説明

製剤

胞子若しくは真菌類の植物のスポロポレニン若しくはその他類似の外膜皮を含む支持体に化学的又は物理的に結合された有効量の活性物質と、更に賦形剤と、を含む製薬用又は栄養用の製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬用/栄養用の製剤、そのような製剤を製造する方法及び該製剤を用いて治療する方法に関する。ヒト又は動物に使用するための製剤が提供される。
【背景技術】
【0002】
スポロポレニンは、種々の植物、コケ類、真菌類及び藻類の胞子の外膜皮である。スポロポレニンは、スポロポレニン外膜皮(exine coating)内に結合又は包含され得る、脂質、炭化水素、たんぱく質及び核酸を、溶媒、アルカリ及び酸を用いた連続的な処理にて除去することにより胞子から分離され得る。酵素的な方法もまた使用されてきた。スポロポレニンは化学的及び物理的に安定であり、カロテノイド様であるとともに疎水性のものとして記載されてきた。グルカン、マンナン及びキチンから形成されるその他の外膜皮は類似の化学的かつ物理的安定性を備え得る。しかしながら、幾らかの胞子は、部分的にセルロースから構成される内膜被覆を備え、該内膜はそのような化学的処理によりかなり分解される(エフ.ゼッチェ(F.Zetsche)及びケー.ハグラー(K.Huggler)、Annalen、1928、461、89)。
【0003】
ドイツ国特許出願公開第19902724号は、活性物質を装填したスポロポレニンカプセルからマイクロカプセルが形成された製剤を開示している。そのような製剤は、活性物質又は複数の活性物質の放出がカプセルの完全性に依存するという欠点を備えている。この開示とは異なり、本発明は、スポロポレニン嚢の装填性、特に、処理速度を増大し、標的送達に対して特殊な外膜皮サイズを使用することを助けるために弾性の性質とアルコールの存在を利用した。
【0004】
米国特許出願公開第5013552号は、送達系に対して花粉粒から得られる装填されたセルロースシェルの使用を開示している。そのようなシェルは、スポロポレニンを得るために使用される抽出処理により破壊されるであろう内膜に類似する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様に従って、製薬用又は栄養用の製剤は、植物、コケ類、真菌類又は藻類の胞子の外膜皮又はそのフラグメントから選択された支持体に化学的に結合される有効量の活性物質と、選択的に更なる賦形剤とを含む。
【0007】
本発明の第二の態様に従って、製薬用又は栄養用の製剤は、植物、コケ類、真菌類又は藻類の胞子の外膜皮又はそのフラグメントから選択された支持体に物理的に結合される有効量の活性物質と、選択的に更なる賦形剤とを含む。
【0008】
物理的に結合された場合、活性物質は支持体上に吸着される。
代替的かつ多くの場合においてより好ましくは、活性物質は、例えば、スポロポレニンのような中空の外膜皮のスポロポレニン壁と一体的な凹部内又は中央凹部内に保持される。三つの態様の全ては、該製剤の血流内への吸収による投与が可能であり、その後外膜皮が分解され、活性物質が放出されることが可能である。
【0009】
本発明の第三の態様に従って、製薬用又は栄養用の製剤を形成するための方法は、外膜皮を浸透補助液と接触させる工程と、外膜皮を活性物質と接触させ該物質をスポロポレニン壁の凹部内に浸透させる工程と、及び/又は外膜皮を活性物質と接触させ該物質を外膜皮の内部に浸透させ、かつ引き続いて浸透補助液を取り除き該外膜皮を乾燥させて外膜皮内に物質を保持する工程と、からなる。
【0010】
好ましい浸透補助液は、より好ましくはエタノールであるC乃至Cアルコールと、好ましくは水性アルコールである水性C乃至Cアルコールと、からなる群より選択される溶媒又は可溶化剤であり得る。
【0011】
スポロポレニン外膜皮は活性物質の溶液中に浸漬され得る。代替的に、該外膜皮は活性物質と接触する前に溶媒又はその他の浸透補助液中に浸漬され得る。
スポロポレニン外膜皮は、(i)錠剤を形成するために圧縮し、次いで、大気圧又は真空下のいずれかにおいて活性物質の溶液(或いは単に、浸透補助液を伴う若しくは伴わないで液体中にある活性物質)と接触させ、(ii)浸透補助液を伴う若しくは伴わないで活性物質の存在下において真空にさらす。これらの手順は、環境温度又は250℃まで昇温して操作される。活性物質は、薬物、薬物の混合物、栄養物質、栄養物質の混合物又は薬物と栄養物質との混合物を含む。栄養物質の例としては、ミネラル及びエッセンシャルオイルを含む。コレステロール低下製剤が提供され得る。ビタミン、ミネラル、食物フレーバー及びその他の栄養補助活性物質が本発明に従う製剤を用いて投与され得る。
【0012】
本発明のこの態様に従う製剤は、例えば、シリアルバーのようなコレステロール低下食品のような食品中に組み込まれる。動物用の栄養製品も提供され得る。
例えば外膜皮の重量の数倍という活性物質の高装填量が達成され得る。その他の材料を比較的大量に封入するこの能力は、フレーバー、保存剤、抗酸化剤又はミネラルのような栄養上の若しくはその他の成分又は添加剤の、食品及び飲料のようなその他の製品への添加を容易にする。スポロポレニン外膜は、製品が消費されるまで、湿気、酸、アルカリ酸化物又は光分解に対して活性物質の保護を提供する。例えば、硫酸銅のような幾らかの物質は水溶液中に容易に放出されない一方で、(物理的にのみ含まれる)その他のものはゆっくりと放出される。硫酸銅の結合はSEM−X線にて示されており、スポロポレニンシェル全体に均等に吸収されている。活性成分は、消化管を介して輸送される際、徐々に放出され得る。これが望ましくない場合には、更なるコーティングがスポロポレニン外膜皮に施され、放出が遅延される。外膜皮は、例えばアラビアゴムのような低粘度の樹脂を用いて半透過性を低減するために誘導体化され得る。血流への吸収が好ましくない場合は、より大きなスポロポレニン粒子(100ミクロンより大きい)が使用され得る。
【0013】
好ましい製剤において、外膜皮は、スポロポレニン、グルカン、マンナン又はキチンを含む。これらの外膜皮は、それらが化学的かつ機械的に安定であり、使用及び投与が簡便であり、かつ調製が容易で経済的であるという利点を有する。それらは一般的に、ろ過可能な不純物を含んでおらず、かつ高い活性物質装填能力を提供するために官能基化され得、かつたんぱく質を含まないことから、該たんぱく質又は変性したたんぱく質の痕跡によるアレルギー作用又はその他の生理学的な作用が回避されるという利点を有する。後者は、米国特許出願公開第5013552号に記載されているようなストリンジェンシーの低い抽出手順中に存在する。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、支持体は、実質的にたんぱく質の非存在下において、スポロポレニン、キチン、グルカン又はマンナンを含む外膜皮から基本的に構成される。
【0015】
0.5%未満、好ましくは0.1%未満のたんぱく質の量が特に好ましい。
好ましい外膜皮は十分に低レベルのたんぱく質を含み、更なるたんぱく質の損失は、6w/v%水酸化カリウム水溶液中にて2時間還流した後にも観察されない。
【0016】
本発明に従う製剤は、酸及びアルカリ媒質において安定であるが、ある環境下、特に血中において迅速に生物学的分解可能であるという利点を有する。分解産物は非毒性であるとともに炎症応答を示さない。消化管内における滞留時間は低いであろう。分解は血流内においては迅速に起こり、たぶん消化管内においてはより少ない程度にて起こり、例えば20分のような数分内にて、薬物又は活性物質の効果的かつ迅速な投与を可能にする。
【0017】
該製剤は生物学的複合体(bioconjugate)を含み、該複合体は、例えば薬物分子と、スポロポレニン若しくはその他の外膜皮を含む担体若しくは基質との共有結合のような化学的な結合により合成的に得られる高分子複合体である。共有結合が好ましいが、同様の適用に対してイオン結合、水素結合、ファンデルワールズ力又は外膜皮内へのカプセル化が使用可能であり、特に、薬物若しくはその他の活性物質と担体との強力な結合を必要としない吸入製剤のような適用に対しては使用可能である。活性物質又は薬物はスポロポレニンと直接反応するか若しくは物理的に結合して生物学的複合体を形成する。しかしながら本発明の実施形態においては、スポロポレニン若しくはその他の外膜皮は、薬物が適切に安定な共有結合若しくはその他の化学結合により結合され得るように官能基化され得る。例えば、経口的な送達に対しては、該結合は、活性物質及び支持体が胃を通過して腸管内に進む際に酸溶液中にて安定であるように選択され得る。代替的に、カプセル化された薬物は外膜皮の被覆により提供された保護により安定化され得る。物理的に結合されるか又は化学的に結合される活性物質の付随的な保護はアラビアゴム又はデンプン等を用いる更なるコーティングにより達成され得る。従来のフィルムコーティング、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース又はその他の改質セルロースによるコーティングも使用され得る。
【0018】
この情報に従う製剤は、例えばβ−ラクタム、セファロスポリン又はジデオキシアデノシンのような水溶液、又は特に酸性媒質中にて不安定な薬物の投与において特殊な適用を見出す。血中へ放出される前の分解が低減され得る。シクロスポリン、タキサン若しくはその他のマクロライド系のような血流中において不溶性又は難溶性の薬物、例えば、シクロスポリン、メベンダゾール、ナイスタチン、プロポフォル、パクリタキセル、ミコナゾール、アントラサイクリノン類(anthracyclinones)又はシプロフロアシン(ciprofloacin)の投与もまた容易になる。
【0019】
スポロポレニン若しくはその他の外膜皮から構成されるか又はそれらを含む支持体は、経口投与後に迅速に吸収される(persorb)という能力と迅速に代謝される(20分乃至2時間)という能力とによって薬物若しくはその他の活性物質を送達するために使用され得る市販のポリマーと比較して優れた利点を有する。加えて、それらは異なる溶解度及び安定性を有する広範囲の薬物を結合するために容易に誘導体化され得る。そのような支持体はその生物学的な起源に応じて化学的かつ形態学的に一致しており、酸に不安定な分子を保護することが可能であり、かつ非毒性である。また、スポロポレニン又はその他の外膜皮を口から、又は部分的に肺への吸入により経口的に摂取した場合もアレルギー反応は認められない。それは、そのような反応に関連するたんぱく質及び炭化水素が原料となる植物胞子から除去されているからである。スポロポレニン若しくは外膜皮の分解は血中にて迅速に起こり、活性成分が迅速に放出される。そのような外膜皮は、投与及び吸収時にそれらの大きさ及び形態を保持する。特定の種からの外膜皮のサイズ及び形態の均一性は、薬物装填及び送達モードに従って製剤が最適化されることを可能にする。より大きな粒子は、薬物若しくは機能性食品成分等のような活性材料のより大きな割合を含む。25ミクロンの粒子が、中央凹部内に等しい重量の活性成分以上を保持することが可能であることを我々は見出した。すでに提案したように、そのような大きな粒子は、消化管壁を介して血流内に吸収されない(エムエル ウィエルナー(ML Wierner)、Fd Chem.Toxic.,1988、26(10)、867−880)。
【0020】
生物学的複合体を主題として扱った種々の文献、総説及び書物が存在する(二つの著名な引用文献は、「生物学的複合体技術(Biocnjugate Techniques)」(グレック ティー ハーマンソン(Greg T Hermanson)、1996、アカデミックプレス(Academic Press)社刊)及び「製薬化学における生物学的複合体(Bioconjugation in Pharmaceutical Chemistry)」(イル ファルマコ(Il Farmaco)、1999、54、497−526)を含む。多くのカップリング剤が開示されている。DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)又はEDC({1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド}のようなカルボジイミドがかなり有効である。第一級アミン又はカルボキシレート基のいずれかを含むいくらかの薬物及びプローブが、誘導体化されていないスポロポレニンと直接結合可能である。
【0021】
本発明に従う製剤は、単独で投与可能であり、特に吸入投与可能であるが、一般的には少なくとも一つの適切な製薬用の賦形剤、希釈剤又は担体が、意図された投与経路に応じて選択され得る。
【0022】
製剤は、錠剤、ソフトゲルカプセルを含むカプセル、胚珠(ovule)、エリキシル溶液又は懸濁剤の剤形にて経口的に、バッカル剤として、又は舌下剤としての投与に適合され得る。製剤は、即効放出送達、遅延放出送達、修正放出送達又は制御された放出送達用に適合され得る。圧縮した製剤における外膜皮の使用は時として有用である。その理由は、それらは必要に応じて、錠剤適用時及び錠剤のサイズが低減される時に一体性を維持する弾性特性を有するからである。
【0023】
製剤はまた、迅速に分散する投与又は迅速に溶解する投与に適合され得る。
圧縮された錠剤又はその他の圧縮された製剤を使用可能である。水性及び非水性コーティングも適用され得る。代替的に、処方物は溶液中における分散を容易にするために、錠剤分解物質又は発泡剤の結合が組み込まれ得る。
【0024】
本発明に従う錠剤は、微結晶セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム、グリシン及び好ましくはトウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン又はタピオカデンプンであるデンプンのような賦形剤と、ナトリウムデンプングリコレート、クロスカルメロースナトリウムのような錠剤分解物質と、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、蔗糖及びゼラチンのような結合剤とを含む。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤及びタルク又はコロイダルシリカのような流動促進剤も使用され得る。
【0025】
本発明に従う製剤は、ゼラチンカプセルにおける充填剤として使用され得る。好ましい賦形剤はラクトース、共結晶の糖、デンプン、セルロース及びポリエチレングリコールを含む。代替的に、凍結乾燥された製剤は、例えば、英国特許1548022号及びRP Scherer社のZydis(登録商標)剤に関する種々の特許に開示されているように使用され得る。
【0026】
本発明に従う製剤は、水性懸濁剤又は懸濁剤として再構成される乾燥顆粒若しくはその他の組成物を含み得る。
改良された放出製剤又は拍動的な(pulsatile)放出製剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン酸化物、キサンタンガム、カーボマー、油脂及びワックス、並びにメタクリレートコポリマーを含む放出速度改良剤を含み得る。
【0027】
特に小さなスポロポレニンフラグメントを用いて、経皮投与が採用され得る。
特に好ましい実施形態において、本発明の製剤は経肺投与用に構成される。スポロポレニン又はその他の外膜皮は、該製剤を所望の投与部位、例えば下肺へ浸透可能とするように選択された寸法を備えた粒子を提供するために、コケ類、真菌類又は植物の種から選択され得る。約1乃至100ミクロン、好ましくは約1乃至30ミクロン、更に好ましくは約1乃至10ミクロン、特に1乃至5ミクロンの粒子径であると特に好ましい。
【0028】
本発明の本態様に従う製剤は、粒子径が均一であるという利点を有する。更に、酸、塩基又は有機溶媒を用いて胞子を抽出後も粒子の大きさ及び形状はほとんど変わらない。抽出された外膜皮は、該外膜皮の由来する胞子と類似の大きさ及び形状に保持される。これに対し、喘息の治療に使用されるような従来からの微粉化された薬物はある割合の非常に微細な粒子及びより大きな凝集物を含む広範囲の粒子径を示す。
【0029】
特定の種からの胞子は、狭い粒度分布を有するとともに各々の種において一貫した形状を有し、選択された部位若しくは投与形態に適した剤形を提供するために選択され得る。本発明に従う有用な胞子は、以下の刊行物の開示に従って裸子植物、被子植物、シダ種子類、真菌類、及び藻類から得られ、当該刊行物は参照により本明細書に援用される。
【0030】
ジー.シャウ(G.Shaw)、植物化学系統発生論におけるスポロポレニン(Sporopollenin in Phytochemical Phylogeny)、ジェイ.ビー.ハーボルネ(J.B.Harborne)刊、アカデミックプレス、ロンドン及びニューヨーク、第3章、1997年、31−5。
【0031】
ピー.ディー.ムーア(P.D.Moore)、ジェイ.エイ.ウェブ(J.A.Webb)及びエム.イー.コリンソン(M.E.Collinson)、花粉分析(Pollen analysis)、第2版、ブラックウェル サイエンティフィック パブリケイションズ(Blackwell Scientific Publications)、1999年。
【0032】
ジェイ.ブルックス(J.Brooks)、スポロポレニンに関する幾らかの化学的かつ地球化学的研究:スポロポレニン(Some Chemical and Geochemical Studies on Sporopollenin in:Sporopollenin)、ジェイ.ブルックス、エム.ムーア(M.Muir)、ピー.バン ギーゼル(P.Van Gijzel)及びジー.シャウ、アカデミックプレス刊、ロンドン及びニューヨーク、1971年、305−348。
【0033】
代表的な種の胞子のサイズは以下のとおりである。
胞子のサイズの例
枯草菌(Bacillus subtilis) 1.2μm
ワスレナグサ(Myosotis) 2.4−5μm
黒色アルペルギルス(Aspergillus niger) 4μm
アオカビ(Penicillum) 3−5μm
ヒナアンズタケ(Cantharellus minor) 4−6μm
ガノメルマ(Ganomerma) 5−6.5μm
フミツキタケ属(Agrocybe) 10−14μm
セイヨウイラクサ(Urtica dioica) 10−12μm
ペリコニア(Periconia) 16−18μm
エピコッカム(Epicoccum) 20μm
ヒカゲノカズラ(Lycopodium clavatum) 25μm
モミ属(Abies) 125μm
スクワッシュ(Cucurbitapapo) 200μm
カボチャ(Cuburbita) 250μm
農夫肺のような疾病を引き起こす胞子は、それらが肺の特定の位置に堆積されることにより発病する。胞子からたんぱく質化(proteinatious)物質及びその他の関連物質を除去して外膜皮を形成することにより、肺の同様の位置へ有益な作用物質を輸送することが可能な無害な形態を残す。
【0034】
本発明に従う製剤は、肺吸入又は経鼻的に投与され、かつ1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134a)又は1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA227)のような適切な推進剤を用いて、乾燥粉末吸入器、定量吸入器エアロゾルを用いることにより、或いは、圧縮容器、ポンプ、スプレー若しくは噴霧器から簡便に送達され得る。
【0035】
定量吸入器用の組成物は、従来の実施に従って界面活性剤又は共溶媒を組み込むことができる。
本発明に従う製剤は、座薬又はペッサリの形態にて投与され得る。特にスポロポレニン又は胞子のフラグメントを組み込んだ製剤は、ゲル、ヒドロゲルローション、溶液、クリーム、軟膏、又は粉剤の形態にて局所投与され得る。製剤は、例えばスキンパッチを使用することにより皮膚から、即ち経皮的に投与され得る。
【0036】
本発明の製剤は、ヒト又は動物に使用するように提供され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は実施例により更に記載されるが、該実施例は限定的な意味を有さない。
スポロポレニン又はその他の外膜皮は、有機溶媒、強酸及びアルカリの組み合わせで胞子を過酷に処理することにより単離され得る。
【実施例1】
【0038】
ヒカゲノカズラからのスポロポレニンの単離
ヒカゲノカズラ(250g、Flukaより市販)をアセトン(700ml)中に懸濁させ、還流しながら4時間撹拌した。固体残渣をろ過し、新たなアセトンにて洗浄し、反応フラスコに戻し、水酸化カリウム溶液(850ml、6w/v%水溶液)にて再懸濁した。次に混合物を還流しながら6時間撹拌した。残渣をろ過し、大量の温水にて洗浄し、反応フラスコに戻し、水酸化物処理を繰り返した。ろ過後、固形材料を温水、温エタノール及び水で再び洗浄した。残渣を還流しながらエタノール(750ml)中にて2時間撹拌し、ろ過し、新たなエタノール及びジクロロメタンで順次洗浄した。得られた固形物を新たなジクロロメタン(750ml)中に再懸濁させ、還流しながら2時間撹拌し、ろ過により取り除き、空気中にて24時間乾燥させた。
【0039】
ろ過された粒子は次にオルトリン酸(85%、800ml)に懸濁され、緩やかに還流しながら5日間撹拌し、ろ過した。残渣を大量の温水にて洗浄し、吸引乾燥した。オルトリン酸処理及び乾燥を繰り返した。次に、粒子を温水、水、エタノール及びジクロロメタンにて洗浄した。最終的に固形物をエタノール(800ml)中にて2時間還流しながら撹拌し、ろ過し、ジクロロメタンにて洗浄し、空気乾燥後に真空乾燥してスポロポレニン(50g)を得た。
【実施例2】
【0040】
チロキシンの物理的結合及び生物学的評価
スポロポレニン(0.5g)を10トンで2時間圧縮した。得られた錠剤は0.3mlのDMSO及び1.5mlのエタノール中に300μgのチロキシンを含む溶液中に加えた。錠剤は一分以内に溶液を吸収し、サンプルは一定の重量になるまで5℃にて5酸化リンを用いて真空乾燥した。チロキシンが物理的に結合されたスポロポレニンは被験者に経口投与された。15分以内に患者のチロキシンの血中レベルは、1ナノモル/リットルに上昇した。この上昇は、かなりの数のスポロポレニン粒子/実施例18に示されるような部分的に分解した粒子とほぼ同等であった。従って、経口投与後15分にて被験者の血液5リットルに4μgのチロキシンが認められたという想定は、0.66%の薬物送達率に等しい。これは、送達されたスポロポレニン粒子の量(0.6%)と一致する。
【0041】
チロキシンレベルにおけるそのような迅速な上昇は1−2時間の経過まで期待できなかったであろう。その理由は、消化管の下部にある空腸管(jeujenum)中にて主として吸収されるからである。
【実施例3】
【0042】
ヒト組み換え成長ホルモンの物理的吸収
錠剤(16mm×3mm)を形成するために、10トンにて2分間スポロポレニン(0.5g)を圧縮した。錠剤に、希釈剤(0.5ml:グリセロール、m−クレゾール、水及び水酸化ナトリウム及び/又は塩酸含有)とエタノール(2.0ml)を含む混合物中のヒト組み換え成長ホルモン固体処方物(5.5mg、マニトール、グリシン、二塩基性リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び/又はリン酸の混合物とともにホルモン(1mg)を含む)溶液に加えた。スポロポレニン錠剤は迅速に(15秒)、最初の体積の約4倍に増大し、同時に溶液の全てを吸収した。得られた粉体は一定の重量が得られた時間である48時間、5℃にて真空乾燥した。
【実施例4】
【0043】
可溶性インシュリン製剤の物理的吸収
可溶性インシュリン(0.18gのインシュリン、rDNA、塩化亜鉛、グリセロール、メタクレゾール、水酸化ナトリウム、塩酸及び水を含む2cmの製剤)及びエタノール(1ml)の溶液に、錠剤を形成するために10トンにて2分間圧縮されたスポロポレニン(1g)を加えた。溶液は20秒で吸収され、同時にスポロポレニン錠剤は最初の体積の約4倍に増大した。得られた粉体は一定の重量が得られる時間である48時間、5℃にて真空乾燥した。
【実施例5】
【0044】
ヒマワリ油の物理的吸収
スポロポレニン錠剤(0.5g)は16mmのダイ中にて10トンの圧力にて2分間圧縮することにより調製された。該錠剤を、室温にて吸収補助液(1ml)中のヒマワリ油(1ml)混合物中に加えた(表1)。得られた粉体は、一定の重量となるまで、50℃のオーブン中にて、Pを含むデシケータ中にて乾燥した。
【0045】
溶媒を使用しない場合、錠剤は視覚的に3時間以上変化しない状態であった。
【0046】
【表1】

エタノール及びヒマワリ油を含む物理的結合は40℃にて繰り返され、サンプルを完全に吸収するのに要する時間が低減され、12秒後に吸収が完了した。完全な吸収に要する時間は使用される吸収補助液及び温度に大きく依存する。
【実施例6】
【0047】
グリシンの物理的吸収
スポロポレニン錠剤(0.5g)を、エタノール(0.5ml)で希釈された1Mグリシン溶液(0.5ml)に加えた。溶液は迅速に吸収され、得られた粉体を、一定の重量になるまで5酸化リンを用いて真空にて乾燥した。装填量は、スポロポレニン1g当り1.9mmolであった。この実験を、スポロポレニンを圧縮させることなく繰り返した。装填量は、スポロポレニン1g当り0.38mmolであった。このことから、スポロポレニンを圧縮した場合、グリシンの吸収量がかなり大きくなることが示された。
【0048】
スポロポレニンは水中で30分間激しく撹拌した後では、水溶性グリシンの15%を保持していることが明らかとなった。同一のサンプルをデンプンでコーティングして、30分間激しく撹拌した後、35%のグリシンを保持していることが明らかとなった。
【実施例7】
【0049】
硫酸銅の物理的吸収
スポロポレニン錠剤(0.5g)を、エタノール(0.5ml)で希釈された1M硫酸銅溶液(0.5ml)に加えた。溶液は迅速に吸収され、得られた粉体は、一定の重量になるまで五酸化リンを用いて真空にて乾燥した。装填量は、スポロポレニン1g当り2.5mmolであった。硫酸銅の結合はSEM−X線にて示され、スポロポレニンのシェル全体に均等に吸収されていた。
【0050】
スポロポレニンは水中で30分間激しく撹拌した後も、硫酸銅の75%を保持していることが明らかとなった。
【実施例8】
【0051】
LRホワイト樹脂(登録商標)の物理的吸収
スポロポレニン錠剤(0.1g)を、LRホワイト樹脂(登録商標)(2ml:80%ポリヒドロキシで置換されたビフェノールAジメタクリレート樹脂、19.6%C12メタクリレートエステル、0.9%ジメチルパラトルイジン)の50%エタノール溶液中に加えた。混合物を緩やかに2時間撹拌した。得られた粒子を遠心分離にて分離し、LRホワイト樹脂(登録商標)(2ml)を用いて更に12時間処理した。次に混合物をゼラチンカプセルに入れて60℃にて8時間加熱した。得られたポリマーはSEM顕微鏡にて示されるように、スポロポレニン粒子及び壁部内の凹部の内側に完全に充填された(図15)。
【実施例9】
【0052】
スポロポレニンの誘導体化(図1)
ヒカゲノカズラから単離されたスポロポレニンは、約5mmol/gのレベルにて、直接ブロム化によりハロゲン化され得る(エフ.ゼッチェ及びケー.ハグラー、Liebigs Ann.Chem.、1928、461、89)。クロロジメチルエーテル及び塩化第二スズを用いた反応によりクロロメチル化され、約1mmol/g塩化物の装填量が得られた(ジー.マッケンジー(G.Mackenzie)及びジー.シャウ、Int.J.Peptide Protein Res.、1980、15、298−300)。クロロメチル基を使用して、従来のメリフィールド法を用いて単純なトリペプチドを合成した。代替的に、スポロポレニンは1,3−ジアミノプロパンを用いてアミン化され、1.6mmol/g塩基の装填量が得られた(アール.アダムソン(R.Adamson)、エス.グレグソン(S.Gregson)及びジー.シャウ、Int.J.Peptide Protein Res.、1983、22、560−564)。1.3−ジアミノプロパンスポロポレニンは無水クロロアセトン又はクロロアセチル塩化物のいずれかと反応させ、4−ヒドロキシベンジルアルコールリンカーのナトリウム塩で処理された。引き続きベンジル終了スペーサ(benzyl terminating spacer)を用いて従来法によりテトラペプチドを合成した。イオン交換樹脂型の材料がスポロポレニンのジアミノエタン誘導体から形成され、この材料とエチルブロモアセテートを用いた反応/塩基加水分解から酸が得られた(装填量1.4mmol/g)。酸生成物はスポロポレニンとクロロスルホン酸との反応により得られた(装填量1.6mmol/g)(ジー.シャウ、エム.サイケス(M.Sykes)、アール.ダブリュ.ハンブル(R.W.Humble)、ジー.マッケンジー、ディー.マースダン(D.Marsdan)、イー.フェリバン(E.Phelivan)、Reactive polymers、1988、9、211−217)。
【0053】
スポロポレニンは、物理的にも化学的にも強固であると同時に比較的容易に誘導体化が可能であるという点で、多くの市販のポリマーよりも優れている。生物学的複合体として使用される市販のポリマーにおける最も一般的なアンカー基は、BNH、−OH、SH及びCOHである。スポロポレニンは、そのようなアンカー基がその表面に容易に導入されて薬物と直接共有結合するか、あるいは該アンカー基と薬物との間に短鎖を形成するスペーサ若しくはリンカー基を介して共有結合を形成するという利点を有する。われわれはスポロポレニンにおけるリンカー及びアンカー基をこれまでの文献に開示されるとともに背景技術に要約されたものより改良した。以下に記載された新たなリンカー/アンカー基は、結合の簡便性、改良された装填量、結合の安定性、そのような誘導体化されたスポロポレニンを薬物送達材料として適用した場合の毒性のある副産物の生成を最小化するという点に関してこれまでの文献に示されたものより優れている。一つの起源からのスポロポレニン粒子は形態学的にも化学的にもほぼ同一であることが明記されるべきである。そのような同一性は、製剤化のスケールにおいて使用される人工のポリマーでは見出すことはできないであろう。
【0054】
本発明の第四の態様に従って、第一級アミンで官能基化されたスポロポレニンが提供される。
ポリ(L−リジン)、ポリ(L−アスパラギン酸)のような薬物送達に使用される幾らかの市販のポリマーは薬物が結合するための第一級アミン基を有している。その理由は、多岐にわたる薬物ベクタの適用のための特に多用途であるリンカー/アンカー機能を有する基となりうる可能性を与える求核性を有するからである。通常、アミン基は、カルボジイミド試薬を使用してカルボキシル基含有薬物と結合される。第一級アミンはまた、ジスクシニミジルカルボネート及びトリエチルアミンと反応してイソ尿素を形成し(グレック ティー ハーマンソンによる生物学的複合体技術、1996、アカデミックプレス社及びイル ファーマコによる製薬化学における生物学的複合体、1999、54、497−526、これらは参照として援用される)、該イソ尿素はインシュリンのような薬物を保持するアミンと結合可能である。
【0055】
本発明の好ましい態様は、最小限の化学を用いて第一級アミン官能基を有するスポロポレニンを誘導体化するとともにこれまでに使用されたジアミンのような非毒性スペーサ基の使用を回避する新規なアプローチを提供する。このアプローチは室温でスポロポレニンを水性アンモニア(0.880)で処理してスポロポレニンのアミン化型を得、引き続いてLiAlHで還元して、ポリマーの第一級アミノ(−NH)型を得る。約1mmol/gの装填量が得られた。
【実施例10】
【0056】
第一級アミンで官能基化されたスポロポレニンの調製(図2)
スポロポレニン(2g)は室温にて4日間、0.880アンモニア中にて撹拌した。ろ過によりスポロポレニンを回収し、水(10×100cm)、EtOH(2×30cm)及びDCM(2×30cm)を用いて洗浄した。次いでスポロポレニンを一定の重量となるまで真空中にて乾燥した。LiAlH(3.6g)を、窒素雰囲気下、ジオキサン(100cm)中にて撹拌した。アミン化されたスポロポレニン(2g)を加え、窒素雰囲気下にて4日間還流した。混合物を冷却した。酢酸エチル(100cm)を慎重に加え冷却した。存在する大きな不溶性の塊をガラス棒で粉砕した。水(100cm)をゆっくり加え、次いで2M硫酸(200cm)を加えた。次に、第一級アミノスポロポレニンを水(2×250cm)、EtOH(2×250cm)及びDCM(2×250cm)を用いて洗浄し、一定の重量(1.8g)となるまで、真空下にて乾燥した。
【0057】
本発明の第五の態様に従って、ポリアミノ官能基化された外膜皮が提供された。効果的な量の活性物質と化学的に結合されたポリアミノ官能基化されたスポロポレニンからなる製剤もまた得られた。
【0058】
スペルミン及びスペルミジンのような幾らかのポリアミノ化合物は体内にて自然に発生する。これらは非毒性であり、従ってスペーサ基として適用される。好ましい実施形態において、ポリアミノ化合物は不活性溶媒中おける加熱又は還流によりスポロポレニンと反応して、共有結合を形成する。
【0059】
ジアミン及び第一級アミンに対してポリアミンを使用する利点は、薬物を結合するための更なる求核性のアミノ基の利用可能性であり、誘導体化されたスポロポレニン及び同様の外膜皮に薬物を装填する能力の増大を提供する。1,3,5−フェニレンジアミンのような芳香族ポリアミン及びメラミンのような関連した複素環は同様な様式にて使用され得る。芳香族アミンは、それぞれフォスゲン又はチオフォスゲンを用いて、かつヌクレオシドのような水酸基保持薬物(例えば、D4T、アシクロビル及びAZT)とともに、イソシアネート又はイソチオシアネートとして容易に活性化され得る。実施例11はそのようなアンカー基又はスペーサ基が取り付けられる手順を開示している。
【実施例11】
【0060】
ポリアミンで官能基化されたスポロポレニンの調製(図3)
スペルミジン(0.7mmol)、1,3,5−フェニレンジアミン(0.7mmol)及びメラミンの各々を、トルエン(10ml)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)のような種々の溶媒中にてスポロポレニン(0.1g)とともに24時間還流し、それぞれ、1.6、0.95及び0.54mmol/gの装填量を得、ろ過の後、トルエン(2×10cm)、2MHCl(2×10cm)、水(3×10cm)、EtOH(2×10cm)及びDCM(2×10cm)を用いて洗浄し、一定の重量となるまで真空下にて乾燥した。
【0061】
本発明の第六の態様に従って、カルボン酸で官能基化された外膜皮が提供された。有効量の活性物質に化学的に結合されたカルボン酸で官能基化された外膜皮を含む製剤もまた提供された。
【0062】
薬物−ポリマー複合体を形成する一般的な方法は、N−ヒドロキシスクシニミド及びカルボジイミドを用いてN−ヒドロキシスクシニミジルエステルを介するカルボキシレート機能の活性化を含む。そのように活性化されたエステルはペプチドのような薬物を保持する第一級アミン及びヌクレオシドのような薬物を含むヒドロキシルと効果的に結合する。多くの市販のカルボジイミドは水性溶媒又は有機溶媒のいずれかに溶ける。カルボン酸リンカーのスポロポレニンへの結合はこれまでに開示されている(ジー.シャウ、エム.サイケス、アール.ダブリュ.ハンブル、ジー.マッケンジー、ディー.マースダン、イー.フェリバン、Reactive polymers、1988、9、211−217)。この研究は、1,3−ジアミノプロパンで誘導体化されたスポロポレニンのエチルブロモアセテートとの反応とそれに続く鹸化とを含む。例えば、上述のポリアミノ誘導体化スポロポレニンと、例えば無水コハク酸又はエチルブロモアセテートとの反応及びそれに続く鹸化とにより装填量の改善が達成され得る。カルボン酸を導入する代替的な手段は、アミノ酸又はGly−Phe−Ala−Leu若しくはGly−Phe−Leu−Glyのような短いペプチド鎖への結合である。リンカーとしてのアミノ酸の外膜皮への結合は、適切な溶媒中にて、保護されていないアミノ酸又はアミノ酸のエチルエステル若しくはその他のアルキルエステルを外膜皮とともに加熱又は還流することにより容易に達成できるので魅力的である。そのようなリンカーの更なる利点はその非毒性という点にある。実施例12は誘導体化されていないアミノ酸のスポロポレニンへの結合の手順を開示する。
【実施例12】
【0063】
カルボン酸機能を結合するための手段としてのアミノ酸で官能基化されたスポロポレニンの調製(図4)
グリシン(0.1g)及びスポロポレニン(0.1g)の混合物をDMSO中にて24時間還流した。スポロポレニンはろ過により回収され、トルエン(2×10cm)、EtOH(2×10cm)、2MHCl(2×10cm)、水(3×10cm)、EtOH(2×10cm)及びDCM(2×10cm)を用いて洗浄し、3.6mmol/gの装填量が得られた。
【0064】
実施例13はアミノ酸エステルのスポロポレニンへの結合及び引き続く利用可能なカルボキシル機能の提供の手順を示す。
【実施例13】
【0065】
カルボン酸機能を結合するための手段としてのアミノ酸エステル官能基化スポロポレニンの調製(図5)
塩酸グリシンエチルエステル(0.1g)をトルエン(20cm)及びトリエチルアミン(2ml)中にて撹拌した。スポロポレニン(0.1g)を加えて混合物を撹拌しながら24時間還流した。冷却された誘導体化された胞子をろ過により回収し、トルエン(2×10cm)、EtOH(2×10cm)、2MHCl(2×10cm)、水(3×10cm)、EtOH(2×10cm)及びDCM(2×10cm)を用いて洗浄した。次にスポロポレニンを真空下にて乾燥して、1.7mmol/g装填量が得られた。エチルエステル基の対応するカルボン酸ナトリウム塩への加水分解は2MのNaOH(20ml)とともに2時間還流することにより達成された。室温にて2MHCl(40ml)とともに装填物を中和し、次に水で洗浄し、真空下にて乾燥することにより所望の酸が得られた(2.8mmol/g装填量)。
【0066】
上述の手順はまた、β−アラニン、L−リジン、α−L−アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びアミノマロン酸塩のような塩酸エチルエステルに対しても実施され、装填量は1.0乃至2.5mmol/gの範囲であった。アミノマロン酸塩、アルパラギンン酸又はグルタミン酸を結合する利点は、それらが二つのカルボン酸の機能を有しており薬物の更なる装填を可能とすることにある。
【0067】
本発明の第七の態様に従って、ポリヒドロキシルにて官能基化された外膜皮が提供された。有効量の活性物質に化学的に結合されたポリヒドロキシル官能基化外膜皮を含む製剤もまた得られた。
【0068】
炭水化物から主として得られるポリヒドロキシルリンカーは、結合が容易であり、非毒性であり、外膜皮に結合される糖の性質に依存して多くの水酸基が利用可能であることによる高い装填性という利点を有する。外膜皮にて多くの数の水酸基が利用できるということは、多岐にわたる薬物を結合可能であるという利点を有する。ポリヒドロキシルで誘導体化された外膜皮の化学的かつ形態学的な一致とともにその安定性は、デンプン、セルロース及び非胞子由来のキトサンのようなポリサッカライド薬物ベクタと比較して有利である。後者のポリマーは、スポロポレニン又はそれと同等の外膜皮と比較して、同様の化学的及び/又は形態学的一貫性を見出せないか、或いは同様の酸及びアルカリ並びに吸湿性に対する抵抗が見出させない。
【0069】
そのような複合体材料上の水酸基は薬物−ポリマー複合体を合成するのに適した多くの活性種に変換され得る。例えば、OH基はスクシニミド炭酸塩及びイミダゾリール炭酸塩並びにp−ニトロフェニルホルメートとともにメシラート及びトシラートとして活性化される。これらの全てはペプチドのような薬物を含む第一級アミンと容易に反応する。水酸基はまた、アルデヒド又はケトンに酸化され得る。
【0070】
薬物を含む第一級アミンは還元アミノ化により結合され得る。ポリマー上のOH基はまた、CNBrとともに活性化され、シアネートエステルを形成し、薬物を含有するアミンと反応する。従って、炭化水素に由来する薬物−ポリマー複合体は外膜皮と結合し、多くの反応性に富んだ水酸基を備えるとともに化学的にも形態学的にも一致した複合体を与える。実施例14は、ポリヒドロキシルリンカーがスポロポレニンに結合され得る方法を示す。
【実施例14】
【0071】
ポリヒドロキシルで官能基化されたスポロポレニンの調製(図6)
ソルビトールアミン(0.13g、0.69mmol)をDMSO(10cm)中にて撹拌した。スポロポレニン(0.1g、0.23mmol)を加え、混合物を24時間還流した。冷却された胞子をろ過にて回収し、DMSO(2×10cm)、水(100cm)、EtOH(2×10cm)及びDCM(2×10cm)で洗浄した。スポロポレニンを真空下にて一定の重量となるまで乾燥し、1.7mmol/gの装填量が得られた。
【実施例15】
【0072】
トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン−スポロポレニンの調製(図7)
トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミンを用いて実施例14と同様の手順を実施し、0.83mmol/gの装填量を得た。
【実施例16】
【0073】
フルオレセイン及びチロキシンが共有結合的に結合したスポロポレニンの調製
フルオレセイン(0.5g)及びチロキシン(0.5g)の各々は、DMSO(20ml)中にてスポロポレニン(0.1g)とともに還流した。冷却したスポロポレニンをろ過にて回収し、水(100cm)、EtOH(2×10cm)及びDCM(2×10cm)で洗浄した。スポロポレニンを真空下にて一定の重量となるまで乾燥し、それぞれ、1.0mmol/g及び0.37mmol/gの装填量が得られた。
【0074】
この種の結合は、薬物又はその他の活性物質が還流工程に耐え得るほど十分に安定である場合には非常に効率的である。直接結合するというそのような手段は、スポロポレニンほど化学的に安定ではない市販の多くのポリマーの使用と比べて極めて有利である。
【0075】
インシュリンのような安定性に欠ける薬物は、スクシニルアミドスペーサ等を介して、かつカップリング剤としてDCC及びHOBtを使用して、アミノスポロポレニンに結合され得る。市販のポリマーに比してそのような結合におけるスポロポレニンの利点は、スポロポレニンの各バッチへの薬物の結合により期待される装填量がかなり一定になるべく化学的一貫性を有する点にある。インシュリンのような薬物の結合におけるプロトコルを、以下の手順にて示した。
【実施例17】
【0076】
インシュリン結合スポロポレニンの調製
乾燥したジメチルホルムアミド(DMF、15ml)に溶解された無水コハク酸(0.57g、5.7mmol)を乾燥DMF(30ml)中のアミノスポロポレニン(1g)の懸濁液に加えた。反応混合物を窒素下にて一晩室温にて撹拌した。生成物をろ過により単離し、アセトンで洗浄し、Pの存在下にて48時間真空乾燥した。乾燥DMF中のDCC(3.80g、18.4mmol)及びHOBt(2.27g、1.84mmol)を乾燥DMF(20ml)中のスクシニルアミドスポロポレニン懸濁液に連続的に加えた。混合物を窒素下、室温にて3時間撹拌し、凍結乾燥したインシュリン(0.2g)を乾燥DMF(20ml)溶液として加えた。混合物を室温にて48時間撹拌した。0℃にて水(10ml)を加えることにより反応を停止した。混合物を室温にて2時間緩やかに撹拌し、ろ過し、アセトン及びエーテルで洗浄し、0.03mmol/gの装填量にてインシュリン−スクシニルアミドスポロポレニンを得た。
【0077】
上述の例は、たんぱく質及び酵素がどのようにしてスポロポレニン及び同様の外膜皮に結合するかを示している。アンチセンスオリゴヌクレオチドのようなオリゴヌクレオチドは類似の化学機構により結合され、該薬物の経口ルートによる送達を可能にする。これまでそのような化合物は、多くの場合、PEG−3'−オリゴヌクレオチド又はPEG−5'−オリゴヌクレオチド複合体として注射により送達されていた。PEG−3'−オリゴヌクレオチド又はPEG−5'−オリゴヌクレオチド複合体を合成するために使用される類似の合成結合反応が、既に述べたヒドロキシレートがアンカーされたスポロポレニンを用いて使用される。
【0078】
水に難溶性であるタキサン及びシクロスポリンのような薬物のスポロポレニン−薬物複合体の適用は特に有用である。そのような薬物は、種々の条件下にて、例えば、DMSO又は緩衝水性溶媒のような非常に効果的な溶媒中においてカップリング剤を用いてスポロポレニンに結合される。スポロポレニン−薬物複合体が経口投与の後に血流に到達すると、薬物は非常に分散された様式にて放出され、血清により良好な溶媒和状態となる。従って、スポロポレニン及び類似の外膜皮は、水性の系において難溶性薬物を誘導体化するためにしばしば使用されるポリエチレングリコール(PEGs)の使用の代替手段となる。そのような複合体は、PEG−薬物複合体の場合のような注射とは異なって経口より摂取できるという点において有利である。
【実施例18】
【0079】
生物学的評価
二人の被検者が診療所にてスポロポレニン(1g;25μm;ヒカゲノカズラに由来)を摂取し、血液サンプルを30分間隔にて採取した。
【0080】
血液サンプル(20)は3000rpmにて8分間遠心分離した。血清を取り除き残渣材料を、水で数回すすぎ(全量で10ml)、大きな管に移した。次に、サンプルを完全に混合し、もう一度遠心分離した。上澄みを取り除き、ペレット及び残渣の液体(0.5ml)を0.5mlグリセロールに再懸濁した。
【0081】
約0.1mlのアリコートを採取して、光学顕微鏡にて観察した。カバー・スリップの下側の全体の領域を検査した。
スポロポレニン粒子のカウント法は以下のように実施した。粒子の全数は、無傷の粒子及び塊状となったフラグメントのグループを合わせて数えることにより計算した。これらのフラグメントはスポロポレニン粒子から由来するが、複数の成分を含んでいるであろうことが予測された。
【0082】
顕微鏡試験の結果は以下のとおりである。
第一のヒト被検者からのサンプル(食後)
1)スポロポレニンの投与前:粒子は認められない;
2a)投与後30分:80の粒子が認められ、そのうちの12は無傷であり、残りは10〜20のフラグメントの塊であった;
2b)投与後30分:45の粒子が認められ、そのうちの7は無傷であり、残りはフラグメントであった;
3a)投与後60分:2つの無傷の粒子と、27の小さなフラグメント群が認められた;
3b)投与後60分:20の小さなフラグメントが認められたが、無傷の粒子は認められなかった;
4)投与後90分:1つの無傷の粒子と、12の非常に小さなフラグメント群が観察された;
5)投与後120分:2〜3の小さなフラグメントが観察された。
【0083】
第二のヒト被検者からのサンプル(絶食後)
1)スポロポレニンの投与前:粒子は認められない;
2a)投与後30分:3つの無傷の粒子と、48の非常に小さなフラグメントが認められた;
2b)投与後30分:4つの無傷の粒子と、35のフラグメント領域が認められた;
3a)投与後60分:1つの無傷の粒子と、17の極端に小さなフラグメントが認められた;
3b)投与後60分:2つの粒子と15のフラグメント領域が観察された;
4)投与後90分:粒子もフラグメントも認められない。
【0084】
1gから、血流に進入するスポロポレニンの最小比率はおおよそ0.60%であった。
治療効果に必要とされる薬物−スポロポレニン複合体の量が推定される。
平均装填量が1mmolg−1であると仮定すると、1gのスポロポレニンから血流に進入する薬物の量は、0.006mmolとなる。
【0085】
0.03mmol/gにて物理的又は共有結合的に結合したインシュリン(分子量6000)を備えたスポロポレニン1gに対して、血流中に利用可能な11mgのインシュリン(0.018mm)が与えられ、それは30IUのオーダーである。正常なヒトは一日に24uのインシュリンを産生し、かつ平均的な糖尿病患者は一日に60uのインシュリンであるので、最大量が2gであるスポロポレニンは、一日のインシュリンの供給量に等しく、皮下投与は経口投与と同じ効果を示すことが想定される。
【0086】
装填量0.37mmol/gにて1gのスポロポレニンが結合されたチロキシン(分子量776.9)に対して、1.7mgの利用可能なチロキシンが得られた(約17回分(平均投与量100μg))。装填量600μg/gにおけるチロキシンのスポロポレニンへの物理的結合は3.6μgを血流に送達することが期待される。この値は、経口摂取15分後の志願者の5リットル血液中にある4μgのチロキシンの分析により裏づけされている(即ち、送達された量のスポロポレニン粒子に併せて0.66%が送達された)。
【0087】
スポロポレニン又はその他類似の外膜皮が複数回誘導体化される。このようにして、スポロポレニンは、一回投与にて、一つ以上の薬物を送達するために使用される。加えて、薬物は活性化剤とともに同一のスポロポレニン粒子に結合される。更に、そのようなマルチ機能化は、脂肪酸鎖のような官能基を導入してリポ複合体を形成するか又はポリエチレングリコール(PEG)のような官能基を導入してPEG−脂質複合体を形成するために使用され、結合された粒子が血流に到達した場合、立体障害により結合された薬物を保護し、薬物の更にゆっくりとした放出を可能にする。例えば、スポロポレニンの残りの二重結合及びカルボン酸基は別々に誘導体化され得る。従って、二重結合は最初に臭素と反応してブロモスポロポレニンを形成し、該ブロモスポロポレニンはアジ化ナトリウムと反応して、新規なアジドスポロポレニンを形成し、該アジドスポロポレニンは水素化アルミニウムリチウムで還元されて第一級アミノスポロポレニンを形成する。第一級アミンは緩衝溶液中で抗ウィルス薬AZTモノホスフェートのような薬物及びカップリング剤としてのEDCと反応し、AZTモノホスフォリルスポロポレニンを形成する。スポロポレニン上の残りのカルボン酸基はDDCを用いてヘキサデシルアミンとともに濃縮される。ヘキサデシル部分は、胃内にて、短時間の間結合された薬物の更なる保護作用を提供するように機能する。この種の結合の方法の一例を以下に示す(図8)。
【0088】
本発明の第八の態様に従って、ハロゲノ官能基化された外膜皮が提供される。有効量の活性物質に化学的に結合されたハロゲノ官能基化された外膜皮からなる製剤もまた提供される。
【実施例19】
【0089】
ブロム化、アジ化及び還元による第一級アミンの導入
スポロポレニン(1g)は、30%臭素の酢酸溶液(10cm)中にて24時間撹拌した。スポロポレニンをろ過により回収し、メタノール(10×5cm)及びエーテル(5cm)を用いて洗浄し、真空中にて乾燥し、ブロモスポロポレニン(図8のA)を得た。DMSO(30cm)中のアジ化ナトリウム溶液(1.25g、19.2mmol)を加え、混合物を60℃にて48時間加熱した。得られたアジドスポロポレニン(図8のB)はろ過により回収し、洗浄し、乾燥し(1.8mmol/gのN)、水素化アルミニウムリチウム(0.2g)のTHF混合物(15cm)中にて1時間還流した。混合物を室温まで冷却し、洗浄し、かつ乾燥することによりアミノスポロポレニン(図8のC)が得られた(1.4mmol/gのNH)。
【実施例20】
【0090】
AZTモノリン酸塩の結合
AZTモノリン酸塩(2.1mmol)を0.1M MES,pH4.7−6.0の緩衝液(15cm)中のアミノスポロポレニン(0.3g;1.4mmol/gのNH)の撹拌懸濁液に加えた。EDC(2.1mmol)を加え、混合物を室温にて18時間撹拌した。粒子をろ過し、水で洗浄し、真空中にて乾燥し、AZTモノホスフォアミデートスポロポレニンを得た(図8のD)(1mmol/g)。
【実施例21】
【0091】
ヘキサデシルアミンの結合
DMSO(10cm)中のAZTモノホスフォリルスポロポレニン(0.3g;1mmol/g)及びDCC(2.1mmol)の混合物を18時間撹拌した。得られたヘキサデシルアミノ(1mmol/g)/AZTモノホスフォアミデート(1mmol/g)スポロポレニン(図8のE)をろ過にて取り除き、真空中にて乾燥した。
【0092】
スポロポレニンは、Fmoc分析(図9のルートA)にて決定されるように、約1mmol/gの装填量にて残渣のヒドロキシル基を保有する。これらの官能基は薬物を直接結合する又はスペーサ基を介して結合するために使用され得る(参照文献1)。
【実施例22】
【0093】
OH基のアルキル化
スポロポレニン(1g;1mmol/g)及びクロロ酢酸(6mmol)の6M NaOH懸濁液(50cm)を18時間撹拌し、洗浄及び乾燥後、スポロポレニン−酢酸を0.8mmol/gの装填量にて得た(図9のルートB)。
【実施例23】
【0094】
OH基のアシル化
(i)無水物及び酸クロライドの使用
残渣のヒドロキシル基は、塩化アセチル又は無水酢酸のような試薬により容易にアセチル化され(参照文献2、3及び4)、標準条件下にて塩化ベンゾイルによりベンゾイル化され、アシル化スポロポレニンを得た(図9のルートC)。塩化ベンゾイル(5mmol)を氷浴にて冷却したDCM(10cm)、DMAP及びピリジン(3mmol)のスポロポレニン(0.1g;1mmol/gOH)撹拌懸濁液中に加えた。ベンゾイル化されたスポロポレニン(0.6mmol/gベンゾイル化)をろ過し、洗浄し、乾燥した。
(ii)N−保護アミノ酸及びカップリング剤の使用
ヒドロキシル基をFmocグリシン(図8のルートD)のようなN−保護アミノ酸及びDMAPにより触媒化されたDCCのようなカップリング剤とともに直接アシル化することはこれまでに発表されていない。従って、そのような方法の例を以下に示す。DCC(0.5mmol)及びFmocグリシン(1mmol)のDCM(20cm)及びDMF(1cm)溶液を20分間撹拌した。DCMを蒸発により除去し、DMF(10cm)中に溶解された残渣の溶液をスポロポレニン(0.1mmol/g)のDMF懸濁液(10cm)に加えた。DMF(2cm)中のDMAP(0.1mmol)溶液を加え、得られた混合物を24時間撹拌した。Fmocグリシルスポロポレニンをろ過し、DMF、DCM及びMeOHで洗浄し、乾燥した(0.41mmol/gFmocグリシン)。
【0095】
同様の結合法を使用して、ペプチド及びたんぱく質薬物を結合した。
(iii)ヒドロキシル基のカルバメート化
残渣のヒドロキシル基はイソシアネートと反応する(図3のルートE)。この方法を使用して、p−マレイミドフェニルイソシアネートを用いてヒドロキシル基のカップリング用複素環二機能リンカーを形成した。スポロポレニンはフェニルイソシアネートを用いて以下のように誘導体化した。スポロポレニン(1g;1mmol/g)及びフェニルイソシアネートの懸濁液を撹拌し、80℃にて18時間加熱し、スポロポレニンカルバメート(0.9mmol/g)を得、それをろ過し、DMSO及びメタノールにて洗浄し、乾燥した。
(iv)ヒドロキシル基のハロゲン化
スポロポレニンの残渣のヒドロキシル基はSOCl、POCl及びPClにて容易にハロゲン化することができる(図8のルートF)。スポロポレニンのそのようなハロゲン化形を使用して、リンカーによりポリマーを更に誘導体化し、その後薬物を誘導体化する。ヒドロキシル基のハロゲン化を以下に示す:無水炭酸カリウム(6.37mmol)及びスポロポレニン(1g;1mmol/gOH)を、PClのDCM溶液中に0℃にて加えた。混合物を15分間撹拌し、その後ろ過によりスポロポレニンを取り除き、DCM及びエタノールにて洗浄し、乾燥した(1mmol/gCl)。
参照文献
1 エス.ケットリー(S.Kettley)博士、ハル大学、2001年。
2 ジー.シャウ、「スポロポレニンの化学:スポロポレニン」、ジェイ.ブルックス、エム.ムーア、ピー.バン ギーゼル及びジー.シャウ、(アカデミックプレス刊、ロンドン及びニューヨーク)、1971、305−348。
3 エフ.ゼッチェ、ピー.カルト(P.Kalt)、ジェイ.リーヒッチ(J.Liechti)、イー.ジーグラー(E.Ziegler)、J.Prakt.Chem.、1937、148、267。
4 ピー.ファウセット(P.Fawcett)、ディー.グリー(D.Gree)、アール.ホリーヘッド(R.Holleyhead)及びジー.シャウ、Grana、1970、10、246。
5 エム.イー.アヌンジアト(M.E.Annunziato)、ユー.エス.パテル(U.S.Patel)、エム.ラナーデ(M.Ranade)及びピー.エス.パルンボ(P.S.Palumbo)、Bioconjugate Chem.、1993、4、212。
【0096】
幾らかの生物学的複合体はチオールアンカー基を使用する(「生物学的複合体技術」、グレック ティー ハーマンソン、1996、アカデミックプレス社及び「製薬化学における生物学的複合体」イル ファルマコ、1999、54、497−526)。スポロポレニンは、例えば、最初にスポロポレニンの二重結合をブロム化し、次いで、チオ尿素(図10)若しくはNaSHとともに処理することにより、チオール基を導入する誘導体化が容易になされる。
【0097】
本発明の第九の態様に従って、チオール官能基化された外膜皮が提供される。有効量の活性物質が化学的に結合されたチオール官能基化された外膜皮を含む製剤もまた提供される。
【実施例24】
【0098】
チオール基のスポロポレニンへの結合(図10)
ブロモスポロポレニン(1g、4.5mmol/g、酢酸中におけるスポロポレニンと臭素の反応により上述のように得られる)とチオ尿素(60mmol)とのDMSO(10cm)中における撹拌懸濁液を24時間還流した。生成物をろ過により回収し、DMSO、水、2M HCl、水、EtOH及びDCMを用いて洗浄した。粒子を25%KOH中にて6時間還流しながら撹拌した。冷却後、粒子をろ過し、水、2M HCl、水及びメタノールにて洗浄し、乾燥し、チオール化されたスポロポレニン(5.2mmol/g)を得た。
【実施例25】
【0099】
p−ニトロベンゾイルオキシカルボニル基のスポロポレニンへの結合(図11)
チオール基のp−ニトロベンゾイルオキシカルボニルクロライドでのアシル化(図11):チオール化されたスポロポレニン(5.2mmol/g)を窒素下にて、p−ニトロベンゾイルオキシカルボニルクロライド(30mmol)及びトリエチルアミン(30mmol)を含むDCM(25cm)を用いて還流しながら撹拌した。粒子をろ過し、DCM及びメタノールにて洗浄し、乾燥し、p−ニトロベンゾイルチオオキシカルボニル化スポロポレニン(2.45mmol/g)を得た。
【0100】
炭素−炭素結合をスポロポレニンに与えるために使用され得る多くの方法が存在する。むしろ複合体であるが物理的かつ化学的に安定なポリマー物質であるこの構造は完全には知られていない。従って、その表面にていかなる反応が起こりうるであろうかということを見出すことは難しい。しかしながら、炭素−炭素結合形成の簡単な例は、ナトリウムエトキシド溶液中にてマロン酸ジエチルとブロモスポロポレニンとの反応による生成を含み、KOH溶液にて加水分解後、鉱酸にて中和することにより、スポロポレニン上に二酸(diacid)官能基を与え(図12の構造C)、よってCOH基の装填量を増大することができる。そのような方法の例を以下に示す。
【0101】
本発明の第十の態様に従って、炭素−炭素結合を介して官能基化された外膜皮が提供される。有効量の活性物質が炭素−炭素結合、その他の官能基に結合された外膜皮を含む製剤もまた提供される。
【実施例26】
【0102】
炭素−炭素結合が結合された官能基のスポロポレニンへの結合
マロン酸ジエチル(25mmol)を、ナトリウムメトキシド溶液(30cm;25mmolNa)中に50℃にて徐々に加えた。得られた溶液を、ブロモスポロポレニン(1g;5mmol/gのBr)のエタノール懸濁液(50cm)中に徐々に加えた。添加(15分)の後、混合物を18時間還流した。ジエチルマロニルスポロポレニン(図12のA)をろ過にて取り除き、エタノールにて洗浄した。水酸化カリウム(15mmol)を水中(2cm)に溶解し、エタノール(10cm)に加えた。該溶液をジエチルスポロポレニンジエチルマロネートのエタノール(40cm)撹拌懸濁液(図12のA)に加え、18時間還流した。粒子をろ過にて除去し、水及びエタノールを用いて洗浄し、乾燥し、カリウム塩を得た(図12のB)。氷水中におけるBの懸濁液を希硫酸を用いて酸性化し、水及びエタノールにて洗浄し、かつ乾燥した後に、マロン酸スポロポレニン(図12のC)を得た(1mmol/g)。
【0103】
金属をスポロポレニンに結合されたスペーサ基に結合し、薬物送達とは無関係であるろ過材料を生成した。(ジー.シャウ、エム.サイケス、アール.ダブリュ.ハンブル、ジー.マッケンジー、ディー.マースダン、イー.フェリバン、Reactive polymers、9、(1988)、211−217)。しかしながら、金属複合体を保持する薬物は開示されていない。以下の実施例は、スポロポレニンが白金の配位子として作用する方法を開示する(図12のD)。これは、シスプラチン、CBDCA及びJM−40のような公知の抗腫瘍薬(図13)の類似体である。新規な誘導体(図12のD)が合成される方法は、図12に概説され、以下に詳細に説明される。
【実施例27】
【0104】
シスプラチンのスポロポレニンへの結合
シス−[PtCl(NH](1.33mmol)のDMF(20cm)溶液をマロン酸スポロポレニン(図12のC)のDMF(20cm)撹拌懸濁液中に加えた。次いで、0.1MKOH水溶液(27cm)を加え、得られた混合物を60℃にて48時間撹拌した。スポロプラチン(図12のD、図13に命名されたものとして示される)をろ過により取り除き、水、エタノール及びエーテルにて洗浄した(0.9mmol/g)。
【0105】
多くの金(I)チオレート複合体は、関節リウマチに対する活性の可能性を示す。最も成功したそのような薬物は、ミオクリシン、ソルガナール、アロクシリン(Allochrysine)及びより最近では経口投与されるリダウラ(Ridaura)を含む(アール.バウ(R.Bau)、J.Am.Chem.Soc.、1998、120,9380)。リダウラは金のチオ−糖/ホスフィン複合体であり、多くの糖を備えることにより、消化器系において分解されてしまう。関連した金のスポロポレニン/ホスフィン複合体は消化管中においてより安定であり、関節リウマチの治療のために金(I)チオレートを血流中により迅速に送達することができる。白金、ルテニウム、ガドリニウム及びテクネチウム複合体もまた使用され得る。
【実施例28】
【0106】
スポロポレニンの金(I)チオレート複合体(図14)
炭酸カリウム(1mmol)のエタノール−水溶液(1:4;50cm)をチオレートスポロポレニン(1g;1mmol/g)懸濁液中に加え、室温にて5時間撹拌し、0℃に冷却した。(トリエチルホスファン)塩化金(I)(1.1mmol)のエタノール−水溶液を0℃にて徐々に加えた。溶液を室温まで昇温し、更に12時間撹拌した。(トリエチルホスフィン)(スポロポレニン−S)金(I)誘導体(0.8mmol/g)を水、エタノール及びエーテルにて洗浄し、乾燥した。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】スポロポレニンの誘導体化を示す反応式である。
【図2】第一級アミンで官能基化されたスポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図3】ポリアミンで官能基化されたスポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図4】カルボン酸機能を結合するための手段としてのアミノ酸で官能基化されたスポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図5】カルボン酸機能を結合するための手段としてのアミノ酸エステル官能基化スポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図6】ポリヒドロキシルで官能基化されたスポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図7】トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン−スポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図8】ハロゲノ官能基化されたスポロポレニンの調製を示す反応式である。
【図9】水酸基を備えたスポロポレニンの種々の官能基化を示す反応式である。
【図10】チオール基のスポロポレニンへの結合を示す反応式である。
【図11】p−ニトロベンゾイルオキシカルボニル基のスポロポレニンへの結合を示す反応式である。
【図12】新規な誘導体を合成する方法を示す反応式である。
【図13】公知の抗腫瘍薬及びスポロプラチンの構造を示す。
【図14】スポロポレニンの金(I)チオレート複合体の調製を示す反応式である。
【図15】ポリマーがスポロポレニン粒子及び壁部内の凹部の内側に完全に充填された様子を示すSEM顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物、コケ類、真菌類若しくは藻類の胞子の外膜皮又はそのフラグメントから選択された支持体と化学的若しくは物理的に結合されるか、又は該支持体内に封入された有効量の活性物質と、選択的に更なる賦形剤と、を含む製薬用又は栄養用の製剤。
【請求項2】
前記支持体はスポロポレニン、キチン又はグルカンからなる請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記外膜皮は、植物、コケ類、真菌類又は藻類の胞子に由来するスポロポレニン、キチン、グルカン又はマンナンからなる請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
経口的に、口腔内に、舌下内に又は経皮的に投与されるように構成された請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
錠剤、カプセル剤、胚珠、エリキシル剤、溶液及び懸濁液から選択される請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
経肺投与される請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
前記支持体は約1乃至100ミクロンの範囲の粒子径を有する請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記支持体は約1乃至10ミクロンの範囲の粒子径を有する請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記支持体は約1乃至5ミクロンの範囲の粒子径を有する請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記活性物質はペプチド又は遺伝物質からなる請求項1乃至9のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項11】
前記スポロポレニン又はその他の外膜皮又は胞子は官能基化される請求項1乃至10のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項12】
前記活性物質は塩基又は酸のいずれかに不安定である請求項1乃至11のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記活性物質は水に対する溶解度が低い請求項1乃至11のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項14】
前記活性物質は金属又は金属誘導体である請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
経肺投与のための有効量の活性物質からなる製剤であって、前記活性物質は、植物、コケ類、真菌類又は藻類の胞子の不活性外膜皮から選択される封入体内、又は前記封入体の壁部内の凹部に、選択的な更なる賦形剤とともに含有される製剤。
【請求項16】
前記封入体はスポロポレニン、キチン又はグルカンからなる請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
経肺投与のための有効量の活性物質からなる製剤であって、前記活性物質は、植物、コケ類、真菌類又は藻類の胞子の不活性外膜皮から選択される担体の表面に選択的な更なる賦形剤とともに吸収される製剤。
【請求項18】
前記不活性外膜皮は約1乃至10ミクロンの範囲の平均粒子径を有する請求項16又は17に記載の製剤。
【請求項19】
前記不活性外膜皮は約1乃至5ミクロンの範囲の平均粒子径を有する請求項16又は17に記載の製剤。
【請求項20】
第一級アミンにて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項21】
チオールにて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項22】
第一級アミンにて官能基化されたスポロポレニン又はその他の外膜皮を形成するための方法であって、前記スポロポレニン又はその他の外膜皮を水性アンモニアにて処理する工程と、水酸化リチウムアルミニウムにて還元する工程と、を含む方法。
【請求項23】
ポリアミノ基にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項24】
ポリアミノ基にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮を形成するための方法であって、スポロポレニン又は外膜皮をポリアミノ化合物とともに加熱する工程を含む方法。
【請求項25】
カルボン酸にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項26】
アミノ酸にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項27】
アミノ酸にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮を形成するための方法であって、アミノ酸エステルと、胞子のスポロポレニン若しくはその他の外膜皮とを加熱する工程を含む方法。
【請求項28】
ポリヒドロキシル基にて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項29】
ハロゲンにて官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項30】
外膜皮と活性物質との間に炭素−炭素結合を有する官能基化された胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮。
【請求項31】
胞子のスポロポレニン又はその他の外膜皮に共有結合的に結合されたインシュリンと、選択的に一つ以上の更なる賦形剤と、を含む製剤。
【請求項32】
胞子の外膜皮内に物理的に含まれる、栄養上又は機能上の材料を含む、栄養用又は香味用の製剤。
【請求項33】
胞子の外膜皮に物理的又は化学的に結合される栄養上又は機能上の材料を含む栄養用又は香味用の製剤。
【請求項34】
外膜皮内に含まれる栄養上又は機能上の材料を含む栄養用又は香味用の製剤。
【請求項35】
乃至Cアルコールから構成される浸透補助液の存在下にて、加圧又は真空の組み合わせを用いて胞子の外膜皮を充填する方法。
【請求項36】
水性エタノールの存在下にて加圧又は真空の組み合わせを用いて胞子の外膜皮を装填する方法。
【請求項37】
前記外膜皮の外側は活性物質の保持を助けるために食用材料にて更にコーティングされている請求項32乃至34のいずれか一項に記載の栄養用又は香味用の製剤。
【請求項38】
前記外膜皮の外側は、活性物質の保持を助けるための材料で更にコーティングされている請求項1乃至9のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項39】
疾病を治療するための薬剤を調製するために請求項1乃至18のいずれか一項に記載の製剤を使用する方法。
【請求項40】
不溶性ベクタを用いて活性物質を血流に経口送達するための方法であって、前記活性物質は20分以内にて血流に達し、かつ前記ベクタは3時間以内に分解される方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2007−520430(P2007−520430A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516482(P2006−516482)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002775
【国際公開番号】WO2005/000280
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(506000737)ユニバーシティ オブ ハル (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HULL
【Fターム(参考)】