説明

被検物質の電気化学的検出方法

【課題】従来より高感度に被検物質を検出可能な電気化学的検出方法を提供する。
【解決手段】被検物質Sを作用電極本体161上に固定化された捕捉物質10で捕捉する。溶解性担体21上に被検物質Sに結合する結合物質22と標識物質Sを含有する修飾標識物質23とを有する標識結合物質20と、被検物質Sとを含む複合体を作用電極161上に形成させる。そして、溶解性担体21を溶解させ、作用電極161上に、修飾標識物質23を誘引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質の電気化学的検出方法に関する。より詳しくは、核酸、タンパク質等の被検物質の検出や定量等や、これらを利用する疾病の臨床検査、診断等に有用な、被検物質の電気化学的検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断は、生体試料中に含まれる前記疾病に関連する遺伝子やタンパク質等を、遺伝子検出法や免疫学的検出法等の検出法によって検出することにより行なわれている。かかる臨床検査や診断を行なうための方法として、被検物質の電気化学的検出方法が知られている。具体的には、光化学的に活性な標識物質を光励起させることにより生じる電流や、電気化学的に活性な標識物質の電圧印加により生じる光又は光励起による電流を、遺伝子やタンパク質等の被検物質の検出に利用する方法が提案されている。
【0003】
ここで、検体中の被検物質を検出し臨床検査や診断を行なう場合、検体に含まれる微量な被検物質を高感度に検出することが求められる。そこで、例えば、特許文献1には、電気化学的に活性な多数のECLと被検物質に結合するプローブとを有する担体粒子を用いて、被検物質を検出する方法が提案されている。ここでは、ECLの電気化学発光の検出に際して、前記担体を溶解し、ECLを放出させることで分散させる。これにより、ECLと電解質との接触効率を向上させ、検出感度を高めている。このように、電気化学的検出方法を用いたより高感度な被検物質を検出可能な、電気化学的検出方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−504528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、従来より高感度に被検物質を検出可能な電気化学的検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、
(1)作用電極上に、被検物質に結合する結合物質と標識物質を含有する修飾標識物質とが結合した溶解性担体を有する標識結合物質と、被検物質とを含む複合体を形成すること、(2)この複合体中の標識結合物質に含まれる溶解性担体を溶解させること、及び
(3)作用電極上に修飾標識物質を誘引させること
により、上記課題を解決することができることを見出した。すなわち、本発明者らは、被検物質の電気化学的な検出に際して、前記(1)〜(3)の操作を行なうことにより、被検物質の大きさ等によらず、被検物質の量に応じた標識物質に基づくシグナルを効率よく得ることができ、高感度で被検物質を電気化学的に検出することができることを見出した。
本発明は、かかる本発明者らの知見に基づいてなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
被検物質を含む試料を、作用電極に接触させて、作用電極上に捕捉する捕捉工程、
前記被検物質が捕捉された作用電極に、被検物質に結合する結合物質と標識物質を含有する修飾標識物質とが結合した溶解性担体を有する標識結合物質を接触させて、前記作用電極上に、前記被検物質と前記標識結合物質とを含む複合体を形成させる形成工程、
前記作用電極上に形成された複合体に含まれる前記溶解性担体を溶解させ、前記修飾標識物質を遊離させる遊離工程、
前記修飾標識物質を作用電極上に誘引する誘引工程、及び
前記修飾標識物質中の標識物質を電気化学的に検出する検出工程
を含む被検物質の電気化学的検出方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被検物質の検出方法によれば、従来より高感度に被検物質を検出可能な電気化学的検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法において、作用電極上に形成された捕捉物質と被検物質と標識結合物質とを含む複合体を示す概略説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視図である。
【図3】図2に示される検出装置の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップを示す斜視図である。
【図5】図4に示される検査チップのAA線での断面図である。
【図6】(A)は図4に示される検査チップの上基板を下面側から見た斜視図である。(B)は図4に示される検査チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【図7】(a)は光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。(b)は光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。
【図8】(a)は光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。(b)は光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。
【図9】(a)は酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。(b)は酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。
【図10】(A)は上基板の変形例の平面説明図である。(B)は下基板の変形例の平面説明図である。
【図11】(A)は上基板の変形例の平面説明図である。(B)は下基板の変形例の平面説明図である。
【図12】(A)は上基板の変形例の平面説明図である。(B)は下基板の変形例の平面説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法(光電気化学検出法)の処理手順を示す工程説明図である。
【図14】本発明の他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法(酸化還元電流・電気化学発光検出法)の処理手順を示す工程説明図である。
【図15】(A)は試験例1における実験番号1の方法の操作手順を示す概略説明図である。(B)は試験例1における実験番号3の方法の操作手順を示す概略説明図である。
【図16】試験例1において、実験番号1〜4の方法での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図17】(A)は試験例1における実験番号1の方法の光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。(B)は試験例1における実験番号3の方法の光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。
【図18】試験例2における実験番号5の方法の操作手順を示す概略説明図である。
【図19】試験例2において、実験番号5〜8の方法での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図20】(A)は試験例2における実験番号5の方法の光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。(B)は試験例2における実験番号7の方法の光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。
【図21】試験例3において、実験番号9〜12の方法での光電流の測定結果を示すグラフである。
【図22】試験例4において、実験番号13及び14の試料を用いたときの光電流の測定結果を示すグラフである。
【図23】(A)は試験例5において、製造例6で得られた第1修飾結合物質を用いたときの光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。(B)は試験例5において、製造例7で得られた第1修飾結合物質を用いたときの光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。(C)は試験例5において、製造例8で得られた第1修飾結合物質を用いたときの光電流測定(検出工程)の際の標識物質の状態を示す概略説明図である。
【図24】試験例5において、AlexaFluor750/ビオチン(数量比)と、光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図25】試験例6において、被検物質量と、光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[用語の定義]
本発明の実施の形態を説明するにあたり、まず、本明細書で用いられる用語の定義を示す。
本明細書において、捕捉物質(図1中、「10」)とは、被検物質Sを捕捉する物質であって、作用電極161上に固定化されている物質をいう。
標識結合物質(図1中、「20」)とは、溶解性担体(図1中、「21」)と、修飾標識物質(図1中、「23」)と、結合物質(図1中、「22」)とを含む物質をいう。図1に示される標識結合物質20においては、溶解性担体21上に修飾標識物質23と、結合物質22とが固定化されている。
結合物質22は、被検物質Sを捕捉する物質であって、溶解性担体21上に固定化されている物質である。
また、修飾標識物質(図1中、「23」)とは、標識物質(図1中、「24」)を含み、作用電極へ誘引可能な物質をいう。かかる「修飾標識物質」の用語の概念には、標識物質(図1中、「24」)と誘引用修飾物質(図1中、「25」)とからなる物質が包含される。また、標識物質(図1中、「24」)が、そのままの状態で作用電極へ誘引可能である場合には、「修飾標識物質」の用語の概念には、当該標識物質単独のものが包含される。
【0011】
[検出装置の構成]
つぎに、本発明の被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置の一例を添付図面により説明する。
図2は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検出装置を示す斜視図である。この検出装置101は、光化学的に活性な物質を標識物質として用い、光電気化学的に被検物質を検出する電気化学的検出方法に用いる検出装置である。
【0012】
検出装置101は、検査チップ120が挿入されるチップ受入部111と、検出結果を表示するディスプレイ112とを備えている。
【0013】
図3は、図2に示される検出装置の構成を示すブロック図である。検出装置101は、光源113と、電流計114と、電源115と、A/D変換部116と、制御部117と、ディスプレイ112とを備えている。
光源113は、検査チップ120の作用電極上に存在させた標識物質に光を照射して当該標識物質を励起させる。光源113は、励起光を発生する光源であればよい。かかる光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED、レーザーまたは太陽光が好ましい。前記光源のなかでは、レーザーがより好ましい。前記光源は、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタにより、特定波長領域の光のみが放出されるものであってもよい。
電流計114は、励起された検出物質から放出される電子に起因して検査チップ120内を流れる電流を測定する。
電源115は、検査チップ120に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。
A/D変換部116は、電流計114によって測定された光電流値をデジタル変換する。
制御部117は、CPU、ROM、RAM等から構成され、ディスプレイ112、光源113、電流計114及び電源115の動作を制御する。また、制御部117は、A/D変換部16でデジタル変換された光電流値から、予め作成された光電流値と標識物質の量との関係を示す検量線に基づき、標識物質の量を概算し、被検物質の量を算出する。
ディスプレイ112は、制御部117で概算された検出物質の量等の情報を表示する。
【0014】
なお、本発明において、前記標識物質を後述の酸化還元電流・電気化学発光検出法にしたがって検出する場合、検出装置は、光源113を備えていなくともよい(図示せず)。
前記標識物質を含む検出物質を電気化学発光により検出する場合、検出装置は、標識物質から生じる光等を検出するためのセンサをさらに備えていればよい。
【0015】
[検査チップの構成]
つぎに、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップ120の構成を説明する。図4は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法に用いられる検査チップを示す斜視図である。図5は、図4に示される検査チップのAA線での断面図である。
【0016】
検査チップ120は、上基板130と、上基板130の下方に設けられた下基板(電極基板)140と、上基板130と下基板140とに挟まれた間隔保持部材150とを備えている。検査チップ120では、上基板130と下基板140とは、一側部において重複して配置されている。そして、上基板130と下基板140とが重複する部分には、間隔保持部材50が介在している。
【0017】
上基板130は、図6(A)に示されるように、基板本体130aから構成されている。この基板本体130aには、検出物質を含む試料等を内部に注入するための試料注入口130bが設けられている。この試料注入口130bは、基板本体130aにおいて、間隔保持部材150が介装される部分よりも内側に設けられている。
【0018】
基板本体130aは、矩形状に形成されている。なお、かかる基板本体130aの形状は、特に限定されるものではなく、多角形形状、円盤状等であってもよい。基板の作製及び取り扱いの簡便性の観点から、好ましくは矩形状である。基板本体130aを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、光の透過性、十分な耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体130aの厚さは、十分な耐久性を確保する観点から、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.1〜0.7mm、さらに好ましくは約0.5mmである。また、基板本体130aの大きさは、特に限定されないが、多種類の検出物質や被検物質の検出(多項目)を前提とした場合には項目数によるが、通常、20mm×20mm程度の大きさである。
【0019】
下基板140は、図6(B)に示されるように、基板本体140aと、作用電極161と、対極168と、参照電極169とを備えている。基板本体140aは、上基板130の基板本体130aと略同寸法の矩形状に形成されている。この基板本体140aの表面には、作用電極161と、この作用電極161に接続されている電極リード171と、対極168と、この対極168に接続された電極リード172と、参照電極169、この参照電極169に接続された電極リード173とが形成されている。
【0020】
基板本体140aを構成する材料は、光の透過性を有する材料であればよい。かかる材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、十分な光の透過性、耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体140aの厚さ及び大きさは、前記上基板130の基板本体130aを構成する材料、基板本体130aの厚さ及び大きさと同様である。
【0021】
下基板140においては、作用電極161は、基板本体140aの一側部〔図6(B)の右側〕に配置されている。電極リード171は、作用電極161から基板本体140aの他側部〔図6(B)の左側〕に向けて延びている。また、対極168は、基板本体140a上において、作用電極161よりも外側〔図6(B)において、作用電極161の右側〕に配置されている。電極リード172は、対極168から、作用電極161を迂回して、基板本体140aの他側部〔図6(B)の左側〕に向けて延びている。さらに、参照電極169は、作用電極161を挟んで、対極166と対向する位置に配置されている。電極リード173は、参照電極169から基板本体140aの他側部〔図6(B)の左側〕に向けて延びている。そして、作用電極161の電極リード171と、対極166の電極リード172と参照電極169の電極リード173とは、基板本体140aの他側部において互いに並列するように配置されている。また、電極リード171,172,173は、上基板130と下基板140とが重複する部分からはみ出して外部に露出している。
【0022】
作用電極161は、ほぼ四角形状に形成されている。
図7(a)は、光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。
図7(a)に示される作用電極161は、基板本体140aと、この基板本体140a上に形成された作用電極本体162とから構成されている。そして、この作用電極本体162の表面には、捕捉物質10が固定化されている。
【0023】
作用電極本体162は、導電層163と、この導電層163の表面に形成された電子受容層164とからなる〔図7(a)参照〕。
【0024】
導電層163は、導電性材料からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金;酸化インジウム、スズをドーパントとして含む酸化インジウム等の酸化インジウム系材料;酸化スズ、アンチモンをドーパントとして含む酸化スズ(ATO)、フッ素をドーパントとして含む酸化スズ(FTO)等の酸化スズ系材料;チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン系材料;グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバー等からなる炭素系材料等が挙げられる。
導電層163の厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは10〜200nmである。
なお、導電性材料は、ガラス、プラスチック等の非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状及びスポット状のいずれであってもよい。導電材層を構成する材料としては、例えば、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)等が挙げられる。
導電層163は、例えば、当該導電層163を構成する材料の種類に応じた膜形成方法により形成させることができる。膜形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、インプリント法、スクリーン印刷法、めっき処理法、ゾルゲル法、スピンコート法、浸漬法、気相蒸着法等が挙げられる。
【0025】
電子受容層164は、電子を受容可能な物質(電子受容物質)を含んでいる。前記電子受容物質は、光励起により検出物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位をとり得る物質であればよい。ここで、「光励起により検出物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位」とは、例えば、電子受容性物質として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド)を意味する。すなわち、前記電子受容物質は、標識物質(後述)の最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位よりも低いエネルギー順位を有すればよい。
前記電子受容物質としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物を含む硫化物半導体;ガリウム、チタン等の窒化物を含む半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体(例えば、カドミウムセレナイド等);カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等の化合物を含む半導体;カーボン等の化合物半導体または有機物半導体等が挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体及び不純物半導体のいずれであってもよい。
【0026】
前記半導体のなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、スズをドーパントとして含む酸化インジウム及びフッ素をドーパントとして含む酸化スズが好ましい。スズをドーパントとして含む酸化インジウム及びフッ素をドーパントとして含む酸化スズは、電子受容物質及び導電性材料の両方の性質を兼ね備えている。そのため、これらの材料は、それぞれ単独で、作用電極本体を構成する材料として用いることができる。
電子受容層164の厚さは、通常、0.1〜100nm、好ましくは0.1〜10nmである。
かかる電子受容層164は、電子受容層164を構成する材料の種類に応じて、導電層163の形成に用いられる手法と同様の手法により形成させることができる。
導電層163が前記複合基材である場合、電子受容層164は、前記導電材層上に形成される。
【0027】
作用電極本体162の表面(電子受容層164の表面)には、被検物質Sを捕捉する捕捉物質10が固定化されている〔図7(a)参照〕。これにより、被検物質Sを作用電極本体162の近傍に存在させることができるようになっている。
かかる捕捉物質10は、被検物質Sの種類に応じて、適宜選択することができる。前記捕捉物質10としては、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、特異的な認識能を持つナノ構造体等が挙げられる。
作用電極本体162の表面上における捕捉物質10の固定量は、特に限定されるものではない。作用電極本体162の表面上における捕捉物質10の固定量は、例えば、用途及び目的に応じて設定してもよい。
作用電極本体162の表面への捕捉物質10の固定は、作用電極本体162に化学吸着する結合基等を介して行うことができる。前記結合基としては、例えば、チオール基、ヒドロキシル基、リン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。また、作用電極本体162の表面への捕捉物質10の固定は、光硬化性樹脂や物理吸着により行なわれていてもよい。
【0028】
また、作用電極本体162には、シランカップリング剤等を用いた表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理により、作用電極本体162の表面を親水性または疎水性を有するように適宜調節することができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)等のカチオン性シランカップリング剤等が挙げられる。
【0029】
図7(b)、図8(a)及び図8(b)は、光電気化学検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例の断面説明図である。
本発明においては、図7(b)に示されるように、導電層163は、基板本体140aの表面に形成された絶縁層165上に形成されていてもよい。この場合、基板本体140aの表面に、順に、絶縁層165、導電層163、電子受容層164が形成されている。
かかる絶縁層165は、絶縁体材料から構成されている。前記絶縁体材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、プラスチック類やフッ化物樹脂等の合成樹脂等が挙げられる。かかる絶縁層165は、絶縁体材料の種類に応じた手法により形成させることができる。前記手法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法、スクリーン印刷、インプリント法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
【0030】
また、本発明においては、図8(a)及び(b)に示されるように、電子受容層164を構成する電子受容物質が導電性材料としての性質を兼ね備えている場合、作用電極本体162は、電子受容層164のみで構成されていてもよい。
【0031】
図9(a)は、酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の断面説明図である。また、図9(b)は、酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いられる下基板の作用電極を含む部分の変形例の断面説明図である。
検査チップを酸化還元電流・電気化学発光検出法に用いる場合、作用電極161は、用いられる溶液等に対して安定であり、かつ導電性を有する材料からなる電極であればよい〔図9(a)及び(b)参照〕。かかる電極としては、例えば、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバー等からなる炭素電極、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウム等からなる貴金属電極、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛等からなる酸化物電極、電子受容物質としてのケイ素、ゲルマニウム、酸化亜鉛、硫化カドミウム、二酸化チタン、ヒ化ガリウム等からなる半導体電極、チタンからなるチタン電極等が挙げられる。
【0032】
対極166は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。
【0033】
参照電極169は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属またはこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。なお、本実施の形態では、参照電極169を設けているが、本発明においては、参照電極169を設けなくてもよい。対極166に用いる電極の種類、膜厚にもよるが、電圧降下の影響が僅かな小さな電流(例えば、1μA以下)を測定する場合は、対極166が参照電極169を兼ねていてもよい。一方、大きな電流を測定する場合、電圧降下の影響を抑制し、作用電極161に印加する電圧を安定化させる観点から、参照電極169を設けることが好ましい。
【0034】
間隔保持部材150は、矩形の環状体形状に形成され、絶縁体であるシリコーンゴムからなっている。この間隔保持部材150は、作用電極161、対極166及び参照電極169を取り囲むように配置されている(図5及び図6参照)。上基板130と下基板140との間には間隔保持部材150の厚さに相当する間隔が形成されている。これにより、各電極161,166,169の間には試料や電解液を収容するための空間120aが形成されている(図5参照)。間隔保持部材150の厚さは、通常、0.2〜300μmである。本発明においては、間隔保持部材150を構成する材料として、シリコーンゴムの代わりに、例えば、ポリエステルフィルム製両面テープ等を用いることもできる。
【0035】
[検査チップの変形例]
本発明においては、作用電極161、対極166及び参照電極169は、各電極が他の電極と接触しないように間隔保持部材150の枠内に配置されていればよい。したがって、作用電極161、対極166及び参照電極169は、異なる基板本体上に形成されてもよい。すなわち、検査チップは、基板本体131aに試料注入口131b及び参照電極169が形成された上基板131〔図10(A)参照〕と、基板本体141aに作用電極161及び対極166が形成された下基板141〔図10(B)参照〕とを有するものであってもよい。また、検査チップは、基板本体132aに試料注入口132b、対極166及び参照電極169が形成された上基板132〔図11(A)参照〕と、基板本体142aに作用電極161が形成された下基板142〔図11(B)参照〕とを有するものであってもよい。
【0036】
さらに、本発明においては、対極166及び参照電極169は、基板本体上に形成された薄膜状の電極でなくてもよい。すなわち、検査チップは、基板本体133aに試料注入口133bが形成された上基板133〔図12(A)参照〕と、基板本体143aに作用電極161が形成された下基板143〔図12(B)参照〕と、部材本体151aに対極166及び参照電極169が設けられた間隔保持部材151〔図12(C)参照〕とを有するものであってもよい。この場合、対極166及び参照電極169の少なくともいずれかが間隔保持部材の部材本体に設けられていればよい。そして、上基板及び下基板のいずれかに、部材本体に設けた電極以外の電極が設けられていればよい。
【0037】
[被検物質の電気化学的検出方法]
本発明の被検物質の電気化学的検出方法は、
(A)被検物質を含む試料を、作用電極に接触させて、作用電極上に捕捉する捕捉工程、(B)前記被検物質が捕捉された作用電極に、被検物質に結合する結合物質と標識物質を含有する修飾標識物質とが結合した溶解性担体を有する標識結合物質を接触させて、前記作用電極上に、前記被検物質と前記標識結合物質とを含む複合体を形成させる形成工程、
(C)前記作用電極上に形成された複合体に含まれる前記溶解性担体を溶解させ、前記修飾標識物質を遊離させる遊離工程、
(D)前記修飾標識物質を作用電極上に誘引する誘引工程、
及び
(E)前記修飾標識物質中の標識物質を電気化学的に検出する検出工程
を含むことを特徴とする。
【0038】
本発明の方法は、下記(1)〜(3)を行なう点に1つの特徴がある。
(1)作用電極上における被検物質と標識結合物質とを含む複合体の形成、
(2)この複合体中の標識結合物質に含まれる溶解性担体の溶解、及び
(3)作用電極上への修飾標識物質の誘引
【0039】
前記複合体を形成することにより、被検物質に応じた量の修飾標識物質を得ることができる。また、前記溶解性担体を溶解させ、その後、作用電極上に、修飾標識物質を誘引することにより、標識物質と作用電極との間で、容易に、効率よく電子の授受を行なうことができるようになる。したがって、本発明の方法によれば、被検物質に応じた量の標識物質を、高感度で検出することができる。
【0040】
本発明の方法では、前記標識物質として、電気化学的又は光化学的に活性な物質が用いられる。電気化学的に活性な物質は、当該物質に基づく酸化還元電流及び/又は電気化学発光を用いて検出される。一方、光化学的に活性な物質は、当該物質が光により励起されることにより放出される電子を用いて検出される。したがって、本発明の方法は、標識物質の検出技術の種類によって、光電気化学検出法(図13参照)及び酸化還元電流・電気化学発光検出法(図14)に大別することができる。
【0041】
1.光電気化学検出法
まず、光電気化学検出方法について説明する。図13は、本発明の一実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法(光電気化学検出法)の処理手順を示す工程説明図である。光電気化学検出方法には、上述した図1に示される検出装置及び図4に示される検査チップを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
以下、図4に示される検査チップを用いる場合を例としてあげて説明する。
【0042】
光電気化学検出法では、まず、検査チップ120の試料注入口130bから当該検査チップ内に被検物質Sを含有する試料を注入する。そして、作用電極161上に被検物質Sを捕捉する〔前記工程(A)、図13(A)を参照〕。工程(A)では、被検物質Sは、作用電極本体162の表面に固定化された捕捉物質10によって作用電極161上に捕捉される。このとき、前記試料中の被検物質S以外の物質(夾雑物質F)は、捕捉物質10に捕捉されない。
【0043】
なお、本発明においては、被検物質Sを特異的に作用電極161上に捕捉することができるのであれば、捕捉物質10を用いなくてもよい。例えば、作用電極としてITOを用いた場合、ITOとチオール基とが結合可能であることを利用して、捕捉物質10を用いなくともチオール基を有する被検物質Sを作用電極161上に捕捉することが可能である。
【0044】
捕捉物質10としては、被検物質Sの種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質Sが核酸である場合、捕捉物質10は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ又は前記核酸に対する抗体であればよい。また、被検物質Sがタンパク質又はペプチドである場合、捕捉物質10は、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体、タンパク質に対するリガンド、ペプチドに対するレセプタータンパク質等であればよい。
【0045】
捕捉物質10による被検物質Sの捕捉は、例えば、捕捉物質10と被検物質Sとが結合する条件下で行なうことができる。捕捉物質10と被検物質Sとが結合する条件は、被検物質Sの種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、被検物質Sが核酸であり、捕捉物質10が前記核酸にハイブリダイズする核酸プローブである場合、被検物質Sの捕捉は、ハイブリダイゼーション用緩衝液存在下に行なうことができる。また。被検物質Sが核酸であり、捕捉物質10が前記核酸に対する抗体である場合、被検物質10の捕捉は、リン酸緩衝生理的食塩水、ヘペス(HEPES)緩衝液、ピペス(PIPES)緩衝液、トリス(Tris)緩衝液等の抗原抗体反応を行なうに適した溶液中で行なうことができる。
【0046】
つぎに、試料注入口130bから当該検査チップ120内に標識結合物質20aを注入する。これにより、標識結合物質20aを作用電極161上に捕捉された被検物質Sに結合させる〔前記工程(B)、図13(B)を参照〕。工程(B)では、作用電極161上に、捕捉物質10と被検物質Sと標識結合物質20aとを含む複合体が形成される。
【0047】
標識結合物質20aは、溶解性担体21と、標識物質24a及び誘引用修飾物質25とからなる修飾標識物質23aと、被検物質Sに結合する結合物質22とから構成されている。標識結合物質20aでは、修飾標識物質23a及び結合物質22は、溶解性担体21の表面に固定化されている。
【0048】
標識物質24aは、光を照射することにより励起状態となり電子を放出する物質である。標識物質24aとして、金属錯体、有機蛍光体、量子ドット及び無機蛍光体からなる群より選択された少なくとも1つを用いることができる。
前記標識物質の具体例としては、金属フタロシアン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素、BODIPY系色素、CALFluor系色素、オレゴングリーン系色素、ロードル(Rhodol)グリーン、テキサスレッド、カスケードブルー、核酸(DNA、RNA等)、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、Ln23:Re、Ln22S:Re、ZnO、CaWO4、MO・xAl23:Eu、Zn2SiO4:Mn、LaPO4:Ce、Tb、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5及びCy9(いずれも、アマシャムバイオサイエンス社製);Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750及びAlexa Fluor 790(いずれも、モレキュラープローブ社製);DY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DY―800、DYQ−660及びDYQ−661(いずれも、Dyomics社製);Atto425、Atto465、Atto488、Atto495、Atto520、Atto532、Atto550、Atto565、Atto590、Atto594、Atto610、Atto611X、Atto620、Atto633、Atto635、Atto637、Atto647、Atto655、Atto680、Atto700、Atto725及びAtto740(いずれも、Atto−TEC GmbH社製);VivoTagS680、VivoTag680及びVivoTagS750(いずれも、VisEnMedical社製)等が挙げられる。なお、前記LnはLa、Gd、Lu又はYを示し、Reはランタニド族元素を示し、Mはアルカリ土類金属元素を示し、xは0.5〜1.5の数を示す。標識物質の他の例については、例えば、特許第4086090号公報、特開平7−83927号公報、特願2008−154179号公報等を参照することができる。
【0049】
誘引用修飾物質25としては、例えば、DNA、RNA等の核酸等が挙げられる。なお、本発明においては、標識物質24aが作用電極へ誘引可能な物質である場合、かかる誘引用修飾物質25を用いなくてもよい。
ここで、誘引用修飾物質として、核酸を用いる場合、後述する修飾標識物質23aを作用電極161に誘引する観点および溶解性担体への結合効率の観点から、当該核酸の長さは1塩基以上10000塩基以下、より具体的には10塩基〜40塩基が好ましい。
【0050】
結合物質22は、被検物質Sにおいて、捕捉物質10とは異なる位置や場所に結合する物質であればよい。かかる結合物質22は、被検物質Sの種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質Sが核酸である場合、結合物質22は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ又は前記核酸に対する抗体であればよい。また、被検物質Sがタンパク質又はペプチドである場合、結合物質22は、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体、タンパク質に対するリガンド、ペプチドに対するレセプタータンパク質等であればよい。
【0051】
修飾標識物質20aは、後述の工程において、作用電極161への誘引が容易であることから、標識物質24aと核酸とからなることが好ましい。
【0052】
工程(B)では、被検物質Sに結合していない残部の標識結合物質20aは、検査チップ120内において、遊離した状態で存在している。したがって、工程(B)の後、遊離の標識結合物質20aを除去する工程〔「洗浄工程」、図13(C)参照〕をさらに行なう。これにより、検出結果の特性を向上させることができる。なお、かかる洗浄工程は、行なわなくてもよい。かかる洗浄工程では、例えば、エタノール、精製水等が用いられる。
【0053】
光電気化学検出法では、つぎに、作用電極161上に形成された複合体に含まれる21溶解性担体21を溶解させ、修飾標識物質23aを遊離させる〔前記工程(C)、図13(D)参照〕。
【0054】
溶解性担体21は、溶解して、その表面に固定化された修飾標識物質23aを遊離状態にさせることができる物質であればよい。前記溶解性担体21としては、例えば、金、銀、パラジウム、プラチナ、イリジウム、ロジウム等の金属からなる金属微粒子;ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリルニトリル、ナイロン、エチレン・アクリル酸共重合物、スチレン・アクリル酸エステル、架橋スチレン・アクリル、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸ブチル、架橋ポリメタクリル酸メチル、シリコン樹脂、フェノール樹脂、メラミン・ホルマリン、ベンゾグアナミン・ホルマリン、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルマリン、ポリ乳酸、ポリアミド樹脂等のポリマーからなるポリマー微粒子;パルミテート、オレエート等の脂肪酸のイオン、または、ポリアルキレンオキシド、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸、ポリエチレングリコール等の親水性高分子連鎖部とポリアミノ酸、ポリスチレン、ポリメタクリル酸エステル等の疎水性高分子連鎖部とを有する高分子化合物等からなる高分子ミセル微粒子;リン脂質を水和した際に形成する微小な球体粒子であるリポソーム;アガロースゲル等の多糖類のゲルからなる多孔性微粒子等が挙げられる。
前記溶解性担体21のなかでは、取り扱いが容易であることから、金ナノ粒子(金微粒子)が好ましい。
なお、溶解性担体21は、修飾標識物質を固定する表面部分のみを溶解させることで、修飾標識物質を遊離させることができるのであれば、異なる材料からなる複数の層を有する担体であってもよい。例えば、酸化鉄(磁性)ナノ粒子周囲に金ナノ粒子を結合させた金−酸化鉄(磁性)ナノ粒子のうち金ナノ粒子のみが溶解される担体等が挙げられる。
【0055】
溶解性担体21の溶解は、検査チップ120を構成する基板本体の材料や電極(作用電極、対極及び参照電極)の材料を劣化させない条件下に、溶解性担体21の種類に応じた手法により行なうことができる。例えば、溶解性担体21を溶解する液体により、または溶解性担体21が熱により溶融する担体である場合には、溶解性担体21を加熱することにより、溶解性担体21を溶解させることができる。
溶解性担体21が前記金属微粒子である場合、検査チップ120を構成する基板本体の材料や電極(作用電極、対極及び参照電極)の材料を劣化させない条件下に、金属の酸化溶解を行なうことにより、溶解性担体21を溶解させることができる。金属微粒子の溶解には、水酸化アルカリを含む液体、シアン化アルカリを含む液体、フェロシアン化塩を含む液体、ハロゲンとハロゲン化物との混合物を含む液体等を用いることができる。水酸化アルカリを含む液体としては、例えば、水酸化カリウム等の溶解液が挙げられる。また、シアン化アルカリを含む液体としては、例えば、シアン化ナトリウム(NaCN)と水酸化ナトリウムとを含む水溶液等が挙げられる。フェロシアン化塩を含む液体としては、例えば、フェロシアン化カリウムとシアン化カリウムとの混合物等が挙げられる。ハロゲン単体とハロゲン化塩との混合物としては、ヨウ素とヨウ化アルカリ(例えば、ヨウ化アンモニウム等)との混合物、臭素と臭化アルカリ(例えば、臭化アンモニウム)との混合物等が挙げられる。これらの溶解液に用いる溶媒としては、例えば、アセトニトリル等の有機溶媒、また、純水等が挙げられる。例えば、溶解性担体21として、金微粒子を用いた場合、金の剥離液やエッチング液として知られる液体を用いることができる。
溶解性担体21が前記ポリマー微粒子である場合、検査チップ120を構成する基板本体の材料や電極(作用電極、対極及び参照電極)の材料を劣化させない条件下に、有機溶媒を当該溶解性担体21に接触させること;当該溶解性担体21を構成するポリマーの融点よりも高い温度に前記溶解性担体21を加熱すること等により、溶解性担体21を溶解させることができる。前記有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、エーテル化合物、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、アセトン、塩化メチレン、シクロペンタノン等が挙げられる。
溶解性担体21が前記高分子ミセルやリポソームである場合、ミセル構造を崩壊させる超音波処理や水による希釈等により、溶解性担体21を溶解させることができる。
溶解性担体21が前記多孔性微粒子である場合、当該溶解性担体21を構成する多糖類のゲルの融点以上の温度に前記溶解性担体21を加熱すること等により、溶解性担体21を溶解させることができる。
溶解性担体21が金ナノ粒子(金微粒子)である場合、ヨウ化物イオンとアセトニトリルとを含有する液体を用いることにより、当該溶解性担体21を容易に溶解させることができる。
【0056】
光電気化学検出法では、つぎに、修飾標識物質23aを作用電極161上に誘引する〔前記工程(D)、図13(E)参照〕。これにより、前記工程(C)で、遊離した修飾標識物質23aが作用電極161の近傍に移送される。したがって、前記工程(C)で、修飾標識物質23aを遊離させただけの状態と比べて、標識物質24aと作用電極本体162との間の電子の授受が一層容易になる。
【0057】
前記工程(D)では、修飾標識物質23aを作用電極161の近傍に誘引させる溶媒(「誘引液」ともいう)を用いることができる。作用電極161上への修飾標識物質の誘引は、修飾標識物質23a、誘引液及び作用電極161との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用、又は、作用電極161又は対極169に電圧を印加することによる電気泳動効果を利用すること等により行なうことができる。
【0058】
本誘引工程は、例えば、
1) 誘引液の疎水性・親水性を変更することにより、修飾標識物質23aと作用電極161との間の疎水性相互作用若しくは親水性相互作用を大きくすること〔すなわち、修飾標識物質23aを、極性の違いによって、作用電極161に誘引すること〕(誘引方法1)、
2) 修飾標識物質23aの電荷に応じて、正又は負の電圧を作用電極161に印加することにより、電気泳動効果を大きくすること〔すなわち、修飾標識物質23aを、電気泳動効果を利用することによって、作用電極161)に誘引すること〕(誘引方法2)等によって行なうことができる。前記の誘引方法1及び誘引方法2は、それぞれ単独で行なってもよく、両者を組み合わせて行なってもよい。
【0059】
誘引方法1では、誘引用修飾物質25として核酸を用いる場合、誘引液は、修飾標識物質23aと作用電極161との間の疎水性相互作用又は親水性相互作用を大きくして、作用電極161の近傍に検出物質を誘引しやすくする観点から、カオトロピックイオンを含有する液体であることが好ましい。
【0060】
前記カオトロピックイオンとしては、例えば、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、グアニジンイオン、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。
【0061】
誘引液がカオトロピックイオンを含有する場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、用いられるカオトロピックイオンの種類により異なる。前記濃度は、通常1.0〜8.0mol/Lである。カオトロピックイオンがグアニジンイオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、4.0〜7.5mol/Lである。また、チオシアン酸イオンである場合、誘引液中におけるカオトロピックイオンの濃度は、通常、3.0〜5.5mol/Lである。
【0062】
なお、標識物質24a又は誘引用修飾物質25として核酸(DNA、RNA等)を用いる場合、慣用の核酸抽出・精製方法の原理を利用して、修飾標識物質23aを、作用電極161の近傍に誘引させることができる。
【0063】
前記核酸抽出・精製方法としては、液相を用いる方法、核酸結合用担体を用いる方法等が挙げられる。液相を用いる方法としては、例えば、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta、1963年発行、第72巻、pp.619−629)、アルカリSDS法(Nucleic Acid Research、1979年発行、第7巻、pp.1513−1523)、塩酸グアニジンを含有する緩衝液にエタノールを加え核酸を沈降させる方法(Analytical Biochemistry、162、1987、463)等が挙げられる。核酸結合用担体を用いる方法としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液とを用いて核酸をガラス粒子に吸着させ、単離する方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76−2:615−619,1979)や、シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法〔例えば、J.Clinical.Microbiology、1990年発行、第28巻、pp.495−503、特許第2680462号公報等を参照〕等が挙げられる。シリカ粒子とカオトロピックイオンを用いる方法では、まず、核酸が結合するシリカ粒子と試料中の核酸を遊離する能力を有するカオトロピックイオンを含む溶液とを試料と混合して核酸をシリカ粒子に結合させる。つぎに、夾雑物質を洗浄により除去する。その後、シリカ粒子に結合した核酸を回収する。前記方法によれば、簡便、かつ迅速に核酸を抽出することができる。しかも、かかる方法は、DNAの抽出だけではなく、より不安定であるRNAの抽出にも好適であり、純度の高い核酸が得られるという点で非常に優れている。
そこで、修飾標識物質23aが、標識物質24a又は誘引用修飾物質25として核酸を含む場合、前記核酸抽出・精製方法に用いられる溶媒を誘引液として用いることにより、修飾標識物質23aを作用電極161の近傍に誘引させることができる。この場合、カオトロピックイオンとして、グアニジンイオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオン又はこれらの任意の組み合わせを用い、作用電極161として核酸を結合する電極(例えば、スズをドープした酸化インジウム等)を用いることが好ましい。
【0064】
また、修飾標識物質23aが、標識物質24a又は誘引用修飾物質25として核酸を含む場合、誘引液は、必要に応じて、緩衝液を含有していてもよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持するために一般に用いられる緩衝液であればよい。前記緩衝液は、核酸を安定に保持する観点から、中性付近、すなわちpH5.0〜9.0において緩衝能を有することが好ましい。前記緩衝液としては、例えば、トリス−塩酸塩、四ホウ酸ナトリウム−塩酸、リン酸二水素カリウム−四ホウ酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。緩衝液の濃度は、1〜500mmol/Lであることが好ましい。
【0065】
一方、誘引方法2では、修飾標識物質23aの電荷に応じて、正又は負の電圧を作用電極161に印加する。ここで、核酸は負に荷電している。したがって、修飾標識物質23aが、標識物質24a又は誘引用修飾物質25として核酸を含む場合、作用電極161に正の電圧を印加することにより、修飾標識物質23aを作用電極161の近傍に誘引させることができる。
【0066】
光電気化学検出法では、つぎに、検査チップ120の作用電極161上に存在する修飾標識物質23a中の標識物質24aに光を照射して標識物質24aを励起させ、光電流を測定することにより、検出物質を検出する〔前記工程(E)、図13(F)参照〕。
【0067】
工程(E)では、前記工程(D)において誘引液を用いた場合、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、標識物質24aを電気化学的に検出する。
なお、誘引液が、酸化された状態の標識物質24aに電子を供給する性質を有し、標識物質24aの電気化学的な検出が可能である場合、工程(E)において、この誘引液をそのまま用いてもよい。
【0068】
前記電解液として、酸化された状態の標識物質24aに電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物とを含む溶液を用いることができる。この電解液は、所望により、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0069】
電解質としては、例えば、ヨウ化物、臭化物、金属錯体、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、これらの混合物等が挙げられる。前記電解質の具体例としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウム等の金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウム等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩;フェロシアン酸塩、フェリシニウムイオン等の金属錯体;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム等のチオ硫酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩;及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド及びヨウ化カルシウムが好ましい。
【0070】
電解液の電解質濃度は、好ましくは0.001〜15Mである。
【0071】
プロトン性極性溶媒として、水、水を主体に緩衝液成分を混合した極性溶媒等を用いることができる。
非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(CHCN)等のニトリル類;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート類、1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリノン、ジアルキルイミダゾリウム塩等の複素環化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒のなかでは、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒及び非プロトン性極性溶媒は、単独で、又は両者を混合して用いることができる。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合物は、水とアセトニトリルとの混合物が好ましい。
【0072】
標識物質24aへの光の照射には、標識物質24aを光励起することができる波長の光を照射できる光源を用いることができる。かかる光源は、標識物質24aの種類等に応じて、適宜選択することができる。前記光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED又は太陽光が好ましい。また、検出工程においては、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを標識物質24aに照射してもよい。
【0073】
標識物質24aに由来する光電流の測定には、例えば、電流計、ポテンショスタット、レコ−ダ及び計算機を備える測定装置等を用いることができる。
かかる工程(E)では、光電流を定量することにより、被検物質の量を調べることができる。
【0074】
2.酸化還元電流・電気化学発光検出法
つぎに、酸化還元電流・電気化学発光検出法について説明する。図14は、本発明の他の実施の形態に係る被検物質の電気化学的検出方法(酸化還元電流・電気化学発光検出法)の処理手順を示す工程説明図である。
【0075】
かかる酸化還元電流・電気化学発光検出法においても、前記光電気化学検出法の場合と同様に、まず、検査チップ120の試料注入口130bから当該検査チップ内に被検物質Sを含有する試料を注入する。そして、作用電極161上に被検物質Sを捕捉する〔前記工程(A)、図14(A)を参照〕。つぎに、試料注入口130bから当該検査チップ120内に標識結合物質20bを注入する。これにより、標識結合物質20bを作用電極161上に捕捉された被検物質Sに結合させる〔前記工程(B)、図14(B)を参照〕。
【0076】
標識結合物質20bは、溶解性担体21と、標識物質24b及び誘引用修飾物質25とからなる修飾標識物質23bと、被検物質Sに結合する結合物質22とから構成されている。修飾標識物質23b及び結合物質22は、溶解性担体21の表面に固定化されている。
標識物質24bは、電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質又は電圧を印加することにより発光する標識物質である。
電圧を印加することにより酸化還元電流を生じる標識物質としては、例えば、電気的に可逆的な酸化還元反応を起こす金属を中心金属として含む金属錯体等が挙げられる。このような金属錯体としては、例えば、トリス(フェナントロリン)亜鉛錯体、トリス(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、トリス(フェナントロリン)コバルト錯体、ジ(フェナントロリン)亜鉛錯体、ジ(フェナントロリン)ルテニュウム錯体、ジ(フェナントロリン)コバルト錯体、ビピリジンプラチナ錯体、ターピリジンプラチナ錯体、フェナントロリンプラチナ錯体、トリス(ビピリジル)亜鉛錯体、トリス(ビピリジル)ルテニュウム錯体、トリス(ビピリジル)コバルト錯体、ジ(ビピリジル)亜鉛錯体、ジ(ビピリジル)ルテニュウム錯体、ジ(ビピリジル)コバルト錯体等が挙げられる。
また、酸化還元電流・電気化学発光検出法においても、誘引用修飾物質としても利用可能な核酸を標識物質として用いてもよい。標識物質23bとして核酸を用いた場合、核酸由来の酸化還元電流として、アデニン、チミン、グアニン、シトシン又はウラシルに由来する酸化還元電流を利用することができる。
電圧を印加することにより発光する標識物質としては、例えば、ルミノール、ルシゲニン、ピレン、ジフェニルアントラセン、ルブレン等が挙げられる。
これらの標識物質の発光は、例えば、ホタルルシフェリン、デヒドロルシフェリンのようなルシフェリン誘導体、フェニルフェノール、クロロフェノールのようなフェノ−ル類若しくはナフトール類のようなエンハンサ−を用いることにより増強することが可能である。
なお、誘引用修飾物質25及び結合物質22は、光電気化学検出法における誘引用修飾物質25及び結合物質22と同様である。
【0077】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、つぎに、遊離の標識結合物質20bを除去する〔「洗浄工程」、図14(C)参照〕。そして、作用電極161上に形成された複合体に含まれる溶解性担体21を溶解させ、修飾標識物質23bを遊離させる〔前記工程(C)、図14(D)参照〕。その後、修飾標識物質23bを作用電極161上に誘引する〔前記工程(D)、図14(E)参照〕。これらの工程は、前述した光電気化学検出法の場合と同様の操作により行なうことができる。
【0078】
酸化還元電流・電気化学発光検出法では、つぎに、検査チップ120の作用電極161上に存在する修飾標識物質23b中の標識物質24bに電圧を印加する。そして、標識物質24bに基づく酸化還元電流又は光を測定することにより、被検物質Sを検出する〔前記工程(E)、図14(F)〕。なお、図14(F)では、光を測定する場合を例として挙げて示している。
【0079】
かかる工程(E)では、前記工程(D)において誘引液を用いた場合、光電気化学検出法の場合と同様に、必要に応じて、誘引液を、電気化学的な検出に適した電解液に置換することができる。この場合、電解液の存在下において、標識物質24bを電気化学的に検出する。
【0080】
本工程(E)において、酸化還元電流を測定する場合、酸化還元電流の測定には、例えば、ポテンショスタット、ファンクションジェネレータ、レコ−ダ及び計算機を備える測定装置等を用いることができる。
この場合、酸化還元電流を定量することにより、被検物質Sの量を調べることができる。
【0081】
本工程(E)において、標識物質24bに基づく光を測定する場合、当該光の測定には、フォトンカウンタ等を用いることができる。また、この場合、電極の代わりに、光ファイバーの先端に透明電極を形成することにより得られる光ファイバー電極を用いて間接的に検出することもできる(特許第2573443号公報を参照)。
【実施例】
【0082】
以下、実施例等により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(製造例1)
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ200nm)からなる作用電極本体を形成した。前記薄膜は、導電層と電子受容層とを兼ねている。つぎに、前記作用電極本体に、電流計と接続するための作用電極リードを接続した。
【0084】
得られた作用電極基板の作用電極本体の表面に対して、シランカップリング剤である3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)により表面処理を施した。つぎに、捕捉物質として、抗マウスIgG抗体のF(ab’)2フラグメント〔ダコ社製〕をTCEP〔トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン〕により還元処理し、前記作用電極本体の表面のMPTESと反応させてジスルフィド結合を形成させることにより、前記捕捉物質を前記作用電極本体の表面に固定化した。その後、ブロッキング剤であるチオール化PEG〔シグマ−アルドリッチ社製〕を、前記作用電極本体の表面における残部のMPTESと反応させた。これにより、作用電極基板を得た。
【0085】
(製造例2)
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、厚さ200nmの白金薄膜(導電層)からなる対極を形成し、対極基板を得た。前記対極部には電流計と接続するための対極リードを接続した。これにより、対極基板を得た。
【0086】
(製造例3)
修飾標識物質として、3’末端をチオール化した24ヌクレオチド長のDNA〔図15(A)(d)中の「25」;以下、「誘引用修飾物質25」という。〕と、AlexaFluor750(インビトロジェン社製)〔図15(A)(d)中の「24a」;以下、「標識物質24a」という〕とからなる複合体〔図15(A)(d)中、「23a」〕を使用した。
【0087】
つぎに、前記修飾標識物質23aと、3’末端をチオール化した24ヌクレオチド長のビオチン標識DNA〔図15(A)(d)中、22c;以下、「第1結合物質22c」という〕とを10:1(モル比)となるように混合した。なお、第1結合物質22cは、24ヌクレオチド長のDNA〔誘引用修飾物質25〕と、ビオチン〔図15(A)(d)中、「22c1」〕とからなる。
【0088】
得られた混合物560ピコモルと、溶解性担体である金ナノ粒子〔図15(A)(d)中、「21」〕5.6ピコモルとを混合して前記修飾標識物質23a及び第1結合物質22cそれぞれのチオール基を溶解性担体21の表面に結合させた。得られた産物を限外濾過法により濃縮・精製し、第1修飾結合物質20c1を得た。得られた第1修飾結合物質20c1をその濃度が1nMとなるように0.1体積%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween−20)含有トリス緩衝溶液(TBS-T)リン酸緩衝化生理食塩水に添加し、混合して溶液Aを得た。
【0089】
(製造例4)
リン酸緩衝食塩水(PBS)に、アスコルビン酸を電解質として、その濃度が0.6Mとなるように添加して、電解液を得た。
【0090】
(製造例5)
アセトニトリルとエチレンカーボネートとを体積比で2:3となるように混合し、非プロトン性極性溶媒を得た。前記非プロトン性極性溶媒に、電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドをその濃度が0.6Mとなるように溶解させた。得られた溶液に、さらに電解質として、ヨウ素をその濃度が0.06Mとなるように溶解させ、溶解誘引電解液を得た。
【0091】
なお、前記ヨウ素及びテトラプロピルアンモニウムヨーダイドは、金ナノ粒子を溶解させることができる。また、前記ヨウ素又はテトラプロピルアンモニウムヨーダイドより生成されるヨウ化物イオンは、第1標識結合物質に含まれる修飾標識物質を作用電極上に誘引させることができる。したがって、本製造例4で得られた溶解誘引電解液を用いることにより、標識結合物質に用いられた担体の溶解、作用電極上への修飾標識物質の誘引及び電気化学検出を、同一の液体中で行なうことができる。
【0092】
(試験例1)
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極本体の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、マウスIgG(被検物質S)を含有する試料〔組成:1μgマウスIgG/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μLを供し、前記作用電極基板を25℃で60分間静置した。これにより、作用電極本体162上の捕捉物質10に、被検物質Sを捕捉させた〔図15(A)(a)参照〕。
【0093】
つぎに、前記作用電極基板の前記空間に、ビオチン標識抗マウスIgG抗体〔図15(A)(b)中、「22a」;以下、「第2結合物質22a」ともいう〕を含有する溶液B〔組成:4ngビオチン標識抗マウスIgG抗体(シグマ社製)/μL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した〔図15(A)(b)参照〕。これにより、作用電極本体162上の被検物質Sに、第2結合物質22aを付加した〔図15(A)(c)参照〕。なお、第2結合物質22aは、マウスIgGに結合する抗マウスIgG抗体22a1と、ビオチン22a2とからなる。
【0094】
つぎに、前記空間に、ストレプトアビジン〔図15(A)(c)中、「22b」、以下、「第3結合物質22b」ともいう〕を含有する溶液C〔400nMストレプトアビジン(ベクター社製)を含むトリス緩衝溶液(TBS-T)〕30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、前記空間に、製造例3で得られた溶液A30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。これにより、作用電極上に、捕捉物質10と被検物質Sと標識結合物質20cとを含む複合体を形成した〔図15(A)(d)参照〕。その後、作用電極基板を、トリス緩衝溶液(TBS-T)と純水とを用いて洗浄した(実験番号1)。また、被検物質Sを含有する試料の代わりに、被検物質Sを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号2)。
【0095】
なお、対照として、ビオチン標識抗マウスIgG抗体、ストレプトアビジン、製造例3で得られた溶液Aの代わりに、AlexaFluor750標識抗マウスIgG抗体を含有する溶液D〔組成:4ng AlexaFluor750標識抗マウスIgG抗体(インビトロジェン社製)/μL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μLを用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号3)〔図15(B)(a)及び(b)参照〕。また、被検物質Sを含有する試料の代わりに、被検物質Sを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号4)。
【0096】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例4で得られた電解液11.5μLを充填した。そして、前記電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。これにより、作用電極と対極とを電解液に接触させた。つぎに、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0097】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射した。光照射により、標識物質が励起され、電子を生じる。そして、前記電子が作用電極に輸送されることにより、作用電極と対極との間に電流が流れる。そこで、この電流を測定した。試験例1において、実験番号1〜4の方法での光電流の測定結果を図16に示す。
【0098】
図16に示された結果から、製造例4で得られた電解液を用いた場合、実験番号1及び実験番号3では、被検物質Sの存在に基づく光電流を検出することができることがわかる。しかしながら、被検物質Sが存在しない場合の光電流との差が小さい〔図16中、実験番号2及び実験番号4参照〕。これは、図17に示されるように、実験番号1の方法〔図17(A)参照〕及び実験番号3の方法〔図17(B)参照〕では、作用電極本体162と標識物質24a,203との間の距離が長く、標識物質24a,203から生じた電子が作用電極本体162に輸送されにくいためであると考えられる。
【0099】
(試験例2)
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極本体の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、マウスIgG(被検物質S)を含有する試料〔組成:1μgマウスIgG/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μLを供し、前記作用電極基板を25℃で60分間静置した。これにより、作用電極本体162上の捕捉物質10に、被検物質Sを捕捉させた〔図18(A)参照〕。
【0100】
つぎに、前記作用電極基板の前記空間に、ビオチン標識抗マウスIgG抗体(第2結合物質22a)を含有する溶液B30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。つぎに、前記空間に、ストレプトアビジン(第3結合物質22b)を含有する溶液C30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、前記空間に、製造例3で得られた溶液A30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。これにより、作用電極上に、捕捉物質10と被検物質Sと標識結合物質20cとを含む複合体を形成した〔図18(B)参照〕。その後、作用電極基板を、トリス緩衝溶液(TBS-T)と純水とを用いて洗浄した(実験番号5)。また、被検物質Sを含有する試料の代わりに、被検物質Sを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号6)。
【0101】
なお、対照として、ビオチン標識抗マウスIgG抗体、ストレプトアビジン、製造例3で得られた溶液A30μLの代わりに、AlexaFluor750標識抗マウスIgG抗体を含有する溶液D30μLを用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号7)。また、被検物質Sを含有する試料の代わりに、被検物質Sを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号8)。
【0102】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られた溶解誘引電解液11.5μLを充填した。さらに、前記溶解誘引電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。そして、前記作用電極基板及び対極基板を5分間静置した。これにより、作用電極と対極とを溶解誘引電解液に接触させた。つぎに、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。なお、製造例5で得られた溶解誘引電解液によって溶解性担体21は溶解され、修飾標識物質23aは遊離した状態となる。また、遊離した状態の修飾標識物質23aは、製造例5で得られた溶解誘引電解液によって作用電極本体162上に誘引される。
【0103】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射し、光電流を測定した。試験例2において、実験番号5〜8の方法での光電流の測定結果を図19に示す。
【0104】
図19に示された結果から、製造例5で得られた電解液を用いた場合、実験番号5の検出方法により検出された光電流は、実験番号7の検出方法により検出された光電流と比べて、大きいことがわかる。これは、図20に示されるように、実験番号7の方法〔図20(B)参照〕では、捕捉物質と被検物質と標識物質203とからなる複合体が物理的に嵩高い構造をとるため、作用電極本体162と標識物質203との間の距離が長く、標識物質203から生じた電子が作用電極本体162に輸送されにくいのに対し、実験番号5の方法〔図20(A)参照〕では、製造例5で得られた溶解誘引電解液による溶解性担体21の溶解と、遊離した修飾標識物質23aの作用電極本体162上への誘引とによって、電子の輸送が容易になることによると考えられる。
【0105】
(試験例3)
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極本体の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、マウスIgGを含有する試料〔組成:1μgマウスIgG/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μLを供し、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。
【0106】
つぎに、前記作用電極基板の前記空間に、ビオチン標識抗マウスIgG抗体(第2結合物質22a)を含有する溶液B30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。つぎに、前記空間に、ストレプトアビジン(第3結合物質22b)を含有する溶液C30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、前記空間に、製造例3で得られた溶液A30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。つぎに、作用電極基板を、トリス緩衝溶液(TBS-T)と純水とを用いて洗浄した(実験番号9)。また、マウスIgGを含有する試料の代わりに、マウスIgGを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号10)。
【0107】
なお、対照として、ビオチン標識抗マウスIgG抗体、ストレプトアビジン、製造例3で得られた溶液A30μLの代わりに、前記溶液D30μLを用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号11)。また、マウスIgGを含有する試料の代わりに、マウスIgGを含有しない試料を用いたことを除き、前記と同様に操作を行なった(実験番号11)。
【0108】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られた溶解誘引電解液11.5μLを充填した。そして、前記作用電極基板を5分間静置した。その後、電極基板をエタノールで洗浄、乾燥後、前記溶解誘引電解液を製造例4で得られた電解液に置換した。前記電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。これにより、作用電極と対極とを電解液に接触させた。つぎに、作用電極リード及び対極リードを電流計に接続した。
【0109】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射し、光電流を測定した。試験例3において、実験番号9〜12の方法での光電流の測定結果を図21に示す。
【0110】
図21に示された結果から、実験番号9の方法により検出された光電流は、実験番号11の方法により検出された光電流と比べて、大きいことがわかる。かかる結果から、製造例5で得られた溶解誘引電解液を用いて、溶解性担体を溶解し、修飾標識物質を作用電極本体に誘引させることにより、光電流の検出の際に、製造例5で得られた溶解誘引電解液を製造例4で得られた電解液に置換しても、高感度で修飾標識物質を検出することができることがわかる。また、かかる結果から、製造例4で得られた電解液は、被検物質の検出に際して、電解液として十分な性質を有していることがわかる。
【0111】
(試験例4)
製造例5で得られた溶解誘引電解液(実験番号13)又は製造例4で得られた電解液(実験番号14)に、24ヌクレオチド長のAlexaFluor750標識DNAをその濃度が1nMとなるように溶解し、実験番号13の試料又は実験番号14の試料を得た。ここで、製造例5で得られた溶解誘引電解液は、AlexaFluor750標識DNAを作用電極に誘引する作用(誘引作用)を有する。一方、製造例4で得られた電解液は、誘引作用を有していない。
【0112】
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極上に、実験番号13の試料11.5μL又は実験番号14の試料11.5μLを滴下し、5分間放置した。その後、作用電極をエタノールで洗浄した。
【0113】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られた溶解誘引電解液11.5μLを充填した。さらに、前記溶解誘引電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。その後、作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射し、光電流を測定した。試験例4において、実験番号13及び14の試料を用いたときの光電流の測定結果を図22に示す。
【0114】
図22に示された結果から、誘引作用を有する溶解誘引電解液を含む実験番号13の試料を用いた場合の光電流誘引作用を有しない電解液を含む実験番号14の試料を用いた場合の光電流と比べて、高くなっていることがわかる。したがって、修飾標識物質を作用電極に誘引する工程は、シグナルを向上させるのに有効であることがわかる。
【0115】
(製造例6〜8)
金ナノ粒子(溶解性担体21)に、第1結合物質22cと、修飾標識物質23aと、誘引用修飾物質25(3’末端をチオール化した24ヌクレオチド長のDNA)とを、第1結合物質22c:修飾標識物質23a:誘引用修飾物質25(モル比)が1:1:8(製造例6)、1:3:6(製造例7)、1:9:0(製造例8)となるように混合し、AlexaFluor750/ビオチン(数量比)が1/1の第1修飾結合物質〔図23(A)中、「20c2」参照;製造例6〕、3/1の第1修飾結合物質〔図23(B)中、「20c3」参照;製造例7〕又は9/1の第1修飾結合物質〔図23(C)中、「20c4」参照;製造例8〕を得た。得られた第1修飾結合物質20c2、第1修飾結合物質20c3又は第1修飾結合物質20c4を濃度が1nMとなるように0.1体積%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween−20)含有トリス緩衝溶液(TBS-T)に添加し、混合して溶液A2(製造例6)、溶液A3(製造例7)又は溶液A4(製造例8)を得た。
【0116】
(試験例5)
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極本体の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、試料1〔組成:1μgマウスIgG(被検物質S)/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μL又は試料2〔組成:0μgマウスIgG(被検物質S)/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕を供し、前記作用電極基板を25℃で60分間静置した。
【0117】
つぎに、前記作用電極基板の前記空間に、ビオチン標識抗マウスIgG抗体(第2結合物質22a)を含有する溶液B30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。さらに、前記空間に、ストレプトアビジン(第3結合物質22b)を含有する溶液C30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、前記空間に、製造例6で得られた溶液A2 30μL、製造例7で得られた溶液A3 30μL又は製造例8で得られた溶液A4 30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、作用電極基板を、トリス緩衝溶液(TBS-T)と純水とを用いて洗浄した。
【0118】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られた溶解誘引電解液11.5μLを充填した。さらに、前記溶解誘引電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。そして、前記作用電極基板及び対極基板を5分間静置した。
【0119】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射し、光電流を測定した。試験例5において、AlexaFluor750/ビオチン(数量比)と、光電流との関係を調べた結果を図24に示す。図中、黒四角は、試料1を用いた場合の光電流、黒丸は、試料2を用いた場合の光電流を示す。
【0120】
図24に示された結果から、標識物質であるAlexaFluor750の数が増加するほど、検出される光電流も増加することがわかる。かかる結果から、本方法により、標識物質量に応じた大きさの光電流を検出することができることがわかる。
【0121】
(試験例6)
製造例1で得られた作用電極基板の作用電極本体の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、試料3〔組成:3ngマウスIgG(被検物質S)/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕30μL、試料4〔組成:30ngマウスIgG(被検物質S)/mL(1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液(TBS-T))〕又は試料5〔300ngマウスIgG(被検物質S)/mLリン酸緩衝液〕を供し、前記作用電極基板を25℃で60分間静置した。
【0122】
つぎに、前記作用電極基板の前記空間に、ビオチン標識抗マウスIgG抗体(第2結合物質22a)を含有する溶液B30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。さらに、前記空間に、ストレプトアビジン(第3結合物質22b)を含有する溶液C30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、前記空間に、製造例5で得られた溶液A30μLを入れ、前記作用電極基板を25℃で30分間静置した。その後、作用電極基板を、トリス緩衝溶液(TBS-T)と純水とを用いて洗浄した。
【0123】
つぎに、前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られた溶解誘引電解液11.5μLを充填した。さらに、前記溶解誘引電解液が充填された空間を、作用電極基板の上方から、製造例2で得られた対極基板で密封した。そして、前記作用電極基板及び対極基板を5分間静置した。
【0124】
作用電極基板側から対極基板に向けて、光源(波長781nm、出力13mWのレーザー光源)から光を照射し、光電流を測定した。試験例6において、被検物質量と、光電流との関係を調べた結果を図25に示す。
【0125】
図25に示された結果から、被検物質量が増加するほど、検出される光電流も増加することがわかる。かかる結果から、本方法により、被検物質を定量することができることがわかる。
【符号の説明】
【0126】
10 捕捉物質
20 標識結合物質
21 溶解性担体
22 結合物質
23 修飾標識物質
24 標識物質
25 誘引用修飾物質
101 検出装置
111 チップ受入部
112 ディスプレイ
113 光源
114 電流計
115 電源
116 A/D変換部
117 制御部
120 検査チップ
120a 空間
130 上基板
130a 基板本体
130b 試料注入口
131 上基板
131a 基板本体
131b 試料注入口
132 上基板
132a 基板本体
132b 試料注入口
133 上基板
133a 基板本体
133b 試料注入口
140 作用電極基板(下基板)
141 作用電極基板(下基板)
142 作用電極基板(下基板)
143 作用電極基板(下基板)
140a 基板本体
141a 基板本体
142a 基板本体
143a 基板本体
150 間隔保持部材
151 間隔保持部材
151a 部材本体
161 作用電極
162 作用電極本体
163 導電層
164 電子受容層
165 絶縁層
166 対極
169 参照電極
171 電極リード
172 電極リード
173 電極リード
S 被検物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を電気化学的に検出する方法であって、
被検物質を含む試料を、作用電極に接触させて、作用電極上に捕捉する捕捉工程、
前記被検物質が捕捉された作用電極に、被検物質に結合する結合物質と標識物質を含有する修飾標識物質とが結合した溶解性担体を有する標識結合物質を接触させて、前記作用電極上に、前記被検物質と前記標識結合物質とを含む複合体を形成させる形成工程、
前記作用電極上に形成された複合体に含まれる前記溶解性担体を溶解させ、前記修飾標識物質を遊離させる遊離工程、
前記修飾標識物質を作用電極上に誘引する誘引工程、
及び
前記修飾標識物質中の標識物質を電気化学的に検出する検出工程
を含む被検物質の電気化学的検出方法。
【請求項2】
修飾標識物質が、さらに誘引用修飾物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
誘引用修飾物質が、核酸である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
核酸が、DNA又はRNAである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
誘引工程が、前記修飾標識物質を、極性の違いによって作用電極上に誘引する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
カオトロピックイオンを含有する液体によって、前記極性の違いを生じさせる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
カオトロピックイオンが、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、グアニジンイオン、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、酢酸イオン、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン及びマグネシウムイオンからなる群より選択された少なくとも1つである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
遊離工程が、溶解性担体を溶解する溶解液によって前記溶解性担体を溶解させる工程である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
溶解性担体が、溶解液に溶解する金属またはその合金からなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶解性担体が、金ナノ粒子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
溶解液が、ヨウ素またはヨウ化物を含む、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
溶解性担体が、熱により溶融する担体であり、
遊離工程が、当該溶解性担体を加熱することによって前記溶解性担体を溶解させる工程である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
検出工程が、電解液の存在下において、修飾標識物質中の標識物質を電気化学的に検出する工程である、請求項1〜12いずれかに記載の方法。
【請求項14】
遊離工程、誘引工程および検出工程が、ヨウ化物イオンとアセトニトリルとを含有する液体中で行なわれる、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
形成工程の後に、遊離の標識結合物質を除去する洗浄工程をさらに含む、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記作用電極が、作用電極本体と、この作用電極本体上に固定化され、前記被検物質を捕捉する捕捉物質とからなる、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−117888(P2012−117888A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266819(P2010−266819)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】