被災範囲推定装置及びプログラム
【課題】現場で収集できる情報を用いて、その時点での被害範囲の推定、また更にはその後の被災範囲の拡大予測を行うことを目的とする。
【解決手段】災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置10であって、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶部21と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得部22と、被ばく演算式に、所定時刻における各被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの被ばく演算式に基づいて、所定時刻における被災範囲を特定する演算部23とを具備する被災範囲推定装置10を提供する。
【解決手段】災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置10であって、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶部21と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得部22と、被ばく演算式に、所定時刻における各被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの被ばく演算式に基づいて、所定時刻における被災範囲を特定する演算部23とを具備する被災範囲推定装置10を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行い、更には、その拡大予測を行う被災範囲推定装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、事故やテロ等により有害物質が放出された場合に、それらの有害物質の拡散状況を予測して、救助や避難等に役立てることが提案されている。このような物質の拡散状況予測方法として、例えば、特許文献1等に開示される方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−307573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1等に開示された従来の拡散状況予測方法では、初期設定として、有害物質の排出源や、有害物質の種類、気象データ等、詳細な情報を入力する必要がある。
しかしながら、被災現場においては、有害物質の種類や排出源等の詳細な、かつ、信頼性の高い情報を収集する余裕はない。したがって、このような詳細な情報を不要とし、現場で比較的容易に収集できる情報を用いて可能な限り迅速に被害状況を把握し、その時点における被災範囲を迅速に推定するとともに、その後における被害範囲の拡大予測を速やかに行うことが求められている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、現場で収集できる情報を用いて、その時点での被害範囲の推定、また更にはその後の被災範囲の拡大予測を容易に行うことの可能な被災範囲推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置であって、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶手段と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得手段と、前記被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻おける被災範囲を特定する演算手段とを具備する被災範囲推定装置を提供する。
【0007】
例えば、所定時刻に被災者がある位置で死亡していた場合、その位置における被ばく量は、人命に危険を及ぼす被ばく臨界値以上であるとみなすことができる。本発明によれば、任意の時間、任意の位置における被ばく量を表わす被ばく演算式に対して、被災者(例えば、死傷者)の位置情報とその時間情報(所定時間)を入力情報として与えることで、その時間における被ばく量を算出することができ、この被ばく量は、少なくとも人命に危険を及ぼすに足る被ばく臨界値以上であるとみなすことができる。このようにして、同時刻(所定時刻)における他の被災者の位置情報を上記被ばく演算式に与えることにより、人命に危険が及ぶと推定される被ばく量の臨界値を求め、この臨界値以上の被ばく量を持つ区域を被災範囲として推定する。このように、本発明によれば、被災者の位置情報に基づいて容易に被災範囲を推定することができる。
例えば、所定時刻における被災者の位置情報は、少なくとも3つあれば足りる。
【0008】
上記被災範囲推定装置において、前記演算手段は、前記所定時刻における全ての前記被災者の位置における被ばく量を前記被ばく演算式を用いて算出し、算出した全ての被ばく量の中から最小の被ばく量を臨界値としてもよい。
【0009】
本発明によれば、被ばく演算式を用いることで、被災者の位置情報に基づいて容易に、かつ、迅速に被災範囲を推定することができる。
【0010】
上記被災範囲推定装置において、前記演算手段は、前記被ばく量を物質の放出量で除算して規格化し、規格化後の式を用いて前記被ばく量の臨界値を求めることとしてもよい。
【0011】
このように、規格化することにより、放出剤種、放出量の情報を特定せずに被害範囲の進展予測をすることが可能となる。
【0012】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力する出力手段を備えることとしてもよい。
【0013】
このように、臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力するので、被災範囲を表示装置に表示することにより被災範囲を知らせたり、臨界値が得られたときの被ばく演算式を後の物質拡散予測に利用したりすることが可能となる。
【0014】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に、前記所定時刻以降の時刻を代入することにより、該所定時刻以降における被災範囲の拡大予測を行う被災範囲拡大予測手段を備えることとしてもよい。
【0015】
これにより、所定時刻における被災範囲だけでなく、所定時刻以降において、どのように被災範囲が拡大していくのかを容易に予測することができる。
【0016】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を時間微分することで、濃度拡散式を得、この濃度拡散式で得られる前記所定時刻における濃度分布を初期濃度分布として用いて物質拡散解析を行い、前記所定時刻以降における物質の拡散予測を行う物質拡散予測手段を備えることとしてもよい。
【0017】
このように、所定時刻以降における物質の拡散予測を行うことにより、所定時刻以降において、複雑な気流場においても被災範囲の拡大を予測することが可能となる。
【0018】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を用いて、前記所定時刻を基準として所定時刻前における物質放出地を求める原点特定手段を備えることとしてもよい。
【0019】
所定時刻における被災範囲が推定されれば、時間を遡ることで、所定時刻前における被ばくの状況を特定することが可能となる。これにより、所定時刻における被災範囲だけでなく、物質が排出された発災地点及びその時刻についても推定することが可能となる。
例えば、前記原点特定手段は、前記被ばく演算式で描かれる曲線の原点の座標を求めることにより、発災地点を特定することとしてもよい。
【0020】
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行うための被災範囲推定プログラムであって、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得処理と、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算処理とをコンピュータに実行させるための被災範囲推定プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、現場で収集できる情報を用いて、その時点での被害範囲の推定ができ、また更にはその後の被災範囲の拡大予測を容易に行うことが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る被災範囲推定装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図3】パスキル・ギフォード線図を示した図である。
【図4】被ばく特性及び被災範囲の一例を示した図である。
【図5】被ばく量の臨界値の求め方を説明するための図である。
【図6】被災範囲の表示例を示した図である。
【図7】所定時刻、所定時刻から5分後、10分後、15分後の被災範囲の拡大状況を示した図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図9】所定時刻における空間濃度分布の一例を示した図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図11】長直径及び短直径を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下に、本発明に係る被災範囲推定装置及びプログラムの第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
まず、本発明の被災範囲推定装置の具体的構成及びその処理手順について説明する前に、本発明の被災範囲推定に関する基本的な考え方について説明する。
【0025】
まず、風速一定、平地、地上放出を想定した場合、ある地点から排出された物質の拡散式は、例えば、以下の(1)式で表されるパフモデル(Puff model)によって与えられる。パフモデルとは、時間とともに変化する物質の拡散状況を予測する大気汚染拡散モデルの一つであり、物質排出量をもとに各時刻での移送・拡散を求めるモデルとして知られている。
【0026】
【数1】
【0027】
上記(1)式において、(x,y)は、x軸を気流方向、y軸を気流方向と直交する方向とした場合における発災地点を原点としたときの位置であり、tは発災時刻を基準としたときの時間、σx、σy、σzは各軸方向における物質の拡散幅(拡散度合)である。
【0028】
被ばく量は、ある地点における物質濃度を時間で積分した値であるから、濃度を示す上記(1)式を時間積分することで得ることができる。従って、被ばく量Dは、以下の(2)式で示すことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
更に、本実施形態では、上記(2)式で表される被ばく量Dを物質の放出量Qで除算することにより、(2)式で表される被ばく演算式を、規格化した式f(x,y,t)に変換する。この被ばく量Dを物質の放出量Qで除算した値を被ばく特性値K(以下「K値」という。)とすると、式f(x,y,t)及びこのK値は(3)式で表される。
【0031】
【数3】
【0032】
本実施形態において、上記(3)式の各軸における物質の拡散幅σx、σy、σzは、図3に示すようなパスキル・ギフォード線図から与える。なお、拡散幅σx、σy、σzの与え方は任意に決定することができ、例えば、図3に示したパスキル・ギフォード線図を近似することにより与えることとしてもよい。
【0033】
今、仮に、所定時刻t1においてある被災者P1が位置情報(x1,y1)で倒れていたとすると、この位置(x1,y1)における被ばく量は、人命に危険を及ぼすに足りる量であるとみなすことができる。また、このことから、位置(x1,y1)における被ばく量以上の被ばく量を有する区域については、被災範囲、換言すると、人命に危険を及ぼす区域であるとみなすことができる。
そこで、本実施形態では、被災者が倒れている位置情報に基づいて、人命に危険を及ぼす被ばく量を推定し、この被ばく量以上の被ばく量を有する区域を被災範囲として推定する。また、有害物質の拡散状況は、風向によって変わるため、上記被災者の位置情報に加えて、風向情報も利用する。
【0034】
具体的には、被災者P1の位置情報(x1,y1)及び風向が与えられたとすると、上記(3)式は、以下の(4)式として与えることができ、K1の値が算出される。
【0035】
【数4】
【0036】
そして、このK1を再度上記(3)式で示されるf=(x,y,t)に与えることにより、以下の(5)式が得られる。
【0037】
【数5】
【0038】
ここで、図4に上記(5)式で表される曲線(以下「被ばく特性」という)を示す。図4において、x軸は最も風上に位置する被災者の位置を通り、かつ、風向に平行な軸、y軸は最も風上に位置する被災者の位置を通り、かつ、x軸と直交する軸である。被ばく特性は、位置(x1,y1)と同じ被ばく量を有する地点を結んでできた曲線として定義でき、x軸と被ばく特性とで囲まれる領域(図4におけるハッチング領域)は、所定時刻t1において、被災者P1がいる位置と同値及びそれよりも大きい被ばく量を持つ範囲、つまり、被災範囲を示している。
【0039】
図4に示した被災範囲は、あくまでも被災者P1の位置情報のみに基づいて決定された被災範囲であり、更に少ない被ばく量でも人命に危険を及ぼす可能性は捨てきれない。従って、人命に危険を及ぼす被ばく量の臨界値を求めることが必要となる。この臨界値を求めるには、図5に示すように、所定時刻t1における他の被災者P2、P3、・・・PNの位置情報(xi,yi(i=1,2,・・・,n))をxy直交座標系にプロットし、プロットした全ての位置情報を抱絡する最小の抱絡線Kc=f(x,y,t)を求めればよい。この抱絡線Kc=f(x,y,t)が、所定時刻t1における被ばく量の臨界値であるとみなすことができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る被災範囲推定装置10の装置構成について具体的に説明する。
本実施形態に係る被災範囲推定装置10は、上述したように、災害発生時において被災範囲を推定及びその後における被災範囲の拡大予測等を行う装置である。被災範囲推定装置10は、例えば、図1に示すように、コンピュータシステム(計算機システム)を備えており、CPU(中央演算処理装置)11、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置12、補助記憶装置13、キーボードやマウスなどの入力装置14、及びディスプレイやプリンタなどの出力装置15、外部の機器と通信を行うことにより情報の授受を行う通信装置16などを備えて構成されている。
【0041】
補助記憶装置13は、コンピュータ読取可能な記録媒体であり、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。この補助記憶装置13には、各種プログラム(例えば、被災範囲推定プログラム)が格納されており、CPU11が補助記憶装置13から主記憶装置12にプログラムを読み出し、実行することにより種々の処理を実現させる。
【0042】
図2は、被災範囲推定装置10が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。図2に示されるように、被災範囲推定装置10は、物質の拡散度合及び流速(風速)を用いて、ある時刻、ある位置における被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶部(記憶手段)21と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得部(情報取得手段)22と、被ばく演算式に各被災者の位置情報及び所定時刻を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの被ばく演算式を臨界演算式として特定する演算部(演算手段)23、被災範囲拡大予測部(被災範囲拡大予測手段)24とを備えている。
【0043】
具体的には、記憶部21には、以下の(6)式で表される被ばく演算式が格納されている。
【0044】
【数6】
【0045】
情報取得部22は、キーボード等の入力装置14から入力された、或いは、通信装置16を介して受信した所定時刻における被災者の位置情報、風向等を入力情報として取得し、これらの入力情報を演算部23に出力する。
【0046】
演算部23は、情報取得部22から入力された入力情報と記憶部21に格納されている被ばく演算式とを用いて被ばく量の臨界値を求める。具体的には、演算部23は、入力情報として入力された全ての被災者位置を抱絡する規格化した被ばく演算式で求められる範囲で最も風上に位置する位置情報を原点として仮定し、この原点を通り、かつ、風向に平行な軸をx軸として定める。なお、上記範囲は演算部23が所定のアルゴリズムに基づいて自動で決定してもよいし、ユーザ(例えば、センター員)が入力装置を操作することにより決定することとしてもよい。さらに、このx軸に直交し、かつ、原点を通る軸をy軸として定める。このようにして、xy直交座標系が定められると、演算部23は、続いて、上記(6)式において各被災者の位置におけるK値を求め、求めたK値のうち最小のものを臨界値、つまり、人命に危険が及ぶ最小の被ばく量を示すパラメータとして特定し、この臨界値が得られたときの被ばく演算式(以下「臨界被ばく演算式」という。)で表される範囲を被災範囲として特定する。ここで、上述した図4、図5では、被災範囲は0≦yの範囲のみ示されているが、実際には被災範囲はy<0の範囲にもx軸に対称に広がっているとみなすことができる。したがって、実際の被災範囲としては、臨界被ばく演算式によって表わされる被災範囲をy軸に対称に描いたときの全体範囲となる。
【0047】
被災範囲拡大予測部24は、演算部23によって得られた臨界被ばく演算式において、時刻パラメータとして所定時刻t1以降の時刻を入力することにより、所定時刻t1以降における被災範囲の拡大予測を行う。
【0048】
次に、上記構成を有する被災範囲推定装置10の作用について説明する。
災害発生時において、例えば、被災地にいる救助隊員などにより、被災地における被災者の位置情報が収集され、これらの情報が、例えば、被災状況を監視する被災センターに報告される。被災センターには、例えば、被災範囲推定装置10が設置されており、被災センターのセンター員等により、被災範囲推定装置10の入力装置14が操作されることにより、被災者の位置情報が入力される。また、センター員は、その時点における被災地の風向を入力装置14から入力する。
入力装置14から入力されたこれらの入力情報は、情報取得部22によって取得され、演算部23に出力される。演算部23において各被災者の位置情報におけるK値が、記憶部21に格納されている上記(6)式で表される被ばく演算式を用いて算出される。そして、算出された複数のK値の中から最小値が臨界値として抽出され、この臨界値を示したときの演算式が臨界演算式として特定される。
【0049】
臨界演算式が特定されると、この臨界演算式で表される区域が被災地の地図上に描かれることにより、図6に示すような所定時刻t1における被災範囲が液晶ディスプレイ等の出力装置15に表示される。ここで示される被災範囲は、上述したように、臨界被ばく演算式によって表わされる0≦yの範囲の被災範囲をy軸に対称に描いたときの全体範囲である。
【0050】
更に、上記臨界演算式は、演算部23から被災範囲拡大予測部24に与えられ、被災範囲拡大予測部24によって所定時刻t1以降の時刻が臨界演算式に与えられることにより、被災範囲の拡大予測が行われる。具体的には、臨界演算式は、(6)式に示されるように、時刻tと位置情報(x,y)とを変数パラメータとして有するので、時刻情報を与えれば、その時刻における被災範囲を得ることができる。
図7に、所定時刻、所定時刻から5分後、10分後、15分後の被災範囲の拡大状況を示す(0≦yの範囲のみ)。臨界値となるK値が小さいほど、少しの被ばく量でも人命に危険が及ぶというようにみなせるため、K値が小さいほど、被災範囲が大きいとみなすことができる。
なお、時刻に応じて風向が変化するようであれば、風向に応じてx軸及びy軸を回転させることとしてもよい。このようにすることで、より信頼性の高い被災範囲の拡大予測を行うことが可能となる。
【0051】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、平地一様流限定の元でパフモデルから得られる濃度分布を時間積分することにより、被ばく演算式を得、この被ばく演算式に被災者の位置情報及び風向を与えることにより、被ばく量の臨界値を算出し、この被ばく量の臨界値に基づいて被災範囲を推定する。この場合において、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、風向と被災者の位置情報しか入力情報として必要としないため、被災地の現場において容易に収集できる情報に基づいて迅速に被災範囲の推定を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態に係る被災範囲推定装置は、被災者の位置情報をもとに被災範囲を推定することから、被災者の位置情報の収集が可能となった時点(例えば、上記所定時刻t1)以降における被災範囲を推定するものであり、それ以前の情報、例えば、発災地点および発災時刻については特に詳細な情報を必要としない。
災害発生時において最も重要なのは、その時点における被災範囲の推定とその拡大予測を迅速に行うことであり、発災地点及び時刻の特定については、後に解析すれば足り、前者と比較した場合に重要度が低い。このように、本実施形態に係る被災範囲推定装置は、災害発生時において、最も必要とされる情報を、より迅速に推定することができるものであり、実地において効果的な結果をもたらすものである。
【0053】
なお、本実施形態においては、被害のレベルを特に分けることなく、死傷者を全て被災者として取り扱っていた。これに代えて、被災者の被災レベル毎に被ばく臨界値を求めることとしてもよい。例えば、所定時刻における死者の位置情報を与えることにより、死亡に至る可能性のある被ばく量の臨界値(以下「第1臨界値」という。)を求め、この第1臨界値以上の被ばく量を持つ地域を死亡レベル区域とし、死亡には至っていないが重度の障害が確認された被災者(例えば、意識がない等)の位置情報を与えることにより、人体に重度な障害を与える被ばく量の臨界値(以下「第2臨界値」という。)を求め、上記第2臨界値以上第1臨界値未満の地域を危険地域として推定する。このように、障害の度合いにレベルを設け、レベル毎に被災範囲を推定することとしてもよい。また、各レベルの区域を地図上に色を変えて(例えば、死亡レベル区域は「赤」、危険区域は「橙」等)表示することにより、被災センター等にいる監視員に対して非常に分かりやすく情報を提供することが可能となる。
【0054】
また、上記実施形態においては、センター員が入力装置14から直接的に情報を入力する場合について述べたが、被災者の位置情報は被災地の現場にいる救助隊員から通信媒体を介して送信されたものを通信装置16を介して受信し、情報取得部22が取得することとしてもよい。また、風向情報についても同様であり、例えば、通信装置16が気象庁のデータベースに定期的にアクセスし、過去から将来における一定期間の風向情報を受信することとしても良い。
【0055】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る被災範囲推定装置について説明する。
図9は、本実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【0056】
図8に示されるように、本実施形態に係る被災範囲推定装置10−1は、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置10における被災範囲拡大予測部24に代えて、物質拡散予測部(物質拡散予測手段)25を備えている。上述した被災範囲推定装置10では、気流場として一様流を前提とし、非常に簡単な方法により被害予測を行っていたが、本実施形態では、所定時刻以降における物質の拡散予測を気象データや地域データ等が反映されたより詳細な拡散解析を行い、この結果に基づいて被災範囲の拡大予測を行うものである。以下、本実施形態の被災範囲推定装置10−1について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0057】
演算部23は、上述の方法により臨界演算式を得ると、この臨界演算式を物質拡散予測部25に出力する。物質拡散予測部25は、この臨界演算式を用いて所定時刻における空間濃度分布を求める。
所定時刻t1における空間濃度分布は(例えば地上放出の場合は)、以下の(7)式で与えられる。
【0058】
【数7】
【0059】
(7)式は、標準偏差σx,σy,σzの正規分布を意味するから、x1=Ut1を中心とする正規分布に粒子を分散させればよい。これを式で表すと、以下の(8)式のようになる。
【0060】
【数8】
【0061】
上記(8)式で示される所定時刻t1における空間濃度分布を図9に示す。図9において、(a)は水平面(xy直交座標系)における空間濃度分布を示し、(b)は鉛直面(yz直交座標系)における空間濃度分布を示している。
【0062】
物質の拡散予測を詳細に解析する場合、上記空間濃度分布のほか、各放出粒子の強度(量)を設定する必要がある。これは、上記(2)式から求められる。
【0063】
具体的には、詳細な拡散予測で求めるものは被ばく量Dの分布であり、今必要としているものは被ばく特性値K(K値)の分布である。上記(2)式から、以下の(9)式の条件を与えたときの被ばく量DがK値となる。
【0064】
【数9】
【0065】
従って、放出粒子数をn個とすると、1個当たりの強度は以下の(10)式となる。
【0066】
【数10】
【0067】
このようにして、所定時刻t1における空間濃度分布及び放出粒子の強度を得ると、これらを初期値として、所定時刻t1以降における放出粒子の拡散予測を行う。
【0068】
放出粒子の拡散予測は、例えば、被災地域における地形と、予測時刻における気象データとから予測時刻における被災地域の気流場を演算し、この気流場と空間濃度分布とに基づいて被災地域において各放出粒子がどのように拡散するのかを予測する。
さらに、その拡散状況を時間積分することで各場所における被ばく特性値Kを算出し、この被ばく量と上記所定時刻t1における被ばく量の臨界値とを比較することにより、被ばく量の臨界値以上の被ばく量を有する範囲を特定する。これにより、予測時刻における被災範囲を推定することができる。
【0069】
このようにして、予測時刻を徐々に変化させることにより、各時刻における被災範囲を推定することができ、これにより被災範囲がどのように拡大されるのか、つまり、被災範囲の拡大予測を行うことができる。なお、物質の拡散予測方法については、例えば、特許文献1に開示されているように公知の技術であるため、詳細な説明を省略した。
【0070】
以上、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、被災地における地形及び詳細な風向等を加味して放出粒子の拡散状況を予測し、これに基づいて被災範囲の拡大予測を行うので、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置に比べて解析精度を高めることが可能となる。
【0071】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る被災範囲推定装置について説明する。
図10は、本実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
本実施形態に係る被災範囲推定装置10−2は、演算部23によって得られた所定時刻t1における被災範囲から発災場所及び発災時刻を推定する原点特定部26を備えている点で、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置10と異なる。
ここでは、原点特定部26によって行われる発災地点及び発災時刻の推定の方法について説明する。
【0072】
まず、発災場所を(x0,y0)及び発災時刻をt0とすると、上記(3)式は、以下の(11)式となる。
【0073】
【数11】
【0074】
上記(11)式の曲線は(x0,y0)を通る。すなわち、曲線(被ばく特性)の左端点を発災地点(x0,y0)とみなすことができる。図11に示すように、今、時刻t1における曲線(被ばく特性)をx軸に対象となるように複写し、描かれた図形の長直径、短直径をそれぞれl,sとすると、これらは(11)式から以下の(12)式及び(13)式として得られる。
【0075】
【数12】
【0076】
従って、時刻t1の被災範囲(現場情報)をもとに長直径、短直径l,sが与えられれば、(12)、(13)式から、以下の(14)式で表わされる関係が得られる。
【0077】
【数13】
【0078】
そして、上記(14)式から(t1−t0)及びKcrを求める。具体的には、上記(14)式からKを消去すると(15)式が得られる。
【0079】
【数14】
【0080】
そして、上記(15)式からτ=(t1−t0)を得、(14)式からKcrを得る。このようにして、τ=(t1−t0)及びKcrが得られると、これらの値を上記(12)式、(13)式に与えることにより、長直径l及び短直径sが求まり、これにより、被ばく特性が特定され、被ばく特性の原点(x0,y0)及びt0が求められる。
【0081】
上述したように、原点特定部は、上述の式を保有しており、これらの式に演算部によって推定された被災範囲の情報を与えることにより、(3)式で描かれる曲線(被ばく特性)の原点(x0,y0)及びt0を求め、これらを発災地点及び発災時刻として特定することが可能となる。
【0082】
以上説明してきたように、本実施形態に係る被災範囲推定装置10−2によれば、演算部23によって得られた所定時刻における被災範囲をもとに、所定時刻前の状況を予測することで、発災地点およびその時刻について特定することが可能となる。これにより、例えば、発災地点及び発災時刻等を必要とする詳細な物質拡散予測についても信頼性の高い情報に基づいて解析を行うことが可能となる。
【0083】
なお、上記各実施形態において、被災範囲推定装置が被災範囲拡大予測部24、物質拡散予測部25、原点特定部26等を内蔵することとしていたが、これに代えて、これらの部は、被災範囲拡大予測部24とは別体のシステムに備えられていても良い。つまり、被災範囲推定装置は、演算部23によって特定された臨界演算式を外部装置へ出力するための出力部を備えており、出力部から出力された臨界演算式の情報を別体のシステムに備えられた物質拡散予測部等に渡すことで、別の装置によって拡散予測等を行わせることとしてもよい。このように、出力部を設けることで、既存の物質予測システム等を適用して拡散予測等を行うことが可能となる。また、被災範囲拡大予測部24、物質拡散予測部25、原点特定部26は任意に組み合わせることが可能である。例えば、図2に示した被災範囲推定装置10が原点特定部26をさらに備えていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10,10−1,10−2 被災範囲推定装置
11 CPU
12 主記憶装置
13 記録媒体
14 入力装置
15 出力装置
16 通信装置
21 記憶部
22 情報取得部
23 演算部
24 被災範囲拡大予測部
25 物質拡散予測部
26 原点特定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行い、更には、その拡大予測を行う被災範囲推定装置及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、事故やテロ等により有害物質が放出された場合に、それらの有害物質の拡散状況を予測して、救助や避難等に役立てることが提案されている。このような物質の拡散状況予測方法として、例えば、特許文献1等に開示される方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−307573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1等に開示された従来の拡散状況予測方法では、初期設定として、有害物質の排出源や、有害物質の種類、気象データ等、詳細な情報を入力する必要がある。
しかしながら、被災現場においては、有害物質の種類や排出源等の詳細な、かつ、信頼性の高い情報を収集する余裕はない。したがって、このような詳細な情報を不要とし、現場で比較的容易に収集できる情報を用いて可能な限り迅速に被害状況を把握し、その時点における被災範囲を迅速に推定するとともに、その後における被害範囲の拡大予測を速やかに行うことが求められている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、現場で収集できる情報を用いて、その時点での被害範囲の推定、また更にはその後の被災範囲の拡大予測を容易に行うことの可能な被災範囲推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置であって、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶手段と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得手段と、前記被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻おける被災範囲を特定する演算手段とを具備する被災範囲推定装置を提供する。
【0007】
例えば、所定時刻に被災者がある位置で死亡していた場合、その位置における被ばく量は、人命に危険を及ぼす被ばく臨界値以上であるとみなすことができる。本発明によれば、任意の時間、任意の位置における被ばく量を表わす被ばく演算式に対して、被災者(例えば、死傷者)の位置情報とその時間情報(所定時間)を入力情報として与えることで、その時間における被ばく量を算出することができ、この被ばく量は、少なくとも人命に危険を及ぼすに足る被ばく臨界値以上であるとみなすことができる。このようにして、同時刻(所定時刻)における他の被災者の位置情報を上記被ばく演算式に与えることにより、人命に危険が及ぶと推定される被ばく量の臨界値を求め、この臨界値以上の被ばく量を持つ区域を被災範囲として推定する。このように、本発明によれば、被災者の位置情報に基づいて容易に被災範囲を推定することができる。
例えば、所定時刻における被災者の位置情報は、少なくとも3つあれば足りる。
【0008】
上記被災範囲推定装置において、前記演算手段は、前記所定時刻における全ての前記被災者の位置における被ばく量を前記被ばく演算式を用いて算出し、算出した全ての被ばく量の中から最小の被ばく量を臨界値としてもよい。
【0009】
本発明によれば、被ばく演算式を用いることで、被災者の位置情報に基づいて容易に、かつ、迅速に被災範囲を推定することができる。
【0010】
上記被災範囲推定装置において、前記演算手段は、前記被ばく量を物質の放出量で除算して規格化し、規格化後の式を用いて前記被ばく量の臨界値を求めることとしてもよい。
【0011】
このように、規格化することにより、放出剤種、放出量の情報を特定せずに被害範囲の進展予測をすることが可能となる。
【0012】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力する出力手段を備えることとしてもよい。
【0013】
このように、臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力するので、被災範囲を表示装置に表示することにより被災範囲を知らせたり、臨界値が得られたときの被ばく演算式を後の物質拡散予測に利用したりすることが可能となる。
【0014】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に、前記所定時刻以降の時刻を代入することにより、該所定時刻以降における被災範囲の拡大予測を行う被災範囲拡大予測手段を備えることとしてもよい。
【0015】
これにより、所定時刻における被災範囲だけでなく、所定時刻以降において、どのように被災範囲が拡大していくのかを容易に予測することができる。
【0016】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を時間微分することで、濃度拡散式を得、この濃度拡散式で得られる前記所定時刻における濃度分布を初期濃度分布として用いて物質拡散解析を行い、前記所定時刻以降における物質の拡散予測を行う物質拡散予測手段を備えることとしてもよい。
【0017】
このように、所定時刻以降における物質の拡散予測を行うことにより、所定時刻以降において、複雑な気流場においても被災範囲の拡大を予測することが可能となる。
【0018】
上記被災範囲推定装置は、更に、前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を用いて、前記所定時刻を基準として所定時刻前における物質放出地を求める原点特定手段を備えることとしてもよい。
【0019】
所定時刻における被災範囲が推定されれば、時間を遡ることで、所定時刻前における被ばくの状況を特定することが可能となる。これにより、所定時刻における被災範囲だけでなく、物質が排出された発災地点及びその時刻についても推定することが可能となる。
例えば、前記原点特定手段は、前記被ばく演算式で描かれる曲線の原点の座標を求めることにより、発災地点を特定することとしてもよい。
【0020】
本発明は、災害発生時における被災範囲の推定を行うための被災範囲推定プログラムであって、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得処理と、物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算処理とをコンピュータに実行させるための被災範囲推定プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、現場で収集できる情報を用いて、その時点での被害範囲の推定ができ、また更にはその後の被災範囲の拡大予測を容易に行うことが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る被災範囲推定装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図3】パスキル・ギフォード線図を示した図である。
【図4】被ばく特性及び被災範囲の一例を示した図である。
【図5】被ばく量の臨界値の求め方を説明するための図である。
【図6】被災範囲の表示例を示した図である。
【図7】所定時刻、所定時刻から5分後、10分後、15分後の被災範囲の拡大状況を示した図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図9】所定時刻における空間濃度分布の一例を示した図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図11】長直径及び短直径を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔第1の実施形態〕
以下に、本発明に係る被災範囲推定装置及びプログラムの第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
まず、本発明の被災範囲推定装置の具体的構成及びその処理手順について説明する前に、本発明の被災範囲推定に関する基本的な考え方について説明する。
【0025】
まず、風速一定、平地、地上放出を想定した場合、ある地点から排出された物質の拡散式は、例えば、以下の(1)式で表されるパフモデル(Puff model)によって与えられる。パフモデルとは、時間とともに変化する物質の拡散状況を予測する大気汚染拡散モデルの一つであり、物質排出量をもとに各時刻での移送・拡散を求めるモデルとして知られている。
【0026】
【数1】
【0027】
上記(1)式において、(x,y)は、x軸を気流方向、y軸を気流方向と直交する方向とした場合における発災地点を原点としたときの位置であり、tは発災時刻を基準としたときの時間、σx、σy、σzは各軸方向における物質の拡散幅(拡散度合)である。
【0028】
被ばく量は、ある地点における物質濃度を時間で積分した値であるから、濃度を示す上記(1)式を時間積分することで得ることができる。従って、被ばく量Dは、以下の(2)式で示すことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
更に、本実施形態では、上記(2)式で表される被ばく量Dを物質の放出量Qで除算することにより、(2)式で表される被ばく演算式を、規格化した式f(x,y,t)に変換する。この被ばく量Dを物質の放出量Qで除算した値を被ばく特性値K(以下「K値」という。)とすると、式f(x,y,t)及びこのK値は(3)式で表される。
【0031】
【数3】
【0032】
本実施形態において、上記(3)式の各軸における物質の拡散幅σx、σy、σzは、図3に示すようなパスキル・ギフォード線図から与える。なお、拡散幅σx、σy、σzの与え方は任意に決定することができ、例えば、図3に示したパスキル・ギフォード線図を近似することにより与えることとしてもよい。
【0033】
今、仮に、所定時刻t1においてある被災者P1が位置情報(x1,y1)で倒れていたとすると、この位置(x1,y1)における被ばく量は、人命に危険を及ぼすに足りる量であるとみなすことができる。また、このことから、位置(x1,y1)における被ばく量以上の被ばく量を有する区域については、被災範囲、換言すると、人命に危険を及ぼす区域であるとみなすことができる。
そこで、本実施形態では、被災者が倒れている位置情報に基づいて、人命に危険を及ぼす被ばく量を推定し、この被ばく量以上の被ばく量を有する区域を被災範囲として推定する。また、有害物質の拡散状況は、風向によって変わるため、上記被災者の位置情報に加えて、風向情報も利用する。
【0034】
具体的には、被災者P1の位置情報(x1,y1)及び風向が与えられたとすると、上記(3)式は、以下の(4)式として与えることができ、K1の値が算出される。
【0035】
【数4】
【0036】
そして、このK1を再度上記(3)式で示されるf=(x,y,t)に与えることにより、以下の(5)式が得られる。
【0037】
【数5】
【0038】
ここで、図4に上記(5)式で表される曲線(以下「被ばく特性」という)を示す。図4において、x軸は最も風上に位置する被災者の位置を通り、かつ、風向に平行な軸、y軸は最も風上に位置する被災者の位置を通り、かつ、x軸と直交する軸である。被ばく特性は、位置(x1,y1)と同じ被ばく量を有する地点を結んでできた曲線として定義でき、x軸と被ばく特性とで囲まれる領域(図4におけるハッチング領域)は、所定時刻t1において、被災者P1がいる位置と同値及びそれよりも大きい被ばく量を持つ範囲、つまり、被災範囲を示している。
【0039】
図4に示した被災範囲は、あくまでも被災者P1の位置情報のみに基づいて決定された被災範囲であり、更に少ない被ばく量でも人命に危険を及ぼす可能性は捨てきれない。従って、人命に危険を及ぼす被ばく量の臨界値を求めることが必要となる。この臨界値を求めるには、図5に示すように、所定時刻t1における他の被災者P2、P3、・・・PNの位置情報(xi,yi(i=1,2,・・・,n))をxy直交座標系にプロットし、プロットした全ての位置情報を抱絡する最小の抱絡線Kc=f(x,y,t)を求めればよい。この抱絡線Kc=f(x,y,t)が、所定時刻t1における被ばく量の臨界値であるとみなすことができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る被災範囲推定装置10の装置構成について具体的に説明する。
本実施形態に係る被災範囲推定装置10は、上述したように、災害発生時において被災範囲を推定及びその後における被災範囲の拡大予測等を行う装置である。被災範囲推定装置10は、例えば、図1に示すように、コンピュータシステム(計算機システム)を備えており、CPU(中央演算処理装置)11、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置12、補助記憶装置13、キーボードやマウスなどの入力装置14、及びディスプレイやプリンタなどの出力装置15、外部の機器と通信を行うことにより情報の授受を行う通信装置16などを備えて構成されている。
【0041】
補助記憶装置13は、コンピュータ読取可能な記録媒体であり、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等である。この補助記憶装置13には、各種プログラム(例えば、被災範囲推定プログラム)が格納されており、CPU11が補助記憶装置13から主記憶装置12にプログラムを読み出し、実行することにより種々の処理を実現させる。
【0042】
図2は、被災範囲推定装置10が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。図2に示されるように、被災範囲推定装置10は、物質の拡散度合及び流速(風速)を用いて、ある時刻、ある位置における被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶部(記憶手段)21と、所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得部(情報取得手段)22と、被ばく演算式に各被災者の位置情報及び所定時刻を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの被ばく演算式を臨界演算式として特定する演算部(演算手段)23、被災範囲拡大予測部(被災範囲拡大予測手段)24とを備えている。
【0043】
具体的には、記憶部21には、以下の(6)式で表される被ばく演算式が格納されている。
【0044】
【数6】
【0045】
情報取得部22は、キーボード等の入力装置14から入力された、或いは、通信装置16を介して受信した所定時刻における被災者の位置情報、風向等を入力情報として取得し、これらの入力情報を演算部23に出力する。
【0046】
演算部23は、情報取得部22から入力された入力情報と記憶部21に格納されている被ばく演算式とを用いて被ばく量の臨界値を求める。具体的には、演算部23は、入力情報として入力された全ての被災者位置を抱絡する規格化した被ばく演算式で求められる範囲で最も風上に位置する位置情報を原点として仮定し、この原点を通り、かつ、風向に平行な軸をx軸として定める。なお、上記範囲は演算部23が所定のアルゴリズムに基づいて自動で決定してもよいし、ユーザ(例えば、センター員)が入力装置を操作することにより決定することとしてもよい。さらに、このx軸に直交し、かつ、原点を通る軸をy軸として定める。このようにして、xy直交座標系が定められると、演算部23は、続いて、上記(6)式において各被災者の位置におけるK値を求め、求めたK値のうち最小のものを臨界値、つまり、人命に危険が及ぶ最小の被ばく量を示すパラメータとして特定し、この臨界値が得られたときの被ばく演算式(以下「臨界被ばく演算式」という。)で表される範囲を被災範囲として特定する。ここで、上述した図4、図5では、被災範囲は0≦yの範囲のみ示されているが、実際には被災範囲はy<0の範囲にもx軸に対称に広がっているとみなすことができる。したがって、実際の被災範囲としては、臨界被ばく演算式によって表わされる被災範囲をy軸に対称に描いたときの全体範囲となる。
【0047】
被災範囲拡大予測部24は、演算部23によって得られた臨界被ばく演算式において、時刻パラメータとして所定時刻t1以降の時刻を入力することにより、所定時刻t1以降における被災範囲の拡大予測を行う。
【0048】
次に、上記構成を有する被災範囲推定装置10の作用について説明する。
災害発生時において、例えば、被災地にいる救助隊員などにより、被災地における被災者の位置情報が収集され、これらの情報が、例えば、被災状況を監視する被災センターに報告される。被災センターには、例えば、被災範囲推定装置10が設置されており、被災センターのセンター員等により、被災範囲推定装置10の入力装置14が操作されることにより、被災者の位置情報が入力される。また、センター員は、その時点における被災地の風向を入力装置14から入力する。
入力装置14から入力されたこれらの入力情報は、情報取得部22によって取得され、演算部23に出力される。演算部23において各被災者の位置情報におけるK値が、記憶部21に格納されている上記(6)式で表される被ばく演算式を用いて算出される。そして、算出された複数のK値の中から最小値が臨界値として抽出され、この臨界値を示したときの演算式が臨界演算式として特定される。
【0049】
臨界演算式が特定されると、この臨界演算式で表される区域が被災地の地図上に描かれることにより、図6に示すような所定時刻t1における被災範囲が液晶ディスプレイ等の出力装置15に表示される。ここで示される被災範囲は、上述したように、臨界被ばく演算式によって表わされる0≦yの範囲の被災範囲をy軸に対称に描いたときの全体範囲である。
【0050】
更に、上記臨界演算式は、演算部23から被災範囲拡大予測部24に与えられ、被災範囲拡大予測部24によって所定時刻t1以降の時刻が臨界演算式に与えられることにより、被災範囲の拡大予測が行われる。具体的には、臨界演算式は、(6)式に示されるように、時刻tと位置情報(x,y)とを変数パラメータとして有するので、時刻情報を与えれば、その時刻における被災範囲を得ることができる。
図7に、所定時刻、所定時刻から5分後、10分後、15分後の被災範囲の拡大状況を示す(0≦yの範囲のみ)。臨界値となるK値が小さいほど、少しの被ばく量でも人命に危険が及ぶというようにみなせるため、K値が小さいほど、被災範囲が大きいとみなすことができる。
なお、時刻に応じて風向が変化するようであれば、風向に応じてx軸及びy軸を回転させることとしてもよい。このようにすることで、より信頼性の高い被災範囲の拡大予測を行うことが可能となる。
【0051】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、平地一様流限定の元でパフモデルから得られる濃度分布を時間積分することにより、被ばく演算式を得、この被ばく演算式に被災者の位置情報及び風向を与えることにより、被ばく量の臨界値を算出し、この被ばく量の臨界値に基づいて被災範囲を推定する。この場合において、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、風向と被災者の位置情報しか入力情報として必要としないため、被災地の現場において容易に収集できる情報に基づいて迅速に被災範囲の推定を行うことができる。
【0052】
また、本実施形態に係る被災範囲推定装置は、被災者の位置情報をもとに被災範囲を推定することから、被災者の位置情報の収集が可能となった時点(例えば、上記所定時刻t1)以降における被災範囲を推定するものであり、それ以前の情報、例えば、発災地点および発災時刻については特に詳細な情報を必要としない。
災害発生時において最も重要なのは、その時点における被災範囲の推定とその拡大予測を迅速に行うことであり、発災地点及び時刻の特定については、後に解析すれば足り、前者と比較した場合に重要度が低い。このように、本実施形態に係る被災範囲推定装置は、災害発生時において、最も必要とされる情報を、より迅速に推定することができるものであり、実地において効果的な結果をもたらすものである。
【0053】
なお、本実施形態においては、被害のレベルを特に分けることなく、死傷者を全て被災者として取り扱っていた。これに代えて、被災者の被災レベル毎に被ばく臨界値を求めることとしてもよい。例えば、所定時刻における死者の位置情報を与えることにより、死亡に至る可能性のある被ばく量の臨界値(以下「第1臨界値」という。)を求め、この第1臨界値以上の被ばく量を持つ地域を死亡レベル区域とし、死亡には至っていないが重度の障害が確認された被災者(例えば、意識がない等)の位置情報を与えることにより、人体に重度な障害を与える被ばく量の臨界値(以下「第2臨界値」という。)を求め、上記第2臨界値以上第1臨界値未満の地域を危険地域として推定する。このように、障害の度合いにレベルを設け、レベル毎に被災範囲を推定することとしてもよい。また、各レベルの区域を地図上に色を変えて(例えば、死亡レベル区域は「赤」、危険区域は「橙」等)表示することにより、被災センター等にいる監視員に対して非常に分かりやすく情報を提供することが可能となる。
【0054】
また、上記実施形態においては、センター員が入力装置14から直接的に情報を入力する場合について述べたが、被災者の位置情報は被災地の現場にいる救助隊員から通信媒体を介して送信されたものを通信装置16を介して受信し、情報取得部22が取得することとしてもよい。また、風向情報についても同様であり、例えば、通信装置16が気象庁のデータベースに定期的にアクセスし、過去から将来における一定期間の風向情報を受信することとしても良い。
【0055】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る被災範囲推定装置について説明する。
図9は、本実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【0056】
図8に示されるように、本実施形態に係る被災範囲推定装置10−1は、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置10における被災範囲拡大予測部24に代えて、物質拡散予測部(物質拡散予測手段)25を備えている。上述した被災範囲推定装置10では、気流場として一様流を前提とし、非常に簡単な方法により被害予測を行っていたが、本実施形態では、所定時刻以降における物質の拡散予測を気象データや地域データ等が反映されたより詳細な拡散解析を行い、この結果に基づいて被災範囲の拡大予測を行うものである。以下、本実施形態の被災範囲推定装置10−1について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0057】
演算部23は、上述の方法により臨界演算式を得ると、この臨界演算式を物質拡散予測部25に出力する。物質拡散予測部25は、この臨界演算式を用いて所定時刻における空間濃度分布を求める。
所定時刻t1における空間濃度分布は(例えば地上放出の場合は)、以下の(7)式で与えられる。
【0058】
【数7】
【0059】
(7)式は、標準偏差σx,σy,σzの正規分布を意味するから、x1=Ut1を中心とする正規分布に粒子を分散させればよい。これを式で表すと、以下の(8)式のようになる。
【0060】
【数8】
【0061】
上記(8)式で示される所定時刻t1における空間濃度分布を図9に示す。図9において、(a)は水平面(xy直交座標系)における空間濃度分布を示し、(b)は鉛直面(yz直交座標系)における空間濃度分布を示している。
【0062】
物質の拡散予測を詳細に解析する場合、上記空間濃度分布のほか、各放出粒子の強度(量)を設定する必要がある。これは、上記(2)式から求められる。
【0063】
具体的には、詳細な拡散予測で求めるものは被ばく量Dの分布であり、今必要としているものは被ばく特性値K(K値)の分布である。上記(2)式から、以下の(9)式の条件を与えたときの被ばく量DがK値となる。
【0064】
【数9】
【0065】
従って、放出粒子数をn個とすると、1個当たりの強度は以下の(10)式となる。
【0066】
【数10】
【0067】
このようにして、所定時刻t1における空間濃度分布及び放出粒子の強度を得ると、これらを初期値として、所定時刻t1以降における放出粒子の拡散予測を行う。
【0068】
放出粒子の拡散予測は、例えば、被災地域における地形と、予測時刻における気象データとから予測時刻における被災地域の気流場を演算し、この気流場と空間濃度分布とに基づいて被災地域において各放出粒子がどのように拡散するのかを予測する。
さらに、その拡散状況を時間積分することで各場所における被ばく特性値Kを算出し、この被ばく量と上記所定時刻t1における被ばく量の臨界値とを比較することにより、被ばく量の臨界値以上の被ばく量を有する範囲を特定する。これにより、予測時刻における被災範囲を推定することができる。
【0069】
このようにして、予測時刻を徐々に変化させることにより、各時刻における被災範囲を推定することができ、これにより被災範囲がどのように拡大されるのか、つまり、被災範囲の拡大予測を行うことができる。なお、物質の拡散予測方法については、例えば、特許文献1に開示されているように公知の技術であるため、詳細な説明を省略した。
【0070】
以上、本実施形態に係る被災範囲推定装置によれば、被災地における地形及び詳細な風向等を加味して放出粒子の拡散状況を予測し、これに基づいて被災範囲の拡大予測を行うので、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置に比べて解析精度を高めることが可能となる。
【0071】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る被災範囲推定装置について説明する。
図10は、本実施形態に係る被災範囲推定装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
本実施形態に係る被災範囲推定装置10−2は、演算部23によって得られた所定時刻t1における被災範囲から発災場所及び発災時刻を推定する原点特定部26を備えている点で、上述した第1の実施形態に係る被災範囲推定装置10と異なる。
ここでは、原点特定部26によって行われる発災地点及び発災時刻の推定の方法について説明する。
【0072】
まず、発災場所を(x0,y0)及び発災時刻をt0とすると、上記(3)式は、以下の(11)式となる。
【0073】
【数11】
【0074】
上記(11)式の曲線は(x0,y0)を通る。すなわち、曲線(被ばく特性)の左端点を発災地点(x0,y0)とみなすことができる。図11に示すように、今、時刻t1における曲線(被ばく特性)をx軸に対象となるように複写し、描かれた図形の長直径、短直径をそれぞれl,sとすると、これらは(11)式から以下の(12)式及び(13)式として得られる。
【0075】
【数12】
【0076】
従って、時刻t1の被災範囲(現場情報)をもとに長直径、短直径l,sが与えられれば、(12)、(13)式から、以下の(14)式で表わされる関係が得られる。
【0077】
【数13】
【0078】
そして、上記(14)式から(t1−t0)及びKcrを求める。具体的には、上記(14)式からKを消去すると(15)式が得られる。
【0079】
【数14】
【0080】
そして、上記(15)式からτ=(t1−t0)を得、(14)式からKcrを得る。このようにして、τ=(t1−t0)及びKcrが得られると、これらの値を上記(12)式、(13)式に与えることにより、長直径l及び短直径sが求まり、これにより、被ばく特性が特定され、被ばく特性の原点(x0,y0)及びt0が求められる。
【0081】
上述したように、原点特定部は、上述の式を保有しており、これらの式に演算部によって推定された被災範囲の情報を与えることにより、(3)式で描かれる曲線(被ばく特性)の原点(x0,y0)及びt0を求め、これらを発災地点及び発災時刻として特定することが可能となる。
【0082】
以上説明してきたように、本実施形態に係る被災範囲推定装置10−2によれば、演算部23によって得られた所定時刻における被災範囲をもとに、所定時刻前の状況を予測することで、発災地点およびその時刻について特定することが可能となる。これにより、例えば、発災地点及び発災時刻等を必要とする詳細な物質拡散予測についても信頼性の高い情報に基づいて解析を行うことが可能となる。
【0083】
なお、上記各実施形態において、被災範囲推定装置が被災範囲拡大予測部24、物質拡散予測部25、原点特定部26等を内蔵することとしていたが、これに代えて、これらの部は、被災範囲拡大予測部24とは別体のシステムに備えられていても良い。つまり、被災範囲推定装置は、演算部23によって特定された臨界演算式を外部装置へ出力するための出力部を備えており、出力部から出力された臨界演算式の情報を別体のシステムに備えられた物質拡散予測部等に渡すことで、別の装置によって拡散予測等を行わせることとしてもよい。このように、出力部を設けることで、既存の物質予測システム等を適用して拡散予測等を行うことが可能となる。また、被災範囲拡大予測部24、物質拡散予測部25、原点特定部26は任意に組み合わせることが可能である。例えば、図2に示した被災範囲推定装置10が原点特定部26をさらに備えていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10,10−1,10−2 被災範囲推定装置
11 CPU
12 主記憶装置
13 記録媒体
14 入力装置
15 出力装置
16 通信装置
21 記憶部
22 情報取得部
23 演算部
24 被災範囲拡大予測部
25 物質拡散予測部
26 原点特定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置であって、
物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶手段と、
所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得手段と、
前記被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算手段と、
を具備する被災範囲推定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記所定時刻における全ての前記被災者の位置における被ばく量を前記被ばく演算式を用いて算出し、算出した全ての被ばく量の中から最小の被ばく量を臨界値とする請求項1に記載の被災範囲推定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記被ばく量を物質の放出量で除算して規格化し、規格化後の式を用いて前記被ばく量の臨界値を求める請求項1または請求項2に記載の被災範囲推定装置。
【請求項4】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力する出力手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項5】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に、前記所定時刻以降の時刻を代入することにより、該所定時刻以降における被災範囲の拡大予測を行う被災範囲拡大予測手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項6】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を時間微分することで、濃度拡散式を得、この濃度拡散式で得られる前記所定時刻における濃度分布を初期濃度分布として用いて物質拡散解析を行い、前記所定時刻以降における物質の拡散予測を行う物質拡散予測手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項7】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を用いて、前記所定時刻を基準として所定時刻前における物質放出地を求める原点特定手段を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項8】
災害発生時における被災範囲の推定を行うための被災範囲推定プログラムであって、
所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得処理と、
物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算処理と、
をコンピュータに実行させるための被災範囲推定プログラム。
【請求項1】
災害発生時における被災範囲の推定を行う被災範囲推定装置であって、
物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式を記憶する記憶手段と、
所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得手段と、
前記被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算手段と、
を具備する被災範囲推定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記所定時刻における全ての前記被災者の位置における被ばく量を前記被ばく演算式を用いて算出し、算出した全ての被ばく量の中から最小の被ばく量を臨界値とする請求項1に記載の被災範囲推定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記被ばく量を物質の放出量で除算して規格化し、規格化後の式を用いて前記被ばく量の臨界値を求める請求項1または請求項2に記載の被災範囲推定装置。
【請求項4】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式及び推定した前記被災範囲の少なくともいずれかを出力する出力手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項5】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に、前記所定時刻以降の時刻を代入することにより、該所定時刻以降における被災範囲の拡大予測を行う被災範囲拡大予測手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項6】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を時間微分することで、濃度拡散式を得、この濃度拡散式で得られる前記所定時刻における濃度分布を初期濃度分布として用いて物質拡散解析を行い、前記所定時刻以降における物質の拡散予測を行う物質拡散予測手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項7】
前記臨界値が得られたときの前記被ばく演算式を用いて、前記所定時刻を基準として所定時刻前における物質放出地を求める原点特定手段を備える請求項1から請求項6のいずれかに記載の被災範囲推定装置。
【請求項8】
災害発生時における被災範囲の推定を行うための被災範囲推定プログラムであって、
所定時刻における被災者の位置情報を入力情報として取得する情報取得処理と、
物質の拡散度合及び流速を用いて、ある時刻、ある位置における、物質の濃度の時間に対する積算値である被ばく量を表わす被ばく演算式に、所定時刻における各前記被災者の位置情報を与えることにより、被ばく量の臨界値を求め、該臨界値が得られたときの前記被ばく演算式に基づいて前記所定時刻における被災範囲を特定する演算処理と、
をコンピュータに実行させるための被災範囲推定プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−59925(P2011−59925A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208098(P2009−208098)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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