説明

表面改質層を有するZn系めっき鋼板の連続製造方法

【課題】 組成が変化する回収処理液を循環使用しても、液寿命を長引かせることができ、長時間に亘って安定的に表面改質層を有するZn系めっき鋼板を連続製造することのできる方法を確立する。
【解決手段】 Zn系めっき鋼板を連続的に通板させ、その通過鋼板表面に、プロトン放出性P成分を必須的に含む表面処理剤をスプレー噴霧した後、前記処理剤に含まれる水性溶媒を除去することによって、前記めっき表面にPを含有する表面改質層を形成するに当たり、上記表面処理剤は、スプレー噴霧工程で回収された回収処理液を含むものであり、上記表面処理剤は、上記プロトン放出性P成分に加えて、さらに、カルボキシル基含有有機樹脂およびZnイオンを、特定条件を満足するように含むことを特徴とする表面改質層を有するZn系めっき鋼板の連続製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性の表面処理剤から化学反応を経て形成される表面改質層を有するZn系めっき鋼板を連続的に製造する方法に関し、特に、表面処理剤をスプレー噴霧した後、鋼板に付着しなかった表面処理剤や、鋼板表面から余剰分として除去された表面処理剤を回収して再使用するための連続製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電用、建築材料用、自動車用等に適用される鋼板としては、耐食性の観点からZn系めっき鋼板が汎用されている。しかし、Zn系めっきのみでは耐食性(耐白錆性)が不充分である他、塗装下地として使用する場合に塗料との密着性も確保し難いことから、改善策としてリン酸塩処理やクロメート処理が行われている。下地処理としてリン酸塩処理を行うと、塗膜との密着性はかなり改善されるが、リン酸塩処理のままでは白錆抑制効果が乏しいため汎用性を欠く。
【0003】
一方、クロメート処理の場合、白錆抑制効果には優れているものの、そのままでは塗膜との密着性が充分でない。そこでこれを改善すると共に、高耐食性、耐指紋性、潤滑性等の機能をも付与することを目的とし、クロメート処理層の上に1μm程度の薄膜被覆を施した多機能製品が開発され、家電メーカーを中心に汎用されてきた。
【0004】
しかしながら、クロメート処理には有害な6価クロムを使用するため公害の原因になるという問題があり、特に近年、環境保全に対する意識が高まってくるにつれてクロメート処理は回避される傾向にある。そこで、クロメートを用いない(ノンクロメート)表面処理法が数多く提案され、実用化されている。
【0005】
本願出願人も、Si,P,Alを特定比率で含むノンクロメートの表面改質層を有するZn系めっき鋼板を開発し、既に出願した(特願2004−112035号)。この表面改質層は、特に、耐テープ剥離性を高めることを目的として開発されたものである。ここで、耐テープ剥離性とは、需用者等が鋼板に粘着テープを貼付した後、剥離する時に、鋼板表面に形成された皮膜が剥離してしまう現象をいう。
【0006】
そして、本発明者等は、上記表面改質層を有する鋼板を工業的生産ラインに載せるに当たり種々の検討を行い、得られる表面改質層の特性が良好な点でスプレーコーティング法を採用することとした。具体的には、鋼板を通板させながら、酸性の表面処理剤を上下(あるいは左右)からスプレー噴霧し、所定時間(0.1〜10秒程度)反応させてから、リンガーロールで余剰分の表面処理剤を除去し、水洗、乾燥を経て表面改質層を形成している。
【0007】
しかし、リンガーロールで除去された表面処理剤や、スプレー噴霧の際に鋼板に付着しなかった表面処理剤を集めてみると、かなりの量となることがわかった。この回収処理液を廃棄するには中和処理等が必要である上に、コスト的な面からも再使用が望ましいと考えられた。なお、特許文献1には類似技術が開示されているが、ロールコーティング法が採用されており、表面処理剤を循環使用する際に参考になるような記載は認められなかった。
【特許文献1】特開2000−144444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等が上記回収処理液を再使用する方法を検討したところ、回収処理液のみを循環使用してスプレー噴霧工程を繰り返すと、表面改質層の付着量が減少する傾向が認められた。例えば、ある設備では、表面改質層の付着量が、操業後1時間程度で操業当初の半分以下になってしまうのである。後に詳しく説明するように、表面改質層は化学反応を経て形成されるため、回収された処理液では表面改質層の形成に用いられた成分量が減少しており、操業初期の表面処理剤とは組成が異なっている。また、Zn系めっき鋼板を原板とするため、回収処理液にはめっき層からZnイオンが溶出してきて蓄積し、液の酸性度合いも変化する。これらの作用により、表面改質層の付着量が減少すると考えられた。
【0009】
そこで本発明では、表面改質層を有するZn系めっき鋼板を連続製造するに当たり、回収処理液を循環使用しても、表面改質層の付着量の変動を抑制することのできる表面処理剤を見出して、安定的な連続操業を可能にする方法を見出すことを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することのできた本発明法は、Zn系めっき鋼板を連続的に通板させ、その通過鋼板表面に、プロトン放出性P成分を必須的に含む表面処理剤をスプレー噴霧した後、前記処理剤に含まれる水性溶媒を除去することによって、前記めっき表面にPを含有する表面改質層を形成するに当たり、
上記表面処理剤は、スプレー噴霧工程で回収された回収処理液を含むものであり、
上記表面処理剤は、上記プロトン放出性P成分に加えて、さらに、カルボキシル基含有有機樹脂およびZnイオンを、
(1)表面処理剤のフリーアシッド(FA)は0.05〜10ポイント、
(2)表面処理剤中のカルボキシル基含有有機樹脂の濃度Cppm(質量基準。以下同じ)とFAの比率:C/FAが20〜2000、
(3)表面処理剤中のZnイオン濃度はZn換算で100ppm以上、
という三条件を満足するように含むところに特徴を有する。
【0011】
カルボキシル基含有有機樹脂を用いることで、表面処理剤の液劣化を防ぐことができ、安定した連続操業が可能となった。上記表面処理剤は、さらに無機酸を含むことが好ましい。
【0012】
表面処理剤の上記FA、CppmおよびZnイオン濃度を制御するには、上記表面処理剤を表面処理剤槽に貯えておき、必要に応じて表面処理剤槽から表面処理剤の一部を廃棄すると共に、回収処理液と、プロトン放出性P成分、カルボキシル基含有有機樹脂、無機酸、水性溶剤およびZnイオンよりなる群から選択される1種以上とを、表面処理剤槽へ供給する方法が採用可能である。
【0013】
上記カルボキシル基含有有機樹脂は、ポリアクリル酸が好適であり、その重量平均分子量は10万〜20万であることが好ましい。また、無機酸は、水中での解離定数pKaが2.0以下の強酸が好適であり、特に、硝酸が好ましい。
【0014】
スプレー噴霧工程によって鋼板表面に形成された表面処理剤層の水洗を行った後、乾燥工程を行うことで表面処理剤層から水性溶媒を除去すると、表面改質層が形成される。なお、表面処理剤層とは、水洗・乾燥後は表面改質層となる層をいう。
【発明の効果】
【0015】
Zn系めっき鋼板におけるZn系めっき層の上に、酸性の表面処理剤から表面改質層を形成するに当たり、表面処理剤にカルボキシル基含有有機樹脂を加えておくと、Znめっきの過度なエッチングが抑制されると共に、過剰なZnイオンの溶出が抑制され、その結果、過度にプロトン(H+)が低減するのも抑制されて、表面処理剤の遊離酸度(フリーアシッド:FA)の低下度合いが緩やかになる(pHが増大しにくくなる)ため、表面改質層を生成するための化学反応が弱まらず、安定な層形成反応進行が持続する。これにより、表面改質層の付着量の減少を抑制することができた。また、表面処理剤中のFA、カルボキシル基含有有機樹脂の量を適切に調整することで、上記効果が維持される。よって、本発明法によれば、スプレー噴霧工程で回収された回収処理液を用いていても、表面改質層を一定の付着量で長時間に亘って安定してZn系めっき鋼板表面に形成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明法が適用されるZn系めっき鋼板としては、Zn単独めっき鋼板の他、Zn−Ni、Zn−Fe、Zn−Al等のZn系合金めっき鋼板が全て適用でき、まためっき法も溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法等いずれも採用可能である
本発明法でスプレー噴霧に供される表面処理剤は、スプレー噴霧工程で回収された回収処理液を含むものであり、プロトン放出性P成分、カルボキシル基含有有機樹脂、Znイオンを必須的に含む酸性の水溶液(もしくは水分散液)である。そして、この表面処理剤はこれらの必須成分を下記条件を満足するように含む必要がある。
【0017】
(1)表面処理剤のフリーアシッド(FA)は0.05〜10ポイント、
(2)表面処理剤中のカルボキシル基含有有機樹脂の濃度CppmとFAの比率:C/FAが20〜2000(すなわち、Cが上記FAの20〜2000倍)、
(3)表面処理剤中のZnイオン濃度はZn換算で100ppm以上。
【0018】
まず、(1)の条件について説明する。本発明法で用いられる表面処理剤は、酸性でなければならず、その酸性度合いをFA(フリーアシッド)で表している。FAは中和滴定で測定することができ、表面処理剤(スプレー噴霧に供される液そのままのもの)10mlを脱イオン水で100mlに希釈した後、指示薬としてブロモフェノールブルーを滴下し、0.1Nの水酸化ナトリウムで滴定する。液色が青紫色に変化した時点までに滴下した0.1Nの水酸化ナトリウムの量(ml)を、FA(ポイント)とする。
【0019】
本発明法では、表面処理剤のFAを0.05〜10ポイントとする。酸性の表面処理剤を用いるのは、Zn系めっき層をエッチングしながら表面改質層を形成するためである。エッチングにより、Zn+2H+→Zn2++H2↑の反応がZn系めっき層表面で進行して、この表面近傍のpHが上昇することにより、表面処理剤(酸性水溶液)中でプロトン放出性P成分に由来するPが、Znや必要に応じて添加される表面改質層形成用金属(例えば、Al、Mg、Ca等)と反応して水に溶けにくい化合物(例えば、Zn3(PO42、AlPO4、Al2(HPO43等)を生成し、これらが析出して表面改質層となる。また、エッチングによってZn系めっき層が粗面化され、表面改質層との密着性が良好になり、耐テープ剥離性等の特性が向上する。ただし、Zn+2H+→Zn2++H2↑の反応が進行すると、プロトンが消費され、FAが次第に低減してしまい、表面改質層が形成されにくくなってしまう。このため、FAは0.05ポイント以上にする必要がある。0.05ポイントよりも小さいFAでは、エッチング不足を引き起こし、表面改質層のZn化合物等の析出物形成反応が不充分となる。一方で、FAが大きすぎると、過度のエッチングが起こり、Zn系めっき層が局所的に減少することになって、防食効果が低下し、製品外観不良となる。また、液の酸性度が高すぎるため、スプレーや貯槽等の設備の腐食を招くおそれがある。より好ましいFAの下限は0.1であり、さらに好ましい下限は0.2である。より好ましいFAの上限は5であり、さらに好ましい上限は1である。
【0020】
表面処理剤中のFAを調整するには、プロトン放出性P成分とカルボキシル基含有有機樹脂を用いる。プロトン放出性P成分とは、分子中にPを有し、表面処理剤中でプロトン(H+)を放出することのできる化合物であり、具体的には、りん酸・亜りん酸等や、これらの第一(重)および第二の金属塩である。塩を形成することのできる金属は、Al、Mg、Ca、Mn、Zn、Fe、Co、Ni等である。これらの金属は、前記したように表面改質層の形成成分ともなり得る。
【0021】
一方、カルボキシル基含有有機樹脂としては、不飽和カルボン酸等のカルボキシル基を有する単量体を原料の一部または全部として重合により合成されるポリマー、または、官能基反応を利用してカルボン酸変性された樹脂等が使用できる。このカルボキシル基含有有機樹脂は、カルボキシル基を有しているので、表面処理剤のFA調整作用およびエッチング作用を有する。また、カルボキシル基含有有機樹脂は、スプレー噴霧工程後の回収処理液中におけるFAの低下速度を遅延させることが本発明者等によって見出されている。これは、カルボキシル基含有有機樹脂が、Zn系めっき層が過度にエッチングされるのを防ぐためではないかと推測されるが、このFAの低下を最小限に抑える効果によって、表面処理剤の寿命を長期化することができるようになった。その結果、表面改質層の付着量の減少速度も緩やかにすることができた。このカルボキシル基含有有機樹脂は、表面改質層に取り込まれ、他の表面改質層形成成分を表面改質層中に強固に沈着させることによって表面改質層の緻密性を向上させ、耐テープ剥離性等の特性を高める効果も有していることが、本発明者等によって突き止められている(特願2004−112035号)。
【0022】
上記カルボキシル基含有有機樹脂としてはカルボキシル基を有していれば特に限定されるものではないが、水溶性の樹脂を用いることが好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸、特にポリアクリル酸が好適である。表面処理剤へ配合する際の安定性や作業性に優れているからである。ポリアクリル酸の重量平均分子量(Mw)は2000以上が好ましい。より好ましいMwは10万〜20万である。
【0023】
表面処理剤中のFA調整(すなわち、エッチング成分の補填)のためには、無機酸を用いることもできる。無機酸としては、水中での解離定数pKaが2.0以下の強酸がエッチング効率の点から好ましい。具体的には、硝酸(pKa=−1.4)、硫酸(pKa=0.02)、塩酸(pKa=−8)、亜りん酸(pKa=1.8)、亜硫酸(pKa=1.8)等が使用可能である。中でも、表面処理剤中のZnイオンをキレート作用によって安定化し得る点と、表面改質層に悪影響を与えるような沈殿物を生成しない点で、硝酸が望ましい。なお、FAが大きすぎる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等のアルカリを添加することで、FAを小さくすることができる。
【0024】
FAを(1)に記載の範囲に設定するには、プロトン放出性P成分を、表面処理剤中の濃度として、P換算で0.001〜1.2質量%とすることが望ましい。プロトン放出性P成分は表面改質層の形成成分でもあるので、形成しようとする表面改質層の厚さおよび組成に応じて適宜変更されるが、より好ましい下限は0.003質量%、さらに好ましい下限は0.07質量%であり、より好ましい上限は0.5質量%、さらに好ましい上限は0.1質量%である。一方、カルボキシル基含有有機樹脂は、0.01〜3g/リットル(より好ましくは0.02〜1g/リットル)程度とすることが望ましい。プロトン放出性P成分とカルボキシル基含有有機樹脂をこれらの範囲で使用することで、FAを上記範囲に調整することができるが、必要に応じて無機酸を用いる場合は、Znイオン濃度(ppm)の0.5〜2.5倍(より好ましくは0.6〜1.6倍)程度を目安として用いることが望ましい。
【0025】
(2)の条件は、表面処理剤中のカルボキシル基含有有機樹脂の濃度CppmとFAの比率:C/FAが20〜2000(すなわち、CがFAの20〜2000倍)というものである。前記したように、カルボキシル基含有有機樹脂は、表面処理剤中のFAの低下速度を遅延させ、回収処理液を含む表面処理剤の寿命を長くする効果があるが、あまり多用すると、表面改質層の形成速度が不均一に増大することがある。通常、表面改質層形成反応(リン酸金属塩等の生成反応)では、反応時間を2倍にしても付着量は2倍になるのではなく、1.3〜1.4倍程度になる。これは、表面処理剤中のH+によるZn系めっき層表面のエッチングが表面改質層の形成反応に不可欠であるが、反応が進むに伴い生成した表面改質層がZn系めっき層表面を被覆するので、必然的に、エッチングに必要なZn系めっき層の露出面積が減少してしまい、反応時間と付着量が比例しないためであると考えられる。また、一旦生成したリン酸金属塩等の反応生成物が表面処理剤中へ再溶解することも、この現象の一要因である。
【0026】
実操業条件においては、上記現象を利用して、スプレー噴霧時間(スプレー噴霧長=スプレー工程処理槽の長さ)等を最適化することにより、ライン速度(反応時間)が変化しても表面処理剤(=表面改質層)の付着量変化が最小になるようなライン構成を採用している。ところが、表面処理剤中のカルボキシル基含有有機樹脂の量が多くなると、ライン速度を低下(反応時間を増大)させた場合に、表面改質層の付着量が予想以上に増大することが本発明者等によって見出された。これは、一旦生成したリン酸金属塩等の反応生成物が表面処理剤中へ再溶解するのを、カルボキシル基含有有機樹脂が抑制するのではないかと考えられる。実操業的には、鋼板コイルの板厚や板幅等によってライン速度を増減させる必要があり、同一コイル内においても、コイルの前後端ではコイル同士を溶接する必要があることからコイル中央とはライン速度を変えなければならないため、このようなライン速度の増減によって表面改質層の付着量が顕著に増減してしまうのは、製品の色調が変化して外観不良につながるため望ましくない。例えば、スプレーの配設数を増やし、ライン速度の増減に応じて稼働するスプレーの個数を増減させて反応時間を一定にすることも考えられるが、操作が煩雑になり好ましくない。
【0027】
よって本発明法では、カルボキシル基含有有機樹脂の濃度Cppmの上限をFAの2000倍と定めた。より好ましいCppmの上限は、FAの1000倍である。ただし、カルボキシル基含有有機樹脂の濃度CppmがFAの20倍よりも少ないと、表面処理剤のFA低下速度の遅延効果や、さらにはZnイオン濃度の増大を防ぐ効果等、前記したカルボキシル基含有有機樹脂の添加効果が不充分となるので、下限をFAの20倍とした。より好ましいCppmの下限はFAの40倍である。
【0028】
カルボキシル基含有有機樹脂の濃度Cppmは、表面処理剤を0.5ml採取し、磁性ボードの上で、70℃で30分程度加熱して蒸発乾固させた後、燃焼赤外線吸収装置(堀場製作所製「EMIA−510U」)を用いて、燃焼赤外線吸収法によって定量分析することにより測定することができる。
【0029】
(3)の条件は、表面処理剤中のZnイオン濃度をZn換算で100ppm以上にするというものである。本発明法では、Zn系めっき鋼板のZn系めっき層をエッチングしながら表面改質層を形成するため、回収処理液中にはZn系めっき層から溶出したZnイオンが必須的に含まれる。従って、回収処理液を循環使用する本発明法では、表面処理剤中にもZnイオンが含まれることとなる。しかし、表面処理剤中のZnイオンをゼロもしくは低濃度で維持するには、回収処理液の大半を廃棄するか、表面処理剤の新液を大量に補填しなければならず、工業的には不可能である。このため、Znイオン濃度の下限をZn換算で100ppmと定めた。Znイオンは、回収処理液を用いれば必然的に表面処理剤に含まれるが、回収処理液を用いてもZnイオン濃度が100ppmに満たない場合は、表面処理剤中に、炭酸Zn、硝酸Zn等のZn源を添加すればよい。なお、全く回収処理液を含まない表面処理剤、すなわちZnイオンが混入しておらず、Znイオン濃度がゼロの表面処理剤を、操業初回の表面処理に用いても構わないが、初回の表面処理剤においても、そのZnイオン濃度は100ppm以上に調整しておくことが、回収処理液中のZnイオン濃度の急増を防ぐために好ましい。
【0030】
一方、Znイオンは、表面改質層の付着量や耐テープ剥離性には悪影響を及ぼさないことが見出されたため、Znイオン濃度の上限は特に限定されない。ただし、表面改質層中へのZnの取り込み量が多くなってくると耐食性が悪化する傾向があるため、用途等によって、より高度な耐食性等が要求される場合には、Znイオン濃度の上限を2500ppm程度とすることが望ましい。Znイオンは、回収処理液を循環使用することで、表面処理剤中に蓄積されていき、その濃度は次第に増大するが、溶解度を超えると沈殿として析出するため、Znイオン濃度はある一定値で飽和する。表面処理剤中のZnイオン濃度を低減させるには、表面処理剤の一部を廃棄して、水性溶媒や新たな表面処理剤を添加することで希釈する方法が採用可能である。
【0031】
表面処理剤には、水等の水性溶媒、プロトン放出性P成分、カルボキシル基含有有機樹脂、Znイオン、必要に応じて添加される無機酸以外に、他の成分を添加することもできる。特に、耐テープ剥離性を高めるためには、Zn系めっき層表面に、特願2004−112035号で詳細に説明した表面改質層を形成することが好ましい。よって、表面処理剤には、コロイダルシリカ{例えば、「スノーテックス」シリーズ(日産化学工業社製のコロイダルシリカ)の「O」、「OS」、「OL」、「OXS」、「OUP」等}等のシリカ源と、第一(重)りん酸、第二りん酸、第一(重)亜りん酸、第二亜りん酸等のアルミニウム塩(これらはプロトン放出性P成分とAl源になる)とを添加することが好ましい。本発明法においては、スプレー噴霧することを考慮して、固形分濃度を0.01〜10.0質量%とし、表面処理剤に含まれるシリカ微粉末、PおよびAlの質量%を、Si換算で0.002〜3.0質量%、Pは前述の通り0.001〜1.2質量%、Alは0.0005〜0.7質量%とすることが望ましい。具体的には、表面処理剤100質量%中、各成分の固形分を、第一(重)りん酸(または第二りん酸、第一(重)亜りん酸、第二亜りん酸)アルミニウム;0.005〜4.5(より好ましくは0.01〜2.0)質量%、コロイダルシリカ;0.004〜6(より好ましくは0.05〜3)質量%とすることが好ましい。このように調整することで、表面改質層中に、Si換算で1〜30mg/m2のSiO2と、0.5〜15mg/m2のPおよび0.4〜10mg/m2のAlを含有させることができ、耐テープ剥離性に優れた鋼板を提供することができる。なお、表面改質層における各成分の比率は、0.5≦Si/P≦20、0.7≦P/Al≦6とすることが好ましい。
【0032】
次に、本発明法の具体的な実施方法について説明する。実操業的には、表面処理剤槽を設けて本発明法を実施するのが簡便であるので、表面処理剤槽を備えた設備で本発明法を実施する方法について説明する。なお、スプレー噴霧工程での回収処理液を直接スプレー噴霧工程へ循環するように構成し、上記(1)〜(3)を満足するように組成を調整するのに必要な成分をこの循環ラインへ直接供給し、スタティックミキサー等でライン内混合を行って、スプレー噴霧に適した組成に調整する方法を採用することもできる。
【0033】
表面処理剤槽を備えた設備で本発明法を実施するには、スプレー噴霧工程で、鋼板に付着しなかった表面処理剤や、鋼板表面からリンガーロール等で除去された表面処理剤を回収して、この回収処理液を表面処理剤槽に供給するように構成する。回収処理液供給手段としては特に限定されないが、表面処理剤槽をスプレー噴霧工程・リンガーロール通過工程よりも下側に設置し、これらの工程で生成した回収すべき処理液が自重で表面処理剤槽に入るように構成すると、簡便である。そして、この表面処理剤槽からスプレーへはポンプ等で表面処理剤を送給すればよい。
【0034】
表面改質層形成反応を促進するため、表面処理剤をスプレーへ送給する工程(循環工程)や表面処理剤槽で表面処理剤を70℃程度以下に加熱してスプレー噴霧工程に供給してもよい。スプレー噴霧工程とリンガーロール通過工程は、鋼板を水平状態で通板させることのできる横型の反応型処理設備、あるいは、ディフレクターロールとシンクロールにより鋼板の通路を上下に変更することのできる縦型の反応型処理設備等を利用することが好ましい。
【0035】
実操業上は、表面処理剤槽にはまず最初の表面処理(スプレー噴霧)に用いる表面処理剤を建浴する。安定操業のため、建浴量は、回収処理液量(容積)に対し10倍以上(容積)とすることが好ましい。なお、この回収処理液量とは、スプレー噴霧をしない状態での表面処理剤槽中の液容積から、定常状態でスプレー噴霧を行っている際の表面処理剤槽中の液容積を差し引いた容積を意味する。最初の表面処理剤には回収処理液は含まれないが、この場合も、上記(1)および(2)、より好ましくは(1)〜(3)を満足するように組成調整を行うことが望ましい。そして、表面処理剤槽からスプレーへ表面処理剤を供給してスプレー噴霧工程を行うと、回収処理液が生成し、表面処理剤槽へ戻る。表面改質層形成成分であるプロトン放出性P成分とカルボキシル基含有有機樹脂、あるいは他の表面改質層形成成分(上記コロイダルシリカ等)の濃度は、表面改質層の形成で必ず減少しているので、その減少分を補う必要がある。なお、以下では、プロトン放出性P成分とカルボキシル基含有有機樹脂と他の表面改質層形成成分(上記コロイダルシリカ等)を併せて単に「表面改質層形成成分」という。なお、液中のP、Al、Si、Zn等の濃度は、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)法にて定量可能である。
【0036】
FAの調整は、上記表面処理剤槽内部の表面処理剤を100ml程度サンプリングして、前記した中和滴定でFAを測定し、上記(1)の要件を満足するかをチェックして行う。このとき、所望のFA設定値の±80%以内(より好ましくは±50%以内)に入っているかどうかもチェックすることが望ましい。FAが不足しているならば、さらに、プロトン放出性P成分および/または無機酸(場合によってはアルカリ)を添加して、(1)のFAの条件を満足するようにする。なお、サンプリングの頻度としては、建浴量5000リットルで、回収処理液を100リットル程度循環使用する場合であれば、大体2時間に1回程度行えば充分である。
【0037】
前記した通り、FAの増減はZn系めっき層のエッチング状態および表面改質層の付着量と密接に関連しているため、FAはなるべく変動させないことが好ましい。実操業的には、操業開始前に、ライン速度を考慮して、表面改質層の所望の付着量となるように狙いFA値を設定し、スプレーの個数を決定するが、一旦、操業を開始すれば、ライン速度を表面処理剤の組成(状態)に応じて変更するのは極めて困難であるし、スプレー個数の変更も困難なため、表面処理剤の組成に応じて反応時間を変化させることはできない。このため、(1)の要件に加えて、最初に設定したFA値の±80%以内(より好ましくは±50%以内)に入っているかどうかをチェックして、表面改質層の付着量を均一にすることが推奨される。
【0038】
FAの調整に加え、(2)の要件も満たすようにカルボキシル基含有有機樹脂の量を調整する。カルボキシル基含有有機樹脂量は、表面処理剤槽内部の表面処理剤を100ml程度サンプリングして、前記した方法で燃焼赤外線吸収法を用いてCppmを測定すればよい。また、必要に応じて水等の水性溶媒を供給してもよい。
【0039】
表面処理剤槽に供給補填される各成分は、同一ラインから供給しても、個別に供給してもよい。表面改質層形成成分(必要により水性溶媒も)を予め混合しておき、表面改質層形成成分補給ラインとして、表面処理剤槽へ供給する構成も採用可能である。FA調整剤として無機酸を用いる場合は、表面改質層形成成分の補給ラインとは別ラインで供給する方が、FA調整が容易となるため好ましい。これらの各成分の供給補填においては、各成分の分析結果に応じた補填量を断続的に表面処理剤槽へ供給する方法、予め表面処理剤の組成変化を予測しておき、この予測に基づいて決定した補填分を連続的に表面処理剤槽へ供給して、分析は確認の意味合いで行う方法等、特に限定されない。スプレー噴霧工程は、鋼板が連続して通板される場合には連続的に行い、回収処理液が表面処理剤槽へ回収されるのも連続的となるが、例えば、何枚もの切り板が離間して通板されるような場合には、スプレー噴霧工程や回収処理液の回収工程は断続的となる。
【0040】
表面処理剤槽内部のZnイオン濃度は前記したように次第に増大し、ある濃度で飽和するので、Znイオン濃度を低減させる必要があれば、表面処理剤を希釈するとよい。すなわち、槽内の表面処理剤の一部を、断続的にあるいは連続的に槽から廃棄する。そして、予め、回収処理液を含まない表面処理剤(フレッシュな表面処理剤)を別途建浴しておき、前記廃棄量と表面改質層形成に実際に使用された量との合計量と略同量のフレッシュな表面処理剤を、断続的にあるいは連続的に、表面処理剤槽へ供給すればよい。このフレッシュな表面処理剤の組成は特に限定されないが、必要成分の補填のために用いることが好ましく、最初に建浴したときと比べて必要な成分が高濃度化されたものがより好ましい。ただし、Znイオン濃度は、低濃度(100ppm未満)であるかゼロである方が望ましい。液を追加する前の槽内部の表面処理剤よりも低いZnイオン濃度である方が、表面処理剤中のZnイオン濃度の増加を防ぐことができるからである。またフレッシュな表面処理剤は上記(1)〜(3)の条件についても全て満足している必要はなく、フレッシュな表面処理剤を表面処理剤槽へ供給した後に、槽内の表面処理剤が上記(1)〜(3)の条件を満たせばよい。なお、フレッシュな表面処理剤を別途建浴しておかずに、表面改質層形成成分と、水性溶媒、FA調整剤等を、直接、表面処理剤槽へ供給する方法を採用することもできる。
【0041】
スプレー噴霧工程においては、スプレー圧力を20〜500kPa(約0.2〜5.0kgf/cm2)、スプレー時間(反応時間)を0.1〜10秒の範囲とすることが好ましい。表面処理剤温度および雰囲気温度は特に限定されないが、10〜70℃程度が好ましく、反応性を考慮すれば25〜55℃が好適である。ライン速度は、該当するラインの巻き取り機や乾燥機等の能力と、鋼板の板厚と板幅等に応じて大体決まってくるので、反応型処理設備の長さ、スプレーの個数(反応時間に関連する)は、予測された平均ライン速度、所望する表面改質層の付着量、設定FA値に応じて、適宜設定すればよい。
【0042】
好適な一例を挙げれば、表面処理剤槽において5000リットル建浴して、板幅が1000mmの鋼板をライン速度75m/分で通板させながら連続的に表面処理を行う場合、スプレー噴霧用(スプレー圧100kPa)に100リットル/分程度使用すると、ほぼ同量の回収処理液が表面処理剤槽へ回収されるが、鋼板に付着した表面処理剤は回収できないので、この回収できなかった表面処理剤の量と廃棄量との合計が2リットル/分程度となるように、表面処理剤槽から表面処理剤を廃棄する。同時に、表面改質層形成成分と水との混合物(フレッシュな表面処理剤)として最初に建浴した表面処理剤の1.7倍程度の固形分濃度のものを2リットル/分程度で表面処理剤槽へ供給し、FA調整剤(例えば無機酸であれば濃度10質量%程度のもの)を別ラインで0.02リットル/分程度添加するとよい。この例では、反応時間を0.8秒に設定した場合、最初に建浴する表面処理剤は、FAを0.4、C/FAを150、Znイオン濃度700ppm、重りん酸アルミニウム0.13質量%、液温40℃とし、フレッシュな表面処理剤は、FAを1.5、C/FAを50、Znイオン濃度0ppm、重りん酸アルミニウム0.30質量%とし、FA調整剤として10質量%の硝酸を用いることで、付着量がほぼ均一な表面改質層の連続製造に成功したが、もちろん、本発明法は上記条件に限定されるものではない。
【0043】
表面処理剤層(水洗・乾燥後は表面改質層となる層をいう)を形成した後は、適度に水洗することによって水可溶性成分(例えばAl(H2PO43等)を除去することが好ましい。その後、例えば30〜150℃程度に加熱して水分を乾燥除去することにより、表面改質層が得られる。水洗法としては、浸漬法やスプレー法等が考えられ、水洗条件は、表面処理剤層内に含まれる水可溶性成分含量によって適宜変更すればよいが、浸漬法の場合は水洗時間を0.5〜15秒程度とし、またスプレー法の場合は、水洗時間を0.5〜15秒程度、スプレー圧力を20〜500kPa(約0.2〜5kgf/cm2)程度にすれば、上記水可溶性成分をより効率よく除去できるので好ましい。
【0044】
Zn系めっき鋼板上における表面改質層の付着量は、特に制限されないが、水洗処理後の乾燥塗膜として4.2〜130mg/m2が好ましい。少な過ぎても多過ぎても耐テープ剥離性が不足気味となる。この表面改質層の総付着量は、例えば蛍光X線分析等で、表面改質層中のSi、P、Al等の定量を行い、これらの付着量から、SiO2、AlPO4、Zn3(PO42、Al23が改質層中に生成していると仮定して、計算される値である。Pのみの定量でも、付着量の計算は可能である。表面改質層の付着量の好適範囲の目安を比重を2として換算した厚みで表すと、0.0021〜0.0657μmである。
【0045】
得られた表面改質層を有するZn系めっき鋼板には、表面改質層の上に、直接、または他の層を介して、耐食性、耐指紋性、加工性、塗装性等の特性付与またはその向上を期して、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アミノプラスト系樹脂等による各種有機系の上塗り皮膜が積層されていてもよい。
【0046】
中でも、上塗り皮膜として、特定のエマルジョン組成物から形成された樹脂皮膜を備える構成の表面処理Zn系めっき鋼板が好ましい。この樹脂皮膜(上塗り皮膜)形成のために用いられるエマルジョン組成物は、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(中和状態も含む)を主成分とし、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.2〜0.8モル(20〜80モル%)に相当する沸点100℃以下のアミンと、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体が有するカルボキシル基1モルに対して0.02〜0.4モル(2〜40モル%)に相当する1価の金属の化合物とを含むと共に、カルボキシル基と反応し得る官能基を2個以上有する架橋剤をエマルジョン組成物の固形分100質量%に対し0.5〜20質量%含み、沸点100℃超のアミンおよびアンモニアは、実質的に含まないものである。上記エマルジョン組成物には、シリカ粒子やワックス等を含有させてもよい。上記エマルジョン組成物から得られる樹脂皮膜は、塗装性、潤滑性、加工性、アース性等の各種特性に優れ、かつ、脱脂工程後の耐食性や耐テープ剥離性にも優れており、これらの知見は本発明者等によって、既に特願2004−268685号として出願されている。
【0047】
上記樹脂皮膜を形成するには、上記エマルジョン組成物を、公知の塗布方法、すなわち、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等を用いて、金属板表面の片面または両面に塗布して加熱乾燥すればよい。加熱乾燥温度は、用いる架橋剤とカルボキシル基の架橋反応が進行する温度で行うことが好ましい。また、潤滑剤として、球形のポリエチレンワックスを用いる場合は、球形を維持しておく方が後の加工工程での加工性が良好となるので、70〜130℃の範囲で乾燥を行うことが望ましい。
【0048】
樹脂皮膜の付着量(厚み)は、乾燥後において、0.2〜2.5g/m2が好ましい。薄すぎると、金属板への均一塗工が難しく、加工性、耐食性、塗装性等、目的とするバランスのとれた皮膜特性を得難い。しかし、付着量が2.5g/m2を超えると、コンピュータハウジング等に用いる場合のアース性、すなわち導電性が低下するため好ましくない。さらに、プレス加工の際に樹脂皮膜の剥離量が多くなって、金型への剥離皮膜の付着蓄積が起こり、プレス成形に支障を生じる上、製造コスト的にも無駄である。より好ましい樹脂皮膜付着量の下限は0.4g/m2であり、上限は2.0g/m2である。
【0049】
表面改質層の上に上記樹脂皮膜を形成することによって、最も好適な態様の表面処理Zn系めっき鋼板が得られる。この表面処理Zn系めっき鋼板は、用途に応じて加工工程を経た後このまま用いたり、あるいは従来条件によるスプレー塗装・粉体塗装・シルク印刷(130〜160℃、20〜30分程度)を施して用いてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、以下の実施例における「%」および「部」は、特に断らない限り、「質量%」および「質量部」を意味する。また、「ppm」は質量基準である。
【0051】
実験No.1〜40
厚さ0.8mmの鋼板の表面に、電気めっき法により付着量20g/m2のZnめっきを施したZnめっき鋼板(品番;SECC)をアルカリ脱脂してから水洗した。続いて、この鋼板を横型・ロール送り方式の反応型処理設備に通し、前段の反応ゾーンにおいて表面処理剤を鋼板の上下からスプレー噴霧した。余剰の表面処理剤をリンガーロールに通すことで取り除いた後、後段の水洗ゾーンで不要な水溶性物質を除去し、乾燥炉で乾燥することで表面改質層が形成されたZnめっき鋼板を得た。表面処理剤は、液温45℃、スプレー圧25kPaで噴霧した。反応時間(スプレー噴霧時間)は、スプレーゾーンの長さを調整することにより変化させ、0.2〜60秒(または0.4〜120秒)とした。通板速度は8m/分と一定にした。スプレー噴霧後の処理液を回収し、表面処理剤槽へ戻した。
【0052】
表面処理剤の最初の建浴量は50リットルとした。最初の表面処理剤には、プロトン放出性P成分と表面改質層形成成分であるAl成分として、重りん酸アルミニウム水溶液(日本化学工業社製、固形分50%)を表面処理剤中0.002〜3%、他の表面改質層形成成分(Si成分)としてコロイダルシリカ(「スノーテックス−O」;日産化学工業社製)を0.002〜6%添加した。ポリアクリル酸(PA)の濃度CppmはC*/FAの形で表1〜2に示した。ポリアクリル酸は、Mw10万〜20万、5000、25000、25万の4種類を用いた。表面処理剤の残部は、水、FA調整剤およびZnイオン濃度調整剤である。Znイオン濃度(ppm)は、炭酸Znまたは硝酸Znを添加することで調整し、FAは硝酸または水酸化ナトリウムによって調整した。各実験例においては、表1〜2に示した条件で表面改質層の形成実験を行い、下記評価の結果を表1〜2に示した。
【0053】
[FA測定]
表面処理剤10mlを脱イオン水で100mlに希釈した後、指示薬としてブロモフェノールブルーを滴下し、0.1Nの水酸化ナトリウムで滴定する。液色が青紫色に変化した時点までに滴下した0.1Nの水酸化ナトリウムの量(ml)を、FA(ポイント)とした。
【0054】
[カルボキシル基含有有機樹脂の濃度の測定]
カルボキシル基含有有機樹脂の濃度Cppm(表1ではC*と表記)は、表面処理剤を0.5ml採取し、磁性ボードの上で、70℃で約30分程度加熱して蒸発乾固させた後、燃焼赤外線吸収装置(堀場製作所製「EMIA−510U」)を用いて、燃焼赤外線吸収法によって定量分析した。
【0055】
[Zn、Si、Al]
表面処理剤中のZn、Si、Al量は、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析)方によって定量した。SiはSiO2として、重りん酸AlはPよりAl(H2PO43として算出した。
【0056】
[液寿命:通板面積B:カルボキシル基含有有機樹脂の効果]
表1〜2の各実験例の表面処理剤において、ポリアクリル酸を添加せずに、表1〜2に示した組成、FA(初期)に調整した後、表1〜2に示した反応時間(スプレー噴霧時間)で表面改質層を形成し、回収処理液を表面処理剤槽に戻した。表面処理剤槽中の表面処理剤のFAを上記測定法で逐次分析し、初期FAから0.1ポイント低下したときまでにスプレー噴霧が終了した鋼板の面積(通板面積)をA(m2)とした。別途、表1〜2の各実験例の組成、FA(初期)の表面処理剤を建浴し、ポリアクリル酸を添加して、水酸化ナトリウムで上記初期FAになるまで再調整した後、同一の表面処理を行い、初期FAから0.1ポイント低下するまでの通板面積を調べてB(m2)とした。BがAに比べて大きければ大きいほど、ポリアクリル酸の添加によって液寿命が延びたことを表す。具体的には次の基準で評価した。◎:B/A≧2.0 ○:2.0>B/A≧1.5 △:1.5>B/A≧1.1 ×:1.1>B/A
なお、実験No.11はポリアクリル酸を添加していないので通板面積Aを表1に示した。また、表2の実験No.21と22は、初期FAが0.1ポイント以下なので、FAが0ポイントに低下したところまでの各通板面積を比較した。
【0057】
[P付着量X:付着量安定性]
表1〜2に示した組成、FA(初期)の表面処理剤を建浴し、表1〜2に示した反応時間(スプレー噴霧時間)の場合と、その2倍の反応時間の場合の各々について、形成された表面改質層のP付着量(mg/m2)を測定した。P付着量は蛍光X線装置(商品名「MIF−2100」;島津製作所製)を用いて測定した。表1〜2の場合のP付着量をX、2倍の反応時間のP付着量をYとしたとき、Y/Xが大きすぎると、付着量の安定性に欠けることとなる。具体的には次の基準で評価した。 ○:Y/X<1.4 △:1.4≦Y/X<1.7 ×:1.7≦Y/X
なお、実験No.11ではP付着量Yを表1に示した。
【0058】
[耐テープ剥離性]
ポリオレフィン系ディスパージョン(「ケミパールS100」;ケミパールは登録商標;三井化学社製)に、エポキシ系架橋剤(「リカボンドAP355B」;中央理化工業社製)を固形分で5%(上塗り樹脂皮膜形成用組成物の固形分100%としたときの値:以下同じ)、粒子径10〜20nmのシリカ粒子(「スノーテックス40」;日産化学工業社製)を固形分で30%、球形ポリエチレンワックス(「ケミパールW700」;三井化学社製)を固形分で5%となるように配合して撹拌し、上塗り樹脂皮膜形成用組成物を調製した。
【0059】
表1〜2に示した条件で表面改質層を形成した鋼板を適宜切り出し、上記組成物をバーコートで塗布し、板温90℃で1分加熱乾燥し、上塗り樹脂皮膜が1g/m2付着した表面処理Znめっき鋼板を得た。各試料の上塗り樹脂皮膜側に、フィラメントテープ(#9510;スリオンテック製)を貼り付け、40℃×98%RHの雰囲気で、24時間保管した後、フィラメントテープを剥離し、上塗り樹脂皮膜の残存している面積割合を観察し、下記基準で評価した。◎:残存率100% ○〜◎:残存率95%以上100%未満○:残存率90%以上95%未満 △:残存率:70%以上90%未満 ×:残存率70%未満
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明法によれば、スプレー噴霧工程で回収された表面処理剤を長時間に亘って循環使用しながら、Zn系めっき鋼板表面に表面改質層を安定的に連続形成することができた。得られた表面処理Zn系めっき鋼板は、例えば自動車用、家電用、建築材料用等に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn系めっき鋼板を連続的に通板させ、その通過鋼板表面に、プロトン放出性P成分を必須的に含む表面処理剤をスプレー噴霧した後、前記処理剤に含まれる水性溶媒を除去することによって、前記めっき表面にPを含有する表面改質層を形成するに当たり、
上記表面処理剤は、スプレー噴霧工程で回収された回収処理液を含むものであり、
上記表面処理剤は、上記プロトン放出性P成分に加えて、さらに、カルボキシル基含有有機樹脂およびZnイオンを、下記条件を満足するように含むことを特徴とする表面改質層を有するZn系めっき鋼板の連続製造方法。
(1)表面処理剤のフリーアシッド(FA)は0.05〜10ポイント、
(2)表面処理剤中のカルボキシル基含有有機樹脂の濃度Cppm(質量基準。以下同じ)とFAの比率:C/FAが20〜2000、
(3)表面処理剤中のZnイオン濃度はZn換算で100ppm以上。
【請求項2】
上記表面処理剤がさらに無機酸を含むものである請求項1に記載の連続製造方法。
【請求項3】
上記表面処理剤を表面処理剤槽に貯えておき、必要に応じて表面処理剤槽から表面処理剤の一部を廃棄すると共に、回収処理液と、プロトン放出性P成分、カルボキシル基含有有機樹脂、無機酸、Znイオンおよび水性溶媒よりなる群から選択される1種以上とを、表面処理剤槽へ供給することによって、槽中の表面処理剤の上記FA、CppmおよびZnイオン濃度を制御するものである請求項1または2に記載の連続製造方法。
【請求項4】
上記カルボキシル基含有有機樹脂がポリアクリル酸である請求項1〜3のいずれかに記載の連続製造方法。
【請求項5】
上記ポリアクリル酸の重量平均分子量が10万〜20万である請求項4に記載の連続製造方法。
【請求項6】
上記無機酸が、水中での解離定数pKaが2.0以下の強酸である請求項2〜5のいずれかに記載の連続製造方法。
【請求項7】
上記無機酸が硝酸である請求項6に記載の連続製造方法。
【請求項8】
スプレー噴霧工程によって鋼板表面に形成された表面処理剤層の水洗を行った後、乾燥工程を行うことで表面処理剤層から水性溶媒を除去し、表面改質層を形成するものである請求項1〜7のいずれかに記載の連続製造方法。

【公開番号】特開2006−193809(P2006−193809A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9163(P2005−9163)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】