表面改質された導電性材料の製造方法
【課題】表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造できる方法を提供する。
【解決手段】電解溶液3中に、不溶性陽極電極4と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極5としての被処理材とを浸漬した後、電解溶液3中に浸漬した不溶性陽極電極4と、陰極電極5としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値に対応する電圧であり、第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする表面改質された導電性材料の製造方法である。
【解決手段】電解溶液3中に、不溶性陽極電極4と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極5としての被処理材とを浸漬した後、電解溶液3中に浸漬した不溶性陽極電極4と、陰極電極5としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値に対応する電圧であり、第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする表面改質された導電性材料の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質された導電性材料の製造方法に関し、特に、表面にナノレベルの微細構造を形成した導電性材料を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼板等の金属板を含む導電性材料の分野において、表面に様々な機能を付与した高機能(高付加価値)材料が注目されている。そして、導電性材料の表面に機能を付与する一つの方法として、材料表面にミクロンオーダー以下(ナノレベル)の微細構造を形成することで材料表面に様々な機能を付与する方法が特に注目されている。
【0003】
ここで、材料の表面にナノレベルの微細構造を形成する方法としては、光リソグラフィー法や化学気相堆積法(CVD)を用いて基板等の表面にナノメートルサイズの微細構造を形成する方法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、光リソグラフィー法や化学気相堆積法でナノレベルの微細構造を形成するためには、高度な技術と高価な装置が必要であり、これらの方法では、ナノレベルの微細構造を低コストで効率的に形成することができない。
【0004】
一方、近年、低コストで効率的にナノメートルサイズの微粒子を形成する方法や、導電性表面を洗浄する方法や、導電性表面を洗浄した後にコーティング(金属化)する方法として、液中放電を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
具体的には、特許文献1では、電解溶液中に設置した陰極と陽極との間に高い電圧を印加し、陰極近傍でグロー放電を起こしてプラズマを発生させる(以下「液中プラズマ放電」という。)ことで、陰極材を局所的に融解させ、溶液中に陰極材からなる導体微粒子(ナノ粒子)を形成する方法が提案されている。そして、特許文献1では、より小さい粒子を形成するために、電極全面からプラズマ発光が生じる完全プラズマ状態を呈する電圧(使用する陰極材の種類等によって異なるが、例えば140〜300Vの高電圧)を印加して、液中プラズマ放電を発生させている。
【0006】
また、特許文献2および3では、陰極としての被処理材と、1つ以上の開口が設けられた陽極とを設置し、陽極の開口を通過させて流した電解溶液を被処理材の表面に衝突させると共に、被処理材(陰極)と陽極との間に所定の電圧を印加することにより、被処理材の表面を洗浄し、或いは、被処理材の表面を洗浄した後にコーティングする方法が提案されている。そして、特許文献2および3では、洗浄後の被処理材の表面粗さが大きくなり、コーティング膜との密着性が高くなる。
【0007】
しかし、特許文献1〜3に記載の技術は、陰極材からナノ粒子を製造し、或いは、被処理材の表面を洗浄等するための技術であり、陰極材の表面にナノレベルの微細構造を形成するという技術的思想は存在しておらず、陰極材(被処理材)の表面粗さが大きくなる条件下で放電を行っているので、陰極材自体の表面にナノレベルの微細構造を形成するのに使用することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/099618号
【特許文献2】特表2001−508122号公報
【特許文献3】特表2001−501674号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大津元一、「ナノマテリアル最前線」、化学同人、2002年、p.52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することを目的として、従来はナノレベルの微細構造の形成が不可能と考えられていた液中プラズマ放電の利用可能性の検討も含め、鋭意研究を行った。そして、本発明者らは、被処理材を陰極電極として用いて所定の電圧範囲内で部分的に液中プラズマ放電を起こすことで、被処理材(陰極電極)の表面にナノレベルの微細構造を形成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、電解溶液中に、不溶性陽極電極と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを浸漬した後、前記電解溶液中に浸漬した前記不溶性陽極電極と、前記陰極電極としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、前記被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、前記第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値(即ち、第1電流極大値と第1電流極小値との中間値)に対応する電圧であり、前記第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において、「電解溶液」とは、電気伝導性を有し、被処理材よりもイオン化傾向が大きく、被処理表面を改質処理する際に、被処理表面を過度にエッチングしたり、溶液中の成分が非処理表面に析出したり、沈殿が生成したりして、被処理表面の所望の改質処理(即ち、ナノレベルの微細構造の形成)を実質的に阻害することがない電解溶液を指す。因みに、電解溶液中には、改質処理時(電解時)に陰極電極表面へ析出してナノレベルの微細構造の形成を阻害しない金属イオンであれば、金属イオンが存在していても良い。
また、「不溶性陽極電極」とは、被処理表面を改質処理する際に、電解溶液中で実質的にイオン化しない導電性材料からなる電極を指す。
更に、「表面改質処理系」とは、不溶性陽極電極と、陰極電極(被処理材)と、電解溶液とを備え、被処理材の表面改質処理を行う系を指し、「表面改質処理系の電圧−電流特性」は、電解溶液中に浸漬した不溶性陽極電極と陰極電極との間に印加する電圧を連続的に変化させた際の電流値の変化を測定することで得ることができる。
なお、本発明の表面改質処理系の電圧−電流特性では、印加する電圧(正電圧)を高めていくと、電流値は、増加して極大値を取った後に減少し、その後、再び増加に転じるか、或いは、一定となる。そして、本発明では、印加する電圧を高めていった際の前記極大値(正電圧領域に最初に現れる極大値)を「第1電流極大値」とする。また、電流値が減少した後、増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは一定となった値を「第1電流極小値」とする。
更に、「完全プラズマ状態」とは、放電時に、オレンジ色が混じった発光、或いは、オレンジ色が主体の発光が陰極電極表面を覆う状態を指す。そして、「完全プラズマ状態を呈する電圧」は、炭素鋼や合金鋼を含む鉄鋼材料や、ステンレス鋼およびZnやAlなどの大気加熱で高温酸化される材料では、電圧を30分間印加した際に陰極電極の表層が少なくとも100nmの厚さで酸化される電圧として規定できる。なお、陰極電極の表層が酸化された厚さは、陰極電極の断面をSEMで観察し、酸化層の平均厚さを測定することにより判断することができる。ここで、酸化層は、SEMの反射電子像により下地と明瞭に区別することができ、酸化層の平均厚さは、陰極電極の表面に平行な10μmの長さの断面について、酸化層の厚さの平均値をとることで評価できる。因みに、陰極電極の表層に空隙等が存在する場合、酸化された厚さには該空隙なども含まれる。
【0014】
ここで、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記不溶性陽極電極と前記陰極電極との間に60V以上、140V未満の電圧を印加することが好ましい。印加する電圧を60V以上とすれば、被処理表面にナノレベルの微細構造を形成して表面改質を十分に達成することができ、印加する電圧を140V未満とすれば、完全プラズマの発生を十分に抑制して、被処理材の酸化により被処理表面にナノレベルの微細構造が形成されなくなるのを防止することができるからである。
【0015】
また、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、金属または合金材料であることが好ましい。金属材料や合金材料は、半導体材料等と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であることから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0016】
更に、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、炭素を含む鋼材(以下、「炭素鋼材」という。)であることが好ましい。炭素鋼材は、半導体材料と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であることから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0017】
また、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、ステンレス鋼材であることが好ましい。ステンレス鋼材は、半導体材料と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であり且つ高い耐食性を有することから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0018】
そして、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記電解溶液が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウムおよび水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよび塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等のクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする。炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等のクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸の水溶液は、電解溶液として特に適しているからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う代表的な表面改質された導電性材料の製造方法で導電性材料を製造する際に使用する表面改質装置の一例の構成を示す説明図である。
【図2】冷延鋼板を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフである。
【図3】ステンレス鋼材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフであり、(a)は、ステンレス鋼材がSUS316Lの場合の電圧−電流特性を示し、(b)は、ステンレス鋼材がSUS430の場合の電圧−電流特性を示す。
【図4】金属(ニッケル)材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフであり、(a)は、ニッケル材がニッケル板の場合の電圧−電流特性を示し、(b)は、ニッケル材がニッケルワイヤーの場合の電圧−電流特性を示す。
【図5】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の断面形状を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(a)は、表面改質処理系に印加する電圧を90Vとした場合について示し、(b)は、表面改質処理系に印加する電圧を100Vとした場合について示す。
【図6】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質された冷延鋼板の表面状態を示すSEM写真である。
【図7】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたニッケル材(ニッケル板)の表面状態を示すSEM写真である。
【図8】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の形状を示すSEM写真である。
【図9】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の組成を断面で示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(a)は、表面改質処理系に印加する電圧を90Vとした場合について示し、(b)は、表面改質処理系に印加する電圧を100Vとした場合について示す。
【図10】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)の表面状態を示すSEM写真である。
【図11】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)について、ステンレス鋼材の表面に存在する微細突起の平均存在密度と、表面に水滴を垂らした際の水滴の接触幅に対する高さの比(高さ/接触幅)との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)の表面のフォトルミネッセンススペクトルである。
【図13】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)について、ステンレス鋼材の表面に存在する微細突起の平均存在密度と、波長440nm付近の発光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、不溶性陽極電極と、導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを電解溶液中に浸漬した後、該不溶性陽極電極と陰極電極(導電性材料からなる被処理材)との間に所定の範囲内の電圧を印加することで、被処理材の表面(被処理表面)にナノレベルの微細構造を形成し、表面改質された導電性材料を製造することを特徴とする。
【0022】
ここで、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法の一例は、特に限定されることなく、例えば図1に示すような表面改質装置1を用いて実施することができる。
【0023】
図1に示す表面改質装置1は、改質処理セル2と、改質処理セル2内に貯留された電解溶液3と、電解溶液3中に互いに離隔して浸漬された陽極電極4および導電性を有する被処理材からなる陰極電極5と、それら陽極電極4および陰極電極5に接続された直流電源6とを備えている。なお、改質処理セル2中の電解溶液3の液面は、任意に耐熱樹脂(図示せず)で覆っても良い。また、表面改質装置1は、電解溶液3を加熱するためのヒーター等の加熱手段(図示せず)を備えていても良い。
【0024】
ここで、改質処理セル2としては、電解溶液3に対して安定な材質からなる既知のセル、例えばガラス、テフロン(登録商標)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)製のセルを用いることができる。
【0025】
電解溶液3は、電気伝導性を有し、陰極電極5としての被処理材よりもイオン化傾向が大きく、且つ、陽極電極4と陰極電極5(被処理材)との間に電圧を印加して被処理表面(陰極電極5の表面)にナノレベルの微細構造を形成する際に、被処理表面を過度にエッチングしたり、陽極電極4および陰極電極5の表面に付着や析出したり、沈殿物を形成したりし難い溶液である。そして、電解溶液3としては、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、リチウムの硫酸塩、ナトリウムの硫酸塩、マグネシウムの硫酸塩、カリウムの硫酸塩、アンモニウムの硫酸塩、リチウムの硝酸塩、ナトリウムの硝酸塩、マグネシウムの硝酸塩、カリウムの硝酸塩、アンモニウムの硝酸塩、リチウムのクエン酸塩、クエン酸ナトリウム(NaH2(C3H5O(COO)3)等のナトリウムのクエン酸塩、マグネシウムのクエン酸塩、カリウムのクエン酸塩、アンモニウムのクエン酸塩、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液を用いることができる。
【0026】
ここで、電解溶液3は、被処理材である導電性材料の表面改質が実施可能であれば、任意のpHおよび濃度とすることができ、例えば炭酸カリウム水溶液を電解溶液3として用いる場合には、その濃度は、特に限定されることなく0.001mol/L以上、より好ましくは0.005mol/L以上とすることができる。濃度が低すぎると、陽極電極4と陰極電極5との間に電圧を印加した際に好適な放電状態を維持することが困難となる場合があるからである。なお、濃度の上限は特に設けないが、例えば0.5mol/L以下とすることができる。また、電解溶液3のpHは、電極の過度の腐食やエッチングを起こさなければ任意の値とすることができ、例えばpH5〜12とすることができる。
【0027】
なお、陽極電極4と陰極電極5との間に電圧を印加した際の電解溶液3の液面での放電発生を防止したい場合には、改質処理セル2中の電解溶液3の液面は、フッ素樹脂熱収縮チューブ等の耐熱樹脂で覆うこともできる。
【0028】
陽極電極4は、陽極電極4と陰極電極5(被処理材)との間に電圧を印加して被処理表面(陰極電極5の表面)にナノレベルの微細構造を形成する際に、電解溶液3中にイオン化して溶解し、陰極電極5上に析出してナノレベルの微細構造の形成を阻害しない電極材からなる、不溶性陽極電極である。そして、陽極電極4としては、例えば白金(Pt)電極、パラジウム(Pd)電極、イリジウム(Ir)電極、表面をPtやPdやIrでコーティングした電極、或いは、黒鉛電極などを用いることができる。
【0029】
陰極電極5は、電圧の印加により表面が改質処理される被処理材であり、金属材料や合金材料などの導電性を有する材料(導電性材料)からなる。ここで、陰極電極5として機能する被処理材(導電性材料)としては、例えば、炭素鋼材、合金鋼材、ステンレス鋼材、ニッケル材などが挙げられる。また、陰極電極5(被処理材)の形状は、特に限定されることなく、板状、針金(ワイヤー)状、短冊状とすることができる。なお、被処理材(導電性材料)は、任意に、サンドペーパー等で表面を鏡面研磨してから陰極電極5として用いることができる。
【0030】
直流電源6は、被処理材である陰極電極5の表面の改質処理に必要な電圧、例えば60V以上、140V未満の電圧を陽極電極4と陰極電極5との間に印加するものである。そして、直流電源6としては、既知の電源を用いることができる。
【0031】
そして、上記のような構成を有する表面改質装置1では、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法に従い、例えば以下のようにして表面改質された導電性材料を製造することができる。
【0032】
まず、改質処理セル2内に貯留された電解溶液3中に、不溶性陽極電極である陽極電極4と、導電性材料からなる被処理材である陰極電極5とを離隔させて浸漬し、被処理材の表面改質処理を行う系(表面改質処理系)を構築する。なお、被処理材(陰極電極5)の表面改質処理は電解溶液3に浸漬している部分で起こる。
【0033】
次に、陽極電極4と陰極電極5との間に、所定の第1電圧V1以上であって所定の第2電圧V2未満の電圧V(0<V1≦V<V2)を印加し、被処理材(陰極電極5)の表面を改質処理する(表面改質処理工程)。
【0034】
ここで、第1電圧V1とは、予め測定しておいた表面改質処理系の電圧−電流特性から定めることができる電圧である。具体的には、第1電圧V1とは、表面改質処理系の電圧−電流特性において、印加する電圧Vを高めていった際に、次第に増加した電流Iが最初に取る極大値(V>0の正電圧領域に最初に現れる電流Iの極大値)である第1電流極大値IMAXと、第1電流極大値IMAXをとった後に次第に減少した電流Iが再び増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは電流Iが増加せずに一定となった値である第1電流極小値IMINとの和の1/2の電流値IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)に対応する電圧である。
【0035】
より詳細には、各被処理材の表面改質処理系の電圧−電流特性を示す図2〜4を用いて説明すると、第1電圧V1は、例えば以下の手順(1)〜(3)に従って電圧−電流特性から定めることができる。なお、図2は冷延鋼板を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示し、図3(a),(b)はステンレス鋼材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示し、図4はニッケル材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示している。
(1)まず、表面改質処理系に印加する電圧を変化させた際の電流の変化を測定し、電圧−電流特性を得る。この表面改質処理系の電圧−電流特性は、印加する電圧Vを高めていくと、電流Iの大きさは、増加して極大値を取った後に減少し、その後、再び増加に転じるか、増加せずに一定の値となる。
(2)次に、電圧−電流特性から、次第に増加した電流Iが最初に取る極大値である第1電流極大値IMAXを求める。また、第1電流極大値IMAXをとった後に次第に減少した電流Iが再び増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは電流Iが増加せずに一定となった値である第1電流極小値IMINを求める。
(3)最後に、第1電流極大値IMAXと第1電流極小値IMINとの和の1/2の電流値IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)を算出し、電圧−電流特性において電流値IHALFを示す第1電圧V1を求める。
【0036】
また、第2電圧V2とは、表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧である。そして、第2電圧V2は、例えば、表面改質処理系に印加する電圧を5Vまたは10Vずつ段階的に増加させながら電圧を30分間印加する操作を繰り返し、陰極電極の表層が少なくとも100nmの厚さで酸化される電圧を実験的に求めることにより決定することができる。
【0037】
ここで、第1電圧V1および第2電圧V2の大きさは表面改質処理系によって異なり、例えば、第1電圧V1の大きさは60V以上であることが多く、第2電圧V2の大きさは140V以下であることが多い。具体的には、導電性材料が炭素鋼材の場合には、第1電圧V1は80Vであり、第2電圧V2は140Vである。また、導電性材料がステンレス鋼材(SUS316L)の場合には、第1電圧V1は55Vであり、第2電圧V2は125Vである。
【0038】
そして、上述のようにして陽極電極4と陰極電極5との間に、第1電圧V1以上、第2電圧V2未満の電圧Vを印加すれば、被処理材である陰極電極5の表面(被処理表面)に、例えば図5に示すような、高さおよび直径がナノサイズ、好ましくは500nm以下の多数の微細突起が形成される。即ち、被処理表面が改質処理され、被処理表面にナノレベルの微細構造が形成される。
【0039】
なお、この微細突起は、原理的には明らかではないが、陰極電極5の近傍で部分的な液中プラズマ放電が起きることで形成されているものと推察されている。そして、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法では、陽極電極4と陰極電極5との間に印加する電圧が第1電圧V1未満だと、部分的な液中プラズマ放電が十分に起きずに微細突起(微細構造)が形成されず、第2電圧V2以上だと、完全プラズマの発生により被処理材である陰極電極5が酸化してしまい、被処理表面の粗度が数μmとなって微細突起(微細構造)が形成されない。
【0040】
ここで、液中プラズマ放電は、電圧の印加により陰極電極5の近傍の電解溶液の温度が局所的に沸点以上になり、陰極電極5の近傍にガス相が発生した際に、該ガス相中にプラズマ放電が生じることで起きているものと考えられる。そのため、表面改質処理工程における陽極電極4と陰極電極5との間への電圧の印加は、電解溶液の温度を85℃から100℃の範囲にしてから行うことが好ましい。陰極電極5の近傍での温度を効率的に上昇させて液中プラズマ放電を効率的に起こすことができるからである。なお、表面改質処理工程における電圧の印加時間は、任意の時間、例えば5秒以上、30分以下とすることができる。因みに、電圧の時間が短いほど、形成される微細突起のサイズが小さくなるので、電圧の印加時間は、所望の表面形状や特性に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
そして、上述したように、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法によれば、高価な装置および高度な技術を用いることなく、電解溶液中に浸漬した陽極電極と陰極電極との間に印加する電圧を制御するだけで、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。因みに、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料は、その微細構造に起因して様々な機能を発揮し得る。
【0042】
なお、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、上記一例に限定されることなく、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法には、適宜変更を加えることができる。
【0043】
以下、実施例1〜3により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例1〜3に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
図1に示す装置を用いて、被処理材としての市販の冷延鋼板(Cを0.018質量%、Siを0.01質量%、Mnを0.14質量%含有する軟鋼板:幅3mm、長さ20mm、厚さ0.7mm)の表面改質処理を様々な電圧で行った。
【0045】
具体的には、まず、陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として希塩酸で汚れを除去した上記市販冷延鋼板を用い、電解溶液として温度92〜97℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性を測定し、第1電圧V1を求めた。また、この表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとし、それより上部の電解溶液の液面にかかる部分は耐熱樹脂で被覆した。
その結果、図2に示すような電圧−電流特性が得られ、被処理物として市販冷延鋼板を用いたこの表面改質処理系では、第1電流極大値IMAXが6.3Aであり、第1電流極小値IMINが0.7Aであり、IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)が3.5Aであり、第1電圧V1が80Vであることが分かった。また、第2電圧V2が140Vであることも分かった。
【0046】
次に、電圧−電流特性を測定したのと同様の表面改質処理系において、陽極電極と陰極電極との間に表1に示す大きさの電圧を30分間印加して、被処理材の表面改質処理を行い、表面改質された冷延鋼板を作製した。なお、表面改質された冷延鋼板は、印加する電圧の大きさを75V〜145Vの範囲で変化させて複数作製した。そして、表面改質された冷延鋼板(陰極電極)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、表面にナノサイズの微細構造(微細突起)が形成されている場合には、微細突起のサイズ(微細突起を平面視で円とみなしたときの平均直径)を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、印加電圧が80〜135Vの条件下では、低コストで効率的に、被処理表面にナノサイズの微細構造を形成し得ることがわかる。なお、印加電圧が75V(第1電圧V1未満)の製造例1では、明確な微細突起の形成は認められなかった。また、印加電圧が145V(第2電圧V2以上)の製造例6では、陰極電極(被処理材)の表面が局所的に酸化してしまい、微細突起は形成されなかった。なお、製造例4で作製した表面改質された冷延鋼板の表面状態を示すSEM写真を図6に示す。
【実施例2】
【0049】
図1に示す装置を用いて、様々な被処理材(フェライト系ステンレス鋼SUS430(幅2mm、長さ20mm)、ニッケル板(幅2mm、長さ20mm)、ニッケルワイヤー(直径1mm、長さ40mm))に対して表面改質処理を行った。
【0050】
具体的には、まず、陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として上記被処理材を用い、電解溶液として温度92〜97℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性をそれぞれ測定し、第1電圧V1を求めた。また、各表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとし、電解溶液の表面は耐熱樹脂で被覆した。図3(b)に被処理材がSUS430の場合の電圧−電流特性を示し、図4(a)に被処理材がニッケル板の場合の電圧−電流特性を示し、図4(b)に被処理材がニッケルワイヤーの場合の電圧−電流特性を示す。
【0051】
図3(b)および図4(a),(b)より、被処理材がSUS430の場合、第1電圧V1は73V、第2電圧V2は125Vであり、被処理材がニッケル板の場合、第1電圧V1は63V、第2電圧V2は130Vであり、被処理材がニッケルワイヤーの場合、第1電圧V1は70V、第2電圧V2は135Vであることが分かった。
そして、各被処理材について、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加して表面改質処理を行ったところ、被処理表面にナノメートルサイズの微細突起が形成された。一例として、ニッケル板を100Vの印加電圧で30分間処理した際の表面のSEM写真を図7に示す。
【実施例3】
【0052】
図1に示す装置を用いて、被処理材としてのSUS316L(線材を圧延し、幅1.5mm、長さ40mm、厚さ0.2mmとした)の表面改質処理を行った。
【0053】
具体的には、まず、陽極電極としてメッシュ状の白金電極を用い、陰極電極として表面を#4000のサンドペーパーで鏡面研摩した上記SUS316Lを用い、電解溶液として温度95℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性を測定し、第1電圧V1を求めた。また、この表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとした。
その結果、図3(a)に示すような電圧−電流特性が得られ、被処理物としてSUS316Lを用いたこの表面改質処理系では、第1電流極大値IMAXが3.4Aであり、第1電流極小値IMINが0.6Aであり、IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)が2.0Aであり、第1電圧V1が55Vであることが分かった。また、第2電圧V2が125Vであることも分かった。
【0054】
次に、電圧−電流特性を測定したのと同様の表面改質処理系において、陽極電極と陰極電極との間に表2に示す大きさの電圧を表2に示す時間印加して、被処理材の表面改質処理を行い、表面改質されたSUS316Lを作製した。そして、表面改質されたSUS316Lの表面性状を以下のようにして評価した。
【0055】
【表2】
【0056】
<表面性状評価>
製造例7および8で作製した表面改質されたSUS316Lの表面の微細構造をSEMおよびTEMで観察した。製造例7の表面改質されたSUS316Lの微細構造のTEM写真を図5(a)に示し、製造例8の表面改質されたSUS316Lの微細構造のTEM写真を図5(b)に、SEM写真を図8に示す。
図5および8より、表面に数十ナノメートル〜数百ナノメートル程度の微細突起が多数形成されていることがわかる。なお、微細突起としては、マッシュルームのように先端付近よりも下部で細い形状を有しているものが多数存在している。ここで、微細突起のサイズは、印加電圧を変化させることで制御することができ、微細突起のサイズは、印加電圧90Vの製造例7では100nm以下であり、印加電圧100Vの製造例8では200〜300nm程度である。また、微細突起の密度(存在密度)も印加電圧を変化させることで制御できると推察され、微細突起の数密度は印加電圧が100Vの製造例8(約32個/μm2)の方が、印加電圧が90Vの製造例7(約7個/μm2)より低い。
【0057】
また、製造例7および8で作製した表面改質されたSUS316Lの表面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した際に、TEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析を行った。製造例7のTEM写真および元素分析結果を図9(a)に、製造例8のTEM写真および元素分析結果を図9(b)にそれぞれ示す。なお、図9中の元素分析結果は、微細突起部と下地部分の平均組成(金属元素のみで定量、単位は質量%)を示している。因みに、表面改質前のSUS316Lの組成範囲は、質量%で、Ni:12〜15%、Cr:16〜18%、Mo:2〜3%である。
図9より、製造例7で作製した表面改質されたSUS316Lでは、微細突起部のCr濃度が下地部分と比較して高く、微細突起部のNi濃度が下地部分と比較して低いことが分かる。一方、製造例8で作製した表面改質されたSUS316Lでは、微細突起部のCr濃度が下地部分と比較して非常に低いことが分かる。よって、この結果より、本発明の製造方法では、組成を制御した微細突起を有する導電性材料を製造し得る可能性があることが分かる。従って、本発明の製造方法は、Crが濃化した高耐食表面の製造に使用したり、Crが欠乏した、Niを有効元素とする触媒表面の製造に使用したりできる可能性がある。
【実施例4】
【0058】
陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として表面を研磨したSUS316(長さ20mm、厚さ0.8mm、幅2mm)を用い、電解溶液として0.1mol/LのK2CO3溶液を用いた表面改質処理系で、90V〜120Vの間で変更した電圧を15分間印加し、陰極電極の表面にサイズおよび分布が異なる微細突起を形成させた。SUS316の表面のSEM写真の一例を図10に示す。なお、SUS316を陰極電圧として用いた上記表面改質処理系の第1電圧V1は78Vであり、第2電圧V2は125Vであった。
そして、表面改質されたSUS316の表面の撥水性および発光特性を以下のようにして評価した。
【0059】
<表面の撥水性評価>
表面改質されたSUS316について、水滴を表面に垂らし、表面への水滴の接触幅(直径)に対する水滴の高さを測定したところ、高さ/接触幅は最大で0.62であった。表面改質前のSUS316の表面では、高さ/接触幅が0.38であったので、表面改質されたSUS316では、撥水性が向上していることが確かめられた。従って、表面改質されたSUS316は、水滴がついても落ちやすい、高耐食表面になっていると推察される。
また、表面改質されたSUS316で、1μmあたりの微細突起の平均数(微細突起の平均存在密度:個/μm)と、水滴の接触幅に対する高さの比との関係を調べたところ、図11に示すようになった。これより、微細突起の平均存在密度が著しく低い(即ち、微細突起数が著しく少なく、微細突起サイズが著しく大きい)場合を除き、微細突起の平均存在密度が高い(即ち、微細突起数が多く、微細突起サイズが小さい)ものよりも、微細突起の平均存在密度が低い(即ち、微細突起数が少なく、微細突起が大きい)もののほうが、撥水性が高い傾向があることが分かった。従って、撥水性を高める観点からは、ある程度高い電圧、例えば100V以上で微細突起を形成することが好ましいことがわかった。
なお、微細突起の平均存在密度は、SEMで得られた表面写真上に3μmの直線を引き、その直線が横切る微細突起数を、任意の10箇所について求めて、長さ1μmあたりに平均化したものである。
【0060】
<表面の発光特性評価>
表面改質されたSUS316の表面の発光特性をフォトルミネッセンス測定により評価した。得られた表面のフォトルミネッセンススペクトルを図12に示す。なお、図12には、微細突起の平均存在密度が4.3個/μm、1.9個/μm、0.3個/μmのSUS316表面の発光特性および表面改質前のSUS316表面の発光特性を示しており、図中のカッコ内の数値は形成された微細突起の平均直径を示している。
図12より、表面改質されたSUS316では、波長400nm〜470nm付近の可視光領域に、表面改質前(研磨あり)のSUS316にはない明確な発光強度ピークが得られることが分かる。このことから、表面改質されたSUS316の表面は発光素子などに利用することができると推察される。
また、表面改質されたSUS316で、1μmあたりの微細突起の平均数(微細突起の平均存在密度:個/μm)と、波長440nm付近の発光ピークの正味の発光強度(任意単位)との関係を調べたところ、図13に示すようになった。なお、正味の発光強度とは、波長390nmと波長490nmとの間を結ぶ直線をバックグランドとし、そのバックグランドからピークトップまでの高さである。因みに、微細突起の平均存在密度は、撥水性評価と同様にして求めた。
図13より、表面改質されたSUS316は、表面改質前(研磨あり)のSUS316(正味の発光強度は殆ど0)と比較して高い発光特性を有することが分かる。また、正味の発光強度は、微細突起の平均存在密度が高い(即ち、微細突起数が多く、微細突起サイズが小さい)もののほうが強くなっていることがわかる。従って、発光特性を向上させる観点からは、低電圧でより小さい微細突起を形成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 表面改質装置
2 改質処理セル
3 電解溶液
4 陽極電極
5 陰極電極
6 直流電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質された導電性材料の製造方法に関し、特に、表面にナノレベルの微細構造を形成した導電性材料を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼板等の金属板を含む導電性材料の分野において、表面に様々な機能を付与した高機能(高付加価値)材料が注目されている。そして、導電性材料の表面に機能を付与する一つの方法として、材料表面にミクロンオーダー以下(ナノレベル)の微細構造を形成することで材料表面に様々な機能を付与する方法が特に注目されている。
【0003】
ここで、材料の表面にナノレベルの微細構造を形成する方法としては、光リソグラフィー法や化学気相堆積法(CVD)を用いて基板等の表面にナノメートルサイズの微細構造を形成する方法が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、光リソグラフィー法や化学気相堆積法でナノレベルの微細構造を形成するためには、高度な技術と高価な装置が必要であり、これらの方法では、ナノレベルの微細構造を低コストで効率的に形成することができない。
【0004】
一方、近年、低コストで効率的にナノメートルサイズの微粒子を形成する方法や、導電性表面を洗浄する方法や、導電性表面を洗浄した後にコーティング(金属化)する方法として、液中放電を用いた方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
具体的には、特許文献1では、電解溶液中に設置した陰極と陽極との間に高い電圧を印加し、陰極近傍でグロー放電を起こしてプラズマを発生させる(以下「液中プラズマ放電」という。)ことで、陰極材を局所的に融解させ、溶液中に陰極材からなる導体微粒子(ナノ粒子)を形成する方法が提案されている。そして、特許文献1では、より小さい粒子を形成するために、電極全面からプラズマ発光が生じる完全プラズマ状態を呈する電圧(使用する陰極材の種類等によって異なるが、例えば140〜300Vの高電圧)を印加して、液中プラズマ放電を発生させている。
【0006】
また、特許文献2および3では、陰極としての被処理材と、1つ以上の開口が設けられた陽極とを設置し、陽極の開口を通過させて流した電解溶液を被処理材の表面に衝突させると共に、被処理材(陰極)と陽極との間に所定の電圧を印加することにより、被処理材の表面を洗浄し、或いは、被処理材の表面を洗浄した後にコーティングする方法が提案されている。そして、特許文献2および3では、洗浄後の被処理材の表面粗さが大きくなり、コーティング膜との密着性が高くなる。
【0007】
しかし、特許文献1〜3に記載の技術は、陰極材からナノ粒子を製造し、或いは、被処理材の表面を洗浄等するための技術であり、陰極材の表面にナノレベルの微細構造を形成するという技術的思想は存在しておらず、陰極材(被処理材)の表面粗さが大きくなる条件下で放電を行っているので、陰極材自体の表面にナノレベルの微細構造を形成するのに使用することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/099618号
【特許文献2】特表2001−508122号公報
【特許文献3】特表2001−501674号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大津元一、「ナノマテリアル最前線」、化学同人、2002年、p.52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することを目的として、従来はナノレベルの微細構造の形成が不可能と考えられていた液中プラズマ放電の利用可能性の検討も含め、鋭意研究を行った。そして、本発明者らは、被処理材を陰極電極として用いて所定の電圧範囲内で部分的に液中プラズマ放電を起こすことで、被処理材(陰極電極)の表面にナノレベルの微細構造を形成し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、電解溶液中に、不溶性陽極電極と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを浸漬した後、前記電解溶液中に浸漬した前記不溶性陽極電極と、前記陰極電極としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、前記被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、前記第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値(即ち、第1電流極大値と第1電流極小値との中間値)に対応する電圧であり、前記第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において、「電解溶液」とは、電気伝導性を有し、被処理材よりもイオン化傾向が大きく、被処理表面を改質処理する際に、被処理表面を過度にエッチングしたり、溶液中の成分が非処理表面に析出したり、沈殿が生成したりして、被処理表面の所望の改質処理(即ち、ナノレベルの微細構造の形成)を実質的に阻害することがない電解溶液を指す。因みに、電解溶液中には、改質処理時(電解時)に陰極電極表面へ析出してナノレベルの微細構造の形成を阻害しない金属イオンであれば、金属イオンが存在していても良い。
また、「不溶性陽極電極」とは、被処理表面を改質処理する際に、電解溶液中で実質的にイオン化しない導電性材料からなる電極を指す。
更に、「表面改質処理系」とは、不溶性陽極電極と、陰極電極(被処理材)と、電解溶液とを備え、被処理材の表面改質処理を行う系を指し、「表面改質処理系の電圧−電流特性」は、電解溶液中に浸漬した不溶性陽極電極と陰極電極との間に印加する電圧を連続的に変化させた際の電流値の変化を測定することで得ることができる。
なお、本発明の表面改質処理系の電圧−電流特性では、印加する電圧(正電圧)を高めていくと、電流値は、増加して極大値を取った後に減少し、その後、再び増加に転じるか、或いは、一定となる。そして、本発明では、印加する電圧を高めていった際の前記極大値(正電圧領域に最初に現れる極大値)を「第1電流極大値」とする。また、電流値が減少した後、増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは一定となった値を「第1電流極小値」とする。
更に、「完全プラズマ状態」とは、放電時に、オレンジ色が混じった発光、或いは、オレンジ色が主体の発光が陰極電極表面を覆う状態を指す。そして、「完全プラズマ状態を呈する電圧」は、炭素鋼や合金鋼を含む鉄鋼材料や、ステンレス鋼およびZnやAlなどの大気加熱で高温酸化される材料では、電圧を30分間印加した際に陰極電極の表層が少なくとも100nmの厚さで酸化される電圧として規定できる。なお、陰極電極の表層が酸化された厚さは、陰極電極の断面をSEMで観察し、酸化層の平均厚さを測定することにより判断することができる。ここで、酸化層は、SEMの反射電子像により下地と明瞭に区別することができ、酸化層の平均厚さは、陰極電極の表面に平行な10μmの長さの断面について、酸化層の厚さの平均値をとることで評価できる。因みに、陰極電極の表層に空隙等が存在する場合、酸化された厚さには該空隙なども含まれる。
【0014】
ここで、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記不溶性陽極電極と前記陰極電極との間に60V以上、140V未満の電圧を印加することが好ましい。印加する電圧を60V以上とすれば、被処理表面にナノレベルの微細構造を形成して表面改質を十分に達成することができ、印加する電圧を140V未満とすれば、完全プラズマの発生を十分に抑制して、被処理材の酸化により被処理表面にナノレベルの微細構造が形成されなくなるのを防止することができるからである。
【0015】
また、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、金属または合金材料であることが好ましい。金属材料や合金材料は、半導体材料等と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であることから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0016】
更に、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、炭素を含む鋼材(以下、「炭素鋼材」という。)であることが好ましい。炭素鋼材は、半導体材料と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であることから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0017】
また、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記導電性材料が、ステンレス鋼材であることが好ましい。ステンレス鋼材は、半導体材料と比較して比較的安価であり、導電性を有する素材のなかでも加工および成型が容易であり且つ高い耐食性を有することから、本発明の方法に従って表面改質する導電性材料として特に適しているからである。
【0018】
そして、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、前記電解溶液が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウムおよび水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよび塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等のクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする。炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等の硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウム等のクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸の水溶液は、電解溶液として特に適しているからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う代表的な表面改質された導電性材料の製造方法で導電性材料を製造する際に使用する表面改質装置の一例の構成を示す説明図である。
【図2】冷延鋼板を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフである。
【図3】ステンレス鋼材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフであり、(a)は、ステンレス鋼材がSUS316Lの場合の電圧−電流特性を示し、(b)は、ステンレス鋼材がSUS430の場合の電圧−電流特性を示す。
【図4】金属(ニッケル)材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示すグラフであり、(a)は、ニッケル材がニッケル板の場合の電圧−電流特性を示し、(b)は、ニッケル材がニッケルワイヤーの場合の電圧−電流特性を示す。
【図5】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の断面形状を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(a)は、表面改質処理系に印加する電圧を90Vとした場合について示し、(b)は、表面改質処理系に印加する電圧を100Vとした場合について示す。
【図6】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質された冷延鋼板の表面状態を示すSEM写真である。
【図7】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたニッケル材(ニッケル板)の表面状態を示すSEM写真である。
【図8】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の形状を示すSEM写真である。
【図9】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316L)の微細構造の組成を断面で示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、(a)は、表面改質処理系に印加する電圧を90Vとした場合について示し、(b)は、表面改質処理系に印加する電圧を100Vとした場合について示す。
【図10】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)の表面状態を示すSEM写真である。
【図11】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)について、ステンレス鋼材の表面に存在する微細突起の平均存在密度と、表面に水滴を垂らした際の水滴の接触幅に対する高さの比(高さ/接触幅)との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)の表面のフォトルミネッセンススペクトルである。
【図13】本発明の製造方法に従い製造した、表面改質されたステンレス鋼材(SUS316)について、ステンレス鋼材の表面に存在する微細突起の平均存在密度と、波長440nm付近の発光強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、不溶性陽極電極と、導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを電解溶液中に浸漬した後、該不溶性陽極電極と陰極電極(導電性材料からなる被処理材)との間に所定の範囲内の電圧を印加することで、被処理材の表面(被処理表面)にナノレベルの微細構造を形成し、表面改質された導電性材料を製造することを特徴とする。
【0022】
ここで、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法の一例は、特に限定されることなく、例えば図1に示すような表面改質装置1を用いて実施することができる。
【0023】
図1に示す表面改質装置1は、改質処理セル2と、改質処理セル2内に貯留された電解溶液3と、電解溶液3中に互いに離隔して浸漬された陽極電極4および導電性を有する被処理材からなる陰極電極5と、それら陽極電極4および陰極電極5に接続された直流電源6とを備えている。なお、改質処理セル2中の電解溶液3の液面は、任意に耐熱樹脂(図示せず)で覆っても良い。また、表面改質装置1は、電解溶液3を加熱するためのヒーター等の加熱手段(図示せず)を備えていても良い。
【0024】
ここで、改質処理セル2としては、電解溶液3に対して安定な材質からなる既知のセル、例えばガラス、テフロン(登録商標)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)製のセルを用いることができる。
【0025】
電解溶液3は、電気伝導性を有し、陰極電極5としての被処理材よりもイオン化傾向が大きく、且つ、陽極電極4と陰極電極5(被処理材)との間に電圧を印加して被処理表面(陰極電極5の表面)にナノレベルの微細構造を形成する際に、被処理表面を過度にエッチングしたり、陽極電極4および陰極電極5の表面に付着や析出したり、沈殿物を形成したりし難い溶液である。そして、電解溶液3としては、例えば、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化アンモニウム(NH4Cl)、リチウムの硫酸塩、ナトリウムの硫酸塩、マグネシウムの硫酸塩、カリウムの硫酸塩、アンモニウムの硫酸塩、リチウムの硝酸塩、ナトリウムの硝酸塩、マグネシウムの硝酸塩、カリウムの硝酸塩、アンモニウムの硝酸塩、リチウムのクエン酸塩、クエン酸ナトリウム(NaH2(C3H5O(COO)3)等のナトリウムのクエン酸塩、マグネシウムのクエン酸塩、カリウムのクエン酸塩、アンモニウムのクエン酸塩、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液を用いることができる。
【0026】
ここで、電解溶液3は、被処理材である導電性材料の表面改質が実施可能であれば、任意のpHおよび濃度とすることができ、例えば炭酸カリウム水溶液を電解溶液3として用いる場合には、その濃度は、特に限定されることなく0.001mol/L以上、より好ましくは0.005mol/L以上とすることができる。濃度が低すぎると、陽極電極4と陰極電極5との間に電圧を印加した際に好適な放電状態を維持することが困難となる場合があるからである。なお、濃度の上限は特に設けないが、例えば0.5mol/L以下とすることができる。また、電解溶液3のpHは、電極の過度の腐食やエッチングを起こさなければ任意の値とすることができ、例えばpH5〜12とすることができる。
【0027】
なお、陽極電極4と陰極電極5との間に電圧を印加した際の電解溶液3の液面での放電発生を防止したい場合には、改質処理セル2中の電解溶液3の液面は、フッ素樹脂熱収縮チューブ等の耐熱樹脂で覆うこともできる。
【0028】
陽極電極4は、陽極電極4と陰極電極5(被処理材)との間に電圧を印加して被処理表面(陰極電極5の表面)にナノレベルの微細構造を形成する際に、電解溶液3中にイオン化して溶解し、陰極電極5上に析出してナノレベルの微細構造の形成を阻害しない電極材からなる、不溶性陽極電極である。そして、陽極電極4としては、例えば白金(Pt)電極、パラジウム(Pd)電極、イリジウム(Ir)電極、表面をPtやPdやIrでコーティングした電極、或いは、黒鉛電極などを用いることができる。
【0029】
陰極電極5は、電圧の印加により表面が改質処理される被処理材であり、金属材料や合金材料などの導電性を有する材料(導電性材料)からなる。ここで、陰極電極5として機能する被処理材(導電性材料)としては、例えば、炭素鋼材、合金鋼材、ステンレス鋼材、ニッケル材などが挙げられる。また、陰極電極5(被処理材)の形状は、特に限定されることなく、板状、針金(ワイヤー)状、短冊状とすることができる。なお、被処理材(導電性材料)は、任意に、サンドペーパー等で表面を鏡面研磨してから陰極電極5として用いることができる。
【0030】
直流電源6は、被処理材である陰極電極5の表面の改質処理に必要な電圧、例えば60V以上、140V未満の電圧を陽極電極4と陰極電極5との間に印加するものである。そして、直流電源6としては、既知の電源を用いることができる。
【0031】
そして、上記のような構成を有する表面改質装置1では、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法に従い、例えば以下のようにして表面改質された導電性材料を製造することができる。
【0032】
まず、改質処理セル2内に貯留された電解溶液3中に、不溶性陽極電極である陽極電極4と、導電性材料からなる被処理材である陰極電極5とを離隔させて浸漬し、被処理材の表面改質処理を行う系(表面改質処理系)を構築する。なお、被処理材(陰極電極5)の表面改質処理は電解溶液3に浸漬している部分で起こる。
【0033】
次に、陽極電極4と陰極電極5との間に、所定の第1電圧V1以上であって所定の第2電圧V2未満の電圧V(0<V1≦V<V2)を印加し、被処理材(陰極電極5)の表面を改質処理する(表面改質処理工程)。
【0034】
ここで、第1電圧V1とは、予め測定しておいた表面改質処理系の電圧−電流特性から定めることができる電圧である。具体的には、第1電圧V1とは、表面改質処理系の電圧−電流特性において、印加する電圧Vを高めていった際に、次第に増加した電流Iが最初に取る極大値(V>0の正電圧領域に最初に現れる電流Iの極大値)である第1電流極大値IMAXと、第1電流極大値IMAXをとった後に次第に減少した電流Iが再び増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは電流Iが増加せずに一定となった値である第1電流極小値IMINとの和の1/2の電流値IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)に対応する電圧である。
【0035】
より詳細には、各被処理材の表面改質処理系の電圧−電流特性を示す図2〜4を用いて説明すると、第1電圧V1は、例えば以下の手順(1)〜(3)に従って電圧−電流特性から定めることができる。なお、図2は冷延鋼板を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示し、図3(a),(b)はステンレス鋼材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示し、図4はニッケル材を被処理材とした表面改質処理系の電圧−電流特性を示している。
(1)まず、表面改質処理系に印加する電圧を変化させた際の電流の変化を測定し、電圧−電流特性を得る。この表面改質処理系の電圧−電流特性は、印加する電圧Vを高めていくと、電流Iの大きさは、増加して極大値を取った後に減少し、その後、再び増加に転じるか、増加せずに一定の値となる。
(2)次に、電圧−電流特性から、次第に増加した電流Iが最初に取る極大値である第1電流極大値IMAXを求める。また、第1電流極大値IMAXをとった後に次第に減少した電流Iが再び増加に転じる前の極小値(正電圧領域に最初に現れる極小値)或いは電流Iが増加せずに一定となった値である第1電流極小値IMINを求める。
(3)最後に、第1電流極大値IMAXと第1電流極小値IMINとの和の1/2の電流値IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)を算出し、電圧−電流特性において電流値IHALFを示す第1電圧V1を求める。
【0036】
また、第2電圧V2とは、表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧である。そして、第2電圧V2は、例えば、表面改質処理系に印加する電圧を5Vまたは10Vずつ段階的に増加させながら電圧を30分間印加する操作を繰り返し、陰極電極の表層が少なくとも100nmの厚さで酸化される電圧を実験的に求めることにより決定することができる。
【0037】
ここで、第1電圧V1および第2電圧V2の大きさは表面改質処理系によって異なり、例えば、第1電圧V1の大きさは60V以上であることが多く、第2電圧V2の大きさは140V以下であることが多い。具体的には、導電性材料が炭素鋼材の場合には、第1電圧V1は80Vであり、第2電圧V2は140Vである。また、導電性材料がステンレス鋼材(SUS316L)の場合には、第1電圧V1は55Vであり、第2電圧V2は125Vである。
【0038】
そして、上述のようにして陽極電極4と陰極電極5との間に、第1電圧V1以上、第2電圧V2未満の電圧Vを印加すれば、被処理材である陰極電極5の表面(被処理表面)に、例えば図5に示すような、高さおよび直径がナノサイズ、好ましくは500nm以下の多数の微細突起が形成される。即ち、被処理表面が改質処理され、被処理表面にナノレベルの微細構造が形成される。
【0039】
なお、この微細突起は、原理的には明らかではないが、陰極電極5の近傍で部分的な液中プラズマ放電が起きることで形成されているものと推察されている。そして、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法では、陽極電極4と陰極電極5との間に印加する電圧が第1電圧V1未満だと、部分的な液中プラズマ放電が十分に起きずに微細突起(微細構造)が形成されず、第2電圧V2以上だと、完全プラズマの発生により被処理材である陰極電極5が酸化してしまい、被処理表面の粗度が数μmとなって微細突起(微細構造)が形成されない。
【0040】
ここで、液中プラズマ放電は、電圧の印加により陰極電極5の近傍の電解溶液の温度が局所的に沸点以上になり、陰極電極5の近傍にガス相が発生した際に、該ガス相中にプラズマ放電が生じることで起きているものと考えられる。そのため、表面改質処理工程における陽極電極4と陰極電極5との間への電圧の印加は、電解溶液の温度を85℃から100℃の範囲にしてから行うことが好ましい。陰極電極5の近傍での温度を効率的に上昇させて液中プラズマ放電を効率的に起こすことができるからである。なお、表面改質処理工程における電圧の印加時間は、任意の時間、例えば5秒以上、30分以下とすることができる。因みに、電圧の時間が短いほど、形成される微細突起のサイズが小さくなるので、電圧の印加時間は、所望の表面形状や特性に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
そして、上述したように、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法によれば、高価な装置および高度な技術を用いることなく、電解溶液中に浸漬した陽極電極と陰極電極との間に印加する電圧を制御するだけで、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。因みに、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料は、その微細構造に起因して様々な機能を発揮し得る。
【0042】
なお、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法は、上記一例に限定されることなく、本発明の表面改質された導電性材料の製造方法には、適宜変更を加えることができる。
【0043】
以下、実施例1〜3により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例1〜3に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
図1に示す装置を用いて、被処理材としての市販の冷延鋼板(Cを0.018質量%、Siを0.01質量%、Mnを0.14質量%含有する軟鋼板:幅3mm、長さ20mm、厚さ0.7mm)の表面改質処理を様々な電圧で行った。
【0045】
具体的には、まず、陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として希塩酸で汚れを除去した上記市販冷延鋼板を用い、電解溶液として温度92〜97℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性を測定し、第1電圧V1を求めた。また、この表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとし、それより上部の電解溶液の液面にかかる部分は耐熱樹脂で被覆した。
その結果、図2に示すような電圧−電流特性が得られ、被処理物として市販冷延鋼板を用いたこの表面改質処理系では、第1電流極大値IMAXが6.3Aであり、第1電流極小値IMINが0.7Aであり、IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)が3.5Aであり、第1電圧V1が80Vであることが分かった。また、第2電圧V2が140Vであることも分かった。
【0046】
次に、電圧−電流特性を測定したのと同様の表面改質処理系において、陽極電極と陰極電極との間に表1に示す大きさの電圧を30分間印加して、被処理材の表面改質処理を行い、表面改質された冷延鋼板を作製した。なお、表面改質された冷延鋼板は、印加する電圧の大きさを75V〜145Vの範囲で変化させて複数作製した。そして、表面改質された冷延鋼板(陰極電極)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、表面にナノサイズの微細構造(微細突起)が形成されている場合には、微細突起のサイズ(微細突起を平面視で円とみなしたときの平均直径)を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、印加電圧が80〜135Vの条件下では、低コストで効率的に、被処理表面にナノサイズの微細構造を形成し得ることがわかる。なお、印加電圧が75V(第1電圧V1未満)の製造例1では、明確な微細突起の形成は認められなかった。また、印加電圧が145V(第2電圧V2以上)の製造例6では、陰極電極(被処理材)の表面が局所的に酸化してしまい、微細突起は形成されなかった。なお、製造例4で作製した表面改質された冷延鋼板の表面状態を示すSEM写真を図6に示す。
【実施例2】
【0049】
図1に示す装置を用いて、様々な被処理材(フェライト系ステンレス鋼SUS430(幅2mm、長さ20mm)、ニッケル板(幅2mm、長さ20mm)、ニッケルワイヤー(直径1mm、長さ40mm))に対して表面改質処理を行った。
【0050】
具体的には、まず、陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として上記被処理材を用い、電解溶液として温度92〜97℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性をそれぞれ測定し、第1電圧V1を求めた。また、各表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとし、電解溶液の表面は耐熱樹脂で被覆した。図3(b)に被処理材がSUS430の場合の電圧−電流特性を示し、図4(a)に被処理材がニッケル板の場合の電圧−電流特性を示し、図4(b)に被処理材がニッケルワイヤーの場合の電圧−電流特性を示す。
【0051】
図3(b)および図4(a),(b)より、被処理材がSUS430の場合、第1電圧V1は73V、第2電圧V2は125Vであり、被処理材がニッケル板の場合、第1電圧V1は63V、第2電圧V2は130Vであり、被処理材がニッケルワイヤーの場合、第1電圧V1は70V、第2電圧V2は135Vであることが分かった。
そして、各被処理材について、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加して表面改質処理を行ったところ、被処理表面にナノメートルサイズの微細突起が形成された。一例として、ニッケル板を100Vの印加電圧で30分間処理した際の表面のSEM写真を図7に示す。
【実施例3】
【0052】
図1に示す装置を用いて、被処理材としてのSUS316L(線材を圧延し、幅1.5mm、長さ40mm、厚さ0.2mmとした)の表面改質処理を行った。
【0053】
具体的には、まず、陽極電極としてメッシュ状の白金電極を用い、陰極電極として表面を#4000のサンドペーパーで鏡面研摩した上記SUS316Lを用い、電解溶液として温度95℃に予め加熱した濃度0.1mol/Lの炭酸カリウム水溶液を用いた表面改質処理系の電圧−電流特性を測定し、第1電圧V1を求めた。また、この表面改質処理系が完全プラズマ状態を呈する電圧(第2電圧V2)を求めた。なお、電解溶液中に浸漬した電極の長さは20mmとした。
その結果、図3(a)に示すような電圧−電流特性が得られ、被処理物としてSUS316Lを用いたこの表面改質処理系では、第1電流極大値IMAXが3.4Aであり、第1電流極小値IMINが0.6Aであり、IHALF(=(IMAX+IMIN)/2)が2.0Aであり、第1電圧V1が55Vであることが分かった。また、第2電圧V2が125Vであることも分かった。
【0054】
次に、電圧−電流特性を測定したのと同様の表面改質処理系において、陽極電極と陰極電極との間に表2に示す大きさの電圧を表2に示す時間印加して、被処理材の表面改質処理を行い、表面改質されたSUS316Lを作製した。そして、表面改質されたSUS316Lの表面性状を以下のようにして評価した。
【0055】
【表2】
【0056】
<表面性状評価>
製造例7および8で作製した表面改質されたSUS316Lの表面の微細構造をSEMおよびTEMで観察した。製造例7の表面改質されたSUS316Lの微細構造のTEM写真を図5(a)に示し、製造例8の表面改質されたSUS316Lの微細構造のTEM写真を図5(b)に、SEM写真を図8に示す。
図5および8より、表面に数十ナノメートル〜数百ナノメートル程度の微細突起が多数形成されていることがわかる。なお、微細突起としては、マッシュルームのように先端付近よりも下部で細い形状を有しているものが多数存在している。ここで、微細突起のサイズは、印加電圧を変化させることで制御することができ、微細突起のサイズは、印加電圧90Vの製造例7では100nm以下であり、印加電圧100Vの製造例8では200〜300nm程度である。また、微細突起の密度(存在密度)も印加電圧を変化させることで制御できると推察され、微細突起の数密度は印加電圧が100Vの製造例8(約32個/μm2)の方が、印加電圧が90Vの製造例7(約7個/μm2)より低い。
【0057】
また、製造例7および8で作製した表面改質されたSUS316Lの表面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した際に、TEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDS)により元素分析を行った。製造例7のTEM写真および元素分析結果を図9(a)に、製造例8のTEM写真および元素分析結果を図9(b)にそれぞれ示す。なお、図9中の元素分析結果は、微細突起部と下地部分の平均組成(金属元素のみで定量、単位は質量%)を示している。因みに、表面改質前のSUS316Lの組成範囲は、質量%で、Ni:12〜15%、Cr:16〜18%、Mo:2〜3%である。
図9より、製造例7で作製した表面改質されたSUS316Lでは、微細突起部のCr濃度が下地部分と比較して高く、微細突起部のNi濃度が下地部分と比較して低いことが分かる。一方、製造例8で作製した表面改質されたSUS316Lでは、微細突起部のCr濃度が下地部分と比較して非常に低いことが分かる。よって、この結果より、本発明の製造方法では、組成を制御した微細突起を有する導電性材料を製造し得る可能性があることが分かる。従って、本発明の製造方法は、Crが濃化した高耐食表面の製造に使用したり、Crが欠乏した、Niを有効元素とする触媒表面の製造に使用したりできる可能性がある。
【実施例4】
【0058】
陽極電極として白金電極を用い、陰極電極として表面を研磨したSUS316(長さ20mm、厚さ0.8mm、幅2mm)を用い、電解溶液として0.1mol/LのK2CO3溶液を用いた表面改質処理系で、90V〜120Vの間で変更した電圧を15分間印加し、陰極電極の表面にサイズおよび分布が異なる微細突起を形成させた。SUS316の表面のSEM写真の一例を図10に示す。なお、SUS316を陰極電圧として用いた上記表面改質処理系の第1電圧V1は78Vであり、第2電圧V2は125Vであった。
そして、表面改質されたSUS316の表面の撥水性および発光特性を以下のようにして評価した。
【0059】
<表面の撥水性評価>
表面改質されたSUS316について、水滴を表面に垂らし、表面への水滴の接触幅(直径)に対する水滴の高さを測定したところ、高さ/接触幅は最大で0.62であった。表面改質前のSUS316の表面では、高さ/接触幅が0.38であったので、表面改質されたSUS316では、撥水性が向上していることが確かめられた。従って、表面改質されたSUS316は、水滴がついても落ちやすい、高耐食表面になっていると推察される。
また、表面改質されたSUS316で、1μmあたりの微細突起の平均数(微細突起の平均存在密度:個/μm)と、水滴の接触幅に対する高さの比との関係を調べたところ、図11に示すようになった。これより、微細突起の平均存在密度が著しく低い(即ち、微細突起数が著しく少なく、微細突起サイズが著しく大きい)場合を除き、微細突起の平均存在密度が高い(即ち、微細突起数が多く、微細突起サイズが小さい)ものよりも、微細突起の平均存在密度が低い(即ち、微細突起数が少なく、微細突起が大きい)もののほうが、撥水性が高い傾向があることが分かった。従って、撥水性を高める観点からは、ある程度高い電圧、例えば100V以上で微細突起を形成することが好ましいことがわかった。
なお、微細突起の平均存在密度は、SEMで得られた表面写真上に3μmの直線を引き、その直線が横切る微細突起数を、任意の10箇所について求めて、長さ1μmあたりに平均化したものである。
【0060】
<表面の発光特性評価>
表面改質されたSUS316の表面の発光特性をフォトルミネッセンス測定により評価した。得られた表面のフォトルミネッセンススペクトルを図12に示す。なお、図12には、微細突起の平均存在密度が4.3個/μm、1.9個/μm、0.3個/μmのSUS316表面の発光特性および表面改質前のSUS316表面の発光特性を示しており、図中のカッコ内の数値は形成された微細突起の平均直径を示している。
図12より、表面改質されたSUS316では、波長400nm〜470nm付近の可視光領域に、表面改質前(研磨あり)のSUS316にはない明確な発光強度ピークが得られることが分かる。このことから、表面改質されたSUS316の表面は発光素子などに利用することができると推察される。
また、表面改質されたSUS316で、1μmあたりの微細突起の平均数(微細突起の平均存在密度:個/μm)と、波長440nm付近の発光ピークの正味の発光強度(任意単位)との関係を調べたところ、図13に示すようになった。なお、正味の発光強度とは、波長390nmと波長490nmとの間を結ぶ直線をバックグランドとし、そのバックグランドからピークトップまでの高さである。因みに、微細突起の平均存在密度は、撥水性評価と同様にして求めた。
図13より、表面改質されたSUS316は、表面改質前(研磨あり)のSUS316(正味の発光強度は殆ど0)と比較して高い発光特性を有することが分かる。また、正味の発光強度は、微細突起の平均存在密度が高い(即ち、微細突起数が多く、微細突起サイズが小さい)もののほうが強くなっていることがわかる。従って、発光特性を向上させる観点からは、低電圧でより小さい微細突起を形成することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、表面にナノレベルの微細構造が形成された導電性材料を低コストで効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 表面改質装置
2 改質処理セル
3 電解溶液
4 陽極電極
5 陰極電極
6 直流電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解溶液中に、不溶性陽極電極と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを浸漬した後、前記電解溶液中に浸漬した前記不溶性陽極電極と、前記陰極電極としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、前記被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、
前記第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値に対応する電圧であり、
前記第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする、表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項2】
前記不溶性陽極電極と前記陰極電極との間に60V以上、140V未満の電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項3】
前記導電性材料が、金属または合金材料であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料が、炭素鋼材であることを特徴とする、請求項2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項5】
前記導電性材料が、ステンレス鋼材であることを特徴とする、請求項2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項6】
前記電解溶液が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウムおよび水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよび塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムの硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムの硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムのクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項1】
電解溶液中に、不溶性陽極電極と、被処理表面を有する導電性材料からなる、陰極電極としての被処理材とを浸漬した後、前記電解溶液中に浸漬した前記不溶性陽極電極と、前記陰極電極としての被処理材との間に、第1電圧以上、第2電圧未満の電圧を印加し、前記被処理表面を改質処理する表面改質処理工程を含み、
前記第1電圧が、表面改質処理系の電圧−電流特性において、正電圧領域に最初に現れる第1電流極大値と、正電圧領域に最初に現れる第1電流極小値との和の1/2の電流値に対応する電圧であり、
前記第2電圧が、完全プラズマ状態を呈する電圧であることを特徴とする、表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項2】
前記不溶性陽極電極と前記陰極電極との間に60V以上、140V未満の電圧を印加することを特徴とする、請求項1に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項3】
前記導電性材料が、金属または合金材料であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料が、炭素鋼材であることを特徴とする、請求項2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項5】
前記導電性材料が、ステンレス鋼材であることを特徴とする、請求項2に記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【請求項6】
前記電解溶液が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸アンモニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウムおよび水酸化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムおよび塩化アンモニウム、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムの硫酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムの硝酸塩、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムおよびアンモニウムのクエン酸塩、並びに、硫酸、硝酸、塩酸およびクエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を含む水溶液であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の表面改質された導電性材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−45489(P2012−45489A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189962(P2010−189962)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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