説明

表面被覆多孔質酸化物粒子及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法

【課題】分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入するのを防止することができ、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子の特性を維持することができる表面被覆多孔質酸化物粒子及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法を提供する。
【解決手段】本発明の表面被覆多孔質酸化物粒子は、多孔質酸化物粒子1の外周表面2及びオープン孔3の内表面3aを含めた表面全体をキャッピング剤4を用いて表面処理し、この外周表面2のキャッピング剤4のみを除去して改質処理を行ない、表面被覆剤の改質反応点5を形成し、この改質反応点5に、表面被覆剤から生成した被覆層6を結合させて固定するとともに、この被覆層6にてオープン孔3の内部に空隙を保持しつつその開口端を封止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆多孔質酸化物粒子及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法に関し、更に詳しくは、低屈折率材料または低誘電体材料として好適に用いられ、オープン孔を有する多孔質酸化物粒子を樹脂等のバインダー成分中に分散させた場合においても、この多孔質酸化物粒子に形成されたオープン孔内へ樹脂等のバインダー成分が侵入することを防止し、この多孔質酸化物粒子の特性を維持することが可能な表面被覆多孔質酸化物粒子、及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な多孔質酸化物粒子が知られているが、特に、空孔が表面にて開口されたオープン孔を有する多孔質酸化物粒子は、そのままの状態で低屈折率材料または低誘電体材料として用いられることもあり、あるいは、分散性を確保するために分散剤等を使用して表面処理した後、有機溶媒あるいは樹脂等のバインダー成分中に分散させた状態で用いられることもある。
例えば、粒径が10〜500nmの粒子の表面に1〜10nm程度の微細なオープン孔を有する多孔質酸化物微粒子は、粒子内に多くの空孔を有していることから、以前から低屈折率材料、低誘電体材料等として使用されている。
【0003】
これらの材料としては、平均粒子径が5nm〜300nmであり、かつ平均孔径が0.01nm〜100nmの空気を含有する孔を有する微粒子と、熱硬化性樹脂及びシリケート化合物を含有するバインダー成分とを含むナノポーラス構造を有する低屈折率組成物(特許文献1)、粒子径が5nm〜300nmであり、かつ平均孔径が0.01nm〜100nmの空気を含有する孔を有し、屈折率が1.20〜1.45である中空シリカ微粒子あるいは多孔質シリカ微粒子と、塗布樹脂組成分として水系有機溶剤を50%以上含む有機溶剤及びバインダー樹脂と、を含む低屈折率層(特許文献2)、エチレン性不飽和基含有フッ素重合体と、有機ケイ素化合物の加水分解物とからなり、平均粒径が5〜50nmである多孔質シリカ粒子を含む樹脂硬化体からなる低屈折率層(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
また、粒子とバインダーの結合を確保する観点から、粒子表面とバインダーとの結合力を大きくする目的で、平均粒子径が5〜300nmであり内部に溶媒や気体が充填された空孔を有する空洞粒子、あるいは多孔質粒子の表面に被覆層が設けられた複合粒子と、非イオン系界面活性剤と、バインダー成分とを含有する低屈折率層を透明フィルム上に設けた反射防止フィルム(特許文献4)等も提案されている。
【特許文献1】特開2004−272197号公報
【特許文献2】特開2005−283611号公報
【特許文献3】特開2006−209050号公報
【特許文献4】特開2005−157037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のオープン孔を有する多孔質酸化物粒子は、粒子そのものの比表面積が非常に大きいために表面エネルギーが大きく、したがって、この多孔質酸化物粒子を分散媒中に分散した際に、この分散媒に含まれる分散剤や樹脂等のバインダー成分が粒子表面への付着のみならずオープン孔内にも侵入して該オープン孔を埋めてしまい、その結果、十分な低屈折率性、低誘電性を保つことが技術的に困難であるという問題点があった。
【0006】
そこで、この問題点を解決するために、樹脂等のバインダー成分の組成、構造、分子量等を調整して、樹脂等のバインダー成分がオープン孔内に侵入しないようにすることも考えられており、例えば、多孔質シリカの表面に形成された空孔の開口端を数平均分子量が2000以上の高分子ケイ素化合物で覆った構造のものが提案されている(特開2006−308898号公報)が、高分子ケイ素化合物等の合成が煩雑で、汎用性に劣るという問題点があり、現在においても、従来の問題点を解決するまでには至っていない。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、オープン孔を有する多孔質酸化物粒子を分散媒中に分散した場合においても、分散媒に含まれる分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入するのを防止することができ、したがって、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子の特性を維持することができる表面被覆多孔質酸化物粒子及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、多孔質酸化物粒子の特性向上について鋭意検討を重ねた結果、多孔質酸化物粒子の表面近傍に形成されたオープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、このオープン孔の少なくとも開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止すれば、この多孔質酸化物粒子を分散媒中に分散した場合においても、分散媒に含まれる分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入する虞が無く、しかも低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子の特性を維持することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の表面被覆多孔質酸化物粒子は、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔を形成し、これらの空孔を前記表面に開口端を有するオープン孔とし、前記オープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、少なくとも前記開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止してなることを特徴とする。
【0010】
前記オープン孔の内表面は前記キャッピング剤により修飾されていることが好ましい。
前記キャッピング剤は、アルキルシランおよび/またはフルオロアルキルシランからなることが好ましい。
前記酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、前記被覆層が結合することにより固定されていることが好ましい。
前記被覆層の厚みは0.1nm以上かつ30nm以下であることが好ましい。
この表面被覆多孔質酸化物粒子の平均粒子径は5nm以上かつ500nm以下であり、前記開口端の直径は0.1nm以上かつ50nm以下であることが好ましい。
前記酸化物粒子は、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンの群から選択される1種または2種以上を主成分とすることが好ましい。
【0011】
本発明の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法は、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔が形成され、これらの空孔は前記表面に開口端を有するオープン孔とされた多孔質酸化物粒子の表面を被覆する方法であって、前記多孔質酸化物粒子の前記オープン孔の内表面のみにキャッピング剤を修飾する第1の工程と、前記多孔質酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて前記開口端を封止する第2の工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
前記第1の工程は、前記多孔質酸化物粒子の前記外周表面及び前記オープン孔の内表面に存在する反応点にキャッピング剤を修飾するA工程と、前記外周表面のキャッピング剤のみを除去して前記外周表面の反応点を再生させるB工程と、を有することが好ましい。
前記第2の工程は、前記外周表面に存在する反応点を、改質剤を用いて前記表面被覆剤の反応点となるように改質するC工程と、この改質により生成した改質反応点に前記表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて前記開口端を封止するD工程と、を有することが好ましい。
前記表面被覆剤は、有機モノマーおよび/または有機ポリマーであることが好ましい。
前記反応点は水酸基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面被覆多孔質酸化物粒子によれば、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔を形成し、これらの空孔を前記表面に開口端を有するオープン孔とし、前記オープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、少なくとも前記開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止したので、分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入するのを防止することができる。したがって、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子としての特性を維持することができる。
【0014】
本発明の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法によれば、多孔質酸化物粒子のオープン孔の内表面のみにキャッピング剤を修飾する第1の工程と、多孔質酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて開口端を封止する第2の工程と、を有するので、分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入する虞がなく、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子としての特性を維持することができる表面被覆多孔質酸化物粒子を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の表面被覆多孔質酸化物粒子及び多孔質酸化物粒子の表面被覆方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
「表面被覆多孔質酸化物粒子」
本実施形態の表面被覆多孔質酸化物粒子は、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔を形成し、これらの空孔を前記表面に開口端を有するオープン孔とし、前記オープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、少なくとも前記開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止した粒子である。
【0017】
ここで、多孔質酸化物粒子の組成としては、酸化ケイ素、ゼオライト等のケイ酸アルミニウム等の無機酸化物、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の金属酸化物等が挙げられ、これら酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等は、これらのうち1種または2種以上を選択して用いることができる。
なお、オープン孔を表面被覆剤から生成された有機高分子からなる被覆層で覆う点を考慮すると、有機物に対する反応性が低いことが望ましく、また、低屈折率材料、低誘電率材料等として用いる場合には、材料自体が低屈折率、低誘電率であることが望ましいことから、酸化ケイ素を主成分とすることが好ましい。
【0018】
このオープン孔の内表面はキャッピング剤により修飾されていることが好ましく、キャッピング剤としては、アルキルシランおよび/またはフルオロアルキルシランが好ましい。
アルキルシランとしては、トリメチルモノシラン等のトリアルキルモノシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられ、フルオロアルキルシランとしては、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。
【0019】
このオープン孔の開口端の直径は、このオープン孔内にキャッピング剤を侵入させて、このオープン孔の内表面をキャッピング剤にて修飾する点を考慮すると、0.1nm以上かつ50nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上かつ10nm以下、さらに好ましくは1nm以上かつ5nm以下である。
【0020】
この酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部には、上記の開口端を封止する有機高分子からなる被覆層が結合することにより固定されている。
この被覆層の厚みは、0.1nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは0.1nm以上かつ15nm以下、さらに好ましくは0.5nm以上かつ10nm以下である。
【0021】
ここで、被覆層の厚みが0.1nm未満では、多孔質酸化物粒子の外周表面に均一に被覆層を形成することが困難である上に、オープン孔の開口端を封止した際にこの封止部分の被覆強度が十分に得られなくなるからである。
一方、被覆層の厚みが30nmを超えると、表面を被覆した粒子の粒子径が大きくなり過ぎてしまい、分散安定性が維持できなくなるからであり、また、分散媒や樹脂中に分散した場合においても、レイリー散乱等により分散媒や樹脂に「くもり」が生じてしまい、反射防止用途等の高透明の用途には使用し難くなるからである。さらに、被覆層の屈折率は、一般的に多孔質酸化物粒子の屈折率より高いため、被覆層の厚みが30nmを超えると、被覆層の屈折率の影響が大きくなり、十分な低屈折率性を得ることができなくなってしまうからである。
【0022】
この表面被覆多孔質酸化物粒子の平均粒子径は、5nm以上かつ500nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上かつ350nm以下、さらに好ましくは30nm以上かつ300nm以下である。
【0023】
「多孔質酸化物粒子の表面被覆方法」
本実施形態の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法は、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔が形成され、これらの空孔は前記表面に開口端を有するオープン孔とされた多孔質酸化物粒子の表面を被覆する方法であって、多孔質酸化物粒子のオープン孔の内表面のみにキャッピング剤を修飾する第1の工程と、多孔質酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて開口端を封止する第2の工程と、を有する。
【0024】
この第1の工程は、多孔質酸化物粒子の外周表面及びオープン孔の内表面に存在する反応点にキャッピング剤を修飾するA工程と、この外周表面のキャッピング剤のみを除去して外周表面の反応点を再生させるB工程と、を有する。
また、第2の工程は、外周表面に存在する反応点を、改質剤を用いて表面被覆剤の反応点となるように改質するC工程と、この改質により生成した改質反応点に表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて開口端を封止するD工程と、を有する。
【0025】
次に、この多孔質酸化物粒子の表面被覆方法について、図1に基づき各工程毎に詳細に説明する。
「第1の工程」
この第1の工程は、多孔質酸化物粒子の外周表面及びオープン孔の内表面に存在する反応点にキャッピング剤を修飾するA工程と、この外周表面のキャッピング剤のみを除去して外周表面の反応点を再生させるB工程と、を有する。
【0026】
(A工程)
この工程は、多孔質酸化物粒子1の外周表面2及びオープン孔3の内表面3aを含めた表面全体をキャッピング剤4を用いて表面修飾し、この粒子表面に存在する反応点にキャッピング剤を結合させることにより、反応点を消滅させる工程である(図1(a)〜(b))。
ここで、反応点とは、分散剤や樹脂等のバインダー成分、後述するD工程における表面被覆剤が直接または間接的に結合可能な官能基であり、酸化物粒子の場合は主に水酸基(−OH)である。
また、キャッピング剤とは、粒子表面の反応点と結合して反応点の作用を消滅させる機能を有する化合物を総称したものであり、キャッピング剤を反応させて反応点を消滅させることを、キャッピング処理と称する。
【0027】
多孔質酸化物粒子の表面全体をキャッピング処理するには、多孔質酸化物粒子の外周表面、及び、この外周表面に0.1nm以上かつ50nm以下、好ましくは1nm以上かつ10nm以下、より好ましくは1nm以上かつ5nm以下の径の開口端が形成されたオープン孔を、キャッピング剤、例えば、アルキルシランおよび/またはフルオロアルキルシランを用いて、反応点である水酸基のキャッピング処理を行う。これにより、オープン孔内にもキャッピング剤が侵入して、オープン孔の内表面の水酸基と反応し、キャッピング処理される。
【0028】
アルキルシランとしては、トリメチルモノシラン等のトリアルキルモノシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられ、フルオロアルキルシランとしては、パーフルオロアルキル基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。
また、キャッピング処理は、ヘキサンや二酸化炭素を媒質としたオートクレーブを用いた超臨界法、トルエン、キシレン等の炭化水素、あるいはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類を媒質とした還流法、のいずれかを用いることにより適宜処理することができる。
【0029】
ここで、多孔質酸化物粒子のオープン孔の内表面の表面エネルギーを、未処理の表面より小さくすることは、以降の表面処理に関わる反応点改質剤や表面被覆剤のオープン孔内への侵入、あるいはオープン孔の内表面への付着等の作用を防止するように働く。したがって、キャッピング剤としては、表面エネルギーを低下させるものを選択することが好ましい。
一般的には、キャッピング処理した部分の表面エネルギーは、未処理の部分の表面エネルギーより小さくなるので、好ましい方向に作用する。
【0030】
なお、還流法では、オープン孔内の水酸基の全てをキャッピングすることは困難ではあるが、通常の樹脂、バインダー、各種処理薬剤等が侵入する領域の水酸基をキャッピング処理することが可能であり、しかも、上述したようにキャッピング処理した部分の表面エネルギーが低下していることから、以降の表面処理に関わる反応点改質剤や表面被覆剤が侵入し、オープン孔の内部で作用することを十分に防止することができる。
【0031】
(B工程)
この工程は、多孔質酸化物粒子1の外周表面2のキャッピング剤4のみを除去して、反応点となる水酸基を再生させる工程である(図1(c))。
この際、オープン孔内のキャッピング剤は、除去せずにそのまま内部に留まるようにすることが重要である。ここで、外周表面とは、多孔質酸化物粒子の外周面部分を構成する表面、すなわち、多孔質酸化物粒子の全表面の内、オープン孔の内表面を除いた粒子外側の表面部分を意味する。
この工程の手法としては、一般的には、多孔質酸化物粒子の外周表面には接しても、オープン孔内には浸入しないような処理剤を用いる化学的手法、多孔質酸化物粒子自体あるいは多孔質酸化物粒子と他の物質を接触させて多孔質酸化物粒子外周表面のキャッピング剤を除去する物理的手法、の2種類がある。
【0032】
化学的手法としては、例えば、希アンモニア水等の希アルカリ水溶液に、キャッピング処理を施した多孔質酸化物粒子を添加し、攪拌することで、最表層のキャッピング剤を溶解させる方法がある。この場合、キャッピング剤は水を弾くので、オープン孔内に希アルカリ水溶液が浸入する虞はない。したがって、多孔質酸化物粒子の全表面のうち、希アルカリ水溶液と接している外周表面から溶解反応が起こることとなり、キャッピング剤を効率よく外周表面のみから除去することが可能となる。
【0033】
一方、物理的手法としては、例えば、炭化水素、アルコール、ケトン等に馴染ませた多孔質酸化物粒子に下記の(1)〜(3)のいずれかを施す方法がある。
(1)キャッピング処理を施した多孔質酸化物粒子に超音波振動を加えることにより、粒子同士を衝突させ、表面のキャッピング剤を除去する。
(2)ボールミルに、キャッピング処理を施した多孔質酸化物粒子と直径が1〜5mmのジルコニアビーズを投入して所定時間駆動させることにより、ボールのせん断応力を利用して表面のキャッピング剤を除去する。
(3)1mm以下のビーズを用い、サンドグラインダー等を用いて、強制的に粒子とビーズを衝突させ、表面のキャッピング剤を除去する。
これらの方法は、外周表面のみに物理的エネルギーを加えることにより、外周表面のキャッピング剤のみを除去することが可能である。
また、これら以外の方法を用いて、外周表面のキャッピング剤を除去してももちろん構わない。
【0034】
「第2の工程」
この第2の工程は、外周表面に存在する反応点を、改質剤を用いて表面被覆剤の反応点となるように改質するC工程と、この改質により生成した改質反応点に表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて開口端を封止するD工程と、を有する。
【0035】
(C工程)
この工程は、多孔質酸化物粒子1の外周表面2に再生させた反応点である水酸基に対して、後述するD工程における表面被覆剤が結合可能となるよう、反応点改質剤を用いて改質処理を行ない、表面被覆剤の改質反応点5を形成する工程である(図1(d))。
なお、オープン孔の内表面の反応点はキャッピング処理された状態にあるので、反応点改質剤による改質処理は行なわれず、したがって、オープン孔の内表面には改質反応点は形成されない。また、この工程における改質処理は、第4の工程で用いられる表面被覆剤の種類に合わせて行なうことが好ましい。
ここでは、反応点に表面被覆剤が結合可能となるように反応点を処理するための処理剤を「反応点改質剤」、反応点を改質処理し表面被覆剤の反応点を形成することを「反応点を改質する」と称し、生成された表面被覆剤の反応点を「改質反応点」と称する。
【0036】
この改質処理では、多孔質酸化物微粒子の再生した反応点に対して、封孔(オープン孔の封止)を実施する際に使用する表面被覆剤の反応点を生成する。
この表面被覆剤の反応点生成については、封孔を実施する材料によって処理を最適化する必要があるが、例えば、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチル等のアクリルモノマーを表面被覆剤として用いる場合には、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプルピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアクリル基やビニル基を有するシランカップリング剤、表面改質剤等が適宜使用できる。
【0037】
また、表面被覆剤にエポキシ系材料を用いる場合には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤や表面改質剤等が適宜使用できる。
また、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基を有する高分子材料を表面被覆剤として用いる場合には、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤等が適宜使用できる。
【0038】
反応点の改質方法については、ヘキサンや二酸化炭素を媒質に用いたオートクレーブを用いた超臨界法、あるいは、トルエン、キシレン等の炭化水素やメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類を媒質に用いた還流法、のいずれかを適宜用いることにより、改質処理することが可能である。
なお、これら反応点改質剤もオープン孔内には浸入するが、この浸入する範囲内における水酸基にはキャッピング剤が結合し反応点が存在しない。したがって、これら反応点の改質は、粒子の外周表面でのみ起こることとなる。また、キャッピング処理した部分の表面エネルギーは、一般的に未処理の表面より小さくなるので、反応点改質剤がオープン孔の内表面に付着することはない。
【0039】
(D工程)
この工程は、多孔質酸化物粒子1の外周表面2に改質により生成した改質反応点5に、表面被覆剤から生成した被覆層6を結合させて固定するとともに、この被覆層6にてオープン孔3の内部に空隙を保持しつつその開口端を封止する工程である(図1(e))。
ここでは、反応点を改質した多孔質酸化物粒子に表面被覆剤を添加し、多孔質酸化物粒子の外周表面に吸着させる。
【0040】
この表面被覆剤はモノマーまたはオリゴマーからなるもので、この表面被覆剤については、反応点改質剤により選定する必要があるが、例えば、改質剤に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプルピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のアクリル基および/またはビニル基を有するシランカップリング剤を用いた場合、1官能以上のアクリルモノマーやメタクリルモノマー、ビニルモノマーを単独または複数種類混合して使用することができる。これらの例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0041】
次いで、表面被覆剤と反応点を改質した多孔質酸化物粒子を溶媒に添加し、攪拌しながら、窒素等の不活性ガスを通気させ、反応系内の酸素を十分に除去した後、ラジカル発生剤等の重合(または反応)開始剤を添加し、吸着した表面被覆剤のモノマーまたはオリゴマーを重合(または反応)させ、ポリマーからなる被覆層を形成させる。
このとき、多孔質酸化物粒子の表面によりよく被覆層を形成させたほうがより好ましく、モノマーの溶解性パラメータに着目して溶媒を選択使用することも効果的である。なぜならば、使用する表面被覆剤が溶媒よりも改質した多孔質酸化物粒子に馴染みがよければ、添加した表面被覆剤は多孔質酸化物粒子の表面に多く集まり、効率的に表面被覆層を形成することが可能になるからである。
【0042】
また、使用する溶媒は、重合(または反応)開始剤によって化学変化を生じさせないものを選択する必要がある。例えば、上記の如くラジカル発生剤等を重合(または反応)開始剤として使用した場合に用いて好適な溶媒としては、炭化水素系の溶媒が多く用いられ、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等が好適に挙げられ、これらの溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
重合(または反応)開始剤としては、所定の温度でラジカルを発生する熱ラジカル発生剤、紫外線照射等でラジカルを発生する光ラジカル発生剤等が用いられる。熱ラジカル発生剤としては、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチルニトリル等が、また、光ラジカル発生剤としては、ベンゾフェノン等が好適に用いられる。
【0043】
また、反応点改質剤に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、表面被覆剤としてビスフェノールAジグリシジルエーテル、グリシジルエーテル、N,N,N',N'テトラグリシジルジルジアミノジメニルメタン等のグリシジルアミン系樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂等を、単独もしくは複数種混合し、第3級アミンまたはLEWIS酸錯体存在下で重合させることにより、多孔質酸化物粒子に表面被覆層を形成させることができる。
【0044】
この場合も、希釈に使用する有機溶媒については特に規定はしないが、第3級アミンまたはLEWIS酸錯体等によりエポキシ基と反応を開始しないような溶媒を選択する必要がある。
この有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等が挙げられ、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
【0045】
また、反応点改質剤にN−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、カルボン酸を有する高分子ポリマーを付加させてアミド化させることにより、表面被覆層を形成することが可能である。
その他、リン酸緩衝溶液中にてグルタルアルデヒドを付加させ、次いで、アミノ基を有する高分子あるいはヒスチジン等のアミノ酸を付加させることによっても、表面被覆層を形成することができる。この場合、使用される溶媒については特に規定はしないが、一般的には水が使用される。
【0046】
表面被覆層を形成する際に、改質反応点と表面被覆剤との間も重合(または反応)開始剤により結合するので、表面被覆剤はポリマー化と同時に多孔質酸化物粒子の外周表面に固定される。これにより、多孔質酸化物粒子の外周表面のみに表面被覆層が形成される。
また、オープン孔の開口端については、この開口端の周縁部分からその中心部分に向かって表面被覆層が形成されていくので、最終的には、開口端は表面被覆層にて封止される。
【0047】
一方、オープン孔内においては、オープン孔の内部に表面被覆剤のモノマーまたはオリゴマーが浸入したとしても、このオープン孔の内表面には改質反応点が形成されておらず、しかもキャッピング剤が存在しているので、表面被覆剤は浸入し重合(または反応)してもオープン孔の内表面と結合することができず、したがって、オープン孔の内部に表面被覆層が形成されることはない。
以上により、オープン孔は内部の空隙を保持しつつ、その開口端が封止されることとなるので、多孔質酸化物粒子に表面被覆層を形成することが可能となる。
【0048】
本実施形態の表面被覆多孔質酸化物粒子によれば、酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔を形成し、これらの空孔を表面に開口端を有するオープン孔とし、このオープン孔内に、アルキルシランおよび/またはフルオロアルキルシランからなるキャッピング剤を有するとともに、少なくとも開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止したので、表面被覆剤、溶媒、分散剤、樹脂等のバインダー成分等がオープン孔内へ侵入するのを防止することができ、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子としての特性を維持することができる。
【0049】
本実施形態の表面被覆多孔質酸化物粒子の表面被覆方法によれば、多孔質酸化物粒子のオープン孔の内表面のみにキャッピング剤を修飾する第1の工程と、多孔質酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて開口端を封止する第2の工程と、を有するので、本実施形態の表面被覆多孔質酸化物粒子を容易に得ることができる。
【0050】
なお、本実施形態の表面被覆方法は、オープン孔を有する多孔質酸化物粒子に限定されることなく、開口部をもつ一般の粒子に対して適用可能である。
例えば、チューブ状の形状を有する粒子、あるいは1ないし数個程度の開口部を有する粒子等の封孔処理に対しても適用可能である。
また、キャッピング剤、表面被覆剤等を選択することにより、酸化物以外の多孔質粒子、例えば、窒化物、炭化物、炭窒化物等の多孔質粒子への適用も可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
「実施例1」
(1)キャッピング処理(A工程)
150mLのトルエンに、ナノポーラスシリカ(オープン孔の細孔径:2〜3nm、平均粒子径:50〜80nm、内部空孔率:48%、住友大阪セメント製)10gを添加し、さらに1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを20g添加し、このトルエン溶液に窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、トリメチルシリル化処理を行った。
この処理の後、トルエンを用いて、遠心分離機を用いたデカンテーション法にて洗浄を行い、余剰の1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを除去した。洗浄後トルエンを分離し、さらに乾燥機を用いて120℃にて24時間乾燥させ、キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカを得た。
【0053】
(2)外周表面のキャッピング剤の除去(B工程)
キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカ3gをトルエン100mLに添加し、超音波ホモジナイザー(ソニファイヤー450:BRANSON社製)にて60分間処理し、粒子同士を衝突させることにより、外周表面のみからトリメチルシリル基を除去すると共に水酸基を生成させ、処理液を得た。
【0054】
(3)反応点の生成(C工程)
上記の処理液にトルエンを500mL加え、さらに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1.0g添加し、この溶液に再度窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、生成した水酸基と反応させた。このとき、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて処理することによりトルエン中にて粒子が分散し、分散液となった。
【0055】
(4)封孔被覆処理(D工程)
上記の分散液50mLにメタクリル酸メチル0.15mL、エチレングリコールジメタクリレート0.2mLを添加し、この溶液を窒素にて封入しながら60℃にて1時間攪拌し、内部の酸素の除去ならびに分散粒子へのモノマーの吸着を行った。次いで、窒素を流しながら2,2'アゾビスイソブチロニトリルを0.05g添加し、さらに、分散液の温度を60℃にて1時間保持することにより、分散粒子とアクリルモノマーとの重合反応を行ない、その後、エバポレータにて不揮発成分が4.0質量%になるまで濃縮し、表面被覆粒子分散液Aを得た。
【0056】
(5)薄膜の作製
エタノール54.8gにテトラメトキシシラン15.2gを加えて攪拌し、さらに0.01mol/L硝酸30gを滴下して24時間攪拌し、シリカバインダーAを得た。
次いで、表面被覆粒子分散液A5.40重量部、シリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Aを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Aをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Aを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0057】
「実施例2」
(1)キャッピング処理(A工程)
200mLのヘキサンに、ナノポーラスシリカ(オープン孔の細孔径:2〜3nm、平均粒子径:50〜80nm、内部空孔率:48%、住友大阪セメント製)10gを添加し、さらに1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを20g添加し、このヘキサン溶液をオートクレーブに投入して窒素置換を行い、ヘキサンの超臨界状態まで温度及び圧力を上昇させて1時間保持し、トリメチルシリル化処理を行った。
この処理の後、ヘキサンを用いて、遠心分離機を用いたデカンテーション法にて洗浄を行い、余剰の1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを除去した。洗浄後ヘキサンを分離し、さらに乾燥機を用いて120℃にて24時間乾燥させ、キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカを得た。
【0058】
(2)外周表面のキャッピング剤の除去(B工程)
キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカ3gをヘキサン100mLに添加し、超音波ホモジナイザー(ソニファイヤー450:BRANSON社製)にて60分間処理し、粒子同士を衝突させることにより、外周表面のみからトリメチルシリル基を除去すると共に水酸基を生成させ、処理液を得た。
【0059】
(3)反応点の生成(C工程)
上記の処理液200mLに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを2.0g添加し、オートクレーブに投入して窒素置換を行い、ヘキサンの超臨界状態まで温度及び圧力を上昇させて1時間保持し、生成した水酸基と反応させた。次いで、処理粉とヘキサンを分離し、50℃にて真空乾燥させ、この処理粉0.5gをトルエン250mLに投入して24時間攪拌し、処理粉をトルエン中に分散させた。図2に、反応点を生成したシリカ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【0060】
(4)封孔被覆処理(D工程)
上記の分散液50mLにメタクリル酸メチル0.15mL、エチレングリコールジメタクリレート0.2mLを添加し、この溶液を窒素にて封入しながら60℃にて1時間攪拌し、内部の酸素の除去ならびに分散粒子へのモノマーの吸着を行った。次いで、窒素を流しながら2,2'アゾビスイソブチロニトリルを0.05g添加し、さらに、分散液の温度を60℃にて1時間保持することにより、分散粒子とアクリルモノマーとの重合反応を行ない、その後、エバポレータでにて不揮発成分が4.0質量%になるまで濃縮し、表面被覆粒子分散液Bを得た。図3に、この表面被覆粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【0061】
(5)薄膜の作製
表面被覆粒子分散液B5.40重量部、実施例1のシリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Bを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Bをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Bを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0062】
「実施例3」
(1)キャッピング処理(A工程)
200mLのヘキサンに、ナノポーラスシリカ(オープン孔の細孔径:2〜3nm、平均粒子径:50〜80nm、内部空孔率:48%、住友大阪セメント製)10gを添加し、さらに1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを20g添加し、このヘキサン溶液をオートクレーブに投入して窒素置換を行い、ヘキサンの超臨界状態まで温度及び圧力を上昇させて1時間保持し、トリメチルシリル化処理を行った。
この処理の後、ヘキサンを用いて、遠心分離機を用いたデカンテーション法にて洗浄を行い、余剰の1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを除去した。洗浄後ヘキサンを分離し、さらに乾燥機を用いて120℃にて24時間乾燥させ、キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカを得た。
【0063】
(2)外周表面のキャッピング剤の除去(B工程)
キャッピング処理を施した粉末状のナノポーラスシリカ10gを、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液250mLに添加し、マグネチックスターラーにて3時間攪拌し、外周表面のみからトリメチルシリル基を除去した。
このようにして得られた処理粉を純水を用いてよく洗浄し、さらに乾燥機を用いて120℃にて24時間乾燥させ、処理粉を得た。
次いで、この処理粉3gをトルエン100gに添加し、超音波ホモジナイザー(ソニファイヤー450:BRANSON社製)にて10分間攪拌し、処理液を得た。
【0064】
(3)反応点の生成(C工程)
上記の処理液にトルエンを500mL加え、さらに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1.0g添加し、この溶液に再度窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、生成した水酸基と反応させた。このとき、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて処理することによりトルエン中にて粒子が分散し、分散液となった。
【0065】
(4)封孔被覆処理(D工程)
上記の分散液50mLにメタクリル酸メチル0.15mL、エチレングリコールジメタクリレート0.2mLを添加し、この溶液を窒素にて封入しながら60℃にて1時間攪拌し、内部の酸素の除去ならびに分散粒子へのモノマーの吸着を行った。次いで、窒素を流しながら2,2'アゾビスイソブチロニトリルを0.05g添加し、さらに、分散液の温度を60℃にて1時間保持することにより、分散粒子とアクリルモノマーとの重合反応を行ない、その後、エバポレータでにて不揮発成分が4.0質量%になるまで濃縮し、表面被覆粒子分散液Cを得た。
【0066】
(5)薄膜の作製
表面被覆粒子分散液C5.40重量部、実施例1のシリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Cを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Cをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Cを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0067】
「比較例1」
(1)分散液の作製
150mLのトルエンに、ナノポーラスシリカ(オープン孔の細孔径:2〜3nm、平均粒子径:50〜80nm、内部空孔率:48%、住友大阪セメント製)10gを添加し、さらに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2gを添加し、このトルエン溶液に窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、処理を行った。
この処理の後、トルエンを用いて、遠心分離機を用いたデカンテーション法にて洗浄を行い、余剰の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを除去した。洗浄後はトルエン1000mLに再分散させ、分散液を得た。
【0068】
次いで、上記の分散液10mLにトルエン40mL、メタクリル酸メチル0.15mL、エチレングリコールジメタクリレート0.2mLを添加し、この溶液を窒素にて封入しながら60℃にて1時間攪拌し、内部の酸素の除去ならびに分散粒子へのモノマーの吸着を行った。次いで、窒素を流しながら2,2'アゾビスイソブチロニトリルを0.05g添加し、さらに、分散液の温度を60℃にて1時間保持することにより、分散粒子とアクリルモノマーとの重合反応を行ない、その後、エバポレータでにて不揮発成分が4.0質量%になるまで濃縮し、表面被覆粒子分散液Dを得た。
【0069】
(2)薄膜の作製
表面被覆粒子分散液D5.40重量部、実施例1のシリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Dを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Dをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Dを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0070】
「比較例2」
(1)キャッピング処理
スノーテックス20(粒子径10〜20nm、日産化学社製)からフリーズドライ法により水分を除去し、乾燥粉を得た。
この乾燥粉10gにトルエン200mLを添加し、さらに1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを20g添加し、このトルエン溶液に窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、トリメチルシリル化処理を行った。
この処理の後、トルエンを用いて、遠心分離機を用いたデカンテーション法にて洗浄を行い、余剰の1,1,1,3,3,3ヘキサメチルジシラザンを除去した。洗浄後トルエンを分離し、さらに乾燥機を用いて120℃にて24時間乾燥させ、キャッピング処理を施したシリカ粒子を得た。
【0071】
(2)外周表面のキャッピング剤の除去
キャッピング処理を施したシリカ粒子3gをトルエン100mLに添加し、超音波ホモジナイザー(ソニファイヤー450:BRANSON社製)にて60分間処理し、粒子同士を衝突させることにより、外周表面のみからトリメチルシリル基を除去すると共に水酸基を生成させ、処理液を得た。
【0072】
(3)反応点の生成
上記の処理液にトルエンを500mL加え、さらに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを1.0g添加し、この溶液に再度窒素を吹き込みながらトルエンの沸点にて還流を24時間実施し、生成した水酸基と反応させた。このとき、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランにて処理することによりトルエン中にて粒子が分散し、分散液となった。
【0073】
(4)封孔被覆処理
上記の分散液50mLにメタクリル酸メチル0.15mL、エチレングリコールジメタクリレート0.2mLを添加し、この溶液を窒素にて封入しながら60℃にて1時間攪拌し、内部の酸素の除去ならびに分散粒子へのモノマーの吸着を行った。次いで、窒素を流しながら2,2'アゾビスイソブチロニトリルを0.05g添加し、さらに、分散液の温度を60℃にて1時間保持することにより、分散粒子とアクリルモノマーとの重合反応を行ない、その後、エバポレータでにて不揮発成分が4.0質量%になるまで濃縮し、表面被覆粒子分散液Eを得た。
【0074】
(5)薄膜の作製
表面被覆粒子分散液E5.40重量部、実施例1のシリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Eを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Eをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Eを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0075】
「比較例3」
(1)分散液の作製
ナノポーラスシリカ(オープン孔の細孔径:2〜3nm、平均粒子径:50〜80nm、内部空孔率:48%、住友大阪セメント製)4gを、メチルエチルケトン100gに添加し、超音波ホモジナイザー(ソニファイヤー450:BRANSON社製)にて60分間分散処理し、表面未被覆粒子分散液Fを得た。
【0076】
(2)薄膜の作製
表面被覆粒子分散液F5.40重量部、実施例1のシリカバインダーA0.84重量部、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)1.00重量部、メチルエチルケトン(MEK)2.76重量部となるように、これらを混合し、塗料Fを得た。
次いで、スピンコートにより塗料Fをスライドガラス上に塗布し、乾燥後、120℃にて20分加熱して塗膜を硬化させ、薄膜Fを得た。なお、スピンコートは、回転数1000〜2000rpm−30秒で、最低反射率の波長が500nm〜600nmの間に入るように調整した。
【0077】
「評価」
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた分散液A〜F及び薄膜A〜F各々の評価を行った。
評価項目及び評価方法は以下のとおりである。
なお、スライドガラス上にシリカバインダーAのみを塗布したものの屈折率を参考例1とした。
【0078】
(1)分散状態
分散液の粒子の分散状態を目視にて観察した。
(2)屈折率
スライドガラスの薄膜が形成されていない面を黒マジックにて黒色化し、分光光度計UV3150(島津製作所社製)を用いて5°正反射率を測定し、この5°正反射率から、フレネルの式を用いて塗膜の屈折率を算出した。
(3)空孔の保持率
上記により求めた塗膜の屈折率、塗膜中の樹脂と粒子の体積比から、粒子の屈折率を算出し、空孔の保持率を求めた。なお、オープン孔を有さない粒子の場合には、空孔の保持率を「0」とした。
【0079】
(4)最低反射率
分光光度計UV3150(島津製作所社製)を用いて5°正反射率を測定し、この5°正反射率から最低反射率を算出した。
なお、スライドガラス上にシリカバインダーAのみを塗布したものの最低反射率を参考例1とし、スライドガラス自体の最低反射率を参考例2とした。
(5)ヘイズ
日本工業規格JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して、薄膜のヘイズ値を測定した。
なお、スライドグラス上にシリカバインダーAのみを塗布したもののヘイズ値を参考例1とし、スライドグラス自体のヘイズ値を参考例2とした。
これらの結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
以上の結果から、下記のことが分かった。
(1)実施例1〜3及び比較例2、3では分散性が良好であったが、比較例1ではやや沈降が認められ、若干分散が悪い傾向がみられた。これは、オープン孔内をキャッピングしていないために、オープン孔内にもポリマー等が侵入し生成してしまい、表面を覆うだけの十分なポリマーが得られないために、表面状態が異なってしまったものと考えられる。
(2)実施例1〜3では、封孔処理を行っているために、反射率が低減していることが確認された。
【0082】
一方、比較例1では、オープン孔をキャッピングしないで封孔処理を行ったために、反射率はそれほど低減しなかった。これは、オープン孔内にも反応点改質材が結合し、それを足場としてモノマーが重合してポリマー化してしまい、オープン孔を埋めてしまったためと考えられる。
比較例2では、オープン孔を有さないシリカコロイド粒子(表1では、空孔の保持率=0)にポリマー被覆重合をしたために、反射率が上昇していることが確認された。これは、被覆に用いたポリマーの屈折率がシリカコロイドやシリカバインダーの屈折率よりも高いために、結果として被覆膜の屈折率が上昇し、反射率が上昇したものと考えられる。
比較例3では、封孔処理を行わずにそのまま分散し、塗料化及び塗膜化したために、反射率については、バインダーのみの場合と殆ど差が無いことが分かった。これは、オープン孔にバインダー源が浸入して埋めてしまっていると考えられる。
【0083】
以上の結果から、実施例1〜3各々の薄膜中に含まれる表面被覆多孔質酸化物粒子の屈折率を計算すると、約1.38程度の値となり、ポリマー被覆による屈折率上昇値を、この値から差し引いた場合の、粒子の空孔率は約45〜48%と算出され、ほぼ空孔が埋まることなく、ポリマー被覆処理がなされていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の表面被覆多孔質酸化物粒子は、酸化物粒子の表面近傍に形成されたオープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止したことにより、分散剤や樹脂等のバインダー成分がオープン孔内へ侵入するのを防止し、低屈折率性、低誘電性等の多孔質酸化物粒子としての特性を維持することができるものであるから、反射防止フィルム、位相差フィルム、拡散フィルム等の光学フィルムをはじめ、低屈折率性や低誘電性等が求められる様々な光学部品に適用可能であり、その工業的効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の一実施形態の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法を示す過程図である。
【図2】本発明の実施例2の反応点を生成したシリカ粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図3】本発明の実施例2の表面被覆粒子を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【符号の説明】
【0086】
1 多孔質酸化物粒子
2 外周表面
3 オープン孔
3a 内表面
4 キャッピング剤
5 改質反応点
6 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔を形成し、これらの空孔を前記表面に開口端を有するオープン孔とし、
前記オープン孔内にキャッピング剤を有するとともに、少なくとも前記開口端を有機高分子からなる被覆層にて封止してなることを特徴とする表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項2】
前記オープン孔の内表面は前記キャッピング剤により修飾されていることを特徴とする請求項1記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項3】
前記キャッピング剤は、アルキルシランおよび/またはフルオロアルキルシランからなることを特徴とする請求項1または2記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項4】
前記酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、前記被覆層が結合することにより固定されていることを特徴とする請求項1、2または3記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項5】
前記被覆層の厚みは0.1nm以上かつ30nm以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項6】
平均粒子径は5nm以上かつ500nm以下であり、前記開口端の直径は0.1nm以上かつ50nm以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項7】
前記酸化物粒子は、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンの群から選択される1種または2種以上を主成分とすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の表面被覆多孔質酸化物粒子。
【請求項8】
酸化物粒子の少なくとも表面の近傍に多数の空孔が形成され、これらの空孔は前記表面に開口端を有するオープン孔とされた多孔質酸化物粒子の表面を被覆する方法であって、
前記多孔質酸化物粒子の前記オープン孔の内表面のみにキャッピング剤を修飾する第1の工程と、
前記多孔質酸化物粒子の外周表面の少なくとも一部に、表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて前記開口端を封止する第2の工程と、を有することを特徴とする多孔質酸化物粒子の表面被覆方法。
【請求項9】
前記第1の工程は、前記多孔質酸化物粒子の前記外周表面及び前記オープン孔の内表面に存在する反応点にキャッピング剤を修飾するA工程と、
前記外周表面のキャッピング剤のみを除去して前記外周表面の反応点を再生させるB工程と、を有することを特徴とする請求項8記載の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法。
【請求項10】
前記第2の工程は、前記外周表面に存在する反応点を、改質剤を用いて前記表面被覆剤の反応点となるように改質するC工程と、
この改質により生成した改質反応点に前記表面被覆剤から生成した被覆層を結合させて固定するとともに、この被覆層にて前記開口端を封止するD工程と、を有することを特徴とする請求項8記載の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法。
【請求項11】
前記表面被覆剤は、有機モノマーおよび/または有機ポリマーであることを特徴とする請求項8または10記載の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法。
【請求項12】
前記反応点は水酸基であることを特徴とする請求項9または10記載の多孔質酸化物粒子の表面被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−96685(P2009−96685A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271202(P2007−271202)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】