説明

表面処理鋼板およびその製造方法

【課題】耐食性および耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板の表面に、第1層が水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を含有する皮膜を有し、その上部の第2層が、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、((a)リン酸塩、(b)Caイオン交換シリカ、(c)モリブデン酸塩、(d)酸化ケイ素、(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含み、防錆添加成分(Y)の合計含有量が前記反応生成物(X)100質量部(固形分)に対して1〜100質量部(固形分)である皮膜を有し、第1層と第2層の合計膜厚が0.1〜5μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム等の有害物質を全く含まずに、六価クロム同等の耐白錆性、耐黒変性を有する自動車、家電、建材用途の非クロム型表面処理鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、クロム酸、重クロム酸またはその塩類を主要成分とした六価クロムを含有する処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられている。このクロメート処理は耐食性に優れ且つ比較的簡単に行うことができる経済的な処理方法である。
【0003】
しかしながら、クロメート処理による皮膜は、公害規制物質である六価クロムを含有しているため六価クロムの使用を制限および禁止することが規定され、六価クロムの利用・排出の削減に取り組む動きが加速している。
【0004】
このようなことから、亜鉛系めっき鋼板の白錆発生を防止するためにクロメート処理に代わるクロメートフリー処理技術が数多く提案されている。例えば、無機化合物、有機化合物、有機高分子材料、あるいはこれらを組み合わせた溶液を用い、浸漬、塗布、電解処理などの方法により薄膜を生成させる方法がある。
具体的には、
(1)有機樹脂とシランカップリング剤を配合した処理液により皮膜を形成する方法(例えば、特許文献1)
(2)二層皮膜の上層に自己補修性防錆顔料を含む有機樹脂皮膜を形成させ、6価クロム同等の腐食起点での保護皮膜形成効果を狙った方法(例えば、特許文献2)
(3)下層に酸化物を含有するリン酸及び/又はリン酸化合物皮膜、その上層に自己補修性防錆顔料を含む有機樹脂皮膜を形成させる方法(例えば、特許文献3および特許文献4)
(4)水性樹脂とシランカップリング剤とリン酸化合物を含有する皮膜を下層成分として、その上層に微粒子シリカを含有する有機樹脂皮膜を形成する方法(例えば、特許文献5および特許文献6)
【特許文献1】特開平11−106945号公報
【特許文献2】特許第3412538号公報
【特許文献3】特開2002−53979号公報
【特許文献4】特開2002−53980号公報
【特許文献5】特開平11−276987号公報
【特許文献6】特許第3477174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来技術には以下に述べるような問題点がある。
【0006】
上記(1)の方法は、単層皮膜であるため、クロメート皮膜での
・バリア効果:3価クロム主体の難溶性化合物(水和酸化物)による腐食因子(水、酸素、塩素など)に対する障壁効果
・自己補修効果:6価クロムによる腐食起点での保護皮膜形成効果
の両者の効果を十分に発現できないため、クロメート皮膜同等の耐食性を得られない。
【0007】
上記(2)の方法は、二層皮膜を形成させ、上層に特定の自己補修性発現物質を添加することによる耐食性への効果はあるが、上層皮膜の自己補修効果だけでは耐食性は不十分であり、下層皮膜によるバリア効果を発揮させる必要がある。
【0008】
また、上記(3)の方法は上記(2)同様に、上層に特定の自己補修性発現物質を添加することによりある程度の耐食性向上は見られるが、下層の複合酸化物皮膜と上層皮膜の密着性が十分ではないために腐食因子のバリア効果が劣り、高度の耐食性が得られない。
【0009】
上記(4)の方法は、自己補修効果を有していないために耐食性が劣り、下層を反応性の高い薬剤にて処理を行っているため、耐黒変性が著しく劣る。
【0010】
黒変はめっき金属の初期腐食の一種で高温多湿環境に鋼板全体が黒化する現象であるが、家電製品用鋼板では無塗装で使用されることも多く、耐黒変性(鋼板輸送時の黒変現象の抑制)が要求される。
【0011】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を含有することなく、耐食性および耐黒変性に優れた表面処理鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、クロメート皮膜同等の耐食性、耐黒変性を発現させるには、第1層にめっき皮膜表層を不活性化させためっき金属との反応層、第2層に腐食因子の拡散障壁となる高バリア層からなる二層構造が最も効果的であることを見出した。さらに第1層皮膜に水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を特定範囲の比率で構成し、第2層皮膜に特定のキレート形成樹脂皮膜を形成するとともに、このキレート形成樹脂皮膜中にCr6+に代わる特定の自己補修発現物質を適量配合することにより優れた耐食性を有すると同時に、さらに第1層皮膜中にCoの金属化合物を配合することにより、特にアルカリ脱脂後の耐食性および耐黒変性に優れた効果を見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
[1]亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板の表面に、第1層が水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を含有する皮膜を有し、その上部の第2層が、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、下記(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含み、該防錆添加成分(Y)の合計の含有量が前記反応生成物(X)100質量部(固形分)に対して1〜100質量部(固形分)である皮膜を有し、前記第1層と前記第2層の合計膜厚が0.1〜5μmであることを特徴とする表面処理鋼板。
【0014】
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
[2]前記第1層皮膜が、水性樹脂の固形分100質量部に対してシランカップリング剤を1〜300質量部、リン酸化合物を0.1〜50質量部含有することを特徴とする表面処理鋼板。
[3]前記第1層皮膜が、さらにCoの金属化合物を、水性樹脂の固形分100質量部に対して0.01〜50質量部含有することを特徴とする表面処理鋼板。
[4]前記シランカップリング剤の反応性官能基がアミノ基であることを特徴とする表面処理鋼板。

[5]前記水性樹脂が少なくともエポキシ系樹脂を含有することを特徴とする表面処理鋼板。
[6]前記亜鉛系めっき鋼板において、めっき皮膜中のNi含有量が20〜1000ppm以下であることを特徴とする表面処理鋼板。
[7]亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板の表面に、第1層として水性樹脂固形分100質量部に対して、シランカップリング剤を1〜300質量部、リン酸化合物を0.1〜50質量部含有する表面処理組成物を塗布し、到達板温が30〜300℃の温度で乾燥することにより、皮膜厚が0.01μm以上5μm未満の表面処理皮膜を形成し、
その上層に、第2層として、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、下記(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含み、該防錆添加成分(Y)の合計の含有量が前記反応生成物(X)100質量部(固形分)に対して1〜100質量部(固形分)含有する表面処理組成物を塗布し、到達板温が50〜350℃の温度で乾燥することにより、皮膜厚が0.01μm以上5μm未満の有機被膜を形成し、
かつ、前記第1層と前記第2層の合計膜厚が0.1〜5μmであることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【0015】
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
[8]前記[7]において、前記第1層を形成する際に塗布する表面処理組成物中に、さらにCoの金属化合物を、水性樹脂の固形分100質量部に対して0.01〜50質量部含有することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐食性および耐黒変性に優れた表面処理鋼板すなわち亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板を提供することができる。また、本発明の表面処理鋼板は皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を含有することがないので環境上の問題もなく、家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板等として産業上有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
【0018】
本発明の表面処理鋼板のベースとなる亜鉛系めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、Zn−Niめっき鋼板、Zn−Feめっき鋼板(電気めっき、合金化溶融亜鉛めっき)、Zn−Crめっき鋼板、Zn−Mnめっき鋼板、Zn−Coめっき鋼板、Zn−Co−Cr合金めっき鋼板、Zn−Cr−Niめっき鋼板、Zn−Cr−Feめっき鋼板、Zn−Al−Mgめっき鋼板(例えばZn−6%Al−3%Mg合金めっき鋼板、Zn−11%Al−3%Mg合金めっき鋼板)、Zn−Alめっき鋼板(例えば、Zn−5%Al合金めっき鋼板、Zn−55%Al合金めっき鋼板)を用いることが可能である。さらにこれらのめっき層に少量の異種金属元素あるいは不純物としてニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅を含有しためっき鋼板および/またはシリカなどの金属酸化物、ポリマーなどを分散しためっき鋼板(例えば、Zn−SiO2分散めっき鋼板)などを用いることもできる。
【0019】
また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることができる。
【0020】
本発明の表面処理鋼板のベースとなるアルミニウム系めっき鋼板としては、アルミニウムめっき鋼板、Al−Siめっき鋼板を用いることができる。
【0021】
また、めっき鋼板としては鋼板面にあらかじめNiなどの薄目付けのめっきを施し、その上に上記のような各種めっきを施したものであってもよい。
【0022】
めっきの方法としては、電解法(水溶液中での電解、非水溶媒中での電解)、溶融法、気相法のうち、実施可能ないずれの方法も採用することができる。
【0023】
また、表面処理皮膜をめっき皮膜表面に形成した際に皮膜欠陥やムラが生じないようにするため、必要に応じて、あらかじめめっき皮膜表面にアルカリ脱脂、溶剤脱脂、表面調整処理(アルカリ性の表面調整処理、酸性の表面調整処理)等の処理を施しておくことができる。また、有機被覆鋼板の使用環境下での黒変(めっき表面の酸化現象の一種)を防止する目的で、必要に応じてあらかじめめっき表面に鉄族金属イオン(Niイオン,Coイオン,Feイオン)を含む酸性またはアルカリ性水溶液による表面調整処理を施しておくこともできる。また電気亜鉛めっき鋼板を下地鋼板として用いる場合には、黒変を防止する目的で電気めっき浴に鉄族金属イオン(Niイオン,Coイオン,Feイオン)を添加し、めっき皮膜中にこれらの金属を1ppm以上含有させておくことができる。この場合、めっき皮膜中の鉄族金属濃度の上限については特に限定はない。
【0024】
次に、上記亜鉛系めっき鋼板の表面に形成される表面処理皮膜ついて説明する。
【0025】
本発明の表面処理鋼板において亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に形成される第1層皮膜は、水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥することにより形成された表面処理皮膜である。
【0026】
ここで、水性樹脂とは水溶性樹脂の他にエマルジョンやディスパージョンのように水不溶性の樹脂が水中に分散された水分散性樹脂を含み、このような樹脂としてはエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリル−エチレン共重合体、アクリル−スチレン共重合体、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン樹脂、フッ素樹脂等を用いることができ、特別な制限はない。ただし耐食性の観点からは、OH基および/またはCOOH基を有する有機高分子樹脂を用いることが好ましく、中でもエポキシ樹脂が下地金属および上層皮膜との密着性を著しく向上させることが可能なため、より好ましい。
【0027】
次に、シランカップリング剤について説明する。このシランカップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジルアミン)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種類以上を混合して使用することができる。これらのシランカップリング剤を含む皮膜が耐食性に優れる理由は、水溶液中のシランカップリグ剤が加水分解することにより生じたシラノール基(Si−OH)がめっき皮膜表面と水素結合をし、さらには脱水縮合反応により優れた密着性を付与することが考えられる。
【0028】
また、上記シランカップリング剤の中でも、めっき金属との吸着性が高い官能基を有するという観点から、特に反応性官能基としてアミノ基を有すシランカップリング剤が特に好ましい。このようなシランカップリング剤としては、例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメエキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられ、具体的には、信越化学(株)製「KBM−903」、「KBE−903」、「KBM−603」、「KBE−602」、「KBE−603」などを用いることができる。
【0029】
シランカップリング剤の配合量は、上記水性樹脂の固形分100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部、より好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは、15〜50質量部とするのが適当である。シランカップリング剤の配合量が1質量部未満では耐食性が劣り、一方300質量部を超えると十分な皮膜が形成できないため、水分散性樹脂との密着性とバリア性を高める効果が発揮できず耐食性が低下する。
【0030】
次にリン酸化合物としては、リン酸イオンの骨格や縮合度等の限定はなく次亜リン酸、亜リン酸、オルトリン酸、ポリリン酸とそれらの塩を使用できる。このリン酸化合物は不活性なめっき皮膜表面に作用して金属表面を活性化させる作用を有する。そして、このように活性化されためっき金属表面と皮膜形成樹脂との密着性がシランカップリング剤を介して著しく向上する結果、耐食性が顕著に改善される。
リン酸化合物の配合量は、水性樹脂の全固形分100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは5〜30質量部とするのが適当である。リン酸化合物が0.1質量部未満では耐食性が劣り、一方、50質量部超では皮膜形成後の外観ムラが生じやすい。
【0031】
第1層皮膜の表面処理組成物には、アルカリ脱脂後耐食性および耐黒変性向上を目的として、さらに金属化合物を配合することが好ましく、中でもCoを配合することがより好ましい。Coの供給源としては、例えば硝酸Co、硫酸Co、塩化Co等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。Coを配合することにより特にアルカリ脱脂後の耐食性が向上する理由は、アルカリ脱脂の際に下層皮膜中成分であるリン酸化合物の溶出が抑制されるためであると考えられる。皮膜中のリン酸化合物は腐食環境下で、リン酸イオンとなって溶出金属と錯形成反応を起こすことにより保護皮膜を形成するため、アルカリ脱脂後のリン酸化合物の溶出を抑制することにより、アルカリ脱脂後でも優れた耐食性を有する。
【0032】
Coを配合する場合のCoの配合量は、水性樹脂の固形分100質量部に対して、固形分で0.01〜50質量部、好ましくは0.5〜40質量部、さらに好ましくは1〜30質量部とするのが適当である。Coの配合量が0.01質量部未満では耐食性の向上効果が十分でなく、一方、50質量部を超えると処理液との反応性が強くなり外観ムラを生じやすくなる。
【0033】
次に、上記表面処理皮膜の上部に第2層皮膜として形成される有機皮膜について説明する。
【0034】
第1層皮膜の上部に形成される有機皮膜は、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、自己補修性発現物質である下記(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含む(好ましくは、主成分として含む)ものである。
【0035】
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
皮膜形成有機樹脂(A)の種類としては、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)と反応して、皮膜形成有機樹脂に活性水素含有化合物(B)が付加、縮合などの反応により結合でき、且つ皮膜を適切に形成できる樹脂であれば特別な制約はない。この皮膜形成有機樹脂(A)としては、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル系共重合体樹脂、ポリブタジエン樹脂、フェノール樹脂、及びこれらの樹脂の付加物又は縮合物などを挙げることができ、これらのうちの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
また、皮膜形成有機樹脂(A)としては、反応性、反応の容易さ、防食性などの点から、樹脂中にエポキシ基を含有するエポキシ基含有樹脂(D)が特に好ましい。このエポキシ基含有樹脂(D)としては、一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)と反応して、皮膜形成有機樹脂に活性水素含有化合物(B)が付加、縮合などの反応により結合でき、且つ皮膜を適切に形成できる樹脂であれば特別な制約はなく、例えば、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂、エポキシ基を有するポリブタジエン樹脂、エポキシ基を有するポリウレタン樹脂、及びこれらの樹脂の付加物若しくは縮合物などが挙げられ、これらのエポキシ基含有樹脂の1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
また、これらのエポキシ基含有樹脂(D)の中でも、めっき表面との密着性、耐食性の点からエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂が特に好適である。またその中でも、酸素などの腐食因子に対して優れた遮断性を有する熱硬化性のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂が最適であり、とりわけ高度な導電性及びスポット溶接性を得るために皮膜の付着量を低レベルにする場合には特に有利である。
【0038】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ノボラック型フェノールなどのポリフェノール類とエピクロルヒドリンなどのエピハロヒドリンとを反応させてグリシジル基を導入してなるか、若しくはこのグリシジル基導入反応生成物にさらにポリフェノール類を反応させて分子量を増大させてなる芳香族エポキシ樹脂、さらには脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。これらのエポキシ樹脂は、特に低温での皮膜形成性を必要とする場合には数平均分子量が1500以上であることが好適である。
【0039】
上記変性エポキシ樹脂としては、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基または水酸基に各種変性剤を反応させた樹脂を挙げることができ、例えば、乾性油脂肪酸を反応させたエポキシエステル樹脂、アクリル酸又はメタクリル酸などを含有する重合性不飽和モノマー成分で変性したエポキシアクリレート樹脂、イソシアネート化合物を反応させたウレタン変性エポキシ樹脂などを例示できる。
【0040】
上記エポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂としては、エポキシ基を有する不飽和モノマーとアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを必須とする重合性不飽和モノマー成分とを、溶液重合法、エマルション重合法または懸濁重合法などによって合成した樹脂を挙げることができる。
【0041】
上記重合性不飽和モノマー成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−,iso−若しくはtert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のC1〜24アルキルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、アクリルアミド、アクリロニトリル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドのC1〜4アルキルエーテル化物;N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどを挙げることができる。
【0042】
また、エポキシ基を有する不飽和モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなど、エポキシ基と重合性不飽和基を持つものであれば特別な制約はない。
【0043】
また、このエポキシ基含有モノマーと共重合したアクリル系共重合体樹脂は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などによって変性させた樹脂とすることもできる。
【0044】
前記エポキシ樹脂として特に好ましいのは、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとの反応生成物である下記(1)式に示される化学構造を有する樹脂であり、このエポキシ樹脂は特に耐食性に優れているため好ましい。
【0045】
【化1】

【0046】
このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂の製造法は当業界において広く知られている。また、上記化学構造式において、qは0〜50、好ましくは1〜40、特に好ましくは2〜20である。
【0047】
なお、皮膜形成有機樹脂(A)は、有機溶剤溶解型、有機溶剤分散型、水溶解型、水分散型のいずれであってもよい。
【0048】
本発明では皮膜形成有機樹脂(A)の分子中にヒドラジン誘導体を付与することを狙いとしており、このため活性水素含有化合物(B)の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)であることが必要である。
【0049】
皮膜形成有機樹脂(A)がエポキシ基含有樹脂である場合、そのエポキシ基と反応する活性水素含有化合物(B)として例えば以下に示すようなものを例示でき、これらの1種または2種以上を使用できるが、この場合も活性水素含有化合物(B)の少なくとも一部(好ましくは全部)は、活性水素を有するヒドラジン誘導体であることが必要である。
【0050】
・活性水素を有するヒドラジン誘導体
・活性水素を有する第1級または第2級のアミン化合物
・アンモニア、カルボン酸などの有機酸
・塩化水素などのハロゲン化水素
・アルコール類、チオール類
・活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンと酸との混合物である4級塩化剤
前記活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
【0051】
(1) カルボヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、チオカルボヒドラジド、4,4′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾン、アミノポリアクリルアミドなどのヒドラジド化合物;
(2) ピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロン、3−アミノ−5−メチルピラゾールなどのピラゾール化合物;
(3) 1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2,3−ジヒドロ−3−オキソ−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1水和物)、6−メチル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、6−フェニル−8−ヒドロキシトリアゾロピリダジン、5−ヒドロキシ−7−メチル−1,3,8−トリアザインドリジンなどのトリアゾール化合物;
(4) 5−フェニル−1,2,3,4−テトラゾール、5−メルカプト−1−フェニル−1,2,3,4−テトラゾールなどのテトラゾール化合物;
(5) 5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのチアジアゾール化合物;
(6) マレイン酸ヒドラジド、6−メチル−3−ピリダゾン、4,5−ジクロロ−3−ピリダゾン、4,5−ジブロモ−3−ピリダゾン、6−メチル−4,5−ジヒドロ−3−ピリダゾンなどのピリダジン化合物
また、これらのなかでも、5員環または6員環の環状構造を有し、環状構造中に窒素原子を有するピラゾール化合物、トリアゾール化合物が特に好適である。
【0052】
これらのヒドラジン誘導体は1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0053】
活性水素含有化合物(B)の一部として使用できる上記活性水素を有するアミン化合物の代表例としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
【0054】
(1) ジエチレントリアミン、ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミンなどの1個の2級アミノ基と1個以上の1級アミノ基を含有するアミン化合物の1級アミノ基を、ケトン、アルデヒド若しくはカルボン酸と例えば100〜230℃程度の温度で加熱反応させてアルジミン、ケチミン、オキサゾリン若しくはイミダゾリンに変性した化合物;
(2) ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジ−n−または−iso−プロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどの第2級モノアミン;
(3) モノエタノールアミンのようなモノアルカノールアミンとジアルキル(メタ)アクリルアミドとをミカエル付加反応により付加させて得られた第2級アミン含有化合物;
(4) モノエタノールアミン、ネオペンタノールアミン、2−アミノプロパノール、3−アミノプロパノール、2−ヒドロキシ−2′(アミノプロポキシ)エチルエーテルなどのアルカノールアミンの1級アミノ基をケチミンに変性した化合物;
活性水素含有化合物(B)の一部として使用できる上記4級塩化剤は、活性水素を有しないヒドラジン誘導体または第3級アミンはそれ自体ではエポキシ基と反応性を有しないので、これらをエポキシ基と反応可能とするために酸との混合物としたものである。4級塩化剤は、必要に応じて水の存在下でエポキシ基と反応し、エポキシ基含有樹脂と4級塩を形成する。
【0055】
4級塩化剤を得るために使用される酸は、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸などの無機酸のいずれでもよい。また、4級塩化剤を得るために使用される活性水素を有しないヒドラジン誘導体としては、例えば3,6−ジクロロピリダジンなどを、また、第3級アミンとしては、例えば、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリイソプロピルアミン、メチルジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0056】
皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)は、皮膜形成有機樹脂(A)と活性水素含有化合物(B)とを10〜300℃、好ましくは50〜150℃で約1〜8時間程度反応させて得られる。
【0057】
この反応は有機溶剤を加えて行ってもよく、使用する有機溶剤の種類は特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エタノール、ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどの水酸基を含有するアルコール類やエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのエステル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素等を例示でき、これらの1種または2種以上を使用することができる。また、これらのなかでエポキシ樹脂との溶解性、塗膜形成性などの面からは、ケトン系又はエーテル系の溶剤が特に好ましい。
【0058】
皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との配合比率は、固形分の割合で皮膜形成有機樹脂(A)100質量部に対して、活性水素含有化合物(B)を0.5〜20質量部、特に好ましくは1.0〜10質量部とするのが望ましい。
【0059】
また、皮膜形成有機樹脂(A)がエポキシ基含有樹脂(D)である場合には、エポキシ基含有樹脂(D)と活性水素含有化合物(B)との配合比率は、活性水素含有化合物(B)の活性水素基の数とエポキシ基含有樹脂(D)のエポキシ基の数との比率[活性水素基数/エポキシ基数]が0.01〜10、より好ましくは0.1〜8、さらに好ましくは0.2〜4とすることが耐食性などの点から適当である。
【0060】
また、活性水素含有化合物(B)中における活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)の割合は10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さら好ましくは40〜100モル%とすることが適当である。活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)の割合が10モル%未満では有機皮膜に十分な防錆機能を付与することができず、得られる防錆効果は皮膜形成有機樹脂とヒドラジン誘導体を単に混合して使用した場合と大差なくなる。
【0061】
本発明では緻密なバリア皮膜を形成するために、樹脂組成物中に硬化剤を配合し、有機皮膜を加熱硬化させることが望ましい。
【0062】
樹脂組成物皮膜を形成する場合の硬化方法としては、(1)イソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を利用する硬化方法、(2)メラミン、尿素及びベンゾグアナミンの中から選ばれた1種以上にホルムアルデヒドを反応させてなるメチロール化合物の一部若しくは全部に炭素数1〜5の1価アルコールを反応させてなるアルキルエーテル化アミノ樹脂と基体樹脂中の水酸基との間のエーテル化反応を利用する硬化方法、が適当であるが、このうちイソシアネートと基体樹脂中の水酸基とのウレタン化反応を主反応とすることが特に好適である。
【0063】
上記(1)の硬化方法で用いるポリイソシアネート化合物は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する脂肪族、脂環族(複素環を含む)又は芳香族イソシアネート化合物、若しくはそれらの化合物を多価アルコールで部分反応させた化合物である。このようなポリイソシアネート化合物としては、例えば以下のものが例示できる。
【0064】
(i) m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、o−またはp−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート
(ii) 上記(i)の化合物単独またはそれらの混合物と多価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコール類;グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトールなどの4価アルコール;ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの6価アルコールなど)との反応生成物であって、1分子中に少なくとも2個のイソシアネートが残存する化合物
これらのポリイソシアネート化合物は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用できる。
【0065】
また、ポリイソシアネート化合物の保護剤(ブロック剤)としては、例えば、
(1) メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクチルアルコールなどの脂肪族モノアルコール類
(2) エチレングリコールおよび/またはジエチレングリコールのモノエーテル類、例えば、メチル、エチル、プロピル(n−,iso)、ブチル(n−,iso,sec)などのモノエーテル
(3) フェノール、クレゾールなどの芳香族アルコール
(4) アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシムなどのオキシム
などが使用でき、これらの1種または2種以上と前記ポリイソシアネート化合物とを反応させることにより、少なくとも常温下で安定に保護されたポリイソシアネート化合物を得ることができる。
【0066】
このようなポリイソシアネート化合物(E)は、硬化剤として皮膜形成有機樹脂(A)に対し、(A)/(E)=95/5〜55/45(不揮発分の重量比)、好ましくは(A)/(E)=90/10〜65/35の割合で配合するのが適当である。ポリイソシアネート化合物には吸水性があり、これを(A)/(E)=55/45を超えて配合すると有機皮膜の密着性を劣化させるおそれがある。さらに、有機皮膜上に上塗り塗装を行った場合、未反応のポリイソシアネート化合物が塗膜中に移動し、塗膜の硬化阻害や密着性不良を起こすおそれがある。このような観点から、ポリイソシアネート化合物(E)の配合量は(A)/(E)=55/45以下とすることが好ましい。
【0067】
なお、皮膜形成有機樹脂(A)は以上のような架橋剤(硬化剤)の添加により十分に架橋するが、さらに低温架橋性を増大させるため、公知の硬化促進触媒を使用することが望ましい。この硬化促進触媒としては、例えば、N−エチルモルホリン、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、塩化第1スズ、ナフテン酸亜鉛、硝酸ビスマスなどが使用できる。
【0068】
また、例えば皮膜形成有機樹脂(A)にエポキシ基含有樹脂を使用する場合、付着性など若干の物性向上を狙いとして、エポキシ基含有樹脂とともに公知のアクリル、アルキッド、ポリエステルなどの樹脂を混合して用いることもできる。
【0069】
次に、自己補修性発現物質である防錆添加成分(Y)について説明する。
【0070】
上記成分(a)であるリン酸塩は、単塩、複塩などの全ての種類の塩を含む。また、それを構成する金属カチオンに限定はなく、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウムなどのいずれの金属カチオンでもよい。また、リン酸イオンの骨格や縮合度などにも限定はなく、正塩、二水素塩、一水素塩または亜リン酸塩のいずれでもよく、さらに、正塩はオルトリン酸塩の他、ポリリン酸塩などの全ての縮合リン酸塩を含む。
【0071】
また、上記成分(a)であるリン酸塩とともにカルシウム化合物を複合添加することにより、耐食性をさらに向上させることができる。カルシウム化合物は、カルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム塩のいずれでもよく、これらの1種または2種以上を使用できる。また、カルシウム塩の種類にも特に制限はなく、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのようなカチオンとしてカルシウムのみを含む単塩のほか、リン酸カルシウム・亜鉛、リン酸カルシウム・マグネシウムなどのようなカルシウムとカルシウム以外のカチオンを含む複塩を使用してもよい。
【0072】
また、上記成分(b)であるCaイオン交換シリカは、カルシウムイオンを多孔質シリカゲル粉末の表面に固定したもので、腐食環境下でCaイオンが放出されて沈殿膜を形成する。
【0073】
Caイオン交換シリカとしては任意のものを用いることができるが、平均粒子径が6μm以下、望ましくは4μm以下のものが好ましく、例えば、平均粒子径が2〜4μmのものを用いることができる。Caイオン交換シリカの平均粒子径が6μmを超えると耐食性が低下するとともに、塗料組成物中での分散安定性が低下する。
【0074】
Caイオン交換シリカ中のCa濃度は1wt%以上、望ましくは2〜8wt%であることが好ましい。Ca濃度が1wt%未満ではCa放出による防錆効果が十分に得られない。なお、Caイオン交換シリカの表面積、pH、吸油量については特に限定されない。
【0075】
以上のようなCaイオン交換シリカとしては、W.R.Grace&Co.製のSHIELDEX C303(平均粒子径2.5〜3.5μm、Ca濃度3wt%)、SHIELDEX AC3(平均粒子径2.3〜3.1μm、Ca濃度6wt%)、SHIELDEX AC5(平均粒子径3.8〜5.2μm、Ca濃度6wt%)(以上、いずれも商品名)、富士シリシア化学(株)製のSHIELDEX(平均粒子径3μm、Ca濃度6〜8wt%)、SHIELDEX SY710(平均粒子径2.2〜2.5μm、Ca濃度6.6〜7.5wt%)(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0076】
上記成分(c)であるモリブデン酸塩は、その骨格、縮合度に限定はなく、例えば、オルトモリブデン酸塩、パラモリブデン酸塩、メタモリブデン酸塩などが挙げられる。また、単塩、複塩などの全ての塩を含み、複塩としてはリン酸モリブデン酸塩などが挙げられる。
【0077】
上記成分(d)である酸化ケイ素は、コロイダルシリカ、乾式シリカのいずれでもよい。コロイダルシリカとしては、水系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックスO、スノーテックスN、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40、スノーテックスC、スノーテックスS(以上、いずれも商品名)、触媒化成工業(株)製のカタロイドS、カタロイドSI−350、カタロイドSI−40、カタロイドSA、カタロイドSN(以上、いずれも商品名)、旭電化工業(株)製のアデライトAT−20〜50、アデライトAT−20N、アデライトAT−300、アデライトAT−300S、アデライトAT20Q(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0078】
また、溶剤系皮膜形成樹脂をベースとする場合には、例えば、日産化学工業(株)製のオルガノシリカゾルMA−ST−M、オルガノシリカゾルIPA−ST、オルガノシリカゾルEG−ST、オルガノシリカゾルE−ST−ZL、オルガノシリカゾルNPC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST、オルガノシリカゾルDMAC−ST−ZL、オルガノシリカゾルXBA−ST、オルガノシリカゾルMIBK−ST(以上、いずれも商品名)、触媒化成工業(株)製のOSCAL−1132、OSCAL−1232、OSCAL−1332、OSCAL−1432、OSCAL−1532、OSCAL−1632、OSCAL−1722(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0079】
特に、有機溶剤分散型シリカゾルは、分散性に優れ、ヒュームドシリカよりも耐食性に優れている。
【0080】
また、ヒュームドシリカとしては、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSIL R971、AEROSIL R812、AEROSIL R811、AEROSIL R974、AEROSIL R202、AEROSIL R805、AEROSIL 130、AEROSIL 200、AEROSIL 300、AEROSIL 300CF(以上、いずれも商品名)などを用いることができる。
【0081】
微粒子シリカは、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制することができると考えられている。
【0082】
耐食性の観点からは、微粒子シリカは粒子径が5〜50nm、望ましくは5〜20nm、さらに好ましくは5〜15nmのものを用いるのが好ましい。
【0083】
上記成分(e)の有機化合物のうち、トリアゾール類としては、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾールなどが、またチオール類としては、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、2−メルカプトベンツイミダゾールなどが、またチアジアゾール類としては、5−アミノ−2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどが、またチアゾール類としては、2−N,N−ジエチルチオベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール類などが、またチウラム類としては、テトラエチルチウラムジスルフィドなどが、それぞれ挙げられる。
【0084】
有機皮膜中での上記防錆添加成分(Y)の合計の配合量(上記成分(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の自己補修性発現物質の合計の配合量)は、基体樹脂(反応生成物(X))100質量部(固形分)に対して、1〜100質量部(固形分)、好ましくは5〜80質量部(固形分)、さらに好ましくは10〜50質量部(固形分)とする。防錆添加成分(Y)の配合量が1質量部未満では耐食性向上効果が小さい。一方、配合量が100質量部を超えると、耐食性が低下するので好ましくない。
【0085】
以上述べた第2層皮膜である有機皮膜の防食機構については、次のように考えられる。
【0086】
すなわち、単なる低分子量のキレート化剤ではなく、皮膜形成有機樹脂にヒドラジン誘導体を付与することによって、(1)緻密な有機高分子皮膜により酸素や塩素イオンなどの腐食因子を遮断する効果が得られること、(2)ヒドラジン誘導体が第1層皮膜の表面と安定で強固に結合して不動態化層を形成できること、(3)腐食反応によって溶出した亜鉛イオンを皮膜中のフリーのヒドラジン誘導体基がトラップし、安定な不溶性キレート化合物層を形成するため、界面でのイオン伝導層の形成が抑制されて腐食の進行が抑制されること、などの作用効果により腐食の進行が効果的に抑制され、優れた耐食性が得られるものと考えられる。
【0087】
また、皮膜形成有機樹脂(A)として、特にエポキシ基含有樹脂を用いた場合には、エポキシ基含有樹脂と架橋剤との反応により緻密なバリア皮膜が形成され、このバリア皮膜は酸素などの腐食因子の透過抑制能に優れ、また、分子中の水酸基により素地との優れた結合力が得られるため、特に優れた耐食性(バリア性)が得られる。さらに、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)として、特に活性水素を有するピラゾール化合物または/および活性水素を有するトリアゾール化合物を用いることにより、より優れた耐食性(バリア性)が得られる。
【0088】
従来技術として皮膜形成有機樹脂にヒドラジン誘導体を混合した組成物を用いる方法が知られているが、この従来技術のように皮膜形成有機樹脂に単にヒドラジン誘導体を混合しただけでは、腐食抑制の向上効果はほとんど認められない。その理由は、皮膜形成有機樹脂の分子中に組み込まれていないヒドラジン誘導体は、キレート化合物を形成するものの、そのキレート化合物は低分子量のため緻密なバリア層にはならないためであると考えられる。これに対して、本発明のように皮膜形成有機樹脂の分子中にヒドラジン誘導体を組み込むことにより、格段に優れた腐食抑制効果が得られる。
【0089】
また、本発明では上記のような特定の有機高分子樹脂からなる有機皮膜中に、
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)(自己補修性発現物質)を適量配合することにより、特に優れた防食性能(自己修復効果)を得ることができる。この特定の有機皮膜中に上記(a)〜(e)の成分を配合したことにより得られる防食機構は以下のように考えられる。
【0090】
まず、上記(a)の成分は、腐食環境化において加水分解によってリン酸イオンに解離し、溶出金属と錯形成反応を起こすことにより保護皮膜を形成する。
【0091】
また、上記(b)の成分の場合は、腐食環境下でNaイオンなどのカチオンが侵入すると、イオン交換作用によりシリカ表面のCaイオンが放出され、さらに、腐食環境下でのカソード反応によりOHイオンが生成してめっき界面近傍のpHが上昇すると、Caイオン交換シリカから放出されたCaイオンがCa(OH)2としてめっき界面近傍に沈殿し、緻密で難溶性の生成物として欠陥を封鎖し、腐食反応を抑制する。また、溶出した亜鉛イオンはCaイオンと交換されてシリカ表面に固定される効果も考えられる。
【0092】
また、上記(c)の成分は、不動態化効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食環境下で溶存酸素と共にめっき皮膜表面に緻密な酸化物を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
【0093】
また、上記(d)の成分は、腐食環境下において緻密で安定な亜鉛の腐食生成物の生成に寄与し、この腐食生成物がめっき表面に緻密に形成されることによって、腐食の促進を抑制する。
【0094】
また、上記(e)の成分は吸着効果によって自己補修性を発現する。すなわち、腐食によって溶出した亜鉛やアルミニウムが、上記(e)の成分が有する窒素や硫黄を含む極性基に吸着して不活性皮膜を形成し、これが腐食起点を封鎖することによって腐食反応を抑制する。
【0095】
一般の有機皮膜中に上記(a)〜(e)の成分を配合した場合でも、ある程度の防食効果は得られるが、本発明のように特定の有機高分子樹脂からなるバリア性に優れた有機皮膜中に上記(a)〜(e)の自己補修性発現物質を配合したことにより、両者の効果(バリア性と自己補修性)が複合化し、これにより極めて優れた防食効果が発揮されるものと考えられる。
【0096】
また、上記(a)の成分とともにカルシウム化合物を複合添加した場合には、カルシウム化合物は、腐食環境下においてめっき金属よりも優先的に溶出することにより、めっき金属の溶出をトリガーとせずにリン酸イオンと錯形成反応を起こして緻密で難溶性の保護皮膜を形成し、腐食反応を抑制する。
【0097】
なお、以上述べた(a)〜(e)の成分のうちの2種以上を複合添加すれば、各々の成分による腐食抑制作用が複合化されるため、より優れた耐食性が得られる。
【0098】
また、有機皮膜中には上記の防錆添加成分に加えて、腐食抑制剤として、他の酸化物微粒子(例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アンチモンなど)、リンモリブデン酸塩(例えば、リンモリブデン酸アルミニウムなど)、有機リン酸及びその塩(例えば、フィチン酸、フィチン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩、及びこれらの金属塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)、有機インヒビター(例えば、ヒドラジン誘導体、チオール化合物、ジチオカルバミン酸塩など)などの1種または2種以上を添加できる。
【0099】
有機皮膜中には、さらに必要に応じて、皮膜の加工性(耐キズつき性)や連続磨耗性を向上させるために、必要に応じて固形潤滑剤(d)を配合することができる。この潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、フッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、ラノリン系ワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス及びカルナウバろうなどを挙げることができ、特に限定はされない。また潤滑剤は、1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0100】
有機皮膜中での固形潤滑剤(d)の配合量は、皮膜形成用の樹脂組成物である反応生成物(皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物)100重量部(固形分)に対して、1〜80重量部(固形分)、好ましくは3〜40重量部(固形分)とする。固形潤滑剤(d)の配合量が1重量部未満では潤滑効果が乏しく、一方、配合量が80重量部を超えると塗装性が低下するので好ましくない。
【0101】
以上のような表面処理組成物により形成される第1層の表面処理皮膜は乾燥膜厚が0.01μm〜5μm、好ましくは0.1〜3μm、さらに好ましくは0.3〜2μmとする。また、以上述べた表面処理皮膜の上層には、第2層皮膜として皮膜厚が0.01μm以上5μm未満の有機樹脂皮膜を形成する。そして、第1層と第2層の合計膜厚は0.1〜5μmとする。合計膜厚が0.1μm未満では耐食性が不十分であり、一方、5μmを超えると導電性が低下する。
【0102】
次に本発明の表面処理鋼板の製造方法について説明する。
【0103】
本発明の表面処理鋼板は、上述した水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を含む処理液で亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面を処理(処理液を塗布)した後、加熱乾燥させ、次いでその上層に、上述した皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、防錆添加成分(Y)とを含み(好ましくは主成分とする)、さらに必要に応じて固形潤滑剤などが添加された塗料組成物を塗布し、加熱乾燥させることにより製造される。
【0104】
なお、めっき鋼板の表面は、上記処理液を塗布する前に必要に応じてアルカリ脱脂処理し、さらに密着性、耐食性を向上させるために表面調整処理等の前処理を施すことができる。
【0105】
亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に表面処理皮膜の第1層を形成するには、上述した組成を有する処理液を乾燥皮膜厚が上記範囲となるようにめっき鋼板に塗布し、水洗することなく加熱乾燥させる。
【0106】
表面処理組成物(処理液)はpH0.5〜6、好ましくは1〜4に調整することが適当である。表面処理組成物のpHが0.5未満では処理液の反応性が強すぎるため外観ムラが生じ、一方、pHが6を超えると処理液の反応性が低くなり、めっき金属と皮膜との結合が不十分となり、耐食性が低下する。
【0107】
表面処理組成物をめっき鋼板面に形成する方法としては塗布法、浸せき法、スプレー法のいずれでもよい。塗布処理方法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどいずれの方法でもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、あるいは浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
表面処理組成物をコーティングした後は、水洗することなく加熱乾燥を行う。加熱乾燥手段としては、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。加熱処理は、到達板温で30℃〜300℃、好ましくは、40℃〜250℃の範囲で行うことが適当である。この加熱温度が30℃未満では皮膜中の水分が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、300℃を越えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じ耐食性が低下する。
【0108】
以上のように亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に表面処理皮膜の第1層を形成した後、その上層に有機皮膜形成用の処理液を塗布する。塗料組成物を塗布する方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法等の任意の方法を採用できる。塗布法としては、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式等)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの方法を用いてもよい。また、スクイズコーター等による塗布処理、浸漬処理またはスプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。
【0109】
塗料組成物の塗布後、通常は水洗することなく加熱乾燥を行うが、塗料組成物の塗布後に水洗工程を実施しても構わない。
【0110】
加熱乾燥処理には、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等を用いることができる。加熱処理は到達板温で50〜350℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で行うことが望ましい。加熱温度が50℃未満では皮膜中に水分が多量に残り、耐食性が不十分となる。また、加熱温度が350℃を越えると非経済的であるばかりでなく、皮膜に欠陥が生じて耐食性が低下するおそれがある。
【0111】
なお、上述した表面処理皮膜はめっき鋼板の片面、両面のいずれに形成してもよく、めっき鋼板表裏面の皮膜形成の組み合わせとしては、例えば、二層皮膜(表面処理皮膜+有機樹脂皮膜)/無処理、二層皮膜(表面処理皮膜+有機樹脂皮膜)/二層皮膜(表面処理皮膜+有機樹脂皮膜)などとすることができる。
【実施例1】
【0112】
次に、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。なお、以下「%」は、いずれも質量基準によるものとする。
【0113】
第1層皮膜形成用として、表1に示す水性樹脂、表2に示すシランカップリング剤、表3に示すリン酸化合物、表4に示す金属化合物を適宜配合した処理液(水溶液)を調製した。また、第2層皮膜形成用として、下記のように合成した基体樹脂(1)、(2)(表5)に、表6に示す防錆添加剤を適宜配合した塗料組成物を調製した。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
【表4】

【0118】
[合成例1]
EP828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量187)1870部とビスフェノールA912部、テトラエチルアンモニウムブロマイド2部、メチルイソブチルケトン300部を四つ口フラスコに仕込み、140℃まで昇温して4時間反応させ、エポキシ当量1391、固形分90%のエポキシ樹脂を得た。このものに、エチレングリコールモノブチルエーテル1500部を加えてから100℃に冷却し、3,5−ジメチルピラゾール(分子量96)を96部とジブチルアミン(分子量129)を129部加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン205部を加えて、固形分60%のピラゾール変性エポキシ樹脂を得た。これを基体樹脂(1)とする。この基体樹脂(1)は、皮膜形成有機樹脂(A)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)を50mol%含む活性水素含有化合物との生成物である。
[合成例2]
EP1007(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量2000)4000部とエチレングリコールモノブチルエーテル2239部を四つ口フラスコに仕込み、120℃まで昇温して1時間で完全にエポキシ樹脂を溶解した。このものを100℃に冷却し、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール(分子量84)を168部加えて、エポキシ基が消失するまで6時間反応させた後、冷却しながらメチルイソブチルケトン540部を加えて、固形分60%のトリアゾール変性エポキシ樹脂を得た。これを基体樹脂(2)とする。この基体樹脂(2)は、皮膜形成有機樹脂(A)と、活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)を100mol%含む活性水素含有化合物との生成物である。
【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【0121】
処理原板としては表7に示す各種めっき鋼板を用い、めっき鋼板の表面をアルカリ脱脂処理、水洗乾燥した後、上記第1層皮膜形成用の処理液で処理(塗布)し、各種温度で乾燥させた。次いで、その上部に上記第2層皮膜形成用の塗料組成物を塗布し、各種温度で乾燥させ、発明例および比較例の表面処理鋼板を得た。なお、第1層及び第2層皮膜の膜厚は、皮膜組成物の固形分(加熱残分)や処理時間等により調整した。
【0122】
得られた表面処理鋼板の品質性能(耐黒変性、耐食性、導電性)を評価した結果を、試験条件、皮膜構成とともに表8に示す。なお、各品質性能の測定及び評価方法は、以下の通りである。
【0123】
【表7】

【0124】
【表8】

【0125】
(1)耐黒変性
各サンプルについて、80℃×98%RHの環境下で1日放置した後、色調変化ΔL(「試験後のL値」−「試験前のL値」)にて評価した。その評価基準は以下のとおりである。
【0126】
◎ :ΔL≧−1
○ :−1>ΔL≧−2
△ :−2>ΔL≧−3
× :ΔL<−3
(2)耐白錆性
各サンプルについて、塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、120時間および240時間経過後の白錆面積率で評価した。
評価基準は以下の通りである。
【0127】
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上、100%以下
(3)アルカリ脱脂後耐白錆性
各サンプルについて、アルカリ脱脂後の塩水噴霧試験(JIS−Z−2371)を施し、72時間経過後の白錆面積率で評価した。
評価基準は以下の通りである。
【0128】
◎ :白錆面積率5%未満
○ :白錆面積率5%以上、10%未満
○−:白錆面積率10%以上、25%未満
△ :白錆面積率25%以上、50%未満
× :白錆面積率50%以上、100%以下
(4)導電性
JIS C2550により層間絶縁抵抗値を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0129】
○ :3Ω・cm2/枚 以下
△ :3〜5Ω・cm2/枚
× :5Ω・cm2/枚 超え
(5)塗料二次密着性
各サンプルについて、メラミン系の焼き付け塗料(膜厚30μm)を塗装した後、沸水中に2時間浸漬し、直ちに、碁盤目(10×10個、1mm間隔)のカットを入れて接着テープによる貼着・剥離を行い、塗膜の剥離面積率を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0130】
◎:剥離なし
○:剥離面積率5%未満
△:剥離面積率5%以上、20%未満
×:剥離面積率20%以上
表8より、本発明例では、耐黒変性、耐白錆性、アルカリ脱脂後耐白錆性、導電性および塗料二次密着性のいずれも優れた性能を示しており、耐食性および耐黒変性に優れた表面処理鋼板が得られている。
【0131】
一方、比較例では、耐黒変性、耐白錆性、アルカリ脱脂後耐白錆性、導電性および塗料二次密着性のいずれか一つ以上が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0132】
家電製品用鋼板、建材用鋼板、自動車用鋼板を中心に、優れた耐食性および耐黒変性が要求される用途に対して好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板の表面に、
第1層が水性樹脂とリン酸化合物とシランカップリング剤を含有する皮膜を有し、その上部の第2層が、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、下記(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含み、該防錆添加成分(Y)の合計の含有量が前記反応生成物(X)100質量部(固形分)に対して1〜100質量部(固形分)である皮膜を有し、前記第1層と前記第2層の合計膜厚が0.1〜5μmであることを特徴とする表面処理鋼板。
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
【請求項2】
前記第1層皮膜が、水性樹脂の固形分100質量部に対してシランカップリング剤を1〜300質量部、リン酸化合物を0.1〜50質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の表面処理鋼板。
【請求項3】
前記第1層皮膜が、さらにCoの金属化合物を、水性樹脂の固形分100質量部に対して0.01〜50質量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の反応性官能基がアミノ基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記水性樹脂が少なくともエポキシ系樹脂を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記亜鉛系めっき鋼板において、めっき皮膜中のNi含有量が20〜1000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項7】
亜鉛系めっき鋼板およびアルミニウム系めっき鋼板の表面に、
第1層として、水性樹脂の固形分100質量部に対して、シランカップリング剤を1〜300質量部、リン酸化合物を0.1〜50質量部含有する表面処理組成物を塗布し、到達板温が30〜300℃となる温度で乾燥することにより、皮膜厚が0.01μm以上5μm未満の表面処理皮膜を形成し、
その上層に、第2層として、皮膜形成有機樹脂(A)と一部または全部の化合物が活性水素を有するヒドラジン誘導体(C)からなる活性水素含有化合物(B)との反応生成物(X)と、下記(a)〜(e)の中から選ばれる1種以上の防錆添加成分(Y)とを含み、該防錆添加成分(Y)の合計の含有量が前記反応生成物(X)100質量部(固形分)に対して1〜100質量部(固形分)含有する表面処理組成物を塗布し、到達板温が50〜350℃となる温度で乾燥することにより、皮膜厚が0.01μm以上5μm未満の有機被膜を形成し、
かつ、前記第1層と前記第2層の合計膜厚が0.1〜5μmであることを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
(a)リン酸塩
(b)Caイオン交換シリカ
(c)モリブデン酸塩
(d)酸化ケイ素
(e)トリアゾール類、チオール類、チアジアゾール類、チアゾール類、チウラム類の中から選ばれる1種以上の有機化合物
【請求項8】
第1層として前記表面処理皮膜を形成する際に塗布する表面処理組成物中に、さらにCoの金属化合物を、水性樹脂の固形分100質量部に対して0.01〜50質量部含有することを特徴とする請求項7に記載の表面処理鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−176845(P2006−176845A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−372444(P2004−372444)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】