説明

表面処理された紙

表面サイジング組成物を原紙の少なくとも一つの面に塗布する事によって調製される表面処理紙であり、ここで前記表面サイジング組成物は、非フィルム形成ポリマーラテックスと金属塩とを含有し、前記非フィルム形成ポリマーラテックスは70℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持ち、そして前記表面サイジング組成物は処理表面上に連続的なフィルムを形成しない。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高速のインクジェット輪転印刷のようなデジタル印刷技術の急速な発展に伴い、従来型の印刷紙がインクジェット印刷媒体として使用されるときに、大きな課題に直面する。典型的なインクジェット印刷システムにおいて、インク滴は印刷媒体、例えば紙へ向けて高速でノズルより射出され、媒体上に画像を形成する。インクジェットインクは通常、例えば染料もしくは顔料のような着色剤と、大量の溶媒を含有する。溶媒、もしくはキャリア液は、典型的には水もしくは一価アルコールのような有機溶媒、またはそれらの混合物で構成される。良好な画像品質および低コストに加え、こんにちの印刷媒体は、一般的に素早い乾燥をする能力を持つことや、画像のフェザリングや画像のしみ出しを避ける事が期待され、特にシートがその両面で印刷されるときに期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
インクジェット印刷によりもたらされる画像品質はインクの光学密度(OD)、色域、およびインク乾燥時間を含み、インクと紙との相互作用、特に紙のインク吸収能に大きく依存する。紙によるインク中の水性溶媒を吸収する能力およびそれが溶媒を吸収する速度は、インクジェットインクを受容するための媒体の製造における主要な考慮事項である。
【0003】
セルロース繊維より作成される印刷用紙は通常、紙作成プロセス中に「サイジング」として知られるプロセスによって様々なサイジング剤を用いて処理される。紙のサイジングは内部サイジングと表面サイジングとを含む。内部サイジングは、紙作成プロセスの湿潤している最終段階、すなわちシート形成前のパルプへと添加する事を含む。表面サイジングは従来、既に形成されている紙シートの表面にサイジング剤を塗布する事によってなされる。サイジング化合物は、繊維の結合を向上させ、そして典型的には水であるインクビヒクル中の液体の最終目的の乾燥した紙に対する浸透を制御する目的で添加される。
【0004】
そのような表面サイジング剤がセルロース紙へと塗布されるとき、サイジング剤はセルロース繊維を多い、その上にフィルムを形成する。サイジング剤は紙表面の表面強度、印刷適性および耐水性を向上させる。紙がオフセット印刷のような密着印刷に用いられるとき、サイジング剤によって制御される表面強度は印刷品質への重要な寄与者である。紙表面を、密着印刷における外部牽引力に抵抗するのに十分に強くするために、フィルム形成表面サイジング剤の接着効果を通じての強力な繊維の結合は、かなり望ましい。インクジェット印刷のような非密着印刷技術において、紙表面強度は、印刷品質を制御する事において、それが密着印刷であるときのように主要な要素ではない。実際、紙の最外部表面上におけるポリマーの保護層フィルムは、インクジェットインク液体キャリアの原紙への急速な浸透を防ぎ、そしてそれにより遅い乾燥時間とまだら模様および癒着のような画像の欠陥をもたらす。用語「まだら模様」は固体印刷領域における印刷光学密度の不均一を指す。「癒着」は塗りつぶした領域内のインクの溜まりを指す。
【0005】
広く使用されるサイジング剤は、未処理スターチ、加工スターチもしくは化工スターチ、親水コロイド状ゼラチン、ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーならびにラテックスのような合成ポリマー分散剤を含む。現在用いられている多くの従来型の表面サイジング剤は、フィルム形成、天然もしくは合成ポリマーである。フィルム形成物質を含有する従来型の表面サイジング配合物がサイズプレスを通じて紙ウェブへと塗布されるとき、サイジング配合物は紙ウェブ表面上にフィルムを形成する。フィルムが紙表面をシールし、表面をより多孔性でないようにする。一方フィルムは一般に紙表面のインク抵抗を助け、インク着色剤の飽和を向上させる。しかしながらフィルム形成の欠点は、表面上のインク抵抗の増加に伴う遅いインク乾燥時間が問題となることである。インク抵抗の増加に伴いインクスメアもまた問題となる。次に、フィルム形成表面サイジング配合物が紙のバルクへと浸透するとき、それは紙の不透明性に逆効果を与える。加えて、そのような浸透は最終の紙の折りたたみと引き裂きに逆効果を与える。一方で、もし表面サイジングなしかまたは非常に少量の表面サイジングの紙上にインクジェット印刷がなされたなら、水性のインクは紙の厚みの深いところまで浸透し、インク光学密度の減少をもたらし、そしてさらにインクは繊維に沿って滲み、印刷画像のフェザリングを引き起こす。課題は、上述の問題を克服できるインクジェット媒体のための表面サイジング組成物を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、少なくとも一つの金属塩および非フィルム形成のポリマーラテックスを含有する新規の表面サイジング組成物によって、少なくとも一つのその上の表面が処理されている原紙からなる改善されたインクジェット用紙、ならびにそれを作製する方法を提供する。本開示の表面サイジング組成物はインク乾燥時間に逆効果を与えることなく、フェザリング、インクにじみおよび癒着を減少させる事によって印刷画像品質を向上させることが見出された。本開示の表面処理(表面サイジングされた)紙は、様々な印刷方法に好適であるが、特に、素早いインク乾燥時間を要求する高速のインクジェット輪転印刷に好適である。
【0007】
従来型の表面サイジング処理は典型的にはフィルム形成の表面サイジングである。サイジング剤は水溶性の天然もしくは合成ポリマーであっても水分散性ラテックスであっても良い。水溶性ポリマーラテックスのフィルム形成は、ラテックスエマルションの液体成分が蒸発するにつれ、ラテックス粒子が凝集し、乾燥の際にラテックス粒子が変形してそして癒着し、一体型フィルムを形成するような物理的変換である。スターチおよびポリビニルアルコールのような水溶性ポリマー物質のフィルム形成は溶媒が蒸発するにつれて高分子がもつれを生じ、連続的なフィルムを形成するという点で水性ポリマーのそれとは少し異なる。両方の場合において、形成されるフィルムは非多孔性である連続的な構造を持ち、その構造は液体、例えばインクジェットインクの液体キャリアの素早い浸透を許さない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の新規の表面サイジング組成物は、ポテト、小麦、タピオカ、米、とうもろこしおよびサゴに見出されるようなスターチのような澱粉分子の材料をまったく含有しない。「澱粉分子」は、グリコシド結合によって一緒に結合される多数のグルコース単位より構成される多糖類の炭水化物を指す。澱粉分子の材料はフィルムを形成する傾向にあり、上に議論されるようにインクジェット印刷に逆効果の影響を与える。アルキルケテンダイマー(AKD)およびアルケニル無水コハク酸(ASA)のようなセルロース反応性サイジング剤もまた、組成物中の金属塩と適合しないので新規の表面サイジング組成物からは除かれる。
【0009】
本開示の新規の表面サイジング組成物は非フィルム形成サイジング技術に基づき、サイジング剤は、合成もしくは天然のいずれかであってよい非フィルム形成ポリマーラテックスを含む。用語「非フィルム形成」は、周囲温度もしくはポリマーラテックスの意図される使用中にあり得る温度において、それ自体が単離可能なフィルムを形成できないポリマーラテックスを指す。非フィルム形成ラテックスにおいては、ラテックスエマルション中の液体キャリアが脱水中に乾燥してポリマー分子が一緒に凝集する傾向にあるが、粒子は比較的硬質であり、そして毛細管力下における変形に抵抗する性能を持ち、そして結果的に連続的なフィルムがまったく生じない。本開示の非フィルム形成ラテックスの重要な性能はその最低成膜温度(MFFT)である。MFFTは水性合成ラテックス又はエマルジョンが癒着し、物質上に薄いフィルムとして配置される最低温度として定義され、ASTM D2354に記載される試験条件によってMFFT Barを用いて測定される。新規の表面サイジング組成物において使用される好ましい非フィルム形成ポリマーラテックスは、70℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持つポリマーラテックスであり、より好ましくは90℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持つポリマーラテックスである。MFFTが低すぎると、フィルム形成が起こってしまう。非フィルム形成ラテックスの機能は紙表面の上に繊維構造中の穴を塞ぎ、液体の浸透を防ぐオーバーコートフィルムを形成することではなく、処理される紙を液体浸透可能で多孔性の表面のままにし、同時に紙の疎水性を変更する(すなわち、紙をより疎水性にする)ことである。原紙へと塗布される表面サイジング組成物は、非フィルム形成ポリマーから作られる一般的に球状もしくは球状のような粒子の安定な分産物である。代替的に、非フィルム形成ポリマーの粒子は楕円もしくは棒状のような非球状の形状を持っても良いが、好ましくは、ポリマー粒子は球状である。分産物はポリマーナノ粒子(すなわちナノメートルのサイズの粒子)の安定な分産物の形で提供されても良い。ナノ粒子は1nmから500nmの間のサイズであり、好ましくは10nmから300nmであり、そしてより好ましくは20nmから200nmである。約1000nmより大きいサイズの粒子を含有する分散物は、より不安定になり、そのサイジング効果においてより効果が失われる。市販される例示的な非フィルム形成ラテックスは、BASFからのBasoplast265D、AvericaからのNeoCryl XF−25、BASFによって供給されるJoncryl62、Joncryl87、Joncryl89、Joncryl90、Joncryl134、Joncryl530およびJoncryl618、Joncryl SCX8082、Avecia Resinsによって供給される「Neocryl(登録商標)XK52」、Rhodia Chimieによって供給される「Rhodopas(登録商標)5051」を含む。
【0010】
表面サイジングの後、非フィルム形成ラテックスは紙の繊維構造中に形成される多孔性チャネルに埋め込まれる小粒子の形状で存在する。原紙に塗布される非フィルム形成ラテックスの量は、乾燥繊維の質量に基づいて、乾燥重量の測定で0.5から1%の範囲であって良い。この量は、例えばスチレン無水マレイン酸共重合体(SMA)、スチレンアクリルエマルジョン(SAE)、ポリウレタン分散液(PUD)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)のような従来型の表面サイジング方法において通常用いられる合成フィルム形成サイジング剤の量(通常、乾燥繊維の質量に基づいて0.05%から0.15%の範囲)よりも有意に大きい。従来型の表面サイジング方法において使用される合成フィルム形成剤は、通常スターチと共に塗布され、それによって合成フィルム形成剤は紙ウェブのバルクへとほとんど浸透しないか、またはスターチと共に紙表面に沈着する。
【0011】
新規の表面サイジング組成物において使用される非フィルム形成ポリマーは、例えば、フリーラジカルポリマー、重縮合物、天然起源のポリマー、異なる鎖単位のコポリマー、またはそれらの混合物を含んで良い。後述のように、それらのホモポリマーおよび/もしくはコポリマーのガラス転移温度(T)は、最低成膜温度(MFFT)が70℃以上である限り、変化し得る。MFFTはポリマーのガラス転移温度に反映されるようにポリマーの分子構造およびポリマーの分子量によって決定されるのでなく、ポリマーの形態および例えば重合化において用いられる乳化剤の濃度のような重合化において用いられる加工条件によっても決定されるような物理的性質である。
【0012】
一実施態様において、非フィルム形成ポリマーラテックスは、エチレン、シクロエチレンおよびナフチルエチレンのホモポリマーまたはコポリマー、プロピレン、ヘキサフルオロプロピレンのような置換プロピレン、ポリカーボナート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドのホモポリマーまたはコポリマー、ならびにそれらの混合物のようなフリーラジカル重合化および縮合重合化によって作製される物質を含む。好ましい実施態様において、非フィルム形成ラテックスはフリーラジカルエマルション重合化により作製される。例は、メチルアクリラート、エチルアクリラート、ブチルアクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、デシルアクリラート、メチルメタクリラート、ブチルメタクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、イソボルニル(メタ)アクリラート、イソデシル(メタ)アクリラート、オレイル(メタ)アクリラート、パルミチル(メタ)アクリラート、ステアリル(メタ)アクリラート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリラートおよびヒドロキシプロピル(メタ)アクリラートを含むアクリルエステルモノマー;アクリルアミドもしくは置換アクリルアミド;スチレンもしくは置換スチレン;ブタジエン;エチレン;ビニルアセタートもしくは他のエステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、N−ビニルピロリドンのようなビニルモノマー;N,N’−ジメチルアミノ(メタ)アクリラートのようなアミノモノマー;アクリルニトリルもしくはメタクリルニトリルより作製されるラテックスを含む。これらのモノマーは単相形態でポリマーラテックス粒子へと重合化出来る。代替的に、非フィルム形成ラテックスは、コア/ロブ粒子、コア/シェル粒子、コア/シース粒子、複数のコアのコア/シェル粒子、粒子の相互貫入ネットワーク、それぞれの相は分かれているが結合しているロブを持つ双極子形態を持つ粒子、他のポリマー相の表面上の多相を持つ粒子のような、多相の形態を持つ。
【0013】
一実施態様において、非フィルム形成の、コア/シェル構造を持つ多相ラテックスが使用される。ラテックス粒子のコア構造が非フィルム形成のポリマーより作製され、単独でホモ重合化されるとき、90℃より大きいMFFTを持ち、外部部分中のシェルがフィルム形成ポリマーより作製され、単独でホモ重合化されるとき、40℃より低いMFFTを持つ。しかしながら、粒子中のフィルム形成ポリマー顔料は約5容量%もしくはそれより少ない。このタイプの粒子構造は、硬質な非フィルム形成コアが、ポリマーラテックスエマルションの脱水の際の毛細管力における粒子の変形および癒着に耐性でありかつ非フィルム形成状態を保ち、その一方でより柔らかい低いMFFTを持つ外部シェルが粒子が印刷中のすべての粉塵問題を避けるための粒子への接着力を提供するため、特に有用である。非フィルム形成ポリマーはまた、中空のポリマー粒子もしくはポリマーカプセル化した粒子の形状を取ってもよい。
【0014】
非フィルム形成ポリマーラテックスの粒子の表面電荷については特に限定はない。それはカチオン性、アニオン性、もしくは電気的に中性であってよい。一実施態様において、カチオン性に荷電される粒子による非フィルム形成ラテックスは、セルロース繊維と顔料化インク着色剤の両方は通常アニオン性に荷電されているので浸透性であり、カチオン性に荷電された粒子は、繊維と着色剤の両方への結合を向上させるのを助け、そして、カチオン性に荷電された粒子はまた、金属塩とより適合性である。一実施態様において、そのようなカチオン性に荷電された非フィルム形成ラテックスの、Malvern Zetamasterによって測定される、ゼータ電位は、3から6のpH範囲において、10から100mVの範囲であり、より好ましくは20から60mVである。
【0015】
非フィルム形成ラテックスのポリマー粒子は繊維の疎水度の程度を変化させる事によって紙表面を改質する一方で、非フィルム形成多孔性構造を通じて印刷中に水性のインクジェットインクと共に導入される大量の水に一部の繊維表面が浸る事が出来る状態を保たせ、これによってインク乾燥時間を最高にする。しかしながら、従来型の表面サイジングにおいて使用されるフィルム形成ラテックスによってもたらされるような液体バリア効果を、非フィルム形成ポリマーラテックスはもたらさない。液体バリアがないと、インク浸透が起こり、より少ないインクが印刷中に紙表面に残り、より低い光学濃度が生じ、結果として「退色」画像となる。本開示の新規の表面サイジング組成物中の金属塩の存在は、そのようなインク浸透の負の効果を防御する。顔料インクがインクジェット印刷に使用されるとき、塩のカチオン性金属イオンがインク懸濁液から抜け出す事ができ、印刷される紙の再外部層においてアニオン性に荷電された顔料粒子に電気的に結合する。
【0016】
表面サイジング組成物中に用いられる金属塩は、水溶性の一価のもしくは多価の金属塩を含んで良い。金属塩は、一価の金属イオン、多価の金属イオン、それらの組み合わせおよび誘導体を含んで良い。例は、第I族の金属、第II族の金属および第III族の金属を含む。非限定的な例はカリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、およびアルミニウムイオンのような金属カチオンを含む。金属塩はさらに、フッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、硝酸塩、塩素酸、酢酸イオン、それらの様々な組み合わせおよび誘導体のようなアニオンを含んでもよい。例えば硫黄とリンに基づくアニオンなどの紙パルプと容易に相互作用し結合すると知られているアニオンは、金属塩と使用する事は除外される。表面サイジング組成物中で使用される金属塩の量は、内部サイジングの度合いによって変化する。一般的に、より大きな度合いで内部サイジングされている原紙は少ない量の金属塩を必要とする。一実施態様において、塗布される塩の付加量は、乾燥重量で、3.0kg/原紙のトンから10.0kg/原紙のトンの範囲であってよい。
【0017】
非フィルム形成粒子のセルロース繊維との接着をさらに促進するために、任意選択でバインダーを表面サイジング組成物へと添加しても良いが、それは必須ではない。もし添加されるなら、バインダーはフィルム形成を避けるためにとても控えめに使用される。弱いフィルム形成の挙動を持つので、低分子量のポリビニルアルコール(PVA)のようなバインダーが好ましい。バインダーの量が非フィルム形成ラテックスの30重量%を超えない限り、サイジング組成物は良好な非フィルム形成の挙動を維持する事が見出された。
【0018】
原紙に関して、それはセルロース繊維より作製される原紙のストックであってよいが、それらには限定されない。繊維のタイプは特別に限定されず、そして紙の作製のためのものと知られている任意の繊維を使用できる。例えば原紙は、例えば機械的、熱機械的、化学的およびセミケミカルなパルプ化において知られるような任意の公知の好適な消化、精製、漂白操作、ならびに他の周知のパルプ化プロセスによって提供される、紙製造の繊維での使用のために準備される広葉樹の木、針葉樹の木、または広葉樹と針葉樹の組み合わせ由来のパルプ繊維から作製してもよい。用語「広葉樹パルプ」は、オーク、ブナ、カエデおよびユーカリのような落葉樹(被子植物)の木質物質由来の繊維性パルプを指す。用語「針葉樹パルプ」は、例えばテーダマツ、スラッシュマツ、コロラドトウヒ、バルサムモミおよびダグラスモミのようなモミ、トウヒおよびマツの品種のような針葉樹(裸子植物)の木質物質に由来する繊維性パルプを指す。特定の実施態様において、少なくとも一部のパルプ繊維は、ケナフ、麻、ジュート、亜麻、サイザル麻もしくはアバカを含むがそれらには限定されない非木質の草本植物より供給される。漂白されたかもしくは非漂白のパルプ繊維が、原紙の作製に用いられ得る。さらに、リサイクルのパルプ繊維もまた好適である。例えば、原紙中のセルロース繊維は、約30重量%から約100重量%の広葉樹繊維と、約0重量%から約70重量%の針葉樹繊維とを含み得る。
【0019】
さらに、多くの充填剤を上述のパルプへと原紙の作製中に含み得る。一つの例示的な実施態様によると、最終の紙の物理的性質を制御するためにパルプへと混合され得る充填剤は、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、二酸化チタニウム、カオリン粘土およびシリカートを含むが、それらに限定されない。充填剤の量は広く変化し得る。一実施態様によると、充填剤は乾燥繊維の0重量%からおおよそ40重量%の範囲の量で存在し、他の実施態様によると、充填剤は乾燥繊維のおおよそ10重量%からおおよそ20重量%の範囲の量で存在する。
【0020】
好ましい実施態様において、本開示による改善されたインクジェット用紙には、内部サイジングと表面サイジングが施される。内部サイジングは紙作成プロセスの湿潤している最終段階において化学的サイジング剤を添加する事によって達成される。内部サイジング剤は従来型の内部サイジング剤より選択できる。樹脂、アルキルケテンダイマー(AKD)およびアルケニル無水コハク酸(ASA)は好適な内部サイジング剤の例である。米国特許第5,846,663号に開示されるようにアルケニルケテンダイマーおよびケテンマルチマーもまた、内部サイジングに使用できる。
【0021】
原紙中の内部サイジングの度合いは、理想的な印刷品質および向上した紙の物理的性質を達成するのに重要である。紙ウェブ表面上の連続的なシールフィルムを形成する事なく、水性インクの浸透を制御するために内部サイジングの効果は、表面サイジング組成物中の非フィルム形成ポリマーおよび金属塩と相互作用する。一実施態様において、原紙(表面サイジング前の)のHercules Sizing Test(HST)値は、10〜1000秒の範囲であり、好ましくは50〜800秒の範囲であり、そしてより好ましくは100〜300秒の範囲である。より高いHST数は、より高い内部サイジング(著しいサイジング)とより良い耐水性能とを表わす。
【0022】
Hercules Sizing Test(HST)は内部サイジングの度合いを分析するのに従来用いられている。Hercules Sizing Testは、反対側の表面からの染料水溶液の浸透として紙表面の反射率の変化を測定することによって、紙において得られる水サイジングの度合いを決定する。試験期間は、例えば、80%の反射に対応する反射光における20%の減少のような適切な最終地点を選択する事によって限定される。タイマーは到達すべき試験の最終地点までの時間(秒で)を測定する。より長い時間はサイジング性能の増加、すなわち水の浸透への耐性の増加と相関する。サイジングされていない紙は典型的に5秒未満であり、より軽くサイジングされた紙は15秒未満の時間を記録し、中程度にサイジングされた紙は約20から約150秒、そして著しくサイジングされた紙は約150以上から約2000秒またはそれ以上である。
【0023】
本開示の新規の表面サイジング組成物は、非フィルム形成ラテックスエマルションおよび金属塩を一緒に混合する事によって調製される水性の分散物である。水、色染料ならびにpH調整剤、消泡剤および潤滑剤のような他の加工助剤は必要に応じて添加し得る。スターチのようなフィルム形成剤を含有する従来型の表面サイジング組成物において、少なくとも一つの蛍光増白剤(OBA)がしばしば、任意選択で経年時の紙の黄変を補正するために含められる。髪のOBAは通常、スチルベン系であり、もっとも高頻度で使用されるのは、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸であり、そして特にビストリアジニル誘導体(4,4’ビス(トリアジン−2−イルアミノ)スチルベン−2,2’ジスルホン酸)である。紙において使用されるとき、OBAは典型的にはアニオンの性状であるか、または少なくとも部分的にアニオン性である。もしそのようなOBAが、金属塩を含有する非フィルム形成サイジング組成物で使用されると、それは金属塩のカチオン性イオンへと電気的に引き寄せられ得る。この相互作用はOBAの蛍光性と緩衝し、しばしば蛍光性がそのように消失し、OBAはその効果を失う。このため、アニオン性に荷電したOBAを表面サイジング配合物へと直接的に添加するのは望ましくなく、OBAを紙製造プロセスの湿潤した最終段階において添加するか、もしくは上述のようにカプセル化したOBA粒子を使用する。
【0024】
当分野に公知の任意の表面サイジング技術を用いて水性の表面サイジング分産物が原紙上へと塗布され得る。非限定的な例として、表面サイジングはサイズプレス、スロットダイ、ブレードコーターもしくはMeyer Rodによって達成し得る。サイズプレスはパドルサイズプレス、フィルムサイズプレスなどを含み得る。パドルサイズプレスは水平、垂直または傾斜ローラーを持つように構成され得る。フィルムサイズプレスは、ゲートロールメーターリング、ブレードメータリング、Meyer Rodメータリングもしくはスロットメータリングのようなメータリングシステムを含み得る。例として、短いドウェルブレードメータリングを持つフィルムサイズプレスは、表面サイジング組成物を塗布するための塗布ヘッドとして使用し得る。さらに、表面サイジング組成物は、紙製造機のオフラインもしくはインラインで原紙へと塗布できる。表面サイジングの後、サイジングされた紙は続けて、例えば例えば赤外線ヒーティングもしくは温風またはそれらの組み合わせを用いて乾燥される。当分野に公知のような他の従来型の乾燥方法および装置もまた使用できる。
【0025】
原紙は、30から350gsmの範囲の坪量を持ち、シートもしくはウェブの形状を取り得る。原紙へと塗布されるサイジング組成物の量は固形物含量の乾燥重量で測定して6〜20kg/原紙のトンであり、ここで40重量%〜60重量%は金属塩である。表面処理紙はインクジェット印刷への準備が出来ており、無機顔料を含むインク受容コートのような従来技術のコートを必要としない。実際、本開示のサイジング組成物は、インク受容コートにおいて典型的に使用される無機顔料(例えば粘土、滑石、炭酸カルシウム、カオリン、シリカなど)を含まない。
【実施例】
【0026】
以下の実施例は本開示の代表的な実施態様を例示するのに役立てられるであろうが、決して本開示の限定であるとは解釈されるべきではない。すべての「部」は、特に他が示されない限りは、重量部である。
【0027】
実施例1
表面サイジング組成物が表1に示される配合によって調製された。
【0028】
【表1】

【0029】
配合物は実験室においてサイジング配合物のバッチサイズ1000gで調製された。塩化カルシウムは32%の濃度の塩溶液を精製するために別の容器において予め溶解され、そして非フィルム形成ラテックス(カチオン性アクリルポリマー分産物)と混合された。表面サイジングは、300秒のHST値のコートされていない原紙の両面において、ラボの表面サイジング機中において達成された。表面サイジングされた紙はその後、90℃付近の温度の温風ドライヤーで乾燥された。
【0030】
実施例2
表面サイジング組成物は表2に示される配合に従って調製された。
【0031】
【表2】

【0032】
300秒のHST値のコートされていない原紙が表面サイジング配合物2によって、実施例1に記載されるのと同じ表面サイジング方法を用いて処理された。
【0033】
表面サイジング組成物は表3に示される配合によって調製された。サイジング剤は実施例1と同じ非フィルム形成ラテックスとフィルム形成バインダーであるポリビニルアルコール(PVA)とを含有する。
【0034】
【表3】

【0035】
300秒のHST値のコートされていない原紙が表面サイジング配合物3によって、実施例1に記載されるのと同じ表面サイジング方法を用いて処理された。
【0036】
比較例4
比較のために、表面サイジング組成物が表4に示される配合によって調製された。サイジング剤はフィルム形成のスターチと合成ポリマーラテックスを含有する。
【0037】
【表4】

【0038】
20秒のHST値のコートされていない原紙(弱く内部サイジングされた紙)が表面サイジング配合物4によって、実施例1に記載されるのと同じ表面サイジング方法を用いて処理された。
【0039】
比較例5
表面サイジングされた紙が、実施例4と同じフィルム形成のスターチと合成ポリマーラテックスを含有する表面サイジング配合物を用いて調製された。この例で使用される原紙は、300秒のHST値を持つ「著しく」内部サイジングされた紙であった。
【0040】
比較例6
表面サイジングされた紙が、実施例4と同じフィルム形成のスターチと合成ポリマーラテックスを含有する表面サイジング配合物であるが、塩化カルシウム塩を含まないサイジング配合物を用いて調製された。この例で使用される原紙は、300秒のHST値を持つ「著しく」内部サイジングされた原紙であった。
【0041】
例1〜6で調製された表面サイジングされた紙のすべては印刷され、印刷品質が評価された。結果は表5にまとめられる。表面サイジングされた紙は、Hewlett−Packard Co.製造のHP CM8060 Color MFP with Edgeline Technologyを用いて印刷された。黒の光学濃度(KOD)測定は、塗りつぶされた領域の黒さを測定するX−Rite濃度計を用いて実行された。より高い値はより暗い印刷効果を示す。それぞれの印刷された画像の色域が記録された。色域測定は、原色(シアン、マゼンタ、および黄色)ならびに二次色(赤、緑および青)、加えて白(画像のないシート)および黒色のスクエア上で実行された。L値は測定より得られ、そして8点の色域を計算するのに用いられ、ここでより高い色域の値は印刷がより豊かな色、またはより飽和した色を示すことを指す。しみ出しは上述のKOD測定に用いられたのと同じ試験方法とツールを用いて測定されたが、しみ出しの測定は印刷領域の裏面において実施された。しみ出しのOD測定は、紙のベースラインのOD(印刷されない領域で測定されたときの紙のOD)と相関した。印刷されない面で測定されるODがより低いと、より良いしみ出しの挙動となる。黒−黄色間の滲みにおけるエッジシャープネスは、QEA Personal Image Analysis System(Quality Engineering Associates、Burlington、MA)によって測定された。より小さい値は、より良い印刷画像のエッジ品質を指す。
【0042】
【表5】

【0043】
表5のデータは、実施例1、2、3において調製された表面サイジングされた紙(非フィルム形成サイジング組成物によって処理された紙)が、例5において調製される表面サイジングされた紙(フィルム形成サイジング組成物によって処理された紙)おより例6において調製される紙(塩を含まない紙)と比較して、最も高い黒のOD、最も高い色域、そしてもっとも低いしみ出しODおよび印刷してない面のインクにじみという最良の印刷品質をもたらすことを示す。フィルム形成サイジング配合物において、にじみは問題とならない(例4)が、にじみの問題は、高いHSTの原紙上の同じサイジング剤において観察された(例5)。
【0044】
いくつかの実施態様が詳細に記載されるが、開示された実施態様を改良し得るということは当業者にとっては明らかであろう。それゆえ、上述の記載は限定ではなく例示であると考慮されるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用の紙であって、非フィルム形成ポリマーラテックスと金属塩とを含有する表面サイジング組成物によって少なくとも一つの表面を表面処理がその多孔性を維持するように処理された原紙を含有し、ここで前記非フィルム形成ポリマーラテックスが70℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持つ、紙。
【請求項2】
表面が処理された紙であって、表面サイジング組成物を原紙の少なくとも一つの表面を表面サイジング組成物で塗布する事によって製造され、ここで前記表面サイジング組成物は非フィルム形成ポリマーラテックスと金属塩とを含有し、前記非フィルム形成ポリマーラテックスが70℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持ち、そして前記表面サイジング組成物が処理表面において連続的なフィルムを形成されない、紙。
【請求項3】
原紙へと塗布される前記表面サイジング組成物の量が固形物の乾燥重量による測定で、6〜20kg/原紙の1トンであり、ここで40重量%〜60重量%が金属塩である、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項4】
前記原紙がその上に形成される多孔性のチャネルの繊維構造を持ち、そして、ここで非フィルム形成ポリマーラテックスのポリマー粒子が、多孔性チャネルの少なくとも部分に埋め込まれる、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項5】
前記原紙がセルロース繊維より作製され、そして原紙へと塗布される非フィルム形成ポリマーラテックスの量が乾燥重量による測定で、乾燥繊維重量に基づいて3%から15%の範囲である、請求項1に記載の紙。
【請求項6】
前記非フィルム形成ポリマーラテックスが1nmから500nmの範囲の粒子径を持つナノ粒子を含有する、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項7】
前記原紙が、表面サイジングの前に、10から1000秒の範囲のHercules Sizing Test(HST)値を持つように内部サイジングされている、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項8】
非フィルム形成ポリマーラテックスがコア/シェル構造を持つポリマー粒子を含有し、ここで前記コア/シェル構造が90℃より大きいMFFTの非フィルム形成ポリマーから製造されるコアと、40℃より低いMFFTのフィルム形成ポリマーから製造される外部シェルとを持ち、そして、それぞれの粒子のフィルム形成ポリマーの全量が約5容量%もしくはそれ未満である、請求項1に記載の紙。
【請求項9】
前記金属塩が水溶性であり、一価のもしくは多価の金属塩である、請求項1に記載の紙。
【請求項10】
前記金属塩が塩化カルシウムである、請求項9に記載の紙。
【請求項11】
前記表面サイジング組成物が、澱粉分子もしくはスターチの材料を全く含まない、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項12】
非フィルム形成ポリマーラテックスがフリーラジカル重合化および縮合重合化によって作成される、エチレン、シクロエチレンおよびナフチルエチレンのホモポリマーもしくはコポリマー、プロピレン、ヘキサフルオロプロピレンのような置換プロピレン、ポリカーボナート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、およびそれらの混合物のホモポリマーもしくはコポリマーのような物質を含む、請求項1もしくは2に記載の紙。
【請求項13】
紙を表面サイジングする方法であって、
原紙の表面に表面サイジング組成物を塗布するステップであって、ここで前記表面サイジング組成物が非フィルム形成ポリマーラテックスと金属塩を含有し、ここで非フィルム形成ポリマーラテックスが70℃より大きい最低成膜温度(MFFT)を持ち、原紙に塗布される前記表面サイジング組成物の量が固形物含量の乾燥重量での測定で、6〜20kg/原紙のトンであり、ここで40〜60重量%が金属塩である、ステップと、
前記表面サイジングされた原紙を乾燥させるステップであって、それによって前記表面サイジングされた組成物がサイジングされた表面上に連続的なフィルムを形成しない、ステップとを含有する、方法。
【請求項14】
前記原紙が表面サイジングの前に、10から1000秒の範囲のHercules Sizing Test(HST)値を持つように内部サイジングされている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法によりサイジングされた紙。


【公表番号】特表2013−500185(P2013−500185A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522820(P2012−522820)
【出願日】平成22年1月31日(2010.1.31)
【国際出願番号】PCT/US2010/022678
【国際公開番号】WO2011/093896
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(511076424)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (155)
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
【Fターム(参考)】