説明

表面改質処理剤および表面改質方法

【課題】 合金製品の表面に、優れた密着強度で各種樹脂等の有機コーティング層を形成するための表面改質処理剤と、この表面改質処理剤による合金製品の表面改質方法とを提供する。
【解決手段】鉄又はチタンを主成分とする合金製品における表面を改質するための水溶液であって、合金の表面に存する酸化安定被膜を除去する化学研磨溶液と、酸化安定被膜が除去されることによって活性化した合金製品の活性表面にカップリングし、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせる改質剤とからなる表面改質処理剤である。改質剤は、活性表面の金属イオンと錯体を構成する錯体形成用物質である。錯体形成用物質は、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸のうちから選ばれた少なくとも何れか1種以上からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄又はチタンを主成分とする合金の表面性状を改質し、もって樹脂などとの密着性を向上させることのできる表面改質剤と処理方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼や炭素鋼等の鉄を主成分とする合金や、チタン或いはチタン合金等は、耐食性が高く、しかも加工・溶接性に優れているため、現在、種々の分野における医療用機械・器具、機械部品又は精密機械・器具、大型加工物等に広く使用されている。
【0003】
これら鉄を主成分とする合金製品の表面処理剤として、本発明者は、リン酸を配合した化学研磨剤(特許文献1参照)や、重金属イオン及び/又は金属酸化物を配合した化学処理剤(特許文献2参照)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−126807号公報
【特許文献2】特開2008−223076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これら化学研磨後の合金製品の表面には、合金製品の用途に応じて絶縁膜、レジスト、配向膜、保護膜、イオンプレーティング、塗装などの各種樹脂等のコーテンィグ層を形成することが行われている。
【0006】
しかし、上記従来の化学処理剤による化学研磨の場合、化学研磨後、活性表面が大気中の酸素と触れて酸化安定化した酸化皮膜を形成するので、この酸化皮膜にコーティング層を形成することになってしまう。すなわち、コーティング層は、化学研磨時の合金製品の活性表面にコーティングすることはできなかった。したがって、従来は、合金製品の表面に各種樹脂等のコーティング層を形成する場合、優れた密着強度で接着することはできなかった。
【0007】
そこで、本発明者は、このような課題を解決すべく鋭意・検討を重ねた結果、鉄を主成分とする合金製品における化学研磨時の活性表面に、カップリング剤を導入し、このカップリング剤によって活性表面が酸化安定化するのを遅らせるとともに、このカップリング剤を介してコーティング層を定着させることができるとの知見を得たのである。
【0008】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、合金製品の表面に、優れた密着強度で各種樹脂等のコーティング層を形成するための表面改質処理剤と、この表面改質処理剤による合金製品の表面改質方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の表面改質処理剤は、鉄又はチタンを主成分とする合金製品における表面性状を改質するための水溶液であって、合金の表面に存する酸化安定被膜を除去する化学研磨溶液と、この化学研磨溶液で酸化安定被膜が除去されることによって活性化した合金製品の活性表面にカップリングし、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせる改質剤と、からなるものである。
【0010】
改質剤は、合金製品における活性表面の金属イオンと錯体を構成する錯体形成用物質を含有するものである。
【0011】
この錯体形成用物質としては、金属イオンと錯体を形成するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、リン酸二水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、EDTA、次亜塩素酸。没食子酸、ピロガロール、タンニン酸等を挙げることができる。特に、フェニル基などの環状構造を有する物質を用いることが好ましく、本発明においては、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸のうちから選ばれた少なくとも何れか1種以上からなるものを用いることが好ましい。この錯体形成用物質は、化学研磨溶液中で使用する場合、当該化学研磨溶液中で0.5〜5重量%、さらに好ましくは1〜3重量%に相当する量を使用するのが良い。また、化学研磨溶液とは別の液浴中で使用する場合、当該液浴中で0.02〜20重量%(好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは、1〜10重量%)に相当する量を使用するのが良い。
【0012】
化学研磨溶液は、合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、0.1〜10重量%程度の塩酸水溶液や硫酸水溶液などの酸性水溶液や、0.1〜10重量%程度の水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液、又は、0.02〜4重量%程度の酸性フッ化アンモニウムなどが好適に用いられる。
【0013】
なお、化学研磨溶液中の塩酸の濃度と硫酸の濃度の合計を化学研磨溶液全体に対して9.9重量%以下としたり、化学研磨溶液中の酸性フッ化アンモニウムの濃度を4重量%未満としたりすれば、本発明の表面改質処理剤につき、毒物及び劇物取締法の対象ではなくなり、運搬や保存について各種規制を受けることなく、簡易に取り扱うことができる。
【0014】
本発明においては、前記化学研磨溶液として、少なくともリン酸、硝酸及び硫酸を含み、当該化学研磨溶液全体におけるリン酸の濃度が20〜90重量%、硝酸の濃度が0.5〜9.9重量%、硫酸の濃度が1〜9.9重量%となされたものであることが好ましい態様となる。
【0015】
化学研磨溶液には、さらに、重金属イオン及び/又は金属酸化物を配合したものが好ましい。
【0016】
また、塩酸が化学研磨溶液全体に対して0.1〜9.9重量%配合されてなり、且つ硫酸と塩酸の和が10重量%未満となされたものが一層好ましい。
【0017】
更に、有機酸、界面活性剤及び溶解促進剤から選ばれた少なくとも1種以上が化学研磨溶液に加えられてなるものが特に好ましい。
【0018】
重金属イオンとしては、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、アンチモンイオン、バリウムイオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン、コバルトイオン、インジウムイオン、ニッケルイオン、モリブデンイオン、パラジウムイオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、セレンイオン、テルルイオン、ジルコニウムイオン又はタングステンイオンから選ばれた少なくとも1種以上となされたものが挙げられる。
【0019】
化学研磨溶液中で重金属イオンを発生する化合物としては、アンモニウム塩又はハロゲン化物となされたものが好ましい。
【0020】
上記課題を解決するための本発明の合金製品の表面改質方法は、上記したいずれかの表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面を改質する方法であって、化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、化学研磨溶液に改質剤を添加して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成するものである。
【0021】
上記課題を解決するための本発明の合金製品の表面改質方法は、上記したいずれかの表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面を改質する方法であって、化学研磨溶液に改質剤を混合した後、合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させるとともに、当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成するものである。
【0022】
上記課題を解決するための本発明の合金製品の表面改質方法は、上記したいずれかの表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面を改質する方法であって、化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、この合金製品を、改質剤を添加した水溶液に浸漬して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成するものである。
【0023】
本発明の表面改質処理剤が好適に適用される「鉄を主成分とする合金製品」としては、鉄(Fe)を主成分とし、目的に応じて、Ni、Cr、W、Cu、Co、C、Si、Mn又はMoなどの成分を1ないし複数種含有させた一般的に鉄合金と称されるもの(純鉄を含む)を素材として形成されたものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、例えばフェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、或いは炭素鋼等を素材として形成された製品が挙げられる。
【0024】
更に詳しくは、鉄を主成分とする合金の具体例としては、例えば74Fe−20Cr−4.5Al−0.5Ti−0.5Y、25.5Ni−15Cr−1.3Mo−54Fe−2.15Ti−0.3V、54.0Ni−18.0Cr−3.0Mo−18.5Fe−0.9Ti−0.5Al−5.1(Nb+Ta)又は72.5Ni−15.5Cr−7Fe−2.3Ti−0.9Al−1.0(Nb+Ta)等が挙げられる。
【0025】
一方、本発明の表面改質処理剤が好適に適用される「チタンを主成分とする合金製品」としては、チタン(Ti)を主成分とし、目的に応じて、Al、Mn、Fe、Sn、Mo、V、Pd、Taなどの成分を1ないし複数種含有させた一般的にチタン合金と称されるもの(純チタンを含む)を素材として形成されたものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、耐食チタン合金、α合金、ニアα合金、α‐β合金、ニアβ合金、β合金等を素材として形成された製品が挙げられる。
【0026】
化学研磨溶液は、合金製品の表面に存する不動態化膜(酸化皮膜)を取り除くもの、または、合金製品の表面に存する不動態化膜(酸化皮膜)を取り除くとともに、当該合金製品の表面を金属イオンで活性化した状態にするものである。合金製品の表面に活性表面を形成する、または、合金製品の表面の不動態化膜を取り除いて活性表面を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。本発明においては、化学研磨溶液として、温和な状況下で合金製品表面に存する不動態化膜(酸化皮膜)を取り除くと共に、当該合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を取り除くようになされたものを用いることが好ましい態様となる。
【0027】
具体的には、本発明の表面改質処理剤において、前記化学研磨溶液が、鉄を主成分とする合金製品の表面に接触すると、当該合金製品の表面上には電位差が生じ、その結果、合金製品の表面がエッチングされる。
【0028】
そして、合金製品が当該化学研磨溶液によってエッチングされるときに発生する熱エネルギーは、平坦な部分においては放散し易い一方で、微小な凸部や微細なバリにおいては熱エネルギーがこもり易くなるため、当該部分において溶解能が増し、集中的にエッチングされることになるのである。
【0029】
したがって、本発明の表面改質処理剤においては、前記化学研磨溶液として、硝酸および/または硫酸を含むものが好ましく、さらには、少なくともリン酸、硝酸及び硫酸を含む三成分系のものがより好ましく、特に、当該化学研磨溶液全体におけるリン酸の配合割合を、化学研磨溶液全体に対して20〜90重量%、好ましくは30〜80重量%程度に調整すれば、硝酸の配合割合を化学研磨溶液全体に対して0.5〜9.9重量%未満の範囲に調整すると共に、硫酸の配合割合を化学研磨溶液全体に対して1〜9.9重量%未満と著しく少なくすることができるのであり、中でも硝酸と硫酸の合計量が化学研磨溶液全体に対して9.9重量%以下とすることによって、本発明の表面改質処理剤はいわゆる毒物及び劇物取締法の対象ではなくなり、運搬や保存について各種法的な規制を受けることなく、簡便に取り扱うことができるのである。
【0030】
そして、化学研磨溶液においては、前記のリン酸、硝酸及び硫酸を前記特定範囲の濃度に調整することによって、合金製品における研磨したい箇所を集中的にエッチングすることができるのであり、これにより、緩慢な条件下で、合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を取り除いて合金製品の表面に活性表面を形成することができるのである。また、合金製品を構成する金属によっては、合金製品表面に存する不動態化膜を取り除くことができる上、合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を取り除くことができるのである。
【0031】
しかしながら、合金製品の内、例えばフェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼等を素材としているものに対しては、前記のリン酸、硝酸及び硫酸を特定の濃度に配合した三成分系の酸性水溶液を主成分とする化学研磨溶液により、合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を好適に取り除くことができるが、例えばオーステナイト系ステンレス鋼等のニッケルを含む合金を素材としている合金製品については、前記三成分系の酸性水溶液では、該合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を十分に取り除くことができない場合がある。
【0032】
そのため、化学研磨溶液においては、前記のリン酸、硝酸及び硫酸に加えて、更に「塩酸」を加えることが好ましく、このように、塩酸を加えて、四成分系の酸性水溶液とすることにより、オーステナイト系ステンレス鋼等のニッケルを含む合金を素材とする合金製品に対しても、該合金製品表面やエッジに発生した微小の凸部や微細なバリ或いは表面状態の不純物を好適に取り除くことができるのである。
【0033】
なお、更に加える塩酸の濃度としては、化学研磨溶液全体に対して0.1〜9.9重量%程度の配合割合が好ましく、塩酸の濃度が化学研磨溶液全体に対して0.1重量%未満では、少なすぎて所要の効果を得ることができないのであり、一方、塩酸の濃度が、前記化学研磨溶液全体に対して9.9重量%を超えると、多すぎて安全性や取扱性更に作業環境が悪化するので、いずれの場合も好ましくない。
【0034】
更に塩酸の濃度と硫酸の濃度の合計を化学研磨溶液全体に対して9.9重量%以下とすることにより、本発明の表面改質処理剤につき、毒物及び劇物取締法の対象ではなくなり、運搬や保存について各種規制を受けることなく、簡易に取り扱うことができるため一層好ましい。
【0035】
上述の如く、本発明の表面改質処理剤における化学研磨溶液は、リン酸、硝酸及び硫酸の三成分系のもの、若しくは更に塩酸を加えた四成分系のものが好ましいものとなるが、所望によりその他の成分、例えば、有機酸、界面活性剤或いは溶解促進剤などを適宜配合してその化学研磨速度を向上させても良い。
【0036】
前記「有機酸」は、主として合金製品表面が過剰にエッチングされることをより一層防止するために添加されるものであり、不動態化膜が破壊された合金製品表面を速やかに保護する作用を有するものであれば特に限定されるものではないが、一般的にはカルボキシル基(−COOH)を有する有機酸が好ましく、具体的には、ポリオキシモノカルボン酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、シュウ酸及びコハク酸等を挙げることができる。
【0037】
これらの有機酸の添加量としては、対象物である合金製品の素材や無機酸の組成等によって適宜決定されるものであり、特に限定されるものではないが、一般的には、前記化学研磨溶液全体に対して、0.01〜20.0重量%程度とするのが好ましく、更に、1〜10重量%程度とするのが一層好ましい。
【0038】
有機酸の添加量が、化学研磨溶液全体に対して0.01重量%未満では、合金製品表面を保護する作用、効果が不十分で、所要の抑制効果が得られないため好ましくなく、一方、添加量が、化学研磨溶液全体に対して20.0重量%を超えると、効果に限界が生じ、意味が無いだけでなく、他の成分との均衡、調整が悪くなる上、不経済となるので好ましくない。
【0039】
なお、これらの有機酸は、所望により、一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良いのである。
【0040】
前記「界面活性剤」は、主として合金製品の細部にわたり本発明処理剤を浸透、馴染ませ、均一な処理を実現させたり、光沢性を出したりするために添加されるものであり、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤又は非イオン界面活性剤のいずれも用いることができる。
【0041】
具体的には、アニオン界面活性剤としては、脂肪酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩型、アルキル硫酸エステル塩型、直鎖二級スルホン酸塩型、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩型、POEアルキル又はアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩型、及びPOEアルキル又はアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩型等を挙げることができる。
【0042】
一方、カチオン界面活性剤としては、アルキルピコリニウムクロライド型、アルキルトリエチルアンモニウムクロライド型及びその他の第4級アンモニウム塩型等を挙げることができる。
【0043】
又、ノニオン界面活性剤としては、POEアルキルフェニルエーテル型ノニオン、POEアルキルエーテル型ノニオン、POEポリオキシプロピレンブロックポリマー型ノニオン、POEグリコールアルキルエステル型ノニオン、ソルビタン脂肪酸エステル型ノニオン及びショ糖脂肪酸エステル型ノニオン等を挙げることができる。
【0044】
更に、両性界面活性剤としては、アルキルカルボキシベタイン型、アルキルアミノカルボン酸型及びアルキルイミダゾリン型等を挙げることができる。
【0045】
加えて、非イオン界面活性剤としては、POEアルキルエーテル、POEアルキルフェニルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、エチレングリコール及びグリセリン等を挙げることができる。
【0046】
これらの界面活性剤の添加量としては、対象物である合金製品の素材や無機酸の濃度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、一般的には、化学研磨溶液全体に対して、0.005〜10重量%程度が好ましく、特に、0.05〜5重量%程度が一層好ましく、0.1〜3重量%程度が特に好ましい。
【0047】
界面活性剤の添加量が化学研磨溶液全体に対して、0.005重量%未満では界面活性剤の添加量が少な過ぎて所要の添加効果が得られないため好ましくなく、一方、10重量%を超えると、効果に限界が生じるので意味が無いだけでなく、廃液が発泡しその処理、調整が困難になる上、不経済となるので好ましくない。
【0048】
なお、前記界面活性剤は、一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良いのである。
【0049】
前記「溶解促進剤」は、主として合金製品中のニッケルの溶解を促進するものであり、具体的に例えば、チオホルムアミド、チオアセトアミド、チオプロピオンアミド、チオベンズアミド、チオニコチンアミド、チオアセトアニリド、チオベンズアニリド、チオ尿素、1,3−ジメチルチオ尿素、1,3−ジエチルチオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、1,3−ジフェニル−2−チオ尿素、チオカルバジド、チオセミカルバジド、4,4−ジメチル−3−チオセミカルバジド、2−メルカプトイミダゾリン、2−チオウラシル、2−チオヒダントイン、3−チオラウゾール、2−チオウラミル、4−チオウラミル、チオペンタール、2−チオバルビツール酸、チオシアヌル酸、2−メルカプトキノリン、チオクマゾン、チオクモチアゾン、チオサッカリン又は2−メルカプトベンズイミダゾール等のチオアミド化合物を挙げることができる。
【0050】
これら溶解促進剤の添加量としては、対象物である合金製品の素材や無機酸の濃度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、一般的には、化学研磨溶液全体に対して、0.005〜5重量%程度が好ましく、特に、0.1〜3重量%程度が一層好ましい。
【0051】
溶解促進剤の添加量が化学研磨溶液全体に対して、0.005重量%未満では溶解促進剤の添加量が少な過ぎて所要の溶解促進効果が得られないため好ましくなく、一方、5重量%を超えると、溶解促進効果に限界が生じるので意味が無いだけでなく、不経済となるので好ましくない。
【0052】
なお、これらの溶解促進剤は、一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良いのである。
【0053】
ところで、本発明においては、前記化学研磨溶液に対し、更に、重金属イオン及び/又は金属酸化物を配合することが好ましい態様となる。
【0054】
即ち、本発明の表面改質処理剤においては、前記化学研磨溶液に対し、更に、重金属イオン及び/又は金属酸化物を配合しているから、該化学研磨溶液に合金製品を浸漬した際に、当該合金製品と前記重金属イオンとの関係においていわゆる「ガルバニ電池」が形成され、当該合金製品表面に存在する金属酸化物などを速やかに還元・除去することができ、その結果、エッジの盛り上がりのないミクロンオーダー(数μ〜数10μm程度)の微細な凹部を当該合金製品の表面に形成することができるのである。
【0055】
本発明の表面改質処理剤において、化学研磨溶液で用いられる重金属イオン及び/又は金属酸化物としては、化学研磨溶液に合金製品を浸漬した際に、当該合金製品との関係においていわゆる「ガルバニ電池」を形成し、当該合金製品表面に存在する金属酸化物などを速やかに還元・除去することができ、その結果、エッジの盛り上がりのないミクロンオーダーの微細な凹部を当該合金製品の表面に形成するものあれば、特に限定されるものではないが、特に、温度25℃における標準電極電位が−0.15V以上のものが好ましい。
【0056】
具体的には、前記重金属イオンが、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、アンチモンイオン、バリウムイオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン、コバルトイオン、インジウムイオン、ニッケルイオン、モリブデンイオン、パラジウムイオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、セレンイオン、テルルイオン、ジルコニウムイオン又はタングステンイオンから選ばれた少なくとも1種又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0057】
なお、本発明の表面改質処理剤において、化学研磨溶液中で重金属イオンを発生する化合物としては、当該化学研磨溶液中で重金属イオンを発生する化合物であれば特に限定されるものではないが、特に、例えばハロゲン化物等の重金属塩やアンモニウム塩、更に重金属の酸化物等が挙げられるのであり、又、この化合物は一種類のみならず二種類以上の複数種を適宜混合して添加しても良いのであり、更に、この化合物の添加量としては、対象物である合金製品の素材や無機酸の濃度更に界面活性剤の添加等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、一般的には、化学研磨溶液全体に対して、0.001〜7.5重量%程度が好ましく、更に、0.05〜5重量%程度が一層好ましい。
【0058】
本発明の表面改質処理剤において、化学研磨溶液中で重金属イオンを発生する化合物の添加量が化学研磨溶液全体に対して、0.001重量%未満では、少なすぎて所要の効果が得られないため好ましくなく、一方、7.5重量%を超えると、効果に限界が生じるので意味が無いだけでなく、廃液の処理、調整が困難になる上、不経済となるので好ましくない。
【0059】
改質剤は、前記化学研磨溶液で化学研磨されることによって活性化した合金製品の活性表面にカップリングし、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成するものである。
【0060】
更に詳しくは、本発明の表面改質処理剤において、前記改質剤は、化学研磨により活性化した合金製品の活性表面に露出する金属イオンと結合して錯体を構成し、この錯体によって活性表面が酸化しないカップリング層を形成するものである。
【0061】
この錯体を構成することができる改質剤としては、活性表面の金属イオンと容易に結合することが可能な水酸基と、合金製品の表面にコーティングされる樹脂などのコーティング層との密着が良い疎水基とを有する錯体形成用物質を用いることが好ましい。具体的には、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸、EDTAなどを用いることができるが、その中でも疎水基として環状構造、特にフェニル基を有する没食子酸、ピロガロール、タンニン酸のうちから選ばれた少なくとも何れか1種以上からなるものを用いることが好ましい。これらの錯体形成用物質の場合、水酸基が活性表面の金属イオン側を向いて結合して錯体を構成した状態で、疎水基が外側を向くこととなり、合金表面の外側が疎水基となるので、合金製品の表面にコーティングされる樹脂などのコーティング層の密着性がより一層向上することとなる。
【0062】
この改質剤は、化学研磨溶液に溶解して一液型として使用するものであってもよいし、化学研磨溶液とは別途に合金製品を浸漬処理することができるように水に稀釈して二液型として使用するものであってもよい。一液型の場合、最初から化学研磨溶液と改質剤とを混合して一液で構成したものであってもよいし、ある程度化学研磨が進んだ状態で、合金製品を浸漬している化学研磨溶液中に、当該化学研磨溶液をスターラーなどで攪拌しながら改質剤を加えて一液型とするものであってもよい。
【0063】
なお、二液型として使用する場合、改質剤は、当該改質剤の水溶液単体で、合金製品の表面にプラスに帯電した金属イオンを発生させて活性表面を形成し、この活性表面の金属イオンに結合して錯体を構成しなければならない。したがって、二液型として使用する場合の改質剤は、錯体を形成する錯体形成用物質以外に、合金製品の表面にプラスに帯電した金属イオンを発生させることができるだけの電位差を形成することができる濃度の酸が必要とされる。
【0064】
この改質剤は、以下ように作用すると考えられる。
すなわち、まず、合金表面は、表面改質処理剤に触れると、電位差を生じ、その結果、合金の表面がエッチングされる。このエッチングされるときに発生するエネルギーは、平坦な部分においては放散し易いが、微小な凸部や微細なバリにおいては熱エネルギーがこもり易くなるため、当該部分において溶解能が増し、集中的にエッチングされることになる。また、このエッチングの際に表面改質処理剤と合金製品とが接触する際に起こる反応は、水素イオンの電子受容による水素ガスの発生反応であり、この水素ガスが気泡となって合金製品の表面に発生すると、当該表面改質処理剤と合金製品との間に絶縁被膜となって介在することになる。
【0065】
そして、この水素ガスの気泡は、平坦な部分においては吸着力が大きく働くことから長く留まり、絶縁被膜として作用するが、微小な凸部や微細なバリにおいては吸着力が小さく極短時間しか前記気泡が留まらないから、当該微小な凸部や微細なバリが化学研磨溶液と接触し易くなる結果、当該部分が更に集中的にエッチングされることになる。
【0066】
この際、エッチングによってプラスに帯電した金属イオンに表面改質処理剤中の水酸基が近づこうとするが、エッチングの進行中は発生する水素ガスが絶縁被膜となって金属イオンになかなか近づけない。そして、ある程度水素ガスの発生が少なくなると、水酸基を有する錯体形成用物質が金属イオンと結合して錯体を形成し、最終的には水素ガスの発生反応が止まる。
【0067】
つまり、今までは、水素ガスの発生反応によって生じた水酸基が合金表面の金属イオンに結合していたため、液浴から合金を取り出すとすぐに金属イオンが酸化して安定化被膜を形成していたが、本願発明では水酸基を有する錯体形成用物質を合金表面の金属イオンに結合させて錯体を構成するため、エッチングによって得られた合金の活性表面を錯体で保護した形にすることができる。
【0068】
したがって、合金製品を表面改質処理剤から引き上げても、活性表面の金属イオンは錯体形成用物質と錯体を形成しているため、酸化安定化皮膜を形成することにはならない。
【0069】
しかも錯体は、合金製品の表面外側にフェニル基を向けた形になるため、後工程でコーティングされる樹脂などのコーティング層との相性が良く、優れた密着性が得られることとなる。
【0070】
なお、合金製品の表面全体にプラスに帯電した金属イオンが露出した形になっておらず、チル化層や不動態化膜が部分的に残っていることも考えられる。このような残存層のある部分では金属イオンと錯体形成用物質との間に残存層が介在するため、錯体を構成することはできないが、その間に介在する残存層は極めて薄膜であるため、この残存層の存在によって金属イオンに錯体形成用物質が引き寄せられないと言うことにはならず、やはり金属イオンと錯体形成用物質とはその間に残存層を介在した形である種のカップリング層を形成している。本発明で言うカップリング層とは、このように完全な錯体を形成していなくても合金製品の表面に錯体形成用物質が引き寄せられた状態になっている層を言う。
【0071】
次に、本発明の表面改質処理剤を用いた表面改質処理方法について述べる。
本発明の表面改質処理方法は、本発明の表面改質処理剤を3通りの方法で使用することで実施することができる。
【0072】
まず一つ目の方法は、化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、化学研磨溶液に改質剤を添加して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成する方法である。
【0073】
この方法は、合金製品の表面が荒れていたり、非常に強固な不動態化膜(酸化安定被膜)が存在していたりするような場合のように、初期の段階で十分な化学研磨を行いたい場合に、改質剤が化学研磨を止めてしまうことを確実に防止できる。
【0074】
二つ目の方法は、化学研磨溶液に改質剤を添加混合した後、合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を化学研磨して活性化させるとともに、当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成する方法である。
【0075】
この方法は、合金製品の表面が既に整っており、強固な不動態化膜(酸化安定被膜)も存在していないような場合のように、十分な化学研磨を行わなくても良いような場合、すなわち合金表面の活性表面を保護する目的だけの場合に、改質剤を素早く活性表面に導入して錯体を構成することができる。
【0076】
三つ目の方法は、化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、この合金製品を、改質剤と酸とを添加した水溶液に浸漬して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成する方法である。
【0077】
この方法は、上記した一つ目の方法と同様に、合金製品の表面が荒れていたり、非常に強固な不動態化膜(酸化安定被膜)が存在していたりするような場合のように、初期の段階で十分な化学研磨を行いたい場合に有効である。
【0078】
このようにして表面改質した合金製品は、活性表面に錯体が形成されたカップリング層を形成することができ、しかもこのカップリング層は、合金製品の表面外側にフェニル基を向けた形にすることができる。したがって、後工程でコーティングされる樹脂などのコーティング層との相性が良く、優れた密着性が得られることとなる。
【0079】
また、化学研磨溶液の選択により、微細バリや尖った凸部を選択的に除去できるので、極薄い樹脂膜を破壊されることなく強固に形成することができる合金製品を形成することが可能となる。
【0080】
また、化学研磨溶液の選択により、化学研磨後の基材の表面においてクロムの元素の割合を多くすることができるので、耐食性・耐発銹性を持った表面に錯体を形成することができる。
【0081】
この技術を利用すると、例えば、極薄いSUS304をベースとしたメタルハニカム触媒基材に、白金、パラジウム等を用いた貴金属触媒を金属ハニカム表面に強固に密着させる事が可能となる。したがって、VOC処理等の分野において高性能を発揮することができるメタルハニカム触媒を構成することができる。
【0082】
また、半導体集積回路を形成するための基材として使用した場合には、積層される配線回路導体層と絶縁樹脂層とを良好に密着させることができるとともに、積層した配線回路導体層と絶縁樹脂層とを剥離する際にも、滑らかな表面状態が得られているので、樹脂膜を破壊することなく剥離することができ、回路基板を構成するのに好適な表面構造を持った基材を提供することができる。したがって、医療機器用センサー、基板間ハーネス、計測機器、業務用カメラ、DVD光ピックアップ、圧力センサなどの各種電子機器に用いられる各種のフレキシブルプリント配線板または多層型フレキシブルプリント配線板を製造する際に、本願発明の表面改質処理を行った基材を用いることで、非常に優れた製品を製造することができる。
【0083】
液晶ポリエステルフィルムの形成用の基材として使用する場合も、上記したように優れた密着性が得られるが、この密着性は樹脂が基材表面の孔に入り込んでいわゆるアンカー効果で密着しているものではないため、基材から剥離する場合は、樹脂膜を破壊することなく綺麗に剥離することができる。
【0084】
また、合金製品の表面に樹脂等のコーティング層を形成することで、当該コーティング層を強固に密着させることができるので、電着塗装に代わる技術として、輸送機、重機、建築機材など各種部品の表面保護に利用することができる。
【0085】
さらに、合金基材の表面に絶縁コーティング層を形成し、この積層体からプレス加工や打ち抜き加工などすることによって各種部材を形成する場合であっても、合金基材とコーティング層とが強固に密着し、ずれるようなことにならない。したがって、シールドケース、インダクタ、コネクタ、端子、抵抗器、医療用キャップ、自動車の摺動部品、デジタルカメラのピックアップ部品など各種電子機器の部品として、非常に優れた部品を製造することができる。
【0086】
なお、表面改質処理剤で処理した合金製品表面のカップリング層に塗布する被覆樹脂としては、特に限定されるものではなく、PBI(ポリベンゾイミダゾール)樹脂、PI(ポリイミド)樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリイミド、トリアセテートセルロース、などの各種高分子材料、染料、金属メッキなどを設けて所望のコーティング層を形成することができる。
【発明の効果】
【0087】
以上述べたように、本発明によると、合金製品の活性表面にカップリング層を形成して当該活性表面の酸化安定化を遅らせることができるので、このカップリング層の上からコーテンィグ層を形成することで、カップリング層を介して合金製品の活性表面に強固に密着したコーテンィグ層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例2に係るテスト基材の表面の電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1に係るテスト基材の表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例2に係るテスト基材の表面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0089】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
本願発明に係る表面改質処理剤として、硫酸4.6重量%、酒石酸1.2重量%、没食子酸1.8重量%、水92.4重量%からなる表面改質処理液を調整した。
【0091】
使用テスト基材として、SUS304(φ24mm×t1mm、平均Ra0.45、Ry3.2:ミツトヨ社製 サーフテストSJ−301で測定)を用意した。このテスト基材は、表面の有機物を除去する為に140℃のオーブンで25分間空焼きを行い、金属表面が25℃になるまで徐冷した後に使用した。又、このテスト基材は、表面上にある有機物や酸化物などの汚れ等を脱脂洗浄した。この脱脂洗浄は、水酸化ナトリウムや希塩酸等を含有する脱脂酸洗浄剤を用いて40℃で5分間行った。
【0092】
その後、テスト基材をお湯で洗浄した後、上記表面改質処理液に40℃で5分間浸漬処理した。浸漬処理後のテスト基材は、水洗し、自然乾燥させ、浸漬処理後から30分以内にテスト基材の表面にスプレー塗料(株式会社アサヒペン製:多用途スプレー速乾タイプ)を塗布した。このテスト基材は、スプレー塗料を塗布後、室温で30分間自然乾燥させた後、50℃のオーブンで30分間乾燥させた。
【0093】
なお、本発明においては、事前にワーク(合金製品)に対し、前述の空焼きや脱脂洗浄等の前処理を施すことは必須ではないが、本発明の表面改質処理剤に浸漬する前に、前処理によって、ワーク表面に存する油膜や汚れ等を取り除けば、表面改質処理の効果が一層円滑に行えたり、更にワーク表面の不純物を一層容易に取り除くことができたりする。
【0094】
‐密着評価その1‐
乾燥後、乾燥した塗膜には、カッターで縦横5mm間隔で切れ目を入れ、縦横10列の合計100マスのマス目を形成した。この際、マス目に欠けを生じるか否かを目視によって確認し、塗膜の密着状態を評価した。
評価基準
◎:100マス中100マス欠けなし
○:100マス中3マス以下の欠けあり
△:100マス中4マス以上20マス以下の欠けあり
×:100マス中20マスを越える欠けあり
【0095】
‐密着評価その2‐
次に、上記テスト基材を、35℃に保った洗浄剤(北陸濾化社製:商品名RRLiquid)に30分浸漬し、水洗→水の超音波洗浄→水洗→エアブローを行った後の状態で再度評価した。評価基準は上記と同じである。
【0096】
‐密着評価その3‐
さらに、上記洗浄評価後のテスト基材の塗膜面に、セロハンテープ(ニチバン社製:商品名セロテープCT1535)を貼付け、爪で何度か擦った後、テスト基材とテープとが60度の角度になるように剥離試験を行った後の状態で再度評価した。評価基準は上記と同じである。このセロハンテープによる密着評価試験は、2回行い、その平均を結果として示した。結果を表1に示す。
【0097】
[実施例2]
本願発明に係る表面改質処理剤として、上記実施例1の没食子酸をピロガロールに変更した以外は全く同様にして表面改質処理液を調整し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0098】
また、別途に用意しておいたテスト基材で同様の処理を行い、スプレー塗料を塗布前の状態でテスト基材の表面を電子顕微鏡写真で確認した。結果を図1に示す。
【0099】
[比較例1]
比較対象となる処理剤として、リン酸35.0重量%、硝酸3.1重量%、硫酸7.9重量%、塩酸2.0重量%、クエン酸3.0重量、非イオン系界面活性剤0.5重量%、硝酸マンガン0.4重量%、水48.1重量%を混合した処理液を調整し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0100】
また、別途に用意しておいたテスト基材で同様の処理を行い、スプレー塗料を塗布前の状態でテスト基材の表面を電子顕微鏡写真で確認した。結果を図2に示す。
【0101】
[比較例2]
比較対象となる処理剤として、リン酸62.0重量%、硝酸1.6重量%、硫酸2.0重量%、塩酸1.0重量%、クエン酸3.0重量、非イオン系界面活性剤0.5重量%、硝酸マンガン0.4重量%、水29.5重量%を混合した処理液を調整し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0102】
[比較例3]
比較対象となる処理剤として、リン酸73.0重量%、硝酸1.0重量%、硫酸1.2重量%、塩酸0.6重量%、クエン酸0.6重量、非イオン系界面活性剤0.5重量%、硝酸マンガン0.4重量%、水22.7重量%を混合した処理液を調整し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0103】
[比較例4]
比較対象となる処理剤として、リン酸74.8重量%、硝酸2.0重量%、硫酸2.5重量%、非イオン系界面活性剤0.1重量%、水17.6重量%を混合した処理液を調整し、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0104】
[比較例5]
テスト基材を、耐水紙ヤスリ♯1000(三共理化学株式会社製:商品名FUJISTAR)で研磨し、常温のエタノールに1分間浸漬し水洗いを行った。乾燥後、上記実施例1と同様にテスト基材の表面にスプレー塗料を塗布して密着評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
また、別途に用意しておいたテスト基材で同様の処理を行い、スプレー塗料を塗布前の状態でテスト基材の表面を電子顕微鏡写真で確認した。結果を図3に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
[実施例3,4比較例3,4]
浸漬処理後から30分以内にテスト基材の表面にスプレー塗料を塗布していた条件を、24時間放置後にスプレー塗装する条件に変更する以外は、上記実施例1,2、比較例1,2と同様にして試験を行った。結果を表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
表1及び表2の結果から、本発明に係る表面改質処理剤は、優れた密着性が得られることが確認できた。
【0110】
加えて、図1ないし図3の結果から、本発明に係る表面改質処理剤で処理したテスト基材は、図2に示す比較例のテスト基材の表面のように単に滑らかな表面を形成しているだけでなく、表面全体が非常に細かく緻密に改質されていることが確認できた。
【0111】
[実施例3a、3b]
改質剤(没食子酸)の混合割合を変化させた以外は、前記実施例1と同様にして表面改質処理液を得た。この表面改質処理液を用い、前記実施例3と同様にして、試験を行った。結果を表3に示す。
【0112】
[実施例4a、4b]
改質剤(ピロガロール)の混合割合を変化させた以外は、前記実施例2と同様にして表面改質処理液を得た。この表面改質処理液を用い、前記実施例4と同様にして、試験を行った。結果を表3に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
表3の結果から、本発明に係る表面改質処理剤は、少なくとも改質剤の混合割合が0.5〜3.0重量%の範囲内において、優れた密着性が得られることが確認できた。
【0115】
[実施例4c〜4f]
前記実施例4にて得られた表面改質処理液を用い、浸漬温度を5〜60℃の範囲内で変化させた以外は、前記実施例4と同様にして、試験を行った。結果を表4に示す。
【0116】
[実施例4g]
前記実施例4にて得られた表面改質処理液を用い、脱脂洗浄を行わなかった以外は、前記実施例4と同様にして試験(密着評価その1のみ)を行った。結果を表4に示す。
【0117】
[実施例4h]
前記実施例4にて得られた表面改質処理液を用い、テスト基材としてチタン合金を用いた以外は、前記実施例4と同様にして試験(密着評価その1のみ)を行った。結果を表4に示す。
【0118】
【表4】

【0119】
表4における実施例4c〜4fの結果から、本発明に係る表面改質処理剤の密着性は、浸漬温度にほとんど依存することなく(少なくとも浸漬温度5〜60℃の範囲内において)、良好であることが確認できた。又、表4における実施例4gの結果から、本発明に係る表面改質処理剤の密着性は、脱脂洗浄の実行の有無にかかわらず、良好であることが確認できた。更に、表4における実施例4hの結果から、本発明に係る表面改質処理剤は、チタン合金に対しても有効に作用することが確認された。
【0120】
[実施例5]
リン酸74.8重量%、硝酸20.重量%、硫酸2.5重量%、界面活性剤として非イオン系界面活性剤0.1重量%、没食子酸2.0重量%、チオ尿素1.0重量%、水17.6重量%を加えて均一に混合することにより、本発明の表面改質処理剤を得た。
【0121】
この表面改質処理剤についても上記実施例1と同様の密着評価を行ったところ、密着評価1,2,3,ともに◎の優れた密着性が確認できた。
【0122】
[実施例6]
リン酸35.0重量%、硝酸3.1重量%、硫酸7.9重量%、塩酸2.0重量%、有機酸としてクエン酸3.0重量%、界面活性剤として非イオン系界面活性剤0.5重量%、溶解促進剤としてチオ尿素0.3重量%、硝酸マンガン0.1重量%、ピロガロール1.0重量%、水47.1重量%を混合することにより、本発明の表面改質処理剤を得た。
【0123】
この表面改質処理剤についても上記実施例1と同様の密着評価を行ったところ、密着評価1,2,3,ともに◎の優れた密着性が確認できた。
【0124】
[実施例7]
塩酸9.6重量%、硫酸5.0重量%、酒石酸1.25重量%、ピロガロール2.0重量%、水82.15重量%を混合することにより、本発明の表面改質処理剤を得た。
【0125】
この表面改質処理剤についても上記実施例1と同様の密着評価を行ったところ、密着評価1,2,3,ともに◎の優れた密着性が確認できた。
【0126】
[実施例8]
リン酸74.8重量%、硝酸20.重量%、硫酸2.5重量%、界面活性剤として非イオン系界面活性剤0.1重量%、チオ尿素1.0重量%、水19.6重量%を加えて均一に混合することによって化学研磨剤を得、この化学研磨剤にテスト基材を浸漬した(40℃、150秒)。次いで、ピロガロールの10重量%水溶液からなる改質剤に、前記化学研磨剤から引き揚げたテスト基材を浸漬した(40℃、150秒)。
【0127】
化学研磨剤と、改質剤の二液に分けて、ワーク(合金製品)を二段階で処理してなる本実施例においても、上記実施例1と同様の密着評価を行ったところ、密着評価1,2,3,ともに◎の優れた密着性が確認できた。
【0128】
[実施例9]
リン酸74.8重量%、硝酸20.重量%、硫酸2.5重量%、界面活性剤として非イオン系界面活性剤0.1重量%、チオ尿素1.0重量%、水19.6重量%を加えて均一に混合することによって化学研磨剤を得、この化学研磨剤にテスト基材を浸漬した(40℃、150秒)。次いで、化学研磨剤の全体量に対し、ピロガロールが10重量%となるように、化学研磨剤に改質剤(ピロガロール)を添加し、引き続きテスト基材を浸漬した(40℃、150秒)。
【0129】
化学研磨剤にてワーク(合金製品)を処理した後、係る化学研磨剤に改質剤を添加してなる本実施例においても、上記実施例1と同様の密着評価を行ったところ、密着評価1,2,3,ともに◎の優れた密着性が確認できた。
【0130】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、表面に樹脂等のコーティング層を形成して使用される各種合金製品の表面処理に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄又はチタンを主成分とする合金製品における表面性状を改質するための水溶液であって、
合金の表面に存する酸化安定被膜を除去する化学研磨溶液と、
酸化安定被膜が除去されることによって活性化した合金製品の活性表面にカップリングし、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせる改質剤とからなることを特徴とする表面改質処理剤。
【請求項2】
改質剤は、活性表面の金属イオンと錯体を構成する錯体形成用物質となされた請求項1記載の表面改質処理剤。
【請求項3】
錯体形成用物質は、没食子酸、ピロガロール、タンニン酸のうちから選ばれた少なくとも何れか1種以上からなる請求項2記載の表面改質処理剤。
【請求項4】
化学研磨溶液は、少なくともリン酸、硝酸及び硫酸を含み、当該化学研磨溶液全体におけるリン酸の濃度が20〜90重量%、硝酸の濃度が0.5〜9.9重量%、硫酸の濃度が1〜9.9重量%となされたものである請求項1ないし3の何れか一に記載の表面改質処理剤。
【請求項5】
化学研磨溶液には、さらに、重金属イオン及び/又は金属酸化物が配合されてなる請求項4に記載の表面改質処理剤。
【請求項6】
更に、塩酸が化学研磨溶液全体に対して0.1〜9.9重量%配合されてなり、且つ硫酸と塩酸の和が10重量%未満となされたものである請求項4または5記載の表面改質処理剤。
【請求項7】
更に、有機酸、界面活性剤及び溶解促進剤から選ばれた少なくとも1種以上が化学研磨溶液に加えられてなる請求項4ないし6のいずれか1項に記載の表面改質処理剤。
【請求項8】
重金属イオンが、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、アンチモンイオン、バリウムイオン、ビスマスイオン、カドミウムイオン、コバルトイオン、インジウムイオン、ニッケルイオン、モリブデンイオン、パラジウムイオン、銀イオン、金イオン、白金イオン、セレンイオン、テルルイオン、ジルコニウムイオン又はタングステンイオンから選ばれた少なくとも1種以上である請求項5ないし7のいずれか一に記載の表面改質処理剤。
【請求項9】
化学研磨溶液中で重金属イオンを発生する化合物がアンモニウム塩又はハロゲン化物となされたものである請求項8に記載の表面改質処理剤。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面性状を改質する方法であって、
化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、化学研磨溶液に改質剤を添加して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成することを特徴とする表面改質方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面性状を改質する方法であって、
化学研磨溶液に改質剤を添加混合した後、合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させるとともに、当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成することを特徴とする表面改質方法。
【請求項12】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の表面改質処理剤を用いて、鉄又はチタンを主成分とする合金製品の表面を改質する方法であって、
化学研磨溶液に合金製品を浸漬して当該合金製品の表面に存する酸化安定被膜を除去して活性化させた後、
この合金製品を、改質剤を添加した水溶液に浸漬して当該合金表面の活性表面に、活性表面が酸化安定皮膜を形成するのを遅らせるカップリング層を形成することを特徴とする表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237064(P2012−237064A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102056(P2012−102056)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(394020701)株式会社北陸濾化 (3)
【Fターム(参考)】