説明

表面保護構造

【課題】食器及び器物等が点接触する場合のみならず、面接触又は線接触する場合であっても、これにより生じる疵を視覚的に目立たなくするとともに、表面に付着した汚れの洗浄性をも向上させる。
【解決手段】システムキッチン用のシンク1の表面を保護するための表面保護構造において、シンク1の底面のみには、平滑面に突設された複数の半球状の凸部25によるエンボス模様41が形成され、各凸部25は、被接触物に対して点接触され、前記平滑面に対する凸部25の頂点の高さは0.05〜0.15mmであり、かつ少なくとも一の方向(横方向平坦部長さLx又は縦方向平坦部長さLy)に隣接する凸部25間の間隔は2.0〜3.0mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチンのシンク等のように水が付着可能な部材の表面を保護するための表面保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は一般的なシステムキッチンを示す斜視図である。図1に示すように、台所に設置されるシステムキッチン50は、流し台キャビネット51と、これに互いに隣接して設置されるコンロ用キャビネット52と、それらを被覆する1枚の天板53とを備えている。このシステムキッチン50においては、天板53のうち、流し台キャビネット51を被覆する流し台領域Aの中央部には、深絞り形成されたシンク54が形成されており、このシンク54に対して水栓61から湯水が供給される。また、天板53のうち、コンロ用キャビネット52を被覆するコンロ領域Bの前面部寄りには、長方形の開口部56が切り抜かれており、この開口部56から1台のコンロ55がコンロ用キャビネット52上に落とし込まれている。更に、天板53には、流し台領域Aとコンロ領域Bとの間に調理台ユニット領域Cが形成されており、ユーザは、この調理台ユニット領域Cにおいて食物を調理したり、調理に必要な器具及び食器等を載置したりする。
【0003】
一方、シンク54は、ステンレス鋼板をプレス成形加工することにより製作される。一般に、ステンレス鋼板は、耐食性に優れ清潔感を呈することから、特にシステムキッチンのシンク及びバスタブ等のように水を頻繁に使用する環境下で広く用いられている。
【0004】
そして、システムキッチン50のユーザは、このシンク54内において各種食器及び器物等を洗浄する。その際洗浄される食器及び器物等の材質としては、各種樹脂類、陶器及びガラス等が挙げられ、更に、鍋類及びスプーン類等も同様に洗浄する場合には、その材質としてアルミニウム、銅、鉄及びステンレス鋼等も含まれる。
【0005】
一般に、シンク54を構成するステンレス鋼は、上述した洗浄される食器及び器物等を構成する陶器及びガラス等と比較して、硬度が低い。このため、これら食器及び器物等がシンク54に触れた場合には、シンク54の表面にスリ疵、カキ疵及び押込み疵等のような様々な疵が付いてしまう。従来のシステムキッチン50シンク54は、その表面が極めて平滑な状態となっているため、このような疵が付くと視覚的に目立ちやすくなるという欠点がある。
【0006】
また、食器及び器物等の洗浄時においては、水滴がシンク54の各部位に付着するが、この水滴の中には洗浄された汚物の一部及び洗剤等の物質がある程度含まれている。更に、水道水中には、水酸化カルシウム及びマグネシウム等の物質が少量ながら含まれている。このため、洗浄時にシンク54に付着した水滴が乾燥すると、その部分が斑点となり、これがシミ状の汚れとなって残存することになる。その結果、シンク54の清潔感ある外観が損なわれてしまう。
【0007】
これらの問題点を解決するために、従来においては、シンク54に適用されるステンレス鋼板の表面に特定の微細凹凸をランダムに設けることにより、耐疵付性及び耐汚染性の向上を図ったステンレス鋼板が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
この特許文献1に記載のステンレス鋼板では、その表面において耐疵付性と水滴等の付着による汚染性とを防止するために、高さ3〜50μmの範囲で、かつ長さ25.4mm当たり20〜1000個の範囲で、鋼板の圧延方向に対してランダムに凹凸を突設させている。これにより、ステンレス鋼板上に疵や汚れが付着しにくくなり、又は視覚的に目立たなくすることも可能となる。
【0009】
また、従来においては、ステンレス鋼板によりエンボス模様を表面に設けた板物主体を形成するとともに、その表面にエンボス模様のほうろう層を設けた流し台用板物器材も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2では、上述した各種食器及び器物等による疵は、表面のほうろう層におけるエンボス模様の凸部に付くことになる。このエンボス模様の凸部は、不連続であるため、これに付く疵も不連続となり、その結果、疵を視覚的に目立たなくすることができる。
【0010】
また、従来においては、水槽の外側の面の主要部に凹凸模様を施すことにより、意匠的に変化に富んだ水槽付きキャビネット用の水槽装置も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的なシステムキッチンを示す斜視図である。
【図2】本発明を適用したシンクが配設されたシステムキッチンの構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示すシンク1の上面図である。
【図4】図3に示す領域Fの拡大図である。
【図5】(a)〜(c)はエンボス模様41のパターンの例を示す模式図である。
【図6】(a)はエンボス模様41の横方向xにおける断面図であり、(b)は縦方向yにおける断面図である。
【図7】横軸に磨耗回数をとり、横軸に凸部25の高さHをとって、凸部25の高さHと耐久性との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、飲食店や家庭等において食物を調理する際に適用されるシステムキッチンにおける流し台用のシンクを例にして、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
図2は本発明を適用したシンクが配設されたシステムキッチンの構成を示す斜視図である。図2に示すように、本発明を適用したシンク1は、少なくともワークトップ又はカウンター(以下、これらを天板という。)を有するシステムキッチン2に配設されるものである。このシステムキッチン2は、キャビネット11と、このキャビネット11の上面を被覆する天板13とを備えており、天板13の調理台ユニット領域Cに隣接する流し台領域Aの中央部に、深絞り形成されたシンク1が配設されている。更に、システムキッチン2には、シンク1に対して湯水を供給するための水栓15が設けられている。
【0032】
天板13の調理台ユニット領域C上には、食材等を調理するために必要となるジューサー及び炊飯器等の調理用機器(図示せず)が載置され、さらには、食材を切り刻み、加工するためのまな板(図示せず)等も載置される。また、この天板13上には、鍋及び釜等の加熱使用される金属製の調理用容器も載置される可能性があることから、天板13は、耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性及び機械的強度に優れた材料で構成する必要があり、通常は、耐熱ガラス、セラミックス、スレンレス鋼及び人工大理石等で構成される。
【0033】
水栓15は、ユーザによる回転操作に応じて蛇口17を介して水や湯をシンク1内へ流出させるものである。これにより、蛇口17から水を流しながらシンク1内で調理をすることが可能となる。ちなみに、水を流さない場合には、この蛇口17を図2に示すE方向へ回転させておくこともできる。これにより、蛇口17が障壁となることがなく、シンク1内を広く利用して調理を行うことが可能となる。
【0034】
シンク1には、その周縁部に水切り用の凹み部14aが形成されており、底面42には排水口14bが設けられている。このシンク1における凹み部14a及び排水口14bは、プレス成形、注型成形及びインジェクション成形等の方法により一体成形されている。また、シンク1の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、耐熱性がある樹脂及びステンレス鋼板等の金属材料を使用することができる。
【0035】
更に、このシンク1の底面42のみには、エンボス模様41が形成されている。図3は図2に示すシンク1の上面図であり、図4は図3に示す領域Fの拡大図である。また、図5(a)〜(c)はエンボス模様41のパターンの例を示す模式図である。なお、図3においては、エンボス模様41が形成されている領域(エンボス模様形成領域)を斜線で示している。本発明におけるエンボス模様41は、底面42の全域に亘って形成されている場合に限定されることなく、あくまで底面42の一部において形成されていればよい。
【0036】
図4に示すように、エンボス模様41は、平滑な底面42に突設された複数の凸部25により構成されている。なお、以下の説明においては、複数の凸部25と各凸部25間の平坦部26とを合わせてエンボス模様41という。この凸部25は、例えば、図5(a)及び図5(b)に示すように底面42の横方向x及び縦方向yにおいて規則的に配列されていることが望ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、図5(c)に示すように、複数の凸部25が離散的に形成されていてもよい。但し、このエンボス模様41は、ユーザから視認可能な位置に形成されているため、凸部25が離散的に形成されている場合においても、その意匠性をも確保する必要があるときは、その集合により視覚的な違和感が生じない程度の模様が作り出されていることが望ましい。これにより、複数の凸部25の集合により構成されるエンボス模様41により、システムキッチン2のユーザが視覚的に感じる違和感をなくすことができる。
【0037】
また、図3に示すように、シンク1の排水口14b及び/又は周壁31とエンボス模様41との間、即ち、エンボス模様41の周囲の連続する領域には、凹凸がなく平滑な余白部30が設けられていることが望ましい。この余白部30の幅は、エンボス模様41の形成領域の周縁から排水口14bに至るまでの幅Gが例えば8mmであり、またエンボス模様41の形成領域の周縁から周壁31に至るまでの幅Hが例えば30mmであるが、本発明はかかるサイズに限定されるものではない。このようにエンボス模様41の周囲に余白部30を設けて、平滑な面を露出させることにより、シンク1の排水性をより向上させることが可能となる。
【0038】
図6(a)はエンボス模様41の横方向xにおける断面図であり、図6(b)は縦方向yにおける断面図である。図6(a)及び(b)に示すように、凸部25の形状は半球状であり、その直径は例えば1.0〜2.0mmの範囲とすることができる。また、底面42におけるエンボス模様41形成領域には、表面に親水性膜28が積層されていてもよい。この親水性膜28としては、シンク1を構成する材料の表面に対して汚染除去性が良好な表面処理を施すことができれば、いかなるものにも代替可能であり、例えば、エンボス模様41形成領域に界面活性剤を塗布してもよいし、セラミックス材料を溶射してもよいし、シリカ膜を形成させるようにしてもよい。
【0039】
また、この親水性膜28として、シリカ膜等のように透光性を有する膜を用いてもよい。これにより、ステンレス鋼板の質感を表出させることが可能となると共に、清潔感を向上させることも可能となる。更に、エンボス模様41の表面に施される汚染除去性が良好な表面処理としては、上述したような親水処理以外にも、撥水処理、撥油処理及びその他の防汚れ処理を適用することができ、更に、これらの処理を組み合わせて実施することもできる。
【0040】
このような形状のエンボス模様41をシンク1の底面42に形成することにより、以下の効果が得られる。
【0041】
即ち、本発明を適用したシンク1内において洗浄すべき各種食器及び器物等がエンボス模様41に接触した場合、かかる接触に伴って生じた疵は、エンボス模様41の凸部25に付くことになる。このエンボス模様41の凸部25は、所定の間隔をあけて形成されており、不連続となっているため、これに付く疵も不連続となり、その結果、疵を視覚的に目立たなくすることができる。
【0042】
また、この凸部25の形状は、直径がミリオーダの半球状であるため、食器及び器物等は、エンボス模様41に対して各凸部25表面の一点に接触することになり、凸部25の表面に線又は面で接触することはなくなる。仮に、食器及び器物等がエンボス模様41全体に対して線接触又は面接触する場合においても、ミクロな視点で見ると、各凸部25に対しては点接触している。このため、疵は点状に離散形成され、視覚的により目立たなくなる。しかも、この凸部25の直径はミリオーダであるため、食器及び器物等に重量が加わってもこれを十分に担うことが可能となる。
【0043】
なお、このシンク1は、付着した汚れの除去性の観点からも優れた性質を有する。一般に、シンクの汚れの除去性は、その表面に凹凸がなく、より平滑になるに従い向上する。このため、汚れの除去性の観点からは、シンク1の底面42は、凸部25が形成されていない平滑な平坦部26のみで形成した方が望ましいものといえる。
【0044】
このため、本発明を適用したシンク1では、あくまで平坦部26を基調としており、疵をより目立たなくする観点から必要最小限の凸部25を形成している。即ち、シンク1においては、図6(a)に示す横方向xに隣接する凸部25間の間隔(横方向平坦部長さLx)、及び図6(b)に示す縦方向yに隣接する凸部25間の間隔(縦方向平坦部長さLy)が、夫々凸部25の直径Wに比べて長くなるようにしている。これにより、汚れの除去性を最大限に発揮させつつ、凸部25を介して食器や器物等の接触による疵を目立たなくさせることが可能となる。また、上述したように、このエンボス模様41上に親水性膜28を積層することより、汚れの除去性をさらに向上させることが可能となる。
【0045】
次に、エンボス模様41を構成する凸部25のサイズ及び配置等が、食器及び器物等による疵付き性や汚れの洗浄性、更には耐久性に与える影響について説明する。
【0046】
底面42における凸部25の高さをH、横方向xに相互に隣接する2つの凸部25の頂点25a間の距離(横方向ピッチ)をPx、縦方向yに相互に隣接する2つの凸部25の頂点25a間の距離(縦方向ピッチ)をPyとしたとき、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyは、夫々、横方向ピッチPx及び縦方向ピッチPyと、凸部25の直径Wとの差として求められる。
【0047】
この凸部25の高さHが0.05mmより小さい場合には、耐久性が著しく劣化することがある。また、横方向平坦部長さLx又は縦方向平坦部長さLyが2mmより短い場合には、洗浄性が悪化することがある。更に、凸部25の高さHが1.0mmを超えるか、又は横方向平坦部長さLx若しくは縦方向平坦部長さLyが10.0mmを超えると、凸部25に対して食器及び器物等が引っ掛かり易くなる。
【0048】
このため、本発明を適用したシンク1においては、エンボス模様41における凸部25の高さHを0.05〜1.0mmとし、かつ横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyのうち少なくとも一方を2.0〜10.0mmとすることが望ましい。これにより、エンボス模様41が形成されていない場合と比較して、洗浄性及び耐久性をより向上させることが可能となる。
【0049】
また、本発明を適用したシンク1のエンボス模様41における凸部25の高さH、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyは、上述の範囲に限定されるものではなく、例えば、凸部25の高さHを0.05〜0.15mmの範囲とするとともに、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyを2.0〜3.0mmの範囲にしてもよい。これにより、エンボス模様41が形成されていない従来型のシンクと比較して、疵付き性、洗浄性及び耐久性を大幅に向上させることができる。
【0050】
その場合、凸部25の高さH(mm)、横方向平坦部長さLx(mm)及び縦方向平坦部長さLy(mm)の組み合わせ(H,Lx,Ly)は、例えば(0.05,3.0,3.0)、(0.05,2.5,2.5)、(0.05,2.0,2.0)、(0.1,2.5,2.5)、(0.1,2.0,2.0)又は(0.15,3.0,3.0)とすることもできる。このような組み合わせにおいても、エンボス模様41が形成されていない従来型のシンクと比較して、疵付き性、洗浄性及び耐久性をより向上させることが可能となる。ちなみに、凸部25の高さH、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyに関しては、ある程度の許容誤差が含まれている場合においても、上述したサイズの場合とほぼ同等の効果を奏することになる。
【0051】
なお、本実施形態においては、横方向平坦部長さLxと縦方向平坦部長さLyとが、等しい場合を例にして説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、上述した範囲内であれば、横方向平坦部長さLxと縦方向平坦部長さLyとが相互に異なっていても、同様の効果が得られる。また、縦方向x及び横方向yについてもユーザに対して厳密に横方向及び縦方向である必要はなく、本発明の表面保護構造においては、少なくとも一の方向に隣接する凸部間の間隔が2.0〜10.0mmであればよい。更に、この一の方向に直交する他の方向に隣接する凸部間の間隔も2.0〜10.0mmにすることにより、部材表面の洗浄性及び耐久性をより向上させることができる。
【0052】
一方、本発明を適用したシンク1のエンボス模様41においては、横方向x及び縦方向yだけでなく、斜め方向においても凸部25が隣接して配置されているが、その場合、斜め方向に隣接する凸部25間の距離(斜め方向平坦部長さLa)は、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyよりも、短い方が好ましい。具体的には、縦方向平坦部長さLaは2.0mm未満とすることが望ましく、エンボス模様41が図5(a)に示すような千鳥状である場合は、例えば、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyを夫々2.5mmとし、斜め方向平坦部長さLaを1.33mmとすることができる。このように、縦方向平坦部長さLaを2.0mm未満とすることにより、疵付き性及び耐久性をより一層向上させることができる。
【0053】
なお、上述したエンボス模様41は、システムキッチン2のシンク1に適用されるステンレス鋼板に形成される場合に限定されるものではなく、各種キッチン部材に適用することができる。例えば、このようなエンボス模様41を天板13に設けることにより、天板13に付けられる疵そのものを目立たなくさせることが可能となる。また、このエンボス模様41をシンク1内における排水口14bに設けられる蓋に使用されるステンレス鋼板に形成させることにより、これに対する疵を視覚的に目立たなくさせることも可能となる。更に、キッチン部材以外にも、例えば、浴室における洗面ボール、防水パン及びパスタブ等に適用することができ、これらに上述のエンボス模様41を形成することにより、表面に形成される疵を目立たなくさせることができる。
【0054】
即ち、このエンボス模様41は、水が付着可能ないかなる部材表面に形成されていてもよく、エンボス模様41が形成された部材表面を効果的に保護することが可能となる。また、エンボス模様41が形成される部材の材質も上述したステンレス鋼に限定されるものではなく、例えばプラスチック及び人工大理石等のいかなる材質で構成されていてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態においては、エンボス模様41を構成する凸部25の形状を半球状とする場合を例にとり説明をしたが、本発明はこの形状に限定されるものではない。即ち、凸部25は、少なくとも底面22から突出されているものであれば、いかなる形状で構成されていてもよい。また、この各凸部25は、食器や器物等の被接触物に対して一点で接触されるものであれば、いかなる形状で構成されていてもよいことは勿論である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、図3に示すシンク1に、図6(a)及び(b)に示す凸部25の高さHが0.05mm、0.1mm又は0.15mmで、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyが2.0mm、2.5mm又は3.0mmであるエンボス模様41を形成した。その際、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyが等しくなるようにした。以下、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyをまとめて平坦部長さLという。そして、凸部25の高さH(mm)と平坦部長さL(mm)との組み合わせを(H,L)と定義した場合において、以下の組み合わせ(0.05,3.0)、(0.05,2.5)、(0.05,2.0)、(0.1,2.5)、(0.1,2.0)及び(0.15,3.0)で構成された6種類のエンボス模様41を評価用のサンプルとして使用し、疵付き性、洗浄性及び耐久性の観点から評価を行った。
【0057】
疵付き性の評価は、各エンボス模様41上に陶器皿を載置し、この陶器皿を円状に引きずって5回転させた後、各エンボス模様41に形成された疵を目視判定する試験Aと、各エンボス模様41上にフライパンを逆向きに載置し、このフライパンを引きずって5往復させた後、各エンボス模様41に形成された疵を目視判定する試験Bと、各エンボス模様41上に陶器碗を載置し、この陶器碗を円状に引きずって5回転させた後、各エンボス模様41に形成された疵を目視判定する試験Cの3種類の試験を行った。そして、試験A〜Cの目視判定結果を総合的に比較することにより、各エンボス模様41の疵付き性を評価した。
【0058】
また、洗浄性の評価に関しては、先ず、各エンボス模様41の表面における縦40mm、横40mmの領域を、マジックペン等の油性インクで塗りつぶし、1時間放置した。次に、各エンボス模様41の油性インクで塗りつぶされた領域を、ネットスポンジで500gの荷重をかけて擦った。このとき、図3に示す蛇口17を介してシンク1内へ水を流入させながら、ネットスポンジを3往復させた。そして、各エンボス模様41の表面の油性インクで塗りつぶされた領域に残留している油性インクの量を、目視判定することにより、洗浄性を評価した。
【0059】
更に、耐久性は、食器及び器物等により、底面42に視覚的な疵が生じるまでの磨耗回数で評価した。具体的には、陶器碗を各エンボス模様41上に載置し、往復させながら引きずった。そして、エンボス模様41上における陶器碗の往復回数を磨耗回数と定義し、底面42に視覚的な疵が生じるまでの磨耗回数を、各サンプルについて測定した。この視覚的な疵が生じるまでの磨耗回数が大きい場合には、食器及び器物等が相当回数接触して凸部25が磨耗した場合でなければ、疵が目立たないことを意味しており、耐久性が高いものといえる。これに対して、視覚的な疵が生じるまでの磨耗回数が小さい場合には、食器及び器物等が少ない回数で接触した場合でも、疵が目立つことを意味しており、耐久性が低いものといえる。
【0060】
以上の結果を下記表1にまとめて示す。なお、下記表1には、参考のためにエンボス模様41が形成されていない従来型のシンクについて、同様の評価を行った結果を併せて示す。また、下記表1に示す評価結果においては、点数が小さい程、結果が良好であることを示している。
【0061】
【表1】

【0062】
上記表1に示すように、高さHを0.05mmとした場合、平坦部長さLを2.0mm及び2.5mmとしたサンプルについては、疵付き性及び耐久性に関してほぼ同等の結果が得られた。即ち、試験A及び試験Bによる目視判定において、疵は全く観察されることはなく、試験Cにおいては大きな疵が観察された。
【0063】
これに対して、平坦部長さLを3.0mmとした場合には、試験Aにおける目視判定において小さな疵が観察され、試験B及び試験Cにおいては、大きな疵が観察された。その結果、傷つき性に関して評価点数を合計すると、平坦部長さLが3.0mmの場合には18点であるのに対し、平坦部長さLが2.0又は2.5mmの場合には8点となり、互いに大きな差異が生じることが分かった。
【0064】
かかる差異は、以下の理由により説明することができる。即ち、平坦部長さLが2.5mm及び2.0mmと小さくなるに従い、隣接する凸部2間の間隔が狭くなるため、エンボス模様41上において引きずられる食器及び器物等に対して接触する凸部25の単位面積あたりの数が増加する一方で、底面42にこれら食器等が直接的に接触する面積が少なくなる。仮に、底部42の平坦部26に対して食器及び器物等が直接的に接触することになれば、疵が連続してしまうが、平坦部長さLが本発明の範囲内のサンプルにおいては、接触される食器及び器物等の殆どを凸部25で担うことができる。また、凸部25の形状は、直径がミリオーダの半球状であるため、これら食器及び器物等は各凸部25表面の一点に点接触することになり、疵が点状に離散し、視覚的により目立たなくなる。
【0065】
これに対して、平坦部長さLが3.0mmの場合には、凸部25の間隔が広くなり、単位面積あたりの凸部25の数が減少する。その結果、食器及び器物等が底面42の平坦部26へ直接的に線接触し又は面接触することになり、これにより形成される疵は底面42上において連続してしまうため、視覚的に目立つことになる。
【0066】
次に、洗浄性の評価結果について説明する。凸部25の高さHを0.05mmとした場合、平坦部長さLを3.0mm及び2.5mmとしたときには、評価点が共に1点となり、良好な結果が得られた。一方、平坦部長さLを2.0mmとしたときは、評価点が3点となり、洗浄性が若干低下していることが確認された。即ち、平坦部長さLが2.5mm及び3.0mmの場合等のように、隣接する凸部25間の間隔がより広くなるに従い、ネットスポンジの繊維が凸部25の間隙、即ち、平坦部26上を通りやすくなるため、平坦部26に付着した汚れをより効率的に除去することが可能となる。これに対して、平坦部長さLが2.0mmの場合には、凸部25の間隔が狭くなるため、ネットスポンジの繊維がかかる凸部25の間隙を通りにくくなり、平坦部26に付着した汚れを除去することが困難になる。
【0067】
また、凸部25の高さHを0.1mmとした場合における評価結果では、平坦部長さLが2.0mm及び2.5mmのサンプルについては、疵付き性及び耐久性についてほぼ同等の結果が得られた。即ち、試験A及び試験Bによる目視判定において、疵は全く観察されることはなく、試験Cにおいては大きな疵が観察された。
【0068】
一方、洗浄性の観点からは、平坦部長さLが2.5mm、2.0mmの順で低下していた。この理由に関しても、上述と同様に、隣接する凸部25間の間隔が狭くなるに従い、ネットスポンジの繊維が凸部25の間隙を通りにくくなるためである。また、凸部25の高さHが0.05mmとした場合と比較して、全体的に洗浄性が悪化している理由は、凸部25の高さHが大きくなる分において、ネットスポンジの繊維が底部22に行き届きにくくなり、これに付着している汚れを除去が困難になるからである。
【0069】
なお、凸部25の高さHを0.1mmとした場合の耐久性は、高さHを0.05mmとした場合に比べて、向上していることが確認された。これは、凸部25の高さHが大きくなるに従い、視覚的な疵が生じるまでに必要な磨耗量が多くなるためである。
【0070】
また、凸部25の高さHを0.15mmとし、平坦部長さLを3.0mmとした場合については、疵付き性に関しては、凸部25の高さHを0.05mm及び0.1mmとしたに比べて、良好な結果が得られた。即ち、試験Cにおいても大きな疵が観察されることがなくなり、食器及び器材等の接触に伴い生じる疵の多くは、ほぼ全てを各凸部25表面の一点で担うことが可能となり、視覚的に目立たなくさせることができた。
【0071】
しかしながら、洗浄性の観点からは、凸部25の高さHを0.05mm及び0.1mmとした場合に比べて悪化することが分かった。一方、凸部25の高さHを0.15mmとした場合には、加工硬化により強度が上昇するため、耐久性はさらに向上する。
【0072】
次に、追加実験として、耐久性試験を行った。図7は横軸に磨耗回数をとり、横軸に凸部25の高さHをとって、凸部25の高さHと耐久性との関係を示すグラフ図である。この追加実験では、高さHが0.06mmの凸部25により構成されたエンボス模様41上に陶器を載置し、この陶器の底を往復させながら引きずり、磨耗回数に対する凸部25の高さHの変化を測定した。その際、往復時においては、陶器に対して上方から3kgの荷重をかけた。その結果、図7に示すように、磨耗回数が80回のときに、凸部25の高さHが0.048mmとなり、磨耗回数が160回のときに高さHが0.043mmとなった。更に、凸部25の高さHが0.048mmを下回ると、視覚的に確認可能な疵が生じることが分かった。
即ち、凸部25の高さHが0.06mmの状態から引きずりを開始した場合に、磨耗回数が160回を超えて高さが不変になる0.043mmに至るまで0.017mm分の余裕分がある。このため、高さが不変になる余裕分0.017mm分を、上述した凸部25の高さHの下限である0.05mmに加算した0.067mmを、かかる凸部25の高さHの下限とすることが望ましい。この凸部の高さHを0.067mmとすることにより、160回以上の磨耗が生じて0.017mm削れた場合であっても、高さHは、まだ0.05mmであり、後述する視覚的な疵が目立つ0.048mm以上とすることが可能となる。
【0073】
このため、凸部25の高さHを0.1mm及び0.15mmとした場合は、凸部25の高さHが0.048mmに至るまでには相当量磨耗させなければならないことが確認された。裏を返せば、食器及び器物等の接触に伴う凸部25の磨耗が相当量生じても、視覚的な疵は目立たないことになり、耐久性をより向上させることが可能となることがわかる。これに対して、凸部25の高さHを0.05mmとした場合には、わずかに磨耗しただけで高さHが0.048mmに到達してしまい、視覚的な疵が目立ち、耐久性そのものが低下してしまう。
このため、この凸部25の高さの下限は、0.05超mmとすることすることが望ましい。
【0074】
ここで、上述の如く評価した疵付き性、洗浄性及び耐久性をまとめると、上記表1に示すように、凸部25の高さHを0.1mmとし、平坦部長さLを2.5mmとした場合、及び凸部25の高さHを0.15mm、平坦部長さLを3mmとした場合が共に7点となり、これら各性質を総合して最も優れた特性を示すことが分かった。また、今回評価した各サンプルともに従来型のシンクと比較して各特性を大幅に向上させることができた。ちなみに、この総合評価では、エンボス模様41全体から感じさせられる美観(意匠性)は除いている。
【0075】
上述の如く、本発明を適用したシンクでは、エンボス模様41を底面42上に形成させているものの、これによる流れ性への影響は殆どなく、特に油の流れ性に関しては、従来型のシンクと比較して優れていることも実験的に確証できた。
【0076】
次に、図6(a)及び(b)に示す親水性膜28の積層の有無に対する疵付き性及び洗浄性の影響を調べた。その結果を下記表2に示す。なお、下記表2には、エンボス模様41を形成していない従来型のシンクの評価結果も併せて示す。
【0077】
【表2】

【0078】
上記表2に示すように、シンク1の底面42に親水性膜28を積層しない場合には、従来型シンクと比較して疵付き性は改善することができるものの、洗浄性を殆ど改善することができなかった。これに対して、シンク1の底面42に親水性膜28を積層させた場合には、疵付き性に加えて洗浄性をも従来型のシンクと比較して大幅に改善できることができた。なお、従来型のシンクに親水性膜28を積層して同様の評価を行ったところ、洗浄性は改善することができるものの、疵付き性は改善することができなかった。以上の結果より、結局のところ、疵付き性と洗浄性の双方をともに改善するためには、本発明を適用したシンク1の底面42に親水性膜28を塗布することが必要となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムキッチン用のシンクの表面を保護するための表面保護構造において、
前記シンクの底面のみには、平滑面に突設された複数の半球状の凸部によるエンボス模様が形成され、
前記各凸部は、被接触物に対して点接触され、
前記平滑面に対する前記凸部の頂点の高さは0.05〜0.15mmであり、
かつ少なくとも一の方向(横方向平坦部長さLx又は縦方向平坦部長さLy)に隣接する凸部間の間隔は2.0〜3.0mmであること
を特徴とする表面保護構造。
【請求項2】
前記エンボス模様上には、汚染除去性が良好な表面処理が施されていること
を特徴とする請求項1記載の表面保護構造。
【請求項3】
前記一の方向に直交する他の方向に隣接する凸部間の間隔が2.0〜3.0mmであること
を特徴とする請求項1又は2記載の表面保護構造。
【請求項4】
前記一の方向及び前記他の方向以外の方向に隣接する凸部間の間隔が2.0mm未満であること
を特徴とする請求項3に記載の表面保護構造。
【請求項5】
前記凸部の高さH(mm)、横方向平坦部長さLx(mm)及び縦方向平坦部長さLy(mm)の組み合わせ(H,Lx,Ly)は、(0.05,2.5,2.5)、(0.05,2.0,2.0)、(0.1,2.5,2.5)であること
を特徴とする請求項1に記載の表面保護構造。
【請求項6】
前記凸部は、千鳥状であって、横方向平坦部長さLx及び縦方向平坦部長さLyを夫々2.5mmであり、斜め方向平坦部長さLaが1.33mmであること
を特徴とする請求項1に記載の表面保護構造。
【請求項7】
前記シンクはステンレス鋼製であること
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の表面保護構造。
【請求項8】
前記シンクの排水口及び周壁のうち少なくとも一方と、前記エンボス模様との間の連続した領域には、凹凸のない余白部が設けられていること
を特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の表面保護構造。
【請求項9】
前記汚染除去性が良好な表面処理により、前記エンボス模様上に透光性を有する膜が形成されていること
を特徴とする請求項8に記載の表面保護構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−191605(P2009−191605A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132206(P2009−132206)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2006−548910(P2006−548910)の分割
【原出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000104973)クリナップ株式会社 (341)
【Fターム(参考)】