説明

表面改質剤および物品

【課題】基材の表面を充分に改質でき、基材の表面への接着性が良好である塗膜を形成できる表面改質剤、表面が充分に改質され、該状態を長期間保持できる物品を提供する。
【解決手段】下式(1)の化合物を含む表面改質剤。
[化1]


R=Rf−X−、左右のRは同一の基、Rf=パーフルオロアルキル基、X=−(OC)−、−(OC)−、−(OCF)−のうちの1種以上の繰り返しかつ該単位の数の合計が1以上の基、Y=有機基、nの平均=2〜10、Z=−Si(R(R3−m、R=水酸基または加水分解可能な基、R=水素原子または炭化水素基、m=1〜3。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に防汚性、撥水性、撥油性、滑り性、離型性等を付与する表面改質剤および該表面改質剤からなる塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に防汚性、撥水性、撥油性、滑り性、離型性等を付与するために、表面処理剤を塗布し、該表面処理剤からなる塗膜を形成することが行われている。
該表面処理剤としては、下記のものが提案されている。
【0003】
(1)下式(2−1)で表される化合物、下式(2−2)で表される化合物等を含む防汚剤(特許文献1)。
(OCFCFCFOCCOOC−Si(OCH ・・・(2−1)、
(HCO)SiCOCHCH(OH)CHOCHCF(OCFCF)(OCF)OCFCHOCHCH(OH)CHOCSi(OCH ・・・(2−2)。
ただし、a、b、cは、1以上の整数である。
【0004】
(2)下式(2−3)で表される化合物等を含む防汚剤(特許文献2)。
(OCFCFCF24OCCHOOCNHC−Si(OC ・・・(2−3)。
(3)ポリフルオロポリエーテル鎖および自己架橋性官能基(ビニル基、エポキシ基等。)を有する含フッ素ポリマーを含む表面改質剤(特許文献3)。
【0005】
しかし、(1)の防汚剤からなる塗膜は、該防汚剤が式(2−1)で表される化合物等を含む場合、基材への接着性が不充分であり、基材の表面から剥離しやすい。一方、該防汚剤が式(2−2)で表される化合物等を含む場合、基材への接着性が比較的良好であるものの、防汚性が不充分である。
(2)の防汚剤からなる塗膜は、基材への接着性が不充分であり、基材の表面から剥離しやすい。
(3)の表面改質剤からなる塗膜は、基材と反応し得る基を有さないため、基材への接着性が不充分であり、基材の表面から剥離しやすい。
【特許文献1】国際公開第98/49218号パンフレット(実施例)
【特許文献2】特開2000−144097号公報(実施例)
【特許文献3】国際公開第2004/108772号パンフレット(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、基材の表面を充分に改質でき、かつ基材の表面への接着性が良好である塗膜を形成できる表面改質剤、および表面が充分に改質され、かつ該状態を長期間保持できる物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面改質剤は、下式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
ただし、Rは、Rf−X−であり、かつ左右のRは同一の基であり、Rfは、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基であり、Xは、下式(u1)〜(u3)で表される繰り返し単位のうちの1種以上の繰り返しであり、かつ該繰り返し単位の数の合計が1以上である基であり、Yは、炭素数2以上の有機基であり、nの平均は、2〜10であり、Zは、−Si(R(R3−mであり、Rは、水酸基または加水分解可能な基であり、Rは水素原子または1価の炭化水素基であり、mは、1〜3の整数である。
−(OC)− ・・・(u1)、
−(OC)− ・・・(u2)、
−(OCF)− ・・・(u3)。
ただし、CおよびCは、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0010】
本発明の物品は、基材の表面に本発明の表面改質剤からなる塗膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面改質剤は、基材の表面を充分に改質でき、かつ基材の表面への接着性が良好である塗膜を形成できる。
本発明の物品は、表面が充分に改質され、かつ該状態を長期間保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。また、式(u1)で表される繰り返し単位を単位(u1)と記す。他の式で表される繰り返し単位も同様に記す。また、式(g1)で表される基を基(g1)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0013】
(表面改質剤)
本発明の表面改質剤は、化合物(1)を含むものである。
【0014】
【化2】

【0015】
Rは、Rf−X−である。
Rfは、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基であり、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基が好ましい。パーフルオロアルキル基を有することにより、基材の表面を充分に改質できる。パーフルオロアルキル基の炭素数が20以下であれば、表面改質剤の希釈溶媒に対する溶解性が向上するため、基材へ塗布しやすくなる。パーフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【0016】
Rfとしては、下記の基が好ましい。
CFCF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF−、
CF(CF10−、
CF(CF11−、
CF(CF12−、
CF(CF13−、
CF(CF14−、
CF(CF15−、
CF(CF16−、
CF(CF17−、
CF(CF18−、
CF(CF19−。
【0017】
Xは、単位(u1)〜(u3)のうちの1種以上の繰り返しである。
−(OC)− ・・・(u1)、
−(OC)− ・・・(u2)、
−(OCF)− ・・・(u3)。
ただし、CおよびCは、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
単位(u1)の数と単位(u2)の数と単位(u3)の数との合計は、1以上であり、2〜20が好ましい。単位(u1)〜(u3)の数の合計が1以上であれば、基材の表面を充分に改質できる。単位(u1)〜(u3)の数の合計が20以下であれば、表面改質剤の希釈溶媒に対する溶解性が向上するため、基材へ塗布しやすくなる。
Xにおける単位(u1)〜(u3)の存在順序は、任意である。
【0018】
左右のRは、同一の基である。同一の基とは、Rfが同一であり、かつXを構成する単位(u1)〜(u3)の種類、数および存在順序が同一であることを意味する。たとえば、左側のRが、C−(OCF(CF)CF)−(OCF(CF)−の場合、右側のRは、−(CF(CF)O)−(CFCF(CF)O)−Cとなる。
【0019】
Rとしては、下記の基が好ましい。
OCF(CF)−
OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
【0020】
OCF(CF)−
OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
【0021】
13OCF(CF)−
13OCF(CF)CFOCF(CF)−、
13{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
13{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
13{OCF(CF)CFOCF(CF)−、
【0022】
OCFCFCF−、
{OCFCFCF−、
{OCFCFCF−、
{OCFCFCF−、
{OCFCFCF−、
【0023】
OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
【0024】
OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−、
{OCFCF−。
【0025】
Yは、炭素数2以上の有機基である。Yの炭素数は総計で50以下が好ましい。総炭素数50超であると、分子量が大きくなりすぎ、希釈溶媒への溶解性が低下するおそれがあるほか、分子内でのフッ素部分の分子内に占める割合が低下し、基材の表面を充分に改質できないおそれがある。
【0026】
Yとしては、基(g1)〜基(g6)が好ましく、化合物(1)の製造が容易な点から、基(g1)がより好ましい。
【0027】
【化3】

【0028】
nの平均は、2〜10であり、3〜10が好ましい。
nの平均が2以上であれば、基材の表面への接着性が良好となる。nの平均が10以下であれば、基材の表面を充分に改質できる。
【0029】
化合物(1)は、通常、nの数が異なる複数種の化合物(1)の混合物である。よって、化合物(1)が、nの数が異なる2種以上の化合物(1)の混合物である場合、nは平均として表される。2種以上の化合物(1)の混合物は、nの平均が2〜10となる範囲で、nが1の化合物(1)を含んでいてもよく、nが10を超える化合物(1)を含んでいてもよい。
一方、化合物(1)が、nの数が同じ1種の化合物(1)のみからなる場合、該nの数がそのままnの平均となる。
【0030】
nの平均は、下記方法にて求める。
(i)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって化合物(1)の数平均分子量(ポリスチレン換算)を求める。
(ii)該数平均分子量からRf−Xの分子量を減じ、(Y−Z)の分子量を求める。
(iii)(Y−Z)の分子量をY−Zの分子量で除し、nの平均を算出する。
【0031】
Zは、−Si(R(R3−mである。
は、水酸基または加水分解可能な基である。水酸基または加水分解可能な基は、基材の表面と反応するため、表面改質剤からなる塗膜に含まれる化合物(1)は、基材の表面に化学的に結合している。
加水分解可能な基としては、アルコキシ基、エステル基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、ハロゲン原子等が挙げられ、入手の容易さや離型剤溶液の調製のしやすさの点から、メトキシ基またはエトキシ基が好ましい。
は、水素原子または1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基としては、炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
mは、1〜3の整数であり、基材への接着性の点から、3が好ましい。
【0032】
化合物(1)としては、化合物(11)が好ましい。
【0033】
【化4】

【0034】
化合物(11)は、たとえば、窒素雰囲気下、溶媒中にて化合物(3)と化合物(4)とを反応させることにより製造できる。
【0035】
【化5】

【0036】
溶媒としては、ハロゲン化脂肪族溶媒、ハロゲン化芳香族溶媒が好ましい。
ハロゲン化脂肪族溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム、2−クロロ−1,2−ジブロモ−1,1,2−トリフルオロエタン、1,2−ジブロモヘキサフルオロプロパン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロテトラクロロエタン、1,2−ジフルオロテトラクロロエタン、フルオロトリクロロメタン、ヘプタフルオロ−2,3,3−トリクロロブタン、1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,2,3−テトラフルオロ−1,2,3−トリクロロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、パーフルオロトリブチルアミン、(1−トリフルオロメチル)パーフルオロデカリン等が挙げられる。
【0037】
ハロゲン化芳香族溶媒としては、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロキシレン、ペンタフルオロベンゼン等が挙げられる。
溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
溶媒としては、化合物(3)および化合物(4)の溶解性が高い点、入手が容易である点、および得られる化合物(11)との反応性が低い点から、化合物(5−1)〜(5−6)が好ましい。
1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン・・・(5−1)、
1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン・・・(5−2)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン・・・(5−3)、
1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル・・・(5−4)、
パーフルオロトリブチルアミン・・・(5−5)、
(1−トリフルオロメチル)パーフルオロデカリン・・・(5−6)。
【0039】
反応温度は、5〜80℃が好ましい。
反応時間は、0.1〜10時間が好ましい。
nの平均を調整するためには、化合物(3)と化合物(4)とのモル比を調整すればよい。
【0040】
本発明の表面改質剤は、必要に応じて、公知の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、レベリング剤、粘度調整剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤等が挙げられる。
【0041】
以上説明した本発明の表面改質剤は、化合物(1)を含むため、基材の表面を充分に改質できる塗膜を形成できる。すなわち、化合物(1)がRf−X−基を有するため、従来の表面改質剤である化合物(2−2)に比べ、塗膜が充分に防汚性、撥水性、撥油性、滑り性、離型性等を発揮できる。
【0042】
また、以上説明した本発明の表面改質剤は、化合物(1)を含むため、基材の表面への接着性が良好である塗膜を形成できる。すなわち、化合物(1)のnの平均が2以上であるため、基材の表面と反応し得る−Z基の数が、従来の表面改質剤である化合物(2−1)または化合物(2−3)に比べ多くなり、塗膜に含まれる化合物(1)は、化合物(2−1)または化合物(2−3)に比べ、基材の表面に化学的に強固に結合できる。
【0043】
(物品)
本発明の物品は、基材の表面に本発明の表面改質剤からなる塗膜を有するものである。
基材としては、化合物(1)の−Z基と化学的に反応し得る表面を有するものが挙げられる。
【0044】
基材としては、下記のものが挙げられる。
金属(鉄、アルミニウム、銅、ニッケル等。)を加工した製品、
セラミックス製品(ガラス、コンクリート、タイル等。)、石材、
合成樹脂(ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリスチレン等。)、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート等。)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等。)、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等。)、ゴム、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ポリアミド、ポリイミド、アルキド樹脂、ポリウレタン、ビニルエステル樹脂、ポリスルホン、アイオノマー樹脂等。)を加工した製品、
木、紙、印刷物、印画紙、絵画等、
ディスプレイ装置、または該表面に保護膜、反射防止膜、光吸収膜等を形成したディスプレイ装置、
ディスプレイ用部材(ディスプレイ装置の構成部材、ディスプレイ装置用フィルタ等。)、または該表面に保護膜、反射防止膜、光吸収膜等を形成した部材、
光学部品、または該表面に保護膜、帯電防止機能膜、反射防止膜等を形成した部材、
記録媒体(光記録媒体、磁気記録媒体等。)、または該表面に保護膜、反射防止膜、光吸収膜等を形成した記録媒体等。
【0045】
金属を加工した製品としては、樹脂成形用金型等が挙げられる。
セラミックス製品としては、ショーウインド、ショーケース、広告用カバー、フォトスタンド用カバー、自動車フロントガラス等が挙げられる。
合成樹脂を加工した製品としては、各種成形品、プラスチック製建材等が挙げられる。
ディスプレイ装置としては、CRT、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機EL、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投射型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等が挙げられる。
ディスプレイ装置の構成部材としては、液晶ディスプレイ構成部材(フロントライト、拡散シート等。)が挙げられる。
ディスプレイ装置用フィルタとしては、防眩フィルタ、PDP用フィルタ、PDP用保護板、タッチパネル(タッチセンサー、タッチスクリーン等。)等が挙げられる。
光学部品としては、眼鏡レンズ、プリズム、レンズシート、ペリクル膜、偏光板、光学フィルタ、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、背面投射型ディスプレイのスクリーン、光ファイバ、光カプラ等が挙げられる。
光記録媒体としては、光磁気ディスク、光ディスク(CD、LD、DVD等。)、相転移型光ディスク(PD等。)、ホログラム記録媒体等が挙げられる。
磁気記録媒体としては、磁気テープ、磁気ディスク、磁気ドラム、磁気フレキシブルディスク等が挙げられる。
【0046】
塗膜の水に対する接触角は、90度以上が好ましく、95〜130度がより好ましい。該塗膜の水に対する接触角が90度以上であれば、基材の表面を充分に改質でき、特に基材の表面に防汚性、撥水性を充分に付与できる。
塗膜のn−ヘキサデカンに対する接触角は、30度以上が好ましく、35〜90度がより好ましい。該塗膜のn−ヘキサデカンに対する接触角が30度以上であれば、基材の表面を充分に改質でき、特に基材の表面に防汚性、撥油性を充分に付与できる。
接触角は、JIS R3257にしたがって測定する。
【0047】
本発明の物品は、下記の工程(a)〜(d)を経て製造される。
(a)必要に応じて、基材を洗浄する工程。
(b)該基材の表面に表面改質剤の膜を形成する工程。
(c)表面改質剤の膜を加熱して塗膜とし、本発明の物品を得る工程。
(d)必要に応じて、物品を洗浄する工程。
【0048】
工程(a):
基材を洗浄する方法としては、下記方法が挙げられる。
(a−1)有機溶媒中にて基材を超音波洗浄する方法。
(a−2)酸または過酸化物の溶液中にて基材を煮沸洗浄する方法。
【0049】
有機溶媒としては、アセトン、エタノール、化合物(5−1)等が挙げられる。
酸としては、硫酸、塩酸、スルファミン酸、ギ酸、クエン酸、グリコール酸等が挙げられる。
過酸化物としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化バリウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸バリウム等の水溶液が挙げられる。
該洗浄の後、精製水でさらに洗浄し、乾燥した後、オゾン照射を行い、基材の表面を清浄化してもよい。
【0050】
工程(b):
基材の表面に表面改質剤の膜を形成する方法としては、下記方法が挙げられる。
(b−1)表面改質剤溶液を基材の表面に塗布する方法。
(b−2)表面改質剤溶液に基材を浸漬する方法。
【0051】
表面改質剤溶液は、たとえば、化合物(1)および溶媒を含む溶液を、必要に応じて希釈溶媒で希釈し、必要に応じて酸を添加することによって調製できる。表面改質剤溶液は、適宜必要に応じて、濃度を調節して使用することが好ましい。表面改質剤の濃度は、0.001〜10質量%が好ましい。
希釈溶媒としては、1−ブタノール、イソプロパノール、エタノール、1−プロパノール、t−ブタノール等が挙げられる。
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
塗布方法としては、スピンコート法、キャスト法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。
【0052】
工程(c):
加熱温度は、50〜180℃が好ましい。
加熱時間は、0.1〜24時間が好ましい。
加熱の際の雰囲気としては、大気下が好ましい。
【0053】
工程(d):
物品を洗浄する方法としては、フッ素系溶媒にて物品を超音波洗浄する方法が挙げられる。
フッ素系溶媒としては、化合物(5−1)〜(5−6)が挙げられる。
【0054】
以上説明した本発明の物品にあっては、塗膜を構成する表面改質剤が化合物(1)を含むため、表面が充分に改質される。すなわち、化合物(1)がRf−X−基を有するため、従来の表面改質剤である化合物(2−2)に比べ、塗膜が充分に防汚性、撥水性、撥油性、滑り性、離型性等を発揮できる。
【0055】
また、以上説明した本発明の物品にあっては、塗膜を構成する表面改質剤が化合物(1)を含むため、基材から塗膜が剥離しにくい。すなわち、化合物(1)のnの平均が2以上であるため、基材の表面と反応し得る−Z基の数が、従来の表面改質剤である化合物(2−1)または化合物(2−3)に比べ多くなり、塗膜に含まれる化合物(1)は、化合物(2−1)または化合物(2−3)に比べ、基材の表面に化学的に強固に結合している。その結果、基材から塗膜が剥離しにくく、表面が充分に改質された状態を長期間保持できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例にのみに限定されるものではない。
例1は、実施例であり、例2、3は、比較例である。
【0057】
(接触角)
塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角は、JIS R3257にしたがい、接触角計(CA−X150型、協和界面科学社製)を用い、4μLの水またはn−ヘキサデカンを塗膜の表面に着滴させて測定した。
【0058】
(接着性)
0.5kgの荷重をかけながら、JKワイパー(クレシア社製、150−S)を塗膜の表面にて100往復させる拭き取り試験を行った。該試験後の、塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角を測定し、該試験前後の接触角の変化から塗膜の接着性を評価した。
【0059】
〔例1〕
冷却管を備えた100mL丸底フラスコに、化合物(4−1)の0.74g(5.0mmol)を入れ、さらに該フラスコに、化合物(5−1)中に化合物(3−1)の4.97g(5.0mmol)を含む溶液の45.71gを入れ、窒素雰囲気下、50℃にて2時間反応を行った。
【0060】
【化6】

【0061】
反応終了後、反応粗液をフィルタでろ過し、化合物(5−1)中に化合物(11−1)を含む溶液の27.2gを得た。
【0062】
【化7】

【0063】
該溶液中の化合物(11−1)の濃度は、10.2質量%であった。GPCにより化合物(11−1)の数平均分子量(ポリスチレン換算)を測定し、nの平均を算出したところ、nの平均は2.8であった。
該溶液の1gを、1−ブタノールの9.18gに加え、さらに、塩酸の0.081gを加え、表面改質剤溶液を調製した。
【0064】
基材としてニッケル基板を用意し、該ニッケル基板をアセトン中にて超音波洗浄した。
該ニッケル基板の表面に、表面改質剤溶液を、回転数500rpmで10秒間スピンコートし、ついで、2000rpmで20秒間スピンコートし、表面改質剤の膜を形成した。
表面改質剤の膜を、ニッケル基板ごと150℃で1時間加熱し、ニッケル基板の表面に塗膜を形成し、物品を得た。
【0065】
該物品を化合物(5−1)中にて超音波洗浄した後、塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角を測定した。また、拭き取り試験後の、塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角を測定した。結果を表1に示す。塗膜の剥離は見られなかった。
【0066】
〔例2〕
冷却管を備えた100mL丸底フラスコに、化合物(4−1)の0.099g(0.67mmol)を入れ、さらに該フラスコに、化合物(5−1)中に化合物(3−1)の6.6g(6.7mmol)を含む溶液の63.99gを入れ、窒素雰囲気下、50℃にて2時間反応を行った。
反応終了後、反応粗液をフィルタでろ過し、化合物(5−1)中に化合物(11−1)を含む溶液の63.2gを得た。
【0067】
該溶液中の化合物(11−1)の濃度は、4.2質量%であった。GPCにより化合物(11−1)の数平均分子量(ポリスチレン換算)を測定し、nの平均を算出したところ、nの平均は17.0であった。
該溶液の1gを、イソプロピルアルコールの3.2gに加え、表面改質剤溶液を調製した。
【0068】
基材としてニッケル基板を用意し、該ニッケル基板をアセトン中にて超音波洗浄した。
該ニッケル基板の表面に、表面改質剤溶液を、回転数700rpmで20秒間スピンコートし、表面改質剤の膜を形成した。
表面改質剤の膜を、ニッケル基板ごと150℃で1時間加熱し、ニッケル基板の表面に塗膜を形成し、物品を得た。
【0069】
該物品を化合物(5−1)中にて超音波洗浄した後、塗膜の水に対する接触角を測定したところ66.0度であり、撥水性は確認できなかった。結果を表1に示す。
【0070】
〔例3〕
パーフルオロヘキサン中に化合物(2−4)の1質量%を含む溶液(ダイキン工業社製、オプツールDSX)を用意し、該溶液を表面改質剤溶液とした。
(OCFCFCFOC−Si(OCH ・・・(2−4)。
ただし、pは、1以上の整数である。
【0071】
基材としてニッケル基板を用意し、該ニッケル基板をアセトン中にて超音波洗浄した。
該ニッケル基板の表面に、表面改質剤溶液を、回転数500rpmで10秒間スピンコートし、表面改質剤の膜を形成した。
表面改質剤の膜を、ニッケル基板ごと150℃で1時間加熱し、ニッケル基板の表面に塗膜を形成し、物品を得た。
【0072】
該物品を化合物(5−1)中にて超音波洗浄した後、塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角を測定した。また、拭き取り試験後の、塗膜の水またはn−ヘキサデカンに対する接触角を測定した。結果を表1に示す。試験後の接触角が、ニッケル基板の接触角(水:76度、n−ヘキサデカン:10度未満)に近くなっており、塗膜の剥離が確認された。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の表面改質剤は、防汚剤、撥水剤、撥油剤、離型剤等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物を含む、表面改質剤。
【化1】

ただし、Rは、Rf−X−であり、かつ左右のRは同一の基であり、Rfは、炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基であり、Xは、下式(u1)〜(u3)で表される繰り返し単位のうちの1種以上の繰り返しであり、かつ該繰り返し単位の数の合計が1以上である基であり、Yは、炭素数2以上の有機基であり、nの平均は、2〜10であり、Zは、−Si(R(R3−mであり、Rは、水酸基または加水分解可能な基であり、Rは、水素原子または1価の炭化水素基であり、mは、1〜3の整数である。
−(OC)− ・・・(u1)、
−(OC)− ・・・(u2)、
−(OCF)− ・・・(u3)。
ただし、CおよびCは、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
【請求項2】
基材の表面に、請求項1に記載の表面改質剤からなる塗膜を有する、物品。

【公開番号】特開2009−144125(P2009−144125A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325955(P2007−325955)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】