説明

製紙用シームフェルト及びその製造方法

【課題】紙の表面性を向上させると共に、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらにシームマークを抑制すると共に、シーム部で切断された糸の解れを防止することができるようにする。
【解決手段】複層構造をなし、端部に形成されたループ21により無端状に接合される基布層1を有し、走行面3側に、経糸12及び緯糸13を互いに絡合させた下基布11が配置され、この下基布の経糸によりループが形成され、製紙面5側に、第1方向糸16及び第2方向糸17を互いに絡合させると共に、全幅に渡って一体的に製織された上基布15が配置され、第1方向糸が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されると共に、第2方向糸が、幅方向に対して平行とならないように配されて、この第1方向糸及び第2方向糸が、幅方向のループの列に沿って切断されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層構造をなす基布層にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙機への掛け入れ作業性を向上させるため、有端のフェルトをフェルトランに引き込んだ上でその両端部を互いに接合して無端とする、いわゆるシームフェルトが広く普及している。この種のシームフェルトでは、基布を構成する経糸の折り返しにより丈方向の端部に形成されたループを、互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わせ、これにより形成された共通孔に芯線を通して両端部を接合する構成が一般的である。
【0003】
また、製紙用フェルトにおいては、基布層に所要の厚さのバット繊維層が積層一体化されているが、基布層の表面の凹凸が顕著であると、プレスロールによる加圧時の圧力状態が不均一になることが原因で、紙にマーク(圧力斑)が現れて紙の表面性を低下させる。
【0004】
このマークによる紙の表面性の低下を避けるには、基布層の表面の平滑性を高めれば良く、具体的には基布層を細い糸材を用いて緻密に織り上げれば良いが、基布層全体を細い糸材による緻密な組織構造とすると、製織が面倒になる上に、基布層に要求される搾水性に影響を及ぼす通気度や空隙率などの特性が損なわれる不都合が生じる。
【0005】
そこで、細い糸材を用いて密に織り上げた基布と、太い糸材を用いて粗に織り上げた基布とを重ね合わせて、密に織り上げた基布を製紙面側に配したラミネート構造が広く採用されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2000−256984号公報
【特許文献2】特開2005−200819号公報
【特許文献3】特許第3145717号
【特許文献4】特許第3347034号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、製紙用フェルトにおいては、製紙機上で繰り返し圧縮されることで基布層が徐々に薄くなり、これに伴って基布層の空隙量が次第に小さくなる。特にラミネート構造の基布層では、一方の基布の糸間に他方の基布の糸が嵌り込むことで、基布層が全体的に潰れた状態になり、空隙量が減少する。この基布層の空隙量の減少は、フェルトの搾水性に大きな影響を及ぼすことから、できるだけ抑制することが望まれる。さらに、ラミネート構造の基布層では、空隙量の減少と共に、糸の配置が崩れることで、基布層の製紙面側の表面の平滑性が低下する不具合が発生することがあり、紙の表面性の低下を避ける観点からも、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができる構成が望まれる。
【0007】
また、シームフェルトでは、ループにより接合されたシーム部が、地部と異なる構造となることから圧縮特性などの物性が地部と異なるため、製品にシームマークが発生する。このシームマークを抑制するにあたり、ラミネート構造の基布では、ループを走行面側の下基布に形成して、そのループの製紙面側を上基布で覆うようにすれば良いが、この場合、下基布のループ列に沿って上基布を幅方向に切断することが必要になる。ところが、上基布を幅方向に切断した際に、経糸のみならず緯糸が途中で切断されるため、緯糸が解れ易くなり、湿紙を損傷するなどの不具合が発生する。
【0008】
また、前記の特許文献3に開示されたシームフェルトでは、幅狭な帯状織布を螺旋状に巻いて上基布を形成するようにしており、この上基布が下基布のループ列に沿って幅方向に切断された場合に解れが生じても、抜け出す糸の長さが帯状織布の幅に限定されるため、解れの範囲を制限することができる利点が得られるものの、糸がバット繊維層の繊維に保持される長さが短くなるため、糸の抜け出しを阻止する拘束力が弱く、糸が抜け出し易くなる不都合がある。
【0009】
また、前記の特許文献4に開示されたシームフェルトでは、ループが設けられた下基布に重ねられる上基布が、経糸と緯糸とを交点で互いに接着してなっているが、このような構成の上基布では、溶着などによる糸の接着に手間を要し、製造コストが嵩む不都合がある。また、製紙機で繰り返しプレスされてフェルトが揉まれることで、接着部分が分離して糸の配置が大きく崩れるおそれがあり、耐久性の面で問題がある。
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、紙の表面性を向上させると共に、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらにシームマークを抑制すると共に、シーム部で切断された糸の解れを確実に防止することができ、その上高い耐久性を確保することができるように構成された製紙用シームフェルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、複層構造をなす基布層にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルトにおいて、前記基布層における走行面側に、丈方向及び幅方向にそれぞれ延在する経糸及び緯糸を互いに絡合させた下基布が配置され、この下基布の経糸により前記ループが形成され、前記基布層における製紙面側に、前記下基布とは別に製織されると共に、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ延在する第1方向糸及び第2方向糸を互いに絡合させ、全幅に渡って一体的に製織された上基布が配置され、前記第1方向糸が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されると共に、前記第2方向糸が、幅方向に対して平行とならないように配されて、この第1方向糸及び第2方向糸が、幅方向の前記ループの列に沿って切断されたものとした。
【0012】
これによると、下基布では、丈方向及び幅方向に経糸及び緯糸がそれぞれ延在するのに対して、上基布では、丈方向及び幅方向に対して斜めになるように第1方向糸が延在し、下基布と上基布とで糸が平行にならないため、一方の糸間に他方の糸が嵌り込むことが抑制されて、基布層が潰れ難い特性となる。このため、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらに基布層の製紙面側の表面の平滑性が向上するため、紙の表面性を向上させると共に、表面性の低下を抑えることができる。
【0013】
また、シーム部において、下基布に形成されるループの製紙面側が上基布で覆われるため、シームマークを抑制することができる。さらに、上基布の第1方向糸及び第2方向糸が下基布のループの列に沿って幅方向に切断されるが、上基布が全幅に渡って一体的に製織されているため、第2方向糸が丈方向に延在する場合を除き、第1方向糸及び第2方向糸が全幅に渡って延在し、且つ第1方向糸及び第2方向糸が共に幅方向に対して平行とならないように配されていることから、第1方向糸及び第2方向糸がバット繊維層の繊維に長く保持されるため、第1方向糸及び第2方向糸が抜け出し難くなり、第1方向糸及び第2方向糸の解れを防止することができる。
【0014】
また、上基布が、第1方向糸及び第2方向糸を互いに絡合させた織布で構成されているため、糸の配置が大きく崩れることがなく、高い耐久性を確保することができる。
【0015】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項2に示すとおり、前記上基布の第1方向糸及び第2方向糸の延在方向と幅方向とのなす角度が10度以上である構成とすることができる。
【0016】
これによると、上基布の糸の解れを確実に防止することができる。上基布の糸と幅方向とのなす角度が10度未満であると、糸の抜け出しを十分に拘束することができないため、解れ易くなる不都合が生じる。また、上基布の糸と幅方向とのなす角度を10度以上とし、さらに上基布の糸と丈方向とのなす角度も10度以上とすると、下基布の糸間に上基布の糸が嵌り込むことにより潰れ易くなる不都合を確実に避けることができる。
【0017】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項3に示すとおり、前記上基布が、前記第1方向糸が前記第2方向糸に比べて製紙面側を通る割合を高くした組織で、且つ前記第1方向糸が前記第2方向糸に比べて太い糸材で高密度に配された第1方向糸主体の構造をなす構成とすることができる。
【0018】
これによると、上基布において第2方向糸が主張しない、すなわち上基布が、1方向に延在する糸のみが下基布の表面に沿って密に配列された構造と類似したものとなり、上基布が全体として薄く平坦な状態となるため、基布層の製紙面側の表面の平滑性が向上し、紙の表面性を向上させることができる。
【0019】
この場合、上基布は、薄く平坦な状態となるため、この上基布を重ねたことによる空隙量の増大はあまりなく、下基布により適切な空隙量が確保される。
【0020】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項4に示すとおり、前記第2方向糸が、第1方向糸との交差部分で扁平化するように、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を複数本集合させた集合糸材からなる構成とすることができる。
【0021】
これによると、第2方向糸に絡み合う第1方向糸の屈曲が緩和されるため、上基布がより薄く平坦な状態になり、紙の表面性をより一層向上させることができる。ここで、集合糸材が扁平化する、すなわち集合糸材を構成する糸が第1方向糸に沿って横方向に広がる状態になるようにするには、糸相互の絡み合いによる拘束力が比較的弱いものとすることが必要である。
【0022】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項5に示すとおり、前記第2方向糸が、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りで且つ複数本のフィラメントを1度に撚り合わせた片撚りの撚り糸からなる構成とすることができる。
【0023】
これによると、甘撚りの撚り糸であるため、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱く、容易に扁平化するようになる。さらに、片撚りの撚り糸であるため、諸撚り(双糸)のように上撚りと下撚りで撚りが2重にかかった撚り糸に比較して、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱いため、扁平化が容易になる。
【0024】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項6に示すとおり、前記第2方向糸が、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りの撚り糸からなり、その撚り糸の撚り数を10回/m〜150回/mとした構成とすることができる。
【0025】
撚り数が150回/mより多いと、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が強過ぎるため、扁平化し難くなり、他方、撚り数が10回/mより少ないと、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱過ぎる、あるいはなくなるため、使用中に揉まれることでフィラメントが抜け出す現象、いわゆる糸抜けが発生する可能性があり、特に第2方向糸の屈曲が少ないと糸抜けが発生し易くなることから、望ましくない。
【0026】
なお、第2方向糸は、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸が好適であるが、この他に、多数のフィラメントを束ねただけの撚りのないマルチフィラメント糸(引き揃え糸)や、ステープルを紡いで得られる紡績糸なども可能である。
【0027】
また、主体となる第1方向糸にも、ある程度扁平化する糸材を用いると良く、具体的には、クリンプの付いた1本のフィラメントからなるモノフィラメント糸、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸、モノフィラメント糸とこれより小径のフィラメントを複数集合させたマルチフィラメント糸との撚り糸、モノフィラメント糸とこれより小径のステープルを紡いで得られる紡績糸との撚り糸などが好適である。これによると、第1方向糸が過度に扁平化することが抑制されると共に、適度なクッション性が得られる。
【0028】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項7に示すとおり、前記第2方向糸が、加熱処理により軟化・溶融する熱可塑性の糸材からなる構成とすることができる。
【0029】
これによると、第2方向糸に絡み合う第1方向糸の屈曲が緩和されるため、上基布がより薄く平坦な状態になり、紙の表面性をより一層向上させることができる。
【0030】
なお、フェルトの製作においては、基布層にバット繊維層を一体化するニードリング工程の前に、基布層の形態を安定化させる熱セットが行われ、この熱セットを第2方向糸を軟化・溶融させる加熱処理として、ここでの温度条件で軟化・溶融する熱可塑性合成樹脂材料を採用すると良い。
【0031】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項8に示すとおり、前記上基布が、織機で製織された原反織布を必要に応じて切断して得られた有端の織布片を、前記第1方向糸及び第2方向糸となる経糸及び緯糸を丈方向及び幅方向に対して斜めにした状態で、丈方向に複数並べてなる構成とすることができる。
【0032】
これによると、第1方向糸及び第2方向糸が丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配された基布を簡単に製作することができる。また、織布片の元になる原反織布は、幅寸法の小さなもので済むため、製織も容易になる。
【0033】
なお、強度を高めるために、丈方向に複数並べた織布片を相互に接合するようにすると良く、この場合、織布片の接合は、ミシンなどによる縫合や、超音波溶着機などによる溶着などにより行えば良い。
【0034】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項9に示すとおり、前記上基布が、織機で製織された原反織布を、前記第2方向糸となる糸を丈方向に延在させたまま、前記第1方向糸となる糸が幅方向に対して斜めに延在するように歪めて形成される構成とすることができる。
【0035】
これによると、第1方向糸のみが丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配された基布を簡単に製作することができる。ここで、上基布が第1方向糸主体の構造であれば、原反織布は、第2方向糸が粗に織り上げられているため、第1方向糸が斜めになるように歪ませる作業を容易に行うことができる。
【0036】
また、本発明においては、請求項10に示すとおり、複層構造をなす基布層にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルトにおいて、前記基布層における走行面側に、丈方向及び幅方向にそれぞれ延在する経糸及び緯糸を互いに絡合させた基布が配置され、この基布の経糸により前記ループが形成され、前記基布層における製紙面側に、1方向に延在する糸のみを前記走行面側の基布の表面に沿って配列してなる糸層が配置され、前記1方向の糸が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されて、幅方向の前記ループの列に沿って切断されたものとした。
【0037】
これによると、走行面側の基布では、丈方向及び幅方向に経糸及び緯糸がそれぞれ延在するのに対して、製紙面側の糸層では、丈方向及び幅方向に対して斜めになるように糸が延在し、基布と糸層とで糸が平行にならないため、一方の糸間に他方の糸が嵌り込むことが抑制されて、基布層が潰れ難い特性となる。このため、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらに基布層の製紙面側の表面の平滑性が向上するため、紙の表面性を向上させると共に、表面性の低下を抑えることができる。
【0038】
また、シーム部において、走行面側の基布に形成されるループの製紙面側が製紙面側の糸層の糸で覆われるため、シームマークを抑制することができる。さらに、糸層の糸が基布のループの列に沿って幅方向に切断されるが、糸層の糸が全幅に渡って延在し、且つその糸が幅方向に対して平行とならないように配されていることから、糸がバット繊維層の繊維に長く保持されるため、糸が抜け出し難くなり、糸の解れを防止することができる。
【0039】
さらに、糸層が全体として薄い平坦なシート状となるため、基布層の製紙面側の表面の平滑性が向上し、紙の表面性を向上させることができる。
【0040】
また、製紙面側の糸層では、単に1方向の糸が配列されただけの構成となるため、糸の配置が大きく崩れることがなく、高い耐久性を確保することができる。
【0041】
前記製紙用シームフェルトにおいては、請求項11に示すとおり、前記糸層を構成する1方向に延在する糸の延在方向と幅方向とのなす角度が10度以上である構成とすることができる。
【0042】
これによると、糸層の糸の解れを確実に防止することができる。糸層の糸と幅方向とのなす角度が10度未満であると、糸の抜け出しを十分に拘束することができないため、解れ易くなる不都合が生じる。また、糸層の糸と幅方向とのなす角度を10度以上とし、さらに糸層の糸と丈方向とのなす角度も10度以上とすると、基布の糸間に糸層の糸が嵌り込むことにより潰れ易くなる不都合を確実に避けることができる。
【0043】
また、本発明においては、前記製紙用シームフェルトの製造方法として、請求項12に示すとおり、経糸及び緯糸のいずれか一方に所定の液体に溶解可能な溶解性の糸材を用いて製織された織布を、前記走行面側の基布に重ね合わせて、ニードリングによりバット繊維層を一体化した後に、前記溶解性の糸材を前記液体中に溶出させて除去して、1方向に延在する糸のみの前記糸層を形成する構成とすることができる。
【0044】
これによると、1方向に延在する糸のみの糸層を簡単に形成することができる。
【0045】
この場合、溶解性の糸材は、取り扱い易さの観点から水溶性高分子材料からなるものが好適であり、ニードリング工程の後に行われる洗浄工程で水溶性の糸材を洗浄水中に溶出させて除去するようにすると良い。また、溶解性の糸材は、有機溶剤に溶解可能な高分子材料からなるものも可能であり、有機溶剤には、フェルトの構成材料(ポリアミドや羊毛など)に対して化学的に安定で脆化などの悪影響を与えないものを採用する。
【発明の効果】
【0046】
このように本発明によれば、走行面側の基布と製紙面の基布あるいは糸層とで糸が平行にならないため、一方の糸間に他方の糸が嵌り込むことが抑制されて、潰れ難い特性となる。このため、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらに基布層の製紙面側の表面の平滑性が向上するため、紙の表面性を向上させると共に、表面性の低下を抑えることができる。
【0047】
その上、シーム部において、走行面側の基布に形成されるループの製紙面側が製紙面の基布あるいは糸層の糸で覆われるため、シームマークを抑制することができる。さらに、製紙面の基布あるいは糸層の糸が走行面側の基布のループの列に沿って幅方向に切断されるが、製紙面の基布あるいは糸層の糸が全幅に渡って延在し、且つその糸が幅方向に対して平行とならないように配されていることから、糸がバット繊維層の繊維に長く保持されるため、糸が抜け出し難くなり、糸の解れを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0049】
図1は、本発明によるシームフェルトの一例を示す模式的な斜視図であり、丈方向及び幅方向に切断した断面を示している。図2は、図1に示した上基布及び下基布を示す模式的な平面図であり、(A)に上基布を、(B)に下基布をそれぞれ示す。
【0050】
このシームフェルトは、図1に示すように、基布層1にバット繊維層2をニードリングにより積層一体化してなるものであり、基布層1は、走行面3側の下基布11と製紙面5側の上基布15とが重なり合う複層構造をなしている。
【0051】
走行面側の下基布11は、厚さ方向に重ねて配置された丈方向に延在する2本の経糸12に幅方向に延在する緯糸13を絡合させた経2重構造をなしている。また、丈方向の端部8・9には、経糸12となる糸の折り返しにより端部接合用のループ21がそれぞれ形成され、その互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わされて形成された共通孔に幅方向の接合用芯線22を挿通することで無端状に接合される。
【0052】
下基布11の経糸12にはモノフィラメント糸が用いられる。緯糸13には、モノフィラメント糸や、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸などを用いれば良い。
【0053】
製紙面側の上基布15は、下基布11とは別に製織され、第1方向糸16と第2方向糸17とを絡合させた経緯1重構造をなしている。第1方向糸16及び第2方向糸17は、図2(A)に示すように、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在する、すなわち丈方向及び幅方向に対して平行または直交しないように配されており、下基布11に設けられた幅方向に並んだループ21の列に沿って切断された状態となっている。
【0054】
このようにすると、下基布11では、丈方向及び幅方向に経糸12及び緯糸13がそれぞれ延在するのに対して、上基布15では、丈方向及び幅方向に対して斜めになるように第1方向糸16及び第2方向糸17が延在し、下基布11と上基布15とで糸が平行にならないため、一方の糸間に他方の糸が嵌り込むことが抑制されて、潰れ難い特性となる。このため、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらに基布層1の製紙面側の表面の平滑性が向上するため、紙の表面性を向上させると共に、表面性の低下を抑えることができる。
【0055】
また、ループ21に接合用芯線22を挿通したシーム部においては、ループ21の製紙面側が上基布15で覆われる。特にここでは、ループ21の製紙面5側を覆うように、一方(走行方向の前側)の端部8側からバット繊維層2を突出させた態様のフラップ25が形成され、このフラップ25は、上基布15の第1方向糸16及び第2方向糸17で強固に保持されるため、脱落を抑えることができる。このため、シームマークを抑制することができる。
【0056】
さらに、上基布15の第1方向糸16及び第2方向糸17が、ループ21の列に沿って幅方向に切断されるが、上基布15が全幅に渡って一体的に製織されているため、第1方向糸16及び第2方向糸17が全幅に渡って延在し、且つ第1方向糸16及び第2方向糸17が共に幅方向に対して平行とならないように配されていることから、第1方向糸16及び第2方向糸17がバット繊維層2の繊維に長く保持されるため、第1方向糸16及び第2方向糸17が抜け出し難くなり、第1方向糸16及び第2方向糸17の解れを防止することができる。
【0057】
図3は、図1に示した上基布の組織構造の一例を示している。上基布15は、第1方向糸16が第2方向糸17に比べて表面側を通る割合を高くした組織で、且つ第1方向糸16が第2方向糸17に比べて太い糸材で高密度に配された第1方向糸主体の構造をなしている。
【0058】
図3に示す例では、5/1崩織り、すなわち第2方向糸17が5本の第1方向糸16の下側(走行面側)を通った後に1本の第1方向糸16の上側(製紙面側)を通る組織構造となっており、この組織構造では、第1方向糸16が第2方向糸17に比べて表面側を通る割合が高くなっている。
【0059】
図4は、図1に示した上基布に用いられる糸の仕様及び密度(込み数)の一例を示している。上基布15において、主体となる第1方向糸16は、太い糸材からなり、高い密度(込み数)で織り込まれる。一方、主体とならない第2方向糸17は、細い糸材からなり、低い密度(込み数)で織り込まれる。
【0060】
また、主体とならない第2方向糸17には、モノフィラメント糸を用いることも可能であるが、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を複数本集合させた集合糸材を用いると良い。このようにすると、第2方向糸17が、第1方向糸16との交差部分で扁平化する、すなわち集合糸材を構成する糸が第1方向糸16に沿って横方向に広がる状態になり、その第2方向糸17に絡み合う第1方向糸16の屈曲を緩和することができ、これにより上基布15が薄く平坦な状態になり、紙の表面性をより一層向上させることができる。
【0061】
ここで、集合糸材が扁平化するようにするには、糸相互の絡み合いによる拘束力が比較的弱いものとすることが必要であり、具体的には、多数のフィラメントを束ねただけの撚りのないマルチフィラメント糸(引き揃え糸)、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りの撚り糸、ステープルを紡いで得られる紡績糸などが好適である。
【0062】
図4に示す例では、第2方向糸17に、(I)6〜50dのフィラメントからなる800d以下のマルチフィラメント糸(引き揃え糸または撚り糸)、(II)φ0.25mm以下のモノフィラメント糸、(III)800d以下の紡績糸、(IV)800d以下の水溶性の糸、例えばPVA(ポリビニルアルコール)で形成された糸が用いられている。
【0063】
特に、第2方向糸17は、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りの撚り糸からなるものとすると良く、これによると、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱く、容易に扁平化するようになる。さらに第2方向糸17は、複数本のフィラメントを1度に撚り合わせた片撚り糸からなるものとすると良く、これによると、諸撚り(双糸)のように上撚りと下撚りで撚りが2重にかかった撚り糸に比較して、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱いため、扁平化が容易になる。
【0064】
また、第2方向糸17となる撚り糸の撚り数を10回/m〜150回/mとすると良い。撚り数が150回/mより多いと、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が強過ぎるため、扁平化し難くなり、他方、撚り数が10回/mより少ないと、フィラメント相互の絡み合いによる拘束力が弱過ぎる、あるいはなくなるため、使用中に揉まれることでフィラメントが抜け出す現象、いわゆる糸抜けが発生する可能性があり、特に第2方向糸17の屈曲が少ないと糸抜けが発生し易くなることから、望ましくない。
【0065】
以上のように、上基布15を、第1方向糸16が第2方向糸17に比べて製紙面側を通る割合を高くした組織で、且つ第1方向糸16が第2方向糸17に比べて太い糸材で高密度に配された第1方向糸主体の構造とすると、第2方向糸17が主張しない、すなわち上基布15が、1方向に延在する糸(第1方向糸)のみが下基布11の表面に沿って密に配列された構造と類似したものとなり、上基布15が全体として薄く平坦な状態となるため、基布層1の製紙面5側の表面の平滑性が向上し、紙の表面性を向上させることができる。
【0066】
特に、下基布11においては、ループ21を形成するために経糸12にモノフィラメント糸を用いた場合、経糸12が緯糸13の上側(製紙面5側)で屈曲するナックル部に対応してマークが点状に現れるが、この下基布11の経糸12のナックル部が上基布15で覆われるため、ナックル部によるマークをぼかすことができる。
【0067】
なお、上基布15は、薄く平坦な状態となるため、この上基布15を重ねたことによる空隙量の増大はあまりなく、下基布11により適切な空隙量が確保される。
【0068】
一方、第1方向糸16には、モノフィラメント糸を用いることも可能であるが、第2方向糸17と同様に、集合糸材を用いてある程度扁平化するようにすると良く、具体的には、クリンプの付いた1本のフィラメントからなるモノフィラメント糸、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸、モノフィラメント糸とこれより小径のフィラメントを複数集合させたマルチフィラメント糸との撚り糸、モノフィラメント糸とこれより小径のステープルを紡いで得られる紡績糸との撚り糸などが好適である。これによると、第1方向糸16が過度に扁平化することが抑制されると共に、適度なクッション性が得られる。
【0069】
図4に示す例では、第1方向糸16に、(A)φ0.15mmのフィラメントを3本撚り合わせた撚り糸、(B)φ0.15mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸を3本撚り合わせたの撚り糸、(C)φ0.20mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸、(D)φ0.20mmのフィラメントを3本撚り合わせた撚り糸、(E)φ0.20mmのフィラメントを2本撚り合わせた撚り糸を2本撚り合わせたの撚り糸、(F)6〜50dのフィラメントを撚り合わせた1500d以下の撚り糸、1500d以下の紡績糸(G)が用いられている。
【0070】
また、主体とならない第2方向糸17に、熱可塑性の糸材を用いるようにしても良い。このようにすると、加熱処理により軟化・溶融して、その第2方向糸17に絡み合う第1方向糸16の屈曲を緩和することができ、これにより上基布15が薄く平坦な状態になり、紙の表面性をより一層向上させることができる。
【0071】
なお、製紙用フェルトの製作においては、基布層1にバット繊維層2を一体化するニードリング工程の前に、基布層1の形態を安定化させる熱セットが行われ、この熱セットを第2方向糸17を軟化・溶融させる加熱処理として、ここでの温度条件で軟化・溶融する熱可塑性合成樹脂材料を採用すると良い。
【0072】
図5は、図1に示した上基布の別の例を示す模式的な平面図である。ここでは、主体となる第1方向糸16の延在方向と幅方向とのなす角度β1が、図2の例での角度β1より小さくなっている。このように第1方向糸16の幅方向に対する角度β1を小さくしても良いが、図2の例のように角度β1を大きくすると、主体となる第1方向糸43の解れを確実に防止することができる。この解れ防止効果を十分に得るには、角度β1を10度以上とすると良い。
【0073】
また、潰れ難い特性を得る上でも、上基布15の第1方向糸16の丈方向及び幅方向に対する角度α1・β1を10度以上とすると良い。角度α1・β1が10度未満であると、下基布11の経糸12及び緯糸13に上基布15の第1方向糸16及び第2方向糸17が影響を受ける、すなわち下基布11の経糸12相互の間隙あるいは緯糸13相互の間隙に上基布15の第1方向糸16及び第2方向糸17が嵌り込むため、潰れ易くなる不都合が生じる。
【0074】
一方、主体とならない第2方向糸44の丈方向及び幅方向に対する角度α2・β2も、10度以上とすると良い。なおここでは、第1方向糸16と第2方向糸17とが直交することから、第1方向糸16の角度α1・β1に応じて第2方向糸17の角度α2・β2が自ずと定まる。
【0075】
図6は、図1・図2に示した上基布の製作の要領を示す模式図である。ここでは、上基布15が、有端の織布片61を丈方向に複数並べて形成される。織布片61は、織機62で製織された原反織布63を切断して得られ、第1方向糸16及び第2方向糸17となる緯糸65及び経糸64が丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように織布片61を斜めに傾けた状態で順次配置し、耳部が丈方向に一直線状になるように余分な部分を切除する。
【0076】
このようにすると、第1方向糸16及び第2方向糸17糸が丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配された基布15を簡単に得ることができる。また、織布片61の元になる原反織布63は、幅寸法の小さなもので済むため、製織も容易になる。
【0077】
なお、強度を高めるために、丈方向に複数並べた織布片61を相互に接合するようにすると良く、この場合、織布片61の接合は、ミシンなどによる縫合や、超音波溶着機などによる溶着、接着剤による接着などにより行えば良い。
【0078】
図7は、図1・図2に示した下基布の製作の要領を示す模式図である。ここでは抄紙機上の経糸12が織機上で打込み糸として織り上げられ、抄紙機上の緯糸13は織機上では経糸(整経糸)となっており、ループ形成用芯材71に打込み糸を絡めてループ21を形成しながら袋織りで下基布11が無端状に織り上げられる。具体的には、ループ21が織機上の耳部72・73の一方に形成され、その一方の耳部72において経糸12となる打込み糸をループ形成用芯材71に引っ掛けて折り返すことでループ21が形成される。
【0079】
図8は、図1に示したシームフェルトの製作の要領を示す模式的な断面図である。ここではまず、下基布11と上基布15とを重ね合わせて熱セットを行った後、図8(A)に示すように、ニードリングにより基布層1にバット繊維層2を積層一体化する。次に、ループ形成用芯材71を抜き取り、互いに噛み合ったループ21を分離して、図8(B)に示すように、ループ21側を開く。そしてループ21の列に沿ってバット繊維層2及び上基布15を切断する。これにより、図8(C)に示すように、有端状に仕上げられる。
【0080】
このようにして製造された有端のフェルトは、抄紙機のフェルトランに引き込んだ上で、図1に示したように有端のフェルトの両端部に設けられたループ21を交互にかみ合わせ、ここに接合用芯線22を通して無端状に接合される。
【0081】
図9は、本発明によるフェルトの別の例を示す模式的な斜視図であり、丈方向及び幅方向に切断した断面を示している。図10は、図9に示した上基布を示す模式的な平面図であり、(A)に完成状態を、(B)に製作の要領をそれぞれ示している。
【0082】
図9・図10(A)に示すように、基布層91では、製紙面5側の上基布92において、主体となる第1方向糸93のみが、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されており、主体とならない第2方向糸94は、丈方向に延在するように配されている。
【0083】
この構成では、第2方向糸94が丈方向に延在するため、この第2方向糸94が下基布11の経糸12相互の間隙に嵌り込むことで潰れ易くなることが懸念されるが、この第2方向糸94は第1方向糸93より細い糸材で低密度に配されていることから、第2方向糸94が下基布11の経糸12相互の間隙に嵌り込むことによる潰れはあまり問題とならない。
【0084】
上基布92は、図10(B)に示すように、第2方向糸94を織機上で経糸102とし、第1方向糸93を織機上で緯糸(打込糸)103として製織された原反織布101を、経糸102(第2方向糸94)を丈方向に延在させたまま、緯糸103(第1方向糸93)の延在方向が幅方向に対して斜めになるように歪めることで簡単に得ることができる。ここで、原反織布101は、経糸102(第2方向糸94)が粗に配されているため、緯糸103(第1方向糸93)が斜めになるように歪ませる作業を容易に行うことができる。
【0085】
なお、この構成においても、上基布92の第1方向糸93及び第2方向糸94の太さ及び込み数(密度)を、図4に示した条件にしたがって設定すると良い。
【0086】
図11は、本発明によるシームフェルトの別の例を示す模式的な斜視図であり、丈方向及び幅方向に切断した断面を示している。図12は、図11に示した走行面側の糸層及び製紙面側の基布を示す模式的な平面図であり、(A)に製紙面側の基布を、(B)に走行面側の糸層をそれぞれ示す。
【0087】
ここでは、前記の例と同様に、基布層111が複層構造をなしているが、前記の例と異なり、製紙面5側に、1方向に延在する糸112のみを製紙面側の基布11の表面に沿って配列してなる糸層113が配置され、その1方向の糸112が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されている。
【0088】
なお、糸層113の糸112には、モノフィラメント糸や、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸などを用いれば良い。
【0089】
この構成では、糸層113が全体として薄い平坦なシート状となるため、基布層111の製紙面5側の表面の平滑性が向上し、紙の表面性を向上させることができる。
【0090】
そして、基布11では、丈方向及び幅方向に経糸12及び緯糸13がそれぞれ延在するのに対して、糸層113では、丈方向及び幅方向に対して斜めになるように糸112が延在し、基布11と糸層113とで糸が平行にならないため、一方の糸間に他方の糸が嵌り込むことが抑制されて、基布層111が潰れ難い特性となる。このため、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらに基布層111の製紙面5側の表面の平滑性が向上して、紙の表面性を向上させると共に、表面性の低下を抑えることができる。
【0091】
また、ループ21に接合用芯線22を挿通したシーム部においては、ループ21の製紙面側が糸層113の糸112で覆われる。特にここでは、ループ21の製紙面5側を覆うように、一方(走行方向の前側)の端部8側からバット繊維層2を突出させた態様のフラップ25が形成され、このフラップ25は、糸層113の糸112で強固に保持されるため、脱落を抑えることができる。このため、シームマークを抑制することができる。
【0092】
さらに、糸層113の糸112がループ21の列に沿って幅方向に切断されるが、糸112が全幅に渡って延在し、且つその糸112が幅方向に対して平行とならないように配されていることから、糸112がバット繊維層2の繊維に長く保持されるため、糸112が抜け出し難くなり、糸112の解れを防止することができる。
【0093】
この場合、糸層113の糸112の丈方向及び幅方向に対する角度α・βは、10度以上とすると良い。角度が10度未満であると、糸112の解れ防止効果が十分に得られず、また基布11の経糸12及び緯糸13に糸層113の糸112が影響を受ける、すなわち基布11の経糸12相互の間隙あるいは緯糸13相互の間隙に糸層113の糸112が嵌り込むため、潰れ易くなる不都合が生じる。
【0094】
ところで、1方向に延在する糸112のみの糸層113は、接着剤による接着や超音波溶着機などによる溶着などにより糸112の適所を基布11に固定しながら形成するため、製造に手間を要する。
【0095】
一方、図1・図2及び図9・図10に示した例で、主体とならない第2方向糸17・94に水溶性高分子材料、例えばPVA(ポリビニルアルコール)などからなる水溶性の糸材を用い、洗浄工程で第2方向糸17・94を洗浄水中に溶出させて除去するようにすると、図11・図12に示したものと同様のものを得ることができる。
【0096】
水溶性の第2方向糸17・94を除去する洗浄工程はニードリング工程の後に行えば良い。すなわち、経糸及び緯糸のいずれか一方に水溶性の糸材を用いて製織された織布を、製紙面側の基布11に重ね合わせて、ニードリングによりバット繊維層2を一体化した後に、洗浄により水溶性の糸材を洗浄水中に溶出させて除去することにより、1方向に延在する糸のみの糸層113が形成され、製造途中で糸層113が織布の状態となるため、製造が容易になる。
【0097】
水溶性の糸材を形成する水溶性高分子材料には、常温の水で溶解するものも可能であるが、40℃〜70℃に加温した水で溶解するものを採用することが望ましく、これにより通常作業中に水溶性の糸材が溶解することを回避することができ、取り扱いが容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明にかかる製紙用シームフェルトは、紙の表面性を向上させると共に、適切な空隙量を長期間に渡って維持することができ、さらにシームマークを抑制すると共に、シーム部で切断された糸の解れを防止することができる効果を有し、複層構造をなす基布層の表面又は表裏両面にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルト、特に抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明によるシームフェルトの一例を示す模式的な斜視図である。
【図2】図1に示した上基布及び下基布を示す模式的な平面図である。
【図3】図1に示した上基布の組織構造の一例を示す模式図である。
【図4】図1に示した上基布に用いられる糸の仕様及び密度(込み数)の一例を示す図である。
【図5】図1に示した上基布の別の例を示す模式的な平面図である。
【図6】図1・図2に示した上基布の製作の要領を示す模式図である。
【図7】図1・図2に示した下基布の製作の要領を示す模式図である。
【図8】図1に示したシームフェルトの製作の要領を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明によるフェルトの別の例を示す模式的な斜視図である。
【図10】図9に示した上基布を示す模式的な平面図である。
【図11】本発明によるシームフェルトの別の例を示す模式的な斜視図である。
【図12】図11に示した走行面側の糸層及び製紙面側の基布を示す模式的な平面図である。
【符号の説明】
【0100】
1 基布層
2 バット繊維層
3 走行面
5 製紙面
11 下基布、12 経糸、13 緯糸
15 上基布、16 第1方向糸、17 第2方向糸
21 ループ
22 接合用芯線
25 フラップ
61 織布片
62 織機
63 原反織布、64 経糸、65 緯糸
91 基布層
92 基布、93 第1方向糸、94 第2方向糸
101 原反織布、102 経糸、103 緯糸
111 基布層
112 糸
113 糸層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層構造をなす基布層にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルトであって、
前記基布層における走行面側に、丈方向及び幅方向にそれぞれ延在する経糸及び緯糸を互いに絡合させた下基布が配置され、この下基布の経糸により前記ループが形成され、
前記基布層における製紙面側に、前記下基布とは別に製織されると共に、第1の方向及び第2の方向にそれぞれ延在する第1方向糸及び第2方向糸を互いに絡合させ、全幅に渡って一体的に製織された上基布が配置され、前記第1方向糸が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されると共に、前記第2方向糸が、幅方向に対して平行とならないように配されて、この第1方向糸及び第2方向糸が、幅方向の前記ループの列に沿って切断されたことを特徴とする製紙用シームフェルト。
【請求項2】
前記上基布の第1方向糸及び第2方向糸の延在方向と幅方向とのなす角度が10度以上であることを特徴とする請求項1に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項3】
前記上基布が、前記第1方向糸が前記第2方向糸に比べて製紙面側を通る割合を高くした組織で、且つ前記第1方向糸が前記第2方向糸に比べて太い糸材で高密度に配された第1方向糸主体の構造をなすことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項4】
前記第2方向糸が、第1方向糸との交差部分で扁平化するように、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を複数本集合させた集合糸材からなることを特徴とする請求項3に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項5】
前記第2方向糸が、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りで且つ複数本のフィラメントを1度に撚り合わせた片撚りの撚り糸からなることを特徴とする請求項4に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項6】
前記第2方向糸が、複数本のフィラメントを弱く撚り合わせた甘撚りの撚り糸からなり、その撚り糸の撚り数を10回/m〜150回/mとしたことを特徴とする請求項4に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項7】
前記第2方向糸が、加熱処理により軟化・溶融する熱可塑性の糸材からなることを特徴とする請求項3に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項8】
前記上基布が、織機で製織された原反織布を必要に応じて切断して得られた有端の織布片を、前記第1方向糸及び第2方向糸となる経糸及び緯糸を丈方向及び幅方向に対して斜めにした状態で、丈方向に複数並べてなることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の製紙用シームフェルト。
【請求項9】
前記上基布が、織機で製織された原反織布を、前記第2方向糸となる糸を丈方向に延在させたまま、前記第1方向糸となる糸が幅方向に対して斜めに延在するように歪めて形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の製紙用シームフェルト。
【請求項10】
複層構造をなす基布層にバット繊維層を一体化させてなり、端部に形成されたループにより無端状に接合される製紙用シームフェルトであって、
前記基布層における走行面側に、丈方向及び幅方向にそれぞれ延在する経糸及び緯糸を互いに絡合させた基布が配置され、この基布の経糸により前記ループが形成され、
前記基布層における製紙面側に、1方向に延在する糸のみを前記走行面側の基布の表面に沿って配列してなる糸層が配置され、前記1方向の糸が、丈方向及び幅方向に対して斜めに延在するように配されて、幅方向の前記ループの列に沿って切断されたことを特徴とする製紙用シームフェルト。
【請求項11】
前記糸層を構成する1方向に延在する糸の延在方向と幅方向とのなす角度が10度以上であることを特徴とする請求項10に記載の製紙用シームフェルト。
【請求項12】
請求項10に記載の製紙用シームフェルトの製造方法であって、
経糸及び緯糸のいずれか一方に所定の液体に溶解可能な溶解性の糸材を用いて製織された織布を、前記走行面側の基布に重ね合わせて、ニードリングによりバット繊維層を一体化した後に、前記溶解性の糸材を前記液体中に溶出させて除去して、1方向に延在する糸のみの前記糸層を形成することを特徴とする製紙用シームフェルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−31395(P2010−31395A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191740(P2008−191740)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】