製紙用フェルトおよびその製造方法と製紙用ベルトおよびその製造方法
【課題】均一な厚みの表面処理層を備えた製紙用フェルトおよび製紙用ベルトとその製造方法を提供する。
【解決手段】基布層1と、該基布層1にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層2とを少なくとも備える製紙用フェルト10または製紙用ベルトであって、前記表層2の製紙面を研磨して形成された表面3と、前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層4とを有するように構成する。
【解決手段】基布層1と、該基布層1にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層2とを少なくとも備える製紙用フェルト10または製紙用ベルトであって、前記表層2の製紙面を研磨して形成された表面3と、前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層4とを有するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布層にバット繊維層が一体化された製紙用フェルトおよびその製造方法と製紙用ベルトおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙工程では、湿紙を搬送しながら湿紙の水分を搾水することが主な目的の製紙用フェルトと、湿紙を搬送することが主な目的の製紙用ベルト(搬送フェルト,搬送ベルトとも呼ばれる)が使用されている。製紙用フェルトは、基布層とバット繊維層を少なくとも備える構成となっており、一般に薬品加工や樹脂加工が施された通気性のあるフェルトが使用されている。また、製紙用ベルトには、基布層に樹脂加工を施した構成と、基布層とバット繊維層に樹脂加工を施した構成の非通気性又は僅かに通気性の有するベルトが使用されている。
【0003】
製紙用フェルトにおいては、基布層に所要の厚さのバット繊維層が積層一体化されているが、その表面にはバット繊維自体による比較的小さな凹凸や、バット繊維の目付斑やニードリング方法により発生する比較的大きな凹凸など、大小様々な凹凸が存在している。バット繊維層の表面の凹凸が顕著であると、製紙機上でプレスロールによりフェルトと一緒にプレスされる湿紙の表面性も低下することとなる。また、製紙用フェルト製造業者の間では、フェルトの表面性はその搾水性に大きな影響を与える事が知られており、フェルト表面の凹凸が大きいほどプレスロールによる加圧下の圧力状態が不均一になり、フェルトの搾水性能は低下する。このため、表面性を向上させること、すなわちバット繊維層の製紙面側表面の凹凸を少なく平滑なものとすることが求められている。
【0004】
一般的に表面性の評価には、JIS B0601で定義されている算術平均粗さRaなどの表面粗さパラメータが用いられていて、製紙用具においてもこれらのパラメータが適用されることがある(例えば、特許文献1 参照)。特許文献1において開示されているのは製紙用搬送ベルトであり、この表面は樹脂層であるために加圧されても表面の状態は大きく変化はしない。しかし、製紙用フェルトにおいては、フェルト表面は短い繊維であるバット繊維が絡み合った集合体であり、加圧されることでバット繊維が動き、フェルト表面のバット繊維の集合状態は変化する。従って、非加圧下の測定である算術平均粗さRaなどの表面粗さパラメータでは非加圧下でのフェルトの表面性を評価するともに、圧力の均一性などの加圧下で測定されるパラメータを併用することが好ましい。
【0005】
バット繊維層の表面を平滑にするには、例えば、繊度の小さなバット繊維を用いる方法が適用されている。バット繊維の繊度が小さくなることで、バット繊維の直径に起因する比較的小さな凹凸を減少し、また同じ重量のバット繊維を用いた時のバット繊維本数も増えるため、局所的な繊維状態に依存する表面粗さを小さくさせることができる。また、バット繊維層の表面を平滑にする他の方法としては、仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成する技術が開示されている。製紙用フェルトをプレスすることで表面の粗さおよび圧力の均一性を小さくさせることができる(例えば特許文献2〜5 参照)。
【0006】
しかしながら、繊度の小さなバット繊維を用いる方法のみでは繊維の目付斑や絡み斑に依存する圧力均一性を小さくすることは容易ではなかった。製紙用フェルトは製紙プロセスの段階によっては、表面性以外にも脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等が要求され、バット繊維の繊度を小さくすることは、製紙プロセスの段階によっては汚れが詰まり易くなる等の新たな課題を生じさせるおそれがあった。
【0007】
一方、製紙用ベルトにおいては、通常湿紙が接触する側には樹脂層が露出した面が形成されている。この面は表層に位置するバット繊維へ樹脂を塗布、含浸して硬化させることで形成される。この樹脂露出面においても湿紙を搬送する上で表面の平滑性が要求されており、樹脂が塗布、含浸される前のバット繊維の表面が平滑でないと樹脂露出面も平滑にならず、製紙用フェルトと同様な課題を有していた。
【0008】
そこで、表層のバット繊維層に樹脂を含浸もしくは塗布して表層を硬化させてから表層を研磨することで、湿紙に接触する面を平滑にする技術が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3264461号
【特許文献2】特開2006−9188号公報
【特許文献3】特許第3360145号
【特許文献4】特表2007−532785号公報
【特許文献5】特許第2649044号
【特許文献6】特許第4064930号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、繊度の小さなバット繊維を用いる方法や、仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成する方法のみでは繊維の目付斑や絡み斑に依存する湿紙に接触する面を平滑にすることは容易ではなく、表層に形成された硬化層(表面処理層)もこの影響を受けていたので、製紙用フェルトにおいて加圧時の圧力状態が不均一になって紙の表面性を低下させるおそれがあった。一方、製紙用ベルトにおいても、加圧時の圧力状態が不均一となることは、湿紙の搬送性を悪化させるおそれがあった。
【0011】
さらに、製紙用フェルトや製紙用ベルトの表面が平滑でないと、塗布、含浸、散布される液状の樹脂や薬剤が不均一に表面に付着し易くなり、表面処理層の厚みも不均一となる。厚みの不均一は一つの湿紙において汚れ防止性やなじみ性を低下させるという問題を生ずるとともに、複数の湿紙間での厚みの不均一性は搾水性も低下させて安定した製紙品質を損なうおそれがあった。
【0012】
本発明は、このような発明者の知見に基づき案出されたものであり、その主な目的は、均一な厚みの表面処理層を備えた製紙用フェルトおよび製紙用ベルトとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、本発明は、基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトであって、前記表層の製紙面を研磨して形成された表面と、前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層とを有することを特徴としている。
【0014】
前記構成によれば、バット繊維が絡合された表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトをプレスすることなく、表層を平滑にすることができる。そして、この平滑な表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで、厚みのバラツキが少ない表面処理層を形成することができる。さらに、表層を研磨することは、バット繊維が研磨されるため、繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷を生じさせる。この扁平化や微細な傷は、所定の溶液を浸透し易くさせるため、より均一な表面処理層の厚みを実現することができる。
【0015】
前記構成は、前記研磨された表面の平均圧力0.1MPa下でのフェルト表面圧力分布の変動係数が0.25以下であり、かつ算術平均粗さRaが10〜38μmの範囲内とすることができる。
【0016】
研磨されたフェルト表面の評価には、加圧下のフェルト表面を評価することの出来る表面圧力分布の変動係数と、非加圧下のフェルト表面を評価することの出来る算術平均粗さを併用することが好適である。前記構成によれば、これら2つのパラメータを併用して前記範囲にフェルト表面を加工することで、製紙機上でフェルトが使用される状態でのフェルト表面性を正確に評価できるとともに、所望の表面状態を得ることができる。
【0017】
ここで、変動係数は、JISZ8101−1 1.15の定義に基づき、測定された表面の圧力分布の標準偏差を算出したのち、この標準偏差を圧力の平均値で割ったものである。この変動係数は、圧力分布のばらつきを相対的に表している。また、算術平均粗さはJIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に定義されている。
【0018】
なお、フェルト表面の圧力測定時の圧力は、0.1MPaで行うことが最適である。その理由としては、次のようなことが挙げられる。すなわち、フェルトの圧力均一性は、主に基布層に起因する圧力均一性と、表バット層に起因する圧力均一性(=表面圧力均一性)に分けることができる。基布層に起因する圧力斑を軽減させるためには、基布設計の変更が必要となるが、基布設計を変更すると圧力均一性以外の他の性能も変化してしまう為、圧力均一性以外のフェルトに要求される性能を維持したまま圧力均一性のみを向上させることは困難である。それに対し表面研磨を行うことで、他のフェルトに要求される性能を維持したまま表面圧力均一性を向上させることができる。そして、基布層に起因する圧力斑は0.1MPa程度の圧力下では発生しない(測定されない)ために、0.1MPaの圧力測定によりフェルト表面圧力均一性のみを評価することが出来る。
【0019】
前記構成の製紙用フェルトにおいて、前記所定の溶液は親水基を持つ薬品または熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂とすることができる。この構成によれば、研磨されて平滑になった表層に、例えば親水基を持つ薬品である公知の外添型デポジットコントロール剤を塗布、散布等することで、表層の親水性を改善し、製紙工程で生ずる炭酸カルシウム等のデポジットの付着を抑制することができる。かかる構成は、製紙用フェルトのなじみ性を向上させることができる。
【0020】
前記構成の製紙用フェルトまたは製紙用ベルトにおいて、前記所定の溶液は熱可塑性樹脂とすることができる。この構成によれば、加熱処理により軟化溶融する熱可塑性樹脂を塗布、含浸等することで、製紙プロセスに応じて要求される表面性、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等を適宜コントロールすることができる。また、必要に応じて表層を加熱して、表面処理層の樹脂を除去することもできる。なお、適用できる樹脂は特に制限されないが、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂等を適用できる。
【0021】
前記構成の製紙用フェルトまたは製紙用ベルトにおいて、前記所定の溶液は熱硬化性樹脂とすることができる。この構成によれば、一旦硬化した後は特性が変わらない熱硬化性樹脂を塗布、含浸等することで、製紙プロセスに応じて要求される表面性、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等を適宜コントロールすることができる。なお、適用できる樹脂は特に制限されないが、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を適用できる。
【0022】
本発明は、基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法であって、前記表層の表面を研磨して平面を形成する工程と、前記平面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して表面処理層を形成する工程とを含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、樹脂加工前や薬品加工前に、フェルト表層を研磨することで、樹脂や薬品の浸透性が向上するとともに、より均一な表面処理層を形成することができ、均一な厚みの表面処理層を備えた製紙用フェルトおよび製紙用ベルトとその製造方法を提供することができる。均一な厚みの表面処理層は、例えば、搾水性の低下を抑制し、安定した製紙品質を長期期間提供することができる。また、本発明によれば、従来技術のように樹脂加工後や薬品加工後に研磨を行なった場合に生じる樹脂や薬品の脱落を防止できるため、無駄もなくなり、コスト増を抑制できる。さらに研磨することで表面積が増加するため、樹脂や薬品の接着性が増し、使用中の脱落も防止できることから表面処理層の耐久性を向上させることができる。このように本発明は、生産性の向上に寄与するとともに、費用低減にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図であり、所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布される前の状態を示している。
【図2】従来技術にかかる比較例を示す模式的な断面図であり、樹脂が含浸される前の状態を示している。
【図3】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図であり、所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布された後の状態を示している。
【図4】従来技術にかかる比較例を示す模式的な断面図であり、樹脂が含浸された後の状態を示している。
【図5】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの研磨工程の一例を示す模式的な側面図である。
【図6】表面粗さの説明図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる実施例の研磨加工前における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる実施例の研磨加工後における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図9】従来技術にかかる比較例であり、製紙用フェルトの表層に樹脂加工をした場合の圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図10】従来技術にかかる比較例であり、製紙用フェルトの表層に樹脂加工をした後に表面を研磨加工した場合の圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる実施例における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明にかかる一実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では製紙用フェルトについての説明を行うが、同様な構成の製紙用ベルトに対しても本発明を適用することができる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図である。このフェルト10は、基布層1に表層となるバット繊維層2をニードリングにより積層一体化してなる複層構造をなしている。基布層1は、織機でモノフィラメント糸や、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸などを織った布を適用できるが、これに限定されず、多層の布、幅方向もしくは丈方向の糸のみで形成された布、樹脂シート等も適用することができる。
【0027】
バット繊維層2の基布層1と反対側の平面3は、湿紙(図示せず)が接触する側となっている。平面3の表面は、「紙とられ」を生じさせない所定の「算術平均粗さ」および「表面圧力分布の変動係数」となるように研磨されている。
【0028】
一方、図2の従来技術にかかる比較例を参照すると、比較例も基布層11にバット繊維層12をニードリングにより積層一体化してなる複層構造をなしている。しかしながら、バット繊維層12の基布層11と反対側の表面13は、ニードリングの際に生じた凹凸が残った状態となっている。このように表面13の凹凸が顕著であると、製紙機上でプレスロールによりフェルトと一緒にプレスされる湿紙の表面性も低下することとなる。また、フェルトの表面性はその搾水性に大きな影響を与え、フェルト表面の凹凸が大きいほどプレスロールによる加圧下の圧力状態が不均一になり、フェルトの搾水性能を低下させる。仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成した場合であっても、バット繊維層のバット繊維は複雑に絡み合っているために、バット繊維層の表面には局所的な硬さのバラツキや目付斑を有する部分が存在しており、このバラツキや斑は湿紙の表面性を低下させていた。
【0029】
本実施形態は図2に破線で示す研磨線14までバット繊維層12を研磨することで、図1に示す平面3を形成している。本実施形態では表面の研磨加工はニードリング工程以降に実施されるため、ニードリングによる影響を受けないで表面性を向上させることができる。さらに、フェルトを研磨加工することで、バット繊維が研磨されて繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷やバリを生じさせている。この繊維の扁平化や微細な傷やバリの形成は、繊維の表面積を増大させるため、所定の溶液を浸透し易くしている。
【0030】
図3を参照すると、フェルト10にはバット繊維層2が研磨されて形成された平面3に所定の溶液である接着剤、親水基を持つ薬品(例えば、デポジットコントロール剤)、熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂、樹脂(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)等が塗布、含浸もしくは散布され、表面処理層4が形成されている。所定の溶液は、研磨されて親水性を増した表面3からバット繊維層2へ浸透し、含浸層5も形成する。表面処理層4の表面6は、バット繊維層2の表面3の平滑性を維持した状態で形成される。
【0031】
一方、図2のように表層が研磨加工されていない状態で樹脂加工がされた場合には、図4(a)に示すように、表面処理層24の表面23は、バット繊維層12の表面13の凹凸を維持した状態で形成されるため、大きな凹凸が生じている。また、凹凸の影響は表面処理層24ばかりでなく、含浸層25の深さも不均一にする要因となっている。
【0032】
図4(b)は、図4(a)で樹脂加工をしたフェルトを研磨した状態を示している。図4(a)のようにバット繊維層12の表面の凹凸が大きいと、表面処理層24もこの表面の凹凸の影響を受けて、研磨後の表面33は一定の平滑性を有しているものの表面処理層24の厚みは不均一となり、場所によっては表面処理層24のないバット繊維層12が露出する。表面処理層24の厚みの不均一性やバット繊維層12の露出は、局所的な硬さのバラツキを生じさせるため、製紙用フェルトにおいて加圧時の圧力状態が不均一になって紙の表面性を低下させていた。
【0033】
次に図5を参照して表面研磨加工の一例について説明する。フェルト10は、バット繊維層12(図2参照)が外側になるループ状にされて、一定の張力が負荷されるように所定間隔で設置された一対の搬送ロール21,21間に架けられている。搬送ロール21,21は時計方向に回転し、フェルト10を時計方向に回転させる。搬送ロール21,21の間には研磨ロール22が配されており、研磨ロール22はフェルト10のバット繊維層12(図2参照)と一定の圧力で当接するようにバット繊維層12を図3の上方へ付勢している。
【0034】
研磨ロール22は外表面に研磨布が備えられており、研磨ロールの幅はフェルト10の幅に合わせて適宜選択される。なお、研磨加工は研磨ロールを使用する場合に限定されず、研磨紙、研磨ベルト、研磨板等を適用することもできる。
【0035】
研磨ロール22はバット繊維層12と当接した状態で時計方向に回転する。フェルト10も時計方向に回転していることから、研磨ロール22の研磨布とバット繊維層12(図2参照)とは対向するように当接してバット繊維層12が研磨される。図5の構成はバット繊維層2を付勢する圧力と研磨する時間を適宜設定することで、図2に示すように表面13は研磨線14まで研磨され、図1に示すように研磨された平面3が形成される。このような研磨工程は、研磨によって発生したバット繊維のバリを一定方向に寝たような状態にさせるため、製紙工程におけるフェルトの進行方向がバリを抑えられる方向に設定することで湿紙がフェルト表層のバリに引っ掛かり引きずられることを防止することができる。
【0036】
ここで、図6を参照して、小さな間隔で山、谷の起伏が続く表面状態である「表面粗さ」について簡単に説明する。「表面粗さ」は、JIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に「算術平均粗さRa」として定義されている。
【0037】
図6(a)は、表面粗さ測定器(図示せず)によって計測された計測対象となるバット繊維層12の表面13(図2参照)の断面曲線の模式図である。図6(a)は、図2に示す表面性状を断面曲線として再現している。
【0038】
図6(a)の横軸をxとし、縦軸をzとすると、この断面曲線はZ(x)となる。「算術平均粗さRa」は、このZ(x)を評価長さLで積分したものを評価長さLで徐することで得ることができ、図6(b)に示す断面曲線となる。以下に説明する実施例では、JIS B 0601:2001に準拠した「算術平均粗さRa」を示している。
【0039】
一方、表面圧力分布の変動係数は、JISZ8101−1 1.15の定義に基づき、測定された表面の圧力分布の標準偏差を算出したのち、この標準偏差を圧力の平均値で割ったものである。この変動係数は、圧力分布のばらつきを相対的に表している。
【0040】
表面圧力分布の変動係数は、前記研磨された表面の圧力測定フィルムによって計測された圧力データを解析することで、簡単に得ることが出来る。例えば、圧力測定フィルム(微圧用プレスケール(4LW)0.05MPa−0.2MPa:富士フイルム社製)によって圧力斑を計測し、計測結果を圧力画像解析システム(富士フイルム社製:FPD−9210)のエクスポート機能を用いて各部分における圧力データを取り出し、このデータをMicrosoft社製EXCELにて統計処理することで、圧力分布の変動係数を得ることが可能となる。
【0041】
なお、フェルト表面の圧力測定時の圧力は、0.1MPaで行うことが最適である。すなわち、フェルトの圧力均一性は、主に基布層に起因する圧力均一性と、表バット層に起因する圧力均一性(=表面圧力均一性)に分けることができるが、基布層に起因する圧力斑は0.1MPa程度の圧力下では発生しない(測定されない)ために、0.1MPaの圧力測定によりフェルト表面圧力均一性のみを評価することができる。
【0042】
<表面研磨の実施例>
次に本実施形態の表面研磨の実施例について説明する。実施例は経糸と緯糸とを織機で織ることで形成された基布層に、表層となるポリアミド合成繊維であるナイロンのバット繊維をニードリングしている。実施例1−1,1−2と参考例1−1〜1−4の繊維の材質、繊度を表1に示している。ここで実施例1−1,1−2の繊度は17dtex以上かつ24dtex以下となっている。参考例1−1,1−2は繊度24dtex以上のバット繊維層であり、参考例1−3,1−4は繊度17dtex以下のバット繊維層である。なお、実施例1−2および参考例1−1では、繊度の異なる2種類の繊維によってバット繊維層を形成する構成としている。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例および参考例は、図5に示す研磨加工がされており、図2に示すニードリングされた後の「粗さ」および不均一な圧力分布が残っている状態から、図1に示す表面が研磨された状態となっている。研磨加工前後の実施例および参考例について、フェルトの物性となる密度、研磨量、研磨前後の通気度、通気度を測定した結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2を参照すると、実施例および参考例とも研磨加工前後で通気度の大きな変化は見られない。このように本実施例および参考例における研磨加工は、加工に供された実施例および参考例のバット繊維自体の通気特性を変えるものではない。実施例1−1,1−2および参考例1−1〜1−4の密度は0.390g/cm3以上であり、また、両者とも研磨後のフェルト表面において毛羽立ち等は見られていない。
【0047】
表3に、実施例および参考例について、研磨加工前後の表面圧力分布変動係数の測定値と研磨加工前後の測定値の差(百分率)とを示す。表4に、実施例および参考例について、研磨加工前後の算術平均粗さRaの測定値と研磨加工前後の測定値の差(百分率)とを示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3を参照すると、「表面圧力分布の変動係数」は、実施例、参考例とも低下し、すなわち研磨加工前よりも均一な圧力分布が実現されている。実施例1−1,1−2および参考例1−2,1−3,1−4を参照すると、表面圧力分布の変動係数(JISZ8101−1)が0.25以下となるように研磨されている。このように、研磨加工はフェルト表面の不均一な圧力分布を減少させることができる。また、百分率として示した研磨加工前後の測定値の差については、実施例は参考例と比べて大きくなっており、不均一な圧力分布を減少させる研磨加工の効果が高いことを示している。しかしながら、参考例であっても、参考例1−2、1−3、1−4は研磨加工により圧力分布の変動係数が15%以上低下しており、例えば参考例1−2は27dtexのバット繊度を使用しているが研磨加工により17dtexのバットを使用した実施例1−1の研磨前の圧力分布よりも優れた表面圧力分布とすることができ、実用上は有用である。これらのことからフェルトが使用される上では、研磨加工により表面圧力分布の変動係数を15%以上減少させることが好ましく、更には実施例1−1や1−2のように22%以上減少させることが特に好ましいということを示している。
【0051】
次に、表4を参照して算術平均粗さRaを見ると、実施例では研磨された表面の算術平均粗さRa10〜38μmの範囲に含まれ、参考例1−2〜1−4では10〜45μmの範囲に含まれている。研磨された表面の算術平均粗さRaは、フェルト搾水性向上によるマシン操業効率を向上させるとともに、製紙機で生産される紙の表面性の向上をも実現させるために、好ましくは10〜45μm以下、より好ましくは10〜38μm以下とすることが好適である。このように本発明によれば、参考例1−2〜1−4であってもフェルト搾水性向上によるマシン操業効率の向上と、製紙機で生産される紙の表面性の向上とを実現させることが出来る。
【0052】
また、研磨加工前後の測定値の差を見ると、実施例は参考例と比べると研磨加工前後での算術平均粗さの減少が25%以上もあり非常に大きいことが分かる。一方、参考例の1−3や1−4のように、繊度が小さい場合には、研磨作業性が悪く、特に参考例1−4では研磨によって粗さが減少する効果が得られなかった。
【0053】
実施例の研磨加工前後における圧力測定フィルムの計測結果をそれぞれ図7と図8に示す。圧力測定フィルムは、加圧された部分が発色するものであり、圧力が高ければ濃く、圧力が低ければ薄く発色し、加圧されない部分は発色しない。研磨加工前である図7の表面性状と研磨加工後である図8の表面性状とを比較すると、図7の研磨加工前では白色や色の薄い部分が多く見られるとともにニードリングの経筋も見られる。一方、図8の研磨加工後では一部色の薄い部分はあるものの、白色の部分はなく、全体がほぼ一様に発色した状況が見られ、ニードリングの経筋も見られない。
【0054】
本実施例によれば、フェルト表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトを過大な圧力でプレスすることなく、フェルト表層の表面性を向上させることができる。また、前記構成にかかるフェルトは、表層に備えるバット繊維を適宜選択することによって、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性を損なうことなく、フェルト表層の表面性を向上させることができる。さらに、フェルトを研磨することは、バット繊維が研磨されて繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷やバリを生じさせる。この繊維の扁平化や微細な傷やバリの形成は、繊維の表面積を増大させるため、所定の溶液を浸透し易くしている。
【0055】
<表面処理層形成の実施例>
次に図を参照して、研磨された表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで形成された表面処理層の実施例を説明する。図9,10,11は、それぞれ図4(a)、図4(b)、図3に対応する圧力測定フィルムの計測結果である。図9に示すように、(研磨なし、樹脂加工)は、樹脂の付着が均一でなく、加圧状態も均一となっていない。また、経筋も見られ、局所的な圧力の大きさを表す色の濃淡の差も大きくなっている。次に、図10に示すように、(研磨なし、樹脂加工、研磨)は、研磨加工によって概ね平滑となっているが、色の濃淡が大きい部分が存在し、また経筋も残っている。一方、図11では、加圧状態はほぼ均一となっており、全体として色の濃淡は少なく、経筋も見えない。
【0056】
図4(a)および図9から、(研磨なし、樹脂加工)は、表面が粗いために樹脂の含浸が不均一となり、粗い表面状態を維持するように硬化するために加圧が不均一となっている。図4(b)および図10から、(研磨なし、樹脂加工、研磨)は、研磨加工を実施しても、もともと樹脂が均一に含浸していないために加圧状態が不均一となっている。また、研磨加工の量を増やすと、樹脂が無い部分が露出するため、さらに加圧状態が不均一となるおそれがある。一方、図3および図11から、本実施例は、もともとの表面が平滑であり、樹脂の含浸が均一であることから、平滑な表面を維持することができる。
【0057】
本実施例によれば、バット繊維が絡合された表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトをプレスすることなく、表層を平滑にすることができる。そして、この平滑な表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで、厚みのバラツキが少ない表面処理層を形成することができる。さらに、表層を研磨することは、バット繊維が研磨されるため、繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷を生じさせる。この扁平化や微細な傷は、所定の溶液を浸透し易くさせるため、より均一な表面処理層の厚みを実現することができる。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、明細書および図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。例えば、バット繊維の研磨加工をする前に、表層の繊維にポリビニルアルコールのり、デンプンのり等の水溶性高分子接着剤を塗布し、研磨後に接着剤を除去することもできる。かかる手順によって、表層を固定化することで研磨加工を容易にすることができる。さらに、表層は既に研磨によって平滑となっているため、表面処理層(硬化層)の厚みを薄くすることができ、生産性向上やコスト削減となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明にかかる製紙用フェルトは、紙の表面性を向上させることができる効果を有し、複層構造をなす基布層の表面又は表裏両面にバット繊維層が一体化された製紙用フェルト、特に抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトなどとして有用である。また、本発明にかかる製紙用ベルトは、製紙工程における湿紙の搬送用として有用である。
【符号の説明】
【0060】
1,11 基布層
2,12 バット繊維層
3 平面
4 表面処理層
5 含浸層
6 表面
10 フェルト
13 表面
21 搬送ロール
22 研磨ロール
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布層にバット繊維層が一体化された製紙用フェルトおよびその製造方法と製紙用ベルトおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙工程では、湿紙を搬送しながら湿紙の水分を搾水することが主な目的の製紙用フェルトと、湿紙を搬送することが主な目的の製紙用ベルト(搬送フェルト,搬送ベルトとも呼ばれる)が使用されている。製紙用フェルトは、基布層とバット繊維層を少なくとも備える構成となっており、一般に薬品加工や樹脂加工が施された通気性のあるフェルトが使用されている。また、製紙用ベルトには、基布層に樹脂加工を施した構成と、基布層とバット繊維層に樹脂加工を施した構成の非通気性又は僅かに通気性の有するベルトが使用されている。
【0003】
製紙用フェルトにおいては、基布層に所要の厚さのバット繊維層が積層一体化されているが、その表面にはバット繊維自体による比較的小さな凹凸や、バット繊維の目付斑やニードリング方法により発生する比較的大きな凹凸など、大小様々な凹凸が存在している。バット繊維層の表面の凹凸が顕著であると、製紙機上でプレスロールによりフェルトと一緒にプレスされる湿紙の表面性も低下することとなる。また、製紙用フェルト製造業者の間では、フェルトの表面性はその搾水性に大きな影響を与える事が知られており、フェルト表面の凹凸が大きいほどプレスロールによる加圧下の圧力状態が不均一になり、フェルトの搾水性能は低下する。このため、表面性を向上させること、すなわちバット繊維層の製紙面側表面の凹凸を少なく平滑なものとすることが求められている。
【0004】
一般的に表面性の評価には、JIS B0601で定義されている算術平均粗さRaなどの表面粗さパラメータが用いられていて、製紙用具においてもこれらのパラメータが適用されることがある(例えば、特許文献1 参照)。特許文献1において開示されているのは製紙用搬送ベルトであり、この表面は樹脂層であるために加圧されても表面の状態は大きく変化はしない。しかし、製紙用フェルトにおいては、フェルト表面は短い繊維であるバット繊維が絡み合った集合体であり、加圧されることでバット繊維が動き、フェルト表面のバット繊維の集合状態は変化する。従って、非加圧下の測定である算術平均粗さRaなどの表面粗さパラメータでは非加圧下でのフェルトの表面性を評価するともに、圧力の均一性などの加圧下で測定されるパラメータを併用することが好ましい。
【0005】
バット繊維層の表面を平滑にするには、例えば、繊度の小さなバット繊維を用いる方法が適用されている。バット繊維の繊度が小さくなることで、バット繊維の直径に起因する比較的小さな凹凸を減少し、また同じ重量のバット繊維を用いた時のバット繊維本数も増えるため、局所的な繊維状態に依存する表面粗さを小さくさせることができる。また、バット繊維層の表面を平滑にする他の方法としては、仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成する技術が開示されている。製紙用フェルトをプレスすることで表面の粗さおよび圧力の均一性を小さくさせることができる(例えば特許文献2〜5 参照)。
【0006】
しかしながら、繊度の小さなバット繊維を用いる方法のみでは繊維の目付斑や絡み斑に依存する圧力均一性を小さくすることは容易ではなかった。製紙用フェルトは製紙プロセスの段階によっては、表面性以外にも脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等が要求され、バット繊維の繊度を小さくすることは、製紙プロセスの段階によっては汚れが詰まり易くなる等の新たな課題を生じさせるおそれがあった。
【0007】
一方、製紙用ベルトにおいては、通常湿紙が接触する側には樹脂層が露出した面が形成されている。この面は表層に位置するバット繊維へ樹脂を塗布、含浸して硬化させることで形成される。この樹脂露出面においても湿紙を搬送する上で表面の平滑性が要求されており、樹脂が塗布、含浸される前のバット繊維の表面が平滑でないと樹脂露出面も平滑にならず、製紙用フェルトと同様な課題を有していた。
【0008】
そこで、表層のバット繊維層に樹脂を含浸もしくは塗布して表層を硬化させてから表層を研磨することで、湿紙に接触する面を平滑にする技術が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3264461号
【特許文献2】特開2006−9188号公報
【特許文献3】特許第3360145号
【特許文献4】特表2007−532785号公報
【特許文献5】特許第2649044号
【特許文献6】特許第4064930号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、繊度の小さなバット繊維を用いる方法や、仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成する方法のみでは繊維の目付斑や絡み斑に依存する湿紙に接触する面を平滑にすることは容易ではなく、表層に形成された硬化層(表面処理層)もこの影響を受けていたので、製紙用フェルトにおいて加圧時の圧力状態が不均一になって紙の表面性を低下させるおそれがあった。一方、製紙用ベルトにおいても、加圧時の圧力状態が不均一となることは、湿紙の搬送性を悪化させるおそれがあった。
【0011】
さらに、製紙用フェルトや製紙用ベルトの表面が平滑でないと、塗布、含浸、散布される液状の樹脂や薬剤が不均一に表面に付着し易くなり、表面処理層の厚みも不均一となる。厚みの不均一は一つの湿紙において汚れ防止性やなじみ性を低下させるという問題を生ずるとともに、複数の湿紙間での厚みの不均一性は搾水性も低下させて安定した製紙品質を損なうおそれがあった。
【0012】
本発明は、このような発明者の知見に基づき案出されたものであり、その主な目的は、均一な厚みの表面処理層を備えた製紙用フェルトおよび製紙用ベルトとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するために、本発明は、基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトであって、前記表層の製紙面を研磨して形成された表面と、前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層とを有することを特徴としている。
【0014】
前記構成によれば、バット繊維が絡合された表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトをプレスすることなく、表層を平滑にすることができる。そして、この平滑な表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで、厚みのバラツキが少ない表面処理層を形成することができる。さらに、表層を研磨することは、バット繊維が研磨されるため、繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷を生じさせる。この扁平化や微細な傷は、所定の溶液を浸透し易くさせるため、より均一な表面処理層の厚みを実現することができる。
【0015】
前記構成は、前記研磨された表面の平均圧力0.1MPa下でのフェルト表面圧力分布の変動係数が0.25以下であり、かつ算術平均粗さRaが10〜38μmの範囲内とすることができる。
【0016】
研磨されたフェルト表面の評価には、加圧下のフェルト表面を評価することの出来る表面圧力分布の変動係数と、非加圧下のフェルト表面を評価することの出来る算術平均粗さを併用することが好適である。前記構成によれば、これら2つのパラメータを併用して前記範囲にフェルト表面を加工することで、製紙機上でフェルトが使用される状態でのフェルト表面性を正確に評価できるとともに、所望の表面状態を得ることができる。
【0017】
ここで、変動係数は、JISZ8101−1 1.15の定義に基づき、測定された表面の圧力分布の標準偏差を算出したのち、この標準偏差を圧力の平均値で割ったものである。この変動係数は、圧力分布のばらつきを相対的に表している。また、算術平均粗さはJIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に定義されている。
【0018】
なお、フェルト表面の圧力測定時の圧力は、0.1MPaで行うことが最適である。その理由としては、次のようなことが挙げられる。すなわち、フェルトの圧力均一性は、主に基布層に起因する圧力均一性と、表バット層に起因する圧力均一性(=表面圧力均一性)に分けることができる。基布層に起因する圧力斑を軽減させるためには、基布設計の変更が必要となるが、基布設計を変更すると圧力均一性以外の他の性能も変化してしまう為、圧力均一性以外のフェルトに要求される性能を維持したまま圧力均一性のみを向上させることは困難である。それに対し表面研磨を行うことで、他のフェルトに要求される性能を維持したまま表面圧力均一性を向上させることができる。そして、基布層に起因する圧力斑は0.1MPa程度の圧力下では発生しない(測定されない)ために、0.1MPaの圧力測定によりフェルト表面圧力均一性のみを評価することが出来る。
【0019】
前記構成の製紙用フェルトにおいて、前記所定の溶液は親水基を持つ薬品または熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂とすることができる。この構成によれば、研磨されて平滑になった表層に、例えば親水基を持つ薬品である公知の外添型デポジットコントロール剤を塗布、散布等することで、表層の親水性を改善し、製紙工程で生ずる炭酸カルシウム等のデポジットの付着を抑制することができる。かかる構成は、製紙用フェルトのなじみ性を向上させることができる。
【0020】
前記構成の製紙用フェルトまたは製紙用ベルトにおいて、前記所定の溶液は熱可塑性樹脂とすることができる。この構成によれば、加熱処理により軟化溶融する熱可塑性樹脂を塗布、含浸等することで、製紙プロセスに応じて要求される表面性、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等を適宜コントロールすることができる。また、必要に応じて表層を加熱して、表面処理層の樹脂を除去することもできる。なお、適用できる樹脂は特に制限されないが、ポリウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂等を適用できる。
【0021】
前記構成の製紙用フェルトまたは製紙用ベルトにおいて、前記所定の溶液は熱硬化性樹脂とすることができる。この構成によれば、一旦硬化した後は特性が変わらない熱硬化性樹脂を塗布、含浸等することで、製紙プロセスに応じて要求される表面性、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性等を適宜コントロールすることができる。なお、適用できる樹脂は特に制限されないが、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を適用できる。
【0022】
本発明は、基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法であって、前記表層の表面を研磨して平面を形成する工程と、前記平面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して表面処理層を形成する工程とを含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、樹脂加工前や薬品加工前に、フェルト表層を研磨することで、樹脂や薬品の浸透性が向上するとともに、より均一な表面処理層を形成することができ、均一な厚みの表面処理層を備えた製紙用フェルトおよび製紙用ベルトとその製造方法を提供することができる。均一な厚みの表面処理層は、例えば、搾水性の低下を抑制し、安定した製紙品質を長期期間提供することができる。また、本発明によれば、従来技術のように樹脂加工後や薬品加工後に研磨を行なった場合に生じる樹脂や薬品の脱落を防止できるため、無駄もなくなり、コスト増を抑制できる。さらに研磨することで表面積が増加するため、樹脂や薬品の接着性が増し、使用中の脱落も防止できることから表面処理層の耐久性を向上させることができる。このように本発明は、生産性の向上に寄与するとともに、費用低減にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図であり、所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布される前の状態を示している。
【図2】従来技術にかかる比較例を示す模式的な断面図であり、樹脂が含浸される前の状態を示している。
【図3】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図であり、所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布された後の状態を示している。
【図4】従来技術にかかる比較例を示す模式的な断面図であり、樹脂が含浸された後の状態を示している。
【図5】本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの研磨工程の一例を示す模式的な側面図である。
【図6】表面粗さの説明図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる実施例の研磨加工前における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる実施例の研磨加工後における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図9】従来技術にかかる比較例であり、製紙用フェルトの表層に樹脂加工をした場合の圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図10】従来技術にかかる比較例であり、製紙用フェルトの表層に樹脂加工をした後に表面を研磨加工した場合の圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる実施例における圧力測定フィルムの計測結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明にかかる一実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では製紙用フェルトについての説明を行うが、同様な構成の製紙用ベルトに対しても本発明を適用することができる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態にかかる製紙用フェルトの一例を示す模式的な断面図である。このフェルト10は、基布層1に表層となるバット繊維層2をニードリングにより積層一体化してなる複層構造をなしている。基布層1は、織機でモノフィラメント糸や、複数本のフィラメントを撚り合わせた撚り糸などを織った布を適用できるが、これに限定されず、多層の布、幅方向もしくは丈方向の糸のみで形成された布、樹脂シート等も適用することができる。
【0027】
バット繊維層2の基布層1と反対側の平面3は、湿紙(図示せず)が接触する側となっている。平面3の表面は、「紙とられ」を生じさせない所定の「算術平均粗さ」および「表面圧力分布の変動係数」となるように研磨されている。
【0028】
一方、図2の従来技術にかかる比較例を参照すると、比較例も基布層11にバット繊維層12をニードリングにより積層一体化してなる複層構造をなしている。しかしながら、バット繊維層12の基布層11と反対側の表面13は、ニードリングの際に生じた凹凸が残った状態となっている。このように表面13の凹凸が顕著であると、製紙機上でプレスロールによりフェルトと一緒にプレスされる湿紙の表面性も低下することとなる。また、フェルトの表面性はその搾水性に大きな影響を与え、フェルト表面の凹凸が大きいほどプレスロールによる加圧下の圧力状態が不均一になり、フェルトの搾水性能を低下させる。仕上げ加工時に製紙用フェルトをプレスして平面を形成した場合であっても、バット繊維層のバット繊維は複雑に絡み合っているために、バット繊維層の表面には局所的な硬さのバラツキや目付斑を有する部分が存在しており、このバラツキや斑は湿紙の表面性を低下させていた。
【0029】
本実施形態は図2に破線で示す研磨線14までバット繊維層12を研磨することで、図1に示す平面3を形成している。本実施形態では表面の研磨加工はニードリング工程以降に実施されるため、ニードリングによる影響を受けないで表面性を向上させることができる。さらに、フェルトを研磨加工することで、バット繊維が研磨されて繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷やバリを生じさせている。この繊維の扁平化や微細な傷やバリの形成は、繊維の表面積を増大させるため、所定の溶液を浸透し易くしている。
【0030】
図3を参照すると、フェルト10にはバット繊維層2が研磨されて形成された平面3に所定の溶液である接着剤、親水基を持つ薬品(例えば、デポジットコントロール剤)、熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂、樹脂(例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)等が塗布、含浸もしくは散布され、表面処理層4が形成されている。所定の溶液は、研磨されて親水性を増した表面3からバット繊維層2へ浸透し、含浸層5も形成する。表面処理層4の表面6は、バット繊維層2の表面3の平滑性を維持した状態で形成される。
【0031】
一方、図2のように表層が研磨加工されていない状態で樹脂加工がされた場合には、図4(a)に示すように、表面処理層24の表面23は、バット繊維層12の表面13の凹凸を維持した状態で形成されるため、大きな凹凸が生じている。また、凹凸の影響は表面処理層24ばかりでなく、含浸層25の深さも不均一にする要因となっている。
【0032】
図4(b)は、図4(a)で樹脂加工をしたフェルトを研磨した状態を示している。図4(a)のようにバット繊維層12の表面の凹凸が大きいと、表面処理層24もこの表面の凹凸の影響を受けて、研磨後の表面33は一定の平滑性を有しているものの表面処理層24の厚みは不均一となり、場所によっては表面処理層24のないバット繊維層12が露出する。表面処理層24の厚みの不均一性やバット繊維層12の露出は、局所的な硬さのバラツキを生じさせるため、製紙用フェルトにおいて加圧時の圧力状態が不均一になって紙の表面性を低下させていた。
【0033】
次に図5を参照して表面研磨加工の一例について説明する。フェルト10は、バット繊維層12(図2参照)が外側になるループ状にされて、一定の張力が負荷されるように所定間隔で設置された一対の搬送ロール21,21間に架けられている。搬送ロール21,21は時計方向に回転し、フェルト10を時計方向に回転させる。搬送ロール21,21の間には研磨ロール22が配されており、研磨ロール22はフェルト10のバット繊維層12(図2参照)と一定の圧力で当接するようにバット繊維層12を図3の上方へ付勢している。
【0034】
研磨ロール22は外表面に研磨布が備えられており、研磨ロールの幅はフェルト10の幅に合わせて適宜選択される。なお、研磨加工は研磨ロールを使用する場合に限定されず、研磨紙、研磨ベルト、研磨板等を適用することもできる。
【0035】
研磨ロール22はバット繊維層12と当接した状態で時計方向に回転する。フェルト10も時計方向に回転していることから、研磨ロール22の研磨布とバット繊維層12(図2参照)とは対向するように当接してバット繊維層12が研磨される。図5の構成はバット繊維層2を付勢する圧力と研磨する時間を適宜設定することで、図2に示すように表面13は研磨線14まで研磨され、図1に示すように研磨された平面3が形成される。このような研磨工程は、研磨によって発生したバット繊維のバリを一定方向に寝たような状態にさせるため、製紙工程におけるフェルトの進行方向がバリを抑えられる方向に設定することで湿紙がフェルト表層のバリに引っ掛かり引きずられることを防止することができる。
【0036】
ここで、図6を参照して、小さな間隔で山、谷の起伏が続く表面状態である「表面粗さ」について簡単に説明する。「表面粗さ」は、JIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に「算術平均粗さRa」として定義されている。
【0037】
図6(a)は、表面粗さ測定器(図示せず)によって計測された計測対象となるバット繊維層12の表面13(図2参照)の断面曲線の模式図である。図6(a)は、図2に示す表面性状を断面曲線として再現している。
【0038】
図6(a)の横軸をxとし、縦軸をzとすると、この断面曲線はZ(x)となる。「算術平均粗さRa」は、このZ(x)を評価長さLで積分したものを評価長さLで徐することで得ることができ、図6(b)に示す断面曲線となる。以下に説明する実施例では、JIS B 0601:2001に準拠した「算術平均粗さRa」を示している。
【0039】
一方、表面圧力分布の変動係数は、JISZ8101−1 1.15の定義に基づき、測定された表面の圧力分布の標準偏差を算出したのち、この標準偏差を圧力の平均値で割ったものである。この変動係数は、圧力分布のばらつきを相対的に表している。
【0040】
表面圧力分布の変動係数は、前記研磨された表面の圧力測定フィルムによって計測された圧力データを解析することで、簡単に得ることが出来る。例えば、圧力測定フィルム(微圧用プレスケール(4LW)0.05MPa−0.2MPa:富士フイルム社製)によって圧力斑を計測し、計測結果を圧力画像解析システム(富士フイルム社製:FPD−9210)のエクスポート機能を用いて各部分における圧力データを取り出し、このデータをMicrosoft社製EXCELにて統計処理することで、圧力分布の変動係数を得ることが可能となる。
【0041】
なお、フェルト表面の圧力測定時の圧力は、0.1MPaで行うことが最適である。すなわち、フェルトの圧力均一性は、主に基布層に起因する圧力均一性と、表バット層に起因する圧力均一性(=表面圧力均一性)に分けることができるが、基布層に起因する圧力斑は0.1MPa程度の圧力下では発生しない(測定されない)ために、0.1MPaの圧力測定によりフェルト表面圧力均一性のみを評価することができる。
【0042】
<表面研磨の実施例>
次に本実施形態の表面研磨の実施例について説明する。実施例は経糸と緯糸とを織機で織ることで形成された基布層に、表層となるポリアミド合成繊維であるナイロンのバット繊維をニードリングしている。実施例1−1,1−2と参考例1−1〜1−4の繊維の材質、繊度を表1に示している。ここで実施例1−1,1−2の繊度は17dtex以上かつ24dtex以下となっている。参考例1−1,1−2は繊度24dtex以上のバット繊維層であり、参考例1−3,1−4は繊度17dtex以下のバット繊維層である。なお、実施例1−2および参考例1−1では、繊度の異なる2種類の繊維によってバット繊維層を形成する構成としている。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例および参考例は、図5に示す研磨加工がされており、図2に示すニードリングされた後の「粗さ」および不均一な圧力分布が残っている状態から、図1に示す表面が研磨された状態となっている。研磨加工前後の実施例および参考例について、フェルトの物性となる密度、研磨量、研磨前後の通気度、通気度を測定した結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2を参照すると、実施例および参考例とも研磨加工前後で通気度の大きな変化は見られない。このように本実施例および参考例における研磨加工は、加工に供された実施例および参考例のバット繊維自体の通気特性を変えるものではない。実施例1−1,1−2および参考例1−1〜1−4の密度は0.390g/cm3以上であり、また、両者とも研磨後のフェルト表面において毛羽立ち等は見られていない。
【0047】
表3に、実施例および参考例について、研磨加工前後の表面圧力分布変動係数の測定値と研磨加工前後の測定値の差(百分率)とを示す。表4に、実施例および参考例について、研磨加工前後の算術平均粗さRaの測定値と研磨加工前後の測定値の差(百分率)とを示す。
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
表3を参照すると、「表面圧力分布の変動係数」は、実施例、参考例とも低下し、すなわち研磨加工前よりも均一な圧力分布が実現されている。実施例1−1,1−2および参考例1−2,1−3,1−4を参照すると、表面圧力分布の変動係数(JISZ8101−1)が0.25以下となるように研磨されている。このように、研磨加工はフェルト表面の不均一な圧力分布を減少させることができる。また、百分率として示した研磨加工前後の測定値の差については、実施例は参考例と比べて大きくなっており、不均一な圧力分布を減少させる研磨加工の効果が高いことを示している。しかしながら、参考例であっても、参考例1−2、1−3、1−4は研磨加工により圧力分布の変動係数が15%以上低下しており、例えば参考例1−2は27dtexのバット繊度を使用しているが研磨加工により17dtexのバットを使用した実施例1−1の研磨前の圧力分布よりも優れた表面圧力分布とすることができ、実用上は有用である。これらのことからフェルトが使用される上では、研磨加工により表面圧力分布の変動係数を15%以上減少させることが好ましく、更には実施例1−1や1−2のように22%以上減少させることが特に好ましいということを示している。
【0051】
次に、表4を参照して算術平均粗さRaを見ると、実施例では研磨された表面の算術平均粗さRa10〜38μmの範囲に含まれ、参考例1−2〜1−4では10〜45μmの範囲に含まれている。研磨された表面の算術平均粗さRaは、フェルト搾水性向上によるマシン操業効率を向上させるとともに、製紙機で生産される紙の表面性の向上をも実現させるために、好ましくは10〜45μm以下、より好ましくは10〜38μm以下とすることが好適である。このように本発明によれば、参考例1−2〜1−4であってもフェルト搾水性向上によるマシン操業効率の向上と、製紙機で生産される紙の表面性の向上とを実現させることが出来る。
【0052】
また、研磨加工前後の測定値の差を見ると、実施例は参考例と比べると研磨加工前後での算術平均粗さの減少が25%以上もあり非常に大きいことが分かる。一方、参考例の1−3や1−4のように、繊度が小さい場合には、研磨作業性が悪く、特に参考例1−4では研磨によって粗さが減少する効果が得られなかった。
【0053】
実施例の研磨加工前後における圧力測定フィルムの計測結果をそれぞれ図7と図8に示す。圧力測定フィルムは、加圧された部分が発色するものであり、圧力が高ければ濃く、圧力が低ければ薄く発色し、加圧されない部分は発色しない。研磨加工前である図7の表面性状と研磨加工後である図8の表面性状とを比較すると、図7の研磨加工前では白色や色の薄い部分が多く見られるとともにニードリングの経筋も見られる。一方、図8の研磨加工後では一部色の薄い部分はあるものの、白色の部分はなく、全体がほぼ一様に発色した状況が見られ、ニードリングの経筋も見られない。
【0054】
本実施例によれば、フェルト表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトを過大な圧力でプレスすることなく、フェルト表層の表面性を向上させることができる。また、前記構成にかかるフェルトは、表層に備えるバット繊維を適宜選択することによって、脱水性、汚れ防止性、脱毛防止性を損なうことなく、フェルト表層の表面性を向上させることができる。さらに、フェルトを研磨することは、バット繊維が研磨されて繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷やバリを生じさせる。この繊維の扁平化や微細な傷やバリの形成は、繊維の表面積を増大させるため、所定の溶液を浸透し易くしている。
【0055】
<表面処理層形成の実施例>
次に図を参照して、研磨された表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで形成された表面処理層の実施例を説明する。図9,10,11は、それぞれ図4(a)、図4(b)、図3に対応する圧力測定フィルムの計測結果である。図9に示すように、(研磨なし、樹脂加工)は、樹脂の付着が均一でなく、加圧状態も均一となっていない。また、経筋も見られ、局所的な圧力の大きさを表す色の濃淡の差も大きくなっている。次に、図10に示すように、(研磨なし、樹脂加工、研磨)は、研磨加工によって概ね平滑となっているが、色の濃淡が大きい部分が存在し、また経筋も残っている。一方、図11では、加圧状態はほぼ均一となっており、全体として色の濃淡は少なく、経筋も見えない。
【0056】
図4(a)および図9から、(研磨なし、樹脂加工)は、表面が粗いために樹脂の含浸が不均一となり、粗い表面状態を維持するように硬化するために加圧が不均一となっている。図4(b)および図10から、(研磨なし、樹脂加工、研磨)は、研磨加工を実施しても、もともと樹脂が均一に含浸していないために加圧状態が不均一となっている。また、研磨加工の量を増やすと、樹脂が無い部分が露出するため、さらに加圧状態が不均一となるおそれがある。一方、図3および図11から、本実施例は、もともとの表面が平滑であり、樹脂の含浸が均一であることから、平滑な表面を維持することができる。
【0057】
本実施例によれば、バット繊維が絡合された表層を研磨することで、繊度の小さいフェルトを用いることやフェルトをプレスすることなく、表層を平滑にすることができる。そして、この平滑な表層に樹脂、薬品等の所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布することで、厚みのバラツキが少ない表面処理層を形成することができる。さらに、表層を研磨することは、バット繊維が研磨されるため、繊維を扁平化させ、繊維表面に微細な傷を生じさせる。この扁平化や微細な傷は、所定の溶液を浸透し易くさせるため、より均一な表面処理層の厚みを実現することができる。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、明細書および図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。例えば、バット繊維の研磨加工をする前に、表層の繊維にポリビニルアルコールのり、デンプンのり等の水溶性高分子接着剤を塗布し、研磨後に接着剤を除去することもできる。かかる手順によって、表層を固定化することで研磨加工を容易にすることができる。さらに、表層は既に研磨によって平滑となっているため、表面処理層(硬化層)の厚みを薄くすることができ、生産性向上やコスト削減となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明にかかる製紙用フェルトは、紙の表面性を向上させることができる効果を有し、複層構造をなす基布層の表面又は表裏両面にバット繊維層が一体化された製紙用フェルト、特に抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトなどとして有用である。また、本発明にかかる製紙用ベルトは、製紙工程における湿紙の搬送用として有用である。
【符号の説明】
【0060】
1,11 基布層
2,12 バット繊維層
3 平面
4 表面処理層
5 含浸層
6 表面
10 フェルト
13 表面
21 搬送ロール
22 研磨ロール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトであって、
前記表層の製紙面を研磨して形成された表面と、
前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層と
を有することを特徴とする製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項2】
前記研磨された表面の平均圧力0.1MPa下でのフェルト表面圧力分布の変動係数が0.25以下であり、かつ算術平均粗さRaが10〜38μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項3】
前記所定の溶液は親水基を持つ薬品または熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記所定の溶液は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項5】
前記所定の溶液は熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項6】
基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法であって、
前記表層の表面を研磨して平面を形成する工程と、
前記平面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して表面処理層を形成する工程と
が含まれることを特徴とする製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法。
【請求項1】
基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトであって、
前記表層の製紙面を研磨して形成された表面と、
前記研磨された表面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して形成された表面処理層と
を有することを特徴とする製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項2】
前記研磨された表面の平均圧力0.1MPa下でのフェルト表面圧力分布の変動係数が0.25以下であり、かつ算術平均粗さRaが10〜38μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項3】
前記所定の溶液は親水基を持つ薬品または熱硬化性樹脂に親水基を持つ薬品を混ぜた樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記所定の溶液は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項5】
前記所定の溶液は熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載の製紙用フェルトまたは製紙用ベルト。
【請求項6】
基布層と、該基布層にバット繊維がニードリングによって絡合一体化された表層とを少なくとも備える製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法であって、
前記表層の表面を研磨して平面を形成する工程と、
前記平面に所定の溶液を塗布、含浸もしくは散布して表面処理層を形成する工程と
が含まれることを特徴とする製紙用フェルトまたは製紙用ベルトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−162911(P2011−162911A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26585(P2010−26585)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
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