説明

被圧延材の張力調整装置及び張力調整方法

【課題】被圧延材に張力を掛けずに被圧延材のループ形状を形成することができる張力調整装置を提供する。
【解決手段】張力調整装置1は、一対の圧延スタンドを成す上流側圧延スタンド21と下流側圧延スタンド22との間に設けられている。張力調整装置1は、被圧延材Hを支持する上流側ループ支点ローラ11及び下流側ループ支点ローラ12と、被圧延材Hに当接して被圧延材Hを湾曲させてループ形状Rを形成するループ形成部13と、ループ形状Rの高さを検出するループ高さ検出センサ14と、被圧延材Hの先端の到達を検出する材料検出センサ15と、制御部18とを備えている。被圧延材Hが下流側圧延スタンド22へ送られ、材料検出センサ15は、被圧延材Hの先端の到達を検出すると材料検出信号を制御部18に送信する。制御部18は、材料検出信号を受信するとループ形成部13を駆動させて被圧延材Hに当接させ、被圧延材Hにループ形状Rを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧延材を連続的に圧延して棒線材を製造する際に用いる、複数の圧延スタンドから成る圧延設備における被圧延材の張力調整装置及び張力調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビレットを連続的に圧延して棒線材を製造するための圧延設備では、被圧延材搬送方向(圧延方向)の上流側から順に、「粗圧延機列及び仕上げ圧延機列」あるいは「粗圧延機列、中間圧延機列及び仕上げ圧延機列」が備えられており、これら各圧延機列は複数の圧延スタンド(圧延機)を有している。
被圧延材は、圧延方向に延ばされた状態で、同時に複数の圧延スタンドに亘って圧延される。この時、被圧延材には、各圧延スタンドの圧延ロールの回転数によって圧延方向に張力や圧縮力が掛かる。そして、圧延スタンド間の被圧延材に張力が掛かると、図4(a)に示すように被圧延材Hの断面は圧延ロールMの圧下方向に直交する方向の径が目標寸法よりも小さくなる。また、圧延ロールM間に形成された孔型Nへの被圧延材Hの充満度の低下により棒線材表面に割れ傷やシワ傷が発生する虞がある。反対に被圧延材に圧縮力が掛かると、図4(b)に示すように被圧延材Hの断面は圧延ロールMの圧下方向に直交する方向の径が目標寸法よりも大きくなる。
このために、圧延スタンド間に張力調整装置を設け、被圧延材にループ形状を形成することによって被圧延材に張力や圧縮力が掛からないようにしている。
【0003】
図5(a)は、従来の張力調整装置において、上流側圧延スタンドから送られた被圧延材の先端が下流側圧延スタンドの下流側圧延ロールに噛み込まれた状態を示し、図5(b)は、その後に被圧延材にループ形状が形成された状態を示す。
張力調整装置101は、一対の圧延スタンドを成す上流側圧延スタンド121と下流側圧延スタンド122との間に設けられている。張力調整装置101は、被圧延材Hを支持する上流側ループ支点ローラ111及び下流側ループ支点ローラ112と、上流側ループ支点ローラ111と下流側ループ支点ローラ112の間に設けられ被圧延材Hに当接して被圧延材Hを湾曲させてループ形状Rを形成するループ形成部113と、ループ形状Rの高さ(以下、ループ高さという)を検出するループ高さ検出センサ114と、ループ高さに基づいてループ高さが設定された基準高さになるように上流側圧延スタンド121が有する上流側圧延ロール121a及び/又は下流側圧延スタンド122が有する下流側圧延ロール122aの回転数を制御する制御部115とを備えている。
【0004】
被圧延材Hが上流側圧延スタンド121から下流側圧延スタンド122へ送られ、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール122aに噛み込まれると制御部115はループ形成部113を駆動させて被圧延材Hにループ形状Rを形成する。続いて、制御部115は、ループ高さ検出センサ114が検出したループ高さと予め設定された基準高さを比較し、ループ高さが基準高さよりも低い場合には、上流側圧延ロール121aの回転数を増加させるか下流側圧延ロール122aの回転数を減少させてループ高さを高くする。反対にループ高さが基準高さよりも高い場合には、上流側圧延ロール121aの回転数を減少させるか下流側圧延ロール122aの回転数を増加させてループ高さを低くする。このように、被圧延材Hにループ形状Rが形成されると、ループ形状Rによって張力や圧縮力が吸収されるので、被圧延材Hに張力や圧縮力が掛からない。
【0005】
しかしながら、このような張力調整装置101においても、被圧延材Hが上流側圧延スタンド121から送られて先端が下流側圧延ロール122aに噛み込まれた時点では、当然にループ形状Rが形成されていないので、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール122aに噛み込まれことによって、被圧延材Hに張力や圧縮力が発生する虞がある。更に、被圧延材Hが下流側圧延ロール122aに噛み込まれた後にループ形成部113を駆動させてループ形状Rを形成しようとすると、ループ形成部113が被圧延材Hに当接するので、被圧延材Hに余計な張力を発生させ、圧延された棒線材の寸法精度を悪化させる虞がある。また、被圧延材Hが下流側圧延ロール122aに噛み込んだ時点で発生する被圧延材Hの張力が大きい場合には、ループ形状Rを形成できない虞もある。
【0006】
また、張力調整装置には、特許文献1乃至3に示されるようなものが知られている。
特許文献1に記載された張力調整装置は、検出したループ高さからループ形状の長さを算出し、ループ形状の長さが基準長さになるように上流側圧延ロールと下流側圧延ロールの少なくとも一方の回転数を制御するものである。
特許文献2に記載された張力調整装置は、被圧延材の温度を検出し、ループ高さが基準高さになるように、温度によるループ高さの変動も考慮して下流側圧延ロールの回転数を制御するものである。
特許文献3に記載された張力調整装置は、下流側圧延ロールの出側で被圧延材の仕上がりゲージを検出し、ループ高さが基準高さになるように、下流側圧延ロールのローラギャップも考慮して上流側圧延ロールの回転数を制御するものである。
しかしながら、このような特許文献1乃至3に示される張力調整装置においても、上述したように被圧延材にループ形状を形成するときに被圧延材に張力が掛かり、圧延された棒線材の寸法精度が悪化するという問題は解消されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−5839号公報
【特許文献2】特開平11−254016号公報
【特許文献3】特開平1−309712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、被圧延材に張力を掛けずに被圧延材のループ形状を形成することができる張力調整装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、被圧延材を連続的に圧延して棒線材を製造する複数の圧延スタンドにおける一対の圧延スタンド間に設けられ、被圧延材を前記一対の圧延スタンドにおける上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとの間において支持する上流側ループ支点ローラ及び下流側ループ支点ローラと、前記上流側ループ支点ローラと下流側ループ支点ローラとの間に設けられ前記被圧延材に当接して該被圧延材を湾曲させてループ形状を形成するループ形成部と、前記ループ形状の高さを検出するループ高さ検出センサと、前記ループ形状の高さが設定された基準高さになるように、前記ループ高さ検出センサが検出したループ形状の高さに基づいて前記上流側圧延スタンドが有する上流側圧延ロール及び/又は前記下流側圧延スタンドが有する下流側圧延ロールとの回転数を制御する制御部とを備え、前記被圧延材に掛かる張力を調整する張力調整装置であって、前記下流側ループ支点ローラと下流側圧延ロールとの間に設けられ前記上流側圧延スタンドから前記下流側圧延スタンドに送られる前記被圧延材の先端の到達を検出し、材料検出信号を前記制御部に送信する材料検出センサを備え、前記制御部は、前記材料検出信号を受信すると前記ループ形成部を前記被圧延材に当接させ、該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれる以前に該被圧延材にループ形状を形成することを特徴とする張力調整装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、被圧延材の先端が下流側圧延ロールに噛み込まれる前に、制御部がループ形成部を被圧延材に当接させて被圧延材にループ形状を形成するので、被圧延材に張力を掛けずにループ形状を形成することができる。従って、ループ形状が形成されるので被圧延材の先端が下流側圧延ロールに噛み込まれたときも被圧延材に張力が掛からず、圧延された棒線材の寸法精度が悪化する虞が少ない。
【0011】
また、従来の張力調整装置においては、ループ形成部によってループ形状を形成した直後におけるループ高さが、設定されていた基準高さと一致することは少ない。通常は、ループ形状が形成されてからループ高さが基準高さになるように上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールの回転数を制御しなければならない。
この基準高さは、ループ形状が高くなりすぎて被圧延材が圧延設備のパスライン以外の箇所と接触して圧延設備が故障することや被圧延材にキズが生じること等を防ぐために定められたものであり圧延条件等によって任意に設定することができるが、ループ形状を形成した直後におけるループ高さが被圧延材の性状や圧延環境によって変動するので、基準高さとループ形状を形成した直後におけるループ高さとが一致することは少ない。
上述した本発明においても、基準高さが予め定められ、圧延状態に応じて基準高さを変えない場合には、ループ形成部によってループ形状を形成した直後におけるループ高さが、設定されていた基準高さと一致することは少なく、ループ高さが基準高さになるように上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールの回転数を制御しなければならない。
【0012】
しかしながら、ループ高さを基準高さにまで変化させるために上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールとの回転数を制御するには、ループ高さを変化させようとしている箇所に直近する上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールだけの回転数を変えればよいのでない。例えば直近する上流側圧延ロールの回転数を変える場合には、上流側にある全ての圧延スタンドの圧延ロールの回転数を連係させながら変えなければ上流側の各圧延スタンド間の被圧延材に張力や圧縮力が掛かることになるので、圧延条件が不安定になり棒線材の寸法精度が悪化する虞がある。このために、ループ高さを変化させることは、出来るだけ少なくすることが望ましい。
【0013】
そこで、好ましくは、前記制御部は、前記材料検出センサが前記被圧延材の先端の到達を検出してから該被圧延材の先端が前記下流側圧延スタンドの下流側圧延ロールに噛み込まれるまでの間において検出された前記ループ高さを前記基準高さとして設定する。
【0014】
斯かる好ましい構成によれば、材料検出センサが被圧延材の先端の到達を検出してから被圧延材の先端が下流側圧延ロールに噛み込まれるまでの間において検出されたループ高さが基準高さとして設定されるので、ループ形成部によってループ形状を形成した直後のループ高さを維持すればよく、ループ高さを変化させる必要が少なくなる。このことにより、ループ高さが基準高さになるように上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールの回転数を制御する必要がなくなり、圧延条件が安定するので、棒線材の寸法精度が悪化する虞が少なくなる。
【0015】
また、前記課題を解決するため、本発明は、被圧延材を連続的に圧延して棒線材を製造する複数の圧延スタンドにおける一対の圧延スタンド間において被圧延材を湾曲させてループ形状を形成し、前記ループ形状の高さが設定された基準高さになるように、ループ形状の高さに基づいて前記一対の圧延スタンドにおける上流側圧延スタンドが有する上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延スタンドが有する下流側圧延ロールの回転数を制御し、前記被圧延材に掛かる張力を調整する張力調整方法であって、前記被圧延材が前記上流側圧延スタンドから下流側圧延スタンドに送られてきたときに、該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれる以前に該被圧延材にループ形状を形成することを特徴とする張力調整方法を提供する。
【0016】
好ましくは、前記基準高さは、前記被圧延材のループ形状が形成されてから該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれるまでの間において検出された前記ループ形状の高さである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被圧延材の先端が下流側圧延ロールに噛み込まれる以前に、制御部がループ形成部を被圧延材に当接させて被圧延材にループ形状を形成するので、被圧延材に張力を掛けずにループ形状を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は、第1の実施形態に係る張力調整装置において、被圧延材の先端が下流側圧延ロールに送られたときの構成図であり、図1(b)は、同張力調整装置において、ループ形状が形成されたときの構成図である。
【図2】図2は、同張力調整装置がダウンルーパのときの構成図である。
【図3】図3(a)は、同張力調整装置におけるループ高さの推移図であり、図3(b)は、第2の実施形態における張力調整装置におけるループ高さの推移図である。
【図4】図4(a)(b)は、圧延ローラによって圧延されている被圧延材の状態図である。
【図5】図5(a)は、従来の張力調整装置において、被圧延材の先端が下流側圧延ロールに噛み込まれたときの構成図であり、図5(b)は、同張力調整装置において、ループ形状が形成されたときの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る張力調整装置について添付図面を適宜参照しつつ説明する。図1(a)は、上流側圧延スタンドから送られた被圧延材の先端が下流側圧延スタンドの下流側圧延ロールに送られた状態を示し、図1(b)は、その後に被圧延材にループ形状が形成された状態を示す。
張力調整装置1は、一対の圧延スタンドを成す上流側圧延スタンド21と下流側圧延スタンド22との間に設けられている。上流側圧延スタンド21は上流側圧延ロール21aを有し、下流側圧延スタンド22は下流側圧延ロール22aを有している。
張力調整装置1は、被圧延材Hを支持する上流側ループ支点ローラ11及び下流側ループ支点ローラ12と、上流側ループ支点ローラ11と下流側ループ支点ローラ12の間に設けられ被圧延材Hに当接して被圧延材Hを湾曲させてループ形状Rを形成するループ形成部13と、ループ高さを検出するループ高さ検出センサ14と、上流側圧延スタンド21から下流側圧延スタンド22へ送られてきた被圧延材Hの先端の到達を検出する材料検出センサ15と、被圧延材Hの先端を下流側圧延ロール22aの方向に案内するガイドローラ16と、被圧延材Hが垂れ下がらないように下から受ける溝形状のトラフ17と、ループ高さ検出センサ14や材料検出センサ15からの信号を受け、上流側圧延ロール21a、下流側圧延ロール22a及びループ形成部13等の動作を制御する制御部18とを備えている。
【0020】
上流側ループ支点ローラ11と下流側ループ支点ローラ12は、フリーローラであるが、被圧延材Hの送り速度に合わせて駆動するようにしてもよい。
ループ形成部13は、例えばフリーローラより成っており、制御部18からの駆動信号を受けるとバネによって被圧延材Hに当接するように構成されている。ループ形成部13は、フリーローラに限られず、被圧延材Hに傷を付けずに当接するものならば例えば布のように何でもよい。また、被圧延材Hへの当接は、バネによらずに、モータやエアーシリンダ等によって行ってもよい。
ループ高さ検出センサ14は、被圧延材Hのループ高さを検出し、高さのデータ信号を制御部18に送信する。ループ高さ検出センサ14としては、例えばHMPD(Hot Metal Position Detector)等が用いられる。
材料検出センサ15は、被圧延材Hの先端の到達を検出すると材料検出信号を制御部18に送信する。材料検出センサ15としては、例えばHMD(Hot Metal Detector)や、投受光器を備えた透過型や反射型の光センサ等が用いられ、また、接触式のセンサでもよい。
ガイドローラ16は、フリーローラであるが、被圧延材Hの送り速度に合わせて駆動するようにしてもよい。ガイドローラ16は、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aの方向に送られるように、必要な箇所に必要な数だけ設ければよいし、また被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aの方向に送られるならば無くてもよい。また、ガイドローラ16は、ローラに限らずに、被圧延材Hの先端を下流側圧延ロール22aの方向に案内するものならば例えば案内板のように何でもよい。
制御部18には、ループ高さの目標値となる基準高さが予め設定されている。
被圧延材Hは、例えば鋼材であるが、鋼材に限らずに塑性変形して棒線材に圧延される材料なら何でもよい。
【0021】
被圧延材Hが上流側圧延スタンド21から下流側圧延スタンド22へ送られ、材料検出センサ15は、被圧延材Hの先端の到達を検出すると材料検出信号を制御部18に送信する。制御部18は、材料検出信号を受信するとループ形成部13を駆動させて被圧延材Hに当接させ、被圧延材Hにループ形状Rを形成する。被圧延材Hは、引き続いて下流側圧延スタンド2に送られており、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれる。このとき、被圧延材Hがループ形状Rを形成していても被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに送られるように、ガイドローラ16が被圧延材Hの先端を下流側圧延ロール22aに案内する。
【0022】
被圧延材Hの先端が噛み込まれると、制御部18は、ループ高さ検出センサ14が検出したループ高さと予め定められた基準高さとを比較し、ループ高さが基準高さになるように上流側圧延ロール21a及び/又は下流側圧延ロール22aの回転数を制御する。この基準高さは、ループ高さが高くなりすぎて被圧延材Hが圧延設備のパスライン以外の箇所と接触して圧延設備が故障することや被圧延材Hにキズが生じること等を防ぐために定められたものであり圧延条件等に応じて任意に設定することができる
制御部18は、ループ高さが基準高さよりも低い場合には上流側圧延ロール21aの回転数を増加させることや下流側圧延ロール22aの回転数を減少させることによってループ高さを高くする。反対にループ高さが基準高さよりも高い場合には、制御部18は、上流側圧延ロール21aの回転数を減少させることや下流側圧延ロール22aの回転数を増加させることによってループ高さを低くする。
【0023】
このように、被圧延材Hにループ形状Rが形成されると、ループ形状Rによって張力や圧縮力が吸収されるので、被圧延材Hに張力や圧縮力が掛からない。
また、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれる前に、制御部18がループ形成部13を被圧延材Hに当接させて被圧延材Hにループ形状Rを形成するので、被圧延材Hに張力を掛けずにループ形状Rを形成することができる。従って、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれたときも、被圧延材Hに張力が掛からないので、圧延された棒線材の寸法精度が悪化する虞が少ない。
【0024】
本実施形態では、ループ形状を上向きに形成するアップルーパを例として説明したが、ループ形状を下向きに形成するダウンルーパでもよいし、また、圧延ロールの軸方向が鉛直方向に設けられている圧延スタンドでは、ループ形状を水平方向に形成するサイドルーパでもよい。ダウンルーパのときの構成図の例を図2に示す。図2における記号は図1(a)(b)と同じである。上流側ループ支点ローラ11と下流側ループ支点ローラ12とが被圧延材Hを下から支持し、ループ形成部13がループ形状Rを下方向に形成する。
【0025】
(変形例)
次に、第1の実施形態の変形例について説明する。第1の実施形態では、材料検出センサ15を用い、被圧延材Hの先端の到達を検出するとループ形状Rを形成するようにした。しかしながら、本変形例では、材料検出センサ15を用いずに、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれる以前にループ形状Rが形成する。例えば、制御部18は、被圧延材Hの先端が上流側圧延ロール21aから送り出されてからの所定時間後にループ形状Rを形成するようにし、被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれる以前にループ形状Rが形成されるようにしてもよい。ここで、被圧延材Hの先端が上流側圧延ロール21aから送り出されたことの検出は、例えば上流側圧延ロール21aに圧下力を検出するセンサを設け、圧下力の変動から検出すればよい。
【0026】
(第2の実施形態)
本実施形態に係る張力調整装置1は、第1の実施形態に係る張力調整装置1と基準高さの設定方法が異なる。
第1の実施形態においては、基準高さが予め定められているが、本実施形態では、材料検出センサ15が被圧延材Hの先端の到達を検出してから被圧延材Hの先端が下流側圧延ロール22aに噛み込まれるまでの間において、ループ高さ検出センサ14によって検出されたループ高さが基準高さとして設定される。具体的には、制御部18は、材料検出センサ15からの材料検出信号を受信し、ループ形成部13を駆動させて被圧延材Hに当接させた後において、ループ形成部13を駆動させた時点から所定時間経過したときのループ高さをループ高さ検出センサ14によって検出し、その時のループ高さを基準高さとして設定する。この基準高さを設定するための所定時間は、ループ形成部13を駆動させた時点からループ形状Rの形成が完了するまでに要する時間を設定する。
【0027】
第1の実施形態におけるループ高さの推移の例を図3(a)に示す。横軸は、経過時間を示し、時点T10は制御部18がループ形成部13を駆動させた時刻であり、時点T11はループ形状Rが形成された時刻であり、時点T12はループ高さが基準高さに到達した時刻である。縦軸は、ループ高さを示す。
第1の実施形態においては、ループ形成部13によってループ形状Rを形成した直後におけるループ高さが、予め設定されていた基準高さと一致することは少ない。通常は、ループ形状Rが形成されてから上流側圧延ロール21a及び/又は下流側圧延ロール22aの回転数を制御し、ループ高さを変化させてループ高さが基準高さと一致するようにしなければならず、時間を要する。
しかしながら、ループ高さを変化させるために上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールの回転数を制御するには、ループ高さを変化させようとしている箇所に直近する上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延ロールだけの回転数を変えればよいのでない。例えば直近する上流側圧延ロールの回転数を変える場合には、上流側にある全ての圧延スタンドの圧延ロールの回転数を連係させながら変えなければ上流側の各圧延スタンド間の被圧延材に張力や圧縮力が掛かることになるので、圧延条件が不安定になり、時間を要するほど棒線材の寸法精度が悪化する虞がある。従って、ループ高さを変化させることは、出来るだけ少なくすることが望ましい。
【0028】
図3(a)の例においては、ループ形状Rを形成した直後の時点T11におけるループ高さと予め定められていた基準高さとの差が約30mmあり、ループ高さが基準高さに到達する時点T12までに約25秒を要している。尚、ループ高さが基準高さに到達した後は、ループ高さは基準高さに維持されている。
【0029】
本実施形態におけるループ高さの推移の例を図3(b)に示す。横軸における時点T20は制御部18がループ形成部13を駆動させた時刻であり、時点T21はループ形状Rが形成された時刻である。本実施形態では、ループ形状Rを形成した直後の時点T21におけるループ高さが基準高さとされるので、ループ形状Rが形成された時のループ高さが維持されている。
このように、ループ形成部13によって形成されたループ高さが基準高さとされるので、基準高さに合わせるためにループ高さを変化させる必要がなくなり、圧延条件が安定する。これにより、寸法精度が悪化する虞が少なくなる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1・・・張力調整装置
11・・・上流側ループ支点ローラ
12・・・下流側ループ支点ローラ
13・・・ループ形成部
14・・・ループ高さ検出センサ
15・・・材料検出センサ
18・・・制御部
21・・・上流側圧延スタンド
21a・・・上流側圧延ロール
22・・・下流側圧延スタンド
22a・・・下流側圧延ロール
H・・・被圧延材H

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を連続的に圧延して棒線材を製造する複数の圧延スタンドにおける一対の圧延スタンド間に設けられ、被圧延材を前記一対の圧延スタンドにおける上流側圧延スタンドと下流側圧延スタンドとの間において支持する上流側ループ支点ローラ及び下流側ループ支点ローラと、前記上流側ループ支点ローラと下流側ループ支点ローラとの間に設けられ前記被圧延材に当接して該被圧延材を湾曲させてループ形状を形成するループ形成部と、前記ループ形状の高さを検出するループ高さ検出センサと、前記ループ形状の高さが設定された基準高さになるように、前記ループ高さ検出センサが検出したループ形状の高さに基づいて前記上流側圧延スタンドが有する上流側圧延ロール及び/又は前記下流側圧延スタンドが有する下流側圧延ロールの回転数を制御する制御部とを備え、前記被圧延材に掛かる張力を調整する張力調整装置であって、
前記下流側ループ支点ローラと下流側圧延ロールとの間に設けられ前記上流側圧延スタンドから前記下流側圧延スタンドに送られる前記被圧延材の先端の到達を検出し、材料検出信号を前記制御部に送信する材料検出センサを備え、
前記制御部は、前記材料検出信号を受信すると前記ループ形成部を前記被圧延材に当接させ、該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれる以前に該被圧延材にループ形状を形成することを特徴とする張力調整装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記材料検出センサが前記被圧延材の先端の到達を検出してから該被圧延材の先端が前記下流側圧延スタンドの下流側圧延ロールに噛み込まれるまでの間において検出された前記ループ形状の高さを前記基準高さとして設定することを特徴とする請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
被圧延材を連続的に圧延して棒線材を製造する複数の圧延スタンドにおける一対の圧延スタンド間において被圧延材を湾曲させてループ形状を形成し、前記ループ形状の高さが設定された基準高さになるように、ループ形状の高さに基づいて前記一対の圧延スタンドにおける上流側圧延スタンドが有する上流側圧延ロール及び/又は下流側圧延スタンドが有する下流側圧延ロールの回転数を制御し、前記被圧延材に掛かる張力を調整する張力調整方法であって、
前記被圧延材が前記上流側圧延スタンドから下流側圧延スタンドに送られてきたときに、該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれる以前に該被圧延材にループ形状を形成することを特徴とする張力調整方法。
【請求項4】
前記基準高さは、前記被圧延材のループ形状が形成されてから該被圧延材の先端が前記下流側圧延ロールに噛み込まれるまでの間において検出された前記ループ形状の高さであることを特徴とする請求項3に記載の張力調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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