説明

表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法

【課題】接着性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板の表面にリン酸亜鉛系皮膜を備える潤滑鋼板において、該潤滑鋼板を50℃の水に5分間に亘って浸漬した際に溶解するリン酸亜鉛系皮膜中のリンの量が、リン酸亜鉛系皮膜に含有されていたリンの量の50%以下である表面処理亜鉛系めっき鋼板、及び、亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛処理液を塗布した後、乾燥する工程を経て、亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成した表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、塗布はロールコート法では、リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が2.5以上6.5以下であり、シャワーリンガー法では、酸比が2.5以上4.5以下である表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関し、特に、表面性状、接着性、及び、潤滑性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体パネル用の鋼板としては、塗装後の耐食性確保のために、めっき鋼板、特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が広く使用されている。車体パネル用の鋼板は、種々の複雑な形状をプレスにて、成形するため、非常に高次な加工性が要求されるが、一般に亜鉛系めっき鋼板は、表面の摺動抵抗が大きいために、プレス性に課題がある。そのため、リン酸系皮膜をはじめとした各種の潤滑処理を施された表面処理亜鉛系めっき鋼板板が、近年、広く採用されてきた。例えば、溶融亜鉛めっき皮膜の上層にリン酸亜鉛皮膜を設けることにより潤滑性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板とする技術がある(例えば、特許文献1〜特許文献4)。中でも、特許文献3〜特許文献7には、接着性並びに潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−138764号公報
【特許文献2】特開2000−64054号公報
【特許文献3】特開2005−54202号公報
【特許文献4】特開2005−54203号公報
【特許文献5】特開2005−320558号公報
【特許文献6】特開2002−53974号公報
【特許文献7】特開2002−226976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車のドア及びトランク等の蓋物には、開閉時の静粛性を確保するために、接着剤を適用した構造が用いられている。近年、環境対策の観点から、自動車車体に適用される接着剤についても、例えば合成ゴム系の接着剤に変更されてきている。合成ゴム系の接着剤の場合、通常、従来の接着剤(例えばポリウレタン系,塩化ビニル系やエポキシ系接着剤)と比較して、従来のリン酸亜鉛被膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板との接着強度が低いという課題がある。
【0005】
この点、特許文献1〜特許文献5に開示されている技術では、合成ゴム系の接着剤との接着強度が高い合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することが困難であった。
【0006】
また、特許文献6及び特許文献7に開示されている技術では、リン酸亜鉛の析出反応を進行させて皮膜表面に例えばメタリン酸亜鉛を濃化させることで接着性の改善を図ろうとするものである。かかる方法でもある程度の接着性を確保することは可能である。しかしながら、特許文献6及び特許文献7に開示されている塗布型処理においては、処理液から供給されるリン酸根その他の成分と処理液のエッチング作用により溶解する亜鉛量とのバランスが変動しやすく、接着性が良好な製品を得ることが難しかった。
【0007】
そこで、本発明では、表面性状、接着性、及び、潤滑性に優れた表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板は、リン酸亜鉛系皮膜中に水に可溶性のリン酸成分を少なくするもので、これにより合成ゴム系接着剤との接着性が良好となる。また、製法面からは、リン酸塩処理液を塗布後乾燥するまでの間に、めっき表面における亜鉛のエッチングを進行させて、処理液中のリン酸根と亜鉛との反応による不溶性のリン酸亜鉛への析出を十分に進めようとするものである。以下、本発明について説明する。
【0009】
第1の本発明は、亜鉛系めっき層の表面に、リン酸亜鉛系皮膜を備える表面処理亜鉛系めっき鋼板において、該表面処理亜鉛系めっき鋼板を50℃の水に5分間に亘って浸漬した際に溶解するリン酸亜鉛系皮膜中のリンの量が、リン酸亜鉛系皮膜に含有されていたリンの量の50%以下であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板である。
【0010】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素とリンとの原子比O/Pが、O/P≧6であることが好ましい。
【0011】
ここに、本発明において、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素とリンとの原子比O/P」は、リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する元素量を用いて算出される。ここで、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する元素量」とは、リン酸亜鉛系皮膜の表面をスパッタリングすることなくX線光電子分光分析(以下において「XPS分析」又は「XPS」という。)を行うことにより測定する際、このリン酸亜鉛系皮膜の主要成分であるP、O、及び、Znの合計元素量を100atomic%とした場合に、測定されるP、O、及び、Znの各元素量(atomic%)を意味する。そして、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在するリンと酸素との原子比O/P」は、このようなXPS分析により求めた、最表面の元素組成から算出される。より具体的には、リン酸亜鉛系皮膜の表面をスパッタリングすることなくXPS分析を行うことにより測定される、O及びPのatomic%から算出される原子比O/Pを、本発明における原子比O/Pとする。
【0012】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素と亜鉛とリンとの原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)が、(O+Zn)/(O+Zn+P)≧0.85であることが好ましい。
【0013】
ここに、本発明において、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素と亜鉛とリンとの原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)」は、リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する元素量を用いて算出される。ここで、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する元素量」とは、リン酸亜鉛系皮膜の表面をスパッタリングすることなくXPS分析を行うことにより測定する際、このリン酸亜鉛系皮膜の主要成分であるP、O、及び、Znの合計元素量を100atomic%とした場合に、測定されるP、O、及び、Znの各元素量(atomic%)を意味する。そして、「リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素と亜鉛とリンとの原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)」は、このようなXPS分析により求めた、最表面の元素組成から算出される。より具体的には、リン酸亜鉛系皮膜の表面をスパッタリングすることなくXPS分析を行うことにより測定される、O、Zn、及び、Pのatomic%から算出される原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)を、本発明における原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)とする。
【0014】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛系皮膜に含有されるリン酸の量をXモル、該リン酸亜鉛系皮膜に含有される亜鉛の量をYモルとするとき、モル比Y/Xが、1.5≦Y/X≦2.5であることが好ましい。
【0015】
第2の本発明は、亜鉛系めっき層の表面にロールコート法によりリン酸亜鉛処理液を塗布した後、乾燥する工程を経て、亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成した表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上6.5以下であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法である。
【0016】
また、上記第2の本発明において、リン酸亜鉛処理液は、0.1g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有することが好ましい。
【0017】
また、上記第2の本発明において、塗布時に亜鉛系めっき層の表面へと塗布されるリン酸亜鉛処理液の量が、3.5mL/m以上であることが好ましい。
【0018】
第3の本発明は、亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛処理液をシャワーリンガー法により塗布した後、乾燥する工程を経て、亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成した表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、リン酸亜鉛処理液は、1.5g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有し、リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上4.5以下であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法である。
【0019】
また、上記第3の本発明において、塗布時に亜鉛系めっき層の表面へと塗布されるリン酸亜鉛処理液の量が、10mL/m以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
第1の本発明によれば、表面性状、潤滑性、及び、摺動性等の諸性能に加えて、合成ゴム系の接着剤を用いた場合であっても良好な接着性を有する、表面処理亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【0021】
第2及び第3の本発明によれば、表面性状、接着性、及び、潤滑性に優れ、且つ、スラッジの発生が少ない表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造することが可能な、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の理解を容易にするため、まず、本発明を完成するに至った基礎実験例について説明し、その後、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
<基礎実験例>
亜鉛系めっき目付量=45g/m、合金化度(Fe%)=9.8%の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(規格:JAC270D、板厚:0.8mm)を準備し、下記の処理液及び処理方法により、亜鉛系めっき層の上にリン酸亜鉛系皮膜を設ける基礎実験を実施した。
【0024】
1)リン酸亜鉛処理液の組成
リン酸イオン濃度:50g/L、亜鉛イオン濃度:15g/L、硝酸イオン濃度:4g/L、フッ素イオン濃度:0.5g/L、及び、酸比(全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比):4.8の処理液をベースに、処理液量との関連で狙ったリン付着量(50〜150mg/m)になるように、処理液を希釈した。
【0025】
2)処理方法
表面処理は、アルカリ脱脂工程及び表面調整工程の後、リン酸亜鉛処理工程を行い、その後、乾燥工程を経る順番とした。各工程の条件は、以下の通りとした。
・アルカリ脱脂:70℃の7%NaOHへ5秒間浸漬した。
・表面調整:パーコレン Z(日本パーカライジング製)3g/L液(常温)へ10秒間浸漬した。
・リン酸亜鉛処理:塗布方法はロールコート法及びシャワーリンガー法とした。
ロールコート法による塗布は、鋼板上へ、ロールコートにて、3.5mL/m、5.0mL/m、及び、10mL/mの各処理液を転写することにより行った。これに対し、シャワーリンガー法による塗布は、スプレー(液流量=100L/min)にて3秒間処理した後、リンガーロールで余分の液を絞り、リンガーロールにより絞った後の処理液量が5.0mL/mとなるように行った。
・オーブン乾燥:最高到達板温が60℃となる条件を10秒間に亘って維持した。リン酸亜鉛処理工程終了後、3秒以内に乾燥工程を開始した。
【0026】
上記処理を施した表面処理亜鉛系めっき鋼板について、皮膜付着量の測定及び接着性の試験を実施した。その際の条件を以下に示す。
【0027】
(皮膜付着量測定)
蛍光X線分析法でめっき層表面を分析することにより皮膜中のリン量(P付着量)を測定した。
【0028】
(接着性試験)
サンプルを25mm×100mmに切断し、プレス潤滑油ノックスラスト320H(パーカー興産製)を塗油(塗油量=2g/m)したまま、下記の接着条件で接着させた。その後、せん断剥離試験に供し、その際の試験強度(せん断強度)を測定することにより、接着性を評価した。
接着剤 :合成ゴム系の熱硬化型接着剤(環境対応型)
接着面積 :25mm×25mm
接着剤厚さ :1mm
引張速度 :50mm/min
加熱条件 :165℃×10分間
接着後養生条件:24時間 室温放置
【0029】
P付着量とせん断強度との関係を、図2に示す。図2及び以下の図において、「条件1」は、ロールコートにて3.5mL/mの処理液を転写するリン酸亜鉛処理を行った試験鋼板の結果である。また、「条件2」は、ロールコートにて5.0mL/mの処理液を転写するリン酸亜鉛処理を行った試験鋼板の結果である。また、「条件3」は、ロールコートにて10.0mL/mの処理液を転写するリン酸亜鉛処理を行った試験鋼板の結果である。また、「条件4」は、シャワーリンガー法によるリン酸亜鉛処理を行った試験鋼板の結果である。
【0030】
図2より、以下の結果が得られた。
・ロールコート法によりリン酸亜鉛処理液を塗布した場合、P付着量が増大すると、せん断強度(以下において「接着強度」ということがある。)が低下した。
・シャワーリンガー法によりリン酸亜鉛処理液を塗布した鋼板は、ロールコート法によりリン酸亜鉛処理液を塗布した鋼板と比較して、P付着量が同程度の場合、接着強度が低かった。
・ロールコート法では、塗布された処理液量が多いほど、接着強度に及ぼすP付着量の影響が小さかった。
【0031】
次に、上記条件で作製した試験鋼板を、50℃の純水(100mL)へ5分間に亘って浸漬した。そして、蛍光X線分析法により、浸漬後の皮膜に含有されるリンの量(P付着量)を測定し、次の式を用いて水へ溶出したリンの量(溶出P量)を算出した。
sol=100×(P−P)/P
ここに、
sol:溶出P量(%)
:純水へ浸漬する前のP付着量
:純水へ浸漬した後のP付着量
である。
【0032】
溶出P量とせん断強度(接着強度)との関係を、図3に示す。図3から明らかなように、溶出P量の増大に伴い、接着強度が低下した。
【0033】
ここで、マスチック系接着剤と表面処理亜鉛系めっき鋼板との接着性は、接着強度が150N以上であれば、実用上問題がない。したがって、この性質及び図3に示した結果から、溶出P量(すなわち、皮膜中の全リン酸成分に対する水に可溶なリン酸成分の量)が50%以下であれば、実用上問題がない接着性を確保可能である。さらに、溶出P量が20%以下であれば、充分な接着強度が確保できることに加え、そのせん断試験後の接着剤の破壊形態を調べると、接着層内における凝集破壊面積率が80%以上となっており、より好ましいといえる。
【0034】
次に、亜鉛系めっき鋼板上にリン酸亜鉛系皮膜が形成される際の反応について考察する。
以下に示すように、リン酸亜鉛系処理液と亜鉛系めっき鋼板表面との界面におけるpH状態によって、第1リン酸亜鉛から、第2リン酸亜鉛、第3リン酸亜鉛(通称、ホパイト)へと反応が進行する。
【0035】
まず、リン酸亜鉛系処理液によるめっき皮膜中の亜鉛のエッチング反応が生じる。この反応は、下記式(1)で表される。
Zn + 2H → Zn2+ + H↑ 式(1)
次に、リン酸亜鉛系処理液とめっき皮膜表面との界面におけるpHの上昇に伴って、水に可溶性の第一リン酸亜鉛が生成する反応が生じる。この反応は、下記式(2)で表される。
Zn2+ + 2HPO → Zn(HPO + H↑ 式(2)
その後、上記界面の更なるpHの上昇に伴って、水に不溶性の第二リン酸亜鉛や第三リン酸亜鉛が生成する反応が生じる。これらの反応は、下記式(3)及び式(4)で表される。
3Zn(HPO → 3ZnHPO + 3HPO 式(3)
3ZnHPO → Zn(PO + HPO 式(4)
【0036】
亜鉛系めっき鋼板上にリン酸亜鉛系皮膜が形成される際の反応形態と、基礎実験の上記結果とを考え合わせると、表面処理亜鉛系めっき鋼板が良好な接着性を備えるには、形成されるリン酸亜鉛系皮膜中に含まれる第一リン酸亜鉛の量を少なくすることが好ましく、リン酸亜鉛系皮膜中に含まれる第一リン酸亜鉛の量を少なくするためには、上記式(3)及び式(4)の反応が進行する状態にするのが良い。上記式(3)及び式(4)の反応が進行する状態にするためには、
・上記式(1)のエッチング反応を十分に進行させることが、界面pHの上昇および亜鉛源の供給の点で有効であり、
・リン酸亜鉛系処理液を塗布してから乾燥までの時間をある程度とることが、上記式(3)及び式(4)の反応を進行させる上で有利である、
と考えられる。
【0037】
さらに、前述したように、ロールコート法では、塗布された処理液量が多いほど、作製した表面処理亜鉛系めっき鋼板の接着強度に及ぼすP付着量の影響が小さく、P付着量が多くても接着性が良好である。これは、塗布された処理液量が多くなると、乾燥するまでに要する時間が長くなる結果、上記式(3)及び式(4)の反応を進行させやすくなることによると考えられる。
【0038】
一方、シャワーリンガー法では、同じリン酸亜鉛処理液を使用してもロールコート法に比較して、充分な接着強度が得られにくい。これは、シャワーリンガー法の方が、可溶性のリン酸塩が多くなるためである。その理由は、シャワーリンガー法では、上記式(1)及び式(2)が起こる間もリン酸亜鉛処理液は供給され続けるので、亜鉛系めっき皮膜/リン酸液の界面pHの上昇が起こりにくく、上記式(3)及び式(4)が起こりにくくなる結果、可溶性のリン酸第1亜鉛及びリン酸第2亜鉛の形で表面に残りやすいためである。
【0039】
したがって、シャワーリンガー法では、ロールコート法で良好な接着性が得られる液よりも、めっき鋼板とのエッチング性を高めた処理液を使用して、過剰の亜鉛イオンを亜鉛系めっき皮膜/リン酸液界面に存在させることで、リン酸第1亜鉛及びリン酸第2亜鉛を早急に不溶性のリン酸亜鉛に変化させることが重要である。
【0040】
次に、上記条件で作製した試験鋼板(サンプル)について、リン酸亜鉛系皮膜に存在する酸素量(O量)、亜鉛量(Zn量)、及び、リン量(P量)に着目し、リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在しているO量、Zn量、及び、P量を、XPSにより測定した。
【0041】
(XPS測定条件)
アセトンに浸漬したサンプルを1分間以上に亘って超音波洗浄した後、XPS(島津製作所製 ESCA−3200)にて、最表面の元素分析を実施した。測定条件を以下に示す。
X線源 :Mg−Kα(8kV−30mA)
スパッタリング:無し
測定元素 :ZnLMM、P2P、O1Sの各ピークの積分強度から、最表面に存在する各元素の割合を算出
XPSによる分析結果を、図4及び図5にそれぞれ示す。
【0042】
図4及び図5より、せん断強度(=接着強度)が大きいものは、原子比O/Pの値が大きく、さらに、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)の値も大きかった。実用上問題がない150N以上の接着強度を有していたサンプルに着目すると、原子比O/Pの値は6以上、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)の値は0.85以上であった。さらに、より好ましい175N以上の接着強度を有していたサンプルに着目すると、原子比O/Pの値は10以上、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)の値は0.88以上であった。加えて、図4及び図5より、ロールコート法により塗布したリン酸亜鉛処理液の量が多いものほど、原子比O/Pの値、及び、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)の値がともに大きい傾向が認められた。
【0043】
この結果が得られた理由は、次のように考えられる。前述したように、良好な接着性を備える表面処理亜鉛系めっき鋼板を得るには、上記式(3)及び式(4)の反応を進行させることが肝要である。ここで、リン酸亜鉛処理工程で塗布されるリン酸亜鉛系処理液の量が多いほど、乾燥までの時間が長くなり、その結果、上記式(3)及び式(4)の反応が進行しやすくなる。さらに、リン酸亜鉛系処理液自体は酸性なので乾燥が終了するまでの間は上記式(1)の反応も進行し、結果的に過剰の亜鉛が皮膜中に取り込まれる。取り込まれた過剰の亜鉛は、乾燥によって酸化亜鉛(水酸化物でもありうると考えられる)となって、表面に濃化する。
【0044】
本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成させた。以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0045】
1.表面処理亜鉛系めっき鋼板
図1は、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1の形態例を示す図である。図1に示すように、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1は、リン酸亜鉛系皮膜2を有し、該リン酸亜鉛系皮膜2は、亜鉛系めっき鋼板3の表面に形成されている。
【0046】
リン酸亜鉛系皮膜2は、ある面からは、水に可溶なリン酸塩成分が少ないものであり、具体的には、表面処理亜鉛系めっき鋼板1を50℃の温水(純水)に5分間浸漬した際に溶解するリン酸亜鉛系皮膜2のP量(溶出P量(%)、Psol)が、当該リン酸亜鉛系皮膜2に含有されるP量の50%以下である。好ましくは、20%以下である。このようなリン酸亜鉛系皮膜2を備える本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1は、接着性が良好である。
【0047】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1において、リン酸亜鉛系皮膜2は、他の面からは、リン酸亜鉛系皮膜2の最表面に存在するPとOとの原子比O/Pが、
O/P≧6
である。好ましくは、O/P≧10である。ここで、原子比O/Pは、XPS分析により求めた、最表面の元素組成から算出される。より具体的には、リン酸亜鉛系皮膜2の表面をスパッタリングすることなくXPS分析を行うことにより測定される、O及びPの原子%から算出される値が、原子比O/Pである。
【0048】
また、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1において、リン酸亜鉛系皮膜2は、好ましくは、リン酸亜鉛系皮膜2の最表面に存在するP、O、及び、Znの原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)が、
(O+Zn)/(O+Zn+P)≧0.85
である。好ましくは、(O+Zn)/(O+Zn+P)≧0.88である。ここで、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)は、XPS分析により求めた、最表面の元素組成から算出される。より具体的には、リン酸亜鉛系皮膜2の表面をスパッタリングすることなくXPS分析を行うことにより測定される、O、Zn、及び、Pの原子%から算出される値が、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)である。
【0049】
さらに、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1において、リン酸亜鉛系皮膜2に含有されるリン酸の量をXモル、該リン酸亜鉛系皮膜2に含有される亜鉛の量をYモルとするとき、モル比Y/Xが、
1.5≦Y/X≦2.5
であることが好ましい。
【0050】
前述したように、形成されるリン酸亜鉛系皮膜2の中に過剰の亜鉛が取り込まれている方が、接着性が良好である。かかる観点から、モル比Y/X≧1.5とすることが好ましい(この値は、ホパイト(Zn(PO)におけるP及びZnの化学量論比に等しい)。一方、良好な潤滑性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板1を提供可能とする等の観点から、モル比Y/X≦2.5とすることが好ましい。
【0051】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1において、リン酸亜鉛系皮膜2の付着量は、接着性に関しては、本発明の皮膜構造を呈している限り、その付着量は特に限定されるものではない。しかし、潤滑処理鋼板として、適度な塗装性及び溶接性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板1を提供可能とする等の観点からは、P付着量換算で、300mg/m以下とすることが好ましい。一方、安定的な潤滑効果を期待し得る表面処理亜鉛系めっき鋼板1を提供可能とする等の観点からは、P付着量換算で、10mg/m以上とすることが好ましい。
【0052】
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1でリン酸亜鉛系皮膜2を形成される亜鉛系めっき鋼板3は、後述する本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法における亜鉛系めっき鋼板と同様のものを用いることができる。
【0053】
2.表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法
2.1.亜鉛系めっき鋼板
本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法において、基材に用いる亜鉛系めっき鋼板3は特に限定されない。具体的には、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、及び、合金化溶融亜鉛−アルミめっき鋼板等を用いることができる。本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1の主たる用途は自動車車体用であるので、この用途に広く用いられおり、かつ成形性の観点から潤滑性が求められる合金化溶融亜鉛めっき鋼板を基材(亜鉛系めっき鋼板3)とするのがもっとも有用である。
【0054】
2.2.表面調整工程
亜鉛系めっき鋼板のリン酸亜鉛処理に先立って、表面調整(乾燥を含む)を行うことができる。表面調整を行うことにより、後述するリン酸亜鉛処理において、リン酸亜鉛処理液とめっき層との反応性を増大させることができる。
表面調整に用いる表面調整剤は、市販の表面調整剤、例えば、Tiコロイド系の処理液やリン酸亜鉛コロイド含有水性液等を用いればよい。表面調整では、これらの表面調整剤を用いた浸漬処理又はスプレー処理を行う。本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法において、表面調整剤は自動車用化成処理鋼板で使用される市販の表面調整剤を好適に用いることができる。
さらに、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法では、表面調整に先立って、めっき表面の活性化や汚れの除去を目的として、アルカリ洗浄を行ってもよい。
【0055】
2.3.リン酸亜鉛処理
2.3.1.処理方式
一般的なめっき皮膜のリン酸亜鉛処理方法は、処理液を接触させ、めっき皮膜と化学反応させてから余分な処理液を水洗除去する反応型、及び、所定量の処理液を鋼板上に付着させそのまま乾燥する塗布型に大別される(このほかに、電解による方式も存在する)。ここで、反応型は、処理液の一定濃度確保と水洗後の水処理のための廃液設備等が必要になり、いずれも付帯設備が大掛かりになりやすい。また、リン酸亜鉛系の皮膜を形成する際には、反応型処理では、リン酸亜鉛のスラッジが発生するので、そのスラッジ処理の課題もある。そのため、リン酸系の潤滑皮膜を亜鉛系めっき鋼板上に形成する方法としては、塗布型処理の方が、非常に簡便で、かつ、スラッジ発生の問題もなく、好適であるといえる。したがって、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法における処理方式は、塗布型とする。
【0056】
さらに、塗布型処理としては、鋼帯にスプレーで処理液をかけてから余分な液をロール等で搾りとることにより塗布液量(付着量)を調整するシャワーリンガー法と、処理液をアプリケータロールから鋼帯に所定量転写させるロールコート法があげられる。これらを比較すると、処理液のマスバランスを維持する観点からは、鋼板と接触した処理液の戻りの少ないロールコート方が有利であり、特にリバースコート法は戻りが少なく有利である。一方、連続操業時の生産性の観点からは、シャワーリンガー法の方が有利である。
前述のように、ロールコート法とシャワーリンガー法とでは、接液時の反応性が変化するために、好適な液組成の範囲が異なる。すなわち、前述のように、シャワーリンガー法の皮膜形成初期段階では、シャワーによりフレッシュな処理液が供給されるため、フレッシュな処理液が供給されている間は界面pHが上昇しにくく、上記式(2)の反応までが主体と考えられる。一方、処理液からのリン酸の供給が止まるロールコート法では、難溶性の上記式(3)及び(4)までの反応が進みやすい結果、接着性がより安定する。したがって、本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法において、シャワーリンガー法を適用する場合は、ロールコート法よりも、処理液のエッチング力を高める必要があり、後述するように、酸比やフッ素含有量の好適範囲が異なる。
【0057】
2.3.2.リン酸亜鉛処理液
リン酸亜鉛処理液処理液に含有されるリン酸根の濃度は、後述する塗布液量の範囲で所定付着量のリン酸塩皮膜が形成されるように調整される。リン酸亜鉛処理液に含有される遊離酸の量を多くし、亜鉛系めっき層とのエッチング量を多くすることが重要である。本発明において、リン酸亜鉛処理液中のリン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比は、ロールコート法では、2.5以上6.5以下とする。一方、シャワーリンガー法では、より、エッチング力を上げる観点から、2.5以上、4.5以下とする。
【0058】
前述のように、塗布型処理といっても、その処理液と亜鉛系めっき層と間で、完全に固化するまでの間に、亜鉛のエッチング、及び、リン酸と亜鉛との反応が起こる。酸比が前述の範囲であれば、亜鉛のエッチングを進行させやすくなるものと考えられる。本発明において、上記式(3)及び式(4)で表される反応まで進行させやすくする等の観点から、酸比は2.5以上とする。一方、処理液からスラッジが発生しにくい状態とすることにより、良好な外観を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造可能とする等の観点から、ロールコート法では、酸比は6.5以下とする。
【0059】
一方、シャワーリンガー法では、前述したような理由で処理液のエッチング力が必要である。したがって酸比の上限を低く抑える必要があり、その上限は4.5以下である。また、過剰のエッチングにより、亜鉛系めっき皮膜から、供給されるリン酸以上の亜鉛イオンを供給されても、残った亜鉛は、乾燥中に酸化亜鉛、もしくは、水酸化亜鉛として、表面にブリードするが、この酸化亜鉛、もしくは、水酸化亜鉛皮膜は、接着性、潤滑性等の主要性能に悪影響を及ぼさないことから、極力、エッチング力を高めることが効果的である。
【0060】
酸比を調整する方法は、特に限定されるものではないが、酸比を下げるためには、リン酸亜鉛処理液中に、フッ酸や硝酸等の強酸を添加することが、めっき層のエッチング促進の観点から好ましい。特にリン酸亜鉛処理液のフッ素濃度を高めにするとエッチングが進行しやすくなるため、前述の考え方からも、処理方法によって、フッ酸濃度を変化させる必要がある。すなわち、ロールコート法では、リン酸亜鉛処理液に0.1g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有させる。これに対し、シャワーリンガー法では、ロールコート法よりもエッチング力を上げる必要から、0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有させる。一方、酸比を上げるための方策としては、強電解質のアルカリ溶液である水酸化ソーダやアンモニア水を適用することができる。本発明において、リン酸亜鉛処理液には、機能性を持たせることを期待して、Mn、Ni、Mg、及び、Ca等の金属塩を含有させることも可能である。
【0061】
2.3.3.塗布液量
ロールコート法により鋼板に塗布されるリン酸亜鉛処理液の塗布液量は、3.5mL/m以上とする。塗布液量を多くすることにより、特に形成される皮膜の付着量が多い場合であっても良好な接着性を有する表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造することが可能になる。ただし、塗布ムラを抑制しやすくしたり、リン酸亜鉛処理液の成分調整を容易にしたりする等の観点からは、塗布液量を20mL/m以下とすることが好ましい。
【0062】
一方、シャワーリンガー法では、スプレーによる鋼板上に付着した過剰のリン酸亜鉛処理液をロール等で絞るために、リン酸亜鉛処理液の塗布液量としては、おのずと制限がある。ロール等で絞る直前までは、前述のように、フレッシュな処理液が絶えず供給されることから、塗布液量(リンガーロールで絞った後の鋼板上の残っている塗布液量)はできるだけ絞る方が好ましい。そのため、シャワーリンガー法により鋼板に塗布されるリン酸亜鉛処理液の塗布液量は、10mL/m以下とする。好ましくは、3mL/m以下である。また、シャワーリンガー法により、鋼板に塗付されるリン酸亜鉛系処理液の下限量は、目標とする皮膜量が確保できれば、特に限定するものではないが、鋼板上に安定的に付着量を確保する上では、0.5mL/m以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下に実施例の結果を参照しつつ、本発明についてさらに説明する。
【0064】
亜鉛系めっき目付量=45g/m、合金化度(Fe%)=9.8%の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(規格:JAC270D、板厚:0.8mm)へ、各種リン酸亜鉛処理を実施し、性能を評価した。
【0065】
表面処理方法は、アルカリ脱脂工程及び表面調整工程の後、リン酸亜鉛処理工程を行い、その後、乾燥工程を経る順番とした。各工程の条件は、以下の通りとした。
・アルカリ脱脂:70℃の7%NaOHへ5秒間浸漬した。
・表面調整:パーコレン Z(日本パーカライジング製)3g/L液(常温)へ10秒間浸漬した。
・リン酸亜鉛処理:塗布方法はロールコート法及びシャワーリンガー法とした。
シャワーリンガー法による塗布は、スプレー(液流量=100L/min)にて3秒間処理した後、リンガーロールで余分の液を絞り、リンガーロールにより絞った後の処理液量が5.0mL/mとなるように行った。以下、シャワーリンガー法による当該塗布条件を「条件A」という。これに対し、ロールコート法による塗布は、鋼板上へ、ロールコートにて、3.0mL/m、5.0mL/m、及び、10mL/mの各処理液を転写することにより行った。以下、ロールコートにて3.0mL/mの処理液を転写した塗布条件を「条件B」、5.0mL/mの処理液を転写した塗布条件を「条件C」、10mL/mの処理液を転写した塗布条件を「条件D」という。
・オーブン乾燥:最高到達板温が60℃となる条件を10秒間に亘って維持した。リン酸亜鉛処理工程終了後、3秒以内に乾燥工程を開始した。
使用したリン酸亜鉛処理液の組成を、表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
このようにしてリン酸亜鉛処理を施した表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、以下の分析、性能評価を行った。
【0068】
(皮膜付着量測定)
蛍光X線分析法でめっき層表面を分析することにより皮膜中のリン量(P付着量)を測定した。
【0069】
(溶出P量)
50℃の純水中に表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板を5分間浸漬する前後の皮膜中のP量を蛍光X線分析法により測定し、上記基礎実験と同様の方法により、水へ溶出したリンの量(溶出P量(%))を算出した。
【0070】
(表面分析)
上記基礎実験と同様の条件で、リン酸亜鉛系皮膜の表面をXPS分析し、原子比O/P、及び、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)を算出した。
【0071】
(リン酸亜鉛系皮膜組成分析)
重クロム酸で、リン酸亜鉛系皮膜を溶解させ、ICP分析法にて、P量及びZn量を測定し、そのZn量に対するP量をモル比(Zn/P。上記Y/Xに相当。)の形で整理した。
【0072】
(摺動性試験)
特開2003−136151号公報に記載のピンオンディスク試験方法により、防錆油を塗布した状態で、以下の条件にて摩擦係数を測定し、摩擦係数及び摩擦係数の変動から、摺動性を評価した。
・試験条件
押し付け荷重 :30N
試験具先端形状 :SKD鋼球(5mmΦ)
試験温度 :60℃
回転半径 :10mm
摺動速度 :63mm/min (1rpm)
摺動回数 :10回転
摩擦係数(μmax) :1回転毎に12回の測定値から算出した平均値の10個の最大値より、最大摩擦係数の算出を行い、摺動性の評価を行った。
・評価基準
×:μmaxが、0.15以上
△:μmaxが、0.12〜0.15未満
○:μmaxが、0.12未満
【0073】
(スポット溶接性評価)
スポット溶接試験機を用いて、以下の条件でスポット溶接を行い、ナゲット径(mm)が4√t(t:鋼板板厚(mm))よりも小さくなるまでの溶接打点数により、スポット溶接性を評価した。
・溶接条件
電極 :16mmΦドーム型(WR型,先端:40mmR)
材質 :Cu−Cr
加圧力 :2450N
通電時間 :12サイクル(周波数50Hz)
溶接電流 :チリが発生する最少電流をあらかじめ調査して、その電流値に設定
・評価基準
○:3000打点以上
×:3000打点未満
【0074】
(化成処理性評価)
各種表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、塗装下地用の化成処理として、アルカリ脱脂、水洗、及び、表面調整の各処理を施した後、下記の条件で塗装下地用の化成処理(リン酸亜鉛処理)を行った。その後、得られた化成処理材の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、化成処理性を評価した。
・脱脂条件
ファインクリナー4380(日本パーカライジング製)200g/L液(50℃)に、2分間浸漬後、水洗
・表面調整条件
パーコレンZ(日本パーカライジング製)1g/L液(常温)に10秒間浸漬
・化成処理
PB−L3080(日本パーカライジング製)液温43℃ 2分間スプレー
・評価基準
○:1μm程度の化成結晶が緻密に析出
×:結晶がまばらに析出
×:結晶粒の大きさが不均一である
×:結晶粒が粗大である
【0075】
(接着性評価)
上記基礎実験の接着性試験と同様の方法により、油面接着性(接着性)を評価した。接着性の評価基準は、以下の通りである。
・評価基準
○:接着剤内での凝集破壊面積率80%以上 (極めて良好で合格)
△:接着剤内での凝集破壊面積率50%以上、80%未満(合格)
×:接着剤内での凝集破壊面積率50%未満(不合格)
【0076】
結果を表2に併せて示す。なお、表2において、原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)を、便宜上、「O+Zn」と表記する。
【0077】
【表2】

【0078】
<結果>
表2より、水可溶性のリン酸亜鉛比率(Psol、溶出P量)が、50%以下であれば、接着性が良好であり、20%以下であれば、より良好であった。これに対し、水可溶性のリン酸比率(Psol、溶出P量)が50%を超えるものは、接着性が不良であった。さらに、試験No.21や試験No.22のように、皮膜付着量(P付着量)が厚すぎたり薄すぎたりする場合は、化成処理性や溶接性あるいは摺動性に劣った。また、試験No.21や試験No.23では、スラッジが鋼板表面に残り、外観がいわば粉をふいたような外観が得られた。
【0079】
また、製法面から見ると、まずロールコート法(塗布条件B、C、D)では、接着性を確保する観点からは、処理液No.2、3、4、及び、5(表1参照)が良好であった。これらの処理液は、0.1g/L以上5g/L以下の範囲に含まれるフッ酸根(1.5g/L、2.0g/L、1.5g/L、及び、0.1g/L)を含有し、処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上6.5以下の範囲であった。一方、シャワーリンガー法(塗布条件A)では、処理液No.2、3、及び、4が良好であった。これらの処理液は、1.5g/L以上5g/L以下の範囲に含まれるフッ酸根(1.5g/L、2.0g/L、及び、1.5g/L)を含有し、処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上4.5以下の範囲であった。
さらに、塗布方式の面から比較すると、ロールコート法(塗布条件B、C、D)の方が、シャワーリンガー法(塗布条件A)よりも全般に接着性が良好であった。多量のフッ酸根及び硝酸根が含有されていた処理液No.3を用いて表面処理を行った表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、塗布方式によらず、塗布液量が変動し付着量が変化しても、良好な性能(接着性、摺動性、化成処理性、及び、溶接性)が得られた。これに対し、処理液No.5を用いて表面処理を行った場合は、ロールコート法(塗布条件B、C、D)では合格レベルの接着性が得られたが、シャワーリンガー法(塗布条件A)では合格レベルの接着性が得られず、不芳であった。
【0080】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う表面処理亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の表面処理亜鉛系めっき鋼板1の形態例を示す図である。
【図2】P付着量とせん断強度との関係を示す図である。
【図3】溶出P量とせん断強度との関係を示す図である。
【図4】XPSによる分析結果を示す図である。
【図5】XPSによる分析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1…表面処理亜鉛系めっき鋼板
2…リン酸亜鉛系皮膜
3…亜鉛系めっき鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき層の表面に、リン酸亜鉛系皮膜を備える表面処理亜鉛系めっき鋼板において、該表面処理亜鉛系めっき鋼板を50℃の水に5分間に亘って浸漬した際に溶解する前記リン酸亜鉛系皮膜中のリンの量が、前記リン酸亜鉛系皮膜に含有されていたリンの量の50%以下であることを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
前記リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素とリンとの原子比O/Pが、
O/P≧6
であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
前記リン酸亜鉛系皮膜の最表面に存在する酸素と亜鉛とリンとの原子比(O+Zn)/(O+Zn+P)が、
(O+Zn)/(O+Zn+P)≧0.85
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記リン酸亜鉛系皮膜に含有されるリン酸の量をXモル、前記リン酸亜鉛系皮膜に含有される亜鉛の量をYモルとするとき、モル比Y/Xが、
1.5≦Y/X≦2.5
であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛処理液をロールコート法により塗布した後、乾燥する工程を経て、前記亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成した表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、
前記リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上6.5以下である
ことを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸亜鉛処理液は、0.1g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有することを特徴とする、請求項5に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記塗布時に前記亜鉛系めっき層の表面へと塗布される前記リン酸亜鉛処理液の量が、3.5mL/m以上であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛処理液をシャワーリンガー法により塗布した後、乾燥する工程を経て、前記亜鉛系めっき層の表面にリン酸亜鉛系皮膜を形成した表面処理亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、
前記リン酸亜鉛処理液は、1.5g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有し、
前記リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比が、2.5以上4.5以下である
ことを特徴とする、表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記塗布時に前記亜鉛系めっき層の表面へと塗布される前記リン酸亜鉛処理液の量が、10mL/m以下であることを特徴とする、請求項8に記載の表面処理亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116599(P2010−116599A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290681(P2008−290681)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】