説明

被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法

【課題】コントラストの悪い場合でも像とバックグラウンドを区別できる光音響画像形成診断装置を提供すること。
【解決手段】被検体内を伝搬した音響波を受信して電気信号に変換する音響検出器と、前記電気信号を用いて被検体情報分布を生成するデータ処理装置6と、を有する被検体情報取得装置であって、前記データ処理装置6は、実像とアーティファクトとの関係を示すテンプレートデータ9と、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と、の類似度を計算して類似度分布を取得するマッチング処理部10を具備することを特徴とする被検体情報取得装置によれば、コントラストの悪い場合でも像とバックグラウンドを区別できる光音響画像形成診断装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法に関する。特に光音響効果を利用した技術や、超音波エコーを利用した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エックス線、超音波を用いた被検体情報取得装置は、医療分野を中心に非破壊検査を必要とする多くの分野で使われている。医療分野における被検体情報取得装置については、生体の生理的情報(つまり機能情報)がガン等の疾患部位の発見に有効なことから、機能情報のイメージングの研究が近年行われている。機能情報を用いた診断方法の一つとして光イメージング技術の一つであるPhotoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)が提案されている。エックス線診断や超音波診断では生体内の形態情報しか得られないのに対し、光音響トモグラフィーでは非侵襲で形態、機能両方の情報を得られることが特徴である。
【0003】
光音響トモグラフィーとは、光源から発生したパルス光を被検体内に照射し、被検体内で伝搬・拡散した光を吸収した内部組織が光音響効果により発生する音響波(典型的には超音波)を検出することにより、音響波の発生源である内部組織の情報を画像化する技術である。受信された音響波の時間による変化を、被検体を取り囲む複数の個所で検出し、得られた信号を数学的に解析処理(再構成)することで、被検体内部の光学特性値に関連した情報を三次元で可視化することができる。この情報は被検体内部の形態情報として用いることができるほか、被検体内への光照射により生じた初期圧力発生分布からは、被検体内部の吸収係数分布などの光学特性値分布といった機能情報をも得ることができる。
【0004】
被検体内部に照射するパルス光としては、例えば近赤外光を用いることができる。近赤外光は生体の大部分を構成する水を透過しやすく、血液中のヘモグロビンで吸収されやすい性質を持つため、形態情報としての血管像をイメージングすることができる。さらに、近赤外光の照射により得られた吸収係数分布を用いることで血液中の全ヘモグロビンに対する酸化ヘモグロビンの含有率、つまり酸素飽和度を知ることができ、生体機能イメージングを行うこともできる。酸素飽和度分布は腫瘍の良悪性を見分ける指標になることから、悪性腫瘍の効率的発見手段として期待されている。
【0005】
酸素飽和度の算出は、波長の異なるパルス光を用いて複数回測定を行い、異なる波長のそれぞれについて算出された吸収係数同士の比率を計算する比較演算によって行われる。
これは、還元ヘモグロビンと酸化ヘモグロビンとでは光吸収スペクトルが異なるため、異なる波長で測定しスペクトルを比較することによって、それぞれの含有率が分かるという原理を用いている。
【0006】
これらのイメージングを行う場合に、比率を計算する比較演算をそのまま行うと血管像部とバックグラウンド部が区別できなくなるため、非特許文献1にあるように、血管像部とバックグラウンド部を区別し、血管像部だけを処理する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Xueding Wang, et al. “Noninvasive imaging of hemoglobin concentration and oxygenation in the rat brain using high−resolution photoacoustic tomography” Journal of Biomedical Optics 11(2), 024015(March/April 2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、血管像等の実像部とバックグラウンド部の区別には、吸収係数分布等の光学特性値分布のボクセル値に対して閾値を設け、閾値以上のボクセル値を持つボクセルを実像部と判定する閾値手法が用いられていた。しかし、実像部とバックグラウンド部のコントラストが弱い場合には、この方法ではうまく実像部とバックグラウンド部の区別ができないという課題があった。光学特性値分布においてコントラストが弱い場合、すなわちバックグラウンド部のノイズが大きく、ボクセル値がバックグラウンド部と実像部で同等かバックグラウンド部の方が大きい場合、ボクセル値に対して閾値を設定する閾値手法では、バックグラウンド部と実像部とを区別することはできなかった。このことは、閾値手法だけでなく、ボクセル値を利用してバックグラウンド部と実像部を区別する手法すべてに当てはまる課題である。特にコントラストは生体深部で悪化するため、生体深部で実像部とバックグラウンド部を区別することは難しかった。
【0009】
本発明は、このような課題認識に基づいてなされたものである。本発明の目的は、コントラストの悪い場合でも実像とバックグラウンドを区別できる被検体情報取得装置及び被検体情報取得方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明の被検体情報取得装置は、被検体内を伝搬した音響波を受信して電気信号に変換する音響検出器と、前記電気信号を用いて被検体情報分布を生成するデータ処理装置と、を有する被検体情報取得装置であって、前記データ処理装置は、実像とアーティファクトとの関係を示すテンプレートデータと、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と、の類似度を計算して類似度分布を取得するマッチング処理部を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コントラストが悪い場合でも実像とバックグラウンドとを区別できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図3】実像と負値のアーティファクトの関係、及び実像と背後のアーティファクトの関係を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る装置の構成を示す模式図である。
【図13】実施例1において、本発明及び従来の方法を実施したときの初期音圧分布である。
【図14】実施例2において、本発明及び従来の方法を実施したときの酸素飽和度分布である。
【図15】実施例3において、複数のテンプレートデータを用いた場合及び一つのテンプレートデータを用いた場合の初期音圧分布である。
【図16A】実施例4において、全帯域の信号を取得し従来の方法を実施したときの吸収係数分布である。
【図16B】実施例4において、一部帯域の信号を取得し従来の方法を実施したときの吸収係数分布である。
【図16C】実施例4において、全帯域の信号を取得し本発明を実施したときの吸収係数分布である。
【図16D】実施例4において、一部帯域の信号を取得し本発明を実施したときの吸収係数分布である。
【図17】元の検出信号と微分して反転した信号を示す模式図である。
【図18】全帯域を受信した信号と一部の帯域のみを受信した信号を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図面を用いて説明する。本発明において、音響波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、音響波、光音響波、光超音波と呼ばれる弾性波を含む。
音響波検出器は、被検体内で発生又は反射し、被検体内を伝搬した音響波を受信する。本発明の被検体情報取得装置とは、被検体に超音波を送信し、被検体内部で反射した反射波(反射した超音波)を受信して、被検体情報分布を画像データとして取得する超音波エコー技術を利用した装置や、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波(典型的には超音波)を受信して、被検体情報分布を画像データとして取得する光音響効果を利用した装置を含む。前者の超音波エコー技術を利用した装置の場合、取得される被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報である。後者の光音響効果を利用した装置の場合は、取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度情報分布を示す。物質の濃度情報分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。
【0014】
以下の実施形態においては、被検体内部に光を照射することにより被検体内部で励起する光音響波を音響波検出器で受信することにより一種類以上の被検体情報分布を形成するPhotoacoustic Tomography(PAT:光音響トモグラフィー)に基づく光音響装置について本発明を説明する。しかし、本発明はこれらの実施形態に限定されることはなく、テンプレートとの類似度を測定することにより、実像とアーティファクトとを区別することができる限り、いかなる被検体情報取得装置にも応用可能である。
【0015】
また、本発明は単一の装置のみに限定されるものではなく、例えば、以下の実施形態に説明される実像とアーティファクトとの区別方法、及びこの方法を実行するためのプログラムも本発明には包含される。実像とは、画像化した際に、被検体内の光吸収係数の大きな光吸収体が像として現れるものを示す。
【0016】
[基本的な実施形態]
本発明は、実像とアーティファクト(虚像)に一定の関係があることを利用して、像とバックグラウンドを区別するものである。これを実施する基本的な実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態は、光源1、光照射装置2、被検体3、音響検出器4、電気信号処理装置5、データ処理装置6、表示装置7から構成される。
【0017】
(光源)
光源1はパルス光を発生させる装置である。光源としては、大出力を得るためにはレーザーが望ましいが、発光ダイオードなどでもよい。光音響波を効果的に発生させるためには、被検体の熱特性に応じて十分短い時間だけ光を照射させなければならない。本実施形態において、被検体としては生体を想定しているため、光源1から発生するパルス光のパルス幅は数十ナノ秒以下にすることが望ましい。また、パルス光の波長は、生体の窓と呼ばれる500nm〜1200nm程度の近赤外領域であることが望ましい。この領域の光は比較的生体深部まで到達することができるため、深部の情報を得ることができる。さらに、パルス光の波長は観測対象に対して吸収係数が高いものであることが望ましい。
【0018】
(光照射装置)
光照射装置2は、光源1で発生させたパルス光を被検体3へ導く装置である。具体的には光ファイバーやレンズ、ミラー、拡散板などの光学機器が挙げられる。また、パルス光を導く際に、これらの光学機器を用いて、形状や光密度を変更することもできる。光学機器はここにあげたものには限定されず、このような機能を満たすものであれば、どのようなものであってもよい。
【0019】
(被検体)
被検体3は測定の対象となるものである。被検体として、生体又は、生体の音響特性と光学特性を模擬したファントムを用いることができる。音響特性とは具体的には音響波の伝搬速度及び減衰率であり、光学特性とは具体的には光の吸収係数及び散乱係数である。
被検体の内部には、光吸収係数の大きい光吸収体が存在する必要がある。光吸収体としては、具体的には生体の場合はヘモグロビン、水、メラニン、コラーゲン、脂質などが挙げられる。ファントムの場合は以上のものの光学特性を模擬した物質を光吸収体として内部に封入する。
【0020】
(音響検出器)
音響検出器4は、被検体に音響的に結合されており、光吸収体が照射されたパルス光のエネルギーの一部を吸収して励起する音響波を受信して電気信号(受信信号)に変換するものである。光音響トモグラフィーでは、複数の場所で音響波を捉えなければならないので、複数の音響検出素子を平面上に並べた2D型のものを用いることが望ましいが、音響検出素子を一列に並べた1D型のものや単一の音響検出素子を用いて、走査装置によって複数の場所に移動させて音響波を捉えてもよい。音響検出器としては感度が高くて周波数帯域が広いものが望ましく、具体的にはPZT、PVDF、cMUT、ファブリペロー干渉計を用いた音響検出器などが挙げられる。ただし、ここに挙げたものだけに限定されず、音響波を捉える機能を満たすものであれば、どのようなものであってもよい。
【0021】
(電気信号処理装置)
電気信号処理装置5は音響検出器4で得られたアナログの電気信号を増幅し、デジタル信号へと変換するものである。効率的にデータを取得するため、音響検出器の数と同じだけAnalog−digital Converter(ADC)があることが望ましいが、一つのADCを順々につなぎ換えて使用してもよい。
【0022】
(データ処理装置)
データ処理装置6は電気信号処理装置5によって得られたデジタル信号(デジタルの受信信号)を加工することによって、被検体情報分布を画像データとして取得するものである。本発明の特徴は、このデータ処理装置において行われる処理である。データ処理装置としては、具体的にはコンピュータ、電気回路などが挙げられる。
【0023】
(表示装置)
表示装置7はデータ処理装置6で生成された画像データを画像として表示するものである。具体的にはコンピュータやテレビなどのディスプレイが挙げられる。
【0024】
(データ処理装置の内部構成)
次にデータ処理装置6の内部構成について述べる。図2に示すように、データ処理装置6は画像再構成処理部8、テンプレートデータ9を保持するテンプレートデータ保持部、マッチング処理部10で構成される。画像再構成処理部8は各位置で得られたデジタル信号にフィルターを掛けて各位置から逆投影する処理を行うものであり、これによって音源の位置を示す初期音圧分布等の被検体情報分布をピクセルまたはボクセルデータとして取得する。テンプレートデータ9はあとで述べるように、実像とその実像の前後または背後のアーティファクトとの関係を示すテンプレートとなる初期音圧分布等の被検体情報分布である。マッチング処理部10はあとで述べるように、テンプレートデータと、初期音圧分布等の被検体情報分布と、の類似度を計算し、類似度分布を取得するものである。
【0025】
本発明の骨子となるテンプレートデータ9及びマッチング処理部10における処理の原理を述べる。画像再構成処理部8で行われる逆投影とは、ユニバーサルバックプロジェクションと呼ばれるものである。まず、検出器により検出された元の信号(図17(a))を微分し、正負を反転させる(図17(b))。このような処理を行うと、図17(b)に示すように、2つの負値が生じる。次に、この正負を反転させた値に比例させて、3次元空間において検出器位置を中心とした同心球を描く。この処理を複数の検出器について行い、これらのデータを重ね合わせることによってボクセルデータを生成し、最初の音源位置を知る。しかし、逆投影における重ね合わせによって本来は存在しない影であるアーティファクト(ゴーストとも呼ばれる)が現れることがある。
【0026】
音響検出器が球状に周りから被検体を囲むような配置となっている場合は、逆投影における重ね合わせでは本来の像以外の部分は完全にキャンセルされ実像だけが残るため、アーティファクトによる問題はほとんど生じることはない。しかし、検出器の配置が平面的であり、発生した音響波のうち一部の角度に伝搬する音響波のみしか受信できないときは、キャンセルが不完全となる。このため、図17(b)に示した負値に起因して、図3(a)に示したように音響検出器側から見て実像の前後に負値のアーティファクトが生成されることがある。
【0027】
一方で、音響検出器の応答特性によってもアーティファクトは発生しうる。音響検出器の周波数帯域に制限がない場合には、全帯域を受信できるため、図18(a)に示したような信号が取得できるが、一部の周波数帯域のみを受信する場合は、信号を完全に再現できず、音響検出器は周波数帯域に依存した応答を持つことになり、図18(b)に示したリンギングを含んだ信号を取得することになる。このリンギングは、逆投影したときに、アーティファクトとなる。具体的には、図3(b)に示したように、音響検出器側から見て、前後の負値のアーティファクトのさらに後(音響波検出器から見て遠い位置)に背後のアーティファクト(リンギングによるアーティファクトともいう)が現れる。
【0028】
このとき、実像の前後にある負値のアーティファクトは、それぞれ一つの信号の立下がりと立ち上がりに起因しているので、実像と負値のアーティファクトは近接した位置に生じることになる。また、実像と負値のアーティファクトの強度比、および実像と負値のアーティファクトの寸法比はほぼ同じになる。
【0029】
さらに、実像と背後のアーティファクトとの関係は以下の関係がある。すなわち、両者の距離は、信号とリンギングとの時間差で決まっており、これは音響検出器が同一であれば一定である。また、実像と背後のアーティファクトとの強度比は、信号とリンギングとの強度比で決まっている。このリンギングの強度は信号の周波数成分によって変わる。光音響効果による信号の周波数成分は光吸収体の大きさに依存するため、実像と背後のアーティファクトとの強度比は光吸収体の大きさに依存することになり、光吸収体の大きさが一定であれば強度比も一定となる。また、実像と背後のアーティファクトとの大きさの比(寸法比)も、信号とリンギングの波の幅で決まっている。光音響効果による信号の幅は、光吸収体の大きさに依存するため、実像と背後のアーティファクトとの寸法比は、光吸収体の大きさに依存することになり、光吸収体の大きさが一定であれば寸法比もほぼ一定となる。
【0030】
以上述べたように、ある像が被検体内の吸収係数差によって発生する光音響信号に起因する実像である場合、その像は、実像と一定の関係を有するアーティファクトを、実像の前後または背後に伴う。しかし、像がアーティファクトやノイズ起因である場合、その像に対して上記一定の関係を有するアーティファクトは存在しない。よって、音響検出器ごとに像と前後または背後のアーティファクトとの関係を調べることによって、その像が実像か否かを判定できる。特に、リンギングに起因した背後のアーティファクトがある場合は、実像の前後にある負値のアーティファクトだけを用いる場合に比べて、判定に用いるための情報が多いため、その像が実像か否かを高い精度で判定することができる。
【0031】
上述の原理を実施するための方法を、図1、2、4を用いて説明する。光源1でパルス光を発生させ光照射装置2によって非検体にパルス光を照射する(S1)。パルス光の照射により被検体3で発生した音響波を音響波検出器4と電気信号処理装置5によって取得する(S2)。得られた信号から画像再構成処理部8において画像再構成処理を行う(S3)。
【0032】
テンプレートデータ9は、測定に使用する音響検出器を設置する位置や音響検出器の周波数帯域特性等の応答特性を考慮して初期音圧分布などの受信信号から得られた、実像とその実像の前後または背後のアーティファクトとの関係を示すデータである。この実像とアーティファクトとの関係とは、被検体からの音響波信号を受信することにより得られた被検体情報分布のうち、実像とそのアーティファクトとの間の距離と、実像とアーティファクトとの強度比と、実像とアーティファクトとの寸法比と、のうち少なくとも一つを意味する。テンプレートデータとしては、実像とアーティファクトとの距離及び強度比及び寸法比の全てを含んだデータであると好ましいが、本発明は上述した3つ(距離及び強度比及び寸法比)のうち少なくとも1つの関係を示すテンプレートデータを用いることで実施することができる。被検体情報分布としては、本実施形態では初期音圧分布を用いるが、後述の実施形態のように吸収係数分布等の光学特性分布を用いてもよい。また、音響検出器の応答特性とは、実像とそのアーティファクトとの関係に影響を与える可能性のある、各音響検出器が固有に持つ特性を意味し、周波数帯域特性以外にも、検出面の大きさ等が挙げられる。本発明において、被検体情報分布のうち、マッチング処理に用いる分布をマッチング用情報分布、抽出処理に用いる分布を抽出用情報分布という。後述の各実施形態で説明するように、マッチング用情報分布及び抽出用情報分布としては同一の種類の検体内情報分布を用いてもよいし、別の種類の検体内情報分布を用いてもよい。それぞれに用いる被検体情報分布の種類は測定の目的によって適宜選択することが可能である。
【0033】
テンプレートデータは音響検出器の周波数帯域特性を考慮したシミュレーションによって球状の光吸収体の測定をシミュレートして作成することが望ましいが、シミュレートに用いる光吸収体の形状は球以外でもよく、また、テンプレートデータは実測によって作成してもよい。計測によって得られたある像とそのアーティファクトと考えられる像とを含むデータがこのテンプレートデータと類似していれば、その像とそのアーティファクトと考えられる像との関係は実像と実像のアーティファクトとの場合と近いということを示しており、そのデータは実像を表している可能性が高いと言える。マッチング処理部10では、テンプレートデータ9と同じ大きさのボクセルデータを、画像再構成処理部8によって得られた初期音圧分布のある位置から抜き出し、テンプレートデータ9との類似度を計算する。このマッチング処理の際に用いる初期音圧分布をマッチング用情報分布としている。さらに、初期音圧分布から抜き出す位置を移動させて同様に類似度を計算し、これを繰り返して類似度分布を作成する(S4)。類似度分布とは、初期音圧分布のそれぞれのボクセルに対するテンプレートデータとの類似度を表す、新たな被検体情報分布としての3次元分布である。類似度Rは式1で示した正規化相互相関(ZNCC:Zero−mean Normalized Cross−Correlation)によって計算されることが望ましいが、SSD(Sum of Squared Difference)やSAD(Sum of Absolute Difference)など類似度を示すほかのパラメータを計算する方法でもよい。
【0034】
【数1】

ここで、L、M、NはそれぞれXYZ座標系におけるX方向、Y方向、Z方向のボクセル数、I(i,j,k)は画像再構成処理部8によって得られた初期音圧分布から抜き出した分布、
【0035】
【数2】

は抜き出した分布の平均値、T(i,j,k)はテンプレートデータ、
【0036】
【数3】

はテンプレートデータの平均値である。最後に得られた類似度分布を表示装置7で表示させる(S5)。このようにすることで、初期音圧分布のうちいずれが実像であるかを表示部に表示させることができ、実像とバックグラウンドを区別することができる。
【0037】
[実施形態2]
ここでは[基本的な実施形態]で得られる類似度分布を活用して実像の抽出処理を行う実施形態を述べる。全体の装置構成は[基本的な実施形態]と同じであり、実施方法も類似度分布を作成するS4までは同じであるので、差異部分について述べる。
【0038】
図5はデータ処理装置6の内部構成を示したものであるが、画像再構成処理部8、テンプレートデータ9、マッチング処理部10に加え抽出処理部11が配置されている。抽出処理部11は、類似度分布において類似度が高いボクセルを選別し、そのボクセルの初期音圧分布のみ抽出する処理を行う。本実施例では、この抽出処理の際に用いる初期音圧分布を抽出用情報分布としている。具体的には、類似度分布に対して任意の閾値を設け、それぞれのボクセルの類似度分布が閾値より高いか低いかを判定し、閾値より類似度が高い値のボクセル位置に対応する初期音圧分布(抽出用情報分布としての初期音圧分布)のボクセルのみをそのままにし、初期音圧分布(抽出用情報分布としての初期音圧分布)のそれ以外のボクセルは値をゼロやマイナスなどエラー値と判定できる値に書き換えるという処理である。このような抽出方法が望ましいが、類似度が低いボクセルにエラー値を付与するのではなく、そのボクセルの持つ音圧値を例えば1/10にするというように低減させるだけでも良い。
【0039】
実施方法は図6に示すように、マッチング処理(S4)を行ったあとに、抽出処理(S6)を行い、抽出されたデータを新たな被検体情報分布として表示装置7にて表示させる(S5)。
【0040】
この実施形態では、像の部分の初期音圧分布だけを表示させることによって、バックグラウンド部分を大幅に低減させることができ、画像のコントラストを向上させることができる。
【0041】
[実施形態3]
[基本的な実施形態]及び[実施形態2]では初期音圧分布による類似度分布の算出及び初期音圧分布の抽出を行ったが、ここでは吸収係数分布を類似度分布の算出や抽出に用いる実施形態について述べる。
【0042】
光音響診断装置では初期音圧分布から吸収係数分布を算出することが可能である。測定される発生音圧Pは式2で表される。
【0043】
【数4】

ここでΓは光吸収体のグリューナイゼン定数、μは光吸収体の吸収係数、φは光吸収体に届いた光量である。グリューナイゼン定数は一定と見なすことができるので、発生音圧は吸収係数と光量の積に比例する。光量は入射した光分布から生体内部の光伝搬を計算することによって得られるので、発生音圧を光量で割ることによって吸収係数を算出できる。
【0044】
本実施形態は全体の装置構成は[基本的な実施形態]と同じであり、データ処理装置6の内部構成が異なる。図7は吸収係数分布によって類似度分布を作成する実施形態のデータ処理装置6の内部構成である。画像再構成処理部8から得られた初期音圧分布とあらかじめ計算しておいた光量分布12を用いて、吸収係数算出部13で除算することによって吸収係数分布を算出する。光量分布12は、測定ごとに入射した光分布を測定し光量分布を計算してもよい。マッチング処理部10において、初期音圧分布とテンプレートデータ9を用いたマッチング処理により類似度分布を作成し、抽出処理部11にて類似度分布を用いて吸収係数分布から抽出を行い、表示装置7で表示する。ここでは抽出まで行う実施形態を示したが、[基本的な実施形態]のように類似度分布を算出し、それを表示させるだけでも良い。
【0045】
また、マッチング処理と抽出処理に用いる分布には、他にも様々な組み合わせを用いることができる。図8は吸収係数分布によって類似度分布を作成し、初期音圧分布から抽出を行う実施形態の装置構成である。また、図9は吸収係数分布によって類似度分布を作成し、吸収係数分布から抽出を行う実施形態の装置構成である。
【0046】
この実施形態では、吸収係数分布を用いたマッチング処理や抽出処理を行うことができる。
【0047】
[実施形態4]
本発明を全ヘモグロビン中の酸化ヘモグロビンの濃度、つまり酸素飽和度の抽出に用いる実施形態を述べる。装置構成は図10に示すように、[基本的な実施形態]の光源1の代わりに光源A14、光源B15を配置したものとなっている。光源Aと光源Bは波長が異なり、それぞれ異なるタイミングで光を照射する。さらに、波長とタイミングの異なる光源C、光源D・・・を追加してもよい。それぞれの光源によって作成された吸収係数分布を比較処理することによって、酸素飽和度分布を算出することができる。
【0048】
図11はデータ処理装置6の内部構成を示した図である。光源Aによる音響波から画像再構成処理部8によって作成された初期音圧分布Aは、吸収係数算出部13において、あらかじめ計算された光量分布12を用いて、吸収係数分布Aへ変換され、メモリA16に格納される。また、光源Bについても同様に、吸収係数分布BはメモリB17に格納される。光源がさらにある場合には同様にそれぞれの吸収係数分布をメモリC、メモリD・・・に格納する。その後、本実施形態においては濃度情報算出部としての働きも有する比較処理部18において、吸収係数分布Aと吸収係数分布Bとの比較処理(後に詳述)が行われ、濃度情報分布としての酸素飽和度分布が算出される。一方で、画像再構成処理部8で作成された初期音圧分布はマッチング処理部10においてテンプレートデータ9とのマッチング処理が行われ類似度分布が作成される。このとき用いられる初期音圧分布は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの両者の吸収係数が近い波長の光源によって作成されたものが望ましい。このとき、測定に用いた波長から選択した1の波長により形成された初期音圧分布のみを用いてマッチング処理を行ってもよいし、複数の波長によって得られた複数の初期音圧分布のそれぞれについてマッチング処理を行い、結果を重畳処理してもよい。また、マッチング処理に用いるのは初期音圧分布が望ましいが、吸収係数分布であってもよい。
【0049】
抽出処理部11において、類似度分布を用いて酸素飽和度分布から抽出処理を行い、その結果を表示装置7へ送る。
【0050】
酸素飽和度は、異なる波長の光源によって作成された吸収係数分布同士を比較することにより、算出することができる濃度情報である。波長λと波長λの光を用いて血液のモル吸収係数を測定するとき、波長λと波長λではヘモグロビン以外の光吸収が無視できるほど低いと仮定すると、波長λと波長λを用いた時に算出されるモル吸収係数μ(λ)[mm−1]、μ(λ)[mm−1]は式3、式4のように表わされる。
【0051】
【数5】

【0052】
【数6】

ここで、CoxとCdeはそれぞれ酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンの量(mol)であり、εox(λ)とεde(λ)はそれぞれ波長λにおける酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのモル吸収係数[mm−1mol−1]である。εox(λ)とεde(λ)はあらかじめ測定や文献値によって得られており、測定値μ(λ)、μ(λ)を用いて式3、4の連立方程式を解き、CoxとCdeを得る。光源が多い場合は、式が光源の数だけ増えるので、最小二乗法によってCoxとCdeを得る。酸素飽和度は全ヘモグロビン中の酸化ヘモグロビンの割合で定義され、式5のように計算でき、これによって酸素飽和度を得ることができる。
【0053】
【数7】

【0054】
本実施形態では、類似度分布を用いて酸素飽和度分布から抽出処理を行うことによって、酸素飽和度分布において像が浮き出ない問題を解決できる。また、本実施形態ではヘモグロビンの存在比について述べたが、光音響トモグラフィーでは、吸収スペクトルが特徴的であれば、ヘモグロビン以外のものの存在比(濃度情報分布)も同様の原理を用いて算出することができ、それに対して類似度分布を用いた抽出処理を行ってもよい。
【0055】
また、実施形態3の図8や図9で行った処理と同様に、吸収係数分布や酸素飽和度分布から類似度分布を求めてもよい。また、得られた類似度分布からの抽出処理を初期音圧分布や吸収係数分布に対して行い、その後、抽出後のデータから酸素飽和度分布を求めてもよい。
【0056】
[実施形態5]
[基本的な実施形態]で述べたように像と背後のアーティファクトの強度比は、光吸収体の大きさに依存する。よって、テンプレートデータの作成時に用いた光吸収体の大きさによって、類似度分布の結果は異なり、テンプレートデータの作成時に用いた光吸収体の大きさと近いものの類似度が高く評価される。よって、本実施形態では複数の光吸収体の大きさに対応するテンプレートデータを用意し、それぞれで類似度分布を作成し、最後に重ね合わせを行って様々な光吸収体の大きさに対応した類似度分布を作成する。
【0057】
全体の装置構成は[基本的な実施形態]と同じであり、データ処理装置6の内部構成が異なる。本実施形態のデータ処理装置6の内部構成を図12に示す。テンプレートデータとして、テンプレートデータa19、テンプレートデータb20を用意する。このテンプレートデータは、データ作成時のシミュレーションや実測における光吸収体の大きさが異なる。また、ここではテンプレートデータは二種類だけであるが、さらに多くのテンプレートデータを用いてもよい。画像再構成処理部8からの初期音圧分布とテンプレートデータa及びテンプレートデータbとのマッチング処理をそれぞれ行い、作成された類似度分布a、類似度分布bをメモリa21、メモリb22に格納する。次に、重畳処理部23において、類似度分布a、類似度分布bを重ね合わせ、統合類似度分布を作成する。重ね合わせには類似度分布aと類似度分布bの平均を取るのが望ましいが、積の平方根を取る方法や二乗平均平方根を取る方法であってもよい。次に、抽出処理部11において統合類似度分布を用いて画像再構成処理部8で作成された初期音圧分布から抽出を行い、表示装置7へ送る。なお、これらの処理は、初期音圧分布のみならず吸収係数分布や酸素飽和度分布に対して行ってもよい。また、抽出を行った後に吸収係数や酸素飽和度を求めて、それらを表示装置7に送ってもよい。
【0058】
本実施形態では、本発明を様々な大きさの光吸収体に対応させることができる。
【実施例1】
【0059】
[実施形態2]を実験にて実施したときの結果と、比較例として従来の閾値手法を用いた結果を示す。なお、実施例1〜3は、音響検出器に周波数帯域の制限がある場合の例である。
【0060】
被検体は厚さ50mmで、音響検出器からの距離が25mmの位置に光吸収体が設置されている模擬生体であり、母材の光学特性、音響特性は生体の脂肪と合わせた。被検体内部には、直径2mmの柱状光吸収体が横向きに三本設置されており、光吸収体の吸収係数は母材に対して20、15、10dBとした。また、被検体にレーザーを照射する面に被検体保持板としてポリメチルペンテンを密着させ、さらにポリメチルペンテンを介して音響検出器を設置し、被検体、被検体保持版、音響検出器を水中に設置した。音響検出器は1MHz±40%の周波数帯域を持つ2Dアレイ音響検出器であり、アレイの素子は2mm幅、2mmピッチで縦23×横15個並んだものとした。Nd:YAGレーザーを用いて波長1064nmのナノ秒オーダーのパルス光を水とポリメチルペンテンを透過させて被検体に照射するようにした。この時、入射光の光軸と音響検出器の検出面の法線は異なる角度になっており、被検体の音響検出器前面の部位に光が照射されるようにした。パルス光を30回照射し、得られた電気信号を増幅したのち、デジタルアナログ変換されてデジタル信号を得た。このとき用いられたアナログデジタルコンバータは、サンプリング周波数20MHz、分解能12Bitであった。それぞれの素子のデジタル信号を平均化し、画像再構成処理を行うことによって初期音圧分布を得た。
【0061】
従来の閾値手法を適用した初期音圧分布を図13(a)に示す。表示はMIP(Maximum Intensity Projection)形式であり、音響検出器から見た方向を正面図として側面図と上面図を示す。Z方向は音響検出器から見た奥行き方向を示しており、被検体と被検体保持板の界面をZ方向のゼロ点とし、音響検出器から離れれば離れるほどZ軸の数値が大きくなる。側面図において破線円24で示した像は、入射光が音響検出器表面に当たり音響保持板内で多重反射したことによるノイズである。また、破線円25の下に現れている二つの像はそれぞれ下か20、15dBの光吸収体である。
閾値手法では閾値以上の値を持つボクセルのみを表示させるが、破線円24で示したノイズが破線円25の中に存在する光吸収体よりも強い強度であるために、本来見るべき光吸収体が除去され、ノイズが残ってしまっている。正面図をみると、光を左側から照射しているのでノイズは左側に集中しており、X軸に添わせる方向に設置してある柱状光吸収体は、ノイズが原因となってほとんど見えていない。上面図をみると、Z=2.5cmに柱状光吸収体が見えるが、右側は光が弱くなっているために、強度が弱くなり閾値以下となることによって除去されてしまっている。
【0062】
同じデータに対して本発明を適用し、類似度分布に基づいて初期音圧分布を抽出した結果を図13(b)に示す。この時用いたテンプレートデータはシミュレーションで作成し、直径2mmの球の像と背後のアーティファクトを含んだものであり、類似度分布はZNCCで計算した。側面図をみると、ノイズ部分はテンプレートとの類似度が低いために抽出されず、破線円26で示した10dBの光吸収体は抽出されている。正面図において、ノイズが除去できたことによって光吸収体の像が明瞭に確認できる。従来の閾値手法では右側が完全に消えてしまっていたが、本手法では光が弱くなっている右側でも抽出されている。これは、ZNCCでは正規化を行っているため、分布の強度に関係なく像と背後のアーティファクトの関係のみで類似度が決まるためである。以上のように、光吸収体の像だけを抽出することができ、これによって本発明の有効性が示された。
【実施例2】
【0063】
[実施形態4]をシミュレーションにて実施したときの結果と、比較例として従来の閾値手法を用いた結果を図14に示す。球状の音源から検出器位置での信号をシミュレーションし、さらにその信号を用いて逆投影を行い、結果を得た。
【0064】
検出器はサイズ、素子ピッチ、周波数帯域に関して[実施例1]と同じになるように設定した。被検体中の音速は1500m/sとし、光吸収体は直径2mmの球であり、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを4:1で混合したものとした。パルス光は、756nmと825nmであり、波長ごとにシミュレーション、再構成を行い、初期音圧分布を得た。このとき、ノイズは付加しなかった。今回は、簡単のために母材による光吸収がないものとした。これにより光量分布を一定と考えることができ、初期音圧分布を吸収係数分布として扱うことができる。各波長の吸収係数分布から式3、4、5により酸素飽和度分布を導出した。
【0065】
従来の閾値手法を適用した初期音圧分布を図14(a)に示す。これは、吸収係数分布における最大強度の0.7倍に閾値を設け、それより高い強度を持つボクセルのみ、酸素飽和度分布を表示させたものである。正面図において、中央に設置してある光吸収体は、設定どおり0.8、つまり80%の酸素飽和度を示しているが、両横に閾値より強いアーティファクトがあるために、その部分も表示されている。上面図においては、光吸収体の背後にも閾値より強いアーティファクトがあり、その部分が表示されていることが分かる。このように、従来の閾値手法では、ノイズが付加されていない高いコントラストが実現できる場合にも、強いアーティファクトを除去しきれないことがある。
【0066】
同じデータに対して本発明を適用し、類似度分布に基づいて酸素飽和度を抽出した結果を図14(b)に示す。このとき用いたテンプレートデータは[実施例1]と同様であり、類似度分布の計算はNZCCを用いて825nmの吸収係数分布に対して行った。
正面図、側面図、上面図において、光吸収体部分のみが酸素飽和度80%で表示されていることが分かる。以上のように、酸素飽和度を計算するときに、本発明が有効であることが示された。
【実施例3】
【0067】
[実施形態5]をシミュレーションにて実施したときの結果と、比較例としてテンプレートデータを一つだけ使用したときの結果を図15に示す。シミュレーションの方法は[実施例2]と同様にした。
【0068】
検出器はサイズ、素子ピッチ、周波数帯域に関して[実施例1]と同じになるように設定した。被検体中の音速は1500m/sとし、光吸収体は位置をずらして直径2mmと4mmの球を配置した。シミュレーションによって信号を取得し、再構成を行い、マッチング対象の初期音圧分布を得た。
【0069】
テンプレートデータ作成のために、直径4mmの光吸収体をシミュレーションによって信号を取得し、再構成を行い、初期音圧分布を得た。この初期音圧分布を4mmのテンプレートデータとし、マッチング対象の初期音圧分布に対してテンプレートマッチングを行い類似度分布を作成した。この一つのテンプレートデータによって作成された類似度分布のみに基づいてマッチング対象の初期音圧分布から抽出を行った結果を図15(a)に示す。正面図下部にある光吸収体は4mmの球であり、2mmの球は類似度が低いために抽出されなかった。
【0070】
さらに、テンプレートデータ作成のために直径2mmの光吸収体をシミュレーションを行い、同様に2mmのテンプレートデータを取得し、類似度分布を得た。4mmのテンプレートデータによる類似度分布と2mmのテンプレートデータによる類似度分布の平均値をとり、これを統合類似度分布とした。統合類似度分布に基づいてマッチング対象の初期音圧分布から抽出を行った結果を図15(b)に示す。正面図をみると、下部の4mmの光吸収体と上部の2mmの光吸収体が表示されていることが分かる。これによって、テンプレートデータを複数用意し各々の類似度分布を統合することにより様々なサイズの光吸収体に対応するという本発明の有効性が示された。
【実施例4】
【0071】
実施例4は上記実施例とは異なり、検出器に帯域制限がある場合と無い場合を比較している。なお、シミュレーシシミュレーションの方法は[実施例2]と同様である。
【0072】
図16Aは、検出器に帯域制限がない場合の初期音圧分布を示したものである。ここで、検出器はサイズ、素子ピッチに関して[実施例1]と同じになるように設定した。また、光吸収体での音響波は320Pa発生することとした。検出器は全周波数帯域を取得できることとし、被検体中の音速は1500m/sとし、光吸収体は直径2mmの球を配置した。シミュレーションによって信号を取得し、ランダムノイズを付加した。20Paのノイズを付加した信号を用いて再構成を行い、図16Aの初期音圧分布を得た。
【0073】
一方、図16Bは、検出器に帯域制限がある場合の初期音圧分布を示したものである。帯域制限を行うために検出器の周波数帯域を正規分布の形状で1MHz±40%であることとし、他の設定は前述のシミュレーションと同様にして、シミュレーションを行った。これにより、信号を取得し、前述のシミュレーションと同様の平均強度のランダムノイズを付加した。ノイズを付加した信号を用いて再構成を行い、図16Bの初期音圧分布を得た。
【0074】
図16Aおよび図16Bにより、帯域制限がない場合も帯域制限がある場合もノイズによって画像コントラストが低下し、光吸収体像が判別しにくくなっていることが分かる。
【0075】
テンプレートデータ作成のために、全周波数帯域が取得できる設定と、1MHz±40%の周波数帯域のみ取得できる設定で、直径2mmの光吸収体をシミュレーションによって各々信号を取得し、再構成を行い、初期音圧分布を得た。これらの初期音圧分布をそれぞれ帯域制限がある場合とない場合のテンプレートデータとした。そして、それぞれマッチング対象の初期音圧分布に対してテンプレートマッチングを行い、類似度分布を作成し、類似度分布に基づいてマッチング対象の初期音圧分布から抽出を行った。
【0076】
図16Cは帯域制限がない場合の抽出結果であり、図16Dは帯域制限がある場合の抽出結果である。帯域制限がない場合は、前後の負値のアーティファクトのみを利用することになるのに対して、帯域制限がある場合は、前後の負値のアーティファクトに加えて、リンギングに起因した背後のアーティファクトも利用することになる。したがって、帯域制限がない場合に比べて、帯域制限がある場合の方が類似度の精度が良いこととなり、両者は抽出される領域が異なっている。なお、両者で絶対値が異なる理由としては、帯域制限によって信号が減衰していることと、ノイズ成分がランダムであることが挙げられる。図16C、16Dは、それぞれ図16A、16Bに比べて、光吸収体を抽出しているので、コントラストが向上している。
【符号の説明】
【0077】
1 光源
2 光照射装置
3 被検体
4 音響検出器
5 電気信号処理装置
6 データ処理装置
7 表示装置
8 画像再構成処理部
9 テンプレートデータ
10 マッチング処理部
11 抽出処理部
12 光量分布
13 吸収係数算出部
14 光源A
15 光源B
16 メモリA
17 メモリB
18 比較処理部
19 テンプレートデータa
20 テンプレートデータb
21 メモリa
22 メモリb
23 重畳処理部
24 ノイズ部分を示す破線円
25 10dBの光吸収体の位置を示す破線円
26 10dBの光吸収体の位置を示す破線円

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内を伝搬した音響波を受信して電気信号に変換する音響検出器と、前記電気信号を用いて被検体情報分布を生成するデータ処理装置と、を有する被検体情報取得装置であって、
前記データ処理装置は、
実像とアーティファクトとの関係を示すテンプレートデータと、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と、の類似度を計算して類似度分布を取得するマッチング処理部を具備することを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記データ処理装置は、
前記類似度分布に対して任意の閾値を設け、抽出用情報分布としての前記被検体情報分布のうち、類似度分布において閾値より類似度が高い値の部位に対応する部位を抽出する抽出処理部をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記マッチング用情報分布は初期音圧分布であることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記マッチング用情報分布及び抽出用情報分布はいずれも初期音圧分布であることを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記データ処理装置は、被検体中の光量分布と初期音圧分布とを用いて吸収係数分布を算出する吸収係数算出部を具備し、
前記マッチング処理部は、前記マッチング用情報分布としての前記吸収係数分布と、前記テンプレートデータと、の類似度を計算して類似度分布を得ることを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記データ処理装置は、
前記類似度分布に対して任意の閾値を設け、抽出用情報分布としての前記初期音圧分布又は前記吸収係数分布のうち、類似度分布において閾値より類似度が高い値の部位に対応する部位を抽出する抽出処理部を具備することを特徴とする請求項5に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
前記データ処理装置は、被検体中の光量分布と初期音圧分布とを用いて吸収係数分布を算出する吸収係数算出部を具備し、
前記マッチング処理部は前記マッチング用情報分布としての前記初期音圧分布と、前記テンプレートデータと、の類似度を計算して類似度分布を得、
前記抽出処理部は前記類似度分布に対して任意の閾値を設け、マッチング用情報分布としての前記吸収係数分布のうち、類似度分布において閾値より類似度が高い値の部位に対応する部位を抽出することを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記音響波は互いに異なる波長をもつ複数のパルス光を前記被検体に照射することにより発生する複数の音響波であり、
前記データ処理装置は、
前記被検体中の光量分布と、前記複数のパルス光のそれぞれについて算出された複数の初期音圧分布と、を用いて複数の吸収係数分布を算出する吸収係数算出部と、
前記複数の吸収係数分布を用いて濃度情報分布を算出する濃度情報算出部と、を具備し、
前記マッチング処理部は、前記マッチング用情報分布としての、前記複数の初期音圧分布又は前記複数の吸収係数分布から選択された一又は複数の初期音圧分布又は吸収係数分布と、前記テンプレートデータと、の類似度を計算して類似度分布を得、
前記抽出処理部は、前記類似度分布に対して任意の閾値を設け、前記抽出用情報分布としての前記濃度情報分布のうち、類似度分布において閾値より類似度が高い値の部位に対応する部位を抽出することを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記データ処理装置は、複数の前記テンプレートデータを保持しており、
前記マッチング処理部は、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と前記複数のテンプレートデータと、の類似度をそれぞれ計算して複数の類似度分布を得、
前記データ処理装置は、前記複数の類似度分布の重ね合わせ処理を行う重畳処理部を具備することを
特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
前記アーティファクトは、発生した音響波のうち一部の角度に伝搬する音響波のみを用いることに起因するアーティファクトであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
前記アーティファクトは、前記音響検出器の応答特性に起因するアーティファクトであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項12】
被検体内を伝搬した音響波を音響検出器で受信して電気信号に変換し、前記電気信号を用いて被検体情報分布を生成する方法であって、
実像とアーティファクトとの関係を示すテンプレートデータと、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と、の類似度を計算して類似度分布を取得するステップ
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
コンピュータに
音響検出器で被検体内を伝搬した音響波を受信して変換された電気信号を用いて被検体情報分布を生成するステップと、
実像とアーティファクトとの関係を示すテンプレートデータと、マッチング用情報分布としての前記被検体情報分布と、の類似度を計算して類似度分布を得るステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図17】
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【図18】
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