説明

表面改質超常磁性酸化物粒子

以下の物理化学的特性: BET表面積 20〜75m2/g; 炭素含有率 0.5〜6.0質量%; 突き固め密度 150〜500g/l; 塩素含有率 50〜1000ppm; 乾燥減量 0.1〜4.0質量%を特徴とする表面改質超常磁性酸化物粒子を、該酸化物と表面改質剤とを噴霧または気相堆積のいずれかによって接触させ、その後、それらを熱処理することによって製造する。該表面改質酸化物粒子を、接着剤中の充填材として使用できる。用途のさらなる分野は、データ媒体のための、画像処理における造影剤としての、生化学的分離および分析処理のための、医療用途のための、研磨剤としての、触媒としての、または触媒担体としての、増粘剤としての、断熱材のための、分散助剤としての、流動助剤としての、および強磁性流体中での使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質超常磁性酸化物粒子、その製造方法、およびその使用に関する。
【0002】
超常磁性酸化物粒子はEP1284485号から公知である。
【0003】
本発明は表面改質超常磁性酸化物粒子において、以下の物理化学的特性
BET表面積 20〜75m2/g
炭素含有率 0.5〜6.0質量%
突き固め密度 150〜500g/l
塩素含有率 50〜1000ppm
乾燥減量 0.1〜4.0質量%
を有することを特徴とする表面改質超常磁性酸化物粒子を提供する。
【0004】
本発明はさらに、表面改質超常磁性酸化物粒子の製造方法において、酸化物粒子を随意に初めに水で、その後、表面改質剤で、室温にて噴霧し、随意に15〜30分間混合し、且つ最後に50〜400℃で1〜6時間熱処理することを特徴とする方法を提供する。
【0005】
使用される水を、酸、例えば塩酸を用いてpH7から1に酸性化できる。
【0006】
選択的に、酸化物粒子の表面改質を、蒸気形態の表面改質剤で酸化物粒子を処理し、その後、該混合物を50〜800℃の温度で0.5〜6時間にわたって熱処理することによって実施できる。熱処理を、保護ガス、例えば窒素下で実施できる。
【0007】
表面改質を、噴霧装置を備えた加熱可能なミキサーおよび乾燥器中で、連続的に、またはバッチ式で実施できる。適した装置は、例えばプローシェアーミキサー、プレート乾燥器(pan dryer)、流動床乾燥器または流動層乾燥器であってよい。
【0008】
使用される超常磁性酸化物粒子は、EP1284485号内に記載される酸化物粒子であってよい。特に、50〜1000ppmの塩素含有率を有する、金属酸化物または半金属酸化物を含む非磁性マトリックス内に3〜20nmの直径を有する超常磁性金属酸化物ドメインを含有する、熱分解法酸化物粒子を使用することが可能である。
【0009】
塩化物含有率は、粒子の製造に起因する。本発明によって使用可能な粒子は、塩素含有前駆体を例えば水素/酸素火炎中で反応させる熱分解法によって得られる。形成する粒子は、塩素を、例えば不完全な火炎酸化からの酸塩化物の形態で、および塩酸の形態で含むことがある。それらの化合物が、形成する粒子内に混合された場合、粒子の塩化物含有率は粒子を破壊しない精製工程によってももはや低減できない。
【0010】
本発明によって使用可能な粒子の塩化物含有率は1000ppm未満までであってよい。好ましくは精製工程が塩化物含有率100〜500ppmを有する粒子を提供できる。さらなる精製工程によって50ppmまでの値に低減することができる。
【0011】
総塩化物含有率は酸水素炎式燃焼(Wickbold combustion)によって、または引き続く滴定またはイオンクロマトグラフィーを用いた蒸解によって測定される。
【0012】
熱分解法において塩化物を含有する超常磁性粒子の製造はおどろくべきことである。なぜなら、とりわけ、Barthら(Journal of Material Science 32 (1997) 1083−1092)は、塩化物イオンが塩化鉄(III)からの非超常磁性ベータ−イオン酸化物(β−Fe23)の形成への方向付け効果を有すると述べているからである。Gonzales−Carrenoら(Materials Letter 18 (1993) 151〜155)は、他の前駆体とは対照的に、塩化鉄(III)の噴霧熱分解で得られる超常磁性粒子はないという見解である。
【0013】
本発明によって使用可能な粒子は、熱分解工程のレジームに依存して、物質の種々の状態を有してよい。影響するパラメータは、滞留時間、温度、圧力、使用される化合物の分圧、種類および反応後の冷却位置であり得る。従って、非常に本質的に球状から非常に本質的に凝集した粒子までの広い範囲が得られる。
【0014】
本発明によって使用可能な粒子のドメインは、空間的に分離された超常磁性領域を意味するとして理解される。熱分解法の結果として、本発明によって使用可能な粒子は非常に本質的に無孔であり、且つ遊離ヒドロキシル基を表面に有する。しかしながら、それらは外部磁場が印加された場合に超常磁性特性を有する。しかしながら、それらは永久的に磁化されているわけではなく、且つ、低い残留磁化のみを有する。
【0015】
特定の実施態様において、本発明によって使用可能な粒子の炭素含有率は0.5〜6.0質量%であってよい。
【0016】
DIN66131によって測定される本発明の粒子のBET表面積は、10〜600m2/gの広い範囲に及んで変化し得る。20〜75m2/gの範囲が特に有利である。
【0017】
DIN ISO 787/11によって測定される本発明の粒子の突き固め密度は、150〜500g/lの広い範囲に及んで変化し得る。200〜350g/lの範囲が特に有利である。
【0018】
DIN ISO 787/11によって測定される本発明の粒子の乾燥減量(2時間、105℃)は、0.1〜4.0質量%の広い範囲に及んで変化し得る。0.5〜2.0質量%の範囲が特に有利である。
【0019】
好ましい実施態様において、その温度より低いと超常磁性挙動がもはや検知されない、本発明によって使用可能な粒子の"ブロック温度"は、150K以下であってよい。粒子の組成と同様、この温度もまた超常磁性ドメインの大きさ、およびそれらの異方性に依存することがある。
【0020】
本発明によって使用可能な粒子の超常磁性ドメインの割合は、1〜99.6質量%であってよい。この範囲内で、非磁性マトリックスの結果として、超常磁性ドメインの空間的に分離された領域が存在する。超常磁性ドメインを有する領域の割合は、好ましくは30質量%、より好ましくは50質量%より大きい。本発明によって使用可能な粒子が達成可能な磁気作用はまた、超常磁性領域の割合に伴って増加する。
【0021】
超常磁性ドメインは好ましくはFe、Cr、Eu、Y、SmまたはGdの酸化物を含んでよい。それらのドメインにおいて、金属酸化物は均質な多型または異なる多型で存在してよい。
【0022】
さらには、非磁性の多型領域が粒子中に存在することもまた可能である。それらは非磁性マトリックスとドメインとの混合された酸化物であってよい。それらの1つの例は鉄シリカライトである(FeSiO4)。それらの非磁性成分は、超常磁性に関して非磁性マトリックスと同様に振る舞う。言い換えれば、該粒子は超常磁性であるが、しかし飽和磁化は非磁性成分の割合の上昇に伴って低下する。
【0023】
さらには、その大きさのために超常磁性を示さず、且つ残留磁化を誘発する磁性ドメインが存在することも可能である。これは体積比での飽和磁化の増加をもたらす。使用分野によって、この方法に適合させた粒子の製造が可能である。
【0024】
特に好ましい超常磁性ドメインは、ガンマ−Fe23(γ−Fe23)、Fe34、ガンマ−Fe23(γ−Fe23)とFe34との混合物、および/または上記と鉄含有非磁性化合物との混合物の形態での鉄酸化物である。
【0025】
非磁性マトリックスは、金属および半金属のSi、Al、Ti、Ce、Mg、Zn、B、ZrまたはGeの酸化物を含んでよい。特に好ましいのは、二酸化ケイ素、アルミニウム酸化物、二酸化チタン、およびセリウム酸化物である。超常磁性ドメインの空間的な分離の他に、該マトリックスは該ドメインの酸化状態を安定化させる役割も有する。例えば、超常磁性鉄酸化物相としてのマグネタイトは、二酸化ケイ素マトリックスによって安定化される。
【0026】
本発明によって使用可能な粒子を、吸着、表面での反応、または無機および有機試薬での錯化によって改質できる。
【0027】
本発明によって使用可能な粒子を、部分的または完全にさらなる金属酸化物で被覆してもよい。これは例えば本発明によって使用可能な粒子を、有機金属化合物を含む溶液中に分散させることによって行うことができる。加水分解触媒の添加後、本発明によって使用可能な粒子上に堆積された有機金属化合物をその酸化物に変換する。かかる有機化合物の例は、ケイ素のアルコキシド(Si(OR)4)、アルミニウムのアルコキシド(Al(OR)3)、またはチタンのアルコキシド(Ti(OR)4)である。
【0028】
本発明によって使用可能な粒子の表面を、生物有機化学材料、例えば核酸または多糖類の吸着によって改質することもできる。該改質を、生物有機化学材料と本発明によって使用可能な粒子とを含む分散液中で実施できる。
【0029】
本発明はさらに、本発明によって使用可能な粒子の製造方法において、超常磁性ドメインの金属成分を含む化合物、および非磁性マトリックスの金属または半金属成分を含む化合物(少なくとも1つの化合物は塩素を含有している)を蒸発させ、キャリアガスを伴う、超常磁性ドメインと非磁性マトリックスとの最終的に必要な比に相応する量の蒸気を混合ユニット内で空気および/または酸素および燃焼ガスと混合し、該混合物を公知の設計のバーナーに供給して燃焼室内の火炎中で反応させ、その後、熱いガスおよび固形物を冷却し、その後、該ガスを固形物から除去し、且つその生成物を随意に水蒸気で湿らされたガスを用いた熱処理によって精製することを特徴とする方法を提供する。
【0030】
使用される燃焼ガスは好ましくは水素またはメタンであってよい。
【0031】
本発明によって使用可能な粒子を、非磁性マトリックスの前駆体を含む、火炎加水分解または火炎酸化のガス混合物中に、エアロゾルを供給し、該エアロゾルをガス混合物と均質に混合し、該エアロゾル−ガス混合物を公知の設計のバーナーに供給し、且つ燃焼室内の火炎中で反応させ、その後、熱ガスおよび固形物を冷却し、その後、該ガスを固形物から除去し、そして該生成物を、水蒸気で湿らされたガスを用いた熱処理によって随意に精製し、該エアロゾルは超常磁性金属酸化物の金属成分を含み、且つ、噴霧化によって製造され、且つ、塩化物含有化合物をマトリックスの前駆体として、および/またはエアロゾルとして使用する工程によって得てもよい。
【0032】
好ましくは噴霧化を一流体または二流体ノズルを用いて、あるいはエアロゾル生成器を用いて実施できる。
【0033】
反応物質、金属酸化物または半金属酸化物の前駆体および超常磁性ドメインの前駆体は、本発明によって使用可能な両方の方法において、例えば両方が無機の塩素含有塩であってよい。金属酸化物または半金属酸化物マトリックスの前駆体のみが塩素を含有し、且つ超常磁性ドメインの前駆体は塩素を含まない無機塩、例えば硝酸塩または塩素を含まない有機金属化合物、例えば鉄ペンタカルボニルであることもまた可能である。金属酸化物または半金属酸化物マトリックスの前駆体が塩素を含まない無機塩、例えば硝酸塩、または塩素を含まない有機金属化合物、例えばシロキサンであり、且つ、超常磁性ドメインの前駆体が塩素含有無機塩であることもまた可能である。金属酸化物または半金属酸化物マトリックスの前駆体と、超常磁性ドメインの前駆体との両方が塩素含有無機塩であることが特に好ましい。
【0034】
両方の方法において、冷却を好ましくは熱交換器を用いて、あるいは水またはガス、例えば空気または窒素と直接混合することによって、あるいはラバル管を通じたプロセスガスの断熱性減圧によって実施できる。
【0035】
使用される表面改質剤は、以下の物質であってよい: オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルポリシロキサン、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン。
【0036】
より好ましくは、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、およびジメチルポリシロキサンを使用できる。本発明の表面改質超常磁性粒子は、アルコール中への良好な混合を示し、そのことは接着剤における使用の範囲を拡大する。
【0037】
さらには、水を吸収する傾向が著しく低減され、その結果、本発明の製品は著しく貯蔵安定性がより高く、且つより高い加熱容量を保有する。
【0038】
これはより高い水の吸収傾向は加熱容量を減少するためである。
【0039】
より高い加熱容量のおかげで、本発明の製品を低周波応力範囲における誘導接着剤系中で使用できる。
【0040】
本発明の表面改質超常磁性酸化物粒子を、接着剤中の充填材として使用できる。使用のさらなる分野は、データ媒体のための、画像処理における造影剤としての、生化学的分離および分析処理のための、医療用途のための、研磨剤としての、触媒としての、または触媒担体としての、増粘剤としての、断熱材のための、分散助剤としての、流動助剤としての、および強磁性流体中での使用である。
【0041】
実施例
使用される反応物質は、EP1284485号による超常磁性二酸化ケイ素である。それは表1に示される物理化学的データを有している。
【0042】
反応物質を初めにミキサー内に充填し、且つ噴霧する一方、随意に初めに水と、その後、表面改質剤と力強く混合する。
【0043】
噴霧が終了したら、混合をさらに15〜30分継続し、その後、50〜400℃で1〜6時間熱処理してもよい。
【0044】
使用される水を、酸、例えば塩酸を用いて、pH7から1に酸性化できる。使用されるシラン化剤を、溶媒、例えばエタノール中に溶解させてよい。
【0045】
さらなる詳細を表2および3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
実施例2a:
分散液の調製
実施例1からの20.0gの粉末を108gの蒸留水に添加する。引き続き、充分な量の1MのNaOHを、pHが9.1〜9.2になるまで添加する。溶解機を用いて、混合物を2000rpmで5分間分散させる。分散液のpHは9.1である。本発明の粉末の含有率は15質量%であり、平均粒子直径d50は190nmである。
【0050】
実施例2b:
分散液の調製
実施例1からの30.0gの粉末を108gの蒸留水に添加する。引き続き、充分な量の1MのNaOHを、pHが9.1〜9.2になるまで添加する。溶解機を用いて、混合物を10000rpmで5分間分散させる。分散液のpHは9.1である。本発明の粉末の含有率は20質量%であり、平均粒子直径d50は140nmである。
【0051】
実施例2c:
分散液の調製
実施例1からの35.0gの粉末を108gのエタノールに添加する。引き続き、充分なエタノール性のKOHを、pHが9.1〜9.2になるまで添加する。引き続き、分散助剤Disperbyk 190を反応物質に対して10%の割合で添加する。超音波フィンガーを用いて、分散を100%で8分間実施する。分散液のpHは9.1である。本発明の粉末の含有率は21質量%であり、平均粒子直径d50は99nmである。
【0052】
実施例3:
接着剤組成物
実施例1からの粉末25gを、100mlのエタノール中に懸濁させ、且つ、20gのオキシ−ビス(ベンゾ−スルホヒドラジド)を膨張剤として添加する。該混合物を60℃で攪拌しながら5時間加熱する。引き続き、ロータリー蒸発器を用いて溶剤を引き出す。乾燥した生成物をボールミル内で3分間、粉砕し、その後、ふるいにかける。通常は63μm未満の粒径を有する部分を、さらなる実験に使用する。
【0053】
この粉末10gを300gの湿分硬化1成分ポリウレタン接着剤Dinitrol PUR 501 FC (Dinol社)と、混練フックを有して提供されるPlanimaxミキサー(Molteni)内で混合する。該混合物をレベル1(150rpm)で15分間、混練する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面改質超常磁性酸化物粒子において、以下の物理化学的特性
BET表面積 20〜75m2/g
炭素含有率 0.5〜6.0質量%
突き固め密度 150〜500g/l
塩素含有率 50〜1000ppm
乾燥減量 0.1〜4.0質量%
を有することを特徴とする、表面改質超常磁性酸化物粒子。
【請求項2】
酸化物粒子を随意に初めに水で、その後表面改質剤で、室温にて噴霧し、随意に15〜30分間混合し、且つ最後に50〜400℃で1〜6時間、熱処理することを特徴とする、請求項1に記載の表面改質超常磁性酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
酸化物粒子を蒸気の形態の表面改質剤で処理し、且つ、該混合物を引き続き50〜800℃の温度で0.5〜6時間の時間にわたって熱処理することを特徴とする、請求項1に記載の表面改質超常磁性酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の表面改質酸化物粒子を、接着剤中の充填材として用いる使用。

【公表番号】特表2011−519174(P2011−519174A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506635(P2011−506635)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/053738
【国際公開番号】WO2009/132912
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】