説明

被加工糸のレーザマーキング方法および装置

【課題】 被加工糸を高精度で容易に位置決めして、微小領域に微細なマーキングパターンを明確にかつ連続して形成することができる被加工糸のレーザマーキング方法および装置を提供する。
【解決手段】 被加工糸9を供給リール2および巻取リール3間に緊張した状態で張架し、被加工糸9の直径よりも小さい幅およびマーキングパターンの長さのレーザ光照射領域に、糸案内板4によって位置決めして配置し、レーザ光照射装置5によってレーザ光をパルス照射しながら走査して、微細なマーキングパターンを明瞭に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノフィラメントおよびスリットヤーンなどの糸条によって実現される被加工糸に、文字および図柄などの微細なマーキングパターンを明瞭に形成することができる被加工糸のレーザマーキング方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な従来の技術は、特許文献1に記載されている。この従来の技術では、文字、記号、符号、およびバーコードなどをマスクパターンとして描いたマスクを予め準備し、結像レンズを調整して、YAGレーザまたは炭酸ガスレーザのレーザ光を、成形品の表面に照射して、一括転写によってマーキングを行っている。
【0003】
前記成形品は、ポリエステル樹脂組成物から成り、YAGレーザおよび炭酸ガスレーザのいずれについても、ポリエステルに酸化チタンおよびカーボンブラックの一方または双方を添加したポリエステル樹脂組成物を用いることによって、マーキング性を改善する技術が開示されている。
【0004】
ポリエステル樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂58〜96重量%に、臭素系難燃剤2〜25重量%、アンチモン系難燃助剤2〜15重量%、ならびに高熱伝導度のカーボンブラックおよび/またはグラファイト0.001〜2重量%を添加した組成物から成る。
【0005】
マーキング性の評価は、発泡状態、細線性、削れ性およびコントラスト比について判断される。発泡状態は、グラファイトのレーザ光の吸収による発熱によって、周囲のポリマが熱分解して発泡する現象であり、電子顕微鏡によって観察される。また、細線性は、表面粗さ計によって測定されるマーキング部の深さであり、コントラスト比は、500±50ルックスの輝度で拡散照明し、バックグラウンド輝度BLと特性輝度CLとを測定し、バックグラウンド輝度BLと特性輝度CLとの比(BL:CL)によって求められる。
【0006】
これらの評価項目について、前記ポリエステル樹脂組成物で組成を変えた実施例および比較例の複数のブロック状のサンプル成形品を作成し、レーザ光を照射部位を観察した結果として、良好なマーキング性が得られる前述の熱可塑性ポリエステル樹脂、臭素系難燃剤、アンチモン系難燃助剤、ならびに高熱伝導度のカーボンブラックおよび/またはグラファイトの配合比が提案されている。
【0007】
他の従来の技術は、非特許文献1に記載されている。この従来の技術では、ABS樹脂成形品の表面にレーザ光を照射して、鮮明な着色、平滑性および光沢のある加飾を実現するために、発色性については成形品の吸光度を制御し、平滑性についてはカーボンブラックの配合量を制御し、光沢についてはレーザ照射部位に照射されるレーザパルスエネルギに対する明度および表面粗さの関係からレーザパルスエネルギを制御することが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−246456号公報
【非特許文献1】桝井 幹生、北村 啓明、佐藤 信、渡辺 治、近藤 真樹 松下電工技報 「配線器具へのレーザ加飾」 Dec.2001 p41〜p45
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1および非特許文献1に記載される従来の技術では、レーザ光を照射してマーキングされる被加工物が成形品である。この成形品は、特許文献1に記載される従来の技術では、ポリエステル樹脂組成物を押出機によって押し出されたペレット、組成の異なるペレットを用いて成形した成形品、および組成の異なるペレットの一部を用いて成形した成形品が、マーキングされる被加工物とされる。また、非特許文献1に記載される従来の技術では、射出成形機によって成形された平板状の成形物が被加工物とされる。
【0010】
したがって、これらの従来の技術では、肉眼で充分に識別可能な大きさのマーキングパターンを明瞭に形成する技術を提案するものであるため、肉眼で直接視認することができない大きさ、たとえば幅1mm以下の微小領域にマーキングパターンを形成することはできない。
【0011】
肉眼で直接視認することができない大きさの微小領域にマーキングが要求される場合として、たとえば繊維製品の偽造防止という観点から、製造者名、品番、製造年月日およびロゴマークなどの各種の文字・図柄を、たとえば合成樹脂製のモノフィラメントなどの直径0.1mm程度の細い糸に、マーキングパターンとして形成する技術が求められている。
【0012】
このような糸にレーザ光によってマーキングする場合には、その糸の幅以下の領域内でレーザ光の照射位置を正確に位置決めして、レーザ光をマーキングパターンに沿って走査させながら照射しなければならないため、高い位置決め精度が要求されるとともに、糸の直径以下の微小領域に文字および図柄などの希望するマーキングパターンを、微細に、しかも明瞭かつ連続して形成することができ、拡大視したときに充分な可判読性が得られなければならない。したがって、前述の特許文献1および非特許文献1に記載の各従来の技術では、被加工糸である糸に対して、マーキングパターンを明瞭にかつ連続して形成することができないという問題がある。
【0013】
したがって本発明の目的は、被加工糸を高精度で容易に位置決めして、微小領域に微細なマーキングパターンを明確にかつ連続して形成することができる被加工糸のレーザマーキング方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、緊張した状態で張架される被加工糸を、その被加工糸の直径よりも小さい幅および予め定める長さのレーザ光照射領域に位置決めして配置し、
前記レーザ光照射領域に配置された被加工糸に、この被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径に集光されたレーザ光を、パルスで照射しながら走査して、所定のマーキングパターンを形成し、
マーキングパターンが形成された被加工糸を、前記レーザ光の走査速度に同期して、間欠的または連続的に移動させて、前記被加工糸にマーキングすることを特徴とする被加工糸のレーザマーキング方法である。
【0015】
本発明に従えば、被加工糸は緊張した状態で張架され、その被加工糸の直径よりも小さい幅およびマーキングパターンを構成する文字・図柄などの数や形態によって決まる予め定める長さのレーザ光照射領域に、位置決めして、配置される。
【0016】
このようなレーザ光照射領域に配置された被加工糸には、レーザ光を、パルスで照射しながら走査することによって、前記文字および図柄などによって構成される所定のマーキングパターンが形成される。
【0017】
前記被加工糸としては、レーザ光の照射によって、熱的および化学的に安定に溶融する合成樹脂を紡糸して製造されるモノフィラメントなどによって実現されてもよく、あるいはスリットヤーンによって実現されてもよい。
【0018】
前記被加工糸に照射されるレーザ光は、そのスポット径が被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径、たとえば直径が約100μmの被加工糸であれば12μmに集光されるので、幅60μm程度の微小領域に微細なマーキングパターンを明確に形成することができる。前記レーザ光のスポット径を被加工糸の直径よりも小さくなるように集光するにあたっては、レーザ光源から発振されたレーザビーム光を、集光レンズによって集光すればよく、レーザ光の照射面でのエネルギ密度は、被加工糸の材質および表面性状に応じて適宜、調整することによって、最適な発色状態または変色状態でマーキングパターンを明瞭に形成することができる。
【0019】
また前記被加工糸の位置決めは、たとえばコンピュータによって制御されるレーザ光照射装置に前記レーザ光照射領域を予め設定しておき、このレーザ光照射領域が、被加工糸の前記所定のマーキングパターンが形成されるべき被照射部位に一致するように、レーザ光照射領域または被加工糸を正確に配置し、それらの位置関係が、少なくともレーザ光の照射期間中に変化しないように、被加工糸を治具などによって保持することによって、達成される。
【0020】
1つのマーキングパターンの一部または全部が形成された被加工糸は、前記レーザ光の走査速度に同期して、間欠的または連続的に移動させて、被加工糸の次の領域にマーキングされる。間欠的に被加工糸を移動させる場合には、1つのマーキングパターンが形成されるたびに被加工糸を移動させてもよく、1つのマーキングパターンを形成する期間を複数に時分割してもよい。
【0021】
また連続的に被加工糸を移動させる場合には、レーザ光照射装置の走査速度に同期させて追従させることができる範囲で、被加工糸を一定速度で移動させながら連続してレーザ光を照射してもよく、マーキングの進行速度に追従させて被加工糸の送り速度を変化させて、変則的な移動速度で被加工糸を移動させながらレーザ光を連続して照射してもよい。
【0022】
このように正確に位置決めされた被加工糸に微小なスポット径でレーザ光をパルス照射で走査してマーキングするので、微小領域に微細なマーキングパターンを明確に、しかも連続して形成することができる。
【0023】
また本発明は、前記被加工糸の位置決めは、その被加工糸にレーザマーキングを行うために予め設定された照射条件のレーザ光を、合成樹脂からなる案内部材に照射して形成された一直線状の案内溝に嵌合させることによって実現されることを特徴とする。
【0024】
さらに本発明は、前記予め設定された照射条件は、所定の材質および直径の被加工糸に対して、レーザ光のレーザ光照射領域の幅およびスポット径を決定した後、少なくともレーザ光の照射パワー、繰り返し周波数、パルス幅および走査速度を、個別に変化させながら判読可能な値を抽出して、順次的に設定されることを特徴とする。
【0025】
さらに本発明は、前記案内部材および被加工糸のうち少なくともいずれか一方は、除電されていることを特徴とする。
【0026】
さらに本発明は、被加工糸が巻回される供給リールと、
被加工糸に所定のマーキングパターンが形成された被加工糸を巻き取る巻取リールと、
供給リールおよび巻取リール間にわたって張架される被加工糸が嵌まり込みかつ被加工糸の張架方向に沿って一直線状に延びる案内溝が形成される案内部材と、
前記案内部材によって前記案内溝に嵌まり込んだ状態で配置される被加工糸に、前記レーザ光照射領域内で前記被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径に集光されたレーザ光を、パルスで照射しながら走査して、前記所定のマーキングパターンを被加工糸の直径よりも小さい幅および予め定める長さのレーザ光照射領域に形成するレーザ光照射手段と、
前記供給リールを、被加工糸に張力が発生する方向に回転トルクを付与する供給側トルク付与手段と、
前記巻取リールを、被加工糸の張力および移動速度が一定になるように回転を付与する巻取側回転付与手段とを含むことを特徴とする被加工糸のレーザマーキング装置である。
【0027】
本発明に従えば、供給リールおよび巻取リール間にわたって張架される被加工糸には、供給リールへの供給側トルク付与手段による回転トルクによって張力が与えられ、案内部材の案内溝に緊張された状態で嵌まり込む。
【0028】
レーザ光照射手段は、前記案内部材の案内溝に緊張された状態で嵌まり込んだ被加工糸に、レーザ光を照射する。このレーザ光照射手段から被加工糸に照射されるレーザ光は、レーザ光照射領域内で被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径に集光され、文字および図柄などの所定のマーキングパターンに沿って走査され、そのマーキングパターンが被加工糸に形成される。
【0029】
前記マーキングパターンが形成された被加工糸、すなわちマーキング糸は、巻取側回転付与手段によって巻取方向に巻取回転量が付与された巻取リールに一定の移動速度で巻き取られ、レーザ光の照射位置がずれることなく、正確に、連続して、マーキングパターンが形成される。
【0030】
また本発明は、前記案内部材よりも被加工糸の移動方向上流側および下流側のうち少なくともいずれか一方に設けられ、被加工糸を案内部材の案内溝よりも下方に案内する押さえ手段を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明に従えば、前記案内部材よりも被加工糸の移動方向上流側および下流側のうち少なくともいずれか一方には被加工糸を案内部材の案内溝よりも下方に案内する押さえ手段が設けられるので、被加工糸の案内溝からの抜け出しなどの不所望な被加工糸の挙動が抑制され、案内溝に沿って一定の移動速度で案内される被加工糸に安定に、かつ確実にマーキングパターンが形成される。
【0032】
さらに本発明は、前記レーザ光照射手段には、所定の材質および直径の被加工糸に対して、レーザ光のレーザ光照射領域の幅およびスポット径を決定した後、少なくともレーザ光の照射パワー、繰り返し周波数、パルス幅および走査速度を、個別に変化させながら判読可能な値を抽出して、順次的に決定されたレーザ光照射条件が設定されていることを特徴とする。
【0033】
さらに本発明は、前記案内部材および被加工糸のうち少なくともいずれか一方は、除電されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、正確に位置決めされた被加工糸に、微小なスポット径でレーザ光をパルス照射で走査してマーキングするので、微小領域に微細なマーキングパターンを明確に、しかも連続して形成することができる。
【0035】
また本発明によれば、供給リールおよび巻取リール間にわたって張架される被加工糸を、張力が与えられた状態で案内部材の案内溝によって位置決めし、レーザ光照射手段から被加工糸の直径よりも小さいスポット径のレーザ光をパルス照射しながら走査して、マーキングパターンを形成し、巻取リールに巻き取るように構成されるので、微細なマーキングパターンが明瞭に形成された糸を、連続して製造することができる。
【0036】
さらに本発明によれば、案内部材よりも被加工糸の移動方向上流側および下流側のうち少なくともいずれか一方に押さえ手段が設けられるので、供給リールに巻回された被加工糸の繰り出し位置に拘らず、被加工糸の案内溝からの抜け出しなどの不所望な被加工糸の挙動が抑制され、案内溝に沿って一定の移動速度で案内される被加工糸を、安定して正確にレーザ光の照射位置に供給することができ、ずれや欠落のない高品質のマーキングパターンを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1は、本発明の実施の一形態の被加工糸のレーザマーキング方法が実施される被加工糸のレーザマーキング装置1の構成を簡素化して示す側面図である。なお、本実施の形態において「被加工糸」とは、その構造形態上、繊維を揃えて長く連続させたものをいい、短い繊維(ステープル)を紡績によって連続させた紡績糸と、長い繊維(フィラメント)を集束させたフィラメント糸とを含み、一例として、単一の繊維からなるモノフィラメント糸へのレーザマーキング方法について説明する。このモノフィラメント糸は、溶融紡糸によって製造されるため、表面に毛羽がなく平滑であり、内部に空隙が少なく緊密であり、撚りがないため、所定の文字、図形およびロゴマークなどのマーキングパターンを連続的に均一な表示品位で形成することができる。
【0038】
本実施の形態のレーザマーキング装置1は、供給リール2、巻取リール3、案内部材である糸案内板4、レーザ光照射手段であるレーザ光照射装置5、供給側トルク付与手段6、巻取側回転付与手段7、押さえ手段である一対のガイドリング8a,8b、および制御装置10を含む。
【0039】
前記供給リール2は、図示しない基台に図1の上下方向である鉛直軸線まわりに回転自在に設けられ、被加工糸9が巻回される。巻取リール3は、図示しない基台に図1の紙面に垂直な水平軸線まわり回転自在に設けられ、レーザ光照射装置5によって所定のマーキングパターンが形成された被加工糸9を巻き取る。
【0040】
これらの供給リール2および巻取リール3間には、前記レーザ光照射装置5が設けられる。レーザ光照射装置5は、レーザ光照射ヘッド11を有し、このレーザ光照射ヘッド11の下方には前記糸案内板4が設けられる。糸案内板4は、図示しない位置調整用テーブルに被加工糸9の移動経路に下方から臨むようにして設置され、後述の図6に示されるように、X軸、Y軸、Z軸の直交3軸方向の直線移動、および各軸X,Y,Zまわりの角変位方向α,β,γの角変位が可能であり、被加工糸9を案内すべき位置に移動させて高精度で位置決めすることができる。
【0041】
各ガイドリング8a,8bは、円環状またはC字状の滑り性の良好な合成樹脂または金属からなり、前記糸案内板4よりも被加工糸9の移動方向上流側(図1の左側)および下流側(図1の右側)に設けられ、糸案内板4に対する高さ方向(図1の上下方向)および左右方向(図1の紙面に垂直方向)の位置を調整することができるように、図示しない装置フレームなどに対して連結されている。
【0042】
これらのガイドリング8a,8bには、被加工糸9が挿通され、その被加工糸9を糸案内板4の前記移動方向上流側および下流側で、糸案内板4に形成される案内溝12よりも下方に案内して、被加工糸9の案内溝12からの離脱を防止する。
【0043】
前記供給側トルク付与手段6は、鉛直軸線まわりに回転駆動される出力軸を有するトルクモータ15と、トルクモータ15の出力軸に固定される駆動プーリ16と、前記供給リール2のリール軸17の下端部に同軸に固定される従動プーリ18と、駆動プーリ16および従動プーリ18間にわたって巻き掛けられて張架される無端状のベルト19とを有する。
【0044】
トルクモータ15は、制御装置10によって回転動作が制御され、出力軸を一方向に最適なトルクで回転駆動される。その回転トルクは駆動プーリ16からベルト19を経て従動プーリ18に伝達され、供給リール2に被加工糸9に張力が発生する方向に回転トルクが付与される。
【0045】
巻取側回転付与手段7は、水平軸線まわりに回転駆動される出力軸を有するステッピングモータ21と、ステッピングモータ21の出力軸に固定される駆動プーリ22と、水平な回転軸線まわりに回転自在に軸支された引張用フリクションドラム23と、この引張用フリクションドラム23の軸に同軸に固定される従動プーリ24と、駆動プーリ22および従動プーリ24間にわたって巻き掛けられて張架されるタイミングベルト25とを有する。
【0046】
ステッピングモータ21は、前記制御装置10によって回転動作が制御され、その回動トルクは駆動プーリ22からタイミングベルト25を経て、従動プーリ24に伝達され、引張用フリクションドラム23が矢印で示す巻取方向に回転駆動される。この引張用フリクションドラム23上には、前記巻取リール3が巻回された糸の外周部を接触させた状態で水平な回転軸線まわりに回転自在に設けられ、引張用フリクションドラム23の回転に従動して、マーキングされた糸を巻き取るように構成される。前記制御装置10は、巻取リール3の最外周径が変化しても、被加工糸9の移動速度および巻取量が一定になるように、ステッピングモータ21を連続または間欠で動作させる。このステッピングモータ21は、引き出し方向に20μmで間欠動作させることができる。
【0047】
前記レーザ光照射装置5は、最大パルス発振出力10W(平均出力8W)で、レーザ照射パワーを0〜100%、パルス幅を2μm〜200μm、繰り返し周波数を5kHz〜50kHz、走査速度1mm/sec〜2000mm/secの範囲で制御装置10から設定可能なスキャニング式LD励起Nd−YAGレーザマーキング装置によって実現される。
【0048】
また前記制御装置10は、パーソナルコンピュータによって実現され、オペレータがディスプレイ装置に表示された設定用画像を見ながら、糸案内板4の案内溝12に嵌まり込んだ被加工糸9に対するレーザ光照射領域を設定し、そのレーザ光照射領域内で前記被加工糸9の直径よりも小さいスポット径、レーザ照射パワー、パルス幅、繰り返し周波数、走査速度などの照射条件を、キーボードおよびマウスなどの入力装置を用いて入力して、設定することができるように構成されている。
【0049】
図2は、レーザ光照射装置5のレーザ光照射ヘッド11の具体的構成を示す分解斜視図である。前記レーザ光照射ヘッド11は、反射ミラー30、レーザロッド31、励起ランプ32、Qスイッチ33、シャッタ34、出力ミラー35、ビームエキスパンダ36、ガルバノスキャナ37、集光レンズ40およびND(Neutral Density)フィルタ38を含む。
【0050】
レーザロッド31は、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)の母体結晶にネオジウムイオンND3+を活性物質として混入したNd−YAGレーザ媒質であって、励起ランプ32の励起光によって励起準位に励起されるとレーザ光が連続発振され、設定されたQ値に応じてQスイッチ33が開くと、パルス幅の短い尖頭値の大きなレーザ光をパルスとして発振する。
【0051】
出力ミラー35は、シャッタ35を介して発振されたレーザ光から特定波長の光だけが分波して取り出し、ビームエキスパンダ36によって、ビーム径を大きくして広がり角の小さい、回折損失が抑制されたレーザビーム光に修正され、制御装置10からの走査信号に応答して、ガルバノスキャナ37の2枚の反射ミラー39a,39bの時系列的な角度変化によって、レーザビーム光を偏向する。こうして偏向しながら出力されるレーザ光は、集光レンズ40によって所定のスポット径(本実施の形態ではφ=12μm)に集光され、ND(Neutral Density)フィルタ38によって、被加工糸9のマーキングに適した光強度に減衰されて、制御装置10に設定したレーザ光照射領域S内で、被加工糸9に照射される。
【0052】
図3は、糸案内板4の拡大断面図である。前記被加工糸9を保持する糸案内板4は、被加工糸9に対する滑り性が良好な合成樹脂、たとえばジュラコンからなり、形状については、1本の被加工糸9を保持する場合の一例として、厚みT=5mm、被加工糸9に張架方向に平行なX軸方向に沿う長さA=5mm〜115mm、X軸方向に水平面上で垂直なY軸方向に沿う長さB=15mm〜115mm(図2参照)の板状体によって実現される。本実施の形態では、1本の被加工糸9を保持する糸案内板4であり、Y軸方向中央部に、上方(図3の上方)に臨んで開放するV字状の案内溝12が、X軸方向全長にわたって一直線状に形成される。
【0053】
前記案内溝12は、上面41から垂直な方向(=Z軸方向)に深さDを有し、この深さDは、D=約140μmに選ばれる。また案内溝12を規定する2つの内面42a,42bが成す角度θは、被加工糸9の直径、断面形状、上面41からの突出量などに応じて、θ=60°〜90°の範囲から決定される。これらの内面42a,42bは、被加工糸9を2つの支持位置43a,43bにおいて安定に支持する。各内面42a,42bの交点44は、図3の紙面に垂直なY軸方向に一直線に延びる。
【0054】
このような案内溝12は、前記レーザ光照射装置5を用いたレーザ光の照射による食刻によって形成される。なお、案内溝12の両側で上面41から突出する部分45a,45bは、レーザ光の照射によって発生したバリである。
【0055】
図4は、糸案内板4の表面粗さを確認するための表面粗さ測定結果を示すグラフであり、図5は糸案内溝12に被加工糸9が支持された状態の表面粗さの測定結果を示すグラフである。前述のように、レーザ光照射装置5によるレーザ照射によって案内溝12が形成された糸案内板4の表面を、表面粗さ測定機(テーラーホブソン株式会社製 Form Talysurf S4C)して測定したところ、各内面42a,42bは左右対称に高精度で形成されていることが確認された。また、被加工糸9を案内溝12に装着した状態では、図5に示されるように、各内面42a,42bのほぼ同一高さで被加工糸9が支持されており、これによって各内面42a,42bが高精度で左右対称に形成されていることが確認された。
【0056】
このような糸案内板4は接地されており、被加工糸9の摺動などによって発生した静電気を除去して、円滑に被加工糸9が案内溝12を摺動して案内することができるとともに、レーザ光の照射による被加工糸9の蒸散物の再付着を防止し、マーキング品位の低下を防止している。
【0057】
前記静電気の除去対策としては、前述の糸案内板4の接地に限るものではなく、レーザマーキング装置1が設置される作業空間の空気をブロアなどを備える静電気除去装置によって除電してもよく、被加工糸9だけを接地して除電してもよく、あるいは、これらを選択的に組合せてもよい。
【0058】
図6は、糸案内板4の案内溝12に被加工糸9が装着された状態を示す斜視図である。被加工糸9を構成する繊維としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維および無機繊維などを用いることができる。合成繊維は、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン、アクリル、ポリビニルアルコールおよびポリウレタンなどが挙げられる。また半合成繊維としては、アセテート、トリアセテートおよびプロミックスなどが挙げられる。さらに無機繊維としては、炭素繊維、セラミック繊維およびガラス繊維などが挙げられる。
【0059】
上記人造繊維においては、合成繊維が好ましく、この合成繊維の中でもポリエステルがより好ましい。ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートおよびポリテトラメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0060】
人造繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのプラスチックフィルムをスリットして得られるスリットヤーンを含む。このスリットヤーンは、幅が0.1mm〜0.8mm程度が選ばれ、好ましくは0.15mm〜0.37mmに選ばれる。またこのスリットヤーンの厚みは、20μm程度のものが用いられ、好ましくは2μm〜12μmのものが選ばれる。このような人造繊維は、繊維をそのまま単独で用いてもよく、混紡されたものであってもよく、交撚されたものであってもよく、さらには合撚されたものであってもよい。
【0061】
また上記の人造繊維は、芯鞘構造であってもよい。芯鞘構造に人造繊維は、例えば芯にスリットヤーンを用い、その周りに他の繊維である紡績糸またはフィラメント糸を巻回したものであってもよく、内部が芯鞘構造のモノフィラメント糸であってもよい。
【0062】
レーザ光によって変色する充填剤としては、雲母、硫酸バリウム(BaSO)、硫化亜鉛(ZnS)、三酸化二アンチモン(Sb)、燐酸銅(Cu(PO)トコフェノールおよびリトポンなどが挙げられる。これらの1種または複数種を混合して用いられる。これらの中では、硫酸バリウムおよび三酸化二アンチモンが好ましい。トコフェノール(ビタミンE)には、α−トコフェノールおよびβ−トコフェノールが含まれる。
【0063】
雲母としては、天然雲母の粒子を含有するグリマ−顔料を用いることができる。充填剤は粒子であることが好ましい。平均粒径は15μm程度以下でかつ1μm以上に選ばれる。この粒径は、例えばレーザ回折法によって測定することができる。
【0064】
レーザ光によって全体が変色したように見える充填剤混合物は、レーザ光によって変色する充填剤と白色顔料と混合物、または白色充填剤と黒色顔料との混合物を用いることができる。
【0065】
レーザ光によって変色する充填剤のうち、雲母、硫化亜鉛(ZnS)、三酸化二アンチモン(Sb)およびトコフェノールは、白色から黒色に変色する。
【0066】
これらの充填剤は、繊維中で白色ベースとして働く白色顔料との組み合わせて用いられ、充填剤に白色顔料を混合した混合物は、白色から黒色に変化させる場合に用いられる。
【0067】
白色顔料としては、炭酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛などを用いることができ、これら1種または複数種の組み合わせが可能である。白色顔料の平均粒径は、10nm〜3μmに選ばれ、好ましくは10nm〜1μmに選ばれる。白色顔料の使用量は、レーザ光によって変色する充填剤に対して、5〜90重量%、好ましくは10〜70重量%に選ばれる。レーザ光によって変色する充填剤が白色である場合、この白色の充填剤は、繊維中で黒色ベースとして働く黒色顔料と組み合わせて使用される。白色の充填剤と黒色の顔料との混合物は、黒色顔料の相分離および気泡の発生などによって、全体が黒色から白色に変色する。白色充填剤には、雲母、硫酸バリウムなどの1種または複数種を組み合わせて含有され、好ましくは硫酸バリウムが用いられる。
【0068】
黒色顔料としては、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラックおよび黒色酸化鉄などが用いられる。カーボンブラックは、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックおよびケッチェンブラックなどが挙げられる。このような黒色顔料のうち、分散性、コスト面からカーボンブラックが好ましい。黒色顔料は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。なお、カーボンブラックは、原料の相違によって、アセチレンブラック、オイルブラック、ガスブラックなどに分類されるが、素材に応じて最適なものが用いられる。
【0069】
黒色顔料の平均粒径は、10nm〜3μmに選ばれ、好ましくは10nm〜1μmに選ばれる。カーボンブラックの場合は、10nm〜30nmが好ましい。また黒色顔料の使用量は、白色充填剤に対して0.1〜80重量%に選ばれ、好ましくは10〜50重量%に選ばれる。
【0070】
被加工糸9に含まれる充填剤の量は、糸の全重量に対して0.01〜10重量%に選ばれ、好ましくは0.3〜3重量%に選ばれ、さらに好ましくは0.6〜1.2重量%に選ばれる。
【0071】
使用可能なレーザとしては、前記YAGレーザの他に、エキシマレーザ、COガスレーザが挙げられる。レーザ波長は、充填剤が変色する波長として、Nd・YAGレーザであれば、354nm、532nm、1064nmのいずれかを採用することができる。
【0072】
充填剤が白色充填剤と黒色顔料との混合物である場合、黒色顔料が相分離などが生じ、白色充填剤が繊維または繊維製品の表面に顕在化し、その結果、レーザ光を照射した部分だけ繊維または繊維製品を黒色から白色に変色させることができる。
【0073】
前述の「相分離」とは、高分子と溶媒の2成分系における相平衡は、高分子の温度を上げていくと、熱力学的に不安定化し、内部に濃度の揺らぎが発生し、外見上、曇りが生じるため、この点を曇り点と呼ぶが、曇り点を通過して温度を上げると、ある点で相分離が生じ、高分子希薄相と高分子濃厚相とに分離する。高分子濃度が臨界点における高分子濃度よりも低いと、高分子濃厚相の体積比が高分子希薄相の体積比よりも小さくなるが、逆であれば、体積比は逆転する。発色のメカニズムは解明されていないが、熱溶融によって分子間結合力が低い状態の表層の照射領域で、顔料による高い熱吸収によって局部的に高温に曝され、この熱によって照射領域内の表層に存在している顔料およびその周囲の分子が相分離を伴いながら溶融および熱分解した状態となり、照射終了後に冷却されることによって凝固すると推定される。これを外見上、照射領域だけがその周囲に比べて変色しているため、発色したものとして、所定の文字・図柄を発現させることによってマーキングを実現している。
【0074】
具体的に述べると、プラスチック表面にレーザ光を照射し、エネルギを変化させると、レーザの熱エネルギによってプラスチック表面が燃焼、炭化が相応して発生する。この炭化の度合いによってコントラストが変化する。カーボンブラックはエネルギ吸収率が高い添加剤である。この場合、被加工糸9のベース基材と文字形成とは組成変化していない。
【0075】
またレーザ発振をパルス化する利点は、パルスオフによる適度な冷却効果と被加工物への入熱過多の防止を図ることができるとともに、レーザ照射部位の周辺への熱影響も低減できるためである。また、前述のように微小スポット径の短パルス照射では、被加工糸9への入熱量がわずかであり、照射時間が短いために、熱伝導範囲が狭く、隆起部の発生も少ない。
【0076】
本実施の形態では、同じ場所にレーザ光が照射される回数が多くなると、熱溶融によって発生するドロスが冷却されて再凝固し成長してバリが発生するため、パルス周波数は高くして溶融よりも蒸散させることが好ましい。
【0077】
なお、レーザ光照射装置5は、前述のYAGレーザに限るものではなく、YVO4(イットリウム・バナデート結晶)をレーザ媒体として用いるものであってもよい。このYVO4レーザを用いた場合には、YAGレーザに比べてさらなる微細化・高精細化を図ることができる。
【0078】
本件発明者は、最適なレーザ光照射条件を確認するため、照射パワーP(W)、パルス幅Wd(μsec)、繰り返し周波数F(kHz)および走査速度V(mm/sec)について実験を行った。この実験では目視による文字判読の可否によるマーキング状態と照射パワーP(W)との関係を検討する。
【0079】
実験条件について述べると、実験に使用したレーザ光照射装置5は、前述したように、YAGレーザであり、照射条件を、装置の平均出力P0=0〜100%、パルス幅Wd=2μsec〜200μsec、繰り返し周波数F=5kHz〜50kHz、走査速度V=1〜2000mm/secの範囲で設定可能なYAGレーザ照射装置を用いた。材料は、直径0.1mmの黒いポリエステル製のモノフィラメントを使用し、スポット径φは12μmとし、レーザ光の照射条件を変えて被加工糸上に幅60μmのマーキングを行い、その書き込み状態を目視で確認した。
【0080】
まず、照射パワーPの違いによるマイクロ文字への影響を確認するため、パルス幅Wdを2μsec、繰り返し周波数Fを5kHz、走査速度Vを75mm/secに仮定値として設定し、照射パワーPを8.0W、7.2W、6,4W、5.6W、4.8W、4.0W、3.2Wにそれぞれに変化させ、10%透過フィルタ2枚を透過させてレーザ照射し、文字判読の良否を目視によって確認した。その結果を表1に示す。なお、表1において、エネルギ密度Eは、10%透過フィルタ2枚を透過させたレーザ光の1cmあたりのエネルギの値である。
【0081】
【表1】

【0082】
このような実験によって、目視で比較的明瞭にマーキング文字が認識できるのは、照射パワーPが7.2W、6.4W、5.6W、4.8W、4.0W、3.2Wの場合である。これによって良好にマーキングすることができる照射パワーPは3.6W以上でかつ7.2W以下であることを確認した。
【0083】
次に、パルス幅Wdの違いによるマイクロ文字への影響を確認するために、上記の表1のうちでマーキングが良好であった照射パワーPのうちの1つであるP=5.6Wを固定値として設定し、繰り返し周波数Fを5kHz、走査速度Vを75mm/secを仮定値として設定し、パルス幅Wdを2μsec、50μsec、100μsec、150μsec、200μsecにそれぞれ変化させて、文字判読が良好なパルス幅Wdを確認した。その結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
このようなパルス幅Wdをパラメータとした実験によって目視で綺麗にマーキングされたと確認できたのは、パルス幅Wdが2μsec、50μsec、100μsecの場合であった。これによって良好にマーキングすることができる照射部位へのレーザ光のパルス幅Wdは、2μsec以上でかつ100μsec以下であることを確認した。
【0086】
繰り返し周波数Fの違いによるマイクロ文字への影響を確認するために、前述の表2において文字判読が良好であった照射条件のうちの1つである照射パワーP=5.6Wおよびパルス幅Wd=2μsecを固定値として設定し、繰り返し周波数Fを変化させて、文字判読が良好な繰り返し周波数Fを確認した。その結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
このような繰り返し周波数Fをパラメータとした実験によって目視で綺麗にマーキングされたと確認できたのは、繰り返し周波数Fが5kHz、15kHzの場合であり、下限は確認不可能であった。これによって良好にマーキングすることができる照射部位へのレーザ光の繰り返し周波数Fは、5kHz以上でかつ15kHz以下であることを確認した。
【0089】
最後に、前述の照射パワーP、パルス幅Wdおよび繰り返し周波数Fに関する実験結果を踏まえて、走査速度Vの違いによるマイクロ文字への影響を確認するために、文字判読が良好であった照射条件のうちの1つである照射パワーP=5.6W、パルス幅Wd=2μsecおよび繰り返し周波数F=5kHzを固定値として設定し、走査速度Vを5mm/sec、50mm/sec、75mm/sec、100mm/sec、150mm/sec、200mm/sec、300mm/sec、500mm/secにそれぞれ変化させて、文字判読が良好な走査速度Vを確認した。その結果を表4に示す。
【0090】
【表4】

【0091】
このような走査速度Vをパラメータとした実験によって目視で綺麗にマーキングされたと確認できたのは、走査速度Vが25mm/sec、50mm/sec、75mm/sec、100mm/sec、150mm/sec、200mm/secの場合であり、これによって良好にマーキングすることができる照射部位へのレーザ光の走査速度Vは、25mm/sec以上でかつ200mm/sec以下であることを確認した。
【0092】
以上のように本実施の形態によれば、被加工糸9に照射されるレーザ光は、そのスポット径が被加工糸9の直径よりも小さい予め定めるスポット径、たとえば直径が約100μmの被加工糸9であれば12μmに集光されるので、幅60μm程度の微小領域に微細なマーキングパターンを明確に形成することができる。
【0093】
前記レーザ光のスポット径を被加工糸9の直径よりも小さくなるように集光するにあたっては、レーザ光源から発振されたレーザビーム光を、集光レンズ40によって集光すればよく、レーザ光の照射面での照射パワーPは、被加工糸9の材質および表面性状に応じて適宜、調整することによって、最適な発色状態または変色状態でマーキングパターンを明瞭に形成することができる。
【0094】
前述の表1〜表4のような照射パワーP、パルス幅Wd、繰り返し周波数Fおよび走査速度Vの各照射条件に関するデータは、被加工糸9の材質、直径、顔料などのマーキング対象の諸元とともに、コンピュータの学習機能などを利用してサンプリングデータとして蓄積し、それをデータベース化する。これによって、コンピュータの入力手段によって入力した被加工糸9の諸元に対して、最適なレーザ光照射条件を前記データベースから抽出し、その値がレーザ光照射装置5の制御装置10にレーザ光照射条件として設定されるコンピュータプログラムとして実現されてもよい。
【0095】
また、前述の実施の形態では、レーザ照射条件の決定は、照射パワーP、パルス幅Wd、繰り返し周波数Fおよび走査速度Vをこの順序で決定するようにしたが、本発明はこれに限るものではなく、実験データが照射条件とマーキング結果との間の相関を確認し得る程度に蓄積された場合には、前記照射パワーP、パルス幅Wd、繰り返し周波数Fおよび走査速度Vに対して、被加工糸9の諸元のうちで材料の特性を最もよく表した量、たとえば熱吸収率に着目して重み付けした1つのパラメータとしてデータベース化し、前述のように制御装置10に抽出させ、その抽出した照射条件を設定するコンピュータプログラムとして実現されてもよい。
【0096】
また前記被加工糸9の位置決めは、コンピュータによって制御されるレーザ光照射装置5に前記レーザ光照射領域Sを予め設定しておき、このレーザ光照射領域Sが、被加工糸9の前記所定のマーキングパターンが形成されるべき被照射部位に一致するように、レーザ光照射領域Sまたは被加工糸9を正確に配置し、それらの位置関係が、少なくともレーザ光の照射期間中に変化しないように、被加工糸9を治具などによって保持することによって、達成される。
【0097】
1つのマーキングパターンの一部または全部が形成された被加工糸9は、前記レーザ光の走査速度Vに同期して、間欠的または連続的に移動させて、被加工糸9の次の領域にマーキングされる。間欠的に被加工糸9を移動させる場合には、1つのマーキングパターンが形成されるたびに被加工糸9を移動させてもよく、1つのマーキングパターンを形成する期間を複数に時分割してもよい。
【0098】
また連続的に被加工糸9を移動させる場合には、レーザ光照射装置5の走査速度Vに同期させて追従させることができる範囲で、被加工糸9を一定速度で移動させながら連続してレーザ光を照射してもよく、マーキングの進行速度に追従させて被加工糸9の送り速度を変化させて、変則的な移動速度で被加工糸9を移動させながらレーザ光を連続して照射してもよい。
【0099】
このように正確に位置決めされた被加工糸9に微小なスポット径でレーザ光をパルス照射で走査してマーキングするので、微小領域に微細なマーキングパターンを明確に、しかも連続して形成することができる。
【0100】
さらに供給リール2および巻取リール3間にわたって張架される被加工糸9には、供給リール2への供給側トルク付与手段6による回転トルクによって張力が与えられ、糸案内板4の案内溝12に緊張された状態で嵌まり込む。レーザ光照射装置5は、前記糸案内板4の案内溝12に緊張された状態で嵌まり込んだ被加工糸9に、レーザ光を照射する。このレーザ光照射装置5から被加工糸9に照射されるレーザ光は、集光レンズ40によって被加工糸9の直径よりも小さい予め定めるスポット径φに集光され、レーザ光照射領域S内で文字および図柄などの所定のマーキングパターンに沿って走査され、そのマーキングパターンが被加工糸9に形成される。
【0101】
前記マーキングパターンが形成された被加工糸9、すなわちマーキング糸は、巻取側回転付与手段7によって巻取方向に巻取回転量が付与された巻取リール3に一定の移動速度で巻き取られ、糸案内板4上で被加工糸9に対するレーザ光の照射位置がずれることなく、正確に、連続して、マーキングパターンが形成される。
【0102】
さらに本実施の形態によれば、糸案内板4よりも被加工糸9の移動方向上流側および下流側のうち少なくともいずれか一方には被加工糸9を糸案内板4の案内溝12よりも下方に案内するガイドリング8a,8bが設けられるので、被加工糸9の案内溝12からの抜け出しなどの不所望な被加工糸9の挙動が抑制され、案内溝12に沿って一定の移動速度で案内される被加工糸9に安定に、かつ確実にマーキングパターンが形成される。
【0103】
本発明の実施の他の形態では、図7に示されるように、複数の案内溝12が平行に形成される糸案内板4aを用いて、同時に複数の被加工糸9にマーキングを行なうようにしてもよい。
【0104】
本発明の実施のさらに他の形態では、図8に示されるように、被加工糸9に中心位置を示す数値「000」と、この中心位置から軸線に垂直な方向(=X軸方向)のずれ量を示す数値「0025」、「0050」、「0075」、「0100」を、各ずれ量に相当する位置に各数値を対応させてマーキングしてもよい。これによって、所望のマーキングパターンが被加工糸9に中心に対してどの程度ずれているかを、顕微鏡および拡大レンズなどを利用して確認することができる。
【0105】
図9は、本発明の実施のさらに他の形態の被加工糸のレーザマーキング方法が実施されるレーザマーキング装置1aを簡略化して示す側面図である。前述の図1〜図8に示される実施の形態と対応する部分には同一の参照符を付し、重複を避けて説明は省略する。本実施の形態のマーキング装置1aは、供給リール2、巻取リール3、案内部材である糸案内板4、レーザ光照射手段であるレーザ光照射装置5、供給側トルク付与手段6、巻取側回転付与手段7、および押さえ手段である一対のガイドリング8a,8bを含み、さらに送り出しロール50、ニップロール51、ステッピングモータ52、ガイドリング8cおよび張力検出装置53を含む。
【0106】
供給リール2から繰り出された被加工糸9は、最も糸移動方向の上流側のガイドリング8cを挿通して、ニップロール51に巻回され、このニップロール51に外周面が被加工糸9に対して適度の摩擦が発生するように粗面状に外周面が表面処理された送り出しロール50を当接させて、前記ニップロール51と送り出しロール50とによって挟着される。前記ニップロール51は、被加工糸9の滑りを防止し得る最適な硬度の表面層を有する。
【0107】
送り出しロール50と前記ガイドリング8cとの間には、前記張力検出装置53が設けられる。この張力検出装置53は、ガイドリング8cと送り出しロール50とを最短距離で結ぶ仮想一平面よりも一方側(図9の左側)に突出し、前記仮想一平面に垂直な方向に変位自在な検出ロール55を有する。この検出ロール55は、前記一方側から巻き掛けられた被加工糸9の張力変化によって直線変位し、その検出ロール変位量に対応する張力検出信号を出力する。
【0108】
張力検出装置53からの張力検出信号は、前記制御装置10に入力され、制御装置10は入力した張力検出信号に応答して、ステッピングモータ52の回転速度を制御する。ステッピングモータ52は、その出力軸に駆動プーリ56が固定され、また送り出しローラ50には同軸に従動プーリ57が固定され、これらの駆動プーリ56および従動プーリ57には無端状のタイミングベルト58が巻き掛けられて張架される。したがって、ステッピングモータ56の出力軸の回転は、駆動プーリ、タイミングベルト、駆動プーリを介して、前記送り出しローラに伝達され、制御装置10からに前記張力検出信号に基づく回転速度で送り出しローラの送り出し速度が制御される。このような送り出しローラの送り出し動作は、制御装置10によって、間欠引き出し時の送り出し量20μmの精度で制御され、この送り出し制御量に応じて、前記巻取リールの回転トルクが制御される。
【0109】
このようなレーザマーキング装置1によれば、20μmという高精度で被加工糸9の送り出し量が制御されるので、レーザ光照射装置の照射位置のずれが極めて小さく、高精度でマーキングパターンを被加工糸に形成することができる。
【0110】
以上の実施の各形態では、被加工糸であるモノフィラメントへのレーザ光照射によって、マーキングパターンを母材に対して可視光の波長帯域での発色または変色によって発現させる手法について述べたが、本発明の実施の他の形態では、被加工糸のレーザ光照射による発色または変色は、可視光帯域の光に限るものではなく、赤外線帯域などの他の波長帯域における発色および変色であってもよい。この場合には、電荷結合素子(Charge Coupled Device;略称CCD)を用いた赤外線用撮像装置によってレーザマーキングされた糸を撮像し、その画像を表示装置によって表示させ、あるいは印刷して、表記された内容を容易に確認することができ、ブランド商品などの模倣の抑制および防止を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の実施の一形態の被加工糸のレーザマーキング方法が実施される被加工糸のレーザマーキング装置1の構成を簡素化して示す側面図である。
【図2】レーザ光照射装置5のレーザ光照射ヘッド11の具体的構成を示す分解斜視図である。
【図3】糸案内板4の拡大断面図である。
【図4】糸案内板4の表面粗さを確認するための表面粗さ測定結果を示すグラフである。
【図5】糸案内溝12に被加工糸9が支持された状態の表面粗さの測定結果を示すグラフである。
【図6】糸案内板4の案内溝12に被加工糸9が装着された状態を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の他の形態の糸案内板4aを示す斜視図である。
【図8】中心位置を示す数値および中心位置から軸線に垂直な方向(=X軸方向)のずれ量を示す数値がマーキングされた被加工糸9の一部を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施のさらに他の形態の被加工糸のレーザマーキング装置1aを簡略化して示す側面図である。
【符号の説明】
【0112】
1,1a レーザマーキング装置
2 供給リール
3 巻取リール
4 糸案内板
5 レーザ光照射装置
6 供給側トルク付与手段
7 巻取側回転付与手段
8a,8b ガイドリング
9 被加工糸
10 制御装置
11 レーザ光照射ヘッド
12 案内溝
15 トルクモータ
16,21 駆動プーリ
17 リール軸
18,24 従動プーリ
19,25 ベルト
21 ステッピングモータ
23 引張用フリクションドラム
30 反射ミラー
31 レーザロッド
32 励起ランプ
33 Qスイッチ
34 シャッタ
35 出力ミラー
36 ビームエキスパンダ
37 ガルバノスキャナ
38 NDフィルタ
40 集光レンズ
41 上面
42a,42b 内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張した状態で張架される被加工糸を、その被加工糸の直径よりも小さい幅および予め定める長さのレーザ光照射領域に位置決めして配置し、
前記レーザ光照射領域に配置された被加工糸に、この被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径に集光されたレーザ光を、パルスで照射しながら走査して、所定のマーキングパターンを形成し、
マーキングパターンが形成された被加工糸を、前記レーザ光の走査速度に同期して、間欠的または連続的に移動させて、前記被加工糸にマーキングすることを特徴とする被加工糸のレーザマーキング方法。
【請求項2】
前記被加工糸の位置決めは、その被加工糸にレーザマーキングを行うために予め設定された照射条件のレーザ光を、合成樹脂からなる案内部材に照射して形成された一直線状の案内溝に嵌合させることによって実現されることを特徴とする請求項1記載の被加工糸のレーザマーキング方法。
【請求項3】
前記予め設定された照射条件は、所定の材質および直径の被加工糸に対して、レーザ光のレーザ光照射領域の幅およびスポット径を決定した後、少なくともレーザ光の照射パワー、繰り返し周波数、パルス幅および走査速度を、個別に変化させながら判読可能な値を抽出して、順次的に設定されることを特徴とする請求項2記載の被加工糸のレーザマーキング方法。
【請求項4】
前記案内部材および被加工糸のうち少なくともいずれか一方は、除電されていることを特徴とする請求項2または3記載の被加工糸のレーザマーキング方法。
【請求項5】
被加工糸が巻回される供給リールと、
被加工糸に所定のマーキングパターンが形成された被加工糸を巻き取る巻取リールと、
供給リールおよび巻取リール間にわたって張架される被加工糸が嵌まり込みかつ被加工糸の張架方向に沿って一直線状に延びる案内溝が形成される案内部材と、
前記案内部材によって前記案内溝に嵌まり込んだ状態で配置される被加工糸に、前記レーザ光照射領域内で前記被加工糸の直径よりも小さい予め定めるスポット径に集光されたレーザ光を、パルスで照射しながら走査して、前記所定のマーキングパターンを被加工糸の直径よりも小さい幅および予め定める長さのレーザ光照射領域に形成するレーザ光照射手段と、
前記供給リールを、被加工糸に張力が発生する方向に回転トルクを付与する供給側トルク付与手段と、
前記巻取リールを、被加工糸の張力および移動速度が一定になるように回転を付与する巻取側回転付与手段とを含むことを特徴とする被加工糸のレーザマーキング装置。
【請求項6】
前記案内部材よりも被加工糸の移動方向上流側および下流側のうち少なくともいずれか一方に設けられ、被加工糸を案内部材の案内溝よりも下方に案内する押さえ手段を含むことを特徴とする請求項5記載の被加工糸のレーザマーキング装置。
【請求項7】
前記レーザ光照射手段には、所定の材質および直径の被加工糸に対して、レーザ光のレーザ光照射領域の幅およびスポット径を決定した後、少なくともレーザ光の照射パワー、繰り返し周波数、パルス幅および走査速度を、個別に変化させながら判読可能な値を抽出して、順次的に決定されたレーザ光照射条件が設定されていることを特徴とする請求項5または6記載の被加工糸のレーザマーキング装置。
【請求項8】
前記案内部材および被加工糸のうち少なくともいずれか一方は、除電されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載の被加工糸のレーザマーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−283216(P2006−283216A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102818(P2005−102818)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【出願人】(000110642)ナビタス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】