説明

被検体情報取得装置

【課題】被検体情報取得装置において、被検体内の音速を好適に求めるための技術を提供する。
【解決手段】被検体情報取得装置は、被検体を保持する保持手段と、被検体から発せられた音響波を保持手段を介して受信し電気信号に変換する探触子と、被検体を保持手段が保持したときに被検体にかかる力を測定する力測定手段と、測定手段により測定された力と被検体と保持手段との接触面積とを用いて被検体内部の音速を求める音速取得手段と、音速取得手段が求めた音速の情報と電気信号とから被検体情報データを生成する生成手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体から発せられた音響波を画像化する被検体情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんの検査用に開発された被検体情報取得装置(光音響装置)が非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、ガラスプレートと超音波探触子で被検体(乳房)を圧迫
し、ガラスプレート越しに、Nd:YAGレーザを光源とする照明光(近赤外線)を乳房に照射する。そして被検体(乳房)内部で発生する光音響波を超音波探触子で受信し、被検体(乳房)内部の組織、特に乳がんにおける血管新生を画像再構成して表示する。その画像再構成を行うとき、被検体の音速を計算に用いる。一般的に乳房の平均音速は1510m/sと言われている。このように光音響波を用いて画像再構成することをPAT(Photoacoustic tomography/光音響トモグラフィー)と呼ぶ。
【0003】
しかしながら、非特許文献1の装置では、被検体(乳房)の音速の変化を補正すること
については述べられていない。このため、想定した音速と、被検体中の音速が異なる場合、解像度の低下を招いてしまう。そのため、音速の変化を補正することが好ましい。このような方法として、特許文献1がある。
【0004】
図5は特許文献1の概略を示したものであり、超音波が透過する保持プレート502と超音波を反射する圧迫プレート503を設け、被検対象物500に対して、探触子501が超音波ビームを送信する。保持プレート502を透過して圧迫プレート503から反射したエコー信号を探触子501が受信し記録する。このエコー信号から伝播時間および/または振幅を抽出し、基準エコー信号の伝搬時間および/または振幅と比較して評価する手段が設けられている。その際、伝搬時間と、圧迫プレート503と保持プレート502の間隔から平均音速を計算することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2786334号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Srirang Manohar, et al., The Twente photoacoustic mammoscope: system overview and performance, Physics in Medicine and Biology 50 (2005) 2543-2557.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では以下のような課題がある。
特許文献1によれば、音速を求めることができる。しかしながら、計算においては、保持プレート502以外、例えば結合媒体504や探触子501の整合層などを伝播する超音波エコーの伝播時間も考慮する必要がある。特許文献1ではこれらを記載していないため、正確な音速を計算できない。また、圧迫プレート503と保持プレート502の距離が離れると、被検対象物500内で信号が減衰するため、圧迫プレート503で反射する信号が小さくなり、測定が困難になる。つまり、被検対象物500が大きい場合音速が測定できない。そしてさらに、特許文献1による音速を求める方法は、平行平板圧迫保持方式(被検対象物500を圧迫プレート503と保持プレート502で圧迫する方式)にしか適用できない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被検体情報取得装置において、被検体内の音速を好適に求めるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、被検体を保持する保持手段と、被検体から発せられた音響波を前記保持手段を介して受信し電気信号に変換する探触子と、被検体を前記保持手段が保持したときに被検体にかかる力を測定する力測定手段と、前記力測定手段により測定された力と、前記被検体と前記保持手段との接触面積と、を用いて被検体内部の音速を求める音速取得手段と、前記音速取得手段が求めた音速の情報と、前記電気信号と、から被検体情報データを生成する生成手段と、を有することを特徴とする被検体情報取得装置である。
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、被検体を保持する保持手段と、被検体から発せられた音響波を前記保持手段を介して受信し電気信号に変換する探触子と、被検体を前記保持手段が保持したときに被検体にかかる力を測定する力測定手段と、前記被検体と前記保持手段との接触面積を光又は音響波を用いて求める面積測定手段と、前記力測定手段により測定された力と、前記被検体と前記保持手段との接触面積と、を用いて、前記被検体にかかる応力を求める処理部と、を有することを特徴とする被検体情報取得装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被検体情報取得装置において、被検体内の音速を好適に求めるための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】実施例1における装置構成を説明する図。
【図1B】実施例1における圧迫保持の影響を説明する図。
【図1C】実施例1における圧迫保持の影響を説明する別の図。
【図2】実施例2における装置構成を説明する図。
【図3】実施例3における音響波の屈折を説明する図。
【図4】被検体情報取得装置を説明する図。
【図5】背景技術を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
被検体情報取得装置は、少なくとも被検体(乳房)から発せられる音響波(典型的には超音波)を、被検体の保持プレート越しに超音波探触子で測定する。被検体を保持プレートで保持し、被検体にかかる力と、保持プレートと被検体との接触面積と、を測定して、その測定値から計算式またはテーブルを参照して、被検体内部の平均音速を求める。そして、探触子が受信した超音波信号と求めた音速の情報とから被検体情報データを生成する。なお、以下の例では被検体が乳房等の生体である、生体情報取得装置について説明するが、測定対象は生体とは限らない。本発明は、様々なものを測定対象とする被検体情報取得装置に適用できる。また、本発明において、被検体内の音速とは、被検体内を伝播する音響波の伝播速度を意味する。
被検体情報とは、被検体内部の組織の音響インピーダンスの違いを反映した情報、音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。被検体情報データとは、これら被検体情報に基づくデータであって、例えば上記各種の数値データであっても良いし、上記各種の数値データを可視化し、被検体の画像を生成するためのデータであっても良い。
【0013】
次に、生体情報取得装置(被検体情報取得装置)の一例として、Photoacoustic mammography(以下、PAMと表記する)について説明する。
図4はPhotoacoustic tomography(光音響トモグラフィー/PAT)の原理を乳房の検査装置に適用し、PAMとした図である。Photoacoustic wave(光音響波)は、特異的に血液や血管の画像を取得できるため、がんの血管新生によってできた血管を撮影できる。図4はこの原理を乳がん検診用に適用した主要部の構成である。
【0014】
図4において、探触子1は被検体(不図示)から発せられた光音響波を受信するためのものである。保持プレート2は被検体を保持させるためのであり、探触子1は、被検体から発せられた光音響波を、保持プレート2を介して受信する。保持プレート2の材質はPMP(ポリメチルペンテン)が好適であるが、他の樹脂でも代替可能である。圧迫プレート3は、保持プレート2との間隙を調整することによって、被検体を圧迫保持する。圧迫プレート3の材質はアクリルやポリカーボネートのような樹脂や石英などのガラスが好適である。そして、照明光学系11は650nmから1100nm程度の波長のパルス光を照射し、被検体から光音響波を発生させる。なお、光源ならびに、光源から照明光学系11までの照明光の引き回しは不図示とした。探触子スキャンユニット12は探触子1を保持プレートの面内方向に走査するもので、照明光スキャンユニット13は照明光学系11を圧迫プレートの面内方向に走査するものである。
【0015】
なお、本発明はPAMを一例として説明したが、これに限定されず、被検体を保持プレート2越しに探触子1で超音波を受信する装置であれば、超音波エコー装置や透過型の超音波装置でも適用できる。超音波エコー装置では探触子1でビームフォーカスした超音波を送受信すれば良く、透過型の超音波装置の場合は照明光学系11の代わりに送信用の探触子を設ければ良い。
【0016】
以下、実施例1では被検体を保持手段として2枚の平行なプレートを用いて被検体を圧迫保持した形態において、音速を求める方法について説明する。実施例2では被検体を保持プレートに押付ける形態において音速を求める方法について説明する。実施例3では、求めた音速を使用して、保持プレートと被検体との界面で生じる屈折を補正する方法について説明する。
【0017】
<実施例1>
図1Aは平行平板方式の装置構成を示す図である。この方式では、被検体(乳房)100は、保持プレート2と圧迫プレート3に挿入され挟み込まれ、超音波を用いて測定される。探触子1は、少なくとも被検体100から発せられた超音波を受信できるものである。保持プレート2は、被検体100を保持するためのものである。探触子1は、被検体100から発せられた超音波を保持プレート2越しに受信して電気信号(受信信号)に夫々変換する複数の素子を有する。変換された受信信号Sigは、後述する処理部7に送られる。探触子1はまた、不図示の探触子スキャンユニット上に搭載されている。圧迫プレート3は、被検体100を保持プレート2との間で挟みこむもので、圧迫プレート3の動作によって被検体100を圧迫または圧迫解除する。
【0018】
リニアスケール4は、保持プレート2と圧迫プレート3との距離Lを測定する距離測定手段である。本実施例では距離測定手段としてリニアスケール4を用いたが、他のセンサを適用しても良い。ロードセル5は、被検体100を圧迫保持しているときに被検体にかかる力(実施例1においては圧迫力F)を測定する力測定手段である。本実施例では力測定手段として、被検体を圧迫した際に被検体からの押し返す力を測定するロードセル5を用いたが、これに限定されず、他のセンサを適用しても良い。また、力測定手段は、被検体にかかる力として、被検体を圧迫した際に被検体からの押し返す力だけでなく、圧迫プ
レートを介して実際に被検体にかけている力を測定してもよい。
【0019】
図1Aの装置で被検体100を徐々に圧迫保持していったときに、横軸に経過時間、縦軸に圧迫距離および圧迫力をとる場合、図1Cのようになる。そして、圧迫稼動時の圧迫距離と圧迫力をそれぞれ横軸、縦軸にプロットすると図1Bのようになる。図1Bの線の傾きは弾性係数(ヤング率)を示しており、図中に記載した数値は弾性係数である。算出に際し、以下の式(1)〜式(3)を用いた。
フックの法則σ=Eε(σ:応力,ε:歪,E:ヤング率) … (1)
σ=F/A(F:圧迫力,A:圧迫面積) … (2)
ε=ΔL/L(L:圧迫前(F=0)の長さ,ΔL:圧迫前後の変形量) … (3)
【0020】
図1Bより、圧迫保持に伴い、すなわち圧迫距離を小さくするほど、その変化に対して圧迫力の変化が大きくなると言える。つまり、弾性係数が上昇していく。すなわち、応力σと歪εを求めることができれば、ヤング率Eを計算することができる。歪εは、リニアスケール4で変形前と後のプレート間の距離を測ることにより求められる。また応力σは、ロードセル5により求める圧迫力Fと、圧迫面積Aから算出することができる。圧迫面積Aは、被検体と保持プレートと(又は被検体と圧迫プレートと)の接触面積であり、面積測定手段により測定される。図1Aのようにカメラ6を搭載し、撮影した画像データから圧迫面積Aを算出することが好ましい。この場合、撮影を行うカメラおよび算出を行う処理部が、圧迫面積Aを求めるための面積測定手段として機能し光を用いて圧迫面積を算出することになる。
【0021】
なお、圧迫面積を測定する際には、カメラ6と画像データから圧迫面積Aを算出する方法に限らない。例えば、不図示の探触子スキャンユニットで探触子1をスキャンしながら超音波を送受信して、受信信号が被検体100を通過し、圧迫プレート3から反射した信号を受信できれば被検体100ありと判別する。そして、保持プレート2から反射した信号しかなければ被検体100なしと判別する。このように探触子スキャンユニットの位置情報と照合して、反射時間から被検体100のあり/なしを判別し、圧迫面積Aを求める方法でも良い。他には、光学式センサなどを用いても良い。
このように、本発明では、光学的または音響的に、被検体と保持部材との接触面積を測定している。これは、本発明では、保持手段を介して音響波を受信し被検体情報を取得するので、保持手段全面に圧力センサを設けて接触面積を測定するような方法では、被検体情報を取得する際の音響波の受信が良好に行えないためである。よって、本発明では、カメラや光学式センサからの光の情報を用いて処理部で接触面積を算出したり、超音波(音響波)を送受信して得られた受信信号を用いて処理部で接触面積を算出したりすると良い。また、音響的に接触面積を測定する手段として、光を照射することにより発生する光音響波を受信し、その受信信号を用いて処理部で接触面積を算出することも可能である。
【0022】
また、図1Cに示した圧迫保持の時のように圧迫保持完了後、圧迫力は経時的に緩和される。したがって、被検体情報データの生成用に用いる音響波を受信する時の圧迫力から音速を算出することが好ましい。
【0023】
次に、弾性係数(ヤング率)から音速を算出する方法について説明する。図1Aにおいて処理部7は、リニアスケール4から圧迫距離情報(2枚のプレート間の距離の情報)、ロードセル5から圧迫力情報(F)、カメラ6から画像データを受け取る。この際、カメラの側で圧迫面積(A)を求めて処理部に送っても良いし、処理部の側で画像処理を行い、圧迫面積を求めても良い。被検体100の弾性係数と、そこから被検体内部の平均音速を算出する。平均音速の算出は以下の式(4)を用いる。
【数1】


ここで、cは平均音速、Eはヤング率である。ρは密度で、例えば1020kg/mである。νはポアソン比であり、0.5に近い値である。
【0024】
また、平均音速は弾性係数の関数c(E)として、弾性係数が算出されたら、標準的な弾性率からの変化倍率の平方根を標準的な音速に掛けて算出しても良い。例えば被検体100が乳房の場合、標準的な平均音速を1510m/s、標準的な弾性係数を10kPaとする。そして、算出した弾性係数から標準的な弾性係数10kPaを割って、その平方根を標準的な平均音速1510m/sにかけて、平均音速を算出する方法としても良い。
【0025】
さらに、処理部7はあらかじめ圧迫距離と圧迫力、および圧迫面積を変数としたテーブルを保持するメモリを用意し、それらの測定結果からテーブルを参照して音速を求める方法でも良い。また、応力と音速との間には相関があるため、応力を変数としたテーブルを保持するメモリを用意し、測定した圧迫面積と測定した圧迫力とをもとに、該テーブルを参照し音速を求めることもできる。
【0026】
次に、処理部7は探触子1からの電気信号(Sig)を受信して、電気信号と、求めた平均音速の情報とから被検体情報データを生成する。そして、そのデータをモニタ8に表示する。
本実施例では、保持プレートと圧迫プレートは、本発明の保持手段に相当する。音響波は、探触子により、保持手段越しに受信される。ロードセルは、力測定手段に相当する。リニアスケールは、距離測定手段に相当する。カメラは、面積測定手段に相当する。処理部は、音速を求める音速取得手段と、被検体情報データを生成する生成手段に相当する。
【0027】
このように実施例1によれば、被検体100が大きく、保持プレート2と圧迫プレート3との距離が離れた場合でも高精度に平均音速を求めることができる。そのため、処理部7で受信信号から画像化する際、解像度を向上させることができる。
また、本発明では、得られた被検体と保持部材との接触面積と、圧迫力と、を用いて得られ応力の情報は、音速算出以外の用途にも用いることができる。
【0028】
<実施例2>
実施例1では平行平板圧迫保持方式について説明した。実施例2では、被検体100を保持プレート2に対して押付けるような保持方式による測定について説明する。
【0029】
図2(a)において、被検体100を保持手段である保持プレート2に押付けるように保持する。図2(a)では保持プレート2に対して被検体100が上から押付けるように示したが、方向はこれに限定されない。さらに、保持プレート2は平面の部材として示したが、これに限定されず、例えばカップ状になっている部材でも良い。
【0030】
次に、不図示の探触子スキャンユニット上に搭載された探触子1は、被検体100から発せられた超音波を保持プレート2越しに受信する。受信された信号は電気信号に変換され、後述する処理部7に送られる(Sig)。ロードセル5は力測定手段であり、被検体
100を保持プレート2に押付けたとき被検体にかかる力(F)を測定する。カメラ6は被検体100の押付け時の、被検体と保持プレートとの接触面積(A)を求める面積測定手段として機能する。
【0031】
図2(a)で示す被検体保持方法の場合、実施例1で説明した弾性係数(ヤング率)を算出するための圧迫距離に相当する距離を測定できないため、直接、弾性係数ひいては平均音速を計算することができない。しかしながら押付け力(被検体にかかる力)と押付け面積(保持プレートと被検体との接触面積)から求められる応力σは、弾性係数との相関関係がある。そのため、応力は平均音速との相関関係がある。したがって、あらかじめ、その相関関係をテーブル7aまたは数式として作成しておく。そして、テーブルまたは数式をメモリに保持する。
【0032】
処理部7は、カメラ6からの撮影画像データから被検体100の押付け面積Aを求めるか、カメラ側で算出した押付け面積Aを受け取る。そして、押付け面積と、力測定手段であるロードセル5からの押付け力とを用いて応力σを算出し、テーブル7aを参照して平均音速を求める。そして、処理部7は求めた平均音速と受信信号とを用いて被検体情報を示す画像データを生成し、モニタ8に画像を表示する。
【0033】
また、この方法は、図2(b)のようにハンドヘルド型の探触子を用いた場合にも適用できる。図2(b)においても、被検体100から発せられた超音波を保持プレート2越しに探触子素子1aで受信する構成となっている。受信された信号は電気信号に変換され、処理部7に送られる(Sig)。探触子素子1aはハウジング9の中に収められ、ハウジング9の被検体100と接触する部分に保持プレート2を設けている。そして、保持プレート2もしくはハウジング9には、保持プレート2を被検体100に押付ける力を測定するための歪ゲージ10を貼り付けている。
【0034】
図2(b)の場合、保持プレート2を被検体100に押付ける面積A(接触面積)は保持プレート2の面積であるため、既知の値として取り扱うことができる。処理部7は押付け力と弾性係数との相関関係、又は、押付け力と音速との相関関係をテーブル7aとして用意する。そして、歪ゲージ10で測定された歪に相当する電気信号から押付け力F(被検体にかかる力)に換算し、求めた押付け力に基づいてテーブルを参照し平均音速を求めることができる。また、求めた押付け力と既知である接触面積とから応力σを求め、応力と音速との相関関係を表すテーブル7aを参照して平均音速を求めることもできる。そして処理部7は求めた平均音速と受信信号から画像を生成し、モニタ8に表示する。
【0035】
なお、図2(a)、図2(b)の方式をPAMに適用するためには、照明光を探触子1側から照射すれば良い。
【0036】
このように実施例2によれば、平行平板圧迫保持方式以外の種々の生体情報取得装置においても、被検体の平均音速を求める機構を搭載することが可能となる。
【0037】
<実施例3>
実施例3では、保持プレート2の音速(保持手段内部の音速)が被検体100と異なる場合について、図3を用いて説明する。保持プレート2と被検体100との音速が異なる場合、超音波が屈折する。超音波の屈折が起こった場合、超音波発生源から探触子素子までの距離や角度が変わる。そのため、屈折を考慮し、補正して画像生成しないと、解像度が低下する。補正においては、画像を生成するターゲットからのデータを適切に選択するために、検出された(見かけの)超音波発生源の位置と、実際の超音波発生源の位置の関係を明らかにする必要がある。また、屈折角に基づく超音波発生源の正しい位置と、超音波の到達時間との関係を明らかにしておく必要がある。
【0038】
保持プレート2はポリメチルペンテン(PMP)が好適であり、その音速は約2200m/sである。圧迫力(押付け力)がかかっていない被検体(乳房の場合)100は約1510m/sであるため、図3のように超音波が屈折する。この屈折の補正は、以下に示すように、スネルの法則に基づいて行えばよい。
【0039】
以下の式において、τは超音波発生源から探触子素子1aまでの超音波の到達時間であり、Rはその時の到達距離である。cは平均音速、zは深さ(厚さ)、xは表面方向の距離、θは屈折角を、それぞれ表わす。また下付添字は、Bが被検体100を、Pが保持プレート2を意味する。例えばcは被検体内の平均音速、cは保持プレート内の平均音速である。そして、保持プレート2の音速cと保持プレート2の厚さzは材料に応じて一定の値で既知である。
【0040】
超音波発生源から探触子素子1aまでの超音波の到達時間τを屈折角および深さとの関係で表わす。τは超音波発生源から屈折面までの超音波の到達時間と、屈折面から探触子素子までの超音波の到達時間の和なので、式(5)のように表わされる。
【数2】

【0041】
ここで、スネルの法則より、式(6)が成り立つ。
【数3】


また、屈折角は下の式(7)、式(8)のように表わされる。
【数4】


よって、探触子素子と、実際の超音波発生源との位置関係は、式(9)のように表わされる。
【数5】

【0042】
以上の関係を用いれば、探触子素子に到達した超音波が、実際には被検体内のどの位置において、どの時間に発生したのかを求め、データを補正することができる。したがって画像を生成する時に、ターゲットに対応するデータを適切に選択することが可能になる。
【0043】
被検体100の平均音速cは、実施例1や実施例2でも説明した通り、被検体100に圧迫力(押付け力)が加わると変化する。そのため、被検体100の音速を1510m/sとして計算せずに、実施例1や実施例2で説明した方法で平均音速を求め、その音速値をcとして上式に適用することができる。そうすると、より高精度な屈折補正ができ、解像度が向上する点で好ましい。
【0044】
このように実施例3によれば、保持プレート2と被検体100の音速が異なることによって生じる音響波の屈折を補正できるため、画像化したときの解像度が向上する。
【0045】
この他の方法として、被検体100の平均音速を保持プレート2の音速と同等(c≒c)になるまで被検体100への圧迫力(押付け力)を高めれば、画像生成において、音速をポリメチルペンテンの2200m/sとして計算することができる。そのため、解像度を低下させることなく、超音波の屈折を補正する必要がないため、計算処理時間が短縮できる。
【符号の説明】
【0046】
1:探触子,2:保持プレート,3:圧迫プレート,4:リニアスケール,5:ロードセル,6:カメラ,7:処理部,10:歪ゲージ,100:被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を保持する保持手段と、
被検体から発せられた音響波を前記保持手段を介して受信し電気信号に変換する探触子と、
被検体を前記保持手段が保持したときに被検体にかかる力を測定する力測定手段と、
前記力測定手段により測定された力と、前記被検体と前記保持手段との接触面積と、を用いて被検体内部の音速を求める音速取得手段と、
前記音速取得手段が求めた音速の情報と、前記電気信号と、から被検体情報データを生成する生成手段と、
を有することを特徴とする被検体情報取得装置。
【請求項2】
前記接触面積を求める面積測定手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の被検体情報取得装置。
【請求項3】
前記音速取得手段は、前記力測定手段が測定した力と前記接触面積とから応力を求め、前記応力を用いて前記被検体内の音速を求める
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項4】
前記保持手段は、2枚のプレートで被検体を圧迫保持するものである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項5】
前記保持手段は、被検体に押しつけられる部材である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項6】
前記探触子を収めるハウジングをさらに有し、
前記保持手段は、前記ハウジングの被検体に接する位置に設けられたプレートである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項7】
あらかじめ作成された、被検体の応力と被検体内部の音速との関係を表わすテーブルまたは数式を保持するメモリをさらに有し、
前記音速取得手段は、前記メモリのテーブルまたは数式を参照し、前記応力に基づいて被検体内部の音速を求める
ことを特徴とする請求項3に記載の被検体情報取得装置。
【請求項8】
前記保持手段は2枚のプレートで被検体を圧迫保持し、
前記保持手段の2枚のプレートの間の距離を測定する距離測定手段をさらに有し、
前記音速取得手段は、前記保持手段が被検体を圧迫する前および後に前記距離測定手段により測定された2枚のプレートの間の前記距離と、前記力測定手段により測定された前記力と、前記面積測定手段により測定された前記接触面積と、を用いて被検体内部の音速を求めるものである
ことを特徴とする請求項2に記載の被検体情報取得装置。
【請求項9】
前記保持手段内部の音速は、被検体内部の音速とは異なっており、
前記生成手段は、被検体情報データを生成するときに、前記音速取得手段が求めた被検体内部の音速と、前記保持手段内部の音速と、を用いて前記電気信号を補正する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項10】
前記音響波は、光を照明された被検体から発せられる音響波である
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項11】
前記音響波は、被検体に発せられた超音波が反射したものである
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の被検体情報取得装置。
【請求項12】
被検体を保持する保持手段と、
被検体から発せられた音響波を前記保持手段を介して受信し電気信号に変換する探触子と、
被検体を前記保持手段が保持したときに被検体にかかる力を測定する力測定手段と、
前記被検体と前記保持手段との接触面積を光又は音響波を用いて求める面積測定手段と、
前記力測定手段により測定された力と、前記被検体と前記保持手段との接触面積と、を用いて、前記被検体にかかる応力を求める処理部と、
を有することを特徴とする被検体情報取得装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−81251(P2012−81251A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171913(P2011−171913)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】