説明

表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材と溶融めっき鋼材の製造方法

優れた表面平滑性と成形性を達成できる高耐食性めっき鋼板を提供するもので、鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.000001〜0.1質量%、Si:0.000001〜0.5質量%を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕及び〔ZnMg相〕、〔Zn相〕が混在しためっき層の〔Al相〕及び/または〔ZnMg相〕及び/または〔Zn相〕の中にTi−Al系金属間化合物を含有させることを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる溶融めっき鋼材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はめっき鋼板に係わり、さらに詳しくは優れた表面平滑性と成形性を有し、種々の用途、例えば家電用や自動車用、建材用鋼板として適用できる高耐食性めっき鋼材に関するものである。
【背景技術】
耐食性の良好なめっき鋼材として最も使用されるものに亜鉛系めっき鋼板がある。これらのめっき鋼板は自動車、家電、建材分野など種々の製造業において使用されている。また、それ以外にも、めっき鋼線やドブ漬けめっきなど種々の分野でめっき鋼材が使用されている。
こうした亜鉛系めっき鋼材の耐食性を向上させることを目的として本発明者らは、溶融Zn−Al−Mg−Siめっき鋼板を提案した(例えば、特許第3179446号公報参照)。
また、亜鉛系めっき鋼板の耐食性を向上させることを目的として、溶融Zn−Alめっき鋼板にTiを添加することにより耐経時黒変性を優れたものとした亜鉛系めっき鋼板があるが(例えば、特開平5−125515号公報参照)、表面平滑性や成形性が劣化するという問題は考慮されていない。
また、溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板にTi,B,Siを添加することにより表面外観を良好にした亜鉛系めっき鋼板があるが(例えば、特開2001−295015号公報参照)、表面外観を劣化させるZn11Mg相の生成・成長を抑制する目的としてTiとBを添加しているが、表面平滑性や成形性が劣化するという問題は考慮されておらず、金属間化合物についても言及されていない。
しかしながら、上記及びその他これまで開示されためっき鋼板では、表面平滑性と成形性が十分に確保されていない。
溶融めっき時のめっき凝固速度が十分に確保されている場合、Al相が大きく成長しないうちにめっきが凝固するため表面平滑性は問題とならないが、めっき凝固速度が小さい場合、これらAl相が先に大きく成長することによってめっき表面に凸凹が形成され、表面平滑性や成形性が劣化するという問題点を有している。
【発明の開示】
本発明は、上記問題点を解決して、表面平滑性及び成形性が優れた高耐食性めっき鋼材を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、表面平滑性と成形性が優れためっき鋼板の開発について鋭意研究を重ねた結果、めっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上が混在した金属組織を有すると共に、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有させることにより表面平滑性と成形性が向上させることができるという新たな知見を見出し、本発明を完成するに至ったものである。本発明の趣旨とするところは以下のとおりである。
(1)鋼材の表面に、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(2)鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕及び〔ZnMg相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕と〔ZnMg相〕の1種又は2種の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(3)鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(4)鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕及び〔Zn相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕と〔Zn相〕の1種又は2種の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(5)前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、TiAlであることを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(6)前記(1)乃至(4)のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、Ti(Al1−XSi(但し、X=0〜0.5である)であることを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(7)めっき層中の〔Al相〕の中に含有されるTi−Al系金属間化合物が、Zn相の濃化したZn−Alの共析反応組織中に存在することを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(8)めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさが500μm以下であることを特徴とする前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
(9)めっき浴中にTi−Zn系金属間化合物を添加することを特徴とする前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材の製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1(a)は、本発明のめっき鋼材のめっき層についての図面代用顕微鏡写真(倍率1000倍)であり、図1(b)は写真中の各組織の分布状態を示す図である。
図2(a)は、図1の「Al″相」を拡大した図面代用顕微鏡写真(倍率3500倍)であり、図2(b)は写真中の各組織の分布状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明による溶融めっき鋼材は、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下を含有し残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層、或いは、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避不純物からなるめっき層のいずれかを有するめっき鋼板のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とするめっき鋼材である。
Zn−Al−Mg−Ti系めっき層においてAlの含有量を4〜10質量%に限定した理由は、Alの含有量が10質量%を超えるとめっき密着性の低下が見られるため、Siを添加していないめっき中のAlの含有量は10質量%以下にする必要があるためである。また、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、平滑性低下の問題がないためである。
従って、本発明における溶融めっき鋼材においては、特にAl濃度が10質量%を超えるような高濃度の場合には、めっき密着性を確保するために、めっき層中にSiを添加することが必須である。
一方、Zn−Al−Mg−Ti−Si系めっき層において、Alの含有量を4〜22質量%に限定した理由は、4質量%未満では初晶としてAl相が晶出しないため、平滑性低下の問題がないためであり、22質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和するためである。
Siの含有量を0.5質量%以下(但し、0質量%を除く)に限定した理由は、Siは密着性を向上させる効果があるが、0.5質量%を超えると密着性を向上させる効果が飽和する。望ましくは0.00001〜0.5質量%である、さらに望ましくは0.0001〜0.5質量%である。
Siの添加はAlの含有量が10質量%を超えるめっき層には必須であるが、Alの含有量が10%以下のめっき層においてもめっき密着性向上に効果が大きいため、加工が厳しい部材に使用する等、高いめっき密着性を必要とする場合にはSiを添加することが有効である。また、Si添加によりめっき層の凝固組織中に〔MgSi相〕が晶出する。この〔MgSi相〕は加工部耐食性向上に効果があるため、Siの添加量を多くし、めっき層の凝固組織中に〔MgSi相〕が混在した金属組織を作製することがより望ましい。
Mgの含有量を1〜5質量%に限定した理由は、1質量%未満では耐食性を向上させる効果が不十分であるためであり、5質量%を超えるとめっき層が脆くなって密着性が低下するためである。
Tiの含有量を0.1質量%以下(但し、0質量%を除く)に限定した理由は、TiはTi−Al系金属間化合物を晶出させ、表面平滑性と成形性を向上させる効果があるが、0.1質量%を超えるとめっき後の外観が粗雑になり、外観不良が発生する。また、Tiの含有量が0.1質量%を超えるとTi−Al系金属間化合物がめっき表面に濃化し表面平滑性と成形性を低下させる。望ましくは0.00001〜0.1質量%である。さらに望ましくは0.00001質量%以上0.01質量%未満である。
本発明によるめっき鋼材は、めっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔Zn相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔MgSi相〕、Ti−Al系金属間化合物の1つ以上を含む金属組織ができる。
ここで、〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕とは、Al相と、Zn相と金属間化合物ZnMg相との三元共晶組織であり、この三元共晶組織を形成しているAl相は、例えば、Al−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。また、この三元共晶組織中のZn相は少量のAlを固溶し、場合によってはさらに少量のMgを固溶したZn固溶体である。該三元共晶組織中のZnMg相は、Zn−Mgの二元系平衡状態図のZn:約84重量%の付近に存在する金属間化合物相である。状態図で見る限りそれぞれの相にはSi,Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるがその量は通常の分析では明確に区別できないため、この3つの相からなる三元共晶組織を本発明では〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕と表す。
また、〔Al相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、これは、例えば、Al−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Zn相を固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相はめっき浴のAlやMg濃度に応じて固溶するZn量やMg量が相違する。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離するが、常温で見られる島状の形状は高温でのAl″相の形骸を留めたものであると見てよい。状態図で見る限りこの相にはSi,Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるが通常の分析では明確に区別できないため、この高温でのAl″相に由来し、且つ、形状的にはAl″相の形骸を留めている相を本発明では〔Al相〕と呼ぶ。この〔Al相〕は前記の三元共晶組織を形成しているAl相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔Zn相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlさらには少量のMgを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi,Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。
この〔Zn相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔ZnMg相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはSi,Tiが固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔ZnMg相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZnMg相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、〔MgSi相〕とは、めっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りZn,Al,Tiは固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔MgSi相〕はめっき中では顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
また、Ti−Al系金属間化合物とは、めっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りTiAlであると考えられる。但し、Siを添加しためっき中のTi−Al系金属間化合物を分析するとSiが観察されることから、こうしためっき層中のTi−Al系金属間化合物はSiを固溶したTiAl又はAlの一部がSiに置き換わったTi(Al1−XSi(但し、X=0〜0.5である)であると考えられる。
本発明の溶融めっき鋼材において、このTi−Al系金属間化合物は、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の中に存在することを特徴とする。Ti−Al系金属間化合物の含有形態を〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の中に限定した理由は、それ以外の位置に存在するTi−Al系金属間化合物では、表面平滑性と成形性を向上させることができないためである。〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の中に存在するTi−Al系金属間化合物が表面平滑性と成形性を向上させる理由は、Ti−Al系金属間化合物が、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の核となることでこれらの結晶の晶出を促進させ、微細で多数の組織とするためであると考えられる。即ち、結晶が微細になるとめっき層表面の凹凸が抑制され、表面が平滑になり、且つ、成形時のめっきの変形抵抗が減少することによって摩擦係数が低下し、成形性が向上すると考えられる。
この効果は、特に〔Al相〕において顕著である。〔Al相〕の樹枝状晶の大きさを500μm以下に制御することにより、表面が平滑になり、摩擦係数が低下する。望ましくは400μm以下である。さらに望ましくは300μm以下である。
本発明者らが多数のめっき中の金属組織を調査した結果、大部分の金属組織の中から大きさ数μmの金属間化合物が観察された。〔Al相〕中に存在する金属間化合物の一例を図1に示す。図1(a)は、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真(倍率1000倍)であり、この写真中の各組織の分布状態を図示したものが図1(b)である。この図からも判るように、本発明におけるめっき鋼材のめっき層の顕微鏡写真によって明確に各組織を特定することができる。
図1(a)ではAl−Zn−Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」に相当するものの中にTi−Al系金属間化合物が観察される。この高温でのAl″相は、Al−Znの二元系平衡状態図における277℃で起こる共析反応により、常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。ここで亜共析反応の場合、高温で晶出したAl″相は、Al−Zn−Mgの三元系平衡状態図における三元共晶温度からZn相の析出を開始し、Al−Znの二元系平衡状態図における共析反応に相当する温度で残ったAl″相が微細なAl相と微細なZn相の共析組織となる。
図2(a)は、図1のAl″相を拡大した顕微鏡写真(倍率3500倍)であり、この写真中の各組織の分布状態を図示したものが図2(b)である。Al″相を詳細に観察すると、析出したZn相が濃化した共析組織がAl″相の外側とTi−Al系金属間化合物の周りに存在することが観察される。
本発明において金属間化合物の大きさは特に限定しないが、本発明者らが観察したものは、大きさ10μm以下であった。また、めっき組織中の金属間化合物の存在割合も特に限定しないが、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕のどれかに10%以上存在することが望ましい。
金属間化合物の添加方法については特に限定するところはなく、金属間化合物の微粉末を浴中に混濁させる方法や、金属間化合物を浴に溶解させる方法等が適用できるが、無酸化炉方式の溶融めっき法を使用した連続ライン等で製造する場合、めっき浴中にTiを溶解させる方法が適当である。めっき浴中にTiを溶解させる方法としては、Ti−Zn系金属間化合物を添加する方法が低温、短時間で溶解可能なため効率的である。添加するTi−Zn系金属間化合物としては、Zn15Ti,Zn10Ti,ZnTi,ZnTi,ZnTi,ZnTi等がある。このような金属間化合物を単独あるいはZn,Zn−Al,Zn−Al−Mg合金中に混合させてめっき浴に添加すると、溶解したTiがめっき中にTi−Al系金属間化合物として晶出し、表面平滑性と成形性を向上させる。
本発明の下地鋼材としては、鋼板のみならず、線材、形鋼、条鋼、鋼管など種々の鋼材が使用できる。鋼板としては、熱延鋼板、冷延鋼板共に使用でき、鋼種もAlキルド鋼、Ti,Nb等を添加した極低炭素鋼板、及び、これらにP,Si,Mn等の強化元素を添加した高強度鋼、ステンレス鋼等種々のものが適用できる。
本発明品の製造方法については、特に限定することなく鋼板の連続めっき、鋼材や線材のドブ漬けめっき法など種々の方法が適用できる。下層としてNiプレめっきを施す場合も通常行われているプレめっき方法を適用すれば良い。本発明により得られためっき製品は冷却速度が小さい場合でも表面平滑性が良好なめっきが得られるため、大きな冷却速度が取りにくいドブ漬けめっきや、板厚の厚い材料への溶融めっきにおいてその効果が顕著となる。
めっきの付着量については特に制約は設けないが、耐食性の観点から10g/m以上、加工性の観点から350g/m以下とすることが望ましい。
亜鉛めっき層中には、これ以外にFe,Sb,Pb,Snを単独あるいは複合で0.5質量%以内含有してもよい。また、Ca,Be,Cu,Ni,Co,Cr,Mn,P,B,Nb,Biや3族元素を合計で0.5質量%以下含有しても本発明の効果を損なわず、その量によってはさらに酎食性が改善される等好ましい場合もある。
【実施例】
【実施例1】
まず、厚さ0.85mmの冷延鋼板を準備し、これに400〜600℃で浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒溶融めっきを行い、Nワイピングでめっき付着量を片面140g/mに調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき組成を表1に示す。また、めっき鋼板を断面からSEMで観察し、めっき層の金属組織を観察した結果を同じく表1に示す。
Ti−Al系金属間化合物は、めっき鋼板を10度傾斜で研磨した後、EPMAで観察し、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の中に存在するものを観察した。
めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさは、めっき鋼板の表面をCMAでマッピングし、得られたAlのマッピングを使用して樹枝状晶の長径を測定した。測定は、5×5cmの範囲を行い、大きいものから順に5つの樹枝状晶の長径を測定し、その平均値を〔Al相〕の樹枝状晶の大きさとして使用した。
平滑性は表面粗さ形状測定機((株)東京精密製)を使用し、以下の測定条件でRa,WCA測定した。粗度測定は、冷却による凝固のみの板の任意の3ヶ所を行い、その平均値を使用した。
測定子:触針先端5μmR
測定長さ:25mm
カットオフ:Ra 0.8mm、WCA 0.8〜8mm
駆動速度:0.3mm/s
フィルタ:2CRフィルタ
平滑性は以下に示す評点づけで判定した。評点は4を合格とした。
4:Ra 1μm以下、WCA 1μm以下
3:Ra 1μm超、WCA 1μm以下
2:Ra 1μm以下、WCA 1μm超
1:Ra 1μm超、WCA 1μm超
成形性は、ドロービード試験を使用し、以下の測定条件から得られた引き抜き荷重を使用し、見かけの摩擦係数を計算した。
ビード金型:凸部丸形R4mmR、肩R2mmR
試料サイズ:30mm×300mm
摺動長:110mm
引き抜き速度:200mm/min
押し付け荷重:600,800,1000kgf
平滑性は以下に示す評点づけで判定した。評点は3を合格とした。
3:0.20未満
2:0.20以上0.21未満
1:0.21以上
耐食性は、5%、35℃の塩水を1000時間噴霧した後、赤錆が発生しなかったものを合格、赤錆が発生したものを不合格とした。
評価結果を表1に示す。試料番号14は、Ti−Al系金属間化合物を含有しないため、Al相が成長し、平滑性と成形性が不合格となった。試料番号15は、Tiの含有量が多すぎたため、Ti−Al系金属間化合物が表面に濃化し、平滑性と成形性が不合格となった。番号16は、Mg,Al,Si,Tiが本発明の範囲外であるため、耐食性が不合格となった。これら以外の試料はいずれも良好な平滑性、成形性、耐食性を示した。

【実施例2】
まず、厚さ0.85mmの冷延鋼板を準備し、これに520℃で浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒溶融めっきを行い、Nワイピングでめっき付着量を片面140g/mに調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。得られためっき鋼板のめっき組成を表2に示す。また、めっき鋼板を断面からSEMで観察し、めっき層の金属組織を観察した結果を同じく表2に示す。
Ti−Al系金属間化合物は、めっき鋼板を10度傾斜で研磨した後、EPMAで観察し、〔Al相〕、〔ZnMg相〕、〔Zn相〕の中に存在するものを観察した。また、〔Al相〕の中に存在するTi−Al系金属間化合物については、EPMAで観察し、析出したZn相が濃化したZn−Alの共析組織中への存在有無を観察した。さらにTi−Al系金属間化合物のEPMA観察を行い、Ti−Al系金属間化合物のSi含有有無を観察した。
密着性は、デュポン衝撃試験後の溶融めっき鋼板にセロハンテープを貼り、その後引き剥がし、めっきが剥離しなかった場合を○、めっきの剥離が10%未満の場合を△、めっきが10%以上剥離した場合を×とした。デュポン試験は先端に1/2インチの丸みを持つ撃ち型を使用し、1kgの重りを1mの高さから落下させて行った。
加工後耐食性の評価は、1T折り曲げ加工(原板を1枚はさんだ状態で180°の折り曲げ加工)を施したサンプルの折り曲げ部について、SST1000hr後の赤錆発生状況を以下に示す評点づけで判定した。評点は3以上を合格とした。
5:5%未満
4:5%以上10%未満
3:10%以上20%未満
2:20%以上30%未満
1:30%以上
評価結果を表2に示す。試料番号2はAl,Siの添加量が本発明の範囲外であるため密着性が不合格となった。これら以外の試料はいずれも、密着性、加工後耐食性が良好な結果となった。特にSiを添加しためっき鋼板は良好な密着性と加工後酎食性を示した。

【産業上の利用可能性】
以上述べたように、本発明により、めっき凝固速度が小さい場合でも表面に凹凸が形成されず表面平滑性と成形性が優れた高耐食性めっき鋼材を製造することが可能となる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に、Al:4〜10質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項2】
鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕及び〔ZnMg相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕と〔ZnMg相〕の1種又は2種の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項3】
鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕、〔ZnMg相〕及び〔Zn相〕の1種又は2種以上の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項4】
鋼材の表面に、Al:4〜22質量%、Mg:1〜5質量%、Ti:0.1質量%以下、Si:0.5質量%以下を含有し残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn合金めっき層を有するめっき鋼材のめっき層が〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕、〔Al相〕及び〔Zn相〕が混在した金属組織を有し、且つ、〔Al相〕と〔Zn相〕の1種又は2種の中にTi−Al系金属間化合物を含有することを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、TiAlであることを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のTi−Al系金属間化合物が、Ti(Al1−XSi(但し、X=0〜0.5である)であることを特徴とする表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項7】
めっき層中の〔Al相〕の中に含有されるTi−Al系金属間化合物が、Zn相の濃化したZn−Alの共析反応組織中に存在することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項8】
めっき層中の〔Al相〕の樹枝状晶の大きさが500μm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材。
【請求項9】
めっき浴中にTi−Zn系金属間化合物を添加することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の表面平滑性と成形性に優れる高耐食性溶融めっき鋼材の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/038060
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501579(P2005−501579)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013732
【国際出願日】平成15年10月27日(2003.10.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】