説明

表面弾性波計測装置および方法

【課題】励起信号と周回信号との位相差を正確に計測する。
【解決手段】表面弾性波計測装置10は、周回信号を互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配器21と、励起信号を互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配器22と、一の第1基準信号の位相を変換して第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する位相シフタ23と、第1周回信号と第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部24と、第2周回信号と第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部25と、I信号とQ信号とに基づいて、表面弾性波の振幅および位相を計測する計測部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測し得る表面弾性波計測装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、球形状の圧電性結晶基材の表面にすだれ状電極が形成された「球状表面弾性波素子」が各種センサに応用されている。
【0003】
球状表面弾性波素子では、すだれ状電極に高周波信号が印加されると、基材表面上の伝搬面に表面弾性波(Surface Acoustic Wave)が励起される。また、励起された表面弾性波は、球状表面弾性波素子が平板形状ではなく球形状であるため、円環状の伝搬面を多重周回するようになる。
【0004】
多重周回する表面弾性波の伝搬速度は、基材表面の状態に応じて変化する。例えば、基材表面への分子の付着等により、表面弾性波の伝搬速度が変化する。また、円環状領域の周長が表面弾性波の波長の整数倍となるときには、共鳴周波数が変化する。
【0005】
そこで、このような伝搬速度の変化に基づいて、基材表面に成膜された反応膜に付着する分子等を検出するセンサの開発が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−101974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、伝搬速度の変化を計測するためには、表面弾性波を励起するための励起信号と、表面弾性波が素子を多重周回した後に検出される周回信号との位相差を測定する必要がある。
【0007】
ところが、位相は、0〜2πの間で変化する値である。それゆえ、2πを超えて位相が変化する場合には、位相が遅れていても進んでいるように計測されてしまい、両信号の位相差を正確に捉えることが困難になる。
【0008】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであり、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測し得る表面弾性波計測装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために以下の手段を講じる。
【0010】
請求項1に対応する発明は、球状表面弾性波素子の電極に励起信号を印加し、該励起信号により励起される表面弾性波の周回信号から該表面弾性波の振動変化を計測する表面弾性波計測装置において、前記励起信号と前記周回信号とに基づいて表面弾性波を検波するための検波手段と、前記検波手段により検波された表面弾性波の振動変化を計測する計測手段とを備えた表面弾性波計測装置である。
【0011】
請求項2に対応する発明は、請求項1に対応する表面弾性波計測装置であって、前記検波手段は、前記周回信号を、互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配手段と、前記励起信号を、互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配手段と、前記2つの第1基準信号の一方の位相を変換し、該第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する第2基準信号生成手段と、前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部と、前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部とを備え、前記計測手段は、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測する手段を備えた表面弾性波計測装置である。
【0012】
請求項3に対応する発明は、請求項1に対応する表面弾性波計測装置であって、前記検波手段は、前記周回信号を、互いに同位相の2つの第1周回信号に等分配する周回信号分配手段と、前記2つの第1周回信号の一方の位相を変換し、該第1周回信号の位相に直交する位相を有する第2周回信号を生成する第2周回信号生成手段と、前記励起信号を、互いに同位相の第1基準信号と第2基準信号とに等分配する基準信号分配手段と、前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部と、前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部とを備え、前記計測手段は、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測する手段を備えた表面弾性波計測装置である。
【0013】
請求項4に対応する発明は、球状表面弾性波素子の電極に励起信号を印加し、該励起信号により励起される表面弾性波の周回信号から該表面弾性波の振動変化を計測する表面弾性波計測方法において、前記励起信号と前記周回信号とに基づいて表面弾性波を検波するための検波ステップと、前記検波ステップにより検波された表面弾性波の振動変化を計測する計測ステップとを備えた表面弾性波計測方法である。
【0014】
請求項5に対応する発明は、請求項4に対応する表面弾性波計測方法であって、前記検波ステップは、前記周回信号を、互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配ステップと、前記励起信号を、互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配ステップと、前記2つの第1基準信号の一方の位相を変換し、該第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する第2基準信号生成ステップと、前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI系統乗算回路部によりI信号を出力するステップと、前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ系統乗算回路部によりQ信号を出力するステップとを備え、前記計測ステップは、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測するステップを備えた表面弾性波計測方法である。
【0015】
請求項6に対応する発明は、請求項4に対応する表面弾性波計測方法であって、前記検波ステップは、前記周回信号を、互いに同位相の2つの第1周回信号に等分配する周回信号分配ステップと、前記2つの第1周回信号の一方の位相を変換し、該第1周回信号の位相に直交する位相を有する第2周回信号を生成する第2周回信号生成ステップと、前記励起信号を、互いに同位相の第1基準信号と第2基準信号とに等分配する基準信号分配ステップと、前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI系統乗算回路部によりI信号を出力するステップと、前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ系統乗算回路部によりQ信号を出力するステップとを備え、前記計測ステップは、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測するステップを備えた表面弾性波計測方法である。
【0016】
<作用>
従って、本発明は以上のような手段を講じたことにより、以下の作用を有する。
【0017】
請求項1・4に対応する発明は、表面弾性波を励起するための励起信号と、表面弾性波からの周回信号とに基づいて、表面弾性波の振動変化を計測しており、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測することができる。
【0018】
請求項2・5に対応する発明は、請求項1・4に対応する作用に加え、周回信号を互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配し、励起信号を互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配し、一の第1基準信号の位相を変換して第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成し、第1周回信号と第1基準信号とに基づいてI信号を出力し、第2周回信号と第2基準信号とに基づいてQ信号を出力し、I信号とQ信号とに基づいて、表面弾性波の振幅および位相を計測するので、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測することができる。
【0019】
請求項3・6に対応する発明は、請求項1・4に対応する作用に加え、周回信号を互いに同位相の2つの第1周回信号に等分配し、一の第1周回信号の位相を変換して第1周回信号の位相に直交する位相を有する第2周回信号を生成し、励起信号を互いに同位相の第1基準信号と第2基準信号とに等分配し、第1周回信号と第1基準信号とに基づいてI信号を出力し、第2周回信号と第2基準信号とに基づいてQ信号を出力し、I信号とQ信号とに基づいて、表面弾性波の振幅および位相を計測するので、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0022】
<第1の実施形態>
(1−1.構成)
図1は本発明の第1の実施形態に係る表面弾性波計測装置10の構成を示す模式図である。
【0023】
表面弾性波計測装置10は、球状表面弾性波素子90のすだれ状電極92に励起信号を印加し、その励起信号により励起される表面弾性波の周回信号から表面弾性波の振動変化を計測するものである。
【0024】
具体的には、表面弾性波計測装置10は、高周波信号発振部11と高周波信号用カプラー12・高周波スイッチ部13・高周波増幅部14・高周波パワースイッチ部15・切換スイッチ部16・整合器17・制御部18・プリアンプ部20・周回信号分配器21・基準信号分配器22・位相シフタ23・I系統乗算回路部24・Q系統乗算回路部25・ローパスフィルター部26,27・直流増幅部28,29・計測部30とを備えている。
【0025】
なお、球状表面弾性波素子90は、図2に示すように、表面弾性波が周回可能に伝搬し得る伝搬面91Sを有する基材91と、その基材91上にすだれ状電極92とを備えている。すだれ状電極92は、伝搬面91S上に表面弾性波を励起するとともに、周回した表面弾性波の周回信号を検出する機能を有している。
【0026】
高周波信号発振部11は、球状表面弾性波素子90の基材表面上を多重周回する表面弾性波振動を発生させるための高周波信号(周波数fp)を生成するものである。高周波信号発振部11により生成された高周波信号は、「励起信号」として、高周波スイッチ部13へ出力される。ただし、高周波信号の一部は、高周波信号用カプラー12により、基準信号分配器22へ出力される。
【0027】
高周波スイッチ部13は、高アイソレーション特性を有するスイッチであり、制御部18により制御される。高周波スイッチ部13に入力された高周波信号は、高周波増幅部14により必要な高周波エネルギーレベルまで増幅されてから、高周波パワースイッチ部15を経由して、切換スイッチ部16に送られる。なお、高周波スイッチ部13および高周波パワースイッチ部15は、高アイソレーション特性であるため、高周波信号発振部11からの漏れ信号成分が殆ど含まれない高周波信号を出力する。
【0028】
高周波パワースイッチ部15は、高アイソレーション特性を有するスイッチであり、高周波増幅部14により増幅された高周波信号の高エネルギー出力に対して耐久性を有している。
【0029】
切換スイッチ部16は、球状表面弾性波素子90のすだれ状電極92に励起信号を入力するか、すだれ状電極92から出力される周回信号を検出するかを切り換えるスイッチである。具体的には、切換スイッチ部16は、整合器17と高周波パワースイッチ部15とを接続するか(図3(A))、整合器17とプリアンプ部20とを接続するか(図3(B))、整合器17を高周波パワースイッチ部15およびプリアンプ部20のいずれにも接続しないか(図3(C))の状態に切り換える機能を有している。なお、整合器17と高周波パワースイッチ部15とを接続し(図3(A))、表面弾性波が励起した後に、整合器17を高周波パワースイッチ部15およびプリアンプ部20のいずれにも接続しないようにすると(図3(C))、表面弾性波が伝搬面91Sを多重周回し続けることになる。
【0030】
整合器17は、球状表面弾性波素子90の入力インピーダンスとのインピーダンス整合を行なうためのものである。
【0031】
制御部18は、各装置の動作を制御するものである。具体的には、コントロール信号を出力して、高周波スイッチ部13・高周波パワースイッチ部15・切換スイッチ部16を同時に切り換える制御を行なう。これにより、高周波信号発振部11から出力される連続波をON−OFFし、球状表面弾性波素子90に高周波バースト信号を印加することができる。
【0032】
プリアンプ部20は、球状表面弾性波素子90から出力される電気信号(周波数fr)を増幅するものであり、増幅した電気信号を「周回信号」として周回信号分配器21へ出力する。
【0033】
周回信号分配器21は、プリアンプ部20から送られてくる周回信号を、互いに同位相の「第1周回信号」と「第2周回信号」とに等分配するものであり、第1周回信号をI系統乗算回路部24に送出し、第2周回信号をQ系統乗算回路部25に送出する。
【0034】
基準信号分配器22は、高周波信号用カプラー12から送られてくる高周波信号を、互いに同位相の2つの基準信号に等分配するものである。そして、基準信号分配器22は、2つの基準信号のうち一方を、「第1基準信号」として、そのままI系統乗算回路部24へ送出する。また、他方の基準信号を位相シフタ23に送出する。
【0035】
位相シフタ23は、等分配された基準信号の一方の位相を変換するものであり、第1基準信号の位相に直交する位相を有する「第2基準信号」を生成する機能を有する。すなわち、第2基準信号は、第1基準信号の位相のみを90°ずらしたものである。位相を90°シフトする方法としては、伝送線路による遅延方法を用いることができる。また、分配器と位相器とを一体化し、コイルとコンデンサとを組み合わせて、各出力端子において位相差が90°で同レベルの出力信号を得られるようにする方法を用いることもできる。なお、位相シフタ23により生成された第2基準信号はQ系統乗算回路部25へ出力される。
【0036】
I系統乗算回路部24は、周回信号分配器21から入力された第1周回信号と、基準信号分配器22から入力された第1基準信号とに基づいて「I信号」を出力するためのものである。具体的には、ダイオードやDBM(ダブルバランスドミキサー)にような非線形素子により構成される。
【0037】
ここで、I系統乗算回路部24における入出力特性は非線形である。そのため、入力信号einと出力信号eoutとには、以下の式が成立する。なお、K1,K2,K3は定数である。
【0038】
eout=K1ein+K2ein+K3ein+・・・・・
この式から、I系統乗算回路部24において、基準信号をAcos(ωt)とし、球状表面弾性波素子90からの周回信号をARcos(ωt+θ)とし、基準信号と周回信号との和を入力信号einに代入して計算すると、それぞれの成分が1次項より発生する。また、それぞれの2次高調波成分および位相差θによる直流成分であるK2・A・ARcos(θ)の信号が2次項より出力される。また、3次項以降は出力が小さいので無視できる。
【0039】
そして、I系統乗算回路部24から出力される電気信号は、ローパスフィルター部26により周波数選択された後、直流増幅器28により増幅され、I信号として計測部30へ出力される。
【0040】
Q系統乗算回路部25は、周回信号分配器21から入力された第2周回信号と、位相シフタ23から入力された第2基準信号とに基づいて「Q信号」を出力するためのものである。Q系統乗算回路部25は、I系統乗算回路部24において基準信号の位相を90°ずらして計算するものであり、その出力信号はK2・A・ARsin(θ)となる。
【0041】
また、Q系統乗算回路部25から出力される電気信号は、ローパスフィルター部27により周波数選択された後、直流増幅器29により増幅され、Q信号として計測部30へ出力される。
【0042】
ローパスフィルター部26・27は、直流成分は通過させるが、基準信号の周波数以上の周波数を有する信号は遮断するフィルターである。
【0043】
計測部30は、直流増幅器28・29から送出されるI信号とQ信号とに基づいて、表面弾性波の振動変化を計測するものである。
【0044】
ここで、基準信号と周回信号との位相差をθとすると、I信号(S)とQ信号(S)とは、それぞれ下記のように表わされる。
【0045】
=K2・A・ARcos(θ)
=K2・A・ARsin(θ)
それゆえ、I信号とQ信号とをそれぞれ直交座標で表わすと、図4に示すように、円周状の点で表わされることになる。これにより、2次元座標上で位相の進みや遅れを計測できるようになる。
【0046】
また、図5に示すように、あるバースト信号に対応する周回信号R1から次のバースト信号に対応する周回信号R2の減衰率を調べる事により、表面弾性波の振幅変化を計測することができる。
【0047】
(1−2.動作)
次に本実施形態に係る表面弾性波計測装置10の動作を図6のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
始めに、球状表面弾性波素子90の基材表面上を多重周回する表面弾性波振動を発生させるための高周波信号が高周波信号発振部11で生成される(ステップS1)。この高周波信号は、高周波信号用カプラー12・高周波スイッチ部13を経由して高周波増幅部14に送られる。そして、高周波増幅部14により、球状表面弾性波を励起するために必要な高周波エネルギーレベルまで高周波信号が増幅される。
【0049】
続いて、高周波パワースイッチ部15および切換スイッチ部16を介して、球状表面弾性波素子90に高周波バースト信号が励起信号として印加される(ステップS2)。
【0050】
補足すると、高周波信号発振部11からの出力は、常に連続波である。そこで、制御部18のコントロール信号によって高周波スイッチ部13や高周波パワースイッチ部15を同時に切り換えることにより、高周波エネルギーがON−OFFされた高周波バースト信号が励起信号として球状表面弾性波素子90に印加される。
【0051】
高周波バースト信号が印加されると(ON状態)、すだれ状電極92に与えられた高周波エネルギーによって、球状表面弾性波素子90の基材表面上に表面弾性波振動が発生し、表面弾性波が伝搬面91Sを多重周回するようになる。
【0052】
次に、制御部18のコントロール信号によって各スイッチ部13・15がOFF状態に切り換えられ、切換スイッチ部16の動作によって、整合器17とプリアンプ部20とが接続される(ステップS3)。これにより、すだれ状電極92を表面弾性波が通過する毎に、プリアンプ部20へ電気信号が送られる。なお、各スイッチ部13・15は高アイソレーション特性であるため、高周波信号発振部11からの漏れ信号成分が殆ど含まれない高周波信号が出力される。
【0053】
続いて、プリアンプ部20で増幅された電気信号は、周回信号として、周回信号分配器21に加えられる。周回信号分配器21からは、同位相で且つ同レベルの信号が出力される。そして、これらの信号が、第1周回信号および第2周回信号として、I系統乗算回路部24およびQ系統乗算回路部25にそれぞれ入力される(ステップS4)。なお、I系統乗算回路部24とQ系統乗算回路部25とに入力される各周回信号は、互いに等しいレベルで、位相差が0°の信号である。
【0054】
一方、高周波信号発振部11から出力された信号の一部は、高周波信号用カプラー12によって取り出され、各乗算回路部24・25に基準信号が入力される(ステップS5)。
【0055】
具体的には、まず、高周波信号用カプラー12からの信号が、基準信号分配器22に加えられる。そして、基準信号分配器22において、同位相・同レベルの2系統の基準信号が出力される。2系統の基準信号のうち一方は、第1基準信号として、I系統乗算回路部24にそのまま入力される。また、他方は、位相シフタ23に入力されて、位相が90°シフトされる。この後、位相が90°シフトされた信号は、第2基準信号として、Q系統乗算回路部25に入力される。なお、I系統乗算回路部24とQ系統乗算回路部25とに入力される各基準信号は、互いに等しいレベルで、90°の位相差を持ったものである。
【0056】
このようにして、各乗算回路部24・25に周回信号と基準信号とが入力されると、周回信号と基準信号との積を表わす信号が各乗算回路部24・25から出力される(ステップS6)。
【0057】
続いて、各乗算回路部24・25からの出力信号が、ローパスフィルター部26・27を経由した後、直流増幅部28・29によって、信号処理を施しやすいレベルまで増幅されて、I信号およびQ信号が生成される(ステップS7)。これらのI信号およびQ信号には、表面弾性波の振幅情報および位相情報が含まれる。
【0058】
次に、これらのI信号およびQ信号を基にして、球状表面弾性波素子90の基材表面の状態や、その基材表面への分子の付着等による表面弾性波振動の振幅レベルの変化および位相の変化が計測部30により計測される(ステップS8)。
【0059】
(1−3.効果)
以上説明したように、本実施形態に係る表面弾性波計測装置10は、周回信号を互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配器21と、励起信号を互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配器22と、一の第1基準信号の位相を変換して第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する位相シフタ23と、第1周回信号と第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部24と、第2周回信号と第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部25と、I信号とQ信号とに基づいて、表面弾性波の振幅および位相を計測する計測部30とを備えた構成により、励起信号と周回信号との位相差を正確に計測することができる。
【0060】
また、表面弾性波計測装置10により出力されるI信号とQ信号とに基づいて、周回信号の減衰率を計測すれば、表面弾性波の振幅レベルの変化を計測することもできる。
【0061】
なお、本実施形態に係る表面弾性波計測装置10によれば、一般的なヘテロダイン方式のように局部発振器を用いる必要がない。それゆえ、全体の回路構成が簡単になる。また、振幅のみならず、位相差も正確に捉えることができる。
【0062】
(変形例)
なお、本実施形態においては、基準信号分配器22により分配された基準信号の位相を90°シフトしてQ信号を求めているが、周回信号の位相を90°シフトしてQ信号を求めてもよい。すなわち、図7に示すように、基準信号分配器22により分配された基準信号はQ系統乗算回路部25にそのまま入力し、周回信号分配器21により分配された周回信号は位相を90°シフトしてから入力する。
【0063】
このような構成であっても、I信号とQ信号とを得ることができるので、球状表面弾性波素子90の基材表面の状態や、その基材表面への分子の付着等による表面弾性波振動の変化に伴う、すだれ状電極92に発生する周回信号の振幅変化および位相変化を検出することができる。
【0064】
<第2の実施形態>
図8は本発明の第2の実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sの構成を示す模式図である。なお、既に説明した部分と同一部分には同一符号を付し、特に説明がない限りは重複した説明を省略する。また、以下の各実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0065】
本実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sは、高周波信号発振部11と高周波信号用カプラー12・高周波スイッチ部13・高周波増幅部14・高周波パワースイッチ部15・切換スイッチ部16・整合器17・制御部18・プリアンプ部20・周波数変換用局部発振部40・基準信号用カプラー41・周波数変換器42・中間周波フィルター43・中間周波増幅部44・復調型対数増幅器45・中間周波用リミットアンプ46・基準周波数変換器47・基準信号用フィルター48・基準信号用リミットアンプ49・位相比較器50・ローパスフィルター部51・計測部52とを備えている。
【0066】
すなわち、表面弾性波計測装置10Sは、いわゆるヘテロダイン方式の構成をしており、高周波信号発振部11により発振される高周波信号を、別の発振源である周波数変換用局部発振部40と周波数変換器42とを用いて、信号処理の行ないやすい低い周波数帯(中間周波)に変換させている。
【0067】
次に本実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sの動作を図9のフローチャートを用いて説明する。
【0068】
始めに、表面弾性波計測装置10Sにおいて、前述した処理S1〜S3と同一の処理が実行される(T1〜T3)。これにより、球状表面弾性波素子90の伝搬面91Sに表面弾性波が励起される。そして、表面弾性波がすだれ状電極92を通過する毎に発生する電気信号がプリアンプ部20へ送られる。
【0069】
続いて、プリアンプ部20で増幅された電気信号は、周波数変換用局部発振部40で生成される基準信号(周波数f0)とともに周波数変換器42に注入され、ミキシング動作が実行される(ステップT4)。
【0070】
これにより、周波数変換器42において各種周波数成分の信号が発生する。この各種周波数成分の信号は、所定の中間周波数成分の信号だけを通過する中間周波フィルター43によって必要な周波数帯の成分のみ(周波数fmr)に絞られる。そして、必要な周波数帯の成分のみに絞られた信号が、中間周波増幅部44によって増幅される(ステップT5)。
【0071】
その後、中間周波増幅部44により増幅された信号の一部が復調型対数増幅器45に入力される。これにより、復調型対数増幅器45にて、球状表面弾性波素子90の基材表面上を周回する表面弾性波振動の振幅成分が対数圧縮された復調出力として得られる(ステップT6)。
【0072】
この復調出力が計測部52によりモニタリングされて、球状表面弾性波素子90の表面における状況変化が計測される(ステップT7)。
【0073】
一方、ステップT5の後、中間周波増幅部44により増幅された信号の一部は、中間周波用リミットアンプ46によって振幅が最大限まで増幅される。これにより、表面弾性波の「位相情報信号」が生成され、位相比較器50に加えられる(ステップT8)。
【0074】
なお、位相比較器50には、位相情報信号から表面弾性波の位相の遅れを検出するために「基準信号」を入力する必要がある。この基準信号は、次のようにして求める。まず、高周波信号発振部11から出力された信号の一部が高周波信号用カプラー12により取り出される。さらに、周波数変換用発振部40から出力された信号の一部が基準信号用カプラー41により取り出される。そして、これらの信号が、基準信号生成用周波数変換器47に入力される。基準信号生成用周波数変換器47からは各種周波数成分の信号が発生し、基準信号用フィルター48によって所定の中間周波数成分の信号(周波数fms)だけが選択される。さらに、その出力信号の振幅が基準信号用リミットアンプ49により最大限まで増幅されることにより、基準信号が生成される。
【0075】
基準信号と位相情報信号とが位相比較器50に入力されると、位相比較器50から位相比較信号が出力される(ステップT9)。そして、この位相比較信号が、ローパスフィルター部51を介して計測部52に入力される。計測部52では、各信号の位相差の変化を直流的な変化にする。そして、これをモニタリングすることにより、位相差が計測される(ステップT10)。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sは、周波数変換用局部発振部40と周波数変換器42とを備えているので、周回信号を中間周波に変換することにより高精度に位相差の変化を計測することができる。
【0077】
<その他>
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る表面弾性波計測装置10の構成を示す模式図である。
【図2】同実施形態に係る表面弾性波素子90の構成を示す模式図である。
【図3】同実施形態に係る切換スイッチ部16の動作を説明するための概念図である。
【図4】同実施形態に係る計測部30による位相差の計測方法の概念図である。
【図5】同実施形態に係る計測部30による振幅変化の計測方法の概念図である。
【図6】同実施形態に係る表面弾性波計測装置10の動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】同実施形態に係る表面弾性波計測装置の他の構成例を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sの構成を示す模式図である。
【図9】同実施形態に係る表面弾性波計測装置10Sの動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
10,10S・・・表面弾性波計測装置、11・・・高周波信号発振部、12・・・高周波信号用カプラー、13・・・高周波スイッチ部、14・・・高周波増幅部、15・・・高周波パワースイッチ部、16・・・切換スイッチ部、17・・・整合器、18・・・制御部、20・・・プリアンプ部、21・・・周回信号分配器、22・・・基準信号分配器、23・・・位相シフタ、24・・・I系統乗算回路部、25・・・Q系統乗算回路部、26,27・・・ローパスフィルター部、28,29・・・直流増幅部、30・・・計測部、40・・・周波数変換用局部発振部、41・・・基準信号用カプラー、42・・・周波数変換器、43・・・中間周波フィルター、44・・・中間周波増幅部、45・・・復調型対数増幅器、46・・・中間周波用リミットアンプ、47・・・基準周波数変換器、48・・・基準信号用フィルター、49・・・基準信号用リミットアンプ、50・・・位相比較器、51・・・ローパスフィルター部、52・・・計測部、90・・・球状表面弾性波、91・・・基材、91S・・・伝搬面、92・・・すだれ状電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状表面弾性波素子の電極に励起信号を印加し、該励起信号により励起される表面弾性波の周回信号から該表面弾性波の振動変化を計測する表面弾性波計測装置において、
前記励起信号と前記周回信号とに基づいて表面弾性波を検波するための検波手段と、
前記検波手段により検波された表面弾性波の振動変化を計測する計測手段と
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面弾性波計測装置であって、
前記検波手段は、
前記周回信号を、互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配手段と、
前記励起信号を、互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配手段と、
前記2つの第1基準信号の一方の位相を変換し、該第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する第2基準信号生成手段と、
前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部と、
前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部と
を備え、
前記計測手段は、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測する手段
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の表面弾性波計測装置であって、
前記検波手段は、
前記周回信号を、互いに同位相の2つの第1周回信号に等分配する周回信号分配手段と、
前記2つの第1周回信号の一方の位相を変換し、該第1周回信号の位相に直交する位相を有する第2周回信号を生成する第2周回信号生成手段と、
前記励起信号を、互いに同位相の第1基準信号と第2基準信号とに等分配する基準信号分配手段と、
前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI信号を出力するI系統乗算回路部と、
前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ信号を出力するQ系統乗算回路部と
を備え、
前記計測手段は、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測する手段
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測装置。
【請求項4】
球状表面弾性波素子の電極に励起信号を印加し、該励起信号により励起される表面弾性波の周回信号から該表面弾性波の振動変化を計測する表面弾性波計測方法において、
前記励起信号と前記周回信号とに基づいて表面弾性波を検波するための検波ステップと、
前記検波ステップにより検波された表面弾性波の振動変化を計測する計測ステップと
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測方法。
【請求項5】
請求項4に記載の表面弾性波計測方法であって、
前記検波ステップは、
前記周回信号を、互いに同位相の第1周回信号と第2周回信号とに等分配する周回信号分配ステップと、
前記励起信号を、互いに同位相の2つの第1基準信号に等分配する基準信号分配ステップと、
前記2つの第1基準信号の一方の位相を変換し、該第1基準信号の位相に直交する位相を有する第2基準信号を生成する第2基準信号生成ステップと、
前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI系統乗算回路部によりI信号を出力するステップと、
前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ系統乗算回路部によりQ信号を出力するステップと
を備え、
前記計測ステップは、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測するステップ
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測方法。
【請求項6】
請求項4に記載の表面弾性波計測方法であって、
前記検波ステップは、
前記周回信号を、互いに同位相の2つの第1周回信号に等分配する周回信号分配ステップと、
前記2つの第1周回信号の一方の位相を変換し、該第1周回信号の位相に直交する位相を有する第2周回信号を生成する第2周回信号生成ステップと、
前記励起信号を、互いに同位相の第1基準信号と第2基準信号とに等分配する基準信号分配ステップと、
前記第1周回信号と前記第1基準信号とに基づいてI系統乗算回路部によりI信号を出力するステップと、
前記第2周回信号と前記第2基準信号とに基づいてQ系統乗算回路部によりQ信号を出力するステップと
を備え、
前記計測ステップは、前記I信号と前記Q信号とに基づいて、前記表面弾性波の振幅および位相を計測するステップ
を備えたことを特徴とする表面弾性波計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−82880(P2008−82880A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263111(P2006−263111)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】