説明

表面保護フィルム

【課題】
本発明は、展開性に優れ、かつ接着昂進が抑制された表面保護フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】
ポリオレフィン系樹脂からなる基材層とスチレン−ブタジエン−スチレンエラストマーの水素添加物から形成された粘着剤層を積層したプリズムシート用表面保護フィルムであって、水添されたブタジエンブロック中にスチレン単位がランダム共重合されており、前記粘着層は粘着剤付与剤を含有せず、エラストマーの230℃のメルトフローレートが15g/10分以上である。また、スチレン重合体ブロック中のスチレン単位の含有率は、全モノマー重量の15〜45重量%であり、かつ前記スチレン−ブタジエン共重合体ブロックにおけるスチレン単位の含有率は、全モノマー重量の5〜35重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等、種々の部材の表面を保護するために、シート状の基材の一方面に粘着剤層が積層されてなる表面保護フィルムが広く用いられている。特に、光学分野においては、拡散シート又はプリズムシート等のように表面に凹凸を有する光学シートが光学デバイスとして用いられており、このような凹凸に損傷を与えないために、使用に先立ち、その表面(特に、凹凸の外表面)を表面保護フィルムで保護している。
【0003】
一般に、表面保護フィルム(または表面保護シート)は、長尺状のシートをロール状に巻回した巻回体として工業的に製造されている。このような巻回体とした表面保護フィルムでは、経時による接着力の上昇が大きくなりやすいことが知られているが、使用時における巻回体の巻戻しに必要な力(展開力)が小さいこと、すなわち巻回体の巻戻しが容易にできることが強く求められている。
また、表面保護フィルムは、使用後には剥離除去されるため、スムーズな剥離が可能であること、及び糊残りによる被着体汚染が無いこと等が要求されている。
【0004】
ところで、表面保護フィルムの被着体である、拡散シート等の光学シートの素材としては、アクリル系の樹脂及びポリカーボネート系の樹脂等の極性ポリマーが汎用されている。これらの光学シートは、表面保護フィルムを貼り付けた後に光学デバイスメーカーに出荷されるが、その運搬、保管中等において高温に曝されることがある。
また、一般に、粘着剤としては、アクリル系粘着剤が広く用いられているが、アクリル系粘着剤は、経時による接着力の上昇が特に大きい。
このようなことから、特に光学シートに適用する表面保護フィルムを構成する粘着剤層には、アクリル系粘着剤ではなく、ゴム系粘着剤が主として用いられていた。これによって、経時による接着力の増大を回避し、表面保護フィルムを光学シートのレンズ部表面から円滑に剥離することが図られている。
【0005】
具体的には例えば、スチレン系エラストマーを主成分とする粘着剤層を用い、オレフィン基材層との共押出により形成した表面保護フィルムであって、基材層の背面が摩擦処理されてなる表面保護フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、ポリオレフィン系樹脂を含有する表層と、熱可塑性エラストマーを含有する粘着剤層とを、共押出法にて積層成膜した後、表層の背面に離型層を塗工法により形成してなる表面保護シートが提案されている(特許文献2)。ここでは、離型層の厚みを1〜1000nmに薄膜状で形成した場合に、被着体への汚染低減効果が大きいと記載されている。
また、合成ゴム粘着剤の配合を調整して経時による接着力の上昇を抑えた表面保護フィルムが提案されている。(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−62311号公報
【特許文献2】特開2003−41216号公報
【特許文献3】特開2008−274211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1、3の表面保護フィルムでも、表面保護フィルムの巻回体からの展開において、背面処理だけでは経時的に展開力が大きくなり、巻回体の巻戻しが困難になり、作業性が悪くなることがあった。
また、特許文献2の表面保護フィルムでは、離型層を別途塗布形成するので、工程数が増え、ライン速度を自由に上げることが困難である。
このように、品質及び生産性の双方を満足すべきものは未だ得られていないのが現状である。
更に、特許文献1、2の表面保護フィルムには粘着付与剤が含まれているので、時間の経過とともに接着力が上昇するという課題が残っていた。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の欠点を解消した表面保護フィルム、すなわち展開性に優れ、接着昂進が抑制された表面保護フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、表面保護フィルムの粘着剤層に六員環芳香族アルケニル−ブタジエン−六員環芳香族アルケニル構造を有する特定のマルチブロック共重合体の水素添加物を用いることにより、優れた展開性と、接着昂進の抑制とを両立できることを見出し、更なる検討の結果、本発明を完成するに至った。
本発明の表面保護フィルムは、ポリオレフィン基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムであって、
前記粘着剤層は、六員環芳香族アルケニル−ブタジエン−六員環芳香族アルケニル構造を有するマルチブロック共重合体の水素添加物から形成されており、粘着付与剤を含有せず、
前記マルチブロック共重合体は、六員環芳香族アルケニル単位が連続する六員環芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン単位と六員環芳香族アルケニル単位とがランダムに含まれる六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックとを有し、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックの両末端に六員環芳香族アルケニル重合体ブロックとを配置したマルチブロック共重合体の水素添加物であり、
前記マルチブロック共重合体中の六員環芳香族アルケニル単位の含有率は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の15〜45重量%であり、かつ
前記六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックにおける六員環芳香族アルケニル単位の含有率は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の5〜35重量%であることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記表面保護フィルムにおいて、前記マルチブロック共重合体の230℃でのメルトフローレート(MFR)は、15g/10分以上である。
【0012】
好ましくは、前記表面保護フィルムにおいて、マルチブロック共重合体は、トリブロック共重合体である。
【0013】
好ましくは、前記表面保護フィルムにおいて、マルチブロック共重合体は、非カップリング方式の合成方法で得られるトリブロック共重合体である。
本発明者の検討により、表面保護フィルムの粘着剤層にカップリング方式の合成方法で得られたマルチブロック共重合体を用いた場合、およそ直径200〜500μmの着色異物(黄色、黄褐色、茶色、こげ茶色、または黒色の異物)が発生し易いことが分かった。着色異物が存在すると、外観上好ましくないだけでなく、粘着剤層から突起するので、被着体を変形させる場合がある。非カップリング方式の合成方法で得られるトリブロック共重合体を用いることにより、このような着色異物が発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面保護フィルムは、展開性に優れ、かつ接着昂進が抑制されている。
更に、本発明の表面保護フィルムは、プリズムシートまたは拡散シート等の表面に凹凸を有するシートに適用した場合であっても、経時的な浮きの発生が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の表面保護フィルムは、ポリオレフィン基材層と粘着剤層とを有する。
当該粘着剤は、好ましくは、前記基材層の表面に積層される。
(基材層)
当該「ポリオレフィン」としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体、及びポリプロピレン(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)等が挙げられる。
これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、「ポリオレフィン」は、置換基を有するポリオレフィンであってもよく、ポリオレフィン以外の樹脂が添加されていてもよい。さらに、表面保護フィルムの製造過程で生じた、ポリオレフィン基材層の端材や表面保護フィルムの端材が添加されていてもよい。
基材層は、単層でもよいし、組成の異なる2種以上の多層構造を有している層であってもよい。
基材層は、表面保護フィルムの用途等によって、その厚みを適宜調整することができる。通常、10〜80μm程度の厚みに設定することが適している。
【0016】
(粘着剤層)
本発明の表面保護フィルムにおける粘着剤層は、六員環芳香族アルケニル−ブタジエン−六員環芳香族アルケニル構造を有するマルチブロック共重合体の水素添加物から形成されており、粘着付与剤を含有しない。
前記マルチブロック共重合体は、
(A)六員環芳香族アルケニル単位が連続する六員環芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックと、
(B)共役ジエン単位と六員環芳香族アルケニル単位とがランダムに含まれる六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックとを有し、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックの両末端に六員環芳香族アルケニル重合体ブロックとを配置した、マルチブロック共重合体の水素添加物である。
すなわち、前記粘着剤層は、六員環芳香族アルケニルモノマーを重合させた六員環芳香族アルケニル重合体ブロックと、六員環芳香族アルケニルモノマーと共役ジエンモノマーとをランダム共重合させた六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックとからなるマルチブロック共重合体の水素添加物から形成される。
なお、粘着剤層は、マルチブロック共重合体の水素添加物以外の樹脂が添加されていてもよい。前記粘着剤層における前記マルチブロック共重合体の含有率は50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは90重量%以上である。
なお、六員環芳香族アルケニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレンが挙げられる。また、共役ジエンモノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセン及びクロロプレン等が挙げられる。中でも、重合反応性が高く、原料が工業的に入手し易いという理由から、「共役ジエン単位」は1,3−ブタジエン単位及びイソプレン単位の群から選択される少なくとも1種の繰り返し単位であることが好ましい。
また、「共役ジエン単位と六員環芳香族アルケニル単位とがランダムに含まれる六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロック」は、本発明の効果を発揮させる観点から、ビニル結合含有率が50〜90%の範囲内であることが好ましく、60〜80%の範囲内であることがより好ましい。また、ビニル結合含有率を50%以上とすることにより、タックと粘着力のバランスに優れた粘着剤組成物を構成することが出来るという利点がある。
また、「共役ジエン単位と六員環芳香族アルケニル単位とがランダムに含まれる六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロック」は、本発明の効果を発揮させる観点から、共役ジエン単位のビニル結合含有率が50〜90%の範囲内であることが好ましく、60〜80%の範囲内であることがより好ましい。また、ビニル結合含有率を50%以上とすることにより、タックと粘着力のバランスに優れた粘着剤組成物を構成することが出来るという利点がある。
ビニル結合含有率は、赤外吸収スペクトル法を用い、モレロ法により算出することが出来る。
【0017】
具体的には、マルチブロック共重合体としては、例えば、下記の(1)〜(3)のマルチブロック共重合体が挙げられる。
(1)六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックであって六員環芳香族アルケニル単位が連続する頻度が漸増するテーパーブロック(C)を、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックブロックの重合体鎖の一方の末端に配列し、他方の末端に六員環芳香族アルケニル重合体ブロックを配列させたA−B−Cトリブロック型共重合体。
(2)上記(1)のA−B−Cトリブロック型共重合体のテーパーブロック(C)に代えて六員環芳香族アルケニル単位重合体ブロック(A)を配列させたA−B−Aトリブロック型共重合体。
(3)(A−B)nX、(A−B−C)nX、(A−B−A)nX等の一般式で表されるマルチブロック共重合体。式中、Xはカップリング剤の残基を示し、nは2以上の整数である。nが大きすぎると、分子量が高くなり、成形性が悪くなる傾向があるので、中でもnは2〜4が好ましい。
なかでも、トリブロック共重合体が好ましく、A−B−Aトリブロック型共重合体、または(A−B)2Xトリブロック型共重合体がより好ましく、六員環芳香族アルケニル−ブタジエン−六員環芳香族アルケニル構造を有するトリブロック共重合体が更に好ましい。
また、製膜後の着色異物の発生を抑制出来ることから、非カップリング方式の合成方法で得られ、カップリング剤の残基を有さない、(1)A−B−Cトリブロック型共重合体、(2)A−B−Aトリブロック型共重合体が好ましい。
【0018】
なお、マルチブロック共重合体において、六員環芳香族アルケニル単位の含有量は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の15〜45重量%であり、好ましくは15〜40重量%である。
六員環芳香族アルケニルモノマーの割合が小さすぎると、粘着剤層の凝集力が低下し、表面保護フィルムを被着体から剥離する際に、被着体に糊残りが生じることがある。一方、六員環芳香族アルケニルモノマーの割合が多すぎると、粘着剤層の粘着力が不足し、被着体への貼付が困難になることがある。
【0019】
また、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックにおける六員環芳香族アルケニル単位の含有率は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の5〜35重量%である。好ましくは10〜35重量%であり、より好ましくは10〜30重量%である。
【0020】
マルチブロック共重合体の水素添加物は、優れた耐熱性及び耐候性が得られることから、共役ジエンモノマーに由来する二重結合が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは完全に、水素添加により不飽和結合が飽和結合に水素添加された水素添加物であることが好ましい。
【0021】
マルチブロック共重合体のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは30,000〜400,000であり、より好ましくは50,000〜200,000である。
【0022】
前述の通り、本発明の表面保護フィルムにおける粘着剤層は、粘着付与剤を含有しない。
本明細書における粘着付与剤とは、一般的に粘着剤層の粘着力を高めるために用いられる樹脂である。
具体的な粘着付与剤としては、例えば、脂肪族系共重合体、芳香族系共重合体、脂肪族・芳香族系共重合体系及び脂環式系共重合体等の石油系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、テルぺン系樹脂、テルぺンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂又はこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0023】
粘着剤層の−50℃〜80℃での動的粘弾性を測定して得られる「tanδ値が最大とな
る温度」は、−25℃〜0℃の範囲内であることが好ましい。この「tanδ値が最大とな
る温度」は、粘着剤層におけるゴム系樹脂成分、例えば、マルチブロック共重合体中の六員環芳香族アルケニル単位の含有率、及び/又は共役ジエン単位の含有率を変えることにより、調整できる。
【0024】
なお、tanδは、−50℃〜80℃の測定温度範囲において、以下の条件で測定した動的粘弾性スペクトルから算出した損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)である。。
粘弾性スペクトロメーター:商品名「DVA−200」(アイティ計測制御社製)
粘着剤層のサンプルサイズ:厚さ約1.5mm×5mm×10mm
設定昇温速度:5℃/分
測定周波数:1Hz
測定モード:剪断
【0025】
粘着剤層には、粘着力の制御等を目的に、必要に応じて、例えば、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、リン酸エステル系化合物、老化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、及び顔料等から選択される1種以上の添加剤を適宜配合することができる。
【0026】
粘着剤層の厚みは特に制限されないが、通常0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜30μmである。
【0027】
本発明の表面保護フィルムは、例えば、押出成形によって基材シートを製造した後、粘着剤を溶融又は溶解させた液体を基材シートに塗布又は噴霧する方法、あるいは、インフレーション法により得られた基材シートと粘着シートを貼り合わせる方法、あるいは多層マニホールドを備えたTダイを用いて基材原料と粘着剤を共押出する方法により製造できる。なかでも、基材層と粘着剤層が密着した多層シートが得られるので共押出により製造する方法が好ましい。
【0028】
本発明の表面保護フィルムは、好適に光学シートに適用される。光学シートとしては、例えば、拡散シート、プリズムシート等の凹凸のあるシートであってもよいし、フラットなシートであってもよい。
被着体となるシートを構成する材料としては、特に限定されないが、透光性を有する樹脂、例えばアクリル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0029】
(巻回体)
本発明の表面保護フィルムは、例えば、長尺状のフィルムをロール状に巻回した巻回体として工業的に広く取り扱われている。本発明の表面保護フィルムは、慣用の方法により、紙芯に巻き取って、巻回体の形態にすることができる。
なお、表面保護フィルムが巻回体とされる場合には、基材層の粘着剤層が形成されている側と反対側に粘着剤層が密着する。表面保護フィルムは、50mm幅の巻回体を20m/分の速度で巻き戻したときに要する力が、例えば、3.5N程度以下、さらに3.0N程度以下であると、無理なく巻戻すことができる。特に、巻回体の幅が大きくなった場合、例えば、1000mmを超える場合は巻き戻すために必要な力が大きくなる。
本発明は、展開力が小さく、表面保護フィルムが、例えば、比較的幅広の巻回体等とされた場合においても、巻回体を無理なく巻戻すことができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の表面保護フィルムを、実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下で用いられる記号を説明する。
Mw:重量平均分子量
St:スチレン
RB:ランダムブロック
MFR:メルトフローレート
SEBS:分子両末端がスチレンブロックであり、分子中央がブタジエンとスチレンとのランダムブロックであるトリブロック共重合体の水素添加物
【0031】
(実施例1)
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン5質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.10質量部を添加して、昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン75質量部とスチレン15質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0032】
重合転化率が略100%に達した後、反応液を80℃にし、次いで、スチレン5質量部を加え、更に昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーをGPC分析したところ、重量平均分子量は約140,000であった。
その後、反応容器内にジエチルアルミニウムクロライド0.03質量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06質量部を加え、攪拌した。水素ガス供給圧0.7MPa―Gauge,反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、A−B−Aトリブロック型共重合体を得た。
【0033】
粘着剤:A−B−Aトリブロック型共重合体(重量平均分子量 140,000、SEBS分子中における分子両末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が10重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%、230℃でのMFR 30g/10分)を用いた。
ポリオレフィン: ポリプロピレン(プライムポリマー社製 J715)を用いた。
【0034】
上記粘着剤とポリオレフィンを多層マニホールドを備えたTダイを用いて共押出し、36μmの厚みのポリプロピレン基材層と、4μmの厚みの粘着剤層を有する二層構造の表面保護フィルムを得た。次いで、表面保護フィルムを内径3インチの紙芯に巻き取り巻回体を得た。
【0035】
(実施例2〜7、比較例1〜4)
下記の表1に示したSEBSをそれぞれ用い、実施例1と同様の方法で表面保護フィルムの巻回体を得た。
【0036】
(比較例5)
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン15質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13質量部を添加して、昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン75質量部とスチレン15質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0037】
重合転化率が略100%に達した後、カップリング剤としてメチルジクロロシラン0.07質量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーをGPC分析したところ、重量平均分子量は約140,000と70,000の二山であった。
【0038】
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03質量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06質量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、(A−B)2Xトリブロック型共重合体とA−Bジブロック型共重合体を合成した。
【0039】
分子両末端がスチレンブロックであり分子中央がブタジエンとスチレンとのランダムブロックである(A−B)2Xトリブロック型共重合体(重量平均分子量 140,000、SEBS分子中における分子両末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が10重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%)の水素添加物60重量%と、スチレンブロックとブタジエンとスチレンとのランダムブロックとのA−Bジブロック型共重合体(重量平均分子量 70,000、SEBS分子中における分子片末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が10重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%)の水素添加物40重量%とからなる混合樹脂用いて粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で表面保護フィルムの巻回体を得た。
【0040】
(比較例6)
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン15質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13質量部を添加して、昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン75質量部とスチレン15質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0041】
重合転化率が略100%に達した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーをGPC分析したところ、重量平均分子量は約70,000であった。
その後、実施例1と同様の条件で水素添加反応を行い、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、A−Bジブロック型共重合体を得た。
【0042】
スチレンブロックとブタジエンとスチレンとのランダムブロックとのジブロック共重合体(重量平均分子量 70,000、SEBS分子中における分子片末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が10重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%)の水素添加物を用いて粘着剤層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で表面保護フィルムの巻回体を得た。
【0043】
(実施例8)
粘着剤層に用いるA−B−Aトリブロック型SEBSを次のように製造した。
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン7.5質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.10質量部を添加して、昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン70質量部とスチレン15質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0044】
重合転化率が略100%に達した後、反応液を80℃にし、次いで、スチレン7.5質量部を加え、更に昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーをGPC分析したところ、重量平均分子量は約130,000であった。その後、実施例1と同様の条件で水素添加反応を行い、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、A−B−Aトリブロック型SEBSを得た。
【0045】
粘着剤:上記の方法で得たA−B−Aトリブロック型SEBS(重量平均分子量 130,000、SEBS分子中における分子両末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が15重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%、230℃でのMFR 30g/10分)を用いた。
ポリオレフィン: ポリプロピレン(プライムポリマー社製 J715)を用いた。
【0046】
上記粘着剤とポリオレフィンを多層マニホールドを備えたTダイを用いて220℃でクラス10000以下のクリーンルームにて共押出し、36μmの厚みのポリプロピレン基材層と、4μmの厚みの粘着剤層を有する二層構造の表面保護フィルムを得た。次いで、表面保護フィルムを内径3インチの紙芯に巻き取り巻回体を得た。
【0047】
(実施例9)
粘着剤層に用いる(A−B)2Xトリブロック型SEBSを次のように製造した。
窒素置換された反応容器に、脱気・脱水されたシクロヘキサン500質量部、スチレン15質量部及びテトラヒドロフラン5質量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13質量部を添加して、昇温重合を行った。重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン70質量部とスチレン15質量部を加え、更に昇温重合を行った。
【0048】
重合転化率が略100%に達した後、カップリング剤としてメチルジクロロシラン0.07質量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。一部取り出したポリマーをGPC分析したところ、重量平均分子量は約170,000であった。
【0049】
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03質量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06質量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことにより、(A−B)2Xトリブロック型SEBSを合成した。
【0050】
粘着剤:上記の方法で得た(A−B)2Xトリブロック型SEBS(重量平均分子量 170,000、SEBS分子中における分子両末端のスチレン重合体ブロックに含まれているStの含有割合(末端Stブロック含有量)が15重量%、SEBS分子中におけるスチレンとブタジエンとがランダム共重合されたランダムブロック(RB)中に含まれているStの含有割合(ランダムブロック中のSt含有量)が15重量%、230℃でのMFR 9g/10分)を用いた。
ポリオレフィン: ポリプロピレン(プライムポリマー社製 J715)を用いた。
【0051】
上記SEBSとポリオレフィンを多層マニホールドを備えたTダイを用いて220℃でクラス10000以下のクリーンルームにて共押出し、36μmの厚みのポリプロピレン基材層と、4μmの厚みの粘着剤層を有する二層構造の表面保護フィルムを得た。次いで、表面保護フィルムを内径3インチの紙芯に巻き取り巻回体を得た。
【0052】
(実施例及び比較例の評価)
実施例1〜7、比較例1〜5により得た各表面保護フィルムについて、以下の項目を評価した。それらの結果を表1に示す。なお、上述のように、比較例6では製膜出来なかった。
表1中、
「末端St含有量」とは、六員環芳香族アルケニル単位が連続する六員環芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックにおける六員環芳香族アルケニル単位のマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量に対する含有率であり、
「ランダム中のSt含有量」とは、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックにおける六員環芳香族アルケニル単位のマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量に対する含有率であり、
「全St含有量」とは、マルチブロック共重合体中の六員環芳香族アルケニル単位のマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量に対する含有率である。
【0053】
(試験片の作製)
実施例及び比較例の各表面保護フィルムを、拡散シート(3M社製 DBEF−II)のレンズ面を覆うように貼り付けた。貼り付け条件は、室温23℃及び相対湿度50%の環境下、それぞれ2kgの圧着ゴムローラーを用いて、300mm/分の速度で貼り付けた。
(1)初期接着力
作製した試験片を室温で30分間静置した後、25mm幅における180度剥離強度をJIS Z0237に準拠して300mm/分の速度で測定した。
【0054】
(2)経時接着力
作製した試験片を、80℃のオーブン内に入れ30分間加熱し、室温で30分間静置した後、25mm幅における180度剥離強度をJIS Z0237に準拠して300mm/分の速度で測定した。
【0055】
なお、初期粘着力及び経時粘着力をを以下のように判定した。
優(◎) 0.05N/25mm以上、0.5N/25mm未満
良(○) 0.02N/25mm以上、0.05N/25mm未満
不良(×)0.02N/25mm未満または浮き発生
0.5N/25mm以上
(接着昂進率)
接着昂進率(%)を下式(1)を用いて算出した。
【0056】
接着昂進率=(経時接着力/初期接着力)×100 (1)
なお、接着昂進率は以下の通り評価した。
接着昂進率が200%以下である場合を良好(○)と評価した。
接着昂進率が200%を超える場合を不良(×)と評価した。
【0057】
(3)展開力
実施例及び比較例で得られた50mm幅の巻回体をJIS Z0237に準拠して巻戻し速度20m/分で巻き戻し、表面保護フィルムを繰り出す時に加わった展開力を測定し、以下の通り評価した。
優(◎) 3.0N/50mm未満
良好(○) 3.0N/50mm以上、3.6N/50mm未満
不良(×) 3.6N/50mm以上
(4)tanδのピーク温度
ゴム系粘着剤層の粘弾性スペクトルを、動的粘弾性スペクトル測定装置(アイティ計測制御社製、品番:DVA−200)により、周波数1Hz、昇温速度5℃/分で−50℃〜80℃の範囲で測定し、tanδ値が最大となる温度を求めた。
【0058】
(5)MFRの測定
JIS K 7210(1999)に準じる方法で、230℃で測定した。
【0059】
(6)面状態の観察
評価に使用した表面保護フィルムの粘着剤面の表面状態を目視にて観察し、以下の通り評価した。
良好 :○
一部面荒れ発生 :△
全面に面荒れ発生:×
【0060】
【表1】

【0061】
本明細書の各実施例と比較例5とを比較すると、本発明の表面保護フィルムの粘着剤層は、ジブロック構造のスチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物を含有せずとも、浮きが発生しにくく、かつ接着昂進を抑制することができることが判明した。
【0062】
すなわち、表面保護フィルムの粘着剤層にジブロック構造のスチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物が添加されている比較例5の表面保護フィルムは、拡散シートやプリズムシート等の表面に凹凸を有する光学シートに表面保護フィルムを適用した時に浮きが発生は抑えられるが、接着昂進が大きい。一方、本発明の表面保護フィルムは、ジブロック構造のスチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物や粘着付与剤を含有せずとも、接着昂進しにくく、かつ浮きを抑制できる程の高い粘着力を有する。
【0063】
(実施例及び比較例の評価)
実施例8、9により得られた表面保護フィルム内の200μm以上の着色異物の個数を目視にて評価し、以下のように評価した。
良(◎) 0.1個未満/m2
可(○) 0.1個以上/m2
【0064】
【表2】

【0065】
表2から明らかなように、非カップリング方式の合成方法で得られるトリブロック共重合体(実施例8)を用いることにより、着色異物の発生が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の表面保護フィルムは、プリズムシート等の表面保護に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン基材層と粘着剤層とを有する表面保護フィルムであって、
前記粘着剤層は、六員環芳香族アルケニル−ブタジエン−六員環芳香族アルケニル構造を有するマルチブロック共重合体の水素添加物から形成されており、粘着付与剤を含有せず、
前記マルチブロック共重合体は、六員環芳香族アルケニル単位が連続する六員環芳香族アルケニル化合物単位を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン単位と六員環芳香族アルケニル単位とがランダムに含まれる六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックとを有し、六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックの両末端に六員環芳香族アルケニル重合体ブロックとを配置したマルチブロック共重合体の水素添加物であり、
前記マルチブロック共重合体中の六員環芳香族アルケニル単位の含有率は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の15〜45重量%であり、かつ
前記六員環芳香族アルケニル−共役ジエン共重合体ブロックにおける六員環芳香族アルケニル単位の含有率は、六員環芳香族アルケニルモノマーに換算してマルチブロック共重合体を形成するための全モノマー重量の5〜35重量%であることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】
マルチブロック共重合体がトリブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
トリブロック共重合体が非カップリング方式の合成方法で得られるトリブロック共重合体であることを特徴とする請求項2に記載の表面保護フィルム。

【公開番号】特開2011−16354(P2011−16354A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134504(P2010−134504)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】