説明

表面改質された無機マトリックス及びその作製方法

本発明は、無機マトリックスの金属水酸化物表面及び/又は金属酸化物表面を、有機金属試薬で改質して、濾過処理に好適に有機機能化されたマトリックスを得る、改質方法に関する。この方法は、前処理されたマトリックスを、好適な溶媒の存在下で、有機金属試薬と反応させることにより、有機官能基を直接的に共有結合することを含む。本発明は、さらに、本発明の方法を実行することにより、得られ得る又は得られた有機機能化されたマトリックスに関する。また、本発明は、例えば、濾過処理及び/又は吸着処理及び/又は分離処理等の種々の産業上利用において、ここで定義されるような、表面改質されたマトリックスの種々の用途を提供する。あるいは、例えば、触媒システム又は酵素システム用支持体としての用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属水酸化物及び/又は金属酸化物表面を有する無機マトリックスの表面改質(modification)の分野に関する。特に、本発明は、無機マトリックスの金属水酸化物及び/又は金属酸化物を、有機金属剤で改質して、濾過プロセスに好適な、有機的に機能化されたマトリックスを得る方法を提供する。本発明の方法は、有機金属化学の応用により、1種またはそれ以上の異なる有機機能部分を前記マトリックスの表面に直接的に共有結合させる方法を含む。本発明は、さらに、表面改質された無機マトリックス、及び本発明により表面改質されたマトリックスの種々の工業上利用に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック膜は、アルミナ、チタニア、及びジルコニア酸化物、及びこれらの混合物のような無機物からなり、これらの無機物の特性にしたがって、とりわけ高分子膜と比べて利点を有している。これらの無機物は、化学的に不活性で、高度な機械的、熱的、熱水安定性という特徴を有している。セラミック膜は、例えば、温度、腐食又は洗浄条件のような極限の処理条件においても耐久性があることが知られていて、長寿命である。したがって、セラミック膜は、熱的、機械的、及び熱水安定性が要求されるプロセスだけでなく、さらに化学的耐性も必要なプロセスにおいて、用いられるのに適している。
【0003】
セラミック膜の表面は、実質的にM1−OH及びM1−O−M1構造(式中、M1は遷移金属又は金属である)から成っている。このような表面に基づいて、セラミック膜は親水性挙動を示し、セラミック膜の用途を限定している。一方、セラミック膜の特性は、機能化としても表わされる化学的表面の改質により、変えられることができる。例えば、親水性から疎水性へ変えることができる。表面改質反応は、セラミック膜の表面上にあるOH基を、他の基(例えば、有機官能基)で置換することを含み、これにより、セラミック膜に、特定の特徴(例えば、疎水性)を与えたり、また、例えば、選択的吸収部位、固定化のためのアンカーリングの位置、キラル位などのような他の機能化を付与することができる。
【0004】
種々の方法、例えば、共縮合反応、オルガノシランやホスホン酸とのグラフト反応、表面上での重合反応等を含む、セラミック膜の表面改質方法が報告された。
【0005】
例えば、WO99/61140は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl)の金属アルコキシドを、例えば金属アルコキシドのようなゾルゲル前駆体とともに共縮合することにより、疎水性ゾルが得られることを開示している。そして、このゾルは、膜支持部を被覆している。共縮合は、合成工程の間に、膜の機能化が起こっているプロセスをいう。添加されるオルガノシラン前駆体は、ノーマルシリカ又は金属酸化物(例えば金属アルコキシド)前駆体と一緒に合成に用いられる。合成工程の間、両方の前駆体は、ゾルゲルプロセスを経て、一緒に縮合されて、膜支持部を被覆することができる均質なハイブリッドゾルを形成する。共縮合は、合成の間に官能基を組み入れることにより、後改質(post-modification)法における場合のように、改質が表面で濃縮されないようにしている。この共縮合技術は、いくつかの重大な欠点がある。膜を被覆することができる有機官能基の数/濃度が、限定される。そして、有機官能基を高濃度に導入しようとすると、形成される膜の構造的特性及び安定性が減じられる。さらに、縮合反応の間に追加されることが可能な前駆体分子の数は限定され、そのような分子は、しばしば大変高価である。したがって、そのような共縮合法の融通性は限定される。これらの材料の加水分解反応に対する安定性は、いくつかのケースでは、より高くなるだろう。しかしながら、膜表面にある官能基数がより少なくなるために、これらの膜の機能性は低下し、膜における官能基の位置については、コントロールができないため、その膜のQ4/Q3比が低下し、膜の一般的な安定性は低下することになる。
【0006】
機能化された膜の調製に対する択一的アプローチは、表面グラフト反応を応用している。オルガノシランを用いるグラフト化は、被覆技術の1つである。例えば、米国出願番号2006/237361号は、セラミック膜をオルガノシラン剤で含浸するための方法を開示している。オルガノシラン剤は、一般式R1R2R3R4Siで表わされる。式中、Rの少なくとも1つは加水分解可能な基であり、少なくとも1つのRは、アルキル基、フェニル基のような非加水分解基であり、これらの少なくとも一部は、フッ素化されていてもよい。オルガノシラン剤の加水分解可能基が、酸化物膜の表面上で、OH基と縮合反応することにより、膜表面に結合することになる。これにより、加水分解を受けやすい酸素ブリッジを通じて、膜上でオルガノシラン剤と共有結合するようになる。
【0007】
さらに、TiO2やZrO2を含む金属酸化物膜上で、オルガノシラングラフト化が適用されると、安定性が低下する。このことは、結局、生産中の所定時間後、膜から有機官能基が浸出(leaching)し、望ましくない。
【0008】
米国特許(USP)6596173号は、オルガノミネラル化合物を用いた濾過膜のグラフト化を開示している。これらのオルガノミネラル化合物は、加水分解可能基を介して、すなわちこれらのアルコキシ又はカルボキシル官能基を介して、分離膜層のミネラル官能基と反応する。結果として生じるM−O−R結合は、共有結合であるにもかかわらず、酸素は、グラフト化された材料を不安定化し、容易に加水分解可能となる。その結果、オルガノミネラル基は、反応が終わると、濾過膜からたやすく除去され、これにより濾過膜の効率が低下することになる。濾過膜からの有機官能基の同様の浸出(leaching)は、DE10223103に開示されているように、膜内でも発生する。このドイツ特許出願は、ゾル−ゲル前駆体で同様にグラフト化する技術を開示していて、結果物である濾過膜が同様の欠点を有することは、米国特許6596173号の膜にもある。
【0009】
ホスホン酸を用いるグラフト化は、疎水性または機能的セラミック材料を形成できる、別のアプローチである。このグラフト化方法は、金属酸化物表面との、ホスホン酸の配位又はイオン−共有結合的相互作用を含む(J.Caro,M.Noack,P.Kolsch,Micropor.Mesopor.Mater.22(1998)321)。しかしながら、複合体は求核的攻撃に敏感であるために、有機官能基の浸出(leaching)の問題は、使用される溶媒の種類に応じて、高いフラックス含有率のときに、おこりやすくなる。さらに、蛍りん光体は、その環境にネガティブな影響を有することがしられている。さらに、ホスホン酸に有用な有機官能基量は限られている。
【0010】
これらの方法は、セラミック膜の表面改質方法に対する従来技術において有用であるけれども、上記の点から、種々の方法、例えば、異なるタイプを用いた改質や、適用される有機官能基の量、方法の実現性等について限定的である。
【0011】
さらに、上記で開示された方法を用いて得られることができる表面改質されたセラミック膜は、不適当な熱的及び/又は熱水的安定性を示す場合がある。更に詳述すると、従来技術の改質されたセラミック膜では、特に厳しい操作条件下では、大量の有機官能基の結合が解離(浸出(leakage))してしまうという重大な問題を生じる場合がある。
【0012】
本発明は、上記欠点を考慮してなされたもので、その目的は、有機機能化されたマトリックス(特に、有機機能化されたセラミック膜)を調製する方法を提供することにあり、少なくとも上記問題のいくつかを解決する。さらに特に、本発明は、セラミック膜の無機マトリックスの表面が、金属M1上に直接的に前記表面上の有機官能基と共有結合することによって改質される方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、高度にいろいろ使える方法を提供することを目的とし、マトリックス又は膜表面の広範な改質を許容する。
【0013】
本発明は、また、有機機能化されたマトリックス、すなわち、表面が有機官能基で改質されたマトリックスを提供することを目的としており、特に、適切な熱的及び/又は熱水的安定性を有し、付加された有機官能基の浸出(leaching)が弱められ、すなわち有機官能基の浸出が実質的に減じられた、有機機能化されたセラミック膜を提供することを目的とする。本発明のもう1つの目的は、有機機能化されたマトリックス、特に制御された方式で改質されることができ、高い改質度を有する有機機能化されたセラミック膜の提供を目的とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、オルガノ金属試薬を用いて、無機マトリックスの金属酸化物および/又は金属酸化物表面を改質して、有機機能化されたマトリックスを得る方法を提供することにより、上記問題の少なくともいくつかの解決手段を提供する。本発明は、表面改質されたマトリックス、すなわち表面が有機官能基で改質又は機能化されたマトリックス又は膜を製造する方法を提供する。本発明は、そのようなマトリックス表面上に、有機官能基を直接共有結合することを含むマトリックスの表面改質方法を提供する。
【0015】
第1の見地では、本発明は、無機マトリックスの金属水酸化物及び/又は金属酸化物表面を、有機機能化されたマトリックス(さらに詳細には、濾過処理に好適に機能化されたマトリックス)を得るための有機金属試薬で、改質する方法を提供する。特定の態様では、本発明は、1又は2以上の異なる有機機能部を、マトリックスの表面に直接共有結合することによって特徴付けられる、有機機能化されたマトリックスを得るための方法であって、
a)真空下で無機マトリックスを乾燥する工程;
b)乾燥した無機マトリックスのプロトンを、試薬(好ましくはアルコール)を用いて前記乾燥したマトリックスと反応させることによって除去する工程;
c)前記試薬(好ましくはアルコール)の余剰分を除去する工程;
d)前記工程c)にて乾燥したマトリックスを、乾燥溶媒(dry solvent)の存在下で、オルガノ金属試薬と反応させる工程;及び
e)所望により、得られた有機機能化されたマトリックスを洗浄し、さらに乾燥する工程
を含む。
【0016】
特定の態様では、本発明は、オルガノ金属試薬が、式R1−M2、又はR1−M2−X、またはR1−M2−R1'であり、式中、R1及びR1'は、ここで定義された有機官能基であり、R1及びR1'は、同一でも異なっていてもよく、M2はLi又はMgであり、Xはハロゲンである方法を提供する。好ましくは、前記オルガノ金属試薬は、一般式R1−Liのオルガノリチウム試薬、及び一般式R1−Mg−Xで示されるオルガノマグネシウム試薬(グリニャール試薬)、又は一般式R1−M2−R1'を含む群から選択される。ここで、式中、R1及びR1'は、ここで定義される有機官能基であり(R1及びR1'は同一でも異なっていてもよい)、ここでXはCl、Br、I及びこれらのいずれかの混合物からなる群より選択される。
【0017】
別の好ましい態様では、本発明は、前記金属(M1)が、IVb族遷移金属又はその混合物である方法を提供する。さらに詳細には、前記遷移金属がチタニウム又はジルコニウム、及びその混合物である方法を提供する。
【0018】
特定の態様では、本発明は、工程b)のアルコールが、式R2−OH(R2はアルキル、直鎖状C1−C8アルキル、より好ましくはC1−C4アルキル、最も好ましくはC1アルキル)である。特定の態様では、R2は、直鎖状C4アルキルである。
【0019】
特定の態様では、本発明は、工程b)が少なくとも数時間、好ましくは3時間以上、最も好ましくは48時間、前記アルコールの還流温度で、行われる。
特定の態様では、工程b)で得られるマトリックスが工程d)に先だって、真空下で乾燥される方法が提供される。
【0020】
特定の態様では、本発明は、工程d)が、室温で、好ましくは1−6日間行われる方法を提供する。
特定の態様では、本発明は、工程d)が、前記乾燥溶媒の沸点よりも低い温度で行われる。
【0021】
特定の態様では、前記工程b)−d)は、不活性雰囲気下、好ましくはアルゴンガス雰囲気で、行われる。
特定の態様によれば、本発明の方法は、1回以上繰り返される。
【0022】
本発明は、こうして、有機金属化学の応用により、すなわちグリニャール試薬やオルガノリチウム試薬のような有機金属試薬を用いることにより、無機マトリックス表面に、R1又はR1'部分若しくは基(ここでは、有機基又は有機官能基とも称される)を、直接的結合することを含む、無機マトリックスの表面の改質方法に関する。
【0023】
他の改質方法と比べて、本発明の方法の有利な特徴は、有機官能基に資するこれらの方法の考えられる多能性(versatility)である。本発明の方法は、広範な異なるタイプのマトリックス/膜の改質を許容する。すなわち、本発明の方法は、前処理、特に脱プロトン化された、無機マトリックス上で、考え得る広範囲の有機官能基と有機金属反応させることにより、マトリックス/膜の表面に、有機−無機(ハイブリッド)材料(例えば、疎水基、選択的吸着部位、アンカー部位など)を調製することを許容する。本発明によれば、マトリックスに対して直接共有結合できる有機官能基は、種々多様であり、多くの有機金属試薬が、有効であり、当該分野で公知の有機金属試薬のための以下の一般的合成アプローチで合成されることができる。
【0024】
従って、本発明の方法は、所望の使用の機能において、無機マトリックスの特定の改質/機能化も許容できて、有利である。例えば、特定の機能化されたマトリックスは、ある用途において、高度に求められている。その用途は、例えば、フラックスを増大するために、分離/選択性の向上のために、ある分子の吸着を防止又は促進するために、触媒/酵素及びその他の分子又は生物のためのアンカー部位を作ることなどがある。一例として、例えば本発明の方法は、比較的長い炭素鎖をもつ基の結合を多分メチル官能基と組合せて含むことで、立体障害を阻止する、高度に疎水化されたマトリックスが得られる場合がある。他の例としては、フッ化炭素を含む部分の結合も、疎水性マトリックスを得るための方法として好適である。
【0025】
本発明は、また、表面に直接的に共有結合された同じクラス又は異なるクラスの種々の異なる部分を有する、多重改質された無機表面の調製に適用できる。このことは、繰り返し機能化されることにより、及び/又は本発明の方法の工程d)の間に、反応混合物内で、異なる有機金属試薬を添加することにより、達成される。従って、R1基に資して、さらに多機能化されたマトリックス、及びより強く機能化されたマトリックスさえも、得ることができる。
【0026】
特定の態様では、本発明の方法は、空孔サイズの設計を可能にする。すなわち、改質された無機マトリックスの空孔サイズを決めることを可能にする。さらに、空孔サイズの設計及び機能化/改質の双方は、同時になされることができる。R1又はR1'部分における炭素鎖の長さを変えることにより、及び/又は多重及び/又はR1又はR1'部分を用いて繰り返す改質及び/又はR1又はR1'部分の特性によって、膜の空孔径を減じることができる。
【0027】
他の見地では、本発明は、本発明の方法を実行することにより、得られ得る又は得られた、有機機能化されたマトリックスを提供する。
【0028】
本発明は、無機濾過膜である、有機機能化されたマトリックスを提供する。ここで、前記無機濾過膜は、少なくとも1層の分離膜層で被覆された、無機材料からなる支持部を含み、表面は、遷移金属水酸化物及び/又は遷移金属酸化物の部分を有し、平均空孔サイズ1〜10nmである。
【0029】
特定の態様では、本発明は、本発明の方法で得られ得る無機濾過膜を提供する。この無機濾過膜は、少なくとも1層の分離膜層で被覆された無機材料からなる支持部を含み、表面は、遷移金属水酸化物及び/又は遷移金属酸化物の部分を含んでいて、この遷移金属水酸化物及び/又は遷移金属酸化物部分は、本発明の方法により得られ得る、有機官能基で直接共有結合的にグラフト化されている。好ましい態様では、直接的に表面に共有結合されている有機官能基(R1又はR1')が、アルキル、(パー)フルオロアルキル、アリール(パー)フルオロアリール及びこれらの任意の組合せから選択される無機濾過膜を提供する。
【0030】
有機機能化されたマトリックスは、ここで定義するように、これは、前記マトリックス表面上の金属原子(metal group)に直接共有結合する1以上のR1又はR1'部分を有するように提供され、これにより、より安定な有機−無機界面が提供される。このタイプのR1又はR1'部分の、マトリックス表面への直接の共有結合は、広範囲の調製、用途、及び洗浄条件において適用されるときに得られるマトリックスの安定性を大きく改善する。ここで開示された、改善された表面改質されたマトリックスの安定性は、強い共有結合から生じる、式M1−Cに代表される。ここで、M1は金属であり、好ましくは前記マトリックス内に含まれる、IVb族の遷移金属であり、ここで定義されるようにCはR1又はR1'の基内の炭素原子であり、前記R1又はR1'基は、マトリックス表面で金属中心に対して炭素原子を介して、直接、共有結合している。従って、結合されたR1又はR1'部分の再加水分解及び結合破壊は、大幅に阻止され、R1又はR1'有機官能基の浸出(leaching)は起こらずに済む。他の改質されたセラミック膜と比べて、本発明の表面改質されたセラミック膜は、種類と量が異なる官能基R1又はR1'に基づいてより多機能性であり、準単層(sub-monolayer)被覆においてでさえ、例えば水やアルコールなどのより溶解力のある流れの、例えば更に長い時間や、例えば昇温などによる、さらなる臨界的状態に耐えることができるであろうことから、本マトリックスの用途について、多様な条件と供給組成物を許容する。
【0031】
当該分野で一般に知られている他の技術と比べて、本発明の方法は、マトリックスの表面への有機官能基の直接的共有結合を提供することにある。結果として得られるM1−C結合は、一般的に知られている方法とは異なり、酸素ブリッジを含んでいない。このことは、得られたマトリックスの安定性を大きく改善する。例えばオルガノシランのようなオルガノミネラルを用いるグラフト化、典型的にはM−O−Si−R共有結合の形成に比べて、本発明の方法を用いて得られるM−R共有結合は安定で、加水分解可能ではない結合を提供することにより、より高度に安定で高度に有効な膜を提供する。
【0032】
本発明の方法により実行されることにより得られた又はえられ得る表面を改質されたマトリックスは、高い機能化度を有し、目標とされる調節可能な方法において機能化されることができる。また、ここで開示されるような方法を実行することによって得られた又は得られ得る表面改質された膜は、改善した安定性を示す、すなわち、ある温度又は溶媒条件で用いられるときには、膜から浸出(leach)する有機官能基は、低減するであろう。従って、ここで開示された表面改質された膜は、種々の技術的、バイオ技術上、薬学上、植物、及び医療分野でも使用に好適である。
【0033】
この点において、さらに別の見地では、本発明は、本発明の有機機能化されたマトリックスの利用、すなわち本発明の無機濾過膜の利用を目指している。特定の態様では、本発明は、本発明の有機機能化されたマトリックスの使用に関し、すなわち濾過及び/又は吸着及び/又は分離プロセスにおける、本発明の無機濾過膜の使用に関する。
【0034】
特定の態様においては、本発明は、本発明の有機機能化されたマトリックスの用途、すなわち本発明の無機濾過膜を、例えば、触媒システム、酵素システム、分子又は生物等用の支持体として用いる用途に関する。
【0035】
本発明の他の利益、効果、及び用途は、以下の明細書で読める及び理解にもとづき明らかにされるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】未処理のTiO2粉末(a)、BuOH前処理されたTiO2粉末(b)、及びBuOH前処理後にC1改質されたTiO2粉末(c)の熱重量分析(TGA)測定(図1A)及び対応する示差温度勾配(DTG)測定(図1B)を示す。
【図2】未処理のTiO2粉末(a)、MeOH前処理されたTiO2粉末(b)、BuOH前処理されたTiO2粉末(c)、MeOH前処理後にC5改質されたTiO2粉末(d)、及びBuOH前処理後にC5改質されたTiO2粉末(e)の光音響スペクトル(PAS)測定を示す。
【図3】未処理のTiO2粉末(a)、BuOH前処理後にC1改質されたTiO2粉末(b)、及びBuOH前処理されたTiO2粉末(c)について測定されたDRIFTスペクトルを示す。
【図4】BuOH前処理後ジエチルエーテル内で改質されたC8改質されたTiO2粉末(a)、BuOH前処理後THF内で改質されたC8改質されたTiO2粉末(b)、及びBuOH前処理後CPME内で改質されたC8改質されたTiO2粉末(c)の光音響スペクトル(PAS)測定を示す。
【図5】BuOH前処理後C8改質されたTiO2粉末(a)の高温部での示差温度勾配(DTG)測定及びBuOH前処理後C8F改質されたTiO2粉末(b)の高温部での示差温度勾配(DTG)測定を示す。
【図6】BuOH前処理後C8F改質されたTiO2粉末(a)及びBuOH前処理後C8改質されたTiO2粉末(b)について測定されたDRIFTスペクトルを示す。
【図7】前処理せずに、C1改質されたTiO2粉末(a)、H2O還流後に前処理なしにC1改質されたTiO2粉末(b)、未処理のTiO2粉末(c)、DCDMSでシラン化により改質されたTiO2粉末(d)、及びH2O還流後にDCDMSでシラン化により改質されたTiO2粉末(e)の光音響スペクトル(PAS)測定を示す。
【図8】前処理せずに、C1改質されたTiO2粉末(a)、H2O還流後に前処理なしにC1改質されたTiO2粉末(b)、未処理のTiO2粉末(c)、DCDMSでシラン化により改質されたTiO2粉末(d)、及びH2O還流後にDCDMSでシラン化により改質されたTiO2粉末(e)のDRIFTスペクトルを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の目的は、改質であり、特に無機マトリックス表面の機能化(functionalization)である。ここで用いられている「マトリックス」という語は、一般には基材(substrate)のことであり、種々の形状をとっていてもよく、膜などが挙げられるが、これに限定しない。
【0038】
本発明の無機マトリックスは、M1−OH及びM1−O−M1構造で表わされることができる構造によって特徴づけられる。ここで、M1は、遷移金属又は金属である。
【0039】
本発明の特定の態様において、用語「マトリックス」は、「膜」をいう。さらに特定の態様では、「無機マトリックス」は、ここで「セラミック膜」とも称する「無機膜」である。
【0040】
特定の態様では、ここで用いられる無機マトリックスは、ポーラスなマトリックスである。本明細書で用いられる「ポーラスマトリックス」は、たくさんの空孔を有する基材(substrate)であり、ここで、用語「空孔」は、物質を吸着することができる、あるいは通過することができる、最小の開口又はマイクロチャンネルである。とりわけ、空孔が物質の通過を許容する場合、マトリックスは透過性となる。
【0041】
本発明によれば、無機マトリックスは、溶液内の物質又はガスを通すことができる、チューブ、シート、ディスク又はその他の形状を有する、天然又は人工材料であってもよい。ある態様では、前記無機マトリックスは、チューブ、ディスク、フィルム、モノリス、繊維、中空繊維、キャピラリーなどの形状を有する。マトリックスは、平面状であってもよいし、単純又は複雑な形状であってもよい。
【0042】
本発明の内容において用いられている表現「表面」は、マトリックスの(巨視的)な外表面だけでなく、内部にある空孔表面も含むと理解される。よって、有機官能基が付着する表面は、マトリックスの外表面及び/又は内部表面であり得る。特に表面がポーラスな場合には、分子は、内部表面に付着しやすい。固体表面がポーラスの場合には、種々の空孔サイズが、システムの特性に応じて採用されることができる。
【0043】
用語「改質(modification)」又は「機能化(functionalization)」は、ここでは、相互に変換可能に用いられ、両方とも、ここで定義されるマトリックス表面上での、有機基(ここではR、特定の態様ではR1又はR1'部分としても定義されている)の直接的共有結合をいう。こうして、用語「改質」及び「機能化」は、ここで定義されるように、マトリックスの表面改質をいい、所望の表面特性を達成するための、このようなマトリックス表面上における有機官能基の直接的付着も含む。本発明の方法は、有機金属反応に適合できる限り、マトリックスの表面上へ付着する有機化合物としては、ここで定義された、ほとんどの種類の有機化合物を許容する。また、この内容において、用語「改質された」又は「表面改質された」又は「機能化された」マトリックスは、同義語と考えられるべきであり、M1−C結合を介して、膜内の空孔表面を含む表面に直接付着された有機化合物を有している、ここで定義されるマトリックスをいう。
【0044】
ここで用いられる用語「R1基」、「R1'基」、「R1部分(moiety)」、「R1'部分(moiety)」「有機基」及び「有機官能基」は、マトリックス表面に結合されるときに、前記表面の特性を変えることができる有機分子をいう。R1基及びR1'基は、さらに以下で定義される。
【0045】
本発明は、有機機能化されたマトリックスを提供する。用語「有機機能化されたマトリックス」は、有機基をマトリックスに直接的に共有結合することによって、表面特性が変えられた又は改質された(機能化された)マトリックスをいうことを意図する。
【0046】
〔方法〕
本発明は、最初の見地において、無機マトリックスの金属水酸化物及び/又は金属酸化物表面を、有機金属試薬を用いて、改質して、濾過処理に好適な有機機能化されたマトリックスを得る方法に関する。本発明の方法は、膜の機能化を、膜の合成後に行う後改質(post-modification)の方法に関する。
【0047】
特に、本発明は、ここで定義されるように、少なくとも1つの有機機能基を、マトリックスに、直接的に共有結合することによる、無機マトリックスの表面の改質方法を提供する。本発明の方法により、グリニャール試薬やオルガノリチウム試薬のような有機金属的化合物との反応の応用に基づき、無機マトリックス表面に提供された金属中心と、ここで定義されるR1及び/又はR1'とが、少なくとも一部は、直接共有結合を形成できる。
【0048】
オルガノ金属試薬との反応は、粉末的無機材料に応用される分野で報告された。例えば、Tamuraら(1999年、「J. Colloid and Interface Science」、209、225−231頁)は、グリニャール試薬と金属酸化物粉末の反応を開示していて、酸化物サンプルの表面ヒドロキシル部位密度を研究している。しかしながら、この文献は、有機基の結合可能性に言及していない。この反応を用いて、マトリックスに有機基を直接的に共有結合するということが、本発明の重要な有利点となる。
【0049】
特定の態様では、本発明の方法は、膜の金属水酸化物及び/又は金属酸化物表面の改質に関する。従来技術において、無機膜上で望ましい有機金属反応が起こるといった提案はない。反対に、有機金属反応は、一般に、無機膜が水と激しく反応する高反応性のために、セラミック膜の表面改質用には実行できない可能性が高いように見られている。さらに、無機膜の強い塩基性のために、無機膜は、プロトンと激しく反応する。これらの特徴点から、金属酸化物(特に遷移金属酸化物)上での有機金属反応を用いることは、膜については考えにくく、金属酸化物膜の表面上の水酸基の存在により排除さえされる。さらに、ここで定義されるように、セラミック遷移金属酸化物膜の湿潤しやすさ(wettability)は、秒単位とされるほど、とても速い。この方法において、セラミック膜のような表面は、吸着された水ですばやく覆われるだろうし、これは、膜表面に金属中心を供給する代わりに、表面吸着された水が膜表面に供給されて、有機金属反応を引き起こすであろう。
【0050】
にもかかわらず、出願人は、たとえ、ここで定義される無機マトリックスの特徴及び有機金属反応条件が、そのような使用法の示唆から離れるものであっても、いまや、ここで有機金属化学を用いると定義されるように、有機官能基の無機マトリックス表面との共有結合を含む方法を創出することに、驚くべきことに成功した。
本発明の特定の態様においては、本発明の方法は、実質的に無機マトリックスの表面の湿潤化を防止し、実際の測定と組み合わせてマトリックスのような表面上の水酸基を除去するようになって、改質/機能化の間の乾燥条件を確保する。
【0051】
さらに、この機能化方法は、チューブ状膜、中空繊維などを含む無機マトリックスの種々の形状の表面を機能化することを許容する。従って、種々のタイプの、産業的に有用な無機マトリックスは、改質されることができ、産業上適切な規模で製造されることができる。一般に、本発明により改質されることができるマトリックスは、平均空孔サイズ1〜10nmまたはそれ以上の空孔を有する表面で、(遷移)金属水酸化物及び/又は(遷移)金属酸化物で構成されている部分を含んでいる。
【0052】
本発明の方法で改質されることができる無機マトリックスとしては、限定しないが、例えば、下記のものが挙げられる。
・空孔3nmのジルコニウム酸化物マトリックス又は空孔5nmのチタン酸化物マトリックス(Inocermicから購入可能)
・5又は10キロダルトンのカットオフ値を有するチタン酸化物マトリックス(空孔サイズは、平均3〜6nm)(Atechから購入可能)
・5又は10キロダルトンのカットオフ値を有する混合酸化物(チタン酸化物とジルコニウム酸化物)のマトリックス(空孔サイズは、平均3〜6nm)(Atechから購入可能)
・1,3,5又は8キロダルトンのカットオフ値を有するチタン酸化物マトリックス(空孔サイズは、平均1〜5nm)(Tami インダストリーから購入可能)
【0053】
特に、無機マトリックスの金属水酸化物及び/又は金属酸化物の改質方法であって、
a)真空下で、無機マトリックスを乾燥する工程;
b)乾燥された無機マトリックスを、アルコールなどの試薬と反応させることによって当該マトリックスのプロトンを除去する工程;
c)余分なアルコールを除去する工程;
d)乾燥した溶媒の存在下で、工程c)において得られた前記乾燥済みマトリックスを有機金属試薬と反応させる工程;
e)所望であれば洗浄し、さらには得られた有機機能化されたマトリックスを乾燥する工程;
を含む方法である。
【0054】
次に、この方法について、種々の工程を参照しつつ説明する。
所望の態様において、この方法は、上記で定義される、それを乾燥工程にさらす前に、マトリックスをシールする工程を含んでもよい。ここで用いられる「シールする」とは、マトリックスの少なくともいくつかの部分でシールを適用することを含むことである。例えば、チューブ状膜の末端はシールされていてもよい。好ましくは、シールは、溶媒に対して耐性を有する物質を用いて行われる。このような物質は、当該分野でよく知られていて、例えば、テフロン又はガラスが挙げられる。シール方法は、当該分野でよく知られているので、ここでは詳細に開示されないだろう。
【0055】
もし適用されるなら、シール工程は、改質方法に先だって実行されるべきである。マトリックスへのシールの適用は、昇温(一般に350℃超)での処理を要求するので、そのような温度でのいくつかの有機基は分解しはじめることもある。さらに、シールのための熱処理は、脱水分解(dehydrolysis)反応によって、膜の表面上のいくつかのOH基の除去を誘導することができ、有機金属改質を妨害することができる膜の表面上のプロトンを結果として減らすことができるという有利さもある。
【0056】
本発明の工程a)は、無機マトリックスの乾燥を含む。前記マトリックスは、真空下で乾燥され、加温して、表面に吸着した水を、可能な限り、除去する。ある例では、この乾燥工程は、少なくとも60℃で、少なくとも2時間、少なくとも200mbarの真空下で、実行される。この乾燥工程は、例えば、60〜300℃で、例えば75〜200℃で、2〜24時間、例えば、4〜20時間で行われる。この乾燥工程は、好ましくは10-5mbar〜0.2barの真空下で、最も好ましくは10-3mbarで実験的設備に応じて、行われてもよい。乾燥工程後、乾燥されたマトリックスは、残っている改質工程の間に、可能な限り、乾燥され続ける。
【0057】
次の工程b)において、工程a)で得られた乾燥された無機マトリックスのプロトンは、試薬と反応させることによって、除去される。この工程は、結果的に表面のプロトン除去となる。好ましい態様において、乾燥されたマトリックスは、式R2−OHのアルコール(R2はアルキル、好ましくは直鎖状C1−C8アルキル、より好ましくは直鎖状C1−C4アルキル、及び最も好ましくはC1アルキルである)と反応させるようにする。特定の態様において、R2は直鎖状C4アルキルである。
【0058】
本発明の方法の工程b)において、溶媒としての使用に好適であるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール(1−ブタノール)、イソブタノール(2−メチル−1−プロパノール)、sec−ブタノール(2−ブタノール)、tert−ブタノール(2−メチル−2−プロパノール)、1−ペンタノール(アミルアルコール)、1−ヘキサノールが挙げられるが、これらに限定しない。好ましいアルコールは、式R2−OHのアルコール(R2は上記で定義するように、C1−C4アルキルであり、例えば、メタノール、プロパノール、又はブタノールなどである)。
【0059】
ある態様では、工程b)は、少なくとも1時間行われ、より適切には、少なくとも3時間、さらにより適切には12時間超、好ましくは24時間以上であり、最も好ましくは前記アルコールの還流温度程度で少なくとも48時間である。
【0060】
好ましくは、工程b)は、不活性下、すなわち水不在雰囲気、例えば、アルゴン、窒素、乾燥気体下で、行われる。好ましくは工程b)は、アルゴン雰囲気でおこなわれる。
【0061】
有利には、本発明は、無機マトリックスのアルコール前処理は、干渉するプロトン、すなわち、「−OH」中の「H」のような酸機能を有するプロトンを置換することを許容する。これにより、マトリックスの表面は、M1−O−R2立体配置を得る。式中、M1はここで定義されるように、マトリックスの金属又は遷移金属を表し、Oは酸素を表わし、R2は上記で定義されるように適用されたアルコールのアルキル鎖を表わす。
【0062】
また、本発明の無機マトリックスのアルコール前処理は、マトリックスの表面上で、疎水性炭素鎖を誘導することを許容し、膜の湿潤性(再湿潤(re-wetting))を低下させ、膜表面上で、水が吸着されることを遅らせるだろう。
【0063】
反応後、工程b)で適用されたアルコール溶媒は、前処理されたマトリックスから分離され、好ましくは回復する。有利な態様においては、工程b)で適用されたアルコール溶媒は、もし例えば、分子ふるいに通すことにより乾燥されたら、別の前処理で、再び使用することができる。例えば、分子ふるいは、回復されたアルコールの回復ボトルに添加されることができる。
【0064】
特定の態様においては、工程b)は、前記アルコールが前記マトリックスの表面と十分に接触するような条件下で行われる。例えば、前記条件は、かきまぜ、例えば攪拌及び/又は振とう及び/又はマトリックスにアルコールを通過させる循環及び/又は濾過、及び/又は前記アルコールを前記膜に通すようなかきまぜ(例えば攪拌及び/又は振とう)によって、得られるだろう。
【0065】
特定の態様では、マトリックスは、工程b)の間に、実質的に乾燥した反応条件下で、保存される。ここで用いられる「実質的乾燥反応条件」という用語は、方法工程の間、水の存在を極小にしていることをいい、好ましくは、水が完全に不在である前記工程の間の条件をいう。実質的に乾燥反応条件は、この方法工程の間に、無機マトリックスが再湿潤することを相当に防止及び/又は遅らせる。工程b)の間、実質的に乾燥反応条件を得るために、異なる手段が採用されることができる。例えば、ある態様において、本発明の方法は、導入、特に工程b)で適用されるアルコールを通して、例えば窒素又はアルゴンのような不活性ガスをバブリングすることに、拡大する。もう1つの態様では、本発明の方法は、無機マトリックスを、例えば工程b)の間に、窒素又はアルゴンのような不活性ガスと、好ましくは定期的に、接触させる工程を含む。
【0066】
次の工程c)において、余分な試薬は除去される。さらに特定的には、これは、工程b)で得られた無機マトリックスを乾燥することによって、達成される。工程c)の特定の態様では、工程b)で得られた無機マトリックスは、真空乾燥され、余分なアルコールが全て除去されて、乾燥膜がえられる。この工程でのマトリックスの乾燥は、工程b)で得られた−O−R2部分を加水分解して−OH部分とすることを最小にする。全てのアルコールは、副反応を防止するために、除去されることが好ましい。好ましくは、本発明の方法のこの工程で得られた「乾燥されたマトリックス」は、実質的に、表面吸着水を含んでいない。
【0067】
特定の態様では、工程c)は、前記アルコールの沸点よりも低い温度で行われる。ある例では、本発明の方法の工程c)は、溶媒の沸点マイナス約10〜20℃と等しい温度で行われる。一般に、本発明の方法の工程c)は、少なくとも60℃で、少なくとも200mbarの真空下で、2時間以上行われる。乾燥工程は、例えば、60〜175℃の温度で、例えば、75〜125℃で、2〜24時間、例えば4〜20時間、好ましくは10-5mbarから0.2barの真空下(実験設備によるが、最も好ましくは10-3mbar)で行われる。工程c)で適用される反応条件は、R2部分の除去を防止し、工程b)の間に、マトリックス表面に導入するように、慎重に選択される。マトリックス表面は、弱く結合されるだけであり、同時に、OH基を含み機能化に有害である副反応を引き起こすアルコールの除去を確保する。
【0068】
本発明の方法の特定の態様では、工程c)で得られた無機マトリックスは、好ましくは工程d)で適用されるであろう溶媒の沸点未満の温度にまで、好ましくは不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン又はさらに処理される前の乾燥空気)雰囲気下で、室温まで、冷却される。
【0069】
次の工程d)では、工程c)で得られた無機マトリックスを、乾燥溶媒存在下で、少なくとも1つの有機金属試薬と反応させる。特定の態様では、これは、不活性雰囲気下で行われる。
【0070】
用語「乾燥溶媒(dry solvent)」及び「乾燥された溶媒(dried solvent)」は、同義に用いられ、実質的に水を含まない溶媒をいう。ある態様において、工程d)の間に適用される乾燥溶媒は、当該分野でよく知られている技術に従って使用される前に、例えば、ゼオライトのような分子篩に前記溶媒を通過させることによって乾燥された溶媒をいう。本発明の方法の工程d)に用いられることができる溶媒としては、適用される有機金属試薬と反応しない、好ましくは無機膜と反応しない、任意の溶媒が挙げられる。好ましい態様では、前記工程d)は、THF(テトラヒドロフラン)、メチル−THF、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンなどのエーテルから選ばれる溶媒の存在下で行われるが、これに限定されない。好ましくは、余分な試薬条件下で行われ、より好ましくは、工程a)後の無機マトリックスの1つの水酸基(−OH)あたり有機金属試薬5%超〜20%余で行われる。好適な乾燥溶媒は、「seccosolve」の商標名で、または当業者によく知られた任意の商標名で、市販されているものでもよい。
【0071】
本発明の工程は、溶剤の存在下で、工程c)で得られた膜が少なくとも1つの有機金属試薬と反応することを含む。ここで用いられる有機金属試薬は、式R1−M2又は式R1−M2−X又は式R1−M2−R1'によって表わされる。式中、R1、R1'は、下記で定義される部分であり、M2はIaまたはIIaから選択される金属であり、特にLi及び/又はMgから選択される。またXは、ハロゲンである。R1とR1'は異なっていても同一であってもよい。有機リチウム試薬は、炭素とリチウム原子との間で直接結合する有機金属化合物であり、一般式R1−Liで表わされる。R1は、以下で定義される部分である。有機マグネシウム試薬(グリニャール試薬)は、炭素とマグネシウム原子との間で直接結合する有機金属化合物であり、一般式R1−Mg−X又はR1−Mg−R1'で表わされる。R1とR1'は、ここで定義される部分であり、R1とR1'は異なっていても、同一であってもよく、Xは、ハロゲン原子であり、好ましくはBr、Cl、又はIである。本発明内で、ここで用いられる有機金属試薬はより好ましくはグリニャール試薬である。
【0072】
2つ以上の異なる有機金属試薬を用いることによって、本発明の方法は、2つ以上の異なるタイプの部分、例えば、異なる長さの炭化水素、メチル基でキャップしているアミン官能基(すなわちすべての非反応部位がメチル官能基で占められ、立体障害を低くすることで反応性を改善している)が、無機膜の表面と直接結合できる等の利点がある。
【0073】
特定の態様では、反応工程d)は、好ましくは室温で、少なくとも1〜6日間(好ましくは少なくとも3日間、より好ましくは少なくとも4日間)、実行される。反応は、室温又は加温して行われてもよい。温度は、室温から65℃の間であり、好ましくは35〜50℃の間で、試薬の安定性に依存して選択される。
【0074】
特定の態様では、無機マトリックスは、工程d)の間、乾燥反応条件が保たれる。ここで用いられる用語「乾燥条件」は、方法工程の間、いかなる水も存在しないようにすることをいう。このような条件を得るためには、異なる処置が取られる。ある態様では、本工程d)は、不活性雰囲気、好ましくはアルゴン、窒素又は乾燥空気雰囲気で、またアルゴン、窒素又は乾燥空気を反応容器内にバブリングしながら、行われる。他の態様においては、本発明の方法は、無機マトリックスを不活性ガス(例えば窒素又はアルゴン)と好ましくは周期的に、接触させる工程である。溶媒は、乾燥雰囲気下で、実施例で例示されるように、添加される。
【0075】
特定の態様では、工程d)は、乾燥溶媒存在下で、1以上の有機金属試薬を含む反応溶液を、前記マトリックスの表面と十分に接触できるようにする条件下で実行される。例えば、前記条件は、振とうにより(例えば攪拌及び/又は振とう及び/又は反応液をマトリックスを通しての循環及び/又は濾過)及び/又はかきまぜ(例えば、前記マトリックスを反応液に通す攪拌及び/又は振とう)により得られる。
【0076】
次の工程e)は、本発明の方法において、任意に行う工程である。特定の態様では、工程d)で得られた膜は、適切な溶媒で洗浄され、適切に、工程d)の反応生産物を溶解する。洗浄工程は、必要ならば繰り返される。好ましい洗浄は、膜空孔を通る濾過によって行われ、特に反応生産物がマトリックス上又はマトリックスの空孔内に残るであろうことを防止する。濾過は、好ましくは加圧下で行う。
【0077】
工程d)における有機金属反応が一般式R1−M2−X又はR1−M2の試薬を用いて行われる場合、洗浄は、好ましくは酸、水、有機溶媒と続いて行われることが好ましい。好ましくは前記酸は、例えばHCl、HBr、HNO3、H2SO4、H3PO4のような1以上のプロトンを含む任意の酸、酢酸などの有機溶媒からなる群から選ばれることが好ましい。好ましくは前記酸は、HClのようなハロゲン化水素である。適切な有機溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン又はこれらの混合物等のその他の溶媒が挙げられる。好ましくは、水中で尚も溶解させられながら、すばやく蒸発するアルコールを用いる。パーフルオロカーボン官能基の場合、アセトンは好ましい有機洗浄溶媒である。
【0078】
工程d)における有機金属反応が一般式R1−M2−R1'の試薬を用いて行われる場合、好ましくは、洗浄は、THF、メチル−THF、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキリエタン、1,4−ジオキサンなどの乾燥エーテルを用いて行われる。
【0079】
この方法は、さらに得られたマトリックスの乾燥工程、好ましくは真空下での乾燥をさらに所望により、含んでもよい。例として、乾燥は、少なくとも60℃で、少なくとも2時間、少なくとも200mbarで行われる。乾燥工程は、例えば、60〜300℃で、好ましくは60〜200℃、例えば、75〜200℃、好ましくは75〜140℃で、2〜24時間行われる。例えば、実験室設備に応じて、4〜20時間、10-5mbar〜0.2barの真空下(最も好ましくは、少なくとも10-3mbar)で行われる。
【0080】
特定の態様では、本発明の工程は、少なくとも1回繰り返される。特に、工程b)から工程e)を含む。特に洗浄工程e)の後、処理は、アルコールでの前処理のような別の前処理工程で初めて繰り返されてもよい。繰り返された改質は、例えば、疎水性及び膜表面に有機官能基の量を増大するように適用されることができる。このことは、2種以上の異なるタイプの有機基を本発明による膜の表面に直接的に結合させることを許容する。代わりに、又はこれらと組み合わせて、異なるタイプの有機基が、本発明の方法の工程d)の間に、2種以上の異なる有機金属試薬の添加により、直接的に共有結合されることもできる。
【0081】
本発明で適用されるR1又はR1'部分は、有機基である。R1又はR1'部分は、同じであっても異なっていてもよく、A)有機金属化合物と相溶性ある任意の官能基、及びB)有機金属化合物と相溶性はないが、前記官能基が保護された形態(即ち保護基を有する形態)で提供されるような場合には任意の官能基であってもよい。保護基は、当該分野でよく知られたもので、ここでは詳細は開示しない。
【0082】
1又はR1'部分としては、限定しないが、アルキル、ハロアルキル、アリール、ハロアリール、アミン(1級、2級、3級アミン)、チオール、キラル炭化水素など、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0083】
本発明で適用されるR1又はR1'部分は、好ましくは以下の群から選ばれる:
i)アルキル、好ましくはC1−C16アルキル、より好ましくはC1−C8アルキル;
ii)ハロアルキル、好ましくはフルオロアルキル又はパーフルオロアルキル、より好ましくはフルオロC1−C16アルキル又はパーフルオロC1−C16アルキル、より好ましくはフルオロC1−C8アルキル又は(パー)フルオロC1−C8アルキル;
iii)アリール、好ましくはC6−C18アリール、より好ましくはC6−C12アリール;
iv)ハロアリール、好ましくはフルオロアリール又はパーフルオロアリール、より好ましくはフルオロC6−C18アリール又はパーフルオロC6−C18アリール、より好ましくはフルオロC6−C12アリール又はパーフルオロC6−C12アリール;
及びこれらの組合せ。組合せは、上記i)、ii)、iii)及びiv)内での組合せの他、これらの群間の組合せも含む。
【0084】
特定の態様において、前記R1及び/又はR1'は、アミン、ジアミン、トリアミン、チオール、キラル炭化水素及びこれらのいずれかの組合せを含む群から選ばれる。この内容の組合せは、各基内での組合せの他、これらの基間の組合せを含んでもよい。
【0085】
ここで用いられる前記R1又はR1'は、直鎖状、分岐、又は環状分子であってもよい。例えば、用語「アルキル」は、直鎖アルキル、分岐アルキルだけでなく、環状アルキルにも拡張される。用語「アリール」は、単環、多環、ヘテロ環アリールに拡張することを意図する。用語「ハロアルキル」は、ここで定義される、1以上のハロゲン原子に置換されたアルキルに拡張される。用語「(パー)フルオロアルキル」は、ここで定義される、1以上のフッ素原子に置換されたアルキルに拡張される。用語「ハロアリール」は、ここで定義される、1以上のハロゲン原子(好ましくは1−5個のハロゲン原子)に置換されたアリールに拡張される。用語「(パー)フルオロアリール」は、ここで定義される、1以上のフッ素原子(好ましくは1−5個のフッ素原子)に置換されたアリールに拡張される。
【0086】
本発明の内容で用いられる用語「置換された」は、「置換された」を用いる表現で示される原子の1以上のハロゲン又炭素が、指示された原子の通常の価を超えないように、且つ置換の結果、化学的に安定な化合物、すなわち反応混合物からの有用な程度の純化への単離に残ることができる十分な頑丈さを有している化合物になるという条件で、指示された基からの選択と置き換えられることを意味する。
【0087】
有機機能化されたマトリックス
本発明は、本発明の方法を実施することにより得ることができる、又は得られた有機機能化されたマトリックスを提供する。
【0088】
特定の態様において、有機機能化されたマトリックスは、膜の形態である。有機機能化された膜のようなマトリックスは、本発明では、チューブ状、ディスク状、フィルム状、モノリス、繊維状、中空繊維、キャピラリーなどである。
【0089】
ある態様においては、前記有機機能化されたマトリックスは、無機濾過膜又はセラミック濾過膜である。本発明の目的として、「無機濾過膜」又は「セラミック濾過膜」の表現は、マイクロ濾過、ウルトラ濾過、ナノ濾過に用いることができる無機膜を包含している。このような濾過膜を調製するためにもっとも一般に用いられる技術は、機械的強度を有するマクロポーラスな支持基材上に、厚み数百ナノメートル以下の1層以上の分離選択層を積み上げて濾過層を構成することを含んでいる。前記濾過層は、通常、マトリックス上に無機酸化物を置き、続いて最終的な熱処理をすることによって得られる。
【0090】
上記濾過層となる分離膜層を構成する金属水酸化物又は金属酸化物中の金属(M1)は、特に、直接的共有結合によって改質される部分であり、例えば、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、イットリウム、ランタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、トリウム、鉄、及びマンガン、及びこれらの種々の可能な混合物から選ばれることができる。上記分離膜層は、好ましくは遷移金属酸化物から構成されている。一般に、これらは好ましくは、チタン酸化物及び/又はジルコニウム酸化物である。
【0091】
本発明の特定の態様においては、少なくとも1層の分離膜層で被覆された、平均空孔1〜10nmを有する、無機材料からなる支持部を含むセラミック濾過膜である、有機機能化されたマトリックスを提供する。好ましい例においては、マトリックスを構成する前記金属は、好ましくはIVb族遷移金属又はこの混合物である。さらに好ましくは、前記遷移金属は、チタン及び/又はジルコニウムである。
【0092】
本発明の特定の態様において、本発明の方法によって得ることができる又は得られた無機濾過膜を提供する。無機濾過膜は、セラミック濾過膜とも称され、金属部分(当該金属部分は有機官能基(R1又はR1')で直接共有結合的にグラフト化されている)を含む、少なくとも1層の分離膜層で被覆された、無機材料からなる支持部を含む。前記金属は、好ましくは、IVb遷移金属又はこの混合物である。さらに好ましくは、前記遷移金属は、チタン及び/又はジルコニウムである。前記有機官能基(R1又はR1')は、ここで定義される基であり、好ましくは上記で定義されるような、アルキル、フルオロアルキル、アリール、フルオロアリール、パーフルオロアリール、及びこれらの任意の組合せである。
【0093】
本発明は、化学的、機械的、熱的、及び熱水安定性を有する改質された表面を有するマトリックス又は膜を提供する。高度な安定性は、従来技術で説明されているような加水分解可能な又は濾過によって浸出され得る(leachable)結合に代えて、ここで定義されるR1又はR1'部分が金属中心(M1)と直接に共有結合することに起因する。
【0094】
別の技術が、本発明の改質されたマトリックス又は膜を特徴づけるために使用されることができる。
【0095】
当業者に知られているように、改質された膜最表層の表面の変化、本発明の処理によって改質がおこなわれているかどうか、あるいは当該分野の状態で知られている他の技術(例えば、シラン化)による改質の場合であるかどうかを、直接的に分析することは容易でない。このことは、膜の嵩高部分(支持部及び中間層)が改質されない又はほとんど改質されない一方、この改質が、薄い最表層の空孔内で起こることによる。従って、膜材料の全体を特徴づけるあらゆる特徴づけ技術にとって、はるかに分厚い膜支持部の存在が、膜の最表層の特性(例えば、熱重量分析(TGA)及び窒素吸着による空孔サイズ決定)をマスクしてしまう。限定的な厚みの膜だけを分析する他の技術は、チューブ状膜の彎曲に伴う問題もある(例えば、赤外線IRスペクトル分析、及び接触角)。従って、当該技術状況において、支持されていない膜最表層材料は、支持されている膜最表層の特性を特徴づけるために頻繁に用いられる。この支持されていない最表層材料は、支持されている膜最表層と厳密に同じ方法でつくられる(厳密に同じゾルゲル処理、厳密に同じ量のバインダーと厳密に同じ熱処理)。本発明により改質された、この支持されていない膜最表層材料の多数の特徴付けは、実施例1−5で説明されている。これらの実施例で採用された特徴付け方法は、TGA、IRスペクトル分析、及び浸出(leaching)テストである。
【0096】
熱重量分析(TGA)は、膜表面の有機官能基の量だけでなく、直接的に結合された官能基の熱的安定性を決定するのに適用される。重量損失が起こる温度は、表面における結合の強さについての情報を提供し、結合された官能基の安定性に関する情報を提供する。もし重量損失がさらに高温で起こる場合には、さらに安定な結合が存在する。その温度は、R1部分のタイプに依存するだろう。例えば、短いアルキルでは、その温度は、実施例1−5からでも明らかなように、通常、430℃より高い。この熱的安定性は、金属中心M1への炭素原子の結合強度についての間接的情報を与えるだろう。バルク技術であるので、TGAは、改質された膜に適用されない。
【0097】
赤外線(IR)スペクトル分析は、金属酸化物の空孔表面に直接的に共有結合された有機官能基の存在を決めるのに適用される。実施例1−5で示されるように、M1−Cの直接的結合が存在することは、IRスペクトルにおける特定のピークで示される。例えば、TiO2の改質の場合のTi−C直接結合に代表的かつ典型的なピークは、1209cm-1のIRピークと1240cm-1のショルダー部である。M1−Cの直接結合に関連するピークの他にも、実施例4で例示されるような、官能基特有のピークが、高波長(PhotoAcoustic IRスペクトル、PAS−IR)及び低波長(DRIFT、拡散反射率IRフーリエ変換スペクトル分析)で観察される。改質材料の上記波長におけるIRバンドの位置と強度は、実施例5でみられるように、室温で、水又はアルコール中で攪拌しても変化しない。膜表面の彎曲によりチューブ状の改質された膜上に、IRを使用することは難しい。この問題は、平坦膜の使用又は関連する新バージョンのIR技術の使用、顕微鏡を用いたマイクロATR−IR(全反射吸収IR)で、IR放射にさらされるマトリックス表面上の限定されたスポットを決めることにより解決される。したがって、この技術は、彎曲した膜表面の問題ではない。
【0098】
浸出(leaching)テストは、次のような方法で行うことができる。すなわち、本発明の改質方法により改質された、支持されていない膜最表層材料を、水又はアルコール又は安定性テストが必要な他のいずれかの媒体中で攪拌、あるいは水、アルコール又は媒体と接触させることにより行い、前記攪拌又は接触は、必要ならば1−24時間以上、室温又は昇温して行う。IR測定は、その浸出テスト前後の変化を決定するために適用されることができる。従って、これらのテストは、改質材料の安定性を決める。実施例5で示されているように、この発明の改質の安定性は、最新式のシラン化による改質よりもはるかに高い。また、浸出テストは、改質された膜について行うこともできる。そして、変化は、マイクロATR−IRにより特徴づけられる、又は浸出テスト前後の流出挙動がつづけられることによって特徴づけられることができる。浸出テストの場合、流出挙動は、改質されていない膜について測定された値に対する時間の機能として、導き出す。
【0099】
流出測定は、膜表面の改質を直接的に分析しないが、膜改質の膜性能に対する影響を決定する申し分ない方法である。例えば、長鎖アルキルを用いた疎水性改質の場合、極性溶媒の流量が減少する一方、極性とは無関係の(apolar)溶媒の流量が増大するだろう。このことは、実施例7でみられる。膜改質の膜性能への影響をきめる他の非直接的特徴付け技術は、分子量カットオフの測定である。十分に長い官能基での改質の場合、分子量カットオフ値は、実施例8で説明されるように、明らかに小さくなるだろう。疎水化では、接触角の変化も測定でき、接触角の変化は、改質前の膜に関係する表面の疎水性及び改質の程度を示す。
【0100】
反応容器
本発明の方法内で、特に、工程b)−d)は、反応容器内で行われ、好ましくは、「実質的に乾燥」反応条件下(好ましくは上記で定義した「乾燥条件」下)で、膜を保持するように改造した反応容器内で行われる。工程e)は、好ましくは濾過によって行われ、従って、一般に、反応容器内で実施されない。また、乾燥は、例えば、乾燥/真空オーブン内の反応容器の外側で行われることができる。
【0101】
ある態様において、反応容器は、膜の形状に調節されるように提供される。このことは、前処理及び機能化の間に、利用される溶媒量を限定することを許容する。さらに、このことは、有機金属試薬(グリニャール試薬又は有機リチウム試薬)及び方法の間の溶媒量の限定的使用を許容する。改造された反応容器を使用することにより、さらに、最適乾燥条件における反応を遂行できる。
【0102】
特定の態様において、反応容器は、上記で定義される(実質的)乾燥反応条件を保持することを許容する設備を含む。
このような設備の例としては、限定しないが、以下のものがあげられる。
・例えば、アルゴン又は窒素ガス等の不活性ガスを、前記反応容器内に導入する手段、
・前記容器及び当該容器内の溶媒及び/又は反応溶液の攪拌及び/又はかきまぜ手段、
・不活性条件下での容器内における、ここで定義される溶媒及び反応溶液の導入手段、
・前記容器に含まれる、ここで定義されるセラミック膜の攪拌及び/又はかきまぜ手段
【0103】
用途
本発明のマトリックス、本発明の方法の実行により得られた又は得られ得るマトリックスは、技術、バイオテクノロジー及び医療分野において、多くの用途が見出される。
【0104】
したがって本発明は、特定の態様では、例えば、ウルトラ濾過、ナノ濾過、パーベーパレーション及び膜コンタクタープロセスのような、濾過及び/又は分離プロセスにおける、ここで定義されるマトリックス又は膜の使用に関する。他の有用な用途としては、ダスト粒子または揮発性有機化合物の除去のためのエアークリーニングプロセスがある。
【0105】
また本発明は、特定の態様では、触媒用途における支持体としての、ここで定義されるマトリックス又は膜の使用に関する。
【0106】
また本発明は、特定の態様においては、酵素的用途における支持体としての、ここで定義されるマトリックス又は膜の使用に関する。
【0107】
ある例では、本発明の改質手段により、膜の特徴が、例えば、親水性又は疎水性に、変えられることができる。このような疎水性セラミック膜は、例えば、食用油(食品工業)の分離及び精製、均質触媒の分離と再利用(薬品工業)、又は溶媒交換のための、非水性分離プロセス(化学工業)において適用されることができる。
【実施例】
【0108】
実施例1:本発明の改質された、支持されていないTiO2膜層の調製
支持されていないTiO2膜層は、典型的に用いられるように、コロイダルゾルを調製し、空孔サイズ3−5nmを有するTiO2膜表層をつくることによって製造される。当該分野で、知られているこのような調製技術のレシピは、例えば、次の文献(T. Van Gestel, C; Vandecasteele, A. Buekenhoudt, C. Dotremont, J. Luyten, R. Leysen, B. Van der Bruggen, G. Maes, J. Membr. Sci., 207, 2002, p73-89. )で見出されることができる。具体的には、この例では、コロイダルゾルは、Ti−テトラ−イソプロポキシド(Ti(OC374)(TTI、アクロスオーガニクス(Acros Organics)により提供される)の加水分解によって、製造される。そのゾルのペプチゼーションは、HNO3を用いて得られた。続いて、同量の余分な溶媒及びバインダーが真のTiO2メソポーラス膜表層の調製の場合のように添加された。しかしながら、膜を調製するときに行われるように、この希釈されたバインダー含有ゾルで、ポーラス膜支持部をディップコートする代わりに、このゾルをペトリ皿にいれて、室温で48時間で乾燥させた。最後に、この乾燥ゲル層は、470℃で3時間、焼成された。これは、支持された膜表層にとっては、典型的な焼成となる。
【0109】
当該技術状況で知られているように、この処理は、支持された膜最表層を製造する処理と同様に、この処理に続いて製造される支持されていない膜層材料が、支持された膜最表層の材料と大変類似(類似の空孔サイズ、類似の表面OH基量、類似のTiO2結晶相など)していることを保証する。たくさんの特徴づけ技術について、もっと分厚い膜の存在が膜最表層の特性をマスクするのに対して、この支持されていない膜材料についての特徴づけは、支持された膜材料への直接的な特徴づけよりもずっと簡単である。したがって、当該技術の状況においては、この支持されていない膜材料が、支持された膜層の特性を特徴づけるために、大変頻繁に用いられる。
【0110】
上記で説明したように製造された、支持されていないTiO2膜層は、粉砕機内で粉砕され、微粉末とされた。TiO2膜層粉末は、この特許内で開示さるような方法で、以下のように改質された。この粉末3〜4gを、ガラス反応容器に投入した。続いて、粉末は、一晩乾燥され、反応容器を190℃まで加熱し、5×10-4mbarの真空をかけることにより乾燥された(工程a)。そして、その粉末は、BuOHで前処理された(工程b)。こうして100mlのBuOH(1−ブタノール純度99%超、アクロスオーガニックス社)が、ある時間間隔で容器にアルゴンを流入することによって、粉末の水素化を防止しながら、容器に添加された。ブタノールは激しくかき混ぜられ、還流温度(85℃)にまで加熱された。この粉末は、粉末上でOH官能基のエーテル化を得るために、攪拌しながら、48時間、ブタノール溶液中で還流された。このようにして前処理された粉末は、Macherey−Nagel(MN−640w)フィルターでろ過され、60℃で真空(<10-3mbar)で乾燥された(工程c)。この粉末の半分の量は、再び、三つ口有する乾燥したガラス反応容器に投入され、さらに、ジエチルエーテル(シグマ−アルドリッチ社、ジエチルエーテル中3.0M)内でメチルオルガノマグネシウムブロマイドで、さらに改質した(工程d)。これに、ジエチルエーテル無水物30ml(99.7%以上)(シグマ−アルドリッチ社)を、乾燥された粉末がはいった反応容器に、添加した。その後、反応容器は、還流系に取り付けられ、隔膜つき、乾燥された滴下濾斗が、反応容器の1つの口にとりつけられた。また、アルゴン流入が開始され、反応容器内にバブリングされた。反応液は、アルゴン流入をつづけながら、30分間、攪拌によりかき混ぜられた。そして、メチルオルガノマグネシウムブロミド反応剤(reagens)6mmolを、アルゴンを連続的に流入しながら、滴下濾斗を介して、容器内に(攪拌しながら)添加した。有機金属反応剤(reagens)は、隔膜を介して、気密シリンジの助けを借りて、添加される。メチルオルガノマグネシウムブロマイド反応剤の添加後、連続的アルゴン流が閉じられ、溶媒の強い揮発を防止した。しかしながら、アルゴン流は、数時間ごとにすぐに戻された。TiO2膜層粉末は、室温で、攪拌しつづけながら、この反応溶液内で、3日間処理された。TiO2膜層粉末の改質が成功したかどうかは、この粉末が当該粉末の空孔がマグネシウム化合物の存在のために、暗い灰黒色となったかどうかといったことにより、目視で決めることができる。最後に、その粉末は、再び、デカントされ、Whattman濾紙で濾過され、続いて、1.0M HCl、H2O、及びメタノールで洗浄された。洗浄後、粉末は、60℃で、一晩、真空下(<10-3mbar)で乾燥された。(工程e)。
【0111】
未処理の支持されていないTiO2膜層粉末(工程a前)は、さらに未処理TiO2粉末と略称される。ブタノール前処理(工程aから工程cまで)により、OH官能基の大部分がTi−O−CH2−CH2−CH2−CH3表面基によりおきかえられている、支持されていない膜TiO2粉末(これは、さらに、BuOH前処理されたTiO2粉末と略称される)となる。十分な改質(工程aから工程eまで)により、大部分のOH基がTi−CH3表面基によって置換されている、支持されていないTiO2膜粉末(さらにBuOH前処理後にC1改質されたTiO2と略称される)となる。
【0112】
実施例2:本発明で改質された、支持されていないTiO2膜層粉末の特徴づけ
未処理のTiO2粉末、BuOH前処理されたTiO2粉末、及びBuOH前処理後にC1改質されたTiO2粉末が、実施例1で説明されたように調製された。図1Aは、熱重量分析(TGA)を示し、図1Bは、未処理のTiO2粉末、BuOH前処理されたTiO2粉末、及びBuOH前処理後にC1改質されたTiO2粉末の、対応する示差熱勾配(DTG)を示す。これらの結果は、異なる温度領域で重量損失を示す。アルコール前処理は、230〜430℃の間で、弱いTi−O−C結合の形成のために、重量損失を生じる原因となる。メチル有機マグネシウム化合物を用いた改質の後、金属−炭素共有結合(M1−Cの場合、Ti−C)のために、430℃超での重量損失が決められる。
【0113】
未処理TiO2粉末及びBuOH前処理されたTiO2粉末が、実施例1で示すように調製された。同様の方法でも、MeOH前処理されたTiO2粉末が、BuOHをMeOHで置換するだけで調製された。同様の方法で、BuOH又はMeOH前処理後にC5改質されたTiO2粉末は、メチルオルガノマグネシウムブロマイドをペンチル有機マグネシウムブロマイドで置換するだけで、調製された。図2には、未処理TiO2粉末、BuOH及びMeOH前処理されたTiO2粉末、及びBuOH及びMeOH前処理後にC5改質されたTiO2粉末の赤外線(IR)結果が存在する。図2は、具体的には、光音響分光(photo acusticspectra)(PAS)を示す。これは、特に表面のフリーのOH基(3600−3700cm-1)及び存在する有機基(2800−3000cm-1)の伸縮C−H振動である。このC−H振動の伸縮振動パターンはペンチル有機マグネシウム改質のために変化した。このパターンは、また、使用されたアルキル鎖(異なるCH3/CH2比率)に依存する。
【0114】
アルキル有機マグネシウム改質は、また、拡散反射赤外線フーリエ変換(DRIFT)スペクトルに存在する、より低い赤外線領域での変化をもたらす。図3は、未処理のTiO2粉末のDRIFTスペクトル、BuOH前処理されたTiO2粉末、及びBuOH前処理後にC1改質されたTiO2粉末(実施例1で説明されるように調製されるが、BuOH前処理は、3時間だけである)のDRIFTスペクトルを示す。2つの新しいバンドが観察される:すなわち、エーテル溶媒で吸収されるための1155cm-1と、アルキル改質のための1240cm-1ショルダー部を有する1209cm-1であって、Ti−Cの直接結合を代表している。さらに、他の結合は、適用されるアルキル基(CH3の場合、1372cm-1と1460cm-1)が、1350cm-1から1500cm-1の間で観察されることができ、C−H結合の曲げ振動に割り当てられる。
【0115】
改質されたTiO2粉末の疎水性は、未処理のTiO2粉末及びMeOH前処理されたTiO2粉末に対して増大している。このことは、ヘキサン/水混合物(1/1)中で異なる粉末を分散させることによってテストされたMeOH前処理後にC8改質されたTiO2粉末(実施例1においてメチルオルガノマグネシウムブロマイドをオクチルオルガノマグネシウムブロマイドに置き換えることによって調製される)に関しては、オクチルオルガノマグネシウム改質された材料がヘキサン/水界面にとどまっている。未処理のTiO2粉末が、水層の底にあって、一方、MeOH前処理されたTiO2粉末が水相を通じて浮遊している(データは示さず)。
【0116】
実施例3:異なる溶媒を用いた本発明の方法により改質された、支持されていないTiO2膜層粉末の調製及び特徴付け
この実施例では、支持されていないTiO2膜層を粉末化した材料を、実施例1で説明した方法と同様の方法で改質した。ただし、工程dにおいて、アルキルオルガノマグネシウムブロマイドとの反応のための溶媒には異なる溶媒を使用した。この反応は、ジエチルエーテル(DEE)、テトラヒドロフラン(THF)、及びシクロペンチルメチルエーテル(CPME)中で行われた。MeOHが前処理のためのアルコールとして用いられ、オルガノマグネシウム化合物としてはオクチルオルガノマグネシウムブロマイドを用いた。これらの改質された、支持されていないTiO2膜層のTGA結果は、430℃超で重量損失を示した。このことは、あらゆる溶媒内でM1−C共有結合が形成されることを意味する。これらの材料のPAS−IRスペクトル分析は、図4で代表され、あらゆる粉末のためのオクチル官能基のC−H結合の伸縮振動を示す。
【0117】
改質されたTiO2粉末は、また、水/ヘキサン混合物内でも分散された。全ての粉末が、水/ヘキサン界面層でとどまり、表面上のオクチル鎖の存在のために、疎水性を増大させる。
【0118】
実施例4:本発明の異なる有機金属化合物を用いて改質された、支持されていないTiO2膜層粉末の調製と特徴づけ
この実施例において、支持されていなTiO2膜層を粉末化した材料は、実施例1に述べた方法と、オクチルオルガノマグネシウムブロマイド(C8改質)及びパーフルオロオクチルマグネシウムブロマイドとCF3(CF2)5(CH2)2MgBr(C8F改質)を改質するオルガノマグネシウム化合物として用いた以外は、同様にして、改質した。この反応は、ジエチルエーテル内で行われ、前処理はBuOHを用いて行った。
【0119】
DTG結果(図5参照)は、双方の改質に対して、430℃超での重量損失を示し、このことは、M1−C直接共有結合の形成を意味する。パーフルオロオクチル改質材料の重量損失は、フッ素原子のより高い分子質量のために、著しく高くなる。
【0120】
C8F改質されたTiO2粉末は、低い領域において、IR DRIFTスペクトルにおけるC−F結合に起因する、いくつかの強いバンドを示す(図6参照)。これらのIRバンドは、当該分野で、1100〜1400cm-1領域内に位置していることが知られている。
【0121】
実施例5:本発明の方法により改質された粉末化した支持されていないTiO2粉末の安定性と、シラン化された材料との安定性
この実施例は、シラン化により機能化された膜分野に関連して、本発明により調製された機能化された膜の改善された安定性を示す。支持されていないTiO2膜層を粉末化した材料は、実施例1で説明した方法と、アルコールを用いた前処理を行わなかった以外は、同様にして、改質した。他方、シラン化反応は、支持されていないTiO2膜を粉末化した材料について、次のようにして行った:すなわち、粉末化した支持されていないTiO2膜材料1gを、300℃のオーブン内で、一晩乾燥した。続いて、この粉末材料を、乾燥空気で連続的に不純物除去しているグローブボックスに移した。この材料を、80mlの乾燥トルエン(分子篩で乾燥)の溶液がはいったビーカーに添加し、激しくかき混ぜた。ビーカーの上方につるされていて滴下濾斗は、20ml乾燥トルエンと4mlのDCDMS(ジシクロジメチルシラン)の混合物で満たされた。DCDMS溶液を、ビーカーに滴下して加え、1時間攪拌を続けた。その後、その溶液は、デカントされ、Whattman濾紙を通して濾過され、20mlのトルエンで3回洗浄された。濾紙上での乾燥後、粉末材料は、真空設備のサンプルホルダー内に移され、シールされ、グローブボックスから除去され、60℃真空下(<10-3mbar)で一晩乾燥された。得られた材料は、TGA、IR(PAS及びDRIFT)のような技術状態で知られている方法により分析されるように、表面上に、紛れもなく化学的に結合されたTi−O−Si−CH3結合があると特徴づけられた。
【0122】
図7は、本発明によるメチルマグネシウムブロマイド試薬で改質する前後の、支持されていないTiO2膜を粉末化した材料のPSA IRスペクトルを示し、同様に、シラン化後(この場合、DCDMS)も示す。さらに、水中で1時間、材料を還流した後のC−H結合の変化を示す。図7からわかるように、本発明の方法で、メチルマグネシウムブロマイドを用いて改質された材料は、同量のC−H官能基を尚も示す一方、シラン化を通じて改質された材料は、有機官能基の大部分を失っている。
【0123】
同様に、DRIFTスペクトル(図8)から、水中での還流後、本発明の方法でメチルマグネシウムブロマイド改質されたTiO2の典型的パターンがなおも存在すること、及び1209cm-1での典型的Ti−C結合は変化しなかったことが観察された。反対に、当該分野で、Si−Cに割り当てられた典型定な波長であることが知られている1266cm-1での結合は、もはや見えず、水中での1時間の還流後には、官能基が実質的に浸出している(leaching)ことを示す。Si−C官能基の浸出(leaching)は、当該分野の状態で知られているように、Ti−O−Si結合の加水分解に対する安定性が弱いことによって引き起こされる。
【0124】
実施例6:表面改質された、TiO2含有セラミック膜の調製
この実施例は、セラミック金属酸化物膜(特にチタン含有膜)の表面の改質を示している。この実施例では、チタニアゾルゲル由来の最表層を有する、長さ12cmのチューブ状セラミック膜が機能化された。膜の最小空孔径は、3nmである。
【0125】
改質に先立ち、チューブ状セラミック膜の両端をテフロンコーティングでシールした。そして、シールされたチューブ状膜を、200mbar、190℃の真空オーブン内で1昼夜かけて乾燥させることにより、実質的に乾燥した膜表層を得た。
このチューブ状セラミック膜を、膜の形に調節された反応系に移した。
【0126】
例えば、3つ口を有する反応容器を用いてもよい。クーラー、閉じたバルブを提供したガスライナー、及び圧力バランスを備えた滴下濾斗が、前記容器に接続されている。反応容器は、例えば、十分に大きな空孔を有する多孔性格子構造を有していて、容器に入れたセラミック膜を損傷することなく反応容器内の溶液を攪拌及びかき混ぜることができる。この容器の下に、攪拌棒を用いて、その容器の上に置くことができるように、反応容器の底から数cmのところでせばめられたセクションを有している。この反応容器は、容器及び/または膜のかきまぜにより、容器内で膜が動くことができるように、且つ膜の表面に溶媒及び反応溶液がよりよく拡散できるように、セラミック膜の上方及び隣に残された限定的スペースを有する。しかしながら、ほかのタイプの反応容器又は反応系を、本発明の内容において用いることができることはいうまでもない。
【0127】
この実施例において、アルコールで前処理する工程の間、滴下濾斗がプラグにより置き換えられる。
【0128】
チューブ状セラミック膜は、かき混ぜできるように、且つ攪拌棒により引き起こされる損傷を防止できるように、垂直になるように置かれる(しかしながら、格子の上で傾けることもできる)。容器の寸法は、膜の上方から約5cm離して液体が位置するように、選ばれた。この容器は、かき混ぜがおこると、容器内に存在する液体が、膜の空孔と十分に接触し、良好に拡散できるように、膜よりも、数cm広い。このように、大量の溶媒を必要とすることを防止して、適度にかき混ぜられる。
【0129】
容器内での誘導後、乾燥されたチューブ状セラミック膜が、アルコールと反応した。膜の水和を防止しながら、ブタノール(n−ブタノール−1−オール、再使用(recapture)グレード、VWR international Inc.)が容器に添加された。ブタノール溶液は、例えば、攪拌及び振とうにより、激しくかきまぜられ、還流温度にまで加熱した。膜上でOH官能基がエーテル化(M−O−R2)するように、この膜を激しくかき混ぜながら、48時間、ブタノール溶液内で還流された。アルコール溶媒を添加するときの膜の水和を防止するために、アルゴンを所定時間、アルコール溶媒中にバブリングした。また、還流の加熱開始時に、アルゴン流が数分間保持された。さらに、数時間ごとに、アルゴンは、再び、容器内に入れられ、反応容器内への水の拡散を防止した。上記で説明された、調節された還流装備の代わりに、調節されたシュレンク(schlenk)装備を適用することもできる。この還流装備は、全体のプロセスの間に乾燥され続ける。このようにして、水をシールした。
【0130】
アルコール処理工程の後、アルコール溶液が、反応容器から取り出され、膜及び反応容器(格子及び攪拌棒を含む)を、真空オーブン内で、60℃で200mbarで、一晩乾燥した。ブタノール溶液は、分子篩にそれを通すことによって乾燥された場合には、後の使用のためにリサイクルされることができる。
【0131】
続いて、前処理された膜は、上述のものと同様に調節された還流装備内の乾燥条件下で、改質された。この場合、乾燥条件及び成功した機能化を保証するために、同様の測定が、上述のように行われ、反応容器内での湿分の導入(例えば、周囲からの水分蒸発)を防止した。さらに、乾燥気流グローブボックス内での乾燥後、反応容器の冷却を含めて、追加の測定が行われた。さらに、グリニャール反応の間に適用される溶媒が、グローブボックス内の反応容器内に満たされ、容器は、還流装備に移される間に閉じられた。
【0132】
70mlの乾燥ジエチルエーテルが、乾燥された膜がはいった反応容器に追加された。グローブボックス内で溶媒が追加された。その後、反応容器は、還流系上にマウントされ、隔膜つきの乾燥された滴下濾斗が、三つ口上に備えつけられた。また、アルゴン流が、開始され、反応容器を通じてバブリングされた。この反応容器は、攪拌及び振とうによりかき混ぜられ、連続的なアルゴン流が取り付けられた。そして、6mlのオルガノ金属試薬ペンチルマグネシウムブロマイド(ジエチルエーテル中にC511MgBr,2.0M、シグマ−アルドリッチ社)が、滴下濾斗を通じて、取付に先立って乾燥され、且つ連続的にアルゴンが流入されている容器に注入された。オルガノ金属試薬は、隔膜を通じて気密シリンジの助けを借りて、添加された。反応溶液は、振とうおよび攪拌のような激しいかき混ぜに曝された。約30分後、アルゴン流が封止され、溶媒の強い揮発を防止した。膜は、激しくかき混ぜながら、この反応溶液内で、室温で、6日間処理された。この工程では加熱を行わないけれども、冷却スイッチをオンして、ジエチルエーテルの強い揮発が防止された。再び、数時間ごとに、アルゴンを、容器内に導入して、反応容器内への湿分の拡散を防止した。
【0133】
膜のチタニア表面の改質が成功したことは、肉眼で判定することができる:最表層は、膜の空孔内のマグネシウム化合物の存在のために、灰黒色となる。
【0134】
そして、反応溶液は、取り出され、つづいて膜は、1.0MHCl、H2O及びメタノール(合成グレード、VWRインターナショナルインコーポレーション)で洗浄された。このシリーズの洗浄は、連続的に繰り返されてもよい。好ましくは、濾過により洗浄が行われ、疎水性Mg塩が膜上及び/又は膜空孔内に残るだろう。
洗浄後、膜は、200mbar、60℃で真空オーブン内で一晩乾燥された。
【0135】
実施例7:本発明により表面改質された、TiO2含有セラミック膜の特徴付け
実施例6により得られた膜と、改質されなかった、チタニアゾル−ゲル由来の表層を有するセラミック膜とを比較する。双方の膜は、当該技術でよく知られている技術により、4000cm-1〜400cm-1のスペクトルでIRスペクトル分析に供された。
【0136】
実施例6で改質された膜を示すマイクロATR−IRは、約1209cm-1の波長ピークを示し、金属−炭素(Ti−C)の直接共有結合が膜表面上で得られたことを示している。反対に、改質されなかった膜は、これと同じ波長のピークがあらわれない。
【0137】
実施例8:本発明により表面改質された、TiO2含有セラミック膜の流量(flux)挙動
この実施例では、ここで開示された方法に従って改質された、TiO2含有セラミック膜の流量(flux)挙動が、親水性の流量挙動(すなわち未改質のTiO2含有膜)と比較される。
【0138】
続けて2回機能化された、約3nmの空孔を有するTiO2表層を有する膜からなる、改質されたTiO2膜がこの実施例で分析された;すなわち実施例6で説明された方法を、ペンチルマグネシウムブロマイドを用いる乾燥工程から2回行った(実施例6と同じ改質が繰り返された)。
【0139】
流量挙動は、ナノ濾過設備を用いて測定された。流量測定は、室温で5barで行われた。水及びヘキサンを、膜内に流して、流量が測定された。ヘキサンと水のろ過は、4時間超行われた。そのような時点で、膜は、膜に溶媒を浸透/流すときに、安定化された且つ信頼できる流量を提供するのに十分な条件であった。水の流量測定とヘキサンの流量測定との間に、エタノールが膜を通して濾過された。水とヘキサンは混和できないので、水ともヘキサンとも混和する溶媒エタノールは、水又はヘキサンで膜のナノメートルサイズの空孔を適度に濡らすことができるようにする。表1は、流量測定の結果を示す。
【0140】
【表1】

【0141】
改質された膜に関して、水流量に対するヘキサン流量の比は、明らかに高くなり、ペンチル改質された膜が、さらに疎水性となったことを示している。
【0142】
実施例9:空孔サイズ設計
この実施例は、この方法が、セラミック膜の空孔サイズ設計に適用できることを示す。特に、この実施例では、未改質のTiO2含有セラミック膜の空孔サイズを、実施例6で得られた、TiO2含有セラミック膜の空孔サイズと比較する。この実施例において、水中でのポリエチレングリコール(PEG)混合物を用いて測定された膜のカットオフ値が、膜の空孔サイズの測定に用いられる。PEG混合物に関しては、異なる分子量を有するPEGが用いられた。分子量600のPEGを1g/l、分子量1500のPEGを1g/l、分子量3000のPEGを1g/l、分子量10000のPEGを1g/lからなる混合物であった。カットオフ測定は、室温で、圧力を40l/hm2以下の混合物流量となる圧力で、行われた。このように、未改質膜のカットオフ値を測定したところ、6000ダルトンであった。1回の改質後のカットオフ値は、4000ダルトンに下がった。このことは、ここで説明される機能化方法により、セラミック膜の空孔径を小さくできることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス表面に、1以上の異なる有機機能的部分を、直接に共有結合することによって特徴づけられる、有機機能化されたマトリックスを得る方法であって、
a)真空下で無機マトリックスを乾燥する工程;
b)前記乾燥したマトリックを、試薬(好ましくはアルコール)と反応させることにより、前記乾燥したマトリックスのプロトンを除去する工程;
c)余分な試薬を除去する工程;
d)工程c)において得られた、前記乾燥したマトリックスを、乾燥溶媒存在下で、有機金属試薬と反応させる工程;及び
e)得られた有機機能化されたマトリックスを洗浄し、所望により、さらに乾燥する工程
を含む有機機能化されたマトリックスを得る方法。
【請求項2】
前記有機金属試薬は、式R1−M2又は式R1−M2−X又は式R1−M2−R1'であり、式中、R1及びR1'は有機官能基であり、R1とR1'は同一でも異なっていてもよく、M2はLi又はMgであり、Xはハロゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属は、IVb族の遷移金属またはその混合物であり、好ましくは前記遷移金属はチタン又はジルコニウムである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)の前記アルコールは、式R2−OHであり、ここで、R2はアルキルであり、好ましくは、直鎖状C1−C8アルキル、より好ましくはC1−C4アルキル、最も好ましくはC1アルキルである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程b)は、前記アルコールの還流温度で、少なくとも数時間、好ましくは3時間以上、行われる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程b)で得られた前記マトリックスは、工程d)の前に、真空下で乾燥される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程d)が前記乾燥溶媒の沸点よりも低い温度で行われる請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程b)−d)は、不活性ガス下、好ましくはアルゴン雰囲気下で行われる請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、1回以上繰り返される請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法を実行することにより得られ得る有機機能化されたマトリックス。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法を実行することにより得られた有機機能化されたマトリックス。
【請求項12】
前記マトリックスは、少なくとも1層の分離膜層(seperating membrane layer)で被覆された、無機材料からなる支持部を含む無機濾過膜であって、
表面に、遷移金属水酸化物及び/又は遷移金属酸化物の部分を含んでいて、平均空孔サイズ1−10nmを有している、請求項10又は11に記載の有機機能化されたマトリックス。
【請求項13】
少なくとも1層の分離膜層で被覆された、無機材料からなる支持部を含んだ無機濾過膜であって、
表面にて、遷移金属水酸化物及び/又は遷移金属酸化物の部分を含み、請求項1〜9のいずれかの方法により、有機官能基で共有結合的にグラフト化されている、無機濾過膜。
【請求項14】
前記表面に結合(coupling)された前記有機官能基は、アルキル、パーフルオロアルキル、アリール、パーフルオロアリール、及びこれらのいずれかの組合せから選ばれる請求項13に記載の無機濾過膜。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれかに記載の有機機能化されたマトリックス、あるいは請求項13又は14に記載の無機濾過膜の、濾過及び/又は吸着及び/又は分離プロセスにおける使用。

【図1】
image rotate

image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−520757(P2012−520757A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500270(P2012−500270)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/053616
【国際公開番号】WO2010/106167
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(510312938)
【出願人】(511227923)ユニバーシテイト アントワープ (1)
【Fターム(参考)】