説明

表面処理剤および撥水撥油処理方法

【課題】充分な撥水撥油性を有しているブロック重合体からなる表面処理剤を提供する。
【解決手段】(A)式:
【化1】


X:H、CH、F、Cl、Br、I
Y:炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基
Rf:炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基
で示される含フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む含フッ素アクリル系セグメント、および
(B)式:
【化2】


:H、CH
:炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基
で示される非フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む非フッ素アクリル系セグメント
を有して成る含フッ素アクリル系ブロック共重合体を含んでなる表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体を含む表面処理剤、および該表面処理剤を使用した撥水撥油処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Polym. J. 1999, 31, 983には、アニオン重合法を用いて、含フッ素アクリル系セグメントと非フッ素アクリル系セグメントからなるブロック共重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、モノマーや溶剤を高純度に精製する必要があるなどの工程が多くなるなどの問題があった。
【0003】
特開2004−300313号公報には、フッ素セグメントおよび非フッ素セグメントを有する撥水撥油性ブロック共重合体が開示されている。この撥水撥油性ブロック共重合体は、充分な撥水撥油性を有していない。
特表2000−514479号公報には、原子移動ラジカル重合を用いる重合体の製造方法が開示されている。撥水撥油剤として充分な性能を有する重合体は開示されていない。
Langmuir 2004, 20, 5304には、原子移動ラジカル重合を用いて製造されたスチレンと2−パーフルオロオクチルエチルアクリレートジブロック共重合体が開示されている。このジブロック共重合体は、充分な撥水撥油性を有していない。
【0004】
【特許文献1】特開2004−300313号公報
【特許文献2】特表2000−514479号公報
【非特許文献1】Polym. J. 1999, 31, 983
【非特許文献2】Langmuir 2004, 20, 5304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、充分な撥水撥油性を有しているブロック重合体からなる表面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
(A)式:
【化1】


X:H、CH、F、Cl、Br、I
Y:炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基
Rf:炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基

で示される含フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む含フッ素アクリル系セグメント、および
(B)式:
【化2】


:H、CH
:炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基

で示される非フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む非フッ素アクリル系セグメント
を有して成る含フッ素アクリル系ブロック共重合体を含んでなる表面処理剤を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面処理剤は、高い撥水撥油性を有する。特に、シャワー撥水性および撥油性に優れている。
本発明の表面処理剤を構成する含フッ素アクリル系ブロック共重合体は、有機溶剤中に溶解するか、あるいは有機溶剤中で安定なミセルを形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
含フッ素アクリル系ブロック共重合体は、
(A)含フッ素単量体から形成される含フッ素アクリル系セグメント、および
(B)非フッ素単量体から形成される非フッ素アクリル系セグメントを有する。
【0009】
含フッ素アクリル系セグメント(A)を形成する含フッ素単量体は、
式:
【化3】


X:H、CH、F、Cl、Br、I
Y:炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基
Rf:炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基

で示される含フッ素アクリレートである。
【0010】
Y基の好ましい例は、炭素数1〜10のアルキレン基、すなわち、-(CH2)n- (nは、1〜10、好ましくは1〜4)である。
【0011】
Rf基が、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rf基の炭素数は、1〜10、例えば1〜8、特に1〜6、特別には4または6であってよい。Rf基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2、−(CF2)4CF(CF3)2、−(CF2)7CF3、−(CF2)5CF(CF3)2、−(CF2)6CF(CF3)2、−(CF2)9CF3等である。
【0012】
含フッ素アクリレートの具体例としては、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−C6H4−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−CH3) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−C2H5) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OH) CH2−Rf
【0013】
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OCOCH3) CH2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
【0014】
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
【0015】
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)3−Rf
【0016】
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数1〜21、特に1〜10のフルオロアルキル基である。]
含フッ素アクリレートは、2種類以上の混合物であってもよい。
【0017】
非フッ素アクリル系セグメント(B)を形成する非フッ素アクリレートは、式:
【化4】

:H、CH
:炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基

で示される非フッ素アクリレートである。
【0018】
は、溶剤への溶解性あるいは分散性を考慮した場合には、水素原子であることが好ましい。アルキル基(A基)の炭素数は、1〜30、撥水撥油性、基材との親和性の観点から、好ましくは6〜30、より好ましくは10〜30である。
非フッ素アクリレートは、2種類以上の混合物であってもよい。
【0019】
本発明のブロック共重合体は、クロロプレン、塩化ビニルのようなハロゲン化ビニル、塩化ビニリデンのようなハロゲン化ビニリデン、エチレン、ブタジエン、マレイン酸誘導体、ビニルアルキルエーテル、スチレン、ビニルピロリドンなどの他の単量体、特に非フッ素単量体から形成されたブロックを有していてもよい。
【0020】
ブロック共重合体において、含フッ素アクリレートと非フッ素アクリレートとの重量比は、1:99 〜 90:10、例えば、10:90 〜 80:20であってよい。他の単量体の量は、ブロック共重合体に対して、20重量%以下、例えば、0〜15重量%であってよい。
【0021】
本発明の含フッ素重合体の重量平均分子量は、1000〜1000000、好ましくは5000〜500000であってよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算で求めた値である。
【0022】
本発明の撥水撥油性ブロック共重合体は、リビングラジカル重合法によって製造することが好ましい。
【0023】
前記リビングラジカル重合とは、熱、光、金属触媒などを作用させ、成長反応における少量の成長ラジカル(フリーラジカル)種と多量の休止(ドーマント)種の素早い平衡を確立させる事に基づいている。休止(ドーマント)鎖により諸種の形式のリビングラジカル重合が提案されている。
【0024】
例えば、ドーマントとしてハロゲン化アルキルを用いるATRP法(原子移動ラジカル重合法)、チオエステルを用いるRAFT法(reversible addition fragmentation chain transfer)、アルコキシアミンを用いるNMP法(nitroxide mediated polymerization)などが提案されている。
【0025】
前記ATRP法(原子移動ラジカル重合法)は、反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する重合開始剤と重合触媒となる遷移金属錯体とを用いてビニル系モノマーを重合させる方法である(特表2000−514479号公報のほか、澤本光男ら、Macromolecules 1995, 28, 1721)。
【0026】
また、RAFT法は、通常のラジカル重合の系にラフト剤と呼ばれる高い連鎖移動定数を有する連鎖移動剤を添加してビニル系モノマーを重合させる方法である(M. G. Moadら、Macromolecules 1998, 31, 5559)。ラフト剤としては、チオエステルを使用することができる。
【0027】
また、前記NMP法はアルコキシアミンを熱開裂させて安定なニトロキサイドおよびポリマ−ラジカルを生成させ、ポリマーラジカルにビニル系モノマーを重合させる方法である(M. K. Georgesら, Macromolecules 1993, 26, 2987)。
開裂下ニトロキサイドは重合を開始せずに炭素中心フリーラジカルとのみ反応する。ニトロキサイドとモノマーと反応したポリマーラジカルとは再び結合してドーマントとして安定に存在することができる。以上のようなプロセスにてリビングラジカル重合が進行する。
【0028】
本発明におけるリビングラジカル重合とは上記の方法のいずれを用いてもよく、特に制限はないが、原料の選択幅が広いなどの点から原子移動ラジカル重合が好ましく使用される。
【0029】
原子移動ラジカル重合法の詳細について以下に詳細に説明する。
前記重合開始剤としては重合開始点となる、塩素原子、臭素原子、あるいはヨウ素原子を少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はないが、通常、開始点となる塩素原子または臭素原子を1つまたは2つ有する化合物が使用される。
【0030】
具体的に例示すると、例えば、ベンジルハライド、ハロゲン化アルカン、α−ハロエステル、α−ハロケトン、α−ハロニトリルおよびスルホニルハライドなどが使用され、これらの中では原料の入手が容易である点からベンジルハライドが好ましい。
ベンジルハライドの例としては1−フェニルエチルクロライドあるいは1−ブロモエチルベンゼンなどが挙げられる。
ハロゲン化アルカンとしてはクロロホルムあるいは四塩化炭素などが挙げられる。
【0031】
α−ハロエステルの例としてはエチル 2−ブロモイソブチレートあるいはエチル 2−ブロモプロピオネートなどが挙げられる。
α−ハロケトンとしてはα−ブロモアセトンあるいはα−ブロモアセトフェノンなどが挙げられる。
α−ハロニトリルとしては2−ブロモプロピオニトリルが挙げられる。
スルホニルハライドとしてはp−トルエンスルホニルクロリドなどが挙げられる。
【0032】
重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、反応系中の濃度として、通常0.01〜10モル/リットルから、好ましくは0.1〜5モル/リットルである。
【0033】
前記遷移金属錯体としては、特に制限されないが、周期表7族〜11族から選ばれる遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体である。
【0034】
前記遷移金属(M)の具体例としては、例えば、Cu、Cu、Ni、Ni、Ni2+、Pd、Pd、Pt、Pt、Pt2+、Rh、Rh2+、Rh3+、Co、Co2+、Ir、Ir、Ir2+、Ir3+、Fe2+、Ru2+、Ru3+、Ru4+、Ru5+、Os2+、Os3+、Re2+、Re3+、Re4+、Re6+、Mn2+、Mn3+が挙げられる。
これらの中では、触媒活性度の点からCu、Ni2+、Fe2+、Ru2+が好ましい。
【0035】
遷移金属錯体に使われる金属化合物を例示する。
1価の銅金属を有する銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅など、2価のニッケルを有するニッケル化合物としては、二塩化ニッケル、二臭化ニッケル、二ヨウ化ニッケルなど、二価の鉄を有する鉄化合物としては、二塩化鉄、二臭化鉄、二ヨウ化鉄など、2価のルテニウムを有するルテニウム化合物としては、二塩化ルテニウム、二臭化ルテニウム、二ヨウ化ルテニウムなどが挙げられる。
【0036】
重合溶媒への可溶化およびレドックス共役錯体の可逆的な変化を可能にして触媒活性を高める点で、上記遷移金属(M)に対して有機配位子を配位させる方が好ましい。
金属への配位原子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられるが、好ましくは窒素原子またはリン原子である。
前記有機配位子の具体例としては、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体、1,10−フェナントロリンおよびその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(ジメチルアミノエチル)アミン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどが挙げられる。
有機配位子の使用量は、特に限定されないが、遷移金属(M)に対して、通常0.1〜100倍量であり、好ましくは1〜10倍量である。
【0037】
遷移金属(M)の使用量は、特に限定されないが、重合開始剤の重合開始末端1モルに対し、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、更に好ましくは0.1〜10モルである。
【0038】
原子移動ラジカル重合は溶媒不存在下で行うことができるが、溶媒の存在下でも行うことができる。必要に応じて使用する溶媒としては、例えば、水;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼンなどのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのエステル化合物またはカーボネート化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソアミルアルコールなどのアルコール類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ベンゾトリフルオライドなどハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0039】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、モノマー仕込み量100重量部に対し、通常0.1〜5000重量部、好ましくは1〜2000重量部、更に好ましくは10〜1000重量部である。
【0040】
原子移動ラジカル重合は、通常−50〜200℃、好ましくは0〜150℃、更に好ましくは20〜130℃の温度で行われる。各物質の仕込み手順などに特に制限はなく、どのように仕込んでもよいが、重合開始剤以外の物質を先に溶解させ均一溶液を作製しておいて、重合温度に昇温する直前に開始剤を投入して重合することが好ましい。
【0041】
重合終了後、重合反応液をそのまま第2ブロック鎖の形成工程(ii)に供するのが工業的には一般的である。しかしながら、必要に応じて、重合反応液から第一ブロック鎖を分離しても良い。例えば、周知の方法に従って、残存モノマーや溶媒の留去、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマ−の濾過または遠心分離、ポリマ−の洗浄および乾燥を行うことができる。
また、生成ポリマ−の良溶媒、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンなどで重合溶液を希釈し、アルミナ、シリカまたはクレ−のカラムもしくはパッドに通すことにより、触媒として使用した遷移金属錯体および有機配位子を反応溶液から除去することができる。その他、反応溶液に含まれる遷移金属および有機配位子を分液などの抽出操作により処理する方法、あるいは、反応溶液に金属吸着剤を分散させて処理する方法も採用し得る。
【0042】
得られた含フッ素重合体は、必要により水や有機溶剤等に希釈または分散された後、乳濁液、有機溶剤溶液、エアゾールなどの任意の形態に調製でき、表面処理剤とすることが可能である。含フッ素重合体は、表面処理剤の有効成分(活性成分)として機能する。表面処理剤は、含フッ素重合体および媒体(特に、液状媒体)(例えば、有機溶媒および/または水)を含んでなる。表面処理剤において、含フッ素重合体の濃度は、例えば、0.01〜50重量%であってよい。
本発明の表面処理剤は、含フッ素重合体および水性媒体を含んでなることが好ましい。本明細書において、「水性媒体」とは、水のみからなる媒体、および水に加えて有機溶剤(有機溶剤の量は、水100重量部に対して、80重量部以下、例えば0.1〜50重量部、特に5〜30重量部である。)をも含有する媒体を意味する。
【0043】
一般に、親水性部分と疎水性部分からなる両親媒性ブロック共重合体を、水中に分散させると、乳濁して、エマルションを形成する。このとき、ミセルと呼ばれる分子会合体を形成することが広く知られている。
本明細書においてミセルとは、特に、親フッ素性部分と非フッ素性部分からなる分子会合体を表す。本発明により得られる、フッ素系セグメントと非フッ素系セグメントを含むブロック共重合体を、フッ素系溶剤、例えば、ヘキサフルオロベンゼン、パーフルオロヘキサンなどに分散させると、乳濁し、フッ素系セグメントを外側に、非フッ素セグメントを内側とするミセルを形成することができ、非フッ素系溶剤、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、メタノール、水などに分散させると、逆のミセルを形成することができる。
ミセルの作成方法は、試料に溶剤を加えて混ぜて分散させる方法のほか、超音波を作用させて分散させる方法などが挙げられる。
【0044】
本発明の含フッ素重合体は、被処理物品の種類や前記調製形態(乳濁液、有機溶剤溶液、エアゾールなど)などに応じて、任意の方法で表面処理剤として被処理物品に適応され得る。例えば、水性乳濁液や有機溶剤溶液である場合には、浸漬塗布、スプレー塗布等のような被覆加工の既知の方法により、被処理物の表面に付着させ乾燥する方法が採用され得る。この際、必要ならばキュアリング等の熱処理を行っても良い。
また、必要ならば、他のブレンダーを併用することも可能である。例えば、撥水撥油剤、防シワ剤、防縮剤、難燃剤、架橋剤、帯電防止剤、柔軟剤、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子、ワックスエマルション、抗菌剤、顔料、塗料などである。これらのブレンダーは被処理物、処理時に処理浴に添加して使用しても良いし、あらかじめ、可能なら、本発明の含フッ素重合体と混合して使用しても良い。
【0045】
被処理物品としては、特に限定されないが繊維製品の他、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターなどを挙げることができる。特に繊維製品に対して有用である。繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。繊維製品は、繊維、糸、布等の形態のいずれであってもよい。
【0046】
本発明においては、被処理物品を表面処理剤で処理する。「処理」とは、処理剤を、浸漬、噴霧、塗布などにより被処理物に適用することを意味する。処理により、処理剤の有効成分である含フッ素重合体が被処理物の内部に浸透するおよび/または被処理物の表面に付着する。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
別途示されない限り、これらの例におけるすべての部および%は重量に基づいており、すべての測定値は約23℃で得られた。
【0048】
シャワー撥水性試験(JIS−L−1092)
シャワー撥水性試験をJIS−L−1092に従って行った。シャワー撥水性試験は(下記に記載されている表1に示されるように)撥水性No.によって表された。
体積が少なくとも250mlであるガラス漏斗、および、250mlの水を20秒間〜30秒間にわたって噴霧することができるスプレーノズルを使用する。試験片フレームは、直径が15cmの金属フレームである。サイズが約20cmx20cmである3枚の試験片シートを準備し、シートを試験片ホルダーフレームに固定し、シートにしわがないようにする。噴霧の中心をシートの中心に置く。室温の水(250mL)をガラス漏斗に入れ、試験片シートに(25秒〜30秒の時間にわたって)噴霧する。保持フレームを台から取り外し、保持フレームの一方の端をつかんで、前方表面を下側にし、反対側の端を堅い物質で軽くたたく。保持フレームを180°さらに回転させ、同じ手順を繰り返して、過剰な水滴を落とす。湿った試験片を、撥水性が不良から優れた順で、0、50、70、80、90および100の評点をつけるために、湿潤比較標準物と比較する。結果を3回の測定の平均から得る。
【0049】
【表1】

【0050】
撥油性試験(AATCC試験法118-1992に準じる。)
処理済み試験布を温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(表3に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液を試験布上に 0.05ml静かに滴下し、30秒間放置後、液滴が試験布上に残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥油性は、パスした試験液の最高点数とし、撥油性不良なものから良好なレベルまでFail、1、2、3、4、5、6、7および8の9段階で評価する。
【0051】
【表2】

【0052】
製造例1-3
ブロックポリマーの製造:
(モノマーの前処理)
ステアリルアクリレート(StA)は、トルエン溶液を調製し、飽和重曹水で分液洗浄し、Na2SO4またはMgSO4を用いて乾燥させた。2-(perfluorohexyl)ethyl methacrylate (C6 SFMA)は、飽和重曹水で分液洗浄し、Na2SO4またはMgSO4を用いて乾燥させた。
【0053】
(一段階目)
二口ナスフラスコにCuBr 0.107 g、銅粉末 0.023 g、2,2’-ビピリジル 0.234 g、前処理を行ったStAのトルエン溶液を加え、窒素置換した後、100 ℃に加熱した。Ethyl 2-bromoisopropionate(開始剤) 0.146 gを添加し、ステアリルアクリレートの重合を行った。
【0054】
(二段階目)
一段階目の反応終了後、反応容器に前処理を行ったC6 SFMA、ベンゾトリフルオライド(BTF)を加え、C6 SFMAの重合を行った。反応終了後、反応溶液を塩化メチレン、HCFC-225にて希釈し、アンモニア水、希塩酸、飽和食塩水で洗浄したのち、MgSO4で乾燥させ、アセトンまたはメタノールへの再沈殿により共重合体を回収した。
製造例1、製造例2および製造例3のそれぞれにおいて、得られた共重合体におけるC6 SFMAとStAとの重量比は、それぞれ、70:30、60:40および50:50であった。
共重合体における、C6 SFMA単位とStA単位の重量比は、H−NMRにより、4.2ppm付近のC6 SFMA単位、および4.4 ppm付近のStA単位のいずれもOCH2基由来のプロトンの積分比により求めた。
H−NMR:日本電子(株)製 JNM−EX270(テトラメチルシラン=0ppm)
【0055】
比較製造例1-3
ランダムポリマーの製造:
製造例1-3と同様にモノマーの前処理を行った。
二口ナスフラスコにCuBr 0.107 g、銅粉末 0.023 g、2,2’-ビピリジル 0.234 g、前処理を行ったStAのトルエン溶液、前処理を行ったC6 SFMA、BTFを加え、窒素置換した後、100 ℃に加熱した。Ethyl 2-bromoisopropionate(開始剤) 0.146 gを添加し、重合を行った。製造例1-3と同様に精製を行い、ランダム共重合体を得た。
比較製造例1、比較製造例2および比較製造例3のそれぞれにおいて、得られた共重合体におけるC6 SFMAとStAとの重量比は、それぞれ、70:30、60:40および50:50であった。
【0056】
実施例1
製造例1で製造した重合体1.8 gをそれぞれ塩化メチレンに溶解して180gの試験溶液を調製した。この試験溶液にナイロン試験布(510mm×205mm)×1枚を浸漬後、マングルに通し、ピンテンターで150℃で処理(1分間)を行い、その後夫々の試験布についてシャワー撥水試験、撥油試験に使用した。同じ操作をPET試験布(510mm×205mm)×1枚、PET/綿混紡試験布(510mm×205mm)×1枚、綿試験布(510mm×205mm)×1枚について行った。結果を表3に示す。
【0057】
実施例2〜3および比較例1〜3
製造例2〜3で得た重合体を用いる(実施例2〜3)こと、および比較製造例1〜3で得た重合体を用いる(比較例1〜3)こと以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例4
製造例1で製造した重合体 180 mgに、塩化メチレン50gを加え、軽く振り混ぜたのち、超音波洗浄器(アズワン(株)製、出力 80 W)により、1分間超音波を作用させ、試験液を調製した。試験液のミセルの平均一次粒子径を、動的光散乱型粒子径測定装置により求めた。
動的光散乱型粒子径測定装置:シスメックス(株)製、ゼータサイザーナノシリーズ Nano−ZS
【0060】
実施例5〜6、比較例4〜6
製造例2〜3で得た重合体を用いる(実施例5〜6)こと、および比較製造例1〜3で得た重合体を用いる(比較例4〜6)こと以外は、実施例4と同様の手順を繰り返した。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
比較例4〜6における、平均一次粒子径は装置の測定下限(0.6 nm)以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の表面処理剤は、優れた撥水撥油性を有する。特に、シャワー撥水性および撥油性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式:
【化1】


X:H、CH、F、Cl、Br、I
Y:炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基
Rf:炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基

で示される含フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む含フッ素アクリル系セグメント、および
(B)式:
【化2】


:H、CH
:炭素数1〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基

で示される非フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を含む非フッ素アクリル系セグメント

を有して成る含フッ素アクリル系ブロック共重合体を含んでなる表面処理剤。
【請求項2】
基が炭素数6〜30の直鎖状または分岐状のアルキル基である請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
含フッ素アクリル系ブロック共重合体がリビングラジカル重合法により製造される請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
含フッ素アクリル系ブロック共重合体が原子移動ラジカル重合法により製造される請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
含フッ素アクリル系ブロック共重合体が、含フッ素アクリル系単量体と非フッ素アクリル系単量体を逐次添加して製造される請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
含フッ素アクリル系セグメントと非フッ素アクリル系セグメントの合計100重量部に対して、含フッ素アクリル系セグメントの量が1〜90重量部であり、非フッ素アクリル系セグメントの量が10〜99重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
溶液、エマルションまたはエアゾールの形態である請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項8】
含フッ素アクリル系ブロック共重合体がミセルを形成するミセルコロイドであるエマルションの形態である請求項7に記載の表面処理剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理剤である撥水撥油剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理剤で被処理物を処理することを特徴とする、被処理物の処理方法。
【請求項11】
表面処理剤を被処理物に適用した後に、130℃以上の温度で処理する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
被処理物が、繊維製品、石材、フィルター、防塵マスク、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面またはプラスターから選ばれる請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
被処理物が、繊維製品または紙である請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の処理方法で処理された製品。
【請求項15】
製品が、繊維製品、石材、フィルター、防塵マスク、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面またはプラスターから選ばれる請求項14に記載の製品。

【公開番号】特開2009−242550(P2009−242550A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90346(P2008−90346)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】