説明

被膜付きフィルムの製造方法

【課題】低粘度の塗布液を使用しても、スジ、耳切れが発生しない重層塗布による被膜付きフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】下流リップの先端が、隣接リップの先端よりも前記ウエブから離れる方向に位置するように配置され、2つの下流スペーサの間に挟まれた液吐出口長さが、2つの上流スペーサの間に挟まれた液吐出口長さよりも短くなるように、前記下流スペーサと前記上流スペーサとが設置され、前記下流スペーサの先端が、前記隣接リップの先端と同じ位置、または隣接リップの先端よりも前記ウエブ側に突き出すように構成された前記スロットダイから塗布液を前記ウエブの表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の間、前記スロットダイの上流側に設けられたカバー内を減圧する工程と、前記ウエブの表面に塗布された前記塗布液を乾燥させる乾燥工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクストルージョン型のダイを用いて連続搬送されるウエブ(フィルム)の表面に塗布液を塗布することにより被膜付きフィルムを製造する被膜付きフィルムの製造方法に関し、特に複数の膜を同時にウエブに塗布する被膜付きフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性支持体(以下、ウエブとも称する。)の表面に所望の厚さの塗布膜(塗布層)を塗布、製膜する塗布装置として、バーコータ方式、リバースロールコータ方式、グラビアロールコータ方式、エクストルージョンコータなどのスロットダイコータ方式などが知られている。
【0003】
この中でもスロットダイコータ方式の塗布装置は、他の方式と比較して高速で薄膜(薄層)の塗布が可能であることから多用されている。近年、パソコンの普及や家庭用テレビの薄型化に伴い、液晶モニタの需要が増大し、薄膜の製膜が必要な偏光フィルム、光学補償フィルム等の光学フィルムの需要も高まってきている。これに伴って、薄膜の製膜が可能で、かつ、多層膜の製膜が可能なスロットダイコータ方式の塗布装置が注目されている。
【0004】
このようなスロットダイコータ方式の同時重層塗布装置として、従来から良く使用されているスロットダイには、ビード減圧式のオーバーバイト型スロットダイがある(特許文献1、2参照)。
【0005】
オーバーバイトのスロットダイとは、スロットダイを構成するダイブロック(単にブロックとも称する。)のうち、ウエブの進行方向の最下流側のダイブロック(最下流ブロックと称する。)の先端部(リップと称する。)が、最下流ブロックに隣接するダイブロック(隣接ブロックと称する。)のリップよりも下に突き出しているものを言う。
【0006】
別の言い方をすれば、最下流ブロックのリップとウエブとの距離が、隣接ブロックとウエブとの距離よりも短いスロットダイのことをオーバーバイトのスロットダイという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平9−511681号公報
【特許文献2】特開2003−260400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、近年、市場からフィルム上に塗布される膜の薄膜化の要求がされるようになった。薄膜を塗布するためには、粘度の低い(40mPa・s以下)塗布液を使用する方が有利である。単層塗布なら、オーバーバイトのスロットダイで、低い粘度の塗布液を段ムラ(ウエブの進行方向と直交する方向に膜厚の厚い部分/薄い部分/厚い部分/薄い部分・・・が交互に現れる故障)を抑制でき、良好な塗布面状を得られる。
【0009】
しかし、特許文献1や特許文献2のようにオーバーバイトのスロットダイで重層塗布しようとすると、スロットダイとウエブとの間に架設される最上層の塗布液のビードが幅方向に均一に形成できず、スジ(ウエブの進行方向に平行な膜厚の異なる線状部分)が発生するという問題が発生した。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、オーバーバイトのスロットダイではなく、アンダーバイトのスロットダイを用いることにより、この問題を解決できることを見出した。
【0011】
アンダーバイトのスロットダイとは、最下流ブロックのリップ先端が隣接ブロックのリップ先端よりもウエブから離れる方向に引っ込んでいるものを言う。別の言い方をすれば、最下流ブロックのリップ先端とウエブとの距離が、隣接ブロックのリップ先端とウエブとの距離よりも長いスロットダイのことをアンダーバイトのスロットダイという。
【0012】
ところが、アンダーバイトのスロットダイを用いて低粘度塗布液を重層製膜すると、新たな問題が発生した。
【0013】
その問題とは、スロットダイとウエブとの間に架設される塗布液のビードが塗布膜形成後すぐにウエブ幅方向端部から切れてゆく、耳切れと呼ばれる面状故障である。この端部ビードが切れる故障がいったん起きると、ウエブ全面でビードが切れてしまう。切れたビードはひとりでには復旧しない。
【0014】
この深刻な問題について鋭意検討した結果、最上層として0.5mPa・s以上40mPa・s以下の塗布液をおよそ25cc/m以下の薄層で塗布しようとし、かつ、ビード減圧(スロットダイの上流側を減圧することで上流リップにおけるビード破断を防止する方法)を行い、かつ、最下流リップ先端を隣接リップ先端よりもウエブから離し、つまりアンダーバイトにしたことによって、耳切れが顕在化したことが分かった。
【0015】
耳切れの発生メカニズムは次のように推測される。即ち、ビード減圧を行うと、ビードはウエブ搬送方向上流側だけでなく、ウエブ幅方向端部側にも引っ張られる。すると、ビード端部の液量が減る。液量がある限界以下になると、スロットダイとウエブとの間に架設できなくなってしまう。これが耳切れ現象であると推定される。
【0016】
アンダーバイトにすると、オーバーバイトの時に比べて最下流ブロックのリップ先端と、ウエブとの距離が遠くなる。すると、圧力損失が小さくなり、ウエブ幅方向端部へ引っ張られる量も大きくなる。(上層液のビード端部が減圧を受ける距離が長くなり、ビードがウエブ幅方向端部へ引っ張られる量も大きくなる。)これが、耳切れが起きやすくなる最大の要因である。
【0017】
耳切れは、塗布速度が大きいほど、最上層の塗布液の粘度が高いほど起き易い傾向がある。なぜなら、端部の塗布液が内側へ流れやすくなるため(縮流しやすくなるため)、スペーサと接する部分の液量が少なくなり、安定に保持されないためだと推定される。
【0018】
一方で、塗布液の粘度が極端に低いことも、耳切れが起きやすくなる要因である。液が力を受けた時、粘度が低いほどリップ先端面との摩擦が小さいので、液が動きやすくなる。液が外側に動きやすいほど、端部の液が少なくなり、耳切れしやすくなると考えられる。
【0019】
一方、塗布膜形成後からビードが切れる故障が起きる僅かな時間で得られる塗布膜に、ビードが切れる故障とは異なるスジ故障が見られた。鋭意検討の結果、最下流リップの隣接リップのランド長さが短い時、具体的には50μm未満の時にスジ故障が発生しやすいことを見出した。このスジ故障の発生メカニズムは、微小な外乱による液−液界面位置の僅かな変動であると推定している。最下流リップの隣接リップのランド長さは、液−液界面位置の僅かな変動に対する頑健性が高い50μm以上とすることが好ましい。
【0020】
本発明は、かかる実情に鑑み、低粘度の塗布液を使用しても、スジ、耳切れが発生しない被膜付きフィルムの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の課題は、下記の発明によって解決することができる。
【0022】
即ち、本発明の被膜付きフィルムの製造方法は、複数のブロックで構成されたスロットダイに形成されている複数のスロットの先端から粘度が40mPa・s以下の塗布液を塗布し、バックアップローラに支持されて連続走行するウエブの表面に前記塗布液を2層以上同時に塗布することによりフィルム上に被膜を形成する被膜付きフィルムの製造方法であって、前記ウエブの進行方向の最下流に位置する下流リップの先端が、前記下流リップに隣接する隣接リップの先端よりも前記ウエブから離れる方向に位置するように配置され、前記スロットのうち最下流に位置する下流スロット内に嵌合されている2つの下流スペーサの間に挟まれた液吐出幅が、前記下流スロットよりも一つ上流に位置する隣接スロット内に嵌合されている2つの上流スペーサの間に挟まれた液吐出幅よりも短くなるように、前記下流スペーサと前記上流スペーサとが設置され、前記下流スペーサの先端が、前記隣接リップの先端と同じ位置、または隣接リップの先端よりも前記ウエブ側に突き出すように構成された前記スロットダイから塗布液を前記ウエブの表面に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の間、前記スロットダイの上流側に設けられたカバー内を減圧する減圧工程と、前記ウエブの表面に塗布された前記塗布液を乾燥させる乾燥工程と、を備えたことを主要な特徴にしている。
【0023】
これにより、低粘度の塗布液においてスジ不良、耳切れ不良を発生させることなく、良好な重層製膜を可能にし、被膜付きフィルムを製造することが出来る。
【発明の効果】
【0024】
スジ不良、耳切れ不良を発生させることなく被膜付きフィルムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の塗布装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の塗布装置の概略斜視図である。
【図3】塗布装置の製膜状態説明図である。
【図4】製膜評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ 〜 ”を用いて表す場合は、“ 〜 ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0027】
<塗布装置の構成>
本発明に用いられる塗布装置は、エクストルージョン型のダイを用いるものであり、バックアップローラに支持されて連続走行するウエブの表面に塗布液を塗布し、前記塗布液を前記ウエブの表面に2層以上同時に製膜することにより、積層フィルムを作製するものである。
【0028】
本発明に用いられる塗布装置の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明に用いられる塗布装置の一例を示す断面図である。本発明の塗布装置は、ウエブ120を支持して回転するバックアップローラ140と、前記ウエブ120に塗布液を塗布するスロットダイ160と、を主に備えて構成される。
【0029】
スロットダイ160は、複数のブロック162a、162b、162cで構成される。スロットダイ160の内部には、これら複数のブロックを組み合わせることにより、ポケット164a、164b及び、前記ポケット164a、164bからスロットダイ160の先端部に延在するスロット166a、166bが形成される。また、スロット166a、166bの両端部(図1において手前側と奥側の両端部)には、図示しないスペーサが嵌合されている。
【0030】
ポケット164a、164bは、その形状の断面が曲線で構成されており、その形状は、図1に示すように略円形の形状でもよく、半円形でも良い。ポケット164a、164bは、スロットダイ160の幅方向(ウエブ120の搬送方向に対して垂直方向)にその断面形状を延長された塗布液の液溜め空間である。
【0031】
ここで、図1には、3つのブロック162a、162b、162cと、2つのポケット164a、164b及び、2つのスロット166a、166bが、図示されているが、ブロックの個数は3つに限定されるものではなく、ポケット及びスロットの個数も2つに限定されるものではない。必要とされる塗布膜の種類、数に応じて必要な数量のブロックで、必要な数量のポケット、スロットを形成することが可能である。
【0032】
ダイの先端部であるリップは、ウエブ120と所定の距離離して設置される。ウエブ120の搬送方向に対して最下流(これ以後、上流、下流、上流側、下流側との記載は、全てウエブ120の搬送方向に対して上流(側)、下流(側)を意味する。)に位置するブロックであるブロック162aの先端部を下流リップと称し、真ん中のブロック(下流リップの隣のブロックであり、最下流に位置するブロックよりも一つ上流側に位置するブロック)であるブロック162bの先端部を隣接リップと称し、最上流側のブロックであるブロック162cの先端部を上流リップと称すると、下流リップとウエブとの距離が、隣接リップとウエブとの距離よりも短くなるようにダイが構成される。即ち、本発明のスロットダイ160は、アンダーバイトである。
【0033】
ここで、スロットダイ160先端から塗布された塗布液がウエブ表面で形成するビードが、製膜中にちぎれる現象が発生する場合がある。この現象を抑えるためには、ビードをウエブ搬送方向上流側から減圧することができる。
【0034】
ウエブ搬送方向上流側から減圧するには、スロットダイ160の上流側にカバーを設けて、ポンプによりカバー中から空気を吸い出して減圧することができる。
【0035】
次に図2を参照して、本発明に用いられる塗布装置の特徴部分について詳細に説明する。図2は、本発明に用いられる塗布装置の概略斜視図である。図2に示すように、スロット166aの長手方向の両端には、スペーサ200、210が嵌合されている。また、スロット166bの長手方向の両端には、スペーサ220、230が嵌合されている。
【0036】
これらのスペーサは、塗布液がスロットの長手方向両端から流出するのを防止する。ここで、本発明の特徴として、下流側のスペーサ200、210の先端は、隣接する隣接リップよりもウエブ側に突き出している。突き出すのではなく、隣接リップとスペーサ200、210の先端が、どちらもウエブから等距離にあっても良いが、好ましくはスペーサ200、210の先端を隣接リップよりも5μm以上、更に好ましくは11μm以上突き出すことが好ましい。これにより、外乱を受けても塗布膜端部を安定的に維持することができるからである。また、下流スペーサは、その先端が下層膜に接しないようにすることが好ましい。下流スペーサ先端が下層膜に接すると、下層膜がかきとられ、それをきっかけにして塗布故障が発生する可能性が高まるからである。
【0037】
更に、本発明に用いられる塗布装置の特徴として、下流側の2つのスペーサ200、210に挟まれたスロット166aの長さである下流塗布幅が、上流側の2つのスペーサ220、230に挟まれたスロット166bの長さである上流塗布幅よりも短くなっている。下流スペーサ先端を突き出しても、下流塗布幅が上流塗布幅より狭くないと、耳切れを阻止することが難しい。
【0038】
本発明の被膜付きフィルムの製造方法では、これらの特徴により、粘度の低い(40mPa・s以下)塗布液を用いて製膜してもスジ不良や、耳切れ不良を起こすことなく良好な膜形成が可能になる。ここで、粘度の範囲であるが、0.5mPa・s〜40mPa・sにおいてスジ不良も耳切れ不良も起こすことなく良好な膜形成を可能にすることができる。0.5mPa・s未満においても不良のない良好な膜形成を可能にすると考えられるが、0.5mPa・s未満の塗布液が存在しないため、評価が困難である。
【0039】
<被膜付きフィルムの製造方法>
次に、本発明の被膜付きフィルムの製造方法について説明する。本発明の被膜付きフィルムの製造方法においては、上述した塗布装置を用いて被膜付きフィルムを製造する。即ち、本発明の被膜付きフィルムの製造方法は、複数のブロックで構成されたスロットダイに形成されている複数のスロットの先端から粘度が40mPa・s以下の塗布液を塗布し、バックアップローラに支持されて連続走行するウエブの表面に、前記塗布液を2層以上同時に塗布する塗布工程と、前記塗布工程の間、前記スロットダイの上流側を減圧する減圧工程と、前記ウエブの表面に塗布された塗布液を乾燥する乾燥工程とを主に備えている。
【0040】
前記塗布工程を更に説明すると、前記塗布工程とは、アンダーバイトであり、下流スペーサの先端が隣接リップの先端と同じ位置、または隣接リップの先端よりも突き出し、下流スペーサの間に挟まれた液吐出口の長さである液吐出幅(スペーサの間に挟まれた液吐出口の長さを液吐出幅と称する)が、下流スペーサよりも一つ上流のスペーサの間に挟まれた液吐出幅よりも短いスロットから塗布液をウエブの表面に塗布する工程のことである。
【0041】
ここで、アンダーバイトとは、ウエブの進行方向の最下流に位置する下流リップの先端が、前記下流リップに隣接する隣接リップの先端よりも前記ウエブから離れる方向に位置するように配置されていることである。
【0042】
また、下流スペーサの先端が隣接リップの先端よりも突き出すとは、下流スペーサの先端が隣接リップの先端よりもウエブの表面に近付いているということである。
【0043】
更に、下流スペーサの間に挟まれた液吐出幅が、下流スペーサよりも一つ上流のスペーサの間に挟まれた液吐出幅よりも短いとは、スロットのうち最下流に位置する下流スロット内に嵌合されている2つの下流スペーサの間に挟まれた液吐出幅が、前記下流スロットよりも一つ上流に位置する隣接スロット内に嵌合されている2つの上流スペーサの間に挟まれた液吐出幅よりも狭くなるように、前記下流スペーサと前記上流スペーサとが設置されているということである。
【0044】
次に、減圧工程について説明する。減圧工程では、スロットダイの上流側を減圧状態にする。具体的には、スロットダイの上流側をカバーで覆い、カバー内の空気をポンプで吸い出すことによりスロットダイの上流側を減圧にすることが出来る。この減圧工程は、前記塗布工程の間に同時に行われる。
【0045】
次に、乾燥工程について説明する。乾燥工程においては、従来行われている様々な乾燥手段を用いて乾燥することが出来る。例えば、スリット風乾燥、メッシュ風乾燥、赤外線乾燥、凝縮乾燥などを用いてフィルムに塗布された塗布膜を乾燥することが出来る。
【0046】
次に、図3を用いて、製膜状態について説明する。図3は、塗布装置の製膜状態説明図である。図3に示すように、スペーサ200、210に挟まれた下流側のスロット166aの液吐出口長さ(下流塗布幅)は、スペーサ220、230に挟まれた上流側のスロット166bの液吐出口長さ(上流塗布幅)よりも短くなっている。
【0047】
これにより、スロット166bから流出した塗布液によって製膜された塗布膜300よりもスロット166aから流出した塗布液によって製膜された塗布膜310の方が幅方向(図3において長手方向)の長さが短くなっている。これにより、塗布膜310は、塗布膜300の上にはみ出すことなく載っている。
【0048】
<評価>
下流リップの位置、塗布幅、最下流のスロットであるスロット166aに嵌合されたスペーサ200、210の先端位置、をパラメータとして、40mPa・sの粘度の塗布液を用いて同時重層製膜を行い、スジ不良、耳切れ不良の発生について評価を行った。
【0049】
図4に評価結果を示す。図4は、製膜評価結果を示す表である。図4に示すスジ不良、耳切れ不良において、「○」は、良好(不良発生せず)であったことを示し、「×」は、不良が発生したことを表す。「−」は、製膜がうまくできず、不良発生の評価ができなかったことを表す。
【0050】
下流リップの先端の位置において、「隣接リップ先端と同じ」は、下流リップの先端と、隣接リップの先端とがウエブとの距離において同じ位置にあることを示し、「隣接リップ先端より前進」は、下流リップの先端が、隣接リップの先端よりもウエブの方向に突き出していることを示し、「隣接リップ先端より後退」は、下流リップの先端が、隣接リップの先端よりもウエブの方向においてウエブから離れる方向に後退して位置していることを示す。
【0051】
また、塗布幅において「下層=上層」は、下層と上層の塗布幅が等しいこと、即ち、スペーサに挟まれたスロットの吐出口長さが同じことを示し、「下層>上層」は、下層の塗布幅の方が、上層の塗布幅よりも広いことを示し、「下層<上層」は、下層の塗布幅の方が、上層の塗布幅よりも狭いことを示す。
【0052】
更に、最下流スロットのスペーサの先端位置において、「隣接リップ先端より後退」は、最下流のスロットに嵌合されたスペーサの先端位置が、隣接リップの先端位置よりもウエブから離れる方向に移動した位置にあることを示し、「隣接リップ先端と一致」は、最下流のスロットに嵌合されたスペーサの先端位置が、隣接リップの先端位置とウエブとの距離において同じ位置にあることを示し、「隣接リップ先端より前進」は、最下流のスロットに嵌合されたスペーサの先端位置が、隣接リップの先端位置よりもウエブに近付く方向に移動した位置にあることを示している。
【0053】
比較例1〜9は、下流リップと隣接リップ位置が同じという条件であり、比較例10〜18は、下流リップが隣接リップよりも前進している(オーバーバイト)という条件である。これらは、いずれも従来の塗布装置の構成である。
【0054】
この比較例1〜18が示すように、従来の塗布装置を使用して低粘度の塗布液で同時重層塗布を行うと、その他の条件である、塗布幅と最下流スロットのスペーサの先端位置とをどのように変更しても、本発明の課題の一つである耳切れ不良は、そもそも発生しなかった。
【0055】
しかしながら、従来の塗布装置では、この比較例1〜18が示すように、低粘度の塗布液を使用した場合、全ての条件においてスジ不良が発生し、良好な製膜ができなかった。
【0056】
比較例19〜25、及び実施例1、2は、下流リップの先端の位置が隣接リップの先端の位置よりも後退している装置、即ちアンダーバイトの装置での評価結果を示している。ここで、この装置は下流リップの先端の位置が隣接リップの先端の位置よりも後退している長さが100μmのものを使用した。
【0057】
この比較例19〜25、及び実施例1、2が示すように、アンダーバイトの装置においては、塗布幅が下層よりも上層が広い場合で、かつ、最下流のスロットに嵌合されたスペーサの先端位置が、隣接リップの先端位置と同じか、隣接リップの先端位置よりもウエブに近付く方向に移動した位置にある場合に限り、スジ不良も耳切れ不良も発生しないことが判明した。
【0058】
次に、実施例1、2について更に詳しく説明する。
【0059】
実施例1において、スジ不良、耳切れ不良ともに発生しなかったが、外乱を受けて上層の耳位置(塗布液のビードの長手方向両端部の位置)が動いた時には、耳切れ不良が発生した。よって、実施例1の条件である、最下流スロットのスペーサ先端位置を隣接リップの先端位置と一致させる場合は、外乱である塗布クリアランス変動や送液量の変動などの外乱をできる限り小さくすることが必要である。
【0060】
実施例2においては、最下流スロットのスペーサ先端位置が、隣接リップ先端位置よりも10μm前進した位置にある時は、スジ不良、耳切れ不良ともに発生せず、良好であった。また、上層の耳位置が外乱によって動いた場合でも耳切れが起こることはなかった。また、最下流スロットのスペーサ先端位置が、隣接リップ先端位置よりも15μm前進した位置にある時は、スジ不良、耳切れ不良ともに発生しないだけでなく、上層の耳位置が変動することがなく、塗布膜の外観等も極めて良好であった。しかしながら、上記いずれの場合も最下流スロットのスペーサ先端位置が、隣接する下層膜に接すると、塗布膜端部の膜厚が不均一になる故障が発生する場合があった。よって、最下流スロットのスペーサ先端位置は、膜に接しないことが好ましい。
【0061】
ここで、本評価においては、40mPa・sの粘度の塗布液を使用したが、それ以下の粘度である0.5mPa・s〜40mPa・sの塗布液においても同様の結果であった。また、本実施形態では、スロットが2つの場合の塗布装置を例にして説明したが、スロットが2つの場合に限定されるものではなく、スロットが3以上の場合においても同様の作用、効果を奏するものである。
【0062】
以上説明したように、本発明の塗布装置では、0.5mPa・s〜40mPa・sの低粘度の塗布液においてスジ不良、耳切れ不良を発生させることなく、良好に製膜することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
120…ウエブ、140…バックアップローラ、160…スロットダイ、162a…ブロック、162b…ブロック、162c…ブロック、164a…ポケット、166a…スロット、166b…スロット、200…スペーサ、220…スペーサ、300…塗布膜、310…塗布膜、L…隣接リップランド長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックで構成されたスロットダイに形成されている複数のスロットの先端から粘度が0.5mPa・s以上40mPa・s以下の塗布液を塗布し、バックアップローラに支持されて連続走行するウエブの表面に前記塗布液を2層以上同時に塗布することによりフィルム上に被膜を形成する被膜付きフィルムの製造方法であって、
前記ウエブの進行方向の最下流に位置する下流リップの先端が、前記下流リップに隣接する隣接リップの先端よりも前記ウエブから離れる方向に位置するように配置され、
前記スロットのうち最下流に位置する下流スロット内に嵌合されている2つの下流スペーサの間に挟まれた液吐出幅が、前記下流スロットよりも一つ上流に位置する隣接スロット内に嵌合されている2つの上流スペーサの間に挟まれた液吐出幅よりも短くなるように、前記下流スペーサと前記上流スペーサとが設置され、
前記下流スペーサの先端が、前記隣接リップの先端と同じ位置、または隣接リップの先端よりも前記ウエブ側に突き出すように構成された前記スロットダイから塗布液を前記ウエブの表面に塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の間、前記スロットダイの上流側に設けられたカバー内を減圧する減圧工程と、
前記ウエブの表面に塗布された前記塗布液を乾燥させる乾燥工程と、
を備えた被膜付きフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程において、前記下流スペーサの先端を、前記隣接リップの先端より5μm以上前記ウエブに近づけて塗布を行う、請求項1に記載の被膜付きフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程において、前記下流スペーサの先端を下層膜表面に接触させずに塗布を行う、請求項1または2に記載の被膜付きフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206096(P2012−206096A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75921(P2011−75921)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】