説明

装飾用細幅織物、ニードル織機、チェーン支持装置、装飾用細幅織物を製造する製造方法

【課題】裁断や糸のほつれによる飾り体チェーンの緩みや外れを防止し、且つ、美麗な外観に仕上げられた飾り体チェーン付きの装飾用細幅織物、及びこの装飾用細幅織物を製造するためのニードル織機、チェーン支持装置、及びこの装飾用細幅織物を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】ニードル織機を用いて、経糸18及びこれと並行に配置されたボールチェーン15に対して緯糸19を絡めることにより、これらを一体に織り込むことにより織りテープ10を製造する。ニードル織機には、綜絖枠の上下動に合わせてボールチェーン15を上下動させるチェーン支持装置が設けられている。チェーン支持装置によって上下動されるボールチェーン15の移動角θ1は、開口の開度θ2よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下に分けられた経糸間にニードルで緯糸を通すことにより織物を織るニードル織機、及びニードル織機によって織られた装飾用細幅織物に関し、特に、ボールチェーンのような飾り体チェーンが取り付けられたテープ状の装飾用細幅織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、装飾効果を高めるため、衣服や帽子、鞄、靴、カーテン、ベルトなどに逢着されるテープ状の細幅織物が広く知られている(特許文献1乃至5参照)。このテープ状の細幅織物は、「織りテープ」や「織地テープ」、「織ネーム」あるいは「飾りテープ」とも称されている。
【0003】
この種の細幅織物の一例として、図9に示されるボールチェン付き織りテープ(以下「織りテープ」と略す。)100,101が知られている。ここで、図9は、従来の織りテープ100,101の部分拡大図であり、(A)には織りテープ100の構成が示されており、(B)には織りテープ101の構成が示されている。図9(A)に示されるように、織りテープ100は、テープ本体103の一方の端部にボールチェーン105がテグス(固定糸)104によって縫い付けられている。具体的には、ボールチェーン105のボール106同士を連結するリンク107にテグス104を巻き付けるようにしてかがり縫いにより、ボールチェーン105がテープ本体103に縫い付けられている。また、図9(B)に示されるように、織りテープ101は、テープ本体103の一方端に丸紐状に編み上げられた耳部(副組織)110が設けられている。耳部110は、テープ本体103に織り込まれている。この耳部110にボールチェーン105がテグス104によって縫い付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭54−40168号公報
【特許文献2】特開平8−199402号公報
【特許文献3】特開平11−107008号公報
【特許文献4】特開2001−303386号公報
【特許文献5】特開2002−274547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の織りテープ101は、図10(A)に示されるように、織りテープ101が一点鎖線114に沿って裁断された場合、ボールチェーン105に矢印113方向の力が加えられると、テグス104が簡単にほつれてしまい、ボールチェーン105が外れてしまうという問題がある。このため、従来は、図10(B)に示されるように、裁断箇所に近いリンク107を通る位置にボールチェーン105とテグス104とテープ本体103と耳部110とを縫い止めたうえで、織りテープ101を一点鎖線114に沿って裁断していた。しかし、このような裁断作業は上述した縫い止め工程が必要なため、作業効率が悪い。また、縫い目(縫い止め跡)111が裁断位置よりもボール106一つ分だけ内側に入り込んだ部分に付けられるため、縫い目111が目立ってしまい、織りテープ101の装飾性が損なわれる。このような問題は、従来の織りテープ100にも同様に生じ得る。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、裁断や糸のほつれによる飾り体チェーンの緩みや外れを防止し、且つ、美麗な外観に仕上げられた飾り体チェーン付きの装飾用細幅織物、及びこの装飾用細幅織物を製造するためのニードル織機、チェーン支持装置、及びこの装飾用細幅織物を製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記課題を解決するため、本発明は、複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを複数の経糸とともにニードル織機を用いて緯糸と絡ませることにより、飾り体チェーン、経糸、及び緯糸それぞれが一体に織り上げられた飾り体チェーン付きの装飾用細幅織物として構成されている。
【0008】
このように構成されているため、装飾用細幅織物の長手方向の端部がほつれにくく、飾り体チェーンが外れにくい。また、装飾用細幅織物を裁断しても飾り体チェーンが緯糸によって装飾用細幅織物に強固に固定された状態が維持されるため、裁断に起因する飾り体チェーンの緩みや外れが防止される。また、装飾用細幅織物を構成する緯糸で飾り体チェーンが装飾用細幅織物に取り付けられているため、従来のようにほつれ防止用の縫い止めを施す必要がなく、縫い目が装飾用細幅織物に残らない。そのため、美麗な外観を実現できる。
【0009】
(2) 上記飾り体チェーンは、複数のボールが所定間隔をおいて連結具によって連結されたボールチェーンであることが好ましい。
【0010】
(3) また、本発明は、経糸分離器と、チェーン支持装置と、ニードルと、を具備するニードル織機として捉えることができる。経糸分離器は、複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分けるものである。チェーン支持装置は、複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動に合わせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させる。ニードルは、上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置それぞれの上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通す。このように構成されたニードル織機は、上記経糸及び上記飾り体チェーンに上記緯糸を絡めることにより上記経糸、上記飾り体チェーン及び上記緯糸が一体となった装飾用細幅織物を織り上げる。
【0011】
このように構成されているため、ニードル織機において、飾り体チェーンは経糸と同じようにチェーン支持装置によって織前位置へ向けてスムーズに案内される。
【0012】
(4) 上記ニードル織機において、上記チェーン支持装置が上下動したときに織前位置を基準として上記飾り体チェーンが上下方向に開く第1開度は、織前位置を基準として上側経糸群と下側経糸群との間に形成される開口の第2開度よりも大きい。
【0013】
(5) 上記第1開度は、上記チェーン支持装置が上記上方位置にあるときに織前位置から上記経糸分離器側へ数えて一つ目の第1飾り体が上記上側経糸群よりも上方に配置された第1位置から、上記チェーン支持装置が上記下方位置にあるときに上記第1飾り体が上記下側経糸群よりも下方に配置された第2位置までの開度である。
【0014】
(6) 上記チェーン支持装置は、上記経糸群の両サイド又はいずれか一方のサイドで上記飾り板チェーンを支持すると共に上下動するものである。
【0015】
(7) また、本発明は、上記ニードル織機に用いられるチェーン支持装置として捉えることができる。つまり、チェーン支持装置は、複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分ける経糸分離器と、上記経糸分離器の上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通すことにより上記経糸に上記緯糸を絡めるニードルと、を具備するニードル織機に用いられる。チェーン支持装置は、複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動にあわせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させる。
【0016】
(8) また、本発明は、上記ニードル織機を用いて装飾用細幅織物を製造する製造方法として捉えることができる。つまり、装飾用細幅織物を製造する製造方法は、複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分ける経糸分離器と、複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動に合わせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させるチェーン支持装置と、上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置それぞれの上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通すニードルとを具備するニードル織機を用いる。
本発明の製造方法は、上記経糸分離器によって上記経糸群を上記上側経糸群と上記下側経糸群とに分けるとともに上記チェーン支持装置によって上記飾り体チェーンを上記上側経糸群又は上記下側経糸群よりも外側へ移動させたうえで、上記上側経糸群と上記下側経糸群との間に形成された開口に上記ニードルで緯糸を通すことによりこの緯糸を上記経糸及び上記飾り体チェーンに絡める。この一連の動作を上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置の上運動及び下運動毎に繰り返すことによって、上記経糸、上記飾り体チェーンおよび上記緯糸を一体に織り上げて装飾用細幅織物を製造する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の装飾用細幅織物は、経糸及び飾り体チェーンに緯糸が絡んで、経糸、飾り体チェーン、及び緯糸が一体に織り上げられている。そのため、装飾用細幅織物の長手方向の端部における飾り体チェーンの固定部分が容易に緩まなくなるため、飾り体チェーン自体が外れ難くなる。また、装飾用細幅織物が裁断された場合でも、飾り体チェーンが緯糸によって装飾用細幅織物に強固に固定された状態が維持されるため、裁断に起因して飾り体チェーンが緩んだり外れたりしなくなる。また、装飾用細幅織物を構成する緯糸が飾り体チェーンを巻くようにして装飾用細幅織物と飾り体チェーンとを一体化させているため、従来のようにほつれ防止用の縫い止めを施す必要がなく、縫い目が細幅織物に残らない。そのため、美麗な外観を実現できる。
【0018】
また、本発明のニードル織機にはチェーン支持装置が設けられているため、飾り体チェーンはチェーン支持装置によって経糸と同じように織前位置へスムーズに案内される。また、上記第1開度が、上記第2開度よりも大きいので、ニードルが開口へ緯糸を打ち込む際に、ニードルが飾り体に干渉しない。このため、ニードルは飾り体に邪魔されずに円滑に打ち込み動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る織りテープ10の構成を示す模式図であり、(A)には平面図が示されており、(B)には部分拡大図が示されている。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態の変形例であるテープ11の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の第2実施形態に係るニードル織機50の構成を模式的に示す外観斜視図である。
【図4】図4は、ニードル織機50において仮想線で囲まれた部分の部分拡大図である。
【図5】図5は、ボールチェーン15の移動角θ1を説明するための模式図である。
【図6】図6は、織りテープ10が織り上げられる工程を説明するための模式図であり、(A)には平面図が示されており、(B)には側面図が示されている。
【図7】図7は、織りテープ10が織り上げられる工程を説明するための模式図であり、(A)には平面図が示されており、(B)及び(C)には側面図が示されている。
【図8】図8は、織りテープ10が織り上げられる工程を説明するための模式図であり、(A)には平
【図9】図9は、従来の織りテープ100,101を説明するための部分拡大図であり、(A)には織りテープ100の構成が示されており、(B)には織りテープ101の構成が示されている。
【図10】図10は、従来の織りテープ101の裁断状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、適宜図面を参照して本発明の第1実施形態に係る織りテープ10(本発明の装飾用細幅織物の一例)について説明する。
【0021】
図1に示されるように、織りテープ10は、テープ本体13とボールチェーン15(本発明の飾り体チェーンの一例)とにより構成されている。
【0022】
ボールチェーン15は、複数のボール16(本発明の飾り体の一例)と、複数のボール16を等ピッチで連結するリンク17(本発明の連結具の一例)とにより構成されている。ボールチェーン15自体は公知のものであり、一般に、リンク17として、金属ワイヤ、繊維紐、合成樹脂線などのコード状のものが用いられ、ボール16として、金属製、合成樹脂製、木製などの球状のものが用いられている。なお、この実施形態では、飾り体の一例として球状のボール16を使用したボールチェーン15を例示するが、ボールチェーン15に代えて、小豆状や円柱状、多面体状などの飾り体が複数個連結具で連結されたチェーンを適用してもよい。
【0023】
織りテープ10は、後述するニードル織機50(図3参照)によって製造される。詳細は後述するが、経糸分離器60に支持された状態で左右方向21(織りテープ10の幅方向)に複数の経糸18が並べられた経糸群24の側方にボールチェーン15を経糸群24の長手方向と同じ前後方向23(図3においてニードル織機50の奥行き方向)に沿うように支持し、経糸18と同様にしてボールチェーン15を織前位置57へ送りこみつつ、ウエフトニードル(緯針)52が打ち込んだ緯糸19とボールチェーン15及び経糸18それぞれとを絡ませることにより、ボールチェーン15、経糸18、及び緯糸19それぞれが一体に織り上げられた織りテープ10が製造される。
【0024】
ニードル織機50によって織りテープ10が製造されると、図1(B)に示されるように、織りテープ10の一方の耳部にボールチェーン15が緯糸19によって固定される。本実施形態では、テープ本体13の緯糸19のピッチL1はボール16の直径Dよりも十分に小さく、上記ピッチL1が約0.46mmに対して上記直径Dは2.5mmである。また、上記ピッチL1は、ボール16のピッチL2(本実施形態では3.2mm)よりも十分に小さい。そのため、ウエフトニードル52によって打ち込まれた緯糸19がボール16に絡められると、その緯糸19はボール16の表面を滑ってリンク17にたどり着き、リンク17の周りに巻かれるようにして絡みつく。つまり、リンク17に絡められた緯糸19だけでなく、ボール16に絡められた緯糸19も結局はリンク17に絡むため、図1(B)に示されるように、一つのリンク17に複数本(本実施形態では7本)の緯糸19が巻かれるようにして絡みついている。なお、上記ピッチL1、上記ピッチL2、上記直径Dの具体的サイズや、リンク17に絡む緯糸の本数は単なる一例であって、本発明は上記サイズに限定されない。
【0025】
このように、織りテープ10は、ボールチェーン15と経糸18と緯糸19とが一体となって織り上げられているため、テープ本体13の緯糸19によってボールチェーン15が巻き込まれるようにしてテープ本体13に固定される。このような織組織が採用されているため、織りテープ10の長手方向の端部におけるボールチェーン15の固定部分が容易に緩まなくなる。このため、ボールチェーン15自体が織りテープ10から外れ難くなる。また、複数の緯糸19がリンク17に絡みついているため、リンク17に絡んでいる全ての緯糸19が切断されない限り、ボールチェーン15が緩むことはなく、もちろん、ボールチェーン15が外れ落ちることもない。また、図1(B)に示されるように、リンク17に絡んだ複数の緯糸19によって隣り合うボール16の移動が規制されるため、織りテープ10においてボールチェーン15のボール16の等ピッチ配列が維持され、審美効果が高められる。
【0026】
また、適当な長さの織りテープ10を得るために織りテープ10が裁断された場合でも、緯糸19は簡単には緩まないため、ボールチェーン15が緯糸19によってテープ本体13に強固に固定された状態が維持される。これにより裁断に起因するボールチェーン15の緩みや外れが防止される。また、テープ本体13を構成する緯糸19がボールチェーン15を巻くようにしてテープ本体13とボールチェーン15とを一体化させているため、従来のようにほつれ防止用の縫い止めを施す必要がなく、縫い目が織りテープ10に残らない。そのため、美麗な外観を実現できる。
【0027】
なお、上述した第1実施形態では、一方端のみにボールチェーン15が取り付けられた織りテープ10について説明したが、例えば、第1実施形態の変形例として、図2に示されるように、テープ本体13の左右方向21の両端それぞれにボールチェーン15が取り付けられた織りテープ11も本発明の一例として考えられる。また、図示して説明しないが、テープ本体13の左右方向21の端部ではなく、端部よりも内側にボールチェーン15が経糸18と並んだ状態で織り込まれたものであってもよい。
【0028】
[第2実施形態]
以下、適宜図面を参照して本発明の第2実施形態に係るニードル織機50(本発明のニードル織機の一例)について説明する。
【0029】
ニードル織機50は、上述の第1実施形態における織りテープ10を製造するものである。一般的なニードル織機は、経糸と緯糸とを互い違いに織り込むことにより織物を形成するものであるが、本実施形態に係るニードル織機50は、経糸だけでなく、ボールチェーン15を経糸と並行に織り込む機構を有する点に特徴がある。
【0030】
図3及び図4に示されるように、ニードル織機50は、主として、後方に配置された経糸分離器60(本発明の経糸分離器の一例)と、弓状に形成されたウエフトニードル52(本発明のニードルの一例)と、ボールチェーン15を支持するためのチェーン支持装置70(本発明のチェーン支持装置の一例)とにより構成されている。
【0031】
経糸分離器60は、前後方向23に沿って縦置き状に並んで配置された複数の綜絖枠61を有する。綜絖枠61は、四辺を有する長方形状の枠体である。綜絖枠61は、上下方向22へ移動可能に支持されている。各綜絖枠61は、図示しない引き上げ機構によって織組織に応じたタイミングで上下動される。綜絖枠61には、複数の綜絖(不図示)が左右方向21に沿って等間隔に並べられた状態で支持されている。各綜絖には前後方向23に貫通する孔が形成されている。経糸18は、図示しないバネなどによってテンションが掛けられた状態で上記孔に挿通されている。経糸18は後方から上記孔を通って手前側へ引き出されて、織りテープ10の織前位置57に達している。すなわち、各綜絖枠61は、複数の経糸18からなる経糸群24を綜絖を介して支持している。各綜絖枠61が上記引き上げ機構によって上下方向21へ上下動されると、織前位置57を起点として経糸群24が上側の経糸群24Aと下側の経糸群24Bとに交互に分離される。これにより、経糸群24Aと経糸群24Bとの間に開口(杼口ともいう。)54が形成される。なお、上側の経糸群24Aと下側の経糸群24Bは上記引き上げ機構の上下動によってその位置が交互に入れ替わるが、本明細書においては、説明の便宜上、上側に位置する経糸群24を経糸群24Aと称し、下側に位置する経糸群24を経糸群24Bと称する。
【0032】
チェーン支持装置70は、経糸分離器60の手前側に設けられている。チェーン支持装置70は、綜絖枠61と同形状のフレーム71と、チェーンヘルド72とを有する。チェーンヘルド72は、細幅長尺な金属板で形成されており、一端がフレーム71の上側枠71Aに掛止され、他端が下側枠71Bに掛止されている。チェーンヘルド72は、ボールチェーン15を上下方向22に支持するための特殊な綜絖であり、その中央部には、前後方向23に貫通するガイド孔74を有するガイド部73が設けられている。このガイド孔74にボールチェーン15が挿通されて上下方向22に支持される。ガイド孔74の周縁部には、スポンジやゴム、薄板状の合成樹脂シートなどの可撓性を有する可撓性部材75(図4参照)が設けられている。したがって、ガイド孔74をボールチェーン15が通過する際にボール16がガイド孔74の周縁部に引っかかっても、周縁部の可撓性部材が手前方向に撓むことによって、引っかかりが解除される。
【0033】
ボールチェーン15は、経糸18と同様に、図示しないバネなどによってテンションが掛けられた状態でガイド孔74に挿通されている。ボールチェーン15は、後方から手前側へ引き出されて、織りテープ10の織前位置57に達している。すなわち、ボールチェーン15は、チェーンヘルド72を介してチェーン支持装置70によって支持されている。本実施形態では、ボールチェーン15をテープ本体13の左端部に取り付けるため、チェーンヘルド72は、フレーム71において、最も左側に位置する経糸の更に左側でボールチェーン15を支持する位置に固定されている。
【0034】
フレーム71は、上下方向22へ移動可能に支持されている。このフレーム71は、上記引き上げ機構によって綜絖枠61の引き上げタイミングに合わせて上下動される。具体的には、上側の経糸群24Aと下側の経糸群24Bとを入れ替えるために綜絖枠61を上下動させるタイミングと同じタイミングでフレーム71を引き上げあるいは下げる。これにより、チェーンヘルド72に支持されたボールチェーン15が、織前位置57を起点として、経糸群24(24A,24B)の上下動に合わせて上下方向22へ往復動することになる。
【0035】
本実施形態では、図5(A)に示されるように、上記引き上げ機構によるチェーン支持装置70の上下動によってボールチェーン15が織前位置57を基準として上下方向に往復動する移動角θ1(本発明の第1開度に相当)は、経糸群24Aと経糸群24Bとの間に形成された織前位置57を基準とする開口54の開度θ2(本発明の第2開度に相当)おりも大きい。つまり、チェーン支持装置70及び経糸分離器60は、θ1>θ2の条件を満たすように、それぞれの位置関係が調整されている。また、図5(A)に示されるように、ボールチェーン15の移動範囲内に開口54が収まるように、チェーン支持装置70及び経糸分離器60それぞれの位置関係が調整されている。これは、経糸18に対してボールチェーン15の外径が大きいため、経糸群24A及び経糸群24Bと同じ位置にボールチェーン15を配置すると、ウエフトニードル52の先端あるいは先端に挿通された緯糸19がボール16に干渉して、ボール16又は緯糸19が損傷するおそれがあるからである。
【0036】
なお、ウエフトニードル52とボール16とが干渉しないようにするためには、ボールチェーン15の移動角θ1は、以下の条件を満たせば十分である。つまり、図5(A)に示されるように、チェーン支持装置70が引き上げられたときに織前位置57から後方(経糸分離器60側)へ数えて一つ目のボール16A(本発明の第1飾り体に相当)が上側の経糸群24Aよりも上方の位置(第1位置)に配置されていれており、且つ、チェーン支持装置70が下げられたときに上記ボール16Aが下側の経糸群24Bよりも下方の位置(第2位置)に配置されていればよい。ボールチェーン15にはテンションが掛けられているため、ボール16Aが上記第1位置及び上記第2位置に配置されていれば、それよりも後方のボール16も経糸群24Aよりも上方、又は経糸群24Bよりも後方に位置することになる。したがって、上記移動角θ1が上記第1位置から上記第2位置に至る角度を有していれば、ウエフトニードル52はボールチェーン15に干渉することなく、開口54を円滑に往復動できる。
【0037】
以下、図6乃至図8を参照して、ニードル織機50によって織りテープ10が製造される工程について説明する。ここで、図6乃至図8は、織前位置57付近の機構の部分拡大図であり、各図の(A)は平面図であり、各図の(B)は側面図である。
【0038】
ニードル織機50において、上記引き上げ機構によって経糸分離器60が上下動されて、経糸群24が経糸群24Aと経糸群24Bとに分離される(図6(B)参照)。また、経糸分離器60による上下動に連動して、上記引き上げ機構によってチェーン支持装置70が下げられる。このとき、ボールチェーン15は、下側に位置する経糸群24Bよりも下側(下方の外側)まで移動される。その後、経糸群24Aと経糸群24Bとの間に形成された開口54に対してウエフトニードル52が挿入される。つまり、ウエフトニードル52が開口54へ向けて打ち込まれて、緯糸19が開口54に通される(図6(A)参照)。
【0039】
ウエフトニードル52の先端が反対側のラッチニードル(不図示)に到達すると、緯糸19がラッチニードルに引っ掛けられ、その後、ウエフトニードル52は引き戻される(図7(A)参照)。つまり、ウエフトニードル52が開口54を1往復する過程において、緯糸19がラッチニードルに引っ掛けられる。ウエフトニードル52が開口54を1往復すると、上記引き上げ機構によって経糸分離器60が上下動されて、経糸群24Aと経糸群24Bとの上下位置が入れ替えられる(図7(B)、(C)参照)。また、経糸分離器60による上下動に連動して、上記引き上げ機構によってチェーン支持装置70が引き上げられて、ボールチェーン15が上側に位置する経糸群24Aよりも上側(上方の外側)まで移動される(図7(B)、(C)参照)。
【0040】
そして、再びウエフトニードル52が開口54に挿入される。つまり、ウエフトニードル52が開口54へ向けて打ち込まれて、緯糸19が開口54に再び通される(図8(A)参照)。その後、ウエフトニードル52は引き戻されて、再び経糸群24Aと経糸群24Bとの上下位置が入れ替えられ、ボールチェーン15が下げられる(図8(B)参照)。
【0041】
このような動作が行われることによって、緯糸19が経糸18及びボールチェーン15に絡められる。そして、この一連の動作が経糸分離器60及びチェーン支持装置70の上運動及び下運動毎に繰り返し行われることによって、経糸18、ボールチェーン15、及び緯糸19が一体に織り上げられて、ボールチェーン15が一方端に織り込まれた織りテープ10が製造される。
【0042】
このようにニードル織機50が構成されているため、チェーン支持装置70によってボールチェーン15は経糸18と同じように織前位置57へ向けてスムーズに送られる。また、移動角θ1が開度θ2よりも大きいため、ウエフトニードル52が開口54に挿入したときに、ウエフトニードル52や緯糸19がボール16に干渉しない。このため、ウエフトニードル52はボール16に邪魔されずに円滑に開口54内を往復動作することができる。
【0043】
なお、上述の実施形態では、幅方向の一方端、具体的にはウエフトニードル52が設けられている側の端部にボールチェーン15を織り込む形態について説明したが、チェーン支持装置70をウエフトニードル52とは反対側にも設けることによって、図2に示されるような織りテープ11、つまり、幅方向の両端にボールチェーン15が織り込まれた織りテープ11を製造することが可能である。もちろん、幅方向の端部に限られず、チェーン支持装置70を経糸群24の内側に配置することにより、幅方向中央よりにボールチェーン15が織り込まれた織りテープを製造することも可能である。
【0044】
上述した第1実施形態及び第2実施形態は本発明が具体化された単なる一例であって、本発明の実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0045】
10,11・・・織りテープ
13・・・テープ本体
15・・・ボールチェーン
16・・・ボール
17・・・リンク
18・・・経糸
19・・・緯糸
24・・・経糸群
50・・・ニードル織機
52・・・ウエフトニードル
54・・・開口
55・・・孔
60・・・経糸分離器
61・・・綜絖枠
70・・・チェーン支持装置
71・・・フレーム
72・・・チェーンヘルド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを複数の経糸とともにニードル織機を用いて緯糸と絡ませることにより、飾り体チェーン、経糸、及び緯糸それぞれが一体に織り上げられた飾り体チェーン付きの装飾用細幅織物。
【請求項2】
上記飾り体チェーンは、複数のボールが所定間隔をおいて連結具によって連結されたボールチェーンである請求項1に記載の飾り体チェーン付きの装飾用細幅織物。
【請求項3】
複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分ける経糸分離器と、
複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動に合わせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させるチェーン支持装置と、
上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置それぞれの上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通すニードルと、を具備し、
上記経糸及び上記飾り体チェーンに上記緯糸を絡めることにより上記経糸、上記飾り体チェーン及び上記緯糸が一体となった装飾用細幅織物を織り上げるニードル織機。
【請求項4】
上記チェーン支持装置が上下動したときに織前位置を基準として上記飾り体チェーンが上下方向に開く第1開度は、織前位置を基準として上側経糸群と下側経糸群との間に形成される開口の第2開度よりも大きい請求項3に記載のニードル織機。
【請求項5】
上記第1開度は、上記チェーン支持装置が上記上方位置にあるときに織前位置から上記経糸分離器側へ数えて一つ目の第1飾り体が上記上側経糸群よりも上方に配置された第1位置から、上記チェーン支持装置が上記下方位置にあるときに上記第1飾り体が上記下側経糸群よりも下方に配置された第2位置までの開度である請求項4に記載のニードル織機。
【請求項6】
上記チェーン支持装置は、上記経糸群の両サイド又はいずれか一方のサイドで上記飾り板チェーンを支持すると共に上下動するものである請求項4又は5に記載のニードル織機。
【請求項7】
複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分ける経糸分離器と、上記経糸分離器の上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通すことにより上記経糸に上記緯糸を絡めるニードルと、を具備するニードル織機に用いられ、
複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動に合わせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させるチェーン支持装置。
【請求項8】
複数の経糸からなる経糸群を支持するとともに上下動することにより織前位置を起点として経糸群を上側経糸群と下側経糸群とに交互に分ける経糸分離器と、
複数の飾り体が所定間隔をおいて連結具によって連結されてなる飾り体チェーンを支持するとともに上記経糸分離器の上下動に合わせて上方位置と下方位置との間で上下動することにより織前位置を起点として上記飾り体チェーンを上下に往復動させるチェーン支持装置と、
上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置それぞれの上下動によって織前位置を起点として上下方向に開けられた開口に緯糸を通すニードルと、を具備するニードル織機を用いて装飾用細幅織物を製造する製造方法であって、
上記経糸分離器によって上記経糸群を上記上側経糸群と上記下側経糸群とに分けるとともに上記チェーン支持装置によって上記飾り体チェーンを上記上側経糸群又は上記下側経糸群よりも外側へ移動させたうえで、上記上側経糸群と上記下側経糸群との間に形成された開口に上記ニードルで緯糸を通すことによりこの緯糸を上記経糸及び上記飾り体チェーンに絡める一連の動作を上記経糸分離器及び上記チェーン支持装置の上運動及び下運動毎に繰り返すことによって、上記経糸、上記飾り体チェーンおよび上記緯糸を一体に織り上げて装飾用細幅織物を製造する製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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