被覆棒列型電波吸収体および電波吸収体用被覆棒の製造方法
【課題】 従来の共鳴型単層シートに比べて広帯域で良好な電波吸収特性を示し、また、従来の広帯域特性を有する電波暗室用のピラミッド型電波吸収体よりも著しく薄い電波吸収体を提供する。
【解決手段】 電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線1(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板2または電波吸収材の被覆された導体反射板2の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ該被覆棒1の間隔が対象電波波長以下であることを特徴とする被覆棒列型電波吸収体。
【解決手段】 電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線1(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板2または電波吸収材の被覆された導体反射板2の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ該被覆棒1の間隔が対象電波波長以下であることを特徴とする被覆棒列型電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆棒列型電波吸収体および電波吸収体用被覆棒の製造方法に関するものであり、殊に、電波吸収特性や広帯域性に優れており、かつ薄型である被覆棒列型電波吸収体と、該電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN、ETC、携帯電話などの無線を用いたデジタルデータ通信の利用が急速に普及し、それに伴い電波の干渉問題や情報漏洩などの問題が社会問題となりつつある。この様な問題への対策技術の一つとして、電波吸収体の利用が挙げられる。
【0003】
上記用途に使用される電波吸収体には、特性として、電波の吸収性能、広帯域性(広い周波数領域で必要な吸収特性である。一般的には20dB以上;入射電波の99%以上の吸収が求められ、20dB以上の吸収を示す周波数領域が広いことが吸収体の性能の一指針となる)、軽量あるいは薄型であること、屋外で使用する場合には耐候性を有していること、大面積に使用する場合には安価であることなどが挙げられるが、現在実用化されている電波吸収体は一長一短があり、上記要件を全て満たす吸収体は未だ実現していないのが現状である。
【0004】
現在、電波吸収体として一般的に使用されているものとして、
(a)焼結フェライトのタイルや樹脂、ゴム、繊維にフェライト粉末やカーボン粉末などの電波吸収体を分散もしくは被着させて、板状に形成したものを単層または多層とした平板型吸収体、
(b)発泡ポリスチロール等にカーボン等を含有させて、ピラミッド形状またはウエッジ形状に成形し、これを並べたピラミッド型やウエッジ型の吸収体
等があり、要求性能や使用環境によってそれぞれ使い分けられている。
【0005】
前記平板型吸収体には、更に、
(a−1)ゴムまたは樹脂に、カーボンまたはフェライトを含侵したもの、あるいは樹脂繊維にカーボンを被着させこれを重ねて板状に成形した複合シート型吸収体や、
(a−2)抵抗皮膜や繊維、導電性塗料を塗布した抵抗皮膜型吸収体、
(a−3)ガラスにITO等の透明導電膜をコーティングした透明電波吸収体
等が実用化されている。
【0006】
現在広く用いられている電波吸収体のうち、この平板型吸収体は、形状が単純であり薄型にしやすく、また比較的大面積のものを安価で作りやすいことから、一般的には屋外の用途に使用されている。
【0007】
一般的に使用されている平板型吸収体として、その構造が、電波の損失媒体からなる吸収層と背面の反射板からなるものがある。この様な構造は整合型ともよばれ、その吸収原理は次の通りである。
【0008】
即ち、電波が吸収層へ入射した場合に、空気層の電波屈折率と吸収層の電波屈折率の差から、一部が吸収層の表面で反射され、残りが吸収層の中を吸収されながら進み、背面の反射板に達して反射される。この反射板で反射された電波は、再び吸収層の中を進み、一部は吸収層の表面で反射されて再度吸収層の中を進み、一部は吸収層の表面から空気層に放出される。
【0009】
そして前記吸収層表面で1次反射した反射波と、背面の反射板まで達した後に反射された反射波のうち吸収層の表面から再び放射される電波が、互いに打ち消しあうように吸収体の電波屈折率や厚みなどを調整すれば、吸収層の表面で反射される電波強度は消失し、吸収層内部ですべて吸収されて熱に変換される。
【0010】
この条件は整合条件と呼ばれ、該条件の制御は平板型吸収体やシート型吸収体の基本設計手法となっている。しかしその原理から明らかな通り、入射電波の波長や入射角度が変わると、即ち、整合条件がくずれると電波の反射減衰特性が劣化する。従って、簡単な構造である単層型の吸収体は、一般的に狭帯域に限定され、また斜め入射に対する特性劣化が大きい。この欠点を改善する手法として、吸収層を多層化して広領域化を図るのが一般的である。しかし層数を増加させると、各層の設計や品質安定性、特性のマージン設計が難しくなり、またコストアップにもつながるので5層以下が一般的となっている。
【0011】
前記ピラミッド型やウエッジ型の電波吸収体は、広帯域特性を示すことから、各種アンテナや通信機器の性能評価に用いられる電波暗室の内壁を構成する吸収体として広く用いられている。
【0012】
このタイプの吸収体の電波吸収原理は次の通りである。即ち、先端の尖ったピラミッド型の吸収エレメントを並べることで、電波の入射界面でのインピーダンスの不連続をなくして表面での反射を抑え、連続的に吸収層の断面積を増やして損失係数を上げていくことにより、表面で反射されず内部に侵入した電波を徐々に吸収する。
【0013】
この構造では、入射した電波の表面反射を抑える目的で、電波に対するインピーダンスを空気のインピーダンスから徐々に変えていくため、先頭を尖らせたピラミッドあるいはウエッジ状とし、電波が内部に侵入するに従って徐々に電波を減衰させて吸収する構造となっている。よって電波の波長の変化や入射角度の変化が生じた場合でも、吸収層の表面における入射界面でのインピーダンスは空気のインピーダンスから連続的に変化するため、吸収特性に大きな劣化が生じない。そのため、広い周波数域に対応でき高角度特性も有しており、高い吸収性能を発揮する。しかしこのタイプの吸収体は、構造が大型になってしまうという欠点がある。
【0014】
この他に、円筒型電波吸収体や紐状電波吸収体なども提案されている。円筒型電波吸収体は、電波を反射する円筒状導体の表面に電波吸収体を含む被覆層が設けられており、円筒状導体からの電波反射を抑えている。この円筒型電波吸収体を複数並べて構成される電波反射の抑制された電波吸収構造体も数々提案されている。
【0015】
円筒型電波吸収体は、電波吸収体が円筒形状であるため、平面型のものと比較して、仮に電波が表面で反射しても、平面型の吸収体のように後方に強く反射されず、周囲に分散して散乱される。よって形状そのものが電波反射を抑えるには好都合の形態となっている。そして、それらに電波反射を抑える吸収層(反射防止層)を被覆して配列することで、反射強度をより低下させることができる。しかしこのような構造では、入射した電波が円筒状吸収体の隙間から透過するので、十分に電波を吸収できるわけではない。
【0016】
一般に電波の透過を抑えるには、例えば金属導体のワイヤなどを網目状に組む場合、ワイヤの間隔を電波波長に比べて充分小さくする必要がある。具体的にはワイヤ間の間隔を電波波長の1/10程度以下とすれば、電波の透過強度を10dB程度以下におさえることができる。しかし導体表面に電波吸収層が形成されている場合には、電波の透過が促進されるので、電波透過強度を充分低下させるためには、ワイヤ間の間隔をより一層小さくする必要がある。また仮に密着して並べたとしても、金属導体同士を完全に密着させることはできず、金属導体間に存在する吸収層を入射電波が透過するため、透過を完全に抑えることはできない。従って、単純に吸収層を被覆した電波吸収被覆棒を並べても、入射電波を十分に吸収することは難しい。
【0017】
上記様々な電波吸収体の具体例として、例えば特許文献1には、円筒の表面にエポキシ樹脂とカーボン樹脂を被覆した円筒状の電波吸収体が提案されている。円筒の外面に電波吸収特性を発揮する層を被覆することにより、従来、平面にのみ施工されていた電波吸収体を、曲面形状を有する船のマスト等へ適用可能となったことが示されている。本件では、適切な吸収材を被覆することにより電波の反射を効果的に低減できる旨示されているが、一本の円柱からの反射を抑制するものであり、広い領域で電波を吸収できるものではない。
【0018】
また特許文献2には、金属線の周囲に磁性損失体を被覆した複合線を、複数本並べた磁性体被覆金属線列の電波吸収体が提案されている。具体的には、磁性体粉末を被着した金属線の平行線列、あるいはそれを互いに重ねて格子状にした吸収体が例示されており、この様な構造とすることで、通気性と光の透過性を兼備させることができると示されている。
【0019】
原理的には、金属線に磁性材料を被覆することで未被覆の金属線列や格子と比較して電波の反射強度が低下するので、ある程度の電波吸収性を示す。しかし、間隔を空けて磁性体被覆金属線列を並べているため、電波の反射は低減できるが、開口部を通過する電波の透過強度は逆に増加することから、入射した電波電力を実効的に吸収するには不十分であるといえる。また、線列の間隔や太さと電波反射抑制効果との関係についてまでは具体的に検討されておらず、実効的な吸収性能は低いと考えられる。
【0020】
特許文献3には、導電性の材料からなる心材に粉末状フェライトを接着または塗装した電波吸収材や、心材として炭素繊維を用いた吸収材、さらにこれを糸状、紐状とした後、格子状に編んだ電波吸収体等が示されている。また心材に導電性が無い場合には、導体の終端短絡板と組み合わせる必要があることが示されている。
【0021】
上記文献では、上記格子状とすることで通気性を確保することが可能であり、紐の太さや間隔を調整して電波吸収特性を変更できると示されている。また、カーボンを糸に含侵させた通気構造の電波吸収層および紐状吸収体を格子状にして成形した吸収層を重ね、終端短絡導体として金網を組み合わせることで、通気性を有する電波吸収体を構成できると示されている。
【0022】
しかし実質的には、糸または紐に粉末状吸収材料を被着あるいは含侵させこれを集めて吸収体にしているもので、通気性があるという特徴以外は、従来のゴム中にフェライトなどの吸収体を分散させ、板状に成形して裏面に終端短絡板を設けた吸収体と構成が同じである。つまり、心材の形状や太さに関しては具体的に検討されておらず、十分な電波吸収性能が得られているとは言いがたい。
【0023】
特許文献4には、電波吸収体の整合特性の変更方法とそれを利用した電波吸収壁が示されている。具体的には、導電性材料で構成した平板、三角柱、円筒状のものの表面に、異なる特性の電波吸収材料を分割して取り付け、これらを密に並べて、必要に応じて各要素を回転し電波が入射する側の面を変更することで、整合特性を変更できる旨示されている。本件は、異なる波長の電波に対応するための有効な一手法ではあるが、電波吸収体のサイズが電波吸収特性に及ぼす影響まで具体的に検討されたものでない。
【0024】
特許文献5には、電波遮蔽体及び吸収体の記載があり、具体的には光を透過できる電波吸収体が提案されている。電波吸収体として、線状、棒状、円筒状、テープ状のものや、木綿綿にカーボンやフェライトを含侵させたものを電波吸収素子とし、それを面状導体板の上に配置することで電波吸収体となすことができると記載されている。面状導体板として金網や炭素繊維などの導電性糸を用いれば、通気性も確保でき、導電性光透過膜を用いれば透光性も得られることが提案されている。
【0025】
また特許文献6には、金属板と該金属板上にコア軸をほぼ垂直にして設けられたハニカムコアとを備えた電波吸収体が提案されており、該ハニカムコア中にフェライトおよびカーボン粉末がコア軸方向に所定の連続的濃度変化で充填されるようにした広帯域の電波吸収体が開示されている。
【0026】
フェライトおよびカーボン粉末の濃度を連続的に変化させることで、空気中より入射する電波に対して、インピーダンスの不連続を低減して表面反射を抑え、内部に侵入した電波を効率的に吸収させているが、これは、ピラミッド型やウエッジ型の電波吸収体と同様の吸収原理、または多層型の平板型吸収体の吸収原理に基づいて構成されたものと考えられる。
【0027】
上記文献では構造体の厚みは記述されていないが、ピラミッド型吸収体と同様の厚さになると思われる。また多層型吸収体と同様に各層の特性制御が難しく、実用上、品質の安定性に欠けるなどの問題が生じるものと推察される。
【特許文献1】特開平2517849号公報
【特許文献2】特開昭47−24253号公報
【特許文献3】特開平4−122098号公報
【特許文献4】特許第2941436号公報
【特許文献5】特開平6−235281号公報
【特許文献6】特開平5−90832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
既存の平板型吸収体、あるいはピラミッド型やウェッジ型の電波吸収体では、電波吸収特性、広帯域性、薄型・軽量であること及び安価であること等の要件を全て満たすには限界があり、それ以外の形態の吸収体でも、これらの要件を全て満足するものは提案されていない。本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、上記特性を同時に満たす電波吸収体と、該電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る被覆棒列型電波吸収体は、電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ隣り合う前記被覆棒間の間隔(ピッチ)が対象電波波長以下であるところに特徴を有するものである。
【0030】
複数の前記被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されたものであれば、より高い電波吸収性能が得られるので好ましい。また前記電波吸収材として、平均厚み30μm以下である偏平酸化鉄粉末を含むものを用いれば、被覆棒列や電波吸収材の被覆された導体反射板において、効率よく電波を吸収できるので好ましい。
【0031】
本発明は、前記被覆棒列型電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法も規定するものであって、該方法は、前記電波吸収材とバインダーの混合物を押し出し法により前記円柱状導体芯線に被覆するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来の共鳴型単層シートに比べて広帯域で良好な電波吸収特性を示し、また、従来の広帯域特性を有する電波暗室用のピラミッド型電波吸収体よりも著しく薄い電波吸収体を提供できる。また本発明の電波吸収体は、電波が反射板の反射面に対して斜め方向から入射した場合でも、閉じ込め効果を発揮して電波吸収特性を確実に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者らは、ほとんど反射・透過させることなく、入射してきた電波を吸収することのできる電波吸収体を実現すべく鋭意研究を行なった。その結果、電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成される被覆棒列を、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成し、被覆棒で電波を吸収すると共に、この被覆棒列と反射板との間に電波を閉じ込めれば、電波吸収特性を確実に高めうることを見出した。
【0034】
この機構は次のように考えられる。まず、前面の被覆棒列に入射した電波は被覆棒列の表面で一部は吸収され、残りは電波の入射してきた方向や側方へ散乱される。また、被覆棒列の間から入射波の一部が透過する。被覆棒列で吸収されず散乱された電波や被覆棒列の間を透過した電波は、入射方向からみて被覆棒列の後方に配置された反射板で反射し、電波の入射してきた方向に反射される。反射板で反射された電波は再び被覆棒列に入射し、一部は被覆棒表面で吸収され、残りが再び散乱される。この様に被覆棒列と背面の反射板を間隔をあけて配置した電波吸収体における電波の多重散乱状態を図1に示す。図1中には電波の伝播パスを例示しており、入射する電波が、多数の被覆棒と反射板の間の空間に閉じ込められることで、多重反射が生じて極めて効率的に電波を吸収することが可能となる。
【0035】
電波を被覆棒列、及び反射板あるいは吸収板の間の空間に効果的に閉じ込めて効率よく吸収させるには、一本の被覆棒表面での対象周波数の電波の反射減衰特性を充分高めておくと共に、被覆棒の芯線径や隣り合う被覆棒間の間隔を最適化することが重要である。
【0036】
尚、本発明では、上記の通り、被覆棒型吸収体として円筒形のものを用いることで、入射角度依存性を抑え、斜め方向からの入射に対しても十分に電波を吸収できる。
【0037】
まず、被覆棒の芯線径を制御することが重要である。その理由として、被覆棒の芯線径が極端に小さいと、一本の被覆棒に入射した電波がほぼ等方的に散乱されて、電波の入射してきた方へ散乱される確率が高くなり、電波の閉じ込め効果が得られず結果として充分な吸収性能が得られないことが挙げられる。実験で確認したところ、被覆棒の芯線径が波長の1/20を下回ると全体としての吸収効果が大きく低下することがわかった。本発明では、被覆棒の芯線径を波長の1/20以上と大きくすれば、入射電波は大きく回折して反射板とその電波入射側に配置された被覆棒列との間の空間に侵入し、該空間での多重反射で効果的に吸収されることが判明した。好ましくは被覆棒の芯線径を対象波長の1/15以上とする。一方、被覆棒の芯線の径が大きすぎても効果が飽和することと、後記する被覆棒間の間隔(ピッチ)との関係から対象波長の1/2未満、好ましくは1/3以下とする。
【0038】
また、被覆棒間の間隔(ピッチ)を制御することも上述の通り重要である。被覆棒列の間隔が極端に大きくなりまばらになった場合には、当然のことながら、電波が被覆棒間を透過して反射板で反射し全体の吸収性能は著しく低下する。しかし被覆棒列の間隔が一定値以下である場合には、被覆棒列と反射板や電波吸収板との間に侵入した透過波を該空間で閉じ込めることができると共に、被覆棒列間を透過して反射板で反射された電波の強度も充分に低下させることができる。
【0039】
一本の被覆棒で反射された反射波が側方にある他の被覆棒に入射する際に多重散乱が生じるが、このとき、各被覆棒からの反射波の位相がランダムとなるようピッチを選択すれば、反射波の強度低下をより一層助長することが可能となる。該作用効果を実現させるには、被覆棒間の間隔を波長以下とする必要がある。この様に被覆棒間の間隔を波長以下にすることで、入射電波を被覆棒列と反射板の間の空間に効果的に閉じ込めることができ、内部で生じた多重散乱で効果的な電波吸収をもたらし、更に、被覆棒からの散乱波同士の位相キャンセルによる減衰効果を高めて、総合的に電波強度を減衰させることができる。
【0040】
本発明の電波吸収体は、複数の前記被覆棒列が、導体反射板あるいは電波吸収材で被覆した導体反射板の電波入射側に配列されていることを好ましい形態とする。例えば2列の被覆棒列が導体反射板あるいは電波吸収材で被覆した導体反射板の電波入射側に配列されている場合、最初に電波の入射する第1の被覆棒列で電波の一部が吸収され、透過した透過波は、次の被覆棒列(第2の被覆棒列)で吸収されるが、それに加えて、第1の被覆棒列と第2の被覆棒列の間と、第2の被覆棒列とその背面に配置される反射板との間の2層の空間に電波が閉じ込められるため、内部での多重散乱による吸収効果の増大、あるいはさまざまな方向の偏波に対する吸収特性の等方化等により、より高性能の吸収体を実現することが可能となる。
【0041】
この様に複数の前記被覆棒列を複数配置することで、隙間のある被覆棒列の間を透過した透過波を吸収できるが、第2の被覆棒列は第1の被覆棒列ほどの吸収性能を発揮しなくても一定の反射減衰性能があれば、全体として十分な吸収特性が得られる。更に、反射板が単なる金属反射板であっても、上述の通り、被覆棒の円柱状導体芯線の直径や被覆棒間の間隔の制御に加えて、被覆棒列と前記金属板との距離を適正範囲に制御すれば、充分高い吸収特性を実現できる。
【0042】
被覆棒列と前記金属板の距離を制御する場合には、具体的に次の様に行なうことが挙げられる。即ち、金属板に反射した反射波の位相を最適な値に制御することが重要であり、被覆棒列と金属板との距離に対して全体の反射強度は半波長の周期で振動するため、被覆棒列と金属板との間の距離は、全体の反射強度が極小値を取るようにし、かつ吸収体全体の厚みが厚くなり過ぎないように調整するのがよい。
【0043】
被覆棒列における被覆棒の間隔は、全ての被覆棒間で同一である必要はなく、各被覆棒間の間隔が本発明の規定範囲に入っていれば所定の効果を得ることができる。また一直線に配列せず、ジグザグに配置したり、曲線を描くように配置してもよい。更に、前記反射板が湾曲している場合には、図2(a)や図2(b)に示す通り、該反射板の壁面に沿うよう曲線状に被覆棒を配列しても、反射板と被覆棒列との間の電波閉じ込めと多重散乱による吸収効果を得ることができる。
【0044】
上記被覆棒は、円柱状金属導体、あるいは円筒状(中空)金属パイプ、又は表面に金属メッキ等を施した電波反射処理済の円筒支持体に、一定厚みの電波吸収層を被覆することにより形成することができる。吸収層としては、一般的なカーボンやフェライトなどの電波損失材をプラスチックやゴム、その他の樹脂中に分散させて円柱状導体表面に塗布することにより形成することができるが、該被覆棒や導体反射板に被覆する電波吸収材として特に、既に提案されている平均厚みが30μm以下の偏平酸化鉄粉末(例えば、特開2004−96084号)が適している。偏平酸化鉄粉は、入射電波の電場及び磁場方向に平行に粉末を配向させることにより大きな誘電率、透磁率、及びそれらの大きな損失項を示し、薄皮膜で十分な吸収特性を得やすいからである。
【0045】
前記吸収材を導体芯線に被覆して被覆棒を製造する方法としては、例えば被覆アーク溶接棒のフラックスの塗装方法として用いられている押し出し塗装法を採用することが好適である。上記被覆アーク溶接棒のフラックス塗装では、周囲からフラックスを供給しながら芯線をダイス中に軸方向にフラックスと共に押し出すことで、均一厚みで非常に緻密な被覆を形成することができる。本発明でもこの方法を採用して導体芯線に前記吸収材を被覆すれば、全周における厚みが均一となり、また電波吸収材として用いる偏平酸化鉄粉が、押し出しによる軸方向の強い剪断力により芯線表面に平行に強く配向し、円筒導体表面近傍の電場及び磁場を極めて効果的に吸収できる。
【0046】
尚、被覆棒における吸収層は、対象とする周波数の電波の反射減衰率ができるだけ大きくなるように設計(具体的には吸収剤の材質、充填率[体積率]、厚みの3つのファクターを制御)するのが好ましいが、特性の被覆棒の反射減衰特性を高めても、構造体全体の電波吸収特性が比例して向上するものでなく、上述の通り、被覆棒の円柱状導体芯線の直径や、隣り合う被覆棒間の間隔を制御することが重要であり、これらの条件を制御した上で、更に上記吸収層の設計や、反射板と被覆棒列の距離等を行なえば、電波吸収体の性能をより高めることができる。尚、吸収層の厚みは、波長と概ね比例関係があるので、対象とする電波の波長に応じてその最適値を決定すればよい。
【0047】
被覆棒を製造するにあたり、前記電波吸収材と混合させるバインダーとしては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を用いることができ、バインダーの配合比率は、被覆材全体の20〜90体積%とするのが好ましい。20体積%未満だと結着力が不足し易く、また90体積%を超えると相対的に吸収剤の添加量が不足ぎみとなるからである。
【0048】
また反射板としては、様々な金属からなる金属板を使用することができ、例えばアルミニウムからなる金属板を使用することができる。
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0050】
電波吸収材として平均厚みが10μmである偏平酸化鉄粉末を用いて被覆棒を形成した。具体的には、まず前記偏平酸化鉄粉末とバインダーである水ガラスを混練し、φ11mmのダイスを用いた押し出し塗装法で、長さ500mm、φ8mmの軟鉄芯線に約1.5mmの吸収層を被覆したのち乾燥させ、それから吸湿防止としてエポキシ系の塗装を施して電波吸収被覆棒を得た。水ガラスと偏平酸化鉄粉の質量比は100:350とした。また、吸収層中の偏平酸化鉄粉の体積率は、被覆直後の吸収層の質量と最終吸収層厚みを実測して約50%であると算出された。
【0051】
得られた被覆棒14を、図3に示す通り、電波反射板であるアルミ板15の上に一定間隔で配置(乗せている状態)し、その上部から電波を被覆棒列に向けて出射して電波反射特性を測定した。電波吸収特性の測定は、具体的にネットワークアナライザ11と誘電体レンズ13つきホーンアンテナ12を用い、ワンポートでの反射特性を基準の金属板からの反射特性を用いて校正する一般的な方法(フリースペース法)で行った。測定結果を図4〜7に示す。
【0052】
尚、図4および図5は、図8(図中Eは電場方向、Hは磁場方向を示す。図9についても同じ)の通り被覆棒を配列した場合の結果を示し、図6および図7は、図9の通り被覆棒を配列した場合の結果を示している。
【0053】
この図4〜7から、反射減衰特性は、被覆棒の間隔(ピッチ)が対象電波波長(6GHzに対して約50mm)を下回るように被覆棒を配列すれば大幅に改善されることがわかる。一方、該ピッチが対象波長より大きくなると、被覆棒の配列方向と電場方向が垂直の場合も平行の場合も、反射減衰量は5dB程度まで大きく低下し、入射電波は電波吸収体で吸収されず、主として反射板で反射され電波吸収体外へ放出されるものと考えられる。
【実施例2】
【0054】
前記実施例1と同様に、電波吸収材として平均厚み10μmである偏平酸化鉄粉末を用いて被覆棒を形成した。具体的には、バインダーである水ガラスと偏平酸化鉄粉を混練し、φ22mmのダイスを用いた押し出し塗装法で、長さ500mm、φ20mmの軟鉄芯線に約1mmの吸収層を被覆したのち乾燥させ、それから吸湿防止としてエポキシ系の塗装を施して電波吸収被覆棒を得た。水ガラスと偏平酸化鉄粉の質量比は、前記実施例1と同じ100:350とした。また、吸収層中の偏平酸化鉄粉の体積率も前記実施例1と同様に約50%であった。
【0055】
得られた被覆棒を、電波反射板であるアルミ板の上に一定間隔で配置し、電波反射特性を前記実施例1と同様にして測定した。その測定結果を図10〜13に示す。
【0056】
尚、図10および図11は、図8の通り被覆棒を配列した場合の結果を示し、図12および図13は、図9の通り被覆棒を配列した場合の結果を示している。
【0057】
この図10〜13から、反射減衰特性は、被覆棒の間隔(ピッチ)が対象電波波長(9.4GHzに対して約32mm)を下回るように被覆棒を配列すれば大幅に改善されることがわかる。一方、該ピッチが対象波長より大きくなると、被覆棒の配列方向と電場方向が垂直の場合も平行の場合も、反射減衰量は5dB程度まで大きく低下し、入射電波は電波吸収体で吸収されず、主として反射板で反射され電波吸収体外へ放出されるものと考えられる。
【実施例3】
【0058】
本実施例では、ETCに用いられる電波周波数:5.8GHz円偏波に対する反射減衰効果を調査した(以下、実施例4〜8も同じ)。用いる電波吸収材と被覆棒の作成方法は前記実施例1と同様とした。尚、軟鉄芯線として様々な各種芯線径のものを用意し、被覆する吸収層の厚みを5.8GHz付近での反射減衰量が最大となるように被覆厚みを調整して各種被覆棒を作製した。詳細には、芯線径がφ2mm、φ3mmおよびφ5mmのものには、吸収周波数を5.8GHz近傍にそろえるため吸収層を比較的厚めに被覆した。また、より芯線径の大きな芯線には厚みが1.5mmの吸収層を被覆した。尚、該反射減衰量は、この様にして得られた被覆棒1本からの反射強度と、被覆されていない裸線からの反射強度を比較して求めたものであり、被覆棒から1m離れた箇所においての裸線に対する減衰量を求めた。尚、電場と芯線は平行とした。これらの測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
この表1より、それぞれの芯線径に対して吸収周波数を5.8GHz付近に調整することができることがわかる。しかし径が2mmの場合は、波長の1/20を下回っているので、被覆棒後方(電波が入射してくる方向)への散乱が大きく、反射減衰量が低くなっている。
【0061】
また、得られた被覆棒をピッチを変化させてアルミ板の上に配置して電波反射特性を測定した。電波吸収特性の測定は、ネットワークアナライザと送信用と受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、入射角15°での反射特性を基準の金属板からの反射特性を用いて校正する方法で行った。表2に芯線径、被覆棒の間隔(ワイヤピッチ)および5.8GHz円偏波での反射減衰量の測定値を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
またこの表2のデータを整理して得た芯線径:8mm、被覆厚み:1.5mmの被覆棒を配置した場合の反射減衰量のワイヤピッチ依存性についてのグラフを図14に示す。更に、被覆棒列の反射減衰量の芯線径とピッチの依存性を図15に、被覆棒間隔最適化後の反射減衰量の芯線径依存性を図16に示す。
【0064】
前記図15,16の結果から、芯線径が2mmの場合を除き、被覆棒の間隔(ピッチ)を制御することで、実用的な反射減衰量である20dB以上を達成できることがわかる。即ち、芯線径が一定以上であれば、被覆棒の間隔を制御することで、入射電波の被覆棒列−反射板間への閉じ込め効果を最大限として充分な吸収特性を得ることができるが、芯線径が2mmと電波波長に比べて極端に小さい場合には、被覆棒列を透過して反射板で反射する電波が多くなるので、被覆棒の間隔を最適化しても充分な吸収効果が得られないことがわかる。これらの結果から、実用的な吸収特性を達成するには、芯線径を波長の1/20以上とする必要があることがわかった。
【0065】
また、被覆棒の間隔(ピッチ)が一定値を上回ると、芯線径を制御しても充分な反射減衰量を達成できないことも分かった。このときの対象波長は約50mmであり、被覆棒の間隔(ピッチ)を対象波長の50mm以下とすれば、その他の条件として芯線径と被覆厚みを最適化することで、十分優れた反射減衰特性が得られる。
【実施例4】
【0066】
前記実施例3と同様にして作製した被覆棒を、アルミ板の上に一定間隔で配置して被覆棒列型電波吸収体Aを作製した。具体的には、長さ500mmで直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、25mmの間隔でアルミ板の上に配置したものを被覆棒列型吸収体Aとした。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Aの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)と被覆棒列を垂直とした。
【0067】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との対比により求めた。具体的には、図17に矢印で示す円偏波の方向を被覆棒列に対し45°とした場合の円偏波の反射強度を測定した。
【0068】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図18に、各入射角での反射減衰スペクトルを図19に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図20に示す。図20中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0069】
これら図18〜20の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体は、電波の入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が25dB以上と優れた吸収特性を示すことがわかる。この様に電波の入射角が斜め方向である場合も優れた吸収特性を示すのは、被覆棒の形態が円筒状であるため、垂直入射と同等の電波応答を示し、電波の閉じ込めによる高い吸収特性を確保できたことによると考えられる。
【実施例5】
【0070】
前記実施例3と同様にして作製した被覆棒を、アルミ板の上に一定間隔で配置して被覆棒列型電波吸収体Bを作製した。具体的には、直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、25mmの間隔でアルミ板の上に配置し、更に、図21に示す通り同上の被覆棒を90mm間隔で最初に配置した被覆棒列に対して直角に配置した被覆棒列型吸収体Bとした。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Bの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、下層の被覆棒列と平行とした。
【0071】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との比較によって求めた。
【0072】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図22に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図23に示す。図23中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0073】
これら図22、23の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Bの反射減衰特性は、被覆棒列が1層である前記実施例4の被覆棒列型吸収体Aの性能を大きく上回り、図22から、入射角15°で最大60dBの反射減衰量を示し、周波数5GHzから7GHzの広帯域にわたり20dB以上の反射減衰量を示すことがわかる。また図23から、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が20dB以上と斜め入射の場合でも優れた吸収特性を示すことがわかる。
【0074】
この様に被覆棒列を2層重ねることにより、吸収周波数帯域や吸収量などの特性が大きく改善されているが、これは、電波の閉じ込めと内部での多重散乱の効果がより助長されて高い吸収特性が実現されたためと考えられる。
【実施例6】
【0075】
前記実施例5と同様に、互いに直交する方向で2層に重ねた被覆棒列型電波吸収体を作製して吸収特性を評価した。具体的には、図24に示す通り直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、対象電波波長である50mmを下回る40mm間隔でアルミ板の上に第1層目として配置し、さらにその上に、同上の被覆棒を40mm間隔で第一層目の被覆棒に対して直角に配置した被覆棒列型吸収体Cを得た。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Cの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、下層の被覆棒列と垂直とした。
【0076】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との比較によって求めた。
【0077】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図25に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図26に示す。図26中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0078】
これら図25、26の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Cの反射減衰特性は、前記被覆棒列型電波吸収体Bと同様に、5.8GHzで斜めに入射した場合でも、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が20dB以上と斜め入射の場合でも優れた吸収特性を示すことがわかる。
【0079】
また、この様に被覆棒列の間隔を本発明で規定する様に電波波長以下とすれば、電波の閉じ込めと内部での多重散乱の効果による高い電波吸収性能が得られることがわかる。
【実施例7】
【0080】
前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体の被覆棒列の配列を変えたものを用意した。詳細には、被覆棒が図27に示す様にジグザグに配置され、該被覆棒の平均間隔を前記実施例4と同じ25mmとした被覆棒列型吸収体Dを用意した。ここで被覆棒間の間隔は、図28におけるaとbの距離を測定し(a+b)/2を求めたものである。
【0081】
そして前記実施例4と同様に、電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Dの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、図29に示す被覆棒列の平均的方向に対して垂直とした。
【0082】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図30、5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図31に示す。尚、図31中の入射角0°での反射減衰特性は直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0083】
これら図30、31の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Dの様に被覆棒の配置を多少変化させても、被覆棒の平均間隔が本発明の規定範囲内にあれば、反射減衰特性は、前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体Aとほぼ同等の特性を示すことがわかる。
【実施例8】
【0084】
前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体Aの反射板を、表面に電波吸収体の被覆された反射板に変えた被覆棒列型吸収体Eを用意した。この反射板の表面に被覆させた電波吸収体は、カーボンブラックをゴム中に50PHR混入させたタイプのもので厚みが2.5mmである。図32にカーボン含有ゴムシート吸収体で被覆した反射板の直線偏波と垂直入射の反射減衰特性を示す。図32から、この吸収板は、5GHzから7GHzの領域で最大10dB程度の反射減衰特性を示すことがわかる。
【0085】
この吸収板を背面に配した被覆棒型吸収体Eを用いて、前記実施例4と同様に、電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Eの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)と被覆棒列を垂直とした。
【0086】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図33に、また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図34に示す。尚、図33中の入射角0°での反射減衰特性は直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0087】
これら図33、34の結果から、背面に配置する反射板にも電波反射減衰性能を付与することで、前記実施例4の様に金属製反射板を用いたときよりも反射減衰量の最大値は増大することがわかる。また、5.8GHzで斜めに入射した場合でも、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が30dB以上と著しく優れた反射減衰特性を示した。これは、被覆棒列と反射板の間での多重反射において、反射板にも反射減衰特性を付与することで、より一層効果的に電波が吸収されたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】被覆棒列と背面の反射板からなる電波吸収体における電波の多重散乱状態を示した模式図である。
【図2】反射板が湾曲している場合の被覆棒の配置を例示した上面模式図である。
【図3】実施例における電波反射特性の測定方法を模式的に示した上面図である。
【図4】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図5】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図6】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図7】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図8】実施例1における被覆棒の配列を模式的に示す上面図である。
【図9】実施例1における被覆棒の別の配列を模式的に示す上面図である。
【図10】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図11】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図12】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図13】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図14】一定形状の被覆棒を用いたときの反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフである。
【図15】反射減衰量の芯線径・ピッチ依存性を示すグラフである。
【図16】反射減衰量の芯線径依存性を示すグラフである。
【図17】実施例4における被覆棒列と偏波との位置関係を示す側面図である。
【図18】実施例4における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図19】実施例4における各入射角での反射減衰スペクトルを示す。
【図20】実施例4における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図21】実施例5における被覆棒の配列を模式的に示す上面図である。
【図22】実施例5における入射角15°での反射減衰スペクトルを示している。
【図23】実施例5における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図24】実施例6における被覆棒列吸収体と電波の入射・反射方向を模式的に示した斜視図である。
【図25】実施例6における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図26】実施例6における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図27】実施例7における被覆棒列の配列を示す。
【図28】被覆棒間の間隔〔(a+b)/2〕の算出におけるa,bの長さを示す図である。
【図29】ジグザグに配置した被覆棒列の平均的方向を示す図である。
【図30】実施例7における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図31】実施例7における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図32】実施例8におけるカーボン含有ゴムシート吸収体の反射減衰特性を示す。
【図33】実施例8における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図34】実施例8における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
1,14,21 被覆棒
2 反射板
3 電波の伝播パス
11 ネットワークアナライザ
12 ホーンアンテナ
13 誘導体レンズ
15 反射板(アルミ板)
22 背面アルミ板
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆棒列型電波吸収体および電波吸収体用被覆棒の製造方法に関するものであり、殊に、電波吸収特性や広帯域性に優れており、かつ薄型である被覆棒列型電波吸収体と、該電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN、ETC、携帯電話などの無線を用いたデジタルデータ通信の利用が急速に普及し、それに伴い電波の干渉問題や情報漏洩などの問題が社会問題となりつつある。この様な問題への対策技術の一つとして、電波吸収体の利用が挙げられる。
【0003】
上記用途に使用される電波吸収体には、特性として、電波の吸収性能、広帯域性(広い周波数領域で必要な吸収特性である。一般的には20dB以上;入射電波の99%以上の吸収が求められ、20dB以上の吸収を示す周波数領域が広いことが吸収体の性能の一指針となる)、軽量あるいは薄型であること、屋外で使用する場合には耐候性を有していること、大面積に使用する場合には安価であることなどが挙げられるが、現在実用化されている電波吸収体は一長一短があり、上記要件を全て満たす吸収体は未だ実現していないのが現状である。
【0004】
現在、電波吸収体として一般的に使用されているものとして、
(a)焼結フェライトのタイルや樹脂、ゴム、繊維にフェライト粉末やカーボン粉末などの電波吸収体を分散もしくは被着させて、板状に形成したものを単層または多層とした平板型吸収体、
(b)発泡ポリスチロール等にカーボン等を含有させて、ピラミッド形状またはウエッジ形状に成形し、これを並べたピラミッド型やウエッジ型の吸収体
等があり、要求性能や使用環境によってそれぞれ使い分けられている。
【0005】
前記平板型吸収体には、更に、
(a−1)ゴムまたは樹脂に、カーボンまたはフェライトを含侵したもの、あるいは樹脂繊維にカーボンを被着させこれを重ねて板状に成形した複合シート型吸収体や、
(a−2)抵抗皮膜や繊維、導電性塗料を塗布した抵抗皮膜型吸収体、
(a−3)ガラスにITO等の透明導電膜をコーティングした透明電波吸収体
等が実用化されている。
【0006】
現在広く用いられている電波吸収体のうち、この平板型吸収体は、形状が単純であり薄型にしやすく、また比較的大面積のものを安価で作りやすいことから、一般的には屋外の用途に使用されている。
【0007】
一般的に使用されている平板型吸収体として、その構造が、電波の損失媒体からなる吸収層と背面の反射板からなるものがある。この様な構造は整合型ともよばれ、その吸収原理は次の通りである。
【0008】
即ち、電波が吸収層へ入射した場合に、空気層の電波屈折率と吸収層の電波屈折率の差から、一部が吸収層の表面で反射され、残りが吸収層の中を吸収されながら進み、背面の反射板に達して反射される。この反射板で反射された電波は、再び吸収層の中を進み、一部は吸収層の表面で反射されて再度吸収層の中を進み、一部は吸収層の表面から空気層に放出される。
【0009】
そして前記吸収層表面で1次反射した反射波と、背面の反射板まで達した後に反射された反射波のうち吸収層の表面から再び放射される電波が、互いに打ち消しあうように吸収体の電波屈折率や厚みなどを調整すれば、吸収層の表面で反射される電波強度は消失し、吸収層内部ですべて吸収されて熱に変換される。
【0010】
この条件は整合条件と呼ばれ、該条件の制御は平板型吸収体やシート型吸収体の基本設計手法となっている。しかしその原理から明らかな通り、入射電波の波長や入射角度が変わると、即ち、整合条件がくずれると電波の反射減衰特性が劣化する。従って、簡単な構造である単層型の吸収体は、一般的に狭帯域に限定され、また斜め入射に対する特性劣化が大きい。この欠点を改善する手法として、吸収層を多層化して広領域化を図るのが一般的である。しかし層数を増加させると、各層の設計や品質安定性、特性のマージン設計が難しくなり、またコストアップにもつながるので5層以下が一般的となっている。
【0011】
前記ピラミッド型やウエッジ型の電波吸収体は、広帯域特性を示すことから、各種アンテナや通信機器の性能評価に用いられる電波暗室の内壁を構成する吸収体として広く用いられている。
【0012】
このタイプの吸収体の電波吸収原理は次の通りである。即ち、先端の尖ったピラミッド型の吸収エレメントを並べることで、電波の入射界面でのインピーダンスの不連続をなくして表面での反射を抑え、連続的に吸収層の断面積を増やして損失係数を上げていくことにより、表面で反射されず内部に侵入した電波を徐々に吸収する。
【0013】
この構造では、入射した電波の表面反射を抑える目的で、電波に対するインピーダンスを空気のインピーダンスから徐々に変えていくため、先頭を尖らせたピラミッドあるいはウエッジ状とし、電波が内部に侵入するに従って徐々に電波を減衰させて吸収する構造となっている。よって電波の波長の変化や入射角度の変化が生じた場合でも、吸収層の表面における入射界面でのインピーダンスは空気のインピーダンスから連続的に変化するため、吸収特性に大きな劣化が生じない。そのため、広い周波数域に対応でき高角度特性も有しており、高い吸収性能を発揮する。しかしこのタイプの吸収体は、構造が大型になってしまうという欠点がある。
【0014】
この他に、円筒型電波吸収体や紐状電波吸収体なども提案されている。円筒型電波吸収体は、電波を反射する円筒状導体の表面に電波吸収体を含む被覆層が設けられており、円筒状導体からの電波反射を抑えている。この円筒型電波吸収体を複数並べて構成される電波反射の抑制された電波吸収構造体も数々提案されている。
【0015】
円筒型電波吸収体は、電波吸収体が円筒形状であるため、平面型のものと比較して、仮に電波が表面で反射しても、平面型の吸収体のように後方に強く反射されず、周囲に分散して散乱される。よって形状そのものが電波反射を抑えるには好都合の形態となっている。そして、それらに電波反射を抑える吸収層(反射防止層)を被覆して配列することで、反射強度をより低下させることができる。しかしこのような構造では、入射した電波が円筒状吸収体の隙間から透過するので、十分に電波を吸収できるわけではない。
【0016】
一般に電波の透過を抑えるには、例えば金属導体のワイヤなどを網目状に組む場合、ワイヤの間隔を電波波長に比べて充分小さくする必要がある。具体的にはワイヤ間の間隔を電波波長の1/10程度以下とすれば、電波の透過強度を10dB程度以下におさえることができる。しかし導体表面に電波吸収層が形成されている場合には、電波の透過が促進されるので、電波透過強度を充分低下させるためには、ワイヤ間の間隔をより一層小さくする必要がある。また仮に密着して並べたとしても、金属導体同士を完全に密着させることはできず、金属導体間に存在する吸収層を入射電波が透過するため、透過を完全に抑えることはできない。従って、単純に吸収層を被覆した電波吸収被覆棒を並べても、入射電波を十分に吸収することは難しい。
【0017】
上記様々な電波吸収体の具体例として、例えば特許文献1には、円筒の表面にエポキシ樹脂とカーボン樹脂を被覆した円筒状の電波吸収体が提案されている。円筒の外面に電波吸収特性を発揮する層を被覆することにより、従来、平面にのみ施工されていた電波吸収体を、曲面形状を有する船のマスト等へ適用可能となったことが示されている。本件では、適切な吸収材を被覆することにより電波の反射を効果的に低減できる旨示されているが、一本の円柱からの反射を抑制するものであり、広い領域で電波を吸収できるものではない。
【0018】
また特許文献2には、金属線の周囲に磁性損失体を被覆した複合線を、複数本並べた磁性体被覆金属線列の電波吸収体が提案されている。具体的には、磁性体粉末を被着した金属線の平行線列、あるいはそれを互いに重ねて格子状にした吸収体が例示されており、この様な構造とすることで、通気性と光の透過性を兼備させることができると示されている。
【0019】
原理的には、金属線に磁性材料を被覆することで未被覆の金属線列や格子と比較して電波の反射強度が低下するので、ある程度の電波吸収性を示す。しかし、間隔を空けて磁性体被覆金属線列を並べているため、電波の反射は低減できるが、開口部を通過する電波の透過強度は逆に増加することから、入射した電波電力を実効的に吸収するには不十分であるといえる。また、線列の間隔や太さと電波反射抑制効果との関係についてまでは具体的に検討されておらず、実効的な吸収性能は低いと考えられる。
【0020】
特許文献3には、導電性の材料からなる心材に粉末状フェライトを接着または塗装した電波吸収材や、心材として炭素繊維を用いた吸収材、さらにこれを糸状、紐状とした後、格子状に編んだ電波吸収体等が示されている。また心材に導電性が無い場合には、導体の終端短絡板と組み合わせる必要があることが示されている。
【0021】
上記文献では、上記格子状とすることで通気性を確保することが可能であり、紐の太さや間隔を調整して電波吸収特性を変更できると示されている。また、カーボンを糸に含侵させた通気構造の電波吸収層および紐状吸収体を格子状にして成形した吸収層を重ね、終端短絡導体として金網を組み合わせることで、通気性を有する電波吸収体を構成できると示されている。
【0022】
しかし実質的には、糸または紐に粉末状吸収材料を被着あるいは含侵させこれを集めて吸収体にしているもので、通気性があるという特徴以外は、従来のゴム中にフェライトなどの吸収体を分散させ、板状に成形して裏面に終端短絡板を設けた吸収体と構成が同じである。つまり、心材の形状や太さに関しては具体的に検討されておらず、十分な電波吸収性能が得られているとは言いがたい。
【0023】
特許文献4には、電波吸収体の整合特性の変更方法とそれを利用した電波吸収壁が示されている。具体的には、導電性材料で構成した平板、三角柱、円筒状のものの表面に、異なる特性の電波吸収材料を分割して取り付け、これらを密に並べて、必要に応じて各要素を回転し電波が入射する側の面を変更することで、整合特性を変更できる旨示されている。本件は、異なる波長の電波に対応するための有効な一手法ではあるが、電波吸収体のサイズが電波吸収特性に及ぼす影響まで具体的に検討されたものでない。
【0024】
特許文献5には、電波遮蔽体及び吸収体の記載があり、具体的には光を透過できる電波吸収体が提案されている。電波吸収体として、線状、棒状、円筒状、テープ状のものや、木綿綿にカーボンやフェライトを含侵させたものを電波吸収素子とし、それを面状導体板の上に配置することで電波吸収体となすことができると記載されている。面状導体板として金網や炭素繊維などの導電性糸を用いれば、通気性も確保でき、導電性光透過膜を用いれば透光性も得られることが提案されている。
【0025】
また特許文献6には、金属板と該金属板上にコア軸をほぼ垂直にして設けられたハニカムコアとを備えた電波吸収体が提案されており、該ハニカムコア中にフェライトおよびカーボン粉末がコア軸方向に所定の連続的濃度変化で充填されるようにした広帯域の電波吸収体が開示されている。
【0026】
フェライトおよびカーボン粉末の濃度を連続的に変化させることで、空気中より入射する電波に対して、インピーダンスの不連続を低減して表面反射を抑え、内部に侵入した電波を効率的に吸収させているが、これは、ピラミッド型やウエッジ型の電波吸収体と同様の吸収原理、または多層型の平板型吸収体の吸収原理に基づいて構成されたものと考えられる。
【0027】
上記文献では構造体の厚みは記述されていないが、ピラミッド型吸収体と同様の厚さになると思われる。また多層型吸収体と同様に各層の特性制御が難しく、実用上、品質の安定性に欠けるなどの問題が生じるものと推察される。
【特許文献1】特開平2517849号公報
【特許文献2】特開昭47−24253号公報
【特許文献3】特開平4−122098号公報
【特許文献4】特許第2941436号公報
【特許文献5】特開平6−235281号公報
【特許文献6】特開平5−90832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
既存の平板型吸収体、あるいはピラミッド型やウェッジ型の電波吸収体では、電波吸収特性、広帯域性、薄型・軽量であること及び安価であること等の要件を全て満たすには限界があり、それ以外の形態の吸収体でも、これらの要件を全て満足するものは提案されていない。本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、上記特性を同時に満たす電波吸収体と、該電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る被覆棒列型電波吸収体は、電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ隣り合う前記被覆棒間の間隔(ピッチ)が対象電波波長以下であるところに特徴を有するものである。
【0030】
複数の前記被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されたものであれば、より高い電波吸収性能が得られるので好ましい。また前記電波吸収材として、平均厚み30μm以下である偏平酸化鉄粉末を含むものを用いれば、被覆棒列や電波吸収材の被覆された導体反射板において、効率よく電波を吸収できるので好ましい。
【0031】
本発明は、前記被覆棒列型電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法も規定するものであって、該方法は、前記電波吸収材とバインダーの混合物を押し出し法により前記円柱状導体芯線に被覆するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来の共鳴型単層シートに比べて広帯域で良好な電波吸収特性を示し、また、従来の広帯域特性を有する電波暗室用のピラミッド型電波吸収体よりも著しく薄い電波吸収体を提供できる。また本発明の電波吸収体は、電波が反射板の反射面に対して斜め方向から入射した場合でも、閉じ込め効果を発揮して電波吸収特性を確実に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明者らは、ほとんど反射・透過させることなく、入射してきた電波を吸収することのできる電波吸収体を実現すべく鋭意研究を行なった。その結果、電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成される被覆棒列を、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成し、被覆棒で電波を吸収すると共に、この被覆棒列と反射板との間に電波を閉じ込めれば、電波吸収特性を確実に高めうることを見出した。
【0034】
この機構は次のように考えられる。まず、前面の被覆棒列に入射した電波は被覆棒列の表面で一部は吸収され、残りは電波の入射してきた方向や側方へ散乱される。また、被覆棒列の間から入射波の一部が透過する。被覆棒列で吸収されず散乱された電波や被覆棒列の間を透過した電波は、入射方向からみて被覆棒列の後方に配置された反射板で反射し、電波の入射してきた方向に反射される。反射板で反射された電波は再び被覆棒列に入射し、一部は被覆棒表面で吸収され、残りが再び散乱される。この様に被覆棒列と背面の反射板を間隔をあけて配置した電波吸収体における電波の多重散乱状態を図1に示す。図1中には電波の伝播パスを例示しており、入射する電波が、多数の被覆棒と反射板の間の空間に閉じ込められることで、多重反射が生じて極めて効率的に電波を吸収することが可能となる。
【0035】
電波を被覆棒列、及び反射板あるいは吸収板の間の空間に効果的に閉じ込めて効率よく吸収させるには、一本の被覆棒表面での対象周波数の電波の反射減衰特性を充分高めておくと共に、被覆棒の芯線径や隣り合う被覆棒間の間隔を最適化することが重要である。
【0036】
尚、本発明では、上記の通り、被覆棒型吸収体として円筒形のものを用いることで、入射角度依存性を抑え、斜め方向からの入射に対しても十分に電波を吸収できる。
【0037】
まず、被覆棒の芯線径を制御することが重要である。その理由として、被覆棒の芯線径が極端に小さいと、一本の被覆棒に入射した電波がほぼ等方的に散乱されて、電波の入射してきた方へ散乱される確率が高くなり、電波の閉じ込め効果が得られず結果として充分な吸収性能が得られないことが挙げられる。実験で確認したところ、被覆棒の芯線径が波長の1/20を下回ると全体としての吸収効果が大きく低下することがわかった。本発明では、被覆棒の芯線径を波長の1/20以上と大きくすれば、入射電波は大きく回折して反射板とその電波入射側に配置された被覆棒列との間の空間に侵入し、該空間での多重反射で効果的に吸収されることが判明した。好ましくは被覆棒の芯線径を対象波長の1/15以上とする。一方、被覆棒の芯線の径が大きすぎても効果が飽和することと、後記する被覆棒間の間隔(ピッチ)との関係から対象波長の1/2未満、好ましくは1/3以下とする。
【0038】
また、被覆棒間の間隔(ピッチ)を制御することも上述の通り重要である。被覆棒列の間隔が極端に大きくなりまばらになった場合には、当然のことながら、電波が被覆棒間を透過して反射板で反射し全体の吸収性能は著しく低下する。しかし被覆棒列の間隔が一定値以下である場合には、被覆棒列と反射板や電波吸収板との間に侵入した透過波を該空間で閉じ込めることができると共に、被覆棒列間を透過して反射板で反射された電波の強度も充分に低下させることができる。
【0039】
一本の被覆棒で反射された反射波が側方にある他の被覆棒に入射する際に多重散乱が生じるが、このとき、各被覆棒からの反射波の位相がランダムとなるようピッチを選択すれば、反射波の強度低下をより一層助長することが可能となる。該作用効果を実現させるには、被覆棒間の間隔を波長以下とする必要がある。この様に被覆棒間の間隔を波長以下にすることで、入射電波を被覆棒列と反射板の間の空間に効果的に閉じ込めることができ、内部で生じた多重散乱で効果的な電波吸収をもたらし、更に、被覆棒からの散乱波同士の位相キャンセルによる減衰効果を高めて、総合的に電波強度を減衰させることができる。
【0040】
本発明の電波吸収体は、複数の前記被覆棒列が、導体反射板あるいは電波吸収材で被覆した導体反射板の電波入射側に配列されていることを好ましい形態とする。例えば2列の被覆棒列が導体反射板あるいは電波吸収材で被覆した導体反射板の電波入射側に配列されている場合、最初に電波の入射する第1の被覆棒列で電波の一部が吸収され、透過した透過波は、次の被覆棒列(第2の被覆棒列)で吸収されるが、それに加えて、第1の被覆棒列と第2の被覆棒列の間と、第2の被覆棒列とその背面に配置される反射板との間の2層の空間に電波が閉じ込められるため、内部での多重散乱による吸収効果の増大、あるいはさまざまな方向の偏波に対する吸収特性の等方化等により、より高性能の吸収体を実現することが可能となる。
【0041】
この様に複数の前記被覆棒列を複数配置することで、隙間のある被覆棒列の間を透過した透過波を吸収できるが、第2の被覆棒列は第1の被覆棒列ほどの吸収性能を発揮しなくても一定の反射減衰性能があれば、全体として十分な吸収特性が得られる。更に、反射板が単なる金属反射板であっても、上述の通り、被覆棒の円柱状導体芯線の直径や被覆棒間の間隔の制御に加えて、被覆棒列と前記金属板との距離を適正範囲に制御すれば、充分高い吸収特性を実現できる。
【0042】
被覆棒列と前記金属板の距離を制御する場合には、具体的に次の様に行なうことが挙げられる。即ち、金属板に反射した反射波の位相を最適な値に制御することが重要であり、被覆棒列と金属板との距離に対して全体の反射強度は半波長の周期で振動するため、被覆棒列と金属板との間の距離は、全体の反射強度が極小値を取るようにし、かつ吸収体全体の厚みが厚くなり過ぎないように調整するのがよい。
【0043】
被覆棒列における被覆棒の間隔は、全ての被覆棒間で同一である必要はなく、各被覆棒間の間隔が本発明の規定範囲に入っていれば所定の効果を得ることができる。また一直線に配列せず、ジグザグに配置したり、曲線を描くように配置してもよい。更に、前記反射板が湾曲している場合には、図2(a)や図2(b)に示す通り、該反射板の壁面に沿うよう曲線状に被覆棒を配列しても、反射板と被覆棒列との間の電波閉じ込めと多重散乱による吸収効果を得ることができる。
【0044】
上記被覆棒は、円柱状金属導体、あるいは円筒状(中空)金属パイプ、又は表面に金属メッキ等を施した電波反射処理済の円筒支持体に、一定厚みの電波吸収層を被覆することにより形成することができる。吸収層としては、一般的なカーボンやフェライトなどの電波損失材をプラスチックやゴム、その他の樹脂中に分散させて円柱状導体表面に塗布することにより形成することができるが、該被覆棒や導体反射板に被覆する電波吸収材として特に、既に提案されている平均厚みが30μm以下の偏平酸化鉄粉末(例えば、特開2004−96084号)が適している。偏平酸化鉄粉は、入射電波の電場及び磁場方向に平行に粉末を配向させることにより大きな誘電率、透磁率、及びそれらの大きな損失項を示し、薄皮膜で十分な吸収特性を得やすいからである。
【0045】
前記吸収材を導体芯線に被覆して被覆棒を製造する方法としては、例えば被覆アーク溶接棒のフラックスの塗装方法として用いられている押し出し塗装法を採用することが好適である。上記被覆アーク溶接棒のフラックス塗装では、周囲からフラックスを供給しながら芯線をダイス中に軸方向にフラックスと共に押し出すことで、均一厚みで非常に緻密な被覆を形成することができる。本発明でもこの方法を採用して導体芯線に前記吸収材を被覆すれば、全周における厚みが均一となり、また電波吸収材として用いる偏平酸化鉄粉が、押し出しによる軸方向の強い剪断力により芯線表面に平行に強く配向し、円筒導体表面近傍の電場及び磁場を極めて効果的に吸収できる。
【0046】
尚、被覆棒における吸収層は、対象とする周波数の電波の反射減衰率ができるだけ大きくなるように設計(具体的には吸収剤の材質、充填率[体積率]、厚みの3つのファクターを制御)するのが好ましいが、特性の被覆棒の反射減衰特性を高めても、構造体全体の電波吸収特性が比例して向上するものでなく、上述の通り、被覆棒の円柱状導体芯線の直径や、隣り合う被覆棒間の間隔を制御することが重要であり、これらの条件を制御した上で、更に上記吸収層の設計や、反射板と被覆棒列の距離等を行なえば、電波吸収体の性能をより高めることができる。尚、吸収層の厚みは、波長と概ね比例関係があるので、対象とする電波の波長に応じてその最適値を決定すればよい。
【0047】
被覆棒を製造するにあたり、前記電波吸収材と混合させるバインダーとしては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を用いることができ、バインダーの配合比率は、被覆材全体の20〜90体積%とするのが好ましい。20体積%未満だと結着力が不足し易く、また90体積%を超えると相対的に吸収剤の添加量が不足ぎみとなるからである。
【0048】
また反射板としては、様々な金属からなる金属板を使用することができ、例えばアルミニウムからなる金属板を使用することができる。
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例1】
【0050】
電波吸収材として平均厚みが10μmである偏平酸化鉄粉末を用いて被覆棒を形成した。具体的には、まず前記偏平酸化鉄粉末とバインダーである水ガラスを混練し、φ11mmのダイスを用いた押し出し塗装法で、長さ500mm、φ8mmの軟鉄芯線に約1.5mmの吸収層を被覆したのち乾燥させ、それから吸湿防止としてエポキシ系の塗装を施して電波吸収被覆棒を得た。水ガラスと偏平酸化鉄粉の質量比は100:350とした。また、吸収層中の偏平酸化鉄粉の体積率は、被覆直後の吸収層の質量と最終吸収層厚みを実測して約50%であると算出された。
【0051】
得られた被覆棒14を、図3に示す通り、電波反射板であるアルミ板15の上に一定間隔で配置(乗せている状態)し、その上部から電波を被覆棒列に向けて出射して電波反射特性を測定した。電波吸収特性の測定は、具体的にネットワークアナライザ11と誘電体レンズ13つきホーンアンテナ12を用い、ワンポートでの反射特性を基準の金属板からの反射特性を用いて校正する一般的な方法(フリースペース法)で行った。測定結果を図4〜7に示す。
【0052】
尚、図4および図5は、図8(図中Eは電場方向、Hは磁場方向を示す。図9についても同じ)の通り被覆棒を配列した場合の結果を示し、図6および図7は、図9の通り被覆棒を配列した場合の結果を示している。
【0053】
この図4〜7から、反射減衰特性は、被覆棒の間隔(ピッチ)が対象電波波長(6GHzに対して約50mm)を下回るように被覆棒を配列すれば大幅に改善されることがわかる。一方、該ピッチが対象波長より大きくなると、被覆棒の配列方向と電場方向が垂直の場合も平行の場合も、反射減衰量は5dB程度まで大きく低下し、入射電波は電波吸収体で吸収されず、主として反射板で反射され電波吸収体外へ放出されるものと考えられる。
【実施例2】
【0054】
前記実施例1と同様に、電波吸収材として平均厚み10μmである偏平酸化鉄粉末を用いて被覆棒を形成した。具体的には、バインダーである水ガラスと偏平酸化鉄粉を混練し、φ22mmのダイスを用いた押し出し塗装法で、長さ500mm、φ20mmの軟鉄芯線に約1mmの吸収層を被覆したのち乾燥させ、それから吸湿防止としてエポキシ系の塗装を施して電波吸収被覆棒を得た。水ガラスと偏平酸化鉄粉の質量比は、前記実施例1と同じ100:350とした。また、吸収層中の偏平酸化鉄粉の体積率も前記実施例1と同様に約50%であった。
【0055】
得られた被覆棒を、電波反射板であるアルミ板の上に一定間隔で配置し、電波反射特性を前記実施例1と同様にして測定した。その測定結果を図10〜13に示す。
【0056】
尚、図10および図11は、図8の通り被覆棒を配列した場合の結果を示し、図12および図13は、図9の通り被覆棒を配列した場合の結果を示している。
【0057】
この図10〜13から、反射減衰特性は、被覆棒の間隔(ピッチ)が対象電波波長(9.4GHzに対して約32mm)を下回るように被覆棒を配列すれば大幅に改善されることがわかる。一方、該ピッチが対象波長より大きくなると、被覆棒の配列方向と電場方向が垂直の場合も平行の場合も、反射減衰量は5dB程度まで大きく低下し、入射電波は電波吸収体で吸収されず、主として反射板で反射され電波吸収体外へ放出されるものと考えられる。
【実施例3】
【0058】
本実施例では、ETCに用いられる電波周波数:5.8GHz円偏波に対する反射減衰効果を調査した(以下、実施例4〜8も同じ)。用いる電波吸収材と被覆棒の作成方法は前記実施例1と同様とした。尚、軟鉄芯線として様々な各種芯線径のものを用意し、被覆する吸収層の厚みを5.8GHz付近での反射減衰量が最大となるように被覆厚みを調整して各種被覆棒を作製した。詳細には、芯線径がφ2mm、φ3mmおよびφ5mmのものには、吸収周波数を5.8GHz近傍にそろえるため吸収層を比較的厚めに被覆した。また、より芯線径の大きな芯線には厚みが1.5mmの吸収層を被覆した。尚、該反射減衰量は、この様にして得られた被覆棒1本からの反射強度と、被覆されていない裸線からの反射強度を比較して求めたものであり、被覆棒から1m離れた箇所においての裸線に対する減衰量を求めた。尚、電場と芯線は平行とした。これらの測定結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
この表1より、それぞれの芯線径に対して吸収周波数を5.8GHz付近に調整することができることがわかる。しかし径が2mmの場合は、波長の1/20を下回っているので、被覆棒後方(電波が入射してくる方向)への散乱が大きく、反射減衰量が低くなっている。
【0061】
また、得られた被覆棒をピッチを変化させてアルミ板の上に配置して電波反射特性を測定した。電波吸収特性の測定は、ネットワークアナライザと送信用と受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、入射角15°での反射特性を基準の金属板からの反射特性を用いて校正する方法で行った。表2に芯線径、被覆棒の間隔(ワイヤピッチ)および5.8GHz円偏波での反射減衰量の測定値を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
またこの表2のデータを整理して得た芯線径:8mm、被覆厚み:1.5mmの被覆棒を配置した場合の反射減衰量のワイヤピッチ依存性についてのグラフを図14に示す。更に、被覆棒列の反射減衰量の芯線径とピッチの依存性を図15に、被覆棒間隔最適化後の反射減衰量の芯線径依存性を図16に示す。
【0064】
前記図15,16の結果から、芯線径が2mmの場合を除き、被覆棒の間隔(ピッチ)を制御することで、実用的な反射減衰量である20dB以上を達成できることがわかる。即ち、芯線径が一定以上であれば、被覆棒の間隔を制御することで、入射電波の被覆棒列−反射板間への閉じ込め効果を最大限として充分な吸収特性を得ることができるが、芯線径が2mmと電波波長に比べて極端に小さい場合には、被覆棒列を透過して反射板で反射する電波が多くなるので、被覆棒の間隔を最適化しても充分な吸収効果が得られないことがわかる。これらの結果から、実用的な吸収特性を達成するには、芯線径を波長の1/20以上とする必要があることがわかった。
【0065】
また、被覆棒の間隔(ピッチ)が一定値を上回ると、芯線径を制御しても充分な反射減衰量を達成できないことも分かった。このときの対象波長は約50mmであり、被覆棒の間隔(ピッチ)を対象波長の50mm以下とすれば、その他の条件として芯線径と被覆厚みを最適化することで、十分優れた反射減衰特性が得られる。
【実施例4】
【0066】
前記実施例3と同様にして作製した被覆棒を、アルミ板の上に一定間隔で配置して被覆棒列型電波吸収体Aを作製した。具体的には、長さ500mmで直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、25mmの間隔でアルミ板の上に配置したものを被覆棒列型吸収体Aとした。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Aの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)と被覆棒列を垂直とした。
【0067】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との対比により求めた。具体的には、図17に矢印で示す円偏波の方向を被覆棒列に対し45°とした場合の円偏波の反射強度を測定した。
【0068】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図18に、各入射角での反射減衰スペクトルを図19に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図20に示す。図20中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0069】
これら図18〜20の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体は、電波の入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が25dB以上と優れた吸収特性を示すことがわかる。この様に電波の入射角が斜め方向である場合も優れた吸収特性を示すのは、被覆棒の形態が円筒状であるため、垂直入射と同等の電波応答を示し、電波の閉じ込めによる高い吸収特性を確保できたことによると考えられる。
【実施例5】
【0070】
前記実施例3と同様にして作製した被覆棒を、アルミ板の上に一定間隔で配置して被覆棒列型電波吸収体Bを作製した。具体的には、直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、25mmの間隔でアルミ板の上に配置し、更に、図21に示す通り同上の被覆棒を90mm間隔で最初に配置した被覆棒列に対して直角に配置した被覆棒列型吸収体Bとした。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Bの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、下層の被覆棒列と平行とした。
【0071】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との比較によって求めた。
【0072】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図22に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図23に示す。図23中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0073】
これら図22、23の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Bの反射減衰特性は、被覆棒列が1層である前記実施例4の被覆棒列型吸収体Aの性能を大きく上回り、図22から、入射角15°で最大60dBの反射減衰量を示し、周波数5GHzから7GHzの広帯域にわたり20dB以上の反射減衰量を示すことがわかる。また図23から、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が20dB以上と斜め入射の場合でも優れた吸収特性を示すことがわかる。
【0074】
この様に被覆棒列を2層重ねることにより、吸収周波数帯域や吸収量などの特性が大きく改善されているが、これは、電波の閉じ込めと内部での多重散乱の効果がより助長されて高い吸収特性が実現されたためと考えられる。
【実施例6】
【0075】
前記実施例5と同様に、互いに直交する方向で2層に重ねた被覆棒列型電波吸収体を作製して吸収特性を評価した。具体的には、図24に示す通り直径8mmの芯線に1.5mmの被覆を施して直径11mmとした被覆棒を、対象電波波長である50mmを下回る40mm間隔でアルミ板の上に第1層目として配置し、さらにその上に、同上の被覆棒を40mm間隔で第一層目の被覆棒に対して直角に配置した被覆棒列型吸収体Cを得た。そして電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Cの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、下層の被覆棒列と垂直とした。
【0076】
電波吸収特性の測定は、具体的に、ネットワークアナライザと送信用及び受信用に誘電体レンズつき円偏波アンテナ2本を用い、各入射角での反射減衰量を基準の金属板からの反射強度との比較によって求めた。
【0077】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図25に示す。また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図26に示す。図26中の入射角0°での反射減衰特性は、直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0078】
これら図25、26の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Cの反射減衰特性は、前記被覆棒列型電波吸収体Bと同様に、5.8GHzで斜めに入射した場合でも、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が20dB以上と斜め入射の場合でも優れた吸収特性を示すことがわかる。
【0079】
また、この様に被覆棒列の間隔を本発明で規定する様に電波波長以下とすれば、電波の閉じ込めと内部での多重散乱の効果による高い電波吸収性能が得られることがわかる。
【実施例7】
【0080】
前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体の被覆棒列の配列を変えたものを用意した。詳細には、被覆棒が図27に示す様にジグザグに配置され、該被覆棒の平均間隔を前記実施例4と同じ25mmとした被覆棒列型吸収体Dを用意した。ここで被覆棒間の間隔は、図28におけるaとbの距離を測定し(a+b)/2を求めたものである。
【0081】
そして前記実施例4と同様に、電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Dの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)は、図29に示す被覆棒列の平均的方向に対して垂直とした。
【0082】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図30、5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図31に示す。尚、図31中の入射角0°での反射減衰特性は直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0083】
これら図30、31の結果から、本実施例の被覆棒列型電波吸収体Dの様に被覆棒の配置を多少変化させても、被覆棒の平均間隔が本発明の規定範囲内にあれば、反射減衰特性は、前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体Aとほぼ同等の特性を示すことがわかる。
【実施例8】
【0084】
前記実施例4の被覆棒列型電波吸収体Aの反射板を、表面に電波吸収体の被覆された反射板に変えた被覆棒列型吸収体Eを用意した。この反射板の表面に被覆させた電波吸収体は、カーボンブラックをゴム中に50PHR混入させたタイプのもので厚みが2.5mmである。図32にカーボン含有ゴムシート吸収体で被覆した反射板の直線偏波と垂直入射の反射減衰特性を示す。図32から、この吸収板は、5GHzから7GHzの領域で最大10dB程度の反射減衰特性を示すことがわかる。
【0085】
この吸収板を背面に配した被覆棒型吸収体Eを用いて、前記実施例4と同様に、電波をアルミ板に対して斜め方向から入射して、該被覆棒列型電波吸収体Eの斜め入射での電波反射特性を測定した。尚、電波の入射面(入射波と反射波の波数ベクトルを含む面)と被覆棒列を垂直とした。
【0086】
その測定結果として、入射角15°での反射減衰スペクトルを図33に、また5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を図34に示す。尚、図33中の入射角0°での反射減衰特性は直線偏波の垂直入射での反射減衰量から推定した。
【0087】
これら図33、34の結果から、背面に配置する反射板にも電波反射減衰性能を付与することで、前記実施例4の様に金属製反射板を用いたときよりも反射減衰量の最大値は増大することがわかる。また、5.8GHzで斜めに入射した場合でも、入射角が0°から60°の範囲で反射減衰量が30dB以上と著しく優れた反射減衰特性を示した。これは、被覆棒列と反射板の間での多重反射において、反射板にも反射減衰特性を付与することで、より一層効果的に電波が吸収されたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】被覆棒列と背面の反射板からなる電波吸収体における電波の多重散乱状態を示した模式図である。
【図2】反射板が湾曲している場合の被覆棒の配置を例示した上面模式図である。
【図3】実施例における電波反射特性の測定方法を模式的に示した上面図である。
【図4】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図5】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図6】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図7】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図8】実施例1における被覆棒の配列を模式的に示す上面図である。
【図9】実施例1における被覆棒の別の配列を模式的に示す上面図である。
【図10】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図11】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が垂直)である。
【図12】反射減衰量の周波数・ピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図13】反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフ(直線偏波,電場方向と被覆棒が平行)である。
【図14】一定形状の被覆棒を用いたときの反射減衰量のピッチ依存性を示すグラフである。
【図15】反射減衰量の芯線径・ピッチ依存性を示すグラフである。
【図16】反射減衰量の芯線径依存性を示すグラフである。
【図17】実施例4における被覆棒列と偏波との位置関係を示す側面図である。
【図18】実施例4における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図19】実施例4における各入射角での反射減衰スペクトルを示す。
【図20】実施例4における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図21】実施例5における被覆棒の配列を模式的に示す上面図である。
【図22】実施例5における入射角15°での反射減衰スペクトルを示している。
【図23】実施例5における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図24】実施例6における被覆棒列吸収体と電波の入射・反射方向を模式的に示した斜視図である。
【図25】実施例6における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図26】実施例6における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図27】実施例7における被覆棒列の配列を示す。
【図28】被覆棒間の間隔〔(a+b)/2〕の算出におけるa,bの長さを示す図である。
【図29】ジグザグに配置した被覆棒列の平均的方向を示す図である。
【図30】実施例7における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図31】実施例7における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【図32】実施例8におけるカーボン含有ゴムシート吸収体の反射減衰特性を示す。
【図33】実施例8における入射角15°での反射減衰スペクトルを示す。
【図34】実施例8における5.8GHzでの反射減衰量の入射角依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0089】
1,14,21 被覆棒
2 反射板
3 電波の伝播パス
11 ネットワークアナライザ
12 ホーンアンテナ
13 誘導体レンズ
15 反射板(アルミ板)
22 背面アルミ板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ隣り合う該被覆棒同士の間隔(ピッチ)が対象電波波長以下であることを特徴とする被覆棒列型電波吸収体。
【請求項2】
複数の前記被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されている請求項1に記載の被覆棒列型電波吸収体。
【請求項3】
前記電波吸収材は、平均厚みが30μm以下の偏平酸化鉄粉末を含むものである請求項1または2に記載の被覆棒列型電波吸収体。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の被覆棒列型電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法であって、前記電波吸収材とバインダーの混合物を押し出し法により前記円柱状導体芯線に被覆することを特徴とする電波吸収体用被覆棒の製造方法。
【請求項1】
電波吸収材の被覆された円柱状導体芯線(以下「被覆棒」という)で構成された被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されてなる電波吸収体であって、該円柱状導体芯線の直径が対象電波波長の1/20以上であり、かつ隣り合う該被覆棒同士の間隔(ピッチ)が対象電波波長以下であることを特徴とする被覆棒列型電波吸収体。
【請求項2】
複数の前記被覆棒列が、導体反射板または電波吸収材の被覆された導体反射板の電波入射側に形成されている請求項1に記載の被覆棒列型電波吸収体。
【請求項3】
前記電波吸収材は、平均厚みが30μm以下の偏平酸化鉄粉末を含むものである請求項1または2に記載の被覆棒列型電波吸収体。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載の被覆棒列型電波吸収体を構成する被覆棒の製造方法であって、前記電波吸収材とバインダーの混合物を押し出し法により前記円柱状導体芯線に被覆することを特徴とする電波吸収体用被覆棒の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2006−140298(P2006−140298A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328204(P2004−328204)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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