説明

被覆用樹脂組成物

【課題】塗装作業性や乾燥性が良好で、常温又は強制乾燥の条件でも付着性、耐水性等の塗膜物性に優れる塗膜を形成するのに適する被覆用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内のアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内のアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレート及び(D)沸点が200℃以上の高沸点溶剤を含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥性及び柔軟性に優れた被膜を形成する被覆用樹脂組成物、該樹脂組成物を含む塗料組成物、該塗料組成物を塗装する塗装方法及び該塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料の分野では、塗装作業性、形成塗膜の仕上がり性などの点から、フタル酸エステル系可塑剤等の可塑剤が用いられてきたが、塗料中のフタル酸エステル系可塑剤の含有量が多いと、耐水性、耐候性等の塗膜物性が低下することが知られている。また、近年、フタル酸エステル系可塑剤が環境ホルモン物質に相当する可能性があるとして、可塑剤の代替が望まれている。
【0003】
フタル酸エステル系以外の可塑剤として、特許文献1には特定の製造方法により得られるアクリル共重合体が開示されている。該アクリル共重合体は、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、AXS樹脂などの熱可塑性樹脂との相溶性に優れ、それらの樹脂やシーリング剤、成型物の可塑化に好適に使用することができ、耐久性、耐候性に優れ、表面のべとつきが少ない効果を発揮するものであるが、該可塑剤を塗料に適用した際においては、該塗料から形成される塗膜の柔軟性が十分とはいえず、紙、プラスチックなど薄い基材面に塗装した場合、基材の変形や加工により塗膜が破損することがあった。また、基材に対する塗膜の付着性の向上が求められていた。
【0004】
また、特許文献2には、架橋官能基を少なくとも1個有するビニル系重合体及び高分子可塑剤を含有する硬化性組成物が開示されている。該組成物によれば、良好な耐熱性、耐候性を有し、その上に塗料を塗装した際には良好な塗装作業性を有するものであるが、塗膜の乾燥性、柔軟性と基材に対する付着性が十分ではないという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】WO01/83619号パンフレット
【特許文献2】特開2000−178456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、塗装作業性や乾燥性が良好で、常温又は強制乾燥の条件でも付着性、柔軟性に優れる塗膜を形成するのに適する被覆用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、分子量の異なる特定のアクリル樹脂、セルロースアセテートブチレート及び特定の沸点の高沸点溶剤を含むことを特徴とする被覆用樹脂組成物により本発明に到達した。即ち本発明は、
1. (A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内のアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内のアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレート及び(D)沸点が200℃以上の高沸点溶剤を含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物、
2. アクリル樹脂(B)が、共重合成分としてn−ブチルアクリレート及びエチルアクリレートを含有することを特徴とする1項に記載の被覆用樹脂組成物、
3. 高沸点溶剤(D)が、エステル系有機溶剤及び/又はエーテル系有機溶剤である1項または2項に記載の被覆用樹脂組成物、
4. アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)及びセルロースアセテートブチレート(C)の配合割合が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして、成分(A)が10〜85重量%、成分(B)が5〜80重量%、成分(C)が10〜85重量%の範囲内であって、高沸点溶剤(D)が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして3〜40重量%の範囲内であることを特徴とする1項ないし3項のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物、
5. さらにアルキド樹脂(E)を含有する1項ないし4項のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物、
6. 1項ないし5項のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物、
7. 被塗面に、6項に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法、
8. 7項に記載の塗装方法により塗装された塗装物品、
9. 6項に記載の塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カード、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆用樹脂組成物によれば、塗装作業性や乾燥性が良好で、仕上がり性、柔軟性等の物性に優れる塗膜を常温又は強制乾燥の条件でも形成することができる。本発明の被覆用樹脂組成物を含む塗料組成物は、塗装作業性、乾燥性が良好であり、仕上がり性等に優れる塗膜を形成できるので自動車補修塗装用に好適に適用できる。また、形成塗膜が、柔軟性、耐折り曲げ性、耐ワキ性に優れることから、変形可能な基材に対して塗布することができ、また、塗布後の被塗物を切断した時の耐ワレ性にも優れているので、色見本カード等にも好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内のアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内のアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレート及び(D)沸点が200℃以上の高沸点溶剤を含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物である。
【0010】
アクリル樹脂(A)
本発明において、アクリル樹脂(A)は、被膜形成成分として用いられるものであり、例えば、従来公知のモノマー類の重合により得られるアクリル樹脂を挙げることができる。該アクリル樹脂(A)の製造に使用されるモノマーとしては、エチレン性不飽和結合を有する全ての重合可能なモノマーが使用でき、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、「イソステアリルアクリレート」(大阪有機化学社製)等の炭素数が1〜18の直鎖状もしくは分岐状の炭化水素基を含有する重合性不飽和モノマー;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基を有する重合性不飽和モノマー;イソボルニル(メタ)アクリレート等のイソボルニル基を有する重合性不飽和モノマー;アダマンチル(メタ)アクリレート等のアダマンチル基を有する重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー;(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート、(2−メタクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等のリン酸基含有重合性不飽和モノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのC〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記C〜Cヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体などの水酸基含有(メタ)アクリレート;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基含有重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基含有重合性不飽和モノマー;1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート等;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル等のビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有重合性不飽和モノマー;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等のアミノ基含有重合性不飽和モノマー;2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラメチルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリメチルベンジルアンモニウム(メタ)アクリレート、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムジメチルホスフェート等の4級アンモニウム塩基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スルホエチルメタクリレート及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩等のスルホン酸基含有重合性不飽和モノマー;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0011】
上記モノマー類の共重合反応は既知の方法で行なうことができ、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4−バレロニトリル)等のアゾ系化合物;ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物;過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩などのラジカル重合触媒を用いて有機溶剤中で行なわれる。得られるアクリル樹脂(A)は重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内であり、好ましくは20,000〜100,000の範囲内であることが望ましい。
【0012】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0013】
アクリル樹脂(A)の重量平均分子量が10,000未満では、耐折り曲げ性、伸び等の塗膜物性低下や乾燥性の低下等の不具合が生じ、一方100,000を超えると本発明の被覆用樹脂組成物が高粘度となるため、塗装作業性、形成塗膜の仕上がり性低下等の不具合が生じることがあり、好ましくない。
【0014】
アクリル樹脂(B)
本発明において、アクリル樹脂(B)は可塑剤として用いられるものであり、重量平均分子量としては、形成塗膜の仕上がり性の点から、500以上で且つ10,000未満の範囲内であり、好ましくは1,000〜5,000の範囲内であることが望ましい。
【0015】
本発明において、上記アクリル樹脂(B)は、上記アクリル樹脂(A)の説明で列記したモノマー類と同様のモノマー類を共重合成分とすることができ、特にモノマー類としてn−ブチルアクリレート及びエチルアクリレートを共重合成分として含有することが形成塗膜の仕上がり性の点から望ましい。
【0016】
ここでn−ブチルアクリレート/エチルアクリレートの使用割合は、アクリル樹脂(B)のハンドリングの点から、重量比で10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20の範囲内であることが望ましい。
【0017】
また、上記アクリル樹脂(B)は、その成分の一部として二重結合含有アクリル樹脂を含んでなることが望ましい。二重結合含有アクリル樹脂を含んでなることにより、該アクリル樹脂(B)は、可塑剤としての役割とともに反応性希釈剤としても作用することもできる。
【0018】
上記アクリル樹脂(B)の製造方法としては、例えば、上記モノマー類を必要に応じて連鎖移動剤、重合開始剤及び溶剤の存在下にて、例えば180℃〜350℃の高温の条件で共重合する方法を挙げることができる。
【0019】
セルロースアセテートブチレート(C)
本発明において、セルロースアセテートブチレート(C)は(以下、CABということがある)は、セルロースの部分アセチル化物をさらにブチリル化して得られるセルロース誘導体であり、本発明の被覆用樹脂組成物から形成される塗膜の乾燥性を向上させるために用いられるものである。アセチル基含有率としては、1〜30重量%、好ましくは1〜14重量%、ブチリル基含有率としては16〜60重量%、好ましくは35〜60重量%の範囲内が望ましく、ASTM−D1343−54T(Formul A)に記載された粘度測定法により測定した場合の粘度が0.005〜5秒、好ましくは0.005〜1秒の範囲内が望ましい。また、数平均分子量が、10,000〜120,000、特に20,000〜35,000の範囲内のものであることが好ましい。
【0020】
本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより測定した数平均分子量を、ポリスチレンの数平均分子量を基準にして換算した値である。ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーの測定条件は、上記重量平均分子量の測定条件と同様であることができる。
【0021】
上記セルロースアセテートブチレート(C)として具体的には、米国イーストマン・ケミカル社の製品、例えば、商品名[前者の数字の2桁目まではブチリル基含量(重量%)を、又同じく3桁目は水酸基含量(重量%)を示し、そして後者の数字は粘度(秒)を示す]で、CAB−171−2、CAB−381−0.5、CAB−381−2、CAB−531−1、CAB−551−0.2、CAB−551−0.1、CAB−551−0.01等の等級のものが有利に使用される。
【0022】
高沸点溶剤(D)
本発明において、本発明の被覆用樹脂組成物から形成される塗膜の乾燥性と柔軟性さらには仕上がり性を両立するために高沸点溶剤(D)を包含する。かかる高沸点溶剤(D)として具体的には、沸点が200℃以上、好ましくは250〜400℃の範囲内の揮発性化合物を挙げることができる。沸点が200℃未満では、本発明の被覆用組成物を用いて形成される塗膜の柔軟性が低下するために好ましくない。
【0023】
本明細書における沸点とは、25℃、1気圧の雰囲気下で、凝縮装置、温度計を備えた容量が200mlのフラスコに100mlの試料を仕込み、留出量が4〜5ml/分となるように加熱を調整しながら蒸留を行うことにより測定される沸点の中での最高温度とする。
【0024】
かかる高沸点溶剤(D)としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸イソアミル、オキソヘキシルアセテート、メチルメトキシブチルアセテート、エチルエトキシプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ2−エチルヘキサノエート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ2−エチルヘキサノエート等のエステル系有機溶剤;ベンジルアルコール、テキサノール、ジエチレングリコール、イソトリデカノール、1,3−オクチレングリコール、グリセリン等のアルコール系有機溶剤;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等のエーテル系有機溶剤等を挙げることができ、単独で又は組み合わせて使用することができる。上記高沸点有機溶剤(D)としては、形成塗膜の乾燥性の点から、エステル系有機溶剤及び/又はエーテル系有機溶剤が好適である。また、形成塗膜の不粘着性の点から、エステル系有機溶剤、特に2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ2−エチルヘキサノエート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジ2−エチルヘキサノエートよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好適である。
【0025】
被覆用樹脂組成物
本発明の被覆用樹脂組成物は、(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内のアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上且つ10,000未満の範囲内のアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレート及び(D)沸点が200℃以上の高沸点溶剤を必須成分として含有するものであり、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の配合割合は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして、
成分(A)が、10〜85重量%、好ましくは15〜70重量%、
成分(B)が、5〜80重量%、好ましくは5〜60重量%、
成分(C)が、10〜85重量%、好ましくは25〜80重量%
の範囲内であることが望ましい。
【0026】
成分(A)の配合割合が10重量%未満では、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の乾燥性や耐折曲げ性等が低下することがあり、一方85重量%を超えると本発明の被覆用樹脂組成物の粘度が高くなり、塗装作業性が低下したり形成塗膜の柔軟性が低下することがある。成分(B)の配合割合が5重量%未満では、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の柔軟性や、素材への付着性が低下することがあり、一方80重量%を超えると本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の乾燥性が低下することがある。成分(C)の配合割合が10重量%未満では、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の乾燥性が低下することがあり、一方85重量%を超えると本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の柔軟性、仕上がり性(光沢)が低下することがある。
【0027】
また、高沸点溶剤(D)の配合割合は、本発明の被覆用樹脂組成物を用いて形成される塗膜の柔軟性、基材との付着性及び乾燥性の点から、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして、3〜40重量%、好ましくは5〜30重量%の範囲内であることが望ましい。
【0028】
アルキド樹脂(E)
本発明の被覆用樹脂組成物は、基材への密着性をさらに向上させるために、アルキド樹脂(E)を含有することができる。アルキド樹脂(E)には、通常のアルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂、アミノ変性アルキド樹脂などの変性アルキド樹脂が含まれる。該アルキド樹脂(E)の製造に使用される原料としては、亜麻二油、大豆油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、ヤシ油などの乾性油、及び該乾性油の脂肪酸;フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、安息香酸などの一価および多価カルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−ブチレングリコール、水添ビスフェノール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリトリット、シクロヘキサンジメタノールなどの多価アルコール、さらにこれらのアルキレンオキサイド、エポキシ樹脂などが挙げられ、これらから適宜選択され、任意の割合で使用できる。
【0029】
上記アルキド樹脂(E)の数平均分子量としては、1,000〜100,000、特に1,500〜50,000の範囲内であることが望ましい。
【0030】
上記アルキド樹脂(E)の含有量としては、本発明の被覆用樹脂組成物に含まれる樹脂固形分中に50重量%以下、好ましくは2〜30重量%の範囲内であることができる。
【0031】
塗料組成物
本発明は、上記被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物である。
【0032】
本発明の塗料組成物はクリヤー塗料であってもエナメル塗料であってもよく、また、下塗り塗料及び上塗り塗料として使用することができる。また、中塗り塗料としても使用することができる。
【0033】
エナメル塗料として使用する場合において用いられる顔料としては、従来公知の顔料類が使用でき、通常塗料分野で用いられる光輝性顔料、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料が特に制限なく使用できる。光輝性顔料として例えば、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉、錫粉、鉛粉、リン化鉄等のメタリック顔料;パール状金属コーティング雲母粉、マイカ状酸化鉄等のパール顔料を挙げることができ、着色顔料としては、酸化チタン等の白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒、アニリンブラックなどの黒色顔料;黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルト紫、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料;フタロシアニングリーンなどの緑色顔料;等をあげることができ、体質顔料としては、亜鉛粉、バリタ粉、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉などを挙げることができ、防錆顔料としては、トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸亜鉛などが挙げられる。
【0034】
本発明の塗料組成物において、上記顔料の量としては、上塗り塗料として適用する場合は、仕上がり性と隠蔽性、耐水性等の塗膜物性等の点から、上記顔料を塗料中の樹脂固形分に対して1〜100重量%、好ましくは1〜80重量%、さらに好ましくは1〜60重量%含有することが望ましい。他方、本発明塗料組成物を下塗り塗料として適用する場合は、研磨性と耐水性等の塗膜物性を両立させるために、塗料中の樹脂固形分に対して顔料を50〜600重量%、好ましくは100〜500重量%、さらに好ましくは100〜350重量%の範囲内で含有することができる。
【0035】
また、本発明の塗料組成物は、仕上がり性を良好にする点から表面調整剤を含有することができる。かかる表面調整剤としては、従来公知のものが制限なく使用でき、例えばアクリル系、シリコーン系及びフッ素系の共重合体等を挙げることができる。該表面調整剤は、塗料中の樹脂固形分に対して0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%の範囲内で含むことができる。
【0036】
本発明の塗料組成物は、さらに必要に応じて分散剤、乾燥剤、増粘剤、消泡剤、防腐剤、高沸点溶剤(D)以外の有機溶剤等の塗料用添加剤を含有することができる。
【0037】
上記本発明の塗料組成物は、温度を25℃に調整し、ストーマー型粘度計にて測定した粘度が60〜140KU、特に70〜105KUの範囲内であることが貯蔵安定性の点から望ましい。
【0038】
本発明方法は、被塗面に上記塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法である。
【0039】
被塗面としては、特に制限されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅板、ステンレス鋼板、ブリキ板、亜鉛メッキ鋼板、合金化亜鉛(Zn−Al、Zn−Ni、Zn−Feなど)メッキ鋼板などの金属;これらの金属表面にりん酸亜鉛処理、クロメート処理などの化成処理を施した表面処理金属;プラスチック、木材、コンクリート、モルタル等の被塗物素材面、又はこれら被塗物素材面にプライマー等の下塗り及び/又は中塗り及び/又は上塗り塗料を塗装した塗膜面等が挙げられ、乾燥性が良好であることから、自動車車体等の補修塗装面に好適に使用することができる。
【0040】
また、形成塗膜の柔軟性、耐ワレ性が良好であることから、本発明の塗料組成物を一般工業用、建築用、自動車補修用等の分野で用いられる色見本カード用基材に塗装することもできる。
【0041】
色見本カードとは、一般に希望の色を提示したり、塗装作業時の塗膜の近傍に配置させ、塗装部分の色一致性を判定するために用いられるものである。色見本カード用基材としては、従来公知のものが制限なく使用でき、例えばプラスチック、金属、紙などを挙げることができ、持ち運びに便利な程度の大きさであることが望ましい。また、該色見本カード用基材に上記塗料組成物を塗装した後、クリヤー塗料を塗装することもできる。該色見本カードは、互いに異なる複数枚の色見本カードを結合手段により纏めた色見本帳とすることもできる。
【0042】
本発明方法において上記塗料組成物の塗装方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の手法から適宜選択することができる。例えば、自動車補修塗装の上塗りに用いられる場合は、スプレーにより塗装され、20〜80℃で5〜60分間乾燥され、得られる塗膜は乾燥膜厚で1〜300μm、好ましくは5〜100μmの範囲内であることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、「部」及び「%」は「重量部」及び「重量%」である。
【0044】
実施例1〜6及び比較例1〜6
攪拌混合容器に下記表1の配合組成で、各成分を配合、混合し、各塗料組成物を得た。また、各塗料組成物を温度が25℃になるように調整し、ストーマー型粘度計にて測定した塗料粘度を表1に併せて示した。
【0045】
【表1】

【0046】
(注1)55%アクリル樹脂溶液:
温度計、攪拌機、還流冷却器及び滴下用ポンプを備えた容量4リットルの反応器に、酢酸ブチル(沸点126.5℃)68部を仕込み、攪拌しながら110℃まで昇温し、下記モノマー混合物と重合開始剤の混合液を、110℃で約3時間かけて一定速度で滴下した。
i−ブチルメタクリレート 69.75部
メチルメタクリレート 10部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 20部
メタクリル酸 0.25部
アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 0.2部
滴下終了後1時間110℃に保ち、攪拌を続けた。その後、追加触媒としてアゾ(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.5部を酢酸ブチル14部に溶解させたものを1時間かけて一定速度で滴下した。そして、滴下終了後1時間110℃に保ち、反応を終了した。得られたアクリル樹脂溶液は、不揮発分55.0%、均一で透明な溶液であり、該樹脂の重量平均分子量は50,000であった。
(注2)60%アルキド樹脂溶液:還流冷却器と攪拌機を備えた4リットルのフラスコに、ヤシ油脂肪酸47.9部、ペンタエリトリット64.5部、無水フタル酸138.4部、安息香酸7.9部、エチレングリコール18.5部及びトルエン(沸点110.6℃)129.4部、キシレン(沸点140℃)55.4部を仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら240℃に4時間かけて加熱し、7時間反応を行って、数平均分子量が3000、固形分が60%のアルキド樹脂溶液を得た。
(注3)25%CAB溶解液:(「CAB381−0.5」(商品名、イーストマン・ケミカル社製、数平均分子量30,000のセルロースアセテートブチレート)を酢酸ブチル/メチルイソブチルケトン(沸点116℃)=50/25に溶解したもの、固形分25%)
(注4)アクリル樹脂:1Lの容器に、n−ブチルアクリレート70部、エチルアクリレート30部、イソプロピルアルコール(沸点82.3℃)20部及びジtert−ブチルパーオキサイド0.5部のモノマー混合物を作成した。次いで300mlの攪拌機を備えた加圧式の反応容器をプロピオン酸エチル(沸点99℃)で満たし、該容器内温度を230℃に維持し、圧力調整器により反応容器内の圧力を2.45〜2.65MPaに調整した。反応器の圧力を保ちながら、上記モノマー混合物を供給速度が23g/分となるように反応器に供給し、モノマー混合物の供給体積と等しい体積の反応物を反応器の出口から連続的に抜き出して、低分子量アクリル樹脂を得た。該樹脂は、重量平均分子量が1400であり、末端に二重結合を有するアクリル樹脂をその成分の一部として含有していた。
(注5)高沸点溶剤A:「CS−12」(商品名、チッソ社製、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート 沸点253℃)
(注6)高沸点溶剤B:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点255℃)
(注7)表面調整剤:「BYK−300」(商品名、BYK社製 ポリジメチルシロキサン系共重合物)。
【0047】
試験塗板の作成
上記で得られた各塗料組成物を、トルエン/キシレン/酢酸ブチル/メチルイソブチルケトン=50/20/10/20のシンナーにて希釈、フォードカップNo.4/25℃で13秒となるように粘調したものを試料とした。自動車用焼付け塗料(マジクロンTC−71、関西ペイント社製)が塗布された板を被塗面とし、#1000サンドペーパーで研磨し、「シリコンオフ」(商品名、関西ペイント社製、脱脂剤)で脱脂洗浄した上に、乾燥膜厚が80μmとなるように各試料をエアースプレー塗装し、25℃、7日間乾燥させたものを試験塗板とし、下記評価試験に供した。結果を表1に併せて示した。
(*1)仕上がり性
各試験塗板の仕上がり性について、破泡跡の程度と光沢について目視評価した。
破泡跡;○:破泡跡なし、△:破泡跡が若干あり、×:破泡跡が多数あり
光沢;○:光沢が非常に良好、△:光沢がやや良好、×:光沢なし
(*2)不粘着性
温度40℃の恒温室内にて、試験塗板に50mm平方のガーゼを2枚重ね、その上に500gの重りをのせた。24時間後に試験塗板表面についたガーゼの跡を目視で評価した。
◎:塗膜外観に全く変化なし、○:概ね塗膜外観は変化なし、△:ガーゼ跡がはっきりと残る、×:ガーゼが塗面に粘着した
(*3)耐折り曲げ性
各試験塗板を90°の角度で折り曲げた後、外観を目視評価した。
○:良好、△:若干剥離あり、×:剥離あり
(*4)付着性
各試験塗板にカッターで2mm×100個の碁盤目を被塗面に達するまで刻み、この上に粘着テープを貼り付け、急速に剥がし取り、塗膜に残った碁盤目の残数を表示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲内のアクリル樹脂、(B)重量平均分子量が500以上で且つ10,000未満の範囲内のアクリル樹脂、(C)セルロースアセテートブチレート及び(D)沸点が200℃以上の高沸点溶剤を含有することを特徴とする被覆用樹脂組成物。
【請求項2】
アクリル樹脂(B)が、共重合成分としてn−ブチルアクリレート及びエチルアクリレートを含有することを特徴とする請求項1に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項3】
高沸点溶剤(D)が、エステル系有機溶剤及び/又はエーテル系有機溶剤である請求項1または2に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル樹脂(A)、アクリル樹脂(B)及びセルロースアセテートブチレート(C)の配合割合が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして、成分(A)が10〜85重量%、成分(B)が5〜80重量%、成分(C)が10〜85重量%の範囲内であって、高沸点溶剤(D)が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の樹脂固形分の合計重量を基準にして3〜40重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項5】
さらにアルキド樹脂(E)を含有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の被覆用樹脂組成物を含んでなる塗料組成物。
【請求項7】
被塗面に、請求項6に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項8】
請求項7に記載の塗装方法により塗装された塗装物品。
【請求項9】
請求項6に記載の塗料組成物が塗装されていることを特徴とする色見本カード。

【公開番号】特開2006−176609(P2006−176609A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370337(P2004−370337)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】