を実現する表面保護シートを好適に製造することができる。
【符号の説明】
【0052】
10,20 表面保護シート
11,21 基材層
11A,22A 表面部
22 第1基材層
23 第2基材層
18,28 粘着剤層
30 剥離ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理を伴うプロセスを経て製造若しくは使用される被着体の表面を保護するための表面保護シートであって、
少なくとも表面部がオレフィン系ポリマー成形材料から成る、単層又は積層構造の基材層と、
前記基材層の前記表面部とは反対側に形成され、前記被着体の表面に貼り付けられる粘着剤層と、
を備えており、
ここで前記基材層の表面部は、該表面部に容積40μLの水滴を滴下して該水滴が該滴下位置から転がり始める最小の傾斜角が水平面を基準として40°未満であることを特徴とする、少なくとも前記水処理が行われている間の前記被着体の表面を保護するための表面保護シート。
【請求項2】
前記基材層のオレフィン系ポリマー成形材料から成る表面部は、水に対する接触角が90°以上であり、且つ、70vol%エタノール水溶液に対する接触角が41°以下であることを特徴とする、請求項1に記載の表面保護シート。
【請求項3】
前記基材層は、ダイス温度が200℃以上に設定されて行われた押出成形により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面保護シート。
【請求項4】
前記基材層は全体が一種又は複数種のオレフィン系ポリマー成形材料から成り、
前記粘着剤層は、前記一種又は複数種のオレフィン系ポリマー成形材料から成る基材層とともにダイス温度200℃以上の設定で共押出成形可能な高分子成形材料によって形成されていることを特徴とする、請求項3に記載の表面保護シート。
【請求項5】
前記粘着剤層のアクリル板への粘着力が1N/20mm以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面保護シート。
【請求項6】
前記被着体が偏光板又はその構成フィルムであり、前記水処理として該被着体にアルカリ水溶液を供給する鹸化処理を包含することを特徴とする、偏光板又はその構成フィルムの表面を保護するために使用される請求項1〜5のいずれかに記載の表面保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−194715(P2010−194715A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38634(P2009−38634)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】