説明

装飾体及びその製造方法

【課題】本発明は、対象物体に貼り付けられて特殊な加飾効果を施す装飾板に関する。
【解決手段】装飾板Xは、入射した可視光の少なくとも一部を散乱する透明な板体1、板体の一方の面上に形成され、可視光の反射及び透過により干渉色を生成する膜2を備えている。この装飾板が装飾対象物体の表面に貼り付けられると、内部が透けて見える部分を隠すことができ、見る角度によって複雑に変化する色調が得られるばかりでなく、パール色のような乳白色が加わった、深みのある虹彩色を呈する加飾を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光の一部を散乱する透明な板体の表面に干渉色を生成する膜を設けた装飾体及びその製造方法に関し、平面、略平面又は緩やかな曲面を有する機器の装飾性を豊かにする装飾に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物を入れる収納容器、電子部品が組み込まれるケースなど、或いは、車両のバンパー、オートバイのカウル、ヘルメットなどの筐体は、金属、合成樹脂などの素材から成る板によって立体的に組み立てられるか、或いは、一枚の板から立体的に一体成形されていた。この様に構成された筐体の外表面を色彩装飾するとき、金属素材による場合には、その筐体の表面を塗装するか、着色シートを貼着していた。また、合成樹脂素材による場合には、合成樹脂自体に着色しておくか、或いは、着色シートを貼着するようにしている。さらに、筐体表面に金属光沢を付与するために、メッキ、金属蒸着などの手法が適用されていた。
【0003】
合成樹脂による筐体の場合には、筐体である樹脂板自体を着色して、筐体に装飾性を施している。或いは、筐体である樹脂板の表面に、装飾用部材として、着色シートを貼着し、或いは、金属薄膜を施している。
【0004】
これらの様に、従来技術により作製された筐体においては、その表面に施された装飾用の色彩は、固定的で全く変化しないか、又は、変化したとしても、その変化は限定的なものである。例えば、筐体の表面に、透明な着色シートを貼着した場合にあっては、着色シートの色と筐体自体の透けて見える色とが重なって混合色を呈するという程度であり、外観上、見方によって色彩が変化するものではない。
【0005】
そこで、その特殊な色彩効果を奏する方法として、簡単な構成でありながら、多面体又は曲面体の色彩パターンが見る角度によって様々に変化するようにした装飾手法がある。この装飾手法では、多面体又は曲面体を有する筐体が透明又は半透明な材料で形成され、その筐体の内部又は外部の表面に、複数の偏光フィルム又はプレートの切片で被覆するようにしている。また、平板状に形成された無機又は樹脂基板の片側平面に、装飾用薄膜部材、例えば、偏光フィルムを接着して、装飾性が豊かで、模様の深み、立体感を付与する装飾手法がある。
【0006】
例えば、対象物への表面装飾の仕方として、その物体表面に、メッキ、樹脂コーティング、印刷などにより層着した所定色の第1装飾層の上から、蒸着によって干渉膜状の第2装飾層を層着して、第1装飾層の反射色と第2装飾層の干渉色、透過色の混色により、見る角度によって複雑に変化する色調を得ることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
また、装飾可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより鮮やかな虹彩色を呈する加飾の仕方も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この加飾の仕方は、樹脂成形体の表面に多層積層フィルムを設けられ、可視光領域における特定波長の光を選択的に反射することにより、虹彩色を得ている。この多層積層フィルムは、第1の樹脂フィルムからなる第1の層と、第1の樹脂フィルムとは異なる屈折率を有する第2の樹脂フィルムからなる第2の層とを合計11層以上交互に積層している。
【0008】
また、視認する角度によって、反射光の色相が干渉反射光の色相変化以上に大きく変化するようにした、装飾性に優れた表示用フィルムも提案されている(例えば、特許文献3を参照)。この表示用フィルムでは、黒色板上に、入射光の入射角が大きくなるにつれて反射波長がシフトする波長選択反射膜と波長選択透過膜が積層されている。波長選択透過膜の透過波長帯域を所定の帯域に設定しておくと、正面から視認した場合には、波長選択反射膜の反射光(赤)が視認され、視認する角度を斜め方向にシフトするにつれ、視認される反射光の波長がシフトし、所定の角度以上の斜め方向から視認した場合には、波長選択反射膜の反射波長(緑)が波長選択透過膜の透過波長帯域から外れるため、黒色に視認される。このように、見る角度によって、赤から黒に大きく反射波長が変化する表示用フィルムとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平7−36129号公報
【特許文献2】特開2006−216493号公報
【特許文献3】特開2008−143028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、従来に提案されている装飾の仕方では、干渉色を生成できる積層フィルム又は積層膜が装飾対象物の表面に設けられているため、見る角度によって複雑に変化する色調が得られ、装飾対象に、反射色、干渉色、透過色の混色とすることもでき、見る角度によって複雑に変化する色調を得ることが可能である。
【0011】
しかしながら、従来に提案された装飾の仕方を装飾対象物に適用した場合には、見る角度によって複雑に変化する色調が得られ、対象物表面に、鮮やかな虹彩色を呈する加飾を施すことができるものの、一視野角からは、一色のみにとどまるものであり、さらに装飾性を豊にすることができないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、一定の視野角依存を無くし、濁色の反射を与えることができ、更なる装飾性を豊にできる装飾体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の問題を解決するため、本発明の装飾体では、入射した可視光の少なくとも一部を散乱する透明な物体と、該板体の一方の面上に形成され、前記可視光の反射及び透過により干渉色を生成する膜と、を備えた。
【0014】
そして、前記物体は、前記可視光を反射する微細反射物が分散され、または、前記物体は、板体であり、該板体の少なくとも一方の表面が、粗面化されていることとし、さらに、前記板体は、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂で形成されていることとした。
【0015】
前記膜は、前記可視光が入射する側の前記板体の表面上に設けられていることとした。
【0016】
前記膜は、前記可視光が透過する側の前記板体の表面に設けられ、屈折率の異なる複数の薄膜による積層膜であることとし、該積層膜は、複数の樹脂フィルムで積層され、前記板体の表面に接着されることとした。
【0017】
前記膜は、前記板体の表面上で順次成膜された複数の薄膜による積層膜であり、さらには、前記積層膜は、屈折率の異なる第1及び第2薄膜が交互に複数積層されて形成されることとした。
【0018】
前記薄膜は、酸化物又は窒化物を真空蒸着又はスパッタリングすることにより成膜されることとし、可視光における特定波長領域を透過するか、或いは、可視光における特定波長領域を反射することとした。
【0019】
本発明の装飾体における物体は、有色であっても良いとした。
【0020】
本発明の装飾体の製造方法は、可視光の少なくとも一部を散乱する板体の一方の面上に、第1屈折率を有する第1薄膜を形成するステップと、該第1薄膜上に、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2薄膜を形成するステップと、前記第1及び第2薄膜を形成するステップを複数回繰り返して、前記可視光の反射により干渉色を生成する膜を形成するステップと、を含み、さらに、前記第1及び第2薄膜は、酸化物及び窒化物から選択された材料を真空蒸着又はスパッタリングすることにより成膜されることとした。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の装飾体は、入射した可視光の少なくとも一部を散乱する透明な物体と、該物体の面上に形成され、前記可視光の反射及び透過により干渉色を生成する膜と、を備えた構造を有するため、その装飾体を対象物表面に貼り付けて使用すると、パール色のような乳白色が加わった、深みのある虹彩色を呈する加飾を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態による装飾板の断面図である。
【図2】本実施形態の装飾板に用いられる積層体における入射光の反射及び屈折を説明する図である。
【図3】本実施形態の装飾板に用いられる濁板における入射光の散乱を説明する図である。
【図4】本実施形態の装飾板を装飾対象物に接着した適用例1を説明する図である。
【図5】適用例1における入射光の反射及び透過による虹彩色を得る原理を説明する図である。
【図6】本実施形態の装飾板を装飾対象物に接着した適用例2を説明する図である。
【図7】適用例1の具体例1を説明する図である。
【図8】本実施形態の装飾板に用いられる積層体における全光線透過率及び反射率の変化を示すグラフ図である。
【図9】適用例2の具体例2を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明による装飾体及びその製造法の実施形態について、図1乃至図9を参照しながら、以下に説明する。
【0024】
先ず、本実施形態の装飾板の基本構成について、図1に示した。その装飾板は、装飾対象物体、例えば、建築用外壁ガラス、建築用窓ガラス、家具、オフィス機器、携帯電話端末、パーソナルコンピュータ(PC)、時計の文字板等における平面、略平面又は緩やかな曲面を有する機器の表面部分に、接着剤等により貼り付けて使用される形態になっている。各機器における装飾必要部分に、装飾板が配置され、各機器が装飾される。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態の装飾板Xは、例えば、アクリル樹脂などの合成樹脂、ガラス、ポリカーボネートのいずれかで形成された透明な粗面な板体1と、該板体の片面上に設けられ、入射した可視光の反射により干渉色を生成できる膜2とを有している。図1では、装飾板の断面を示しているが、説明の都合上、その構造を模式的に表しており、図示の形状、大きさに限定されない。例えば、装飾板の板体には、例えば、所定厚さを有し、所定面積及び形状の硬い板、可撓性を有するフィルム等を使用することができる。
【0026】
ここで、本実施形態の装飾板Xに使用する膜2の構造例を、図2に示した。膜2は、入射した可視光の反射により干渉色を生成するために、屈折率の異なる薄膜が、複数積層されている。図2に示された膜2では、屈折率が互いに異なる薄膜aと薄膜bを使用し、薄膜aと薄膜bとが交互に積層されている。
【0027】
薄膜a及び薄膜bは、例えば、TiO、SiO、Nb、Ta等の酸化物、TiN、TaN等の窒化物、MgF等のフッ化物、有機化合物のいずれかによる材料で成膜され、その材料は、成膜された薄膜aと薄膜bとが互いに異なる屈折率となるように選択される。なお、図2は、膜2の断面を示しているが、説明の都合上、模式的に示しており、膜2は、4層構造(薄膜a1・a2、薄膜b1・b2)の場合を例示しているが、この層構造に限られず、さらに多くの薄膜が積層されてもよい。
【0028】
図2には、薄膜を複数積層した膜における干渉の原理を示した。ここでは、例示的に、4層構造の場合を示しており、基板1の上に、膜2として、薄膜a1、b1、a2、b2が成膜されている。この4層構造の場合に限られず、5層以上の多層構造の場合においても、その原理は同様である。図2では、平行光は、代表的に、薄膜に入射する光Lとして示される。
【0029】
光Lが、平行平面を有する膜2に入射すると、その光の一部は、薄膜の表面及び各薄膜内部の入射面と異なる界面で反射し、さらに、その残りは、下層の薄膜が存在すれば、その薄膜の内部に屈折して進入する。この様にして、光Lは、図2に示されるような経路に沿って、反射と内部進入とが繰り返されて、出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5として、膜2の表面から出射される。例えば、人間の眼には、これらの出射光が観察されることになる。
【0030】
出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5には、各薄膜における反射と内部進入が繰り返されることにより、それぞれの光路長に差異が生じ、各出射光の間に、背面における位相のずれが発生する。そのため、観察者には、位相の異なる出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5が膜2から到達する。
【0031】
ここで、各薄膜の界面で反射された出射光LR1、LR2、LR3、LR4、LR5の位相が一致していれば、観察者の眼には、膜2により反射した光が明るく見え、それらの位相が互いに逆となれば、その光が暗く見える。この様に、この位相差により、光の明暗が発生し、観察者の眼から見ると、ある波長、即ち、ある色は、明るく反射され、ある色は、反射されないという現象が生じる。ここにおいて観察される光が、干渉光である。
【0032】
以上において、屈折率が異なる薄膜を複数積層した膜に起こる干渉現象の原理について説明したが、多層薄膜の場合には、薄膜の層数を増やすとともに、その厚さと屈折率を精密に制御し、特定の光のみを反射させ、或いは、逆に、透過させることができる。層数のより多い多層薄膜の場合には、層数が少ない多層薄膜の場合に比べて、透過光及び反射光の制御性が増す。実際には、膜における多層薄膜の層数をより多くして、波長の選択性を高めている。
【0033】
本実施形態の装飾板Xに設けられる膜2の薄膜a1・a2と薄膜b1・b2には、上述したように、例えば、TiO、SiO等の酸化物や、TiN、TaN等の窒化物や、有機化合物のいずれかによる材料が、互いに屈折率が異なるように選択され、組み合わされて成膜される。
【0034】
上述の各薄膜の成膜では、選択された材料の真空蒸着、スパッタリング等が使用され、薄膜a1は、装飾板Xの基材である板体1の片面上に直接成膜され、所定厚さに形成される。次いで、薄膜b1は、成膜された薄膜a1の表面上に直接成膜され、所定厚さに形成される。この様に、以降に積層される各薄膜は、薄膜aと薄膜bとが交互に成膜され、所定数の薄膜が積層されて、膜2が板体1の片面上に形成される。
【0035】
次に、本実施形態の装飾板Xに用いられる板体1について、図3を参照しながら説明する。装飾の仕方として、屈折率の異なる薄膜による干渉色を得る積層体を用いることによって、見る角度によって複雑に変化する色調が得られ、対象物表面に、鮮やかな虹彩色を呈する加飾を施すことについては上述のとおりである。この装飾の仕方では、積層体自体が透明であるため、対象物表面の色との混色を得ることができるものの、対象物自体が透明材料で形成されている場合には、その内部が透けて見えてしまう。
【0036】
そこで、本実施形態では、対象物表面に貼り付けて使用すると、内部が透けて見える部分を隠すことができ、見る角度によって複雑に変化する色調が得られるばかりでなく、パール色のような乳白色が加わった、深みのある虹彩色を呈する加飾を施すことができるようにした。この装飾の仕方を実現するため、本実施形態の装飾板Xには、図2に示されるように、その基材となる板体1として、入射する可視光の少なくとも一部を散乱する透明な板体を用いた。これ以降、この板体を濁り板と称する。
【0037】
図3に、本実施形態の装飾板Xに用いる濁り板1における入射光の散乱の様子が示されている。図示された濁り板1は、透明な合成樹脂、例えば、ポリエステル樹脂中に、可視光を反射する、例えば、微細粒子、微細片、気泡のいずれか、或いは、それらの組合せによる反射物が分散されている場合である。図3の様子は、説明の都合上、模式的に示されており、入射光が、太い矢印で代表的に示されている。
【0038】
入射光Lが、例えば、太い矢印で示されるように濁り板1に当った場合、その一部は、濁り板1の表面で反射されるが、その残りの入射光は、濁り板1内に屈折して入射される。そして、入射した光は、反射物で反射され、複数に分岐されて、細い矢印で示されるように散乱される。その散乱された光は、濁り板1の両面のいずれから外部に出射される。
【0039】
この散乱状態は、ヘーズ率で表すことができ、入射と反対側から出射する光の量は、透過率で表すことができる。このヘーズ率が、100%の場合には、完全に濁った状態となり、平行光線の透過率は0%になる。一方、ヘーズ率が、0%の場合には、透明状態となり、平行光線の透過率は100%となる。
【0040】
そのため、見る角度によって透けて見えなくし、見えて困る部分について隠せるようにするという本発明の課題を実現するには、透明な合成樹脂に分散される反射物の添加量を変えることで、濁り板1のヘーズ率と平行光線の透過率とを適度に調整して、例えば、ヘーズ率を50%以上、平行光線の透過率を20%以上のようにするとよい。
【0041】
なお、これまでに説明した濁り板では、合成樹脂内に反射物を分散させた場合であったが、これに限らず、所望のヘーズ率と透過率を得られる板又はフィルムであれば、本実施形態の装飾板の板体に採用できる。例えば、表面を粗面化されたものでも良い。
【0042】
以上説明したように、図1に示された本実施形態の装飾板Xでは、図3に示された濁り板1の片面に上に、図2に示された原理による干渉色を得る膜2が形成される。この装飾板Xが、機器の装飾対象物体3上に貼り付けられた適用例1が、図4に示されている。
【0043】
(適用例1)
図4では、断面図で示されているが、ここでも、説明の都合上、模式的に表示されている。この適用例1では、装飾板Xが、膜2を下側にし、濁り板1が表側になるように、接着剤4によって装飾対象物体3に貼り付けられている。なお、接着剤4には、ポリエチレン樹脂系のものを使用できる。
【0044】
本実施形態の適用例1の場合について、パール色的な輝きが加味された虹彩色を表出する原理が、図5に示されている。図5に示された例では、膜2は、5層の薄膜が基板1に成膜されている。ここでも、図3と同様に、入射光Lが、代表的に、太い矢印で示されるように濁り板1に当った場合を示し、その入射光の一部は、濁り板1の表面で反射されるが、その残りの入射光は、濁り板1内に屈折して入射される。そして、入射した光は、反射物によって、細い矢印で示されるように散乱される。その散乱された光(LS1、LS2、LS3、LS4)が濁り板1の外部に出射される。
【0045】
ここで、濁り板1内において散乱された光の一部が、例えば、図2に示された矢印の入射光Lとなって、膜2に入射される。膜2に入射された光は、前述したように、膜2内の各薄膜による反射及び透過し、前述した干渉の原理に従って、虹彩色光が生成される。そして、膜2によって生成された虹彩色光は、濁り板1内に入射され、内部で散乱された後に、濁り板1の表面から出射される。ここで出射される光も、上述の光(LS1、LS2、LS3、LS4)に含まれている。
【0046】
その結果、濁り板1の表面は、見る角度によって変化し、パール色的な輝きが加味された虹彩色を呈する。装飾対象物3の加飾必要部分に、所定形状に作成された装飾板Xを貼り付けることにより、内部が見えて困る部分を隠すとともに、パール色的な輝きが加味された虹彩色を施すことができる。
【0047】
なお、図5に示した適用例1の場合は、図2の場合と異なり、膜2には、光が基板となる濁り板1を介して入射されているため、膜2の濁り板1と反対側の面からは、透過光(LT1、LT2、LT3、LT4)が出射される。図5における光の散乱、反射、屈折に係わる経路は、模式的に示され、説明の都合上、簡略化されている。
【0048】
(適用例2)
これまでに説明した適用例1では、装飾板Xを装飾対象物体3に貼り付ける際に、濁り板1を表面側とし、膜2が装飾対象物3の表面に貼り付けられる使用形態であり、外部からの入射光は、濁り板1に入射して散乱され、散乱された光の一部が膜2に入射されるというものであった。これとは異なる使用形態として、図6に、本実施形態の装飾板の適用例2を示した。この適用例2では、適用例1の場合とは逆に、膜2を表面側とし、濁り板1が装飾対象物3の表面に貼り付けられる使用形態とした。適用例2における装飾板Xの構造は、図1に示された装飾板と同様である。
【0049】
適用例2における装飾板Xでも、濁り板1の片面上に、複数の薄膜が積層された膜2が形成された構造であり、濁り板1における入射光の散乱や、膜2における入射光の反射及び屈折については、図2及び図3で説明された原理に基づいている。ところで、適用例2では、適用例1の場合と異なり、外部からの入射光は、最初に、膜2に入射する。入射光は、膜2の各薄膜により反射及び屈折を繰り返し、屈折されて透過した光が濁り板1に入射される。この透過した光が濁り板1内で散乱される。その散乱された光の一部は、再び、膜2に入射され、膜2を透過した光が膜2の表面から出射される。
【0050】
適用例2は、以上のような使用形態であって、適用例1の場合と異なり、膜2が表面側に配置され、膜2を透過した光が濁り板1で散乱されることになるため、適用例1の場合に比較して、適用例2の場合は、見る角度によって変化する点では変わらないが、虹彩色が強く現れ、パール色的な輝きが弱く加味される。
【0051】
以上で、適用例1及び2を示して、本実施形態の装飾板の使用形態には二通りあることを説明した。次に、適用例1及び2に対応して、本実施形態に関する具体例を図7乃至図9を参照して説明する。
【0052】
(具体例1)
図7は、適用例1に対する具体例1を示している。具体例1に使用された装飾板Xは、図1に示されたものと同様に、濁り板1の片面上に、膜2が形成された構造であるが、装飾板Xは、濁り板1を表面側とし、膜2を装飾対象物体3側として、接着層4を介して装飾対象物体3上に貼り付けられている。
【0053】
具体例1の装飾板Xにおける膜2の基本構造は、図2に示されたものと同様であるが、膜2は、9層の薄膜で形成されている。この9層の薄膜のうち、屈折率を異ならせるために、5層の薄膜(a1、a2、a3、a4、a5)が、TiO層であり、4層の薄膜(b1、b2、b3、b4)が、SiO層である。そして、TiO層とSiO層とが交互になるように積層されている。ここで、具体例1の膜2として、各薄膜の膜厚が、74〔nm〕の場合(具体例1−1)と、56〔nm〕の場合(具体例1−2)とを作成した。
【0054】
TiO層については、酸素雰囲気内でTiをスパッタリングして成膜し、SiO層については、酸素雰囲気でSiをスパッタリングして成膜した。これらのスパッタリングを交互に繰り返して、9層の薄膜を成膜し、膜2を濁り板1の片面に形成した。ここで、具体例1の膜2として、各薄膜の膜厚が、74〔nm〕の場合(具体例1−1)と、56〔nm〕の場合(具体例1−2)とを作成した。この様にして作成された装飾板Xを、濁り板1を表面側として、接着層4を介して装飾対象物体3上に貼り付けた。
【0055】
上述のように作成された具体例1−1及び1−2の装飾板Xについて、全光線に対する透過率を測定した結果を、図8のグラフに示した。そのグラフに関して、横軸は、光線の波長〔nm〕を、そして、縦軸は、透過率〔%〕を表している。グラフ中に示された曲線A1及びA2は、具体例1−1及び1−2の場合における全光線の透過率を、また、曲線B1及びB2は、具体例1−1及び1−2の場合における平行光線の透過率をそれぞれ示している。
【0056】
図8のグラフによれば、具体例1−1の場合についてみると、波長の短い特定領域(400〜550〔nm〕)において、平行光線の透過率が、10%以下であるのに対して、全光線の透過率は、50%以上になっている。しかし、波長の長い特定領域(400〜550〔nm〕)においては、全光線、平行光線共にほとんど透過していない。
【0057】
また、具体例1−2の場合についてみると、波長の短い特定領域(400〜550〔nm〕)において、全光線、平行光線共にほとんど透過していないのに対して、波長の長い特定領域(400〜550〔nm〕)においては、平行光線の透過率が、10%程度であるのに対して、全光線の透過率は、50%以上になっている。
【0058】
図8に示された具体例1−1及び1−2の測定結果から、膜2を構成する2種類の薄膜の各膜厚を変えることにより、波長の特定領域における透過率を変更することができることが分かる。この膜厚の変更により、色調を変えることができる。なお、装飾板に関する平均の透過率及びヘーズ率を測定したところ、具体例1−1の場合では、平行光線の透過率が、4〔%〕、全光線の透過率が、27〔%〕、ヘーズ率が、85〔%〕であり、具体例1−2の場合には、平行光線の透過率が、7〔%〕、全光線の透過率が、33〔%)、ヘーズ率が、79〔%〕であった。
【0059】
(具体例2)
図9は、適用例2に対応する具体例2を示している。具体例2は、図6に示された適用例2の使用形態を基本とするが、適用例2では、1枚の装飾板を使用しているのに対し、この具体例2では、2枚の装飾板X1、X2が重ねられて、装飾対象物体3に貼り付けられている。ここで、使用された装飾板X1及びX2のそれぞれは、図1に示されたものと同様の構造を有している。
【0060】
装飾板X1においては、具体例1で使用された装飾板Xの膜2と同様の構造の膜2−1が濁り板1−1上に成膜され、装飾板X2においても、具体例1で使用された装飾板Xの膜2と同様の構造の膜2−2が濁り板1−2上に成膜される。そして、作成された装飾板X1及びX2が重ねられて、装飾対象物体3上に貼り付けられる。
【0061】
具体例2は、以上のような構造を有し、具体例1の場合と同様の装飾効果が得られるが、具体例1の場合に比較して、具体例2の場合は、見る角度によって変化する点では変わりなく、虹彩色が強く現れ、パール色的な輝きが弱く加味されることになるが、装飾板が1枚を使用した適用例2の場合に比較して、一層深みを増した、パール色的な輝きが加味された虹彩色を得ることができる。
【0062】
以上に説明した本実施形態の装飾板における膜の形成は、濁り板の表面上に複数層の薄膜を直接成膜する仕方が採用されたが、この仕方に限定されるものではない。ここで、装飾板における膜には、本発明の課題を実現するためには、可視光の反射及び透過により干渉色を生成するものであれば、他のものを使用してもよい。
【0063】
例えば、屈折率の異なるフィルムを複数積層した偏向フィルムを用いることもできる。この偏光フィルムは、例えば、二軸延伸の度合いに応じて屈折率が調整された複数のポリエステルフィルムを積層することによって作製される。この作製された偏光フィルムを、濁り板の片面に接着して、本発明の装飾板としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 板体(濁り板)
2 干渉性積層膜
3 装飾対象物体
4 接着層
X、X1、X2 装飾板
a 第1薄膜
b 第2薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した可視光の少なくとも一部を散乱する粗面を有する透明な物体と、
前記物体の面上に形成され、前記可視光の反射及び透過により干渉色を生成する膜と、を備えたことを特徴とする装飾体。
【請求項2】
前記物体は、前記可視光を反射する微細反射物が分散されていることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項3】
前記物体は、板体であり、該板体の少なくとも一方の表面が、粗面化されていることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項4】
前記物体は、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項5】
前記膜は、前記可視光が入射する側の前記物体の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項6】
前記膜は、前記可視光が透過する側の前記物体の表面に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項7】
前記膜は、屈折率の異なる複数の薄膜による積層膜であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項8】
前記積層膜は、前記物体の表面に接着されることを特徴とする請求項7に記載の装飾体。
【請求項9】
前記膜は、前記物体の表面上で順次成膜された複数の薄膜による積層膜であることを特徴とする請求項7に記載の装飾体。
【請求項10】
前記積層膜は、屈折率の異なる第1及び第2薄膜が交互に複数積層されて形成されることを特徴とする請求項9に記載の装飾体。
【請求項11】
前記薄膜は、酸化物、窒化物、フッ化物及び有機化合物から選択された材料で成膜されることを特徴とする請求項9又は10に記載の装飾体。
【請求項12】
前記薄膜は、可視光における特定波長領域を透過することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項13】
前記薄膜は、可視光における特定波長領域を反射することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項14】
前記物体は、有色であることを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の装飾体。
【請求項15】
可視光の少なくとも一部を散乱する透明な物体の面上に、第1屈折率を有する第1薄膜を形成するステップと、
前記第1薄膜上に、前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有する第2薄膜を形成するステップと、
前記第1及び第2薄膜を形成するステップを複数回繰り返して、前記可視光の反射により干渉色を生成する膜を形成するステップと、
を含む装飾体の製造方法。
【請求項16】
前記第1及び第2薄膜は、酸化物、窒化物、フッ化物及び有機化合物から選択された材料を真空蒸着又はスパッタリングすることにより成膜されることを特徴とする請求項15に記載の装飾体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−201652(P2010−201652A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47275(P2009−47275)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(501398606)富士通コンポーネント株式会社 (848)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】