説明

表面弾性波素子の製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は移動体電話や各種の通信機器分野でフィルターや発振器として用いられる表面弾性波素子およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】移動体電話や各種の通信分野でフィルターや発振器として用いられる表面弾性波素子は、圧電体基板の表面に形成される櫛形電極に信号を加えて表面弾性波を励振させる構成になっている。従来、櫛形電極の表面は露出した状態でパッケージに封止されており、微少な金属粉やダストあるいは微量の水分やガスにより絶縁不良や特性劣化が発生するという問題があった。そのため、電極および圧電体基板表面にスパッタリング法や蒸着法、CVD法により絶縁膜を形成する方法が提案されている。
【0003】また、表面弾性波素子の周波数については、圧電体基板の音速と表面に形成される櫛形電極のパターン形状、膜厚により一義的に決まる。櫛形電極のパターン作製は半導体技術を用いて作製でき、小型化が可能であることから多く使用されてきている。しかしながら、表面弾性波素子の高周波化にともない、電極の膜厚やパターン幅のばらつきによる周波数ばらつきにより歩留まり低下が問題となってきている。
【0004】このために、従来は電極の膜厚が厚すぎた場合、電極材料をエッチングする液に浸漬して表面の電極を一定量ウェットエッチング除去することで周波数調整を行っている。また、プラズマを用いて圧電体結晶表面を一定量ドライエッチングして周波数を調整する方法も行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、スパッタリング法や蒸着法、CVD法では、形成される絶縁膜の膜厚制御が困難であり、結果として表面弾性波素子の周波数がばらついてしまうという欠点があった。
【0006】周波数を調整する方法において、電極の表面を一定量ウェットエッチング除去する方法では、エッチング除去する量の制御は時間による管理しかできず、液の濃度の変動や時間制御のばらつきなどにより、逆にばらつきを大きくするなどの問題があった。また、電極表面のエッチングによる表面の荒れにより大きな電力を印加した場合壊れやすくなることも問題としてあった。
【0007】プラズマを用いて基板である圧電体結晶表面をドライエッチングする方法は装置が高価である点や、エッチング量の正確な制御が困難である等の課題があり、本格的な実用にはなっていない。
【0008】本発明は上記従来の問題点を除去するために、信頼性の高い絶縁膜を有する表面弾性波素子および高精度に周波数調整するための表面弾性波素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の表面弾性波素子は、圧電性を有する基板と、前記基板上に設けた電極と、前記電極と前記基板とを覆う絶縁膜とを備え、前記絶縁膜がポリウレタン系膜により構成されたことを特徴とする。
【0010】本発明の第1番目の表面弾性波素子の製造方法は、圧電性を有する基板と前記基板上に設けた電極とを備えた表面弾性波素子上に、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布して塗膜を形成し、次に前記塗膜を反応硬化させて前記電極および前記基板の表面にウレタン結合を介してポリウレタン系膜を形成することを特徴とする。
【0011】本発明の第2番目の表面弾性波素子の製造方法は、前記第1番目の製造方法において、ポリウレタン系薄膜の質量を可変することにより表面弾性波素子の周波数を調整する工程を含むことを特徴とする。
【0012】前記構成においては、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈濃度を変えて用いることが望ましい。
【0013】または、塗膜の厚さを変えることが望ましい。または、イソシアネート基を複数個含む化合物の分子量を変えて用いることが望ましい。
【0014】さらには、圧電性を有する基板と前記基板上に設けた電極とを備えた表面弾性波素子上に、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布して塗膜を形成し、次に前記塗膜を反応硬化させて前記電極および前記基板の表面にウレタン結合を介してポリウレタン系膜を形成する工程を含み、前記工程を繰り返し行うことにより、周波数を調整することを特徴とする。
【0015】
【作用】前記本発明の構成によれば、電極および圧電体基板表面にポリウレタン系絶縁膜の膜厚を制御して形成するので、表面弾性波素子の周波数をばらつかせることなく、電極の保護がなされて絶縁不良や特性劣化を防ぐことができる。また、電極および基板表面の水酸基とイソシアネート基との反応により生成したウレタン結合を介して、前記ポリウレタン系絶縁膜は強固に形成されているので、容易に剥離することはなく耐久性に優れている。
【0016】さらに、表面弾性波素子は櫛形電極上の物質の質量により、固有周波数が変動する性質があるのでポリウレタン系膜の質量を種々に可変すれば、周波数の調整が精度良く可能になる。
【0017】ポリウレタン系膜の質量を可変するには、材料となるイソシアネート基を複数個含む化合物の希釈濃度を変えて用いることにより膜の質量を制御することが可能である。高濃度の溶液を塗布した場合、硬化後の膜は厚い膜、すなわち質量が大きい膜となり、低濃度では逆の傾向を示す。この性質から用いる溶液濃度を変えることで所望の質量を持った膜を形成することができる。
【0018】また、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布する工程において、塗布する塗膜の厚さを変えることにより硬化膜の膜厚を制御でき、すなわち、膜の質量を制御することができる。
【0019】また、イソシアネート基を複数個含む化合物の分子量を大きくするとできる膜の質量を大きくでき、分子量を小さくすると膜の質量を小さくすることができる。
【0020】さらには、電極および圧電体基板表面にポリウレタン系膜を形成する工程を繰り返し行うことにより、膜を累積して質量を可変することもできる。
【0021】以上の構成によれば、信頼性に優れた絶縁膜を備えた表面弾性波素子を得ることができ、かつ表面弾性波素子の周波数調整を高精度に実現できる。
【0022】
【実施例】図1,図2に本発明の一実施例を示す。図1は表面弾性波素子全体の斜視図で、そのA−A′断面の表面近傍が図2(a),(b)に示されている。圧電体基板1上に設けたアルミニウムよりなる櫛形電極2を備えた表面弾性波素子上にポリウレタン系の絶縁膜3が形成された構成となっている。
【0023】このポリウレタン系の絶縁膜3は、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させることによって形成される。
【0024】イソシアネート基を複数個含む化合物としては、(化1)〜(化3)に示すジイソシアネート単量体が用いられ、また(化4)、(化5)に示すジイソシアネート重合体、および(化6)に示すジイソシアネートのポリオールアダクト体を用いることが可能である。
【0025】
【化1】


【0026】
【化2】


【0027】
【化3】


【0028】
【化4】


【0029】
【化5】


【0030】
【化6】


【0031】しかし、イソシアネート単量体は毒性があるので取扱いに注意を要し、また分子量も小さい。したがって安全性と性能面から、ジイソシアネート重合体あるいはジイソシアネートのポリオールアダクト体が好ましい。
【0032】これらの化合物は所望の濃度に希釈して使用されている。希釈溶媒としては、例えばエステル、ケトン、トルエン、キシレン等のイソシアネート基と反応する活性水素を持たないものであれば良い。
【0033】希釈溶液を表面弾性波素子に塗布する方法としては、ディップ法、スピンコート法、スプレー法、フローコート法等があるが、塗膜の厚さを制御するにはディップ法とスピンコート法が好ましい。ディップ法では基板の引き上げ速度により、スピンコート法では回転数により膜厚を制御する。
【0034】上記の方法で塗布した塗膜を加熱乾燥することにより、電極および基板表面の水酸基と反応してウレタン結合を形成し、強固に密着したポリウレタン系膜が形成される。
【0035】以下、具体的実施例をあげて説明する。
(実施例1)第1の実施例ではイソシアネート基を複数個含む化合物の異なる濃度の希釈溶液を用いてポリウレタン系膜を形成し、周波数の調整を行った。
【0036】櫛形電極が形成されたウェハ状態の表面弾性波素子を用意し(図2(a))、(化6)をトルエン50部とメチルエチルケトン50部の混合溶媒に所望の濃度で希釈した溶液を調製した。この溶液中にウェハを10分間浸漬し、1mm/sの引き上げ速度でウェハを取り出した。5分間の自然乾燥の後、120℃で1時間加熱した。すると、(化6)はアルミニウム電極の酸化物表面のOH基や基板表面上のOH基と反応してウレタン結合を生成した。
【0037】この結果、図2(b)に示すように電極2のアルミニウム表面と圧電体基板1の両面にポリウレタン系の絶縁膜3が形成された。図において、それぞれの膜厚は正確な縮尺倍率のものではなく、電極2の膜厚は約500nmに対してポリウレタン系の絶縁膜3の膜厚は数nmないし数10nmである。
【0038】図3は、このようにして形成した4種類のポリウレタン系の絶縁膜による周波数変化を求めた結果である。成膜の前の周波数f0に対する成膜後の周波数fの比(周波数変化)をppmで表わしている。溶液濃度の高いものほど、周波数変化が大きくなっているのがわかる。
【0039】(実施例2)第2の実施例では、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布する際、その塗膜の厚さを変えて周波数の調整を行った。
【0040】櫛形電極が形成されたウェハ状態の表面弾性波素子を用意し、(化4)をトルエン50部とメチルエチルケトン50部の混合溶媒に濃度5mMで希釈した溶液を調製した。この溶液をウェハに所望のスピン回転数でスピンコートし、5分間の自然乾燥の後、120℃で1時間加熱した。すると、(化4)はアルミニウム電極の酸化物表面のOH基や基板表面上のOH基と反応してウレタン結合を生成した。この結果、電極のアルミニウム表面と圧電体基板の表面にポリウレタン系膜が形成された。
【0041】図4は、このようにして形成したポリウレタン系の絶縁膜による周波数変化を求めた結果である。成膜の前の周波数f0に対する成膜後の周波数fの比(周波数変化)をppmで表わしている。スピン回転数の高いものほど、すなわち塗膜の厚さが薄いものほど、周波数変化が小さくなっているのがわかる。
【0042】(実施例3)第3の実施例では、ポリウレタン系の絶縁膜のコーティングを繰り返して膜厚を変え周波数の調整を行った。
【0043】櫛形電極が形成されたウェハ状態の表面弾性波素子を用意し、溶液の濃度を2mMにして実施例1と同様の操作を行いポリウレタン系の絶縁膜を形成した。さらに、同操作を数回繰り返して行い膜厚の異なるポリウレタン系の絶縁膜を形成した。
【0044】図5は、このようにして形成したポリウレタン系の絶縁膜による周波数変化を求めた結果である。成膜の前の周波数f0に対する成膜後の周波数fの比(周波数変化)をppmで表わしている。コーティング回数の多いものほど、周波数変化が大きくなっていることがわかる。
【0045】(実施例4)第4の実施例では、分子量の異なるイソシアネート基を複数個含む化合物4種類を用い、ポリウレタン系の絶縁膜を形成して周波数の調整を行った。
【0046】櫛形電極が形成されたウェハ状態の表面弾性波素子を用意し、(化2)、(化4)、(化5)、(化6)の4種の化合物を用いて、それぞれ濃度5mM、回転数4000rpmでスピンコートを実施例2と同様の操作で行いポリウレタン系の絶縁膜を形成した。
【0047】(表1)は、このようにして形成した4種類のポリウレタン系の絶縁膜による周波数変化を求めた結果である。成膜の前の周波数f0に対する成膜後の周波数fの比(周波数変化)を示している。分子量の大きいものほど、周波数変化が大きくなっているのがわかる。
【0048】
【表1】


【0049】次に、ポリウレタン系の絶縁膜の絶縁性について試験した。本実施例において作製した表面弾性波素子と、比較例としてポリウレタン系の絶縁膜を形成していない表面弾性波素子をそれぞれ20個並べ、櫛形電極間にまたがる大きさの粒径をもつ金属粉を上から微量ふりまいた。金属粉を表面弾性波素子の上にのせたままの状態で、それぞれの表面弾性波素子について周波数特性を調べた。その結果、比較例の膜形成していない表面弾性波素子は20個すべてが電極間でショートして、周波数特性が得られなかった。一方、本実施例の表面弾性波素子はすべてが金属粉のないときと同様の周波数特性が得られ、ショートは発生しなかった。このことから、本発明のポリウレタン系の絶縁膜を形成した表面弾性波素子は絶縁性に優れていることがわかる。
【0050】
【発明の効果】以上のように、本発明はイソシアネート基を複数個含む化合物から形成したポリウレタン系の絶縁膜を用いることにより必要とする膜厚や密度の絶縁膜を高精度に得ることができ、表面弾性波素子の周波数調整が非常に再現性良くできる。しかも、膜形成のための装置も安価であり、大量生産が可能なことから表面弾性波素子の高精度化、低コスト化に大きな効果がある。また、電極膜のアルミニウムの腐食防止にも大きな効果があり、表面弾性波素子の低コスト化、高信頼性化に大きな効果がある。
【0051】本発明で用いたポリウレタン系の絶縁膜は、電極材料であるアルミニウム表面の酸化物や基板材料である水晶、リチウムタンタレート、リチウムナイオベートとウレタン結合を形成するので強固な密着性を有する。さらに、ディップ法で簡単に膜形成できるために非常に低コストで形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の表面弾性波素子の斜視図
【図2】本発明の一実施例を説明するために示した図1のA−A′断面の表面近傍の拡大図
【図3】本発明の第1の実施例による周波数変化を示す特性図
【図4】本発明の第2の実施例による周波数変化を示す特性図
【図5】本発明の第3の実施例による周波数変化を示す特性図
【符号の説明】
1 圧電体基板
2 櫛形電極
3 ポリウレタン系の絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電性を有する基板と、前記基板上に設けた電極とを備えた表面弾性波素子上に、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布して塗膜を形成し、次に前記塗膜を反応硬化させて前記電極および前記基板の表面にウレタン結合を介してポリウレタン系膜を形成するものであって、前記ポリウレタン系膜を用いて周波数を調整する表面弾性波素子の製造方法。
【請求項2】 ポリウレタン系膜の質量を可変させることにより周波数を調整する工程を含む請求項2記載の面弾性波素子の製造方法。
【請求項3】 イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈濃度を変えて用いる請求項3記載の表面弾性波素子の製造方法。
【請求項4】 塗膜の厚さを変えることを特徴とする請求項3記載の表面弾性波素子の製造方法。
【請求項5】 イソシアネート基を複数個含む化合物の分子量を変えて用いる請求項3記載の表面弾性波素子の製造方法。
【請求項6】 圧電性を有する基板と、前記基板上に設けた電極とを備えた表面弾性波素子上に、イソシアネート基を複数個含む化合物の希釈溶液を塗布して塗膜を形成し、次に前記塗膜を反応硬化させて前記電極および前記基板の表面にウレタン結合を介して周波数調整用のポリウレタン系膜を形成する工程を含み、前記工程を繰り返し行うことにより周波数を調整する表面弾性波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3289548号(P3289548)
【登録日】平成14年3月22日(2002.3.22)
【発行日】平成14年6月10日(2002.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−119693
【出願日】平成7年5月18日(1995.5.18)
【公開番号】特開平8−316774
【公開日】平成8年11月29日(1996.11.29)
【審査請求日】平成12年2月8日(2000.2.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【参考文献】
【文献】特開 平4−239214(JP,A)