説明

製紙用フェルト及びその製造方法

【課題】織布の先端部を相互に接合するにあたり、溶着が均一で仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、溶着部に適度な厚みを確保することができるようにする。
【解決手段】織布3の幅方向に延在する先端部11・12を相互に接合するために、その一対の先端部の各々において緯糸6を所要の本数除去してできた経糸5のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに経糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸21が緯糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる経糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織布の先端部や側縁部を相互に接合し、また織布の側縁部や耳部の解れを防止するようにした製紙用フェルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有端の織布からエンドレスの基布を製作したり、複数枚の織物から長尺な基布を製作したりする場合には、織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合する作業が必要となり、このような織物の先端部の接合のために、先端部の経糸及び緯糸を超音波溶着により相互に溶着する技術が知られている(特許文献1参照)。また、織布の側縁部を相互に接合するため、側縁部の経糸及び緯糸を超音波溶着により相互に溶着する技術が知られている(特許文献2参照)。
【0003】
また、織布の耳部に解れが生じて経糸がフェルトから突き出た状態になると、その経糸が抄紙機のロールの端部に絡み付いたり、鞭のように湿紙をたたいて紙切れを発生させたりする問題が生じ、特に経糸がモノフィラメント糸の場合には不織繊維層の形成繊維との絡み付きが弱く、不織繊維層からの引き抜き抵抗が小さいため、容易に解れが発生する。そこで、このような織布の耳部の解れを防止するため、熱可塑性の樹脂材料を加熱溶融させて耳部の織物組織内に充填する技術(特許文献3・4参照)や、未硬化の樹脂材料を耳部の織物組織内に含浸させる技術(特許文献5〜7参照)が知られている。
【特許文献1】特表2006−510812号公報
【特許文献2】特開2000−27089号公報
【特許文献3】特開昭58−156094号公報
【特許文献4】特開平8−226042号公報
【特許文献5】実公平1−7760号公報
【特許文献6】実開平3−103299号公報
【特許文献7】特許第3538253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記の織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合する従来技術では、経糸と共に緯糸も同時に溶着されるため、溶着が不均一で仕上がり状態が乱雑になる不具合が発生し、このような溶着不良は製品のマーク発生や接合強度の低下を招く原因となる。他方、緯糸を除去して経糸のみを溶着すれば、溶着不良が生じ難くなる反面、十分な接合強度を得ることができない問題が生じる。また、溶着不良を改善するため、溶着時に加える圧力を大きくすると、糸が潰れて接合部が地部に比べて極端に薄くなり、製品のマーク発生や抄紙機内を走行中の騒音の原因となる不都合が生じる。
【0005】
また、前記の織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合する従来技術も、前記の先端部を相互に接合する場合と同様に、溶着が不均一で仕上がり状態が乱雑になり、十分な接合強度を得ることができず、また接合部が地部に比べて薄くなる不都合が生じる。
【0006】
また、前記の織布の耳部の解れを防止する従来技術では、基布の柔軟性を確保する都合から、織物組織内に充填・含浸される樹脂材料に耐摩耗性の高強度なものを採用することができないため、抄紙機内の部材との摩擦により容易に摩滅してしまう難点があり、特に経糸がモノフィラメント糸の場合には、充填樹脂と経糸との接着力が余り高くないため、充填樹脂が摩耗して経糸が露出すると、充填樹脂により経糸の抜け出しを十分に阻止することができず、経糸の解れが容易に生じる不都合がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、織布の先端部や側縁部を相互に接合するにあたり、溶着が均一で仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、溶着部に適度な厚みを確保することができるように構成された製紙用フェルト及びその製造方法を提供することにある。また本発明は、織布の側縁部や耳部の解れを確実に防止することができるように構成された製紙用フェルト及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトにおいて、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合するために、その一対の先端部の各々において緯糸を所要の本数除去してできた経糸のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに経糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が緯糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる経糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたものとした。
【0009】
これによると、経糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と経糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、接合部に適度な厚みを確保することができる。
【0010】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項2に示すとおり、前記架橋糸が、経糸より細い糸材からなり、複数本の前記架橋糸が、全体としてテープ状をなすように、隣り合うものと互いに当接した状態で経糸に沿って丈方向に並べて配列された構成とすることができる。これによると、溶着時に加圧された際の架橋糸の動きを小さく抑えて、溶着状態をより一層均一化することができる。さらに架橋糸に経糸より細い糸材を用いることで、架橋糸が経糸に食い込んで経糸の動きを拘束するアンカー効果が発現し、接合強度をより一層高めることができる。
【0011】
この場合、複数本の前記架橋糸によるテープ状の架橋糸群が、丈方向に所定間隔をおいて複数列設けられた構成とすると良い。これによると、架橋糸群の列数に応じて接合強度をより一層高めることができる。
【0012】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項3に示すとおり、前記一対の先端部の一方の側の緯糸と他方の側の緯糸との双方に絡み合うように補強糸が縫い込まれた構成とすることができる。これによると、経糸と架橋糸との溶着による得られる接合強度に加えて、補強糸が緯糸に絡み合うことで、高い接合強度を得ることができ、特にニードリング工程において織布に作用する張力による破断を防止することができる。またニードリング後は、補強糸に不織繊維層の形成繊維が絡み付くことで、補強糸の引き抜き抵抗が増大するため、高い接合強度を得ることができ、ニードリングにより低下する溶着部の接合強度を補うことができる。
【0013】
この場合、補強糸の縫い込み位置の近傍の経糸を所要の本数抜き取った上で補強糸を縫い込むようにすると良い。また補強糸は、織布の全幅に渡って幅方向に一定間隔をおいて複数箇所に配置すると良い。
【0014】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項4に示すとおり、前記架橋糸が、経糸に沿う方向に波形状に屈曲した構成とすることができる。これによると、溶着状態で架橋糸が動き易くなるため、ニードリング工程において針の打突に対する架橋糸の逃げが容易になり、架橋糸の損傷を低減することができる。
【0015】
なお、架橋糸には波形状に予め屈曲成形された糸材を用いれば良く、少なくとも厚さ方向の屈曲がない状態で経糸に架設すれば、超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、均一な溶着状態に仕上げることができる。
【0016】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項5に示すとおり、前記架橋糸が、撚糸からなる構成とすることができる。これによると、溶着時に加圧された際に架橋糸が変形して経糸の間にめり込むことで経糸から架橋糸が剥離し難くなり、強度を向上させることができる。またモノフィラメント糸に比較して糸材が細くなるため、糸が動き易くなり、ニードリング工程において針の打突に対する架橋糸の逃げが容易になり、架橋糸の損傷を低減する効果が期待される。
【0017】
また本発明においては、請求項6に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトにおいて、前記織布の端部が凹凸形状に形成されて、前記織布の幅方向に延在する先端部が相互に接合されると共に、前記織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合するために、その一対の側縁部の各々において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたものとした。
【0018】
これによると、経糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、接合部に適度な厚みを確保することができる。
【0019】
また本発明においては、請求項7に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトにおいて、前記織布の端部が凹凸形状に形成されて、前記織布の幅方向に延在する先端部が相互に接合されると共に、前記織布の丈方向に延在する側縁部の解れを防止するために、その側縁部において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたものとした。
【0020】
これによると、緯糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、架橋糸と緯糸とが高い強度で接合され、経糸の解れを確実に防止することができる。
【0021】
この場合、一対の側縁部を重ね合わせた状態でニードリングを行うと良く、これにより不織繊維層の形成繊維を介して側縁部同士が強固に一体化されるため、使用中に側縁部同士の合わせ目が開口することを避けることができる。
【0022】
また本発明においては、請求項8に示すとおり、基布を構成する織布の耳部の解れを防止するために、その耳部において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたものとした。
【0023】
これによると、緯糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、架橋糸と緯糸とが高い強度で接合され、経糸の解れを確実に防止することができる。
【0024】
特に架橋糸は、緯糸との溶着部分が凹むように変形してくびれており、この溶着部分のくびれにより不織繊維層の形成繊維との絡み付きが良くなるため、仮に緯糸から剥離した場合でも不織繊維層からの引き抜き抵抗が大きく、架橋糸が容易に抜け出すことはない。さらに、架橋糸は、緯糸から剥離した場合に溶着部分のくびれが脆弱部となって、抄紙機内を走行中に作用する外力で適度に切断されるため、長寸に抜け出すことがなく、ロールの端部に絡み付くなどの不具合を避けることができる。
【0025】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項9に示すとおり、前記架橋糸が、緯糸より細い糸材からなり、複数本の前記架橋糸が、全体としてテープ状をなすように、隣り合うものと互いに当接した状態で緯糸に沿って幅方向に並べて配列された構成とすることができる。これによると、溶着時に加圧された際の架橋糸の動きを小さく抑えて、溶着状態をより一層均一化することができる。
【0026】
また本発明においては、請求項10に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法において、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合するために、その一対の先端部の各々において緯糸を所要の本数除去し、これにより形成された経糸のみの部分を互いに重複するように重ね合わせ、ここに経糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を緯糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる経糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うものとした。
【0027】
これによると、経糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と経糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、接合部に適度な厚みを確保することができる。
【0028】
また本発明においては、請求項11に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法において、前記織布の端部を凹凸形状に形成し、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合すると共に、前記織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合するために、その一対の側縁部の各々において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分を互いに重複するように重ね合わせ、ここに緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うものとした。
【0029】
これによると、経糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、接合部に適度な厚みを確保することができる。
【0030】
また本発明においては、請求項12に示すとおり、有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法において、前記織布の端部を凹凸形状に形成し、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合すると共に、前記織布の丈方向に延在する側縁部の解れを防止するために、その側縁部において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うものとした。
【0031】
これによると、緯糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、架橋糸と緯糸とが高い強度で接合され、経糸の解れを確実に防止することができる。
【0032】
この場合、一対の側縁部を重ね合わせた状態でニードリングを行うと良く、これにより不織繊維層の形成繊維を介して側縁部同士が強固に一体化されるため、使用中に側縁部同士の合わせ目が開口することを避けることができる。
【0033】
また本発明においては、請求項13に示すとおり、製紙用フェルトの製造方法において、基布を構成する織布の耳部の解れを防止するために、その耳部において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うものとした。
【0034】
これによると、緯糸に架設された架橋糸が超音波溶着装置の超音波印加面に一様に当接するため、架橋糸と緯糸とが共に部分的に溶融した固着状態が均一に形成される。このため、架橋糸と緯糸とが高い強度で接合され、経糸の解れを確実に防止することができる。
【0035】
特に架橋糸は、緯糸との溶着部分が凹むように変形してくびれており、この溶着部分のくびれにより不織繊維層の形成繊維との絡み付きが良くなるため、仮に緯糸から剥離した場合でも不織繊維層からの引き抜き抵抗が大きく、架橋糸が容易に抜け出すことはない。さらに、架橋糸は、緯糸から剥離した場合に溶着部分のくびれが脆弱部となって、抄紙機内を走行中に作用する外力で適度に切断されるため、長寸に抜け出すことがなく、ロールの端部に絡み付くなどの不具合を避けることができる。
【発明の効果】
【0036】
このように本発明によれば、織布の先端部や側縁部を相互に接合するにあたり、溶着が均一で仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、溶着部に適度な厚みを確保することができ、また織布の側縁部や耳部の解れを確実に防止することができる効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0038】
図1は、本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。このフェルトは、基布1に不織繊維層2をニードリングにより積層一体化してなるものであり、基布1は、1枚の有端の織布3の端部3a・3bを相互に接合することで無端状をなしている。
【0039】
経糸5は、ポリアミドなどの熱可塑性の合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸であり、これと同様に緯糸6も、ポリアミドなどの熱可塑性の合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸である。なお、ここでは、織布3が、経糸5に緯糸6を絡合させた1重織りの構造をなしているが、この他の織物組織も可能である。
【0040】
図2は、図1に示した基布1の一例を示す模式的な斜視図である。ここでは、織布3の幅方向に延在する先端部11・12が溶着により互いに接合され、この先端部11・12同士の接合部13が幅方向に一直線状に延びている。
【0041】
図3は、図1に示した基布1の別の例を示す模式的な斜視図である。ここでは、基布1となる織布3の端部3a・3bがそれぞれ、相互補完的な凹凸形状に形成されており、織布3の幅方向に延在する先端部11・12が溶着により互いに接合されている。また織布3の丈方向に延在する側縁部15・16も溶着により互いに接合されている。
【0042】
ここでは、先端部11・12同士の接合部13が幅方向に分断され且つ丈方向にずれた状態で形成されているため、仮にいずれかの接合部13で切断が発生した場合でも、その切断の影響が他の接合部13に及び難くなることから、フェルトが幅方向の切れ目で破断する、いわゆる胴切れを抑制することができる。また側縁部15・16同士の接合部17が、破断の進行を抑える働きをするので、胴切れを抑制する効果を高めることができる。
【0043】
なお、図3の例における側縁部15・16は、特に接合しない構成も可能であり、この場合、製造途中での経糸の解れを防止するために、側縁部15・16に解れ止めの処理が施される。また、図2・図3の例における耳部14にも製造途中の解れや使用中の経糸の飛び出しを防止するための解れ止めの処理が施される。
【0044】
このようにして無端状に接合された織布3は、そのままエンドレスの基布として使用する他、扁平に折り畳むことで両端に形成された折曲部での経糸5の折り返しにより端部接合用のループを形成し、抄紙機に掛け入れた上で両端のループをかみ合わせて芯線を通すことで端部を接合して無端とする、いわゆるシーム付きフェルトの基布として使用することもできる。
【0045】
図4は、図2・図3に示した織布3における先端部11・12同士の接合部13の一例を示す平面図である。図5は、図4に示した先端部11・12同士の接合部13の作業手順を示す平面図である。ここでは、織布3の幅方向に延在する先端部11・12を相互に接合するために、その一対の先端部11・12の各々において緯糸6を端から所要の本数除去してできた経糸5のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに経糸5に架設された態様で架橋糸21が緯糸6と平行に配置されて、この架橋糸21と経糸5とが超音波溶着されている。
【0046】
架橋糸21は、モノフィラメント糸からなり、複数本の架橋糸21が、隣り合うものと互いに当接した状態で経糸5に沿って丈方向に並べて配列され、この複数本の架橋糸21によるテープ状の架橋糸群22が、丈方向に所定間隔をおいて複数列設けられている。ここでは、4本の架橋糸21で構成される架橋糸群22が3列設けられている。
【0047】
架橋糸21の材質は、溶着される経糸5と同一の熱可塑性の樹脂材料からなるものとすると良く、これにより架橋糸21及び経糸5の各溶融樹脂相互の相溶性が向上し、高い接合強度を得ることができる。例えば経糸5がポリアミド(PA6)であれば、架橋糸21もポリアミド(PA6)とすると良い。また架橋糸21を経糸5と異なる材質とすることも可能であるが、この場合、経糸5に比較して架橋糸21が硬過ぎると、架橋糸21が経糸5に過度に食い込んで経糸5を切断するため、望ましくない。
【0048】
架橋糸21の太さは、加熱による変形が経糸5に比較して架橋糸21で先に進行するように、経糸5より細くする、例えば経糸5の直径の1/2程度とすると良い。経糸5に対して架橋糸21が太過ぎると経糸5を変形させ易く、他方、細過ぎると後に詳述するアンカー効果が十分に得られず、いずれにしても接合強度が低下する。例えば経糸5がφ0.4mmであれば、架橋糸21はφ0.2mmとすると良い。
【0049】
架橋糸群22を構成する架橋糸21の本数は、架橋糸群22の幅が経糸5の直径の2倍程度になるようにすると良く、例えば経糸5がφ0.4mmであれば、φ0.2mmの架橋糸21を4本用いて架橋糸群22を構成するようにすると良い。
【0050】
図6は、図2・図3に示した織布3の溶着に用いられる溶着装置を示す模式的な側面図である。この溶着装置は、図示しない超音波振動子に接続されたホーン31とアンビル32との間に、織布3の先端部11・12の各経糸5と架橋糸21とを挟み込んで、経糸5及び架橋糸21を加圧しながら超音波振動を印加して、経糸5と架橋糸21とを溶着するものである。
【0051】
架橋糸21はボビン33から供給され、このボビン33から繰り出された架橋糸21が、ストッパ(ゴムクリップ)34を通って、張力調整用のゴムローラ35に巻き掛けられ、さらにホーン31及びアンビル32の両側に配置された位置決め用のゴムローラ36・37に巻き掛けられ、先端部がストッパ(ゴムクリップ)38で係止される。
【0052】
位置決め用のゴムローラ36・37は上下動可能に設けられ、ホーン31を降下させて経糸5及び架橋糸21を溶着するにあたり、ゴムローラ36・37を降下させて、アンビル32上の経糸5に架橋糸21を押し付けて位置決めするようになっており、これにより経糸5に対する架橋糸21の位置が適切に保持される。
【0053】
図7は、図4に示した経糸5と架橋糸21との溶着部を経糸5に直交する平面で切断した模式的な断面図であり、(A)に溶着前の状態を、(B)に溶着後の状態をそれぞれ示している。図8は、図4に示した経糸5と架橋糸21との溶着部を架橋糸21に直交する平面で切断した模式的な断面図であり、(A)に溶着前の状態を、(B)に溶着後の状態をそれぞれ示している。
【0054】
溶着時には、ホーン31の超音波印加面31aに架橋糸21が当接し、アンビル32の受け面32aに経糸5が当接し、超音波印加面31aから架橋糸21及び経糸5に印加される超音波振動により架橋糸21と経糸5との接触部分が発熱して溶融する。このとき、架橋糸21は真直であるため、平面状の超音波印加面31aに架橋糸21が均一に当接し、架橋糸21と経糸5との接触部分が均一に溶融する。また図8に示すように、複数本の架橋糸21が互いに当接しているため、溶着時の加圧に対して架橋糸21がずれ難くなり、架橋糸21を安定させることができる。
【0055】
溶着後では、図7(B)に示すように、経糸5が扁平化し、また溶融部W1にて隣り合う経糸5同士が側面で融合し、また溶融部W2にて経糸5と架橋糸21とが融合し、また溶融部W3にて経糸5同士の溶融部W1と架橋糸21とが融合し、架橋糸21と経糸5とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着される。また、図8(B)に示すように、架橋糸21が扁平化し、また架橋糸21が経糸5に食い込んだ状態で架橋糸21と経糸5とが溶着され、経糸5に作用する矢印で示す丈方向の力に対して架橋糸21が経糸5の動きを拘束するアンカー効果が発現する。
【0056】
図9は、図2・図3に示した織布3における先端部11・12同士の接合部13の別の例を示す平面図である。ここでは、前記の例と同様に、複数本の架橋糸41が、隣り合うものと当接した状態で経糸5に沿って丈方向に並べて配列され、この複数本の架橋糸41によるテープ状の架橋糸群42が、丈方向に所定間隔をおいて複数列設けられているが、前記の例とは異なり、架橋糸41が経糸5に沿う方向に波形状に屈曲した状態で設けられている。この架橋糸41には波形状に予め屈曲成形されたモノフィラメント糸が用いられる。
【0057】
この構成では、架橋糸41が波形状に屈曲しているため、経糸5と溶着された状態において架橋糸41が動き易くなり、ニードリング工程において針の打突に対する架橋糸41の逃げが容易になることから、架橋糸41の損傷を低減することができる。
【0058】
図10は、図2・図3に示した織布3における先端部11・12同士の接合部13の別の例を示す平面図である。ここでは、架橋糸51に撚糸が用いられており、この架橋糸51が丈方向に所定間隔をおいて複数本設けられている。
【0059】
この構成では、溶着時に加圧された際に、架橋糸51が変形して経糸5の間にめり込み易くなるため、経糸5から架橋糸51が剥離し難くなり、強度を向上させることができる。またモノフィラメント糸に比較して糸材が細くなるため、糸が動き易くなり、前記の例と同様に、ニードリング工程において針の打突に対する架橋糸51の逃げが容易になり、架橋糸51の損傷を低減する効果が期待される。
【0060】
撚糸からなる架橋糸51の太さは、例えば経糸5がφ0.4mmであれば、φ0.12mmの糸材を6本撚り合わせたものとすると良い。
【0061】
図11は、図2・図3に示した織布3における先端部11・12同士の接合部13の別の例を示す平面図である。ここでは、前記の例と同様に、架橋糸21が経糸5と溶着されているが、特にここでは、一方の先端部11側の緯糸6と他方の先端部12側の緯糸6との双方に絡み合うように補強糸61が縫い込まれている。
【0062】
この補強糸61は、経糸5と架橋糸21とを溶着するために緯糸6が除去された部分からさらに内側に所定の範囲に渡って経糸5を少なくとも1本切除して、その経糸5の代わりに緯糸6に絡み合うように縫い込まれている。切除する経糸5の本数は、補強糸61の太さに応じて適宜に設定すれば良い。
【0063】
この構成では、経糸5と架橋糸21との溶着による得られる接合強度に加えて、補強糸61が緯糸6に絡み合うことで、高い接合強度を得ることができ、特にニードリング工程において織布3に作用する張力による破断を防止することができる。またニードリング後は、補強糸61に不織繊維層2の形成繊維が絡み付くことで、補強糸61の引き抜き抵抗が増大するため、高い接合強度を得ることができ、ニードリングにより低下する溶着部の接合強度を補うことができる。
【0064】
特にここでは、補強糸61を緯糸6に引っかけて折り返すようにしており、これにより補強糸61の引き抜き抵抗を大幅に増大させて高い接合強度を得ることができる。なお、補強糸61を緯糸6に引っかけて折り返さない構成も可能であり、この場合、補強糸61が緯糸6と絡み合う領域を長く確保することで十分な接合強度を得ることができる。
【0065】
補強糸61は、経糸5と架橋糸21とを溶着した後に刺繍針などを用いて縫い込まれ、その後、補強糸61を縫い込んだ部分を熱セットする。このとき、超音波ウェルダーを使用し、弱い圧力、短い時間で熱セットを行う。これにより、補強糸61がずれるのを防止することができ、また途中で切断された経糸5が使用中にフェルトの表面から突き出ることを防止することができる。
【0066】
補強糸61は、モノフィラメント糸の他に、マルチフィラメント糸、バルキーヤーン、モノフィラメントの撚糸など、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を多数集合させた集合糸材からなるものも可能であり、このような集合糸材では、不織繊維層の形成繊維との絡み付きが向上し、接合強度を高めることができる。例えばφ0.2mmの糸材2本からなる撚糸や、φ0.12mmの糸材6本からなる撚糸を用いると良い。さらにモノフィラメント糸や撚糸などの集合糸材を数本束ねて縫い込むようにしても良い。
【0067】
また補強糸61は、織布3の全幅に渡って幅方向に一定間隔をおいて複数箇所に配置され、この配置間隔は、例えば1inch(2.54cm)程度とすると良い。補強糸61の縫い代長Lは、例えば5cmとすると良い。
【0068】
図12は、図2・図3に示した織布3における先端部11・12同士の接合部13の別の例を示す平面図である。図13・図14は、図12に示した先端部11・12同士の接合部13の作業手順を示す平面図である。ここでは、前記の例と同様に、架橋糸21が経糸5と溶着されているが、特にここでは、架橋糸群22が2列設けられ、そのいずれか一方のみで先端部11・12の各経糸5が相互に接合され、その他の部分では先端部11・12の各経糸5が互いに重複しないように経糸5が切除されている。
【0069】
特にここでは、先端部11・12の各経糸5が、2列の架橋糸群22の一方と他方とで交互に接合され、経糸5と架橋糸群22との溶着箇所が千鳥配置された状態となっている。
【0070】
先端部11・12を接合するにあたっては、図13に示したように、緯糸6を端から所要の本数抜き取った上で、残った最端の緯糸6に沿って経糸5を1本おきに切断し、さらに緯糸6を所要の本数抜き取り、これにより緯糸6から経糸5が長く突出した長尺部5aと、緯糸6から経糸5が短く突出した短尺部5bとが交互に設けられる。そして、図14に示したように、先端部11側の経糸5の短尺部5bの先端部分と、先端部12側の経糸5の長尺部5aの先端部分とを所要の範囲で重複するように当接させ、同時に先端部11側の経糸5の長尺部5aの先端部分と、先端部12側の経糸5の短尺部5bの先端部分とを所要の範囲で重複するように当接させ、この長尺部5aと短尺部5bとの重複部分に架橋糸21を配置して溶着する。
【0071】
この構成では、架橋糸21が配置される部分でのみ、先端部11・12の各経糸5が互いに重複し、この部分を除いて接合部13では全体的に経糸5の密度が地部と同一になり、これにより接合部13の開口率が地部と同等となるため、均一な通水性を実現することができる。前記の図4に示した構成では、先端部11・12の各経糸5が接合部13の全域で互いに重複し、接合部13の経糸5の密度が地部の2倍になっており、接合部13の通水性が地部より低くなる。
【0072】
また、前記の図4に示した構成では、架橋糸群22の各々で先端部11・12の各経糸5が接合されるのに対して、この図12に示した構成では、2列の架橋糸群22のいずれか一方のみで先端部11・12の各経糸5が接合されるため、先端部11・12の各経糸5同士の接合箇所が図4の構成に比較して少なくなることから、強度の面では図4の構成が優れている。
【0073】
なお、架橋糸群22を3列、あるいはそれより多くの列数設けることも可能であり、この場合、複数の架橋糸群22のいずれか1つのみで先端部11・12の各経糸5が相互に接合され、その他の部分では先端部11・12の各経糸5が互いに重複しないように経糸5が切除され、これにより接合部13での経糸5の密度を地部と同等とすることができる。
【0074】
図15は、図3に示した織布3における側縁部15・16同士の接合部17の一例を示す平面図である。図16は、図15に示した側縁部15・16同士の接合部17の作業手順を示す平面図である。ここでは、織布3の丈方向に延在する側縁部15・16を相互に接合するために、その側縁部15・16の各々において経糸5を所要の本数除去してできた緯糸6のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに緯糸6に架設された態様で架橋糸71が経糸5と平行に配置されて、この架橋糸71と緯糸6とが超音波溶着されており、図4に示した先端部11・12同士の接合の例での経糸5と緯糸6とを逆にした形態となっている。
【0075】
架橋糸71は、モノフィラメント糸からなり、複数本の架橋糸71が、隣り合うものと互いに当接した状態で緯糸6に沿って幅方向に並べて配列され、この複数本の架橋糸71によるテープ状の架橋糸群72が1列設けられている。
【0076】
架橋糸71の材質は、溶着される緯糸6と同一の熱可塑性の樹脂材料、例えばポリアミド(PA6)からなるものとすると良い。架橋糸71の太さは、緯糸6より細くすると良く、この架橋糸71と緯糸6との太さの関係や、架橋糸群72を構成する架橋糸71の本数など条件は、前記の架橋糸21の例で経糸5を緯糸6に置き換えた場合と同様である。
【0077】
図17は、図3に示した織布3における側縁部15・16同士の接合部17の別の例を示す平面図である。図18は、図17に示した側縁部15・16同士の接合部17の作業手順を示す平面図である。ここでは、前記の例と同様に、側縁部15・16の各緯糸6と架橋糸71とが溶着されて、架橋糸71を介して側縁部15・16が相互に接合されているが、さらにここでは、仮止め用の架橋糸81が側縁部15・16の各々に設けられている。
【0078】
この仮止め用の架橋糸81は、側縁部15・16の各々において経糸5を端から所要の本数除去してできた緯糸6のみの部分に溶着され、ここでは複数本の架橋糸81からなるテープ状の架橋糸群82が側縁部15・16の各々に1列ずつ配置されている。側縁部15・16同士を接合する接合用の架橋糸71は、側縁部15・16の各々において架橋糸81からはみ出した緯糸6の部分が互いに重複するように重ね合わされた領域に溶着される。
【0079】
この構成では、接合用の架橋糸71の溶着に先だって、仮止め用の架橋糸81が側縁部15・16に個別に溶着されるため、仕上がり状態が比較的整然として、均一な溶着が可能になる。緯糸6は、経糸5に比較してクリンプ(屈曲)が顕著であり、図15に示した例のように、側縁部15・16の各緯糸6を一度に溶着する構成では、溶着時に加圧した際にクリンプが原因で緯糸6が動き易く、緯糸6を適切に固定することができないため、仕上がり状態が雑然として溶着が不均一になる。これに対して、仮止め用の架橋糸81を側縁部15・16に予め溶着しておくと、接合用の架橋糸71の溶着の際に緯糸6が動き難くなるため、仕上がり状態が比較的整然として、均一な溶着が可能になる。
【0080】
なおここでは、架橋糸81による仮止めを側縁部15・16の双方に実施したが、この架橋糸81による仮止めを側縁部15・16の片方のみに実施する構成も可能である。
【0081】
図19は、図3に示した織布3における側縁部15・16の解れ止めの一例を示す平面図である。図20は、図19に示した側縁部15・16の解れ止めの作業手順を示す平面図である。ここでは、側縁部15・16同士が互いに接合されず、側縁部15・16の各々には架橋糸91による解れ止めが施された後、側縁部15・16を互いに重ね合わせた状態でニードリングが行われ、これにより不織繊維層2の形成繊維が絡み付くことで側縁部15・16同士が一体化される。
【0082】
解れ止め用の架橋糸91は、側縁部15・16の各々において経糸5を端から所要の本数除去してできた緯糸6のみの部分に溶着され、ここでは複数本の架橋糸91からなるテープ状の架橋糸群92が側縁部15・16の各々に1列ずつ配置されている。
【0083】
特にここでは、一方の側縁部15において架橋糸91からはみ出した緯糸6の部分が切除され、この一方の側縁部15において、架橋糸群92の配設部分とその内側部分に重ね代が設定され、また他方の側縁部16において、架橋糸群92からはみ出した緯糸6のみの部分に重ね代が設定され、この重ね代で側縁部15・16が重ね合わされ、このとき、側縁部16の架橋糸群92からはみ出した緯糸6の部分が、側縁部15側の架橋糸群92に当接した状態となる。
【0084】
この構成では、丈方向に並んだ緯糸6の末端部が架橋糸91を介して相互に固定されるため、経糸5の抜け出しが阻止され、また前記の例と同様に、側縁部15・16に個別に架橋糸91が溶着されるため、仕上がり状態が比較的整然として、均一な溶着が可能になる。
【0085】
また、側縁部15・16が重ね代で相互に重ね合わされ、具体的には側縁部15側の架橋糸91と側縁部16側の緯糸6とが相互に重ね合わされ、ニードリング後には側縁部15側の架橋糸91と側縁部16側の緯糸6とを連結するように不織繊維層2の形成繊維が絡み付くため、不織繊維層2の形成繊維を介して側縁部15・16同士が強固に一体化され、使用中に側縁部15・16同士の合わせ目が開口することを避けることができる。
【0086】
図21は、図3に示した織布3における側縁部15・16の解れ止めの別の例を示す平面図である。これは、前記の図17の例での接合用の架橋糸71を省略したものであり、前記の図19の例と比較すると、一方の側縁部15において解れ止め用の架橋糸91からはみ出した緯糸6の部分が切除されず、側縁部15・16の双方において架橋糸91からはみ出した緯糸6のみの部分に重ね代が設定され、この重ね代で側縁部15・16同士が重ね合わされている。
【0087】
この構成では、不織繊維層2の形成繊維が側縁部15側の緯糸6と側縁部16側の緯糸6とに同時に絡み付くことにより、側縁部15・16同士が一体化される。
【0088】
なお、架橋糸91の配設部分を含むように重ね代を設定することも可能であり、この場合、架橋糸71と緯糸6とを連結するように不織繊維層2の形成繊維が絡み付くことで、側縁部15・16同士が強固に一体化される。
【0089】
図22は、図2・図3に示した織布3における耳部14の解れ止めの一例を示す平面図である。ここでは、織布3の耳部14において、架橋糸101による解れ止めが行われている。架橋糸101は、耳部14において経糸5を所要の本数除去してできた緯糸6のみの部分に溶着され、ここでは複数本の架橋糸101からなるテープ状の架橋糸群102が1列配置されている。
【0090】
この構成では、架橋糸101が、緯糸6との溶着部分が凹むように変形してくびれており、この溶着部分のくびれにより不織繊維層の形成繊維との絡み付きが良くなるため、仮に緯糸6から剥離した場合でも不織繊維層からの引き抜き抵抗が大きく、架橋糸101が容易に抜け出すことはない。さらに、架橋糸101は、緯糸6から剥離した場合に溶着部分のくびれが脆弱部となって、抄紙機内を走行中に作用する外力で適度に切断されるため、長寸に抜け出すことがなく、ロールの端部に絡み付くなどの不具合を避けることができる。
【0091】
なお、この架橋糸101の溶着に加えて、耳部14の織物組織内に樹脂材料を含浸・塗布するようにしても良い。
【0092】
また、図15〜図22の例において架橋糸71・81・91・101と緯糸6との溶着は、図6に示した溶着装置で行えば良く、その溶着状態は、図7・図8に示した例での経糸5を緯糸6に置き換えれば良く、架橋糸71・81・91・101と緯糸6とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着され、接合用の架橋糸71では高い接合強度が得られ、また仮止め用の架橋糸81や解れ止め用の架橋糸91・101では、緯糸6の末端部を相互に固定して、仮止め及び解れ止めを確実に行うことができる。
【0093】
また以上の例では、複数本の架橋糸が隣り合うものと互いに当接した状態で横並びに配列されて全体としてテープ状の架橋糸群を構成するものとしたが、1本の架橋糸のみを配置する、また複数本の架橋糸を所定の間隔をおいて配置する形態も可能である。
【0094】
またここでは、図2・図3に示したように、1枚の有端の織布の端部を接合してエンドレスの基布を製作する例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数枚の織物を接合するなど、基布を製作するにあたり織布の端部の接合が必要になる、種々の構成の基布に広く適用することができる。
【実施例】
【0095】
前記の図4に示した構成の基布の試験片を製作し、さらにこの基布に不織繊維層をニードリングにより積層一体化したフェルトの試験片を製作し、この基布及びフェルトの強度試験を行った。
【0096】
ここで基布は、経糸及び経糸にφ0.4mmのポリアミド(PA6)からなるモノフィラメント糸を用い、糸密度20本/inch(50本/cm)で織り上げたものである。架橋糸には、φ0.2mmのポリアミド(PA6)からなるモノフィラメント糸を用い、これを4本集合させた架橋糸群を3列配置した。溶着では、3mm×100mmのフラットなアンビルを用い、圧力2.7MPa、時間1.0secで溶着を行った。ニードリングでは、17dtex、100g/mのバットを7層用い、針間隔2000本/m、総本数700本/cmの条件でニードリングを行った。
【0097】
これによると、溶着後の基布の強度が、地部で40kN/mであるのに対して、接合部で22kN/mとなり、また、ニードリング後のフェルトの強度が、地部で30kN/mであるのに対して、接合部で10kN/mとなり、十分に高い接合強度が得られることが確認された。
【0098】
またプレス時の圧力分布試験を行った。ここでは、4.9MPaの圧力条件で圧力測定フィルム(プレスケール)を用いてフェルト表面の圧力分布を測定した。これによると、基布の接合部で架橋糸による圧力斑が若干発生したが、許容範囲内であり、製品のマーク発生を小さく抑えることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明にかかる製紙用フェルト及びその製造方法は、織布の先端部や側縁部を相互に接合するにあたり、溶着が均一で仕上がり状態が整然としたものになり、十分な接合強度を得ると共に、溶着部に適度な厚みを確保することができ、また織布の側縁部や耳部の解れをを確実に防止することができる効果を有し、抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトや、ドライパート(乾燥部)で用いられるドライヤーフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明によるフェルトの一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した基布の一例を示す模式的な斜視図である。
【図3】図1に示した基布の別の例を示す模式的な斜視図である。
【図4】図2・図3に示した織布における先端部同士の接合部の一例を示す平面図である。
【図5】図4に示した先端部同士の接合部の作業手順を示す平面図である。
【図6】図2・図3に示した織布の溶着に用いられる溶着装置を示す模式的な側面図である。
【図7】図4に示した経糸と架橋糸との溶着部を経糸に直交する平面で切断した模式的な断面図である。
【図8】図4に示した経糸と架橋糸との溶着部を架橋糸に直交する平面で切断した模式的な断面図である。
【図9】図2・図3に示した織布における先端部同士の接合部の別の例を示す平面図である。
【図10】図2・図3に示した織布における先端部同士の接合部の別の例を示す平面図である。
【図11】図2・図3に示した織布における先端部同士の接合部の別の例を示す平面図である。
【図12】図2・図3に示した織布における先端部同士の接合部の別の例を示す平面図である。
【図13】図12に示した先端部同士の接合部の作業手順を示す平面図である。
【図14】図13に続く先端部同士の接合部の作業手順を示す平面図である。
【図15】図3に示した織布における側縁部同士の接合部の一例を示す平面図である。
【図16】図15に示した側縁部同士の接合部の作業手順を示す平面図である。
【図17】図3に示した織布における側縁部同士の接合部の別の例を示す平面図である。
【図18】図17に示した側縁部同士の接合部の作業手順を示す平面図である。
【図19】図3に示した織布における側縁部の解れ止めの一例を示す平面図である。
【図20】図19に示した側縁部の解れ止めの作業手順を示す平面図である。
【図21】図3に示した織布における側縁部の解れ止めの別の例を示す平面図である。
【図22】図2・図3に示した織布における耳部の解れ止めの一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0101】
1 基布
2 不織繊維層
3 織布
5 経糸
6 緯糸
11・12 先端部
13 接合部
14 耳部
15・16 側縁部
17 接合部
21・41・51・71・81・91・101 架橋糸
22・42・72・82・92・102 架橋糸群
61 補強糸
W1・W2・W3 溶融部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトであって、
前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合するために、その一対の先端部の各々において緯糸を所要の本数除去してできた経糸のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに経糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が緯糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる経糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記架橋糸が、経糸より細い糸材からなり、複数本の前記架橋糸が、全体としてテープ状をなすように、隣り合うものと互いに当接した状態で経糸に沿って丈方向に並べて配列されたことを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記一対の先端部の一方の側の緯糸と他方の側の緯糸との双方に絡み合うように補強糸が縫い込まれたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記架橋糸が、経糸に沿う方向に波形状に屈曲したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記架橋糸が、撚糸からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項6】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトであって、
前記織布の端部が凹凸形状に形成されて、前記織布の幅方向に延在する先端部が相互に接合されると共に、
前記織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合するために、その一対の側縁部の各々において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分が互いに重複するように重ね合わされ、ここに緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項7】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトであって、
前記織布の端部が凹凸形状に形成されて、前記織布の幅方向に延在する先端部が相互に接合されると共に、
前記織布の丈方向に延在する側縁部の解れを防止するために、その側縁部において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項8】
基布を構成する織布の耳部の解れを防止するために、その耳部において経糸を所要の本数除去してできた緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸が経糸と平行に配置されて、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着されたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項9】
前記架橋糸が、緯糸より細い糸材からなり、複数本の前記架橋糸が、全体としてテープ状をなすように、隣り合うものと互いに当接した状態で緯糸に沿って幅方向に並べて配列されたことを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項10】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法であって、
前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合するために、その一対の先端部の各々において緯糸を所要の本数除去し、これにより形成された経糸のみの部分を互いに重複するように重ね合わせ、ここに経糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を緯糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる経糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うことを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項11】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法であって、
前記織布の端部を凹凸形状に形成し、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合すると共に、
前記織布の丈方向に延在する側縁部を相互に接合するために、その一対の側縁部の各々において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分を互いに重複するように重ね合わせ、ここに緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うことを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項12】
有端の織布の端部を相互に接合してなる基布を有する製紙用フェルトの製造方法であって、
前記織布の端部を凹凸形状に形成し、前記織布の幅方向に延在する先端部を相互に接合すると共に、
前記織布の丈方向に延在する側縁部の解れを防止するために、その側縁部において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うことを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。
【請求項13】
基布を構成する織布の耳部の解れを防止するために、その耳部において経糸を所要の本数除去し、これにより形成された緯糸のみの部分に、緯糸に架設された態様で熱可塑性の糸材からなる架橋糸を経糸と平行に配置して、この架橋糸と熱可塑性の糸材からなる緯糸とが共に部分的に溶融した状態で相互に固着されるように超音波溶着を行うことを特徴とする製紙用フェルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−50732(P2008−50732A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230321(P2006−230321)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】