説明

製紙用フェルト

【課題】製造コストの増大や物性の大きな変化を招くことなく、バット繊維層の脱毛を抑制することができるようにする。
【解決手段】基布2にバット繊維層3を一体化させた製紙用フェルトにおいて、基布が、モノフィラメント糸からなる地経糸4・5が厚さ方向に複数重なり合って各地経糸による層が積層された多層構造をなし、この地経糸とは異なる糸材からなる追加経糸13が、製紙面側の地経糸による上層11のみを構成して基布の製紙面側の表面で浮沈するように織り込まれたものとする。特に追加経糸が、緯糸に絡み合うことなく基布の表面側あるいは内側を概ね真直に通る部分の割合が緯糸に絡み合って屈曲する部分の割合より高くなるように織り込まれたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙機への掛け入れ作業性を向上させるため、有端のフェルトをフェルトランに引き込んだ上でその両端部を互いに接合して無端とする、いわゆるシームフェルトが広く普及している。この種のシームフェルトでは、基布を構成する経糸の折り返しにより丈方向の端部に形成されたループを、互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わせ、これにより形成された共通孔に芯線を通して両端部を接合する構成が一般的である。
【0003】
このようなシームフェルトでは、ループのかみ合わせや芯線の挿通などの作業の都合から、ループを形成する経糸にモノフィラメント糸が用いられている。また、シームのないエンドレスフェルトでも、寸法安定性を高めるなどの目的で基布の経糸にモノフィラメント糸が用いられている。
【0004】
ところが、基布の経糸に用いられるモノフィラメント糸は、バット繊維層を形成する繊維の絡み付きが弱いため、バット繊維層の繊維が脱落する、いわゆる脱毛が発生し易くなり、特に、製紙面側のバット繊維層の脱毛は、搾水性に影響を及ぼす通気度などの特性を変化させる不都合を招き、他方、走行面側のバット繊維層の脱毛は、基布の経糸や緯糸に摩耗を発生させて強度を低下させる不都合を招く。
【0005】
また、基布の経糸に用いられるモノフィラメント糸は、扁平化し難いため、経糸が緯糸に絡み付いて屈曲するナックル部が基布の表面から突出した状態となり、プレスロールによる加圧時に、経糸のナックル部に対応する部分の圧力が高くなることで、点状のマークが紙に現れたり、経糸方向の筋状マークが紙に現れたりして、紙の表面性が低下する問題が生じる。
【0006】
そこで、このようなバット繊維層の脱毛やマークの発生を抑えるため、バット繊維層の繊維の絡み付きの良い糸で織り上げられた基布や、細い糸材を用いて緻密に織り上げられた平滑性の高い基布を、経糸にモノフィラメント糸が用いられた基布に重ね合わせたラミネート構造が広く採用されている(例えば特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特公昭63−38467号公報
【特許文献2】特許第3145717号公報
【特許文献3】特許第3347034号公報
【特許文献4】特許第4045134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記のラミネート構造では、製造時に、織機で2枚の基布を別々に織り上げると共に、その基布に別々に熱セットを行なう必要があり、また2枚の基布は、不織繊維層をニードリングにより一体化させるニードル工程で接合されるが、ここで2枚の基布にずれなどの不具合が発生しないように特別な調整が必要になり、さらに2枚の基布は組織構造が異なるため、寸法の調整も難しくなることから、工数が嵩んで製造コストが上昇する難点がある。
【0008】
また、このラミネート構造では、複数枚の基布を使用することから、基布の目付が増加したり、基布の厚さが増大したりする等、基布の物性が大きく変化する問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、製造コストの増大や物性の大きな変化を招くことなく、バット繊維層の脱毛を抑制することができるように構成された製紙用フェルトを提供することにある。さらに本発明は、基布の表面の平滑性を改善して紙の表面性を向上させることができるようにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトにおいて、前記基布が、モノフィラメント糸からなる地経糸が厚さ方向に複数重なり合って各地経糸による層が積層された多層構造をなし、前記地経糸とは異なる糸材からなる追加経糸が、製紙面側の前記地経糸による層のみを構成して当該基布の製紙面側の表面で浮沈するように織り込まれたものとした。
【0011】
また、本発明においては、請求項2に示すとおり、基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトにおいて、前記基布が、モノフィラメント糸からなる地経糸が厚さ方向に複数重なり合って各地経糸による層が積層された多層構造をなし、前記地経糸とは異なる糸材からなる追加経糸が、走行面側の前記地経糸による層のみを構成して当該基布の走行面側の表面で浮沈するように織り込まれたものとした。
【0012】
これによると、バット繊維層を形成する繊維が地経糸や緯糸の他に追加経糸にも絡み付くことで、バット繊維層の繊維が基布に強固に保持されるため、バット繊維層の脱毛を抑制することができる。また、追加経糸は地経糸と共に製織時に同時に織り込まれるため、ラミネート構造のように工数が嵩むことがなく、製造コストの増大を避けることができる。
【0013】
特に、製紙面側の地経糸による層のみを構成して基布の製紙面側の表面で浮沈するように追加経糸が織り込まれた構成では、製紙面側のバット繊維層の脱毛を抑制することができる。さらに、基布の製紙面側の表面において、横向きに隣り合う地経糸相互の間隙を追加経糸が埋めるため、基布の製紙面側の表面の平滑性が改善され、紙の表面性を向上させることができる。
【0014】
一方、走行面側の地経糸による層のみを構成して基布の走行面側の表面で浮沈するように追加経糸が織り込まれた構成では、走行面側のバット繊維層の脱毛を抑制することができ、製紙機のロールなどとの接触による基布の摩耗を抑制することができる。
【0015】
なお、製紙面側の地経糸による層のみを構成する追加経糸と、走行面側の地経糸による層のみを構成する追加経糸との双方を織り込む構成も可能である。
【0016】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項3に示すとおり、前記追加経糸が、緯糸に絡み合うことなく前記基布の表面側あるいは内側を概ね真直に通る部分の割合が前記緯糸に絡み合って屈曲する部分の割合より高くなるように織り込まれた構成とすることができる。
【0017】
これによると、追加経糸を追加したことにより基布の厚さや空隙量が大幅に変化することを避けることができる。
【0018】
特に、追加経糸が、基布の内側より表面側を通る割合が高くなるように織り込まれた構成とすると、基布の平滑性をより一層改善することができる。
【0019】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項4に示すとおり、前記追加経糸が、前記地経糸より細い糸材からなる構成とすることができる。
【0020】
これによると、追加経糸を追加したことによる基布の目付の増大を小さく抑えることができる。さらに、細い糸材は屈曲し易いため、追加経糸を追加したことにより基布の厚さが大幅に変化することを避けることができる。
【0021】
なお、追加経糸の糸密度を低くする構成も可能であり、これでも同様の効果を得ることができる。
【0022】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項5に示すとおり、前記追加経糸が、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を多数集合させた集合糸材からなる構成とすることができる。
【0023】
これによると、バット繊維層を形成する繊維が追加経糸に絡み付き易くなるため、バット繊維層の脱毛をより一層抑制することができる。さらに、集合糸材はモノフィラメント糸に比較して屈曲し易く、また扁平化し易いため、追加経糸を追加したことにより基布の厚さが大幅に変化することを避けることができる。
【0024】
前記製紙用フェルトにおいては、請求項6に示すとおり、前記地経糸が、丈方向の端部での折り返しにより端部接合用のループを形成する構成とすることができる。
【0025】
これによると、端部接合用のループを有するシームフェルトでは通常、シーム部の強度確保や、ループのかみ合わせ及び芯線の挿通作業性の都合から、ループを形成する経糸に比較的太いモノフィラメント糸を使用せざるを得ないため、バット繊維層の脱毛や基布表面の平滑性の低下が顕著となりがちであるが、前記のような構成とすることで、これらの問題を効果的に解消することができる。
【0026】
また、この構成では、追加経糸がシーム部で切断された状態となるが、ループを覆うようにバット繊維層に設けられたフラップ部にも追加経糸が通ることから、フラップ部の繊維が追加経糸に保持されるため、フラップ部の脱毛を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
このように本発明によれば、バット繊維層を形成する繊維が地経糸や緯糸の他に追加経糸にも絡み付くことで、バット繊維層の繊維が基布に強固に保持されるため、バット繊維層の脱毛を抑制することができる。さらに、追加経糸は地経糸と共に製織時に同時に織り込まれるため、ラミネート構造のように工数が嵩むことがなく、製造コストの増大を避けることができる。
【0028】
また、製紙面側の地経糸による層のみを構成するように追加経糸が織り込まれた構成では、製紙面側のバット繊維層の脱毛を抑制すると共に、基布の製紙面側の表面の平滑性が改善され、紙の表面性を向上させることができ、走行面側の地経糸による層のみを構成するように追加経糸が織り込まれた構成では、走行面側のバット繊維層の脱毛を抑制することができ、製紙機のロールなどとの接触による基布の摩耗を抑制することができる。特に、端部接合用のループを形成する経糸に比較的太いモノフィラメント糸を使用せざるを得ないシームフェルトの場合でも、シーム部の強度や、ループのかみ合わせ及び芯線の挿通作業性を低下させることなく、バット繊維層の脱毛を抑制することができる。
【0029】
また、追加経糸が、緯糸に絡み合うことなく基布の表面側あるいは内側を概ね真直に通る部分の割合が高くなるように織り込まれた構成や、追加経糸が、前記地経糸より細い糸材からなる構成とすることで、追加経糸を追加したことによる基布の目付の増加、厚さの増大、空隙量の低下といった物性の変化を小さく抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1は、本発明によるフェルトの一例を示す丈方向の模式的な断面図である。図2は、図1に示した基布を示す幅方向の模式的な断面図である。
【0032】
このフェルト1は、基布2にバット繊維層3をニードリングにより積層一体化してなるものであり、基布2には、地経糸4・5となる糸の折り返しにより端部接合用のループ8が丈方向の端部にそれぞれ形成され、その互いの中心孔が整合するように交互にかみ合わされて形成された共通孔に幅方向の接合用芯線9を挿通することで無端状に接合される。
【0033】
基布2は、上側(製紙面1a側)の地経糸4と下側(走行面1b側)の地経糸5とが厚さ方向に重なり合ってこの上下の地経糸4・5の各々による上層11と下層12が積層された経2層の組織構造をなしており、地経糸4・5は互いに交差しておらず、上下の地経糸4・5の双方に緯糸6が絡合することで上層11と下層12とが相互に結合されている。
【0034】
地経糸4・5には、端部接合用のループ8を形成するために、ポリアミドなどの高強度な合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸が用いられ、例えば、その太さは0.30〜0.55mmとし、また糸密度は15〜24本/cm(40〜60本/インチ)とすると良い。緯糸6にも、ポリアミドなどの高強度な合成樹脂材料からなるモノフィラメント糸が用いられ、例えば、その太さは0.30〜0.55mmとし、また糸密度は11〜24本/cm(30〜60本/インチ)とすると良い。
【0035】
また、この基布2には、ループ8を形成する地経糸4・5とは別に、上側の地経糸4による上層11のみを構成するように追加経糸13が織り込まれている。この追加経糸13は、図2に示すように、緯糸6が地経糸4の上側を通る交差部の近傍でその緯糸6に絡み合うようにして基布2の上側の表面で浮沈するように織り込まれており、下側の地経糸5による下層12は通らない。この追加経糸13には、地経糸とは異なる糸材、特にここではフィラメントを撚り合わせた撚り糸が用いられる。
【0036】
これにより、バット繊維層3を形成する繊維が地経糸4や緯糸6の他に追加経糸13にも絡み付くことから、バット繊維層3の繊維が基布2に強固に保持されるため、バット繊維層3の脱毛、すなわちバット繊維層3の繊維の脱落を抑制することができ、特にここでは、上層11のみを構成するように追加経糸13が織り込まれているため、上面側のバット繊維層3の脱毛を抑制することができる。
【0037】
この他に、追加経糸13には、1本のフィラメントからなるモノフィラメント糸も可能であるが、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を多数集合させた集合糸材とすると、バット繊維層3を形成する繊維の絡み付きが良いため、バット繊維層3の脱毛を抑制する上で効果的であり、例えば、多数のフィラメントを束ねたマルチフィラメント糸、ステープルを紡いで得られる紡績糸、マルチフィラメント糸と紡績糸との撚糸、及びマルチフィラメント糸とモノフィラメント糸との撚り糸なども可能である。
【0038】
さらに、追加経糸13には、熱溶融材料(比較的低融点の熱可塑性樹脂材料)からなる繊維を含む撚り糸や、鞘部に熱溶融材料を用いた芯鞘糸や、熱溶融材料からなる繊維を毛羽(花糸)に用いたモール糸(毛羽立糸)も可能である。このように追加経糸13に熱溶融材料を含む糸材を用いると、製織された基布2にバット繊維層3を一体化するニードリング工程の後に加熱処理を施すことにより、追加経糸13の熱溶融材料が溶融してバット繊維層3の繊維と溶着して、追加経糸13とバット繊維層3の繊維との結合力が増大するため、高い脱毛抑制効果を得ることができる。
【0039】
また、追加経糸13は、地経糸4・5より細い糸材からなり、例えば、フィラメントの撚り糸の場合には、太さ0.15〜0.25mmのフィラメントを2〜6本撚り合わせたものとすると良い。また、モノフィラメント糸の場合には、太さ0.15〜0.30mmとすると良く、糸密度は3〜12本/cm(10〜30本/インチ)とすると良い。マルチフィラメント糸の場合には、4〜50dtexのフィラメントを20〜300本束ねたものとすると良い。紡績糸の場合には、7〜25Nm(メートル番手)とすると良い。このように追加経糸13に地経糸4・5より細い糸材を用いることで、追加経糸13を追加したことによる目付の増加を小さく抑えることができ、さらに追加経糸13が地経糸4と緯糸6との間の隙間を通るようになるため、基布2の厚さの増大も小さく抑えることができる。
【0040】
さらに、追加経糸13は、緯糸6に絡み合うことなく基布2の表面側を概ね真直に通る部分の割合が高くなるように織り込まれており、特にここでは、主に基布2の表面側を通る、すなわち基布2の内側より表面側を通る割合が高くなるように織り込まれており、具体的には、1本の緯糸6の下側を通った後に7本の緯糸6の上側を通る組織で追加経糸13が織り込まれている。このように、追加経糸13が緯糸6に絡み付いて屈曲するナックル部を少なくして、追加経糸13が概ね真直に通る部分を長く確保することにより、追加経糸13を追加したことで基布2の厚さや空隙量が大幅に変化することを避けることができる。
【0041】
また、追加経糸13は、図2に示すように、幅方向断面において、上側の地経糸4の間に配置され、基布2の上側の表面において、横向きに隣り合う地経糸4相互の間隙を追加経糸13が埋めるため、基布2の上側の表面の平滑性が改善され、プレスロールによる加圧時の圧力状態が均一化するため、紙の表面性を向上させることができる。
【0042】
特に地経糸4がモノフィラメント糸からなる場合、地経糸4が緯糸6に絡み合って屈曲するナックル部に対応して、プレスロールによる加圧時に圧力が高い部分が発生して、紙にナックルマーク(圧力斑)が現れるが、地経糸4のナックル部の隣に追加経糸13が並ぶことで圧力が分散されるため、ナックルマークが弱くなり、さらに地経糸4に沿うように紙に現れる筋状マークも低減することができる。
【0043】
特にこの例では、追加経糸13と地経糸4とが交互に配置され、追加経糸13と地経糸4の糸密度が等しくなっており、地経糸4・5と追加経糸13との双方を勘案すると、緯糸6は、上下の地経糸4・5の内側を経糸3本分だけ通った後に上下の地経糸4・5の外側を経糸1本分だけを通る組織構造となる。
【0044】
また、追加経糸13の糸密度を地経糸4より低くする、例えば横向きに隣り合う地経糸4の間隙に対して1つおきに追加経糸13を配置することも可能であり、この追加経糸13の糸密度は、望まれる平滑性の度合いと、追加経糸13の糸密度により変化する目付や空隙率の許容範囲などを考慮して適宜に設定すれば良い。特に望ましくは、地経糸4及び地経糸5の合計本数と追加経糸13との本数比が1対1から10対1までの範囲とすると良い。
【0045】
なお、緯糸6にも、撚り糸などの集合糸材を用いることができ、撚り糸の場合には、例えば、太さ0.15〜0.25mmのフィラメントを3〜10本撚り合わせたものとすると良い。また、異なる糸材の交織、例えばモノフィラメント糸とフィラメントの撚り糸との交織も可能である。
【0046】
図3は、図1に示した基布の製作の要領を示す模式図である。ここでは、図3(A)に示すように、抄紙機上の地経糸4・5が織機上で打込み糸として織り上げられ、抄紙機上の緯糸6は織機上では経糸(整経糸)となっており、ループ形成用芯材31に打込み糸を絡めてループ8を形成しながら袋織りで基布2が無端状に織り上げられる。具体的には、ループ8が織機上の耳部32・33の一方に形成され、その一方の耳部32において地経糸4・5となる打込み糸をループ形成用芯材31に引っ掛けて折り返すことでループ8が形成される。
【0047】
また、図3(B)に示すように、追加経糸13は地経糸4・5と同様に織機上で打込み糸となるが、この追加経糸13となる打込み糸は、ループ形成用芯材31に絡めることなく通常通りに打ち込まれる。ここで、追加経糸13となる打込み糸は、耳部32・33で地経糸4・5となる打込み糸と交差して絡み合う場合があるため、この追加経糸13となる打込み糸と地経糸4・5となる打込み糸とが交差しない方法が選択される。
【0048】
なお、追加経糸13の織り込みパターンは、緯糸6となる整経糸が通される綾枠の枚数などに規定され、地経糸4・5の織り込みパターンを基準にしたものとなり、図1に示した例では、地経糸4・5の織り込みパターンが緯糸6の4本分が基本パターン(単位組織)となっているのに対して、追加経糸13の織り込みパターンは、地経糸4・5の基本単位の2倍となる緯糸6の8本分が基本パターンとなっている。
【0049】
このようにして基布2が製織されると、無端状のままの基布2に対して、熱セットが行われた後に、ニードリングによりバット繊維層3が積層一体化される。そしてループ形成用芯材31を抜き取り、互いに噛み合ったループ8を分離してループ8側を開き、ループ8の列に沿ってバット繊維層3及び追加経糸13を切断することで、無端状のフェルトが有端状に仕上げられる。
【0050】
追加経糸13は、図1に示したように、無端状に接合された状態でも切断されたままとなっているが、ループ8の製紙面1a側を覆うように、一方(走行方向の前側)の端部側からバット繊維層3を突出させた態様のフラップ3aを形成する繊維が、追加経糸13で保持されるため、フラップ3aの摩耗を抑えることができる。
【0051】
図4は、図1に示した基布の変形例を示す丈方向の模式的な断面図である。ここでは、図1の例と同様に、追加経糸13・14が織り込まれているが、図1と図4(A)〜(C)の各例では、追加経糸13・14の織り込み位置と織り込み方がそれぞれ異なっている。
【0052】
図4(A)に示す基布41では、前記の図1の例と同様に、上側の地経糸4による上層11のみを構成するように追加経糸13が織り込まれているが、ここでは図1の例と異なり、追加経糸13が、主に基布41の内側を通る、すなわち基布41の表面側より内側を通る割合が高くなるように織り込まれている。
【0053】
このように追加経糸13が主に基布41の内側を通るように織り込まれていると、基布41の表面の平滑性を改善する効果は低くなるものの、バット繊維層3の脱毛を抑制する観点では、追加経糸13が基布41の表面上に長く浮いていないため、バット繊維層3の繊維を強固に保持することができ、図1の例と同等あるいはそれ以上の効果を得ることができる。
【0054】
一方、図4(B)・(C)に示す例では、下側の地経糸5による下層12のみを構成するように追加経糸14が織り込まれている。この追加経糸14は、図2の例での追加経糸13とは逆に、緯糸6が地経糸5の下側を通る交差部の近傍でその緯糸6に絡み合うようにして基布42・43の下側の表面で浮沈するように織り込まれており、上側の地経糸4による上層11は通らない。なお、追加経糸14に用いられる糸材の種類や太さは、追加経糸13と同様である。
【0055】
特に図4(B)に示す基布42では、追加経糸14が、主に基布42の表面側を通る、すなわち基布42の内側より表面側を通る割合が高くなるように織り込まれており、図4(C)に示す基布43では、追加経糸14が、主に基布43の内側を通る、すなわち基布43の表面側より内側を通る割合が高くなるように織り込まれている。
【0056】
このように追加経糸14が下層12のみを構成するように織り込まれていると、下面側のバット繊維層3の脱毛を抑制することができ、製紙機のロールなどとの接触による裏面摩耗を抑制することができる。
【0057】
図5は、本発明によるフェルトの別の例を示す丈方向の模式的な断面図である。図6は、図5に示した基布を示す幅方向の模式的な断面図である。
【0058】
ここでは、上側の地経糸4による上層11のみを構成する追加経糸13と、下側の地経糸5による下層12のみを構成する追加経糸14との双方が織り込まれている。特にここでは、上側の追加経糸13及び下側の追加経糸14の双方が、基布51の内側より表面側を通る割合が高くなるように織り込まれている。
【0059】
これによると、上側の追加経糸13により基布51の上側の表面の平滑性が改善され、さらに下側の追加経糸14により下面側のバット繊維層3の脱毛が抑制されるため、製紙機のロールなどとの接触による裏面摩耗を抑制することができる。
【0060】
図7は、図5に示した基布の変形例を示す丈方向の模式的な断面図である。ここでは、図5の例と同様に、上層11のみを構成する追加経糸13と下層12のみを構成する追加経糸14との双方が織り込まれているが、図5と図7(A)〜(C)の各例では、追加経糸13・14の織り込み方がそれぞれ異なっている。
【0061】
図7(A)に示す基布71では、前記の図5の例とは逆に、追加経糸13・14の双方が、主に基布71の内側を通るように織り込まれている。図7(B)に示す基布72では、上側の追加経糸13が、主に基布72の表面側を通るように織り込まれ、下側の追加経糸14が、主に基布72の内側を通るように織り込まれている。図7(C)に示す基布73では、図7(B)の例とは逆に、上側の追加経糸13が、主に基布73の内側を通るように織り込まれ、下側の追加経糸14が、主に基布72の表面側を通るように織り込まれている。
【0062】
図8は、図6に示した基布の変形例を示す幅方向の模式的な断面図である。ここでは、図6の例と同様に、上層11のみを構成する追加経糸13と下層12のみを構成する追加経糸14との双方が織り込まれているが、ここでは、上下の追加経糸13・14が厚さ方向に重なり合わないように、上下の追加経糸13・14が交互に織り込まれている。
【0063】
また、図8(A)〜(D)の各例では、上下の追加経糸13・14の織り込み方、すなわち追加経糸13・14が主に基布81〜84の表面側及び内側のいずれを通るかがそれぞれ異なっており、その織り込み方はそれぞれ、図5及び図7(A)〜(C)の各例と同様である。
【0064】
図9は、本発明による基布の別の例を示す幅方向の模式的な断面図である。前記の例では、緯糸6が、上下の地経糸4・5の間をその横1本分だけ通る組織構造となっていたが、この基布91では、緯糸92が、上下の地経糸4・5の間をその横2本分だけ通る組織構造となっており、このような組織構造においても、前記の例と同様に、モノフィラメント糸からなる地経糸4・5とは別に、撚り糸などからなる追加経糸13・14を織り込む構成が可能である。
【0065】
この例では、地経糸4・5と追加経糸13・14との双方を勘案すると、緯糸92は、上下の地経糸4・5の内側を経糸5本分だけ通った後に上下の地経糸4・5の外側を経糸1本分だけを通る組織構造となる。
【0066】
なおここでは、上層11のみを構成する追加経糸13と下層12のみを構成する追加経糸14との双方を織り込む例を示したが、図1・図4の例と同様に、上側の追加経糸13と下側の追加経糸14のいずれか一方のみを織り込む構成や、図8の例と同様に、上下の追加経糸13・14を交互に織り込む構成も可能である。
【0067】
図10は、本発明によるフェルトの別の例を示す丈方向の模式的な断面図である。前記の例は、ループ8により無端状に接合されるシームフェルトに関するものであったが、このフェルト101は、シームのないエンドレスフェルトである。
【0068】
このフェルト101では、基布102の地経糸104・105はループを形成することなく無端状をなしており、バット繊維層103も切断されていない。このようなフェルトにおいても、前記の例と同様に、モノフィラメント糸からなる地経糸104・105とは別に、撚り糸などからなる追加経糸107を織り込む構成が可能である。
【0069】
なおここでは、上側(製紙面101a側)の地経糸104による上層111のみを構成する追加経糸107を織り込む例を示したが、前記の各例と同様に、下側(走行面101b側)の地経糸105による下層112のみを構成する追加経糸を織り込む構成も可能である。
【0070】
以上、上下の地経糸の各々による上層と下層が積層された経2層の組織構造をなす基布を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上下の3本以上の地経糸による3層以上の層が積層された組織構造をなす基布にも同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明にかかる製紙用フェルトは、製造コストの増大や物性の大きな変化を招くことなく、バット繊維層の脱毛を抑制することができる効果を有し、基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルト、例えば抄紙機のプレスパート(圧搾部)で用いられるプレスフェルトや、ドライパート(乾燥部)で用いられるドライヤーフェルトなどとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明によるフェルトの一例を示す丈方向の模式的な断面図である。
【図2】図1に示した基布を示す幅方向の模式的な断面図である。
【図3】図1に示した基布の製作の要領を示す模式図である。
【図4】図1に示した基布の変形例を示す丈方向の模式的な断面図である。
【図5】本発明によるフェルトの別の例を示す丈方向の模式的な断面図である。
【図6】図5に示した基布を示す幅方向の模式的な断面図である。
【図7】図5に示した基布の変形例を示す丈方向の模式的な断面図である。
【図8】図6に示した基布の変形例を示す幅方向の模式的な断面図である。
【図9】本発明による基布の別の例を示す幅方向の模式的な断面図である。
【図10】本発明によるフェルトの別の例を示す丈方向の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1・101 フェルト、1a・101a 製紙面、1b・101b 走行面
3 バット繊維層、3a フラップ
2・41〜43・51・71〜73・81・91・102 基布
3・103 バット繊維層
4・5・104・105 地経糸
6・92・106 緯糸
8 ループ
9 接合用芯線
11・111 上層
12・112 下層
13・14・107 追加経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトであって、
前記基布が、モノフィラメント糸からなる地経糸が厚さ方向に複数重なり合って各地経糸による層が積層された多層構造をなし、前記地経糸とは異なる糸材からなる追加経糸が、製紙面側の前記地経糸による層のみを構成して当該基布の製紙面側の表面で浮沈するように織り込まれたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
基布にバット繊維層を一体化させた製紙用フェルトであって、
前記基布が、モノフィラメント糸からなる地経糸が厚さ方向に複数重なり合って各地経糸による層が積層された多層構造をなし、前記地経糸とは異なる糸材からなる追加経糸が、走行面側の前記地経糸による層のみを構成して当該基布の走行面側の表面で浮沈するように織り込まれたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項3】
前記追加経糸が、緯糸に絡み合うことなく前記基布の表面側あるいは内側を概ね真直に通る部分の割合が前記緯糸に絡み合って屈曲する部分の割合より高くなるように織り込まれたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記追加経糸が、前記地経糸より細い糸材からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記追加経糸が、ステープル及びフィラメントのいずれか一方あるいは双方を多数集合させた集合糸材からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製紙用フェルト。
【請求項6】
前記地経糸が、丈方向の端部での折り返しにより端部接合用のループを形成することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製紙用フェルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−100947(P2010−100947A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270768(P2008−270768)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000229852)日本フエルト株式会社 (55)
【Fターム(参考)】