説明

表面処理金属材料および金属表面処理方法

【課題】耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れる表面処理金属材料およびそれを製造する金属表面処理方法の提供。
【解決手段】金属材料を表面処理して得られる表面処理金属材料であって、
前記金属材料の表面に、アモルファス皮膜および最大平均粒径が5〜300nmの半導体粒子を含有する表面処理皮膜を有し、
前記表面処理皮膜における前記半導体粒子の表面被覆率が10〜90%であり、
前記半導体粒子が前記表面処理皮膜の表面から露出しており、
前記半導体粒子の密度が5〜10000個/μm2である表面処理金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体に代表される金属材料の表面に耐食性に優れる表面処理皮膜を形成させた表面処理金属材料およびそれを製造する金属表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に塗装後の耐食性に優れる表面処理皮膜を析出させる手法としては、リン酸亜鉛処理法やクロメート処理法が現在一般に用いられている。
ここで、リン酸亜鉛処理法では、熱延鋼板や冷延鋼板等の鋼、亜鉛めっき鋼板および一部のアルミニウム合金表面に耐食性に優れる皮膜を析出させることができる。
しかしながら、リン酸亜鉛処理を行う際には、反応の副生成物であるスラッジの発生が避けられず、かつ、アルミニウム合金の種類によっては塗装後の耐糸錆性を十分に確保することができない。
また、アルミニウム合金に対しては、クロメート処理を施すことによって十分な塗装後の性能を確保することが可能である。
しかしながら、昨今の環境規制から処理液中に有害な6価クロムを含むクロメート処理は敬遠される方向にある。
そこで、処理液中に有害成分を含まない表面処理方法として、種々の方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに、密着性及び耐食性付与剤からなる化成処理剤であって、前記密着性及び耐食性付与剤は、
亜鉛、マンガン、及び、コバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)1〜5000ppm(金属イオン濃度)、
アルカリ土類金属イオン(B)1〜5000ppm(金属イオン濃度)、
周期律表第三属金属イオン(C)1〜1000ppm(金属イオン濃度)、
銅イオン(D)0.5〜100ppm(金属イオン濃度)、及び、
ケイ素含有化合物(E)1〜5000ppm(ケイ素成分として)
からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする化成処理剤。」、および、「請求項1又は2記載の化成処理剤により形成された化成皮膜を表面に有することを特徴とする表面処理金属。」が記載されている([請求項1][請求項3])。
【0004】
また、特許文献2では、本出願人により、「次の成分(A)、成分(B)および成分(C):
(A)Ti、Zr、HfおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物
(B)ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸−ホルムアルデヒド縮合物、スチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ビニルアミン、ポリビニルアミン、アリルアミン、ポリアリルアミンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物
(C)Ag、Al、Cu、Fe、Mn、Mg、Ni、Co、Zn、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物
を含有し、前記成分(B)の合計質量濃度Bと前記成分(A)中の前記元素の合計質量濃度Aの比であるK1=B/Aが、0.01≦K1≦50を満足し、前記成分(A)の化合物中の前記元素の合計質量濃度Aが5〜10000mg/Lであり、前記成分(C)の前記化合物中の前記金属元素の合計質量濃度が1〜50000mg/Lである、金属表面処理用処理液。」、「金属材料に、請求項4〜10のいずれかに記載の金属表面処理用処理液を接触させる処理液接触工程を有する、金属表面処理方法。」、および、「鉄系金属材料表面に、請求項12〜17のいずれかに記載の金属表面処理方法によって形成された、前記成分(A)の前記元素を含有し、かつ、前記元素換算の付着量が20mg/m2以上である表面処理皮膜層を有する、金属材料。」が提案されている([請求項4][請求項12][請求項18])。
【0005】
更に、特許文献3には、「ジルコニウムイオン、銅イオン、および、その他の金属イオンを含む、pHが1.5〜6.5のカチオン電着塗装用金属表面処理液であって、
前記その他の金属イオンが、錫イオン、インジウムイオン、アルミニウムイオン、ニオブイオン、タンタルイオン、イットリウムイオン、セリウムイオンからなる群から少なくとも1つ選ばれるものであって、
前記ジルコニウムイオンの濃度が10〜10000ppmであり、
前記ジルコニウムイオンに対する銅イオンの濃度比が質量換算で0.005〜1であり、
前記その他の金属イオンの銅イオンに対する濃度比が質量換算で0.1〜1000である、カチオン電着塗装用金属表面処理液。」、「請求項1〜4いずれかに記載の金属表面処理液を用いて、金属基材に対して表面処理を行う工程を含む、金属表面処理方法。」、および、「請求項5記載の方法で得られる、表面処理による皮膜が形成された金属基材。」が記載されている([請求項1][請求項5][請求項6])。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218073号公報
【特許文献2】特開2005−264230号公報
【特許文献3】特開2008−174832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述した特許文献1〜3に記載されている化成処理剤(金属表面処理用処理液)を用いて表面処理した表面処理金属(金属材料、金属基材)について鋭意研究した結果、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料、アルミニウム系金属材料等の金属材料の種類によっては耐食性の改善できない場合や、袋構造物(例えば、自動車車体のような輸送用の構造物)には電着塗装時の塗装の付き廻り性(以下、「電着塗装付き廻り性」という。)が悪くなる場合があることを明らかとした。
【0008】
そこで、本発明は、耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れる表面処理金属材料およびそれを製造する金属表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明者は、上記目的を達成すべく引き続き鋭意研究した結果、電着塗装付き廻り性には、被電着材料の表面の物理状態と化学状態が大きく影響することを新たに知見し、ジルコニウムやTi等を含有するアモルファス皮膜中に銅やスズ等を含有する半導体粒子が所定の被覆率等で所定の形態で存在する表面処理皮膜が金属材料表面に形成されることにより、耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れる表面処理金属材料となることを見出し、本発明を完成させた。
また、本発明者は、金属材料の表面に所定の流速で表面処理液を接触させることにより、ジルコニウムやTi等を含有するアモルファス皮膜中に銅やスズ等を含有する半導体粒子が所定の密度等で存在する表面処理皮膜が金属材料表面に形成されることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(13)を提供するものである。
【0010】
(1)金属材料を表面処理して得られる表面処理金属材料であって、
上記金属材料の表面に、アモルファス皮膜および最大平均粒径が5〜300nmの半導体粒子を含有する表面処理皮膜を有し、
上記表面処理皮膜における上記半導体粒子の表面被覆率が10〜90%であり、
上記半導体粒子が上記表面処理皮膜の表面から露出しており、
上記半導体粒子の密度が5〜10000個/μm2である表面処理金属材料。
【0011】
(2)上記アモルファス皮膜がZr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、
上記半導体粒子がSn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する上記(1)に記載の表面処理金属材料。
【0012】
(3)上記アモルファス皮膜に含有する上記元素の元素換算の付着量が5〜200mg/m2であり、
上記半導体粒子に含有する上記元素の元素換算の付着量が1〜100mg/m2である上記(2)に記載の表面処理金属材料。
【0013】
(4)上記金属材料が、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料およびアルミニウム系金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の金属材料である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理金属材料。
【0014】
(5)縦150mm、横70mmの大きさで、横方向中央の下端から50mmの位置に直径8mmの穴を有する第1から第3の表面処理金属材料、および、縦150mm、横70mmの大きさの第4の表面処理金属材料を、それぞれ平行にこの順で20mmの間隔をおいて設置し、
上記第1から第4の各表面処理金属材料を下端から95mmの位置まで電着塗装浴に浸漬し、
上記第1表面処理金属材料の上記第2表面処理金属材料が設置されていない側の面側に対極を設置して下記(a)〜(c)の条件で電着塗装を施し、
上記第1表面処理金属材料の上記対極側の面(A面)および上記第4表面処理金属材料の上記対極側の面(G面)の塗膜厚の比(A/G)を3.0以下とすることができる、表面処理金属材料。
(a)電着塗料温度:28℃
(b)電解条件:30秒かけて0Vから230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加した後150秒間230Vで保持
(c)焼成条件:170℃、20分間
【0015】
(6)金属材料に、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有する表面処理液を流速1〜10cm/秒で接触させて、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の表面処理金属材料を得る金属表面処理方法。
【0016】
(7)上記表面処理液が、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜10000ppm含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜5000ppm含有し、pHが2.0〜6.0である上記(6)に記載の金属表面処理方法。
【0017】
(8)上記表面処理液が含有するZrが、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸およびフルオロジルコニウム錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)または(7)に記載の金属表面処理方法。
【0018】
(9)上記表面処理液が含有するTiが、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸およびフルオロチタン錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)〜(8)のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【0019】
(10)上記表面処理液が含有するSnが、硝酸スズ、硫酸スズおよびフッ化スズからなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)〜(9)のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【0020】
(11)上記表面処理液が含有するInが、硝酸インジウム、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、フッ化インジウム、酸化インジウムおよび水酸化インジウムからなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)〜(10)のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【0021】
(12)上記表面処理液が含有するTeが、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウムおよび二酸化テルルからなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)〜(11)のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【0022】
(13)上記表面処理液が含有するCuが、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、酸化銅、酢酸銅、水酸化銅、フッ化銅および硫化銅からなる群から選択される少なくとも1種として含有している上記(6)〜(12)のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、以下に示すように、耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れる表面処理金属材料およびそれを製造する金属表面処理方法を提供することができる。
【0024】
本発明の表面処理金属材料が、このような効果を奏する理由は明確ではないが、本発明者は以下のように推察している。
すなわち、表面処理皮膜におけるアモルファス皮膜により耐食性を良好なものとし、アモルファス皮膜中に所定の被覆率、粒子径および密度で所定の形態(露出)で存在する半導体粒子により電着塗装付き廻り性を良好なものとしていると考えられる。
【0025】
特に、電着塗装付き廻り性については次のように考えられる。
まず、カチオン電着においては、金属材料(被処理物)がカソードになるように所定の電位を印加すると、金属材料表面(界面)のpHが上昇するため、塗料が凝集し析出する。
そして、電着塗装付き廻り性が良好となる、リン酸亜鉛系の金属表面処理液を用いた表面処理後の金属材料表面には、絶縁性のリン酸亜鉛結晶が粒子状に析出した皮膜が形成されている。
そのため、所定の電圧を印加した際に、絶縁体である結晶が抵抗となり、結晶と結晶の隙間に電流が集中した結果、局部的に電流密度が高く、かつ、金属材料表面のpH上昇が大きくなることにより、電着塗料が凝集し析出し易くなると考えられる。
また、凝集し析出した塗料が塗膜として融着すると、塗膜の高い抵抗により、順次、電流が抵抗の低いところに廻り、その結果、高い電着塗装付き廻り性が発現すると考えられる。
【0026】
一方、電着塗装付き廻り性が劣る、ジルコニウム系の金属表面処理液を用いた表面処理後の金属材料表面には、均一で平滑なアモルファス皮膜が形成されている。
そのため、所定の電圧を印加した際に、上述した電流の集中が起こり難いため電着塗料が凝集し難く、また、得られる塗膜自体の抵抗も低いため、電着塗装付き廻り性が劣ると考えられる。
【0027】
したがって、耐食性を担保するアモルファス皮膜中に所定の態様で半導体粒子を存在させることにより、上述したリン酸亜鉛皮膜と同様の作用(電流集中)が起こり、高い電着塗装付き廻り性も発現すると考えられる。
【0028】
また、本発明の表面処理金属材料は、塗膜密着性も良好となるため非常に有用である。
更に、本発明の金属表面処理方法によれば、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料、アルミニウム系金属材料等の幅広い金属材料に対して、環境に有害な成分を含まない金属表面処理液を使用することができ、また、表面調整工程および後処理工程を必要としないため処理工程の短縮および省スペース化を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の表面処理金属材料および本発明の金属表面処理方法(以下、単に「本発明の処理方法」という。)について詳細に説明する。
【0030】
〔本発明の表面処理金属材料〕
本発明の第1の態様に係る表面処理金属材料は、金属材料を表面処理して得られる表面処理金属材料であって、上記金属材料の表面に、アモルファス皮膜および最大平均粒径が5〜300nmの半導体粒子を含有する表面処理皮膜を有し、上記表面処理皮膜における前記半導体粒子の表面被覆率が10〜90%であり、上記半導体粒子が前記表面処理皮膜の表面から露出しており、上記半導体粒子の密度が5〜10000個/μm2である表面処理金属材料である。
【0031】
次に、図1および2を用いて本発明の第1の態様に係る表面処理金属材料を説明するが、本発明の第1の態様に係る表面処理金属材料は、これらの図面に記載された態様に限定されるものではない。
ここで、図1は、本発明の表面処理金属材料の断面構造の一例を示す模式図であり、図2は、本発明の表面処理金属材料の断面構造の他の一例を示す模式図である。
【0032】
図1および図2に示すように、本発明の表面処理金属材料30は、金属材料31の表面に、アモルファス皮膜32および半導体粒子33を含有する表面処理皮膜34を有するものである。
【0033】
<金属材料>
上記金属材料31は特に限定されないが、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料、アルミニウム系金属材料に好適に適用される。
【0034】
上記鉄系金属材料は、特に限定されないが、例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板等の鋼板;鋳鉄;焼結材;等が挙げられる。
上記亜鉛系金属材料は、特に限定されないが、例えば、亜鉛ダイキャスト、亜鉛含有めっき等が挙げられる。亜鉛含有めっきは、亜鉛または亜鉛と他の金属(例えば、ニッケル、鉄、アルミニウム、マンガン、クロム、マグネシウム、コバルト、鉛、アンチモン等の少なくとも1種との合金および不可避不純物)によりめっきされたものである。めっき方法は特に限定されず、例えば、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっき等が挙げられる。
上記アルミニウム系金属材料は、特に限定されないが、例えば、5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金等のアルミニウム合金板材;ADC−12に代表されるアルミニウム合金ダイキャスト;等が挙げられる。
【0035】
本発明においては、2種以上の金属材料を同時に表面処理することもできる。2種以上の金属材料を同時に表面処理する場合は、異種金属同士が接触しない状態で表面処理されてもよく、溶接、接着、リベット止め等の接合方法によって異種金属同士が接合接触した状態で表面処理されてもよい。
【0036】
<表面処理皮膜>
上記表面処理皮膜34は、アモルファス皮膜32中に半導体粒子33が所定の被覆率、粒子径および密度で所定の形態(露出)で存在する混合皮膜である。
本発明においては、上記表面処理皮膜34の形成方法は特に限定されないが、後述する本発明の処理方法に示すように、上記金属材料31に所定の表面処理液を接触させて、上記金属材料31の表面を化成処理して形成するのが好ましい。
【0037】
(アモルファス皮膜)
上記アモルファス皮膜32は、上記表面処理皮膜34を構成する主要成分であり、上述したように、良好な耐食性を担保している部分と考えられる。
本発明においては、上記アモルファス皮膜がZr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するのが好ましく、これらの元素を酸化物および/または水酸化物として含有するのがより好ましい。
これらのうち、ジルコニウムの酸化物および/または水酸化物であるのが、均一で緻密な皮膜構造が得られ、本発明の表面処理金属材料の耐食性がより良好となるため好ましい。
【0038】
また、本発明においては、上記アモルファス皮膜に含有する上記元素の元素換算の付着量が5〜200mg/m2であるのが好ましく、10〜100mg/m2であるのがより好ましい。
付着量がこの範囲であると、本発明の表面処理金属材料の耐食性がより良好となる。
【0039】
更に、本発明においては、上記アモルファス皮膜32の膜厚は特に限定されないが、3〜300nmであるのが好ましく、20〜200nmであるのがより好ましい。
【0040】
(半導体粒子)
上記半導体粒子33は、上記表面処理皮膜34を構成する他の主要成分であり、上述したように、良好な電着塗装付き廻り性を担保している部分と考えられる。
本発明においては、上記半導体粒子33は、電気伝導率が金属と絶縁体の中間の103〜10-10S/cm程度である物質のうち後述する粒径を有するものである。
【0041】
また、本発明においては、上記半導体粒子33は、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するのが好ましく、これらの元素を酸化物として含有するのがより好ましく、図2に示すように、これらの元素を中核35として含み周囲をその酸化物で覆われたものが更に好ましい。
なお、図2に示す中核35の有無については、X線光電子分光分析で測定することができる。
【0042】
更に、本発明においては、上記半導体粒子に含有する上記元素の元素換算の付着量が1〜100mg/m2であるのが好ましく、3〜60mg/m2であるのがより好ましい。
付着量がこの範囲であると、本発明の表面処理金属材料の電着塗装付き廻り性がより良好となる。
【0043】
本発明においては、上記半導体粒子33の最大平均粒径は5〜300nmであり、50〜200nmであるのが好ましい。
ここで、最大平均粒径とは、1μm2の測定範囲に存在する全ての粒子の最大粒径を走査型電子顕微鏡を用いて測定し、それらの測定値の平均を算出した値をいう。
【0044】
また、本発明においては、上記表面処理皮膜34における上記半導体粒子33の表面被覆率は、10〜90%であり、20〜80%であるのが好ましく、30〜70%であるのがより好ましい。
ここで、上記表面処理皮膜34における表面被覆率とは、上記表面処理皮膜34における上記半導体粒子33の存在割合ともいうことができ、本発明においては、上記表面処理金属材料30の上記表面処理皮膜34が形成された側の表面を走査型電子顕微鏡で観察して上記表面処理皮膜34および上記半導体粒子33の幾何学的測定面積を測定し、それらの比率(上記半導体粒子33/表面処理皮膜34)から算出した値をいう。なお、上記表面処理皮膜34が上記金属材料31の表面の全面に形成されている場合は、上記表面処理皮膜34における表面被覆率は、上記金属材料31の表面に対する上記半導体粒子33の被覆率と同じである。
【0045】
上記半導体粒子の最大平均粒径および表面被覆率は、上記半導体粒子を形成する元素により調節することができる。
具体的には、上記半導体粒子がTeを主成分として含有する場合、最大平均粒径を5〜100nmの範囲、および、表面被覆率を60〜90%の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子がInを主成分として含有する場合、最大平均粒径を80〜180nmの範囲、および、表面被覆率を50〜70%の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子がSnを主成分として含有する場合、最大平均粒径を120〜200nmの範囲、および、表面被覆率を40〜60%の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子Cuを主成分として含有する場合、最大平均粒径を150〜300nmの範囲、および、表面被覆率を10〜50%の範囲にすることが容易となる。
また、上記半導体粒子を種々の割合で併用することにより、最大平均粒径および表面被覆率を上記以外の範囲で適宜調節することもできる。例えば、Teを含有させることにより最大平均粒径を小さくすることができ、また、銅を含有させることにより最大平均粒径を大きくすることができる。
【0046】
また、上記半導体粒子の最大平均粒径および表面被覆率は、後述する本発明の処理液の組成、pH、温度、上記半導体粒子の濃度、後述する本発明の処理方法における処理液の接触時間でも調節することができる。
具体的には、後述する本発明の処理液に後述するキレート剤を添加することで表面被覆率を低くすることが可能である。また、後述する有機物、例えば、アミノ基含有化合物を添加することで最大平均粒径を小さくし、表面被覆率を低くすることが可能である。
また、比較的pHの高い領域(pH3.5程度以上)で処理を施すと、最大平均粒径を大きくし、表面被覆率を高くすることが可能である。
同様に、比較的高温の温度領域(40℃程度以上)で処理を施すと、最大平均粒径を大きくし、表面被覆率を高くすることが可能である。
同様に、上記半導体粒子の濃度を高くして処理を施すと、最大平均粒径を大きくし、表面被覆率を高くすることが可能である。
同様に、処理時間を長く(120秒程度以上)すると、最大平均粒径を大きくし、表面被覆率を高くすることが可能である。
【0047】
更に、上記半導体粒子の上記表面被覆率については、上記金属材料31の材料によっても調節することができる。
具体的には、上記金属材料31が鉄系金属材料である場合、上記表面被覆率は40〜60%の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記金属材料31が亜鉛系金属材料である場合、上記表面被覆率は、60〜90%の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記金属材料31がアルミニウム系金属材料である場合、上記表面被覆率は、10〜40%の範囲にすることが容易となる。
【0048】
本発明においては、上記半導体粒子33の少なくとも一部は、上記表面処理皮膜34の表面から露出した状態で存在しており、その密度は5〜10000個/μm2である。
ここで、上記半導体粒子33が上記表面処理皮膜34の表面から露出した状態で存在していることは、アモルファス皮膜32に含有する元素と半導体粒子33に含有する元素とをエネルギー分散型X線分光法で分析することで確認することができる。
また、上記密度は、上記表面処理金属材料30の上記表面処理皮膜34が形成された側の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、1μm2に存在する上記半導体粒子32の数を測定した値である。
【0049】
上記密度は、上記半導体粒子を形成する元素により調節することができる。
具体的には、上記半導体粒子がTeを主成分として含有する場合、密度を1000〜10000個/μm2の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子がSnを主成分として含有する場合、密度を100〜1000個/μm2の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子がInを主成分として含有する場合、密度を100〜500個/μm2の範囲にすることが容易となる。
同様に、上記半導体粒子Cuを主成分として含有する場合、密度を5〜100個/μm2の範囲にすることが容易となる。
また、上記半導体粒子を種々の割合で併用することにより、密度を上記以外の範囲で適宜調節することもできる。例えば、Teを含有させることにより密度を高くすることができ、また、銅を含有させることにより密度を小さくすることができる。
更に、比較的pHの高い領域(pH3.5程度以上)で処理を施すと、密度を小さくすることが可能である。
同様に、比較的高温の温度領域(40℃程度以上)で処理を施すと、密度を小さくすることが可能である。
また、上記半導体粒子の濃度を高くして処理を施すと、密度を高くすることが可能である。
同様に、処理時間を長く(120秒程度以上)すると、密度を高くすることが可能である。
【0050】
次に、本発明の第2の態様に係る表面処理金属材料は、縦150mm、横70mmの大きさで、横方向中央の下端から50mmの位置に直径8mmの穴を有する第1から第3の表面処理金属材料、および、縦150mm、横70mmの大きさの第4の表面処理金属材料を、それぞれ平行にこの順で20mmの間隔をおいて設置し、
上記第1から第4の各表面処理金属材料を下端から95mmの位置まで電着塗装浴に浸漬し、
上記第1表面処理金属材料の上記第2表面処理金属材料が設置されていない側の面側に対極を設置して下記(a)〜(c)の条件で電着塗装を施し、
上記第1表面処理金属材料の上記対極側の面(A面)および上記第4表面処理金属材料の上記対極側の面(G面)の塗膜厚の比(A/G)を3.0以下とすることができる、表面処理金属材料である。
(a)電着塗料温度:28℃
(b)電解条件:30秒かけて0Vから230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加した後150秒間230Vで保持
(c)焼成条件:170℃、20分間
【0051】
次に、図4を用いて本発明の第2の態様に係る表面処理金属材料を説明する。
図4は、電着塗装の付き廻り性試験(4枚ボックス試験)に使用するボックスの見取り図である。
【0052】
図4に示すように、4枚ボックス1の組み立ては、まず、縦150mm、横70mmの大きさで、横方向中央の下端から50mmの位置に直径8mmの穴を有する第1から第3の表面処理金属材料12〜14、および、縦150mm、横70mmの大きさの第4の表面処理金属材料15を、それぞれ平行にこの順で20mmの間隔をおいて設置した。
次いで、表面処理金属材料12〜15の両側面および下面を塩ビ板21〜23にて塞ぎ、塩ビ板21〜23と表面処理金属材料12〜15を粘着テープによって固定し、4枚ボックス1を組み立てた。
なお、4枚ボックス1では、第1から第4の4枚の表面処理金属材料12〜15は、同種の金属材料に同様の表面処理を施したものを用いているが、表面未処理状態の金属材料を用いて同様に組み立てたボックスに対して表面処理を施したものであってもよい。
【0053】
また、対極(図示せず)は片面を絶縁テープでシールしたステンレス鋼板(SUS304)70×150×0.55mmを用い、電着塗料の液面は表面処理金属材料12〜15と対極が95mm浸漬される位置に制御した。
【0054】
電着塗装は、上記(a)〜(c)に示すように、電着塗料の温度を28℃に保持し、スターラーにて撹拌した状態で行った。4枚の表面処理金属材料12〜15の全てを短絡させた上で、対極を陽極として整流器にて陰極電解法により塗膜を電解析出させた。また、電解は、30秒かけて0Vから230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加し、その後150秒間230Vを保持して行った。
電解後、それぞれの表面処理金属材料12〜15を水洗し、170℃で20分間焼き付け、塗膜を形成させた。対極に一番近い表面処理金属材料12の対極側をA面、対極に一番遠い表面処理金属材料15の対極側をG面とし、A面とG面の塗膜厚を測定し、A/Gの比率を算出した。
【0055】
本発明の第2の態様に係る表面処理金属材料は、上記塗膜厚の比(A/G)が3.0以下となるものである。
ここで、少なくとも上述した本発明の第1の態様に係る表面処理金属材料は、上記塗膜厚の比(A/G)が3.0以下となるものであるが、本発明者は、第1の態様によらず、上記塗膜厚の比(A/G)が3.0以下となるものであれば、耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れる表面処理金属材料となることを見出した。
【0056】
〔本発明の処理方法〕
本発明の処理方法は、金属材料に、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有する表面処理液(以下、形式的に「本発明の処理液」という。)を流速1〜10cm/秒で接触させて、上述した本発明の表面処理金属材料を得る金属表面処理方法である。
ここで、流速とは、金属材料の表面に接触させる表面処理液の流速をいうが、例えば、浸漬処理による場合は浸漬させる際の速度により調節することができる。
具体的には、本発明の処理液を循環させるポンプや、被処理体である金属材料を揺動させることにより、接触界面の表面処理液の速度を調整することができる。
【0057】
<金属材料>
上記金属材料としては、上述したように、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料、アルミニウム系金属材料が好適に例示される。
また、上記金属材料は、本発明の処理液を接触させる表面を予め清浄し、磨耗や成形などにより生じる金属粉や、油や汚れ等を除去しておくことが望ましい。
清浄する方法は特に限定されず、脱脂処理、アルカリ洗浄等の従来公知の方法を用いることができる。
【0058】
<接触方法>
上記金属材料に本発明の処理液を接触させる方法は、表面処理液の流速が流速1〜10cm/秒の範囲内であれば特に限定されず、例えば、浸せき処理が挙げられる。
ここで、接触させる際の本発明の処理液の温度(処理温度)は30〜60℃であるが好ましい。
また、接触させる時間は、金属材料の材質や構造、本発明の処理液の濃度、処理温度にもよるが、概ね2〜600秒程度であるのが好ましい。例えば、自動車車体に代表される複雑構造物の場合には、袋構造物内部の液置換が必要なため、30〜120秒間接触させるのが好ましい。
【0059】
本発明の処理方法により表面処理された金属材料は、耐食性および電着塗装付き廻り性に優れた上述した表面処理皮膜が形成される。
これは、表面処理液の流速が1〜10cm/秒であることにより、本発明の処理液と金属材料との界面におけるpHを比較的高めの範囲(3.5以上)に維持することができ、それによりこの界面で生起するエッチング反応が穏やかに進行するためであると考えられる。
また、表面処理皮膜が形成された後に、必要に応じて水洗や脱イオン水洗がなされた後に、乾燥させることなく電着塗装に供することができる。
【0060】
<本発明の処理液>
本発明の処理液は、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有する表面処理液である。
【0061】
また、本発明の処理液は、耐食性および電着塗装付き廻り性をより向上させる観点から、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜10000ppm含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜5000ppm含有するのが好ましい。
【0062】
本発明においては、均一で緻密なアモルファス皮膜を析出させる観点から、本発明の処理液が含有するZrが、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸およびフルオロジルコニウム錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
これらのうち、フルオロジルコニウム酸およびフルオロジルコニウム錯塩であるのが、本発明の処理液の安定性を高める理由からより好ましい。
【0063】
同様に、均一で緻密なアモルファス皮膜を析出させる観点から、本発明の処理液が含有するTiが、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸およびフルオロチタン錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
これらのうち、フルオロチタン酸およびフルオロチタン錯塩であるのが、本発明の処理液の安定性を高める理由からより好ましい。
【0064】
また、上記半導体粒子を上記表面処理皮膜の表面から均一に露出させ分散させやすくなる観点から、本発明の処理液が含有するSnが、硝酸スズ、硫酸スズおよびフッ化スズからなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
【0065】
同様に、上記半導体粒子を上記表面処理皮膜の表面から均一に露出させ分散させやすくなる観点から、本発明の処理液が含有するInが、硝酸インジウム、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、フッ化インジウム、酸化インジウムおよび水酸化インジウムからなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
【0066】
同様に、上記半導体粒子を上記表面処理皮膜の表面から均一に露出させ分散させやすくなる観点から、本発明の処理液が含有するTeが、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウムおよび二酸化テルルからなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
【0067】
同様に、上記半導体粒子を上記表面処理皮膜の表面から均一に露出させ分散させやすくなる観点から、本発明の処理液が含有するCuが、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、酸化銅、酢酸銅、水酸化銅、フッ化銅および硫化銅からなる群から選択される少なくとも1種として含有しているのが好ましい。
【0068】
(フッ素化合物)
本発明においては、本発明の処理液と金属材料との界面で生起するエッチング反応を促進させる観点から、本発明の処理液がフッ素化合物を含有するのが好ましい。
フッ素化合物としては、具体的には、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ゲルマニウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化鉄、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
また、同様の観点から、本発明の処理液が、フッ素化合物とともに、比較的に還元されやすいイオンを含有するのが好ましい。
更に、同様の観点から、本発明の処理液に酸化性物質、例えば、硝酸イオンを共存させて、比較的高めのpH範囲(3.5以上)で処理するのが好ましい。
これは、高めのpHでは、本発明の処理液と金属材料との界面で生起するエッチング反応が穏やかに進行することになり、アモルファス皮膜が生成されやすくなる。また、このエッチング反応に伴う電子放出により、SnやCuの還元が生じ、表面に金属核ができる形となる。すなわち、エッチング反応を抑制し、酸化性物質を共存させることにより、アモルファス皮膜の成長、金属核の周囲での酸化物や水酸化物質の成長が進行するため、図2に示す断面構造の表面処理金属材料を得ることができる。
【0070】
(金属イオン)
また、本発明においては、本発明の処理液が、表面処理の連続操業中に、金属材料から溶出する金属イオンを含有しても問題とならない。
具体的には、本発明の処理液と金属材料との界面で生起するエッチング反応にて溶出する金属イオン、例えば、Fe、Zn、Al等が含有することになるが、ZrやSn等の含有量が上述した範囲に制御することにより、スラッジ発生等の問題を抑制することができる。
また、積極的には金属イオンを添加し、その金属を共析させることで更に耐食性を向上させることができる場合もある。例えば、Mg、Si、Ca、V、Mn、Co、Ni、Y、Ag、Ba、BiおよびCe等の多価の金属イオンを添加することができる。
【0071】
(金属キレート剤)
更に、本発明においては、本発明の処理液が金属キレート剤を含有するのが好ましい。
金属キレート剤は、基本的に本発明の処理液の安定性を高める効果を有する。
特に、本発明の金属処理方法における処理液接触工程の前工程(例えば、脱脂等)からの液の持ち込みが多い場合(例えば、水洗工程や水量が不足がちなライン等)には、pHが上昇傾向にあり処理液の安定性が損なわれる場合がある。
そのため、このような場合に金属キレート剤を含有するのが好ましい。
【0072】
上記金属キレート剤としては、具体的には、例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、有機フォスフォン酸、ニトリロ2酢酸(NTA)、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、ヒドロシエチレンジアミン3酢酸(HEDTA)、これらの塩類等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、ZrやSn等の析出、すなわち、上述した表面処理皮膜の形成に影響のない、リンゴ酸、マロン酸、有機フォスフォン酸、HEDTA、これらの塩類であるのが好ましい。
【0073】
本発明においては、上記キレート剤の含有量が、5〜5000mg/Lであるのが好ましく、10〜1000mg/Lであるのがより好ましい。
【0074】
(その他の有機物)
本発明の処理液は、耐食性をより向上させ、塗料密着性を向上させる観点から、本発明の目的を損なわない範囲で、樹脂等の有機物を添加することも可能である。
有機物としては、具体的には、例えば、アミノ基含有化合物(例えば、ビニルアミン、ポリビニルアミン、アリルアミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等)、ビニルアルコール、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂、ポリエステル、アクリル酸、ポリアクリル酸、フェノール、ポリフェノール、ビスフェノール、糖類およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0075】
本発明の処理液のpHは、2.0〜6.0であるのが好ましく、2.5〜5.0であるのがより好ましく、3.0〜4.5であるのが更に好ましい。
pHがこの範囲であると、ZrやSn等の析出効率が良好となり、また、表面処理の連続操業時のスラッジの発生を抑制することができる。
【0076】
本発明においては、処理液のpHを調整する必要がある場合、用いられる薬剤は特に限定されない。
このような薬剤としては、具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウ酸、有機酸等の酸;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア水、炭酸水素アンモニウム、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリが挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0078】
まず、金属材料、金属材料の表面処理方法における清浄化および処理液の接触ならびにその後の電着塗装について説明する。
なお、各金属表面処理用処理液の調製および各金属表面処理用処理液を用いた表面処理後の各金属材料の各種試験方法(評価方法)については後述し、各種試験方法(評価方法)の結果は下記第1表〜第3表に示す。
【0079】
〔金属材料〕
金属材料としては、冷延鋼板(サイズ:70×150×0.8mm、商品名:SPCC(JIS 3141)、パルテック社製)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(サイズ:70×150×0.8mm、商品名:SGCC F06 MO(JIS G3302)、パルテック社製)、および、アルミニウム合金板(サイズ:70×150×1.0mm、商品名:A5052P(JIS 4000)、パルテック社製)の3種を用いた。
以下、冷延鋼板を「SPC」、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を「GA」、アルミニウム合金板を「AL」と略記する。
【0080】
〔清浄化〕
脱脂剤(商品名:ファインクリーナーE2001(A剤13g/L、B剤7g/L)、日本パーカライジング社製)を使用して、液温40℃で120秒間スプレーすることにより各金属材料の表面を脱脂した。
その後、30秒間スプレー水洗した。
なお、電着塗装付き廻り性の評価に用いた後述するボックスについては、上記と同様の脱脂剤を用いて、液温40℃で180秒間浸漬させて脱脂した。また、この場合の水洗も60秒間浸漬させ、よく揺動させて行った。
【0081】
〔処理液接触〕
後述する組成の各金属表面処理用処理液を調製し、pH等の安定度合いや沈殿等の発生を確認するために所定の温度で1時間攪拌した後に放置し、処理液の外観(初期外観)を観察した。
その後、以下の表面処理条件1または2により、各金属材料および後述するボックスの表面処理を行った。
表面処理後、各金属材料の表面を水道水を用いて常温下で30秒間水洗し、更に常温下で30秒間脱イオン水洗した。
【0082】
<表面処理条件1>
(1)処理温度:35℃
(2)処理時間:90秒
(3)接触方法:浸漬
(4)接触時流速:10cm/秒
<表面処理条件2>
(1)処理温度:40℃
(2)処理時間:90秒
(3)接触方法:浸漬
(4)接触時流速:2cm/秒
【0083】
〔電着塗装〕
上述した脱イオン水洗後、乾燥していない金属材料に、電着塗料(商品名:GT-10HT、関西ペイント社製)を用い、180秒間定電圧陰極電解を施し、塗膜を析出させた。
その後、水洗し、170℃で20分間加熱焼き付けすることにより電着塗装を施し、塗膜を形成した。電圧の制御により塗膜の膜厚を20μmに調整した。
【0084】
(実施例1)
金属表面処理用処理液1を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液1の調製は、まず、下記成分(A)〜(C)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.5に調整し、金属表面処理用処理液1を得た。
また、金属表面処理用処理液1を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0085】
<金属表面処理用処理液1>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)硝酸銅:Cuとして30ppm
(C)硝酸亜鉛:Znとして500ppm
【0086】
(実施例2)
金属表面処理用処理液2を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液2の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(40℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.0に調整し、金属表面処理用処理液2を得た。
また、金属表面処理用処理液2を用いた表面処理は、上述した表面処理条件2により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0087】
<金属表面処理用処理液2>
(A)フルオロチタニウム酸:Tiとして50ppm
(B)亜テルル酸カリウム:Teとして50ppm
(C)硝酸亜鉛:Znとして200ppm
(D)硝酸アルミニウム:Alとして20ppm
【0088】
(実施例3)
金属表面処理用処理液3を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液3の調製は、まず、下記成分(A)〜(F)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、金属表面処理用処理液3を得た。
また、金属表面処理用処理液3を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0089】
<金属表面処理用処理液3>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして300ppm
(B)硝酸チタニウム:Tiとして50ppm
(C)硝酸銅:Cuとして10ppm
(D)硝酸アルミニウム:Alとして200ppm
(E)硝酸亜鉛:Znとして2000ppm
(F)硫酸第一鉄:Feとして100ppm
【0090】
(実施例4)
金属表面処理用処理液4を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液4の調製は、まず、下記成分(A)〜(E)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.5に調整し、金属表面処理用処理液4を得た。
また、金属表面処理用処理液4を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0091】
<金属表面処理用処理液4>
(A)フルオロチタニウム酸:Tiとして100ppm
(B)硝酸ジルコニウム:Zrとして100ppm
(C)塩化錫:Snとして20ppm
(D)硝酸亜鉛:Znとして500ppm
(E)硝酸アルミニウム:Alとして10ppm
【0092】
(実施例5)
金属表面処理用処理液5を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液5の調製は、まず、下記成分(A)〜(E)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(40℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、金属表面処理用処理液5を得た。
また、金属表面処理用処理液5を用いた表面処理は、上述した表面処理条件2により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0093】
<金属表面処理用処理液5>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)塩基性炭酸銅:Cuとして50ppm
(C)硝酸亜鉛:Znとして500ppm
(D)硝酸アルミ:Alとして20ppm
(E)コロイダルシリカ(スノーテックスO、日産化学社製):200ppm
【0094】
(実施例6)
金属表面処理用処理液6を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液6の調製は、まず、下記成分(A)〜(E)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、金属表面処理用処理液6を得た。
また、金属表面処理用処理液6を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0095】
<金属表面処理用処理液6>
(A)フルオロチタニウム酸:Tiとして100ppm
(B)硝酸インジウム:Inとして20ppm
(C)硝酸銅:Cuとして30ppm
(D)硝酸亜鉛:亜鉛として2000ppm
(E)硫酸第一鉄:Feとして50ppm
【0096】
(実施例7)
金属表面処理用処理液7を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液7の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、金属表面処理用処理液7を得た。
また、金属表面処理用処理液7を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0097】
<金属表面処理用処理液7>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして200ppm
(B)硝酸銅:Cuとして20ppm
(C)硝酸亜鉛:Znとして2000ppm
(D)ジアリルアミン塩重合体(PAS‐20CL、日東紡社製):50ppm
【0098】
(実施例8)
金属表面処理用処理液8を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液8の調製は、まず、下記成分(A)〜(C)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.0に調整し、金属表面処理用処理液8を得た。
また、金属表面処理用処理液8を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0099】
<金属表面処理用処理液8>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして200ppm
(B)テルル酸ナトリウム:Teとして50ppm
(C)ジアリルジメチルアンモニウム塩重合体(PAS−H1L、日東紡社製):50ppm
【0100】
(実施例9)
金属表面処理用処理液9を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液9の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.5に調整し、金属表面処理用処理液9を得た。
また、金属表面処理用処理液9を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0101】
<金属表面処理用処理液9>
(A)フルオロチタニウム酸:Tiとして100ppm
(B)塩基性炭酸銅:Cuとして50ppm
(C)エチレンジアミン四酢酸ナトリウム:50ppm
(D)タンニン酸:100ppm
【0102】
(実施例10)
金属表面処理用処理液10を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液10の調製は、まず、下記成分(A)〜(C)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.5に調整し、金属表面処理用処理液10を得た。
また、金属表面処理用処理液10を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0103】
<金属表面処理用処理液10>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)亜テルル酸カリウム:Teとして50ppm
(C)ニトリロ三酢酸ナトリウム:100ppm
【0104】
(実施例11)
金属表面処理用処理液11を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液11の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを4.0に調整し、金属表面処理用処理液11を得た。
また、金属表面処理用処理液11を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0105】
<金属表面処理用処理液11>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)フルオロチタニウム酸:Tiとして20ppm
(C)硝酸銅:Cuとして50ppm
(D)γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン:100ppm
【0106】
(実施例12)
金属表面処理用処理液12を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液12の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.0に調整し、金属表面処理用処理液12を得た。
また、金属表面処理用処理液12を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0107】
<金属表面処理用処理液12>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)亜テルル酸ナトリウム:Teとして50ppm
(C)硝酸銅:Cuとして20ppm
(D)ポリエチレンイミン(SP‐006、日本触媒社製):20ppm
【0108】
(比較例1)
金属表面処理用処理液13を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液13の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.5に調整し、金属表面処理用処理液13を得た。
また、金属表面処理用処理液13を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0109】
<金属表面処理用処理液13>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)硝酸チタニウム:Tiとして100ppm
(C)硝酸亜鉛:Znとして2000ppm
(D)硝酸アルミニウム:Alとして200ppm
【0110】
(比較例2)
金属表面処理用処理液14を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液14の調製は、まず、下記成分(A)および(B)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(40℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを3.5に調整し、金属表面処理用処理液14を得た。
また、金属表面処理用処理液14を用いた表面処理は、上述した表面処理条件2により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0111】
<金属表面処理用処理液14>
(A)硝酸ジルコニウム:Zrとして1000ppm
(B)硝酸マグネシウム:Mgとして2000ppm
【0112】
(比較例3)
金属表面処理用処理液15を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液15の調製は、まず、下記成分(A)を下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(40℃)に加温し、硝酸水を用いてpHを7.0に調整し、金属表面処理用処理液15を得た。
また、金属表面処理用処理液15を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗いすることなく乾燥させた後に電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0113】
<金属表面処理用処理液15>
(A)亜テルル酸ナトリウム:Teとして2000ppm
【0114】
(比較例4)
金属表面処理用処理液16を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液16の調製は、まず、下記成分(A)〜(D)をこの順に下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、アンモニア水を用いてpHを7.0に調整し、金属表面処理用処理液16を得た。
また、金属表面処理用処理液16を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0115】
<金属表面処理用処理液16>
(A)フルオロジルコニウム酸:Zrとして100ppm
(B)亜テルル酸ナトリウム:Teとして50ppm
(C)コロイダルシリカ(スノーテックスC、日産化学社製):200ppm
(D)硝酸亜鉛:Znとして2000ppm
【0116】
(比較例5)
金属表面処理用処理液13を用いて、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
金属表面処理用処理液13を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った後に、更に0.1%の微粒子酸化スズの分散液を塗布し、乾燥させることにより行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0117】
(比較例6)
上述した金属表面処理用処理液12および14を用いし、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
まず、金属表面処理用処理液12を用いた表面処理を上述した表面処理条件2により行い、銅およびテルルを粒子状に析出させた。
次いで、金属表面処理用処理液14を用いて、以下の条件で表面処理を行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗いすることなく乾燥させた後に電着塗装を行い、塗膜を形成した。
(1)処理温度:50℃
(2)処理時間:300秒
(3)接触方法:浸漬
(4)接触時流速:5cm/秒
【0118】
(比較例7)
金属表面処理用処理液17を調製し、上述した方法で清浄化した3種の金属材料および後述のボックスの表面処理を行い、表面処理皮膜層を形成した。
ここで、金属表面処理用処理液17の調製は、まず、下記成分(A)を下記濃度となるように添加し、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度(35℃)に加温し、pHを調整せずに、pH8.0の金属表面処理用処理液17を得た。
また、金属表面処理用処理液17を用いた表面処理は、上述した表面処理条件1により行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗いすることなく乾燥させた後に電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0119】
<金属表面処理用処理液17>
(A)ジルコニアゾル(ZR‐40BL、日産化学社製):1000ppm
【0120】
(比較例8)
リン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド(登録商標)L3020、日本パーカライジング社製)の5%水溶液を用いて、以下の条件で表面処理を行った。
その後、上述した方法で、表面処理後の金属材料を水洗いすることなく乾燥させた後に電着塗装を行い、塗膜を形成した。
(1)処理温度:35℃
(2)処理時間:120秒
(3)接触方法:浸漬
(4)接触時流速:10cm/秒
【0121】
〔表面処理後の金属付着量〕
表面処理後の表面処理金属材料における金属付着量(mg/m2)を蛍光X線分析装置(ZSX Primus、リガク社製)にて定量した。
測定に供した金属材料は表面処理後に水洗し、脱イオン水洗し、これを冷風乾燥したものを用いた。
【0122】
〔表面処理皮膜の表面状態〕
電界放射型走査電子顕微鏡(S-4700-TYPEII、日立製作所社製)を用いて、表面処理後の表面処理金属材料の表面分析を行い、表面処理皮膜(アモルファス皮膜)中の半導体粒子の最大平均粒径、表面被覆率および密度を測定した。
図3に、比較例1、実施例1および実施例2で測定した表面処理皮膜のSEM画像を示す。
また、X線光電子分光分析(ESCA-850M、島津製作所社製)により、半導体粒子における金属と酸化物(水酸化物)の比率を測定した。
なお、下記第1表〜第3表中、比較例4では、半導体粒子が確認できなかったため最大平均粒径を「なし」と記載し、比較例5では、アモルファス皮膜の上に半導体粒子が形成されていたため被覆率を「皮膜上 90%超」と記載し、比較例6では、アモルファス皮膜の中に半導体粒子が隠れていたため被覆率を「隠蔽」と記載している。
【0123】
〔電着塗膜の膜厚〕
電着塗装後の金属材料の塗膜の膜厚を、金属材料がSPCまたはGAの場合は電磁式膜厚計(LZ−200、ケット科学研究所社製)、金属材料がALの場合は渦電流式膜厚計を用いて測定し、20μmであることを確認した。
【0124】
〔塗料密着性(密着性)〕
電着塗装した金属材料の塗装面を、枡目が100個となるように碁盤目にカットした。
次いで、沸騰水に1時間浸漬させた後、水をワイピングし、テープ剥離を行った。
塗料密着性は、剥離後の碁盤目の状態を観察し、剥離しなかった枡目数で評価した。100個に近いほど塗料密着性に優れると評価できる。
【0125】
〔耐食性〕
電着塗装した金属材料の塗装面にクロスカットを施し、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を行い、1000時間後のクロスカット部の片側膨れ幅を測定した。
一般に、冷延鋼板では3mm以下であれば良好、合金化亜鉛めっき鋼板では3mm以下であれば良好、アルミニウム合金板では2mm以下であれば良好と評価できる。
【0126】
〔電着塗装付き廻り性〕
図4は、電着塗装の付き廻り性試験(4枚ボックス試験)に使用するボックスの見取り図である。
図4に示すように、同種の金属板12〜15を4枚用意し、その内の金属板12〜14の3枚に直径8mmの穴10を開けた。穴10の位置は横方向中央、下端から50mmとした。
4枚の金属板12〜15を図4に示すようにそれぞれ20mmのクリアランスを取って組み付けた。
金属板12〜15の両側面および下面を塩ビ板21〜23にて塞ぎ、塩ビ板21〜23と金属板12〜15を粘着テープによって固定し、4枚ボックス1を組み立てた。
【0127】
この組み立てたボックスに対して、上述した各実験例で示す表面処理を施し、乾燥なしで電着塗装を行った。
ここで、対極は片面を絶縁テープでシールしたステンレス鋼板(SUS304)70×150×0.55mmを用いた。また、電着塗料の液面は金属板12〜15と対極が90mm浸漬される位置に制御した。
電着塗装は、電着塗料の温度を28℃に保持し、スターラーにて撹拌した状態で行った。4枚の金属板12〜15の全てを短絡させた上で、対極を陽極として整流器にて陰極電解法により塗膜を電解析出させた。また、電解は、30秒かけて0Vから230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加し、その後150秒間230Vを保持して行った。
電解後、それぞれの金属板12〜15を水洗し、170℃で20分間焼き付け、塗膜を形成させた。対極に一番近い金属板12の対極側をA面、対極に一番遠い金属板15の対極側をG面とし、A面とG面の塗膜厚を測定し、A/Gの比率を電着塗装の付き廻り性の指標とした。
ここで、4枚ボックス試験における塗膜の膜厚は、金属材料がSPCまたはGAの場合は電磁式膜厚計(LZ−200、ケット科学研究所社製)、金属材料がALの場合は渦電流式膜厚計を用いて測定した。
本塗料では、G面塗膜膜厚は7μm以上であることが好ましく、A/Gの比が2.0〜2.5が良好と判断される。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
上記第1表〜第3表に示す結果から、アモルファス皮膜中に所定の被覆率、粒子径および密度で所定の形態(露出)で半導体粒子が存在する表面処理皮膜を有する表面処理金属材料(実施例1〜12)は、耐食性および電着塗装付き廻り性のいずれにも優れ、塗料密着性にも優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、本発明の表面処理金属材料の断面構造の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の表面処理金属材料の断面構造の他の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、比較例1、実施例1および実施例2で測定した表面処理皮膜のSEM画像である。
【図4】図4は、電着塗装の付き廻り性試験(4枚ボックス試験)に使用するボックスの見取り図である。
【符号の説明】
【0133】
1 ボックス
10 穴
12 試験板(塗装後の金属板)No.1(外側:A面)
13 試験板(塗装後の金属板)No.2
14 試験板(塗装後の金属板)No.3
15 試験板(塗装後の金属板)No.4(内側:G面)
21 側面仕切板
22 側面仕切板
23 底面仕切板
30 表面処理金属材料
31 金属材料
32 アモルファス皮膜
33 半導体粒子
34 表面処理皮膜
35 中核

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を表面処理して得られる表面処理金属材料であって、
前記金属材料の表面に、アモルファス皮膜および最大平均粒径が5〜300nmの半導体粒子を含有する表面処理皮膜を有し、
前記表面処理皮膜における前記半導体粒子の表面被覆率が10〜90%であり、
前記半導体粒子が前記表面処理皮膜の表面から露出しており、
前記半導体粒子の密度が5〜10000個/μm2である表面処理金属材料。
【請求項2】
前記アモルファス皮膜がZr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有し、
前記半導体粒子がSn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する請求項1に記載の表面処理金属材料。
【請求項3】
前記アモルファス皮膜に含有する前記元素の元素換算の付着量が5〜200mg/m2であり、
前記半導体粒子に含有する前記元素の元素換算の付着量が1〜100mg/m2である請求項2に記載の表面処理金属材料。
【請求項4】
前記金属材料が、鉄系金属材料、亜鉛系金属材料およびアルミニウム系金属材料からなる群から選択される少なくとも1種の金属材料である請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理金属材料。
【請求項5】
縦150mm、横70mmの大きさで、横方向中央の下端から50mmの位置に直径8mmの穴を有する第1から第3の表面処理金属材料、および、縦150mm、横70mmの大きさの第4の表面処理金属材料を、それぞれ平行にこの順で20mmの間隔をおいて設置し、
前記第1から第4の各表面処理金属材料を下端から95mmの位置まで電着塗装浴に浸漬し、
前記第1表面処理金属材料の前記第2表面処理金属材料が設置されていない側の面側に対極を設置して下記(a)〜(c)の条件で電着塗装を施し、
前記第1表面処理金属材料の前記対極側の面(A面)および前記第4表面処理金属材料の前記対極側の面(G面)の塗膜厚の比(A/G)を3.0以下とすることができる、表面処理金属材料。
(a)電着塗料温度:28℃
(b)電解条件:30秒かけて0Vから230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加した後150秒間230Vで保持
(c)焼成条件:170℃、20分間
【請求項6】
金属材料に、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含有する表面処理液を流速1〜10cm/秒で接触させて、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理金属材料を得る金属表面処理方法。
【請求項7】
前記表面処理液が、Zr、TiおよびHfからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜10000ppm含有し、かつ、Sn、In、TeおよびCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を1〜5000ppm含有し、pHが2.0〜6.0である請求項6に記載の金属表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理液が含有するZrが、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸およびフルオロジルコニウム錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6または7に記載の金属表面処理方法。
【請求項9】
前記表面処理液が含有するTiが、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸およびフルオロチタン錯塩からなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6〜8のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【請求項10】
前記表面処理液が含有するSnが、硝酸スズ、硫酸スズおよびフッ化スズからなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6〜9のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【請求項11】
前記表面処理液が含有するInが、硝酸インジウム、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、フッ化インジウム、酸化インジウムおよび水酸化インジウムからなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6〜10のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【請求項12】
前記表面処理液が含有するTeが、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウムおよび二酸化テルルからなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6〜11のいずれかに記載の金属表面処理方法。
【請求項13】
前記表面処理液が含有するCuが、硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、炭酸銅、塩基性炭酸銅、酸化銅、酢酸銅、水酸化銅、フッ化銅および硫化銅からなる群から選択される少なくとも1種として含有している請求項6〜12のいずれかに記載の金属表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−163641(P2010−163641A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5088(P2009−5088)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】