説明

製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め構造及び方法

【課題】フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられたフェルトにおいて、ループ内に挿通された芯線の端部の抜け止め作業を簡単に行うことができるように構成された接合用芯線の抜け止め構造及び方法を提供する。
【解決手段】フェルト1の端部2同士を互いに接合するために前記フェルト1の端部2にループ3が設けられたフェルト1であって、前記フェルト1の端部2の近傍7には厚さ方向に貫通された貫通孔5が形成されており、前記貫通孔5には、前記ループ3を交互にかみ合わせて形成された共通孔6に挿通された芯線4の端部4aが挿通されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトにおいて、ループ内に挿通された芯線の端部の抜け止めを行う接合用芯線の抜け止め構造及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抄紙機への掛け入れ作業性を向上させるため、有端のフェルトをフェルトランに引き込んだ上でその両端部を互いに接合して無端とする、いわゆるシームフェルトが広く普及している。この種のシームフェルトでは、基布を構成する経糸の折り返しにより丈方向の端部に形成されたループを、互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わせ、これにより形成された共通孔に芯線を通して両端部を接合する構成が一般的である。
【0003】
このシームフェルトの端部接合方法では、ループ内に挿通された芯線が抜け出さないような処置を施す必要があり、従来、このような芯線の抜け止め処置として、芯線の端部に結び目(玉結び)を形成する、あるいは、芯線の端部をループ側に折り返してループ内における共通孔外の空間に挿入するようにした手法が知られている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
さらに抜け止め処置の簡易化を図るために、芯線の端部あるいは共通孔内に芯線を誘導するリードワイヤの端部と接続可能な接続部を一端側に備えると共に把持部を他端側に備えた抜け止め用具を、引き込み経路を隔てて接続部及び把持部が外部に突き出るように引き込み経路に予め挿入しておき、共通孔に芯線を挿通した後に、芯線の端部あるいはリードワイヤの端部を接続部に接続した上で把持部を引っ張ることで、芯線の端部を引き込み経路に引き込む技術が開示されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−39200号公報
【特許文献2】実開平2−115598号公報
【特許文献3】特開2002−13089号公報
【特許文献4】特開2005−97805号公報
【特許文献5】特開2008−169489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のように芯線に結び目を形成する手法では、抄紙機内でフェルトを案内するために設けられたパームにフェルトの耳部が接触した際に、芯線の結び目がパームに引っ掛かることで芯線が切断される不具合が発生するおそれがある。またフェルトは使用を継続するうちに幅寸法が変化するが、結び目で芯線の移動が拘束されているため、フェルトの寸法変化に芯線が追随することができずに切断される不具合が生じることから、望ましくないものであった。
【0007】
一方、芯線の端部を折り返す手法では、前記のように結び目が原因で芯線が切断される不具合が生じない利点が得られるものの、芯線の端部をループ内における共通孔外の空間に挿入するという細かい作業が必要になり、しかもこの作業を抄紙機内の良好とは言い難い作業環境下で強いられるため、作業に熟練を要し、不慣れな作業者では非常に手間がかかるという問題があった。
【0008】
また、特許文献5のように、ループ内の共通孔外の空間に端部を引き込む手法においても、ループの内径が極めて小さいために、芯線端部をこの空間に送り込む作業は困難であった。さらに、最近では、製紙機械の高速運転化に伴い、厚く、硬いフェルトが多く求められており、フェルトに樹脂加工が施される場合も多い。このため、不織繊維層の内部に芯線端部を引き込む手法では、樹脂加工がされたフェルトや硬いフェルトに芯線端部を引き込む作業は困難であり、芯線の端部を抄紙機上でフェルト端部へ縫合する方法は、非常に困難であった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、フェルトの端部同士を互いに接合するためにフェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトにおいて、ループ内に挿通された芯線の端部の抜け止め作業を簡単に行うことができるように構成された接合用芯線の抜け止め構造及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する本発明は、フェルト(1)の端部(2)同士を互いに接合するために前記フェルト(1)の端部(2)にループ(3)が設けられた製紙用シームフェルト(1)の接合用芯線(4)の抜け止め構造であって、前記フェルト(1)の端部(2)近傍(7)には厚さ方向に貫通された貫通孔(5)が形成されており、前記貫通孔(5)には、前記ループ(3)を交互にかみ合わせて形成された共通孔(6)に挿通された芯線(4)の端部(4a)が挿通されるように構成している。
【0011】
前記構成によれば、予めフェルト端部近傍に芯線端部を引き込む貫通孔を形成しておくことで、樹脂加工がされたフェルトや硬いフェルトであっても芯線端部を引き込み、接合用芯線の抜け止め作業を容易にすることができる。
【0012】
本発明の一側面によれば、前記貫通孔(5)は前記フェルト(1)の丈方向に複数形成されているように構成することが好ましい。
【0013】
前記構成によれば、芯線が挿通される貫通孔を複数設けることで、芯線と貫通孔との摩擦抵抗を増加させるため、芯線の抜け出しが阻止され、芯線を抜けにくくすることができる。
【0014】
本発明の一側面によれば、前記芯線(4)の端部(4a)は前記共通孔(6)への挿通を誘導するリードワイヤ(8)を備えており、前記貫通孔(5)の直径(D1)は前記リードワイヤの直径(D2)と略等しいように構成することが好ましい。
【0015】
前記構成によれば、貫通孔の直径とリードワイヤの直径とを略等しくすることで、リードワイヤを貫通孔に挿通する作業を容易にすることができる。なお、一般的にリードワイヤの直径は芯線の線径と比べて細いものとなっており、リードワイヤによって貫通孔に誘導された芯線はその線径よりも狭い貫通孔に挿通されることから、芯線と貫通孔との摩擦抵抗を増加させて、芯線の抜け出しが阻止され、芯線を抜けにくくすることができる。
【0016】
本発明の一側面によれば、前記貫通孔(5)には、1もしくは2本以上の仮止め糸(9)が挿通されており、1本の前記仮止め糸(9)が挿通されている場合には前記仮止め糸(9)の線径(D3)が前記貫通孔(5)の直径(D1)と略等しく、もしくは、2本以上の前記仮止め糸(9)が挿通されている場合には複数の前記仮止め糸(9)を束ねたときの最大外径(D3)が前記貫通孔(5)の直径(D1)と略等しくなっており、前記仮止め糸(9)は、前記芯線(4)の端部(4a)が前記貫通孔(5)に挿通されるまで、前記貫通孔(5)に保持されるように構成することが好ましい。
【0017】
フェルトに形成された貫通孔は、形成後徐々に塞がるおそれがある。前記構成によれば、形成された貫通孔に貫通孔の直径と略等しい仮止め糸を挿通し、芯線端部を挿通する前にこの仮止め糸を排除することで、貫通孔が塞がることを防止し、芯線端部挿通作業を容易にすることができる。なお、1もしくは2本以上の仮止め糸が貫通孔に挿通する構成とは、2本の仮止め糸が貫通穴に挿通されている場合や、1本の仮止め糸によって貫通孔間を縫合して、この一本の仮止め糸が同じ貫通孔に2回以上挿通されている場合も含まれる。すなわち、1もしくは2本以上の仮止め糸が貫通孔に挿通する構成とは、1つの貫通孔だけに注目したときに、この貫通孔内に何本の仮止め糸が挿通されているかを表している。
【0018】
本発明の一側面によれば、前記仮止め糸(9)は、1本の糸によって複数の前記貫通孔(5)に挿通されており、前記フェルト(1)の第1面(1a,1b)から第2面(1b,1a)へ突出する仮止めループ(10,11)が形成されるように構成することが好ましい。
【0019】
製紙作業中の異物トラブルを防止するために、貫通孔に挿通された仮止め糸は確実に排除する必要がある。また、作業性向上の観点から、仮止め糸は容易に排除できることが好ましい。例えば、1本の仮止め糸をまず一の貫通孔に挿通し、次にこの一の貫通孔に隣接した貫通孔に挿通した場合に、一の貫通孔の仮止め糸挿入側から仮止め糸を抜こうとすると、仮止め糸は一の貫通孔の内面、隣接した貫通孔の内面、および一の貫通孔と隣接した貫通孔との間のフェルト表面に接触しつつ抜き出される。接触は仮止め糸と貫通孔の内面やフェルト表面との摩擦抵抗を生じさせることから、上記例では3カ所での接触によって摩擦抵抗を大きくするおそれがある。抜き出すときの摩擦抵抗が大きいと、仮止め糸が、切れる、もつれる、からむおそれがあり、仮止め糸の確実な排除および容易な排除を妨げるおそれがあった。
【0020】
前記構成は、複数の貫通孔を臨むようにフェルト表面に沿って配設された一本の仮止め糸の貫通孔を臨む部分を貫通孔に挿通させることで、仮止めループのみが貫通孔に挿入された状態にすることができる。かかる状態において、仮止め糸の一端を引くと、貫通孔に挿入された仮止めループが抜き出される。なお、仮止めループは、例えば、仮止め糸が通されたミシン針を使って形成することができる。
【0021】
前記構成によれば、仮止めループが抜き出されるときに仮止め糸が接触するのは貫通孔の内面の1カ所だけであり、前記した例と比べて摩擦抵抗を減少させるとともに確実に仮止め糸を排除することができる。また、一本の仮止め糸にて、それぞれの貫通孔に仮止めループを形成するため、一端を引くことで仮止め糸を確実に排除でき、作業を容易とすることができる。
【0022】
本発明の一側面によれば、一の前記仮止めループ(11)は、複数の他の前記仮止めループ(10)と比べて長く前記貫通孔(5)から引き出されており、複数の他の前記仮止めループ(10)内を挿通するように構成することが好ましい。
【0023】
前記構成は、一の仮止めループを長く引き出して、この引き出した部分を他の仮止めループ内に挿通することで、他の仮止めループが抜け出ることを規制するとともに、一の仮止めループを抜き出すことによって、他の仮止めループの規制が解除されて、仮止め糸を排除することができる。このように前記構成によれば、仮止め糸を排除する工程以前に仮止め糸が抜け落ちることを防止することができる。
【0024】
本発明は、フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め方法であって、前記フェルトの端部近傍には厚さ方向に貫通された貫通孔が丈方向に複数形成されており、前記貫通孔には、1もしくは2本以上の仮止め糸が挿通されており、前記仮止め糸を排除した後に、前記ループを交互にかみ合わせて形成された共通孔に挿通された芯線の端部を前記貫通孔に挿通するように構成することもできる。
【0025】
前記製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め方法に関する発明の一側面によれば、前記仮止め糸は、1本の糸によって複数の前記貫通孔間に挿通されており、前記フェルトの第1面から第2面へ突出する仮止めループが形成されるように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
このように本発明によれば、フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトにおいて、ループ内に挿通された芯線の端部の抜け止め作業を簡単かつ確実に行うことができるように構成された接合用芯線の抜け止め及び方法を提供することができる。このように、本発明は作業の効率化を図る上で大きな効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による接合用芯線の抜け止め構造の一例が適用されたシームフェルトを示す平面図である。
【図2】図1に示したフェルトのII−II断面図である。
【図3】図1に示したIII部についてA方向から見た斜視図である。
【図4】芯線と芯線の端部に備えられたリードワイヤとを示す平面図である。
【図5】仮止め糸の貫通孔への挿通状況を段階的に示す断面図である。
【図6】仮止め糸の縫合、引き回しの実施例(1)である。
【図7】仮止め糸の縫合、引き回しの実施例(2)である。
【図8】仮止め糸の縫合、引き回しの実施例(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜3を参照すると、このフェルト1は、例えば基布に不織繊維層を積層一体化(図示せず)してなるものであり、基布は一対の経糸に緯糸を絡合させた織物組織(図示せず)をなし、経糸となる糸の折り返しにより丈方向の端部2に端部接合用のループ3が形成されている。そして、2枚のフェルト1,1同士を接合する際には、その互いのループ3,3の中心孔が整合するように交互にかみ合わされて形成された共通孔6に接合用の芯線4を挿通することで両端部2,2が互いに接合される。
【0029】
このフェルト1では、ループ3,3の共通孔6内に挿通されてフェルト1の耳部(幅方向の端部)からはみ出した芯線4の端部4aは、フェルト1の丈方向に複数形成された貫通孔5に挿通されることで、芯線4の抜け止めがなされている。
【0030】
芯線4を図に示すように複数の貫通孔5に並縫いすることで、フェルトを構成する基布や不織繊維層と芯線4との間の摩擦抵抗により端部4aの抜け出しが阻止される。なお、貫通孔5は、丈方向の範囲Lとしてフェルト端部2から5cm以内に、幅方向の範囲7として耳部近傍に、4〜8個形成することが好適である。かかる構成によって、十分な抜け止め効果が得られるとともに、抄紙機内を走行中に作用する外力により芯線4が簡単にずれることがなく、また使用継続時のフェルト1の寸法変化に追随して端部4aの移動が許容されるものとすることができる。なお、芯線4の貫通孔5への縫い込みは図のように並縫いには限定されず、適宜選択することができる。
【0031】
図4も併せて参照すると、芯線4の端部4aにはリードワイヤ8が接続されている。リードワイヤ8は、ループ3の共通孔6内に芯線4を誘導するために用いられるものであり、ここでは芯線4の先端側及び末端側の双方に設けられている。芯線4は、通常、複数(例えば5本)の糸材を束ねたものであり、リードワイヤ8が接着剤などにより芯線4の端部4aに固着されている。
【0032】
貫通孔5の直径D1はリードワイヤ8の直径D2と略等しいようにしている。この構成によれば、リードワイヤ8を貫通孔5に容易に挿通することができる。なお、一般的にリードワイヤ8の直径D2は芯線4の線径(複数本束ねられた場合には外径)と比べて細いものとなっており、リードワイヤ8によって貫通孔5に誘導された芯線4はその線径よりも狭い貫通孔5に挿通されることから、芯線4と貫通孔5との摩擦抵抗を増加させて、芯線4の抜け出しが阻止される。
【0033】
フェルト1に予め形成された貫通孔5は、形成後徐々に塞がるおそれがある。抄紙機への掛け入れ作業は有端のフェルト1をフェルトランに引き込んだ上でその両端部を互いに接合して無端とするものであり、有端のフェルト1製作後の保管や移動の期間に貫通孔5が塞がることを防止する必要がある。
【0034】
図5を参照すると、形成された貫通孔5に貫通孔5の直径D1と略等しい外径D3を有する仮止め糸9を挿通しておくことにより、貫通孔5が塞がることを防止できる。ここで仮止め糸9の外径D3とは、1本の仮止め糸9が貫通孔5内に挿通されている場合には仮止め糸9の線径であり、2本以上の仮止め糸9が挿通されている場合には挿通された複数の仮止め糸9を束ねたときの最大外径となる。なお、図5(c)に示す本実施形態のように仮止め糸9に形成されたループ10(11)を貫通孔5内に挿通している場合は、この一本の仮止め糸9が同じ貫通孔5に2回以上挿通されることで、貫通孔5内には2本以上の仮止め糸9が挿通されているものとなる。したがって、図5(c)の実施形態における外径D3は、仮止め糸9が2本束ねられた場合の最大外径となる。
【0035】
製紙作業中の異物トラブルを防止するために、貫通孔5に挿通された仮止め糸9は確実に排除する必要がある。また、作業性向上の観点から、仮止め糸9は容易に排除できることが好ましい。図5(a)〜(c)を参照して、かかる課題を解決する仮止め糸9の縫い方の一例を説明する。
【0036】
図5(a)を参照すると、仮止め糸9は、複数の貫通孔5,・・,5の開口を臨むようにフェルト1の第1面1a側に配設される。なお、図5(a)では貫通孔5,・・,5に沿って仮止め糸9を配設しているが、例えば、ミシン針に一本の仮止め糸9を係合して、このミシン針を複数の貫通孔5へ順に挿入することで仮止めループ10,11を形成する場合は、特に貫通孔5,・・,5に沿って仮止め糸9を配設する必要はない。
【0037】
続いて図5(b)も併せて参照すると、仮止め糸9の貫通孔5,・・,5を臨む部分9aは、貫通孔5内に挿通されて、フェルトの第2面1bの貫通孔5から突出する仮止めループ10,11が形成される。これらの仮止めループ10,11のみが貫通孔5内に挿通されることで、仮止め糸9が抜き出されるときに接触するのは貫通孔5の内面だけとなる。かかる構成によって、摩擦抵抗を減少させることができ、仮止め糸9の切れ、もつれ、からみを防止するとともに確実に仮止め糸9を排除することができる。
【0038】
続いて図5(c)も併せて参照すると、一の仮止めループ11は複数の他の仮止めループ10と比べて長い突出部11aを有しており、突出部11aは複数の他の仮止めループ10の内孔を挿通させている。
【0039】
このように構成することで、一の仮止めループ11によって、他の仮止めループ10が貫通孔5から抜け出ることを規制することができる。また、仮止め糸の一端9bを引いて一の仮止めループ11を抜き出すことによって、他の仮止めループ10の規制が解除されて、仮止め糸を排除することができる。かかる構成は、フェルト1,1の端部2,2同士を接合するまで、仮止め糸9が解ける、もしくは外れることを防止することができる。
【0040】
次に図6〜8を参照して、貫通孔5間に仮止め糸9を縫い合わせる数例の実施例について説明する。
【0041】
図6を参照すると、実施例(1)のフェルト1は6個の貫通孔5を備えている。中間に位置する4個の貫通孔5には仮止めループ10が挿通されている。そして、右端の貫通孔5には仮止めループ11が挿通され、この仮止めループ11は複数の他の仮止めループ10の内孔を挿通させて、左端の貫通孔5を下側から挿通され、仮止めループ11の中心孔11bが上側に突出するようにしている。
【0042】
ここで、右端の貫通孔5へ挿入される仮止めループ11の左側の一端は隣接する右側の貫通孔5に挿通される仮止めループ10に連通するように、仮止め糸9が縫い合わされている。一方、仮止めループ11の右側の他端となる仮止め糸9はフェルト1の上側に大きく引き出され、左端の貫通孔5の上側に突出した仮止めループ11の中心孔11bに挿通されて、中心孔11bに挿通される前の仮止め糸9に結合結び目12において結ばれている。なお、図6において最も左側にある仮止めループ10の一端となる仮止め糸9には抜け防止結び目13が結ばれており、この仮止めループ10を形成する仮止め糸9がフェルト1の下側に引かれて抜け出ることを防止している。
【0043】
前記のように、仮止め糸9が貫通孔5に縫い合わせられたフェルト1は、フェルト1の保管や、搬送の際に貫通孔が徐々に塞がることを防止するとともに、解けるもしくは外れることを防止することができる。
【0044】
続いて、フェルト1,1をフェルトランに引き込んだ上でその両端部2,2を互いに接合する際には、仮止め糸9の切り目14が切断され、矢印方向に仮止め糸9を引くことで、仮止めループ11が抜き出されて、仮止めループ10の規制が解除される。さらに仮止め糸9を引くと、右側の仮止めループ10から順に抜き出されて、貫通孔5から仮止め糸9を排除することができる。
【0045】
このように実施例(1)によれば、フェルト1の接合前には貫通孔5に仮止め糸9を保持するとともに、仮止め糸9を排除する作業においては容易に排除でき、さらに、仮止め糸9が抜け落ちることを防止することができる。
【0046】
次に、図7を参照して実施例(2)について説明する。実施例(2)においても、フェルト1は6個の貫通孔5を備えている。左端の貫通孔5にはフェルト1の上側から仮止めループ11が挿通され、その他の5個の貫通孔5には仮止めループ10が挿通されている。
【0047】
仮止めループ11は複数の他の仮止めループ10の内孔を挿通させて、右端の貫通孔5に挿通された仮止めループ10の中心孔10aと仮止めループ11の中心孔11bとが係合されている。この右端にある仮止めループ10の一端となる仮止め糸9は、フェルト1の上側を引き回され、仮止めループ11の一端となる仮止め糸9と結合結び目12で結ばれている。
【0048】
続いて、フェルト1,1をフェルトランに引き込んだ上でその両端部2,2を互いに接合する際には、仮止め糸9の切り目14が切断され、矢印方向に仮止め糸9を引くことで、仮止めループ11が抜き出されて、仮止めループ10の規制が解除される。さらに仮止め糸9を引くと、左側の仮止めループ10から順に抜き出されて、貫通孔5から仮止め糸9を排除することができる。
【0049】
次に、図8を参照して実施例(3)について説明する。実施例(3)においても、フェルト1は6個の貫通孔5を備えている。中間に位置する4個の貫通孔5には仮止めループ10が挿通されている。そして、左端の貫通孔5には仮止めループ11が挿通され、この仮止めループ11は複数の他の仮止めループ10の内孔を挿通させて、右端の貫通孔5を下側から挿通され、仮止めループ11の中心孔11bが上側に突出するようにしている。
【0050】
図8において最も左側にある仮止めループ11の一端となる仮止め糸9には抜け防止結び目13が結ばれており、この仮止めループ11を形成する仮止め糸9がフェルト1の下側に引かれて抜け出ることを防止している。
【0051】
最も右側にある仮止めループ10の一端となる仮止め糸9には第2仮止めループ15が形成され、この第2仮止めループ15と仮止めループ11の中心孔11bとが係合されている。
【0052】
続いて、フェルト1,1をフェルトランに引き込んだ上でその両端部2,2を互いに接合する際には、仮止め糸9の切り目14が切断され、矢印方向に仮止め糸9を引くことで、仮止めループ11が抜き出されて、仮止めループ10の規制が解除される。さらに仮止め糸9を引くと、左側の仮止めループ10から順に抜き出されて、貫通孔5から仮止め糸9を排除することができる。
【0053】
このように実施例(2)(3)においても、実施例(1)と同様に、フェルト1の接合前まで貫通孔5に仮止め糸9を保持するとともに、仮止め糸9を排除する作業においては容易に排除でき、さらに、仮止め糸9が抜け落ちることを防止することができる。なお、ここで説明した実施例(1)〜(3)は、仮止め糸9の縫合方法の一例であり、この縫合方法には限定されない。また、前記した実施例では1本の仮止め糸を貫通孔に縫合する例を説明したが、一般のミシン縫いのように2本以上の仮止め糸を縫合する方法とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め構造及び方法は、フェルトの丈方向の両端部に設けられたループを交互にかみ合わせて形成された共通孔に芯線を挿通して両端部を互いに接合する際に、ループの共通孔に挿通された芯線の端部をフェルトの丈方向に複数形成された貫通孔に挿通して抜け止めを行う作業を簡単に行うことができる効果を有し、抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトや、ドライパート(乾燥部)で用いられるドライヤーフェルトなどの製紙用シームフェルトにおいてシーム部の接合作業を行う際に採用される接合用芯線の抜け止め構造及び方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 フェルト
2 端部
3 ループ
4 芯線
5 貫通孔
6 共通孔
7 耳部
8 リードワイヤ
9 仮止め糸
10,11 仮止めループ
12 結合結び目
13 抜け防止結び目
14 切り目
15 第2仮止めループ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め構造であって、
前記フェルトの端部近傍には厚さ方向に貫通された貫通孔が形成されており、
前記貫通孔には、前記ループを交互にかみ合わせて形成された共通孔に挿通された芯線の端部が挿通されることを特徴とする接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項2】
前記貫通孔は前記フェルトの丈方向に複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載の接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項3】
前記芯線の端部は前記共通孔への挿通を誘導するリードワイヤを備えており、
前記貫通孔の直径は前記リードワイヤの直径と略等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項4】
前記貫通孔には、1もしくは2本以上の仮止め糸が挿通されており、
1本の前記仮止め糸が挿通されている場合には前記仮止め糸の線径が前記貫通孔の直径と略等しく、もしくは、2本以上の前記仮止め糸が挿通されている場合には複数の前記仮止め糸を束ねたときの最大外径が前記貫通孔の直径と略等しくなっており、
前記仮止め糸は、前記芯線の端部が前記貫通孔に挿通されるまで、前記貫通孔に保持されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項5】
前記仮止め糸は、1本の糸によって複数の前記貫通孔間に挿通されており、前記フェルトの第1面から第2面へ突出する仮止めループが形成されることを特徴とする請求項4に記載の接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項6】
一の前記仮止めループは、複数の他の前記仮止めループと比べて長く前記貫通孔から引き出されており、複数の他の前記仮止めループ内を挿通することを特徴とする請求項5に記載の接合用芯線の抜け止め構造。
【請求項7】
フェルトの端部同士を互いに接合するために前記フェルトの端部にループが設けられた製紙用シームフェルトの接合用芯線の抜け止め方法であって、
前記フェルトの端部近傍には厚さ方向に貫通された貫通孔が丈方向に複数形成されており、
前記貫通孔には、1もしくは2本以上の仮止め糸が挿通されており、
前記仮止め糸を排除した後に、前記ループを交互にかみ合わせて形成された共通孔に挿通された芯線の端部を前記貫通孔に挿通することを特徴とする接合用芯線の抜け止め方法。
【請求項8】
前記仮止め糸は、1本の糸によって複数の前記貫通孔に挿通されており、前記フェルトの第1面から第2面へ突出する仮止めループが形成されることを特徴とする請求項7に記載の接合用芯線の抜け止め方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−184822(P2011−184822A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50605(P2010−50605)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】