説明

表面修飾ナノダイヤモンド及びその製造法

【課題】 水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性に優れた高分散性の表面修飾ナノダイヤモンドを得る。
【解決手段】 本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が、下記式(1)
【化1】


[式中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている。式(1)において、A2が炭素数3のアルキレン基を示し、−O−(CH2CH2O)n−が数平均分子量200〜20000のポリエチレングリコールに対応するポリエチレングリコール鎖であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面修飾されたナノダイヤモンドとその製造法に関する。この表面修飾されたナノダイヤモンドは、CMP(Chemical Mechanical Polishing :化学機械研磨)向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コ−ティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で利用できる。また、生体適合性の高い医用材料、細胞への導入と可視化、標識細胞の生体内でのモニタリング、ドラッグデリバリーシステム、検査試薬などに応用できる。
【背景技術】
【0002】
ナノダイヤモンドは、ダイヤモンド固有の性質に加え、平均粒径が小さく、比表面積が大きいという特徴を有する。さらに、比較的安価であり、入手も容易である。
【0003】
ナノダイヤモンドは、爆発法や高温高圧法によって製造される。爆発法は、トリニトロトルエンおよびヘキソーゲンを爆発させることにより、ナノサイズのダイヤモンドを得る方法である。この方法で得られるナノダイヤモンドは、水への溶解性は高いが、アモルファスカーボンやグラファイトなどの他の炭素質の混入が多く、また表面化学修飾が難しいという問題を有する。一方、高温高圧法は、例えば、密閉された高圧容器内で、鉄やコバルト等の金属の存在下、原料グラファイト粉末を1〜10GPaの高圧および800〜2000℃の高温に保持し、ダイヤモンドに直接相転移させる方法である。この方法で得られるナノダイヤモンドは、アモルファスカーボンやグラファイトなどの他の炭素質の混入が少なく、粒径も揃っているが、水や有機溶媒への溶解性、分散性、分散安定性が低いという問題がある。そのため、ナノダイヤモンドの用途開発はさほど進んでいない。
【0004】
水や有機溶媒に対する溶解性、分散性を向上させるため、ナノダイヤモンドの表面を化学修飾する試みがなされている(特許文献1〜3参照)。しかし、水或いは極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性は必ずしも十分なものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−238411号公報
【特許文献2】特開2008−303104号公報
【特許文献3】特開2008−150250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性に優れた高分散性の表面修飾ナノダイヤモンドと、その製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究した結果、ナノダイヤモンドの表面を、ポリエチレングリコール鎖を含む特定の基で修飾すると、水や極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、表面が、下記式(1)
【化1】

[式中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを提供する。
【0009】
式(1)において、A2が炭素数3のアルキレン基を示し、−O−(CH2CH2O)n−が数平均分子量200〜20000のポリエチレングリコールに対応するポリエチレングリコール鎖であるのが好ましい。
【0010】
本発明は、また、水素化ナノダイヤモンドに、下記式(2)
【化2】

(式中、R1は水素原子又はアミノ基の保護基を示し、A1は炭素数1〜20のアルキレン基を示す)
で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルカン酸を反応させ、次いで、下記式(3)
【化3】

[式中、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示し、A2は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体とを反応させ、R2がアミノ基の保護基である場合には脱保護し、表面が下記式(1)
【化4】

[式中、A1、A2、A3、nは前記に同じ]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする表面修飾ナノダイヤモンドの製造法を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、表面が、下記式(4)
【化5】

[式中、R3は蛍光標識基であり、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンドを提供する。
【0012】
本発明は、さらにまた、表面が下記式(1)
【化6】

[式中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、アミノ基反応性基を有する蛍光物質を反応させて、表面が下記式(4)
【化7】

[式中、R3は蛍光標識基であり、A1、A2、A3、nは前記に同じ]
で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンドの製造法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、従来のナノダイヤモンドと異なって、水或いは極性有機溶媒への溶解性又は分散性、分散安定性が大幅に向上しており、取り扱い性が格段に向上するだけでなく、水又は極性有機溶媒に安定して溶解又は分散させた状態で各種目的に使用したり、水又は極性有機溶媒中でナノダイヤモンドに対して各種化学的反応や各種物理的反応を行ったりすることが可能となる。このことによって、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コーティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で好適に利用し得るナノダイヤモンド材料の提供が達成される。また本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは修飾基中にアミノ基を有しており、更に化学修飾することが可能である。このことによって、例えば、生体適合性の高い医用材料、細胞への導入と可視化、標識細胞の生体内でのモニタリング、ドラッグデリバリーシステム、検査試薬などへ応用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が、前記式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている。式(1)中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度(数平均重合度)を示し、2以上である。
【0015】
1、A2、A3における炭素数1〜20のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、ブチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、デカメチレン、ドデカメチレン、テトラデカメチレン、ヘキサデカメチレン、オクタデカメチレンなどの炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。アルキレン基としては直鎖状のアルキレン基がより好ましい。
【0016】
1としては、上記の中でも、炭素数1〜14のアルキレン基が好ましい。また、A2としては、上記の中でも、炭素数1〜14のアルキレン基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、特に好ましくは炭素数3のアルキレン基(例えば、トリメチレン基)である。A3としては、単結合又は炭素数1〜14のアルキレン基が好ましく、より好ましくは、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基(例えば、炭素数5のアルキレン基)である。
【0017】
式(1)中のポリエチレングリコール鎖(−O−(CH2CH2O)n−)は、目的とする高分散性が得られる範囲である限り特に制限は無いが、小さすぎるとナノダイヤモンド粒子間相互の反発力が不足するため粒子の凝集を防ぐ効果が損なわれ、溶媒への安定な分散状態の維持には適さなくなる。また、あまり大きいとナノダイヤモンド粒子間でポリエチレングリコール鎖同士が絡み合いを起こして同様に粒子の凝集を起こしやすくなる他、ダイヤモンド材料としての特性が希釈されてしまうことになるので好ましくない。ポリエチレングリコール鎖は、ポリエチレングリコールとしての数平均分子量で、好ましくは100〜50000、より好ましくは200〜20000、さらに好ましくは1000〜10000、特に好ましくは4000〜6000である。すなわち、−O−(CH2CH2O)n−としては、数平均分子量100〜50000(より好ましくは200〜20000、さらに好ましくは1000〜10000、特に好ましくは4000〜6000)のポリエチレングリコールに相当するポリエチレングリコール鎖であるのが望ましい。
【0018】
前記表面修飾ナノダイヤモンドの中でも、A2が炭素数3のアルキレン基を示し、−O−(CH2CH2O)n−が数平均分子量200〜20000のポリエチレングリコールに対応するポリエチレングリコール鎖であるものが特に好ましい。
【0019】
本発明の表面修飾ナノダイヤモンドは、水素化ナノダイヤモンドに、前記式(2)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルカン酸を反応させ、次いで、前記式(3)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体とを反応させ、R2がアミノ基の保護基である場合にはさらに脱保護することにより得ることができる。
【0020】
ナノダイヤモンド(ND)に修飾基を導入するにあたっては、直接反応させてもよいが、一旦NDを水素気流中、400〜1000℃に加熱して還元し、水素化ナノダイヤモンド(ND−H)とするのが(特開2007−238411号公報参照)、修飾基の導入率などの点で好ましい。
【0021】
原料として用いるナノダイヤモンドや水素化ナノダイヤモンドの平均粒子径は、通常3〜200nmであり、より好ましくは7〜100nm、特に好ましくは10〜40nmである。原料ナノダイヤモンドの粒子径を選択することにより、目的に適した粒子径の表面修飾ナノダイヤモンドを得ることができる。グラファイトからナノダイヤモンドを製造する製造法や製造条件により、また製造後の分級操作条件により、さまざまな粒子径のものを得ることができ、既存のメーカーから各種製造法によるさまざまな粒子径のものを入手できる。
【0022】
式(2)中、R1は水素原子又はアミノ基の保護基を示す。A1は前記に同じである。
【0023】
1におけるアミノ基の保護基としては、有機合成の分野で通常用いられるアミノ基の保護基、例えば、t−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)基、9−フルオレニルオキシメチルカルボニル(Fmoc)基、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基、2−クロロベンジルオキシカルボニル(Cl−Z)基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、アダマンチルオキシカルボニル(Adoc)基、トリチル(Trt)基などが挙げられる。これらの保護基は、反応後、通常の手法で脱保護することができる。
【0024】
好ましいアミノアルカン酸としては、片末端に1級アミノ基、もう片方の末端にカルボン酸基を有する、いわゆるω―アミノカルボン酸類であり、例えばグリシン、β−アラニン、6−アミノカプロン酸、8−アミノオクタン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0025】
アミノアルカン酸保護誘導体[式(2)において、R1がアミノ基の保護基である化合物]は、慣用の方法により得ることができる。例えば、上記ω―アミノカルボン酸類、すなわちβ−アラニン、6−アミノカプロン酸、8−アミノオクタン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノアルカン酸のアミノ基を市販のBoc化試薬(例、t−ブトキシカルボニルクロリド、ジ−t−ブチルジカーボネート、t−ブチルオキシカルボニルオキシ N−スクシンイミド、t−ブトキシカルボニルオキシイミノ−2−フェニルアセトニトリル、t−ブチル(p−ニトロフェニル)カーボネート等)と反応させることにより、Boc保護アミノアルカン酸誘導体を得ることができる。また、アミノアルカン酸を、市販のCbz化試薬(例、ベンジルオキシカルボニルクロリド、ベンジルN−スクシンイミジルカーボネート、ベンジル(p−ニトロフェニルオキシ)カーボネート等)と反応させることにより、Cbz保護アミノアルカン酸誘導体を得ることができる。さらに、その他のアミノ基保護アミノアルカン酸誘導体についても、ClZ化試薬(例、2−クロロベンジルオキシカルボニルクロリド)と反応させることによりCl−Z保護アミノアルカン酸が、トリチルクロリドと反応させることによりTrt保護アミノアルカン酸が、アリルオキシカルボニルクロリドと反応させることによりAlloc保護アミノアルカン酸が、アダマンチルオキシカルボニルクロリドと反応させることによりAdoc保護アミノアルカン酸が得られる。目的に応じて、種々の保護基の異なるアミノアルカン酸保護誘導体が用いられる。
【0026】
水素化ナノダイヤモンドと式(2)で表される化合物との反応は、必要に応じラジカル開始剤を加え、適当な溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)中、適宜な温度、例えば、該ラジカル開始剤の分解温度に応じ適当に選択される温度、例えば過酸化ベンゾイルならば75℃程度、アゾビスイソブチロニトリルでは60℃程度に加熱することにより行われる。好ましいラジカル開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、アゾビスイソブチロニトリル、2−エチルへキシルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。式(2)で表される化合物としては、アミノ基が保護基で保護された化合物を用いるのが好ましい。
【0027】
式(2)で表される化合物の使用量は、例えば、水素化ナノダイヤモンド100重量部に対して、20〜3000重量部、好ましくは100〜1200重量部、さらに好ましくは150〜400重量部である。
【0028】
反応生成物は、反応終了後、濃縮、沈殿、遠心分離、濾過、抽出、洗浄、乾燥等の分離精製手段、またはこれらの分離精製手段を2以上組み合わせることにより精製できる。
【0029】
次いで、水素化ナノダイヤモンドと式(2)で表される化合物との反応生成物に、前記式(3)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体とを、適当な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)中、適宜な温度(例えば、0〜100℃)で反応させ、R2がアミノ基の保護基である場合にはさらに脱保護する。反応は、必要に応じて、カリウムt−ブトキシド等の塩基の存在下で行ってもよい。式(3)中、R2、A2、A3、nは前記に同じである。
【0030】
水素化ナノダイヤモンドと式(2)で表される化合物との反応生成物のアミノ基が保護基で保護されている場合には、脱保護した後、式(3)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体と反応させるのが好ましい。
【0031】
式(3)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸において、アミノ基の保護基としては、有機合成の分野で通常用いられるアミノ基の保護基、例えば、前記R1におけるアミノ基の保護基として例示したものが挙げられる。
【0032】
前記アミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸の活性な反応性誘導体としては、カルボン酸からエステルやアミドを合成する際に通常用いられる活性な反応性誘導体(−C=O基が活性化された反応性誘導体)、例えば、対応するN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール−1−イルエステル、アジド、ペンタフルオロフェニルエステル、ニトロフェニルエステルなどが挙げられる。
【0033】
式(3)で表される化合物において、アミノ基がt−ブチルオキシカルボニル(Boc)基等の保護基により適切に保護されている場合には、式(3)で表されるカルボン酸を用い(活性な反応性誘導体を用いることなく)、縮合剤やカップリング剤により縮合させることができる。縮合剤としては、エステル化反応、アミド化反応に通常用いられる縮合剤、例えば、N,N′−ジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)、水溶性カルボジイミド塩酸塩(WSC)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O−(7−アゾベンゾトリアゾール−1−イル−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ トリスジメチルアミノホスホニウム塩(BOP)などが挙げられる。
【0034】
式(3)で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体として、例えば、日油株式会社製のSUNBRIGHT PA−、BO−、MA−シリ−ズ等、市販のものを用いることができる。
【0035】
式(3)で表されるカルボン酸又はその活性な反応性誘導体の使用量は、前工程で用いた式(2)で表される化合物の反応で消費された量1モルに対して、例えば、0.1〜20モル、好ましくは1.1〜5モル程度である。
【0036】
2がアミノ基の保護基である場合の脱保護は慣用の方法により行うことができる。
【0037】
生成した式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドは、反応終了後、濃縮、沈殿、遠心分離、濾過、抽出、洗浄、乾燥等の分離精製手段、またはこれらの分離精製手段を2以上組み合わせることにより精製できる。
【0038】
式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドにおいて、化学修飾基の導入量は、目的とする高分散性が得られる範囲である限り特に制限は無いが、ナノダイヤモンド構造部分100重量部に対して、ポリエチレングリコール鎖を含む化学修飾部分が、好ましくは20〜3000重量部、より好ましくは100〜1200重量部、さらに好ましくは200〜400重量部である。導入量が少なすぎるとナノダイヤモンド表面のポリエチレングリコール鎖を含む化学修飾基による被覆量が不足するため粒子の凝集を防ぐ効果が損なわれ、溶媒への安定な分散状態の維持には適さなくなる。また、あまり導入量が多いとダイヤモンド材料としての特性が希釈されてしまうことになるので好ましくない。表面に導入されたポリエチレングリコール鎖を含む化学修飾部分とナノダイヤモンド構造部分の比は示差熱天秤分析装置(TG−DTA)を用いて表面修飾ナノダイヤモンドの熱処理時の重量変化を分析することにより求めることができる。
【0039】
こうして得られる式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドは、水や極性有機溶媒に対する溶解性又は分散性、分散安定性に優れており、CMP向け研磨剤やドレッサー用材料、燃料電池向け耐腐食性電極メッキ材料、切削工具などの高硬度表面コーティング層形成材料、高耐熱・高熱伝導材料など、工学応用分野で使用できる。また、この表面修飾ナノダイヤモンドは修飾基中にアミノ基を有しており、更に化学修飾することが可能である。
【0040】
本発明の蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が、前記式(4)で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている。式中、R3は蛍光標識基である。A1、A2、A3、nは前記に同じである。
【0041】
3における蛍光標識基としては、蛍光物質にアミノ基との連結基が結合している基を使用できる。蛍光物質としては、特に限定されず、公知の蛍光物質を用いることができ、例えば、フルオロセイン、スルホローダミン、ローダミン、ダンシルクロライド、7−クロロ−4−ニトロベンゾキシアゾール、またはこれらの誘導体(種々の置換基を有する化合物等)などが挙げられる。前記連結基としては、例えば、チオアミド基、スルホニル基、カルボニル基などが挙げられる。
【0042】
本発明の蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンドは、表面が前記式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、アミノ基反応性基を有する蛍光物質を反応させることにより製造できる。
【0043】
アミノ基反応性基を有する蛍光物質としては、例えば、前記蛍光物質に、イソチオシアネート基、スルホニルハライド基、カルボニルハライド基などのアミノ基に対して反応性を有する基が結合した物質や、蛍光物質のアミノ基に対して活性な反応性誘導体(例えば、蛍光物質がカルボキシル基を有するときはそのN−ヒドロキシスクシンイミドのエステル等)などが挙げられる。代表的なアミノ基反応性基を有する蛍光物質として、フルオロセインイソチオシアナート(FITC)、カルボキシフルオレセインスクシンイミドエステル(NHS−Fluorescein)、フルオロセインイソチオシアナートスクシンイミドエステル(FITC−NHS)などが例示できる。
【0044】
表面が前記式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドとアミノ基反応性基を有する蛍光物質との反応は、例えば、適当な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド)中、アミノ規範能性基に応じた温度(例えば、0〜100℃)で行われる。反応は、必要に応じて、カリウムt−ブトキシド等の塩基の存在下で行ってもよい。
【0045】
アミノ基反応性基を有する蛍光物質の使用量は、表面が前記式(1)で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンド中のアミノ基に対して、1当量以上(例えば、1〜10当量程度)であるのが好ましい。
【0046】
反応生成物は、反応終了後、濃縮、沈殿、遠心分離、濾過、抽出、洗浄、乾燥等の分離精製手段、またはこれらの分離精製手段を2以上組み合わせることにより精製できる。
【0047】
こうして得られる式(4)で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドは、水や極性有機溶媒に対する溶解性又は分散性、分散安定性に優れており、標識細胞の生体内でのモニタリング、ドラッグデリバリーシステム、検査試薬などに使用できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれよって限定されるものではない。なお、PEGはポリエチレングリコール鎖を表す。
【0049】
実施例1
BOC−アミノドデカン酸の合成
12−アミノドデカン酸108.67gを300mLのナスフラスコに入れ、200mLのテトラヒドロフランを加えた。これにBoc−Cl(t−ブトキシカルボニルクロリド)67.79gを加えた後、トリエチルアミン55.56gを加えて室温にて2時間撹拌した。反応混合物をロータリーエバポレーターで濃縮し、テトラヒドロフランを除いた後、塩化メチレン200mLを加え、10重量%クエン酸水溶液100mLで3回、引き続いて飽和食塩水で3回洗浄の上、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ紙でろ過してろ液をロータリーエバポレーターで恒量値まで濃縮して150.26gのオイル状物質(BOC−アミノドデカン酸)を得た。
【0050】
NDに対するBOC−アミノドデカン酸の導入
水素化ND[ND30−H、平均粒子径30nm、トーメイダイヤ(株)]800mgとBOC−アミノドデカン酸1.487gを300mlのナスフラスコに入れ、200mlのジメチルホルムアミドを加えた。ラジカル開始剤として過酸化ベンゾイル400mgを加えた後、75℃で超音波照射を行った。2時間後、溶媒を留去した後、60mlの酢酸エチル−ヘキサン(1:1,v/v)混合溶媒を加え、最大加速度18500g、温度20℃で10分間遠心分離を行った後、上澄みを除去した。沈降した表面修飾NDに対して、60mlの酢酸エチル−ヘキサン(1:1,v/v)混合溶媒を加え、最大加速度18500g、温度20℃で10分間遠心分離を行った後、上澄みを除去した。さらに再度、沈降した表面修飾NDに対して、16mlの酢酸エチル−ヘキサン(1:1,v/v)混合溶媒を加え、最大加速度18500g、温度20℃で10分間遠心分離を行った後、上澄み溶液を除去した。沈降した表面修飾NDに対して50mlの酢酸エチルを加え、ポアサイズが200nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDに対して、10mlの酢酸エチルで5回、20mlのトリエチルアミンで5回、水で5回、メタノールで5回、洗浄した後、真空乾燥した。真空乾燥の後に得られた黒色固体ND30−OCO−(CH211−NH−BOC(BOC−アミノドデカン酸ND)は、823mgであった。
【0051】
BOC−アミノドデカン酸NDからのBOC基の脱保護
合成したND30−OCO−(CH211−NH−BOC20.0mgに1mlのトリフルオロ酢酸を加え、0℃で、撹拌を行った。5分後、2mlのクロロホルムを加え、最大加速度18500g、温度0℃で10分間遠心分離を行った後、上澄みを除去した。沈降した表面修飾NDに対して、10mlのクロロホルムを加え、ポアサイズが100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDに対して、1mlの酢酸エチルで2回、10mlのクロロホルムで5回、水で3回、メタノールで3回、洗浄した後、真空乾燥した。真空乾燥の後に得られた黒色固体ND30−OCO−(CH211−NH3OCOCF3は、18.5mgであった。
【0052】
水溶性NDの合成
合成したND30−OCO−(CH211−NH3OCOCF335.0mgと70mgのBOC−NH−(CH23−PEG−CO−NHS(NHS:N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、日油株式会社、「SUNBRIGHT BO−050TS」、重量平均分子量5000)を4mlのバイアル瓶に入れ、525mlのジメチルスルホキシドを加えた。2分間、超音波照射を行った後、7.00mgのカリウム−t−ブトキシドを加え、さらに2分間、超音波照射を行った。2時間室温で撹拌した後、2mlのジエチルエーテルを加え、NDが沈降した後、上澄みを除去した。沈降した表面修飾NDに対して、2mlのジエチルエーテルを加え、平均ポアサイズが100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDに対して、2mlのジエチルエーテルで3回、4mlのトリエチルアミン−メタノール(1:1,v/v)混合溶媒で5回、水で5回、メタノールで5回、洗浄した後、真空乾燥した。真空乾燥の後に得られた黒色固体ND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOCは、32.1mgであった。
【0053】
水溶性NDの分散度
合成したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOC1.22mgと1mlのリン酸緩衝溶液を4mlのバイヤル瓶に加え、2分間、超音波照射を行った後、1日放置した。その後、ポアサイズが100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDを1mlの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、1.00mgのリン酸緩衝溶液内で沈降したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOCが得られた。このことから、リン酸緩衝液内に分散したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOCの分散度を0.22mg/mlであると決定した。
【0054】
ND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOCからのBOC基の脱保護
合成したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH−BOC50.0mgに1mlのトリフルオロ酢酸を加え、0℃で、撹拌を行った。5分後、15mlのクロロホルムを加え、最大加速度18500g、温度0℃で10分間遠心分離を行った後、上澄みを除去した。沈降したNDに対して、10mlのクロロホルムを加え、ポアサイズが100nmのメンブランフィルタ−を用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDに対して、5mlのクロロホルムで5回、洗浄した後、真空乾燥した。真空乾燥の後に得られた黒色固体ND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF3は、38.4mgであった。
【0055】
ND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF3の分散度
合成したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF31.82mgと1mLのリン酸緩衝溶液(和光純薬工業株式会社製、細胞培養用D−PBS(−))を4mLのバイヤル瓶に加え、2分間、超音波照射を行った後、1日放置した。その後、ポアサイズが100nmのメンブランフィルター(Millipore製OMNIPORE)を用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDを1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、0.70mgのリン酸緩衝溶液内で沈降したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF3が得られた。このことから、リン酸緩衝液内に分散したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF3の分散度を1.12mg/mLであると決定した。
【0056】
比較例1
ND30−H10.0mgをバイアル瓶にとり、1mLの純水を加え、2分間、超音波照射を行った後、1日放置した。その後、ポアサイズ100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。メンブランフィルター上にろ別された未分散固形物を1mLの水で10回洗浄した後、真空乾燥し、重量を測定することにより、純水中に安定的に分散された量を求めたところ、0.2mg/mLであった。
【0057】
実施例2
ND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH2への蛍光標識基の導入
合成したND30−OCO−(CH211−NH−CO−PEG−(CH23−NH3OCOCF35.02mgと1.50mgのNHS−フルオレセインを4mlのバイヤル瓶に入れ、125mlのジメチルスルホキシドを加えた。2分間、超音波照射を行った後、0.80mgのカリウム−t−ブトキシドを加え、さらに2分間、超音波照射を行った。2時間室温で撹拌した後、6mlのエーテルを加え、表面修飾NDが沈降した後、上澄みを除去した。沈降した表面修飾NDに対して、2mlのエーテルを加え、ポアサイズが100nmのメンブランフィルターを用いて濾過した。ろ別された表面修飾NDに対して、2mlのメタノールで10回、2mlのトリエチルアミン−メタノール(1:1,v/v)混合溶媒で10回、水で5回、メタノールで5回、洗浄した後、真空乾燥した。真空乾燥の後に得られた黒色固体[下記式(5)で表される蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンド]は、4.06mgであった。
【0058】
【化8】

【0059】
水溶性蛍光NDの分散度
合成した前記式(5)で表される蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンド1.24mgと1mlのリン酸緩衝溶液を4mlのバイヤル瓶に加え、2分間、超音波照射を行った後、1週間放置した。その後、この溶液からチンダル現象が確認され、水溶性を有することを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が、下記式(1)
【化1】

[式中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項2】
式(1)において、A2が炭素数3のアルキレン基を示し、−O−(CH2CH2O)n−が数平均分子量200〜20000のポリエチレングリコールに対応するポリエチレングリコール鎖である請求項1記載の表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項3】
水素化ナノダイヤモンドに、下記式(2)
【化2】

(式中、R1は水素原子又はアミノ基の保護基を示し、A1は炭素数1〜20のアルキレン基を示す)
で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルカン酸を反応させ、次いで、下記式(3)
【化3】

[式中、R2は水素原子又はアミノ基の保護基を示し、A2は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるアミノ基が保護基で保護されていてもよいアミノアルキル化ポリエチレングリコールカルボン酸又はその活性な反応性誘導体とを反応させ、R2がアミノ基の保護基である場合には脱保護し、表面が下記式(1)
【化4】

[式中、A1、A2、A3、nは前記に同じ]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする表面修飾ナノダイヤモンドの製造法。
【請求項4】
表面が、下記式(4)
【化5】

[式中、R3は蛍光標識基であり、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンド。
【請求項5】
表面が下記式(1)
【化6】

[式中、A1、A2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキレン基を示し、A3は単結合又は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、nは−CH2CH2O−単位の平均重合度を示し、2以上である]
で表されるポリエチレングリコール鎖を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドに、アミノ基反応性基を有する蛍光物質を反応させて、表面が下記式(4)
【化7】

[式中、R3は蛍光標識基であり、A1、A2、A3、nは前記に同じ]
で表されるポリエチレングリコール鎖及び蛍光標識基を含む基により修飾されている表面修飾ナノダイヤモンドを得ることを特徴とする蛍光標識された表面修飾ナノダイヤモンドの製造法。

【公開番号】特開2010−202458(P2010−202458A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49752(P2009−49752)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】