説明

被覆体および被覆体の使用方法

【課題】 マイクロアレイ上に試料溶液を接触させる際に、試料溶液の展開性を向上させ、かつ生理活性物質の吸着を低減した被覆体を提供すること。
【解決手段】固相基板上に液体を保持する際に基板上に設置する被覆体であって、少なくとも被覆体の液体と接触する側の面がリン脂質を有する物質でコーティングされていることを特徴とする被覆体であり、好ましくはリン脂質を有する物質が、ホスホリルコリン基を有する高分子物質であり、ホスホリルコリン基を有する高分子物質が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをモノマー単位として含む共重合体である被覆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相基板上に試料溶液を接触させる際に、該溶液を基板上に保持する目的で使用する被覆体およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロアレイは、固相基板表面に生理活性物質を固定化したデバイスである。例えば核酸マイクロアレイの場合、核酸がプラスチックやガラスなどの固相基板上に固定されている。核酸マイクロアレイの使用形態は、細胞などの検体から抽出、増幅した核酸を含む溶液をマイクロアレイ上に展開し、所定時間反応させる。マイクロアレイ上に固定された核酸と試料溶液中の核酸が、塩基配列の相同性に対応してハイブリダイゼーション反応を生じ、この反応率を蛍光色素や放射性同位体などの標識物によって定量化することにより、試料溶液に含まれる核酸の配列に関する情報を得ることができる。
【0003】
一般的に生理活性物質の反応は液相反応であるため、マイクロアレイ上に固定された生理活性物質と試料を反応させるためには、試料を溶液状態でマイクロアレイ表面に接触させ、一定時間保持する必要がある。この操作では、試料溶液とマイクロアレイ表面が全面にわたって均一に接触することが重要となる。均一な接触とは、液層の厚みが一定であり、気泡などが含まれていないことである。また、反応中の試料溶液の蒸発を防ぐことも重要となる。試料溶液とマイクロアレイの接触が不均一であったり、試料溶液の一部が蒸発したりすると、マイクロアレイ上の位置によって反応効率に差異が生じてしまい、得られたデータの信頼性が低くなる。
【0004】
被覆体としてはプレパラート作製用のカバーガラスを用いることが多い。液層の厚みを一定に保つためのスペーサーを設けたカバーガラスも使用されている。しかしながら、カバーガラスは薄いために非常に割れ易く、取り扱いが比較的煩雑なため、割れにくいプラスチック製の被覆体が注目されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、プラスチック表面は一般的に疎水性であることが多く、試料溶液との濡れ性が低いために溶液の均一な展開が困難である。すなわち、マイクロアレイ上に被覆体を被せ、間隙に試料溶液を流し込む際に、試料溶液が被覆体表面をスムーズに濡らすことができない。
【0005】
また、マイクロアレイ上での生理活性物質の反応では、被覆体に用いるカバーガラスやスペーサーを設けたカバーガラスへの試料生理活性物質の非特異的な吸着も問題となっている。例えば、核酸マイクロアレイでは、試料核酸の被覆体への試料核酸の吸着が起こると、試料溶液中の核酸の絶対量が減少するために、基板に固定された核酸とのハイブリダイゼーションに影響を及ぼす。
被覆体への非特異的な吸着が激しいと、試料核酸中の濃度が変化してしまい、再現性がなく、信頼性に欠けるデータが得られることとなる。
このため、上述したような問題を解決することのできる被覆体、すなわち、試料溶液との濡れ性が高く、マイクロアレイ上への試料溶液の展開性を向上し、かつ、生理活性物質の吸着の少ない被覆体が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開2004−177345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固相基板上に試料溶液を接触させる際に用いる被覆体であり、試料溶液の展開性を向上させ、かつ試料溶液中の生理活性物質の吸着を低減した被覆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(1)固相基板上に液体を保持する際に基板上に設置する被覆体であって、少なくとも被覆体の液体と接触する側の面がリン脂質を有する物質でコーティングされていることを特徴とする被覆体、
(2)前記リン脂質を有する物質が、ホスホリルコリン基を有する高分子物質である(1)記載の被覆体、
(3) 前記ホスホリルコリン基を有する高分子物質が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをモノマー単位として含む共重合体である(2)記載の被覆体、
(4)固相基板上に液体を保持する際に液層の厚みを一定に保持する手段として、スペーサーが設けてある(1)〜(3)いずれか記載の被覆体、
(5)前記被覆体の液体と接触する側の面が、中心線平均粗さ(Ra値)が0.001〜10μmの粗面である(1)〜(4)いずれか記載の被覆体、
(6)前記被覆体の液体と接触する側の面に、溝の幅及び深さが0.1〜500μmである微細な溝状構造を設けたことを(1)〜(5)いずれか記載の被覆体、
(7)前記被覆体の素材がプラスチックである(1)〜(6)いずれか記載の被覆体、
(8)前記プラスチックがポリスチレンである(7)記載の被覆体、
(9)前記被覆体の素材がガラスである(1)〜(6)いずれか記載の被覆体、
(10)第一の生理活性物質が固定化されている基板表面に第二の生理活性物質を含む液体を接触させる際に、(1)〜(9)いずれか記載の被覆体を用いて前記液体を前記基板上に保持することを特徴とする被覆体の使用方法、
(11)第一の生理活性物質が固定化されている基板表面に(1)〜(9)いずれか記載の被覆体を前記基板表面に被せたのちに、前記基板と前記被覆体との間隙に第二の生理活性物質を含む液体を流入させることを特徴とする被覆体の使用方法、
(12)前記生理活性物質が核酸、ペプチド核酸、アプタマー、オリゴペプチド、タンパク質、酵素、糖鎖、およびそれらの誘導体の中から選ばれる少なくとも1つであるか、又はこれらの中から少なくとも1つを含む複合体である(11)又は(12)記載の被覆体の使用方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、固相基板上に試料溶液を接触させる際に、試料溶液の展開性を向上させ、かつ試料溶液中の生理活性物質の吸着を低減した被覆体が得られ、特にマイクロアレイを用いた場合の評価の信頼性向上が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
核酸マイクロアレイを用いた遺伝子解析、遺伝子同定などの評価における信頼性を左右する要素として、ハイブリダイゼーション反応の均一性が挙げられる。ハイブリダイゼーション反応を均一に行なうためには、マイクロアレイ表面と試料溶液との接触が、アレイ全面にわたって均一であることが重要である。すなわち、試料溶液の厚みが一定であること、反応中に試料溶液が乾燥しないこと、試料溶液層に気泡が混入しないことが重要である。
【0011】
本発明は、固相基板上に液体を保持する際に基板上に設置する被覆体であって、少なくとも被覆体の液体と接触する側の面がリン脂質を有する物質でコーティングされている被覆体である。
【0012】
リン脂質を有する物質とは、リン酸と脂質が結合したものの総称であって、おもに細胞の表面にあって細胞膜を構成する役割を担っている。本発明では、グリセロール誘導体であるホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリンやセリン誘導体であるスフィンゴエミリンなどを好適に用いることができる。
【0013】
本発明では、リン脂質を有する物質としてホスホリルコリン基を含む高分子物質を用いることが好ましい。ホスホリルコリン基を含む高分子物質として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをモノマー単位とする共重合体(MPCポリマー)を好適に用いることができる。MPCポリマーはリン脂質二重層膜と類似の構造を有し、生理活性物質の吸着を抑制する効果を有することや生理活性分子を安定化することが知られている(Ishihara K, Tsuji T, Kurosaki T, Nakabayashi N, Journal of Biomedical Materials Research, 28(2), pp.225-232, (1994) などを参照)。
【0014】
MPCポリマー層を被覆体表面に形成する方法としては、ディップコート法を用いることができる。すなわち、MPCポリマー溶液に基板を浸漬した後、溶媒を揮発させることにより表面にMPCポリマー層を形成する。MPCポリマーの濃度は、0.01〜10重量%が好ましく、0.01〜5重量%がより好ましく、0.1〜5重量%がさらに好ましい。
【0015】
(被覆体の素材)
本発明で用いることのできる被覆体の素材として、ガラスやプラスチックが挙げられる。プラスチックの素材としては、ハイブリダイゼーション反応時の温度で変形せず、溶媒や緩衝液に耐性があり、吸水性が低いものが好ましい。また、試料溶液の厚みを一定に保つため、素材は自重で変形しない程度の剛性を有することが好ましい。さらに、試料溶液をマイクロアレイ上に展開する際に、溶液の状態を目視で確認可能なことが好ましく、被覆体の素材は透明あるいは半透明であることが好ましい。これらの条件を満たす素材として、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ポリ−4−メチルペンテン−1などを用いることができるが、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、又はポリプロピレンであることが好ましい。
【0016】
(被覆体の親水化)
また、マイクロアレイ上に被覆体を被せ、間隙に試料溶液を流し込む際に、試料溶液を被覆体表面にスムーズに濡らすために、プラスチック製の濡れ性を向上させる手段をとることもできる。プラスチック表面の濡れ性を向上させる手段としては、酸化処理であることが好ましい。酸化処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射、火炎処理、薬剤処理などの方法を用いることが好ましく、プラズマ処理であることが最も好ましい。
【0017】
(表面の粗面化)
プラスチック表面を粗面化することにより、液体との濡れ性をコントロールすることができる。表面を粗面化する方法は乾式法と湿式法に大別される。乾式法として、機械的な粗面化、プラズマ接触処理、イオンビーム処理、エキシマレーザー処理等を利用することができる。機械的な粗面化とは、物理的な力を付加して表面に微小な凹凸を付与する方法である。具体的には、金型形状の転写、砥粒等による研磨、サンドペーパーや布などによるスクラッチング、粒子の吹き付けなどを利用することができる。表面の粗さを高度に制御する必要がある場合、プラズマ接触処理、イオンビーム処理、エキシマレーザー処理等を利用することができる。湿式法には、薬剤処理、溶剤処理等がある。具体的には、酸、アルカリ、材料の良溶媒を用いた処理で表面の一部を溶解させ、粗面化を実現することができる。上述の粗面化法のうち、製造の容易性の観点から、機械的な粗面化が好ましい。その中でも、金型形状の転写による方法がより好ましい。金型の形状を転写する手段として、射出成形、圧縮成形、押出成形、エンボス加工等を利用することができる。
【0018】
粗面化した被覆体の表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra値)が0.001〜10μmであることが好ましく、0.005〜1μmであることがより好ましく、は0.05〜0.1μmであることがさらに好ましい。上記のような手段で粗面化を施した被覆体表面に対して、さらに酸化処理、グラフト重合、コーティングなどの親水化処理を施すことも可能である。
【0019】
(表面の微細加工)
プラスチック表面に微細な溝を設けることにより、試料溶液との濡れ性を高めることができる。微細な溝を設ける方法として、射出成形、圧縮成形、押出成形、エンボス加工等による金型形状の転写、切削加工、レーザー加工、リソグラフィなどの方法を利用することができる。製造の容易性の観点から、金型形状の転写が好ましい。
【0020】
溝の幅および深さは、0.1〜500μmが好ましく、1〜200μmがより好ましく、10〜200μmがさらに好ましい。
微細な溝を設けた被覆体表面に対して、さらに酸化処理、グラフト重合、コーティングなどの親水化処理を施すことも可能である。
【0021】
(被覆体の形状)
マイクロアレイ基板が平面である場合、試料溶液の厚みを一定に保つため、被覆体の形状は平面であることが好ましい。さらに、被覆体表面とマイクロアレイ表面との間隙を一定に保つため、図1〜3に示すように被覆体の周縁部あるいはその一部にスペーサー部(肉厚部)を設けることが好ましい。
【0022】
スペーサーの厚み(被覆体とマイクロアレイの間隙)は、5〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、10〜30μmが最も好ましい。
【実施例】
【0023】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例の範囲に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
ポリスチレンを材料として、射出成形法により被覆体を作製した。被覆体の形状は長方形の平滑な板状(60mm×25mm×0.7mm)であり、図1のように長辺側の縁に下駄の歯状のスペーサー部(60mm×1mm×20μm)設けたものであった。得られた射出成形品をリン脂質・ポリマー複合体(MPC(2−メタクリロイルホスホリルコリン)/BMA(ブチルメタクリレート)モル比=3/7の共重合体)の0.5重量%エタノール溶液に室温で10分間浸漬した後に引き上げ、室温で一晩乾燥させてリン脂質・ポリマー複合体を表面にコーティングした被覆体を得た。
【0025】
(実施例2)
ポリスチレンを材料として、射出成形法により被覆体を作製した。被覆体の形状は長方形の平滑な板状(60mm×25mm×0.7mm)であり、図1のように長辺側の縁に下駄の歯状のスペーサー部(60mm×1mm×20μm)を設けたものであった。得られた射出成形品をプラズマ処理することにより被覆体表面を親水化した後に、リン脂質・ポリマー複合体(MPC(2−メタクリロイルホスホリルコリン)/BMA(ブチルメタクリレート)モル比=3/7の共重合体)の0.5重量%エタノール溶液に室温で10分間浸漬した後に引き上げ、室温で一晩乾燥させてリン脂質・ポリマー複合体を表面にコーティングした被覆体を得た。
【0026】
(実施例3)
実施例1と同様の形状のガラス品を用意した。実施例1と同様のコーティング方法で被覆体を作製した。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様の形状の被覆体を射出成形法により作製し、コーティングせずにそのまま用いた。
【0028】
(比較例2)
市販のガラス製被覆体を入手し、そのまま用いた。ガラス製被覆体の形状は、平板状のガラスの四隅にスペーサーが設置されたものであった。
【0029】
(評価1)
実施例1〜3、及び比較例1〜2の被覆体表面の水との接触角を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
(評価2)
実施例、及び比較例の被覆体を表面がアルデヒド処理されたマイクロアレイ用基板(75mm×25mm×1.0mm)の表面上に設置し、基板と被覆体の間隙に、ピペットを用いてハイブリダイゼーション反応用緩衝液(0.3M塩化ナトリウム、0.03Mクエン酸3ナトリウム、0.2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液)を流し込んだ。緩衝液の展開性、および、被覆体と基板との間の気泡の混入の有無を目視により評価した。結果を表1に示す。
【0031】
(評価3:被覆体の非特異的吸着性)
実施例、及び比較例の被覆体を、Streptavidin−Cy3(アマシャムバイオサイエンス(株)PA43001)の原液を1000倍希釈したリン酸バッファー(pH7.4)中に浸漬し、37℃で30分浸漬した。リン酸バッファーで洗浄後、乾燥した。
上記操作により得られた被覆体を、マイクロアレイ用スキャナ「ScanArray Lite」(パッカードバイオチップテクノロジー社製)を用いて、各基板の蛍光を検出した。このときの測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長550nm、測定波長570nm、解像度50μmであった。
蛍光強度の数値化は、スキャナに付属の解析用ソフトウェア「QuantArray」を用いて行なった。結果を表2に示す。
【0032】
(評価4:被覆体を用いたハイブリダイゼーション)
表面がアルデヒド処理されたマイクロアレイ用基板(75mm×25mm×1.0mm)表面に、末端にアミノ基を導入した鎖長50bpのオリゴヌクレオチド(atagaagttt gtccatttgt aaactcccgg attgcgctcc ctcccgcctt(配列番号1))の水溶液(10μM)を点着した。80℃で1時間熱処理を施したのち、純水で洗浄し、ブロッキング処理を行なった。次いで純水で洗浄し、遠心することにより水滴を除去した。
この基板に実施例、及び比較例の被覆体を基板上に被せ、注入口(基板と被覆体の隙間)から、ハイブリダイゼーション溶液を注入した。ハイブリダイゼーション溶液は、5’末端にCy3を導入した鎖長50bpのオリゴDNA(AAGGCGGGAGGGAGCGCAATCCGGGAGTTTACAAATGGACAAACTTCTAT(配列番号2))を5×SSC、0.3%SDSの緩衝液に溶かした溶液で行なった。ハイブリダイゼーション反応は、65℃で3時間行なった。ハイブリダイゼーション終了後、2×SSC、0.1%SDS中で、10分浸漬した。その後、0.2×SSC、0.02×SSCの順に洗浄を行なった。次いで、基板を遠心することにより乾燥した。
上記操作により得られた基板を、マイクロアレイ用スキャナ「ScanArray Lite」(パッカードバイオチップテクノロジー社製)を用いて、各基板のスポットの蛍光を検出した。このときの測定条件は、レーザー出力90%、PMT感度60%、励起波長550nm、測定波長570nm、解像度50μmであった。
スポットの蛍光強度の数値化は、スキャナに付属の解析用ソフトウェア「QuantArray」を用いて行なった。実施例、比較例で得られた蛍光値、CV値を表3に示す。CV値は、96スポットの各蛍光値の平均値を96スポットの各蛍光値の標準偏差で除した値であり、シグナルのバラツキを表すものである。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
評価1、2の結果において、本発明におけるコーティング方法が濡れ性向上に有効であることが示された。
評価3の結果において、実施例1〜3では、比較例1〜2と比較して、蛍光シグナル値が大幅に低くなった。これは、実施例1〜3におけるリン脂質を有する物質でコーティングした被覆体が非特異的吸着を抑制していることを支持する結果であった。
評価4では、実施例1〜3では、比較例1〜2と比較して、蛍光シグナル値が高い結果となった。これは、実施例1〜3におけるリン脂質を有する物質でコーティングした被覆体に吸着する核酸が抑制されたことにより、ハイブリダイゼーション溶液中の核酸濃度が上昇したことによる結果であると考えられ、これは本発明の効果を支持するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の被覆体の形状の一例を示す概略図。
【図2】本発明の被覆体の形状の他の一例を示す概略図。
【図3】本発明の被覆体の形状の更に他の一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0038】
1:平面部
2:肉厚部(スペーサー)、斜線で表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相基板上に液体を保持する際に基板上に設置する被覆体であって、少なくとも被覆体の液体と接触する側の面がリン脂質を有する物質でコーティングされていることを特徴とする被覆体。
【請求項2】
前記リン脂質を有する物質が、ホスホリルコリン基を有する高分子物質である請求項1記載の被覆体。
【請求項3】
前記ホスホリルコリン基を有する高分子物質が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンをモノマー単位として含む共重合体である請求項2記載の被覆体。
【請求項4】
固相基板上に液体を保持する際に液層の厚みを一定に保持する手段として、スペーサーが設けてある請求項1〜3いずれか記載の被覆体。
【請求項5】
前記被覆体の液体と接触する側の面が、中心線平均粗さ(Ra値)が0.001〜10μmの粗面である請求項1〜4いずれか記載の被覆体。
【請求項6】
前記被覆体の液体と接触する側の面に、溝の幅及び深さが0.1〜500μmである微細な溝状構造を設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の被覆体。
【請求項7】
前記被覆体の素材がプラスチックである請求項1〜6いずれか記載の被覆体。
【請求項8】
前記プラスチックがポリスチレンである請求項7記載の被覆体。
【請求項9】
前記被覆体の素材がガラスである請求項1〜6いずれか記載の被覆体。
【請求項10】
第一の生理活性物質が固定化されている基板表面に第二の生理活性物質を含む液体を接触させる際に、請求項1〜9いずれか記載の被覆体を用いて前記液体を前記基板上に保持することを特徴とする被覆体の使用方法。
【請求項11】
第一の生理活性物質が固定化されている基板表面に請求項1〜9いずれか記載の被覆体を前記基板表面に被せたのちに、前記基板と前記被覆体との間隙に第二の生理活性物質を含む液体を流入させることを特徴とする被覆体の使用方法。
【請求項12】
前記生理活性物質が核酸、ペプチド核酸、アプタマー、オリゴペプチド、タンパク質、酵素、糖鎖、およびそれらの誘導体の中から選ばれる少なくとも1つであるか、又はこれらの中から少なくとも1つを含む複合体である請求項11又は12記載の被覆体の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2974(P2008−2974A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173246(P2006−173246)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】