説明

表面処理方法

【課題】 バイオセンサの表面のような表面を分子の化学吸着により処理する方法及び装置を提供すること
【解決手段】 バイオセンサの表面を、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に接触させるステップと、該単分子層を捕獲分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層をバイオセンサ表面上に生成する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、表面処理に関し、具体的には、バイオセンサの表面のような表面を分子の化学吸着により処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサ・アレイの製造は、一般的には、表面上への生体分子のパターン形成された付着を含む。感度、再現性、及び選択性は、バイオセンサの品質の重要な側面である。感度は、一般に、ターゲット分子を効率的に捕獲するための、化学吸着された捕獲分子の緻密層を介して達成される。再現性は、一般に、捕獲分子の高度に再現可能な固定化学作用(anchoring chemistry)かつ高品質のパターン形成によって決まる。選択性は、一般に、ターゲット分子に対する高い選択性と、他の分子に対する低い非選択的吸着とによって決まる。他の分子に対する低い非選択的吸着は、検出されるべき信号の30%を占めており、バイオセンサの有用性を制限することになる。
【0003】
バイオ複合体(bioconjugation)は、分子を結合して、個々の成分(component)の結合した特性を有する錯体を形成することを含む。天然化合物及び合成化合物、及びそれらの活動を化学的に組み合わせ、所望の特性を有する物質を設計することができる。例えば、錯体混合物内のターゲット分子に結合されたたんぱく質を、検出可能な別の分子と交差結合させて、追跡可能な複合体を形成することができる。検出成分は、ターゲット成分に可視性をもたらし、局在化され、種々の工程が施され、又は測定のために用いることができる錯体を生成する。
【0004】
バイオ複合体は、ライフサイエンスの多くの領域に影響を与えた。特定の活動を有する新規な複合体の生成に交差結合反応を適用することにより、細胞成分の検出及び病気の治療のために僅かな量の物質を分析(assay)することが可能になった。1つの分子を別の分子に化学的に付着させる能力が、研究、診断、及びマーケットに役立つ成長産業を生み出した。ここで、溶液、細胞、又は組織内の特定検体との相互作用のために、複合体を用いて生化学的分析方法の重要な部分が行われる。複合体分子、試薬システム、及びバイオ複合技術の応用の概要が、非特許文献1に与えられる。
【0005】
生化学的環境に用いるための表面は、細胞培養、コンタクトレンズ、移植された人工器官、カテーテル、及びたんぱく質の貯蔵のための容器における、酵素免疫測定法(ELISA)のための基板のような分子及び細胞生物学のためのツールに見出される。多くのこうした表面は、自然吸着によりたんぱく質の層で迅速に被覆される。一部は有益な効果を有する。他のものは有害である。たんぱく質の吸着に抵抗するための生化学的に「不活性な」物質を特定することに強い関心がある。こうした抵抗を取り入れるための従来の表面処理方法は、表面をポリ(エチレン・グリコール)(PEG)で被覆することを含む。例えば、非特許文献2を参照されたい。さらに、PEGの詳細が、非特許文献3に提供される。代替的な手法は、ウシ血清アルブミンの予吸着を含む。しかしながら、この手法は、時間が経つにつれてたんぱく質の変性に見舞われるか、又はたんぱく質が他の分子と交換される。したがって、この手法は、質量又は第一級アミンによりたんぱく質の存在を検出するバイオセンサに適用するのに適していない。短鎖PEGオリゴマー(n=2−7)の自己組織化単分子層も、たんぱく質の吸着に抵抗するものとして示された。例えば、非特許文献4を参照されたい。しかしながら、吸着しようとするたんぱく質は、PEGを圧迫し、脱溶媒和させる。これらの影響は、共にエネルギー的に不利である。例えば、非特許文献5及び非特許文献6を参照されたい。
【0006】
バイオセンサ表面は、一般的には、ホウケイ酸ガラスから形成される。ここで、抗体又はDNAオリゴマーのような捕獲分子をバイオセンサ表面に付着させるための従来の種々のスキームについて説明する。
【0007】
図1Aを参照すると、1つの従来のスキームによって、直接化学吸着又は物理吸着を通じて、捕獲分子10を表面20に結合させる。比較的短いリンカー分子30を用いて表面20を官能化する。例えば、表面20をアミン官能化することができる。リンカー30は、捕獲分子10を表面20上に固定する。表面20上に存在する不必要な分子も、典型的には厳密な洗浄によって除去し、バイオセンサの選択性を最適化する。しかしながら、洗浄は、物理吸着された分子を除去することになる。化学吸着された分子は、洗浄に対する耐性がより大きい。図1Bを参照すると、このスキームにより、多くのリンカー30が露出されたままになる。このことは、他の分子40の非特異的化学吸着又は物理吸着を多量にもたらす。これにより、バイオセンサの選択性が減少される。特異的相互作用により結合された分子と非特異的相互作用により結合された分子の比が減少される。溶液内において捕獲分子10の選択性を高くできるが、他の分子40の存在により、多くの検出方法が複雑に入り組んでいる。加えて、捕獲分子10の直接物理吸着又は化学吸着は、分子の移動度を制限する。完全な官能性を有する捕獲分子10は、ほとんどない。したがって、捕獲分子10の感度が減少される。捕獲分子10が結合試験のためのものである場合、結合効率は、通常減少される。親和定数及び結合反応速度論は、化学吸着の向き(orientaion)に基づいて変わる。このことにより、表面20に結合される抗原のようなターゲット分子70がより少なくなる。また、異なる表面間により大きい結合のばらつきが存在する。用いられる検出スキームがターゲット分子70と他の分子40を区別できない場合には、バイオセンサの有効特異性が著しく減少される。このことは、ラベルのない検出スキーム及びラベル付き検出スキームの両方において一般的である。非特異的結合の際の協同的効果は事実上不可逆的なものなので、通常、厳密な洗浄によってもこの問題は解消されない。
【0008】
図1Cを参照すると、別の従来のスキームによって、捕獲分子10は、スペーサ分子50を通して表面20に化学吸着される。前に示したように、捕獲分子10の化学吸着は、より多くの厳密な洗浄手順を可能にし、よって非特異的に物理吸着された分子を減少させる。スペーサ50は、図1Aを参照してここに前述されたリンカー30より長い。スペーサ50は、捕獲分子10を表面20につなぐ。したがって、スペーサ50は、表面20に対して捕獲分子10の移動を制限することも可能にする。このことにより、捕獲分子10の活動を増加させることが可能になる。捕獲分子10の移動度、よって官能性が改善される。したがって、スペーサ50を通して化学吸着される捕獲分子10の結合効率が増す。しかしながら、図1Dを参照すると、露出面20及びスペーサ50が、他の分子40の非特異的結合を可能にする。非特異的結合は、図1Bの構成におけるものとおよそ同じ量だけ生じる。
【0009】
図1Eを参照すると、図1Cのスキームの改造によって、捕獲分子10が、生体適合性分子60の海の中でスペーサ50を通して表面20に固定される。生体適合性分子60は、他の分子40の非特異的吸着に対する耐性がある。このことは、表面20の有効特異性を改善する。図1Fを参照すると、露出されている表面20が少ないので、非特異的結合が減少される。スペーサ50及び捕獲分子10だけが、他の分子40の非特異的結合のための部位を提供する。厳密な洗浄は、特異的に結合された分子10より多くの非特異的に結合された分子40を除去することによって、特異性をさらに改善することができる。
【0010】
非特異的吸着に対するバイオセンサの感受性は、用いられるラベル付け及び検出スキームにも依存する。例えば、測定された信号は、ターゲット抗原分子10の数と、ラベル付け抗体が表面20に結合する特異性にのみ依存するので、サンドイッチELISA試験の感受性は低い。この手法は、二重選択検出を含むので不活性である。しかしながら、表面20に非特異的に吸着する他の分子40に対するラベルなし検出スキームの感受性は高い。これらのスキームは、質量又は屈折率によって、表面20上に存在するたんぱく質/DNAを測定する。非特異的吸着においては、サンドイッチELISAバイオセンサにおけるより多くの制御を必要とする。結合した分子が化学的ラベル付け技術によって検出される場合、非特異的吸着及び非特異的信号生成における制御も重要である。こうした制御は化学的ラベル付けが化学吸着に関わる化学基と交差反応を示すときには、特に望ましい。基へのアクセスを防止するために、障壁を付加することもできる。しかしながら、BSAが信号を生成し、バイオセンサの「有効な」選択性を減少させるので、通常、非特異的吸着のBSAブロッキングは不可能である。
【0011】
核酸アプタマーは、3次元構造を形成することができるので、バイオセンサ生成に有用である。アプタマーは、許容可能な親和力及び特異性で一連のターゲット分子を結合させることもできる。また、アプタマーは、たんぱく質分子と類似した方法で機能することができる。例えば、配位子結合のために、アプタマーの構造が変わり得る。バイオセンサ・アレイにおいて有用な多くの異なるレセプタがある。しかしながら、幾つかの理由のために、アプタマーは特に有用である。理由の一つは、アプタマーは、抗体よりずっと容易に設計できることである。選択後に、結合機能を減少させることなく、アプタマーを30から60までのヌクレオチド残留物のコア配列に減少させることができる。別の理由は、化学合成によって蛍光レポーターのような改造を容易に導入できることである。さらに別の理由は、アプタマー構造が、主として、ワトソン・クリック塩基対の機能をすることである。二次構造の相互作用により、抗体より容易にアプタマーをレセプタに変換することが可能になる。
【0012】
図2Aを参照すると、図1Fに関連して前述されたようなバイオセンサを製造するための従来の工程において、アミン官能化アプタマー120の形態の捕獲分子が、ガラス表面20上に交差結合される。この表面は、最初に、ATPS(3−アミノプロピル・トリエトキシシラン)100で官能化される。次に、交差結合が、二官能性スクシンイミド架橋剤(BS3)110の形態でスペーサにより行われる。
【0013】
こうした捕獲分子10の化学吸着に続いて、残りの交差結合スペーサ50及びアミン表面20が、単一の官能化スクシンイミドでブロックされてアミンを覆い、エタノールアミンでブロックされて未反応のスクシンイミド基を飽和させる。残りの表面をPEGで処理することもできる。これらの化学吸着後ステップは、非特異的たんぱく質の吸着を減少させる。しかしながら、前に示したように、捕獲分子10とスペーサ50との間の空間は、依然として反応可能である。これらの空間は、非特異的たんぱく質の吸着を受け入れる。BS3スペーサは、多くのたんぱく質には短すぎるものであり、図1Aに関連して前述されたような問題をもたらす。さらに、官能化、交差結合、及びブロッキング・ステップは各々、異なる浴内の異なる環境に表面20を露出させることを含む。この工程は、面倒で、時間がかかり、原料の浪費である。
【0014】
【非特許文献1】G.T.Hermanson著、「Bioconjugate Techniques」、Academic Press、San Diego、1996年
【非特許文献2】J.M.Harris編、Poly(ethylene glycol)Chemistry:Biotechnical and Biomedical Applications、Plenum、New York、1992年
【非特許文献3】Gombotz、W.R.他、J.Biomed.Matter.Res.15、1547−1562、1991年
【非特許文献4】Marksich、M.及びWhitesides、G.M.、Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.25、55−78、1996年
【非特許文献5】Jeon、S.I.及びAndrade、J.D.著、「Protein surface interactions in the presence of polyethylene oxide:effect of protein size」、J.Coll.Interface Sci.142、159―166、1991年
【非特許文献6】Jeon、S.I.、Lee、J.H.、Adrade、J.D.及びde Gennes、P.G.著、「Protein surface interactions in the presence of polyethyleneoxide:simplified theory」、J.Coll.Interface Sci.142、149―158、1991年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
捕獲分子の活動性、アクセス可能性、能力(capacity)、及び特異性が改善された、捕獲分子の化学吸着を行う方法を提供することが望ましい。特に、捕獲分子をバイオセンサ表面に不可逆的に付着させ、捕獲分子が機能的なまま十分な移動度及びアクセス可能性を与え、ターゲット抗原又は他の分子の非特異的吸着を最小にする、バイオセンサの製造方法を提供することが望ましい。あまり面倒でなく、時間がかからず、材料の無駄が少ないバイオセンサ製造方法を提供することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によると、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、該自己組織化単分子層を生体分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法が提供される。
【0017】
ここで用いられる生体分子という用語は、生化学的官能性を有する分子を指す。例えば、生体分子をアミン官能化することができる。同様に、生体分子は、核酸アプタマー誘導体を含むことができる。単分子層には、過剰のホモ二官能性ポリマーが含まれることが好ましい。ヘテロ二官能性試薬は、表面に曝される前にホモ二官能性ポリマーと混合されることが好ましい。表面は、ガラス、金属などにすることができる。ヘテロ二官能性試薬は、アミノアルキル・トリアルコキシシランであることが好ましい。本発明の好ましい実施形態において、ヘテロ二官能性試薬は、3−アミノプロピル・トリエトキシシランである。しかしながら、ヘテロ二官能性試薬は、アルキルチオールとすることもできる。ヘテロ二官能性試薬の第2の官能基が、ホモ二官能性ポリマーの1つの官能基と反応して、これらの間に共有結合を形成する。本発明の好ましい実施形態において、ホモ二官能性ポリマーの官能基は、N−ヒドロキシ・スクシンイミド基である。ホモ二官能性ポリマーは、ホモ二官能性ポリエチレン・グリコールとすることができる。生体分子が、ホモ二官能性ポリマーの1つの官能基と反応して、これらの間に共有結合を形成する。生体分子とホモ二官能性ポリマーとの間に形成された共有結合は、アミド結合であることが好ましい。
【0018】
本発明を別の側面から見ると、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、該単分子層を捕獲分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法によって形成された表面層を有するバイオセンサが提供される。
【0019】
本発明の更に別の側面から見ると、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、該単分子層を捕獲分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を表面上に生成する方法によって、パターン形成された付着物が形成された、生体分子のパターン形成された付着物を基板上に含むバイオセンサ・アレイが提供される。
【0020】
本発明の更に別の側面から見ると、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、該単分子層を生体分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法によって形成された表面層を有するバイオチップが提供される。
【0021】
本発明の更に別の側面から見ると、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、該単分子層を生体分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を表面上に生成する方法によって、パターン形成された付着物が形成された、生体分子のパターン形成された付着物を基板上に含むバイオチップ・アレイが提供される。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、捕獲分子をバイオセンサ表面に付着させるための簡単な2ステップの化学工程が提供される。この工程は、両端にスクシンイミド基を有するホモ二官能性PEG架橋剤を用いて、これまで可能であったものより高い密度及び再現性を有するように、捕獲分子を表面上に化学吸着させる。この工程は、バイオ分析の感度及び選択性を改善する。また、バイオセンサ表面を高い歩留まりで経済的に処理するためのプロトコル及び装置も提供される。
【0023】
本発明の特に好ましい実施形態においては、スペーサ分子を清潔なガラス表面に付着させる方法が提供される。この方法は、ホモ二官能性スクシンイミドの端部が官能化されたPEGポリマーのようなホモ二官能性ポリマーとの、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン(APTS)のようなヘテロ二官能性試薬の非対称反応を含む。この反応は、水なし溶媒の中で行われる。生体分子反応を助けるために、高い濃度が用いられる。高価な試薬を節約するために、本発明は、少量の予備反応させられた試薬をガラス表面に適用するための装置にも適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
ここで、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態が単なる例として説明される。
【0025】
図1Gを参照すると、本発明の好ましい実施形態において、生体適合性分子80として働く結合したアンカー/スペーサを介して捕獲分子10がバイオセンサのガラス表面20に固定されているバイオセンサが提供される。
【0026】
ここで図1Hを参照すると、生体適合性分子80が、他の分子40の非特異的吸着に対して耐性があり、架橋剤としても働く。これにより、潜在的な非特異的吸着の部位がさらに減少される。有利なことに、余剰の生体適合性分子80は、下にある表面20を露出されたままにすることなく、捕獲分子10の横方向の間隔を与える。用いられる捕獲分子10の濃度は、表面の活性化の密度を決定する。実施において、ターゲット分子70は、捕獲分子10を介して表面20に結合される。
【0027】
図2B及び図2Cを併せて参照すると、本発明の特に好ましい実施形態において、ガラス表面20が、APTS(アミノプロピル・トリメトキシシラン)200及びホモ二官能性PEG N−ヒドロキシ・スクシンイミド架橋剤(NHS)210のジメチル・スルフォキサイド(DMSO)中で前処理された溶液で処理される。NHS架橋剤210は、両端に1つずつ2つのNHS官能基を有する。一方の端部において、第1のNHS官能基がAPTS200に結合する。他方の端部において、第2のNHS官能基がアミン官能化アプタマー220に結合する。いずれにしても、結合は共有結合を介したものである。
【0028】
図3は、NHS PEG210とのAPTS200の反応を示すNMRスペクトルを示す。図示される分子は、その反応の結果生じたものである。
【0029】
本発明を具体化する特に好ましい工程において、図3に関連して言及される反応は、APTSからのNHS−PEG―トリエトキシシランの形態のヘテロ二官能性試薬、及びRapp Polymere社の(a,w)NHS−PEG2000の形態のホモ二官能性PEGの42−48°CのDMSOの溶液中での調合で始まる。DMSO中の80mMホモ二官能性NHS−PEGの300マイクロリットルが、DMSO中の120mM APTSの200マイクロリットル、300マイクロリットルのDMSO中の6マイクロリットルのAPTSと混合される。これにより、両方の物質が48mMの濃度を有する等モルの混合物が生成される。この混合物は、46°Cから50°Cまでの間にまで加熱され、30分間から60分間反応することが可能になる。次に、結果物が、60分間から120分間かけて2つの前処理されたガラス表面間の狭い隙間に移される。毛管作用を用いて、隙間が満たされるまで混合物が該隙間に入るのを促進する。高温で隙間を満たすことが望ましい。そうでなければ、混合物の粘度が高すぎる。表面は、数時間、濃硫酸(Fulka)が1部及び過酸化水素(Fulka puriss)が2部の割合の混合物によって前処理され、次に、脱イオン水で洗浄された。「ピラニア溶液」と呼ばれることもある濃硫酸と過酸化水素水の混合物は、混合中、沸点まで加熱する。
【0030】
引き続き図3を参照すると、30分後に行われたNMRは、90%以上のアミン基がPEG上のNHS基と反応し、10%の検出しきい値で遊離したAPTSを検出できないことを示す。未反応のNHS−PEGのホモ二官能性副生物及びホモ二官能性トリエトキシシランPEGが、統計学上生じる。しかしながら、これらは、化学吸着を妨げるものでない。これは、NHS−PEGがガラスに化学吸着できないためである。ホモ二官能性トリエトキシシランPEGは、NHS−PEGの密度を希釈できるだけであり、次のたんぱく質吸着ステップにおいて、Si−(OH)に分解(decay)する。
【0031】
図4A乃至図4Cは、ガラス表面20を、前述したような高濃度の比較的高価なリンカー/スペーサ生体適合性分子で処理するための流体セルを示す。図4A及び図4Bを参照すると、表面20は分離され、100−300マイクロメートルの厚さの周辺ガスケット300によってシールされる。ガスケット300は、テフロンから形成することができる。図4Cを参照すると、流体セルは、次に、一方の側からの毛管力により、150マイクロリットルの反応性混合物で満たされる。具体的には、混合物は、表面20間に介在する隙間の中に引き込まれ、毛管作用を介してガスケット300により画定される。このように、表面20が処理される。
【0032】
ヘテロ二官能性試薬はその場で調合されるので、前述された技術は、従来の技術より優れている。さらなる精製は必要とされない。クロマトグラフィのような従来の技術によってシラン処理されたPEGの精製は、不可能ではないにしても非常に困難であるので、このことは特に有利である。水を含まない条件は、APTSの重合を防止し、表面20の均一な処理を助ける。試薬の現場調合により、貯蔵のために劣化又は重合されない新鮮な反応中間体がもたらされる。50mMのPEG及びAPTSの混合物における高濃度は、二分子反応速度を改善する。このことは、不必要な分解なしに、試薬を調合することを可能にする。APTSを上回るNHSの高濃度が、NHS基とのAPTSの反応を終了させるのを助ける。毛管隙間は、拡散の制限を排除することによって表面反応の速度を増大させる。混合物内に実質的に勾配がないので、表面20の処理はより均一である。表面20間の表面対体積比が大きいほど、重合反応の減少が大きくなり、該表面20とのトリエトキシシランの反応が有利になる。それ以外に、これらは、CBQCA又はNHS−ローダミンによる第一級アミンの検出のような検出スキームの特異性を減少させることができる。混合物内に存在する低レベルのAPTSは、検出される第一級アミンに対しバックグラウンド強度を著しく減少させる。
【0033】
表面20間の試薬の反応は、DMSOを用いた3回の洗浄サイクルに続いて、濾紙により溶液を除去することによって停止される。洗浄は、重合生成物及びホモ二官能性副生成物と共に未反応のヘテロ二官能性分子を除去する。次に、表面20が分解され(disassembled)、窒素で乾燥され、DMSOの痕跡物を除去する。次に、捕獲分子10が、新たにNHS活性化された表面20に付着される。代替的に、表面20を数日間乾燥アルゴン内に保存することもできる。
【0034】
ここに前述されたような処理されたガラス表面20は、オリゴヌクレオチドを、末端アミノ基(5’又は3’末端)、たんぱく質、及び他のNH2−官能化された分子で固定(anchor)することができる。本発明の特に好ましい実施形態において、化学吸着は、NHS活性化された表面20に適用されたPDMS微小流体網をアミノ官能化された化合物の水溶液で満たすことによって実行される。オリゴヌクレオチドは、10%のDMSO及び15%−20%のPEG(NW=1000)を含有する水溶液内で表面20に化学吸着される。20mMのオリゴヌクレオチドの濃度は、化学反応中にオリゴヌクレオチドによる表面20の特に均一な被覆をもたらし、実質的に乾燥による影響を受けないようにする。
【0035】
図5A乃び図5Bは、本発明を具体化する表面の官能化を用いて達成可能な改善された均一性を例証する。図5Aは、NHS−PEG−APTS複合スペーサによって表面に化学吸着された18−merのDNAオリゴマー分子と表記されたパターン形成されたTAMEAの蛍光画像を示す。明るいストライプは、化学吸着されたオリゴマー分子を示す。図5Bは、2%未満のスポット内標準偏差及び4%未満のスポット中間標準偏差を示す、図5Aの表面からの蛍光数のプロットである。この場合は、画像上に分散された45の別個の領域にわたって平均された蛍光強度は、9748±350カウントである。ばらつきは、4%より少ない。1つの領域については、平均600ピクセルであった。洗浄及びハイブリダイゼーション・サイクル中でさえ、パターンの精度は安定したままである。
【0036】
図6A及び図6Bを参照すると、このことが、画像及びグラフによって実証される。明るい領域が、垂直方向のトラックに沿ったアプタマーのパターン形成された化学吸着と、離間配置された水平方向のトラックに沿ったラベル付けされた16−merのオリゴマー・プライマーのパターン形成されたハイブリダイゼーションとによって形成される。9つの領域にわたって平均された蛍光画像は、21539±1085カウントである。ばらつきは5%である。1つの領域について、平均784ピクセルであった。
【0037】
本発明の好ましい実施形態が、例としてだけここで説明された。当業者であれば、可能な本発明の多くの実施形態があることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(A)表面への捕獲分子の直接吸着を示すバイオセンサ表面の断面図である。 (B)(A)に示される構成に対する他の分子の非特異的化学吸着を示す表面の断面図である。 (C)スペーサ分子を介する捕獲分子の化学吸着を示す表面の断面図である。 (D)(C)に示される構成に対する他の分子の非特異的化学吸着を示す表面の断面図である。 (E)生体適合性分子の海において、スペーサ分子を介して表面に固定された捕獲分子を示す表面の断面図である。 (F)(E)に示される構成に対する他の分子の非特異的化学吸着を示す表面の断面図である。 (G)捕獲分子が結合されたアンカー/スペーサを通して表面に固定されている、本発明の好ましい実施形態の断面図である。 (H)(G)に示される構成に対する他の分子の非特異的化学吸着を示す表面の断面図である。
【図2】(A)二官能性スクシンイミド架橋剤(BS3)を介してAPTS(3−アミノプロピル・トリエトキシシラン)官能化されたガラス表面へのアミン官能化されたアプタマーの付着を示す流れ図である。 (B)表面が、前処理されたAPTS(アミノプロピル・トリメトキシシラン)の溶液及びDMSO内のホモ二官能性PEG N−ヒドロキシ・スクシンイミド架橋剤(NHS)で処理されるガラス表面へのアミン官能化されたアプタマーの付着を示す流れ図である。 (C)DMSO中のホモ二官能性PEG N−ヒドロキシ・スクシンイミド架橋剤(NHS)の一端に対するAPTS(アミノプロピル・トリメトキシシラン)の反応を示す。
【図3】NHS PEGとのアミノプロピル・トリメトキシシランの反応を示すNMRスペクトルである。
【図4】(A)バイオセンサ表面を処理するための流体セルの平面図である。 (B)流体セルの側面図である。 (C)セルの別の平面図である。
【図5】(A)処理された表面の写真画像である。 (B)(A)の表面に対応するデータポイントに対する蛍光のプロットである。
【図6】(A)別の処理された表面の写真画像である。 (B)(A)の表面に対応するデータポイントに対する蛍光のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法であって、
前記表面を、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に接触させるステップと、
前記自己組織化単分子層を生体分子と反応させるステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記生体分子がアミン官能化された、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生体分子が核酸アプタマー誘導体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
過剰なホモ二官能性ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヘテロ二官能性試薬が、前記表面に曝される前に前記ホモ二官能性ポリマーと混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記表面がガラス表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表面が金属表面である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ヘテロ二官能性試薬がアミノアルキル・トリアルコキシシランである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ヘテロ二官能性試薬が3−アミノプロピル・トリエトキシシランである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ヘテロ二官能性試薬がアルキルチオールである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ヘテロ二官能性試薬の前記第2の官能基が前記ホモ二官能性ポリマーの1つの官能基と反応して、これらの間に前記共有結合を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ホモ二官能性ポリマーの前記官能基がN−ヒドロキシ・スクシンイミド基である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ホモ二官能性ポリマーがホモ二官能性ポリエチレン・グリコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記生体分子が前記ホモ二官能性ポリマーの1つの官能基と反応して、これらの間に共有結合を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記生体分子と前記ホモ二官能性ポリマーとの間に形成された前記共有結合がアミド結合である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
バイオセンサであって、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、前記単分子層を捕獲分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法によって形成された表面層を有するバイオセンサ。
【請求項17】
生体分子のパターン形成された付着物を基板上に含むバイオセンサ・アレイであって、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に前記表面を接触させるステップと、前記単分子層を捕獲分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に生成する方法によって前記パターン形成された付着物が形成されるバイオセンサ・アレイ。
【請求項18】
バイオチップであって、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、前記単分子層を生体分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に形成する方法によって形成された表面層を有するバイオチップ。
【請求項19】
生体分子のパターン形成された付着物を基板上に含むバイオチップ・アレイであって、表面基に対して共有結合することができる第1の官能基と、ホモ二官能性ポリマーと共有結合して自己組織化単分子層を形成する第2の官能基とを有するヘテロ二官能性試薬の溶液に表面を接触させるステップと、前記単分子層を生体分子と反応させるステップとを含む、生体分子の単分子層を基板の表面上に生成する方法によって前記パターン形成された付着物が形成されるバイオチップ・アレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−509201(P2006−509201A)
【公表日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557616(P2004−557616)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/038752
【国際公開番号】WO2004/050919
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】