説明

補強構造

【課題】増設躯体の周縁部に生じたクラックの拡幅を抑えて、増設躯体のコンクリートの有効強度が低下するのを防止する補強構造を提供すること。
【解決手段】補強構造は、既存躯体10と、この既存躯体10に増し打ちされた増設壁20と、を備える。増設壁20の縦筋21および横筋22は、直線状に延びる補強筋本体40と、この補強筋本体40の両端側に設けられて増設壁20の周縁部に定着される定着部および定着機構41を備える。これら定着部および定着機構41により増設壁20の周縁部のコンクリートを拘束できるから、地震時に増設壁20の周縁部にクラックが生じても、このクラックが拡幅するのを抑制できる。よって、このクラック近傍のコンクリートの有効強度が低下したり、既存躯体10との一体性や補強耐力が低下したりするのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の補強構造に関する。詳しくは、例えば、既存躯体と、この既存躯体に増し打ちされた増設躯体と、を備える補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物の耐震改修工事では、後施工アンカーを用いて、既存の鉄筋コンクリート躯体と一体的に、新たに鉄筋コンクリート躯体を増設することが行われている。また、アンカー打設時の騒音問題を解消するために、後施工アンカーを用いないで、既存壁に鉄筋コンクリート躯体を増設する補強構造も提案されている(特許文献1参照)。
この特許文献1の補強構造においては、増設された鉄筋コンクリート躯体には、一般の壁躯体と同様に、補強筋が所定の間隔で格子状に配筋されている。これら補強筋は、既存架構の柱同士または梁同士を繋ぐよう縦方向または横方向に延びているが、既存架構には定着されていない。
【0003】
この提案によれば、既存架構に後施工アンカーを打設する必要がないため、騒音・振動・粉塵の発生が抑制されるので、建物を使いながら補強する場合に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4120826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の補強構造では、補強筋の端部は、直線状に延びているのみで、既存架構に定着されていない。よって、補強筋に生じた引張力は、増設躯体のコンクリートのみに伝達されるから、この補強筋の端部を増設躯体の周囲の架構と接する部分(増設躯体の周縁部)に定着させて、この引張力の釣り合いをとることになる。
【0006】
しかし、このように端部が切断されただけの直線状の補強筋の場合、定着長として径の20倍程度必要になるため、補強筋の定着部つまり増設躯体の周縁部のコンクリートは、他の部分より補強筋による拘束が小さくなる。よって、地震時に増設躯体の周縁部にクラックが生じると、その幅が拡がり易くなり、クラック近傍のコンクリートの有効強度が低下し、その結果、既存架構との一体性や補強耐力が低下することが懸念された。
【0007】
本発明は、増設躯体の周縁部に生じたクラックの拡幅を抑えて、増設躯体のコンクリートの有効強度が低下するのを防止する補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の補強構造は、既存躯体と、当該既存躯体に増し打ちされた増設躯体と、を備える補強構造であって、前記増設躯体には、前記既存躯体に定着されない補強筋が所定間隔で配されるとともに、当該補強筋は、直線状に延びる補強筋本体と、当該補強筋本体の少なくとも一端側に設けられて前記増設躯体の周縁部に定着される定着手段を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、増設躯体の周縁部に定着される定着手段を補強筋に設けたので、この定着手段により増設躯体の周縁部のコンクリートを拘束できるから、地震時に増設躯体の周縁部にクラックが生じても、このクラックが拡幅するのを抑制できる。よって、このクラック近傍のコンクリートの有効強度が低下したり、既存躯体との一体性や補強耐力が低下したりするのを防止できる。
また、この定着手段は既存躯体に定着されないので、既存躯体に後施工アンカーを設ける必要がないから、騒音・振動・粉塵の発生を抑制できるうえに、既存躯体に大きな断面欠損が生じるのを防止できる。
【0010】
請求項2に記載の補強構造は、前記定着手段は、前記既存躯体の表面に沿って延びる基部と、当該基部から略直交方向に延びて前記補強筋本体に接合される直線状の連結部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、基部および連結部を含んで定着手段を構成した。基部が既存躯体の表面に沿って延びるので、この基部が増設躯体の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
【0012】
請求項3に記載の補強構造は、前記定着手段は、棒状の基部と、当該基部の両端部から略平行に延びる一対の連結部と、を備え、前記一対の連結部は、それぞれ、互いに平行な一対の補強筋本体の端部に接合され、前記基部および前記連結部は、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより一体的に形成されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、連結部を補強筋本体の端部に接合することにより、基部が補強筋本体同士を跨ぐように延びるので、この基部が増設躯体の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
【0014】
請求項4に記載の補強構造は、互いに平行な一対の補強筋本体同士を連結する棒状の部材であり、前記定着手段および前記一対の補強筋本体は、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより一体的に形成されることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより、定着手段および一対の補強筋本体を一体的に形成した。よって、定着手段が補強筋本体同士を跨ぐように延びるので、この定着手段が増設躯体の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
また、直線状に延びる補強筋本体を別加工する必要がないので、部材点数を削減でき、配筋作業が容易となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、増設躯体の周縁部に定着される定着手段を補強筋に設けたので、この定着手段により増設躯体の周縁部のコンクリートを拘束できるから、地震時に増設躯体の周縁部にクラックが生じても、このクラックが拡幅するのを抑制できる。よって、このクラック近傍のコンクリートの有効強度が低下したり、既存躯体との一体性や補強耐力が低下したりするのを防止できる。また、この定着手段は既存躯体に定着されないので、既存躯体に後施工アンカーを設ける必要がないから、騒音・振動・粉塵の発生を抑制できるうえに、既存躯体に大きな断面欠損が生じるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る補強構造が適用された建物の骨組み立面図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】前記実施形態に係る増設壁の縦筋の構造を示す模式図である。
【図4】前記実施形態に係る増設壁の柱側の端部の拡大斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る補強構造が適用された建物の骨組み立面図である。
【図6】前記実施形態に係る増設壁の縦筋および横筋の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る補強構造が適用された建物1の骨組み立面図である。図2は、図1のII−II断面図である。
【0019】
建物1は、鉄筋コンクリート造の既存躯体10と、この既存躯体10に増し打ちされた鉄筋コンクリート造の増設躯体としての増設壁20と、を備える。
既存躯体10は、既存柱11、既存梁12、および、これら既存柱11および既存梁12に囲まれた既存壁13を備える。
【0020】
増設壁20は、改修工事により既存躯体10の既存壁13に沿って増設されたものである。
この増設壁20には、格子状にシングル配筋されて既存躯体10に定着されない補強筋としての縦筋21および横筋22が設けられている。具体的には、縦筋21は、鉛直方向に所定間隔で配されており、横筋22は、水平方向に所定間隔で配されている。
すなわち、縦筋21は、既存柱11の増設壁20側の表面11Aに対して略垂直に延びており、横筋22は、既存梁12の増設壁20側の表面12Aに対して略垂直に延びている。
【0021】
図3は、増設壁20の縦筋21の構造を示す模式図である。
縦筋21は、一対の補強部材30が組み合わされて構成される。
この補強部材30は、増設壁20の周縁部に定着されるものである。補強部材30は、補強部材30は、略平行に延びる一対の補強筋本体31と、これら補強筋本体31に略直交して延びてかつ補強筋本体31の一端同士を連結する定着手段としての棒状の定着部32と、を備える。一対の補強筋本体31および定着部32は、一本の鉄筋材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより、一体的に形成される。
上述の縦筋21は、一対の補強部材30の補強筋本体31の両端部同士を重ね継ぎ手して構成されている。これにより、定着部32は、互いに隣り合う一対の補強筋本体31同士を連結することになる。
【0022】
図4は、増設壁20の柱側の端部の拡大斜視図である。
横筋22は、水平方向に直線状に延びる補強筋本体40と、各補強筋本体40の左右両端に設けられた定着手段としての定着機構41と、を備える。
定着機構41は、増設壁20の周縁部に定着されるものであり、平板状の基部42と、この基部42の略中央から略直交方向に延びて重ね継手により補強筋本体40に接合された棒状の連結部43と、を備える。
【0023】
基部42は、既存柱11の表面11Aに沿って設けられるが、既存柱11の表面11Aに接着されていない。
連結部43は、鉄筋材であり、基部42に溶接固定されている。この連結部43の溶接には、例えば、スタッド溶接、摩擦圧接溶接、または高周波誘導加熱圧着が用いられる。
【0024】
既存柱11の増設壁20側の表面11Aは、ショットブラストにより目荒らしされている。この目荒らしは、5mm程度の凹凸面とする。
また、定着機構41は、増設壁20のコンクリート表面までの寸法(つまり、かぶり厚さ)が所定厚さとなるように、増設壁20の中に納められている。これは、耐火性能を保証するために、かぶり厚さを確保する必要があるからである。
【0025】
以上の増設壁20、以下の手順で構築される。
まず、片方の壁型枠を建て込んでセパレータを取り付ける。次に、このセパレータに縦筋21および横筋22を結束固定する。これにより、定着部32や定着機構41を既存梁12に接着固定することなく、位置決めできる。
【0026】
続いて、他方の壁型枠を建て込んで、壁型枠内にコンクリートを圧入する。なお、コンクリートを圧入しても、コンクリート躯体の上面と既存躯体10の既存梁12の下面との間に隙間が生じる場合があるため、その際には、この隙間にグラウト材を充填する。
【0027】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)増設壁20の周縁部に定着される定着部32および定着機構41を縦筋21および横筋22に設けたので、これら定着部32および定着機構41により増設壁20の周縁部のコンクリートを拘束できるから、地震時に増設壁20の周縁部にクラックが生じても、このクラックが拡幅するのを抑制できる。よって、このクラック近傍のコンクリートの有効強度が低下したり、既存躯体10との一体性や補強耐力が低下したりするのを防止できる。
また、定着部32および定着機構41は既存柱11や既存梁12に定着されないので、既存躯体10に後施工アンカーを設ける必要がないから、騒音・振動・粉塵の発生を抑制できるうえに、既存躯体10に大きな断面欠損が生じるのを防止できる。
【0028】
(2)基部42および連結部43を含んで定着機構41を構成した。基部42が既存躯体10の表面11Aに沿って延びるので、この基部42が増設壁20の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
【0029】
(3)一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより、一対の補強筋本体31および定着部32を一体的に形成した。よって、定着部32が鉄筋材同士を跨ぐように延びるので、この定着部32が増設壁20の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
また、直線状に延びる補強筋本体を別加工する必要がないので、部材点数を削減でき、配筋作業が容易となる。
【0030】
〔第2実施形態〕
図5は、本発明の第2実施形態に係る補強構造が適用された建物1の骨組み立面図である。図6は、縦筋21Aおよび横筋22Aの構造を示す模式図である。
本実施形態では、縦筋21Aおよび横筋22Aの構造が、第1実施形態と異なる。
【0031】
すなわち、縦筋21Aおよび横筋22Aは、水平方向に直線状に延びる補強筋本体50と、各補強筋本体50の両端に設けられた定着手段としての定着機構51と、を備える。
定着機構51は、棒状の基部52と、この基部52の両端部から略平行に延びる一対の連結部53と、を備える。
一対の連結部53は、それぞれ、互いに隣り合う一対の補強筋本体50の端部に重ね継手により接合される。
この定着機構51は、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより一体的に形成されている。
【0032】
本実施形態によれば、上述の(1)の効果に加え、以下のような効果がある。
(4)定着機構51の連結部53を補強筋本体50の端部に接合することにより、定着機構51の基部52が鉄筋材同士を跨ぐように延びるので、この基部52が増設壁20の周縁部を拘束して、クラックが拡幅するのを確実に抑制できる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0034】
上述の第1実施形態では、セパレータに縦筋21および横筋22を結束固定することで定着機構41を位置決めしたので、定着機構41の基部42を既存梁12に接着していないが、これに限らない。すなわち、定着機構41の基部42を接着材で既存梁12に仮固定することで、定着機構41を位置決めしてもよい。
【0035】
また、上述の各実施形態では、壁型枠を建て込んでコンクリートを圧入することにより増設壁20を構築したが、これに限らず、コンクリートを上方から打設したり、壁厚を薄くする場合には、ポリマーセメントモルタルを何層かに分けて塗り付けたりすることで、増設壁を構築してもよい。
【0036】
また、上述の各実施形態では、全ての縦筋21および横筋22に定着部32、定着機構41、および定着機構51を設けたが、これに限らない。すなわち、縦筋および横筋に対して1本おきに定着部を設けてもよいし、増設壁20の変形が集中しやすい部分にのみ定着部を設けてもよい。
【0037】
また、上述の第1実施形態では、定着部32により互いに隣り合う一対の補強筋本体31同士を連結し、上述の第2実施形態では、連結部53により互いに隣り合う一対の補強筋本体50同士を連結したが、これに限らない。例えば、1本飛ばした位置にある補強筋本体同士を連結してもよいし、2本飛ばした位置にある補強筋本体同士を連結してもよい。
【0038】
また、上述の第2実施形態では、重ね継手により、補強部材30の補強筋本体31の両端部同士を接合したり、定着機構41の連結部43を補強筋本体40に接合したり、定着機構51の連結部53を補強筋本体50に接合したりしたが、これに限らない。例えば、圧接継手、溶接継手、機械式継手などの他の継手方法により接合してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…建物
10…既存躯体
11…既存柱
11A…既存柱の増設壁側の表面
12…既存梁
12A…既存梁の増設壁側の表面
13…既存壁
20…増設壁(増設躯体)
21、21A…縦筋(補強筋)
22、22A…横筋(補強筋)
30…補強部材
31…補強筋本体
32…定着部(定着手段)
40…補強筋本体
41…定着機構(定着手段)
42…基部
43…連結部
50…補強筋本体
51…定着機構(定着手段)
52…基部
53…連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存躯体と、当該既存躯体に増し打ちされた増設躯体と、を備える補強構造であって、
前記増設躯体には、前記既存躯体に定着されない補強筋が所定間隔で配されるとともに、
当該補強筋は、直線状に延びる補強筋本体と、当該補強筋本体の少なくとも一端側に設けられて前記増設躯体の周縁部に定着される定着手段を備えることを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記定着手段は、前記既存躯体の表面に沿って延びる基部と、当該基部から略直交方向に延びて前記補強筋本体に接合される直線状の連結部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の補強構造。
【請求項3】
前記定着手段は、棒状の基部と、当該基部の両端部から略平行に延びる一対の連結部と、を備え、
前記一対の連結部は、それぞれ、互いに平行な一対の補強筋本体の端部に接合され、
前記基部および前記連結部は、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより一体的に形成されることを特徴とする請求項1に記載の補強構造。
【請求項4】
前記定着手段は、互いに平行な一対の補強筋本体と一体的に形成され、
前記定着手段および前記一対の補強筋本体は、一本の棒状部材を略コ字形状に折り曲げ加工することにより一体的に形成されることを特徴とする請求項1に記載の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−57318(P2012−57318A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199457(P2010−199457)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】