説明

表面処理金属酸化物粉末の製造方法

【課題】 アミノアルキルアルコキシシラン及び、ヘキサメチルジシラザンで表面処理された表面処理金属酸化物の製造において、アミノアルキルアルコキシシラン由来の凝集物の副生が抑制された表面処理金属酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 乾式法で製造された金属酸化物粉末に、非希釈状態のアミノアルキルアルコキシシランの添加する際、アミノアルキルアルコキシシランの添加量を使用する金属酸化物粉末の比表面積に応じて、適宜調整すると共に、金属酸化物粉末を205〜245℃に保持した状態で実施することに、アミノアルキルアルコキシシラン由来の凝集物の副生が抑制された表面処理金属酸化物の製造が可能とある。また、得られる表面処理金属酸化物は、プラスに帯電する性質を有しており、プラスに帯電させることが必要なトナー用樹脂粒子の外添剤として、極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な表面処理金属酸化物の製造方法に関する。詳しくは、乾式法で製造された金属酸化物粉末を非希釈のアミノシランカップリング剤で表面処理するに際し、凝集物の少ない表面処理金属酸化物を得る方法を提供するものである。得られた表面処理金属酸化物は、表面がプラスに帯電する性質が付与されており、例えば電子写真用トナー外添剤(以下、外添剤ともいう。)として有用である。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザープリンター等の電子写真技術において現像剤に使用されるトナーには、流動性の付与や帯電効率の向上、帯電量の制御等を目的として、トナー用樹脂粒子の表面に付着せしめて上記表面特性を調整するために、外添剤が一般的に使用されている。
【0003】
外添剤は、マイナスに帯電する性質を付与されたもの、又はプラスに帯電する性質を付与されたものの2つに大別される。金属酸化物の中でも、一般的に使用される外添剤であるシリカは、マイナスに帯電する性質を有しており、プラスに帯電する性質を付与された金属酸化物を製造するには、アミノアルキルアルコキシシランの如き処理剤で表面処理してアミノ基を付与する処理が成されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、アミノアルキルアルコキシシランをシリカ表面に均一に分散させるため、溶媒で希釈したアミノアルキルアルコキシシランを使用している。また、シリカと溶媒で希釈したアミノアルキルアルコキシシランを混合した後に、100℃以上の温度で反応を行っている。しかし、アミノアルキルアルコキシシランを溶媒で希釈して用いると、不経済であると共に、後処理で大量の溶媒を除去する必要があり、製造上、操作が面倒となる。更に、シリカとアミノアルキルアルコキシシランを混合した後に昇温し、100℃以上の温度に昇温する方法では、反応時間が長くなり不経済である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−185405号公報
【特許文献2】特開2001−281914号公報
【特許文献3】特開2005−037909号公報
【特許文献4】特開2006−096641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、所定の反応温度まで加熱、保持したシリカに、非希釈のアミノアルキルアルコキシシランを添加して処理する方法が考えられるが、本発明者らの検討によれば、アミノアルキルアルコキシシランを溶剤で希釈しない状態で用いると、高温領域の反応ではアミノアルキルアルコキシシランが分解した凝集物が副生し、低温領域の反応ではアミノアルキルアルコキシシランがシリカ表面に均一に分散されず、凝集した表面処理シリカが副生するという問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、トナー用樹脂の外添剤として有用なアミノアルキルアルコキシシランで表面処理された表面処理金属酸化物の製造において、アミノアルキルアルコキシシラン由来の凝集物の副生が抑制された表面処理金属酸化物の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記技術的課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、乾式法で製造された金属酸化物粉末に、非希釈状態のアミノアルキルアルコキシシランの添加する際、アミノアルキルアルコキシシランの添加量を使用する金属酸化物粉末の比表面積に応じて、適宜調整すると共に、金属酸化物粉末を205〜245℃に保持した状態で実施することにより前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
金属酸化物粉末をアミノアルキルアルコキシシラン、更にヘキサメチルジシラザンで表面処理して得られた表面処理金属酸化物粉末は、アミノ基の導入によりプラスの帯電を付与されている。
【0010】
即ち、本発明によれば、乾式法で製造された金属酸化物粉末に対して、非希釈状態のアミノアルキルアルコキシシランを添加する工程、及び該添加終了後にヘキサメチルジシラザンを添加する工程を有する表面処理金属酸化物粉末の製造方法であって、
(1)アミノアルキルアルコキシシランの添加量を、用いるアミノアルキルアルコキシシランの最小被覆面積と金属酸化物粉末の比表面積とから下記式により算出される理論添加量の0.2〜0.5倍とし、
理論添加量(g)=金属酸化物粉末の量(g)×金属酸化物粉末の比表面積(m/g)/最小被覆面積(m/g)
且つ、
(2)アミノアルキルアルコキシシランの金属酸化物粉末への添加を、該金属酸化物粉末が205〜245℃の範囲の温度に保持された状態で行う
ことを特徴とする前記表面処理金属酸化物粉末の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理金属酸化物の製造方法は、予め所定の反応温度まで加熱、保持した状態の乾式法で製造された金属酸化物粉末を原料として使用すると共に、非希釈のアミノアルキルアルコキシシランを使用するため、反応時間が短く、後処理工程も簡便で、経済的な製造方法である。また、反応温度とアミノアルキルアルコキシシランの添加量を適宜調整することで、アミノアルキルアルコキシシラン由来の凝集物の副生が抑制されているというメリットも合わせ持っている。
【0012】
従って、本発明の製造法は、プラスに帯電させることが必要なトナー用樹脂粒子の外添剤の製造方法として、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法では、原料として乾式法で製造された金属酸化物粉末を使用する。本発明で原料として使用する金属酸化物粉末を具体的に例示すると、シリカ、チタニア、アルミナ等を挙げることができる。トナー用外添剤としては、シリカが汎用的に使用されており、シリカを使用するのが好ましい。以下、シリカを例に挙げて説明する。乾式法によりシリカを製造する方法としては、火炎加水分解法やアーク法、プラズマ法、溶融法等が挙げられる。なお、火炎加水分解法では、ケイ素化合物、特にケイ素のハロゲン化物、一般的には、ケイ素の塩化物、通常は精製した四塩化ケイ素を酸水素火炎中で燃焼して製造され、このようにして得られたシリカは通常、ヒュームドシリカと呼ばれる。本発明では、ヒュームドシリカを原料として使用した場合、トナーに対する流動性付与特性が優れるため好ましい。
【0014】
他方、液体媒体中で調製される所謂湿式シリカ(代表的にはケイ酸ソーダと鉱酸とから調製される)等の金属酸化物では、含有する水分量が多いという観点から好ましくない。
【0015】
上記ヒュームドシリカの中でも、窒素吸着量によるBET1点法で測定される比表面積が50〜500m/gのものが、トナーに外添した際に、流動性付与特性が優れるため好ましい。特に50〜380m/gのものは、汎用品として入手可能であり、好ましい。
【0016】
また本発明では、後述するとおり上記乾式法で製造された金属酸化物粉末に対し、アミノアルキルアルコキシシラン、ついでヘキサメチルジシラザンを添加して処理する。これらの処理剤は金属酸化物表面のM−OH基(Mは金属酸化物を構成する金属原子である)と反応して結合する。そのため金属酸化物表面には一定量以上のM−OH基が存在していることが好ましい。しかしながら一方で、M−OH基が多すぎると、上記処理剤と反応しきらないM−OH基が残存し、添加処理後の金属酸化物粉末の特性に疎水性が低いなどの悪影響を与える場合がある。このような観点から、本発明の製造方法においては、原料として使用する金属酸化物粉末の表面M−OH基の量は、後述するカールフィッシャー法による測定で、4〜6個/nmであるものが好ましい。
【0017】
一般に、乾式法で製造される金属酸化物粉末は1000℃〜2000℃の高温を経て製造されるため、本発明におけるアミノアルキルアルコキシ添加前に別途表面処理剤による処理等を行っていなければ、表面M−OH基の量は上記範囲にある。
【0018】
なお本発明においては、原料の金属酸化物粉末として、構成元素、粒子径、比表面積等の各種物性が異なるものを混合して使用しても良い。この場合、比表面積等は、混合後の状態で測定した値を採用する。
【0019】
本発明の製造方法においては、上述の如き金属酸化物粉末に対して、まずアミノアルキルアルコキシシランを添加し、該添加後にヘキサメチルジシラザンを添加する。この順序を逆にしたり、あるいは同時に添加したりしては、アミノアルキルアルコキシシランの導入量が不足し、十分なプラスの飽和帯電量を得ることができない。
【0020】
アミノアルキルアルコキシシランで処理することにより、金属酸化物表面にアミノアルキル基が導入され、これにより得られた金属酸化物粉末に対してプラスの帯電性を付与することができる。
【0021】
本発明で使用するアミノアルキルアルコキシシランは、金属酸化物粉末と反応して、その表面にアミノ基を導入することが可能なものであれば、特に制限はされないが、3−アミノプロピルアルコキシシランが汎用的であり好ましい。その内、好ましいアミノシランを具体的に例示すれば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジメチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ジエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。この内特に、安価で入手可能な3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランを使用するのが好ましい。
【0022】
本発明において金属酸化物粉末に対するアミノアルキルアルコキシシランの添加量(使用量)は、下記式(1)で示される金属酸化物粉末に対するアミノアルコキシシランの理論添加量の0.2〜0.5倍量とする必要がある。少なすぎると金属酸化物粉末表面に十分なアミノ基が導入されず、プラスの飽和帯電量が低くなる。一方、後述する実施例に示すように、帯電量は理論添加量の0.3倍量程度の添加でほぼ飽和する上、アミノアルキルアルコキシシランは、熱、酸素、水分等により分解する。よって、過剰量の使用は、反応系内で副生するアミノアルキルアルコキシシラン分解物量の増加を引き起こし、凝集体となって表面処理金属酸化物粉末の純度を低下させてしまうため、好ましくない。
【0023】
理論添加量(g)=金属酸化物粉末の量(g)×比表面積(m/g)/アミノアルキルアルコキシシランの最小被覆面積(m/g)・・・式(1)
上記式(1)において、金属酸化物粉末の比表面積は、窒素吸着量によるBET1点法により測定される値である。
【0024】
またアミノアルキルアルコキシシランの最小被覆面積は、下記式(2)
最小被覆面積(m/g)=6.02×1023×13×10−20÷アミノアルキルアルコキシシランの分子量・・・式(2)
で算出される。
【0025】
より好ましいアミノアルキルアルコキシシランの添加量は、理論添加量の0.3〜0.4倍量である。
【0026】
本発明においては、上記アミノアルコキシシランは、溶媒や他の表面処理剤で希釈せずに、直接、金属酸化物粉末に対して添加する。溶媒で希釈しないことにより、水や溶媒等の不純物残存の問題もなく、経済的であり好ましい。また他の表面処理剤で希釈すると、金属酸化物表面のM−OH基が該他の表面処理剤と反応してしまうなどしてアミノアルキルアルコキシシランの反応が不十分になるなどの問題を生じやすい。
【0027】
本発明においては、上記アミノアルキルアルコキシシランを、205〜245℃の範囲の温度に保持された金属酸化物粉末に対して添加する。温度が低すぎるとアミノアルキルアルコキシシランが金属酸化物表面に均一に分散されず、凝集した表面処理金属酸化物が副生し、一方、温度が高すぎるとアミノアルキルアルコキシシランが分解した凝集物が副生する。より好ましくは210〜240℃である。
【0028】
当該添加方法をより具体的に述べると、例えばミキサー中で攪拌流動化し、かつ上述の温度範囲に加熱・保持した状態の金属酸化物粉末に、アミノアルキルアルコキシシランの原液を噴霧する方法、又はアミノアルキルアルコキシシランの蒸気をミキサー内に導入する方法が、簡単に実施でき、反応効率も高く、好適である。特にアミノアルキルアルコキシシランの熱分解を抑制しやすい点で、噴霧により添加する方法が好ましい。
【0029】
上記のミキサー中での攪拌においては、金属酸化物粉末が流動化し、且つ安定化した攪拌状態が得られるように、攪拌の回転数及び攪拌羽の形状を選定することが好ましい。
【0030】
また、金属酸化物粉末に対するアミノアルキルアルコキシシランの添加は、密閉容器内で実施する方法が、反応率を向上させることが可能であり好ましい。特には、ミキサー内を窒素ガス等の不活性ガスで置換した後に、密閉し、そこへアミノアルキルアルコキシシランを添加する方法が、安全性、アミノアルキルアルコキシシランの分解抑制の点から好ましい。
【0031】
添加されたアミノアルキルアルコキシシランは金属酸化物表面のM−OH基と反応して金属酸化物表面にアミノアルキル基が導入される。この反応を十分に行わせるため、ヘキサメチルジシラザンの添加前に十分な反応時間を確保することが好ましい。反応時間は、使用するアミノアルキルアルコキシシランの反応性に応じて適宜決定すれば良いが、通常12時間以内で十分な反応率を得ることが可能である。より具体的には、例えば使用するアミノアルキルアルコキシシランが3−アミノプロピルトリメトキシシラン又は3−アミノプロピルトリエトキシシランである場合には、0.2〜2時間程度である。当該反応を進行させる間の温度も、205〜245℃とすることが好ましく、210〜240℃とすることがより好ましい。
【0032】
反応後は、ミキサー内の圧を大気圧に戻した後、窒素等の不活性ガスを導入、流通することにより、副生したアルコール等の低沸点不純物を除去することが可能である。 このようにして得られたアミノアルキルアルコキシシラン処理金属酸化物粉末(以下、「アミノシラン処理金属酸化物粉末」)は、未反応のM−OH基及び導入されたアミノ基の効果により、通常は親水性である。このため高湿環境においては吸湿しやすく、これにより帯電性が低下したり流動性を低下させたりする。従って、本発明においては、アミノシラン処理金属酸化物粉末に、更にヘキサメチルジシラザンを添加、反応させて疎水化処理を行う。具体的には、ヘキサメチルジシラザンを添加することにより、アミノシラン処理金属酸化物粉末表面に残存している未反応のM−OH基がM−O−Si(CH基へと変換され、これにより疎水化が行なわれる。
【0033】
ヘキサメチルジシラザンの使用量は、原料として使用する金属酸化物粉末の表面を適度に疎水化できる量ならば特に制限はされない。但し、少なすぎるとアミノシラン処理金属酸化物粉末の表面を十分に処理できず、十分な疎水性が得られず、多すぎると過剰のヘキサメチルジシラザンが反応系内に残存し、精製操作が面倒となるため、通常、原料として使用する金属酸化物粉末100質量部に対し、2〜50質量部、より好ましくは5〜40質量部とするのが良い。
【0034】
アミノシラン処理金属酸化物粉末にヘキサメチルジシラザンを添加する方法としては、アミノシラン処理金属酸化物粉末を水や有機溶媒中に分散させて、これへヘキサメチルジシラザンを添加してもよいが、このような分散を行わずに直接接触させる方法の方が、水や溶媒等の不純物残存の問題もなく、経済的であり好ましい。具体的には、ミキサー中で攪拌流動化した状態のアミノシラン処理金属酸化物粉末に、ヘキサメチルジシラザンの原液を噴霧する方法、又はヘキサメチルジシラザンの蒸気をミキサー内に導入する方法が、簡単に実施でき、反応効率も高く、好適である。
【0035】
また、必要に応じて、ヘキサメチルジシラザンを添加する前に、アミノシラン処理金属酸化物粉末を水蒸気と接触させ、該アミノシラン処理金属酸化物の表面に存在するアルコキシ基等の反応性基をM−OH基に変換しても良い。
【0036】
上記のミキサー中での攪拌においては、アミノシラン処理金属酸化物が流動化し、且つ安定化した攪拌状態が得られるように、攪拌の回転数及び攪拌羽の形状を選定することが好ましい。
【0037】
また、アミノシラン処理金属酸化物とヘキサメチルジシラザンとの接触は、密閉容器内で実施する方法が反応率を向上させることが可能であり好ましい。特には、アミノシラン処理金属酸化物粉末を装入したミキサー内を窒素ガス等の不活性ガスで置換した後に、密閉し、そこへヘキサメチルジシラザンを添加し反応させる方法が、安全性、ヘキサメチルジシラザンの分解抑制の点から好ましい。
【0038】
反応温度は、低すぎると反応の進行が遅く、高すぎるとヘキサメチルジシラザンの分解を促進するため、100〜500℃、好ましくは、150〜400℃、更に好ましくは、180〜350℃で行うのが良い。更に好ましくは、前工程である金属酸化物粉末とアミノアルキルアルコキシシランとの反応温度と同じ範囲、即ち、205〜245℃、特に210〜240℃で行うのが、操作が簡便であり好ましい。
【0039】
反応時間は、使用するヘキサメチルジシラザンの反応性に応じて、適宜決定すれば良いが、通常12時間以内で十分な反応率を得ることが可能である。
【0040】
反応後は、ミキサー内の圧を大気圧に戻した後、窒素等の不活性ガスを導入、流通することにより、副生したアンモニア等の低沸点不純物を除去する方法が、簡便な精製法であり好ましい。
【0041】
なお本発明においては、第一段目の工程であるアミノアルキルアルコキシシランの添加処理と、第二段目の工程であるヘキサメチルジシラザンの添加処理は、同一の反応容器で行ってもよいし、必要に応じて、第一段目の工程終了後、別の容器に移し替えて行ってもよい。
【0042】
このようにして得られた表面処理金属酸化物は、表面にアミノ基が導入されていると共に、適度な疎水性を有している。なお、アミノ基の存在量は、金属酸化物粒子表面全体に位置し、所定のプラスの帯電量が得られる量であれば良く、前述したアミノアルキルアルコキシシランの使用量に基づくものである。更に一般的には、使用する金属酸化物粉末の比表面積によって多少異なるが、窒素量として、0.20〜0.8質量%のアミノ基が存在することが好ましい。かかる窒素量の確認は、元素分析装置を使用して行うことが可能である。
【0043】
また疎水性に関しては、使用するヘキサメチルジシラザンの使用量や、使用する金属酸化物粉末の比表面積によって多少異なるが、本発明の方法によれば、M値で、15〜70容量%の値を示す程度に疎水化された表面処理金属酸化物が得られる。かかるM値は、後述の実施例に記載の方法により測定したものである。炭素量を測定した場合には、1.0〜4.5質量%の値が得られる。かかる炭素量の確認は、元素分析装置を使用して行うことが可能である。
【0044】
また、本発明の方法で得られた表面処理金属酸化物の帯電量は、後述の測定方法で、+500〜2000μC/gである。
【0045】
更に、本発明の方法で得られた表面処理金属酸化物は、前述した反応温度範囲と、アミノアルキルアルコキシシラン量の条件下で処理されているため、アミノアルキルアルコキシシランが分解し、副生した凝集物量(以下、凝集物1ともいう)が少ないという特徴を有する。凝集物の一つは、金属酸化物粉末を245℃を越える温度として添加した場合に、その生成量が極端に増加するものである。このような凝集物は、後述の実施例に記載の方法で測定すると、窒素量が1.0〜10質量%程度、炭素量が5〜25質量%程度である(以下、凝集物1ともいう)。本発明の方法によれば、該凝集物1を、篩分析(目開き1mm)において、2個/100g以下に抑制することが可能である。また、金属酸化物粉末を205℃未満の温度として添加した場合には、アミノアルキルアルコキシシランが金属酸化物粉末の表面に均一に分散されず、凝集した表面処理金属酸化物(以下、凝集物2ともいう)の副生量が増加する。該凝集物2の窒素量、及び炭素量は、アミノアルキルアルコキシシランが金属酸化物粉末の表面に均一に分散された通常の表面処理金属酸化物と比較して、高い傾向にある。本発明の方法によれば、凝集物2を、篩分析において、2個/100g以下に抑制することが可能である。
【0046】
上記、本発明の製造方法で得られた金属酸化物粉末の用途は特に限定されるものではないが、良好なプラス帯電性と疎水性を併せ持つことから電子写真用トナーの外添剤として特に好適に使用できる。
【0047】
本発明の外添剤が適用可能なトナーとしては、黒トナー、及び、カラートナーのいずれにも使用でき、また、磁性一成分、非磁性一成分、二成分等のいずれの電子写真システムにも使用可能である。トナーのバインダー樹脂も、スチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等、特に制限なく使用可能である。また、トナーの製造方法も、粉砕・混練法はもとより、懸濁重合や乳化重合等の重合法で得られたトナーにも適用できる。
【0048】
本発明の外添剤は、その他のトナーの構成材料に関しても、公知のものを任意に配合したトナーに対して適用することができる。黒の着色剤やシアン、マゼンタ、イエロー等のカラー着色剤、帯電制御剤、ワックス等の離型剤も当該分野で通常使用される材料を何ら制限なく使用できる。
【0049】
本発明の外添剤のトナーに対する添加量は、得られるトナーが所望する特性となるような量であれば、特に制限はされないが、通常0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜4質量%とするのが好ましく、公知の方法でトナーに添加できる。
【0050】
さらにトナーを製造する際には、本発明の外添剤は単独で使用されるものとは限らず、目的とする性能に応じて、混合して使用することも可能である。
【0051】
さらに本発明の製造方法で得られる表面処理金属酸化物粉末は、トナー外添剤以外にも、粉体塗料の外添剤として使用することもできるし、さらにはその適度な疎水性とアミノ基の反応性とを有効に利用し、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等の各種樹脂材料の充填材などとして使用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
本発明における諸物性の測定方法は、以下の通りである。
【0054】
(表面シラノール基量の測定)
試料を25℃、相対湿度80%の雰囲気中に45日間放置した後、試料を120℃で12時間乾燥した。この試料をメタノール溶媒中に分散し、京都電子工業社製カールフィッシャー水分計MKS−210を使用して、水分量を測定した。滴定試薬には、「HYDRANAL COMPOSITE 5K」(Riedel−deHaen社製)を使用した。
【0055】
表面シラノール基量は、上記の方法で測定された水分量から下記の式により算出した。
表面シラノール基(個/nm)=668.9×HO(wt%)÷比表面積(m/g)
(比表面積の測定)
金属酸化物粉末、及び表面処理金属酸化物の比表面積は、柴田科学器械工業性比表面積測定装置SA−1000を用い、窒素吸着量によるBET1点法により測定した。
【0056】
(炭素及び窒素含有量の測定)
表面処理金属酸化物の炭素含有量及び窒素含有量は、株式会社住化分析センター製のスミグラフNC−22Fにより測定した。
【0057】
(疎水度の測定:M値)
試料0.2gを容量250mlのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これにビュレットを使用してメタノールを加え、試料粉末の全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴定した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
【0058】
(帯電量の測定)
100mlのポリエチレン製容器に得られた表面処理金属酸化物0.6gと粒径範囲45〜75μmのフェライトキャリア20gを入れ、25℃50%相対湿度の条件下で24時間以上放置した。調湿したサンプルが入ったポリエチレン製容器を腕振り型振とう混合機にセットし、振り角度30度、振とう速度150回/分で2分間振とうを行った後、東芝ケミカル株式会社製ブローオフ粉体帯電測定装置TB−200型にてブローガス圧100kPa、60秒間の条件で帯電量を測定した。
【0059】
(凝集粒子数の測定)
表面処理金属酸化物100gを、1mm目開き篩に通した後、篩上に残留した凝集物(凝集物1(高温領域での凝集物)と凝集物2(低温領域での凝集物))の個数を数え、存在割合を算出した。これを凝集物量とした。
【0060】
実施例1
比表面積90m/gのヒュームドシリカ(株式会社トクヤマ製レオロシールQS−09;表面シラノール基量5.0個/nm)を原料金属酸化物粉末として使用した。容積20Lのミキサーに、上記ヒュームドシリカ400gを入れ、攪拌し、窒素雰囲気下に置換すると同時に、230℃に加熱した。10L/分の速度で窒素の流通を15分間継続した後、ミキサーを密閉して、攪拌状態のヒュームドシリカへ、アミノアルキルアルコキシシランとして3−アミノプロピルトリエトキシシラン21.5g(最小被覆面積は354m/gであり、式(1)で計算される理論添加量は101.7gであるから、理論添加量の0.21倍量となる)を、非希釈で一流体ノズルを使用し噴霧した。噴霧後、そのまま60分間攪拌を継続した。
【0061】
その後、ミキサーを開放し、雰囲気を窒素ガスで置換した。更に、ミキサーを密閉し、水蒸気をミキサー内の分圧で60kPa導入した。次にヘキサメチルジシラザン(HMDS)120g(30質量部)を一流体ノズルで噴霧し、そのまま60分間攪拌を継続することにより、疎水化処理を行った。その後、ミキサーを開放し、雰囲気を窒素ガスで置換した後に、表面処理金属酸化物を取り出した。
【0062】
実施例2
3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を28.5g(理論添加量の0.28倍量)に変更した以外は、実施例1と同様に処理を行った。
【0063】
実施例3
3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を40.0g(理論添加量の0.39倍量)に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0064】
実施例4
3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を28.5g(理論添加量の0.28倍量)、金属酸化物粉末の温度を215℃に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0065】
実施例5
アミノアルキルアルコキシシランを、3−アミノプロピルトリメトキシシラン23.0g(最小被覆面積は436m/gであり、式(1)で計算される理論添加量は82.6gであるから、理論添加量の0.28倍量となる)とした以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0066】
実施例6
原料である金属酸化物粉末を、比表面積200m/gのヒュームドシリカ(株式会社トクヤマ製レオロシールQS−102;表面シラノール基量5.0個/nm)に変更し、3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を63.0g(最小被覆面積は354m/gであり、式(1)で計算される理論添加量は226.0gであるから、0.28倍量となる)に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0067】
実施例7
原料である金属酸化物粉末を、比表面積300m/gのヒュームドシリカ(株式会社トクヤマ製レオロシールQS−30;表面シラノール基量5.0個/nm)に変更し、3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を95.0g(最小被覆面積は354m/gであり、式(1)で計算される理論添加量は339.0gであるから、0.28倍量となる)に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0068】
比較例1
金属酸化物粉末の温度を250℃に変更した以外は、実施例2と同様に操作を行った。
【0069】
比較例2
金属酸化物粉末の温度を180℃に変更した以外は、実施例2と同様に操作を行った。
【0070】
比較例3
3−アミノプロピルトリエトキシシランの量を60.0g(理論添加量の0.59倍量)に変更した以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0071】
上記実施例、比較例の条件を併せて表1に、得られた表面処理金属酸化物粉末の各種物性を表2に示す。
【0072】
比較例4
金属酸化物粉末の温度を255℃に変更した以外は、実施例2と同様に操作を行った。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
上記の実施例により製造された表面処理金属酸化物は、アミノアルキルアルコキシシランの分解に由来する凝集物量が少なかった。また、プラスに帯電する性質を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法で製造された金属酸化物粉末に対して、非希釈状態のアミノアルキルアルコキシシランを添加する工程、及び該添加終了後にヘキサメチルジシラザンを添加する工程を有する表面処理金属酸化物粉末の製造方法であって、
(1)アミノアルキルアルコキシシランの添加量を、用いるアミノアルキルアルコキシシランの最小被覆面積と金属酸化物粉末の比表面積とから下記式により算出される理論添加量の0.2〜0.5倍とし、
理論添加量(g)=金属酸化物粉末の量(g)×金属酸化物粉末の比表面積(m/g)/最小被覆面積(m/g)
且つ、
(2)アミノアルキルアルコキシシランの金属酸化物粉末への添加を、該金属酸化物粉末が205〜245℃の範囲の温度に保持された状態で行う
ことを特徴とする前記表面処理金属酸化物粉末の製造方法。
【請求項2】
アミノアルキルアルコキシシランの金属酸化物粉末への添加を、噴霧により行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
乾式法で製造された金属酸化物粉末が、ヒュームドシリカである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
トナー用外添剤の製造方法である請求項1、2又は3記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−148661(P2011−148661A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12262(P2010−12262)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】