説明

被ばく線量検量方法

【課題】
大掛かりな被ばく線量計測装置を装着せずに、安価に広範な身体部位の被ばく線量を検量できる簡易な被ばく線量検量方法を提供する。
【解決手段】
この方法は、放射線呈色性組成物を有する被ばく線量インジケータを、患者の皮膚、手術着、手術用帽子、又は手術用シーツの被ばく体に付して被ばくさせた後、被ばく線量インジケータの呈色と、予め被ばく線量に相当する放射線量を同種のインジケータへ照射して呈色させた標準色とを、比色して、被ばく線量を求めるものである。放射線呈色性組成物は、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、被ばく線量に応じて電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とを含む組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物とのいずれかを含む組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いた診療の際に、患者の安全性を確認するために被ばく線量を検量する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線のような放射線を用いた診療は、病変を的確に判断したり局所的に治療したりするものである。中でも、インターベンショナル・ラジオロジー(Interventional Radiology:IVR)は、画像誘導下の経皮的手技により放射線を照射するもので、患者への負担が小さく侵襲が少ないという治療方法である。
【0003】
放射線照射量が比較的大きいインターベンショナル・ラジオロジーによる治療が繰り返される際、患者が過度に被ばくしたり放射線障害を惹き起こしたりしないようにしなければならない。患者への被ばく線量を正確に計測したり予測したりすることにより、患者の被ばく線量を厳密に管理することが重要である。
【0004】
患者への被ばく線量を計測するのに、従来、透過型電離箱線量計や半導体検出器やシンチレーション検出器のような高価で大掛かりな被ばく線量計測装置を患者へ取り付け、その検出値から被ばく線量分布を算出したり、高価なX線量測定用フィルムを用いて被ばく線量を推計したりするという面倒で煩雑な方法がとられていた。
【0005】
このような装置やX線フィルムを用いないで被ばく線量を計測する方法として、特許文献1には、放射線照射により発光する発光体とジアリールエテン化合物とが含有されたフォトクロミック材料を含んだラベル状のカラー線量計が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−64353号公報
【0007】
患者の特定の身体部位のみならず広範な任意の部位で被ばく線量を一層正確かつ簡易に計測できる、安価な方法が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、大掛かりな被ばく線量計測装置を装着しなくとも、安全で安価に広範な身体部位の被ばく線量を正確に検量できる、簡易な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明は、放射線呈色性組成物を有する被ばく線量インジケータを、患者の皮膚、手術着、手術用帽子、および手術用シーツの少なくとも何れかの被ばく体に付けて被ばくさせた後、該被ばく線量インジケータの呈色と、予め該被ばく線量に相当する放射線量を同種のインジケータへ照射して呈色させたインジケータ標準色とを、比色して、該被ばく線量を求めることを特徴とする被ばく線量検量方法である。
【0010】
この被ばく線検量方法によれば、被ばく体の局所的な被ばく量ないしは全体的な被ばく総量を、簡易かつ精密に検量することができる。
【0011】
同じく請求項2に係る発明は、前記放射線呈色性組成物が、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基および水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、被ばく線量に応じて該電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤および/または放射線蛍光剤とを含む組成物、またはポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかを含む組成物であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。
【0012】
この組成物を有する被ばく線量インジケータは、被ばく量に応じ再現性よく速やかに呈色する。そのためこの方法によれば、呈色した色相やその濃淡により、被ばく体の被ばく線量を正確かつ簡便にリアルタイムで検量することができる。
【0013】
同じく請求項3に係る発明は、前記被ばく線量インジケータを、前記被ばく体の全面に付していることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。
【0014】
このインジケータは、被ばく体表面に均一に付されていてもよく、等間隔毎に付されていてもよい。これにより患者の被ばく範囲および被ばく量分布を精密に検量することができる。
【0015】
同じく請求項4に係る発明は、前記比色が、色彩色差測定、濃度反射測定、吸光度測定、透過率測定の何れかの測定による測定値の対比、または目視による対比であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。
【0016】
この測定値の対比は、呈色した被ばく線量インジケータについて前記の測定を行った測定値と、被ばく線量に相当する種々の放射線量を同種のインジケータに夫々照射しインジケータ標準色を得てから同様な測定を行った予備測定値および放射線量で予め作成した検量線とを対比するというものである。検量線から正確かつ簡便に定量的な被ばく線量が検量される。
【0017】
また目視による対比は、同じようにして種々の放射線量を夫々照射して得たインジケータ標準色についての色見本と、呈色した被ばく線量インジケータとを目視で対比するというものである。色見本から正確かつ簡便に被ばく線量が求められる。
【0018】
同じく請求項5に係る発明は、前記該被ばく線量インジケータが、前記組成物を含有する塗料、前記組成物を付しているラベル、シートまたは成型体であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。
【0019】
塗料である被ばく線量インジケータは、患者の皮膚、手術着や手術用帽子のような衣類、患者や手術台にかけられるシーツ等の被ばく体の任意の部位に、塗布したり噴霧したりして、用いられる。また、ラベル、シートまたは成形体である被ばく線量インジケータは、患者の皮膚や衣類やシーツ等に貼付したり巻付けたり、手術台等の設備に貼付したり載置したりして、用いられる。
【0020】
被ばく体の検量すべき部位や検量範囲に応じて、予め被ばく線量インジケータが付される位置を設定しておけば、被ばく範囲を精密に推定することができる。
【0021】
同じく請求項6に係る発明は、前記呈色が、色相の変化、または色相の濃淡の変化であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。色相やその濃淡の変化は目視し易いものであるから、被ばく線量の多い部位ほど特定の色相を示したり濃い色相を示したりして、広範な部位であっても被ばく線量の多少を目視で識別できる。
【0022】
同じく請求項7に係る発明は、前記被ばく線量インジケータおよびまたは前記被ばく体に、該インジケータが付される位置を予め記載することを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法である。
【0023】
同じく請求項8に係る発明は、前記の被ばく位置を記録することを特徴とする請求項1記載の被ばく線量検量方法である。
これにより、被ばく位置を迅速に特定したり、複数回にわたる治療の際の同一位置への集中的な被ばくを回避しつつ、累積的な被ばく線量を検量したりすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の被ばく線量の検量方法によれば、被ばく線量インジケータの明瞭な色相の変化を目視により観察してリアルタイムで被ばく線量を検量するものであるため、判り易く、簡易かつ正確である。
【0025】
患者の身体の広範囲に被ばく線量インジケータを塗布したり貼付したりしておくと照射量の多少の分布が色相やその濃淡により一目で確認できる。分光学的な測定を用いるとより一層正確に被ばく線量を検量することができる。
【0026】
用いられる被ばく線量インジケータが、塗料、ラベル、シートまたは成形体であるため、患者へ簡便に付すことができる。
【0027】
この検量方法は、安価であって汎用性があり、放射線診療の度に行うことができる。また、続けて使用できるので、患者のみならず放射線技術者の累積的な被ばく量を検量して、安全管理のためにも行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施した例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明の被ばく線量検量方法は、被ばく線量インジケータを用いて、行われる。
【0030】
アセタール基および水酸基を有する高分子化合物と、電子供与体有機化合物と、活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤、および放射線蛍光剤が含まれる放射線呈色性組成物を基材上に塗布した被ばく線量インジケータを作製する。それを、被ばく体例えば患者の放射線診療すべき部位近傍に付け、放射線を照射する。
【0031】
その被ばく線量に応じて異なる色相またはその濃淡が現れる該被ばく線量インジケータの呈色と、予め同種のインジケータに種々の放射線量を照射し放射線量毎に異なる色相またはその濃淡を現れさせたインジケータ標準色とを、比色して、被ばく線量を求める。
【0032】
なお、この高分子化合物は、下記式(1)
【化1】

【0033】
(上記式中、Xはハロゲン原子、−Rは水素原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、脂肪族カルボニルオキシル基、カルボキシル基、アリールオキシ基、アラルキル基、またはアラルコシ基を示し、l、m、nは任意の比率。)で示される高分子化合物、下記式(2)
【0034】
【化2】

【0035】
(式(2)中、−Rおよび−Rは、同一または異なり、水素原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アセトキシ基のような脂肪族カルボニルオキシ基、カルボキシル基、アリールオキシ基、アラルキル基、またはアラルコシ基を示し、p、q、rは任意の比率。)で示されるものが挙げられる。これらの高分子化合物は、単独で用いられても、複数種混合して用いられてもよく、また別な高分子化合物が混合されていてもよい。
【0036】
前記呈色性の電子供与体有機化合物は、通常無色または淡色で、ブレンステッド酸、ルイス酸等の活性種、すなわち電子受容体の作用で発色する性質を有するものである。具体的には、トリフェニルメタンフタリド類例えばクリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン;フルオラン類例えば3−ジエチルアミノベンゾ−α−フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン;フェノチアジン類例えば3,7−ビスジメチルアミノ−10−(4’−アミノベンゾイル)フェノチアジン;インドリルフタリド類例えば3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド;ロイコオーラミン類例えばN−(2,3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−フェニルオーラミン;ローダミンラクタム類例えばローダミン−β−o−クロロアミノラクタム;ローダミンラクトン類例えばローダミン−β−ラクトン;インドリン類例えば2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3’−ジメチルインドリン、p−ニトロベンジルロイコメチレンブルー、ベンゾイルロイコメチレンブルー;トリアリールメタン類例えばビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、トリス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)メタンが挙げられる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0037】
前記活性種生成有機化合物は、放射線の照射により不可逆的に活性種が生じるもので、ハロゲン基を有する化合物例えば四臭化炭素、トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等のハロゲン化アルキルやトリブロモメチル誘導体が挙げられる。
【0038】
前記放射線吸収剤は、バリウム、イットリウム、銀、スズ、ハフニウム、タングステン、白金、金、鉛、ビスマス、ジルコニウム、ユウロピウム、セリウムの金属、および該金属を含む化合物例えばそれらの金属の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩が挙げられる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0039】
前記放射線励起蛍光剤は、CaWO4、MgWO4、HfP207で示される塩、ZnS:Ag、ZnCdS:Ag、CsI:Na、CsI:Tl、BaSO4:Eu2+、Gd2O2S:Tb3+、La2O2S:Tb3+、Y2O2S:Tb3+、Y2SiO5:Ce、LaOBr:Tm3+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+で示される焼成物が挙げられる。ZnS:Agの焼成物は、硫化亜鉛を主成分とし、重金属賦活剤である銀を加えて焼成したものである。他の焼成物も同様にして得られる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0040】
放射線呈色性組成物は、前記高分子化合物5〜50重量部と、前記呈色性の電子供与体有機化合物0.01〜50重量部と、前記活性種生成有機化合物0.1〜50重量部と、前記放射線吸収剤/放射線励起蛍光剤0.1〜500重量部とを含んでいる。
【0041】
放射線呈色性組成物は、物質の種類及び配合比を調整することにより、変色後の色相、色の濃淡及び変色速度の調節が可能である。
【0042】
放射線呈色性組成物は、前記高分子化合物を溶剤に溶解させて媒体とし、インキや塗料にして用いてもよい。媒体は、高分子化合物5〜50重量部に対し、溶剤50〜95重量部を含むことが好ましい。
【0043】
溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサン、イソホロン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−へキサン、イソオクタン、ソルベントナフサ、メチレンクロライド、プロピレンクロライド、エチレンクロライド、クロロホルム、ジクロルエタン、1,1,2−トリクロルエタン、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、酢酸が挙げられる。その他の溶剤であっても高分子化合物を溶解させるものはすべて使用可能である。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0044】
放射線呈色性組成物は、消泡剤、界面活性剤、凝固剤のような添加剤を含んでいてもよい。
【0045】
被ばく線量インジケータは、この放射線呈色性組成物を被ばく体に直接、塗布または印刷するインキであってもよく、プラスチック製または紙製の基材へ放射線呈色性組成物を塗布したシートまたはラベルであってもよく、放射線呈色性組成物を成形し成型体であってもよく、放射線呈色性組成物をマイクロカプセルや樹脂またはガラス製の蓋付容器や封管に封入して被ばく体に貼付したり載置したりする成型体であってもよい。
【0046】
被ばく線量インジケータについて、シート状のものを例としてより具体的に説明する。
【0047】
シート状の被ばく線量インジケータは、ハロゲン基とアセタール基とから選ばれる少なくとも一種類の基および水酸基を有する前記高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、放射線により該電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤および/または放射線蛍光剤とを含有してなる変色層を、基材シートの表面の少なくとも一部に有している。
【0048】
この変色層は、例えば前記組成物または前記インキで形成されたものである。
【0049】
シート状の被ばく線量インジケータに用いられる高分子化合物は、前記式(1)および、前記式(2)で示される高分子化合物から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0050】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記インジケータ用組成物または前記インキを、紙または樹脂製の基材シートの表面に塗布して前記変色層が形成されたものであることが好ましい。
【0051】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記変色層上の一部に、変色層の変色前または変色後の色相に近似する色素を有していてもよい。
【0052】
この色素を含有するインキが変色層上部に印刷されるか、この色素を含有するシートが変色層の上部に設置されていてもよい。また、放射線照射量に対応する変色後の色相を2種類以上設置することで、より精度の高い放射線量推計が可能である。
【0053】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記変色層が、透明または半透明の保護フィルム層で被覆されていてもよい。
【0054】
保護フィルムは紫外線を遮断するためのもので、例えばポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、またはポリプロピレンのフィルム、ポリエステル、およびこれらのフィルムに紫外線吸収剤を混入もしくは積層させたものが挙げられる。
【0055】
保護フィルムは、変色層の全面を被覆したものであってもよく、変色層の一部が外部に曝されて被覆したものであってもよい。保護フィルムに粘着層を付し、基材シート上の変色層へこの粘着層を介して保護フィルムが粘着されたものであってもよい。
【0056】
シート状の被ばく線量インジケータの非観察面側に粘着層が設けられていると一層好ましい。被ばく線量インジケータの変色層と基材シートとからはみ出す程度に保護シートで観察面側から覆い被せ、シート状の被ばく線量インジケータとはみ出た保護シートとの非観察面側に、粘着層が付されていてもよい。保護フィルム上に、変色層の変色前または変色後の色相に近似する色素が付されていてもよい。
【0057】
また、シート状の被ばく線量インジケータを保護フィルムで封入してもよい。
【0058】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記保護フィルム層のいずれかの面の一部に、前記変色層の変色前または変色後の色相に近似する色素を有していてもよい。
【0059】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記保護フィルムシートのいずれかの面の一部に、前記変色層の変色前または変色後の色相に近似する色素が付されていてもよい。
【0060】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記基材シートが保護フィルムシートであって、該保護フィルムシートの非観察面に粘着層が付されていてもよい。
【0061】
この保護フィルムシートを兼ねる基材シートの非観察面側に変色層が付され、変色層の非観察面側に付された粘着層を介して、別な基材シートが粘着されていてもよい。さらに、この保護フィルムシートを兼ねる基材シートが別な保護フィルムシートで覆われていてもよく、またこの別な基材シートの非観察面側に別な粘着層が付されていてもよい。
【0062】
保護フィルムシートのいずれかの面の一部に、変色層の変色前または変色後の色相に近似する色素を付してもよく、この色素を含有するシートを設置してもよい。
【0063】
基材シートは、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリプロピレンの樹脂製または紙製であることが好ましい。
【0064】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記粘着層に、別な基材シートが接着されていてもよい。
【0065】
シート状の被ばく線量インジケータは、前記基材シートの非観察面に粘着層が付されていてもよい。
【0066】
被ばく線量インジケータは、感度が異なる複数の前記変色層を有していてもよい。
【0067】
感度が異なる複数の変色層を有していると、より広範囲の線量測定が可能となるうえ、測定精度が向上する。また、夫々の変色層の変色色調が相違していてもよい。同色調の複数の変色層は、僅かな変色を視覚的に確認し難いものであるが、変色色調が相違する複数の変色層は、僅かな変色を明確に確認できるようになる。
【0068】
ラベル、シートまたは成形体であるインジケータを、患者の手術着・シーツ等に貼付したり載置したりして、または塗料である被ばく線量インジケータを、患者の手術着等に塗布したり噴霧したりして、配置することにより、実際の被ばく量により近似した正確な被ばく量を、検出することができる。インジケータを配置する手術着等は、患者の皮膚表面へ術前に取り付け易くするとともに術後に取り外し易くするため、ひもやマジックテープ(登録商標)等がついていることが好ましい。
【0069】
予めインジケータ配置位置(ID)を手術着、シーツやインジケータ等に記載しておくと、短時間で被ばく位置を特定することができる。
【0070】
また、施術が複数回に及ぶ場合には、毎回の被ばく位置を特定しておくことで施術前に被ばく位置を分散して設定することが可能となり、X線診療の際に懸念される同一位置への被ばく量を低減することが可能である。
【0071】
この被ばく線量検量方法の被ばく線量インジケータの呈色のメカニズムは以下のように推察される。まずインジケータ中の放射線吸収剤が、インジケータに照射された放射線を吸収・散乱し、光電効果、コンプトン効果、電子を放出した電子対生成の現象を起こす。放射線励起蛍光剤でも同様な現象とともに蛍光リン光発光現象を起こす。これら現象により活性種生成有機化合物から電子受容性を有する活性種が生成され、混在している呈色性の電子供与体有機化合物の電荷移動を誘発する。すると電子供与体化合物は、その電子密度が変化するため呈色し、これによりインジケータが変色する。
【0072】
この呈色したインジケータは、退色せず、色相が変化しないため、被ばく線量を示す証拠として、長期間保存できる。そのメカニズムの詳細は不明だが、高分子化合物の水酸基が放射線照射によって水素イオン等の電子受容体を生じさせ、呈色した電子供与体化合物を安定化させるため、退色しなくなるものと考えられる。特に高分子化合物中の水酸基は、ハロゲン基またはアセタール基が共存することで、水素イオン等の電子受容体をより一層生成させ易くする。
【0073】
このインジケータは、0.05〜25,000Gyの広範囲の放射線量を表示でき、従来よりも低線量での変色が可能である。その詳細は不明であるが、高分子化合物が、呈色した電子供与体有機化合物を安定化させ、また組成物中に比較的多量に含まれているため低被ばく線量でも明瞭な呈色を引き起こすためと考えられる。
【0074】
なお、被ばく線量インジケータが有する放射線呈色性組成物として、高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤や放射線蛍光剤とを有する例について説明したが、呈色させるためにポリアセチレン化合物やジアリールエテン化合物が用いられたものであってもよい。
【0075】
ポリアセチレン化合物として、例えば、ジアセチレン化合物、より具体的にはジアセチレン基を有するカルバゾール類が挙げられる。
【0076】
ジアリールエテン化合物として、アルキル基やアルコキシ基やハロゲン基やアリール基やヘテロアリール基のような置換基で置換されていてもよいアリール基を1、2位に有するジアリールペルフルオロシクロペンテンで例示されるジアリールエテン類;アルキル基やアルコキシ基やハロゲン基やアリール基やヘテロアリール基のような置換基で置換されていてもよいヘテロアリール基を1、2位に有するジヘテロアリールペルフルオロシクロペンテン、より具体的には、1,2−ビス[2−メトキシ−5−フェニル−3−チエニル]ペルフルオロシクロペンテンのようなジヘテロアリールエテン類が挙げられる。
【実施例】
【0077】
本発明を適用する被ばく線量検量方法を実施した例を以下に示す。
【0078】
(実施例1)
高分子化合物である塩化ビニル・酢酸ビニル・ポリビニルアルコール共重合体を、溶剤であるトルエン/エタノール(1:1)に溶解させて25%溶液の媒体を調製した。調製した媒体100重量部に呈色性の電子供与体有機化合物として、フルオラン類である2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン10重量部、放射線活性剤としてトリブロモエタノール10重量部、放射線吸収剤として酸化セリウム20重量部を混合してインクとし、放射線照射量履歴インジケータ用組成物を得た。裏面に粘着剤が付されたポリエチレンフィルム製基材に、得られた組成物を層状に塗布し、乾燥した。水分等の影響を回避する透明なプラスチックフィルムをこの層上に被い、1.5cm四方に切断し、層の色相が白色の被ばく線量インジケータであるラベルを作製した。
【0079】
被ばく線量検量に先立ち、インジケータ標準色調整のために、前記のようにして作製したのと同種の被ばく線量インジケータのラベルの複数個の夫々へ、実際の診療に使用される被ばく線量に相当する放射線量0.5〜5Gyのうち約1Gyずつ増加させた異なる放射線量のX線を予め照射した。すると、放射線量に応じて、層の色相が白色から灰色ないし黒色へ呈色した。これらの放射線量毎の色相をインジケータ標準色とする。非変色性のインクにより、この標準色と同一の色相や濃淡で印刷したインジケータ標準色見本を作成した。
【0080】
次に、実際のX線診療の際に、前記のようにして作製された別な被ばく線量インジケータのラベルを、被ばく体例えば患者の皮膚や衣類、手術台へ貼付した。X線診療を施術すると、被ばく線量インジケータのラベルが、被ばく線量に応じ呈色した。この呈色と、放射線量毎に異なっているインジケータ標準色見本とを目視により対比して比色し、同じ色相や濃淡を見つけ出した。それによりその呈色を示す放射線量が判り、その結果、患者等の被ばく線量が正確かつ簡易に検量された。
【0081】
(実施例2)
実施例1で作成したラベルを縦横4枚ずつ、20cm四方の不織布上に等間隔で貼付し、被ばく線量インジケータであるシートを作製した。一方、実施例1と同様なインジケータ標準色見本を作成した。
【0082】
次に、実際の診療の際に、この被ばく線量インジケータのシートを、被ばく体例えば患者の皮膚や衣類、手術台へ貼付した。X線診療を施術すると、インジケータのシート上の各ラベルが、被ばく線量に応じて異なって呈色した。この各ラベルの呈色と、放射線量毎に異なっているインジケータ標準色見本とを目視により対比して比色し、この呈色が黒いほど、被ばく線量が多いことが目視により簡便に判った。これにより被ばく線量や被ばく分布や被ばく範囲が目視で判断できたうえ、被ばく線量が正確かつ簡易に検量できた。
【0083】
(実施例3)
実施例1で作製したラベルを、手術用帽子の左右に等間隔で10枚貼付し、被ばく線量インジケータとなる帽子を作製した。
【0084】
次に、実際のX線診療の際に、この帽子を患者にかぶらせた。X線診療を施術すると、帽子上のインジケータの各ラベルが、被ばく線量に応じ呈色した。実施例2と同様に、この各ラベルの呈色とインジケータ標準色見本とを目視により対比して比色すると、被ばく線量や被ばく分布や被ばく範囲が目視で判断できたうえ、被ばく線量が正確かつ簡易に検量できた。
【0085】
(実施例4)
実施例1と同様にして、インジケータ標準色調整のために予め被ばく線量インジケータのラベルの複数個の夫々に、実際の診療に使用される被ばく線量に相当する放射線量0.5〜5Gyの範囲で約1Gy刻みで増加させた異なる放射線量のX線を照射した。すると、放射線量に応じて、層の色相が白色から灰色ないし黒色へ呈色した。これらの放射線量毎の色相をインジケータ標準色とし、それを色彩色差測定した値と、その放射線量とで検量線を作成した。
【0086】
次に、実際のX線診療の際に、実施例1で作製した被ばく線量インジケータのラベルを、被ばく体例えば患者の皮膚や衣類、手術台へ貼付した。X線診療を施術すると、被ばく線量インジケータのラベルが、被ばく線量に応じ呈色した。この被ばく線量インジケータのラベルの呈色を、色彩色差測定し得た値と、検量線とから、被ばく線量を正確かつ簡易に算出し、検量することができた。
【0087】
(実施例5)
実施例1で作製した被ばく線量インジケータであるラベルを患者の背部にあたる検査台上に、5cm間隔で配置した。その近傍に熱蛍光線量計(TLD)を配置した。X線診療を行い、それの透視時間、撮影回数、また管電圧、管電流、フィルター等の照射条件の詳細を記録した。
【0088】
X線診療の際のX線撮影による透視時間等の積算から計算した患者の入射表面線量は0.9Gyであった。一方、被ばく線量インジケータであるラベルを用いて、実施例3と同様に検量線によって比色して検量した被ばく線量は0.9Gyであった。また、TDLを用いて測定した入射表面線量と、このインジケータを用いて測定した被ばく線量とが一致した。このことから、被ばく線量インジケータを用いて検量した被ばく線量の正確性が示された。
【0089】
(実施例6)
予め被ばく線量インジケータであるラベルを手術着へ配置する位置を、設定した。各位置に位置認識データ(ID)が記載されたインジケータを、設置した。インジケータが配置されている手術着を患者に着せ、X線診療を施術した。術後、被ばく線量に応じてインジケータが呈色した。この被ばく線量インジケータの呈色から最大被ばく位置を推定し、その位置IDと被ばく量を記録した。同患者への2回目の手術時に、その記録を基に、前回の最大被ばく位置付近を避けてX線診療を施術した。術後、インジケータを確認したところ、1回目の被ばく位置でほとんど被ばくしていなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の被ばく線量検量方法は、放射線診療、中でもインターベンショナル・ラジオロジーの際、簡便かつ正確で安価に、患者の被ばく線量をリアルタイムで局所的にまたは広範囲に検量することができる。また、被ばく線量履歴を長期間保存することができる。そのため被ばく線量を厳密に管理でき、一層安全に放射線治療を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線呈色性組成物を有する被ばく線量インジケータを、患者の皮膚、手術着、手術用帽子、および手術用シーツの少なくとも何れかの被ばく体に付して被ばくさせた後、該被ばく線量インジケータの呈色と、予め該被ばく線量に相当する放射線量を同種のインジケータへ照射して呈色させたインジケータ標準色とを、比色して、該被ばく線量を求めることを特徴とする被ばく線量検量方法。
【請求項2】
前記放射線呈色性組成物が、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基および水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、被ばく線量に応じて該電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤および/または放射線蛍光剤とを含む組成物、またはポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかを含む組成物であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項3】
前記被ばく線量インジケータを、前記被ばく体の全面に付していることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項4】
前記比色が、色彩色差測定、濃度反射測定、吸光度測定、透過率測定の何れかの測定による測定値の対比、または目視による対比であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項5】
前記被ばく線量インジケータが、前記組成物を含有する塗料、前記組成物を付しているラベル、シートまたは成型体であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項6】
前記呈色が、色相の変化、または色相の濃淡の変化であることを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項7】
前記被ばく線量インジケータおよびまたは前記被ばく体に、該インジケータが付される位置を予め記載することを特徴とする請求項1に記載の被ばく線量検量方法。
【請求項8】
前記インジケータの被ばく位置を記録することを特徴とする請求項1記載の被ばく線量検量方法。