説明

製紙用フェルトの製造方法及び製紙用フェルト

【課題】溶着接合部の周辺と地部との開口状態の均一化、溶着接合時の作業性の向上、溶着接合部の周辺での熱収縮による皺の防止、及び溶着接合部の柔軟性の確保を図る。
【解決手段】織布11の互いに接合すべき各端部12・13を、緯糸22を除去して経糸21のみとし、超音波溶着装置において、緯糸の直径と概ね等しい幅を有する刃状のアンビル52とホーン51との間に、アンビルの長手方向と緯糸とが平行となる態様で、互いに重複するように重ね合わせた各端部の経糸のみの部分を挟み込んで、その経糸を相互に溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織布の端部を超音波溶着装置を用いて相互に接合して得られた基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトの製造方法及び製紙用フェルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
袋織りでエンドレスの基布を製作するには、大型の織機が必要となることから製造コストが嵩み、また長尺の基布を製作するのに限界がある。そこで、有端の織布からエンドレスの基布を製作し、また丈寸法や幅寸法の短い織布から所要の寸法の基布を製造する方法が採用されているが、このような製造方法では、織布の端部を相互に接合する作業が必要となる、このような織布の接合に、超音波溶着を用いた種々の技術が知られている(特許文献1〜4参照)。
【0003】
また、このような超音波溶着による織布の接合に関して、本件出願人は、互いに接合すべき各端部において緯糸を除去してできた経糸のみの部分を重ね合わせて、ここに架橋糸を緯糸と平行に配置して、この架橋糸と経糸とを溶着する技術を先に提案した(特許文献5参照)。これによると、溶着接合部が均一で整然とした仕上がり状態になる上に、高い接合強度を得ることができるという利点が得られる。
【特許文献1】特表2006−510812号公報
【特許文献2】特開2007−277740号公報
【特許文献3】特開2000−27089号公報
【特許文献4】特許第3611009号公報
【特許文献5】特開2008−50732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、前記従来の技術では、幅広な領域を溶着することで高い接合強度を確保することができるが、溶着された糸が開口を狭めるように潰れるため、接合部の開口状態が地部と大きく異なり、この開口状態の相違は通水性に影響を及ぼすため、紙にマーク(搾水斑)が発生する原因となる。
【0005】
また、幅広な領域を溶着する場合、加熱量が大きいため、超音波溶着装置のホーンとアンビルに接触する溶着接合部のみならず、そこに隣接する地部の糸も高温に加熱されて、溶着接合部の周辺に熱収縮による皺が発生するという問題がある。
【0006】
また、架橋糸を用いた構成では、特に細い糸で緻密に織られた織布の場合、糸の太さに応じて架橋糸を細くする必要があり、また糸間隔に応じて糸の重ね代の幅も小さくなるため、作業が難しくなる難点がある。
【0007】
また、経糸と緯糸の双方を溶着する構成や、架橋糸を用いた構成では、溶着接合部の柔軟性が低下し、溶着接合部が地部に比べて硬くなる不都合があり、この溶着接合部の柔軟性の低下は、製紙機内を走行する際の振動や異音の原因となる。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、溶着接合部の周辺と地部との開口状態の均一化、溶着接合時の作業性の向上、溶着接合部の周辺での熱収縮による皺の防止、及び溶着接合部の柔軟性の確保を図ることができるように構成された製紙用フェルトの製造方法及び製紙用フェルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、織布の端部を超音波溶着装置を用いて相互に接合して得られた基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトの製造方法において、前記織布の互いに接合すべき各端部において、接合に利用される第1方向の糸を残して第2方向の糸を所要の本数だけ除去し、前記超音波溶着装置において、第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有する刃状のアンビルとホーンとの間に、前記アンビルの長手方向と第2方向の糸とが平行となる態様で、互いに重複するように重ね合わされた各端部の第1方向の糸のみの部分を挟み込んで、その第1方向の糸を相互に溶着するものとした。
【0010】
これによると、超音波溶着装置のホーンと刃状のアンビルとの間に第1方向の糸が挟み込まれることで、第1方向の糸が潰されて扁平化し、隣り合う第1方向の糸の溶融部分が相互に融合して、第1方向の糸を相互に結合する橋絡部が形成される。このとき、刃状のアンビルが第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有するため、橋絡部も第2方向の糸の直径と概ね等しい幅となり、この橋絡部が刃状のアンビルに沿って第2方向の糸と平行に横方向に並ぶことで、溶着接合部は全体として、第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有する糸状をなし、第2方向の糸と同様の状態になる。
【0011】
このため、溶着接合部の周辺の開口の状態が地部と類似したものとなり、溶着接合部の周辺と地部とで通水性が大きく異なることを避けて、紙のマークを抑制することができる。また、前記の従来技術のように架橋糸を用いないため、細い糸で緻密に織られた織布の場合にも、良好な作業性を確保することができる。また、溶着接合部が幅狭であるため、加熱量が小さくて済み、隣接する地部の第2方向の糸が高温に加熱されないため、熱収縮による皺の発生を防止することができる。また、溶着部が幅狭な糸状をなすため、溶着接合部の柔軟性が損なわれることを避けることができる。
【0012】
前記製紙用フェルトの製造方法においては、請求項2に示すとおり、前記アンビルの幅が1.00mmから0.20mmまでの範囲内である構成とすることができる。
【0013】
アンビルの幅が1.00mmより大きいと、一般的に用いられる1.00mm以下の第2方向の糸と比較して溶着接合部の幅が大き過ぎるため、溶着接合部の周辺の開口の状態が地部と大きく異なるものとなり、望ましくない。逆にアンビルの幅が0.20mmより小さいと、アンビルが第1方向の糸を溶断するように作用し、さらに、アンビルの剛性が不足するため、ホーンから印加される超音波によりアンビルも振動を起こし、これによりエネルギー損失が大きくなり、また安定した再現性のある溶着ができなくなるため、望ましくない。
【0014】
前記製紙用フェルトの製造方法においては、請求項3に示すとおり、前記織布が、前記第1方向の糸の直径がその糸間隔の0.25倍以上となるように製織されたものである構成とすることができる。
【0015】
第1方向の糸の直径がその糸間隔の0.25倍より小さいと、第1方向の糸の直径に対してその糸間隔が大き過ぎるため、隣り合う第1方向の糸が繋がった橋絡部が形成されないか、あるいは橋絡部が形成されても十分な厚さとならないため、所要の接合強度を確保することができない。また溶着接合部が薄くなることで、プレスロールによる加圧時に溶着接合部の周辺の圧力が地部より低くなるため、紙にマークが発生する原因となる。なお、溶着接合部には、少なくともニードリング時に基布に付与される張力により破断することのない接合強度が要求される。
【0016】
また、本発明においては、請求項4に示すとおり、織布の端部を超音波溶着により相互に接合して得られた基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトにおいて、前記織布の互いに接合される各端部に、接合に利用される第1方向の糸のみの部分が形成されると共に、この各端部の第1方向の糸のみの部分が、互いに重複するように重ね合わされて、ここに、超音波溶着による第1方向の糸の溶融によりその第1方向の糸を相互に結合する溶着接合部が、第2方向の糸と平行に、且つ第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有する糸状に形成されているものとした。
【0017】
これによると、溶着接合部の周辺の開口の状態が地部と類似したものとなり、溶着接合部の周辺と地部とで通水性が大きく異なることを避けて、紙のマークを抑制することができる。また、前記の従来技術のように架橋糸を用いないため、細い糸で緻密に織られた織布の場合にも、良好な作業性を確保することができる。また、溶着接合部が幅狭であるため、加熱量が小さくて済み、隣接する地部の第2方向の糸が高温に加熱されないため、熱収縮による皺の発生を防止することができる。また、溶着部が幅狭な糸状をなすため、溶着接合部の柔軟性が損なわれることを避けることができる。
【0018】
なお、本発明は、織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合する場合の他、織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合する場合にも適用することができる。織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合する場合には、第1方向の糸が経糸となり、第2方向の糸が緯糸となる。一方、織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合する場合には、第1方向の糸が緯糸となり、第2方向の糸が経糸となる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、溶着接合部の周辺の開口の状態が地部と類似したものとなり、溶着接合部の周辺と地部とで通水性が大きく異なることを避けて、紙のマークを抑制することができる。また、前記の従来技術のように架橋糸を用いないため、細い糸で緻密に織られた織布の場合にも、良好な作業性を確保することができる。また、溶着接合部が幅狭であるため、加熱量が小さくて済み、隣接する地部の第2方向の糸が高温に加熱されないため、熱収縮による皺の発生を防止することができる。また、溶着部が幅狭な糸状をなすため、溶着接合部の柔軟性が損なわれることを避けることができ、製紙機内を走行する際の振動や異音を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。図2は、図1に示した基布を示す模式的な斜視図である。
【0022】
このフェルト1は、図1に示すように、基布層2にバット繊維層3をニードリングにより積層一体化してなるものであり、基布層2は、第1〜第3の3枚の基布4〜6を重ね合わせたラミネート構造をなしている。
【0023】
第1の基布4は、図2に示すように、有端の織布11を複数枚(ここでは3枚)丈方向に接合して無端状に形成される。また、図1に示した第2の基布5及び第3の基布6も、この第1の基布4と同様に、有端の織布を丈方向に複数枚接合して無端状をなしている。なお、走行速度の高いパートに使用する場合のように、フェルト1に大きな引張力が作用する場合には、有端の織布を接合してできた基布と、袋織りにより無端状に製織された基布とを組み合わせるようにしても良い。
【0024】
図3は、図2に示した織布の溶着接合部を示す平面図である。図4は、図3に示した織布の溶着接合作業の手順を示す平面図である。
【0025】
織布11は、図3に示すように、経糸(第1方向の糸)21に緯糸(第2方向の糸)22を絡合させた1重織りの構造をなしており、各端部12・13の経糸21が相互に溶着接合されて、糸状の溶着接合部23が緯糸22と平行に形成されている。
【0026】
この織布11の溶着接合においては、まず、図4に示すように、織布11の互いに接合すべき各端部12・13を、緯糸22を除去して経糸21のみとし、この各端部12・13の経糸21のみの部分を所要の重ね代で互いに重複するように重ね合わせて、各端部12・13の経糸21が交互に並んだ状態の重複部41を形成し、この重複部41の経糸21を超音波溶着により相互に接合する。
【0027】
なお、経糸21は、溶着接合が可能なポリアミドなどの熱可塑性の合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸である。緯糸22も、経糸21と同様に、ポリアミドなどの合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸とすれば良いが、この他に、撚糸なども可能である。
【0028】
図5は、図4に示した織布の溶着接合に用いられる超音波溶着装置を示す模式的な斜視図であり、織布の一部を破断して示している。この超音波溶着装置は、ホーン51及びアンビル52を有し、ホーン51は図示しない架台に昇降可能に支持され、アンビル52は架台に固定されており、ホーン51には図示しない超音波振動子が接続されている。
【0029】
ここでは、アンビル52の長手方向と地部の緯糸22とが平行となり、且つ織布11の各端部12・13の経糸21のみの部分を重ね合わた重複部41の中心がアンビル52上に位置するように織布11を配置し、ホーン51を降下させて、重複部41をホーン51とアンビル52との間に挟み込み、加圧しながらホーン51から超音波を印加することで、重複部41の経糸21が溶着され、糸状の溶着接合部23が緯糸22と平行に形成される。
【0030】
アンビル52は、織布11の緯糸22の直径と概ね等しい幅を有する刃状をなしており、例えば、0.05mm刻みで幅が異なるアンビル52が用意された場合に、緯糸22が直径0.25mmのモノフィラメント糸である場合には、アンビル52には0.25mmあるいは0.30mmのものが用いられる。
【0031】
なお、ホーン51は特に限定されるものではなく一般的な幅(例えば10mm)のものを用いれば良い。
【0032】
図6は、図3に示した溶着接合部を詳しく示す図であり、(A)に経糸21に平行な平面で切断した模式的な断面図を、(B)に経糸21に直交する平面で切断した模式的な断面図を、(C)にアンビル52側から見た平面図をそれぞれ示している。
【0033】
超音波溶着装置のホーン51と刃状のアンビル52との間に経糸21が挟み込まれることで、経糸21が潰されて扁平化し、隣り合う経糸21の溶融部分が相互に融合して、経糸21を相互に結合する橋絡部61が形成される。このとき、刃状のアンビル52の幅Wが緯糸22の直径d2と概ね等しいため、橋絡部61の幅aも緯糸22の直径d2と概ね等しくなり、この橋絡部61が刃状のアンビル52に沿って緯糸22と平行に横方向に並ぶことで、溶着接合部23は全体として、緯糸22の直径と概ね等しい幅を有する糸状をなし、緯糸22と同様の状態になる。
【0034】
ここで、アンビル52の幅は1.00mmから0.20mmまでの範囲内とすると良い。アンビル52の幅が1.0mmより大きいと、一般的に用いられる1.00mm以下の緯糸22と比較して溶着接合部23の幅が大き過ぎるため、溶着接合部23の周辺の開口の状態が地部と大きく異なるものとなり、望ましくない。逆にアンビル52の幅が0.20mmより小さいと、アンビル52が経糸21を溶断するように作用し、さらに、アンビル52の剛性が不足するため、ホーン51から印加される超音波によりアンビル52も振動を起こし、これによりエネルギー損失が大きくなり、また安定した再現性のある溶着ができなくなるため、望ましくない。
【0035】
また、適切な溶着接合部23を得るには、経糸21の間隔D1に対する経糸21の直径d1の比(d1/D1)が0.25以上となるようにすると良い。特に望ましくは、d1/D1が0.6以上となるようにすると良い。
【0036】
d1/D1が0.25より小さいと、経糸21の直径d1に対して経糸21の間隔D1が大き過ぎるため、隣り合う経糸21が繋がった橋絡部61が形成されないか、あるいは橋絡部61が形成されても十分な厚さとならないため、所要の接合強度を確保することができない。また溶着接合部23が薄くなるため、プレスロールによる加圧時に溶着接合部23の周辺の圧力が地部より低くなるため、紙にマークが発生する原因となる。なお、溶着接合部23には、少なくともニードリング時に基布に付与される張力により破断することのない接合強度が要求される。
【0037】
なお、アンビル52には、緯糸22の直径d2と概ね等しい幅を有するものが用いられるが、経糸21の間隔D1や直径d1に応じて橋絡部61の厚さが変化するため、所要の強度を得るため橋絡部61の幅aを広めにする必要がある場合には、アンビル52の幅Wを緯糸22の直径d2より僅かに大きくすると良く、このようにアンビル52の幅Wは、緯糸22の直径d2を基準とするものの、多少の増減はあり、例えば、緯糸22の直径d2に対するアンビル52の幅Wの割合を120%から80%の範囲内とすると良い。
【0038】
また、最端の緯糸22と溶着接合部23との間隔bが、地の緯糸22の間隔D2と概ね等しくなるように溶着接合部23を形成すると良く、これにより緯糸22とこれに類似する糸状の溶着接合部23とが等間隔に並んだ状態となるが、経糸21の先端部が開口62を狭めるように突出するため、開口62の大きさを均一化するため、最端の緯糸22と溶着接合部23との間隔bを、緯糸22の間隔D2より若干長めに設定するようにしても良い。
【0039】
図7は、本発明における超音波溶着装置の別の例を示す模式的な斜視図であり、織布の一部を破断して示している。図5に示した例は、先端が直線状をなす平板状のアンビル52を用いて、ホーン51を昇降しながらアンビル52の長さ単位で溶着を段階的に進めるショット式のものであったが、この図7に示す例は、ローラー型のアンビル71が用いられており、ホーン51とアンビル71との間に経糸21を挟み込んだ状態で織布11を移動させながら溶着を連続的に進めるようになっている。
【0040】
アンビル71は、円環状をなしており、図5の例と同様に、織布11の緯糸22の直径と概ね等しい幅を有するものが用いられる。
【0041】
図8は、本発明における基布の別の例を示す模式的な側面図である。前記のように、溶着接合部23には、少なくともニードリング時に基布に付与される張力により破断することのない接合強度が要求され、前記の要領で形成された溶着接合部23は、このニードリング時に要求される接合強度を満足することができるが、抄紙機内を走行する際に作用する引張力に対して要求される接合強度を溶着接合部23が単独で満足することができない場合があり、このような場合には、図8に示すように、溶着接合部23を基布の地部に重ねたり、溶着接合部のない別の基布に重ねたりすることで、基布が溶着接合部23で破断してフェルトが胴切れを起こすことを防止することができる。
【0042】
図8(A)に示す基布層81では、図1に示した例と同様に、3枚の基布82〜84が重ね合わされているが、特にここでは、3枚の基布82〜84相互で溶着接合部23が丈方向にずらして配置されている。この構成では、溶着接合部23が別の基布82〜84の地部に重なるため、溶着接合部23に大きな引張力が作用することを避けることができる。
【0043】
図8(B)に示す基布層85は、シームフェルトの場合であり、ここでは、有端の織布11を溶着により無端状に接合して、その無端の織布を潰すように折り畳み、2つの折曲部に経糸の折り返しによる端部接合用のループRを形成し、このループRを噛み合わせて芯線Cを通すことで、無端状に接合される。この構成では、溶着接合部23が基布86の地部に重なるため、溶着接合部23に大きな引張力が作用することを避けることができる。
【0044】
図8(C)に示す基布層87も、シームフェルトの場合であり、ここでは、経糸の折り返しにより端部接合用のループRが形成された2重織りの基布88に、有端の織布11を溶着により無端状に接合してできた基布89が重ね合わされている。この構成では、溶着接合部23が別の基布88に重なるため、溶着接合部23に大きな引張力が作用することを避けることができる。
【0045】
この他、有端の織布11を溶着により無端状に接合してできた基布に、袋織りにより無端状に製織された基布を重ね合わせた構成でも、前記の例と同様に、溶着接合部23に大きな引張力が作用することを避けることができる。
【0046】
図9は、本発明における織布の溶着接合部の別の例を示す平面図であり、(A)には接合前の状態を示し、(B)には接合後の状態を示している。ここでは、基布となる織布11の端部がそれぞれ、相互補完的な凹凸形状に形成されており、織布11の幅方向に延在する先端部91・92が溶着により互いに接合され、また織布11の丈方向に延在する側縁部93・94も溶着により互いに接合される。
【0047】
先端部91・92同士の接合では、図4に示した例と同様の手順で行えば良く、織布11の緯糸と同様の状態の溶着接合部95が形成される。
【0048】
一方、側縁部93・94同士の接合では、図4に示した例での経糸と緯糸とを逆にして、各側縁部93・94を、経糸(第2方向の糸)を除去して緯糸(第1方向の糸)のみとし、この各側縁部93・94の緯糸のみの部分を互いに重複するように重ね合わせて、この重複部の緯糸を超音波溶着により相互に接合することで、糸状の溶着接合部96が経糸と平行に形成され、このとき、織布11の経糸の直径と概ね等しい幅を有する刃状のアンビルを用いることで、溶着接合部96を経糸と同様の状態とすることができる。
【0049】
なお、前記の例では、糸状の溶着接合部を1条設けるものとしたが、所要の間隔をおいて糸状の溶着接合部を複数条設けることも可能である。この場合、刃状のアンビルが複数枚並べて設けられた構成とすると、複数条の溶着接合部を一度に形成することができるため、作業効率が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかる製紙用フェルトの製造方法及び製紙用フェルトは、溶着接合部の周辺と地部との開口状態の均一化、溶着接合時の作業性の向上、溶着接合部の周辺での熱収縮による皺の防止、及び溶着接合部の柔軟性の確保を図ることができる効果を有し、基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルト、例えば抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトや、ドライパート(乾燥部)で用いられるドライヤーフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した基布を示す模式的な斜視図である。
【図3】図2に示した織布の溶着接合部を示す平面図である。
【図4】図3に示した織布の溶着接合作業の手順を示す平面図である。
【図5】図4に示した織布の溶着接合に用いられる超音波溶着装置を示す模式的な斜視図である。
【図6】図3に示した溶着接合部を詳しく示す断面図及び平面図である。
【図7】本発明における超音波溶着装置の別の例を示す模式的な斜視図である。
【図8】本発明における基布の別の例を示す模式的な側面図である。
【図9】本発明における織布の溶着接合部の別の例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 フェルト
2・81・85・87 基布層
3 バット繊維層
4〜6・82・86・89 基布
11 織布
12・13 端部
21 経糸(第1方向の糸)
22 緯糸(第2方向の糸)
23・95・96 溶着接合部
41 重複部
51 ホーン
52・71 アンビル
61 橋絡部
62 開口
91・92 先端部
93・94 側縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布の端部を超音波溶着装置を用いて相互に接合して得られた基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトの製造方法であって、
前記織布の互いに接合すべき各端部において、接合に利用される第1方向の糸を残して第2方向の糸を所要の本数だけ除去し、
前記超音波溶着装置において、第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有する刃状のアンビルとホーンとの間に、前記アンビルの長手方向と第2方向の糸とが平行となる態様で、互いに重複するように重ね合わされた各端部の第1方向の糸のみの部分を挟み込んで、その第1方向の糸を相互に溶着することを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項2】
前記アンビルの幅が1.00mmから0.20mmまでの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルトの製造方法。
【請求項3】
前記織布が、前記第1方向の糸の直径がその糸間隔の0.25倍以上となるように製織されたものであることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の製紙用フェルトの製造方法。
【請求項4】
織布の端部を超音波溶着により相互に接合して得られた基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトであって、
前記織布の互いに接合される各端部に、接合に利用される第1方向の糸のみの部分が形成されると共に、この各端部の第1方向の糸のみの部分が、互いに重複するように重ね合わされて、ここに、超音波溶着による第1方向の糸の溶融によりその第1方向の糸を相互に結合する溶着接合部が、第2方向の糸と平行に、且つ第2方向の糸の直径と概ね等しい幅を有する糸状に形成されていることを特徴とする製紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−100961(P2010−100961A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272925(P2008−272925)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】