説明

表面改質球状シリカ粉末及びその製造方法

【課題】 本発明は、高温高湿下においても含有水分量の増加が極めて少ない高疎水性の球状シリカ粉末を提供する。
【解決手段】 メタノール滴定法における球状シリカ粉末が100質量%沈降した時の疎水化度Aと、球状シリカ粉末が5質量%沈降した時の疎水化度Bが式(1)及び式(2)を満たす疎水化度分布を有し、高温高湿(温度50℃湿度70%)の試験条件下において、試験前と24時間後の含有水分量の増加量が0.02質量%以下である球状シリカ粉末。
65%≦A ・・・式(1)
A−B≦15% ・・・式(2)
反応容器中の空間率を0.85〜0.99とし、含有水分量が0.20質量%以下の原料シリカ粉末に水と表面改質剤を噴霧する、原料球状シリカ粉末をガスで浮遊させた状態で表面改質する球状シリカ粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質球状シリカ粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタル複写機やレーザープリンタ等に使用される静電荷像現像用トナーにおいて、その流動性改善や帯電特性の安定化のために、疎水化処理された球状シリカがトナー外添剤として用いられている。この球状シリカに要求される特性は、湿度による帯電量の変化を少なくするため高い疎水性を有し、しかも帯電特性を均一にする為に、球状シリカを均一に表面改質することである。疎水化処理された球状シリカの疎水化度分布について、未だ満足のいくものはなく、高い疎水化度を有する球状シリカであっても経時変化で若干の水分を含んでいく。その水分を含んだ球状シリカが感光体ドラム上に残留し、画像不良を引き起こすといった問題が生じてきた。
【0003】
シリカと表面改質剤の反応速度は遅く、また表面改質剤の揮発性が高いことから、表面改質剤が反応を起こす前に系外へ揮発してしまい高い疎水性を発現することはできない。そこで、密閉型の混合装置、例えばヘンシェルミキサーを用い、表面改質剤とシリカ粒子の接触時間を長くすることで高い疎水性を実現する方法が提案(特許文献1)された。しかし、この方法では、ミキサーのブレード部分等でシリカ粒子の凝集が発生するため、分散性が損なわれるという問題がある。
【0004】
この問題を解決する方法として、循環ガスで原料球状シリカを浮遊(流動化)させた状態で、表面改質剤を噴霧する方法が提案(特許文献2)された。しかし、疎水化度の均一性という点では未だ満足のいくものではなく、更なる技術改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−19526号公報
【特許文献2】特開2004−67475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温高湿下においても含有水分量の増加が極めて少ない高疎水性の球状シリカ粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)メタノール滴定法における球状シリカ粉末が100質量%沈降した時の疎水化度Aと、球状シリカ粉末が5質量%沈降した時の疎水化度Bが式(1)及び式(2)を満たす疎水化度分布を有し、高温高湿(温度50℃湿度70%)の試験条件下において、試験前と24時間後の含有水分量の増加量が0.02質量%以下であることを特徴とする球状シリカ粉末。
65%≦A ・・・式(1)
A−B≦15% ・・・式(2)
(2)前記(1)に記載の球状シリカ粉末を用いたことを特徴とする静電荷像現像用トナー外添剤。
(3)反応容器中の空間率を0.85〜0.99とし、含有水分量が0.20質量%以下の原料シリカ粉末に水と表面改質剤を噴霧する、原料球状シリカ粉末をガスで浮遊させた状態で表面改質する球状シリカ粉末の製造方法。
(4)表面改質剤として、ヘキサメチルジシラザンを用いることを特徴とする前記(3)に記載の球状シリカ粉末の製造方法。

【発明の効果】
【0008】
本発明の球状シリカ粉末は、高温高湿下においても含有水分量の増加が極めて少ない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は実施例1の疎水化度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の球状シリカ粉末は、メタノール滴定法における球状シリカ粉末が100質量%沈降した時の疎水化度Aが式(1)を満たすものである。
65%≦A ・・・式(1)
疎水化度65%未満のシリカ粉末は、保存雰囲気中の水分の影響を受け、シリカ表面の水分量が増加する。疎水化度の上限には制約はなく、大きいほどよい。
【0011】
また、球状シリカ粉末の疎水化度分布については、メタノール滴定法における球状シリカ粉末が100質量%沈降した時の疎水化度Aと、球状シリカ粉末が5質量%沈降した時の疎水化度Bが式(2)を満たすものが好ましい。より好ましくは式(3)を満たすものである。
A−B≦15% ・・・式(2)
A−B≦10% ・・・式(3)
シャープな疎水化度分布を有する球状シリカ粉末は、高温高湿(温度50℃湿度70%)の条件下における、試験前と24時間後の含有水分量の増加量が0.02質量%以下と著しく低下させることができる。
【0012】
本発明における高温高湿の条件とは、球状シリカ粉末を恒温恒湿槽、例えば「AG−225」(ADVANTEC社製)にて温度50℃湿度70%に保持することで、球状シリカ粉末の水分変化を加速することができる。
【0013】
本発明の静電荷像現像用トナー外添剤は、本発明の球状シリカ粉末からなるものである。本発明の外添剤は、従来のシリカからなる外添剤と同様にして使用することができる。その一例は、特開2000−330328号公報に記載されている。
【0014】
本発明の球状シリカ粉末は、原料球状シリカ粉末をガスで浮遊させた状態で表面改質剤を噴霧する。反応容器中の空間率を0.85〜0.99とし、含有水分量が0.20質量%以下の原料シリカ粉末に水と表面改質剤を噴霧することによって製造することができる。
【0015】
反応容器中の空間率を0.85〜0.99とすることで原料球状シリカ粉末の凝集が少なく、高分散状態での表面改質が可能である。空間率0.85未満では原料球状シリカ粉末の凝集が発生し、均一な表面改質ができない。空間率が0.99超では、原料球状シリカ粉末の均一な表面改質は可能だが、効率が悪く製造には向かない。空間率は、例えばガスライン上のバルブ開度等でガス流量を調整することにより維持できる。原料球状シリカ粉末を高分散状態で表面改質することで、高疎水性を発現することができる。
【0016】
本発明に用いる反応容器に特に指定はなく、例えば振動流動層装置「VUA−15型」(中央化工機社製)のような装置を用いることができる。なお、本発明中の空間率とは、反応容器中で浮遊している原料球状シリカ粉末の見掛け体積中におけるガスの体積の割合を示したものである。
【0017】
上記の表面改質剤を噴霧する工程において、原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.20質量%以下にして、表面改質剤を噴霧することによって原料球状シリカ粉末の凝集が少なく、高い表面反応性を与えることができる。
【0018】
通常、シリカ表面の水分はシリカの凝集に寄与しており、表面改質剤の加水分解に十分に作用しない。原料球状シリカ粉末の含有水分量が0.20質量%を超えると、凝集が発生しており均一な表面改質ができない。そこで、原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.20質量%以下にすることで、原料球状シリカ粉末の凝集を著しく緩和し、高分散状態を作り出すことができる。原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.20質量%以下に低下させる方法としては、例えば原料球状シリカ粉末を乾燥ガスに接触させることが挙げられる。乾燥ガスとしては、作業性や安全性の面から液体Nガスを用いることが好ましい。
【0019】
原料球状シリカ粉末に水と表面改質剤を噴霧することによって、噴霧した水が表面改質剤の加水分解に好適に作用し、高い表面反応性を与えることができる。水と表面改質剤を噴霧する条件は、特に制限なく適用できるが、均一な表面改質を行うため、例えば2流体ノズル等を用いて液滴径を細かくして噴霧することが好ましい。また、水と表面改質剤は、別々に噴霧しても良いし、同時に噴霧しても良い。
【0020】
原料球状シリカ粉末をガスに浮遊させる条件としては、反応容器中の下部から上部へ向けてガスを流し、0.005〜5m/sの流速となるようガス流量を調整した。表面改質に対する水及び表面改質剤の噴霧量は、原料球状シリカ粉末100質量部対し、水が0.3〜5質量部、表面改質剤が0.5〜10質量部である。
【0021】
本発明の表面改質剤としては、ヘキサメチルジシラザンを用いることができ、高い疎水性が発現できる。
【0022】
原料球状シリカ粉末の製造方法としては、例えばシリコン粒子を化学炎や電気炉等で形成された高温場に投じて酸化反応させながら球状化する方法(例えば特許第1568168号明細書)、シリコン粒子スラリーを火炎中に噴霧して酸化反応させながら球状化する方法(例えば特開2000−247626号公報)などによって製造することができる。
【0023】
原料球状シリカ粉末の比表面積としては、3〜150m/gであることが好ましく、より好ましくは15〜95m/gである。比表面積は、BET測定機、例えば「Macsorb HM Model−1201」(マウンテック社製)で測定することができる。
【0024】
原料球状シリカ粉末の「球状」の程度としては、平均球形度が0.85以上であることが好ましい。平均球形度は、実体顕微鏡、例えば「モデルSMZ−10型」(ニコン社製)、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡等にて撮影した粒子像を画像解析装置、例えば(日本アビオニクス社製など)に取り込み、次のようにして測定することができる。すなわち、写真から粒子の投影面積(C)と周囲長(PM)を測定する。周囲長(PM)に対応する真円の面積を(D)とすると、その粒子の球形度はC/Dとして表示できる。そこで、資料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、D=πrであるから、D=π×(PM/2π)となり、個々の粒子の球形度は、球形度=C/D=C×4π/(PM)として算出することができる。このようにして得られた任意の粒子200個の球形度を求めその平均値を平均球形度とする。
【0025】
本発明の球状シリカ粉末は、原料球状シリカ粉末の表面改質剤による処理物からなるものであり、その疎水化度は以下のメタノール滴定法によって算出した。
すなわち、200mlのビーカーにイオン交換水50mlを入れ0.2gの試料を添加する。攪拌しながら、ビュレットからメタノールを加え、液面上に試料が認められなくなった点を終点として要したメタノール量から、下記の式(4)により疎水化度を算出する。式中のGはメタノール使用量(ml)を表す。

疎水化度(%)=(G/G+50)×100 ・・・式(4)

式(4)より、疎水化度とメタノール使用量の関係を表すと以下のようになる。
疎水化度(%) メタノール使用量(ml)
0 0
10 5.5
20 17
30 21
40 33
50 50
60 75
70 116
80 200
90 450
【0026】
また、疎水化度分布は以下のように求められる。
0.2gの試料を200mlのビンにイオン交換水50mlとメタノールを疎水化度10%に対応する量加え、1分間振り混ぜた後、1時間静置し、沈んだ試料を分離する。それを蒸発皿に移し、溶液を蒸発乾固し、デシケーター中で放冷する。蒸発乾固後の試料(g)を測定し、下記の式(5)より沈降量(質量%)を測定する。

沈降量(質量%)=蒸発乾固後の試料量(g)/試料量0.2(g)×100 式(5)

次に、疎水化度が10,20,30,40,50,60,70,80,90(%)に対するメタノール量を順次使用し、上記と同様にして沈降量を測定する。疎水化度と沈降量の関係をグラフに表すことによって疎水化度分布が明瞭に表される。例えば、後述する実施例1の疎水化度分布が図1に明確に示されている。
【0027】
本発明における含有水分量は、カールフィッシャー電量滴定法で測定される。カールフィッシャー微量水分測定装置、例えば「CA−100」(三菱化学社製)にて測定することができる。具体的には、試料を水分気化装置に入れ、電気ヒーターで200℃まで加熱昇温しながら、脱水処理されたアルゴンガスをキャリアガスとして供給し、試料の表面吸着水を測定することができる。
【0028】
本発明における含有水分量の増加量は、球状シリカ粉末の表面改質直後の含有水分量と、高温高湿(温度50℃湿度70%)の条件下においての24時間後の含有水分量の差により求めることができる。
【実施例】
【0029】
実施例1
BET比表面積80m/gで平均球形度が0.90の原料球状シリカ粉末500gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.173(質量%)にした。空間率を0.97に調整し、次いで水20gとヘキサメチルジシラザン40gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
BET比表面積30m/gで平均球形度が0.93の原料球状シリカ粉末1000gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.148(質量%)にした。空間率を0.92に調整し、次いで水15gとヘキサメチルジシラザン30gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0031】
実施例3
BET比表面積30m/gで平均球形度が0.93の原料球状シリカ粉末1000gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.097(質量%)にした。空間率を0.97に調整し、次いで水15gとヘキサメチルジシラザン30gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0032】
実施例4
BET比表面積12m/gで平均球形度が0.92の原料球状シリカ粉末2000gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.060(質量%)にした。空間率を0.86に調整し、次いで水15gとヘキサメチルジシラザン30gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0033】
実施例5
BET比表面積100m/gで平均球形度が0.89の原料球状シリカ粉末500gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.189(質量%)にした。空間率を0.98に調整し、次いで水20gとヘキサメチルジシラザン40gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0034】
実施例6
BET比表面積7m/gで平均球形度が0.91の原料球状シリカ粉末4000gを反応容器に仕込み、Nガスで浮遊させながら原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.057(質量%)にした。空間率を0.94に調整し、次いで水15gとヘキサメチルジシラザン30gを噴霧し、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0035】
比較例1
空間率を0.83に調整したこと以外は実施例4と同様にし、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0036】
比較例2
原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.213(質量%)としたこと以外は実施例2と同様にし、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0037】
比較例3
原料球状シリカ粉末の含有水分量を0.212(質量%)とし、空間率を0.80に調整したこと以外は実施例6と同様にし、球状シリカ粉末を得た。得られた球状シリカ粉末の疎水化度と含有水分変化量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例と比較例の対比から分かるように、本発明の球状シリカ粉末は、高温高湿下においても含有水分量の増加量が極めて少ないものである。本発明の製造方法を用いることで、高温高湿の条件下においても含有水分量の増加量が極めて少ない球状シリカ粉末を製造することができる。
【0040】
本発明の球状シリカ粉末は特に、静電荷像現像用トナー外添剤に好適に用いることができ、安定した高い印字性を期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノール滴定法における球状シリカ粉末が100質量%沈降した時の疎水化度Aと、球状シリカ粉末が5質量%沈降した時の疎水化度Bが式(1)及び式(2)を満たす疎水化度分布を有し、高温高湿(温度50℃湿度70%)の試験条件下において、試験前と24時間後の含有水分量の増加量が0.02質量%以下であることを特徴とする球状シリカ粉末。
65%≦A ・・・式(1)
A−B≦15% ・・・式(2)
【請求項2】
請求項1に記載の球状シリカ粉末を用いたことを特徴とする静電荷像現像用トナー外添剤。
【請求項3】
反応容器中の空間率を0.85〜0.99とし、含有水分量が0.20質量%以下の原料シリカ粉末に水と表面改質剤を噴霧する、原料球状シリカ粉末をガスで浮遊させた状態で表面改質する球状シリカ粉末の製造方法。
【請求項4】
表面改質剤として、ヘキサメチルジシラザンを用いることを特徴とする請求項3に記載の球状シリカ粉末の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2011−236089(P2011−236089A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109470(P2010−109470)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】